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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1373799
異議申立番号 異議2021-700050  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-15 
確定日 2021-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6728600号発明「蓄電装置用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6728600号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6728600号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年9月2日の出願であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月22日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和3年1月15日付けで特許異議申立人田中俊子(以下、「申立人」という。)により請求項1?5(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層及びシーラント層を備え、
前記シーラント層は無機系フィラーを含有し、かつ積層方向に沿った断面において、前記シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合が5?50%であり、
前記シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、
前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記無機系フィラーの含有量が、シーラント層の全質量を基準として5?35質量%である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記無機系フィラーを含有する層の厚さが、シーラント層の総厚に対して50%以上である、請求項1又は2記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記無機系フィラーを含有する層が、酸変性ポリオレフィン樹脂及び前記無機系フィラーからなる層である、請求項1?3のいずれか一項記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記無機系フィラーが表面処理されたものである、請求項1?4のいずれか一項記載の蓄電装置用外装材。」

3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」?「甲4」という。)を提出し、次の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2004-234995号公報
甲2:特開2009-73010号公報
甲3:特開2005-116322号公報
甲4:「包装技術便覧」社団法人日本包装技術協会 1995年7月1日 第1版第1刷発行 第578?582頁

(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項1、2について
理由(1)及び(2)
刊行物:甲1

・請求項1?3について
理由(1)及び(2)
刊行物:甲2

・請求項1?3について
理由(2)
刊行物:甲3

・請求項3、4について
理由(2)
刊行物:甲1

・請求項5について
理由(2)
刊行物:甲1?甲3のいずれか、及び、甲4

4 本件発明1の発明特定事項についての検討
(1)本件発明1は、「積層方向に沿った断面において、前記シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合が5?50%であ」るとの発明特定事項を含むものである。
そこで、以下、この発明特定事項の技術的な意味について検討する。

(2)上記(1)の発明特定事項について、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0153】
なお、表中、シーラント層の総厚に占める無機系フィラーの占める割合は、図3に示すようにして算出した。
まず、外装材の積層方向に沿って切出したシーラント層の断面をマイクロスコープで撮影し、画像処理を行う。その際、任意の始点としてn=1の測定点を決定する。測定点は始点から0.1mm刻み毎に面方向に9点設け、始点を含め計10点の測定点を決定する。次に、図3に示すように、例えばn=1の測定点では、シーラント層の総厚t及び無機系フィラー(n=1の測定点においては二個)の垂直方向の積算長さx+yを決定する。そして、(x+y)/t×100(%)を計算することにより、任意のn=1の測定点におけるシーラント層の総厚に占める無機系フィラーの占める割合(垂直方向の長さ)を測定する。この作業を、n=2?n=10の測定点に対して行い、その平均値を求めることにより、シーラント層の総厚に占める無機系フィラーの占める割合を決定することができる。」
「【図3】




(3)上記(2)の記載からみて、「外装材の積層方向に沿って切出したシーラント層の断面」を恣意的に選択することは考えづらいから、当該断面は任意に選択するものと考えられる。

(4)また、上記(2)の記載において、「任意の始点としてn=1の測定点を決定する。測定点は始点から0.1mm刻み毎に面方向に9点設け、始点を含め計10点の測定点を決定する」から、n=1?n=10の測定点も任意に選択されるものである。

(5)ここで、上記(3)からすると、図3の断面は任意に選択されるものであり、図3の断面におけるシーラント層15全体の面積を当該断面に垂直な方向の全長に亘って積分したものがシーラント層15全体の体積となるから、図3の断面における、シーラント層15全体の面積と、その内の各無機系フィラー16の合計面積との比は、シーラント層15全体の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなるといえる。

(6)また、上記(4)からすると、n=1?n=10の測定点は任意に選択されるものであり、当該測定点(実際には積層方向と平行な線分)を図3の断面における積層方向と垂直な方向の全長に亘って積分したものが図3の断面となるから、図3の計10点の測定点のシーラント層の総厚に占める無機系フィラーの割合の平均値は、図3の断面における、シーラント層15全体の面積と、その内の各無機系フィラー16の合計面積との比とほぼ同じとなるといえる。

(7)上記(5)の検討からすると、図3の断面における、シーラント層15全体の面積と、その内の各無機系フィラー16の合計面積との比は、シーラント層15全体の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなり、上記(6)の検討からすると、図3の計10点の測定点のシーラント層の総厚に占める無機系フィラーの割合の平均値は、図3の断面における、シーラント層15全体の面積と、その内の各無機系フィラー16の合計面積との比とほぼ同じとなるから、シーラント層の総厚に占める無機系フィラーの割合の平均値、すなわち、本件発明1の「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」は、シーラント層全体15の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなる。

(8)以下、新規性進歩性の検討について、上記(7)の検討結果を利用して行う。

5 引用文献の記載
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、引用文献に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次電池、特に電解質(液体や固体電解質)を有するリチウム電池本体を包装するリチウム電池用包装体に関し、さらに詳しくは、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続されたリード電極を外側に突出した状態で挟持して熱接着したリード電極周縁熱接着部において、包装体の金属箔からなるバリアー層とリード電極との短絡を防止することができるリチウム電池用包装体に関するものである。」
「【0022】
前記内層50を複層とする場合の代表的な層構成を例示するならば、▲1▼(アルミニウム箔側)一般オレフィン系樹脂層/酸変性オレフィン系樹脂層、▲2▼(アルミニウム箔側)酸変性オレフィン系樹脂層/酸変性オレフィン系樹脂層、▲3▼(アルミニウム箔側)酸変性オレフィン系樹脂層/一般オレフィン系樹脂層/酸変性オレフィン系樹脂層、▲4▼(アルミニウム箔側)酸変性オレフィン系樹脂層/酸変性オレフィン系樹脂層/酸変性オレフィン系樹脂層等を挙げることができる。なお、層構成中の一般オレフィン系樹脂とは、エチレン系樹脂として、たとえば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-ブテン共重合体等を挙げることができ、また、プロピレン系樹脂として、ホモタイプポリプロピレン、ランダムタイプポリプロピレン、ブロックタイプポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等を挙げることができる。
【0023】
前記内層50の総厚としては25μm以上あればよいのであるが、コストや体積および重量エネルギー密度を考慮すると100μm以下、好ましくは30?50μmである。25μより薄いと十分なヒートシール強度を得ることができないために、内容物の洩れや内圧上昇による破袋の虞が生じる。また、前記内層50を共押出しフィルムとする場合にあっては、最内層の厚さとしては、2μm以上、好ましくは5μm以上である。2μm未満であると十分なヒートシール強度が得られない。」
「【0025】
次に、前記内層50に添加する充填剤60について説明する。前記充填剤60としては、平均粒径が0.1?20μmの範囲のものであれば、無機系、有機系のいずれのものでも用いることができ、その含有量としては、オレフィン系樹脂100重量部に対して5?30重量部である。この理由としては、充填剤の平均粒径が0.1μm未満の場合は、オレフィン系樹脂100重量部に対して充填剤を30重量部超含有させないとアルミニウム箔とリード電極の「ばり」との短絡を防止することができないばかりか、十分なヒートシール強度を得ることができない虞が生じ、また、充填剤の平均粒径が20μm超の場合は、オレフィン系樹脂100重量部に対して充填剤の含有量を0超5重量部未満に調節してもアルミニウム箔とリード電極の「ばり」との短絡を防止することができない虞と十分なヒートシール強度を得ることができない虞が生じるからであり、特に好ましくは前記充填剤60の平均粒径が0.5?5.0μmの範囲のものであって、その含有量がオレフィン系樹脂100重量部に対して10?20重量部である。
【0026】
そして、無機系充填剤としては、たとえば、炭素(カーボン、グラファイト)、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化鉄、シリコンカーバイト、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミ酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等を挙げることができ、また、有機系充填剤として、たとえば、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、ポリメタクリル酸メチル架橋物、ポリエチレン架橋物等を挙げることができる。前記充填剤60の前記内層50を構成する樹脂への混合方法としては、予めバンバリーミキサー等で両者をメルトブレンドし、マスターバッチ化したものを所定の混合比にする方法、あるいは、前記内層50を構成する樹脂との直接混合方法のいずれであってもよい。
【0027】
また、前記充填剤60は、前記内層50が単層の場合には当然この層に添加されるが、前記内層50が複層の場合には、少なくとも一層に添加すればよいのであって、前記化成処理層20を設けた前記アルミニウム箔30との接着性、あるいは、リチウム電池とする際のリード電極Tとの接着性等を考慮すると、上記した複層の▲3▼、▲4▼の三層構成とし、この三層構成の中間層に添加するのが最も好ましい。」
「【0031】
しかしながら、前記充填剤60を添加した前記内層50からなる包装材1の場合には、図4(c)に示すように、前記充填剤60を添加した前記内層50は前記充填剤60が熱で溶融しないために、前記リード電極Tと前記包装材1のアルミニウム箔30との間に介在して、前記包装材1のアルミニウム箔30と前記リード電極Tの「ばりB」とが接触するのを防止するスペーサー(Spacer)として機能するために、短絡することを防止することができる。また、前記充填剤60を添加した前記内層50は、樹脂の見かけの溶融粘度を高くすることができ、熱接着時(ヒートシール時)に加圧部が薄肉となることを防止することができるために、前記包装材1のアルミニウム箔30と前記リード電極Tの「ばりB」との接触を一層防止することができる。また、前記内層50を前記充填剤60含有層としたことにより、上記で説明したような効果を奏する層とすることができるために、ヒートシール条件の管理幅を広くすることができて作業性の向上と密封性の安定を図ることができる。」
「【0036】
次に、予め、フェノール樹脂、フッ化クロム(三価)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液で両面を化成処理(リン酸クロメート処理)して両面に化成処理層を有するアルミニウム箔(40μm厚さ)の一方の面と15μm厚さの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して貼合して第2積層体を作製した。
【0037】
実施例4
上記で作製した第2積層体の化成処理層面に3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕を前記化成処理面が120℃となるように加熱してサーマルラミネーション法で貼合した中間積層体を作製し、その後に該中間積層体を180℃となるように再加熱して本発明のリチウム電池用包装体に供する包装材を作製した。なお、上記した3層共押出しフィルムの中間層のポリプロピレン層を樹脂100重量部に対して平均粒径が0.5μmのカーボンを20重量部含有した層とした。」

(2)甲1に記載された発明
上記(1)によれば、【0036】及び【0037】に記載された包装材に注目すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「両面に化成処理層を有するアルミニウム箔の一方の面と二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して貼合して積層体を作製し、該積層体の化成処理層面に3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕を加熱して貼合した中間積層体を作製し、その後に該中間積層体を再加熱して作製したリチウム二次電池用包装体であって、
3層共押出しフィルムの中間層のポリプロピレン層を樹脂100重量部に対して平均粒径が0.5μmのカーボンを20重量部含有した層としたリチウム二次電池用包装体。」

(3)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「【0048】
こうして得られる本発明の複合多層フィルムは、良好な防湿性および耐溶剤性を有し、かつアルミニウム箔とポリオレフィン系樹脂フィルムとの接着強度およびヒートシール強度も充分であるので、スナック菓子等の湿気を嫌う食品、乾燥メタノール等の水分除去された工業用薬剤、溶剤等の使い切りパック、二次電池等の内容物の包装材として有用であり、特に二次電池の外装材として有用である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1?4および比較例1?9
(1)吸水性樹脂組成物の製造
表1に示す、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物のための成分を表1に示す量(質量部)でドライブレンドし、これを(株)モリヤマの20L加圧ニーダーにより溶融混練して吸水性樹脂組成物を得た後、造粒機によりペレット化した。排出温度(溶融混練温度)は220℃であり、造粒はホットカット法で行った。表1において、樹脂組成物IおよびIIは本発明に従う組成物であり、樹脂組成物III?IXは比較のための組成物である。
【0051】
(2)ポリオレフィンフィルム(A)の製造
表2に示す、層(A-1)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物および層(A-3)を構成する結晶性プロピレン系重合体を、マルチマニホールド型多層共押出Tダイを使用して、全厚60μm、層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1のフィルム(A)を製造した。Tダイ出口樹脂温度は240℃であり、引取速度は10m/分であった。また、層(A-1)に、濡れ指数が55 mN/m以上になるようにコロナ処理を付した。
【0052】
(3)アルミニウム箔のドライラミネート
上記(2)で得られたフィルム(A)の層(A-1)側に、東洋アルミニウム株式会社の無処理アルミニウム箔(スーパーホイル、厚さ40μm)を、接着剤として三井化学ポリウレタン株式会社製のタケラックA-310/タケネートA-3(12/1質量比)の二液タイプを使用して、平野金属のテストラミネーターMODEL200によりドライラミネートした。
【0053】
(4)ポリアミドフィルムのドライラミネート
上記(3)で得られたフィルムのアルミニウム箔の上に、ユニチカ株式会社のナイロンフィルム(エンブレムONUM、厚さ15μm)を、接着剤として三井化学ポリウレタン株式会社製のタケラックA-310/タケネートA-3(12/1質量比)の二液タイプを使用して、平野金属のテストラミネーターMODEL200によりドライラミネートした。ラミネート後、40℃×90hrの養生を行った。
【0054】
上記(2)および(4)で得られたフィルムについて、下記の試験を行った。結果を表2に示す。」
「【0060】
使用した材料は以下の通りである。
アドマーQE060:三井化学(株)製、無水マレイン酸変性ポリプロピレン
F-704NP:プライムポリマー(株)製、ホモポリプロピレン
F-300SP:プライムポリマー(株)製、ホモポリプロピレン
F-730NV:プライムポリマー(株)製、プロピレンランダムコポリマー、Tm=139℃、MFR=7g/10分
SP4530:プライムポリマー(株)製、高密度ポリエチレン、Tm=132℃、ΔH=185J/g、Xc110=80%、MFR=2.8g/10分、密度942kg/m^(3)
KF271:日本ポリエチレン(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=127℃、ΔH=127J/g、Xc110=26%、MFR=2.4g/10分、密度913kg/m^(3)
アドマーXE070:三井化学(株)製、無水マレイン酸変性エチレン系重合体、MFR=3 g/10分
モレキュラーシーブ:ユニオン昭和(株)製のモレキュラーシーブ4Aパウダー、D99=9.9μm、D50=2.5μm
硫酸マグネシウム:馬居化成工業(株)製の乾燥硫酸マグネシウムSN-00、D99=118μm、D50=24μm
LBT-77:堺化学工業(株)製のポリエチレンワックス」
「【表1】


【表2】




(4)甲2に記載された発明
上記(3)によれば、(A-2)吸水性樹脂組成物Iを用いた実施例1のフィルムに注目すると、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iのための成分を、(a-1)KF271を90質量部、(a-2)アドマーXE070を10質量部、(b)モレキュラーシーブ4Aパウダーを60質量部、スリップ剤として、LBT-77を1.0質量部、ステアリン酸カルシウムを3.0質量部でドライブレンドし、溶融混練して吸水性樹脂組成物Iを得た後、
層(A-1)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂であるQE060、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iおよび層(A-3)を構成する結晶性プロピレン系重合体であるF-704NPを、多層共押出Tダイを使用して、層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1のフィルム(A)を製造し、
該フィルム(A)の層(A-1)側に、接着剤を使用してアルミニウム箔をドライラミネートし、
該アルミニウム箔の上に、接着剤を使用してナイロンフィルムをドライラミネートして得られたフィルム。」

(5)甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り成形性、ヒートシール性、及び有機電解液の如き非水電解質に対する耐性に優れた非水電解質電池用包装材料に関する。」
「【0042】
乾燥剤としては、例えば、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、第二リン酸ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、第三リン酸リチウム、ピロリン酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機物質;ショ糖などの有機物質を挙げることができる。これらの中でも、酸化カルシウムや焼成して結晶水を除去した硫酸マグネシウムが好ましい。
【0043】
乾燥剤は、前記樹脂成分100重量部に対して、0.1?150重量部、好ましくは0.5?100重量部、より好ましくは1?50重量部の割合で用いられる。多くの場合、乾燥剤を樹脂成分100重量部に対して5?30重量部の割合で用いることにより、良好な結果を得ることができる。コア層を構成する樹脂成分に前記割合で乾燥剤を含有させると、スキン層とコア層との密着性が良好で、十分なヒートシール強度が得られ、非水電解質に対する耐性に優れ、しかもコア層中の乾燥剤と樹脂成分との間に隙間が発生しにくいため、深絞り成形時に白化やクラックが発生しにくい。乾燥剤の配合割合が過大であると、深絞り成形性やコア層の層間接着性が低下し易くなる。」
「【0045】
単層または多層のコア層の厚み(多層の場合は合計厚み)は、通常5?50μm、好ましくは8?40μm、より好ましくは10?30μm程度である。コア層の厚みが薄すぎると、十分な量の乾燥剤を含有させることができず、非水電解質に対する耐性が低下し易くなる。」
「【実施例】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
【0063】
[実施例1]
鉄含有量1.3重量%で厚さ40μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製、商品名「スーパーホイル」)に、基材樹脂層としてナイロン6を用いて形成された厚み25μmの二軸延伸フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「ハーデンN1100」)をドライラミネーション法により貼り合わせて多層シートを作製した。接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、商品名「タケラックA-310」と商品名「タケネートA-3」を12:1に混合したもの)の厚みは、4μmであった。アルミニウム箔の片面には、リン酸クロメート処理による化成処理層を形成した。
【0064】
他方、共押出しにより、以下に述べる「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層を作製した。前記多層シートのアルミニウム箔面とヒートシール性樹脂の一方のスキン層とを対向させて、熱ラミネーション法により積層体を作製した。積層体の合計厚みは、約120μmであった。
【0065】
3層構成のヒートシール樹脂層のスキン層をマレイン酸変性ランダム共重合ポリプロピレン(三井化学株式会社製、商品名「アドマーQF551」)、コア層をオレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマー(JSR株式会社製、商品名「DYNARON6200P」)100重量部に対して硫酸マグネシウム(富田製薬株式会社製)10重量部を添加した樹脂組成物により形成した。」

(6)甲3に記載された発明
上記(5)によれば、実施例1の非水電解質電池用包装材料に注目すると、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「アルミニウム箔に、ナイロン6を用いて形成された二軸延伸フィルムを、接着剤を用いて貼り合わせて多層シートを作製し、
共押出しにより、「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層を作製し、該多層シートのアルミニウム箔面とヒートシール性樹脂の一方のスキン層とを対向させて、熱ラミネーション法により積層体を作製した非水電解質電池用包装材料であって、
3層構成のヒートシール樹脂層のスキン層をマレイン酸変性ランダム共重合ポリプロピレンであるアドマーQF551、コア層をオレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマーであるDYNARON6200P 100重量部に対して硫酸マグネシウム10重量部を添加した樹脂組成物により形成した非水電解質電池用包装材料。」

(7)甲4の記載事項
甲4には、次の記載がある。
「(4) 無機フィラーの表面処理
無機フィラーの表面処理とは,一般に表面エネルギーの小さいポリマーとそれの大きい無機フィラーとの間に表面処理剤を介在させて,両者の濡れ性を改良しようとするものである。
表面処理剤は,マトリックスであるポリマーと反応性のある有機官能基をもつものと,そうでないものがあるが,いずれも濡れ性を改良して,その粘度を低下させる。」(第580頁第7?16行)

6 各物質の比重または密度について
各引用文献において、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」(本件の請求項1)を算出するにあたり、参考とした物質の比重または密度については、次のとおりである。
なお、算出にあたり、密度と比重は同じ値とし、その値に範囲のあるものは、その中間値を採用した。
(1)ポリエチレンの密度:0.92?0.96g/cm^(3)(中間値0.94g/cm^(3))
(2)ポリプロピレンの比重:0.91
(以上、引用元:「化学大辞典8」共立出版、1964年2月15日縮刷版第1刷発行 第742頁、第772頁)
(3)カーボンブラックの密度:1.7?1.9g/cm^(3)(中間値1.8g/cm^(3))
(引用元:「JIS試験用粉体1(12種 カーボンブラック)」日本粉体工業技術協会(http://appie.or.jp/introduction/organization/technical_center/testpowders/carbon_black/))
(4)硫酸マグネシウムの密度:2.66g/cm^(3)
(引用元:「化学大辞典9」共立出版、1964年3月15日縮刷版第1刷発行 第729頁)
(5)モレキュラーシーブ4Aの密度:1.9?2.3g/cm^(3)(中間値2.1g/cm^(3))
(引用元:chemical book 製品カタログ ゼオライト(別名として、「モレキュラーシーブ 4A 1/16」と記載。)(https://m.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_cb6330194.htm))
(6)DYNARON6200Pの比重:0.88
(引用元:JSR株式会社HPの製品情報>熱可塑性エラストマー>水添ポリマー/DYNARON>製品ラインナップ(https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwj70fTltNnvAhWVF4gKHQIiDwMQFjAAegQIBRAD&url=https%3A%2F%2Fwww.jsr.co.jp%2Fresource-files%2Fpdf%2Fproducts%2Ftpe%2Fjsr-dynaron01.pdf&usg=AOvVaw0Wcw5vovK8rXC-N0QPR6Rw))

7 当審の判断
(1)甲1を主たる引例とした新規性進歩性について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。

イ 甲1発明の「両面に化成処理層を有するアルミニウム箔」、「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」、「2液硬化型ポリウレタン系接着剤」、「3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕」、「カーボン」、「リチウム二次電池用包装体」は、それぞれ、本件発明1の「金属箔層」、「基材層」、「接着剤層」、「シーラント層」、「無機系フィラー」、「蓄電装置用外装材」に相当する。

ウ 甲1発明は、「3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕」を有し、その「中間層のポリプロピレン層を樹脂100重量部に対して平均粒径が0.5μmのカーボンを20重量部含有した層とした」ものであるから、本件発明1の「シーラント層は無機系フィラーを含有し、」「シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている」事項を含むものである。

エ 上記イ、ウより、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層及びシーラント層を備え、
前記シーラント層は無機系フィラーを含有し、
前記シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、
前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている、蓄電装置用外装材。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「積層方向に沿った断面において、前記シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」が、本件発明1は、「5?50%」であるのに対し、甲1発明は、「3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕」中の「ポリプロピレン層を樹脂100重量部に対して平均粒径が0.5μmのカーボンを20重量部含有した層とした」ものであって、「3層共押出しフィルム」の総厚に対する「カーボン」の占める割合が不明である点。

オ 以下、上記相違点1について、検討する。

カ 上記4の検討によれば、上記4の(7)のとおり、本件発明1の「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」は、シーラント層15全体の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなるから、同様に考えると、甲1発明の「3層共押出しフィルム」全体の体積と、その内の「カーボン」の合計体積との比は、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」にほぼ対応する値となるといえる。

キ そこで、甲1発明の「3層共押出しフィルム〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕」の層の体積と、「カーボン」の体積との比を算出する。

ク 各物質の比重については、上記6より、次のとおりのものを採用する。
「ポリプロピレン層」:0.91
「不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層」:0.91(ポリプロピレンの比重で代用)
「カーボン」:1.8

ケ 甲1発明の「ポリプロピレン層」は、「樹脂100重量部に対して平均粒径が0.5μmのカーボンを20重量部含有した層」であって、「ポリプロピレン層」中の「カーボン」と「樹脂」との体積比は、(20÷1.8):(100÷0.91)=11.1:110.0となるから、「カーボン」と「ポリプロピレン層」全体の体積比は11.1:(110.0+11.1)=11.1:121.1となる。
そして、「3層共押出しフィルム」は「〔不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)/ポリプロピレン層(10μm)/不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン層(10μm)〕」で構成されており、「ポリプロピレン層」は「3層共押出しフィルム」の3分の1の体積であるから、「カーボン」と「3層共押出しフィルム」全体の体積比は、11.1:(121.1×3)=11.1:363.3となる。

コ そうすると、上記カに照らせば、甲1発明の「3層共押出しフィルム」全体の体積と、その内の「カーボン」の合計体積との比は、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」にほぼ対応する値となるから、結局、甲1発明において、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」に対応する値は、おおよそ11.1÷363.3×100=3.1%となる。

サ そして、この値は、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものではないから、上記相違点1は実質的な相違点である。

シ そこで、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが、当業者が容易になし得たことであるか否かを、以下検討する。

ス 甲1発明の「カーボン」は、甲1の「無機系充填剤としては、たとえば、炭素(カーボン、グラファイト)・・・(略)・・・を挙げることができる」(【0026】)との記載によれば、「無機系充填剤」であるところ、甲1には、「充填剤60としては、平均粒径が0.1?20μmの範囲のものであれば、無機系、有機系のいずれのものでも用いることができ、その含有量としては、オレフィン系樹脂100重量部に対して5?30重量部である」(【0025】)と記載されているから、甲1発明の「カーボン」の含有量を20重量%から30重量%に増やす余地がある。

セ しかしながら、甲1発明の「カーボン」の含有量を20重量%から30重量%に増やしたところで、上記コの3.1%が3.1×1.5=4.65%となるだけであって、依然として、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものではない。

ソ 仮に、甲1発明の「カーボン」の含有量をさらに増やして、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすことができたとしても、本件発明の「シーラント層が薄層化した場合であっても良好な絶縁性を維持することのできる蓄電装置用外装材を提供することができる」(本件明細書の【0013】)という効果まで予測することは困難である。

タ したがって、甲1発明において、本件発明1の上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

チ よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ツ また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

テ さらに、本件発明3、4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ト また、本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(2)甲2を主たる引例とした新規性進歩性について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。

イ 甲2発明の「アルミニウム箔」、「ナイロンフィルム」、「アルミニウム箔の上に、」「ナイロンフィルムをドライラミネートし」た「接着剤」、「層(A-1)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂であるQE060、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iおよび層(A-3)を構成する結晶性プロピレン系重合体であるF-704NP」を使用して製造した「層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1のフィルム(A)」、「モレキュラーシーブ4Aパウダー」は、それぞれ、本件発明1の「金属箔層」、「基材層」、「接着剤層」、「シーラント層」、「無機系フィラー」に相当する。
また、甲2発明の「フィルム」と本件発明1の「蓄電装置用外装材」とは、「フィルム状のもの」で共通する。

ウ 甲2発明は、「層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iのための成分を、(a-1)KF271を90質量部、(a-2)アドマーXE070を10質量部、(b)モレキュラーシーブ4Aパウダーを60質量部、スリップ剤として、LBT-77を1.0質量部、ステアリン酸カルシウムを3.0質量部でドライブレンドし、溶融混練して吸水性樹脂組成物Iを得た後、層(A-1)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂であるQE060、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iおよび層(A-3)を構成する結晶性プロピレン系重合体であるF-704NPを、多層共押出Tダイを使用して、層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1のフィルム(A)を製造し」たものであるから、本件発明1の「シーラント層は無機系フィラーを含有し、」「シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている」事項を含むものである。

エ 上記イ、ウより、本件発明1と甲2発明とは、
「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層及びシーラント層を備え、
前記シーラント層は無機系フィラーを含有し、
前記シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、
前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている、フィルム状のもの。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
「積層方向に沿った断面において、前記シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」が、本件発明1は、「5?50%」であるのに対し、甲2発明は、「層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iのための成分を、(a-1)KF271を90質量部、(a-2)アドマーXE070を10質量部、(b)モレキュラーシーブ4Aパウダーを60質量部、スリップ剤として、LBT-77を1.0質量部、ステアリン酸カルシウムを3.0質量部でドライブレンドし、溶融混練して吸水性樹脂組成物Iを得た後、層(A-1)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂であるQE060、層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物Iおよび層(A-3)を構成する結晶性プロピレン系重合体であるF-704NPを、多層共押出Tダイを使用して、層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1のフィルム(A)を製造し」たものであって、「フィルム(A)」の総厚に対する「モレキュラーシーブ4Aパウダー」の占める割合が不明である点。

(相違点3)
フィルム状のものが、本件発明1は、「蓄電装置用外装材」であるのに対し、甲2発明は、「フィルム」であって、その用途が不明である点。

オ まず、上記相違点2について、検討する。

カ 上記4の検討によれば、上記4の(7)のとおり、本件発明1の「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」は、シーラント層15全体の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなるから、同様に考えると、甲2発明の「フィルム(A)」全体の体積と、その内の「モレキュラーシーブ4Aパウダー」の合計体積との比は、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」にほぼ対応する値となるといえる。

キ そこで、甲2発明の「フィルム(A)」の体積と、「モレキュラーシーブ4Aパウダー」の体積との比を算出する。

ク 各物質の比重については、上記6より、次のとおりのものを採用する。
なお、各商品名の具体的材料は、甲2の【0060】に記載されている。
また、スリップ剤である「LBT-77」及び「ステアリン酸カルシウム」は、フィルムの製造過程において、残留するか否かが不明であるし、「(a-1)KF271」、「(a-2)アドマーXE070」、「(b)モレキュラーシーブ4Aパウダー」に比して少量であるので、体積をゼロとした。

「(a-1)KF271」(直鎖状低密度ポリエチレン):0.94
「(a-2)アドマーXE070」(無水マレイン酸変性エチレン系重合体):0.94(ポリエチレンの比重で代用)
「(b)モレキュラーシーブ4Aパウダー」:2.1
「QE060」(無水マレイン酸変性ポリプロピレン):0.91(ポリプロピレンの比重で代用)
「F-704NP」(ホモポリプロピレン):0.91(ポリプロピレンの比重で代用)

ケ 甲2発明の「層(A-2)を構成する吸水性樹脂組成物I」は、「(a-1)KF271を90質量部、(a-2)アドマーXE070を10質量部、(b)モレキュラーシーブ4Aパウダーを60質量部、スリップ剤として、LBT-77を1.0質量部、ステアリン酸カルシウムを3.0質量部でドライブレンドし、溶融混練し」たものであるから、「(a-1)KF271」と「(a-2)アドマーXE070」と「(b)モレキュラーシーブ4Aパウダー」との体積比は、(90÷0.94):(10÷0.94):(60÷2.1)=95.7:10.6:28.6となるから、「(b)モレキュラーシーブ4Aパウダー」と「層(A-2)」の合計との体積比は28.6:(95.7+10.6+28.6)=28.6:134.9となる。
そして、「フィルム(A)」は「層(A-1)/層(A-2)/層(A-3)の厚み比1/3/1」で構成されており、「層(A-2)」は「フィルム(A)」の5分の3の体積であるから、「(b)モレキュラーシーブ4Aパウダー」と「フィルム(A)」との体積比は、28.6:(134.9÷3/5)=28.6:224.8となる。

コ そうすると、上記カに照らせば、甲2発明の「フィルム(A)」全体の体積と、その内の「モレキュラーシーブ4Aパウダー」の合計体積との比は、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」とほぼ同じとなるから、結局、甲2発明において、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」に対応する値は、おおよそ28.6÷224.8×100=12.7%となる。

サ そして、この値は、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものであるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

シ 次に、上記相違点3について検討する。

ス 甲2発明の「フィルム」はその用途が不明であるから、上記相違点3は実質的な相違点であるといえる。

セ また、甲2には、「本発明の複合多層フィルムは、・・・(略)・・・特に二次電池の外装材として有用である」(【0048】)と記載されており、甲2発明において、当該記載事項を適用することにより、一見、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとする余地がある。

ソ しかしながら、上記セの適用により、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を満たすことができたとしても、本件発明の「シーラント層が薄層化した場合であっても良好な絶縁性を維持することのできる蓄電装置用外装材を提供することができる」(【0013】)という効果まで予測することは困難である。

タ したがって、甲2発明において、本件発明1の上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

チ よって、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ツ また、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

テ さらに、本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)甲3を主たる引例とした進歩性について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比する。

イ 甲3発明の「アルミニウム箔」、「ナイロン6を用いて形成された二軸延伸フィルム」、「接着剤」、「「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層」、「硫酸マグネシウム」、「非水電解質電池用包装材料」は、それぞれ、本件発明1の「金属箔層」、「基材層」、「接着剤層」、「シーラント層」、「無機系フィラー」、「蓄電装置用外装材」に相当する。

ウ 甲3発明の「共押出しにより、「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層を作製し、」「3層構成のヒートシール樹脂層のスキン層をマレイン酸変性ランダム共重合ポリプロピレンであるアドマーQF551、コア層をオレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマーであるDYNARON6200P 100重量部に対して硫酸マグネシウム10重量部を添加した樹脂組成物により形成した」事項は、本件発明1の「シーラント層は無機系フィラーを含有し、」「シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている」事項に相当する。

エ 上記イ、ウより、本件発明1と甲3発明とは、
「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層及びシーラント層を備え、
前記シーラント層は無機系フィラーを含有し、
前記シーラント層が2以上の層から構成され、そのうちの少なくとも1層が前記無機系フィラーを含有せず、
前記シーラント層において、前記無機系フィラーを含有する層が前記無機系フィラーを含有しない層に挟持されている、蓄電装置用外装材。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点4)
「積層方向に沿った断面において、前記シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」が、本件発明1は、「5?50%」であるのに対し、甲3発明は、「共押出しにより、「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層を作製し、」「3層構成のヒートシール樹脂層のスキン層をマレイン酸変性ランダム共重合ポリプロピレンであるアドマーQF551、コア層をオレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマーであるDYNARON6200P 100重量部に対して硫酸マグネシウム10重量部を添加した樹脂組成物により形成した」ものであって、「3層構成のヒートシール性樹脂層」の総厚に対する「硫酸マグネシウム」の占める割合が不明である点。

オ 以下、上記相違点4について、検討する。

カ 上記4の検討によれば、上記4の(7)のとおり、本件発明1の「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」は、シーラント層15全体の体積と、その内の各無機系フィラー16の合計体積との比とほぼ同じとなるから、同様に考えると、甲3発明の「「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層」全体の体積と、その内の「硫酸マグネシウム」の合計体積との比は、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」にほぼ対応する値となるといえる。

キ そこで、甲3発明の「「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)の3層構成のヒートシール性樹脂層」の体積と、「硫酸マグネシウム」の体積との比を算出する。

ク 各物質の比重については、上記6より、次のとおりのものを採用する。
「マレイン酸変性ランダム共重合ポリプロピレンであるアドマーQF551」:0.91(ポリプロピレンの比重で代用)
「オレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマーであるDYNARON6200P」:0.88
「硫酸マグネシウム」:2.66

ケ 甲3発明の「コア層」は、「オレフィン結晶-エチレン-ブテン-オレフィン結晶の構造を持つエラストマーであるDYNARON6200P 100重量部に対して硫酸マグネシウム10重量部を添加した樹脂組成物」であるから、「コア層」中の「硫酸マグネシウム」と「DYNARON6200P」との体積比は、(10÷2.66):(100÷0.91)=3.76:109.9となるから、「硫酸マグネシウム」と「コア層」との体積比は3.76:(109.9+3.76)=3.76:113.66となる。
そして、「3層構成のヒートシール性樹脂層」は「「スキン層/コア層/スキン層」(厚み構成15μm/20μm/15μm)」で構成されており、「コア層」は「3層構成のヒートシール性樹脂層」の5分の2の体積であるから、「硫酸マグネシウム」と「3層構成のヒートシール性樹脂層」との体積比は、3.76:(113.66÷2/5)=3.76:284.15となる。

コ そうすると、上記カに照らせば、シーラント層15の体積と各無機系フィラー16の合計体積との比は、本件発明1の「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」とほぼ同じとなるから、結局、甲3発明において、本件発明1における、「シーラント層の総厚に対する前記無機系フィラーの占める割合」に対応する値は、おおよそ3.76÷284.15×100=1.3%となる。

サ そして、この値は、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものではないから、上記相違点4は実質的な相違点である。

シ そこで、甲3発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが、当業者が容易になし得たことであるか否かを、以下検討する。

ス 甲3発明の「硫酸マグネシウム」は、甲3の「乾燥剤としては、例えば、・・・(略)・・・硫酸マグネシウム・・・(略)・・・を挙げることができる」(【0042】)との記載によれば、「乾燥剤」であるところ、甲3には、「乾燥剤は、前記樹脂成分100重量部に対して、0.1?150重量部、好ましくは0.5?100重量部、より好ましくは1?50重量部の割合で用いられる」(【0043】)と記載されているから、甲3発明の「カーボン」の含有量を10重量%から150重量部まで増やす余地があるといえる。

セ しかしながら、仮に、甲3発明の「硫酸マグネシウム」の含有量をさらに増やして、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を満たすことができたとしても、本件発明の「シーラント層が薄層化した場合であっても良好な絶縁性を維持することのできる蓄電装置用外装材を提供することができる」(【0013】)という効果まで予測することは困難である。

ソ したがって、甲3発明において、本件発明1の上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

タ よって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

チ また、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ツ さらに、本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

8 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-04-26 
出願番号 特願2015-173072(P2015-173072)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 土屋 知久
増山 慎也
登録日 2020-07-06 
登録番号 特許第6728600号(P6728600)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 蓄電装置用外装材  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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