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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1375587
審判番号 不服2020-11217  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-12 
確定日 2021-07-01 
事件の表示 特願2018-187669「表面保護フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月14日出願公開、特開2019- 23306〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月16日の出願である特願2012-251820号の一部を平成28年2月15日に新たな特許出願とした特願2016-26032号の一部を平成29年4月14日に新たな特許出願とした特願2017-80451号の一部を平成30年10月2日に新たな特許出願としたものであって、令和元年8月2日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月26日に意見書が提出され、令和2年5月13日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月19日)、これに対して、令和2年8月12日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月22日に上申書が提出されたものである。

第2 令和2年8月12日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年8月12日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である、令和元年8月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものを含む補正であって、そのうち請求項1についての補正は以下のとおりである。

1-1 本件補正前の請求項1(すなわち、出願当初の特許請求の範囲の請求項1) の記載
「【請求項1】
アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、
(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85?99.5重量部と、
(B)ヒドロキシル基含有の共重合性モノマーの少なくとも1種以上の合計を0.5?15重量部とを、
(C)カルボキシル基含有の共重合性モノマーを含まないで、共重合させた共重合体であり、
前記(A)及び前記(B)の合計が100重量部となる割合で含有してなり、
前記架橋剤が、3官能以上のイソシアネート化合物であり、
前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、
前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種であることを特徴とする表面保護フィルム。」

1-2 本件補正後の請求項1の記載
「 【請求項1】
アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、
(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85?99.5重量部と、
(B)ヒドロキシル基含有の共重合性モノマーの少なくとも1種以上の合計を0.5?15重量部とを、
(C)カルボキシル基含有の共重合性モノマーを含まないで、共重合させた共重合体であり、
前記(A)及び前記(B)の合計が100重量部となる割合で含有してなり、
前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり、
前記架橋剤が、3官能以上のイソシアネート化合物であり、
前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、
前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種であることを特徴とする表面保護フィルム。」(以下、「本件補正発明」ともいう。)

2 補正の適否
2-1 新規事項について
(1)本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、「前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり」との限定を付加する補正を含むものである。
ここで、上記補正の根拠について、審判請求人は審判請求書において「この補正は、本願の原出願の原出願である特願2016-26032号(特許第6131351号公報)では認められた発明特定事項でありますが、主成分のアルキル(メタ)アクリレートに係わる本願明細書の段落〔0021〕の記載、及び、本願発明の実施例1?6(段落〔0044〕の表1)において、「(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有している」ことの条件を満たして、本願発明の効果が実証されていることを根拠としています。」と主張する。
そこで、本件補正が、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて、以下に検討する。
(2)当初明細書等の段落[0021]には「【0021】
主成分のアルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された1種以上が好ましい。
前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、主成分のアルキル(メタ)アクリレートを85?99.5重量部含有することが好ましい。」と記載されているが、前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなることは、記載されていないし、当該記載から自明な事項でもない。
また、段落[0044]の表1には「

」と記載されており、その実施例5の具体例において、前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を50重量部含むことは記載されているが、その実施例1?6の具体例(なお、後述するように実施例1?2、4及び6は、補正後の請求項1に係る発明の具体例に該当しない。)において、イソオクチル(メタ)アクリレート(IOA)を50重量部の割合で含むことは記載されておらず、イソオクチル(メタ)アクリレートの配合量の範囲の下限値を50重量部とすることが、当該記載から自明な事項であるとはいえない。
さらに、当初明細書等の記載全体、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、イソオクチル(メタ)アクリレート(IOA)を50重量部の下限値で含むことの技術的意義が自明であるとはいえないし、審判請求書によれば、上記限定を付すことにより、本願発明1と引用文献1に記載の発明との間で新たな構成要件aの相違が生じるのであるから、本件補正により新たな技術的事項を導入するものであることは明らかである。
(3)よって、本件補正により付加された「前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり」は、「当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとき」に該当するとはいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていないため、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-2 独立特許要件について
上記2-1における検討のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり却下されるべきものであるが、仮に、本件補正が当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、補正後の請求項1に記載される発明(「本件補正発明」)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
なお、審判請求書(3頁18?21行)では、「2.2.補正の根拠について」として、「請求項1において「・・・」と補正して、本願発明をより明確にしました。」と記載されているが、特許法第17条の2第5項第4号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正は「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」とされており、本件拒絶理由通知に係る拒絶の理由では本件補正に関する事項の明確性について何ら言及していないから、本件補正が「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものでないことは明らかである。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1-2)」の請求項1に記載されたとおりのものである。

(2)引用刊行物及びその記載事項
刊行物A:特開2008-13634号公報(原査定の引用文献1)
刊行物B:特開2012-224811号公報(原査定の引用文献2)
刊行物C:特開2011-38108号公報(原査定の引用文献3)
刊行物D:特開2009-251281号公報(原査定の引用文献4)
刊行物E:特開2011-154267号公報(原査定の引用文献5)

A.刊行物A
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物Aには、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】
反応性水酸基を有するアクリル系共重合体(A)、ジアルキルアセチルアセトン錫錯体触媒(B)、及びイソシアネート化合物(C)を含むアクリル系感圧接着剤組成物。
・・・
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の感圧接着剤組成物をポリエチレンテレフタレート基材に塗布した光学部材表面保護フィルムであって光学部材に対する23℃での180度ピールの接着力において、剥離速度0.3m/分における接着力が0.05N/25mm幅以上である光学部材表面保護フィルム。」
(1b)「【0041】
本発明の光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物は、イソシアネート化合物(C)を含有する。
本発明で使用することのできるイソシアネート化合物(C)としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、該芳香族ポリイソシアネート化合物の水素添加物等の脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート;それらポリイソシアネートの2量体もしくは3量体又はそれらポリイソシアネートと、トリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体などの各種ポリイソシアネートに由来するポリイソシアネート化合物を挙げることができるが、これらのイソシアネート化合物の中では、なじみ性の点からヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI系イソシアネート)が好ましく、中でも架橋速度の点からHMDI系のイソシアネートのトリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体が特に好ましい。」
(1c)「【0044】
本発明の光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物には、以上述べたアクリル系共重合体(A)ジアルキルアセチルアセトン錫錯体(B)及びイソシアネート化合物(C)の他に、必要に応じて、保護フィルム用感圧接着剤組成物に配合される配合物、例えば、耐候性安定剤、タッキファイヤー、帯電防止剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤などを適宜配合することができる。」
(1d)「【0055】
(1) 試験用感圧接着シートの作成
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔商品名;E5001;東洋紡績(株)製〕上に乾燥後の塗工量が20g/m^(2)となるように、感圧接着剤組成物を塗布し、100℃で60秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥して感圧接着剤層を形成した後、シリコーン系離型剤で表面処理されたPET上に、該感圧接着剤層面が接するように載置し、加圧ニップロールを通して圧着して貼り合わせた後、23℃、50%RHで10日間養生を行って試験用表面保護フィルムを得た。
・・・
【0063】
アクリル系共重合体溶液の製造
[製造例1]
単量体として2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)95.0重量%、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)5.0重量部の割合で2EHA及び4HBAの単量体を計量して、混合し、単量体混合液Aを400重量部作成した。
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、計量した単量体混合液Aの17%、酢酸エチル440重量部、トルエン120重量部及びアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル0.8重量部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら酢酸エチルの還流温度まで加熱し、還流状態で20分反応を進める。その後、残りの単量体混合液の全量、酢酸エチル400重量部及びアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル0.9重量部を均一に混合した混合液を、90分かけて酢酸エチルの還流状態で反応器内に等速度で逐次添加した。更に120分間還流状態に温度を維持した後、トルエン300重量部及びアゾビスイソブチロニトリル3.0重量部を均一に混合した混合液を60分かけて酢酸エチルの還流状態で反応容器内に等速度で逐次添加した。更に90分間還流状態に温度を維持した後、酢酸エチル225重量部とトルエン620重量部を反応容器内に添加して、アクリル系共重合体Aを得た。
・・・
【0067】
実施例1
不揮発分を35%に調整したアクリル系共重合体溶液A 100重量部、前記触媒溶液を1.77重量部加えた。これに架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートを1.86重量部加え、これらの混合物をよく攪拌して、均一にした。
得られたアクリル系共重合体溶液の粘度は800mPa・sであり、またアクリル系共重合体は、ガラス転移温度(Tg)-64℃であって、重量平均分子量(Mw)51万及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mn=8.5を有していた。この感圧接着剤組成物を用い、前記の試験用感圧接着シートの作成方法に従って試験用表面保護フィルムを作成し、前記の各種物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。」

B.刊行物B
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物Bには、次の記載がある。
(2a)「【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの製造工程に利用される表面保護フィルムに関するものである。さらに詳しくは、液晶ディスプレイを構成する偏光板、位相差板などの光学部材の表面に貼着することにより、偏光板、位相差板などの光学部材の表面を保護するために使用される表面保護フィルム用の粘着剤組成物、及びそれを用いた表面保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
・・・
【0003】
このように光学部材を製造する工程において使用される表面保護フィルムは、光学的に透明性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムの片面に粘着剤層が形成されているが、光学部材に貼り合わせるまで、その粘着剤層を保護するための剥離処理された剥離フィルムが、粘着剤層の上に貼り合わされている。
また、偏光板、位相差板などの光学部材は、表面保護フィルムを貼り合わされた状態で、液晶表示板の表示能力、色相、コントラスト、異物混入などの光学的評価を伴う製品検査を行うため、表面保護フィルムに対する要求性能としては、粘着剤層に気泡や異物が付着していないことが求められている。
また、近年では、偏光板、位相差板などの光学部材から表面保護フィルムを剥がすときに、粘着剤層を被着体が剥がす時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電が、液晶ディスプレイの電気制御回路の故障に影響することが懸念され、粘着剤層に対して優れた帯電防止性能が求められている。
また、偏光板、位相差板などの光学部材に表面保護フィルムを貼り合わせるときに、各種の理由により、一旦、表面保護フィルムを剥がして、再度、表面保護フィルムを貼り直すことがあり、そのときに被着体の光学部材から剥がし易いこと(リワーク性)が求められている。
また、最終的に偏光板、位相差板などの光学部材から表面保護フィルムを剥がすときには、速やかに剥離できることが求められている。いわゆる、高速剥離によっても、速やかに剥離できるように、粘着力が剥離速度によっても変化が少ないことが求められている。
【0004】
このように、近年においては、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能として、(1)低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取ること、(2)糊残りの発生防止、(3)優れた帯電防止性能、及び(4)リワーク性能などが、表面保護フィルムを使用するに当たっての使い易さの点から求められている。
しかし、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能である、これら(1)?(4)のそれぞれ、個々の要求性能を満たすことは出来ても、表面保護フィルムの粘着剤層に求められる(1)?(4)の全ての要求性能を、同時に満たすことは非常に困難な課題であった。」
(2b)「【0022】
(G)帯電防止剤は、常温(例えば30℃)で固体であることが好ましく、より具体的には、前記共重合体の100重量部に対して0.5?5.0重量部含まれる、融点が30?80℃であるイオン性化合物、又は、前記共重合体中に1.0?5.0重量%共重合された融点が30?80℃である4級アンモニウム塩型アクリルモノマーであることが好ましい。本発明では、(G)帯電防止剤として、(G1)融点が30?80℃であるイオン性化合物を共重合体に添加し、又は(G2)融点が30?80℃である4級アンモニウム塩型アクリルモノマーを共重合体中に共重合する。これらの(G)帯電防止剤は、融点が低いため、また、長鎖のアルキル基を有するため、アクリル共重合体との親和性は高いと推測される。
【0023】
(G1)融点が30?80℃であるイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、アンモニウムカチオン等の含窒素オニウムカチオンや、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン等であり、アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF_(6)^(-))、チオシアン酸塩(SCN^(-))、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RC_(6)H_(4)SO_(3)^(-))、過塩素酸塩(ClO_(4)^(-))、四フッ化ホウ酸塩(BF_(4)^(-))等の無機もしくは有機アニオンである化合物が挙げられる。アルキル基の鎖長や置換基の位置、個数等の選択により、融点が30?80℃のものを得ることができる。カチオンは、好ましくは4級含窒素オニウムカチオンであり、1-アルキルピリジニウム(2?6位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級ピリジニウムカチオン、や1,3-ジアルキルイミダゾリウム(2,4,5位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級イミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウム等の4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0024】
(G2)融点が30?80℃である4級アンモニウム塩型アクリルモノマーとしては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウム〔R_(3)N^(+)-C_(n)H_(2n)-OCOCQ=CH_(2)、ただし、Q=HまたはCH_(3)、R=アルキル〕等の(メタ)アクリル基含有4級アンモニウムであり、アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF_(6)^(-))、チオシアン酸塩(SCN^(-))、有機スルホン酸塩(RSO_(3)^(-))、過塩素酸塩(ClO_(4)^(-))、四フッ化ホウ酸塩(BF_(4)^(-))等の無機もしくは有機アニオンである化合物が挙げられる。

C.刊行物C
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物Cには、次の記載がある。
(3a)「【0003】
そして、この光学部材が液晶セルに貼り合わされるなどして、保護フィルムが不要になった段階で保護フィルムは剥離して除去される。一般に保護フィルムや光学部材は、プラスチック材料により構成されているため、電気絶縁性が高く、摩擦や剥離の際に静電気を発生する。したがって、保護フィルムを偏光板などの光学部材から剥離する際にも静電気が発生する。静電気が残ったままの状態で、液晶に電圧を印加すると、液晶分子の配向が損失したり、パネルの欠損が生じたりする。そこで、このような不具合を防止するため、表面保護フィルムには各種帯電防止処理が施されている。」

D.刊行物D
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物Dには、次の記載がある。
(4a)「【請求項1】
(A)(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーと、ヒドロキシル基含有モノマーおよび/またはカルボキシル基含有モノマーと、イソシアネート系架橋剤とから得られ、
前記ヒドロキシル基含有モノマーおよび/またはカルボキシル基含有モノマーが有する少なくとも一部のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基が、前記イソシアネート系架橋剤により架橋構造を形成することなく極性基として残存している、ゲル分率が50%以上の(メタ)アクリル系部分架橋ポリマー中に、
(B)下記式(I)で表わされるイミダゾリウムカチオンと、無機アニオンとを含み、融点が30?150℃であり、かつ25℃で固体であるとともに該融点以上の温度で液体となってイオン性を示すイオン性固体が、
安定かつ略均一に分散されてなる優れた帯電防止性を有する偏光板用粘着剤組成物;
【化1】

(式(I)中、R^(1)は独立して炭素数1?14のアルキル基、炭素数6?14のアリール基、または該アルキル基の末端が該アリール基で置換された基を示す。R^(2)は独立して炭素数1?14のアルキル基を示す。)。
(4b)「【0039】
<(B)イオン性固体>
本発明の偏光板用粘着剤組成物に含有される(B)イオン性固体は、イミダゾリウムカチオンと、無機アニオンとを含んでなる。この(B)イオン性固体とは、その融点が30?150℃、好ましくは40?135℃、より好ましくは50?120℃であり、かつ25℃で固体である化合物のことである。このイオン性固体は、上記融点以上の温度で液体となって、イミダゾリウムカチオンと無機アニオンとが遊離し、イオン性を示すという特性を有している。こうした特性は、偏光板用粘着剤組成物に適用した際に充分な帯電防止能を発揮するだけでなく、上述のとおり(A)(メタ)アクリル系部分架橋ポリマーとの相溶性の向上にも大きく寄与する。
【0040】
(B)イオン性固体に含まれるイミダゾリウムカチオンとは、具体的には下記式(I)に表わされるイオンである。
【0041】
【化4】

上記式(I)中、R^(1)は独立して炭素数1?14のアルキル基、炭素数6?14のアリール基、または該アルキル基の末端が該アリール基で置換された基を示し、基中に二重結合を有していてもよく、基中の水素がNで置き換えられていてもよい。具体的には、メチル、シアノメチル、ビニル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、プロピル、シアノプロピル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ベンジルなどの基が挙げられる。なかでも、s-ブチル、ベンジル、デシル、ドデシル、テトラデシルが好ましい基として挙げられる。
【0042】
R^(2)は独立して炭素数1?14のアルキル基を示す。具体的には、メチル、シアノメチル、ビニル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、プロピル、シアノプロピル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルなどの基が挙げられる。なかでも、メチルが好ましい基として挙げられる。」

E.刊行物E
原査定で引用された本願出願前に頒布された刊行物Eには、次の記載がある。
(5a)「【請求項1】
偏光フィルムに、活性エネルギー線の照射により硬化するエポキシ化合物を含有する樹脂組成物からなる接着剤を介して、ポリプロピレン系樹脂フィルムが接着され、前記ポリプロピレン系樹脂フィルムの偏光フィルムへの接着面と反対側の面に粘着剤層が設けられており、
前記粘着剤層は、
(A)(A-1)次式(I):
【化1】

(式中、R_(1)は水素原子またはメチル基を表し、R_(2)は炭素数1?10のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?14のアルキル基を表す。)
で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマーを80?94重量%と、
(A-2)極性官能基を有する(メタ)アクリルモノマーを0.1?5重量%と、
(A-3)分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環とを有するモノマーを5?15重量%と、
を含有するモノマー組成物を重合開始剤の存在下にラジカル重合してなる、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂、および、
(B)架橋剤
を含有する粘着剤組成物から形成されている粘着剤層付偏光板。」
(5b)「【0140】
そこで、本発明に用いられる粘着剤層に帯電防止性を付与するには、粘着剤層を形成する粘着剤組成物にイオン性化合物を配合することが好ましい。このイオン性化合物は、粘着剤組成物への相溶性に優れていることから、有機カチオンを有するイオン性化合物(C)であることが好ましい。とりわけ、融点が30?80℃の範囲にあるものが好ましい。
【0141】
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)を構成する有機カチオン成分は、イオン性化合物の融点が30?80℃となり得るものから選択されることが好ましく、中でも、粘着剤層上に設けられる剥離フィルム(セパレータ)を剥がすときに帯電しにくいという観点から、ピリジニウムカチオンやイミダゾリウムカチオンがより好ましい。一方、イオン性化合物(C)において、前記有機カチオン成分の対イオンとなるアニオン成分は、同様にイオン性化合物の融点が30?80℃となり得るものから選択されることが好ましいが、無機のアニオンであってもよいし、有機のアニオンであってもよい。中でも、フッ素原子を含むアニオン成分は、帯電防止性能に優れるイオン性化合物を与えるという観点から好ましく用いられ、ヘキサフルオロホスフェートアニオンがさらに好ましい。
【0142】
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)としては、前記有機カチオン成分とアニオン成分の組合せから適宜選択することができ、たとえば、N-ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N-オクチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N-オクチル-4-メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N-ブチル-4-メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N-メチル-4-ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、および1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。このようなイオン性化合物(C)は、それぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。」

(3)刊行物Aに記載された発明
上記刊行物Aには、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔商品名;E5001;東洋紡績(株)製〕上に感圧接着剤組成物を塗布した表面保護フィルム、感圧接着剤組成物としてアクリル系共重合体溶液Aと架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートとを含むもの、そして、アクリル系共重合体溶液Aは単量体として2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)95.0重量%、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)5.0重量部の割合で含むことが、それぞれ記載されていることから(摘記1d参照)、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔商品名;E5001;東洋紡績(株)製〕上に、アクリル系共重合体溶液Aと架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートとを含む感圧接着剤組成物を塗布した表面保護フィルムであって、アクリル系共重合体溶液Aは単量体として2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)95.0重量%、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)5.0重量部の割合で含む、表面保護フィルム」の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されているといえる。

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔商品名;E5001;東洋紡績(株)製〕」、「アクリル系共重合体溶液A」は、それぞれ、本件補正発明の「樹脂フィルム」、「アクリル系ポリマー」に相当するから、引用発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔商品名;E5001;東洋紡績(株)製〕上に、アクリル系共重合体溶液Aと架橋剤とを含む感圧接着剤組成物を塗布した表面保護フィルム」は、当該組成物を架橋した接着剤層をPETフィルムの片面に形成していることは明らかであるから、本件補正発明の「アクリル系ポリマーと、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルム」に相当する。
引用発明の「2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)」、「4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)」は、それぞれ、本件補正発明の「炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート」、「ヒドロキシル基含有の共重合性モノマー」に相当し、引用発明においては「2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)」を95.0重量%含んでいるから、引用発明の「アクリル系共重合体溶液Aは単量体として2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)95.0重量%、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)5.0重量部の割合で含む」は、本件補正発明の「前記アクリル系ポリマーが、
(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85?99.5重量部と、
(B)ヒドロキシル基含有の共重合性モノマーの少なくとも1種以上の合計を0.5?15重量部とを、
(C)カルボキシル基含有の共重合性モノマーを含まないで、共重合させた共重合体であり、
前記(A)及び前記(B)の合計が100重量部となる割合で含有してなり、
前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、
(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85?99.5重量部と、
(B)ヒドロキシル基含有の共重合性モノマーの少なくとも1種以上の合計を0.5?15重量部とを、
(C)カルボキシル基含有の共重合性モノマーを含まないで、共重合させた共重合体であり、
前記(A)及び前記(B)の合計が100重量部となる割合で含有してなり、
前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなる表面保護フィルム。」である点で一致し、下記の点で相違する。

<相違点1>
架橋剤が、本件補正発明は3官能以上のイソシアネート化合物であるのに対して、引用発明は2官能のヘキサメチレンジイソシアネートである点。

<相違点2>
粘着剤組成物が、本件補正発明は、帯電防止剤を含有し、帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種であるのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。

(5)相違点の検討
<相違点1>について
刊行物Aには、イソシアネート化合物(C)として、架橋速度の点からHMDI系のイソシアネートのトリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体が特に好ましい旨が記載されており(摘記1b参照。)、イソシアネートのトリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体は3官能以上のイソシアネート化合物である。
そうすると、引用発明においても、イソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を選択することは、当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点2>について
刊行物Aには帯電防止剤を配合することができることも記載されており(摘記1c参照)、表面保護フィルムの粘着剤に帯電防止性能を持たせることは、例えば、刊行物B(摘記2a参照)及び刊行物C(摘記3a参照)に記載されるように、ごく一般的な要求である。
そして、刊行物B(摘記2b参照)、刊行物D(摘記4b参照)及び刊行物E(摘記5b参照)には、融点30?50℃の範囲に融点を持ち、カチオンが4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン又は4級アンモニウムカチオンであるイオン性化合物を粘着剤組成物に添加することで、粘着剤組成物に帯電防止性能を持たせることができることが、それぞれ記載されており、特に、刊行物Bは表面保護フィルムに関するものであるから、表面保護フィルムに当該化合物を添加して帯電防止性能を持たせることも本願出願前から公知の技術的事項である。
そうすると、引用発明の表面保護フィルムの感圧接着剤組成物に帯電防止性能が求められることは当業者ならば容易に理解することであり、この要求に対し、刊行物B、D及びEに記載されているような融点30?50℃の範囲に融点を持ち、カチオンが4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン又は4級アンモニウムカチオンであるイオン性化合物を、引用発明の感圧接着剤組成物に添加することは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

(6)本件補正発明の効果について
本願明細書の【0054】の【表3】に記載の実施例1?6の各種評価結果をみても、同程度の評価結果に過ぎないから、3官能イソシアネートを含み、本件補正発明に含まれる表面保護フィルム(実施例3及び5)は、2官能イソシアネートを含み、本件補正発明に含まれない表面保護フィルム(実施例1、2、4及び6)と比較して、優れた効果を奏しているとはいえない。
また、4級ピリジニウムカチオンであるカチオンとアニオンとを有するイオン性化合物である帯電防止剤を含む、本件補正発明に含まれる表面保護フィルム(実施例3及び5)は、それ以外のイオン性化合物である帯電防止剤を含み、本件補正発明に含まれない表面保護フィルム(実施例6)と比較しても、優れた効果を奏しているとはいえない。
そうすると、本件補正発明は、上記相違点に基づいて、当業者でも予測し得ない効果や格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

(7)審判請求人の主張
請求人は、審判請求書及び上申書において、「引用文献1に記載の発明は、本願発明1の発明特定事項である、少なくとも次の構成要件a?dを備えていません。
・構成要件a:「前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり、」
・構成要件b:「前記架橋剤が、3官能以上のイソシアネート化合物であり、」
・構成要件c:「前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、」
・構成要件d:「前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種である」、
「また、引用文献1に記載の発明には、「架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物」を含有する粘着剤組成物とすること、及び、「前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり」、「前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種である」粘着剤組成物にすることに関する他の引用文献2、4、5を組み合わせる動機がない」ことから、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1?5に記載の発明から想到することが困難であると主張している。
しかし、上記(4)で検討したとおり、上記構成要件aは実質的な相違点ではない。
そして、上記(5)で検討したとおり、引用発明には、「架橋剤として3官能以上のイソシアネート化合物」を含有する粘着剤組成物とすること、及び、「前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり」、「前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種である」粘着剤組成物にすることに関して、引用文献2、4、5を組み合わせる動機が十分にあるといえる。

なお、請求人は、審判請求書及び上申書において「引用文献2に記載の発明では、「アクリル共重合体が、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーを必須成分としていることから、引用文献2の記載が本願発明1を示唆することはあり得ません」とも主張しているが、カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーを成分として含むことと帯電防止剤との技術的関係は何ら示されておらず、引用文献2の記載が本件特許発明1を示唆することがないとする根拠は何ら見出せない。

よって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。

(8)小括
したがって、本件補正発明は、刊行物A?Eに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、
(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種以上の合計を85?99.5重量部と、
(B)ヒドロキシル基含有の共重合性モノマーの少なくとも1種以上の合計を0.5?15重量部とを、
(C)カルボキシル基含有の共重合性モノマーを含まないで、共重合させた共重合体であり、
前記(A)及び前記(B)の合計が100重量部となる割合で含有してなり、
前記架橋剤が、3官能以上のイソシアネート化合物であり、
前記帯電防止剤が、融点30?50℃の温度30℃で固体のカチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、
前記カチオンが、4級ピリジニウムカチオン、4級イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンからなる群から選択された1種であることを特徴とする表面保護フィルム。」(以下、「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、令和元年8月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であって、要するに、この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-13634号公報
2.特開2012-224811号公報
3.特開2011-38108号公報
4.特開2009-251281号公報
5.特開2011-154267号公報
6.特開2009-91406号公報
7.特開2010-202692号公報

3 引用刊行物
拒絶査定の理由で引用された引用文献1?5の刊行物は、上記刊行物A?Eにほかならず、刊行物A?Eの記載事項は、前記「第2 2 2-2 (2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願の請求項1に係る発明は、前記「第2 1」で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち「前記(A)炭素数が4?10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートのうち、イソオクチル(メタ)アクリレート、又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを50重量部以上の割合で含有してなり」との限定がないものである。
そうすると、本願の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2 2-2」に記載したとおり、当該刊行物A?Eに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の請求項1に係る発明も、当該刊行物A?Eに対応する引用文献1?5の刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-04-21 
結審通知日 2021-04-27 
審決日 2021-05-12 
出願番号 特願2018-187669(P2018-187669)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
P 1 8・ 55- Z (C09J)
P 1 8・ 575- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 瀬下 浩一
木村 敏康
発明の名称 表面保護フィルム  
代理人 大浪 一徳  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 貞廣 知行  

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