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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G07B
審判 全部無効 2項進歩性  G07B
管理番号 1375659
審判番号 無効2020-800005  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-01-27 
確定日 2021-05-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第5769141号発明「車両誘導システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5769141号(以下「本件特許」という。)は、平成16年9月13日に出願した特願2004-300749号を原出願とし、さらに、特願2008?303530号(出願日:平成20年11月28日)、特願2011?287837号(出願日:平成23年12月28日)、特願2013?24483号(出願日:平成25年2月12日)を新たな出願とした後に、同特願2013?24483号の一部を平成26年4月23日に新たな出願としたものであって、平成27年7月3日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
そして、本件無効審判に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 1月20日付け 審判請求書、甲第1?15号証提出
同年 1月27日付け 証拠説明書
同年 9月15日付け 審判事件答弁書、乙第1?5号証提出
証拠説明書
同年11月10日付け 審尋(請求人、被請求人に対して)
同年11月20日付け 上申書(請求人)
同年11月30日付け 回答書(請求人)
同年12月11日付け 回答書(被請求人)、証拠説明書、乙6号証
提出
同年12月22日 口頭審尋調書
令和3年 1月 5日付け 補正許否の決定

第2 本件特許発明
本件無効審判請求に係る本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1、2」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下「願書に添付した明細書」を「本件明細書」という。)の請求項1、2に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって、
前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段と、
前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機と、
車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、
前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段と、を備え、
前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含み、
さらに、前記第2の遮断機を通過した車両を検知する第2の検知手段と、前記第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段と、を備え、
さらに、前記ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入った位置または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出た位置に第4の遮断機と車両を検知する第4の検知手段とを設け、それにより、前記第2の遮断機と前記第4の遮断機との間に閉鎖区間を形成し、
前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし、前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、第2の遮断機を下ろし、前記第4の検知手段により車両の通過が検知された場合、該車両が通過した後に、前記第4の遮断機を下ろすことを特徴とする車両誘導システム。
【請求項2】
請求項1のシステムにおいて、さらに、前記第3の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第3の遮断機を下ろすことを特徴とする車両誘導システム。」

第3 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「特許第5769141号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、審判請求書、令和2年11月20日付け上申書、同年11月30日付け回答書、及び第1回口頭審尋調書における主張を総合すると、概略次の無効理由を主張している。

1 無効理由
(1)無効理由1
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効である。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
よって、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効である。

(3)無効理由3
本件特許の請求項1及び2の記載は、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。
よって、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効である。

なお、令和3年1月5日付けで補正許否の決定を行った。その内容は以下のとおりである。

「上記特許無効審判事件について、審判請求人が令和2年11月20日付け(11月25日差出)で提出した上申書及び令和2年11月30日付けで提出した回答書による請求の理由の補正については、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、下記のとおり決定します。



1.上記上申書の「I.明確性要件違反の点の要約」(2頁1行?25行)及び「II.明確性要件違反とする理由」(2頁26行?6頁末行)に基づく請求の理由の補正については、許可しない。

2.上記回答書の「6.回答の内容」の、「I.不明点についての釈明」のうち、「(1)?(3)」(2頁5行?4頁7行)に記載さている事項及び「(5)小括」(4頁16行?27行)の特許法第36条第6項第2号に係る事項、並びに「II.新たな主張」(4頁28行?6頁10行)に記載さている事項に基づく請求の理由の補正については、許可しない。

3.上記回答書に記載された事項のうち、上記2.以外の事項(4頁8行?15行、6頁11行?9頁末行)に基づく請求の理由の補正については、許可する。」

上記請求の理由の補正を許可しなかった事項については、いずれも、審判請求書からみて新たな主張であって、請求の理由の要旨を変更するものである。
なお、上記請求の理由の補正を許可しなかった事項について、請求人は、令和2年12月22日の口頭審尋において、審判請求書からみて新たな主張であることを認めている(第1回口頭審尋調書の「陳述の要領」における「請求人」の「2」の(補足事項)ア?ウ参照)。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。甲第1?15号証は写しを提出している。

甲第1号証:
実願平1-9782号(実開平2-104469号)のマイクロフィルム
甲第2号証:
特開平7-320106号公報
甲第3号証:
特許第3427496号公報
甲第4号証:
特開2002-24881号公報
甲第5号証:
特開平11-328583号公報
甲第6号証:
被請求人の特許出願一覧
甲第7号証:
被請求人の特願2008-303530号に対する拒絶理由通知書
甲第8号証:
被請求人の特願2011-287837号に対する拒絶理由通知書
甲第9号証:
被請求人の特願2013-24483号に対する拒絶理由通知書
甲第10号証:
被請求人の特願2014-243621号に対する拒絶理由通知書
甲第11号証:
被請求人の特願2014-243621号に対する拒絶査定
甲第12号証:
被請求人の特願2014-243621号の審判手続過程における拒絶理由通知書
甲第13号証:
被請求人の特願2015-98590号に対する拒絶理由通知書
甲第14号証:
被請求人の特願2016-123805号に対する拒絶理由通知書
甲第15号証:
被請求人の特願2017-115091号に対する拒絶理由通知書

第4 被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書において「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、審判事件答弁書、及び令和2年12月11日付け回答書における主張を総合すると、概略次のとおり主張している。

1 無効理由について
(1)無効理由1
「甲第1?5号証を根拠に本件特許発明の進歩性を否定することは不可能であるから、請求人が主張する本件特許を無効にすべき理由1は失当である。」(審判事件答弁書9頁8行?10行)。

(2)無効理由2
「本件特許の請求項1、2に係る発明は、まさに「物の有する機能,特性等と,その物の構造との関係を理解することが比較的容易な技術分野」に属する発明である。
従って、本件特許発明の各構成要素の配置位置や各構成要素同士の位置関係は,請求項1、請求項2の記載内容で十分に表現されている。
よって、特許第36条第6項第1号に違反すると主張する本件特許を無効にすべき理由2は失当である。」(審判事件答弁書10頁下から5行?11頁2行)

(3)無効理由3
「本件特許発明のような「物の発明」の場合でも、各構成要素の配設位置や位置関係などで表現することが必ずしも必須ではなく、作用や機能などを用いた様々な表現方式を用いることが容認されていることが審査基準に明確に記載されているのである。」(審判事件答弁書12頁下から1行?13頁3行)
「このように、本件特許の請求項1、2に記載された発明は明確である。
よって、特許法第36条第6項第2号に違反すると主張する本件特許を無効にすべき理由3は失当である。」(審判事件答弁書14頁13?15行)

2 証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。乙第1?6号証は写しを提出している。

乙第1号証:
特願2016-75107号に対する拒絶理由通知書
乙第2号証:
特願2004-300749号に対する拒絶理由通知書
乙第3号証:
特願2014-89069号に対する拒絶理由通知書
乙第4号証:
「特許・実用新案審査基準」の「第II部 明細書及び特許請求の範囲 第2章 特許請求の範囲の記載要件 第2節サポート要件(特許法第36条第6項第1号)」
乙第5号証:
「特許・実用新案審査基準」の「第II部 明細書及び特許請求の範囲 第2章 特許請求の範囲の記載要件 第3節明確性要件(特許法第36条第6項第2号)」
乙第6号証:
特許第4379879号公報

第5 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
なお、以下において、甲第1号証等、乙第1号証等を甲1等、乙1等ということもある。また、行数は、空行を含まない。下線は当審で付した。以下同様。
(1)甲1の記載事項等
ア 本件特許の原出願日(特願2004?300749号の出願日:平成16年9月13日)前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに以下の記載がある。
(1a)明細書1頁4行?15行
「2.実用新案登録請求の範囲
料金収受システムに、磁気カードシステムと、非接触カードシステムとの双方のシステムを混在したシステムにおける有料道路の料金収受装置であって、料金所のゲートを磁気カードシステム専用車線と、非接触カードシステム専用車線に分けて構成し、非接触カードが読取り不良、あるいは読取り不能あるいは、不良カードの場合にこれを検出して非接触カードシステム専用車線の進入ゲートを閉とし、車両を磁気カードシステム専用車線に導入する誘導手段を具備していることを特徴とする料金収受装置。」

(1b)明細書2頁13行?3頁3行
「〔考案が解決しようとする課題〕
前述した様に、有料道路の料金収受システムに非接触カードを通行券の代わりに使用した場合、料金所入口、及び料金所出口は、無人にしてよいはずであるが、例えば、非接触カードの情報が読めなかった場合、あるいはカードの送受信部が故障した場合等に、例えば、カード読取り不良の場合に料金収受が不能になるため、このカードを持つ車両は有料道路の走行が不可能となる。
したがって、この様な事態を避ける様なシステムを構築しなければならない。」

(1c)明細書4頁14行?5頁8行
「〔実施例〕
1.構成
第1図は、本考案の有料道路の料金収受システムの料金所のレイアウトを示したものである。入口(I)は、非接触カードを使用した車線、及び入口(II)は磁気カードシステムの車線である。11及び12は車両分離器であり、通行車両を1台ずつ分離検出する。13は、軸数、輪距検知器であり、通行車両の車軸数及び車輪数の検出を行うものである。14は、路上機であり車載器の情報を読み取る。15は、車線制御装置であり、入口(I)、及び入口(II)の車線機器の車線制御を行うものである。16は案内表示盤であり、非接触カードが読取り不能を起こした車両に対し、スムーズに有人車線に導入するべく表示するためのものである。」

(1d)明細書5頁9行?下から2行
「17は遮断機であり、通常は開のままであるが、非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、非接触カード車線からの進入を阻止するためのものである。18,19は、11,12と同じ車両分離器である。110は軸数検知器であり通行車両の車軸数を計測するためのものである。車両分離器18,19、軸数検知器110の組み合わせにより通行車両の通過検知を行なって、非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する。111,112は前述した11、及び12と同じ車両分離器である。」

(1e)明細書6頁4行?7行
「第1図で、バイパス(III)は非接触カード持参の車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、磁気カード車線に車両を導入するバイパス車線である。」

(1f)明細書6頁下から5行?下から3行
「34は、路上機であり、車両の車載機(非接触カード)から送出されてきた情報を車線制御装置35に信号を送出するものである。」

(1g)明細書7頁3行?5行
「37は遮断機であり、非接触カード情報が読み取れなかった場合に、常時開の状態の遮断機を閉とさせる。」

(1h)明細書7頁13行?18行
「311,312はそれ磁気カードシステムの車両分離器A及びB、313は同じく磁気カードシステムの軸数・輪距検知器であり311,312,313の組み合せにより、車両検知装置-2を形成し通行車両の車種を判別し、本車種判別信号を車線制御装置35に送出する。」

(1i)明細書12頁12行?末行
「2.作用
通行車両が先ず非接触カード車線入り口(I)にさしかかる。そうすれば、車両検知装置、車両分離器(A),(B),31,32、軸数・輪距検知器33の作用により、通行車両を車種判別し、車両判別信号を車線制御装置15の第1インターフェース48に送出する。次に本車両が路上機34にさしかかれば、路上機34から車載器(非接触カード)にID番号送信要求信号が送出される。」

(1j)明細書13頁4行?7行
「その後、車載器(非接触カード)では、この車載器(非接触カード)の送信要求信号が、送受信アンテナ51で受信される。」

(1k)明細書13頁12行?14頁末行
「この為デコーダー回路55から送信要求信号が57に送出されれば、本非接触カードのID番号は、58で変調され、59で増幅されて、送受信アンテナ51から路上機34に送出される。路上機34では、61でID番号が受信され、送受信切換回路63の作用により、増幅回路62が作用し、非接触カードからの信号が増幅される。その後、信号は64で復調され、デコーダー回路65でデコードされて、ID番号は受信データ送出回路66を経由して、車線制御装置35の第2インターフェース回路49に伝送される。車線制御装置35では、本車両の車両検知装置-1から送出されてきた車種情報と、路上機34から送出されてきた本車両の非接触カードのID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、車両制御装置35の第3インターフェース410を経由して、案内表示盤36に、非接触カード通行車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出する。有料道路の使用者は、本案内表示盤の表示内容を見て、非接触カード通行車線を通行可能なる旨の判断をし、本利用者は、発信検出装置の設置位置を通過完了する。そうすれば、車両分離装置(A),(B) ,38,39、及び軸数検知器310の作用により本車両が発進検出装置を通過完了した時点で、リセット信号が、車両分離器(A)38の制御部38から、車線制御装置35の発進検知装置の第5インターフェース412にリセット信号が送出され、システムを元の状態に戻す。以上が正常の場合である。」

(1l)明細書15頁1行?16頁6行
「次に非接触カード(車載器)の情報が読取れなかった場合の動作について述べる。通行車両か、車両検知装置-1(31,32,33)の位置にさしかかり、車両通過と同時に車種判別信号を車線制御装置35に送出する。本信号は、車線制御装置35の第1インターフェース48を経由して、CPUの作用により、本車種判別信号は、データ記憶部47にデータ記憶される。その後、路上機34から、送信要求信号が送出されているにもかかわらず、非接触カードから、ID信号が送出されて来ない場合、CPU回路40は、車種判別信号を受信したにもかかわらず、ID信号未受信を判断し、CPU40は、第3インターフェース410を経由して、案内表示盤36に車両Aを、有人車線36に、向かわせる様な表示を行う。同時に第4インターフェース411を経由して、遮断機37に、遮断機閉の信号を送出する。この為車両Aは止むを得ず、磁気カード車線(入口II)に導入される。なお、非接触カードのID番号に車両の車種情報を入力しておれば車種判別装置からの車種情報と、非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しない場合は、カードの不正使用と見なし、前述したようにカードの情報が読み取れなかった場合と同様に、案内表示盤36に車両Aを、有人車線36に向かわせる様な表示を行い、同時に遮断機37に遮断機閉の信号を送出する。」

(1m)明細書16頁8行?13行
「本考案においては磁気カードシステムと、非接触カードシステム双方のシステムを混在させる事により、非接触カードシステムのカード読み取り不良等の不都合が生じても、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに車両を導入出来るために、システムに不都合が生じる事はない。」

(1n)
以下の図面が示されている。



イ 上記アによれば以下の事項が認定できる。
甲1には記載事項(1a)の実用新案登録請求の範囲の記載から、「磁気カードシステムと、非接触カードシステムとの双方のシステムを混在した」「有料道路の料金収受装置」における「誘導手段」であって、該「誘導手段」は「料金所のゲートを磁気カードシステム専用車線と、非接触カードシステム専用車線に分けて構成し、非接触カードが読取り不良、あるいは読取り不能あるいは、不良カードの場合にこれを検出して非接触カードシステム専用車線の進入ゲートを閉とし、車両を磁気カードシステム専用車線に導入する」ものであるところ、さらに該「誘導手段」の具体的構成に関し、「3.考案の詳細な説明」を参照すると、以下の事項が認定できる。
(ア)記載事項(1m)の「本考案においては磁気カードシステムと、非接触カードシステム双方のシステムを混在させる事により、非接触カードシステムのカード読み取り不良等の不都合が生じても、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに車両を導入出来るために、システムに不都合が生じる事はない。」との記載、記載事項(1c)の「入口(I)は、非接触カードを使用した車線、及び入口(II)は磁気カードシステムの車線である。」との記載及び第2図を参照すると、実用新案登録請求の範囲の「磁気カードシステム専用車線」及び「非接触カードシステム専用車線」は、「磁気カード車線」及び「非接触カード車線」のことであり、「入口(I)」は「磁気カード車線の入口(I)」であり、「入口(II)」は「非接触カード車線の入口(II)」であること。また、記載事項(1d)の「17は遮断機であり、通常は開のままであるが、非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、非接触カード車線からの進入を阻止するためのものである。」との記載から、実用新案登録請求の範囲の「進入ゲート」は「遮断機17」であること。

(イ)記載事項(1i)の「通行車両が先ず非接触カード車線入り口(I)にさしかかる。そうすれば、車両検知装置、車両分離器(A),(B),31,32、軸数・輪距検知器33の作用により、通行車両を車種判別し、車両判別信号を車線制御装置15の第1インターフェース48に送出する。」との記載において、「車両検知装置、車両分離器(A),(B),31,32、軸数・輪距検知器33」は、記載事項(1l)の「車両検知装置-1(31,31,33)」との記載、及び、記載事項(1h)の「311,312はそれ磁気カードシステムの車両分離器A及びB、313は同じく磁気カードシステムの軸数・輪距検知器であり311,312,313の組み合せにより、車両検知装置-2を形成し通行車両の車種を判別し、本車種判別信号を車線制御装置35に送出する。」との記載から、「車両検知装置(車両分離器(A),(B),31,32、軸数・輪距検知器33)」と記載するのが適切であり、「非接触カード車線入り口(I)」は、上記(ア)で認定した「非接触カード車線の入口(I)」を意味すること、さらに、「通行車両が先ず非接触カード車線入り口(I)にさしかかる。」との記載、上記(ア)での検討及び第2図を参照すると、車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)は非接触カード車線の入口(I)に設けられることが理解できることから、非接触カード車線の入口(I)に設けられ、通行車両を車種判別する車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)を備えること。

(ウ)記載事項(1i)及び(1j)等の「車載器(非接触カード)」との記載、及び記載事項(1c)の「14は、路上機であり車載器の情報を読み取る。」との記載から、車載器(非接触カード)の情報を読み取る路上機14を備えること。

(エ)上記(ア)を踏まえると、「入口(I)」は「非接触カード車線の入口(I)」、「入口(II)」は「磁気カード車線の入口(II)」を意味するから、記載事項(1c)の「15は、車線制御装置であり、入口(I)、及び入口(II)の車線機器の車線制御を行うものである。」との記載から、非接触カード車線の入口(I)、及び磁気カード車線の入口(II)の車線機器の車線制御を行う車線制御装置15を備えること。

(オ)記載事項(1c)の「16は案内表示盤であり、非接触カードが読取り不能を起こした車両に対し、スムーズに有人車線に導入するべく表示するためのものである。」との記載において、「有人車線」は、記載事項(1l)の「案内表示盤36に車両Aを、有人車線36に、向かわせる様な表示を行う。同時に第4インターフェース411を経由して、遮断機37に、遮断機閉の信号を送出する。この為車両Aは止むを得ず、磁気カード車線(入口II)に導入される。」との記載から、「磁気カード車線」を意味することは明らかであり、また、「3.考案の詳細な説明」において「車両」と「通行車両」が混在するところ、「通行車両」に統一する(以下の認定で同様。)と、非接触カードが読取り不能を起こした通行車両に対し、スムーズに磁気カード車線に導入するべく表示するための案内表示盤16を備えること。

(カ)第2図から、遮断機17は、非接触カード車線に設置されていることは明らかであること、及び記載事項(1d)の「17は遮断機であり、通常は開のままであるが、非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、非接触カード車線からの進入を阻止するためのものである。」との記載から、通常は開のままであるが、非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、非接触カード車線からの進入を阻止する非接触カード車線に設置された遮断機17を備えること。

(キ)記載事項(1e)に「バイパス(III)は非接触カード持参の車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、磁気カード車線に車両を導入するバイパス車線である。」と記載されていること、かかる記載の「磁気カード車線に車両を導入する」は第2図から、「磁気カード車線の入口(II)」に通行車両を導入することといえることから、非接触カード持参の通行車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、磁気カード車線の入口(II)に通行車両を導入するバイパス車線(III)を備えること。

(ク)記載事項(1d)に「車両分離器18,19、軸数検知器110の組み合わせにより通行車両の通過検知を行なって、非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する。」と記載されていること、かかる記載の「通行車両の通過検知」は、第2図から、通行車両が遮断機17を通過する通過検知と理解できることから、通行車両が遮断機17を通過する通過検知を行なって、非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する車両分離器18,19及び軸数検知器110を備えること。

(ケ)記載事項(1i)の「車両検知装置、車両分離器(A),(B),31,32、軸数・輪距検知器33の作用により、通行車両を車種判別し、車両判別信号を車線制御装置15の第1インターフェース48に送出する。」との記載において、「車両検知装置」「の作用により、通行車両を車種判別し」、「車線制御装置15」に「送出」する「車両判別信号」は、記載事項(1k)の「車線制御装置35では、本車両の車両検知装置-1から送出されてきた車種情報と、路上機34から送出されてきた本車両の非接触カードのID情報とが比較照合され」との記載から、「車種情報」を含むことは明らかであり、上記(イ)での検討及び第2図を参照すると、通行車両が先ず非接触カード車線の入口(I)にさしかかることで車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)の作用により、通行車両を車種判別し、車種情報を含む車両判別信号を車線制御装置15に送出し、通行車両が路上機14にさしかかれば、前記路上機14から車載器(非接触カード)にID番号送信要求信号が送出されること。

(コ)記載事項(1j)の「その後、車載器(非接触カード)では、この車載器(非接触カード)の送信要求信号が、送受信アンテナ51で受信される。」との記載、及び記載事項(1k)の「この為デコーダー回路55から送信要求信号が57に送出されれば、本非接触カードのID番号は、58で変調され、59で増幅されて、送受信アンテナ51から路上機34に送出される。・・・その後、信号は64で復調され、デコーダー回路65でデコードされて、ID番号は受信データ送出回路66を経由して、車線制御装置35の第2インターフェース回路49に伝送される。」との記載、及び記載事項(1l)の「非接触カードのID番号に車両の車種情報を入力しておれば」との記載から、「ID番号」は「車種情報」を入力した態様も含まれることから、第2図も参照すると、車載器(非接触カード)からは、非接触カードの車種情報を入力したID番号が路上機14に送出され、前記路上機14からは、前記車種情報を入力したID番号が車線制御装置15に伝送されること。

(サ)上記(コ)を踏まえると、「ID番号」は「車種情報」を入力した態様も含まれることから、記載事項(1k)の「車線制御装置35では、本車両の車両検知装置-1から送出されてきた車種情報と、路上機34から送出されてきた本車両の非接触カードのID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、車両制御装置35の第3インターフェース410を経由して、案内表示盤36に、非接触カード通行車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出する。」との記載、及び第2図から、車線制御装置15では、通行車両の車両検知装置から送出されてきた車種情報と、路上機14から送出されてきた通行車両の非接触カードの車種情報を含むID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、案内表示盤16に、非接触カード車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出すること。

(シ)記載事項(1l)の「非接触カード(車載器)の情報が読取れなかった場合」とは、記載事項(1l)の「CPU回路40は、車種判別信号を受信したにもかかわらず、ID信号未受信を判断し」との記載から、非接触カード(車載器)の情報が読取れないと判断された場合であること。「車種情報」は上記(サ)を踏まえると、車両検知装置からの車種情報であるから、記載事項(1l)の「車種情報と、非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しない場合」は、同様に、車両検知装置からの車種情報と、非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合であること。記載事項(1l)の「案内表示盤36に車両Aを、有人車線36に向かわせる様な表示を行い、同時に遮断機37に遮断機閉の信号を送出する」ことは、記載事項(1e)の「第1図で、バイパス(III)は非接触カード持参の車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、磁気カード車線に車両を導入するバイパス車線である。」との記載及び第2図から、案内表示盤16に通行車両を、磁気カード車線に向かわせる様な表示を行い、同時に遮断機17に遮断機閉の信号を送出して、通行車両をバイパス車線(III)に向かわせ、前記磁気カード車線に導入することである。
そうすると、記載事項(1l)の「なお、非接触カードのID番号に車両の車種情報を入力しておれば車種判別装置からの車種情報と、非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しない場合は、カードの不正使用と見なし、前述したようにカードの情報が読み取れなかった場合と同様に、案内表示盤36に車両Aを、有人車線36に向かわせる様な表示を行い、同時に遮断機37に遮断機閉の信号を送出する。」との記載、及び第2図から、非接触カードの情報が読取れないと判断された場合及び車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合には、案内表示盤16に通行車両を、磁気カード車線に向かわせる様な表示を行い、同時に遮断機17に遮断機閉の信号を送出して、通行車両をバイパス車線(III)に向かわせ、前記磁気カード車線に導入すること。

ウ 上記ア及びイによれば、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「磁気カードシステムと、非接触カードシステムとの双方のシステムを混在した有料道路の料金収受装置における誘導手段であって、
誘導手段は、料金所のゲートを磁気カード車線と、非接触カード車線に分けて構成し、非接触カードが読取り不良、あるいは読取り不能あるいは、不良カードの場合にこれを検出して非接触カード車線の遮断機17を閉とし、車両を磁気カード車線に導入するものであり、
前記非接触カード車線の入口(I)に設けられ、通行車両を車種判別する車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)と、
車載器(非接触カード)の情報を読み取る路上機14と、
前記非接触カード車線の入口(I)、及び前記磁気カード車線の入口の車線機器の車線制御を行う車線制御装置15と、
非接触カードが読取り不能を起こした通行車両に対し、スムーズに前記磁気カード車線に導入するべく表示するための案内表示盤16と、
通常は開のままであるが、前記非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、前記非接触カード車線からの進入を阻止する非接触カード車線に設置された遮断機17と、
前記非接触カード持参の通行車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、前記磁気カード車線の入口(II)に通行車両を導入するバイパス車線(III)と、
通行車両が前記遮断機17を通過する通過検知を行なって、前記非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する車両分離器18,19、及び軸数検知器110と、
を備え、
通行車両が先ず前記非接触カード車線の入口(I)にさしかかることで、前記車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)の作用により、通行車両を車種判別し、車種情報を含む車両判別信号を前記車線制御装置15に送出し、
通行車両が前記路上機14にさしかかれば、前記路上機14から前記車載器(非接触カード)にID番号送信要求信号が送出され、
前記車載器(非接触カード)からは、前記非接触カードの車種情報を入力したID番号が前記路上機14に送出され、前記路上機14からは、前記車種情報を入力したID番号が前記車線制御装置15に伝送され、
前記車線制御装置15では、通行車両の前記車両検知装置から送出されてきた車種情報と、前記路上機14から送出されてきた通行車両の前記非接触カードの車種情報を含むID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、前記案内表示盤16に、前記非接触カード車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出し、前記非接触カードの情報が読取れないと判断された場合及び前記車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合には、前記案内表示盤16に通行車両を、前記磁気カード車線に向かわせる様な表示を行い、同時に前記遮断機17に遮断機閉の信号を送出して、通行車両を前記バイパス車線(III)に向かわせ、前記磁気カード車線に導入する有料道路の料金収受装置における誘導手段。」

(2)甲2の記載事項
本件特許の原出願日(平成16年9月13日)前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 車両に搭載されて該車両の車両識別ID信号を無線発信可能な車載用無線通信装置と、
有料道路の入口に配置され前記車載用無線通信装置からの車両識別ID信号を受信したとき、前記有料道路の専用入口ゲートを開閉制御すると共に、当該車両識別ID信号と自己の入口ID信号を中央制御装置に送信するために該中央制御装置に接続された入口用無線通信装置と、
前記有料道路の出口に配置され前記車載用無線通信装置からの車両識別ID信号を受信したとき、該車両識別ID信号と自己の出口ID信号を前記中央制御装置に送信するために該中央制御装置に接続されると共に、該中央制御装置からの指示により専用出口ゲートの開閉制御を行わしめる出口用無線通信装置と、
前記入口用無線通信装置と前記出口用無線通信装置および金融機関に通信回線により接続され、前記入口用無線通信装置から送信される車両識別ID信号により当該車両識別ID信号の車両所有者の金融機関口座の支払可否状態をチェックし、このチェック情報と共に該車両識別ID信号と前記入口ID信号とを記憶し、かつ前記入口ID信号と前記出口ID信号とから前記車両識別ID信号の車両の有料道路料金を計算すると共に、前記チェック情報が支払可能である場合に前記専用出口ゲートの開閉制御を前記出口用無線通信装置に指示する中央制御装置を備え、
有料道路管理組織は、前記専用入口ゲートと前記専用出口ゲートとの間の有料道路を通行した車両の料金を、当該車両所有者の金融機関口座から支払を受けることにより、有料道路料近所での通行券の受取りおよび料金支払いを不要にした有料道路料金自動支払いシステム。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の支払いシステムでは、有料道路入口で通行券の受渡しのために車両(自動車)は必ず一旦停車しなければならず渋滞の原因になっており、特に、出口料金所においては車両は必ず一旦停車して有料道路料金の計算の後、料金支払い、釣り銭の授受等の作業を必要とし、少ないとはいえ時間が掛かるため渋滞の原因となっていた。本発明は、従来の支払いシステムの問題点である、有料道路出入口において車両を停止しなければならないという問題を解決し、その結果出入口料金所における渋滞を解消することができる有料道路料金自動支払いシステムを提供するものである。」

「【0006】本発明システムに係る車両8が有料道路の入口近くに進入したとき、当該車両8の無線通信装置9から車両識別ID信号を発信する。この車両識別ID信号を有料道路の入口近くに設けられている入口用無線通信装置7が受信すると、専用入口ゲート6を開き車両8の有料道路1への進入を可能とし、進入後専用入口ゲート6を閉める。なお、車両識別ID信号を発信した車両8を本システムの専用入口に誘導する表示は必要に応じて行う。また、車両識別ID信号を発信しない車両8が専用入口に接近してきた場合は、専用入口ゲート23を開けずに、表示などにより従来方式の一般入口3に誘導する。また、入口用無線通信装置7は受信した車両識別ID信号と当該入口用無線通信装置7の入口ID信号(入口インターチェンジID信号)とを中央制御装置17に通信回線を通して送信する。これらの信号を受信した中央制御装置17は、車両識別ID信号に基づく車両所有者の口座を金融機関18に照会し、この口座が支払い可能状態あるか否かのチェック情報を受信し、その可否の結果を車両識別ID信号および入口ID信号とともに記憶する。」

「【0009】図2は、前述した本発明の実施例の各装置間の信号の授受、および当該信号に基づく各装置の動作並びに制御の状態を示す各装置相互間の動作流れ図である。この図2における(ゲート開閉又は一般出口へ)は、前述したように中央制御装置17から出口用無線通信装置16への支払可否情報により、支払可であれば専用出口ゲート15を開閉し、支払否であれば専用出口ゲート15は閉じたままで、車両を一般出口に表示等で誘導させることである。また、前述の実施例では、入口用無線通信装置7および出口用無線通信装置16は無線通信装置として示したが、車両用無線通信装置9との間は無線通信で,中央制御装置17との間は有線通信で信号授受を行う装置としての機能を有するものである。」

また、次の図面が示されている。


(3)甲3の記載事項
本件特許の原出願日(平成16年9月13日)前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 駐車場入口から入った車両の入口階、車両を駐車するための複数の駐車場階、入口階と駐車場階との間を昇降するかご、このかごを昇降移動するための駆動装置、駐車場入口からかご内に至るまでの所定位置に設けられ駐車しようとする車両の大きさを検知する車両サイズ検知器、乗場と上記車両サイズ検知器との間に設けたエレベーターへの乗車待ちの一時停車場である乗車待ちレーン、上記乗車待ちレーン内の車両の車両サイズデータを記憶する乗車待ち車両データ記憶手段、各駐車場階ごとに駐車場の空きの有無を記憶する駐車状態記憶手段、上記車両サイズ検知器及び上記乗車待ち車両データ記憶手段からのサイズ情報と上記駐車状態記憶手段からの駐車場の空き情報を基に車両が駐車すべき階を自動的に選択する駐車場階選択手段、この駐車場階選択手段によって選択された階を呼びとして自動登録し上記駆動装置を昇降制御する制御装置を備えた駐車場エレベーターシステム。」

「【0034】次に、実施例5の駐車場階における遮断機39と駐車ゾーン案内装置29の動作について説明する。図11において、車両を乗せたかご13がこの駐車場階へ到着すると、制御装置15による信号を受けて、その車両サイズに対応する駐車ゾーンにつながる遮断機39のみが開き、他の遮断機は閉じたままになる。同時に駐車ゾーン案内手段29は制御装置15による信号を受けて、その車両サイズに対応する駐車ゾーンへ車両を誘導するように働く。」

また、次の図面が示されている。


(4)甲4の記載事項
本件特許の原出願日(平成16年9月13日)前に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】駐車場の内外を連絡する車両通行路に、車両通行方向に沿って所定間隔を設けて開閉可能な2つのゲートを設けると共に、車両通過検知状態に基づいて前記2つのゲートの開閉を制御してゲート間の領域内に1台の車両のみ進入可能とするよう車両の通行を制御する制御手段を備える構成としたことを特徴とする駐車管理システム。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の駐車管理システムでは、車両の入場、出場を規制するためのゲートが1つしかなかった。しかも、ゲートを通過する乗員の安全性や車両の破損事故防止等を考慮して、ゲートの下降速度を比較的にゆっくりに設定している。このため、前の車両が料金精算を済ませゲートが開いた際に、駐車料金を精算せずに前の車両に続いて不正に出車する、所謂、共連れ出車が可能であり、これを防止することが難しかった。
【0005】本発明は上記問題点に着目してなされたもので、共連れ出車を防止可能とした駐車管理システムを提供することを目的とする。」

「【0024】ステップ5では、ループコイルLC1及び光センサS1が車両を検知しているか否かを判定し、両方から検知出力がなくなるのを待って両検知出力がなくなると入場車両が第1ゲート3を通過完了したと判断し、ステップ6に進む。従って、入場車両に対してはループコイルLC1及び光センサS1が第1車両検知手段を構成している。
【0025】ステップ6では、第1ゲート3を下降駆動して第1ゲート3を閉じる。これにより、ゲート3,4の間の領域を閉鎖して1台の入場車両だけしか進入できないようにしている。この際は、信号灯7を赤表示として後続車両の入場を禁止する。」

また、次の図面が示されている。


(5)甲5の記載事項
本件特許の原出願日(平成16年9月13日)前に頒布された刊行物である甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項6】 指定地域の通行を許可されている特定車両の運転者が所有するPHS端末と、前記指定地域の自動車用進入路を開閉する遮断機とを有してなり、
前記遮断機は、前記自動車用進入路を開閉する開閉部材と、その開閉部材を開閉動作させる駆動部と、その駆動部に開閉制御信号を与えるとともに、前記遮断機のPHS端末との間で信号を授受する制御部と、前記自動車用進入路を車両が通過したことを検知する通過検知器と、前記特定車両の運転者が所有するPHS端末との間でトランシーバ通信を行うために必要な識別情報及びトランシーバ番号を登録されたPHS端末とを備え、
前記制御部は、前記PHS端末からトランシーバ通信回線が結合されたことを示すトランシーバ通信結合信号を入力したことに基づいて前記駆動部に閉鎖解除指令信号を与え、かつ、前記通過検知器からの通過検知信号に基づいて前記駆動部に閉鎖指令信号を与えることを特徴とする通行規制装置。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記有人方式の場合は、各進入路に係員を配置する必要があるため、人員の確保及び人件費の問題があるばかりでなく、天候などによる労働環境・条件が過酷であるなどの問題がある。また、車両の識別を容易かつ確実に行うことは困難であるという問題がある。さらに、一般車両から料金を徴収する場合には、一般車両の運転者が常に必要な額又は種類の現金を所有しているとは限らず、料金支払いの際に困惑する事態が生じることが少なくない。さらに、徴収した現金を保管・運搬・後処理に多くの手間がかかり、また、現金の防犯性にも問題がある。上記無人方式の場合には、上記有人方式による問題である人員確保、人件費、労働条件及び車両識別の困難さ等の問題は解消されるものの、通行券の材料、印刷、配布にそれぞれコストがかかるとともに、現金収受機で収受した現金の防犯性の問題がある。本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、指定地域に対する車両の通行規制を無人かつ低コストで行うことができる通行規制方法及び通行規制装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、現金収受に伴う保管・運搬・後処理等に手間を要せず、かつ、防犯性の問題を解消した通行規制方法及び通行規制装置を提供することにある。」

「【0017】図1に示すように、通行規制装置は、遮断機1、遮断機に設けられたPHS端末2、車両の運転者が所持するPHS端末3、基地局4、交換機5、サービス制御局6から構成されている。なお、以下の説明においては、特定車両の運転者が有するPHS端末も、一般車両の運転者が有するPHS端末もPHS端末3として説明するので注意されたい。
【0018】図2に示すように、遮断機1は、筐体10を有して指定地域への進入路Rの路傍に設置され、指定地域への車両Vの進入を規制するものである。
【0019】図3に示すように、遮断機1は、その筐体10内に設けられた制御部11と、その制御部11に電気的に接続された駆動部12と、その駆動部12に機械的に接続され、筐体10の側面から外部に突出された支軸13と、支軸13に固着された遮断バー14と、PHS端末2とを有している。筐体10の上面に突設されたアンテナ2aを備えたPHS端末2は、制御部11に電気的に接続されている。又、制御部11には、進入路Rを閉鎖及び開放する開閉部材を構成する遮断バー14に向かって接近する車両を検知するための接近検知器15と、遮断バー14の位置を通過する車両を検知するための通過検知器16とが電気的に接続されている。」

「【0036】図8は、遮断機1における遮断バー14の開閉処理を示すフローチャートである。まず、CPU100は、接近検知器15から車両の接近を示す検知信号の入力を待機し(ST20)、ST20が“Y”ならば、駆動部12に対して遮断バー14の開放動作を指令する(ST21)。これにより、駆動部12は遮断バー14を開放動作させる。次いで、CPU100は、通過検知器16から車両の通過を示す検知信号の入力を待機し(ST22)、ST22が“Y”ならば、駆動部12に対して遮断バー14の閉鎖動作を指令する(ST23)。これにより、駆動部12は遮断バー14を閉鎖動作させて、処理を終了する。上記動作によれば、遮断機1に対する車両の接近及び通過に基づいて、進入路の閉鎖の解除及び再閉鎖を行うので、遮断機1を通過する車両に対して適確な通行規制を行うことができる。」

また、次の図面が示されている。

2 無効理由について
2-1 無効理由1(特許法第29条第2項)
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)後者の「有料道路の料金収受装置における誘導手段」は有料道路料金所に配置されることは明らかである 。
(イ)前者の「ETC車専用出入口」は、「ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーン」との事項から、「ETC車専用入口」または「ETC車専用出口」のいずれかを含めばよいことが理解できるから、後者の「非接触カード車線の入口(I)」は、前者の「ETC車専用出入口」に相当する。
(ウ)後者の「磁気カードシステムと、非接触カードシステムとの双方のシステムを混在した有料道路の料金収受装置における誘導手段」は、「非接触カード車線の入口(I)にさしかかる」「通行車両」を「非接触カード車線の通行を可能」としたり、「バイパス車線に向かわせ」るように誘導するものであるから、前者の「有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステム」に相当する。

イ 後者の「前記非接触カード車線の入口(I)に設けられ、通行車両を車種判別する車両検知装置(車両分離器11,12、軸数・輪距検知器13)」は、有料道路の料金収受装置に入る通行車両を検知することは明らかであるから、上記ア(イ)をも踏まえると、前者の「前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段」に相当する。

ウ 後者の「車載器(非接触カード)」は、前者の「車両に搭載されたETC車載器」に相当し、後者の「車載器(非接触カード)の情報」は、前者の「データ」に相当する。また、後者の「車載器(非接触カード)の情報を読み取る路上機14」は、「通行車両が前記路上機14にさしかかれば、前記路上機14から前記車載器(非接触カード)にID番号送信要求信号が送出され、前記車載器(非接触カード)からは、前記非接触カードの車種情報を入力したID番号が前記路上機14に送出され」るものであって、車種情報を通信するものといえるから、前者の「車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段」に相当する。


(ア)後者の「前記路上機14から送出されてきた通行車両の前記非接触カードの車種情報を含むID情報」は、「前記車載器(非接触カード)」から「前記路上機14に送出され」た「前記非接触カードの車種情報を入力したID番号」であり、路上機14によって受信したID情報といえるから、前者の「前記通信手段によって受信したデータ」に相当する。
(イ)後者の「非接触カードシステム」は、前者の「ETC」に相当する。
(ウ)後者の「前記車線制御装置15では、通行車両の前記車両検知装置から送出されてきた車種情報と、前記路上機14から送出されてきた通行車両の前記非接触カードの車種情報を含むID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断され」との事項、「前記非接触カードの情報が読取れないと判断された場合及び前記車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合」との事項、及び上記(ア)、(イ)をも踏まえると、後者のかかる「車線制御装置15」は、「前記路上機14から送出されてきた通行車両の前記非接触カードの車種情報を含むID情報」を認識して、「非接触カードシステム」による料金徴収が可能か判定しているといえるから「非接触カードシステム」による料金徴収が可能か判定する判定手段を備えることは明らかであるから、前者の「前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段」を実質的に含むものといえる。


(ア)後者の「前記車線制御装置15では、通行車両の前記車両検知装置から送出されてきた車種情報と、前記路上機14から送出されてきた通行車両の前記非接触カードの車種情報を含むID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、前記案内表示盤16に、前記非接触カード車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出し、前記非接触カードの情報が読取れないと判断された場合及び前記車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合には、前記案内表示盤16に通行車両を、前記磁気カード車線に向かわせる様な表示を行い、同時に前記遮断機17に遮断機閉の信号を送出して、通行車両を前記バイパス車線(III)に向かわせ、前記磁気カード車線に導入する」との事項から、後者の「車線制御装置15」と「遮断機17」を併せた構成によって、「通行車両」を「前記非接触カード車線の通行を可能と」したり「バイパス車線(III)に向かわせ」たりするものといえる。
(イ)後者の「正当なID番号と判断され」るとの事項、及び「前記非接触カードの情報が読取れないと判断された場合及び前記車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合」との事項は、上記エ(ウ)で検討したように、後者の「車線制御装置15」が判定手段を含んでいることを踏まえると、前者の「前記判定手段により判定した結果」に相当する。また、後者の「前記案内表示盤16に、前記非接触カード車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出し」との構成における「非接触カード車線」は、「非接触カードシステム」による料金徴収が可能な「通行車両」を「非接触カードシステム」のETCゲートを通って有料道路料金所へ通じる車線であることは明らかであるから、前者の「ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーン」に相当する。
(ウ)後者の「磁気カード車線の入口(II)」は、前者の「一般車用出入口」に相当する。また、後者の「前記非接触カード持参の通行車両で、カード読取り不良、読取り不能、不良カード持参、カード非携帯の場合に、前記磁気カード車線の入口(II)に通行車両を導入するバイパス車線(III)」は、「非接触カードシステム」による料金徴収が不可能な「通行車両」を対象としていることは明らかであるから、前者の「ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーン」に相当する。
(エ)上記(ア)?(ウ)から、後者の「車線制御装置15」と「遮断機17」を併せた構成は、前者の「前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段」に相当する。


(ア)後者の「非接触カード車線に設置された遮断機17」は、前者の「前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機」に相当する。
(イ)また、上記(ア)及びエ(エ)を踏まえると、後者の「車線制御装置15」と「遮断機17」を併せた構成と、前者の「前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含み」との構成とは、「前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機を含み」との構成において共通する。

キ 後者の「通行車両が遮断機17を通過する通過検知を行な」う「車両分離器18,19、及び軸数検知器110」は、前者の「前記第2の遮断機を通過した車両を検知する第2の検知手段」に相当する。

上記ア?キより、本件発明1と甲1発明とは、
「有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって、
前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段と、
車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、
前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段と、を備え、
前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機を含み、
さらに、前記第2の遮断機を通過した車両を検知する第2の検知手段を備える車両誘導システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件発明1は、「前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機」を備え、「誘導手段」は「前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機」とを含み、さらに、「前記第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段」を備え、「さらに、前記ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入った位置または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出た位置に第4の遮断機と車両を検知する第4の検知手段とを設け、それにより、前記第2の遮断機と前記第4の遮断機との間に閉鎖区間を形成し、」「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし、前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、第2の遮断機を下ろし、前記第4の検知手段により車両の通過が検知された場合、該車両が通過した後に、前記第4の遮断機を下ろす」ものであるのに対し、
甲1発明は、かかる「第1の遮断機」、「第3の遮断機」、「第4の遮断機」、「第3の検知手段」及び「第4の検知手段」並びに「閉鎖区間」を備えておらず、「通行車両が前記遮断機を通過する通過検知を行な」う「車両分離器18,19、及び軸数検知器110」は、「前記非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する」点。

(2)相違点の判断
相違点について検討する。
ア 本件発明1の「第2の検知手段」に相当する甲1発明の「通行車両が前記遮断機17を通過する通過検知を行な」う「車両分離器18,19、及び軸数検知器110」は、「前記非接触カード車線のシステムを初期の状態に戻す機能を有する」ものである。ここで、甲1の記載事項(1d)の「17は遮断機であり、通常は開のままであるが、非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、非接触カード車線からの進入を阻止するためのものである。」との記載を参照すると「非接触カード車線のシステム」の「初期の状態」とは、「遮断機」に関していえば、「開」の状態であることが理解できる。
そして、甲1の記載事項(1k)の「車線制御装置35では、本車両の車両検知装置-1から送出されてきた車種情報と、路上機34から送出されてきた本車両の非接触カードのID情報とが比較照合され、正当なID番号と判断されれば、車両制御装置35の第3インターフェース410を経由して、案内表示盤36に、非接触カード通行車線の通行を可能とする旨の表示制御信号を送出する。有料道路の使用者は、本案内表示盤の表示内容を見て、非接触カード通行車線を通行可能なる旨の判断をし」との記載から、非接触カードのID番号が正当なID番号と判断されれば、有料道路の使用者は、非接触カード車線を通行可能なる旨の判断をするものであるから、甲1発明は、非接触カードが正常の場合には、通行車両が、通常は開のままであり、非接触カード車線に設置された遮断機をそのまま通過することができるものである。
また、記載事項(1m)の「本考案においては磁気カードシステムと、非接触カードシステム双方のシステムを混在させる事により、非接触カードシステムのカード読み取り不良等の不都合が生じても、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに車両を導入出来るために、システムに不都合が生じる事はない。」との記載は、直接的には、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに車両を導入出来ることを作用効果としている記載ではあるが、前述したとおり、甲1発明は、非接触カードが正常の場合には、通行車両が、通常は開のままであり、非接触カード車線に設置された遮断機17をそのまま通過することができるものであるから、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに通行車両を導入出来ることはもとより、非接触カード車線に設置された遮断機17を通行車両がスムーズに通過出来ることを作用効果としているものと理解でき、磁気カードシステムと、非接触カードシステム双方が混在したシステム、つまり、非接触カード車線に設置された遮断機17を通過する通行車両を含めたシステム全体において、通行車両がスムーズな通過が出来ることを作用効果としているものといえる。
そうすると、甲1発明の「通常は開のままであるが、前記非接触カードの読取りが不良を起こしたものに対し、前記非接触カード車線からの進入を阻止する非接触カード車線に設置された遮断機17」との構成を、上記相違点に係る本件発明1の「前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第2の遮断機を下ろす」との構成に変更すると、「通常は開のまま」の構成であれば、通行車両が減速せずに通行できたものを、「遮断機を下ろす」構成に変更すると、かなり減速して走行する必要が生じてしまうから、甲1発明の遮断機17の開閉に関して「通常は開のまま」にすることで、非接触カード車線に設置された遮断機17を通行車両がスムーズに通過出来るという上記作用効果を損なうものであり、阻害要因があるといえる。

イ また、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の「第1の遮断機」を備える構成とし、「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし」との構成、「誘導手段」は「前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機」とを含み、「前記第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段」を備える構成、及び「第4の遮断機と車両を検知する第4の検知手段とを設け、それにより、前記第2の遮断機と前記第4の遮断機との間に閉鎖区間を形成し」との構成も、かかる「第1の遮断機」、「第3の遮断機」、及び「第4の遮断機」を備えて、かつ車両が通過した後に、「第1の遮断機」、「第3の遮断機」、及び「第4の遮断機」を下ろす構成にすること、並びに、「閉鎖区間」を形成する構成にすることは、非接触カード車線の入口(I)から進入する通行車両、バイパス車線(III)に進入する通行車両、及び非接触カード車線の通行を可能と判断された通行車両のスムーズな走行を阻害するものといえるから、甲1発明に、上記相違点に係る本件発明1の「第1の遮断機」、「第3の遮断機、及び「第4の遮断機」を備える構成、並びに、「閉鎖区間を形成」する構成にすることには阻害要因があるといえる。

ウ 以上ア及びイのとおり、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成に変更することには阻害要因があるが、甲1発明と甲2?甲5に記載された事項の組合わせについても、検討する。

(ア)第1の遮断機を付加することについて(甲2、4、5事項の適用について)
(ア-1)
甲第2号証には、
上記1(2)から以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。
「有料道路料金自動支払いシステムにおける中央制御装置に接続された入口用無線通信装置7において、車両8が有料道路の入口近くに進入したとき、当該車両8の無線通信装置9から車両識別ID信号を発信し、当該車両識別ID信号を有料道路の入口近くに設けられている入口用無線通信装置7が受信すると、専用入口ゲート6を開き車両8の有料道路への進入を可能とし、進入後専用入口ゲート6を閉め、車両識別ID信号を発信しない車両8が専用入口に接近してきた場合は、専用入口ゲート6を開けずに、表示などにより従来方式の一般入口3に誘導すること。」

甲1発明の「前記車載器(非接触カード)からは、前記非接触カードの車種情報を入力したID番号が前記路上機14に送出され」るから、「路上機14」は、車載器から送出された、車種情報を入力したID番号を受信するものであるといえるのに対し、甲2事項の「入口用無線通信装置7」は、「車両8の無線通信装置9から」「発信」された「車両識別ID信号を」「受信する」ものであるから、甲2事項の「入口用無線通信装置7」は、甲1発明の「路上機14」に相当する。
そして、甲1発明の「遮断機17」は、「通常は開のままであるが」、「非接触カードが読取り不良、あるいは読取り不能あるいは、不良カードの場合に」「閉とし、車両を磁気カード車線に導入するもの」であるのに対し、甲2事項の「専用入口ゲート6」は、「車両識別ID信号を有料道路の入口近くに設けられている入口用無線通信装置7が受信すると」「開き車両8の有料道路への進入を可能とし、進入後」「閉め、車両識別ID信号を発信しない車両8が専用入口に接近してきた場合は、」「開けずに、表示などにより従来方式の一般入口3に誘導する」ものであり、両者は、車両を誘導する機能を有する点で共通するから、甲2事項の「専用ゲート6」は、甲1発明の「遮断機17」(本件発明1の「第2の遮断機」に相当。)に対応するものである。
したがって、甲1発明に甲2事項の「専用入口ゲート6」を適用しても、相違点に係る本件発明1の「第1の遮断機」を備える構成には至らない。
また、上記イで述べたとおり、甲1発明には、本件発明1の「第1の遮断機」を備える構成にすることには阻害要因が存在するから、甲2事項の「専用入口ゲート6」を本件発明1の「第1の遮断機」として甲1発明に適用することはできない。
よって、甲1発明と甲2事項から、甲1発明において本件発明1の第1の遮断機を備える構成にすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ア-2)
甲第4号証には、
上記1(4)から以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されていると認められる。
「有料道路の料金収受装置における誘導手段駐車場の内外を連絡する車両通行路に、車両通行方向に沿って所定間隔を設けて開閉可能な2つのゲートを設けると共に、車両通過検知状態に基づいて前記2つのゲートの開閉を制御してゲート間の領域内に1台の車両のみ進入可能とするよう車両の通行を制御する制御手段を備える構成とした駐車管理システムにおいて、
入場車両に対してはループコイルLC1及び光センサS1が第1車両検知手段を構成し、前記ループコイルLC1及び前記光センサS1が車両を検知しているか否かを判定し、両方から検知出力がなくなるのを待って両検知出力がなくなると入場車両が第1ゲート3を通過完了したと判断し、前記第1ゲート3を下降駆動して前記第1ゲート3を閉じ、これにより、第1ゲート3,第2ゲート4の間の領域を閉鎖して1台の入場車両だけしか進入できないようにすること。」

甲4事項の「ループコイルLC1及び前記光センサS1が車両を検知しているか否かを判定し、両方から検知出力がなくなるのを待って両検知出力がなくなると入場車両が第1ゲート3を通過完了したと判断し、前記第1ゲート3を下降駆動して前記第1ゲート3を閉じ」る構成における「第1ゲート3」は、車両が第1ゲートを通過した後に該第1ゲートを閉じるという意味において、本件発明1の「第1の遮断機」に対応するものである。
しかしながら、甲1発明は、「有料道路の料金収受装置における誘導手段」の発明であるのに対して、甲4事項は「駐車場」の発明であって、両者は、発明の属する技術分野が異なるから、甲1発明に甲4事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、上記イで述べたとおり、甲1発明には、本件発明1の「第1の遮断機」を備える構成にすることに阻害要因が存在するから、甲1発明に甲4事項を適用することはできない。
したがって、甲1発明と甲4事項から、甲1発明において本件発明1の第1の遮断機を備える構成にすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ア-3)
甲第5号証には、
上記1(5)から以下の事項(以下「甲5事項」という。)が記載されていると認められる。
「指定地域の通行を許可されている特定車両の運転者が所有するPHS端末3と、前記指定地域の自動車用進入路を開閉する遮断機1とを有してなる通行規制装置において、
前記遮断機1は、前記自動車用進入路Rを開閉する開閉部材と、その開閉部材を開閉動作させる駆動部12と、その駆動部12に開閉制御信号を与えるとともに、前記遮断機1のPHS端末2との間で信号を授受する制御部11と、前記自動車用進入路Rを車両が通過したことを検知する通過検知器16と、前記特定車両の運転者が所有するPHS端末3との間でトランシーバ通信を行うために必要な識別情報及びトランシーバ番号を登録されたPHS端末2とを備え、前記制御部11は、前記PHS端末2からトランシーバ通信回線が結合されたことを示すトランシーバ通信結合信号を入力したことに基づいて前記駆動部12に閉鎖解除指令信号を与え、かつ、前記通過検知器16からの通過検知信号に基づいて前記駆動部に閉鎖指令信号を与えること。」

甲5事項の「遮断機1」は「制御部11」により「前記PHS端末2からトランシーバ通信回線が結合されたことを示すトランシーバ通信結合信号を入力したことに基づいて前記駆動部12に閉鎖解除指令信号を与え、かつ、前記通過検知器16からの通過検知信号に基づいて前記駆動部に閉鎖指令信号を与える」るように作動するから、甲5事項の「遮断機1」は、特定車両が遮断機1を通過した後に該遮断機1を閉じるという意味において、本件発明1の「第1の遮断機」に対応するものである。
しかしながら、甲1発明は、「有料道路の料金収受装置における誘導手段」の発明であるのに対して、甲5事項は「通行規制装置」の発明であって、両者は、発明の属する技術分野が異なるから、甲1発明に甲5事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、上記イで述べたとおり、甲1発明には、本件発明1の「第1の遮断機」を備える構成にすることに阻害要因が存在するから、甲1発明に甲5事項を適用することはできない。
したがって、甲1発明と甲5事項から、甲1発明において本件発明1の第1の遮断機を備える構成にすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)第3の遮断機を付加することについて(甲3事項の適用について)
甲第3号証には、
上記1(3)から以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されていると認められる。
「駐車場エレベーターシステムにおいて、
車両を乗せたかご13がこの駐車場階へ到着すると、制御装置15による信号を受けて、その車両サイズに対応する駐車ゾーンにつながる遮断機39のみが開き、他の遮断機は閉じたままになり、同時に駐車ゾーン案内手段29は制御装置15による信号を受けて、その車両サイズに対応する駐車ゾーンへ車両を誘導するように働くこと。」

甲3事項の「制御装置15による信号を受けて、その車両サイズに対応する駐車ゾーンにつながる遮断機39のみが開き、他の遮断機は閉じたままになる」との構成における「遮断機39」は、誘導する遮断機という意味において、「他の遮断機」を、本件発明1の「第2の遮断機」に対応付けた場合には、本件発明1の「第3の遮断機」に対応するところ、「遮断機39」及び「他の遮断機」は常時閉であることが理解できる。
しかしながら、甲1発明は、「有料道路の料金収受装置における誘導手段」の発明であるのに対して、甲3事項は「駐車場エレベーターシステム」の発明であって、両者は、発明の属する技術分野が異なるから、甲1発明に甲3事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、上記イで述べたように、甲1発明は、「バイパス車線(III)」を設けることにより、非接触カード車線から、磁気カード車線にスムーズに車両を導入出来ることを作用効果としているから、甲1発明の「バイパス車線(III)」(本件発明1の「第2レーン」に相当。)にスムーズに車両を導入出来ることを阻害するような常時閉となる遮断機を適用することはできない。また、本件発明1は、「第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段」をさらに備えるものであるが、甲3事項は、かかる「第3の検知手段」を備えていないから、甲1発明に甲3事項を適用できたとしても、相違点に係る本件発明1の当該「第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段」を備える構成には至らない。
したがって、甲1発明と甲3事項から、甲1発明において本件発明1の第3の遮断機を備える構成にすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)閉鎖区間を付加することについて(甲4事項の適用について)
甲4事項(上記(ア)(ア-2)を参照。)の「1台の入場車両だけしか進入できないように」「閉鎖」する「第1ゲート3,第2ゲート4の間の領域」は、ゲート間に閉鎖区間を形成するという意味において、本件発明1の「閉鎖区間」に対応するものである。
しかしながら、甲1発明は、「有料道路の料金収受装置における誘導手段」の発明であるのに対して、甲4事項は「駐車場」の発明であって、両者は、発明の属する技術分野が異なるから、甲1発明に甲4事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、上記イで述べたとおり、甲1発明には、本件発明1の「閉鎖区間」を付加することに阻害要因が存在するから、甲1発明に甲4事項を適用することはできない。
したがって、甲1発明と甲4事項から、甲1発明において本件発明1の閉鎖区間を付加することが当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ そして、本件発明1は、「前記第2の遮断機と前記第4の遮断機との間に閉鎖区間を形成し、前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし、前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、第2の遮断機を下ろし、前記第4の検知手段により車両の通過が検知された場合、該車両が通過した後に、前記第4の遮断機を下ろすこと」により、本件明細書の段落【0046】に記載されているような、「車両検知装置2aが進入車両を検知すると遮断機1を閉じ、その後車両検知装置2c,2dが進入車両を検知しないと遮断機1を開けないので、進入車両の不法な逆方向走行を阻止することができる。更に、遮断機1と車両検知装置2c,2dの間にある車両は1台限定されるので、進入車両と後続車両との間で衝突事故が回避できる。」
との格別な作用効果を奏するものである。

オ 以上ア?エのとおり、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、容易想到ということはできない。
よって、本件発明1は、甲1発明と甲2事項ないし甲5事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであって、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明2は、上記(1)で述べたように、本件発明1と同様に、甲1発明と甲2事項ないし甲5事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)請求人の主張
請求人は審判請求書の12頁12行?31行において、以下のとおり主張している。
「V.この点について補足すると、遮断機17が設置されている有料道路の料金収受装置を通過する車両は、遮断機17が常時開であるからといって、速度を落とさずに通行する訳ではなく、一般のETCゲートの場合と同様に、かなり減速して走行する筈である。従って、予め開いているゲートを通過する場合と、閉じていて直前に開くゲートを通過する場合とでさしたる時間差は生じない。また、一般の高速道路の出入り口を考えれば明らかなように、閉じていて直前に開くゲートを通過する場合においても、十分スムーズな走行が確保されている。
要するに、予め開いていて適正車両はそのまま通すゲートと、閉じていて適正車両が到来したときに開いて通行を許容するゲートとの間には、「スムーズな進入を実現」する上で変わりがなく、また、予め閉じていて、不適正車両が到来したときにはそのまま閉じた状態を維持するゲートと、予め開いていて不適正車両が到来したときに閉じて通行を阻止するゲートとの間には、格別の差異はないのである。
いずれのタイプのゲートにするかは、単なる選択の問題であって、状況に応じて決定されるものであり、甲第1号証に記載の発明において、「遮断機17を常時開とする」とされている点は、請求項1、2に係る発明のように、「常時閉じていて適正車両が到来したときに開いて通行を許容する方式」を採用することを想到する上で、何ら阻害要因とならないことは言うまでもない。」

上記主張について検討する。
甲1発明の「遮断機17」は「前記車両検知装置からの車種情報と、前記非接触カードの車種情報双方とが比較照合され、一致しないと判断された場合には、・・・前記遮断機に遮断機閉の信号を送出して、通行車両を前記バイパス車線に導入」するためのものであるから、常時「閉」で、照合後「開」である一般のETCゲートとは別ものである。
甲1発明の「通常は開のままである」「遮断機17」が設けられたレーンでは、通行車両は減速せずに通行できるのに対し、甲2事項の「車両識別ID信号を有料道路の入口近くに設けられている入口用無線通信装置7が受信すると、」「車両8の有料道路への進入を可能とし」て「開」く「専用入口ゲート6」は、一般のETCゲートに近いものであるから、請求人が述べているように、かなり減速して走行するする必要があるから、スムーズな進入を実現する上で差異があるものである。
したがって、甲1発明の「通常は開のままである」「遮断機17」に代えて、甲2事項のかかる「専用入口ゲート6」にすることには、阻害要因があるといえる。
よって、請求人の主張は、採用できない。

(4)小括
したがって、本件発明1、2は、特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1発明と甲2事項ないし甲5事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、無効理由1により、請求項1、2に係る特許を無効とすることはできない。

2-2 無効理由2(特許法第36条第6項第1号)
(1)請求人が、無効理由2として、本件特許が特許法第36条第6項第1号(以下「サポート要件」ということもある。)違反であることを主張している。その主旨は、令和2年12月22日付け第1回口頭審尋調書の「請求人 2(補足事項)ア」に記載されているとおりの以下の事項である。

「逆進入防止」 を解決するために、明細書の段落【0054】?段落【0059】から、Dレーンの「閉鎖区間センサ16」と、Eレーンの「第5の遮断機1-3」、「第5の車両検知装置2f」及び「閉鎖区間センサ17」を規定する必要があること。

(2)サポート要件の検討
ア 本件発明1が解決しようとする課題について
本件明細書には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現時点では全車両がETCシステム対応車ではないので、有料道路の料金所のレーンには、「ETC専用」と表示されたETC車専用レーンと、「ETC一般」と表示されたETC車も一般車も混在して通れるレーンと、「一般」と表示されたETCシステムを利用出来ないレーンとが混在している。このため、一般車が誤ってETC車専用レーンに進入する場合が起こり得る。なお、この出願書類では、「ETC車」とは、ETCによる料金徴収が可能な車両をいい、「一般車」とは、ETCシステムを利用出来ない車両を言う。
【0007】
更に、ETC車であっても、その車載器が路側アンテナと正常通信が出来ない場合も起こり得る。例えば、車載器に対するETCカードの未挿入、不完全挿入、直前挿入等の場合である。
【0008】
このような場合、開閉バーが下りて進行出来なくなるので、車両を止めてインターホンで係員を呼び出す必要がある。これにより、料金所の渋滞が助長され、ETCの本来の目的に沿わなくなる。また、開閉バーが下りて通行を止められた車両が、レーンからバック走行をして出ようとすると、後続の車両と衝突するおそれもあり、非常に危険である。
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1に於いては、ETCシステムを利用した車両誘導システムにおける、後述するような安全な車両誘導システムを提供することに関しては、何等言及していない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、一般車がETC車用出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場合(路側アンテナと車載器の間で通信不能・不可)であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供することを目的とする。
【0011】
更に本発明は、ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、例えば、逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘導システムを提供することを目的とする。」

上記記載事項から、本件発明1は、ETC車専用レーンと、ETC車も一般車も混在して通れるレーンと、ETCシステムを利用出来ないレーンとが混在している有料道路の料金所におけるETCシステムを利用した車両誘導システムに関するものであって、
本件発明1が解決しようとする課題は、次の(ア)及び(イ)と認められる。
(ア)一般車がETC車用出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること。
(イ)逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘導システムを提供すること。

イ 上記ア(ア)の課題に対するサポート要件
本件明細書には以下の記載がある。
「【0034】
ゲート前アンテナ3との間で無線通信が可能と判定されたとき、誘導装置4-2は閉じたままで誘導装置4-1が開き、車両検知装置2cの側を通り、路側アンテナ(ETCゲート)5から車載器に対する入口情報を受信して、車両は有料道路7へと進むことが出来る。
【0035】
ゲート前アンテナ3との間で無線通信が不能又は不可と判定されたとき、誘導装置4-1は閉じたままで誘導装置4-2が開き、レーンEに進んで、車両検知装置2dの側を通り、再度レーンA,B,Cのいずれかを選択する地点に戻る。従来、再進入レーンEが存在しなかったので、開閉バー4-1が下りて進行出来なくなると、車両を止めてインターホン等で係員を呼び出す必要があった。これにより、料金所9の渋滞が助長され、ETCの本来の目的が達成できない状態となる。」

上記記載事項における「ゲート前アンテナ3」、「無線通信が可能と判定」または「無線通信が不能又は不可と判定」する手段、「誘導装置4-1」(開閉バー4-1)、「誘導装置4-2」、及び「レーンE」(再進入レーンE)は、それぞれ、本件発明1の「通信手段」、「判定手段」「第2の遮断機」、「第3の遮断機」、及び「第2のレーン」に該当するところ、上記記載事項によれば、これらの構成及び機能により、一般車がETC車用出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場合であることを「通信手段」、「判定手段」を用いて判定し、「第2の遮断機」及び、「第3の遮断機」を含む誘導手段によって「第2のレーンE」へ車両を誘導することで車両を安全に誘導することが明らかであるから、上記ア(ア)の課題が解決されるものと理解できる。
そして、本件発明1には、
「車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、
前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段と、を備え、
前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含み」との事項が特定されており、上記課題ア(ア)を解決するための手段を有しているといえるから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記ア(ア)の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

ウ 上記ア(イ)の課題に対するサポート要件
上記ア(イ)の課題における「逆走車の走行を許さず」とは、本件明細書の段落【0008】の「開閉バーが下りて通行を止められた車両が、レーンからバック走行をして出ようとすると、後続の車両と衝突するおそれもあり、非常に危険である」との記載、及び同段落【0040】の「最初の車両検知装置2aが車両の進入を検知すると(ステップS02)、遮断機1を閉じて後続車との間を一定の間隔を空けるようにしている(ステップS03)。遮断機1は、後述するように、車両検知装置2c又は2dが車両を検知しないと開かないので、先行車と後続車の衝突が回避でき、また先行車がレーンAを逆走するのを阻止できる。」との記載によれば、開閉バーが下りて通行を止められた車両が、レーンからバック走行をして出ようとすることを防止するものであって、「逆走車」は「先行車」であることが理解できる。
そして、上記段落【0040】に記載されている、「車両検知装置2a」及び「遮断機1」は、本件発明1の「第1の検知装置」及び「第1の遮断機」に該当するところ、これらの構成及び機能から、最初の第1の検知手段が車両の進入を検知すると、第1の遮断機を閉じて先行車のバック走行(逆走)を防止するとともに、後続車との間を一定の間隔を空けることにより、上記ア(イ)の課題が解決されるものと理解できる。
そして、本件発明1は、
「前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段と、前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機と、」を備え、「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろ」すとの事項が特定されており、上記課題ア(イ)を解決するための手段を有しているといえるから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記ア(イ)の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

エ 次に上記(1)で述べた、請求人の主張について検討する。
請求人が主張している「逆進入防止」とは、本件明細書の段落【0020】の「更に、本発明に係る車両誘導システムは、一般道路と有料道路との間の料金所にETC車用レーンを有するインターチェンジに利用される車両誘導システムであって、前記ETC車用レーンの途中から分岐する、路側アンテナと車載器との間で通信不能又は通信不可が発生したときに車両を前記ETC車用レーンから離脱させるためのレーンを設け、前記ETC車用レーンから離脱させるためのレーンは、前記車両を前記料金所へ再進入させるレーン又は一般車用レーンへ誘導するレーンであり、前記分岐する地点から先の前記ETC車用レーンの部分及び前記離脱レーンの部分に対して、別の不正車両の逆進入を防止する閉鎖区間を夫々設けている。」との記載によれば、分岐する地点から先のETC車用レーンの部分及び離脱レーンの部分に対して、「別の不正車両」の逆進入を防止することである。
しかしながら、上記ウで述べたように、本件発明1の課題である「逆走車の走行を許さず」の「逆走車」は、開閉バーが下りて通行を止められ、レーンからバック走行をして出ようとする「先行車」を意味するから、本件発明1において「別の不正車両」の逆進入を防止することまでは課題にしていない。
そうすると、「逆進入防止」することは、実施例における付加的な課題となるから、本件発明1において、「逆進入防止」の課題に対する構成(Dレーンの「閉鎖区間センサ16」、Eレーンの「第5の遮断機1-3」、「第5の車両検知装置2f」及び「閉鎖区間センサ17」)を特定しないからといって、サポート要件違反とすることはできない。
さらに、「逆進入防止」することが、本件発明1の課題に含まれているとしても、本件明細書の段落【0046】に「(3)車両検知装置2aが進入車両を検知すると遮断機1を閉じ、その後車両検知装置2c,2dが進入車両を検知しないと遮断機1を開けないので、進入車両の不法な逆方向走行を阻止することができる。」と記載され、また、段落【0058】に「車両検知装置2eが車両を検知すると(ステップS52)遮断機1-2を閉じ(ステップS53)、レーンDの出口から不正車両が逆進入することを防ぐ。」と記載されている。そして、「車両検知装置2a」、「遮断機1」、「車両検知装置2e」、及び「遮断機1-2」は、本件発明1の「第1の検知手段」、「第1の遮断機」、「第4の検知手段」、及び「第4の遮断機」に該当するところ、本件発明1には、「前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機」を備え、「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし」との事項、及び「第4の遮断機と車両を検知する第4の検知手段とを設け、それにより、前記第2の遮断機と前記第4の遮断機との間に閉鎖区間を形成し、」「前記第4の検知手段により車両の通過が検知された場合、該車両が通過した後に、前記第4の遮断機を下ろす」との事項が特定されており、第1の遮断機及び第4の遮断機を下ろしたことにより、先行車も別の不正車両も逆進入できなくなることは明らかであり、「逆進入防止」 を解決するため構成が特定されているから、サポート要件違反とすることはできない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上(2)のとおり、本件発明1、2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしている。
よって、無効理由2により、請求項1、2に係る特許を無効とすることはできない。

2-3 無効理由3(特許法第36条第6項第2号)
(1)請求人の無効理由3の理由は、審判請求書の17頁下から5行?18頁2行に記載されている以下のとおりのものである。
「-いかなる態様のレーンに配置されるシステムなのか
-第1の検知手段、第1の遮断機、通信手段、誘導手段、第2の検知手段、第3の検知手段、第3の遮断機、第1の遮断機を下ろす手段、第2の遮断機を下ろす手段、第3の遮断機を下ろす手段がそれぞれどの位置に配置され、どのような配置関係にあるのか
-誘導手段がいかなる構成のもので、どのようにして車両を誘導するのかについて特定されておらず、それらは自明のものと言うこともできない。」

(2)検討
請求人が主張する、
「-いかなる態様のレーンに配置されるシステムなのか
-第1の検知手段、第1の遮断機、通信手段、誘導手段、第2の検知手段、第3の検知手段、第3の遮断機、第1の遮断機を下ろす手段、第2の遮断機を下ろす手段、第3の遮断機を下ろす手段がそれぞれどの位置に配置され、どのような配置関係にあるのか、
-誘導手段がいかなる構成のもので、どのようにして車両を誘導するのかについて特定されて」いるか否かについて検討する。
ア 本件発明1の「有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって」との構成から、ETC車専用のレーンに配置されるシステムであることが理解できる。

イ 本件発明1の「前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段」との構成から「第1の検知手段」は「有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知」できる位置に配置されるものとすれば足りること、本件発明1の「前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機」を備えとの構成、及び「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし」との構成から、「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」のそれぞれの配置と配置関係は理解できる。

ウ 本件発明1の「車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段と、を備え、前記誘導手段は、前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含み」との構成から、「通信手段」は、該通信手段によって受信したデータに基づき、判定手段が判定した結果に従って、第1のレーンへ誘導又は第2のレーンへ誘導する機能が達成できる位置に配置されるものとすれば足りることが理解できるし、「通信手段」と「前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含」む「誘導手段」との配置関係も理解できる。

エ 本件発明1の「さらに、前記第2の遮断機を通過した車両を検知する第2の検知手段と、前記第3の遮断機を通過した車両を検知する第3の検知手段と、を備え」との構成から、「第2の検知手段」は「第2の遮断機を通過した車両を検知」できる位置に、「第3の検知手段」は「第3の遮断機を通過した車両を検知」できる位置に配置されるものとすれば足りることが理解できる。

オ 第1の遮断機を下ろす手段、第2の遮断機を下ろす手段、第3の遮断機を下ろす手段は、本件発明1の「誘導手段」を備える「車両誘導システム」が行うことであるところ、本件発明1の「車両誘導システム」は、「前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第1の遮断機を下ろし、前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合、前記車両が通過した後に、前記第2の遮断機を下ろす」との機能を有するものであり、本件発明1の「誘導手段」を備えた「車両誘導システム」は、かかる機能が達成できればよいものであるから、第1の遮断機を下ろす手段、第2の遮断機を下ろす手段、第3の遮断機を下ろす手段のそれぞれの具体的な位置、配置を特定する必要はないものといえる。

カ 「誘導手段」は「前記第1のレーンに設けられた第2の遮断機と、前記第2のレーンに設けられた第3の遮断機と、を含」む構成であるところ、当該「誘導手段」は、「ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する」ものであり、そのためには、第2の遮断機を上げて(開けて)、第3の遮断機を下げる(閉じる)必要があることは明らかである。
なお、このことは、本件明細書の段落【0038】に「ルートEへ誘導する時にはルートE側の遮断機を開けてルートD側の遮断機を閉じて誘導する方法がある」と記載されていることとも整合する。

キ 以上ア?カから、第1の検知手段、第1の遮断機、通信手段、誘導手段、第2の検知手段、第3の検知手段、第3の遮断機、第1の遮断機を下ろす手段、第2の遮断機を下ろす手段、第3の遮断機を下ろす手段がそれぞれどの位置に配置され、どのような配置関係にあるのか、誘導手段がいかなる構成のもので、どのようにして車両を誘導するのかについては、本件発明1において、必要十分に特定されているものであるから、本件発明1は明確であるといえるし、本件発明1の構成を全て含む本件発明2も明確であるといえる。

(3)小括
以上(2)のとおり、本件発明1、2は、明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしている。
よって、無効理由3により、請求項1、2に係る特許を無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?3及び提出した証拠方法によっては、請求項1、2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

 
審理終結日 2021-03-25 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-15 
出願番号 特願2014-89069(P2014-89069)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G07B)
P 1 113・ 537- Y (G07B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次植前 津子  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5769141号(P5769141)
発明の名称 車両誘導システム  
代理人 齋藤 晴男  
代理人 齋藤 貴広  

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