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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04M
管理番号 1373805
異議申立番号 異議2021-700125  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-04 
確定日 2021-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6736102号発明「メッセージ通信装置及びメッセージ通信プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6736102号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6736102号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和元年5月16日に出願した特願2019-93072号(以下、「原出願」という。)の一部を令和元年7月29日に新たな特許出願としたものであって、令和2年7月17日に請求項1?11に係る発明について本件特許権の設定登録がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和3年2月4日に特許異議申立人 鈴木幸代(以下、単に「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る受取部であって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受取部と、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択する通信事業体装置選択部と、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部と、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部と、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部であって、送信が成功するか前記通信事業体装置と前記通信プロトコルとの組み合わせが無くなるまで、前記要求を繰り返す送信要求部と、
を有するメッセージ通信装置。
【請求項2】
前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部と、
前記判断部で送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御する記録制御部と、
を更に有し、
前記通信事業体装置選択部は、前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信事業体装置を優先して選択し、
かつ
前記通信プロトコル選択部は、前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信プロトコルを優先して選択する、
請求項1に記載のメッセージ通信装置。
【請求項3】
前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部と、
前記判断部で送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御する記録制御部と、
を更に有し、
前記通信事業体装置選択部は、前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信事業体装置を優先して選択する、
請求項1に記載のメッセージ通信装置。
【請求項4】
前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部と、
前記判断部で送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御する記録制御部と、
を更に有し、
前記通信プロトコル選択部は、前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信プロトコルを優先して選択する、
請求項1に記載のメッセージ通信装置。
【請求項5】
前記通信事業体装置選択部は、予め定められた前記通信事業体装置をより優先して選択する、
請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載のメッセージ通信装置。
【請求項6】
前記通信プロトコル選択部は、予め定められた前記通信プロトコルをより優先して選択する、
請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載のメッセージ通信装置。
【請求項7】
前記メッセージ出力部は、
前記顧客から受け取った前記1以上のメッセージに基づいて、選択された前記通信プロトコルに適合するメッセージを出力する、
請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載のメッセージ通信装置。
【請求項8】
前記メッセージ出力部は、
前記顧客から受け取った前記1以上のメッセージのいずれもが、選択された前記通信プロトコルに適合しない場合、前記1以上のメッセージを用いて、前記通信プロトコルに適合するメッセージを生成する、
請求項7に記載のメッセージ通信装置。
【請求項9】
顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取るステップであって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受け取るステップと、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択するステップと、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択するステップと、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するステップと、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求するステップであって、送信が成功するか前記通信事業体装置と前記通信プロトコルとの組み合わせが無くなるまで、前記要求を繰り返す送信を要求するステップと、
をコンピュータに実行させるメッセージ通信プログラム。
【請求項10】
顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る受取部であって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受取部と、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択する通信事業体装置選択部と、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部と、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部と、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部と、
前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部と、
前記判断部で送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御する記録制御部と、
を有し、
前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、前記通信事業体装置選択部は、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信事業体装置を優先して選択し、前記通信プロトコル選択部は、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信プロトコルを優先して選択する、
メッセージ通信装置。
【請求項11】
顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取るステップであって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受け取るステップと、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択するステップと、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択するステップと、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するステップと、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求するステップと、
前記送信が成功したか否かを判断するステップと、
前記判断するステップで送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御するステップと、
をコンピュータに実行させるメッセージ通信プログラムであって、
前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、前記通信事業体装置を選択するステップは、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信事業体装置を優先して選択し、前記通信プロトコルを選択するステップは、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信プロトコルを優先して選択する、
メッセージ通信プログラム。」

第3 申立理由及び証拠方法の概要
申立人は、以下の2に示す甲第1号証?甲第15号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲15」という。)を提出し、概略、以下の1のように主張する。

1 申立理由
(1)本件特許の請求項1、5、7及び9に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)と甲2に記載された技術(以下、「甲2技術」という。)と甲5?甲7に示される周知技術(以下、「周知技術1」という。)と甲11?甲13に示される周知技術(以下、「周知技術3」という。)に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書7及び31頁)。

(2)本件特許の請求項1及び5?9に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1発明及び甲3に記載された技術(以下、「甲3技術」という。)並びに周知技術1に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書7頁)。

(3)本件特許の請求項2?4、10及び11に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1発明と甲2技術又は甲3技術と甲4に記載された技術と周知技術1とに基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書7頁)。

(4)本件特許の請求項2?4、10及び11に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1発明と甲2技術又は甲3技術と周知技術1と甲8?甲10に示される周知技術とに基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書8頁)。

(5)特許異議申立書1?2頁には、「本件特許の請求項1は、原出願の請求項1とほぼ同内容である。原出願においては、SMSの送信が成功するまで複数のキャリアを順番に選択してメッセージを送信することを開示した引用文献(当審注:本件の甲1のことと思われる。)に対し、本件特許は「複数の通信プロトコル」を取り扱う技術であることを相違点として主張し、特許査定を得た。/しかしながら、本件特許出願前において、SMS以外のプロトコルは周知であり、広告宣伝を行うのにRCSやMMSのようなリッチなプロトコルを用いたメッセージを送信することは常套手段であった(甲11?甲13)。したがって、原出願の引用文献(当審注:本件の甲1及び甲5のことと思われる。)に記載された発明においても、SMS以外のプロトコルが用いられることは自明である。…(中略)…キャリアではない送信者にとっては、送信先の通信端末がSMS以外のプロトコルに対応しているかどうかは分からないのであるから、複数の通信プロトコルを順番に試していくという公知の方法(甲2)を採用するのは自然である。特に、原出願の審査で引用された引用文献2(甲1)では、キャリアについては順番に試すという方法を採用しているのであるから、プロトコルについても順番に試すという公知の方法を採用することが動機付けられる。」(「/」は改行を表す。)と記載されている。
上記記載は、原出願についての記述がほとんどであるが、本件についても同様のことが当てはまるとの趣旨であるとすると、要するに、申立人は次のように主張をしていると推察される。
本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1発明又は甲5に記載された発明(以下、「甲5発明」という。)と甲2技術と周知技術3とに基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである。

(6)特許異議申立書2頁には、「また、そもそも…(中略)…SMSフォールバックは、本件特許出願前から行われていた(甲14)。ここで「フォールバック」とは、相手方が通信方式に対応していない場合に他の通信方式に切り替える技術である(甲15)。/請求項は、送信が成功するまで、通信プロトコルを変えて送信すると規定しているだけなので、従来技術であるフォールバックの構成をも含んでいる。したがって、SMSでメッセージを送信する引用文献2(甲1)において、SMSでの送信がうまくいかないときに電子メールでの送信に切り替える構成(甲3)を採用すれば、本件特許の構成に容易に想到する。」(「/」は改行を表す。)と記載されている。
要するに、申立人は次のように主張をしていると推察される。
本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲5発明と甲3技術と甲14及び甲15に示されるフォールバック技術とに基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反しており、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきである。

(7)本件特許の請求項1?11に係る発明は、「電話番号に準ずるアドレス」との発明特定事項が明確ではないから、本件の特許請求の範囲は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、前記請求項に係る発明についての特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書8、40、41頁)。

2 証拠方法
甲1 特開2015-177346号公報
甲2 特表2005-533439号公報
甲3 特開2010-93354号公報
甲4 特開2007-272690号公報
甲5 特開2018-46530号公報
甲6 特表2014-505291号公報
甲7 特開2015-12368号公報
甲8 特開平11-127216号公報
甲9 特開2012-253658号公報
甲10 特開2005-129997号公報
甲11 特表2012-510111号公報
甲12 特表2011-527794号公報
甲13 特開2017-84374号公報
甲14 「CLXがSMSフォールバックを備える世界規模のA2PRCSメッセージングAPIを開始」
甲15 「フォールバック【fallback】 縮退運転/縮退運用」IT用語辞典e-Words

第4 明確性要件についての当審の判断
本件発明の解釈に関わるので、先に本件発明の明確性について判断する。

1 本件発明1は「前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり」との発明特定事項を含むが、「電話番号に準ずるアドレス」について特許請求の範囲にはそれ以上の定義や説明はない。

2 そこで、本件の明細書を参照すると、「電話番号に準ずるアドレスとは、以下のようなアドレスが挙げられる。例えば、携帯電話番号を管理する通信キャリアから電話番号に対応して付与されたメールアドレスがこの一例である。このメールアドレスは、電話番号に一意に対応して付与されたメールアドレスである。或いは、電話番号に準ずるアドレスとして、携帯電話番号に一意に紐づけられたSNSアカウントに付随するメッセージングシステムで用いられるアドレスが挙げられる。その他、電話番号に準ずるアドレスは、電話番号に準ずるような個人を識別する能力が高い通信アドレスであってもよい。」(【0003】)との記載がある。
前記記載によれば、「電話番号に準ずるアドレス」は、(i)携帯電話番号を管理する通信キャリアから電話番号に対応して付与されたメールアドレス、(ii)携帯電話番号に一意に紐づけられたSNSアカウントに付随するメッセージングシステムで用いられるアドレス、及び、(iii)電話番号に準ずるような個人を識別する能力が高い通信アドレス、の3種のアドレスを包含するアドレスであると解される。

3 前記(i)のメールアドレスは、典型的には、利用者が移動体通信事業者のサービスに加入した際に該事業者のドメイン名が付いたメールアドレスが前記利用者に付与されることにより使用可能となる電子メール(いわゆるキャリアメール)を想定したものであると解される。

4 前記(ii)のアドレスは、アカウント登録の際の本人確認に携帯電話番号を用いるようなSNS(例えば、LINE)でのメッセージングに用いられるアドレスを想定したものであると解される。

5 前記(iii)の「個人を識別する能力が高い」は、「通信相手を特定する能力などが高い」(【0005】)ことと同義であると認められる。そして、本件明細書が「通常のメールアドレス」(【0004】)との対比として「電話番号又は電話番号に準ずるアドレス」(【0005】)を記述していることをも鑑みると、本件明細書において「通常のメールアドレス」は個人を識別する能力において、「電話番号に準ずるアドレス」と区別されていると解される。すなわち、前記(iii)の意味の「電話番号に準ずるアドレス」は、少なくとも「通常のメールアドレス」は含まず、「通常のメールアドレス」よりも個人を識別する能力が高いアドレスを指すといえる。
また、「個人を識別する能力が高い」というのは、前記(i)及び(ii)のアドレスについても該当することを考慮すると、サービスへの加入の際に電話番号を取得する程度に加入者の本人確認が行われてアドレスが割り当てられることを指すものと解される。
以上によれば、前記(iii)のアドレスは、サービスへの加入の際に電話番号を取得する程度に加入者の本人確認が行われる前記サービスの通信用のアドレスであって、前記(i)及び(ii)に該当しないものであると解される。

6 以上2?5によれば、本件明細書における「電話番号に準ずるアドレス」の語義は明確であり、特許請求の範囲の記載が前記語義と反することもないから、本件の請求項1の「電話番号に準ずるアドレス」は明確であり、本件発明1は明確である。
本件発明2?11についても同様である。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たす。

第5 進歩性についての当審の判断
1 甲号証の記載内容
(1)甲1の記載内容
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審にて付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、顧客の携帯電話に対して電話回線を利用して送信される電子メールを利用した広告宣伝システム及び方法、並びにコンピュータをそのような装置として機能させるコンピュータプログラムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的に、電子メール或いはeメールを広告宣伝に利用するシステムとしては、先ず、顧客からeメールアドレス等を、紙やブラウザ上のアンケート等により取得し、その後、該取得されたeメールアドレスに向けて、サーバ装置やパソコンから営業メールを送信するものが周知である。
【0003】
近年では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)経由で、顧客の繋がり、属性等を勘案した上で、広告宣伝を行うように構築されたものも各種提案されている(特許文献1?5参照)。」

イ 「【0009】
以上の結果、eメールを利用したマーケティング戦略は各種存在或いは提案されているものの、SMSメールを利用した効率的なマーケティング戦略は、実用化或いは実践化されておらず、有効と思われる提案も何等なされていない。他方で、SNS経由で広告宣伝を行おうとすれば、顧客による特定SNSへの参加が絶対的な条件となり、やはり効率的なマーケッティングへ繋げるには困難が伴うという技術的問題点がる。
【0010】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みなされたものであり、顧客に関する情報を極めて効率的にマーケッティングに利用することを可能ならしめる、SMSメールを利用した広告宣伝システム及び方法、並びにコンピュータをそのようなシステムとして機能させるコンピュータプログラムを提供することを課題とする。」

ウ 「【0048】
本発明では、例えば我が国大手電信電話サービス会社により提供されている「SMSメール」、又は「cメール」若しくは「ショートメール」を総称して、「SMSメール」と呼ぶ。即ち、本発明に係るSMSメールとは、広義の意味である。電話番号をアドレスとして電信電話回線を介して送受信される文字によるメッセージメールを意味し、特に(インターネット経由のeメールと異なり)少なくとも一送信につき或いは一通につき課金される或いは送信メール数に応じて従量制で課金される電子メールのことを意味するといってもよい。本発明に係るSMSメールは、その課金体系により、スパムメールが事実上或いは実戦上、極めて有効に阻止されるように構築されている。」

エ 「【0060】
本実施形態の広告宣伝システムによれば、以上のようにして登録された顧客に関する属性或いは属性情報を、発信者番号毎に、即ち、概ねその携帯電話の所有者である顧客毎に登録できるので、その後に、営業用或いはマーケティング用のSMSメールを、顧客の属性に応じて無駄なく或いは効率的に発信することが可能となる。この際、SMSメールが一通毎に有料であるが故に無造作に発信できないという技術的制約下であっても、営業として十分に成立させるSMSメールの発信を行うことも可能となる。」

オ 「【0076】
なお、このような設定手段による広告宣伝情報の設定は、例えば、広告宣伝を希望する店舗から依頼を受けた当該システムの運営管理者が、広告宣伝料を徴収した上で行われる。但し、無料であっても構わない。或いは、そのように徴収された広告宣伝料の一部や全部が、一の店舗の側に直接又は間接に支払われるように構成されてもよい。」

カ 「【0092】
このような営業情報若しくは広告宣伝情報の提供を行うに「相応しい所望属性」とは、ある店舗の営業情報や広告宣伝情報を顧客に提供する際に、顧客に係る、店舗から発行されたポイント情報や誕生日、活動地域、趣向等の属性からして、営業上有効である(例えば、該顧客の属性からして該顧客が興味を持つ、来店する等の可能性が高いと推測される)場合となるような、該顧客の属性を意味する。」

キ 「【0176】
図1において、広告宣伝システム10は、提示部100及びサーバ装置200を備える。電話回線300には、サーバ装置200及び多数の携帯電話500が収容されている。
【0177】
図1及び図2に示すように、提示部100は、本発明に係る「提示手段」の一例を構成しており、個々の店舗に固有に割り振られた電話番号である店舗対応番号を顧客に提示するように構成されている。提示部100は、広告宣伝システム10の運営管理者と契約を夫々結んだ複数の店舗に配備される。」

ク 「【0185】
図1において、サーバ装置200は、全体として大型コンピュータ、中型コンピュータ、小型コンピュータ若しくはパソコンを含んで構成されており、モデム部210、入力部215、コントローラ部220及びデータベース部230を備えて構成される。」

ケ 「【0189】
コントローラ部220は、番号取得部221、推測部222、抽出部223、制御部224及び設定部225を備えて構成されている。」

コ 「【0196】
制御部224は、本発明に係る「制御手段」の一例を構成しており、現存する複数のキャリアのうち所定基準に従っての序列で定まる一つのキャリアを先ずは利用して、顧客に向けてSMSメールの発信を試みるように、モデム部210を制御するように構成されている(後述の図4参照)。」

サ 「【0201】
次に、図3から図7を参照して、以上のように構成された広告宣伝システムの動作を、その詳細構成と共に説明する。ここに、図3は顧客データを登録する際における動作の一例を示し、図4はそのうち発信時におけるキャリア特定動作の一例を示す。図5は顧客データを登録する際に顧客が受けるSMSメールの受信画面の一例を示し、図6は顧客が受けたSMSメールから顧客がURLにアクセスした際に表示されるブラウザ画面の一例を示す。図7は、顧客データを登録することでデータベース部230内に構築されるデータ構造の一例を示している。
【0202】
図3において、提示部100で提示されている店舗対応番号に対して電話の着信があるか否かがモデム部210にて、コントローラ部220の制御下でモニタリングされる(ステップS11)。即ち、当該店舗に来店した顧客が、提示部100による提示に促されて、その携帯電話によって、提示された店舗対応番号に電話発信を実行するか否かが監視される。
【0203】
ここで着信があると(ステップS11:Yes)、番号取得部221によって、この顧客の携帯電話の番号が発信者番号として取得され、これと共に店舗対応番号が一の着信番号として取得される(ステップS12)。
【0204】
続いて、推測部222によって、この店舗対応番号が割り振られた店舗の属性(例えば、店舗の所在地、業種等)に基づいて、この顧客の属性が推測される(ステップS13)
。例えば、顧客の活動地域、趣向等の属性が推測される。
【0205】
続いて、データベース部230には、取得された発信者番号(即ち顧客識別情報)に対応付けられる形で、推測された属性が登録される(ステップS14)。この時点で、例えば図7に示した属性データ1000のうち、発信者番号(顧客ID)データ1001の一つ(例えば「090-2344-3393」なる内容の発信者番号データ1101)、並びに、この顧客に対応する、店舗対応番号データ1002の一つ(例えば「050-3355-1234」なる内容の店舗対応番号データA)、活動地域データ1003の一つ(例えば「東京南部」なる内容の地域データA)、及び嗜好趣味データ1007の一つ(例えば「イタリアン」なる内容の嗜好趣味データA)が構築される。即ち、顧客が自らの携帯電話500から無言の電話をし、これがモデム部210で着信されれば、これらの属性データが得られ、データベース部230中に整然と登録される。なお、図7に示した属性データ1000中で、“N/B”は、Not Availableの意、即ちデータが存在していない意である。また、図7では、二つの発信者番号データ1101及び1102、即ち二人分の顧客についての具体的な属性データが例示されている。
【0206】
続いて、ステップS12で取得された発信者番号に対して、( i)顧客に係る所定種類の属性(例えば氏名、性別、生年月日)を入力するためのブラウザ画面を提供するURLと( ii)店舗に関連すると共にURLへアクセスしてURL上で入力することを促す旨のメッセージとを含む一のSMSメールが、モデム部210から発信される(ステップS15)。
【0207】
このステップS15のSMSメールの発信動作は、より具体的には図4を参照して次に説明する如くに行われる。
【0208】
即ち図4に示すように、先ず、制御部224による制御下で、先に番号取得部221により取得された発信者番号の並びにおける携帯電話のキャリア番号として予め割り当てられた部分に対応するキャリアを利用して、このキャリアに応じたSMSメールの電話回線300を介しての発信が、モデム部210により試みられる(ステップS161)。例えば、発信者番号が「0×0-YYYY-ZZZZ」なる11桁であれば、中央の「YYYY」なる4桁が、総務省から電話回線300を運営する電信電話サービス会社に対して割り当てられたキャリア番号である。
【0209】
これに呼応して、電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されなければ(S162:No)、ステップS161で利用したキャリアが正しいキャリアであったことになる。よって、図4における、それ以降の各種ステップは不要となり、図4の発信工程を終えて、図3のステップS16へと処理は移行される。
【0210】
他方、ステップS161の発信に呼応して、電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されると(S162:Yes)、ステップS161で利用したキャリアが誤ったキャリアであったことになる。よってこの場合には、続いて、存在する複数m(但しmは二以上の自然数)社のキャリアのうち、携帯電話市場におけるシェア又は加入者数が第i(但し、iは1以上m以下の自然数)番目のキャリアを利用して、i=1から昇順に、SMSメールの発信がモデム部210により試みられる(ステップS163)。存在する複数mは、現状であれば、我が国で周知の4つ(4社)であり、シェア又は加入者数が第1位の会社のキャリアに応じて、ここでのSMSメールの発信が開始される。
【0211】
これに呼応して、電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されなければ(S164:No)、ステップS163で今回利用したキャリア
が正しいキャリアであったことになる。この場合には既に、SMSメールは、エラーなく送信済となっている次第である。よって、図4における、それ以降の各種ステップは不要となり、図4の発信工程を終えて、図3のステップS16へと処理は移行される。
【0212】
他方、ステップS163の発信に呼応して、電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されると(S163:Yes)、ステップS163で今回利用したキャリアが誤ったキャリアであったことになる。よってこの場合には、“i”を一つインクリメントして(ステップS165)、ステップS163へ戻って、SMSメールの発信が再度試みられる。
【0213】
このようなステップS163からS165に係るSMSメールの発信の試みが、送信エラーメッセージが返信されなくなるまで繰り返して行われ(S163:Yes)、何れかのキャリアに応じて或いは最終的には、送信エラーメッセージが返信されなくなり(S164:No)、即ち、最終的には、SMSメールは、送信済となる。よって、図4の発信工程を終えて、図3のステップS16へと処理は移行される。
【0214】
これらの結果、正しいキャリアを利用してSMSメールを送信可能とするまでにかかる送信コストを、極めて高率的に抑制できる。
【0215】
再び図3において、ステップS15におけるSMSメールの送信が正規に完了した後、送信エラーメッセージが返信されなかった際に利用されたキャリアが、当該顧客の携帯電話500が利用しているキャリアであるので、これがデータベース部230へ登録される(ステップS16)。具体的には、例えば図7に示したように、顧客の属性データ1000の一部である、「A社」なる内容の利用キャリアデータ1009が構築され、データベース部230に登録される。」

シ 「【0219】
図6に示すように、図5で示したURLへのアクセスが行われると(例えば、このURL上でのクリック動作が行われると)、顧客に係る所定種類の属性として、氏名を入力するための欄601、性別を入力するための欄602、誕生日を年、月及び日別に入力するための欄603、604及び605、並びに、入力された属性データを送信するための送信コマンドボタン606が、携帯電話500の画面501b上に表示される。よって、会員申込みという積極的な意思の下、顧客による自らの携帯電話500の操作によって、これらの属性データが入力され、サーバ装置200(図1参照)へと送信することになる。
【0220】
ここでは、入力に際して「会員申込用紙に記入していただきます」なる旨が、顧客に明示に又は暗黙に伝われば、その伝達の仕方については店舗側或いはサーバ装置200側の都合や所望により決めればよい。
【0221】
再び図3において、図4及び図5で示した如く携帯電話500側で顧客の操作による属性データの入力があるか否かが、サーバ装置200の側でモニタリングされる(ステップS17)。
【0222】
ここで、顧客による属性データの入力があると(ステップS17:Yes)、入力された属性データが、先に推測された属性データ(ステップS13参照)に加えて、この顧客に係る属性として、データベース部230に登録される(S18)。具体的には、例えば図7に示したように、顧客の属性データ1000の一部として、氏名、性別及び生年月日に夫々係る属性データ1004、1005及び1006が構築され、データベース部230に登録される。
【0223】
以上により、広告宣伝システム10における、顧客の新規登録に係る一連の処理が完了する。」

ス 「【0233】
次に、図10から図12を参照して、以上のように構成された広告宣伝システムの動作を、その詳細構成と共に説明する。ここに、図10は登録後における広告宣伝用のSMSメールの送信動作の一例を示し、図11は広告宣伝用のSMSメールの受信画面の一例を示し、図12は広告宣伝用のSMSメールから顧客がURLにアクセスした際に表示される画面の一例を示す。
【0234】
図10において、一の店舗又は他の店舗に係る所定種類の営業情報若しくは広告宣伝情報の種類が特定される(ステップS21)。ここでの特定は、入力部215を介して直接入力により或いは回線を介しての間接入力により、広告宣伝用のメッセージの送信を、SMSメールにより行うことを希望する店舗により、所望種類のメッセージとして指定されてもよい。或いは、設定部225によって、SMSメールの発信を希望する店舗の属性に基づいて、このような所定種類のメッセージが特定されてもよい。更には、このような所定種類のメッセージの候補が特定され、これらの中から入力部215を介して店舗側で選定するのでもよい。」

セ 「【0237】
続いて、このように特定された種類のメッセージの提供を行うに相応しい所望属性に一致する属性に対応付けられた発信者番号が、抽出部223によって、データベース部230から抽出される(ステップS22)。ここでのメッセージの提供を行うに相応しい所望属性は、入力部215を介して直接入力により或いは回線を介しての間接入力により、SMSメールの送信を希望する店舗により、希望の属性として指定されてもよい。或いは、設定部225によって、SMSメールの発信を希望する店舗の属性に基づいて、このような所望属性が特定されてもよい。更には、このような所望属性の候補が特定され、これらの中から入力部215を介して店舗側で選定するのでもよい。
【0238】
続いて、抽出された発信者番号へ向けて、前述の所定種類の営業情報若しくは広告宣伝情報を含むSMSメールが、モデム部210によって発信される(ステップS23)。このSMSメールを発信する工程では、図4で説明したように、キャリアを特定しながらの
発信(図3中のステップS15)を試みてもよい。好ましくは、ステップS16で既にデータベース部230に登録された顧客の発信者番号に対応する「利用キャリアの属性データ(例えば図7の利用キャリアデータ1009」」を、最先に発信を試みるべきキャリアとして発信を試みるのがよい。即ち、顧客が電信電話サービス会社を変更していなければ、顧客の属性の一部として先に登録されたキャリアは、そのまま有効である可能性が非常に高い。
【0239】
図11に示すように、ステップS23で発信されるSMSメールは、例えば、URLと、一の店舗に関連すると共に該URLへアクセスすることを直接若しくは暗黙に促す旨のメッセージ(即ち「レストラントリノ会員申込み」なる文言)とを含むメールとして、携帯電話500の画面501c上に表示される。ここでは、URLについて「初めてのお知らせです」なる旨が、顧客に明示に又は暗黙に伝われば、その伝達の仕方については店舗側或いはサーバ装置200側の都合や所望により決めればよい。」

ソ 甲1発明の認定
前記ア?セによれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明を分説し、分説した構成毎に1a?1lの記号を付した。

「1a 顧客の携帯電話に対して電話回線を利用して送信される電子メールを利用した広告宣伝システムであって(【0001】)、
1b 広告宣伝情報の設定は、広告宣伝を希望する店舗から依頼を受けた当該システムの運営管理者が、広告宣伝料を徴収した上で行われ(【0076】)、
1c 広告宣伝システム10は、提示部100及びサーバ装置200を備え(【0176】)、
1d サーバ装置200は、モデム部210、入力部215、コントローラ部220及びデータベース部230を備え(【0185】)、
1e コントローラ部220は、番号取得部221、推測部222、抽出部223、制御部224及び設定部225を備え(【0189】)、
1f 提示部100は、個々の店舗に固有に割り振られた電話番号である店舗対応番号を顧客に提示し(【0177】)、
1g 提示部100は、広告宣伝システム10の運営管理者と契約を夫々結んだ複数の店舗に配備され(【0177】)、
1h 制御部224は、複数のキャリアのうち所定基準に従っての序列で定まる一つのキャリアを先ずは利用して、顧客に向けてSMSメールの発信を試みるように、モデム部210を制御するように構成されており(【0196】)、
1i 顧客データを登録する際における動作は(【0201】)、
1i1 店舗対応番号に対して電話の着信があるか否かがモデム部210にてモニタリングされ、即ち、当該店舗に来店した顧客が、提示部100による提示に促されて、その携帯電話によって、店舗対応番号に電話発信を実行するか否かが監視され(【0202】)、
1i2 着信があると、番号取得部221によって、この顧客の携帯電話の番号が発信者番号として取得され、これと共に店舗対応番号が一の着信番号として取得され(【0203】)、
1i3 続いて、推測部222によって、店舗の属性に基づいて、この顧客の属性が推測され(【0204】)、
1i4 続いて、データベース部230には、取得された発信者番号(即ち顧客識別情報)に対応付けられる形で、推測された属性が登録され(【0205】)、
1i5 続いて、取得された発信者番号に対して、顧客に係る属性を入力するためのブラウザ画面を提供するURLと、URL上で入力することを促す旨のメッセージとを含む一のSMSメールが、モデム部210から発信され(ステップS15)(【0206】)、ステップS15のSMSメールの発信動作は(【0207】)、
1i5a 先ず、発信者番号の並びにおける携帯電話のキャリア番号として予め割り当てられた部分に対応するキャリアを利用して、このキャリアに応じたSMSメールの電話回線300を介しての発信が、モデム部210により試みられ(【0208】)、
1i5b 電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されると、複数社のキャリアのうち第i番目のキャリアを利用して、i=1から昇順に、SMSメールの発信がモデム部210により試みられ(ステップS163)(【0210】)、
1i5c 電話回線300のキャリアから、送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されると、“i”を一つインクリメントして(ステップS165)、ステップS163へ戻って、SMSメールの発信が再度試みられ(【0212】)、
1i5d ステップS163からS165に係るSMSメールの発信の試みが、送信エラーメッセージが返信されなくなるまで繰り返して行われ、最終的には、SMSメールは、送信済となり(【0213】)、
1i6 ステップS15におけるSMSメールの送信が正規に完了した後、送信エラーメッセージが返信されなかった際に利用されたキャリアがデータベース部230へ登録され(【0215】)、
1i7 URLへのアクセスが行われると、顧客による自らの携帯電話500の操作によって、属性データが入力され、サーバ装置200へと送信し(【0219】)、
1i8 顧客による属性データの入力があると、入力された属性データが、先に推測された属性データに加えて、この顧客に係る属性として、データベース部230に登録される(【0222】)ことを含み、
1j 登録後における広告宣伝用のSMSメールの送信動作は(【0233】)、
1j1 一の店舗又は他の店舗に係る所定種類の広告宣伝情報の種類が特定され、ここでの特定は、広告宣伝用のメッセージの送信を、SMSメールにより行うことを希望する店舗により、所望種類のメッセージとして指定され(【0234】)、
1j2 続いて、このように特定された種類のメッセージの提供を行うに相応しい所望属性に一致する属性に対応付けられた発信者番号が、抽出部223によって、データベース部230から抽出され(【0237】)、
1j3 続いて、抽出された発信者番号へ向けて、前述の所定種類の営業情報若しくは広告宣伝情報を含むSMSメールが、モデム部210によって発信され(ステップS23)(【0238】)、
1j4 このSMSメールを発信する工程では、キャリアを特定しながらの発信(ステップS15)を試み(【0238】)、
1j5 好ましくは、既にデータベース部230に登録された顧客の発信者番号に対応する「利用キャリアの属性データ」を、最先に発信を試みるべきキャリアとして発信を試み(【0238】)、
1j6 ステップS23で発信されるSMSメールは、例えば、URLと、一の店舗に関連すると共に該URLへアクセスすることを直接若しくは暗黙に促す旨のメッセージ(即ち「レストラントリノ会員申込み」なる文言)とを含むメールとする(【0239】)ことからなり、
1k SMSメールとは、電話番号をアドレスとして電信電話回線を介して送受信される文字によるメッセージメールを意味する(【0048】)、
1l 顧客の携帯電話に対して電話回線を利用して送信される電子メールを利用した広告宣伝システム。」

(2)甲5の記載内容
甲5には、以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審にて付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、SMS(ショートメッセージサービス)を利用して、携帯電話端末との間で情報のやりとりを行うSMS配信装置及びSMS配信方法、特にキャリア判定の精度の高いSMS配信装置及びSMS配信方法に関する。」

イ 「【0006】
しかしながら、MNP(モバイルナンバーポータビリティ)が行われるようになって、携帯電話端末の電話番号を維持したまま、当該電話番号に対応づけられるキャリアが変更されることがある。上述した総務省払出番号表はその更新頻度が数十日程度でありMNPの情報が反映されるまでに長いタイムラグが生じていた。また、独自に作成するキャリアDBにもタイムラグが生じ、このタイムラグを短くするためには更新間隔を非常に短くする必要があり、更新負荷が高くなり実現が困難であった。このようなことから、MNPによりキャリアが最近変更された携帯電話端末には企業等のサーバからSMS配信をすることができないことがあった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、確実にSMS配信できるSMS配信装置及びSMS配信方法を提供することを目的とする。
なお、本明細書において、「キャリア」は携帯電話サービスを提供するNTTドコモやKDDI等の通信事業者を意味する。」

ウ 「【0017】
顧客システム1は、コンピュータであって、双方向SMS配信装置2に、SMS送信リクエスト10を送り、その結果であるSMS受信レスポンス11を受け取るものである。SMS送信リクエスト10には「問い合わせ内容」と「問い合わせを行うユーザ」が含まれる。ここで、「問い合わせ内容」は、例えば安否確認であり、「問い合わせを行うユーザ」は予め登録されている3000人のユーザから選ばれたユーザ名のリストである。なお、ユーザ名に代えてユーザの携帯電話端末7の電話番号としてもよい。また、SMS受信レスポンス11は、例えば問い合わせを行ったユーザ毎の安否情報である。
【0018】
双方向SMS配信装置2は、ユーザの携帯電話端末7にSMSにより問い合わせた結果を顧客にレスポンスするサーバであり、送信キュー登録部20、送信DB28、送信装置29、ISDNルータ31、受信装置50、受信DB52から主に構成されている。なお、ISDNルータ31は双方向SMS配信装置2の外部にあってもよい。
【0019】
送信キュー登録部20は、リクエスト受付部21、受付キュー登録部22、受付DB23、受付キュー取得部24、キュー登録部27、第2キャリア判定部30から主に構成され、受け付けたSMS送信リクエスト10から携帯電話端末7にSMS送信する送信キューを作成し、送信DB28に登録する。
【0020】
詳細には、リクエスト受付部21はSMS送信リクエスト10を受け付けると、受付キュー登録部22は問い合わせに含まれる「ユーザ名」を基に図示しない「ユーザ-電話番号リスト」を参照し、ユーザに対応する問い合わせをする携帯電話端末7の電話番号を取得し、電話番号毎に「問い合わせ内容」を基に「コンテンツ」を作成し、受付キューとして受付DB23に登録させる。
【0021】
受付キュー取得部24は受付DB23から電話番号毎に受付キューを取得する。第2キャリア判定部30は受付キューに含まれる電話番号を用いて携帯電話端末7のキャリアを後述するようにして判定する。キュー登録部27は判定されたキャリアの情報を含む送信キューを送信DB28に登録する。送信装置29は送信キューを基に携帯電話端末7の電話番号毎に、キャリア(キャリア直収I/F)にあったプロトコルで送信データ13を作成しSMS送信する。なお、送信データ13を作成する際には、送信データ13のセンダIDとして双方向SMS配信装置2に割り当てられたキャリアの予め登録されている電話番号を設定する。
【0022】
次にキャリア判定(リアルタイム)について説明する。
第2キャリア判定部30は、受付キューから問い合わせをする携帯電話端末7の電話番号を抽出し、電話番号を含むATコマンド34「ATDXXXXXXXXXX」(なお、「XXXXXXXXXX」は電話番号である。)を送り、ISDNルータ31、ISDN回線33のDチャネルを利用してNTT交換局32に問い合わせる。その後、第2キャリア判定部30はAT#CコマンドをNTT交換局32に送り、回線を切断する。なお、通信の前段で回線断を発生させることにより、ISDN回線33のトラフィックが増大することを抑制できる。
【0023】
第2キャリア判定部30は、ATコマンド34に対する応答として、NTT交換局32からキャリアレスポンス35を得る。キャリアレスポンス35は、CAUSE(=#の後に切断理由コードを表示)、SOURCE(=の後に生成源を表示)、CHARGGE(¥の後に通信料金を表示)から構成されており、CAUSEの#の後の切断理由コードを解析することでキャリアを判断することができる。例えば、切断理由コードが088であればキャリアはNTT東日本(固
定電話)である。同様に003はAU、065はソフトバンク、069はNTTドコモ、127はY!mobileである。」

エ 「【0025】
送信データ13を受け取った携帯電話端末7の表示部には、送信元の電話番号とともに、問い合わせ内容が表示される。ここで、表示される送信元の電話番号は双方向SMS配信装置2に割り当てられた電話番号である。携帯電話端末7のユーザは、表示部に表示された問い合わせ内容に応じた回答(例えば、安否確認の問い合わせに応じて、安全である旨の回答)操作をした後、表示部に表示された電話番号宛に返信操作を行う。この返信操作により、携帯電話端末7は、回答内容を含むデータを返信データ14としてSMS返信する。」

オ 「【0027】
このように、第2キャリア判定部30は、MNPの情報が随時更新されるNTT交換局32に問い合わせているため、キャリアをリアルタイムで判定できる。したがって、MNPにより最近キャリアが変更された携帯電話端末7のキャリアを認識することが可能であり、当該携帯電話端末7にも確実にSMS配信をすることができる。」

カ 「【0030】
受付キュー取得部24は受付DB23から電話番号毎に受付キューを取得する。
第1キャリア判定部25は受付キューに含まれる電話番号を用いて携帯電話端末7のキャリアを判定する(S1)。具体的には、受付キュー取得部24は、「電話番号-キャリア対応テーブル」を有するキャリアDB26にアクセスし、当該電話番号に対応するキャリア情報を取得する。なお、顧客システム1からSMS送信リクエストを行う携帯電話端末7が予め決められている固定の場合には、「電話番号-キャリア対応テーブル」を予め用意しておくことができる。また、顧客システム1からSMS送信リクエストを行う携帯電話端末7が予め決まっておらず可変の場合には、総務省払出番号表を保持する総務省サーバにアクセスして全ての携帯電話端末7について「電話番号-キャリア対応テーブル」を予め用意しておくことができる。」
(当審注:図2によれば、【0030】における「キャリアDB26にアクセス」する「受付キュー取得部24」は、「第1キャリア判定部25」の誤記と認められる。)

キ「【0031】
送信装置29は実施例1と同様に送信データ13を作成し、S1により判定されたキャリアに、送信データ13をSMS送信する(S2)。
次に、送信データ13が携帯電話端末7に正常に送信できたか否かを判定し(S3)、受信装置50が返信データ14をSMS受信すれば、上記送信データ13は携帯電話端末7に正常に送信できたとして次の送信キューのキャリア判定を行う。
なお、S3において、送信キュー毎に送信データ13の正常送信を判断する例について説明しているが、これに限らず複数の送信キューを単位として送信データ13の正常送信を判断するものであってもよく、例えば全ての送信キューに対応する送信データ13を送信した後に、送信データ13の正常送信の判断を行うようにしてもよい(この場合にはS3における「Y」の経路は不要となる。)。
【0032】
一方、送信データ13を携帯電話端末7にSMS送信できない旨のエラー信号40をキャリアから受信する等、受信装置50が返信データ14をSMS受信しない場合には、第2キャリア判定部30によりキャリア判定を行う。なお、第2キャリア判定部30の構成は実施例1と同様である。
【0033】
送信装置29は実施例1と同様に送信データ15を作成し、S4により判定されたキャリアに、送信データ15をSMS送信する(S5)。
次に、送信データ15が携帯電話端末7に正常に送信できたか否かを判定し(S6)、受信装置50が返信データ16をSMS受信すれば、上記送信データ15は携帯電話端末7に正常に送信できたとして次の送信キューのキャリア判定を行う。
なお、S6においても、上述したS3と同様に、複数の送信キュー毎に送信データ15を正常送信できたか否かを判断するものであってもよい。
【0034】
一方、送信データ15を携帯電話端末7にSMS送信できない旨のエラー信号41をキャリアから受信する等、受信装置50が返信データ16をSMS受信しない場合には、番号不備等のエラー(S7)であるとし、この場合にも送信キュー登録部20は番号不備レスポンス12を顧客システム1に送る。」

ク 図2

図2によれば、送信キュー登録部20は、第1キャリア判定部25を備える。

ケ 甲5発明の認定
前記ア?クによれば、甲5には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、甲5発明を分説し、分説した構成毎に5a?5tの記号を付した。

「5a SMS(ショートメッセージサービス)を利用して、携帯電話端末との間で情報のやりとりを行うSMS配信装置であって(【0001】)、
5b 双方向SMS配信装置2は、送信キュー登録部20、送信DB28、送信装置29、ISDNルータ31、受信装置50、受信DB52から主に構成され(【0018】)、
5c 送信キュー登録部20は、リクエスト受付部21、受付キュー登録部22、受付DB23、受付キュー取得部24、キュー登録部27、第2キャリア判定部30から主に構成され(【0019】)、
5d 送信キュー登録部20は、第1キャリア判定部25を備え(前記ク)、
5e 顧客システム1は、コンピュータであって、双方向SMS配信装置2に、SMS送信リクエスト10を送り(【0017】)、
5f SMS送信リクエスト10には「問い合わせ内容」と「問い合わせを行うユーザ」が含まれ(【0017】)。
5g 「問い合わせを行うユーザ」は予め登録されている3000人のユーザから選ばれたユーザ名のリストであるが、ユーザ名に代えてユーザの携帯電話端末7の電話番号としてもよく(【0017】)、
5h リクエスト受付部21はSMS送信リクエスト10を受け付けると、受付キュー登録部22は、電話番号毎に「問い合わせ内容」を基に「コンテンツ」を作成し、受付キューとして受付DB23に登録させ(【0020】)、
5i 受付キュー取得部24は受付DB23から電話番号毎に受付キューを取得し(【0021】、【0030】)、
5j 第1キャリア判定部25は、キャリアDB26にアクセスし、当該電話番号に対応するキャリア情報を取得し(【0030】)、
5k 送信装置29は送信データ13を作成し、判定されたキャリアに、送信データ13をSMS送信し(【0031】)、
5l 送信データ13が携帯電話端末7に正常に送信できたか否かを判定し、受信装置50が返信データ14をSMS受信すれば、上記送信データ13は携帯電話端末7に正常に送信できたとして次の送信キューのキャリア判定を行い(【0031】)、
5m 送信データ13を携帯電話端末7にSMS送信できない旨のエラー信号40をキャリアから受信する場合には、第2キャリア判定部30によりキャリア判定を行い(【0032】)、
5n 第2キャリア判定部30は、受付キューから携帯電話端末7の電話番号を抽出し、電話番号を含むATコマンド34を送り、NTT交換局32に問い合わせ(【0022】)、
5o 第2キャリア判定部30は、NTT交換局32からキャリアレスポンス35を得る。キャリアレスポンス35は、CAUSE(=#の後に切断理由コードを表示)、SOURCE、CHARGGEから構成されており、切断理由コードを解析することでキャリアを判断することができ、切断理由コードが088であればキャリアはNTT東日本であり、003はAU、065はソフトバンク、069はNTTドコモ、127はY!mobileであり(【0023】)、
5p キュー登録部27は判定されたキャリアの情報を含む送信キューを送信DB28に登録し(【0021】)、
5q 送信装置29は送信キューを基に電話番号毎に、キャリア(キャリア直収I/F)にあったプロトコルで送信データ13を作成しSMS送信し(【0021】)、
5r 送信データ15が携帯電話端末7に正常に送信できたか否かを判定し、受信装置50が返信データ16をSMS受信すれば、上記送信データ15は携帯電話端末7に正常に送信できたとして次の送信キューのキャリア判定を行い(【0033】)、
5s 送信データ15を携帯電話端末7にSMS送信できない旨のエラー信号41をキャリアから受信する場合には、番号不備レスポンス12を顧客システム1に送り(【0034】)、
5t 送信データ13を受け取った携帯電話端末7の表示部には、送信元の電話番号とともに、問い合わせ内容が表示される(【0025】)
SMS配信装置。」

(3)甲8の記載内容
甲8には、以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審にて付した。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ISDN通信端末を収容するISDN網及びこの装置に収容するISDN通信端末との間のプロトコルを変換して回線接続を行うISDNプロトコル変換装置に関する。」

イ 「【0058】この他のプロトコル属性情報での再発呼を繰り返し、特定のプロトコル属性情報で回線接続に成功したら、この回線接続の成功時におけるISDN通信端末60の電話番号及びプロトコル属性情報を記憶装置62に記憶する。以後、ISDNプロトコル変換装置48Aに収納されたISDN通信端末50がISDN通信端末60に発呼する際には、制御装置48bが記憶装置62からISDN通信端末60と回線接続に成功した際のプロトコル属性情報をISDN通信端末60の電話番号に基づいて読み出して、このプロトコル属性情報によってプロトコル変換を行い、この後に通信相手先のISDN通信端末60が使用するBチャンネルに接続する。」

ウ 以上によれば、甲8には以下の技術(以下、「甲8技術」という。)が記載されている。

「ISDN通信端末との間のプロトコルを変換して回線接続を行うISDNプロトコル変換装置において(【0001】)、
他のプロトコル属性情報での再発呼を繰り返し、特定のプロトコル属性情報で回線接続に成功したら、この回線接続の成功時におけるISDN通信端末60の電話番号及びプロトコル属性情報を記憶装置62に記憶する。以後、ISDN通信端末50がISDN通信端末60に発呼する際には、ISDN通信端末60と回線接続に成功した際のプロトコル属性情報をISDN通信端末60の電話番号に基づいて読み出して、このプロトコル属性情報によってプロトコル変換を行い、この後にISDN通信端末60が使用するBチャンネルに接続する(【0058】)技術。」

(4)甲9の記載内容
甲9には、以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審にて付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、所定通信プロトコルの接続方法として、所定通信プロトコル接続要求信号を通信相手装置へ送信して接続手順を開始する接続方法、及び通信相手装置からの所定通信プロトコル接続要求信号の受信を所定時間待機して接続手順を開始する接続方法のうち何れかを択一的に選択する近距離無線通信装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をBluetooth(登録商標)(以下、BTと称する)通信機能を有するBT対応の車載装置(以下、単に車載装置と称する)に適用した一実施形態について、図面を参照して説明する。尚、ここでは、車載装置が搭載されている車両の車室内に、BT通信機能を有するBT対応の携帯電話機(以下、単に携帯電話機と称する)が車室内に持込まれ、車載装置と携帯電話機とがBT通信可能な状態にある場合を説明する。」

ウ 「【0080】
以上に説明したように本実施形態によれば、車載装置2において、プロファイルの接続方法として、プロファイル接続要求信号を通信相手である携帯電話機3へ送信させて接続手順を開始する接続方法、及び通信相手である携帯電話機3からのプロファイル接続要求信号の受信を所定時間待機させて接続手順を開始する接続方法のうち何れかを択一的に選択して実行する場合に、その選択した何れかの接続方法による接続手順を開始してプロファイルの接続に失敗すると、選択しなかった何れかの接続方法による接続手順を開始し、その選択しなかった何れかの接続方法による接続手順を開始してプロファイルの接続に成功すると、次にプロファイルの接続要求が発生したときにはプロファイルの接続に成功した接続方法を選択するように構成した。これにより、通信相手である携帯電話機3が何れの接続方法を採用している場合であっても、プロファイルを適切に接続させることができる。又、次にプロファイルの接続要求が発生すると、接続に失敗した接続方法による接続手順を開始することなく、接続に成功した接続方法による接続手順を開始することで、プロファイルの接続を速やかに完了することができる。
【0081】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
近距離無線通信装置は、車載装置2に限らず、BTモジュール5と同等の機能を有するBTモジュールを備える構成であれば、周知のナビゲーション機能を有するナビゲーション装置等であっても良く、又、車両に搭載されない装置であっても良い。又、近距離無線通信装置のデータ通信相手である通信相手装置は、携帯電話機3に限らず、BTモジュール24と同等の機能を有するBTモジュールを備える構成であれば、携帯情報端末等であっても良く、又、ユーザが携帯不可能な固定端末であっても良い。」

エ 以上によれば、甲9には以下の技術(以下、「甲9技術」という。)が記載されている。

「BTモジュールを備える近距離無線通信装置において(【0001】、【0021】、【0081】)、
プロファイルの接続方法として、プロファイル接続要求信号を通信相手である携帯電話機3へ送信させて接続手順を開始する接続方法、及び通信相手である携帯電話機3からのプロファイル接続要求信号の受信を所定時間待機させて接続手順を開始する接続方法のうち何れかを択一的に選択して実行する場合に、その選択した何れかの接続方法による接続手順を開始してプロファイルの接続に失敗すると、選択しなかった何れかの接続方法による接続手順を開始し、その選択しなかった何れかの接続方法による接続手順を開始してプロファイルの接続に成功すると、次にプロファイルの接続要求が発生したときにはプロファイルの接続に成功した接続方法を選択する(【0080】)、技術。」

(5)甲10の記載内容
甲10には、以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審にて付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、メータ等の端末機器が接続された端末網制御装置とセンタ側装置とが通信回線を通じてデータの伝送を行うデータ通信システムに関する。」

イ 「【0036】
端末網制御装置7では、通信回線20を通じて入力された呼出信号を受信すると、動作を開始する。複数の起動方式の中から1つの起動方式を選択して、その起動方式にしたがって起動シーケンスを実行する。これによって、特定の起動方式により端末網制御装置7とセンタ側装置との間で通信が成功したとき、この起動方式をメモリに記憶する。センタ側装置においても、同じく起動方式を記憶する。そして、この起動方式が、センタ側装置から端末網制御装置7を起動するための起動方式として、端末網制御装置7およびセンタ側装置に設定される。」

ウ 以上によれば、甲10には以下の技術(以下、「甲10技術」という。)が記載されている。

「メータ等の端末機器が接続された端末網制御装置とセンタ側装置とが通信回線を通じてデータの伝送を行うデータ通信システムにおいて(【0001】)、
端末網制御装置7では、複数の起動方式の中から1つの起動方式を選択して、その起動方式にしたがって起動シーケンスを実行し、これによって、特定の起動方式により端末網制御装置7とセンタ側装置との間で通信が成功したとき、この起動方式をメモリに記憶し、センタ側装置においても、同じく起動方式を記憶し、この起動方式が、センタ側装置から端末網制御装置7を起動するための起動方式として、端末網制御装置7およびセンタ側装置に設定される(【0036】)、技術。」

2 甲1発明に基づく容易想到性の判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明における広告宣伝用のSMSメールの送信動作(構成1j)は、抽出部223(構成1j2)、モデム部210(構成1j3)及びデータベース部230(構成1j5)により実行され、抽出部220、モデム部210及びデータベース部230は、いずれも「サーバ装置200」が備えるもの(構成1d、1e)であるから、甲1発明の「サーバ装置200」は、広告宣伝用のSMSメールを送信する装置である。そして、SMSメールがメッセージであることは明らかであるから、甲1発明の「サーバ装置200」は本件発明1の「メッセージ通信装置」に対応する。

イ(ア)本件発明1に関する実施形態を参照すると、「電話番号又は電話番号に準ずるアドレスを宛先に用いるA2Pにおけるメッセージ通信において、企業(顧客)から個人(ユーザ)の通信端末の各々へのメッセージ通信で、メッセージの到達率を上げるために、いずれの形態でメッセージ通信を行うのかを個々の通信端末が置かれた環境に応じて適切に選択することが求められている。」(【0024】、下線は強調のために当審で付した。)との記載がある。該記載から、本件発明1の「顧客」はメッセージ通信の発信元であり、本件発明1の「ユーザ」はメッセージ通信の宛先であると解される。

(イ)甲1発明における広告宣伝用のSMSメールは、SMSメールによる送信を希望する店舗が広告宣伝情報ないし広告宣伝用のメッセージの種類を指定し(構成1j1)て、顧客の携帯電話に対して送信される(構成1a、1l)ものであり、広告宣伝情報の設定は、広告宣伝を希望する店舗から依頼を受けた当該システムの運営管理者が広告宣伝料を徴収した上で、行われる(構成1b)ものであるから、甲1発明の「店舗」はメッセージ通信の発信元であるといえ、甲1発明の「顧客」はメッセージ通信の宛先である。
そうすると、前記(ア)の意味において、甲1発明の「店舗」は本件発明1の「顧客」に相当し、甲1発明の「顧客」は本件発明1の「ユーザ」に相当する。

(ウ)甲1発明において、広告宣伝情報を含むSMSメールは「抽出された発信者番号へ向けて」発信される(構成1j3)から、前記「発信者番号」はSMSメールの宛先アドレスである。
そうすると、甲1発明の「発信者番号」は本件発明1の「アドレス」に対応する。

(エ)本件発明1のメッセージ通信装置は顧客から1以上のメッセージを受け取る受取部を有するから、本件発明1においては、顧客がメッセージの内容を直接指定しており、その指定を受取部が受け取っているといえる。
他方、甲1発明においては、店舗が広告宣伝用のメッセージの種類を特定ないし指定し(構成1j1)、指定された種類の広告宣伝情報を含むSMSメールがモデム部210によって発信される(構成1j3)ことから、甲1発明の「サーバ装置200」が前記指定を受け取る部分を有していることは明らかである。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは「顧客から、少なくともアドレスに送信する1以上のメッセージの内容の指定を受け取る受取部」を有する点で共通する。

ウ 甲1発明では、「店舗に来店した顧客」が電話発信し(構成1i1)、その着信があると、「サーバ装置200」の番号取得部221によって該「顧客」の携帯電話の番号が「発信者番号」として取得される(構成1i2)から、甲1発明の「店舗に来店した顧客」は本件発明1の「顧客のユーザ」に相当し、甲1発明の「発信者番号」は、本件発明1の「顧客のユーザの電話番号」に相当する。
そうすると、甲1発明の「発信者番号」は、本件発明1の「前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレス」に含まれる。

エ 甲1発明において、SMSメールは「電話番号をアドレスとして電信電話回線を介して送受信される文字によるメッセージメール」を意味し(構成1k)、甲1発明の広告宣伝用のSMSメールは、例えば、URLと「レストラントリノ会員申込み」なる文言を含む(構成1j6)から、テキストを含み得るメッセージである。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは「前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである」点で一致する。

オ 甲1発明では「複数社のキャリアのうち第i番目のキャリアを利用して、i=1から昇順に、SMSメールの発信がモデム部210により試みられ」る(構成1i5b)から、甲1発明の「サーバ装置200」はキャリアを選択する部分を有している。
本件明細書の「移動体通信におけるキャリア(移動体通信事業者:MNO(Mobile Network Operator))は、通信事業体の一例である。」(【0025】)との記載によれば、本件発明1の「通信事業体」にはキャリアが含まれる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは「複数の通信事業体のうちの1つの通信事業体を選択する通信事業体選択部」を有する点で共通する。

カ 甲1発明は、店舗により指定された広告宣伝情報(構成1j1)を含むSMSメールを、発信者番号に向けて発信する(構成1j3)から、甲1発明の「サーバ装置200」は、店舗により指定された広告宣伝情報からSMSメールを出力する部分を有している。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは「前記1以上のメッセージから、前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部」を有する点で共通する。

キ 甲1発明におけるSMSを発信する工程では、「キャリアを特定しながらの発信(ステップS15)を試み」る(構成1j4)とされ、「ステップS15」のSMSメールの発信動作(構成1i5)は、「複数社のキャリアのうち第i番目のキャリアを利用して、i=1から昇順に、SMSメールの発信がモデム部210により試みられ」(構成1i5b)、「送信エラーメッセージがモデム部210へ返信されると、“i”を一つインクリメントして」(構成1i5c)、「SMSメールの発信の試みが、送信エラーメッセージが返信されなくなるまで繰り返して行われ」る(構成1i5d)のだから、甲1発明は、SMSメールの発信を、発信が成功するか、キャリアが無くなるまで繰り返すものである。
そして、前記ステップS15(SMSを発信する工程)は、「制御部224」が「モデム部210」を制御する(構成1h)ことによって実施されていると解されるから、甲1発明の「制御部224」は、「モデム部210」を介してキャリアにメッセージの送信を要求するものであるといえ、本件発明1の「送信要求部」に対応する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは「出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信事業体によって送信されるように、選択された前記通信事業体に前記メッセージの送信を要求する送信要求部であって、送信が成功するか前記通信事業体が無くなるまで、前記要求を繰り返す送信要求部」を有する点で共通する。

ク 以上ア?キによれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「顧客から、少なくともアドレスに送信する1以上のメッセージの内容の指定を受け取る受取部であって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受取部と、
複数の通信事業体のうちの1つの通信事業体を選択する通信事業体選択部と、
前記1以上のメッセージから、前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部と、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信事業体によって送信されるように、選択された前記通信事業体に前記メッセージの送信を要求する送信要求部であって、送信が成功するか前記通信事業体が無くなるまで、前記要求を繰り返す送信要求部と、
を有するメッセージ通信装置。」である点。

〈相違点1〉
本件発明1の「受取部」は、「顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る」ものであるのに対し、甲1発明の「サーバ装置200」は、店舗からアドレスを受け取っておらず、加えて、店舗から「広告宣伝情報」そのものを受け取るのではなく、「広告宣伝情報の種類」を指定ないし特定されるに過ぎない点。

〈相違点2〉
本件発明1の「通信事業体装置選択部」は「通信事業体装置」を選択するものであるのに対し、甲1発明では、本件発明1の「通信事業体装置」に対応する装置が特定されておらず、単に「キャリア」を選択するに過ぎない点。

〈相違点3〉
本件発明1は、「前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部」を有するのに対し、甲1発明はSMSメールを送信するプロトコルについて特定されておらず、そのため、「通信プロトコル選択部」に対応する構成が特定されていない点。
これに付随し、本件発明1の「メッセージ出力部」は「選択された前記通信プロトコルに適合」するメッセージを出力するのに対し、甲1発明の「SMSメール」がいかなるプロトコルに適合しているのかが明らかでない。

〈相違点4〉
相違点2及び相違点3に付随し、本件発明1の「送信要求部」は「出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部であって、送信が成功するか前記通信事業体装置と前記通信プロトコルとの組み合わせが無くなるまで、前記要求を繰り返す」ものであるのに対し、甲1発明の「制御部224」は、SMSメールが発信者番号に宛てて選択したキャリアによって送信されるように制御するものであって、送信が成功するか、キャリアが無くなるまで、前記制御を繰り返すものである点。

(2)相違点1についての判断
甲1発明は、「eメールを利用したマーケティング戦略は各種存在或いは提案されているものの、SMSメールを利用した効率的なマーケティング戦略は、実用化或いは実践化されておらず、有効と思われる提案も何等なされていない。」(【0009】)との問題点に鑑み、「顧客に関する情報を極めて効率的にマーケッティングに利用することを可能ならしめる、SMSメールを利用した広告宣伝システム…を提供することを課題とする。」(【0010】)ものである。
そして、甲1発明における前記課題を解決するための一つの手段として、「このように特定された種類のメッセージの提供を行うに相応しい所望属性に一致する属性に対応付けられた発信者番号が、抽出部223によって、データベース部230から抽出され」ること(構成1j2)が挙げられる。詳述すれば、前記「相応しい所望属性」とは、「ある店舗の営業情報や広告宣伝情報を顧客に提供する際に、顧客に係る、店舗から発行されたポイント情報や誕生日、活動地域、趣向等の属性からして、営業上有効である(例えば、該顧客の属性からして該顧客が興味を持つ、来店する等の可能性が高いと推測される)場合となるような、該顧客の属性を意味する。」(【0092】)ところ、このような所望属性を用いてメッセージを提供する発信者番号を抽出すれば、「営業用或いはマーケティング用のSMSメールを、顧客の属性に応じて無駄なく或いは効率的に発信することが可能となる。この際、SMSメールが一通毎に有料であるが故に無造作に発信できないという技術的制約下であっても、営業として十分に成立させるSMSメールの発信を行うことも可能となる。」(【0060】)から、前記「顧客に関する情報を極めて効率的にマーケッティングに利用することを可能ならしめる」との課題が解決できるものと認められる。
以上のように、甲1発明における「このように特定された種類のメッセージの提供を行うに相応しい所望属性に一致する属性に対応付けられた発信者番号」を「データベース部230から抽出」すること(構成1j2)は、甲1発明の課題を解決するための一手段であると認められるから、これを相違点1に係る構成のように「アドレス」(甲1発明の「発信者番号」)を「顧客」(甲1発明の「店舗」)から直接に受け取るように変更することは、甲1発明の前記課題及びその課題解決手段に反することとなり、阻害要因が存在すると認められる。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明からは容易に想到し得ない。

(3)申立人の主張についての判断
申立人は、相違点1について、「甲第5号証乃至甲第7号証に見られるように、送信先のアドレスを顧客から受け取ることは周知であった(周知技術1)から、甲1発明において、店舗顧客の発信者番号を取得するために、受け取ったメッセージに相応しい属性に対応付けられた発信者番号を抽出することに代えて、上記した周知技術1を適用し、送信先のアドレスを店舗から受け取るようにすることは、当業者に適宜選択可能な設計事項にすぎない。そもそも、送信先のアドレスをメッセージの属性から抽出するより、送信依頼者から受け取る方が、直接的であり容易である。」(特許異議申立書30頁)と主張する。
しかしながら、前記(2)のとおり、送信先のアドレスを依頼者から受け取るようにすることは甲1発明の技術的思想に反するので、申立人の主張は採用できない。このことは、周知技術1の存在に左右されない。

(4)甲1発明に基づく容易想到性についての小括
前記(2)及び(3)のとおり、相違点1に係る本件発明1の構成は甲1発明から容易に想到し得ないから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明からは容易に想到し得ない。
また、本件発明2?本件発明8は、本件発明1の従属発明であるから、甲1発明との相違点1が同様に存在するため、甲1発明からは容易に想到し得ない。
本件発明9は、本件発明1のカテゴリー違いの発明であり、相違点1と同様の相違点が存在するため、甲1発明からは容易に想到し得ない。
本件発明10も、本件発明1と同様の「受取部」を有するため、相違点1が存在する。
本件発明11は、本件発明10のカテゴリー違いの発明であるから、同様である。
以上によれば、本件発明は、いずれも、甲1発明からは容易に想到し得ない。

3 甲5発明に基づく容易想到性の判断
(1)本件発明1と甲5発明との対比
ア 甲5発明は、「SMS(ショートメッセージサービス)を利用して、携帯電話端末との間で情報のやりとりを行うSMS配信装置」(構成5a)であるから、本件発明1と甲5発明とは「メッセージ通信装置」である点で共通する。
なお、甲5発明の「SMS配信装置」(構成5a)と「双方向SMS配信装置2」(構成5b等)とは、同一の装置であると認められる。

イ(ア)甲5発明では、「顧客システム1は、コンピュータであって、双方向SMS配信装置2に、SMS送信リクエスト10を送」り(構成5e)、「SMS送信リクエスト10には「問い合わせ内容」と「問い合わせを行うユーザ」が含まれ」(構成5f)、「「問い合わせを行うユーザ」は予め登録されている3000人のユーザから選ばれたユーザ名のリストであるが、ユーザ名に代えてユーザの携帯電話端末7の電話番号としてもよ」い(構成5g)から、甲5発明は、「顧客システム1」が、SMS送信リクエスト10として、「問い合わせ内容」と、「問い合わせを行うユーザ」としての「携帯電話端末7の電話番号」のリストとを送るものであると認められる。
そして、甲5発明において「顧客システム1」に対してSMS送信リクエスト10を送るよう指示する「顧客」が存在することは明らかである。
そうすると、甲5発明の「携帯電話端末7の電話番号」のリスト、及び、「問い合わせ内容」は、それぞれ本件発明1の「アドレス」及び「1以上のメッセージ」に相当する。

(イ)甲5発明の「リクエスト受付部21」は「送信キュー登録部20」の構成要素であり(構成5c)、「送信キュー登録部20」は「双方向SMS配信装置2」の構成要素である(構成5b)から、甲5発明の「リクエスト受付部21」は「双方向SMS配信装置2」の構成要素である。
そして、甲5発明の「リクエスト受付部21」は、SMS送信リクエスト10を受け付ける(構成5h)ものであるから、本件発明1の「受付部」に相当する。

(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と甲5発明とは「顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る受取部」を有する点、及び、「前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであ」る点で一致する。

ウ 甲5発明では、顧客システム1が双方向SMS配信装置2に送信リクエスト10を送り(構成5e)、SMS送信された「送信データ13」(構成5k、5q)を受け取った携帯電話端末7の表示部に「問い合わせ内容」が表示される(構成5t)のであるから、「送信データ13」には、顧客システム1から送られた送信リクエスト10に含まれる「問い合わせ内容」が含まれている。
そして、「送信データ13」は、SMS送信されるデータである(構成5k、5q)から、テキストによるデータであることが明らかである。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは「前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである」点で一致する。

エ 甲5発明の「キャリア直収I/F」は、本件発明1の「通信事業体装置」に相当する。
また、甲5発明の「プロトコル」は、本件発明1の「通信プロトコル」に対応する。
甲5発明は、第1キャリア判定部25又は第2キャリア判定部30がキャリアを判定し(構成5j、5o)、「電話番号毎に、キャリア(キャリア直収I/F)にあったプロトコルで送信データ13を作成しSMS送信する」(構成5q、5k)から、甲5発明では、判定されたキャリアに合った「キャリア直収I/F」及び「プロトコル」を選択しており、該選択のための構成を当然に有していると認められる。(なお、構成5kの送信動作が構成5qの送信動作と同じであることは、「送信装置29は実施例1と同様に・・・」(【0031】)との記載により明らかである。)
よって、本件発明1と甲5発明とは「通信事業体装置選択部」及び「通信プロトコル選択部」を有する点で共通し、「複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択する通信事業体装置選択部」を有する点で一致する。

オ 甲5発明ではキャリアとしてNTT東日本、AU、ソフトバンク、NTTドコモ及びY!mobileの5つを想定している(構成5o)ところ、前記「キャリア直収I/F」はそれぞれのキャリアに対応する5つが存在すると認められる。
そして、日本におけるSMSは、キャリア毎に独自の仕様(プロトコル)にて提供されていたことが技術常識であり(必要であれば、特開2013-135265号公報【0004】を参照)、例えば、エヌ・ティ・ティ・ドコモ、KDDI及びソフトバンクモバイルの3社のSMSのプロトコルが異なる(特開2014-146186号公報【0027】)ことに鑑みると、甲5発明は、少なくとも3つ(AU、ソフトバンク、NTTドコモ)のプロトコルを用いると認められる。
そうすると、甲5発明は、複数(5つ)の「キャリア直収I/F」において用いられる複数(少なくとも3つ)の「プロトコル」から、判定されたキャリアに合った1つの「プロトコル」を選択しているといえるから、本件発明1と甲5発明とは「前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部」を有する点で一致する。

カ 甲5発明の「送信データ13」には顧客システム1からの「問い合わせ内容」が含まれている(前記ウ)ところ、甲5発明では「電話番号毎に、キャリア(キャリア直収I/F)にあったプロトコルで送信データ13を作成しSMS送信」する(構成5q、5k)から、甲5発明の「問い合わせ内容」は、選択されたキャリアにあったプロトコルに適合する「送信データ13」に変換されており、甲5発明は、前記変換を実行して「送信データ13」を出力する構成を備えていると認められる。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは「前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部」を有する点で一致する。

キ 甲5発明では「送信装置29は送信キューを基に携帯電話端末7の電話番号毎に、キャリア(キャリア直収I/F)にあったプロトコルで送信データ13を作成しSMS送信」する(構成5q、5k)から、甲5発明の「送信装置29」は「キャリア直収I/F」に対して、判定したキャリアにあったプロトコルで送信データ13を送信するよう要求していると認められる。
よって、本件発明1と甲5発明とは、「出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部」を有する点で共通する。

ク 甲5発明では、第1キャリア判定部25が判定したキャリアに送信データ13をSMS送信し(構成5j、5k)、前記送信が失敗した場合には、第2キャリア判定部30によりキャリア判定を行い(構成5m)、第2キャリア判定部30が判定したキャリアで送信データ13をSMS送信する(構成5q)ように制御されている。
そうすると、甲5発明は、送信が成功するか、又は、第2キャリア判定部30により判定されたキャリアでSMS送信が失敗するまで、SMS送信の要求を繰り返すよう構成されているから、本件発明1と甲5発明とは「送信が成功するか所定の終了条件を満たすまで、前記要求を繰り返す送信要求部」を備える点で共通する。

ケ 以上ア?クによれば、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「 顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る受取部であって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受取部と、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択する通信事業体装置選択部と、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部と、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部と、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部であって、送信が成功するか所定の終了条件を満たすまで、前記要求を繰り返す送信要求部と、
を有するメッセージ通信装置。」である点。

〈相違点5〉
本件発明1の「送信要求部」は、「送信が成功するか前記通信事業体装置と前記通信プロトコルとの組み合わせが無くなるまで、前記要求を繰り返す」のに対し、甲5発明の「送信装置29」は、送信が成功するか、第2キャリア判定部30により判定されたキャリアでのSMS送信が失敗するまで、送信要求を繰り返す点。

(2)相違点5についての判断
甲5発明は、「MNPによりキャリアが最近変更された携帯電話端末には企業等のサーバからSMS配信をすることができないことがあった。」(【0006】)との問題点に着目し、「確実にSMS配信できるSMS配信装置」を提供することを目的とする(【0007】)ものである。
そして、甲5発明における前記目的を達成するための手段は、「NTT交換局32に問い合わせる」「第2キャリア判定部30」(構成5n)である。これは、甲5の「第2キャリア判定部30は、MNPの情報が随時更新されるNTT交換局32に問い合わせているため、キャリアをリアルタイムで判定できる。したがって、MNPにより最近キャリアが変更された携帯電話端末7のキャリアを認識することが可能であり、当該携帯電話端末7にも確実にSMS配信をすることができる。」(【0027】)との記載から明らかである。
そうすると、甲5発明の「第2キャリア判定部30」で判定されたキャリアは正しいキャリアであるから、該キャリアでSMS送信をすれば事足りて、その他のキャリアでのSMS送信を試みる必要がない。
したがって、甲5発明においては、相違点5に係る本件発明1の構成のように「前記通信事業体装置と前記通信プロトコルとの組み合わせが無くなるまで、前記要求を繰り返す」動機付けが存在しない。
よって、相違点5に係る本件発明1の構成は、甲5発明からは容易に想到し得ない。

(3)本件発明10と甲5発明との対比
ア 本件の請求項1と請求項10とは、冒頭から「選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部」の箇所まで同一の記載であるから、本件発明10についても前記(1)ア?前記(1)キが成立する。

イ 甲5発明は「送信データ13が携帯電話端末7に正常に送信できたか否かを判定」する(構成5l、5r)ので、本件発明10と甲5発明とは「前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部」を有する点で一致する。

ウ 以上ア及びイによれば、本件発明10と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「 顧客から、少なくともアドレスと、前記アドレスに送信する1以上のメッセージとを受け取る受取部であって、前記アドレスは前記顧客のユーザの電話番号又は電話番号に準ずるアドレスであり、前記メッセージはテキストを含み得るメッセージである、受取部と、
複数の通信事業体装置のうちの1つの通信事業体装置を選択する通信事業体装置選択部と、
前記複数の通信事業体装置において用いられる複数の通信プロトコルのうちの1つの通信プロトコルを選択する通信プロトコル選択部と、
前記1以上のメッセージから、選択された前記通信プロトコルに適合し前記アドレスに送るメッセージを出力するメッセージ出力部と、
出力された前記メッセージが、前記アドレスに宛てて、選択された前記通信プロトコルで選択された前記通信事業体装置によって送信されるように、選択された前記通信事業体装置に前記メッセージの送信を要求する送信要求部と、
前記送信が成功したか否かの判断を行う判断部と、
を有するメッセージ通信装置。」である点。

〈相違点6〉
本件発明10は、「前記判断部で送信が成功したと判断されたときの、前記通信事業体装置及び前記通信プロトコルと、前記アドレスとを対応付けてログへの記録を制御する記録制御部」を有し、「前記アドレスで、前記ログを検索して、前記アドレスがヒットした場合、前記通信事業体装置選択部は、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信事業体装置を優先して選択し、前記通信プロトコル選択部は、ヒットした前記アドレスに対応する前記通信プロトコルを優先して選択する」のに対し、甲5発明は、「記録制御部」に相当する構成を持たないため、本件発明10のログを検索する以降の動作を行わない点。

(4)相違点6についての判断
SMSによるメッセージ送信において、送信先のアドレスと通信事業体とを対応付けて記録し、記録された通信事業体を優先して選択することについては、甲1発明が同様の構成(構成1i6、1j5)を備える。
他方、通信が成功した通信方式を記憶し、次の通信の際に記憶した通信方式を用いることについては、甲8技術、甲9技術及び甲10技術に見られる。
しかしながら、甲5発明のようなSMSによるメッセージ送信において、送信先のアドレスと、通信事業体(キャリア)及びプロトコル(通信方式)の双方とを対応付けて記録し、次の通信の際に記録された通信事業体及びプロトコルを優先して選択するという思想は、いずれの証拠にも開示されていない。また、甲1発明と甲8技術ないし甲10技術とは、前提となる通信技術に大きな差異があることから、これらの技術を組み合わせたものが周知であったとも認められない。
加えて、甲5発明はSMS配信装置であって、使用するキャリアを選択すれば使用するSMSのプロトコルも一意に定まるところ、仮にSMS送信に成功したキャリアを発信先の電話番号と対応付けて記録することが容易であったとしても、それに加えてプロトコルをも記録する必要性はない。
以上を総合すると、相違点6に係る本件発明10の構成は、甲5発明から容易に想到し得るものではない。

(5)甲5発明に基づく容易想到性についての小括
前記(2)のとおり、相違点5に係る本件発明1の構成は甲5発明から容易に想到し得ないから、本件発明1は甲5発明からは容易に想到し得ない。
また、本件発明2?本件発明8は、本件発明1の従属発明であるから、甲5発明との相違点5が同様に存在するため、甲5発明からは容易に想到し得ない。
本件発明9は、本件発明1のカテゴリー違いの発明であり、相違点5と同様の相違点が存在するため、甲5発明からは容易に想到し得ない。
前記(4)のとおり、相違点6に係る本件発明10の構成は甲5発明から容易に想到し得ないから、本件発明10は甲5発明からは容易に想到し得ない。
本件発明11は、本件発明10のカテゴリー違いの発明であるから、本件発明10と同様である。
以上によれば、本件発明は、いずれも、甲5発明からは容易に想到し得ない。

4 進歩性についての小括
前記2及び3によれば、本件発明は、甲1発明又は甲5発明から容易に想到し得ない。
加えて、本件発明に容易に想到し得るような発明は、その他の証拠にも開示されていない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-27 
出願番号 特願2019-138683(P2019-138683)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H04M)
P 1 651・ 537- Y (H04M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤江 大望  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
丸山 高政
登録日 2020-07-17 
登録番号 特許第6736102号(P6736102)
権利者 株式会社アクリート
発明の名称 メッセージ通信装置及びメッセージ通信プログラム  

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