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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E01C
管理番号 1375264
審判番号 無効2018-800136  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-12-04 
確定日 2021-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6038846号発明「路面切削用の自走式道路切削機、特に大型切削機、および路面切削の方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6038846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6038846号の請求項1ないし6、11ないし14に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第6038846号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし6、11ないし14に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成26年 8月 1日 本件出願(特願2014-157748号;平成25年3月8日(パリ条約による優先権主張2012年3月8日、独国)に出願した特願2013-46747号の一部を新たな特許出願としたもの)
平成28年11月11日 設定登録(特許第6038846号)
平成30年12月 4日 本件無効審判請求、検証申出書
平成30年12月10日 請求人より上申書
平成31年 1月24日 審理事項通知(起案日)
平成31年 1月30日 請求人より口頭審理陳述要領書、検証物指示説明書
平成31年 2月 6日 請求人より口頭審理陳述要領書(2)
平成31年 2月 6日 第1回口頭審理、証拠調べ
平成31年 4月10日 無効事件答弁書
平成31年 4月23日 審理事項通知(起案日)
平成31年 4月25日 被請求人より上申書
令和 1年 5月16日 請求人より口頭審理陳述要領書(3)
令和 1年 5月17日 請求人より上申書
令和 1年 5月21日 請求人より口頭審理陳述要領書(4)
令和 1年 5月30日 被請求人より口頭審理陳述要領書
令和 1年 6月13日 第2回口頭審理
令和 1年 6月26日 審決予告(起案日)
令和 1年10月 1日 被請求人より訂正請求書及び審判事件答弁書
令和 1年11月27日 請求人より審判事件弁駁書
令和 1年12月24日 審理終結通知(起案日)

※本件無効審判事件についてされた証拠保全の申立て(証拠2018-980001号)について、平成31年1月30日(起案日)に証拠保全の申立てを認める旨の決定がなされた。


第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和1年10月 1日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に係る発明の記載「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され」を、
「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、前記切削ローラ(12)が垂直および進行方向に移動しないように垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?14も同様に訂正する)。

2.一群の請求項
訂正事項1に関し、本件訂正前の請求項2?14は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているところ、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?14は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1による訂正は当該一群の請求項〔1?14〕に対し請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について

(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載の「前記切削ローラ(12)」が、「垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され」ることについて、「垂直および進行方向に移動しないように」支持されることを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、上記の「前記切削ローラ(12)が垂直および進行方向に移動しない」ように前記機械フレーム(8)で支持される事項については、願書に添付した明細書の段落【0017】の「切削ローラハウジングを機械フレームで強固に支持し、それによって切削ローラを上下方向に強固に支持することができる。更に、切削ローラハウジングは、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように進行方向に強固に支持される。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

本件特許無効審判事件においては、訂正前の請求項1?6、11?14について無効審判の請求の対象とされているので、訂正前の請求項1?6、11?14に係る訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
訂正事項1により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項7?10に係る発明については、無効審判の請求の対象とされていないので、独立特許要件が課されるため、以下検討する。

訂正後の請求項7に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項7】
前記ベルトシュー(40)が、前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)を関節連結により受けるための凹状の受けソケット(48)を具備し、前記受けソケット(48)が前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)の、前記受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働することを特徴とする、請求項5または6に記載の自走式大型切削機。」

請求項5又は6を引用する訂正後の請求項7に記載された発明において特定されている「ベルトシュー(40)」が具備する「凹状の受けソケット(48)」が、「コンベヤベルト手段(18)の下端(44)の、受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働する」ことは、審判請求人の提出した各証拠には記載も示唆もされていない。
よって、訂正後の請求項7に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

次に、訂正後の請求項8に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項8】
前記コンベヤベルト手段(18)の前側上端(46)が、前記コンベヤベルト手段(18)の長手方向軸線に沿って直線的に変位可能であるように、カルダン継手により前記機械フレーム(8)に支持されることを特徴とする、請求項5?7のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。」

請求項5又は6を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8に記載された発明において特定されている「コンベヤベルト手段(18)の前側上端(46)」が、コンベヤベルト手段(18)の「長手方向軸線に沿って直線的に変位可能であるように、カルダン継手により機械フレーム(8)に支持される」ことは、審判請求人の提出した各証拠には記載も示唆もされていない。
よって、訂正後の請求項8に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

続いて、訂正後の請求項9?10に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項9】
可撓性の支持を確保するために、少なくとも前記コンベヤベルト手段(18)の前記前側上端(46)において、前記コンベヤベルト手段(18)が、前記コンベヤベルトの方向に延びかつ凸状の軸受面を有するコンベヤベルト側支持要素(52)を下側に具備し、前記支持要素(52)が、横方向に案内されるとともに、凸状の支持面を有しかつ前記機械フレーム(8)に進行方向に対して横断方向に固定されたフレーム側支持要素(56)に載置されることを特徴とする、請求項8に記載の自走式大型切削機。

【請求項10】
前記コンベヤベルト側支持要素(52)および/または前記フレーム側支持要素(56)が、丸みを帯びた断面の形状または中空形状により画定されることを特徴とする、請求項9に記載の自走式大型切削機。」

訂正後の請求項8に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであることは上記したとおりであるから、訂正後の請求項8に係る発明の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである、訂正後の請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項9?10に係る発明も、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項並びに第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正を認める。


第3 本件発明について
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1?6、11?14に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?6、11?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
高さ調節可能な車体(4)と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)と、
前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)に一体化された切削ローラ駆動ユニット(14)と、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するためのコンベヤベルト手段(18)であって、大型切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記コンベヤベルト手段(18)の下端を含めた前記切削ローラハウジング(10)とを変位させるように前記切削ローラハウジング(10)と協働する、前記コンベヤベルト手段(18)とを具備する路面(2)切削用の自走式大型切削機(1)であって、
前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、前記切削ローラ(12)が垂直及び進行方向に移動しないように垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され、前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、自走式大型切削機(1)において、
前記切削ローラハウジング(10)は、前記前車軸および後車軸の間に配置され、
作業を中断させることなく切削作業中に前記切削ローラ(12)を前記切削口ーラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記ゼロ側を、前記機械フレーム(8)の一方の前記外側面(26,28)またはその反対側の前記外側面(26,28)に選択的に画定することができ、
前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備することを特徴とする、自走式大型切削機。

【請求項2】
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させることを特徴とする、請求項1に記載の自走式大型切削機。

【請求項3】
前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドであることを特徴とする、請求項2に記載の自走式大型切削機。

【請求項4】
前記切削ローラ(12)の最大横走行距離が、500?1000mmの範囲であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。

【請求項5】
前記コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定されることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。

【請求項6】
前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結されることを特徴とする、請求項5に記載の自走式大型切削機。

【請求項11】
前記ベルトシュー(40)が、同期ガイド(60)を介して高さ調節可能であることを特徴とする、請求項5?10のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。

【請求項12】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であることを特徴とする、請求項1?11のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。

【請求項13】
前記進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端は、下縁(78)が高さ調節可能なストリッパシールド(64)と実質的に面一であり、前記ストリッパシールド(64)は、それぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備し、前記可動シールド要素(74)は、その下縁(78)が実質的に前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調整可能であり、高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であることを特徴とする、請求項1?12のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。

【請求項14】
請求項1に記載の自走式大型切削機(1)を用いた路面(2)の切削の方法であって、
前記自走式大型切削機(1)が、
横外側面(26,28)を含む機械フレーム(8)と、
切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)とを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の前記横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、路面(2)の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)を前記切削ローラ(12)にー体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、
切削作業中に前記切削ローラを前記切削ローラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備することを特徴とする、路面の切削の方法。」


第4 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1?6、11?14に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概ね以下のとおり主張している(審判請求書(以下「請求書」という。)、平成30年12月10日付け上申書(以下「請求人上申書1」という。)、平成31年1月30日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述書(1)」という。)、平成31年2月6日付け口頭審理陳述要領書(2)(以下「請求人陳述書(2)」という。)、令和元年5月16日付け口頭審理陳述要領書(3)(以下「請求人陳述書(3)」という。)、令和元年5月17日付け上申書(以下「請求人上申書(2)」という。)、令和元年5月21日付け口頭審理陳述要領書(4)(以下「請求人陳述書(4)」という。)、令和元年11月27日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)の記載並びに第2回口頭審理調書を参照。)。また、証拠方法として甲第1号証?甲第16号証を提出している。

1 無効理由の概要
(無効理由1)
本件特許の請求項1?3、12?14に係る発明は、検甲第1号証、甲第1号証?甲第5号証において立証される本件特許の出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(無効理由2)
本件特許の請求項4に係る発明は、検甲第1号証、甲第1号証?甲第5号証において立証される本件特許の出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)、及び甲第3号証、甲第8号証、甲第10号証に記載された技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(無効理由3)
本件特許の請求項5、6及び11に係る発明は、検甲第1号証、甲第1号証?甲第5号証において立証される本件特許の出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)、及び甲第9号証に記載された技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。

検甲第1号証 車台番号「MER6-10136」を有する酒井重工業株式会社製「ロードカッタER550F」
甲第1号証 証明願、範多機械株式会社 酒井重工業株式会社、平成30年12月6日
甲第2号証 登録識別情報等通知書、札幌運輸支局長、平成30年1月23日
甲第3号証 「ロードカッタER550F」カタログ、酒井重工業株式会社、2001年1月
甲第4号証 検甲第1号証の写真、範多機械株式会社、平成30年10月16日、11月21日
甲第5号証 検甲第1号証の動画(CD-R)、範多機械株式会社、平成30年10月16日、11月21日
甲第6号証 特開平9-21107号公報
甲第7号証 特開2009-13777号公報
甲第8号証 野田正治、「製品と技術 中型路面切削機CRP-160L型」、建設機械、Vol.26 No.5、平成2年5月1日、p.72-74
甲第9号証 特表2002-510000号公報
甲第10号証 畠中徹、「小型路面切削機CRP-120FL」、建設機械、Vol.26 No.4、平成2年4月1日、p.51-53
甲第11号証 証明願(2)、範多機械株式会社 酒井重工業株式会社、令和元年5月14日
甲第12号証 自動車の登録手続き、[online]、2019年5月13日印刷、四国運輸局、<URL:http://wwwtb.mlit.go.jp/shikoku/benri/shikibetsu.html>
甲第13号証 構造等変更検査、[online]、2019年5月13日印刷、国土交通省、<URL:http://www.mlit.go.jp/jidosha/kensatoroku/kensa/kns05.htm>
甲第14号証 保険の用語集、[online]、2019年5月13日印刷、SAISON AUTOMOBILE&FIRE INSURANCE CO.,LTD、<URL:https://faq-ins-saison.dga.jp/glossary/faq_detail.html?id=1028>
甲第15号証 改造している車は見積もりができますか?、[online]、2019年5月13日印刷、三井ダイレクト損保、<https://faq.mitsui-direct.co.jp/index.html?id=10089>
甲第16号証 登録識別情報等通知書、札幌運輸支局長、平成30年1月23日

2 具体的な理由
以下においては、書類名等を本審決での名称に合わせて適宜修正した。

(1)本件発明1について
ア 本件発明1と検甲1発明との対比及び本件発明1の容易想到性
(相違点1)
本件発明1では、車体(4)が高さ調整可能であるのに対して、検甲1発明では、車体(4)は高さ調整可能とはなってない。
(相違点2)
本件発明1では、切削ローラ(12)が進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように支持されているのに対して、検甲1発明では、切削ローラ(12)が進行方向に対して横断方向に可動であるのに加えて、鉛直方向に高さ調整可能に支持されている。

本件発明1において、車体(4)を高さ調整可能としているのは、車体(4)を高さ調整することで、切削ローラ(12)の高さを調整して、切削深さを調整することを目的するものである。
甲第6号証ないし甲第8号証に記載のように、車体の高さを調整することで、切削ローラの高さを調整して、切削深さを調整するという技術は、本件発明の出願時において、周知の技術に過ぎなかった。
路面切削機の技術分野においては、検甲1発明のように、切削ローラ自体の高さを調整して切削深さを調整する構成を採用するか、若しくは、甲第6号証ないし甲第8号証に記載のように、車体の高さを調整することで、切削ローラの高さを調整して、切削深さを調整する構成を採用するかは、本件発明の出願時において、当業者にとっては、単に、設計上の選択事項でしかない。
よって、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することには、動機付けが存在し、車体(4)の高さを調整して、切削ローラ(12)による切削深さを調整するようにすることは、当業者にとって、容易に想到することができるものである。
その際、検甲1発明における切削ローラハウジング(10)の鉛直方向の高さ調整機能は不要となるのであるから、当業者であれば、切削ローラハウジング(10)の鉛直方向の高さ調整機能を無くして、切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向にのみ可動するような構成とすることも、当然、容易に想到することができる。
よって、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、相違点1及び相違点2に、当業者は、容易に想到することができるものである。
(請求書33頁11行?34頁15行)

(2)本件発明2について
検甲1発明には、「切削ローラハウジング(10)を、機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させる。」との構成が備わっている。
よって、本件発明1が、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、当業者が容易に発明することができるものである限り、本件発明2も、同様に、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書34頁16行?23行)

(3)本件発明3について
本件発明3では、「軸受」との用語が用いられているが、そもそも、「軸受」とは、一般技術用語としては、軸の回転を円滑にさせるために用いられる部材を指すものである。しかし、本件発明3においては、その文脈より、軸の回転を円滑にさせるための部材との意義で、「軸受」との用語が用いられているものと解釈するのは困難である。
そこで、明細書及び添付図面を参酌すると、第1のガイド(34)は、油圧シリンダであると推察でき、第2のガイド(36)が何らかのガイドであることが明らかである。
よって、本件発明3では、「軸受」との用語については、一般技術用語としての意義で解釈するのではなく、第1のガイド(34)は、油圧シリンダであると解釈し、第2のガイド(36)は、何らかのガイドであると解釈するものとする。
すると、検甲1発明にも、「リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドである。」との同様の構成が備わっている。
よって、本件発明1が、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、当業者が容易に発明することができるものである限り、本件発明3も、同様に、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書34頁24行?35頁16行)

(4)本件発明4について
甲第3号証には、ドラムシフト量が左右とも450mmであることが開示されている。
甲第8号証「(5)切削ドラムユニット」には、ドラムユニットは左右、計400mmのシフトができることが記載されている。
甲第10号証の「4.切削ドラム」には、左右それぞれ125mm合計250mmスライドさせることができる旨が記載されている。
このように、切削ローラの移動距離をいかなる値とするかは、切削を行いたい道路の幅に応じて、決定されるものであり、当業者にとっては、単なる設計事項でしかない。
また、本件発明4において、切削ローラ(12)の最大横走行距離を、500?1000mmの範囲とすることに、臨界的意義は存在せず、切削ローラ(12)の最大横走行距離を、500?1000mmの範囲とするために、必要な構成が本件発明4において特定されているわけでもない。
よって、検甲第1号証の切削ローラ(12)の最大横走行距離を500?1000mmの範囲とすることは、当業者にとって、容易に発明することができる。
ゆえに、本件発明4は、検甲1発明、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術、及び甲第3号証、甲第8号証、又は甲第10号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書35頁17行?36頁7行)

(5)本件発明5について
本件発明5において、「ベルトシュー(40)」は、「コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるため」のものであると特定されている。
一方、検証の結果、検甲1発明において、「第1コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられて」いるものの、第1コンベアベルト部の下端を受けるための構成とはなっていないことが明らかとなった(証拠調べ調書 検証結果(16)並びに写真37及び写真38)。
よって、本件発明5と検甲1発明とは、以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明5において、ベルトシュー(40)は、コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのものであるのに対して、検甲1発明において、第1コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられているものの、第1コンベアベルト部の下端を受けるための構成とはなっていない。
これに対して、甲第9号証には、以下の事項が開示されている。
「【0024】ベルト・シュー16は、地表と平行に延在し、押さえ手段およびスライディング・シューの役をするグリッド28により構成される。グリッド28は、走行方向に平行に配向された複数のグリッド・バー32を備える。グリッド28の両側は、垂直方向の側壁33によって限定される。ベルト・シュー16の後端で、フロント・シート35が搬送手段10のコンベヤ・ベルト12とほぼ平行に延在する。ベルト・シューの後端に、コンベヤ・ベルト12を保護する保護シールド34が配置され、縁が鋭利な材料によるコンベヤ・ベルト12の損傷を防止する。走行方向にわずかに傾斜したシールド42には、上部にU字形のリセスがあり、浮いた材料の通過開口を形成する。」
すなわち、甲第9号証に記載のベルト・シュー16は、搬送手段10の下端を受けるためのグリッド28によって、構成されている。
検甲1発明の側板及び甲第9号証に記載のベルト・シュー16は、共に、コンベヤベルト手段の下端を保護するものであり、その目的を同一としている。
したがって、検甲1発明の側板を、甲第9号証に記載のベルト・シュー16に置き換える動機付けは存在し、置き換えについての阻害要因も存在しない。
よって、検甲1発明の側板の代わりに、甲第9号証に記載のベルト・シュー16を適用することで、当業者であれば、本件発明5を容易に発明することができる。
よって、本件発明5は、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術、及び、甲第9号証に記載の事項を適用することで、当業者が容易に発明することができたものである。
なお、本件発明6は、本件発明5に従属する発明であるところ、審判請求時点より、本件発明6の副引例として、甲第9号証を挙げており、検甲1発明に、甲第9号証のベルト・シュー16を適用することの容易性については、審判請求書において、主張しているため、本件発明5における上記主張は、審判請求の理由の要旨の変更とはならない。
(請求人陳述書(3)17頁10行?18頁末行)

(6)本件発明6について
まず、本件発明6は、請求項5に従属する発明であるから、本件発明6におけるベルトシュー(40)は、高さ調整可能に固定されていることを前提としている。
そして、本件発明6においては、「前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結される」とだけ特定されており、関節連結のための具体的構成については、何ら特定されていない。
ここで、関節とは、骨と骨の可動性の連結部分を指すものである。よって、本件発明6で言うところの関節連結とは、コンベヤベルト手段(18)とベルトシュー(40)とが可動性を有するように連結している意味であると解釈できる。
一方、甲第9号証では、コンベア・ベルト12は、コネクティング・ストラット20によって、ベルト・シュー16に可動的に連結されているのであるから、コンベア・ベルト12は、コネクティング・ストラット20によって、ベルト・シュー16に関節連結されている。
検甲1発明におけるベルトシュー(40)は、甲第9号証のベルト・シュー16と同様に、高さ調整可能なものであるから、検甲1発明に対して、甲9事項の関節連結構造を適用して、コンベヤベルト手段(18)が、ベルトシュー(40)に関節連結するようにすることは、当業者にとって、容易である。
よって、本件発明6は、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術、及び甲第9号証に記載の事項を適用することで、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書36頁16行?37頁9行)

(7)本件発明11について
本件発明11は、本件発明5に従属する発明であるが、上記(5)で述べたように、副引例として、甲第9号証を挙げる必要がある。
検甲1発明における側板も高さ調整可能であり、検甲1発明における側板を甲第9号証に記載のベルト・シュー16に置き換えることで、本件発明11に容易に想到することができる。
したがって、本件発明11は、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術、及び、甲第9号証に記載の事項を適用することで、当業者が容易に発明することができたものである。
もともと、本件発明11は、本件発明6にも従属していたものであり、本件発明6の副引例に、甲第9号証を挙げていたのであるから、本件発明11における上記主張は、審判請求の理由の要旨の変更とはならない。
(請求人陳述書(3)19頁4行?15行)

(8)本件発明12について
まず、本件発明12における文体の構造を解釈する。
本件発明12では、「進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一である」と特定されている。
当該文体における主語は、「前記切削ローラハウジング(10)の後端」である。そして、基本的な文体構造としては、「前記切削ローラハウジング(10)の後端」が、「ストリッパシールド(64)と面一である」とされているものである。
そして、「ストリッパシールド(64)」を修飾する文言として、「前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能な」との文言が使用されている。
以上を前提にした上で、検甲1発明と本件発明12とを比較する。
検甲1発明には、「切削ローラ(12)の切削軌道に横方向に載置されるとともに、路面に直交して延びる切削軌道の切削縁に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)」が備わっている。
そして、検甲1発明において、「進行方向に見て、切削ローラハウジング(10)の後端」が、「ストリッパシールド(64)」と面一となっている。
ゆえに、検甲1発明には、請求項12によって特定される技術的事項が備わっている。
よって、本件発明1が、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、当業者が容易に発明することができるものである限り、本件発明12も、同様に、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書37頁18行?38頁16行)

(9)本件発明13について
本件発明13では、「前記進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端は、下縁(78)が高さ調節可能なストリッパシールド(64)と実質的に面一であり」と前提された上で、「前記ストリッパシールド(64)は、それぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備」するとして、ストリッパシールド(64)の構成を具体的に特定している。
そのうえで、本件発明13では、「前記可動シールド要素(74)は、その下縁(78)が実質的に前記ストリッパシールド(64)と面一であり」と前提された上で、「前記可動シールド要素(74)」は、「前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調整可能であり」とされ、さらに、「前記可動シールド要素(74)」は、「高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能である」とされている。
ここで、本件発明13の「ばね付勢に抗して調節可能」との文言であるが、本件明細書を参酌する限り、シリンダによる付勢力によって、「前記可動シールド要素(74)」が「切削軌道(68)に動的に適合」するものであることは明らかであるから、ばねが実際に用いられているという意義に解釈するのではなく、ばねのような付勢力によって、調整可能であるとの意義に解釈するものとする。
以上を前提とした上で、検甲1発明と本件発明13とを比較する。
まず、検甲1発明において、「進行方向に見て、切削ローラハウジング(10)の後端は、下縁(78)が高さ調節可能なストリッパシールド(64)と実質的に面一」である。
次に、検甲1発明の「ストリッパシールド(64)」は、「それぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備」している。
また、検甲1発明の「可動シールド要素(74)」は、「その下縁(78)が実質的にストリッパシールド(64)と面一」である。
さらに、「可動シールド要素(74)」は、「ストリッパシールド(64)と共に高さ調整可能」である。
加えて、「可動シールド要素(74)」は、「高さ調節可能なストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を切削ローラ(12)の切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能」である。
ゆえに、検甲1発明には、請求項13によって特定される技術的事項が備わっている。
よって、本件発明1が、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、当業者が容易に発明することができるものである限り、本件発明13も、同様に、当業者が容易に発明することができるものである。
(請求書38頁17行?39頁下から4行)

(10)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1を用いた路面の切削の方法に関するものである。
請求項14に記載の方法を特定するための文言として、使用されているのは、以下の事項である。
「前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の前記横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、路面(2)の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)を前記切削ローラ(12)に一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、
切削作業中に前記切削ローラを前記切削ローラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備することを特徴とする、路面の切削の方法。」
しかし、上記事項は、本件発明1の自走式大型切削機を特定するための文言として、既に使用されているのであるから、本件発明14で特定されている方法としては、本件発明1の構成から得られる使用方法以外に特徴的な工程は存在しない。
よって、本件発明14が進歩性を有するか否かは、検甲1発明及び甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術に基づいて容易に発明される面切削用の自走式大型切削機が、本件発明1の構成によって得られる使用方法で使用されるものであるか否かによって判断されるべきである。
検甲1発明の使用方法は、当業者であれば、切削ローラを回転させて路面を切削しながら、同時に、走行中に、切削ローラを左右にスライドさせて使用させるものであると考えるのは、極めて自明のことである。
その裏付けが必要なのであれば、甲第3号証に示されたER550Fのカタログの「有効に使えるドラムシフト」の項目を参照すればよいが、マンホールや電柱などを避けるように、ドラムが450mmシフトすることができることが記載されており、これは、明らかに、走行作業中に、ドラムをシフトさせながら、切削作業を行っていることを示している。
よって、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することによって得られる発明は、当業者であれば、当然、検甲1発明と同様にして、作業中に切削ドラムをシフトさせて使用して路面の切削を行なうものであると容易に考えるものである。
ゆえに、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することで、当業者は、容易に、本件発明14を想到することができる。
(請求書39頁下から3行?41頁8行)

(11)本件発明の「切削ローラは、垂直及び進行方向に強固に支持された」構成について
被請求人は、検甲1発明、甲第6号証?甲第8号証には、「切削ローラは、垂直および進行方向に強固に支持された」構成が開示されていないと主張する。
かかる被請求人の主張につき、検甲1発明には、「切削ローラは、垂直および進行方向に強固に支持された」構成が開示されていない点を、請求人主張の相違点1及び2に加えて、別の新たな相違点3(以下、「被請求人相違点3」という。)として、被請求人は争っているのであると、請求人は理解する。
請求人相違点3が生じるか否かを判断するためには、本件発明1において、「垂直および進行方向」、「強固に支持」という用語がいかなる技術的意義を有するものであるかを、認定しなければならない。
「垂直および進行方向」、「強固に支持」の用語について、技術的意義が一義的に明確に理解することができないといった事情はなく、また、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情も存在しない。
ゆえに、昭和62(行ツ)3平成3年3月8日最高裁判決にしたがうところ、「垂直および進行方向」、「強固に支持」の用語については、その有する普通の意味で理解することとなる。
そして、「垂直」とは、「重力の方向。鉛直」であり(広辞苑第7版)、「進行」とは、「進んで行くこと。」の意味であるから(広辞苑第7版)、「進行方向」とは、自走式大型切削機が進む方向である。よって、「垂直および進行方向」とは、「重力の方向及び自走式大型切削機が進む方向」であることを意味する。
次に、「強固」とは、「強くかたいこと。しっかりして確かなこと。」(広辞苑第7版)であり、「支持」とは、「ささえること。ささえて持ちこたえること。」(広辞苑第7版)の意味である。よって、「強固に支持」とは、「強くかたくささえられていること」を意味する。
よって、本件発明1において、「切削ローラ(10)は、垂直および進行方向に強固に支持されている」とは、切削ローラ(10)は、「重力の方向及び自走式大型切削機が進む方向に、強くかたくささえられている」という意味である。
なお、「強固に支持」とは、どのような程度の強度であるのか不明確であるとして、仮に、明細書を参酌したとしても、その強度の度合いについては、何ら、手がかりとなる記載は、明細書には存在しない。
したがって、仮に、明細書を参酌しても、上記の発明の要旨認定になる。
被請求人は、検甲1発明は、答弁書記載の図2の進行方向移動量x及び図3の進行方向移動量yによる動きが存在することから、検甲1発明は、垂直および進行方向に強固に支持されていないと主張する(答弁書(1)8頁下から7行ないし6行)。
なお、被請求人が主張するような進行方向移動量x及びyが検甲1発明で生じるか否かについては、甲第5号証からは、はっきりとは確認できないが、その点は、ここでは措くこととする。
請求人が主張する進行方向移動量x及びyは、検甲1発明における切削ローラを進行方向に対して上下又は左右に移動させたときに生じる元の位置からの切削ローラのずれであり、検甲1発明における切削ローラが、垂直及び進行方向に強固に支持されていないことが根拠で生じるずれではない。
切削ローラが垂直および進行方向に強固に支持されていない構造とは、強くかたくささえられていない構造ということであるから、たとえば、検甲1発明を自走させたときに、切削ローラがガタガタと動いてしまうような弱い構造を意味しているのである。
しかし、移動量x及びyは、切削ローラを上下又は左右に移動させたときに始めて生じる切削ローラのずれなのであるから、当然、検甲1発明を自走させたときに、切削ローラが、進行方向移動量x及びyだけ、ガタガタと動いてしまうことなど、決してない(甲第5号証)。
よって、検甲1発明の切削ローラは、重力の方向及び進む方向に、強くかたくささえられており、自走時にガタガタするような、弱い支持構造を有しているものではない。
ゆえに、検甲1発明の切削ローラは、垂直および進行方向に強固に支持されているものであり、被請求人相違点3は、存在しないこととなる。
また、被請求人相違点3が相違点であるとしても、提出した証拠より、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
(請求人陳述書(3)4頁16行?6頁19行、第2回口頭審理調書)

(12)検甲1発明の公知・公用性について
ア 今まで提出の証拠に基づく主張立証
甲第1号証において、「車台番号「MER6-10136」を有する「ロードカッタ ER550F」が、平成11年3月に自動車登録されたこと」、「車台番号「MER6-10136」を有する「ロードカッタ ER550F」が、平成11年3月に、酒井重工業株式会社より販売されたこと」、及び、「「ロードカッタ ER550F」のカタログは、2001年(平成13年)1月に、発行し、取引先に配布したものであること」が証明されている。
そして、「ロードカッタ ER550F」のカタログである甲第3号証には、その外観構造がはっきりと示されている。
甲第4号証、甲第5号証、及び平成31年2月6日付け第1回口頭審理及び証拠調べ調書に示されている検甲1発明の外観構造は、甲第3号証に示されている品番ER550Fを有するロードカッタと同一である。
仮に、車台番号「MER6-10136」を有する「ロードカッタ ER550F」が、平成11年3月に自動車登録され、販売された後に、改造がなされたのであれば、「ロードカッタ ER550F」のカタログである甲第3号証に示された外観構造と、検甲1発明の外観構造とが異なることとなるはずであるが、そのような事実は、存在しない。
したがって、検甲1発明は、平成11年3月に自動車登録され、販売されたときの構造をそのまま維持しているのであり、自動車登録及び販売後に、改造がされたものではない。
イ 追加の証拠に基づく主張立証
検甲1発明が、初度登録年月日である平成11年3月以降、改造されたものでないことを示す証拠として、請求人が、検甲1発明の製造メーカーである酒井重工業株式会社から入手した令和元年5月13日付けの証明願(2)を提出する。
甲第11号証には、「平成30年11月29日付け証明願に添付の写真1?21にある車台番号「MER6-10136」を有する「ロードカッタ ER550F」は、平成11年3月に自動車登録された後、車両が変更されたり、機構及び構造が改良されたりした事実は無く、出荷当時の車両、機構及び構造を、そのまま備えているものであること。」が証明されている。
ウ 甲第2号証に基づく主張立証
甲第2号証の備考欄には、一時抹消登録との表示があるところ、登録識別情報等通知書とは、一時抹消登録を行った自動車に対して、発行されるものであり(甲第12号証)、甲第2号証に記載されている車台番号や型式等の表示は、一時抹消登録前の車検証に記載されていたものである。
ところで、周知のとおり、登録を受けている自動車について、車両の長さ、幅、高さ、乗車定員、最大積載量、車体の形状、原動機の型式、燃料の種類、用途、等に変更を生ずるような改造をしたときは、使用者は使用の本拠の位置を管轄する運輸支局又は自動車検査登録事務所に自動車を提示して構造等変更検査を受けなければならない(甲第13号証)。
また、周知のとおり、自動車が改造された場合は、車検証の型式欄に、「改」又は「カイ」の表記がなされている(甲第14号証及び甲第15号証)。
仮に、検甲1発明が改造されていたとすれば、検甲1発明の元所有者は、運輸支局又は自動車検査登録事務所に改造した自動車を提示して構造等変更検査を受けて、型式欄に、「改」又は「カイ」の表記がなされた車検証を受け取らなければならない。
したがって、もし、改造がなされていたのであれば、一時抹消登録の際に、その車検証を提示し、登録識別情報等通知書に、その型式が表示されているはずである。すなわち、登録識別情報等通知書の型式欄には、「改」又は「カイ」の表記されていなければならないが、そのような事実は存在しない(甲第2号証)。
よって、検甲1発明が、出荷後に改造されていたという事実は存在しないのである。
なお、甲第2号証は、モノクロコピーであるため、「改」又は「カイ」の表記を削除したとの反論を受けないようにするために、カラー写真で撮影した甲第16号証を提出する。
甲第16号証には、型式欄に、「改」又は「カイ」の表記が存在していないことをはっきりと確認することができる。
なお、個人情報保護のため、甲第16号証においても、所有者の氏名、住所等は、黒塗りしてある。
以上、3つの異なる観点より、検甲1発明が、初年度登録年月日である平成11年3月以降、改造されたものでないことが立証されており、改造がされていないということは、確たる事実である。
(請求人陳述書(3)11頁3行?13頁5行)


第5 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成31年4月10日付け無効審判事件答弁書(以下「答弁書(1)」という。)、平成31年4月25日付け上申書(以下「被請求人上申書」という。)、令和元年5月30日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述書」)という。)、令和1年10月1日付け無効審判事件答弁書(以下「答弁書(2)」という。)を参照。)。

1 進歩性の判断について
検甲第1号証に係る発明(以下、「検甲1発明」という。)は、酒井機工株式会社によって平成11(1999)年3月に販売されたロードカッタER550Fであり、自動車登録番号「札幌000 る 6982」を有する。
検甲1発明は、切削ローラを機械フレームに対して昇降させることができる点、切削ローラのロッカサポートのために、大きな切削力を発揮することができない点で(第1回口頭審理及び証拠調べ調書、4.検証の結果(以下、単に「検証の結果」という。)(10)、(15)を参照)、本件発明1の背景技術と類似する(本件特許公報段落0008を参照)。
たとえ、このロードカッタが1999年に販売されていた車両と同一であったとしても、その間に車両が変更されていないことは証明されていない。この車両が何の変更もなく1999年3月に販売された機械であることを示す証拠が必要である。
そのため、検甲1発明は、1999年3月に公然知られた発明若しくは公然実施された発明であるか不明である。仮に、検甲1発明が1999年3月に公然知られた発明若しくは公然実施された発明であったとしても、以下の理由から、当業者が容易に想到することはできない。
本件発明1は、少なくとも、検甲第1号証の検証の結果(9)、(10)の点で、検甲第1号証、甲第4号証,甲第5号証に開示された発明とは異なる。なぜなら、本件発明1において、「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され、前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」ている(以下、「相違点に係る構成」という。)からである(本件発明1の構成(H)を参照)。
検甲第1号証,甲第4号証,甲第5号証に係る切削ローラおよびハウジング部は、垂直および進行方向に強固に支持されていない。これは、検甲第1号証,甲第4号証,甲第5号証から明らかである。たとえば、甲第5号証の動画開始後14秒間には、切削ローラが、ハウジング部と共に垂直方向及び水平方向にも移動可能であることが示されている。そのため、切削ローラは垂直および進行方向に機械フレームで強固に支持されていないことが分かる。
本件発明1の利点は、自走式大型切削機が大きな切削力を発揮できること、進行方向に対して横断方向にのみ変位可能であることであり、検甲1発明とは異なる。
本件発明1の切削ローラハウジングは、高い切削力ひいては大きな切削深さを生み出すために機械の全重量を切磋(審決注;「切削」の誤記と認める。)ローラに伝達できるように、機械フレームに対して高さ調節可能ではない(本件特許公報段落0004を参照)。本件発明1は機械フレームを介して切削ローラハウジングとの関連で切削ローラにより与えられる高圧荷重は、1回の通過の間に路面を完全に除去できるように、少なくとも30cmの切削深さを可能にするが(本件特許公報段落0013を参照)、検甲1発明のロードカッタER550Fの切削深さは最大で23cmである(甲第3号証第2頁参照)。
請求人は、検甲1発明が、鉛直方向に高さ調節可能であることを認めている。しかしながら、切削ローラが横断方向に変位するとき、ハウジング部は、進行方向に変位するので、切削ローラは、垂直および進行方向に強固に支持されていないことが理解できる。
請求人は、検甲1発明に対して、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれかに記載の周知技術を適用することには動機付けが存在すること、その際、検甲1発明における切削ローラハウジング(10)の鉛直方向の高さ調整機能は不要となるのであるから、当業者であれば、切削ローラハウジング(10)の鉛直方向の高さ調整機能を無くして、切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向にのみ可動するような構成とすることも、当然、容易に想到することができると主張する(審判請求書第34頁第4行?第12行を参照)。
しかしながら、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれにも、動機付けは存在せず、切削ローラが切削ローラハウジングと共に垂直および進行方向に前記機械フレームで強固に支持された構成は開示されていない。また、どの甲号証にも、切削ローラ駆動ユニットが、機械フレームでの支持によって、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、進行方向に対して横断方向に変位可能に支持された構成も開示されていない。
したがって、当業者が検甲1発明、甲6発明、甲7発明、甲8発明(以下、先行技術)に基づいて、先行技術に対する本件特許発明1の特徴点(上記相違点に係る構成)に到達することが容易であったと断定することはできず、本件特許発明1は、構成の点から、容易想到性が否定される。
以上のとおりであるから、本件発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、検甲1発明、甲6発明、甲7発明、甲8発明または事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、相違点に係る構成は、他の甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第9号証および甲第10号証にも開示されていない。
他の従属形式請求項2-6および請求項11-14は、直接または間接的に上記請求項を引用しており、少なくとも、上記理由から、先行技術に基づき、当業者が容易に請求項2-14に係る発明に想到し得たと考えることはできない。
以上の結果、本件特許発明1及び請求項2-6および請求項11-14に係る発明は、先行技術、あるいは如何なる甲号証に開示された発明の組合せに対しても進歩性を有する。
(答弁書(1)4頁9行?5頁11行、8頁4行?9頁下から4行、15頁1行?15行)

2 請求人が主張する無効理由について
請求人は
「検証結果を受けた結果、本件発明5及び11におけるベルトシューとの対比に、不足する部分が判明した。そのため、本件発明5及び11の進歩性欠如の無効理由の副引用発明として、甲第9号証を挙げる必要があり、請求人が主張する無効理由を以下のように補正する。甲第9号証は、元々、ベルトシューに関する副引用発明であり、本件発明6の進歩性欠如に用いていたものであるから、かかる無効理由の補正が、審判請求の理由の要旨の変更とはならない。」
と主張している。
しかしながら、甲第9号証を追加する補正は、軽微な補正ではなく、直接証拠の追加になり、これによって、当初の請求の理由に記載した主要事実を、追加した証拠に基づく別の主要事実に変更することに該当するので、請求の理由の要旨変更に該当する。
また、請求人は
「検証結果を踏まえて、調書記載の用語を用いて、検甲1発明を」以下のように特定するように変更する。」(第13頁第10行乃至第11行)
と主張している。
しかしながら、証拠調べによって認定された検甲1発明は、用語の変更、構成の変更がなされ、無効審判請求書の請求の理由に記載された検甲1発明とは明らかに異なる。
請求人は、当初は進歩性違反を無効理由の根拠として、検甲1発明を証拠として容易に発明できた旨の事実を主張しており、その後、証拠調べによって検証された検甲1発明に変更して、容易想到性を主張している。
これは、当初の請求理由に記載した「権利を無効にする根拠となる事実」(主要事実)を立証するための「直接証拠」(検甲1発明)を差し替えることになり、当初の請求の理由に記載した主要事実を、当該差し替えた証拠に基づく別の主要事実に変更することに該当する。そのため、補正に起因する審理のやり直しに伴う審理遅延が生じ、権利者による実質的反論が新たに必要になる。また、これらの用語の変更は、変更前後の用語の意味に差異が生じ、軽微な補正ではない。
(被請求人陳述書3頁4行?17行、9頁下から8行?10頁8行)

3 本件発明の「切削ローラは、垂直及び進行方向に強固に支持された」構成について
特許請求の範囲に記載されている「垂直および進行方向」、「強固に支持」の技術的意義は、明細書の記載にもとづいて解釈すべきである。
本件発明1の課題は、「操縦性が改善された上記タイプの自走式道路切削機および路面切削の方法を提供すること」であり(本願明細書の段落0009)、上記タイプの自走式道路切削機は背景技術(本願明細書の段落0002-0008)に記載されている。また、発明の効果として、「機械フレームを介して切削ローラハウジングとの関連で切削ローラにより与えられる高圧荷重は、1回の通過の間に路面を完全に除去できるように、少なくとも30cmの切削深さを可能にする。」と記載されている(本願明細書の段落0013)。
少なくとも上記記載から、「上記タイプの自走式道路切削機」とは、高い切削力ひいては大きな切削深さを生み出すために機械の全重量を切削ローラに伝達できる大型切削機であり、「垂直および進行方向」とは大型切削機に対する垂直および進行方向であり、「強固に支持」とは、高い切削力ひいては大きな切削深さ(少なくとも30cmの切削深さ)を生み出すために機械の全重量を切削ローラに伝達する程度の支持であることが理解できる。
本件発明1の構成、すなわち、
「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され、前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」た構成(相違点に係る構成)は、互いに全体から切り離すことができない。
この構成において、前記切削ローラが、垂直および進行方向に強固に支持されていること、更に、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、進行方向に対して横断方向に変位可能であることは、本願明細書に明らかに記載されている。それと共に、「強固に」とは、切削ローラが垂直方向および進行方向に変位可能であるべきではないことを意味することは明らかである。
逆に、検甲1発明には、この構成が全く開示されていない。検甲1発明において明らかなことは、切削ローラが進行方向に対して垂直方向または横断方向に移動する点である。前述したように、本件発明1に係る自走式大型切削機は、切削ローラに大きな力を加えることができ、依然として、進行方向に対して横断する方向に変位できるという利点を有する。これに対して、検甲1発明に係るロードカッタは、このような利点を持ち得ない。
本願明細書には、「正確な切削深さ調節を維持するために、2つのリニアガイドにより、切削ローラハウジングを機械フレームで強固に支持し、それによって切削ローラを上下方向に強固に支持することができる。更に、切削ローラハウジングは、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように進行方向に強固に支持される。」(段落0017を参照)と記載されている。
この記載から明らかなことは、切削ローラハウジングには3本の軸があるということである。
第1の軸は、垂直軸であり、第2の軸は進行方向に対して平行な軸であり、第3の軸は、進行方向に対して横断する方向の軸である。
切削ローラは、垂直方向または進行方向に移動しないので、正確な切削深さ調整が維持できる。切削ローラは、第3の軸においてのみ移動可能である。切削ローラハウジングが横断方向のみに移動可能であることは、本願明細書から明らかである。
(被請求人陳述書4頁1行?5頁下から9行)

4 甲第6号証について
甲第6号証には、「回転掘削放出手段3のハウジング3dは、昇降基体10の前後のスライドレール11、11の上にスライド移動自在に載置され」と記載され(甲第6号証段落0013を参照)、「ロック具3kを回動させて、昇降基体10側に形成したロック受用凹所11a…の適宜なものに挿入されて、回転掘削放出手段3の車巾方向の位置決めをおこなえるようにしてある。」と記載されている(甲第6号証段落0014を参照)。
これらの記載から、回転カッター3cは、ハウジング3dを介して、スライドレール11,11の上にスライド自在に取り付けられており、少なくとも、回転カッター3cがスライドするには垂直方向に隙間が必要である。また、回転カッター3cは、ロック具3kをロックしなければ(回動させなければ)、車巾方向の位置決めができないことが分かる。
したがって、甲6発明は、ロック具3kがロックされる場合には位置決めされるので、垂直および進行方向に移動しないが、同時に横断方向に変位することもできない。
甲6発明の切削ローラハウジングは、変位するときには垂直および進行方向に移動できるが、ロック具3kがロックされている場合に限り、垂直方向及び進行方向の移動を止めることができ、同時に、横断方向への移動を止めることができる。
したがって、ローラハウジングが横断方向に変位可能であるとき、切削ローラハウジングが垂直方向および進行方向に強固に支持されないことは明らかである。
さらに、請求人は、
「甲6発明の具体的な構成を検甲1発明に適用することの阻害要因を主張したところで、請求人の主張の相違点1及び2に対する容易想到性への反論としては、失当である。」(審判請求書第9頁第3行乃至第5行)
と主張しているが、前述したように(反論(3)を参照(審決注:本審決においては当該箇所の摘記を省略した。))、周知技術であるという理由だけで、論理付けができるか否かの検討(その周知技術の適用に阻害要因がないか等の検討)を省略することはできない。
甲6発明は、周知技術として挙げられているため、検甲1発明に適用することの阻害要因を検討するには、甲6発明の具体的な構成の検討が必要である。
(被請求人陳述書6頁下から9行?7頁下から8行)

5 審決の予告の「第6 無効理由についての判断」の「イ 被請求人の主張に対して」について
検甲1発明は、進行方向において、ハウジング部の前方側部左右が2本ずつの棒状ガイドで連結され、ハウジング部の後方上部左右が2つの油圧ピストンで連結されている(検証結果(9)、写真12-14、22,26、31-32を参照)。
・・・
一方、検甲1発明における切削ローラは、横断方向に移動するときに必ず進行方向にも移動する構成になっている(検証結果(9)、写真26-28,31-35を参照。)」。・・・これは大型切削機の切削深さに大きな影響を与える「移動」であり、本件発明1が排除した機能でもある(本件明細書の段落0008を参照)。
・・・
検甲1発明では、切削ローラを進行方向に対して上下又は左右に移動させたとき、元の位置からの切削ローラのずれが生じるが、これは、被請求人ばかりか請求人も認めていることであり(審決の予告第16頁29行?第31行を参照)、審判官の判断と異なる。
検甲1発明の切削ローラは、ハウジング部に対して垂直及び進行方向に移動しないが、切削ローラを支持するハウジング部がフレーム部に対して垂直及び進行方向に移動する構造になっている。そのため、検甲1発明による切削作業では、切削ローラを横断方向に移動させるとき、切削ローラはフレーム部に対して進行方向に移動するので、正確な掘削はできない。
(答弁書(2)の第8頁下から6行?第11頁19行)


第6 証拠
1 検甲第1号証
(1)平成31年2月6日に行われた証拠調べ(検証)の結果、検甲第1号証は以下の構成を有する。(第1回口頭審理及び証拠調べ調書)
ア 品番はER550F、車台番号はMER6-10136、製造番号は10136である。
イ 全長は9.87メートル、全幅は2.45メートルである。
ウ 車体は、車体の進行方向に見て、車体の前側に車軸及び後側に車軸を有している。車体は自走できる。
エ 車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている。
オ ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている。
カ 切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している。
キ 車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる。
ク 切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する。
ケ 切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持されている。
コ 駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている。
サ ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができる。
シ ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている。
ス 車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる。
セ 切削ローラは、円柱形状であり、切削ローラの側面のほぼ全面に複数の略円錐状の爪部が設けられており、側面の底面よりの部分には、底面側に先端が向いている爪部が設けられている。
ソ フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。
タ コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている。
チ 側板が、ガイドを介して、高さ調節可能となっている。
ツ ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。
テ ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。
ト 側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である。

(2)検甲第1号証から把握できる発明の認定
上記(1)で記載した事項を踏まえると、検甲第1号証から、次の発明(以下「検甲1発明」という。)が把握できると認められる。

「以下の構成を有する大型切削機。
a 車体は、車体の進行方向に見て、車体の前側に車軸及び後側に車軸を有している。車体は自走できる。
b 車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている。
c ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている。
d 切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している。
e 車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる。
f 切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する。
g 切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持されている。
h 駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている。
i ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができる。
j ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている。
k 車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる。
l 切削ローラは、円柱形状であり、切削ローラの側面のほぼ全面に複数の略円錐状の爪部が設けられており、側面の底面よりの部分には、底面側に先端が向いている爪部が設けられている。
m フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。
n コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている。
o 側板が、ガイドを介して、高さ調節可能となっている。
p ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。
q ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。
r 側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である。」

2 甲第1号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第1号証には、次の事項が記載されている。



3 甲第2号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第2号証には、次の事項が記載されている。



4 甲第3号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア カタログの表紙から、酒井重工業株式会社のロードカッタER550Fのカタログであることが看て取れる。

イ 「有効に使えるドラムシフト
マンホール、電柱などを避けるに充分なシフト量450mmです。」(カタログ3頁11行?13行)





5 甲第6号証
(1)請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。(下線は本審決で付した。以下同様。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、舗装道路の掘削方法に関し、詳しくは、舗装道路において亀裂などが入った表層の補修部分を効率よく剥離し、剥離に伴う掘削物を効率よく回収し、このことで、補修箇所に掘削物が残留し、これらを除去するための多大な労力及び人手をなくそうとする技術に係るものである。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下本発明の舗装道路の掘削方法の一実施の形態を実施した掘削作業車の一例の図面に基づいて詳述する。図1は全体平面図を示し、図2及び図3は全体側面図を示している。走行車体1には搭載された原動機にて駆動される車輪6が装備され、操作部によるハンドル操作にて一般車両として走行できるようにしてある。走行車体1にはガイド脚9が例えば4本立設され、このガイド脚9を介して昇降基体10が油圧駆動にて昇降できるようにしてある。昇降基体10には、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層を剥離するとともに掘削し、その破砕物を順次取出す回転掘削放出手段3と、移送取出し手段4並びに搬出手段5が搭載されて、破砕物を伴走する大型ダンプカーなどに走行しながら移載できるようにしてある。以下、種々の手段の構成を詳述する。
【0009】図5乃至図8は回転掘削放出手段3を示していて、回転掘削放出手段3は、回転ドラム3aに掘削爪3bが複数条の螺旋条に植設された回転カッター3cに構成されている。この回転カッター3cが図6に示すハウジング3dの軸受部にその水平横軸2が回転自在に架設され、ハウジング3d内に装備される減速機3eに連結されて、昇降基体10側に搭載されている油圧駆動機構からの作動油が、ハウジング3dに装備されている油圧モータに供給されて、回転カッター3cを約1000r.p.m程度に高速回転させることができるようにしてある。回転掘削放出手段3は、そのハウジング3dを介して昇降基体10の後部に搭載されていて、昇降基体10を走行車体1に対して下降させることで、回転カッター3cを路面レベルよりも下方に下降させ、回転カッター3cが後方から前方上方に高速回転されることで、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層をを掘削し、直径が約20mm程度の粒径に破砕された破砕物を回転カッター3cの全巾において掘削とともに前方上方に放出することができるようにしてある。
・・・
【0013】回転掘削放出手段3のハウジング3dは、昇降基体10の前後のスライドレール11,11の上にスライド移動自在に載置され、ハウジング3dの両端部が、図9に示すようなチェーン12に連結され、このチェーン12を昇降基体10に搭乗している作業者の操作により、スプロケット13を油圧モータ16を介して油圧駆動して、巻回しているチェーン12を往復動させ、回転掘削放出手段3を車巾方向の任意の箇所に移行させ、しかして、走行車体1は一定位置を走行しながら、掘削位置を変更することができるようにしてある。このように、回転掘削放出手段3を車巾方向に移行させることで、道路の表層の亀裂の蛇行に容易に追随させることができ、一度の走行で、亀裂に沿った掘削がおこなえるものである。」

(2)甲第6号証から把握できる技術事項
上記(1)で記載した事項を踏まえると、甲第6号証から、次の技術事項が把握できると認められる。

「舗装道路において亀裂などが入った表層の補修部分を効率よく剥離し、剥離に伴う掘削物を効率よく回収し、このことで、補修箇所に掘削物が残留し、これらを除去するための多大な労力及び人手をなくそうとする技術に係るものであり、
走行車体1にはガイド脚9が例えば4本立設され、このガイド脚9を介して昇降基体10が油圧駆動にて昇降できるようにしてあり、
回転掘削放出手段3は、そのハウジング3dを介して昇降基体10の後部に搭載されていて、昇降基体10を走行車体1に対して下降させることで、回転カッター3cを路面レベルよりも下方に下降させ、回転カッター3cが後方から前方上方に高速回転されることで、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層をを掘削し、直径が約20mm程度の粒径に破砕された破砕物を回転カッター3cの全巾において掘削とともに前方上方に放出することができるようにしてある。」

6 甲第7号証
(1)請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1および12のそれぞれのプリアンブル部に記載の自動路面切削装置、とくには大型の自動路面切削装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1が、路面切削装置1を示しており、とくには装置フレーム4と、操舵可能なフロントアクスル2およびやはり操舵可能なリアアクスル3を備える車台とを有する大型の切削装置を示している。車台は、装置フレーム4の地面または路面8からの距離の調節を可能にする昇降支柱32を介して、装置フレーム4へと接続されている。
・・・
【0037】
地面または路面8を切削するための切削ドラム6が、切削ドラム軸7を装置フレーム4に支持させて、履帯ユニット30の間に配置されている。切削ドラム6の一方の端面が、ゼロ側12と呼ばれる装置フレーム4の外側まで達する一方で、切削ドラム6のための駆動装置は、装置フレーム4の反対側の外壁に配置されている。」

(2)甲第7号証から把握できる技術事項
上記(1)で記載した事項を踏まえると、甲第7号証から、次の技術事項が把握できると認められる。

「大型の自動路面切削装置に関し、
車台は、装置フレーム4の地面または路面8からの距離の調節を可能にする昇降支柱32を介して、装置フレーム4へと接続されている。」

7 甲第8号証
(1)請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
ア 「中型路面切削機CRP-160L型」(72頁表題)

イ 「・・・ここで中型機と言える1.6mの切削幅を持つCRP-160Lを紹介する。
2.仕様および構造
・・・
4本のタワーシリンダーにより車体の昇降を行い、フレーム中央の切削ドラムにより切削を行い・・・」(72頁左欄9行?18行)

ウ 「(5)切削ドラムユニット
・・・また、このドラムユニットは左右、計400mmのシフトができ、・・・」(74頁右欄2行?10行)

(2)甲第8号証から把握できる技術事項
上記(1)で記載した事項を踏まえると、甲第8号証から、次の技術事項が把握できると認められる。

「中型路面切削機CRP-160L型中型機であり、4本のタワーシリンダーにより車体の昇降を行い、フレーム中央の切削ドラムにより切削を行う。」

8 甲第9号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に定義した、地表面、特に車道を粉砕する装置に関する。」

イ 「【0018】
以下に、本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、地表面2、特にアスファルト車道、コンクリート車道等を粉砕する装置を示し、この装置は、機械フレーム6を支持するトラック・アセンブリ4と、機械フレーム6で支持され、トラック・アセンブリ4の走行方向に対して横向きに延在する粉砕ロール8とを備える。粉砕の深さは、後輪の垂直方向調節によって設定される。この種の機械は、粉砕された材料を走行方向前方に搬送して運搬車両に載せるので、フロント・ローダ粉砕機と称される。粉砕ロール8の前方走行方向に、コンベヤベルト12付きの第1の搬送手段10が配置され、機械フレーム6のシャフト内に傾斜を付けて配され、粉砕された材料を別のコンベヤ・ベルト15を有する第2の搬送手段14に搬送する。第2の搬送手段14は、可変傾斜角度内で縦方向調節可能であり、さらに横方向に、たとえば±30度旋回するのに適し、それによってフロント・ローダ粉砕機の脇に停車した運搬車両に積載することができる。
【0020】
粉砕された材料をほぼすべて運搬するため、粉砕ロール8はロール・ケーシング18によって囲繞され、ケーシングの走行方向の壁に粉砕材料の通過開口22が設けられる。通過開口22は、粉砕深度の変更時であっても常に粉砕ロール8に対して同じ位置にある。
【0021】
粉砕ロール8は、螺旋状に配置された掘削工具を備え、粉砕材料がロール・ケーシング18の通過開口22へと運搬されるように配置される。
【0022】
ベルト・シュー16が機械フレーム6に縦方向調節可能に取り付けられる。ベルト・シュー16の縦方向調節は、機械フレーム17に取り付けられたピストン・シリンダ・ユニット17によって行う。このピストン・シリンダ・ユニットを用いることによって、ベルト・シューは垂直方向に持上げることができ、たとえば障害物等を越えることができる。この場合、ベルト・シュー16は下降させることはできず、所望時に上昇のみ可能である。粉砕深度が増した場合には、ベルト・シュー16の位置は地表に接することによって自動的に設定される。
【0023】
ベルト・シュー16は、搬送手段10の粉砕ロールに面する端部を収容する。搬送手段10の後端は、ベルト・シュー16と搬送手段10の間の固定点で支持される。ベルト・シュー16前端の両側にコネクティング・ストラット20が設けられ、搬送手段10に対するベルト・シュー16の旋回を防止する。
【0024】
ベルト・シュー16は、地表と平行に延在し、押さえ手段およびスライディング・シューの役をするグリッド28により構成される。グリッド28は、走行方向に平行に配向された複数のグリッド・バー32を備える。グリッド28の両側は、垂直方向の側壁33によって限定される。ベルト・シュー16の後端で、フロント・シート35が搬送手段10のコンベヤ・ベルト12とほぼ平行に延在する。ベルト・シューの後端に、コンベヤ・ベルト12を保護する保護シールド34が配置され、縁が鋭利な材料によるコンベヤ・ベルト12の損傷を防止する。走行方向にわずかに傾斜したシールド42には、上部にU字形のリセスがあり、浮いた材料の通過開口を形成する。
【0025】
図4に最もよく示してあるように、粉砕ロール8を囲繞するロール・ケーシング18に補完リセスがあり、浮いた材料の通過開口22を備える。
【0026】
ピストン・シリンダ・ユニット17の一端はベルト・シュー16の側壁33に蝶着され、他端は機械フレーム6に固定される。ピストン・シリンダ・ユニット17は、コネクティング・ストラット20に実質的に平行に延在し、ベルト・シュー16および搬送手段10によって形成される構造ユニットの持上げ手段の役をする。ピストン・シリンダ・ユニット17の傍らでは、第1のコネクティング・ロッド24が側壁33に蝶着され、このコネクティング・ロッドは第2のコネクティング・ロッド26に蝶着される。第2のコネクティング・ロッド26は、機械フレーム6に蝶着される。第2のコネクティング・ロッド26は、トグル・レバー状に屈曲し、トグル部でリンキング・ロッド30を介してベルト・シュー16の他方の側の対応する第2のコネクティング・ロッド26に接合される。したがって、コネクティング・ロッド30(審決注:「コネクティング・ロッド30」は、「リンキング・ロッド30」を指すと認める。)はベルト・シュー16の両側の平行な案内を同期させる。ピストン・シリンダ・ユニット17およびコネクティング・ストラット20は、ベルト・シューの両側に設けられる。コネクティング・ロッド24および26によってベルト・シューが平行に案内されるため、シールド42は極くわずかに旋回できるのみで、その下向きの運動は走行方向に延在する突条44によって制限される。最低位置で、突条44は当り止め36に当接する。また、ロール・ケーシング18の当り止め38は、ベルト・シュー16の粉砕ロール8側への運動を制限する。」

9 甲第10号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
ア 「4.切削ドラム
左右それぞれ125mm合計250mmスライドさせることにより、路肩一杯(左側)の作業時(フラッシュカット)削り残しがなく、きれいに仕上げられる。」(52頁左欄1?4行)

イ 「7.第1コンベヤ
ドラム追従式で、ドラムから排出された廃材を取り落とすことなく第2コンベヤに送る。・・」(52頁左欄18?末行)

10 甲第11号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲第11号証は、範多機械株式会社常務取締役道上昌弘が、酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎に宛てた令和元年5月13日付けの証明願に、令和元年5月14日付けで酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎の署名捺印がなされたものであって、次の事項が記載されている。



第7 無効理由についての判断
1 検甲1発明が本件特許の出願前に公然実施された発明であるか否かについて
検甲第1号証の車体の車台番号と、甲第2号証の登録識別情報等通知書の車台番号が「MER6-10136」で一致していることから、検甲第1号証の車体が、初度登録年月日の平成11年3月に存在していたことは明らかである。また、検甲第1号証の車体と、検甲第1号証と同機種のロードカッタER550Fのカタログである甲第3号証を比較しても、改造などの明らかな変更は見受けられず、同様の構成を有している。そして、甲第2号証の登録識別情報等通知書にも改造がなされた旨の記載がないことから、検甲第1号証の車体は、平成11年3月以降に改造されていないと解することが自然である。
したがって、検甲第1号証の車体は、平成11年3月には製造販売されていたと認められるから、検甲1発明は、本件特許の優先日前に公然知られた発明、あるいは公然実施された発明であるといえる。

2 本件発明1について
(1)本件発明1と検甲1発明の対比
ア 検甲1発明の「車体」、「前側に車軸」、「後側に車軸」は、それぞれ本件発明1の「車体」、「前車軸」、「後車軸」に相当する。また、検甲1発明の「車体」は「自走できる」ので、検甲1発明の「大型切削機」は、本件発明1の「自走式大型切削機」に相当する。

イ 検甲1発明の「車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている」こと及び「ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている」ことは、本件発明1の「前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)と、前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)」を具備することに相当する。

ウ 検甲1発明の「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している」ことは、本件発明1の「前記切削ローラ(12)に一体化された切削ローラ駆動ユニット(14)」を具備することに相当する。

エ 検甲1発明の「第1、第2コンベアベルト部」は、本件発明1の「コンベヤベルト手段(18)」に相当し、検甲1発明の「車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる。」こと、及び「切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する。」ことは、本件発明1の「進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するためのコンベヤベルト手段(18)であって、大型切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記コンベヤベルト手段(18)の下端を含めた前記切削ローラハウジング(10)とを変位させるように前記切削ローラハウジング(10)と協働する」ことに相当する。

オ 検甲1発明の「切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持されている。」ことと、本件発明1の「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され」ることは、「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で支持され」る点で共通する。

カ 検甲1発明の「駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている。」ことと、本件発明1の「前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」ることは、「前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向に可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」る点で共通する。

キ 検甲1発明の「ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができる」ことは、本件発明1の「前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である」ことに相当する。

ク 検甲1発明の「ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている」ことは、本件発明1の「前記切削ローラハウジング(10)は、前記前車軸および後車軸の間に配置され」ることに相当する。

ケ 検甲1発明の「車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる。」ことは、本件発明1の「作業を中断させることなく切削作業中に前記切削ローラ(12)を前記切削口ーラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記ゼロ側を、前記機械フレーム(8)の一方の前記外側面(26,28)またはその反対側の前記外側面(26,28)に選択的に画定することができ」ることに相当する。

コ 検甲1発明の「底面側に先端が向いている爪部」は、切削ローラの変位に伴い地面に対して作用するので、本件発明1の「追加のチゼルツール」に相当し、検甲1発明の「切削ローラ」の「側面の底面よりの部分には、底面側に先端が向いている爪部が設けられている。」ことは、本件発明1の「前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備すること」に相当する。

サ したがって、両者は、次の一致点1で一致し、相違点1?3で相違する。
(一致点1)
「 車体と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体により支持された機械フレームと、
前記機械フレームに配置された切削ローラハウジングと、
前記切削ローラハウジングに回転自在に支持された単一の切削ローラと、
前記切削ローラに一体化された切削ローラ駆動ユニットと、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラにより削り取られた切削物を除去するためのコンベヤベルト手段であって、大型切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラの位置間で、前記切削ローラと、前記コンベヤベルト手段の下端を含めた前記切削ローラハウジングとを変位させるように前記切削ローラハウジングと協働する、前記コンベヤベルト手段とを具備する路面切削用の自走式大型切削機であって、
前記切削ローラは、前記切削ローラハウジングと共に、垂直および進行方向に前記機械フレームで支持され、前記切削ローラ駆動ユニットは、前記機械フレームでの支持によって、前記切削ローラが前記進行方向に対して横断方向に可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され、
前記切削ローラハウジングの横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレームの横外側面の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、自走式大型切削機において、
前記切削ローラハウジングは、前記前車軸および後車軸の間に配置され、
作業を中断させることなく切削作業中に前記切削ローラを前記切削口ーラハウジングと共に変位させることができ、前記ゼロ側を、前記機械フレームの一方の前記外側面またはその反対側の前記外側面に選択的に画定することができ、
前記切削ローラは、切削作業中に前記切削ローラを変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備する、自走式大型切削機。」

(相違点1)
高さ調節に関して、本件発明1は「高さ調節可能な車体」であるのに対し、検甲1発明は切削ローラ(ハウジング部)が「垂直方向に可動である」点。

(相違点2)
切削ローラに関して、本件発明1は「前記切削ローラハウジング(10)と共に、前記切削ローラ(12)が垂直及び進行方向に移動しないように垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され」ているのに対し、検甲1発明は「切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持され」ている点。

(相違点3)
切削ローラ駆動ユニットに関して、本件発明1は「前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」ているのに対し、検甲1発明は、「駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている」点。

(2)各相違点に対する判断
ア 当審の判断
(ア)相違点1について
相違点1について、自走式の道路切削機の技術分野において、車体の高さ調節を行うことによって、切削ドラムの路面との高さ調節を行うことは甲第6号証?甲第8号証に記載されているように、本件特許の優先日前において周知技術である。
検甲1発明では、切削ローラ(切削ドラム)の路面との高さ調節は、切削ローラが一体化した駆動部を垂直方向に可動とすることにより実現しているが、切削ローラ(切削ドラム)の路面との高さ調節を行うに際し、車体を高さ調節するか、あるいは、切削ローラが一体化した駆動部を高さ調節するかは、当業者が必要に応じて適宜選択できることにすぎず、検甲1発明において、上記周知技術を採用して、相違点1に係る本件発明1の構成の如くすることは当業者が容易になしうる程度のことである。
したがって、検甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成の如くすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(イ)相違点2、3について
相違点2、3は関連するため、併せて検討する。
a 本件明細書の記載
本件明細書には、本件発明の目的として、【発明が解決しようとする課題】の欄に「本発明の目的は、より汎用的に使用可能であり、操縦性が改善された上記タイプの自走式道路切削機および路面切削の方法を提供することである。」(段落【0009】)と記載され、「強固に支持され」ることに関しては、「正確な切削深さ調節を維持するために、2つのリニアガイドにより、切削ローラハウジングを機械フレームで強固に支持し、それによって切削ローラを上下方向に強固に支持することができる。更に、切削ローラハウジングは、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように進行方向に強固に支持される。」(段落【0017】)、「切削ローラハウジングは、上下方向および進行方向に機械フレームに強固に固定される。」(段落【0022】)と記載されている。

b 垂直方向の支持について
本件明細書の上記記載から見て、本件発明において、「垂直方向」に「強固に支持され」ることは、「正確な切削深さ調節を維持するため」であると解される。
検甲1発明では、「切削ローラ」と「ハウジング部」(切削ローラハウジング)の「上下方向変位用の油圧シリンダ」による垂直方向の支持が「強固」なものであるとの特定はないが、検甲1発明は、実際に使用される切削機であることから、「切削深さ」を「正確」に「調節」することが当然に行われており、機械の重量を「上下方向変位用の油圧シリンダ」を介して切削ローラに伝達させつつも、「垂直」な「方向に移動しない」ような、正確な調節を行いうる支持の「強固」さが、本件発明と同様に、検甲1発明に備わっていると解することが自然である。
そして、上記(ア)で検討したように、検甲1発明において、切削ローラの路面との高さ調節を、車体の高さ調節によって行うことにした場合にも、同様にして、機械の重量を「上下方向変位用の油圧シリンダ」を介して切削ローラに伝達させつつ、「垂直」な「方向に移動しない」ような、正確な調節を行いうる支持の「強固」さは担保されるものであるが、このように、切削ローラの路面との高さ調節を、車体の高さ調節によって行うことにした場合には、「上下方向変位用の油圧シリンダ」により切削ローラを垂直方向に可動とする必要がなくなり、結果として、「上下方向変位用の油圧シリンダ」を除くことが選択されると考えられ、そのときには、切削ローラは、垂直な方向に移動しないように、垂直な方向にフレーム部で強固に支持されることになる。

c 進行方向の支持について
検甲1発明は、上記第6の1(2)で述べたように、「切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持され」(h)ており、「車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができ」(k)、「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」(m)ものであるから、2つの棒状ガイドと油圧シリンダによって、ハウジング部を進行方向に対して横断方向に直接的に移動するものと認められる。そして、棒状ガイド及び油圧シリンダを有することによって、切削ローラを、「水平方向」(進行方向に対して横断方向)に移動させることができるのだから、それに加えて「水平方向」(進行方向に対して横断方向)以外の方向に可動となるような機構を設ける技術的必然性があるとも認められない。そうすると、切削ローラは、進行方向に移動しないで、進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、進行方向にフレーム部で強固に支持されているといえる。

d 小括
そうすると、切削ローラは、進行方向については、検甲1発明も進行方向に対して横断方向にのみ可動で進行方向に強固に支持されており、垂直方向については、検甲1発明に上記(ア)で述べた周知技術を採用することで、垂直な方向に移動しないように、垂直な方向に強固に支持されることになることから、検甲1発明に上記周知技術を採用して、相違点2、3に係る本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

イ 被請求人の主張に対して
(ア)被請求人は、「本件発明1の利点は、自走式大型切削機が大きな切削力を発揮できること、進行方向に対して横断方向にのみ変位可能であることであり、検甲1発明とは異なる。
本件発明1の切削ローラハウジングは、高い切削力ひいては大きな切削深さを生み出すために機械の全重量を切磋(審決注;「切削」の誤記と認める。)ローラに伝達できるように、機械フレームに対して高さ調節可能ではない(本件特許公報段落0004を参照)。本件発明1は機械フレームを介して切削ローラハウジングとの関連で切削ローラにより与えられる高圧荷重は、1回の通過の間に路面を完全に除去できるように、少なくとも30cmの切削深さを可能にするが(本件特許公報段落0013を参照)、検甲1発明のロードカッタER550Fの切削深さは最大で23cmである(甲第3号証第2頁参照)。
請求人は、検甲1発明が、鉛直方向に高さ調節可能であることを認めている。しかしながら、切削ローラが横断方向に変位するとき、ハウジング部は、進行方向に変位するので、切削ローラは、垂直および進行方向に強固に支持されていないことが理解できる。
・・・
しかしながら、甲第6号証ないし甲第8号証のいずれにも、動機付けは存在せず、切削ローラが切削ローラハウジングと共に垂直および進行方向に前記機械フレームで強固に支持された構成は開示されていない。また、どの甲号証にも、切削ローラ駆動ユニットが、機械フレームでの支持によって、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、進行方向に対して横断方向に変位可能に支持された構成も開示されていない。」(上記第4の1)旨、主張する。
しかしながら、上記ア(ア)で説示したように、切削ローラの高さ調節を行うにあたって、車体を高さ調節するか、あるいは、駆動部(切削ローラ)を高さ調節するかは、当業者が適宜選択できる事項にすぎない。また、車体を高さ調節する場合でも、駆動部(切削ローラ)を高さ調節する場合でも、機械の全重量を切削ローラに伝達させることはできるため、機械の全重量を切削ローラに伝達させることは、車体を高さ調節する場合だけの効果とはいえない。

(イ)被請求人は、「特許請求の範囲に記載されている「垂直および進行方向」、「強固に支持」の技術的意義は、明細書の記載にもとづいて解釈すべきである。
・・・
少なくとも上記記載から、「上記タイプの自走式道路切削機」とは、高い切削力ひいては大きな切削深さを生み出すために機械の全重量を切削ローラに伝達できる大型切削機であり、「垂直および進行方向」とは大型切削機に対する垂直および進行方向であり、「強固に支持」とは、高い切削力ひいては大きな切削深さ(少なくとも30cmの切削深さ)を生み出すために機械の全重量を切削ローラに伝達する程度の支持であることが理解できる。
本件発明1の構成、すなわち、
「前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され、前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され」た構成(相違点に係る構成)は、互いに全体から切り離すことができない。
この構成において、前記切削ローラが、垂直および進行方向に強固に支持されていること、更に、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、進行方向に対して横断方向に変位可能であることは、本願明細書に明らかに記載されている。それと共に、「強固に」とは、切削ローラが垂直方向および進行方向に変位可能であるべきではないことを意味することは明らかである。
逆に、検甲1発明には、この構成が全く開示されていない。検甲1発明において明らかなことは、切削ローラが進行方向に対して垂直方向または横断方向に移動する点である。前述したように、本件発明1に係る自走式大型切削機は、切削ローラに大きな力を加えることができ、依然として、進行方向に対して横断する方向に変位できるという利点を有する。これに対して、検甲1発明に係るロードカッタは、このような利点を持ち得ない。
本願明細書には、「正確な切削深さ調節を維持するために、2つのリニアガイドにより、切削ローラハウジングを機械フレームで強固に支持し、それによって切削ローラを上下方向に強固に支持することができる。更に、切削ローラハウジングは、切削ローラが進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように進行方向に強固に支持される。」(段落0017を参照)と記載されている。
この記載から明らかなことは、切削ローラハウジングには3本の軸があるということである。
第1の軸は、垂直軸であり、第2の軸は進行方向に対して平行な軸であり、第3の軸は、進行方向に対して横断する方向の軸である。
切削ローラは、垂直方向または進行方向に移動しないので、正確な切削深さ調整が維持できる。切削ローラは、第3の軸においてのみ移動可能である。切削ローラハウジングが横断方向のみに移動可能であることは、本願明細書から明らかである。」(上記第4の3)旨、主張する。

また、被請求人は、「検甲1発明は、進行方向において、ハウジング部の前方側部左右が2本ずつの棒状ガイドで連結され、ハウジング部の後方上部左右が2つの油圧ピストンで連結されている(検証結果(9)、写真12-14、22,26、31-32を参照)。
・・・
一方、検甲1発明における切削ローラは、横断方向に移動するときに必ず進行方向にも移動する構成になっている(検証結果(9)、写真26-28,31-35を参照。)」。・・・これは大型切削機の切削深さに大きな影響を与える「移動」であり、本件発明1が排除した機能でもある(本件明細書の段落0008を参照)。
・・・
検甲1発明では、切削ローラを進行方向に対して上下又は左右に移動させたとき、元の位置からの切削ローラのずれが生じるが、これは、被請求人ばかりか請求人も認めていることであり(審決の予告第16頁29行?第31行を参照)、審判官の判断と異なる。
検甲1発明の切削ローラは、ハウジング部に対して垂直及び進行方向に移動しないが、切削ローラを支持するハウジング部がフレーム部に対して垂直及び進行方向に移動する構造になっている。そのため、検甲1発明による切削作業では、切削ローラを横断方向に移動させるとき、切削ローラはフレーム部に対して進行方向に移動するので、正確な掘削はできない。」(上記第4の5)旨、主張する。


しかしながら、切削ローラの垂直方向の支持については、上記ア(イ)で説示したように、検甲1発明に周知技術を採用して、切削ローラの路面との高さ調節を、車体の高さ調節によって行うことにした場合には、「上下方向変位用の油圧シリンダ」により切削ローラを垂直方向に可動とする必要がなくなり、結果として、「上下方向変位用の油圧シリンダ」を除くことが選択されると考えられ、そのときには、切削ローラは、垂直な方向に移動しないように、垂直な方向にフレーム部で強固に支持されるものになるといえる。
次に、切削ローラの進行方向の支持について検討する。
まず、平成31年2月6日に行われた検甲第1号証の証拠調べ(検証)の調書には、「4.検証の結果」として「(9)切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持されている。[写真26、写真27、写真28]」と記載されているが、切削ローラ及びハウジング部が進行方向に移動するとした記載はなく、同調書の[写真01]ないし[写真46]からも、甲第4号証、甲第5号証からも、切削ローラ及びハウジング部が進行方向に移動することは看取できない。
続いて、検甲1発明は、「切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持され」ており、「車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができ」、「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」ものであり、2つの棒状ガイドと油圧シリンダによって、ハウジング部を進行方向に対して横断方向に直接的に移動するものと認められる。そして、棒状ガイド及び油圧シリンダを有することによって、切削ローラを、「水平方向」(進行方向に対して横断方向)に移動させることができるのだから、それに加えて「水平方向」(進行方向に対して横断方向)以外の方向に可動となるような機構を設ける技術的必然性があるとも認められない。
続いて、切削ローラを進行方向に移動可能とするためには、検甲1発明の上記した「上下方向変位用の油圧シリンダ」、「2つの棒状ガイド」及び「水平方向変位用の油圧シリンダ」が、これらに対応して進行方向に移動する機構を備える必要があるが、上記検甲第1号証の証拠調べ(検証)の調書における「4.検証の結果」や、各甲号証から、これらを進行方向に可動とする機構は看取できない。
続いて、被請求人がいう「ハウジング部の前方側部左右」の「2本ずつの棒状ガイド」(上記した「2つの棒状ガイド」とは異なるもの。)については、その存在自体は上記検甲第1号証の証拠調べ(検証)の調書における「写真26」や「写真28」等から看取できるものの、ハウジング部を、水平方向(進行方向に対して横断方向)や垂直方向に案内及び駆動する機構としては、「上下方向変位用の油圧シリンダ」、「2つの棒状ガイド」及び「水平方向変位用の油圧シリンダ」が、既に存在することから、上記した「ハウジング部の前方側部左右」の「2本ずつの棒状ガイド」自体が駆動機構を備えているとも認められず、上記した「ハウジング部の前方側部左右」の「2本ずつの棒状ガイド」は、上記「上下方向の油圧シリンダ」や上記「2つの棒状ガイド」等に従動する機構であると解するのが相当である。そして、この「ハウジング部の前方側部左右」の「2本ずつの棒状ガイド」自体は円弧状の軌道を有し、それにより、それら自体は進行方向に変位しうると認められるものの、変位は微小であると推認される。そして、微小な変位を吸収する機構は周知であって、そのような機構を採用すれば、上記「2本ずつの棒状ガイド」自体が変位しても、「切削ローラ」が「進行方向」に移動しないようにすることが可能であるから、上記「2本ずつの棒状ガイド」があることのみをもって、「切削ローラ」が進行方向に移動可能であるとはいえない。また、仮に、上記「2本ずつの棒状ガイド」によって「切削ローラ」が「進行方向」に変位するとしても、その変位は、上記「上下方向の油圧シリンダ」の上下方向のみの移動や、上記「2つの棒状ガイド」の横方向のみの移動に従動する微小なものであり、切削ローラは、進行方向にフレーム部で強固に支持されているといえる。
なお、被請求人の、「検甲1発明では、切削ローラを進行方向に対して上下又は左右に移動させたとき、元の位置からの切削ローラのずれが生じるが、これは、被請求人ばかりか請求人も認めていることであり(審決の予告第16頁29行?第31行を参照)、審判官の判断と異なる。」とした主張について、請求人は、「なお、被請求人が主張するような進行方向移動量x及びyが検甲1発明で生じるか否かについては、甲第5号証からは、はっきりとは確認できないが、その点は、ここでは措くこととする。」(審決の予告の第16頁26行?第28行)と述べているのであって、進行方向の移動が生じることを認めているものではないから、被請求人の主張は認められない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明2について
(1)本件発明2と検甲1発明の対比
ア 検甲1発明の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。」ことは、本件発明2の「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させること」に相当する。

イ よって、両者は、上記2(1)の相違点1?3で相違する。

(2)各相違点に対する判断
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明2は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本件発明3について
(1)本件発明3と検甲1発明の対比
ア 検甲1発明の「1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」ので、当該「1つの棒状ガイド」は、位置決めを行うことができるため、本件発明3の「第1のガイド(34)」に相当する。また、検甲1発明のもう一つの「棒状ガイド」は、油圧シリンダがないので位置決めを行うことができないから、本件発明3の「第2のガイド(36)」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、検甲1発明の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。」ことは、本件発明3の「前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドである」ことに相当する。

ウ よって、両者は、上記2(1)の相違点1?3で相違する。

(2)各相違点に対する判断
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明3は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件発明4について
(1)本件発明4と検甲1発明の対比
本件発明4と検甲1発明を比較すると、上記2(1)の相違点1?3に加えて、以下の相違点4で相違する。

(相違点4)
切削ローラの最大横走行距離について、本件発明4は「500?1000mmの範囲である」のに対し、検甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?3について
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

イ 相違点4について
切削ローラの横スライド(横走行距離)をどの程度に設定するかは、切削範囲の大きさに応じて、当業者が適宜設定することができる設計事項にすぎない。また、本件発明4の数値限定に格別の技術的意義は認められない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明4は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件発明5について
(1)本件発明5と検甲1発明の対比
本件発明5と検甲1発明を比較すると、上記2(1)の相違点1?3に加えて、以下の相違点5で相違する。

(相違点5)
本件発明5は、「コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定される」のに対し、検甲1発明は、「コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている」点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?3について
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

イ 相違点5について
コンベヤベルト手段の下端を受けるためのベルトシューを設けること、及び当該ベルトシューを高さ調節可能に固定することは、甲第9号証に記載されている(上記第5の8)。
そして、検甲1発明と甲第9号証に記載されたものは、共に道路の切削機であり、コンベヤベルト手段、切削ローラの位置関係も同様であること、また、切削ローラから切削された土砂等をコンベヤベルト手段に効果的に移行するようにすることは自明の課題であることから、検甲1発明に、上記甲第9号証に記載された事項を適用して、相違点5に係る本件発明5の構成の如くすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明5は、検甲1発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件発明6について
(1)本件発明6と検甲1発明の対比
本件発明6と検甲1発明を比較すると、上記2(1)の相違点1?3、及び上記6(1)の相違点5に加えて、以下の相違点6で相違する。

(相違点6)
本件発明6は「前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結される」に対し、検甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?3について
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

イ 相違点5、6について
相違点5、6は関連しているため、併せて検討する。
上記6(2)イで説示したように、甲第9号証には、コンベヤベルト手段の下端を受けるためのベルトシューを設けること、及び当該ベルトシューを高さ調節可能に固定することが記載されており、コンベヤベルト手段とベルトシューをどのように連結するかは、当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明6は、検甲1発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 本件発明11について
(1)本件発明11と検甲1発明の対比
本件発明11と検甲1発明を比較すると、上記2(1)の相違点1?3、及び上記6(1)の相違点5に加えて、以下の相違点7で相違する。

(相違点7)
本件発明11は「前記ベルトシュー(40)が、同期ガイド(60)を介して高さ調節可能である」のに対し、検甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?3について
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

イ 相違点5、7について
相違点5、7は関連しているため、併せて検討する。
上記6(2)イで説示したように、甲第9号証には、コンベヤベルト手段の下端を受けるためのベルトシューを設けること、当該ベルトシューを高さ調節可能に固定すること、及びベルトシューの高さ調節を同期させること(【0026】)が記載されている。
したがって、検甲1発明に、上記甲第9号証に記載された事項を適用して、相違点5、7に係る本件発明11の構成の如くすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明11は、検甲1発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

9 本件発明12について
(1)本件発明12と検甲1発明の対比
ア 検甲1発明の「3枚の板状体」は、本件発明12の「ストリッパシールド(64)」に相当し、検甲1発明の「ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。」ことは、本件発明12の「進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であること」に相当する。

イ よって、両者は、上記2(1)の相違点1?3で相違する。

(2)各相違点に対する判断
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明12は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

10 本件発明13について
(1)本件発明13と検甲1発明の対比
ア 検甲1発明の「側板要素」は、本件発明13の「可動シールド要素(74)」に相当し、検甲1発明の「ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である。」ことは、本件発明12の「前記進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端は、下縁(78)が高さ調節可能なストリッパシールド(64)と実質的に面一であり、前記ストリッパシールド(64)は、それぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備し、前記可動シールド要素(74)は、その下縁(78)が実質的に前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調整可能であり、高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であること」に相当する。

イ よって、両者は、上記2(1)の相違点1?3で相違する。

(2)各相違点に対する判断
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明13は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

11 本件発明14について
(1)本件発明14と検甲1発明の対比
本件発明14は、方法の発明であるが、実質的には、本件発明1と同様の構成を有しているから、両者は、上記2(1)の相違点1?3で相違する。

(2)各相違点に対する判断
相違点1?3に対する判断は、上記2(2)と同様である。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明14は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

12 まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4、12ないし14は、検甲1発明、及び周知技術(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明5、6、11は、検甲1発明、周知技術(甲第6号証?甲第8号証)及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第8 むすび
上記第7で検討したとおり、本件発明1ないし6、11ないし14は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし6、11ないし14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ調節可能な車体(4)と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)と、
前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)に一体化された切削ローラ駆動ユニット(14)と、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するためのコンベヤベルト手段(18)であって、大型切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記コンベヤベルト手段(18)の下端を含めた前記切削ローラハウジング(10)とを変位させるように前記切削ローラハウジング(10)と協働する、前記コンベヤベルト手段(18)とを具備する路面(2)切削用の自走式大型切削機(1)であって、
前記切削ローラ(12)は、前記切削ローラハウジング(10)と共に、前記切削ローラ(12)が垂直および進行方向に移動しないように垂直および進行方向に前記機械フレーム(8)で強固に支持され、前記切削ローラ駆動ユニット(14)は、前記機械フレーム(8)での支持によって、前記切削ローラ(12)が前記進行方向に対して横断方向にのみ可動であるように、前記進行方向に対して横断方向に変位可能に支持され、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、自走式大型切削機(1)において、
前記切削ローラハウジング(10)は、前記前車軸および後車軸の間に配置され、
作業を中断させることなく切削作業中に前記切削ローラ(12)を前記切削ローラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記ゼロ側を、前記機械フレーム(8)の一方の前記外側面(26,28)またはその反対側の前記外側面(26,28)に選択的に画定することができ、前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備することを特徴とする、自走式大型切削機。
【請求項2】
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させることを特徴とする、請求項1に記載の自走式大型切削機。
【請求項3】
前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドであることを特徴とする、請求項2に記載の自走式大型切削機。
【請求項4】
前記切削ローラ(12)の最大横走行距離が、500?1000mmの範囲であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項5】
前記コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定されることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項6】
前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結されることを特徴とする、請求項5に記載の自走式大型切削機。
【請求項7】
前記ベルトシュー(40)が、前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)を関節連結により受けるための凹状の受けソケット(48)を具備し、前記受けソケット(48)が前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)の、前記受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働することを特徴とする、請求項5または6に記載の自走式大型切削機。
【請求項8】
前記コンベヤベルト手段(18)の前側上端(46)が、前記コンベヤベルト手段(18)の長手方向軸線に沿って直線的に変位可能であるように、カルダン継手により前記機械フレーム(8)に支持されることを特徴とする、請求項5?7のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項9】
可撓性の支持を確保するために、少なくとも前記コンベヤベルト手段(18)の前記前側上端(46)において、前記コンベヤベルト手段(18)が、前記コンベヤベルトの方向に延びかつ凸状の軸受面を有するコンベヤベルト側支持要素(52)を下側に具備し、前記支持要素(52)が、横方向に案内されるとともに、凸状の支持面を有しかつ前記機械フレーム(8)に進行方向に対して横断方向に固定されたフレーム側支持要素(56)に載置されることを特徴とする、請求項8に記載の自走式大型切削機。
【請求項10】
前記コンベヤベルト側支持要素(52)および/または前記フレーム側支持要素(56)が、丸みを帯びた断面の形状または中空形状により画定されることを特徴とする、請求項9に記載の自走式大型切削機。
【請求項11】
前記ベルトシュー(40)が、同期ガイド(60)を介して高さ調節可能であることを特徴とする、請求項5?10のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項12】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であることを特徴とする、請求項1?11のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項13】
前記進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端は、下縁(78)が高さ調節可能なストリッパシールド(64)と実質的に面一であり、前記ストリッパシールド(64)は、それぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備し、前記可動シールド要素(74)は、その下縁(78)が実質的に前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調整可能であり、高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であることを特徴とする、請求項1?12のいずれか一項に記載の自走式大型切削機。
【請求項14】
請求項1に記載の自走式大型切削機(1)を用いた路面(2)の切削の方法であって、
前記自走式大型切削機(1)が、
横外側面(26,28)を含む機械フレーム(8)と、
切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)と
を具備し、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向前端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の前記横外側面(26,28)の一つ、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、路面(2)の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)を前記切削ローラ(12)に一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、
切削作業中に前記切削ローラを前記切削ローラハウジング(10)と共に変位させることができ、前記切削ローラ(12)は、切削作業中に前記切削ローラ(12)を変位させる為に、その前縁に追加のチゼルツールを具備することを特徴とする、路面の切削の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2019-12-25 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2014-157748(P2014-157748)
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (E01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 小林 俊久
西田 秀彦
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6038846号(P6038846)
発明の名称 路面切削用の自走式道路切削機、特に大型切削機、および路面切削の方法  
代理人 阿部 寛  
代理人 山田 行一  
代理人 池田 成人  
代理人 阿部 寛  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 池田 成人  
代理人 山田 行一  

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