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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1374980
異議申立番号 異議2021-700256  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-09 
確定日 2021-06-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6753118号発明「光学フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753118号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特許第6753118号の請求項1?請求項15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願は、平成28年4月6日に出願され、令和2年8月24日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年3月9日に特許異議申立人 塩谷由紀子(以下「特許異議申立人」という。)から、請求項1?請求項15に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?請求項15に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明15」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1及び請求項12?請求項15に係る発明は、以下のものである。
「【請求項1】
樹脂Aを主成分とするフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層を積層した積層フィルムであって、少なくとも1層に紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有し、波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上であり、前記樹脂Aを主成分とするフィルムが紫外線吸収剤を含み、前記樹脂B層が可視光線吸収色素を含む、光学フィルム。」

「【請求項12】
樹脂Aを主成分とするフィルムであって、紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有し、波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上であり、前記可視光線吸収色素の少なくとも1種類が、アントラキノン、アゾメチン、インドール、トリアジン、ナフタルイミド、フタロシアニンのいずれかの骨格を有する、光学フィルム。
【請求項13】
樹脂Aを主成分とするフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層を積層した積層フィルムであって、少なくとも1層に紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有し、波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上であり、前記可視光線吸収色素の少なくとも1種類が、アントラキノン、アゾメチン、インドール、トリアジン、ナフタルイミド、フタロシアニンのいずれかの骨格を有する、光学フィルム。
【請求項14】
請求項1?13のいずれかに記載の光学フィルムを用いた画像表示装置。
【請求項15】
請求項1?13のいずれかに記載の光学フィルムを用いた車載用ディスプレイ。」
なお、請求項2?請求項11に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに他の発明特定事項を付加した「光学フィルム」の発明である。

3 特許異議申立ての概要
特許異議申立人は、証拠として甲1を提出するとともに、本件特許発明1?本件特許発明15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1に記載された発明)に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである、と主張する。
ここで、甲1は以下のものである。
甲1:国際公開第2009/150992号

第2 当合議体の判断
1 甲1の記載及び甲1発明
(1)甲1の記載
本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、例えば鉄道車両、自動車、自動販売機等の表面に貼付して用いられるマーキング用フィルムの表面保護、光沢向上、変退色・劣化防止等を目的としたオーバーレイフィルムや、外装看板の表面保護用フィルム、液晶ディスプレイ反射防止用シート、太陽電池用バックシート、電子ペーパー用フィルム、プラズマディスプレーの電磁波遮蔽性フィルム、有機エレクトロルミネッセンス用フィルム、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルムの基材、反射板の基材、集光板の基材、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる耐候性樹脂基材及び光学部材に関するものである。
背景技術
[0002] 通常、高分子フィルムは酸素が存在すると、紫外線照射による光酸化反応によって分子鎖の切断が生じ、強度劣化、ヘイズ上昇、黄変等による透明性、色調の低下が生じる(紫外線劣化)。また、太陽光の紫外線は波長295?400nmであり、この領域の光のエネルギーは、C、H、Oの結合エネルギーと同等のエネルギーを有する。そのため、主としてC、H、Oの結合からなるプラスチック成形品は、紫外線が照射されるとその結合が崩壊し、樹脂の劣化、変色、機械強度の低下を伴う恐れがあり、屋外にて長期間安定して使用することができない。このため、従来より高分子フィルムに光安定剤を配合し、得られる高分子フィルムの耐候性を向上させる手法が一般によく知られている。
・・省略・・
[0004] 紫外線吸収剤とは、紫外線等を吸収し、分子内で吸収したエネルギーを、熱、燐光、蛍光等に低エネルギー化して放出する光安定剤であり、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系等が実用化されている。
・・省略・・
[0007] しかしながら、高分子フィルムの中に紫外線吸収剤等の光安定剤を含有させても、表面は十分に紫外線の影響を排除できず、高分子樹脂の極表面での劣化を抑えることができない。また、十分な耐候性を得るためには、光安定剤を十分量含有させる必要があるが、熱、水分の環境に晒されると、ブリードアウト、昇華等が発生し、光安定剤が失われ、耐候性の低下、透明性の低下、ヘイズの上昇等を招く。また、光安定剤は高価なものであり、大幅なコストアップを招く。
・・省略・・
発明が解決しようとする課題
[0012] 本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、熱、光及び水分による影響を受けても十分な耐候性を有する耐候性樹脂基材及び光学部材を提供することである。」

イ 「課題を解決するための手段
[0013] 本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
[0014] 1.光安定剤を含有する樹脂基材の少なくとも片面に、SiまたはAlを含む酸化物、窒酸化物または窒化物を主成分とするセラミック層を少なくとも1層有し、かつ、水蒸気透過率(JIS K7129-1992 B法、40℃、90%RH条件下)が、0.01g/(m^(2)・24h)以下であることを特徴とする耐候性樹脂基材。
[0015] 2.前記樹脂基材の樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであることを特徴とする前記1に記載の耐候性樹脂基材。
・・省略・・
[0021] 8.前記樹脂基材の少なくとも片面にポリマー層を有し、該ポリマー層の上にセラミック層が設けられていることを特徴とする前記1?7のいずれか1項に記載の耐候性樹脂基材。
・・省略・・
[0023] 10.前記ポリマー層が光安定剤を含有することを特徴とする前記8または9に記載の耐候性樹脂基材。
[0024] 11.前記1?10のいずれか1項に記載の耐候性樹脂基材を用いることを特徴とする光学部材。
発明の効果
[0025] 本発明により、熱、光及び水分による影響を受けても十分な耐候性を有する耐候性樹脂基材及び光学部材を提供することができた。」

ウ 「発明を実施するための形態
[0027] 本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、光安定剤を含有する樹脂基材の少なくとも片面に、SiまたはAlを含む酸化物、窒酸化物または窒化物を主成分とするセラミック層を少なくとも1層有し、かつ、水蒸気透過率(JIS K7129-1992 B法、40℃、90%RH条件下)が、0.01g/(m^(2)・24h)以下である耐候性樹脂基材により、熱、光及び水分による影響を受けても十分な耐候性を有する耐候性樹脂基材及び光学部材が得られることを見出し、本発明に至った次第である。
[0028] 本発明では、セラミック層が、劣化の原因である酸素、水分を遮断することで表面の劣化を防止し、樹脂基材中の光安定剤(UV吸収剤等)がUVによる光酸化を防止し、セラミック層を設けることにより光安定剤のブリードアウトを抑制することにより、屋外で長期に使用しても、黄変、機械強度劣化、ヘイズUP等の劣化がない耐候性樹脂基材が得られるものと思われる。
[0029] 以下、本発明を詳細に説明する。
[0030] 本発明の耐候性樹脂基材は、樹脂基材上に、少なくともSiまたはAlを含む酸化物、窒酸化物、窒化物を主成分とするセラミック層を少なくとも1層有し、かつ、水蒸気透過率(JIS K7129-1992 B法、40℃、90%RH条件下)が、0.01g/(m^(2)・24h)以下であることを特徴とする耐候性樹脂基材である。
[0031] 《樹脂基材》
本発明において樹脂基材とは、樹脂フィルム単体、または樹脂フィルムの片面または両面にポリマー層等の有機層を積層した樹脂フィルムをいう。本発明の耐候性樹脂基材は、この樹脂基材の少なくとも片面に後述するセラミック層を設けたものである。
[0032] 本発明に用いられる樹脂フィルムは、上記有機層やセラミック層を保持することができる樹脂フィルムであれば特に限定されるものではない。
[0033] 樹脂フィルムを構成する樹脂としては、具体的には、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン-パーフロロプロピレン-パーフロロビニルエーテル-共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
・・省略・・
[0039] 基材フィルムを構成する樹脂のうち、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン-2,6-ナフタレートに代表される芳香族ポリエステル、ナイロン6やナイロン66に代表される脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、ポリカーボネート等が好ましい。これらの中、芳香族ポリエステル、さらにはポリエチレンテレフタレート及びポリエチレン-2,6-ナフタレートが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートが好ましい。
・・省略・・
[0043] 《光安定剤》
本発明に係る樹脂基材は光安定剤を含有する。また、後述するポリマー層は光安定剤を含有することが好ましい。さらに好ましくは、樹脂フィルムにもポリマー層にも光安定剤を含有することが好ましい。
[0044] 本発明に用いられる光安定剤としては、例えば紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等が挙げられ、このような光安定剤としては、ヒンダードアミン系、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、ベンゾエート系、蓚酸アニリド系等の有機系の光安定剤、あるいはゾルゲル等の無機系の光安定剤を用いることができる。好適に用いられる光安定剤の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
・・省略・・
[0046] 本発明においては、紫外線吸収剤またはヒンダードアミン系光安定剤を用いることが好ましく、さらには、これらを併用して用いることがより好ましい。
[0047] 好ましい光安定剤の含有量は、ポリマー層に含有する場合、バインダーに対して0.1?30質量%である。さらに好ましくは5?20質量%である。含有量が0.1質量%未満では十分な耐候(光)性を得ることができず、30質量%を超えるとポリマー層の透明性が損なわれ、好ましくない。
[0048] また、樹脂フィルムに含有する場合、好ましい光安定剤の含有量は、樹脂基材に対して0.1?5質量%である。さらに好ましくは0.2?3質量%である。含有量が0.1質量%未満では紫外線劣化防止効果が小さく、5質量%を超えると樹脂フィルムの製膜特性が低下し、好ましくない。
・・省略・・
[0054] 樹脂フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、ポリエステルフィルム中に光安定剤として紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤としては、紫外線吸収剤、例えばサリチル酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、及びトリアジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、環状イミノエステル系化合物等を挙げることができるが、380nmでの紫外線カット性、色調及びポリエステル中への分散性の点からトリアジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物が特に好ましい。
・・省略・・
[0222] 《ポリマー層》
本発明においては、樹脂基材と前記セラミック層の間に、ポリマー層を設けることが好ましく、ポリマー層には光安定剤を含有することが好ましい。
・・省略・・
[0224] 本発明において、これらポリマー層は、光硬化性または熱硬化性の樹脂を主成分とすることが好ましい。
・・省略・・
[0230] 本発明においては、ポリマー層中に、光硬化反応を抑制しないような酸化防止剤を用いることができる。例えば、ヒンダードフェノール誘導体、チオプロピオン酸誘導体、ホスファイト誘導体等を挙げることができる。具体的には、例えば、4,4′-チオビス(6-tert-3-メチルフェノール)、4,4′-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)メシチレン、ジ-オクタデシル-4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルベンジルホスフェート等を挙げることができる。
・・省略・・
[0236] また、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする本発明に係るポリマー層には、前述の光安定剤を含んでいることが好ましい。
・・省略・・
[0239] 《光学部材》
本発明により作製される耐候性樹脂基材は、幅広い分野に応用することができる。例えば、鉄道車両、自動車、自動販売機等の表面に貼付して用いられるマーキング用フィルムの表面保護、光沢向上、変退色・劣化防止等を目的としたオーバーレイフィルムや、外装看板の表面保護用フィルム、液晶ディスプレイ反射防止用シート、太陽電池用バックシート、電子ペーパー用フィルム、プラズマディスプレーの電磁波遮蔽性フィルム、有機エレクトロルミネッセンス用フィルム、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルムの基材、反射板の基材、集光板の基材、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる。特に、紫外線に晒される環境下で使用され、紫外線に晒されることにより、基材の光学性能、例えば、透過率、反射率、ヘイズ、色味等や、機械強度が変化することにより、その機能が大きく損なわれる光学部材に好適である。具体的には液晶ディスプレイ反射防止用シート、太陽電池用バックシート、電子ペーパー用フィルム、プラズマディスプレーの電磁波遮蔽性フィルム、有機エレクトロルミネッセンス用フィルム、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルムの基材、反射板の基材、ビニールハウス用フィルム等の光学部材が挙げられる。さらに、屋外で使用される部材にはさらに好適である。具体的には太陽電池用バックシート、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルムの基材、反射板、集光板、ビニールハウス用フィルム等が挙げられる。」

エ 「[0248] 実施例
〔試料1の作製〕
〈樹脂基材1の作製〉
酢酸マグネシウム、三酸化アンチモン、リン酸を用いて重合し、ポリエステルA1を得た。該ポリエステルA1と紫外線吸収剤として2,2′-(1,4-フェニレン)ビス-(4H-3,1-ベンズオキサジン-4-オン)をベント付き2軸押出機にて紫外線吸収剤が15質量%となるようにコンパウンドし、紫外線吸収剤入りポリエステルA2を得た。ポリエステルA1とポリエステルA2を紫外線吸収剤が全体のポリエステルに対し0.5質量%となるように仕込み、先ず150℃にて2時間真空乾燥した後、引き続き175℃で3時間真空乾燥し、278℃で溶融押出して、キャスティングドラムにて、テープ状の電極で静電印加しながら、キャスト上で急冷固化し、未延伸フィルムを得た。これを75℃で予熱し、ラジエーションヒーターを併用しながら80℃のロールにて、長手方向に3.3倍延伸し一軸延伸フィルムとした。この後、該一軸延伸フィルムの両面に、積層膜として易滑剤(粒径0.1μmのコロイダルシリカ固形分比0.35質量部)を含む水分散性アクリル系樹脂(濃度4.0質量%)を#4のメタバーにて両面に塗布した後、110℃で幅方向に3.6倍延伸し、220℃で熱処理して、全体の膜厚が125μmの二軸延伸の樹脂基材1(光安定剤含有)を得た。
・・省略・・
〔試料2の作製〕
樹脂基材1(光安定剤含有)の片面に、下記塗工液1(光安定剤含有)をグラビアコーターにて、塗布量が固形分で5g/m^(2)となるように塗工し、乾燥温度60℃の条件で乾燥し、ポリマー層を形成した。このポリマー層の上に、試料1と同様にして、セラミック層を設け、試料2を作製した。
[0252] (塗工液1の調製)
メチルメタクリレート65質量%、2-ヒドロキシエチルメタクリレート35質量%を共重合し、平均分子量50000の水酸基導入メタクリル酸エステル樹脂を得た。この樹脂に対して、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ペンチルフェノール(TINUVIN328;チバ・ジャパン(株)製)を5質量%、光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤であるデカン二酸ビス[2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル]エステル(TINUVIN123;チバ・ジャパン(株)製)を5質量%配合し、粘度調整のためメチルエチルケトンにて希釈し、固形分が20質量%となるよう調整した主剤(a)を得た。一方、架橋剤(硬化剤)となるポリイソシアネート化合物として、アダクト型のヘキサメチレンジイソシアネートをメチルエチルケトンで固形分が75質量%となるように調整した硬化剤(b)を得た。上記主剤(a)に対して、上記硬化剤(b)を15質量%添加して塗工液1を調製した。
[0253] (塗工液2の調整)
上記で用意したポリマー層用塗布液に、この樹脂に対して、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ペンチルフェノール(TINUVIN328;チバ・ジャパン(株)製)を5質量%、光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤であるデカン二酸ビス[2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル]エステル(TINUVIN123;チバ・ジャパン(株)製)を5質量%配合し、粘度調整のためメチルエチルケトンにて希釈し、固形分が20質量%となるよう調整した。
・・省略・・
[0260] 〔試料7の作製〕
樹脂基材1の片面に塗工液1をグラビアコーターにて、塗布量が固形分で5g/m^(2)となるように塗工し、60℃で乾燥し、試料7を作製した。」

(2)甲1発明
ア 甲1の[0014]及び[0024]の記載からは、次の「光学部材」の発明を把握できる。
「光安定剤を含有する樹脂基材の少なくとも片面に、SiまたはAlを含む酸化物、窒酸化物または窒化物を主成分とするセラミック層を少なくとも1層有し、かつ、水蒸気透過率(JIS K7129-1992 B法、40℃、90%RH条件下)が、0.01g/(m^(2)・24h)以下である耐候性樹脂基材を用いた光学部材。」

イ ここで、甲1の[0031]には、「本発明において樹脂基材とは、樹脂フィルム単体、または樹脂フィルムの片面または両面にポリマー層等の有機層を積層した樹脂フィルムをいう。」と記載されている。また、甲1の[0043]には、「本発明に係る樹脂基材は光安定剤を含有する。」及び「樹脂フィルムにもポリマー層にも光安定剤を含有することが好ましい。」と記載されている。さらに、光安定剤に関して、甲1の[0044]には、「本発明に用いられる光安定剤としては、例えば紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等が挙げられ」と記載されている。
そして、甲1の[0054]には、「樹脂フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、ポリエステルフィルム中に光安定剤として紫外線吸収剤を含有させることが好ましい」こと、及び「380nmでの紫外線カット性、色調及びポリエステル中への分散性の点からトリアジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物が特に好ましい」ことが記載されている。加えて、甲1の[0224]には、「本発明において、これらポリマー層は、光硬化性または熱硬化性の樹脂を主成分とすることが好ましい。」と記載されている。

ウ 以上勘案すると、甲1には、樹脂基材がポリエステルフィルムの片面にポリマー層を積層した樹脂フィルムである光学部材として、次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「光安定剤を含有する樹脂基材の少なくとも片面に、Si又はAlを含む酸化物、窒酸化物又は窒化物を主成分とするセラミック層を少なくとも1層有し、かつ、水蒸気透過率(JIS K7129-1992 B法、40℃、90%RH条件下)が、0.01g/(m^(2)・24h)以下である耐候性樹脂基材を用いた光学部材であって、
樹脂基材は、ポリエステルフィルムの片面にポリマー層を積層した樹脂フィルムであり、ポリエステルフィルムにもポリマー層にも光安定剤を含有し、光安定剤は、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等であり、
ポリエステルフィルムは、光安定剤として紫外線吸収剤を含有し、紫外線吸収剤は、380nmでの紫外線カット性、色調及びポリエステル中への分散性の点からトリアジン系化合物又はベンゾオキサジノン系化合物であり、
ポリマー層は、光硬化性又は熱硬化性の樹脂を主成分とする、
光学部材。」

2 本件特許発明1についての当合議体の判断
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 積層フィルム
甲1発明の「樹脂基材」は、「ポリエステルフィルムの片面にポリマー層を積層した樹脂フィルムであ」る。また、甲1発明の「ポリマー層」は、「光硬化性又は熱硬化性の樹脂を主成分とする」。
上記構成からみて、引用発明の「樹脂基材」は、「ポリエステル」を主成分とする「フィルムの片面に」「光硬化性又は熱硬化性の樹脂を主成分とする」「ポリマー層」を積層した、積層フィルムといえる。
そうしてみると、甲1発明の「ポリエステルフィルム」、「ポリマー層」及び「樹脂基材」は、それぞれ本件特許発明1の「樹脂Aを主成分とするフィルム」、「硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層」及び「積層フィルム」に相当する。また、甲1発明の「樹脂基材」は、本件特許発明1の「積層フィルム」における、「樹脂Aを主成分とするフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層を積層した」という要件を満たす。

イ 紫外線吸収剤
甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、「光安定剤として紫外線吸収剤を含有」する。
そうしてみると、甲1発明の「光学部材」は、本件特許発明1の「光学フィルム」における、「少なくとも1層に紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有し」という要件を満たす。また、甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、本件特許発明1の「前記樹脂Aを主成分とするフィルム」における「紫外線吸収剤を含み」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は、次の構成で一致する。
「樹脂Aを主成分とするフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層を積層した積層フィルムであって、少なくとも1層に紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有し、前記樹脂Aを主成分とするフィルムが紫外線吸収剤を含む、光学フィルム。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1は、「樹脂B層が可視光線吸収色素を含む」とともに、「光学フィルム」が「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上」という要件を満たすものであるのに対して、甲1発明は、「ポリマー層」が「可視光線吸収色素」を含むとはいえず、また、「光学部材」の光線透過率は判らない点。

(3)判断
ア 相違点について
甲1の[0002]には、「太陽光の紫外線は波長295?400nmであり、この領域の光のエネルギーは、C、H、Oの結合エネルギーと同等のエネルギーを有する。そのため、主としてC、H、Oの結合からなるプラスチック成形品は、紫外線が照射されるとその結合が崩壊し、樹脂の劣化、変色、機械強度の低下を伴う恐れがあり、屋外にて長期間安定して使用することができない。このため、高分子フィルムに光安定剤を配合し、得られる高分子フィルムの耐候性を向上させる手法が一般によく知られている。」と記載されている。また、甲1[0012]、[0028]及び[0025]には、それぞれ「本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、熱、光及び水分による影響を受けても十分な耐候性を有する耐候性樹脂基材及び光学部材を提供することである。」、「本発明では、セラミック層が、劣化の原因である酸素、水分を遮断することで表面の劣化を防止し、樹脂基材中の光安定剤(UV吸収剤等)がUVによる光酸化を防止し、セラミック層を設けることにより光安定剤のブリードアウトを抑制することにより、屋外で長期に使用しても、黄変、機械強度劣化、ヘイズUP等の劣化がない耐候性樹脂基材が得られるものと思われる。」及び「本発明により、熱、光及び水分による影響を受けても十分な耐候性を有する耐候性樹脂基材及び光学部材を提供することができた。」と記載されている。
上記記載からみて、甲1において、光学部材の劣化の原因として考慮されている波長帯域は、「295?400nm」であると考えられる。また、甲1には、400nm?410nmの波長帯域における光による影響についての記載はない。したがって、甲1には、少なくとも波長400?410nmにおける光線透過率を10%以下にすることについての記載やそれを示唆する記載もないといえる。
そうしてみると、甲1発明の「光学部材」は、「295?400nm」の光線透過率を低下させた発明と解するのが自然であり、また、甲1発明において「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下」とするように「光学部材」の光線透過率を設計するための動機付けがあるとも認められない。

この点は、甲1発明の構成からも確認される。
甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、「光安定剤として紫外線吸収剤を含有し」たものであり、また、「紫外線吸収剤」は、「380nmでの紫外線カット性、色調及びポリエステル中への分散性の点からトリアジン系化合物又はベンゾオキサジノン系化合物」としたものである。
そうしてみると、甲1発明の「ポリエステルフィルム」に含まれる「紫外線吸収剤」は、「380nmでの紫外線カット性」と「色調」の両立を考慮したものといえるから、その光吸収波長帯域の長波長側の端部は、380nmを超えるところにあるとしても、400nmよりも長波長側にはないと考えるのが自然である。
また、甲1発明の「ポリマー層」に含まれる「光安定剤」についてみても、「紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等」である。そして、これら「光安定剤」の光吸収帯域が、410nmにまで及ぶとはいいがたい(後記イ参照。)。

さらにすすんで、甲1に記載された実施例について、上記相違点の要件を満たすか否かについても検討すると、以下のとおりである。
すなわち、甲1の実施例に用いられる樹脂基材1は、ポリエステルに紫外線吸収剤として「2,2′-(1,4-フェニレン)ビス-(4H-3,1-ベンズオキサジン-4-オン)」(以下「紫外線吸収剤1」という。)を含むポリエステルからなる(甲1[0248])。また、ポリマー層を形成する塗工液1及び塗工液2には紫外線吸収剤として「2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ペンチルフェノール(TINUVIN328;チバ・ジャパン(株)製)」(以下、「紫外線吸収剤2」という。)が含まれている(甲1[0252]、[0253])。そして、これら紫外線吸収剤の吸収スペクトルは、以下の図1及び図2のとおりである。


図1:紫外線吸収剤1の吸収スペクトル("GOYENCHEMUV-3638 CAS NO. 18600-59-4", UV Spectrum,[online], GYC Group,[令和3年5月17日検索],インターネットURL:https://goyenchemical.com/en/product/goyenchemuv-3638-cas-no-18600-59-4/)



図2:紫外線吸収剤2の吸収スペクトル(TI/EVF 1002 e, BASF Schweiz AG,2010年8月,p.2)

図1より、紫外線吸収剤1は、その吸収ピーク波長が350nm付近であり、380?400nmの波長帯域では吸収が極めて小さいものであることが読み取れる。また、図2より、紫外線吸収剤2は、その吸収ピーク波長が300nm付近であり、400?500nmの波長帯域では吸収が極めて小さいものであることが読み取れる。したがって、これらの紫外線吸収剤1及び紫外線吸収剤2を含んでいる甲1の実施例における試料において、少なくとも400?410nm付近の波長の光線透過率が10%以下となっているとは認められない。

イ 光安定剤について
甲1発明の「ポリマー層」に含まれる「光安定剤」は、「紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等であ」る。そこで、念のために、これら「紫外線吸収剤」、「ラジカル補足剤」及び「酸化防止剤」が、本件特許発明1の「可視光線吸収色素」に該当するかについて検討する。
まず「紫外線吸収剤」については、前記アで述べたとおりである。
次に、「ラジカル捕捉剤」は、技術的にみて、紫外線によって生じるラジカルを捕捉することにより光酸化反応を抑止する特性を有するものである。そうしてみると、甲1発明の「ラジカル捕捉剤」が「可視光線吸収色素」としての特性を有するものであるとまでいうことはできない。
最後に、「酸化防止剤」について、甲1[0230]には「光硬化反応を抑制しないような」ものである旨の記載があるが、その他甲1の記載から、甲1発明の「酸化防止剤」が「可視光線吸収色素」としての特性を有するものであるとまでいうことはできない。
なお、「紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、酸化防止剤等」に該当する化合物の中には、「可視光線吸収色素」としての特性を有する「光安定剤」もある。しかしながら、前記アで述べたとおり、甲1発明においては、「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下」とするように光学フィルムの光線透過率を設計する動機付けはなく、その他に、甲1発明の「ポリマー層」に含まれる「光安定剤」として、「可視光線吸収色素」としての特性を有する「光安定剤」を選択する動機付けがあるともいえない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1発明の構成が本件特許発明1における光線透過率を実現する構成と同じであり、紫外線吸収剤、可視光線吸収色素の添加量も一致したものであることから、甲1発明は、相違点に係る要件を満たしている蓋然性が高い旨及び相違点に係る要件は、発明の効果を奏するか否かについて規定しただけであり、そのような要件を満たす構成とすることに進歩性は認められない旨主張する。
しかしながら、上記「イ 光安定剤について」に記載のように、甲1発明の「ポリマー層」に含まれる「光安定剤」が「可視光線吸収色素」としての特性を有するものであるとまでいうことはできず、また、紫外線吸収剤、可視光線吸収色素の添加量が一致しているとする根拠も明らかでない。
また、特許異議申立人は、甲1発明の「光安定剤」として例示されるベンゾトリアゾール系やトリアジン系の化合物は、本件特許の明細書の記載(【0026】)より、可視光線吸収色素としても用いることができるものであるため、ポリマー層にこれらの化合物を光安定剤として配合することは「樹脂B層が可視光光線吸収色素を含む」に相当し、この点について本件特許発明1と甲1発明とは一致する旨主張する。しかしながら、仮に甲1発明の「光安定剤」として例示されるベンゾトリアゾール系やトリアジン系の化合物の中に、「可視光線吸収色素」の特性を有する化合物があるとしても、甲1発明において、そのような物質が選択されることが特定されているわけではなく、また、甲1にもそのような選択をすることに関する記載や示唆はないことから、「樹脂B層が可視光光線吸収色素を含む」点について、本件特許発明1と甲1発明とが一致しているとは認めることはできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 本件特許発明12についての当合議体の判断
(1)対比
「樹脂Aを主成分とするフィルム」、「紫外線吸収剤」及び「光学フィルム」についての対比は、上記本件特許発明1における対比と同様である。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明12と甲1発明は、次の構成で一致する。
「樹脂Aを主成分とするフィルムであって、紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有する、光学フィルム。」

イ 相違点
本件特許発明12と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明12は、「可視光線吸収色素の少なくとも1種類が、アントラキノン、アゾメチン、インドール、トリアジン、ナフタルイミド、フタロシアニンのいずれかの骨格を有する」とともに、「光学フィルム」が「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上」という要件を満たすものであるのに対して、甲1発明は、「可視光線吸収色素」についての特定がなく、また、「光学部材」の光線透過率は判らない点。

(3)判断
上記本件特許発明1について検討したように、甲1発明において、「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下」とするように光学フィルムの光線透過率を設計する動機付けはない。したがって、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4 本件特許発明13についての当合議体の判断
(1)対比
「樹脂Aを主成分とするフィルム」、「樹脂B層」、「積層フィルム」、「紫外線吸収剤」及び「光学フィルム」についての対比は、上記本件特許発明1における対比と同様である。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明13と甲1発明は、次の構成で一致する。
「樹脂Aを主成分とするフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂Bを主成分とする樹脂B層を積層した積層フィルムであって、少なくとも1層に紫外線吸収剤、可視光線吸収色素のうち少なくとも1種類以上を含有する、光学フィルム。」

イ 相違点
本件特許発明13と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明13は、「可視光線吸収色素の少なくとも1種類が、アントラキノン、アゾメチン、インドール、トリアジン、ナフタルイミド、フタロシアニンのいずれかの骨格を有する」とともに、「光学フィルム」が「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下、波長440nmにおける光線透過率が80%以上」という要件を満たすものであるのに対して、甲1発明は、「可視光線吸収色素」についての特定がなく、また、「光学部材」の光線透過率は判らない点。

(3)判断
上記本件特許発明1について検討したように、甲1発明において、「波長380?410nmにおける光線透過率が10%以下」とするように光学フィルムの光線透過率を設計する動機付けはない。したがって、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5 他の請求項に係る発明についての当合議体の判断
(1)請求項1を引用する発明について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?本件特許発明11は、いずれも本件特許発明1に対してさらに他の構成を付加してなる「光学フィルム」の発明である。また、本件特許発明14は、上記「光学フィルム」を用いた「画像表示装置」の発明である。さらに、本件特許発明15は、上記「光学フィルム」を用いた「車載用ディスプレイ」の発明である。
そうしてみると、これらの発明は、本件特許発明1と同じ理由により甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)請求項12又は請求項13を引用する発明について
本件特許発明14は、本件特許発明12又は本件特許発明13における「光学フィルム」を用いた「画像表示装置」の発明である。さらに、本件特許発明15は、本件特許発明12又は本件特許発明13における「光学フィルム」を用いた「車載用ディスプレイ」の発明である。
そうしてみると、これらの発明は、本件特許発明12及び本件特許発明13と同じ理由により甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明2?本件特許発明11及び本件特許発明14?本件特許発明15は、いずれも、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第3 むすび
以上述べたとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-10 
出願番号 特願2016-76320(P2016-76320)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小久保 州洋  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 早川 貴之
関根 洋之
登録日 2020-08-24 
登録番号 特許第6753118号(P6753118)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 光学フィルム  

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