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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 産業上利用性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1374962
異議申立番号 異議2020-701001  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-22 
確定日 2021-06-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6712837号発明「二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6712837号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6712837号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成25年6月10日に出願され、令和2年6月4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年12月22日に特許異議申立人 栗原 喜子(以下、「申立人栗原」という。)、令和2年12月23日に特許異議申立人 臼井 智晃(以下、「申立人臼井」という。)、令和2年12月24日に特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下、「申立人中嶋」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年3月15日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内に令和3年5月10日付け意見書を提出した。

第2 本件発明1、2及び本件明細書の記載事項
1 本件発明1、2
特許第6712837号(以下、「本件特許」)の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項によって特定される以下の発明を、本件発明1、2という。
【請求項1】
二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤であって、
第一剤を充填した第一内装パウチ及び第二剤を充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に圧縮ガスを充填し、同一圧力を加えて第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器と、
第一剤と第二剤から構成され二重構造エアゾール容器に充填して用いられるクリーム状の染毛剤であって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度が共に50,000mPa・s以下であり、吐出後における第一剤と第二剤との粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2であり、第一剤と第二剤にはそれぞれ0.1?20.0重量%の炭化水素、0.1?10.0重量%のラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、アラキルアルコールおよびベヘニルアルコールから少なくとも1つ選択される高級アルコールおよび0.1?10.0重量%の非イオン性界面活性剤が含まれている染毛剤と、を備える二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤。
【請求項2】
使い始めから使い終わりまでの、予め定められた第二剤に対する第一剤の吐出量の比率の変化が±10%以下である、請求項1に記載の二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤。

2 本件明細書の記載事項
(1)技術分野
【0001】
本発明は、二剤同時吐出型染毛剤に関するものである。

(2)背景技術
【0002】
従来のクリームタイプの染毛剤は、アルカリ剤を含む第一剤と酸化剤を含む第二剤とを別々に使用する際には特に問題は生じないが、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する場合、第一剤と第二剤との吐出量を調整する必要があり、消費者が使用することを考えると、第一剤と第二剤との吐出量は使い始めから使い終わるまで安定である必要があった。
【0003】
しかしながら、単純にクリーム状の染毛剤を、内袋を有する耐圧容器の内袋中に充填し、更に、内袋と耐圧容器間に圧縮ガスを充填したエアゾール容器において、使い始めから使い終わるまでの吐出量を評価したとき、充填する染毛剤によって吐出量が変化するため、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する場合、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤とが所定の吐出量の比率にて同時に吐出出来ないことがあった。
【0004】
又、従来のクリームタイプの染毛剤は、第一剤と第二剤とが所定の混合比率になるようトレイ等に出し、コームやブラシできちんと混ぜた後に頭髪に塗布するが、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する二剤同時吐出型染毛剤を頭髪に塗布する際、吐出後に直接頭髪に塗布するか、もしくはブラシに出してから頭髪に塗布し、第一剤と第二剤とを頭髪上で混ぜる行為を行うため、第一剤と第二剤とが所定の吐出量の比率にて同時に吐出されていないとムラ染めを引き起こすことがあった。
【0005】
そこで、第一剤及び/又は第二剤にシリコーン類を配合することで、吐出量が変化することなく、経時的吐出量の安定な原液を調製する提案がされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-91356号公報

(3)発明が解決しようとする課題
【0007】
本発明は、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することで、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る染毛剤を提供することを目的とする。

(4)課題を解決するための手段
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、第一剤と第二剤との粘度が共に50,000mPa・s以下であり、第一剤と第二剤との粘度の比率を、第一剤/第二剤=0.8?1.2にすることにより、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来ることを見い出し、本発明を完成させるに至った。

(5)発明の効果
【0009】
本発明によれば、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来るため、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る。

(6)発明を実施するための最良の形態
ア 定義
【0010】
本発明にある吐出量とは重量であり、比率とは、特に記載がない限り重量比であり、第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率は任意に設定可能である。
【0011】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、アルカリ剤を含有する第一剤と酸化剤を含有する第二剤とからなり、第一剤と第二剤との粘度が共に50,000mPa・s以下であることを特徴とする。毛髪への塗布後の伸び、タレ落ちを考慮すると、好ましくは5,000?25,000mPa・sである。50,000mPa・sを超えると圧縮ガス等による容器からの吐出が困難になるため、吐出量にムラが生じ、所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが困難になる。
【0012】
尚、粘度とは、二剤同時吐出型染毛剤の第一剤と第二剤とを別々の容器に吐出した各剤を20度に調温し、TVB-10型粘度計(東機産業株式会社)でSPINDLEN0.M4(CODEN0.23)を使用し、12rpmで回転させてから1分後に測定したものとする。
イ 第一剤と第二剤との粘度の比率
【0013】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、アルカリ剤を含有する第一剤と酸化剤を含有する第二剤とからなり、第一剤と第二剤との粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2であることを特徴とする。好ましくは0.9?1.1である。粘度の比率が0.8未満であると、第二剤に比べ第一剤の粘度が低いため、第一剤が吐出し易くなり、第一剤の吐出量が多くなる。粘度の比率が1.2を超えると、第一剤に比べ第二剤の粘度が低いため、第二剤が吐出し易くなり、第二剤の吐出量が多くなる。このように、第一剤と第二剤との粘度に差が生じると第一剤と第二剤との吐出量に差が生じ、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが困難になる。
ウ 高級アルコール
【0014】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、第一剤と第二剤とが共に高級アルコールを0.1?10.0重量%含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤に含有される高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、2-ヘキシルデカノール、2-オクチルドデカノール等が挙げられる。これらの中でも特に安定性の点から、直鎖飽和高級アルコールであるラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコールが好ましい。その含有量は0.1?10.0重量%、好ましくは0.5?5.0重量%である。0.1重量%未満であると分離等、剤の経時的安定性に影響があり、10.0重量%を超えると剤の粘度が高くなり、圧縮ガス等による容器からの吐出が困難になるため、吐出量にムラが生じ、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが困難になる。
エ 非イオン性界面活性剤
【0016】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤には非イオン性界面活性剤を適宜配合することが可能である。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(以下、POEという)アルキルエーテル類、POEアルキルフェニルエーテル類、POE・ポリオキシプロピレン(以下、POPという)アルキルエーテル類、POE脂肪酸類、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POEソルビトールテトラ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、N-アルキルジメチルアミンオキシド、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも酸やアルカリ剤に強いことから、POEアルキルエーテル類、POEアルキルフェニルエーテル類、POE・POPアルキルエーテル類、POEソルビタン脂肪酸エステル類が好ましく、更にこれらの中ではPOEアルキルエーテル類が特に好ましい。POEアルキルエーテル類の具体例としては、POEラウリルエーテル、POEセチルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POEオレイルエーテル等が挙げられる。その含有量は0.1?10.0重量%、好ましくは2.0?6.0重量%である。0.1重量%未満であると分離等、剤の経時的安定性に影響があり、10.0重量%を超えると剤の粘度が高くなり、圧縮ガス等による容器からの吐出が困難になるため、吐出量にムラが生じ、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが困難になる。又、非イオン性界面活性剤は異なる2種以上を含有することが好ましく、1種はHLB値9.0未満、他の1種はHLB値13.0以上であることが好ましい。
【0018】
尚、HLBとは、親水性-親油性のバランス(Hydrophile-LipophileBalance)を示す指標であり、本発明においては、小田・寺村らによる次式を用いて算出した値を用いた。HLB={(Σ無機性値)/(Σ有機性値)}×10
オ 炭化水素
【0019】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤には炭化水素を適宜配合することが可能である。炭化水素としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、流動パラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、ワセリン、ポリエチレン末、オゾケライト、ポリブテン、セレシン等が挙げられる。これらの中でも特に安定性の点から、流動パラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィンが好ましい。その含有量は0.1?20.0重量%、好ましくは2.0?15.0重量%である。0.1重量%未満であると分離等、剤の経時的安定性に影響があり、20.0重量%を超えると剤の粘度が高くなり、圧縮ガス等による容器からの吐出が困難になるため、吐出量にムラが生じ、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが困難になる。
カ その他成分等
【0020】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤にはその他に、酸化染料、アルカリ剤、酸化剤、シリコーン類、ロウ類、動植物油脂、高級脂肪酸類、有機溶剤又は浸透促進剤、多価アルコール類、エステル類、エーテル類、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマー、蛋白誘導体及びアミノ酸類、防腐剤、キレート剤、安定化剤、酸化防止剤、pH調整剤、各種植物抽出物、生薬抽出物、ビタミン類、色素、香料、紫外線吸収剤等を適宜配合することが可能である。
【0021】
尚、本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、酸化染料が配合されない時には脱色剤として用いることが出来る。
キ エアゾール容器
【0022】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、特開2004-91356号公報(特許文献1)に記載された二連エアゾール容器)や、特開2005-231644号公報に記載された二重構造エアゾール容器等を用いることが出来る。
ク 圧縮ガス
【0023】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤に用いられる圧縮ガスとしては、例えば、ジメチルエーテル、液化石油ガス、窒素ガス、代替フロン等、一般にエアゾール製品に用いられるものや、圧縮空気等を用いることが出来る。これらの中でも特に変質防止の面から、窒素ガスが好ましい。
ケ 初期内圧
【0024】
本発明の二剤同時吐出型染毛剤において、第一剤と第二剤とにかかる初期内圧は、使用性の面から、25℃において0.3?0.8MPaが好ましく、0.4?0.7MPaであることがより好ましい。又、第一剤と第二剤とにかかる初期内圧の比率を、第一剤/第二剤=0.95?1.05とすることで、より本発明の効果が得られる。

(7)実施例
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。配合量はすべて重量%である。
【0026】
実施例に先立って各実施例で採用した試験法及び評価法を説明する。
【0027】
同時吐出性実施例、比較例記載の処方により染毛剤を調製し、第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率を、第一剤/第二剤=1.0とした。調製した原液の第一剤50gを充填した第一内装パウチ及び第二剤50gを充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に窒素ガスを充填した、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二剤同時吐出型染毛剤の、使い始めから使い終わるまでの第一剤と第二剤との吐出量(g/10秒)を測定し、第一剤と第二剤との吐出量の比率を得た。評価の基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:とても良好 第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率に対し、使い始めから使い終わるまでの第一剤と第二剤との吐出量(g/10秒)の比率が±5%以内
○:良好 第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率に対し、使い始めから使い終わるまでの第一剤と第二剤との吐出量(g/10秒)の比率が±6?10%
△:普通 第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率に対し、使い始めから使い終わるまでの第一剤と第二剤との吐出量(g/10秒)の比率が±11?20%
×:悪い 第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率に対し、使い始めから使い終わるまでの第一剤と第二剤との吐出量(g/10秒)の比率が±21%を超える
【0028】
実施例1?13、比較例1?5実施例1?13、比較例1?5に示した染毛剤を調製した。それぞれの同時吐出性について評価し、その結果を表1?3に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表1,2から明らかなように、本発明の二剤同時吐出型染毛剤は、同時吐出性において優れていた。一方、表3より、第一剤と第二剤との粘度差が大きい比較例1?3、第一剤の粘度が高く、粘度差が大きい比較例4、及び第一剤と第二剤共に粘度が高く、粘度差が大きい比較例5は同時吐出性が劣っていた。
【0033】
実施例14(脱色剤)
下記組成の脱色剤を調製し、第一剤と第二剤との所定の吐出量の比率を、第一剤/第二剤=1.0とした。原液の第一剤50gを充填した第一内装パウチ及び第二剤50gを充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に窒素ガスを充填した、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二剤同時吐出型脱色剤の評価を行った。
(第一剤)
成分 配合量(重量%)
1) セチルアルコール 5.00
2) 流動イソパラフィン 10.00
3) 流動パラフィン 5.00
4) ジメチルポリシロキサン 5.00
5) ポリオキシエチレンステアリルエーテル 5.00
6) 塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(70%) 1.50
7) ステアリン酸 0.50
8) 香料 0.50
9) ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム液 1.00
10)大豆たん白加水分解物 0.50
11)加水分解シルク液 0.50
12)アンモニア水(25%) 6.00
13)精製水 残量
合 計 100.00
製法
成分1?8を80℃にて加温溶融したものに、成分9,13を85℃にて加温溶融したものを加えて混合する。次いで撹拌しながら冷却を行い、45℃にて成分10?12を加え、室温まで撹拌しながら冷却を行い、第一剤を得た。
初期内圧 0.50MPa (充填:窒素ガス)
粘度 24,000mPa・s
【0034】
(第二剤)
成分 配合量(重量%)
1) セチルアルコール 5.00
2) ステアリルアルコール 4.00
3) 流動パラフィン 5.00
4) ポリオキシエチレンセチルエーテル 5.00
5) ヒドロキシエタンジホスホン酸(60%) 0.20
6) リン酸 0.02
7) リン酸水素二ナトリウム 0.10
8) 過酸化水素水(35%) 16.60
9) 精製水 残量
合 計 100.00
製法
成分1?5を80℃にて加温溶融したものに、成分6,7,9を85℃にて加温溶融したものを加えて混合する。次いで撹拌しながら冷却を行い、40℃にて成分8を加え、室温まで撹拌しながら冷却を行い、第二剤を得た。
初期内圧 0.50MPa(充填:窒素ガス)
粘度 25,000mPa・s
粘度比率(第一剤/第二剤) 0.96
【0039】
実施例14は、同時吐出性において優れていた。

(8)上記(1)?(7)の記載からみて、本件発明1、2の特徴は以下のとおりである。
ア 本発明は、二剤同時吐出型染毛剤に関するものである。(段落【0001】)
イ 従来のクリームタイプの染毛剤は、アルカリ剤を含む第一剤と酸化剤を含む第二剤とを別々に使用する際には特に問題は生じないが、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する場合、第一剤と第二剤との吐出量を調整する必要があり、消費者が使用することを考えると、第一剤と第二剤との吐出量は使い始めから使い終わるまで安定である必要があった。
しかしながら、単純にクリーム状の染毛剤を、内袋を有する耐圧容器の内袋中に充填し、更に、内袋と耐圧容器間に圧縮ガスを充填したエアゾール容器において、使い始めから使い終わるまでの吐出量を評価したとき、充填する染毛剤によって吐出量が変化するため、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する場合、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤とが所定の吐出量の比率にて同時に吐出出来ないことがあった。
又、従来のクリームタイプの染毛剤は、第一剤と第二剤とが所定の混合比率になるようトレイ等に出し、コームやブラシできちんと混ぜた後に頭髪に塗布するが、第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出させて使用する二剤同時吐出型染毛剤を頭髪に塗布する際、吐出後に直接頭髪に塗布するか、もしくはブラシに出してから頭髪に塗布し、第一剤と第二剤とを頭髪上で混ぜる行為を行うため、第一剤と第二剤とが所定の吐出量の比率にて同時に吐出されていないとムラ染めを引き起こすことがあった。(段落【0002】?【0004】)
ウ 本発明は、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することで、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る染毛剤を提供することを目的とする。(段落【0007】)
エ 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、第一剤と第二剤との粘度が共に50,000mPa・s以下であり、第一剤と第二剤との粘度の比率を、第一剤/第二剤=0.8?1.2にすることにより、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来ることを見い出し、本発明を完成させるに至った。(段落【0008】)
オ 本発明によれば、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来るため、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る。(段落【0009】)

第3 取消理由の概要
1(進歩性)本件発明1、2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?5に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
以下、申立人が提出した甲第●号証を「甲●」のように表記する。
<引用文献>
引用文献1:特開2005-194207号公報(申立人栗原及び申立人臼井が提出した甲1)
引用文献2:特表2013-503109号公報(申立人栗原が提出した甲3及び申立人臼井が提出した甲2)
引用文献3:特開2002-59985号公報 (合議体が新たに発見した文献)
引用文献4:特開2004-161292号公報(合議体が新たに発見した文献)
引用文献5:特開2004-196359号公報(合議体が新たに発見した文献)

2(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
<測定報告書>
測定報告書1:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005A、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲1)
測定報告書2:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005C、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲2)
測定報告書3:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005E、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲3)
測定報告書4:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005G、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲4)
測定報告書5:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005B、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲5)
測定報告書6:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005D、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲6)
測定報告書7:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005F、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲7)
測定報告書8:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1005H、令和2年10月5日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲8)
測定報告書9:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021A、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲9)
測定報告書10:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021B、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲10)
測定報告書11:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021C、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲11)
測定報告書12:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021D、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲12)
測定報告書13:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021E、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲13)
測定報告書14:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021F、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲14)
測定報告書15:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021G、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲15)
測定報告書16:東洋ドライルーブ株式会社研究開発室、受託測定報告書 CODE. NO.HSKI1021H、令和2年10月21日、1?3頁(申立人中嶋が提出した甲16)

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項及び引用発明(下線は、合議体による。以下同様。)
(1)【請求項1】
水性媒体中にアンモニアを0.01?3重量%含有し、25℃における粘度が1000mPa・s以上である第1剤と、水性媒体中に過酸化水素を含有する第2剤とからなる二剤式毛髪化粧料であって、第1剤及び第2剤が、1本のエアゾール容器の外缶内に格納された樹脂製可撓性内容器に分離して収容され、同時に吐出される二剤式毛髪化粧料。

(2)【0009】
そこで、本発明は、1本の外缶内に複数の樹脂製可撓性内容器を格納したエアゾール容器を用い、一つの樹脂製可撓性内容器にアンモニアを含有する第1剤を収容し、他の一つに過酸化水素を含有する第2剤を収容した場合に、第2剤に含まれる過酸化水素の分解が抑制されるとともに、第1剤と第2剤の等量吐出性が良好で、染色性や脱色性に優れた二剤式毛髪化粧料を提供することを目的とする。

(3)【0014】
さらに、本発明の二剤式毛髪化粧料において、第1剤と第2剤の粘度の比を1:5?5:1とすると、エアゾール容器における第1剤と第2剤の吐出機構が異なる場合でも等量吐出性を保つことができる。

(4)【0016】
図1は、本発明の二剤式毛髪化粧料を収容するのに好適なエアゾール容器1Aの模式的透視図である。このエアゾール容器1Aは、金属製の外缶2の内部に樹脂製可撓性内袋3を有する。この内袋3は中栓9によって上下二つの樹脂製可撓性内容器3a、3bに分離されている。樹脂製可撓性内容器3a、3bと外缶2との間には圧縮ガスを充填する。
【図1】

(5)【0035】
第1剤の粘度は、第1剤からのアンモニアの揮散を抑制するため、25℃で1000mPa・s以上、好ましくは5000mPa・s以上、より好ましくは10000mPa・s以上である。また、吐出できる限り高粘度とし、ジェル状、クリーム状等にすることが好ましい。なお本発明において、粘度は、10000mPa・s以下の場合、東機産業社製のB 型粘度計で25℃でローターNo.4を使用し、30rpmの回転数で1分間後に測定される数値である。また、10000mPa・s以上の場合、東機産業社製のB8R型粘度計で25℃でローターT-Cを使用し、10rpmの回転数で1分間後に測定される数値である。また、このような粘度調整は、非イオン性界面活性剤や高級アルコール等の種類、量、両者の比率等を変えて行うことができる。

(6)【0043】
第2剤の粘度は、25℃でl000mPa・s以上が好ましく、より好ましくは5000mPa・s以上、さらに好ましくは10000mPa・s以上である。また、吐出できる限り高粘度とし、ジェル状、クリーム状等にすることが好ましい。さらに、第1剤の粘度と第2剤の粘度の比を1:5?5:1に調整することが好ましく、より好ましくは1:2?2:1、更に好ましくは1:1.5?1.5:1に調整する。これによりエアゾール容器における第1剤と第2剤の吐出機構が異なっても、所定の吐出性能を保持させることが容易となる。なお、このような粘度調整は、非イオン性界面活性剤や高級アルコール等の種類、量、両者の比率等を変えて行うことができる。

(7)【0057】
第1剤又は第2剤は、炭化水素類、動植物油脂、高級脂肪酸類、天然又は合成の高分子、エーテル類、両性界面活性剤、蛋白誘導体、アミノ酸類、防腐剤、キレート剤、安定化剤、酸化防止剤、植物性抽出物、生薬抽出物、ビタミン類、香料、紫外線吸収剤等を更に含有することができる。
【0058】
本発明の二剤式毛髪化粧料において、第1剤と第2剤の混合比は、第1剤:第2剤(重量比)を1:0.5?1:3とすることが好ましく、ほぼ1:1とすることが実用性の点でより好ましい。なお、図1のエアゾール容器1Aにおいて、第1剤と第2剤の混合比は、バルブスリット寸法、ディップチューブ内径寸法、ステム径寸法又は樹脂製可撓性内容器に収容する第1剤や第2剤の粘度等を調整することにより適宜設定することができる。

(8)実施例
【0062】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0063】
実施例1
表1、表2に示す組成の二剤式染毛剤の第1剤と第2剤を、それぞれ常法にしたがって調製し、クリーム状の組成物を得、得られた第2剤を図1のエアゾール容器1Aの樹脂製可撓性内容器3bに充填し、中栓9をした後に第1剤を樹脂製可撓性内容器3aに充填し、内容器3a、3bと外缶2との間に圧縮ガスとして圧縮窒素ガスを充填する。内容器3a、3bとしては、ポリエチレンとエチレン-ビニルアルコール共重合体の積層材料を使用する。このようにして得られる二剤式染毛剤は、長期保存しても良好な染毛性を示し、吐出時の外観もほとんど変化しない。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】


(9)上記(1)?(8)の記載、特に(8)の記載から、引用文献1には、以下の発明(「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「同時に吐出されるクリーム状二剤式毛髪化粧料であって、
第1剤を充填した樹脂製可撓性内容器3a及び第2剤を充填した樹脂製可撓性内容器3bを、内容器3a、3bと外缶2との間に圧縮ガスとして圧縮窒素ガスを充填した、エアゾール容器1Aと、
第1剤と第2剤から構成されエアゾール容器1Aに充填して用いられる二剤式染毛剤のクリーム状の組成物であって、
第1剤と第2剤はそれぞれ表1、表2に示す粘度、組成である染毛剤と、を備える同時に吐出される二剤式毛髪化粧料。
【表1】

【表2】



2 引用文献2の記載事項
(1)【請求項1】
(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤、
(b)少なくとも1つの非イオン界面活性剤、
(c)少なくとも1つのポリオール、
(d)少なくとも1つの油、及び
(e)少なくとも1つのアルカリ性剤
を含む、ケラチン繊維のための化粧用組成物。

(2)【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、毛髪等のケラチン繊維のための化粧用組成物の美容的性能を良好に維持しながら、アンモニア等のアルカリ性剤を含む化粧用組成物の不快臭を低減することである。

(3)【0014】
油は、非シリコーン液体脂肪物質であることが好ましい。油は、流動パラフィン、流動
ワセリン、ポリデセン、液状エステル、並びに、それらの混合物からなる群から選択する
ことができる。

(4)【0031】
(非イオン界面活性剤)
本発明による化粧用組成物は、少なくとも1つの非イオン界面活性剤を含む。非イオン界面活性剤の量は、制限されない。非イオン界面活性剤の量は、化粧用組成物の全重量に対して、0.1重量%から10重量%、好ましくは1重量%から7重量%であってよい。

(5)【0052】
(油)
本発明による化粧用組成物は、少なくとも1つの油を含む。2つ以上の油が使用される場合、それらは同一でも異なっていてもよい。油の品は、制限されない。油の品は、化粧用組成物の全重量に対して、0.1重量%から20重量%、好ましくは4重量%から12重量%であってよい。

(6)【0106】
(高級アルコール)
本発明による化粧用組成物は、少なくとも1つの高級アルコールを更に含むことができる。高級アルコールの量は、制限されない。高級アルコールの量は、化粧用組成物の全重量に対して、0.1重量%から10重量%、好ましくは1重量%から5重量%であってよい。

(7)【0144】
組成物が、ケラチン繊維を染色するために使用されるとき、ケラチン繊維の着色過程は、まず、本発明の化粧用組成物を、1つ又は複数の酸化剤を含む顕色剤と混合することにより実施することができる。本発明による化粧用組成物と顕色剤との混合比率は、1:1から1:1.5であってよい。

(8)【0164】
【表1】

【0165】
実施例1から4及び比較例1から5のそれぞれについて、アンモニアの蒸発を、下記に記載のように表2に組成を示す顕色剤を混合し、嗅覚試験及び化学発光試験を行うことによって評価した。
【0166】
【表2】


第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 引用発明との対比
引用発明の「同時に吐出されるクリーム状二剤式毛髪化粧料」は、本件発明1の「二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤」に相当する。
引用発明の「第1剤を充填した樹脂製可撓性内容器3a」は、本件発明1の「第一剤を充填した第一内装パウチ」に相当する。
引用発明の「第2剤を充填した樹脂製可撓性内容器3b」は、本件発明1の「第二剤を充填した第二内装パウチ」に相当する。
引用発明の「外缶2」は、本件発明1の「耐圧容器」に相当する。
引用発明の「圧縮ガスとして圧縮窒素ガス」は、本件発明1の「圧縮ガス」に相当する。
引用発明の「エアゾール容器1A」は、引用発明が「同時に吐出されるクリーム状二剤式毛髪化粧料」であることからすれば、本件発明1の「第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器」に相当する。
引用発明の「第1剤の流動パラフィン」は、本件発明1の「炭化水素」に相当し、その含有量も本件発明1の範囲内にある。
引用発明の「第1剤のステアリルアルコール、ベへニルアルコール」、「第2剤のセタノール(「セチルアルコール」に相当)」は、本件発明1の「高級アルコール」に相当し、その含有量も本件発明1の範囲内にある。
引用発明の「第1剤のポリオキシエチレン(30)ベへニルエーテル、ポリオキシエチレン(5)ベへニルエーテル」(合議体注:表1の「(5」は「(5)」の誤記。修正記載。)、「第2剤のポリオキシエチレン(40)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(2)セチルエーテル」は、本件発明1の「非イオン性界面活性剤」に相当し、その含有量も本件発明1の範囲内にある。

そうすると、本件発明1と引用発明は、
「二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤であって、
第一剤を充填した第一内装パウチ及び第二剤を充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に圧縮ガスを充填し、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器と、
第一剤と第二剤から構成され二重構造エアゾール容器に充填して用いられるクリーム状の染毛剤であって、第一剤と第二剤にはそれぞれ0.1?20.0重量%の炭化水素、0.1?10.0重量%のセチルアルコール、ステアリルアルコール、およびベヘニルアルコールから少なくとも1つ選択される高級アルコールおよび0.1?10.0重量%の非イオン性界面活性剤が含まれている染毛剤と、を備える二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。(なお、引用発明には他の成分も含まれるが、本件発明1は他の成分を含むことを排除していないため、この点は相違点とはならない。)
<相違点1>
本件発明1の第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構が、「同一圧力を加える」のに対して、引用発明は、加える圧力については、明記されていない点。
<相違点2>
本件発明1における第二剤が、「0.1?20.0重量%の炭化水素」を含むのに対し、引用発明では、第二剤に含まれる炭化水素の含有率が明記されていない点。
<相違点3>
本件発明1における「第一剤及び第二剤の吐出後の粘度が共に50,000mPa・s以下」であるのに対し、引用発明では、「第一剤及び第二剤の吐出前の粘度がそれぞれ35000mPa・s、20000mPa・sであることが記載されているものの、吐出後の粘度については示されていない点。
<相違点4>
本件発明1において、吐出後の第一剤と第二剤の粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2であるのに対し、引用発明では、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度比率が1.75(=35000/20000)であることが記載されているものの、吐出後の粘度比については示されていない点。

相違点の判断
事案に鑑みて、相違点3、4を先に検討する。
(ア)相違点3について
引用文献1には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度については記載されていないが、第一剤と第二剤の等量吐出性が良好で、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度については1000mPa・s以上とすることが記載されており、吐出できる限り高粘度とすることが好ましいことが記載されている(上記第4の1(2)、(5)、(6))。また、引用発明の染毛剤は、容器から吐出可能なものであり、吐出が困難であるとは記載されておらず、また、本件明細書には、本件発明1として50,000mPa・sを超えると容器からの吐出が困難になることが記載されている(段落【0011】)。
しかし、引用文献1に、第一剤と第二剤の等量吐出性が良好で、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度については1000mPa・s以上、吐出できる限り高粘度とすることが好ましいことが記載され、引用発明の染毛剤は、容器から吐出可能なものであり、吐出が困難であるとは記載されておらず、また、本件明細書には、本件発明1として50,000mPa・sを超えると容器からの吐出が困難になることが記載されているとしても、引用発明は、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度がそれぞれ35000mPa・s、20000mPa・sであり、引用文献1には、吐出後の粘度や吐出機構によって、吐出前の粘度が吐出後にどのように変化するかについて記載も示唆もされておらず、吐出後の粘度は不明であるから、引用発明の第一剤及び第二剤の吐出後の粘度が、50,000mPa・s以下を満たすとはいえない。また、引用文献2?5においても、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整することが記載ないし示唆もされていないから、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を50,000mPa・s以下とする動機付けも見いだせない。
したがって、引用発明において、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易に想到することではない。

(イ)相違点4について
引用文献1には、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度比については1:5?5:1に調整することが好ましいこと及びこの比率とすることで第一剤及び第二剤の吐出機構が異なっても等量吐出性を保つことができること(上記第4の1(3)、(7))、引用文献4にも同趣旨の事項(段落【0058】)、引用文献5には、染毛剤の第一剤と第二剤が同じ粘度で充填されたディスペンサー容器(段落【0068】?【0071】)が記載されている。
しかし、引用文献1、4、5には第一剤及び第二剤の吐出前の粘度比が記載されているにすぎず、等量吐出性が保たれたとしても、吐出後の粘度比が同等であることについて記載も示唆もされていないから、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度比を調整する動機付けも見いだせない。
したがって、引用発明において、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度比を、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易に想到することではない。

(ウ)そうすると、相違点1、2について検討するまでもなく、引用発明において、本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易に想到することではない。

(エ)本件発明1の効果は、「第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来るため、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る」こと(上記第2の2(5))であるが、上記(ア)、(イ)のとおり、引用文献1?5の記載から、引用発明において、本件発明1の第一剤及び第二剤の吐出後の粘度、粘度比率とすることはできないから、本件発明1の効果は格別顕著なものであるといえる。

(オ)したがって、本件発明1は、引用文献1?5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「使い始めから使い終わりまでの、予め定められた第二剤に対する第一剤の吐出量の比率の変化が±10%以下である」と限定するものであるが、上記(1)のとおり、本件発明1は、引用文献1?5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2も、引用文献1?5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由2(実施可能要件)について
(1)取消理由2の内容
取消理由2の内容は、おおむね以下のとおりである。
なお、取消理由2は、申立人中嶋の実施可能要件に関する申立理由と同趣旨である。
ア 測定のタイミングについて
本件発明1は、「第一剤と第二剤の吐出後の粘度が50,000mPa・S以下であり、吐出後における第一剤と第二剤との粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2」であることを発明特定事項としている。
しかしながら、吐出物の粘度の測定値は、吐出された後、測定されるまでの時間経過に影響されることが当業者の技術常識であるところ、本件明細書には、吐出後のいかなるタイミングで粘度の測定を行ったのかについては、何も開示されていない。すなわち、前記段落【0012】に記載の測定条件における「1分後」は、吐出後の各剤を20度に調温後、12rpmで回転させてからの時間であり、調温に要する時間が不明であるから、吐出後どの程度の時間が経過した剤について測定するのかという点については、何も規定されていない。吐出後の時間経過によって吐出物の粘度が変動することは当業者の技術常識であり、特に、「吐出された各剤を20度に調温」するのにどの程度の時間がかかるかは、吐出時の剤の温度によって大きく変動すると考えられ、その影響を無視することはできない。
すなわち、本件明細書には、吐出後の粘度を測定するまでの経過時間について記載がないため、当業者が本件発明1を実施しようとした場合に、発明特定事項である「吐出後の粘度」が、吐出後どの程度の時間が経過した時点で測定されたものなのかを理解することができない。

イ 吐出機構について
また、吐出物の粘度には、第一剤及び第二剤の組成のみならず、吐出機構の構造も影響することが当業者の技術常識であるところ、本件明細書には、各剤がいかなる吐出機構(ノズル径、ノズル形状、ステム、ポペット等)を用いて吐出されたものであるのかについては、何も開示されていない。
すなわち、第一剤と第二剤は吐出機構の陰路を通過して吐出され、このとき剤にシェアがかかるため、吐出後の粘度に大きな影響を与えるが、本件明細書には、具体的な吐出機構の構成について何も開示されていない。第一剤と第二剤とは、必ず異なる組成物であるから、それらのレオロジー特定が同一であることはあり得ず、吐出機構によって剤にかかるシェアの程度による影響も異なるであろうし、吐出後の粘度のヒステリシス曲線も異なるものとなることは容易に想像がつくことである。そもそも、吐出条件等により物性が変化することは、平成29年9月4日付け意見書において「粘度が比較的高いクリーム状の原液は、エアゾール容器から吐出される際、高い圧力を受けて内袋からキャピラリーを介して吐出されるので、吐出された原液の粘度は変化する」と、特許権者自身も認めていることである。
また、特許権者は審判請求書において、3種のノズルを用い、明細書の段落【0012】に記載の条件に沿って行った実験結果を示し、ノズル径及びノズルの形状は、吐出後の粘度比に影響を及ぼさず、吐出後の粘度比との関係において、吐出に用いるノズルの径、形状などの要件を定めることは不要である、と主張している。
しかしながら、たった一組の第一剤と第二剤の組合せによる実験結果を以って、請求項1に記載されるあらゆる第一剤と第二剤の組合せであっても、ノズル径及びノズルの形状が吐出後の粘度比に影響を及ぼさない、と云うことができるものではない。さらには、吐出機構のなかでも、ノズルの径、形状以上に、内部流路のステムやポペットの径は吐出後の粘度に大きな影響を与える重要な要素であるが、本件明細書及び特許権者の前記主張では、これらについても何も説明されていない。

ウ このように、本件明細書の記載は、本件発明1に規定される範囲の吐出後の粘度及びその比率について、
(ア)吐出後のどのタイミングで測定された粘度及びその比率であるのか
(イ)いかなる吐出機構を用いて吐出した場合の粘度及びその比率であるのか
がまったく特定されておらず、当業者が本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、どのように本件発明1及び2の染毛剤を製造するのかを理解することができない。このため、実施例に記載された染毛剤を用いた際に、粘度及びその比率が本件発明1の範囲内となるものであるのか否かについて追試することも不可能である。

エ 申立人中嶋が提出した、吐出後の第一剤/第二剤の粘度の比率が、(ア)測定のタイミングの違い、(イ)吐出機構の違いによって、どの程度の影響を受けるかについての試験結果(測定報告書1?16)について検討する。
測定報告書1?8は、本件明細書の実施例1(比較的低粘度である場合)、測定報告書9?16は、本件明細書の実施例3(比較的高粘度である場合)について、追試したものである。前述のとおり、本件明細書では、ア 測定のタイミング、イ 吐出機構について特定されていないため、当業者が本件明細書の記載及び技術常識に基づいて選択し得る範囲の条件として、それぞれ2種の測定タイミング、4種の吐出機構を想定し、測定のタイミングの違い、吐出機構の違いによる粘度比への影響を検証している。

(ア)測定のタイミングの違いによる影響の検討
第一剤と第二剤の吐出後の粘度測定のタイミングとしては、下記の2種を採用した。
a 室温(25℃)で吐出後、20分で20℃に調温して測定(以下、「吐出20分後」という)
b 20℃で吐出後、直後に測定(以下、「吐出直後」という)
そして、上記測定のタイミング以外の条件を同一とした場合、すなわち、同じ染毛剤(第一剤、第二剤)、同じ吐出機構(ステム、ポペット)、同じ20℃で測定した場合同士で、「吐出20分後」と「吐出直後」との第一剤/第二剤の吐出後の粘度比を対比すると、特に測定報告書2と測定報告書6では0.30、測定報告書4と測定報告書8では0.14、測定報告書11と測定報告書15では0.17という大きな差が生じた。また、粘度比が請求項1の範囲外となったものが大半を占め、どちらの測定タイミングを採用した場合にも本件発明1における0.8?l.2の範囲内となったのは、わずかに測定報告書3と測定報告書7の場合のみであった。また、実施例3(高粘度の場合)の追試(測定報告書9?16)では、いずれのタイミングで測定した場合も、すべて本件発明1における上限値1.2を超える結果となった。
このことから、第一剤と第二剤の吐出後の粘度を測定するタイミング(吐出後の経過時間)が特定されていない本件明細書の記載、及び出願時の技術常識に基づいても、当業者は、吐出後の経過時間によって大きく変動する吐出後の粘度及びその比率を想定することができない。

(イ)吐出機構の違いによる影響の検討
二重構造エアゾール容器が備える吐出機構として、前述の4種のステム、ポペットの組合せ(Dl?D4;測定報告書13?16においてはT1?T4と表示)を採用した。
そして、前項で示した表において、上記吐出機構以外の条件を同一とした場合、すなわち、同じ染毛剤(第一剤、第二剤)、同じ測定のタイミング、同じ20℃で測定した場合同土で、吐出機構(ステムとポペットの組合せ)を変えて第一剤/第二剤の吐出後の粘度比を対比すると、特に、吐出20分後に測定した測定報告書1?4、測定報告書9?12では吐出機構の違いによる変動幅が大きく、一方吐出直後に測定した測定報告書5?8、測定報告書13?16では吐出機構の違いによる変動幅は比較的小さいものの、ほとんどが本件発明1の0.8?1.2の範囲外となっている。
このことから、申立人中嶋が提出した試験結果によれば、本件明細書には二重構造エアゾール容器が備える吐出機構が特定されておらず、出願時の技術常識に基づいても、当業者は、本件発明1において、吐出機構の違いによって大きく変動する、吐出後の粘度及びその比率を想定することができない。

オ 以上のとおり、本件明細書における発明の詳細な説明の記載は、本件発明1において規定される、第一剤と第二剤の吐出後の粘度及びその比率が、吐出後のどのタイミングで測定された粘度に基づくものであるのか、及びどのような吐出機構を用いて吐出した場合の粘度に基づくものであるのか、について特定されておらず、かつ、上記粘度の比率は測定のタイミング及び吐出機構によって大きく変動する。
したがって、当業者は、本件発明1の発明特定事項である「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」及び「吐出後の第一剤と第二剤との粘度の比率」を理解することができず、これらが本件発明1の範囲内となるようにするためには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。
また、たとえ採用すべき測定のタイミング及び吐出機構が明らかであったとした場合であっても、吐出後の粘度の比率という吐出後の物性が0.8?l.2となるような組み合わせを見出し、本件発明1に係る染毛剤を製造するには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。
本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。

カ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2)検討
ア 測定のタイミングについて
(ア)第一剤と第二剤からなる染毛剤の使用態様を考えれば、使用直前、すなわち、毛染めを実施する直前に、第一剤と第二剤とを混合して、毛染めを実施することは技術常識であって(必要であれば、特開平9-249537号公報の段落【0003】、特開平7-118131号公報の段落【0005】)、「吐出直後」から「毛染めを実施する直前」までさほど時間経過させることはないので、「吐出直後」の粘度は「毛染めを実施する直前」の粘度にほぼ相当すると考えられるから、染毛剤の性能を評価する際、毛染めを実施する直前である吐出直後の粘度を測定することは、染毛剤の使用態様に合致したものであり、吐出させて長時間経過した後の染毛剤の粘度を測定することは、染毛剤の使用態様に合致していないものであることは、当業者にとって明らかな事項である。
そうすると、本件発明1の「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」及び「吐出後の第一剤と第二剤との粘度の比率」は、当業者であれば、染毛剤の使用態様から、毛染めを実施する直前である吐出直後に測定される粘度であることを理解することができ、「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」を測定し、本件発明1、2を実施することができる。

(イ)申立人中嶋は、測定のタイミング(「吐出20分後」、「吐出直後」)の違いによって、どの程度の影響を受けるかについての試験(測定報告書1?16)を行なっている。
この試験について検討すると、上記(ア)のとおり、染毛剤の性能を評価する際、毛染めを実施する直前である吐出直後の粘度を測定することが、染毛剤の使用態様に合致したものであり、吐出させて長時間経過した後の染毛剤の粘度を測定することは、染毛剤の使用態様に合致していないものであることは、当業者にとって明らかな事項であるから、染毛剤の使用態様に合致している「吐出直後」の試験結果と、染毛剤の使用態様に合致していない「吐出20分後」の試験結果の違いを検討すること自体、本件発明1、2の実施可能要件を考慮する事項として採用することができない。

イ 吐出機構について
(ア)本件明細書には、本件発明1、2の「二重構造エアゾール容器」の吐出機構について記載されていないが、第一剤と第二剤との粘度(段落【0011】)、第一剤と第二剤との粘度の比率(段落【0013】)、第一剤と第二剤の成分である高級アルコール(段落【0014】、【0015】)、非イオン性界面活性剤(段落【0016】?【0018】)、炭化水素(段落【0019】)、エアゾール容器(段落【0022】)、圧縮ガス(段落【0023】)、初期内圧(段落【0024】)について例示されており、実施例においても、第一剤と第二剤の具体的な組成において、その初期内圧、第一剤と第二剤の粘度及び粘度比率が例示されているから、これらの記載に基づいて、吐出機構に応じて、吐出前の第一剤と第二剤の具体的な組成等を調整することによって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することは、当業者に過度な負担を強いるものでないといえる。
また、引用文献1においても、「エアゾール容器における第1剤と第2剤の吐出機構が異なっても、所定の吐出性能を保持させることが容易となる。なお、このような粘度調整は、非イオン界面活性剤や高級アルコール等の種類、量、両者の比率等を変えて行うことができる。」(段落【0043】)、「図1のエアゾール容器1Aにおいて、第1剤と第二剤の混合比は、バルブスリット寸法、ディップチューブ内径寸法、ステム径寸法又は樹脂製可撓性内容器に収容する第1剤や第2剤の粘度等を調整することにより適宜設定することができる。」(段落【0058】)と記載されており、吐出機構の相違に応じて、第一剤と第二剤の具体的な組成を調整すること、吐出機構の寸法を調整することによって吐出時の混合比を設定することは、当業者に過度な負担を強いるものでないといえる。
したがって、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から、吐出機構に応じて、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することは、当業者に過度の試行錯誤を課するものでもない。

(イ)申立人中嶋は、吐出機構の違い(4種のステム、ポペットの組合せ)によって、どの程度の影響を受けるかについての試験(測定報告書1?16)を行なっている。
この試験について検討すると、異なる吐出機構において、吐出後の粘度及び粘度比率が異なるのは当然であって、同じ吐出機構において、上記(ア)のとおり、第一剤と第二剤の具体的な組成を調整することによって、各吐出機構の特性を把握し、吐出後の粘度及び粘度比率比を調整することも、当業者に過度な負担を強いるものでないといえる。

ウ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

3 特許異議申立書に記載したその他の申立理由
(1)申立人栗原のその他の申立理由
ア 申立人栗原のその他の申立理由の概略は、以下のとおりである。
(ア)(進歩性)本件発明1、2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1?3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲1:特開2005-194207号公報(取消理由1で引用した引用文献1)
甲2:特開2005-231644号公報
甲3:特表2013-503109号公報(取消理由1で引用した引用文献2)
(イ)(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(ウ)(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(エ)(産業上の利用可能性)本件発明1、2は、特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから、本件発明1、2に係る特許は、特許法29条1項柱書の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 検討
(ア)進歩性について
a 甲1を主引用文献とする場合
甲1は、取消理由1で引用した引用文献1と同じ文献であるから、上記1(1)アのとおり、甲1から同じ「引用発明」が認定され、本件発明1と引用発明の一致点、相違点1?4は同じものである。
そして、相違点3、4、1に関し、甲1?3には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整すること、吐出後の粘度比が同等であること、第一剤と第二剤に同一圧力を加えることが記載ないし示唆もされていないから、上記1(1)イと同様に判断され、本件発明1は、甲1?3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2も、上記1(2)と同様の理由により、甲1?3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 甲3を主引用文献とする場合
(a)甲3には、上記第4の2の記載、特に、実施例1の記載から、以下の発明(「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「表1の化粧用組成物と表2の顕色剤とを、混合比率1:1で混合してなる、ケラチン繊維を染色するために使用される組成物。
【表1】

【表2】


(b)本件発明1と甲3発明を対比すると、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点5>
本件発明1が「二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤であって、
第一剤を充填した第一内装パウチ及び第二剤を充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に圧縮ガスを充填し、同一圧力を加えて第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器と、
第一剤と第二剤から構成され二重構造エアゾール容器に充填して用いられるクリーム状の染毛剤」であるのに対して、甲3発明にはそのような特定がない点。

<相違点6>
本件発明1における「第一剤と第二剤の吐出後の粘度が共に50,000mPa・s以下」であるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。

<相違点7>
本件発明1における「吐出後における第一剤と第二剤との粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2」であるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。

(c)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点6、7を先に検討する。
相違点6、7は、甲3発明の第一剤及び第二剤の吐出前の粘度及び粘度比率は特定されていないのに対し、相違点3、4は、引用発明の第一剤及び第二剤の吐出前の粘度及び粘度比率が特定されている限りにおいて異なるが、相違点6、7と相違点3、4のその他の点は同じであるから、相違点6、7は、引用発明の第一剤及び第二剤の吐出前の粘度及び粘度比率が特定されていること以外の点において、相違点3、4と同様に判断することができる。
そうすると、相違点6、7に関し、上記aのとおり、甲1?3には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整すること、吐出後の粘度比が同等であることが記載ないし示唆もされていないから、上記1(1)イと同様に判断され、本件発明1は、甲3、1、2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2も、上記1(2)と同様の理由により、甲3、1、2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)実施可能要件明確性要件について
a 明確性要件・明確性要件に関する内容は、おおむね以下のとおりである。
本件発明1、2においては、同一の第一剤及び第二剤であっても、エアゾール容器のノズル径やノズル形状等の選択により、第一剤と第二剤の吐出後粘度、ひいては吐出後粘度比が変動する。従って、エアゾール容器の吐出部の具体的構成を規定しない本発明の明細書の記載は不明確である。また、本件発明1及び2における吐出後粘度及び吐出後粘度比について、どのような吐出機構及び吐出条件によって吐出された場合の値を用いるのかについて、明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解することができず、技術的範囲が不明確である。
本件発明2に規定する同時吐出性及びそれに伴う均一染毛性(段落0007?0009)は本件発明2の構成ではなく効果であり、しかもこの効果は、表1、2の実施例群と表3の比較例群との対比で明らかなように、たとえ容器要件と組成要件を充足しても「第一剤/第二剤=0.8?1.2」という吐出後粘度比を充足しない限り、成立しない。そしてこの吐出後粘度比にこそ、発明の実施可能要件違反及び明確性要件違反が内在している。従って、実施可能要件違反及び明確性要件違反の釈明にはならない。
結局、本件発明1、2は、エアゾール容器の吐出部設計を秘匿することにより、吐出後粘度パラメーターと公知の吐出前粘度パラメーターとの換算可能性を遮断して発明の新規性進歩性を獲得しようとした結果、所定の吐出後粘度比の数値範囲について不可避的に技術的範囲の不明確を生じているので、この実施可能要件違反及び明確性要件違反は解消できない。

b 上記の点について検討する。
上記2(2)アのとおり、本件発明1の「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」及び「吐出後の第一剤と第二剤との粘度の比率」は、当業者であれば、染毛剤の使用態様から、毛染めを実施する直前である吐出直後に測定される粘度であることを理解することができるから明確であり、「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」を測定し、本件発明1、2を実施することができる。
上記2(2)イのとおり、本件発明1、2は、本件明細書の記載に基づいて、吐出機構に応じて、第一剤と第二剤の具体的な組成等を調整することによって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することができるから明確であり、また、そのように調整することは、当業者に過度な負担を強いるものでないから、本件発明1、2を実施することができる。

(ウ)産業上の利用可能性について
a 産業上の利用可能性に関する内容は、おおむね以下のとおりである。
本件発明1、2は、その実施例の記載(段落0027)から分かるように、発明の効果として予め「希望する結果(X)」を決め、次いで多数のランダムな実施例を評価し、希望する結果に該当する実施例群から適宜な組成や粘度パラメーター等の構成(y)を抽出したものである。従って、本件明細書の段落0008には「本発明は構成(y)であるから、効果(X)を生じる」と記載しているが、実態は「効果(X)を生じた実験例の中から、任意に構成(y)を抽出した」に過ぎない。即ち、本件発明1、2の構成(y)は選択的抽出行為の結果物であって、技術的思想である発明の創作は存在しない。
次に、本件明細書の段落0027以下の記載から分かるように、本件発明1、2では、第一剤と第二剤の吐出の時点で既知である同時吐出性を、吐出後粘度の測定に基づく吐出後粘度比を算出して、後付けで同時吐出性に関係付けている。従って本件発明1、2の効果としては「既知の実験事実(同時吐出性)の後付けによる追認」以外にはなく、そこには産業上利用することができるような技術的・実用的な有用性がない。
以上の点を逆の方向から考察するに、本件発明1、2の「吐出後粘度比」は吐出前粘度比に換算できないから、エアゾール同時吐出型の2剤式染毛剤製品の第一剤及び第二剤の粘度、組成の設計の参考にならない。
また、2剤式染毛剤は、通常、吐出後に第一剤及び第二剤を混合して毛髪に塗布するので、両剤の混合時粘度は技術的課題となり得るが、両剤の吐出後粘度比は技術的意味を持たない。更に、「発明の詳細な説明」欄の段落0013に本発明の効果として記載された事項は、明らかに第一剤及び第二剤の吐出前粘度比に関する効果記載であり、段落0012に定義する吐出後粘度比と矛盾する。加えて、本発明の表3の比較例群から分かるように、本件発明1、2の容器要件と組成要件に該当する第一剤及び第二剤でも、吐出後粘度比が該当しなければ本件発明1、2の効果を示さない。つまり本発明には、実験的に既知の同時吐出性を追認すること以外に効果記載を見出せず、「産業上利用することができる発明」とは認められない。

b 検討
(a)審査基準には、産業上の利用可能性について、以下のとおり記載されている。(第III部第1章)
「1. 概要
特許法第29条第1項柱書は、産業上利用することができる発明をした者がその発明について特許を受けることができることを規定している。特許法における『発明』は、第2条第1項において、『自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの』と定義されている。この定義にいう『発明』に該当しないものに対しては特許が付与されない。また、この定義にいう『発明』に該当するものであっても、特許法の目的が産業の発達にあることから(第1条)、特許を受けようとする発明は、産業上利用することができる発明でなければならない。」
「3.1 産業上の利用可能性の要件を満たさない発明の類型
以下の(i)から(iii)までのいずれかに該当する発明は、産業上の利用可能性の要件を満たさない。
(i)人間を手術、治療又は診断する方法の発明(3.1.1 参照)
(ii)業として利用できない発明(3.1.2 参照)
(iii)実際上、明らかに実施できない発明(3.1.3 参照)」
「3.2 産業上の利用可能性の要件を満たす発明の類型
上記3.1のいずれの類型にも該当しない発明は、原則として、産業上の利用可能性の要件を満たす発明である。」

以上の産業上の利用可能性の趣旨に基づいて、以下検討する。
本件発明1、2は、本件明細書の記載からみて、上記第2の2(8)のとおりの特徴を有している。
すなわち、本件発明1、2は、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤とを所定の吐出量の比率にて同時に吐出することで、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来る染毛剤を提供することを発明の課題とする。
前記課題を解決するために、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有するエアゾール容器に充填した二剤同時吐出型染毛剤において、第一剤と第二剤との粘度が共に50,000mPa・s以下であり、第一剤と第二剤との粘度の比率を、第一剤/第二剤=0.8?1.2にすることにより、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来ることを見い出し、本件発明1、2を完成させるに至った。
本件発明1、2によれば、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来るため、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来るという効果を有している。
そして、上記2(2)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、吐出機構に応じて、吐出前の第一剤と第二剤の具体的な組成等を調整することによって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することは、当業者に過度な負担を強いるものでなく、当業者が本件発明1、2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
したがって、本件発明1、2は、染毛剤という化粧料産業に関わるものであって、実施することができる発明であるから、上記(i)人間を手術、治療又は診断する方法の発明、(ii)業として利用できない発明、及び、(iii)実際上、明らかに実施できない発明に該当しない発明であることは明らかであり、産業上の利用可能性の要件を満たす発明であるといえる。

c 申立人栗原の主張について
申立人栗原の主張の要点をまとめると、以下のとおりである。
・本件発明1、2の適宜な組成や粘度パラメーター等の構成(y)は選択的抽出行為の結果物であって、技術的思想である発明の創作は存在しない。
・本件発明1、2の効果としては「既知の実験事実(同時吐出性)の後付けによる追認」以外にはなく、そこには産業上利用することができるような技術的・実用的な有用性がない。
・本件発明1、2の「吐出後粘度比」は吐出前粘度比に換算できないから、エアゾール同時吐出型の2剤式染毛剤製品の第一剤及び第二剤の粘度、組成の設計の参考にならない。
・本件発明1、2には、実験的に既知の同時吐出性を追認すること以外に効果記載を見出せず、「産業上利用することができる発明」とは認められない。

しかし、上記bのとおり、本件発明1、2によれば、本件発明1、2の発明を特定する事項によって、使い始めから使い終わるまで第一剤と第二剤との吐出量の比率の変化が少なく、安定に所定の吐出量の比率にて同時に吐出することが出来るため、毛髪に対し簡便かつムラなく均一に染め上げることが出来るという効果を有しており、技術的思想である発明の創作であって、技術的・実用的な有用性を有するといえる。また、本件明細書の発明の詳細な説明は、吐出機構に応じて、吐出前の第一剤と第二剤の具体的な組成等を調整することによって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することは、当業者に過度な負担を強いるものでなく、当業者が本件発明1、2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、第一剤及び第二剤の粘度、組成を設計することはできるといえる。
したがって、申立人栗原の主張を採用することができない。

(2)申立人臼井のその他の申立理由
ア 申立人臼井のその他の申立理由の概略は、以下のとおりである。
(ア)(進歩性)本件発明1、2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1?4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲1:特開2005-194207号公報(取消理由で引用した引用文献1)
甲2:特表2013-503109号公報(取消理由で引用した引用文献2)
甲3:特開2001-19055号公報
甲4:特開2005-231644号公報
(イ)(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(ウ)(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 検討
(ア)進歩性について
a 甲1を主引用文献とする場合
甲1は、取消理由1で引用した引用文献1と同じ文献であるから、上記1(1)のとおり、甲1から同じ「引用発明」が認定され、本件発明1と引用発明の一致点、相違点1?4は同じものである。
そして、相違点3、4に関し、甲1?4には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整すること、吐出後の粘度比が同等であることが記載ないし示唆もされていないから、上記1(1)イと同様に判断され、本件発明1は、甲1?4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2も、上記1(2)と同様の理由により、甲1?4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 甲2を主引用文献とする場合
甲2は、申立人栗原の甲3と同じ文献であるから、上記(1)イ(ア)b(a)のとおり、甲2から同じ「甲3発明」が認定され、本件発明1と甲3発明の一致点、相違点5?7は同じものである。
そうすると、相違点6、7に関し、上記aのとおり、甲2、1、3、4には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整すること、吐出後の粘度比が同等であることが記載ないし示唆もされていないから、上記1(1)イと同様に判断され、本件発明1は、甲2、1、3、4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2も、上記1(2)と同様の理由により、甲2、1、3、4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)実施可能要件明確性要件について
a 実施可能要件明確性要件に関する申立理由の内容は、おおむね以下のとおりである。
本件発明1、2においては、同一の第一剤及び第二剤であっても、エアゾール容器のノズル径やノズル形状等の選択により、第一剤と第二剤の吐出後粘度、及び、吐出後粘度比が変動し、その変動傾向の評価や一般化は困難であることが、本発明者による参考実験データからも示されている。
すなわち、本件発明1、2は、第一剤と第二剤の吐出後粘度、及び、第一剤と第二剤の吐出後粘度比に影響するエアゾール容器の第一剤と第二剤の吐出機構におけるノズル径及びノズル形状等を当業者が理解し、実施できるように明確に示してはいない。
したがって、エアゾール容器の吐出部の具体的構成を規定しない本件明細書の記載は不明確である。
また、本件発明1、2における吐出後粘度及び吐出後粘度比について、どのような吐出機構及び吐出条件によって吐出された場合の値を用いるのかについて、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解することができないものである。

b 上記の点について検討する。
上記2(2)アのとおり、本件発明1の「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」及び「吐出後の第一剤と第二剤との粘度の比率」は、当業者であれば、染毛剤の使用態様から、毛染めを実施する直前である吐出直後に測定される粘度であることを理解することができるから明確であり、「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」を測定し、本件発明1、2を実施することができる。
上記2(2)イのとおり、本件発明1、2は、本件明細書の記載に基づいて、吐出機構に応じて、吐出前の第一剤と第二剤の具体的な組成等を調整することによって、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することができるから明確であり、また、そのように調整することは、当業者に過度な負担を強いるものでないから、本件発明1、2を実施することができる。

(3)申立人中嶋のその他の申立理由
ア 申立人中嶋のその他の申立理由の概略は、以下のとおりである。
(ア)(進歩性)本件発明1、2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲17?20に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲17:特開2012-229318号公報
甲18:特開2005-97310号公報
甲19:特開2003-95901号公報
甲20:日本公定書協会編,「化粧品原料基準第二版注解」,薬事日報社,1989年9月10日第4刷発行,p.1108-1112
(イ)(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 検討
(ア)進歩性について
a 甲17の記載事項及び甲17発明
甲17には、以下の事項が記載されている。
(a)【技術分野】
【0001】
本発明は、泡沫形成用エアゾール製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアゾール製品の或る種のものとしては、有効成分などを含有する原液と、噴射剤とよりなるエアゾール組成物が、噴射バルブを備えた耐圧容器よりなるエアゾール容器に充填されなる構成を有しており、吐出物中に含有された噴射剤が気化することによって泡沫が形成され、これにより泡沫状の吐出物が得られるものが知られている。
このような泡沫形成用エアゾール製品において、吐出物が良好な泡沫形成性あるいは泡沫安定性などを得るために、噴射剤として液化石油ガスあるいはジメチルエーテルなどの液化ガスが用いられており、この液化ガスが可燃性を有するものであることから、使用環境によってはその取扱いに危険を伴う場合がある、またはエアゾール容器を廃棄する際において爆発事故が発生するおそれがあるなどの問題がある。また、液化石油ガスおよびジメチルエーテルが他の化石燃料に比べて多くはないものの浮遊粒子状物質あるいは温室効果ガスを発生させるものであり環境に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0003】
一方、泡沫を形成する組成物としては、例えばクエン酸などの有機酸を含有する有機酸含有組成物と、例えば炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩物質を含有する炭酸水素塩物質含有組成物とよりなり、これらを混合することによって発生する炭酸ガスによって泡沫を形成するものが知られている(例えば、特許文献1?特許文献3参照。)。
然るに、このような組成物においては、有機酸含有組成物と炭酸水素塩物質含有組成物とを別個に、例えばチューブ型容器あるいはカップ型容器など蓋によって密閉状態を形成する容器に充填しておく必要があることから、その適用に際しては、それぞれの容器から組成物を取り出して混合するという煩雑な作業を行わなくてはならず、しかもそれぞれの容器からの取り出し量を調整することができないことに起因して適切な混合比で混合を行うことができないおそれがあり、また、適用毎に容器内の組成物が空気に曝されることとなるため、長期間にわたって十分な保存安定性が得られないおそれがある、という問題がある。

(b)【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、使用環境によらずに高い安全性で適用することができると共に、優れた保存安定性を有し、良好な泡沫を容易に形成することのできる泡沫形成用エアゾール製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の泡沫形成用エアゾール製品は、噴射剤用充填空間と、各々独立した2つの原液用充填空間とを有し、当該2つの原液用充填空間に充填された内容物を同時に吐出させるための吐出機構が設けられてなる二重構造容器を備え、
当該二重構造容器における噴射剤用充填空間には、圧縮ガスよりなる噴射剤が充填され、
当該二重構造容器における第1の原液用充填空間内には、有機酸と、水と、界面活性剤と、高級アルコールとを含有し、有機酸の含有割合が0.5?15.0質量%である第1の原液組成物が充填され、
当該二重構造容器における第2の原液用充填空間内には、炭酸水素塩物質と、水と、界面活性剤と、高級アルコールとを含有し、炭酸水素塩物質の含有割合が0.5?15.0質量%である第2の原液組成物が充填されており、
前記第1の原液用充填空間から吐出される第1の原液組成物と、前記第2の原液用充填空間から吐出される第2の原液組成物とが混合されることにより泡沫が形成されることを特徴とする。
【0007】
本発明の泡沫形成用エアゾール製品においては、前記第1の原液用充填空間から吐出される第1の原液組成物と、前記第2の原液用充填空間から吐出される第2の原液組成物との混合比(第1の原液組成物の質量:第2の原液組成物の質量)が0.8:1.2?1.2:0.8であることが好ましい。
【0008】
本発明の泡沫形成用エアゾール製品においては、前記第1の原液組成物の温度20℃における粘度が10?15000mPa・sであり、前記第2の原液組成物の温度20℃における粘度が10?15000mPa・sであり、且つ、第1の原液組成物の粘度および第2の原液組成物の粘度のそれぞれが、当該第1の原液組成物の粘度と第2の原液組成物の粘度との平均値に対して±20%以内の範囲内にあることが好ましい。

(c)【0034】
また、この第1の原液組成物の粘度は、後述する第2の原液組成物の粘度との関係から、第1の原液組成物の粘度と第2の原液組成物の粘度との平均値(以下、「粘度平均値」ともいう。)に対して±20%以内の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは±15%の範囲内である。
【0035】
この第1の原液組成物の粘度が粘度平均値に対して上記の範囲外にある、すなわち粘度平均値に対して±20%を超える場合には、第1の原液用充填空間から吐出される第1の原液組成物の吐出量と、第2の原液用充填空間から吐出される第2の原液組成物の吐出量との差が大きくなることに起因して、第1の原液組成物と第2の原液組成物とが混合されることによって形成される泡沫において十分な起泡性が得られなくなるおそれがある。

(d)【0054】
また、この第2の原液組成物の粘度は、第1の原液組成物の粘度との関係から、第1の原液組成物の粘度と第2の原液組成物の粘度との平均値(粘度平均値)に対して±20%以内の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは±15%の範囲内である。
【0055】
この第2の原液組成物の粘度が粘度平均値に対して上記の範囲外にある、すなわち粘度平均値に対して±20%を超える場合には、第1の原液用充填空間から吐出される第1の原液組成物の吐出量と、第2の原液用充填空間から吐出される第2の原液組成物の吐出量との差が大きくなることに起因して、第1の原液組成物と第2の原液組成物とが混合されることによって形成される泡沫において十分な起泡性が得られなくなるおそれがある。

(e)【0079】
このような本発明の泡沫形成用エアゾール製品は、例えば人体用あるいはその他の様々な用途に用いることができるが、泡沫が二酸化炭素ガスによって形成されるものであることから、二酸化炭素ガスによる血行促進効果などが得られるため、特に人体用として好適に用いることができる。
具体的には、ヘアスタイリング剤、ヘアワックス剤、ヘアトリートメント剤、染毛剤、シャンプー剤、コンディショナー剤、育毛剤、マッサージング剤、洗顔剤、クレンジング剤、シェービング剤、化粧下地剤、皮膚保護剤、保湿剤、日焼け止め剤、除毛剤、ハンドソープ剤、ボディーソープ剤などとして用いることができる。

(f)【0081】
〔実施例1?実施例11および比較例1〕
(第1の原液組成物の調製)
先ず、クリーム基材「エマコールHD2146」(三栄化学(株)製)を温度範囲80?85℃の条件で加温することによって油性溶液(油相)を得、一方、精製水と界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル「BL-9EX」(日光ケミカルズ(株)製)とを混合し、温度範囲80?85℃の条件で加温することによって水性溶液(水相)を得た。
次いで、得られた油性溶液(油相)を、プロペラ撹拌機を用い、撹拌速度(回転速度)600rpmの条件で撹拌しながら、当該油性溶液中に、得られた水溶性溶液(水相)をゆっくりと添加することによって乳化液を調製した。その後、得られた乳化液を、その液温が30℃以下となるまで冷却した後、有機酸を添加し、撹拌速度600rpmの条件で撹拌することにより、表1および表2に示す組成の第1の原液組成物を調製した。
【0082】
(第2の原液組成物の調製)
先ず、クリーム基材「エマコールHD2146」(三栄化学(株)製)を温度範囲80?85℃の条件で加温することによって油性溶液(油相)を得、一方、精製水と界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル「BL-9EX」(日光ケミカルズ(株)製)とを混合し、温度範囲80?85℃の条件で加温することによって水性溶液(水相)を得た。
次いで、得られた油性溶液(油相)を、プロペラ撹拌機を用い、撹拌速度(回転速度)600rpmの条件で撹拌しながら、当該油性溶液中に、得られた水溶性溶液(水相)をゆっくりと添加することによって乳化液を調製した。その後、得られた乳化液を、その液温が30℃以下となるまで冷却した後、炭酸水素塩物質を添加し、撹拌速度600rpmの条件で撹拌することにより、表1および表2に示す組成の第2の原液組成物を調製した。
【0083】
(エアゾール製品の作製)
図1および図2に示す構成の二重構造容器を用意し、当該二重構造容器の第1の原液用充填空間内(第1の内袋内)に第1の原液組成物を充填し、第2の原液用充填空間内(第2の内袋内)に第2の原液組成物を充填すると共に、噴射剤用充填空間内に噴射剤として窒素ガスを、当該二重構造容器内における製品内圧が25℃で0.7MPaとなるように充填することにより、エアゾール製品を作製した。

(g)【0085】
<評価試験>
上記の実施例1?11、比較例1および比較例2より作製されたエアゾール製品の各々に関して、下記の手法によって吐出物における起泡性を評価した。結果を表1および表2に示す。
【0086】
(吐出物における起泡性)
容量50mlのビーカー内にエアゾール製品の内容物5gを噴射し、そのビーカー内の吐出物をガラス棒をゆっくりと10回転させることによって撹拌した後、ガラスビーカー内の吐出物の体積を測定し、体積が40ml以上である場合を起泡性が極めて良好であるとして「◎」、体積が20ml以上であって40ml未満である場合を起泡性が良好であるとして「○」、体積が20ml未満である場合を起泡性が不十分であるとして「×」と評価した。

(h)【0088】
【表2】


(i)
【図1】

【図2】


(j)上記(a)?(i)の記載、特に(i)の実施例11の記載から、甲17には、以下の発明(「甲17発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1の原液組成物を充填した第1の原液用充填空間(第1の内袋)及び第2の原液組成物を充填した第2の原液用充填空間(第2の内袋)を二重構造容器内に収納し、噴射剤用充填空間内に噴射剤として窒素ガスが充填された、二重構造容器と、
第1の原液組成物の吐出前の粘度が12300mPa・s、第2の原液組成物の吐出前の粘度が13800mPa・s、吐出前における第1の原液組成物と第2の原液組成物の粘度の比率が、第1の原液組成物/第2の原液組成物=0.89であり、
第1の原液組成物と第2の原液組成物にはそれぞれ、
2.00質量%ポリオキシエチレンラウリルエーテル、0.45質量%ポリオキシエチレンアルキルエーテル(1)、0.45質量%ポリオキシエチレンアルキルエーテル(2)、0.45質量%ポリオキシエチレンアルキルエーテル(3)、
0.63質量%セチルアルコール、
0.45質量%ミツロウが含まれている組成物と、
を備えるエアゾール製品。」

b 本件発明1と甲17発明を対比する。
甲17発明の「組成物」と本件発明1の「染毛剤」は、組成物である限りにおいて、一致している。
甲17発明の「二重構造容器と組成物を備えるエアゾール製品」は、甲17の図1及び図2に示す構成の二重構造容器に第1及び第2の原液組成物が充填されるものであるから(段落【0083】、【図1】、【図2】)、その構造からみて、二剤同時吐出エアゾールであることは明らかであるから、本件発明1の「二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤」とは、「二剤同時吐出エアゾール型製品」である限りにおいて一致している。
甲17発明の「第1の原液組成物を充填した第1の原液用充填空間(第1の内袋)」は、本件発明1の「第一剤を充填した第一内装パウチ」に相当する。
甲17発明の「第2の原液組成物を充填した第2の原液用充填空間(第2の内袋)」は、本件発明1の「第二剤を充填した第二内装パウチ」に相当する。
甲17発明の「二重構造容器」は、本件発明1の「耐圧容器」に相当する。
甲17発明の「噴射剤として窒素ガス」は、本件発明1の「圧縮ガス」に相当する。
甲17発明の「第1の原液組成物及び第2の原液組成物」が充填された「二重構造容器」は、甲17の図1及び図2に示す構成の二重構造容器からみて、本件発明1の「第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器」に相当する。
甲17発明の「ミツロウ」は、甲20によれば、炭化水素が含まれていることが明らかであるから、本件発明1の「炭化水素」に相当する。
甲17発明の「セチルアルコール」は、本件発明1の「高級アルコール」に相当し、その含有量も本件発明1の範囲内にある。
甲17発明の「ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(1)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(2)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(3)」は本件発明1の「非イオン性界面活性剤」に相当し、その合計含有量も本件発明1の範囲内にある。

そうすると、本件発明1と甲17発明は、以下の点で一致し、
「 二剤同時吐出エアゾール型製品であって、
第一剤を充填した第一内装パウチ及び第二剤を充填した第二内装パウチを1つの耐圧容器に収納し、内装パウチと耐圧容器間に圧縮ガスを充填し、第一剤と第二剤とを同時に吐出する機構を有する二重構造エアゾール容器と、
第一剤と第二剤から構成され二重構造エアゾール容器に充填して用いられる製品であって、
第一剤と第二剤にはそれぞれ
炭化水素、
0.1?10.0重量%のセチルアルコールである高級アルコールおよび
0.1?10.0重量%の非イオン性界面活性剤が含まれている組成物と、
を備える二剤同時吐出エアゾール型製品。」

少なくとも、次の点で相違する。
<相違点8>
本件発明1が「クリーム状染毛剤」であるのに対して、甲17発明は「製品」であって、そのような用途の特定がない点。
<相違点9>
本件発明1における「第一剤及び第二剤の吐出後の粘度が共に50,000mPa・s以下」であるのに対し、引用発明では、「第一剤及び第二剤の吐出前の粘度がそれぞれ12300mPa・s、13800mPa・sであることが記載されているものの、吐出後の粘度については示されていない点。
<相違点10>
本件発明1において、吐出後の第一剤と第二剤の粘度の比率が、第一剤/第二剤=0.8?1.2であるのに対し、引用発明では、第一剤及び第二剤の吐出前の粘度比率が0.89(=12300/13800)であることが記載されているものの、吐出後の粘度比率については示されていない点。

c 相違点の判断
事案に鑑みて、相違点9、10を先に検討する。
相違点9、10に関し、甲17?20には、第一剤及び第二剤の吐出後の粘度を調整すること、吐出後の粘度比が同等であることが記載ないし示唆もされていないから、上記1(1)イと同様に判断され、本件発明1は、甲17?20に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2も、上記1(2)と同様の理由により、甲17?20に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)明確性要件について
明確性要件に関する申立理由の内容は、おおむね以下のとおりである。
吐出口後の粘度やその比率がどのような数値となるかは、「第一剤と第二剤とから構成されるクリーム状の染毛剤」に関する構成(組成)のみによって確定するのではなく、二重構造エアゾール容器の吐出機構の構成、及び吐出後の測定のタイミング(経過時間)によって大きな影響を受けるものである。
すなわち、本件発明1が、吐出前における第一剤と第二剤の粘度及びその比率ではなく、吐出後における第一剤と第二剤の粘度及びその比率を発明特定事項とする以上、吐出後の測定のタイミングや第一剤と第二剤が吐出される吐出機構の構造(ステム、ポペットなど)についても特定されなければ、本件発明1及び2は明確とならない。

イ 上記の点について検討する。
上記2(2)アのとおり、本件発明1の「第一剤と第二剤の吐出後の粘度」及び「吐出後の第一剤と第二剤との粘度の比率」は、当業者であれば、染毛剤の使用態様から、毛染めを実施する直前である吐出直後に測定される粘度であることを理解することができるから明確である。
上記2(2)イのとおり、本件発明1、2は、本件明細書の記載に基づいて、第一剤と第二剤の具体的な組成や吐出機構を調整することによって、吐出機構に応じて、第一剤と第二剤の吐出後の粘度調整及び粘度比を調整することができるから明確である。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、2及び特許異議申立書に記載したその他の申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-07 
出願番号 特願2013-122265(P2013-122265)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 14- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 麻紀子辰己 雅夫  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 原田 隆興
大久保 元浩
登録日 2020-06-04 
登録番号 特許第6712837号(P6712837)
権利者 株式会社ダリヤ
発明の名称 二剤同時吐出エアゾール型クリーム状染毛剤  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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