• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23C
管理番号 1373804
異議申立番号 異議2021-700046  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-15 
確定日 2021-05-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6723623号発明「切削加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6723623号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6723623号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和1年8月5日に出願され、令和2年6月26日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和3年1月15日に特許異議申立人 兼房株式会社(以下「申立人」という。)により請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明
特許第6723623号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1ないし4をまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
A 複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルを、その中心軸回りに回転させ、金属材料からなる被加工物の表面に前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記被加工物の表面で相対的に連続的に移動させてキサゲ加工を行う切削加工方法であって、
B 前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され、
C 前記外周刃により切削される前記被加工物の表面の前記窪みの深さを設定し、回転する前記外周刃とその刃数、前記被加工物の表面と前記外周刃の相対的な移動速度から、前記窪みの長さと面積を計算して設定し、
D 前記外周刃の切れ刃の凸部の回転のうちの、前記被加工物の表面を切削する1回の回動のみで、相対的に移動する前記被加工物の表面のうちの前記切れ刃の凸部が切削する箇所に、前記切れ刃の凸部に対応した複数列の窪みを同時に形成し、前記凹凸刃状エンドミルの回転時に、前記切れ刃の凸部が形成されていない部分が前記被加工物に対向する際は、前記被加工物の移動により前記窪みを形成せず、回転する前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃の複数の前記切れ刃により、前記被加工物の表面に部分的に、縦横に多数の窪みを一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成し、
E 前記被加工物の表面に、所定形状の前記窪みを自動的に形成して前記キサゲ加工を行うことを特徴とする切削加工方法。
【請求項2】
F 前記凹凸刃状エンドミルとして、外周刃に一定のピッチで溝状の前記凹部が形成されたラフィングエンドミルを用い、前記ラフィングエンドミルの前記切れ刃のすくい面の形状が台形又は矩形状に前記凸部形成され、前記凸部が切削する前記被加工物の表面に、部分的に前記窪みを形成する請求項1記載の切削加工方法。
【請求項3】
G 前記被加工物の移動方向が、前記外周刃の回転方向と前記表面で逆方向であるアップカットにより前記被加工物の表面に切削加工を施す請求項1又は2記載の切削加工方法。
【請求項4】
H 前記被加工物の移動方向が、前記外周刃の回転方向と前記表面で同方向であるダウンカットにより前記被加工物の表面に切削加工を施す請求項1又は2記載の切削加工方法。」
(構成AないしHは、申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)7及び8ページにおいて、分説したものである。)

第3 申立理由の概要
1.申立人の示す証拠
申立人による特許異議申立理由の概要、及び申立人が提出した証拠である甲第1号証ないし甲第4号証は、以下のとおりである。(以下、各甲号証を「甲1」などといい、これらに記載された発明を「甲1発明」などという。)
甲1:国際公開2017/119298号
甲2:実用新案登録第2509299号公報
甲3:国際公開2017/002326号
甲4:「微細断続切削によって付与したディンプル形状がアルミニウム合
金の摩擦特性に及ぼす影響」、トライボロジスト、一般社団法人
日本トライボロジー学会、2018年、第63巻、第9号、
p.629-640

2.申立ての理由
申立人は、請求項1-4に係る特許は、以下の理由(1)-(5)により取り消すべきものである旨を主張する。
(1)本件発明1、2及び4についての甲1に基づく新規性欠如
本件発明1及び2、4は、甲1発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(申立書17ページ、19ページ、20ページ)

(2)本件発明1についての進歩性欠如
ア 甲1と甲2の組み合わせに基づく進歩性欠如
本件発明1は、甲1発明と甲2発明の組み合わせから当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書18ページ)

イ 甲3に基づく進歩性欠如
本件発明1は、甲3発明と甲1発明の組み合わせ、又は、甲3発明と甲2発明の組み合わせから当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書18ページ)

ウ 甲1又は甲3と甲4との組み合わせに基づく進歩性欠如
本件発明1は、甲1発明又は甲3発明と、甲4発明との組み合わせから当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書18及び19ページ)

(3)本件発明2についての進歩性欠如
上記(2)のとおり、本件発明1は進歩性を欠如するものであるところ、構成Fは甲1ないし甲3に記載されており、本件発明2は、当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書19及び20ページ)

(4)本件発明3についての進歩性欠如
上記(2)、(3)のとおり、本件発明1、2は進歩性を欠如するものであるところ、構成Gは甲3に記載されており、本件発明3は、当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書20ページ)

(5)本件発明4についての進歩性欠如
上記(2)、(3)のとおり、本件発明1、2は進歩性を欠如するものであるところ、構成Hは甲1及び甲3に記載されており、本件発明4は、当業者が容易に想到できるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立書20ページ)

第4 甲1ないし甲4の記載事項等について
申立人が主引用例とする甲1、甲3及び副引用例とする甲2、甲4には、それぞれ以下の記載がある。
1.甲1について
(1)甲1の記載事項
ア 「[0001]本発明は、被加工材の表面に回転切削工具によって微小な凹みであるディンプルを形成するディンプル加工方法及びディンプル加工用回転切削工具に関する。
背景技術
[0002]アルミ、銅合金、それらの鋳造品、鋳鉄、樹脂などの被加工材の表面に多数の微小な凹みであるディンプルを形成する場合がある。例えば複数のディンプルによって梨地模様を被加工材の表面に形成する場合がある。被加工材にディンプルを形成することで、被加工材に接触する相手材と被加工材の間に生じる摩擦抵抗を小さくすることができるためである。その原理は、例えば被加工材と相手材が接触することで摩耗粉が生じ、摩耗粉が被加工材と相手材との間に挟まることでかじりが生じ、摩擦抵抗を大きくする場合がある。この摩耗粉をディンプル内に収容させることで、摩耗粉による摩擦抵抗の増大を抑制できる。あるいは被加工材と相手材との間に油が注入され、油がディンプルに充填される場合がある。相手材がディンプルの近傍を通過すると、油がディンプルから高い圧力で相手材と被加工材の間に排出される(スクイーズ効果)。この圧力によって相手材が被加工材に対して接触し難くなって、相手材と被加工材の間の摩擦抵抗が小さくなる。」

イ 「[0006]本発明の1つの特徴は、回転切削工具を用いて被加工材にディンプルを形成するディンプル加工方法に関する。このディンプル加工方法では、棒状の本体の表面に複数の切れ刃部を備える回転切削工具を軸心を中心に回転させつつ回転切削工具を軸心に対して直交する送り方向にかつ被加工材に沿って相対移動させる。送り方向の相対移動の際に回転切削工具を被加工材に相対的に軸方向にも移動させて、被加工材に相互に離間する複数のディンプルを形成する。送り方向に隣接する複数のディンプルが軸方向に対して一部が重なりつつ軸方向に位置がずれて形成される。」

ウ 「[0009]本発明の他の特徴によるディンプル加工方法では、棒状の本体の表面に複数の切れ刃部を備える回転切削工具を軸心を中心に回転させつつ回転切削工具を軸心に対して直交する送り方向に被加工材に沿って相対移動させる。これにより被加工材に相互に離間する複数のディンプルを形成する。回転切削工具の本体の表面において軸心と平行な線に対してリード角を有するリード線上において複数の切れ刃部が並設される。回転切削工具を軸心中心に回転させつつ送り方向に移動させることで、軸方向に隣接する複数のディンプルが軸方向に対して角度を有して配設されるように形成される。」

エ 「[0013]本発明の1つの実施形態を図1?8にしたがって説明する。図1に示すようにエンドミル1は、離間した複数のディンプル(微小な凹み)22を形成するための回転切削工具である。エンドミル1は、超硬合金製の丸棒状であって同軸上にシャンク2と連結部(首)3と本体4を連続して有する。シャンク2は、円柱状であって図4に示すように加工装置100のスピンドル106に装着される。シャンク2は、本体4と同じ大きさの径を有していても良いし、剛性を高めたい際には図1に示すように本体4の径よりも大きい径を有していても良い。連結部3は、円錐台状であって、シャンク2と同じ径の大径部3aと本体4と同じ径の小径部3bを有する。
[0014]図1,2に示すように本体4は、小径の略丸棒状であって、連結部3の先端から延出する。本体4には、少なくとも1つ、例えば2つの溝(フルート)9が形成される。溝9は、ヘリカル状に本体4の外周に形成され、軸心6と平行な線7に対してリード角8を有する。例えば溝9は、本体4を展開した際に本体4の外周面を直線状に軸心6に対してリード角8を有して延出する。リード角8は、例えば6°、1?40゜、好ましくは2゜以上になるように設定され、例えば本体4の略半周において形成される。溝9は、所定の幅を有し、本体4の略全長に渡って延出する。
[0015]図1に示すように溝9は、本体4の基部から先端13に向けて反時計回り(図1の上から見た場合)に延出している。本体4は、図2に示すように溝9に沿って複数の切れ刃部5を有する。図2に示すように本体4を軸方向下から見ると、本体4には、軸心6を中心とする対角となる位置に1対の切れ刃部5が位置し、一対の切れ刃部5の間に溝9が位置する。各切れ刃部5は、円弧状の逃げ面5cと、逃げ面5cの一端に位置する外周切れ刃5aと、外周切れ刃5aから軸心6および溝9に向けて延出するすくい面5bを有する。逃げ面5cは、本体4の外周に沿って周方向に略円弧状に延出する。詳しくは逃げ面5cは、外周切れ刃5aが最も軸心6から遠い場所に位置し、外周切れ刃5aから離れるほど軸心6に近づく形状を有する。すくい面5bは、平面状または曲面状に形成される。
[0016]図1,3に示すように溝9は、幅方向に一端縁(リード線10)と他端縁を有し、一端縁が他端縁よりもエンドミル1の回転方向先方に位置する。溝9の一端縁に沿って複数の切れ刃部5が形成される。複数の切れ刃部5は、軸方向に所定のピッチ11、例えば等間隔で連続して形成される。連続する切れ刃部5は、溝9に沿って延出する外周刃を構成し、エンドミル1は、例えば2つの外周刃を有する。
[0017]図1,3に示すように外周刃は、波状であって、円弧状の山部を連続して有し、山部の間に谷部が位置する。各切れ刃部5は、円弧状の山部に相当し、本体4において径方向に突出する。2列の外周刃は、軸方向に位置がずれており、例えばピッチ11の半分の長さだけ軸方向に位置がずれている。これにより山部(切れ刃部5)は、隣の列の谷部に対応する位置に位置する。各切れ刃部5の外周切れ刃5a(図2参照)は、軸心6を通過する本体4の断面において所定の大きさの曲率半径12を有する略円弧の形状を有する。曲率半径12は、例えば本体4の半径の大きさの70?130%の大きさである。」

オ 「[0023]加工装置100とワーク保持装置110の各部材の移動制御、回転制御は、PC120内の制御部(CPU)123により、I/F回路124を介して制御される。ROM125には、制御部123の実行に必要な命令やデータが格納されている。加工態様に関するデータや被加工材20の座標データ、スピンドル106の回転数等に関するデータがキーボード等を介して入力され、I/F回路121を経由して記憶部(RAM)122に格納される。制御部123は、格納データに基づいて各モータ126?130に所定の駆動指令を送信し、送信信号に基づいて各モータ126?130が所定の駆動動作を行う。
[0024]図1に示すようにエンドミル1の軸心6と被加工材20の軸中心23が平行になるようにエンドミル1と被加工材20がそれぞれ加工装置100とワーク保持装置110に装着される。さらにエンドミル1の位置は、軸心6と被加工材20の軸中心23との距離が所定の大きさとなるように決定される。詳しくは、被加工材20の内壁21に切れ刃部5の先端のみが接するようにエンドミル1のX方向とY方向の位置が決定される。これによりディンプル22の深さが決定され得る。例えば図8に示すようにエンドミル1の位置が決定され、切れ刃部5が所定の大きさの曲率半径12を有する際、ディンプル22の深さ33が決定され得る。
[0025]図1に示すようにエンドミル1の軸心6と被加工材20の軸中心23が平行となるようにエンドミル1と被加工材20の位置を決定する。エンドミル1の切れ刃部5の先端(外周切れ刃5a)が被加工材20の内壁21に接するようにエンドミル1と被加工材20の位置を決定する。エンドミル1を軸心6を中心に回転させつつ被加工材20を軸中心23を中心に回転させる。エンドミル1の回転速度は、エンドミル1が被加工材20の内壁21に対して送られる送り速度よりも速く、エンドミル1が回転することで各切れ刃部5の外周切れ刃5a(図2参照)が各ディンプル22を形成する。
[0026]図6に示すようにディンプル22は、エンドミル1の軸方向(縦方向)に複数列、送り方向F(横方向)に複数列、並設される。軸方向に並設されるディンプル22は、エンドミル1の軸方向に平行ではなく、エンドミル1の軸方向(図中の線24)に対して所定の角度26を有して並設される。角度26は、エンドミル1の回転速度と送り速度と図1に示すリード角8によって決定される。角度26は、リード角8より小さく、例えばリード角8の約10分の1の大きさになる。」

カ 「[0029]ディンプル22の送り方向Fの径22b(図6参照)は、図2に示すように本体4の径14と切れ刃(外周切れ刃)5aが被加工材20を切削する深さ33によって決定される送りFが0の場合の幅22eと略同じである。厳密には、ダウンカットの場合、送り速度が速いほど、ディンプル22の送り方向Fの径22bが小さくなるが、ディンプル22の送り方向Fの径22bは、幅22eと略同じである。
[0030]さらに厳密には、円筒状の内壁21にディンプル22を形成する場合、ディンプル22の送り方向Fの径が長くなる。一方、図11に示すように円筒状の外壁51にディンプル52を形成する場合、ディンプル52の送り方向Fの径が短くなる。切れ刃5aが外壁51に接触する時間が切れ刃5aが内壁21に接触する時間よりも短くなるためである。
[0031]一方、ディンプル22の軸方向の径22a(図6参照)は、図8に示すように外周切れ刃5a(図2参照)の曲率半径12と深さ33によって決定される幅22dと略同じである。エンドミル1の送り速度、回転速度、軸方向の速度は、ディンプル22が略円形となるように、すなわち送り方向Fの径22bと軸方向の径22aが略同じになるように曲率半径12を調整することも可能である。」

キ 「[0049]切れ刃部5の外周切れ刃5aの円弧状は、図3に示すように曲率半径12を有する。半径(径14の半分の長さ)と曲率半径12がほぼ等しい場合(例えば曲率半径12が本体4の半径の大きさの70?130%の大きさの場合)、ディンプル22の形状を真円に近い形状にすることができる。ディンプル22を略円形にすることで被加工材20と相手材との間に生じる摩擦係数の指向性を小さくすることができる。ただし、指向性が必要でないときは、ディンプル形状を円形にする必要はない。つまり、曲率半径と本体の半径の大きさの比は、こだわるのものではなく、1/8、1/4、1/2、2倍、4倍、8倍等で、楕円でも良い。外周切れ刃の形状が凸状平刃の場合は長方形になる。
[0050]図6などに示すようにディンプル22が形成される面積比率は、加工面の10%-40%である。ディンプル22の面積比率が40%よりも多いと被加工材20と相手材の接触面積が少なくなって接触部分における圧力が高くなり、摩耗が多くなるために好ましくない。一方、ディンプルの面積比率が10%よりも少ないと、ディンプル22の総面積が小さくなり、十分に摩擦抵抗を小さくすることができず好ましくない。したがってディンプル22の面積比率を加工面の10%-40%にすることが好ましい。」

ク 「[0067]図14に示すように各溝39の一端縁に外周刃が形成され、外周刃は、波状であって、円弧状の山部を連続して有し、山部の間に谷部が位置する。山部が各切れ刃部35を構成し、切れ刃部35が本体34において径方向に突出する。2列の外周刃は、軸心36を中心とする対称となる場所に位置する。2列の外周刃は、軸方向に位置がずれており、例えば切れ刃部35のピッチの半分の長さだけ軸方向に位置がずれている。」

ケ 「[0071]図16に示すエンドミル61は、同軸上にシャンク62、連結部63、本体64を有し、本体64に2つの溝69を有する。溝69は、ヘリカル状に本体64の外周に形成され、軸心66と平行な線に対してリード角68を有する。例えば溝69は、本体64を展開した際に本体64の外周面を直線状に軸心6に対してリード角68を有して延出する。リード角68は、例えば10?40゜になるように設定される。溝69は、所定の幅を有し、本体64の略全長および略全周において形成される。
[0072]図16?20に示すように溝69は、本体64の基部から先端に向けて反時計回り(図1の上から見た場合)に延出している。溝69の幅方向一端縁70に沿って複数の切れ刃部65が連続に形成される。複数の切れ刃部65は、軸方向に所定の大きさのピッチ71にて配設され、本体64から円弧状に径方向に突出する。切れ刃部65の外周切れ刃65aは、軸心66を通りかつ溝69の端縁を横断する断面上において曲率半径72を有する円弧の形状を有する。」

コ 「[0077]エンドミル1,31,61は、溝9,39,69を有し、溝9,39,69に沿って複数の切れ刃部5,35,65が形成されている。これに代えてエンドミル1,31,61が溝9,39,69を有さず、本体の外周から突出する複数の切れ刃部を有していても良い。複数の切れ刃部は、本体の軸心と平行な線に対してリード角を有するリード線に沿って並設されても良いし、あるいは軸心と平行な線に沿って並設されても良い。」

サ 「[0079]エンドミル1,31,61は、2列の切れ刃部5,35,65を有する。これに代えてエンドミルは、1列または3列以上の切れ刃部を有していても良い。
[0080]エンドミル1,31,61は、本体4,34,64と切れ刃部5,35,65が一体のソリッドタイプである。これに代えてエンドミルは、本体に取付けられたチップによって形成された切れ刃部を有していても良い。なおチップは、本体にろう付けされていても良いし、交換可能に本体に取付けられても良い。」

シ 「[0085]ディンプルは、被加工材の表面において略円形状に開口する形状である。これに代えてディンプルは、被加工材の表面に楕円状あるいは卵形状、四角状、菱形状、六角状等に開口する形状であっても良い。
[0086]切れ刃部5,35,65は、溝9,39,69に接しかつ軸心6,36,66を含む断面において本体4,34,64から円弧状に突出する。円弧状とは、完全な円形のみならず楕円等も含み得る。また切れ刃部は、円弧状に代えて三角形状や凸状平面であっても良い。
[0087]上記形態では、複数の切れ刃部5,35,65が軸方向に同一ピッチ11,71にて並設される。これに代えて複数の切れ刃部5,35,65が軸方向に不均一なピッチにて並設されても良い。
[0088]上記形態では、2列の外周刃を有し、2列の外周刃が軸方向に位置がずれており、例えば切れ刃部5,35,65のピッチの略半分の距離だけ位置がずれている。これに代えて2列の外周刃が軸方向に位置がずれておらず、各外周刃の切れ刃部が周方向に並設されても良い。」

ス 「図1



セ 「図2




ソ 「図3



タ 「図4



チ 「図6



ツ 「図8



(2)甲1から理解できる事項
ア 上記(1)オから、エンドミル1を軸心6を中心に回転させつつ、被加工材の表面(内壁)で相対的に連続的に移動させてディンプルを形成していること

イ 上記(1)エ、オ及びツから、外周刃(切れ刃部5)により切削される被加工材の表面のディンプル22の深さ33を設定していること

ウ 上記(1)エ、オ、スないしツから、外周刃の円弧状の山部(切れ刃部5)の回転のうちの、被加工材の表面を切削する1回の回動のみで、相対的に移動する被加工材の表面のうちの前記円弧状の山部が切削する箇所に、前記円弧状の山部に対応した複数列のディンプル22を同時に形成していること、及び、回転するエンドミル1の外周刃の複数の円弧状の山部(切れ刃部5)及び谷部により、被加工材の表面に部分的に、縦横に多数のディンプル22を一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成していること

エ エンドミル1は外周刃に円弧状の山部(切れ刃部5)と谷部を有すること、及び、エンドミル1の回転及び被加工材の移動により、被加工材の表面にディンプル22が形成される箇所とディンプルが形成されない箇所があること(上記(1)チ)に鑑みれば、エンドミル1の回転時に、外周刃の谷部が被加工材に対向する際は、被加工物との相対的な移動によりディンプル22を形成しないこと

オ 上記(1)オから、ディンプルは、制御部123の指令により自動的に形成されること、及び、(1)キから、ディンプルは、円形、楕円形、長方形等の所定形状であること

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「複数の円弧状の山部(切れ刃部)及び谷部から成る外周刃を有したエンドミル1を、その軸心6回りに回転させ、アルミなどからなる被加工材の表面に前記エンドミル1の前記外周刃を当てるとともに、前記エンドミル1を軸心6を中心に回転させつつ、前記被加工材の表面で相対的に連続的に移動させてディンプル22を形成するディンプル加工方法であって、
前記エンドミル1の外周刃は、前記円弧状の山部(切れ刃部)と谷部で形成され、
前記外周刃により切削される前記被加工材の表面の前記ディンプル22の深さ33を設定し、
前記外周刃の円弧状の山部(切れ刃部)の回転のうちの、前記被加工材の表面を切削する1回の回動のみで、相対的に移動する前記被加工材の表面のうちの前記円弧状の山部(切れ刃部)が切削する箇所に、前記円弧状の山部(切れ刃部)に対応した複数列のディンプル22を同時に形成し、前記エンドミル1の回転時に、前記谷部が前記被加工材に対向する際は、前記被加工材の移動により前記ディンプル22を形成せず、回転する前記エンドミル1の前記外周刃の複数の前記円弧状の山部(切れ刃部)及び谷部により、前記被加工材の表面に部分的に、縦横に多数のディンプル22を一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成し、
前記被加工材の表面に、所定形状の前記ディンプル22を自動的に形成するディンプル加工方法。」

2.甲3について
(1)甲3の記載事項
ア 「[0001]本発明は、アルミ、銅合金、それらの鋳造品、鋳鉄、樹脂などの被加工材の表面にエンドミルにより微小な凹みであるディンプルを形成するディンプル加工方法及びエンドミルに関する。
背景技術
[0002]アルミ等の被加工材の表面に多数の微小な窪みであるディンプルを形成することにより、表面が梨地模様になり、これにより表面積が減少して接触抵抗を減らし、すべり摩擦抵抗が低減することにより耐摩耗性が向上する、流体潤滑の場合に流体抵抗が減少する等の効果が得られることが知られている。このようなディンプル加工表面の特性に注目して、エンジンのシリンダやターボチャージャー等の内壁面や、人工関節の接合面等にディンプルを形成しようとする試みがある。ディンプルを加工する方法としては、レーザ照射による方法、エ具による全面切削加工による方法、微小球を被加工材に高速で衝突させるショットピーニングによる方法等が知られている。しかし、レーザ照射によれば、被加工材が高温で加熱されるため、被加工材に大きな熱応力が生じるという問題がある。全面切削加工によれば、均一な面を出すのが困難である。また、ショットピーニングでは、深い穴や凹んだ面へのディンプル形成が困難であり、所望の状態にディンプルを配列させることができないという問題がある。」

イ 「[0005]本発明は、このような問題を解決しようとするもので、凹凸曲面等の任意の表面や深い穴の内壁面等に高い密度で所望の配列のディンプルを形成できるエンドミルによるディンプル加工方法及びこれに用いるエンドミルを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006]上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、棒状の本体の外周面に1つ又は2つの切れ刃を有する1つの歯体を設けたエンドミルを用いて被加工材の表面を回転切削することにより互いに離間したディンプルを形成するディンプル加工方法であって、本体を1回転させることにより1つ又は2つのディンプルを形成することにある。ここで、ディンプルとは、互いに離間して形成される小径の凹みであり、本体の一回転毎に1つ又は2つが離間して形成される。歯体とは、本体の軸方向1箇所の一周上における切れ刃の集まりを意味するものであり、以下同様である。歯体を設ける本体の直径は、通常10mm程度以下であるが、特に好ましくは4mm以下であり、直径を小さくすることにより微細で高密度のディンプル配列が可能になる。また、ディンプルを形成する被加工材の材質としては、アルミ、銅合金、アルミや銅合金の鋳造品、鋳鉄、樹脂等である。」

ウ 「[0018]エンドミル10によるディンプルの加工例1について、図2により説明する。加工例1は、円筒状の被加工材K1の外周面にディンプル加工を施すものである。エンドミル10はシャンク11側で図示しない回転駆動装置に固定されて、所定の回転数で回転可能にされると共に軸方向に所定速度で移動可能にされている。被加工材K1は、アルミ製の円筒形状であり、図示しない回転駆動装置により所定の回転数で回転可能にされている。被加工材K1を回転させながら、エンドミル10を回転させつつ軸方向に移動させることにより、被加工材K1の外周面に互いに離間したディンプルdが螺旋状に配置されたディンプル加工が施される。ディンプルdの形状については、図4A?図4Hに示すように、図3A?図3Hに示す切れ刃16a?16hの形状に応じてd1?d8のようになる。または、被加工材K1は固定され、エンドミル10を移動させても加工可能である。」

エ 「[0024]上記実施例1では、本体13が丸棒状のエンドミル10が、その軸心が被加工材の表面(接面)と平行に配置されているが、図8Aに示すように、被加工材K4の表面(接面)に対して本体13の軸心を傾斜させた状態で切削させることができる。被加工材K4の表面に対する本体13の軸心の傾斜角度6は60°である。傾斜角度θは-20°?+75゜の範囲であればよく、この範囲の傾斜角度においてディンプルの直径と深さ及びディンプル間の間隔を調節することができる。傾斜角度θが+75゜より大きいと、ディンプルの凹み間が繋がってしまい離間したディンプルが形成できなくなる。また、図8Bに示すように、本体13の軸心の傾斜角度θ=-20゜のように負の場合は、被加工材K4の端面の切削において適用されるが、-20゜より小さいとエンドミル10の本体13が被加工材K4と接触し易くなるのでディンプルの形成ができなくなる。
[0025]つぎに、エンドミル10の実施例2?5について図9A?図9Dにより説明する。
実施例2のエンドミル10Aは、図9Aに示すように、本体13Aの先端に設けた1つの歯体15Aとして、軸心を挟んで対向する2箇所にそれぞれ1つの切れ刃16Aを有するものである。エンドミル10Aによれば、本体13Aの1回転により回転方向に2つのディンプルが形成されるため、より高密度のディンプル形成が可能となる。
[0026]実施例3のエンドミル10Bは、図9Bに示すように、本体13Bの軸方向に離れた2箇所に2つの歯体15B1,15B2を設けており、各歯体15B1,15B2は、それぞれ周方向の1箇所でかつ同じ軸方向位置に1つの切れ刃16B1,16B2を有するものである。エンドミル10Bによれば、本体13Bの1回転により軸方向に離れた2箇所にそれぞれ1つのディンプルの形成が可能になる。」

オ 「[0028]実施例5のエンドミル10Dは、図9Dに示すように、本体13Dの軸方向に離れた2箇所に2つの歯体15D1,15D2を設けている。各歯体15D1,15D2は、それぞれ周方向の2箇所でかつ軸心を挟んだ対向位置に2ずつの切れ刃16D1,16D2を有するものである。エンドミル10Dによれば、本体13Dの1回転により軸方向及び周方向に離れた位置に4つのディンプルの形成が可能になる。なお、実施例3?5のように本体13B?13Dに2つの歯体を設ける場合に、図示しないが、2つの歯体の一方に1つの切れ刃を設け、他方の歯体に2つの切れ刃を設けることも可能であり、この場合は本体を1回転させることにより3つのディンプルが形成される。また、2つ以上の切れ刃を設ける場合、それぞれ異なる切れ刃形状にしてもよい。それぞれの切れ刃形状に対応したディンプル形状になる。
[0029]つぎに、切れ刃の変形例2について図10A?図10Cにより説明する。変形例2においては、本体13Fの先端側に設けた1つの歯体15Fが、周方向に90゜離れた2箇所に取付溝14Fを挟んで設けた2つの円弧状の切れ刃16F1,16F2を有している。図10A,園10Bに示すように、回転方向前方側の切れ刃16F1は円弧形であるのに対して、回転方向後方側の切れ刃16F2は、円弧形のチップの先端が高さhだけ切欠かれて軸方向中央側が平坦にされている。その結果、切れ刃16F1,16F2により形成されるディンプルdFは、図10Cに示すように、半円形の深い凹みdF1と軸方向中央が平坦な浅い凹みdF2とが回転方向Rに連続した形状となる。このように、ディンプルdFを回転方向Rに深い浅いの2連構造とすることにより、ディンプルdFの潤滑油等を保持する効果が高められ、その結果、潤滑油のスクイーズ効果により接触面間の圧力を高めることが可能となり、加工面の摩擦を低くする効果が一層高められる。」

カ 「[0031]エンドミル20によるディンプルの加工例4について、図12により説明する。加工例4は、円筒形の穴を有するアルミ製の被加工材K5の内周面にディンプル加工を施すものである。エンドミル20はシャンク21側で図示しない回転駆動装置に固定されて、円錐部22外周面が被加工材K5の内周面に沿う状態で配置される。エンドミル20は、所定の回転数で回転可能にされると共に被加工材K5の軸方向に所定速度で移動可能にされている。被加工材K5は、図示しない回転駆動装置により所定の回転数で回転可能にされている。被加工材K5を回転させながら、エンドミル20を回転させつつ被加工材K5の軸方向に移動させることにより、被加工材K5の内周面に互いに離間したディンプルdが螺旋状に配置されたディンプル加工が施される。ディンプルdの形状については、上述した通りである。」

キ 「図2



ク 「図3H



ケ 「図9B



コ 「図9D



(2)甲3から理解できる事項
ア 上記(1)コから、切れ刃16D1と切れ刃16D2は凸部で、それらの間は凹部になっていること

イ 上記(1)ウ、オ、キから、エンドミル10Dを回転させつつ被加工物の表面で相対的に連続的に移動させて自動的にディンプルを形成すること

ウ 上記(1)エ[0024]の「ディンプルの直径と深さ及びディンプル間の間隔を調節することができる。」との記載から、甲3に開示された切削加工は、ディンプルの深さを設定する技術思想を有すること

エ エンドミル10Dは外周刃に切れ刃D1、D2と凹部を有すること(上記ア)、及び、エンドミル10Dの回転及び被加工材の移動により、被加工材の表面にディンプルが形成される箇所とディンプルが形成されない箇所があること(上記(1)キ)に鑑みれば、上記(1)ウ、オ、キ等から、エンドミル10Dの切れ刃16D1、D2の回転のうちの、被加工材の表面を切削する1回転で、相対的に移動する前記被加工材の表面のうちの前記切れ刃16D1、D2が切削する箇所に、前記切れ刃16D1、D2に対応した複数列のディンプルを同時に形成し、エンドミル10Dの回転時に、外周刃の凹部が前記被加工材に対向する際は、前記被加工材の移動により前記ディンプルを形成せず、回転するエンドミル10Dの複数の前記切れ刃16D1、D2及び凹部により、前記被加工材の表面に部分的に、縦横に多数のディンプルを一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成すること

オ 上記(1)ウから、ディンプルの形状は切れ刃の形状に応じた所定形状となること

(3)甲3発明
上記(1)及び(2)から、甲3には、以下の甲3発明が記載されていると認められる。
「複数の切れ刃16D1、D2及び凹部から成る外周刃を有したエンドミル10Dを回転させつつ、アルミ製の被加工材の表面に前記エンドミル10Dの前記外周刃を当てるとともに、前記エンドミル10Dを前記被加工材の表面で相対的に連続的に移動させてディンプルを形成するディンプル加工方法であって、
前記エンドミル10Dの外周刃は、前記切れ刃16D1、D2と凹部で形成され、
前記外周刃により切削される前記被加工材の表面の前記ディンプルの深さを設定し、
前記外周刃の切れ刃16D1、D2の回転のうちの、前記被加工材の表面を切削する1回転で、相対的に移動する前記被加工材の表面のうちの前記切れ刃16D1、D2が切削する箇所に、前記切れ刃16D1、D2に対応した複数列のディンプルを同時に形成し、前記エンドミル10Dの回転時に、前記凹部が前記被加工材に対向する際は、前記被加工材の移動により前記ディンプルを形成せず、回転する前記エンドミル10Dの前記外周刃の複数の前記切れ刃16D1、D2及び凹部により、前記被加工材の表面に部分的に、縦横に多数のディンプルを一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成し、
前記被加工材の表面に、所定形状の前記ディンプルを自動的に形成するディンプル加工方法。」

3.甲2について
(1)甲2の記載事項及び甲2から理解できる事項
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本考案は木材加工,木質系材料加工,金属加工等に用いられる回転鉋,フライス,エンドミル等の回転切削工具に関する。」

イ 「【0010】
【実施例第1】本考案の実施例第1を跳び刃型のエンドミルを示す図1にもとづき説明する。Aは正面図、Bは刃体の展開図、Cは端面側視図である。シャンク10aにつづく切刃部10bは3条以上、図では4条の刃体11,12,13,14が軸方向に90゜間隔で切粉排出溝15を挟んで構成されている。この各刃体には突出した略方形又は梯形の小切刃が軸方向に形成されている。即ち刃体11には小切刃lla,llb・・・,が等ピッチPで、後続となる刃体12には小切刃12a,12b・・・が等ピッチPで且つ刃体11の小切刃に対してP/4ずれて形成されており、また刃体12の後続の刃体13には小切刃13a,13bが等ピッチで且つ刃体12の小切刃に対しP/4ずれて形成され、また刃体13の後続の刃体14には小切刃14a,14b・・・,が等ピッチで刃体13の小切刃に対しP/4ピッチずれて形成されている。」
【0011】そして各小切刃の巾はP/4と同じで小切刃の重複巾は零であるか、P/4より僅かに広巾、即ち平均切削抵抗が重複零のときの約30%増以内である重複巾に形成されていて切り残しを完全になくするものである。小切刃は確実に削り残しの生じない程度の重複巾を有するものであって、削り残しが出ない必要にして十分な重複巾に形成されている。小切刃の間は切削に関与しないように逃げ面が小切刃の刃先円より低くなるように形成されている。即ち同1円周上例えば13の小切刃以外の刃体の先端はCに示すようにすべて切削径の内側となり1回転で1回切削するものである。若しくは極く僅かの重複が小切刃間で見られる。
【0012】このような構成になる本考案の作用を説明する。厚板の側面を回転されたエンドミルで切削する。今刃体11の小切刃11a(11b)が切削しエンドミルが90゜回転すると刃体12の小切刃12a(12b)が切削する。刃体11,12の小切刃の間で僅かの重なりがあるものは小切刃11aと12a,11bと12bの間の削り残しは全くない。次の90゜回転で刃体13の小切刃13a(13b)、次の90゜回転で刃体14の小切刃14a(14b)が切削して1回転で小切刃11aから14a迄(11bから14b迄)の1P巾が切削され1切削面が得られる。
【0013】この場合切削抵抗は図2のように各小切刃に分散されるので各刃体の最大瞬間切削抵抗は連続刃型のほぼ1/4に重複分の切削抵抗が僅かに加わった小さなものとなり、平均化され当然トルク変動,振動,騒音も小さくなる。この形態のボールエンドミルは図3に示したものであってAは刃体正面図、Bは端面側視図である。図1のエンドミルの刃体に捩じり角を設けたものは図4に示しており、Aは正面図,Bは刃体展開図、Cは端面側視図である。刃体110,120,130,140を形成したものは軸方向から見て各小切刃は端部から見た小切刃配置で各刃体90゜内を示したDのようにさらに分散され何れかの小切刃が常に切削中であるように配置されるので、切削トルクの変動は図5のように一層小さく滑らかなものとなる。そして図6のように小切刃のコーナ部,基部にはRをつける。或いは図7のように小切刃側面にあさりをつける。或いは又は図8のように小切刃を梯形として基部の巾を広くして小切刃の強度を高める等の形状とされる。なお、この切刃形状は他の実施例においても同様に適応可能である。」

ウ 「図1



エ 「図4



オ 上記ウの(B)の図面から、甲2のエンドミルは、各刃体11、12、13、14の小切刃11a、11b、12a、12b、13a、13b、14a、14bは凸部であり、それぞれの小切刃(凸部)の間に凹部があることが理解できる。

カ 上記イ及びウの図1(A)及び(B)から、甲2のエンドミルの小切刃11a及び11b、12a及び12b、13a及び13b、14a及び14b(凸部)と凹部は、それぞれピッチをずらして形成されたものであり、刃体11、12、13、14の凸部と凹部の展開図にすると、エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成されることが理解できる。

(2)甲2に記載の技術的事項
上記(1)から、甲2には、以下の技術的事項(以下、「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。(参考のため、括弧内には、対応する本件発明1の用語を付した。)
「エンドミル(凹凸刃状エンドミル)の刃体(切れ刃)の小切刃(凸部)と凹部が、刃体の小切刃と凹部の展開図にすると、前記エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成されること」

4.甲4について
(1)甲4の記載事項
ア 「Fig.3は平面加工における工具軌跡の模式図である。外周部に突出した刃先をもつ非対称形状工具が回転しながら被加工面上で螺旋を描くように移動する(Fig.3(a))。」(630ページの右欄18-21行)
イ 「ディンプル断面形状は刃先先端曲率寸法と切込み量により,面積率は送り速度と工具回転数の比によって決定される。本試験では,工具回転数を3000rpmで固定し,送り速度を750?3760mm/min,切込み量を2?40μmの範囲とし,これらを統合して制御することでディンプルの面積率や開口径および深さの異なるテクスチャを乾式にて加工した。試験に用いたディンプル形状や面積率はTable2および3のとおりである。」(631ページ左欄1行目?右欄3行目)

(2)甲4に記載の技術的事項
上記(1)から、甲4には、以下の技術的事項(以下、「甲4に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「外周部に突出した刃先をもつ非対称形状工具を回転しながら被加工面上で移動させてディンプルを形成する加工方法において、ディンプル断面形状は刃先先端曲率寸法と切込み量により決定され、面積率は送り速度と工具回転数の比によって決定されること」

第5 当審の判断
1.本件発明1、2及び4についての甲1に基づく新規性欠如(第3の2.(1))について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と、甲1発明(第4の1.(3))とを対比すると、甲1発明の「円弧状の山部(切れ刃部)及び谷部」は、本件発明1の「切れ刃」に相当し、以下同様に、「エンドミル1」は円弧状の山部(切れ刃部)及び谷部を有するから「凹凸刃状エンドミル」に、「軸心6」は「中心軸」に、「アルミなど」は「金属材料」に、「被加工材」は「被加工物」に、「ディンプル22を形成する」ことは「キサゲ加工を行う」ことに、「ディンプル加工方法」は回転切削工具を用いるから「切削加工方法」に、「円弧状の山部(切れ刃部)」は「切れ刃」の「凸部」(又は「凸部」)に、「谷部」は「切れ刃」の「凹部」(又は「凹部」)に、「ディンプル22」は「窪み」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「前記エンドミル1の外周刃は、前記円弧状の山部(切れ刃部)と谷部で形成され」ることと、本件発明1の「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され」ることとは、「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃に凸部と凹部が形成され」る点では共通する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルを、その中心軸回りに回転させ、金属材料からなる被加工物の表面に前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記被加工物の表面で相対的に連続的に移動させてキサゲ加工を行う切削加工方法であって、
前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃に凸部と凹部が形成され、
前記外周刃により切削される前記被加工物の表面の前記窪みの深さを設定し、
前記外周刃の切れ刃の凸部の回転のうちの、前記被加工物の表面を切削する1回の回動のみで、相対的に移動する前記被加工物の表面のうちの前記切れ刃の凸部が切削する箇所に、前記切れ刃の凸部に対応した複数列の窪みを同時に形成し、前記凹凸刃状エンドミルの回転時に、前記切れ刃の凸部が形成されていない部分が前記被加工物に対向する際は、前記被加工物の移動により前記窪みを形成せず、回転する前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃の複数の前記切れ刃により、前記被加工物の表面に部分的に、縦横に多数の窪みを一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成し、
前記被加工物の表面に、所定形状の前記窪みを自動的に形成して前記キサゲ加工を行う切削加工方法。」

<相違点1>
切れ刃の凸部と凹部について、本件発明1は、「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され」ているのに対し、甲1発明では、エンドミル1の円弧状の山部(切れ刃部)と谷部が多条ネジ状に形成されているか不明な点。

<相違点2>
本件発明1は、「回転する前記外周刃とその刃数、前記被加工物の表面と前記外周刃の相対的な移動速度から、前記窪みの長さと面積を計算して設定し」ているのに対し、甲1発明には、ディンプル22の長さと面積を計算して設定することは特定されていない点。

(2)相違点1についての検討
甲1には、エンドミル1の円弧状の山部(切れ刃部)と谷部(凹凸刃状エンドミルの切れ刃の凸部と凹部)について、「図1,3に示すように外周刃は、波状であって、円弧状の山部を連続して有し、山部の間に谷部が位置する。各切れ刃部5は、円弧状の山部に相当し、本体4において径方向に突出する。2列の外周刃は、軸方向に位置がずれており、例えばピッチ11の半分の長さだけ軸方向に位置がずれている。これにより山部(切れ刃部5)は、隣の列の谷部に対応する位置に位置する。」(第4の1.(1)エの[0017])との記載、及び、「上記形態では、2列の外周刃を有し、2列の外周刃が軸方向に位置がずれており、例えば切れ刃部5,35,65のピッチの略半分の距離だけ位置がずれている。これに代えて2列の外周刃が軸方向に位置がずれておらず、各外周刃の切れ刃部が周方向に並設されても良い。」(第4の1.(1)シの[0088])との記載があり、第4の1.(1)ソにエンドミル1の円弧状の山部と谷部が図示されているが、これらの記載等に鑑みても、甲1には、凸部と凹部についてはピッチの略半分の距離だけ位置がずれていることが記載されるのみであって、側面二番角などの螺旋の形態(条数)に関連する事項が何ら記載されておらず、そもそもエンドミル1の外周刃の円弧状の山部と谷部をネジ状(螺旋状)とすることについては記載がない上、「多条ネジ状」に形成することは記載も示唆もされていない。また、甲1の他の記載及び技術常識を考慮しても、甲1のエンドミル1において円弧状の山部と谷部を「多条ネジ状」に形成することが自明とはいえない。
そうすると、相違点1は実質的な相違点である。

(3)申立人の主張について
相違点1に係る本件発明1の構成について、申立人は、申立書において、本件発明1の構成Bではエンドミルの切れ刃が多条「ネジ状」に配設されていると限定していることについて、甲1の段落0009の「リード角」や段落0014の「ヘリカル状」はネジ状と同義であることを根拠とする旨を主張している。(申立書17ページ)
しかしながら、上記第4の1.(1)ウ及びエのとおり、甲1の[0009]及び[0014]には、エンドミル1の円弧状の山部(切れ刃部)と谷部(凹凸刃状エンドミルの切れ刃の凸部と凹部)がネジ状(螺旋状)に配置されることについて何ら記載されていない。すなわち、申立人が同義と主張する「リード角」や「ヘリカル状」は「溝(フルート)9」について示されたものであり、エンドミル1の円弧状の山部と谷部について示されたものではないから、申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成が甲1に記載されておらず、本件発明は、甲1発明とは実質的な相違点を有するから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明に対して新規性がないということはできない。
また、本件発明2、4は本件発明1を引用するものであって、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるところ、本件発明2、4と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点1を有するから、新規性がないということはできない。
なお、申立人は、申立書21ページの4(5)アにおいて本件発明1、2、4は甲1発明のみに基づき容易に想到し得たと、進歩性が否定される旨の主張もするが、上記のとおり相違点1は実質的な相違点であるところ、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1から容易に想到し得たとすることもできない。

2.本件発明1の甲1と甲2の組み合わせに基づく進歩性欠如(第3の2.(2)ア)について
(1)本件発明1と甲1発明との一致点、相違点
本件発明1と甲1発明(上記第4の1.(3))とは、上記1.(1)に示した、一致点で一致し、相違点1及び2で相違する。

(2)甲2に記載の技術的事項
甲2には、上記第4の3.(2)のとおり、「エンドミルの刃体の小切刃と凹部が、刃体の小切刃と凹部の展開図にすると、前記エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成されること」との技術的事項、すなわち、本件発明1の「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され」るとの構成(上記第2の構成B)に相当する技術的事項が記載されている。

(3)相違点1についての検討
甲1発明と甲2に記載の技術的事項との組み合わせ(甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用できるか)について検討する。
甲1発明は、エンドミルで、被加工材の表面にディンプルを形成する加工方法の発明である。
他方、甲2には、エンドミルで被加工材の表面にディンプルを形成することは記載されていない。加えて、甲2には、「厚板の側面を回転されたエンドミルで切削する。」(第4の3.(1)イの【0012】)と記載され、「切り残しを完全になくするものである。」(【0011】)及び「削り残しは全くない。」(【0012】)と記載されていることに鑑みると、厚板の側面の全面をエンドミルで削り残しなく切削する加工方法が記載されていると認められる。
よって、仮に、甲1発明に上記甲2に記載の技術的事項を組み合わせると、被加工材の表面全面を削り残しなく切削してしまうこととなり、ディンプルが形成できないため、本件発明1の構成D、Eと齟齬することから、甲1発明の技術的意義を損なうものであって、甲1発明と甲2に記載された技術事項とが、凹凸刃状エンドミルで被加工物を切削加工する点で共通するとしても、両者を組み合わせることは阻害事由があるというべきである。また、仮に両者を組み合わせることができたとしても、ディンプルを形成することができないものとなるから、本件発明1には至らないものである。
したがって、甲1発明と甲2に記載の技術的事項とを組み合わせて相違点1に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得るものではない。

(4)申立人の主張について
申立人は、申立書において、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は構成Bの点で一致するから、本件発明1は、甲1発明と甲2発明との組み合わせから当業者であれば容易に想到できる旨の主張をしている。
しかしながら、上記(2)及び(3)に説示したとおり、甲2に本件発明1の構成Bに相当する技術的事項が記載されているとしても、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を組み合わせることは阻害事由がある、又は、両者を組み合わせることができたとしても、相違点1に係る本件発明1の構成には至らないものであるから、該申立人の主張は採用できない。

(5)小括
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基いて容易になし得るものではない。

3.本件発明1の甲3に基づく進歩性欠如(第3の2.(2)イ)について
(1)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と、甲3発明(第4の2.(3))とを対比すると、甲3発明の「切れ刃16D1、D2及び凹部」は、第4の2.(2)アに鑑み、本件発明1の「切れ刃」に相当し、以下同様に、「エンドミル10D」は切れ刃16D1、D2(凸部)及び凹部を有するから「凹凸刃状エンドミル」に、「回転」は「その中心軸回りに回転」に、「アルミ製の」は「金属材料からなる」に、「被加工材」は「被加工物」に、「ディンプルを形成する」ことは「キサゲ加工を行う」ことに、「ディンプル加工方法」は回転切削工具を用いるから「切削加工方法」に、「切れ刃16D1、D2」は「切れ刃」の「凸部」(又は「凸部」)に、「凹部」は「切れ刃」の「凹部」(又は「凹部」)に、「ディンプル」は「窪み」に、「1回転」は「1回の回動のみ」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「前記エンドミル10Dの外周刃は、前記切れ刃16D1、D2と凹部で形成され」ることと、本件発明1の「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され」ることとは、「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃に凸部と凹部が形成され」る点では共通する。

したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルを、その中心軸回りに回転させ、金属材料からなる被加工物の表面に前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記被加工物の表面で相対的に連続的に移動させてキサゲ加工を行う切削加工方法であって、
前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃に凸部と凹部が形成され、
前記外周刃により切削される前記被加工物の表面の前記窪みの深さを設定し、
前記外周刃の切れ刃の凸部の回転のうちの、前記被加工物の表面を切削する1回の回動のみで、相対的に移動する前記被加工物の表面のうちの前記切れ刃の凸部が切削する箇所に、前記切れ刃の凸部に対応した複数列の窪みを同時に形成し、前記凹凸刃状エンドミルの回転時に、前記切れ刃の凸部が形成されていない部分が前記被加工物に対向する際は、前記被加工物の移動により前記窪みを形成せず、回転する前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃の複数の前記切れ刃により、前記被加工物の表面に部分的に、縦横に多数の窪みを一定の間隔を開けて複数列を同時に連続して形成し、
前記被加工物の表面に、所定形状の前記窪みを自動的に形成して前記キサゲ加工を行う切削加工方法。」

<相違点3>
切れ刃の凸部と凹部について、本件発明1は、「前記凹凸刃状エンドミルの前記切れ刃の凸部と凹部は、前記切れ刃の凸部と凹部の展開図にすると、前記凹凸刃状エンドミルの中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成され」ているのに対し、甲3発明では、エンドミル10Dの切れ刃16D1、D2と凹部が多条ネジ状に形成されているか不明な点。

<相違点4>
本件発明1は、「回転する前記外周刃とその刃数、前記被加工物の表面と前記外周刃の相対的な移動速度から、前記窪みの長さと面積を計算して設定し」ているのに対し、甲3発明は、ディンプルの長さと面積を計算して設定しているか不明な点。

(2)相違点3についての検討
相違点3に係る本件発明1の構成は、相違点1のそれと同じであるところ、上記1.(2)のとおり、甲1には、当該構成は記載されていない。したがって、甲3発明に甲1発明を適用しても、相違点3に係る本件発明1の構成には至らないから、本件発明1が、甲3発明及び甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、甲3発明に甲2に記載の技術的事項を適用することについて検討しても、甲3発明は、エンドミルで、被加工材の表面にディンプルを形成する加工方法の発明であるところ、上記2.(3)のとおり、甲2は厚板の側面の全面をエンドミルで削り残しなく切削する加工方法の発明と認められる。
よって、仮に、甲3発明に上記甲2に記載の技術的事項を組み合わせると、被加工材の表面全面を削り残しなく切削してしまうこととなり、ディンプルが形成できないため、本件発明1の構成D、Eと齟齬することから、甲3発明の技術的意義を損なうものであって、甲3発明と甲2に記載された技術事項とが、凹凸刃状エンドミルで被加工物を切削加工する点で共通するとしても、両者を組み合わせることは阻害事由があるというべきである。また、仮に両者を組み合わせることができたとしても、ディンプルを形成することができないものとなるから、本件発明1には至らないものである。
加えて、上記第4の2.(1)オ、コに記載のとおり、甲3発明のエンドミル10Dは、それぞれ周方向の2箇所でかつ軸心を挟んだ対向位置に2ずつの切れ刃16D1,16D2を有するものであり、そのような構成を有することにより、「微細で高密度のディンプル配列が可能」(第4の2.(1)イ[0006])となる課題を解決しているから、甲3発明のエンドミルの切れ刃(凸部)とそれらの間の凹部とを中心軸方向にネジ軸を有する多条ネジ状に形成する動機付けも見当たらない。
したがって、甲3発明と甲2に記載の技術的事項とを組み合わせて相違点3に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得るものではない。

(3)申立人の主張について
申立人は、本件発明1は、甲3発明と甲1発明の組み合わせ、又は、甲3発明と甲2発明の組み合わせから当業者が容易に想到できる旨を主張している。
しかしながら、上記(2)のとおり、相違点3に係る本件発明1の構成は甲1発明に記載されていないから、甲3発明と甲1発明の組合せでは相違点3に係る本件発明1の構成に至らないことが明らかであり、また、上記(2)のとおり、甲2に本件発明1の構成Bに相当する技術的事項が記載されているとしても、甲3発明に甲2に記載の技術的事項を組み合わせることは阻害事由がある、又は、両者を組み合わせることができたとしても、相違点3に係る本件発明1の構成には至らないものであるから、該申立人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって、相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明及び甲1に記載の技術的事項に基いて、又は甲3発明及び甲2に記載の技術的事項に基いて、容易になし得るものではない。

4.本件発明1の甲1又は甲3と甲4との組み合わせに基づく進歩性欠如(第3の2.(2)ウ)について
(1)甲4に記載の技術的事項
上記第4の4.(2)のとおり、甲4には、「外周部に突出した刃先をもつ非対称形状工具を回転しながら被加工面上で移動させてディンプルを形成する加工方法において、ディンプル断面形状は刃先先端曲率寸法と切込み量により決定され、面積率は送り速度と工具回転数の比によって決定されること」との技術的事項が記載されている。

(2)甲1と甲4、又は、甲3と甲4を組み合わせに基づき本件発明1とすることについて
甲1発明に上記甲4に記載の技術的事項を組み合わせて、相違点1に係る本件発明1とすること、又は甲3発明に上記甲4に記載の技術的事項を組み合わせて、相違点3に係る本件発明1とすることが容易になし得るか検討する。
甲4に記載の技術的事項は上記(1)のとおりであるところ、エンドミルの切れ刃の凸部と凹部を多条ネジ状に形成することについては記載も示唆もないから、甲1発明又は甲3発明に、上記甲4に記載の技術的事項を組み合わせても、相違点1又は相違点3に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得るものではない。
なお、甲4に加えて他の証拠(甲2)を考慮したとしても、相違点1又は3に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得るものでないことは、上記2.(5)及び3.(4)に示したとおりである。

(3)小括
したがって、相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項、又は甲3発明及び甲4に記載の技術的事項に基いて容易になし得るものではない。

5.本件発明2ないし4の進歩性欠如(第3の2.(3)ないし(5))について
申立人は、本件発明2ないし4について、進歩性を有しない旨の主張をしているが、本件発明2ないし4は、本件発明1を引用するものであるから、少なくとも、甲1発明とは相違点1で相違し、また、甲3発明とは相違点3で相違するものである。
そして、相違点1及び相違点3に係る本件発明1の構成とすることが当業者といえども容易でないことは、上記2.ないし4.で説示したとおりであり、このことは、本件発明2ないし4についても同様である。
したがって、本件発明2ないし4は、当業者といえども容易になし得るものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-06 
出願番号 特願2019-143609(P2019-143609)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B23C)
P 1 651・ 121- Y (B23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 信也  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 田々井 正吾
大山 健
登録日 2020-06-26 
登録番号 特許第6723623号(P6723623)
権利者 翁 登茂二
発明の名称 切削加工方法  
代理人 廣澤 勲  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ