• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1374965
異議申立番号 異議2021-700286  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-17 
確定日 2021-06-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6758101号発明「果実フレーバーを含有する透明飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6758101号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6758101号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成27年9月4日(優先権主張 平成27年2月25日)の出願である特願2015-174756号の一部を平成28年6月22日に新たな特許出願としたもので、令和2年9月3日に特許権の設定登録がされ、同年同月23日にその特許公報が発行され、その後、令和3年3月16日付けで、特許異議申立人 勝野 賢一(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?3に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
フレーバーを含み、
500ppb以上のα-ターピネオールを含み、
100?5000ppbのバニリンを含み:
波長660nmの吸光度が0.06以下であり、
糖用屈折計示度(Brix)が3.0?10.0である、容器詰め透明飲料。
【請求項2】
500ppb以上のマルトール、100ppb以上のエチルマルトール、3ppb以上のオクタン酸エチル、および50ppb以上の2-ウンデカノンからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下である、請求項1又は2に記載の飲料。」

第3 特許異議申立理由
1 新規性
異議申立理由1:請求項1,3に係る発明は、下記の甲第2号証?甲第7号証を参照すると、本件特許出願日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1,3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 進歩性
異議申立理由2:請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 サポート要件
異議申立理由3-1:請求項1?3に係る発明について、本件特許発明の構成によりマスキングすることのできるオフフレーバー成分として、α-ターピネオールを成分として含んでいるその他の果実フレーバーの場合に、不快なオフフレーバーを抑制できるのか認識できないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
異議申立理由3-2:請求項1?3に係る発明について、バナナ様フルーツ香料組成物(バナナ香料)において、α-ターピネオールが500ppb以上であっても、劣化臭ではなく、バナナ様の香りを構成する一成分として積極的に含まれており(甲第1号証参照)、オフフレーバーをマスキングして課題を解決することが認識できないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:特開2005-15686号公報
甲第2号証:特開2008-54667号公報
甲第3号証:特開2019-129812号公報
甲第4号証:五十嵐 脩 外2名 編集代表,丸善食品総合辞典,平成10年3月25日,丸善株式会社,p.962,奥付
甲第5号証:飲料総合専門誌ビバリッジ ジャパン,平成27年7月28日,株式会社ビバリッジ ジャパン,No.403,表紙,p.3,49,50
甲第6号証:特開2017-12004号公報
甲第7号証:特開2019-216635号公報

第4 当審の判断
異議申立理由1(新規性)及び異議申立理由2(進歩性)について

1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【0074】
本発明のフルーツ様香料組成物に用いられるケトン類化合物として、例えば、アセトン、2-ペンタノン、3-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-、3-あるいは4-ペンタノン、2-あるいは3-オクタノン、2-あるいは3-ノナノン、2-ウンデカノン、エチルイソアミルケトン、ジプロピルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘプテノン、コアボン(IFF)、ゲラニルアセトン、アセトイン、5一ヒドロキシ-4-オクタノン、ジアセチル、2,3-ヘキサジオン、5一メチル-2,3-ヘキサンジオン、アミルシクロペンタノン、シスージャスモン、ジヒドロジャスモン、トリメチルシクロヘキセニルブテノン、シクロテン、メチルナフチルケトン、アセトフェノン、4-メチルアセトフェノン、α、βあるいはγ-ヨノン、α、βあるいはγ-メチルヨノン、α、βあるいはγ-イソメチルヨノン、α、βあるいはγ-イロン、α、βあるいはγ-ダマセノン、α、β、γあるいはδ-ダマスコン、アリルヨノン、2,6,6-トリメチルヨノン、メントン、フェンコン、ヌートカトン、p-メトキシアセトフェノン、ベンジリデンアセトン、3-メチル-4-フェニル-3-ブテン-2-オン、ラズベリーケトン、アニシルアセトン、ジンゲロン、アセトナフトン、フルフラールアセトン、フラネオール、ホモフラネオール、5-エチル-3-ヒドロキシ-4-メチル-2[5H]フラノン、ソトロン、マルトール、エチルマルトールおよびシクロテン等が挙げられる。」

(1b)「【0097】
また、ピーチ様のフレーバー調製には、例えばN-メチルアントラニル酸メチル;オクタン酸エチル;オクテン酸エチル;カプロン酸エチル;吉草酸エチルおよびアミル;ギ酸アミル、ヘキシルおよびベンジル;ケイ皮酸エチルおよびメチル;酢酸アミル、イソアミル、エチル、オクチルおよびベンジル;シクロヘキシル酪酸アリル;シクロヘキシルヘキサン酸アリル;フェニル酢酸エチル;プロピオン酸エチルおよびベンジル;3-フェニルグリシド酸エチル;酪酸アミル、イソアミルおよびエチル;ヘキサノール、トランス-2-ヘキセノ一ルおよびシス-3-ヘキセノール;ゲラニオール、シトロネロール、テルピネオールおよびリナロール;β-フェニルエチルアルコール;アセトアルデヒド、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナールおよびシス-3-ヘキセナール;シンナミックアルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド;シトラール;α-イロン;α-ヨノン;アネトール;γ-ヘプタラクトン、γ-ヘキサラクトン、γ-オクタラクトン、γ-ウンデカラクトン、γ-ノナラクトンおよびγ-デカラクトン;酢酸および酪酸;ピーチ精油(水蒸気蒸留方式)、抽出物(エキストラクト、オレオレジン方式)、オレンジ油、レモン油、マンダリン油、ネロリ油、シナモン油、アニス油、コリアンダー油、ゼラニウム油およびローズ油などが良く使用される調合香料素材例として挙げられる。また、上記合成香料の他に、ピーチ中の揮発性成分(香料成分)を単離あるいは合成した香料成分を使用することもできる。」

(1c)「【0104】
また、パッションフルーツ様風味を有するフレーバーの香料素材としては、例えばヘキサノール、ブタノール、シスーまたはトランス-3-ヘキセン-1-オール、トランス-4-ヘキセン-1-オール、シス-またはトランス-3-オクテン-1-オール、シトロネロール、ゲラニオール、リナロール、α-テルピネオール、オクタノールなどのアルコール類;アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;2-ペンタノン、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、2-ペンタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、β-イオノンなどのケトン類;酢酸、酪酸、カプロン酸、オクタン酸などの酸類;酢酸エチル、カプロン酸エチル、酪酸ヘキシル、カプロン酸ヘキシル、酢酸シスーまたはトランス-3-ヘキセニル、酢酸シトロネリル、酢酸フェニルエチル、プロピオン酸エチル、酪酸シスーまたはトランス-3-ヘキセニル、酪酸シスーまたはトランス-4-ヘキセニル、2-ブテン酸エチル、カプロン酸シスーまたはトランス-3-ヘキセニル、カプロン酸シスーまたはトランス-4-ヘキセニル、3-ヘキセン酸エチル、カプロン酸シスーまたはトランス-4-ヘキセニル、シスーまたはトランス-3-オクテン酸エチルなどのエステル類;4-ヒドロキシヘキサン酸ラクトン、4-ヒドロキシオクタン酸ラクトン、ジヒドロアクチニジオライドなどのラクトン類;その他として、エジュラン、1,8-シネオール、リナロールオキシド、パッションフルーツ抽出物(エキストラクト、オレオレジン方式)、パッションフルーツ回収フレーバー(果汁)、レモン油、オレンジ油、ピーチ様風味フレーバー、パイナップル様風味フレーバー、グレープ様風味フレーバー、ストロベリー様風味フレーバー、ベルガモット油などを例示することができる。また、上記香料の他にパッションフルーツ中の揮発性成分(香気成分)を単離あるいは合成した香料成分を使用することができる。」

(1d)「【0124】
(実施例31?40:フルーツ様香料組成物(パイナップル))
実施例31?40(表4)に記載の添加量に従い、パイナップル様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。
【0125】
【表4】
パイナップル様フルーツ香料組成物

【0126】
(実施例41?50:フルーツ様香料組成物(ピーチ))
実施例41?50(表5)に記載の添加量に従い、ピーチ様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。
【0127】
【表5】
ピーチ様フルーツ香料組成物

【0128】
(実施例51?60:フルーツ様香料組成物(バナナ))
実施例51?60(表6)に記載の添加量に従い、バナナ様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。
【0129】
【表6】
バナナ様フルーツ香料組成物



(1e)「【0134】
(実施例78?84:フルーツ様香料組成物(梅))
実施例78?84(表9)に記載の添加量に従い、梅様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。
【0135】
【表9】
梅様フルーツ香料組成物



(1f)「【0141】
ニアウォーター
下記処方に従い、実施例1?96のフルーツ様香料組成物を含むニアウォーターを常法にて調製したところ、フレッシュ感があり優れた嗜好性を有するニアウォーターを得ることができた。
(処方) (Kg)
甘味料 10
レモン透明果汁ストレート 2.2
乳清ミネラル 1
ビタミンC 0.1
フルーツ様香料組成物(実施例1?96) 0.1
水で全量を200Lとする。」

(2)甲第2号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【0036】
〔製造例8〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離後、さらに、逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮した。その後、さらに80℃20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これをさらにエバポレーターで濃縮し、固形分が40質量%の流動状の乳清ミネラル8を得た。」

(2b)「【0050】
〔実施例8〕
食酢を水で5倍希釈し食酢飲料とした。上記製造例8で得た乳清ミネラル8を固形分10質量%となるよう水で希釈し、これをUHT殺菌処理(殺菌温度140℃、保持時間6秒)し、さらに、孔径φ0.2μmの濾過膜を通過させたものを本発明のマスキング剤Hとした。
なお、製造例8で得られた乳清ミネラル8は目視で若干の濁りが見られ、分光光度計により波長660nmにて吸光度を測定したところ、Abs. 0.0020であったのに対し、本発明のマスキング剤Hは目視で透明であり、分光光度計により波長660nmにて吸光度を測定したところ、Abs. 0.0000であった。また、細菌検査を行ったところ、一般生菌数が陰性であり、常温保管可能なものであった。
上記食酢飲料100質量部に対し上記マスキング剤Hを0.05質量部添加し、十分に混合し、本発明の飲食品である食酢飲料1を得た。得られた本発明の食酢飲料1は、無添加の食酢飲料に比べその基本風味バランスを変えることなく、酸味だけが低減されており、極めて飲みやすいものであった。」

(3)甲第3号証
本願の優先日後に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「【0081】
【表6】



(4)甲第4号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「フレーバードウォーター・・・ミネラルウォーター^(*)に柑橘系などのフレーバーを加えたもの.非発泡性のものと発泡性のものがあり,近年ヨーロッパや米国で新しい飲料として商品化された.」(962頁右欄「フレーバードウォーター」の項目)

(5)甲第5号証
本願の優先日後に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「ニアウォーターは,1990年代半ばに一世を風靡した飲料カテゴリーだ。天然水や水にフレーバーと甘味を加えた透明な非炭酸飲料で,欧米のフレーバーウォーターを模して導入されたものだった。」(49頁左欄1?5行)

(6)甲第6号証
本願の優先日後に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「【0010】
本発明によれば、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ナトリウムを飲料100mlあたり20?70mg以上含有するにもかかわらず、炭酸の爽快感を有する炭酸飲料を製造することができる。また本発明で使用する特定量のヌートカトン類やリン酸は、飲料の色調を大きく変化させることがないため、本発明の技術は、フレーバーウォーターやニアウォーターなどに炭酸を加えた無色透明な炭酸飲料に好適に利用することができる。」

(7)甲第7号証
本願の優先日後に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「【背景技術】
【0002】
近年、水の代わりとなるフレーバーウォーターの需要が高まっている。フレーバーウォーターは、香りや味の付いた無色透明の飲料品であり、フレーバードウォータやニアウォーターとも呼ばれる。フレーバーウォーターに対する需要が多様化するなかで、カフェインを有するお茶やコーヒーといった嗜好性飲料やカフェインによる覚醒作用を有する機能性飲料などが求められている。また、乳風味飲料や低カロリー飲料が求められる中で、嗜好性を向上させるために乳化物を加えて味の再現や飲みごたえを出す工夫が求められている。」

2 甲第1号証に記載された発明
摘記(1d)には、「実施例31?40:フルーツ様香料組成物(パイナップル))実施例31?40(表4)に記載の添加量に従い、パイナップル様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。」「(実施例41?50:フルーツ様香料組成物(ピーチ))実施例41?50(表5)に記載の添加量に従い、ピーチ様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。」との記載が、「(実施例51?60:フルーツ様香料組成物(バナナ))実施例51?60(表6)に記載の添加量に従い、バナナ様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。」との記載が、摘記(1e)には、「(実施例78?84:フルーツ様香料組成物(梅))実施例78?84(表9)に記載の添加量に従い、梅様のフルーツ香料組成物を調製した。尚、表中の「?」は、「合計を100に調製する」ことを示す。」との記載があり、表4,5,6,9には、実施例31?40、実施例41?50、51?60,実施例78?84の各組成物の成分(品名)の添加量と考えられる数字が記載されている。
そして、摘記(1f)には、ニアウォーターの処方として「下記処方に従い、実施例1?96のフルーツ様香料組成物を含むニアウォー夕ーを常法にて調製したところ、フレッシュ感があり優れた嗜好性を有するニアウォーターを得ることができた。」として、「
(処方) (Kg)
甘味料 10
レモン透明果汁ストレート 2.2
乳清ミネラル 1
ビタミンC 0.1
フルーツ様香料組成物(実施例1?96) 0.1
水で全量を200Lとする。」との記載があるのであるから、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「甘味料10Kg、レモン透明果汁ストレート2.2Kg、乳清ミネラル1Kg、ビタミンC0.1Kg、フルーツ様香料組成物(実施例31?40(表4)に記載の添加量に従い調製したパイナップル様のフルーツ香料組成物、又は実施例41?50(表5)に記載の添加量に従い調製したピーチ様のフルーツ香料組成物、又は実施例51?60(表6)に記載の添加量に従い調製したバナナ様のフルーツ香料組成物又は実施例78?84(表9)に記載の添加量に従い調製した梅様のフルーツ香料組成物)0.1Kgを含み、水で全量を200Lとして調製したニアウォーター」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フルーツ様香料」は、甲第1号証【0011】の「本発明のフルーツ様香料組成物に用いられる天然香料類として」レモンやオレンジが例示され、本件特許発明1の「フレーバー」について、【0011】【0012】から、オレンジやレモンを含めて天然由来のものが例示されていることから、本件特許発明1の「フレーバー」に相当する。
また、甲1発明の「ニアウォーター」は、甲第7号証の摘記(7a)の「ニアウォーター」に関する背景の記載を参酌すれば、本件特許発明1の「容器詰め透明飲料」と「透明飲料」という限りにおいて共通するといえる。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、「フレーバーを含有する透明飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1においては、「500ppb以上のα-ターピネオール」を含むことが特定されているのに対して、甲1発明においては、「甘味料10Kg、レモン透明果汁ストレート2.2Kg、乳清ミネラル1Kg、ビタミンC0.1Kg、フルーツ様香料組成物(実施例31?40(表4)に記載の添加量に従い調製したパイナップル様のフルーツ香料組成物、又は実施例41?50(表5)に記載の添加量に従い調製したピーチ様のフルーツ香料組成物、又は実施例51?60(表6)に記載の添加量に従い調製したバナナ様のフルーツ香料組成物、又は実施例78?84(表9)に記載の添加量に従い調製した梅様のフルーツ香料組成物)0.1Kgを含み、水で全量を200Lとして調製した」ことが特定されているものの、透明飲料にα-ターピネオールが含まれ、そのα-ターピネオールの濃度が「500ppb以上」であることが明らかでない点。

相違点2-1:本件特許発明1においては、「100?5000ppbのバニリン」を含むことが特定されているのに対して、甲1発明においては、「甘味料10Kg、レモン透明果汁ストレート2.2Kg、乳清ミネラル1Kg、ビタミンC0.1Kg、フルーツ様香料組成物(実施例31?40(表4)に記載の添加量に従い調製したパイナップル様のフルーツ香料組成物、又は実施例41?50(表5)に記載の添加量に従い調製したピーチ様のフルーツ香料組成物、又は実施例51?60(表6)に記載の添加量に従い調製したバナナ様のフルーツ香料組成物、又は実施例78?84(表9)に記載の添加量に従い調製した梅様のフルーツ香料組成物)0.1Kgを含み、水で全量を200Lとして調製した」ことが特定されているものの、透明飲料にバニリンが含まれ、そのバニリンの濃度が「100?5000ppb」であることが明らかでない点。

相違点3-1:飲料の透明度について、本件特許発明1においては、「波長660nmの吸光度が0.06以下であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、「透明」との特定はあるものの、「波長660nmの吸光度が0.06以下であ」ることが明らかではない点。

相違点4-1:本件特許発明1においては、「糖用屈折計示度(Brix)が3.0?10.0である」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、「糖用屈折計示度(Brix)が3.0?10.0である」ことが明らかではない点。

相違点5-1:飲料について、本件特許発明1においては、「容器詰め」であることが特定されているのに対して、甲1発明においては、「容器詰め」であることの特定はない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点1-1及び2-1を併せて、検討する。
(ア)相違点1-1及び相違点2-1について
a 甲1発明においては、甘味料、レモン透明果汁ストレート、乳清ミネラル、ビタミンC、表4,5,6,9の実施例記載の添加量に従い調製したフルーツ様香料組成物を特定量含み、水で全量を200Lとして調製したものであることは、理解できるものの、実施例の添加量を示す表には、品名として、数多くの化合物、油の添加量が数字で示されているだけで、単位も不明であり、溶剤の欄には、「?」という表示があり、「合計を100に調製する」と記載されているだけで、他の化合物、油の添加量だけで100を超えているものも多数あり、上記溶剤に関する記載との関係も不明である。
したがって、表に示された実施例の添加量の数字をどのように理解するのかは、技術常識を参酌しても不明であるといえる。

b また、甲第1号証においては、多くの実施例(実施例1?96)が示されており、多数の実施例において、バニリンが含まれていること自体は理解できるものの、含まれていない実施例も多数存在するし、逆に含まれていても実施例25,39,59,73をはじめ大量に含まれている例も存在し、それらの添加量もさまざまである。
さらに、α-ターピネオール(甲第1号証では、α-テルピネオールと記載されている。)に関しては、表6の実施例に存在するだけで、それらの添加量も、実施例57のように大量に含まれるものから、さまざまであり、バニリンと共存しない実施例55も存在する。
したがって、甲第1号証の記載全体を考慮すると、甲1発明において、特定の実施例に着目した上に、さらにその特定成分のα-ターピネオール及びバニリンに着目して、フルーツ様香料組成物におけるα-ターピネオール及びバニリンの濃度が特定範囲にあることを理解できないし、上記aのとおり、各成分の添加量の数字をどのように理解するのか不明なのであるから、飲料中のα-ターピネオール及びバニリンの濃度を計算することは、そもそもできない。
よって、α-ターピネオールが含まれ、そのα-ターピネオールの濃度が「500ppb以上」であるという相違点1-1、及び、バニリンが含まれ、そのバニリンの濃度が「100?5000ppb」であるという相違点2-1は、いずれも実質的な相違点である。

c そして、上記a,bで検討したように、甲1発明において、甲第1号証の記載を参酌しても、特定の実施例に着目した上に、特定成分のα-ターピネオール及びバニリンに着目して、α-ターピネオールの濃度を「500ppb以上」という特定範囲にした上で、バニリンの濃度を「100?5000ppb」という特定範囲にする動機付けはなく、その他の証拠(甲第2?7号証)にも関連する記載はない(甲第2,3号証には、乳清ミネラルを含有する飲料の吸光度に関連する記載が、甲第4?7号証には、ニアウォーター(フレーバーウォーター)の透明に関連する記載があるだけである。)。
したがって、甲1発明において、「α-ターピネオールが含まれ、そのα-ターピネオールの濃度が「500ppb以上」であること」を特定すること、及び「バニリンが含まれ、そのバニリンの濃度が「100?5000ppb」であること」を特定することは、当業者が容易になし得た技術的事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、「容器詰め透明飲料」において、「フレーバーを含み、500ppb以上のα-ターピネオールを含み、100?5000ppbのバニリンを含み」「波長660nmの吸光度が0.06以下であり、」「糖用屈折計示度(Brix)が3.0?10.0である」との構成を採用することで、本件明細書【0010】に記載される「水のように透明でありながら、果実フレーバーの劣化臭や劣化味が感じられにくい飲料を提供することができ」「また、果実フレーバーと上記乳性飲料にみられる成分とは相性がよく、これらを組み合せることで、果実らしい自然な酸味や、あるいは天然の果汁のような味わい(果汁感)を飲料に付与することができる」という顕著な効果を奏している。

(ウ)特許異議申立人の主張の検討
a 特許異議申立人は、特許異議申立書6頁17行?7頁表2において、特定の実施例51のみを取り出して、飲料中のα-ターピネオール及びバニリンの濃度を算出して、表2において、α-ターピネオール及びバニリンの濃度が本件特許発明1に該当している旨主張し、新規性欠如の主張をしている。
しかしながら、上述のとおり、甲第1号証に記載されたニアウォーターに係る甲1発明において、特定の実施例を取り出し、さらに溶剤の組成物の濃度における取り扱いや、合計が100を超えている場合の取り扱いが不明な表の数値に基づいて飲料中のα-ターピネオール及びバニリンの濃度を算出することはできないので、本件特許発明1を甲第1号証に記載された発明ということはできず、上記特許異議申立人の新規性欠如の主張を採用することはできない。

b 特許異議申立人は、特許異議申立書9頁12?10頁17行において、バニリンの含有量(濃度)やBrix値は、その数値範囲に臨界的意義や技術的意義がなく、数値範囲を調整することは当業者が容易に行えた旨の進歩性欠如の主張をしている。
しかしながら、上述のとおり、甲1発明において、少なくともバニリンの含有量(濃度)を特定範囲にする動機付けがないし、本件特許明細書には、【0015】実施例の表3,5,6,7に、バニリンの含有量(濃度)を特定範囲にすることの技術的意義(臨界的意義は必ずしも必要ではないが示されているといえる。)が示され、【0026】には、「本発明の飲料のBrixは、好ましくは、3.0?10.0、さらに好ましくは4.5?7.0である。ここで、Brixとは、糖用屈折計示度として測定される値である。上記のような低Brixの飲料は、すっきりとした味わいとなり、飲料の外観の透明さからくる爽やかなイメージと味とがよく合致して好ましい。」と記載され、本件特許発明の効果を適格に生かせる効果的な態様に限定するための特定事項であることが示されている。
したがって、本件特許発明1において特定された数値範囲において、効果を奏するための技術的意義が本件特許明細書の一般的記載や実施例において明らかにされているのであるから、技術的意義がないことを前提として数値範囲を調整することが当業者が容易に行えたものであるということはできない。
よって、上記特許異議申立人の進歩性欠如の主張も採用できない。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、相違点3-1,相違点4-1,相違点5-1を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2は、本件特許発明1に、「500ppb以上のマルトール、100ppb以上のエチルマルトール、3ppb以上のオクタン酸エチル、および50ppb以上の2-ウンデカノンからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含む」ことを特定した発明である。
したがって、本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2は、甲1発明と、「フレーバーを含有する透明飲料」の点で一致し、上記(1)のアで認定した相違点1-1?相違点5-1に相当する点に加えて、以下の相違点6-2で相違する。

相違点6-2:本件特許発明2は、500ppb以上のマルトール、100ppb以上のエチルマルトール、3ppb以上のオクタン酸エチル、および50ppb以上の2-ウンデカノンからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含むのに対して、甲1発明では、マルトール、エチルマルトール、オクタン酸エチル、および2-ウンデカノンからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含むことは特定されていない点。

イ 判断
上記(1)の本件特許発明1に関してのイ?ウで判断したのと同様に、本件特許発明2は、相違点3-1,4-1,5-1,6-2を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2?7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2において、「純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下である」点を限定した点でのみ本件特許発明1又は2と異なる発明であるから、甲第4?7号証にニアウォーターの透明に関連する記載があるとしても、上記(1)及び(2)で検討したのと同様に、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ではなく、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2?7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 異議申立理由1及び2の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1,3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、本件特許発明1?3は、甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証?甲第7号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができるものとはいえないので、異議申立理由1,2には、理由がない。

異議申立理由3(サポート要件)について
特許異議申立人は、第3 3に記載のようにサポート要件について理由を述べている。
1 異議申立理由3の概要
(1)異議申立理由3-1:請求項1?3に係る発明について、本件特許発明の構成によりマスキングすることのできるオフフレーバー成分として、α-ターピネオールを成分として含んでいるその他の果実フレーバーの場合に、不快なオフフレーバーを抑制できるのか認識できないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備である。

(2)異議申立理由3-2:請求項1?3に係る発明について、甲第1号証の記載からみて、バナナ様フルーツ香料組成物(バナナ香料)において、α-ターピネオールが500ppb以上であっても、劣化臭ではなく、バナナ様の香りを構成する一成分として積極的に含まれており、オフフレーバーをマスキングして課題を解決することが認識できないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備である。

2 判断
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0006】?【0008】の「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
果実様フレーバーを含有する飲料のなかでも、特にフレーバードウォーターのような透明な飲料では、白濁または混濁した飲料に比べて、揮発性成分のリリースがよく、異臭や異味の原因となる物質が直接に消費者の舌や鼻に到達しやすいことから、フレーバーの劣化が目立ちやすいことに本発明者らは気が付いた。
【0007】
上述の通り、果実フレーバーの劣化抑制方法は種々提案されているが、フレーバードウォーターのような飲料の透明度を維持しつつ、果実フレーバーの劣化を抑制することは、実際には困難であった。また、含有成分量の比較的少ない透明飲料では、従来報告されているような劣化抑制剤を添加すると、飲料の味わいのバランスが崩れやすく、飲料の自然な酸味や果汁感を維持しながら劣化した香味を感じさせにくくすることも困難であった。本発明は、果実フレーバーの劣化による異味や異臭が感じられにくく、かつ、透明さを保持しており、さらに、自然な酸味または果汁感を有する、新規な飲料を提供することを目的とする。
・・・
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、果実フレーバーを配合した透明飲料において、乳性飲料に含まれる香気成分を特定の範囲の量で含有させることにより、飲料の透明さを維持しながら、果実フレーバーの劣化による異味や異臭が感じられにくく、また、自然な酸味または果汁感を有する飲料を提供できることを見出し、本発明を完成させた。」(下線は当審にて追加。以下同様。)の記載及び本件特許明細書全体の記載からみて、本件特許発明の課題は、果実フレーバーの劣化による異味や異臭が感じられにくく、かつ、透明さを保持しており、さらに、自然な酸味または果汁感を有する、飲料を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「容器詰め透明飲料」として、「フレーバーを含み、500ppb以上のα-ターピネオールを含み、100?5000ppbのバニリンを含」むこと、「波長660nmの吸光度が0.06以下であ」ること、「糖用屈折計示度(Brix)が3.0?10.0である」ことを特定した物の発明が記載され、請求項2には、請求項1において、「500ppb以上のマルトール、100ppb以上のエチルマルトール、3ppb以上のオクタン酸エチル、および50ppb以上の2-ウンデカノンからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含む」ことを特定した物の発明が、請求項3には、請求項1又は2において、「純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下である」ことを特定した物の発明が、それぞれ記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、【0008】?【0010】には、本件特許発明の構成に基づく効果に関する記載、【0011】?【0013】には、本件特許発明における果実フレーバー、果実フレーバーにおける「果実」の技術的意味や例示、不快な異味や異臭(オフフレーバー)の技術的意味や例示の記載として、α-ターピネオールがあり、その濃度の数値範囲の下限の技術的意義と測定手法の記載がある。
また、【0014】?【0020】には、本件特許発明に含まれる乳性飲料に見られるバニリン等の香気成分やその濃度範囲、量の測定方法に関する記載があり、【0021】【0022】には、透明飲料について、「透明」の意味や測定手法、純水を基準としたΔE値により特定した「無色」の技術的意味に関する記載がある。
さらに、【0023】?【0025】には、その他の成分としての甘味料、酸味料の例示、各酸味料の好ましい濃度範囲や技術的意義、ナトリウム等のミネラルの例示、ナトリウムの好ましい濃度と技術的意義に関する記載もある。
そして、【0026】【0027】には、飲料のBrix値と測定手法と技術的意義、加熱殺菌条件等や容器詰飲料としての透明な容器等に関する記載もなされている。
さらに、具体例においては、【0029】には、飲料中の香気成分の定量方法の記載が、【0030】?【0035】には、参考例1、2として、透明な試作品の果実フレーバーの劣化臭が目立ちやすいことや、α-ターピネオールを500ppb以上となるように添加すると飲みやすさが低下することを示す具体的結果が示されている。
そして、【0036】?【0048】には、バニリン、マルトール、エチルマルトール、オクタン酸エチル、2-ウンデカノンを特定量添加すると果実フレーバーの劣化臭が感じられにくくなることを示す具体的結果(実施例1)、それらの香気成分を組み合わせた場合にも果実フレーバーの劣化臭の抑制効果が示された具体的結果(実施例2)、酸味料をクエン酸だけでなく、乳酸やグルコン酸も添加した場合に劣化臭の抑制効果が高まることを示した具体的結果(実施例3)、バニリンにナトリウムを特定量加えることで、劣化臭の抑制効果が高まることを示した具体的結果(実施例4)が示されている。

(5)判断
ア 発明の詳細な説明においては、特定濃度以上α?ターピネオールを含む、フレーバーを配合した透明飲料において、乳性飲料に含まれる香気成分であるバニリンを特定の範囲の量で含有させ、低Brix値の場合に、飲料の透明さを維持しながら、果実フレーバーの劣化による異味や異臭が感じられにくく、自然な酸味または果汁感を有する飲料としたことを技術思想とする本件特許発明に関して、上記(4)に記載したように、発明特定事項に関連した、本件特許発明における果実フレーバー、果実フレーバーにおける「果実」の技術的意味や例示の記載、不快な異味や異臭(オフフレーバー)の技術的意味や例示の記載があり、オフフレーバーの例示としてのα-ターピネオールがあり、その濃度の数値範囲の下限の技術的意義と測定手法の記載、本件特許発明に含まれるバニリン等乳性飲料に見られる香気成分やその濃度範囲、成分の組み合わせに関する記載、それら香気成分量の測定方法に関する記載、透明飲料についての「透明」の意味や測定手法、純水を基準としたΔE値により特定した「無色」の技術的意味に関する記載、甘味料、酸味料の例示、各酸味料の好ましい濃度範囲や技術的意義、ミネラルの一例としてナトリウムの好ましい濃度と技術的意義に関する記載、飲料のBrix値と測定手法と技術的意義、加熱殺菌条件等や容器詰飲料としての透明な容器等に関する記載もなされ、実施例においては、バニリン(100?5000ppb)、マルトール(500?50000ppb)、エチルマルトール(100?30000ppb)、オクタン酸エチル(3?10ppb)、2-ウンデカノン(50?500ppb)を特定量添加すると果実フレーバーの劣化臭が感じられにくくなることを示す具体的結果やそれらの香気成分を組み合わせた場合や酸味料を換えた場合やバニリンにナトリウムを特定量加えた場合にも、劣化臭の抑制効果があることを示した具体的結果も示されている。
したがって、当業者であれば、発明の詳細な説明に記載された、上記飲料の含有成分の数値範囲の技術的意義等の記載や、それを裏付ける具体的結果等の記載を参考にすることによって、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえ、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

イ 特許異議申立人は、上記異議申立理由3-1として、本件特許発明の構成によりマスキングすることのできるオフフレーバー成分として、α-ターピネオールを成分として含んでいるその他の果実フレーバーの場合であっても不快なオフフレーバーを抑制できるのか認識できない旨主張している。
しかしながら、α-ターピネオールは、果実フレーバーが劣化して生成するものの例示として挙げたオフフレーバー成分にすぎない上、具体例においても、その他のオフフレーバーも含めて全体として本件特許発明の課題が解決できていることは、本件特許明細書の一般的記載や具体的結果により裏付けられている。
上述のとおり、本件特許発明は、特定濃度以上α?ターピネオールを含む、フレーバーを配合した透明飲料において、乳性飲料に含まれる香気成分であるバニリンを特定の範囲の量で含有させることにより、飲料の透明さを維持しながら、果実フレーバーの劣化による異味や異臭が感じられにくく、自然な酸味または果汁感を有する飲料としたことを技術思想とする発明であって、特許異議申立人は、具体的にα-ターピネオールを成分として含んでいる、どの果実のオフフレーバー成分の場合に劣化臭の問題が解決できないか(不快なオフフレーバーの問題を生じていること)を示しているわけでもない。
したがって、α-ターピネオールを成分として含んでいるその他の果実の場合の具体例の記載がないからといって、本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるとの上記結論に影響はなく特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ 特許異議申立人は、上記異議申立理由3-2として、請求項1?3に係る発明について、甲第1号証の実施例51?60のバナナ様フルーツ香料組成物(バナナ香料)において、α-ターピネオールが500ppb以上であっても、劣化臭ではなく、バナナ様の香りを構成する一成分として積極的に含まれており、オフフレーバーをマスキングして課題を解決することが認識できない旨主張している。
しかしながら、甲第1号証の実施例の記載から透明飲料中の特定の香料成分の濃度を計算できないことは異議申立理由1及び2の検討で述べたとおりであるし、α-ターピネオールに関して、その成分がたまたま一定量以上でも問題のない(オフフレーバーの問題を生じない)場合の組成物の例が他の文献に記載されているからといって、本件特許発明の課題が解決できない(オフフレーバーの問題を生じ、解決できない)と理解する理由にはならない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由3の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、異議申立理由3には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1?3に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-11 
出願番号 特願2016-123311(P2016-123311)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 瀬良 聡機
関 美祝
登録日 2020-09-03 
登録番号 特許第6758101号(P6758101)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 果実フレーバーを含有する透明飲料  
代理人 山本 修  
代理人 梶田 剛  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  
代理人 武田 健志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ