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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1375866 |
異議申立番号 | 異議2019-700705 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-09-05 |
確定日 | 2021-05-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6484381号発明「セルスタック」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6484381号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6484381号の請求項1,2,4ないし7に係る特許を維持する。 特許第6484381号の請求項3,8ないし10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6484381号(請求項の数10。以下「本件特許」という。)についての出願(以下「本願」という。)は,平成30年10月18日(優先権主張 平成30年 6月12日)に出願され,平成31年 2月22日にその特許権の設定の登録がされ,同年 3月13日に特許掲載公報が発行された。 その後,本件特許の全ての請求項に係る特許に対し,令和1年 9月 5日差出で,特許異議申立人 亀崎伸宏(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ,同年12月25日付けで取消理由通知及び審尋がされ,これに対し,意見書提出期間後である令和 2年 3月 9日差出で意見書,回答書及び訂正請求書が提出され(このうち,訂正請求書による手続については,同年 5月11日付けで手続却下の決定がされた。),同年11月27日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,これに対し,令和 3年 1月19日差出で意見書及び訂正請求書(以下,この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたものである。 なお,本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)について,期間を指定して申立人に意見を求めたが,意見書の提出はなかった。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。) (1)訂正事項1 訂正前の請求項1に 「前記第1凹部内に配置され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」と記載されているのを, 「前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2に 「前記第1凹部内に配置され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」と記載されているのを, 「前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項4に 「請求項1乃至3のいずれかに記載のセルスタック」と記載されているのを、 「請求項1又は2に記載のセルスタック」に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項5に 「請求項1乃至4のいずれかに記載のセルスタック」と記載されているのを、 「請求項1、2及び4のいずれかに記載のセルスタック」に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の請求項6に 「請求項1乃至5のいずれかに記載のセルスタック」と記載されているのを、 「請求項1、2、4及び5のいずれかに記載のセルスタック」に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の請求項7に 「前記側面に垂直な断面において、前記複数の第1アンカー部のそれぞれは、平行である」と記載されているのを、 「前記側面に垂直な断面において、前記複数の第1アンカー部のそれぞれは、直線状に形成されており、平行である」に訂正する。 (8)訂正事項8 訂正前の請求項8を削除する。 (9)訂正事項9 訂正前の請求項9を削除する。 (10)訂正事項10 訂正前の請求項10を削除する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は,「前記第1凹部内に充填され」との記載により,訂正後の請求項1に係る発明における「第1アンカー部」が「第1凹部内」の全体に充填されている態様に限定するものであるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また,訂正事項1における「前記第1凹部内に充填され」との記載は,本願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の段落【0073】の記載「アンカー部302cは、凹部302bの全体に充填されていてもよいし」,段落【0091】の記載「図13に示すように、基材302の側面S2上に低平衡酸素圧元素の酸化物を含むペーストを塗布することによって、凹部302bの内部にペーストを充填する。」,段落【0092】?【0093】の記載及び図9?19を根拠とするものであるといえるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして,訂正事項1は,上記各記載によって訂正後の請求項1に係る発明に限定するものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は,「前記第1凹部内に充填され」との記載により,訂正後の請求項2に係る発明における「第1アンカー部」が第1凹部の全体に埋設されている態様に限定するものであるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また,訂正事項2における「前記第1凹部内に充填され」との記載は,本件明細書等の段落【0073】,【0091】?【0093】の記載及び図9?19を根拠とするものであるといえるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして,訂正事項2は,上記各記載によって訂正後の請求項2に係る発明に限定するものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでない。 (3)訂正事項3,8?10について 訂正事項3,8,9及び10は各々,訂正前の請求項3,8,9及び10を削除するものであるから,いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり,また,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもない。 (4)訂正事項4?6について 訂正事項4,5及び6は各々,訂正前の請求項4,5及び6が引用していた請求項のうち,削除された請求項3を除くものであるから,「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり,また,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもない。 (5)訂正事項7について 訂正事項7は,「直線状に形成されており」との記載により,訂正後の請求項7に係る発明における「複数の第1アンカー部」のそれぞれが直線状に形成され,かつ,互いに平行である態様に限定するものであるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また,訂正事項7における「前記複数の第1アンカー部のそれぞれは、直線状に形成されており」との記載は,本件明細書等の段落【0088】の記載及び図9?19を根拠とするものであるといえるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして,訂正事項7は,上記各記載によって訂正後の請求項7に係る発明を限定するものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでない。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項1?10について,請求項3?10はそれぞれ請求項1及び2を直接又は間接的に引用するものであって,訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものであるから,訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。 そして,本件訂正に関しては,特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから,本件訂正請求は,訂正後の請求項〔1?10〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 4 独立特許要件について 訂正前の全ての請求項1?10に対して特許異議の申立てがされている本件においては,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない旨の要件は適用されない。 5 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり,本件訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり,本件訂正請求は適法なものである。よって,本件特許に係る発明は,本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「【請求項1】 電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含み、 前記第1アンカー部は、前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び、 前記第1アンカー部は、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する、 セルスタック。 【請求項2】 電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含み、 前記第1アンカー部は、前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び、 前記側面に垂直な断面において、前記側面に対する前記第1アンカー部の角度は、60度以下である、 セルスタック。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記第1アンカー部の実長さは、15μm以上である、 請求項1又は2に記載のセルスタック。 【請求項5】 前記第1アンカー部の幅は、0.5μm以上である、 請求項1、2及び4のいずれかに記載のセルスタック。 【請求項6】 前記基材は、 前記第1凹部を含む複数の第1凹部と、 前記第1アンカー部を含み、前記側面に形成された開口を起点として前記電気化学セルに近づく方向にそれぞれ延びる複数の第1アンカー部とを含む、 請求項1、2、4及び5のいずれかに記載のセルスタック。 【請求項7】 前記側面に垂直な断面において、前記複数の第1アンカー部のそれぞれは、直線状に形成されており、平行である、 請求項6に記載のセルスタック。 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 (削除)」 第4 申立理由及び取消理由の概要 1 申立人が主張する特許異議の申立ての理由の概要 (1)申立理由1(進歩性:取消理由として不採用。) 訂正前の請求項1?10に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。 (2)申立理由2(新規性・進歩性:取消理由として不採用。) 訂正前の請求項2に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。 また,訂正前の請求項1?10に係る発明は,甲第2号証に記載された発明及び甲第1,3号証に記載された技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。 (3)申立理由3(サポート要件:取消理由として不採用。) 訂正前の請求項1?10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから,その発明についての特許は,同法第113条第4号に該当する。 (4)申立理由4(明確性:取消理由1として一部採用。) 訂正前の請求項1?10に係る発明は明確でなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから,その発明についての特許は,同法第113条第4号に該当する。 (5)証拠方法 申立人による証拠方法は、次のとおりである。 甲第1号証:特許第6188181号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:国際公開第2013/172451号(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2009-283144号公報(以下「甲3」という。) 2 当審が通知した取消理由の概要 (1)取消理由1(明確性:申立理由4を一部採用,一部職権で追加。) 訂正前の請求項1?10に係る発明は明確でなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから,その発明についての特許は,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (2)取消理由2(委任省令要件:職権で追加。決定の予告では不採用。) 訂正前の請求項1,3?10に係る発明について,発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号の規定による委任省令で定められるところにより記載されたものではないから,その発明についての特許は,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 当審は,検討の結果,申立人による申立理由1?4(上記第4の1)は採用することができず,また,当審が通知した取消理由1,2(上記第4の2)は解消しているため,本件特許を取り消すことはできないと判断する。詳細は次のとおりである。 1 進歩性(申立理由1,2),新規性(申立理由2)について (1)甲号証及び甲号証記載の発明 ア(ア)甲1は,「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」(発明の名称)に係るものであって,次の記載がある(下線は当審が付し,「…」は省略を示す。以下同じ。)。 「【請求項1】 表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部と、 前記表面を覆い、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜と、 前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、 を備える合金部材。」 「【請求項6】 2つの燃料電池セルと、 請求項1乃至5のいずれかに記載の合金部材と、 を備え、 前記合金部材は、前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材である、 セルスタック装置。」 「【0014】 [セルスタック装置100] 図1は、セルスタック装置100の斜視図である。セルスタック装置100は、マニホールド200と、セルスタック250とを備える。 【0015】 [マニホールド200] 図2は、マニホールド200の斜視図である。マニホールド200は、「合金部材」の一例である。 【0016】(略) 【0017】 マニホールド200は、天板201と、容器202とを有する。天板201は、平板状に形成される。容器202は、コップ状に形成される。天板201は、容器202の上方開口を塞ぐように配置される。」 「【0021】 [セルスタック250] 図3は、セルスタック装置100の断面図である。セルスタック250は、複数の燃料電池セル300と、複数の集電部材301とを有する。 【0022】(略) 【0023】 各燃料電池セル300の基端部は、マニホールド200の挿入孔203に挿入されている。各燃料電池セル300は、接合材101によって挿入孔203に固定されている。燃料電池セル300は、挿入孔203に挿入された状態で、接合材101によってマニホールド200に固定されている。接合材101は、燃料電池セル300と挿入孔203の隙間に充填される。接合材101としては、例えば、結晶化ガラス、非晶質ガラス、ろう材、及びセラミックスなどが挙げられる。 【0024】?【0025】(略) 【0026】 隣接する2つの燃料電池セルは、集電部材301によって電気的に接続されている。集電部材301は、接合材102を介して、隣接する2つの燃料電池セル300それぞれの基端側に接合される。接合材102は、例えば、(Mn,Co)_(3)O_(4)、(La,Sr)MnO_(3)、及び(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)などから選ばれる少なくとも1種である。」 「【0052】 [マニホールド200の詳細構成] 次に、マニホールド200の詳細構成について、図面を参照しながら説明する。図6は、図2のP-P断面図である。図7は、図6の領域Aの拡大図である。 【0053】(略) 【0054】 天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有する。容器202は、基材220と、酸化クロム膜221と、被覆膜222と、アンカー部223とを有する。 【0055】(略) 【0056】 容器202の構成は、天板201の構成と同様であるため、以下においては、図7を参照しながら、天板201の構成について説明する。 【0057】(略) 【0058】 基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などを用いることができる。基材210におけるCrの含有割合は特に制限されないが、4?30質量%とすることができる。 【0059】 基材210は、表面210aと凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。凹部210bは、表面210aに形成される。凹部210bは、穴状であってもよいし、溝状であってもよい。 【0060】 凹部210bの個数は特に制限されないが、表面210aに広く分布していることが好ましい。また、凹部210bどうしの間隔は特に制限されないが、均等な間隔で配置されていることが特に好ましい。これによって、後述するアンカー部213によるアンカー効果を、酸化クロム膜211全体に対して均等に発揮させることができるため、基材210から被覆膜212が剥離することを特に抑制できる。 【0061】?【0062】(略) 【0063】 凹部210bの断面形状は特に制限されるものではなく、例えば、楔形、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。図7では、断面形状が楔形の凹部210bが図示されており、凹部210bの最深部が鋭角的であるが、これに限られるものではない。凹部210bの最深部は、鈍角状であってもよいし、丸みを帯びていてもよい。また、凹部210bは、基材210の内部に向かって真っ直ぐに延びていなくてもよく、例えば、厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし、部分的に曲がっていてもよい。 【0064】(略) 【0065】 酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面210aの略全面を覆っていてもよい。酸化クロム膜211は、アンカー部213の表面213aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面213aの略全面を覆っていることが好ましい。酸化クロム膜211は、基材210の凹部210bの開口を塞ぐように形成される。酸化クロム膜211の厚みは、0.5?10μmとすることができる。 【0066】 被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆う。詳細には、被覆膜212は、酸化クロム膜211のうちセルスタック装置100の運転中に酸化剤ガスと接触する領域の少なくとも一部を覆う。被覆膜212は、酸化クロム膜211のうち酸化剤ガスと接触する領域の全面を覆っていることが好ましい。被覆膜212の厚みは特に制限されないが、例えば3?200μmとすることができる。 【0067】?【0068】(略) 【0069】 アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。アンカー部213が凹部210bに係止されることによってアンカー効果が生まれて、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。 【0070】 アンカー部213は、凹部210bの内表面の少なくとも一部と接触していればよいが、凹部210bの内表面の略全面と接触していることが好ましい。 【0071】 アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物(以下、「低平衡酸素圧酸化物」という。)を含有する。すなわち、アンカー部213は、Crよりも酸素との親和力が大きく酸化しやすい元素の酸化物を含有する。そのため、セルスタック装置100の運転中、被覆膜212を透過してくる酸素をアンカー部213に優先的に取り込むことによって、アンカー部213を取り囲む基材210が酸化することを抑制できる。これにより、アンカー部213の深さが幅よりも大きい形態を維持することができるため、アンカー部213によるアンカー効果を長期間に亘って得ることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる。 【0072】?【0076】(略)」 「【0077】 [マニホールド200の製造方法] マニホールド200の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、容器202の製造方法は、天板201の製造方法と同様であるため、以下においては、天板201の製造方法について説明する。 【0078】 まず、図8に示すように、基材210の表面210aに凹部210bを形成する。例えばサンドブラストを用いることによって、楔状の凹部210bを効率的に形成することができる。この際、研磨剤の粒径を調整したり、又は、適宜ローラーで表面を均したりすることによって、凹部210bの深さL及び幅Wを調整することができる。 【0079】 次に、図9に示すように、基材210の表面210a上に低平衡酸素圧酸化物ペーストを塗布する。これにより凹部210bの内部に低平衡酸素圧酸化物ペーストを充填する。なお、低平衡酸素圧酸化物ペーストは、低平衡酸素圧酸化物粉末にエチルセルロースとテルピネオールを添加することによって調製できる。 【0080】 次に、図10に示すように、凹部210bの内部に充填された低平衡酸素圧酸化物ペーストはそのままに、表面210a上に塗布された余分な低平衡酸素圧酸化物ペーストを除去する。例えばスキージを用いることによって、余分な低平衡酸素圧酸化物ペーストを除去することができる。 【0081】 次に、図11に示すように、基材210を大気雰囲気で熱処理(800?900℃、5?20時間)することによって、凹部210bに充填された低平衡酸素圧酸化物ペーストを覆う酸化クロム膜211を形成するとともに、アンカー部213を形成する。 【0082】 次に、図12に示すように、酸化クロム膜211上に絶縁性のセラミックス材料ペーストを塗布して、熱処理(800?900℃、1?5時間)することによって、被覆膜212を形成する。」 「【0084】 上記実施形態では、本発明に係る合金部材をマニホールド200に適用することとしたが、これに限られるものではない。本発明に係る合金部材は、セルスタック装置100及びセルスタック250の一部を構成する部材として用いることができる。例えば、本発明に係る合金部材は、隣接する2つの燃料電池セル300を電気的に接続する集電部材301などにも好適に用いることができる。」 「【図3】 」 「【図6】 【図7】 【図8】 【図9】 【図10】 【図11】 【図12】 」 (イ)以上の摘示よりみて,請求項1を引用する請求項6のセルスタック装置に注目すると、甲1には,次の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。 「2つの燃料電池セルと、合金部材とを備えるセルスタック装置であって、 前記合金部材は、 前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材であり、 前記合金部材は、 表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部と、 前記表面を覆い、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜と、 前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、 を備える合金部材である、 セルスタック装置。」 イ(ア)甲2は,「導電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール、電気化学装置」(発明の名称)に係るものであって,次の記載がある。 「発明が解決しようとする課題 [0005] しかしながら、従来、集電基板をプレス加工する際に、集電基板に生じる剪断力で、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合がある。この凹溝の開口は大きく、かつ深いことに起因し、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であったため、集電基板の表面の被覆層に凹溝に基づく開口部が存在しており、この被覆層の開口部を起点として集電基板が酸化していき、耐熱性が低下していくおそれがあった。 [0006] 本発明は、導電基体の凹溝を被覆層で被覆できる集電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール、電気化学装置を提供することを目的とする。」 「発明の効果 [0011] 本発明の導電部材によれば、導電基体の凹溝の内部は酸化クロムで埋まっており、この凹溝内に埋まっている酸化クロムの表面および導電基体の表面が被覆層で被覆されている。これにより、導電基体の凹溝を被覆層で覆うことができ、凹溝からの耐熱性の低下を抑制することができる。従って、このような導電部材をセルスタック、電気化学モジュールおよび電気化学装置に用いることにより、長期信頼性を向上することができる。」 「発明を実施するための形態 [0013] 先ず、導電部材として燃料電池用集電部材を備えてなるセルスタック装置について図1を用いて説明する。セルスタック装置1は、固体酸化物形の燃料電池セル3を有している。この燃料電池セル3は、内部にガス流路12を有し、一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7と、この導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に配置してなる発電部を備えている。導電性支持体7の他方の主面には、インターコネクタ11を配置し、柱状(中空平板状)の燃料電池セル3が構成されている。 [0014] そして、これらの燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に燃料電池用集電部材(導電部材)4(以下、単に集電部材4という)を配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続してなるセルスタック2が構成されている。」 「[0032] 次に、集電部材4について図2?4を用いて説明する。図2に示す集電部材4は、隣接する一方の燃料電池セル3と接合される複数の第1集電片4aと、隣接する他方の燃料電池セル3と接合される複数の第2集電片4bと、複数の第1集電片4aおよび複数の第2集電片4bの一端同士を連結する第1連結部4cと、複数の第1集電片4aおよび複数の第2集電片4bの他端同士を連結する第2連結部4dとを一組のユニットとしている。そして、これらのユニットの複数組が、燃料電池セル3の長手方向に導電性連結片4eにより連結されて構成されている。第1集電片4aおよび第2集電片4bは、燃料電池セル3に接合される部位を示し、これらの部位が燃料電池セル3により電力を取り出す集電部4fとなっている。また、第1集電片4aと第2集電片4bとの間が、酸素含有ガスが通過する空間とされている。」 「[0034] 集電部材4は、セルスタック装置1の作動時に高温の酸化雰囲気に曝されることから、集電基板(導電基体)41の表面全体に被覆層43を形成してなり、これにより、集電部材4の劣化を低減することができる。なお、図2、図3(a)では被覆層43を省略し、図4では、集電基板41の表面全体に被覆層43を形成した状態を示し、集電基板41の断面を示す斜線は省略している。 [0035] 集電部材4は、耐熱性および高温の酸化性雰囲気で導電性を有する必要があるため、集電基板41は、例えば合金により作製することができる。特には、集電部材4は、高温の酸化雰囲気に曝されることから、集電基板41は4?30質量%の割合でCrを含有する合金で構成されている。集電基板41は、例えば、Fe-Cr系の合金やNi-Cr系の合金等により作製できる。集電基板は高温用(600?1000℃)の導電基体である。 [0036] また、集電基板41のCrが燃料電池セル3に拡散することを低減するために、被覆層43として、Znの酸化物、あるいはLaおよびSrを含有するペロブスカイト型複合酸化物等を用いることができる。被覆層43はCrの拡散を低減できればよく、上記材料以外であっても良い。 [0037] 図3に示すように、第1集電片4aおよび第2集電片4bは、燃料電池セル3の配列方向xに対して異なる角度で交差する第1表面4g、燃料電池セル3の配列方向xと平行に形成された第2表面4hおよび第3表面4iを有している。言い換えると、燃料電池セル3と対向する第1表面4gと、第1表面4gの両側に隣り合う第2表面4hおよび第3表面4iとを有している。この第2表面4hおよび第3表面4iが、集電基板41の側面である。 [0038] そして、第1集電片4aおよび第2集電片4bの第2表面4hおよび第3表面4iには複数の凹溝15が形成されており、これらの凹溝15内には酸化クロム14が埋まっている。言い換えると、プレス加工時の剪断力で切断され、厚み方向に形成された面(側面)には、亀裂状の凹溝15が形成されており、これらの凹溝15内には酸化クロム14が充填されている。この酸化クロム14は、集電基板41の熱処理時に、集電基板41内部から集電基板41の凹溝15の表面に拡散してきたCrを酸化して形成されている。 [0039] 凹溝15は、図3(b)、図4(c)に示すように、集電基板41の厚み方向(配列方向x)の内壁面が当接するほどほぼ閉じられており、開口しているとしても、厚みWが狭い面状の空間であって、内部が先細り形状に形成され、凹溝15内には、酸化クロム14がほぼ充填され凹溝15が酸化クロム14でほぼ埋設されている。 [0040] 図4(c)で説明すると、凹溝15は、集電基板41の厚み方向の断面において(集電基板41を断面視したとき)、集電基板41の側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に延び、凹部15aよりも厚みが小さい亀裂15bとを具備するとともに、凹部15a内に埋まっている酸化クロム14の表面は凹んでおり、この凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる。被覆層43は、凹部15a内の酸化クロム14表面全体を覆っている。」 「[0046] 凹溝15は、集電部4fの第2表面4h、第3表面4iから内部に向けて5?30μmの深さ(図4(a)で示すL)で設けられており、凹溝15の凹部15aは閉じられているか、開口しているとしても、1?5μmの厚み(開口幅:図4で示すW)とされている。これにより、後述するように酸化クロム14が充填されやすくなり、集電基板41の凹溝15を被覆層43により被覆することができ、集電基板41の表面全体を被覆層43で隙間無く被覆することが可能となる。これにより、集電部材4の凹溝15からの酸化を抑制し、耐熱性を向上できる。 [0047] 集電基板41、酸化クロム14、被覆層43の順に熱膨張係数が小さくなるため、さらに、凹溝15内にも酸化クロム14を構成する材料が存在するため、集電基板41からの被覆層43の剥離を抑制できる。」 「[0048] 次に、集電部材4の作製方法について説明する。図5(a)に示すように、下型19a1と上型19b1とを具備したプレス加工機の下型19a1上に、一枚の矩形状をした厚み0.1?1mmの板状の集電基板41を載置する。この後、上型19b1を下降させることにより、図5(b)に示すように、集電基板41の幅方向に延びるスリットを形成する。この際、図5(c)に示すように、剪断力により集電基板41の側面(第1集電片4a、第2集電片4bの第2表面4h、第3表面4i)に斜めに楔状の凹溝15が形成されることがある。」 「[0057] 次に、集電部材4と燃料電池セル3との導電性接合材13による接合状態について、図7を用いて説明する。 [0058] 図7に示すように集電部材4と燃料電池セル3とは導電性接合材13を介して接合されている。つまり、導電性接合材13により、集電部材4と燃料電池セル3とは電気的および機械的に接続されている。導電性部材13は、集電部4fの第1表面4g、第2表面4hおよび第3表面4iを覆うように設けられており、第2表面4hおよび第3表面4iに位置する導電性接合材13はそれぞれ接合される燃料電池セル3側の方に多くなるように設けられている。また、集電部材4の全周を被覆することにより、集電部4fを完全に覆うように導電性接合材13を設けてもよい。なお、図7では、被覆層43の記載を省略した。」 「請求の範囲 [請求項1] Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し、該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されていることを特徴とする導電部材。 [請求項2] 前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備することを特徴とする請求項1に記載の導電部材。」 「[請求項6] 複数の電気化学セルを、請求項1乃至5のうち何れかに記載の導電部材により電気的に接続してなることを特徴とするセルスタック。」 「[図1] 」 「[図2] 」 「[図3] 」 「[図4] 」 「[図5] 」 「[図7] 」 (イ)以上の摘示よりみて,請求項1を引用する請求項6のセルスタックに注目すると、甲2には,次の発明が記載されているといえる(以下「甲2発明」という。)。 「複数の電気化学セルを、導電部材により電気的に接続してなるセルスタックであって、 前記導電部材が、 Crを含有する合金からなる導電基体と、 該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、 前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し、 該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、 前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている、 セルスタック。」 ウ 甲3は,「固体電解質形燃料電池のセパレータ表面処理方法」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。 「【0047】 さらに、ステップS3に進んで、金属セパレータ28のカソード面66bにサンドブラスト処理が施される。このため、カソード面66bに付着した異物が除去されるとともに、前記カソード面66bが粗面化され、この粗面化された前記カソード面66bにクロム飛散防止層130が被覆される(第1工程)。」 「【図8】 」 (2)甲1発明からの進歩性(申立理由1)について ア 請求項1に係る発明について (ア)請求項1に係る発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明の「燃料電池セル」は,請求項1に係る発明の「電気化学セル」に相当する。 b 甲1発明の「合金部材」は,「2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材」であるから,請求項1に係る発明の「前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材」に相当する。 c 甲1発明の「合金部材」が備える「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」は,請求項1に係る発明の「集電部材」が有する「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。 d 甲1発明の「酸化クロム膜」及び「被覆膜」は,いずれも請求項1に係る発明の「基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜」に相当する。 e 甲1発明の「凹部」は,基材上に形成されるという限りにおいて,請求項1に係る発明の「第1凹部」に相当する。 f 甲1発明の「前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部」は,甲1の記載によれば,凹部の内部に低平衡酸素圧酸化物ペーストを充填し熱処理することによって,凹部に充填されたペーストを覆う酸化クロム膜を形成するとともにアンカー部を形成する(甲1段落【0077】?【0082】,図8?12)というものであるから,請求項1に係る発明の「前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される」「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する」「第1アンカー部」に相当する。 g 甲1発明の「セルスタック装置」は,請求項1に係る発明の「セルスタック」に相当する。 (イ)よって,請求項1に係る発明と甲1発明とは,次の一致点,相違点を有する。 (一致点) 「電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含み、 前記第1アンカー部は、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する、 セルスタック。」である点。 (相違点1) 請求項1に係る発明では,「基材」が「前記電気化学セルと対向する主面」と、「前記主面に連なる側面」であって「第1凹部」が形成される「側面」を含み,かつ,「第1アンカー部」が「前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び」る構成を備えるのに対し,甲1発明では,「基材」及び「アンカー部」が上記の構成を備えるかどうか不明である点。 (ウ)上記相違点1について検討する。 a 請求項1に係る発明の「第1アンカー部」は,アンカー部が燃料電池セルに近づく方向に向かって斜めに延びているため,燃料電池セルから引き離される向きの外力が集電部材にかかったとしても,コーティング膜が剥離することを抑制できるというものである(段落【0072】)。 b 他方,甲1に記載されている凹部及びアンカー部の詳細は,燃料電池の基端部を支持するマニホールドについてのものであって,集電部材についてのものではない。また,マニホールドの詳細構成(段落【0052】?【0076】,図6,7),マニホールドの製造方法(段落【0077】?【0082】,図8?12)を参照しても,凹部の形成部位が特定方向に向かって延びるように形成されることも,凹部内に充填されるアンカー部が特定方向に向かって延びることも示されていない。 よって,甲1に,合金部材が,集電部材などにも好適に用いることができること(段落【0084】),及び,凹部は,基材の内部に向かって真っ直ぐに伸びていなくともよく,例えば,厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし,部分的に曲がっていてもよいこと(段落【0063】)が一応記載されているとしても,甲1発明における凹部及びアンカー部,集電部材の基材に対して,アンカー部が電気化学セルに近づく方向に向かって延びるように設けることの動機付けは何ら見いだすことができないものである。 c また,甲2図3(b),図4(a)及び(c),図7をみると,導電部材である集電基板の表面側に存在する凹部から,楔状の凹溝及び該凹溝内に充填された酸化クロムが,集電基板の内部に向けて斜めに延びている態様が看取できるが,甲2の凹溝は,集電基板に対するプレス加工時の剪断力によって形成されたものであり(段落[0048],図5(c)),この集電基板を更に加工して得られる導電部材と燃料電池セルとの接合状態をみると,楔状の凹溝及び該凹溝内に配置された酸化クロムは,一方のセルに対しては近づく方向に延びているが,他方のセルに対しては離れる方向に延びている(図7)。そうすると,甲2図3(b),図4(a)及び(c),図7から看取できる上記態様は,プレス加工時の剪断力によって不可避的に形成されるものであってアンカー効果とは無関係であり,凹溝内に充填された酸化クロムが燃料電池セルに近づく方向に向かって延びるもののみを選択して適用することの動機付けも,何ら見いだすことができないものである。 なお,甲3は金属セパレータのカソード面にサンドブラスト処理を施し,表面に複数の凹部を形成する旨を示すに止まるものであって,該凹部内に充填されるアンカー部については,何ら記載も示唆もされていない。 d 仮に,甲2において,凹溝内に充填された酸化クロムが燃料電池セルに近づく方向に向かって延びるもののみを選択して,甲1発明に適用することができたとしても,請求項1に係る発明は,当該構成をとることによって,燃料電池セルから引き離される向きの外力が集電部材にかかり,コーティング膜が剥離することを抑制できるという,格別の効果を奏するものであり,当該効果は,アンカー部の延びる方向の技術的意義について何ら具体的な言及がされていない甲1ないし甲3からは予測できないものである。 (エ)したがって,請求項1に係る発明は,甲1発明から容易に想到できたものではない。 イ 請求項2に係る発明について (ア)請求項2に係る発明1と甲1発明とを対比すると,上記ア(ア)のa?e,gと同様のことがいえる。 また,甲1発明の「前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部」は,請求項2に係る発明の「前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」に相当する。 (イ)よって,請求項2に係る発明と甲1発明とは,次の一致点,相違点を有する。 (一致点) 「電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含む、 セルスタック。」である点。 (相違点2) 請求項2に係る発明では,「基材」が「前記電気化学セルと対向する主面」と、「前記主面に連なる側面」であって「第1凹部」が形成される「側面」を含み,かつ,「第1アンカー部」が「前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び、前記側面に垂直な断面において、前記側面に対する前記第1アンカー部の角度は、60度以下である」構成を備えるのに対し,甲1発明では,「基材」及び「アンカー部」が上記の構成を備えるかどうか不明である点。 (ウ)上記相違点2について検討すると、上記ア(ウ)のa?dと同様のことがいえる。すなわち,アンカー部の延びる方向の技術的意義について甲1ないし甲3には何ら具体的な言及がされておらず,まして,その角度が基材の側面に対して60度以下であることは,記載も示唆もされていないものである。 (エ)したがって,請求項2に係る発明は,甲1発明から容易に想到できたものではない。 ウ 請求項4?7に係る発明について 請求項4?7に係る発明はいずれも,請求項1,2に係る発明を更に技術的に特定したものであるから,甲1発明との対比において,少なくとも,上記ア(イ)又はイ(イ)と同様の相違点を有する。 そして,上記ア(ウ)又はイ(ウ)と同様の理由により,請求項4?7に係る発明は,甲1発明から容易に想到できたものではない。 エ 申立理由1についての小括 以上のとおり,本件特許の請求項1,2,4?7に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲2,3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)甲2発明からの新規性,進歩性(申立理由2)について ア 請求項2に係る発明について (ア)事案に鑑み,まず,請求項2に係る発明と甲2発明とを対比する。 a 甲2発明の「電気化学セル」は,請求項2に係る発明の「電気化学セル」に相当する。 b 甲2発明の「導電部材」は「複数の電気化学セル」を「電気的に接続」するものであるから,請求項2に係る発明の「前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材」に相当する。 c 甲2発明の「導電部材」が含む「Crを含有する合金からなる導電基体」は,請求項2に係る発明の「集電部材」が有する「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。 なお,甲2発明の「導電基体」について,甲2では「集電基板41は4?30質量%の割合でCrを含有する合金で構成されている。…集電基板41は高温用(600?1000℃)の導電基体である。」と記載されており(段落[0035]),甲2における集電基板41は「導電基体」である旨が説明されている。 d 甲2発明の「導電部材」が含む「該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」は,請求項2に係る発明の「基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜」に相当する。 e 甲2発明の「導電基体」(すなわち集電基板41)は,甲2によれば,「燃料電池セルと対向する第1表面4g」と,「第1表面4gの両側に隣り合う第2表面4hおよび第3表面4i」とを有し,この「第2表面4hおよび第3表面4i」が,集電基板41の側面であり,そして,「第2表面4hおよび第3表面4i」には複数の「凹溝」が形成されているところ(段落[0037],[0038],図3(b)),上記「第1表面4g」,「第2表面4hおよび第3表面4i」及び「凹溝」は各々,請求項2に係る発明の「基材」が含む「前記電気化学セルと対向する主面」,「前記主面に連なる側面」及び「前記側面に形成される第1凹部」に相当するものであるといえる。 f 甲2発明の「該凹溝の内部」の「前記酸化クロム」は,「前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されて」いることよりみて,請求項2に係る発明の「前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部」に相当する。 g 甲2発明の「セルスタック」は,請求項1に係る発明の「セルスタック」に相当する。 (イ)よって,請求項2に係る発明と甲2発明とは,次の一致点,相違点を有する。 (一致点) 「電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含む、 セルスタック。」である点。 (相違点3) 請求項2に係る発明では,「第1アンカー部」が「前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び」かつ「前記側面に垂直な断面において、前記側面に対する前記第1アンカー部の角度は、60度である」構成を備えるのに対し,甲2発明では,「凹溝の内部」の「酸化クロム」が上記の構成を備えるかどうか不明である点。 (ウ)上記相違点3について検討する。 a 請求項2に係る発明の「第1アンカー部」は,アンカー部が燃料電池セルに近づく方向に向かって斜めに延びているため,燃料電池セルに押しつけられる向きの外力が集電部材にかかったとしても,コーティング膜が剥離することを抑制できるというものである(段落【0072】)。 b 他方,甲2発明の「凹溝の内部」の「酸化クロム」については,甲2図3(b),図4(a)及び(c),図7をみると,導電部材である集電基板の表面側に存在する凹部から,楔状の凹溝及び該凹溝内に充填された酸化クロムが,集電基板の内部に向けて斜めに延びている態様が看取できるが,甲2の凹溝は,集電基板に対するプレス加工時の剪断力によって形成されたものであり(段落[0048],図5(c)),この集電基板を更に加工して得られる導電部材と燃料電池セルとの接合状態をみると,楔状の凹溝及び該凹溝内に配置された酸化クロムは,一方のセルに対しては近づく方向に延びているが,他方のセルに対しては離れる方向に延びている(図7)。そうすると,甲2図3(b),図4(a)及び(c),図7から看取できる上記態様は,プレス加工時の剪断力によって不可避的に形成されるものであってアンカー効果とは無関係である。 よって,相違点3は実質的な相違点であるといえるから,請求項2に係る発明は甲2発明ではない。 c そこで,相違点3に係る容易想到性について検討するに,アンカー効果とは無関係である甲2発明において,凹溝内に充填された酸化クロムが燃料電池セルに近づく方向に向かって延びるもののみを選択して適用することの動機付けは,何ら見いだすことができないものである。また,甲1に記載されている凹部及びアンカー部の詳細は,燃料電池の基端部を支持するマニホールドについてのものであって,集電部材についてのものではない。さらに,甲3は金属セパレータのカソード面にサンドブラスト処理を施し,表面に複数の凹部を形成する旨を示すに止まるものであって,該凹部内に配置されるアンカー部については,何ら記載も示唆もされていない。 d 仮に,甲2発明において,凹溝内に配置された酸化クロムが燃料電池セルに近づく方向に向かって延びるもののみを選択し,適用することができたとしても,請求項2に係る発明は,当該構成をとることによって,燃料電池セルから引き離される向きの外力が集電部材にかかり,コーティング膜が剥離することを抑制できるという,格別の効果を奏するものであり,当該効果は,アンカー部の延びる方向の技術的意義について何ら具体的な言及がされていない甲1ないし甲3からは予測できないものである。 (エ)したがって,請求項2に係る発明は,甲2発明ではなく,また,甲2発明から容易に想到できたものでもない。 イ 請求項1に係る発明について (ア)請求項1に係る発明と甲2発明とを対比すると,上記ア(ア)のa?gと同様のことがいえる。 (イ)よって,請求項1に係る発明と甲2発明とは,次の一致点,相違点を有する。 (一致点) 「電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含む、 セルスタック。」である点。 (相違点4) 請求項1に係る発明では,「第1アンカー部」が「前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び」かつ「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する」構成を備えるのに対し,甲2発明では,「凹溝の内部」の「酸化クロム」が上記の構成を備えるかどうか不明である点。 (ウ)上記相違点4について検討すると,上記ア(ウ)のa?dと同様のことがいえる。 また,甲2発明における「凹溝の内部」の「酸化クロム」は,「集電基板41内部から集電基板41の凹溝15の表面に拡散してきたCrを酸化して形成されて」おり(段落[0038]),「集電基板41、酸化クロム14、被覆層43の順に熱膨張係数が小さくなるため、さらに、凹溝15内にも酸化クロム14を構成する材料が存在するため,集電基板41からの被覆層43の剥離を抑制できる」(段落[0047])というものであるから,請求項1に係る発明の第1アンカー部とは,材料も被覆層の剥離を抑制する作用機序も異なる。よって,甲2発明の「酸化クロム」に代えて「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する」構成を採用する動機付けも見いだせない。 (エ)したがって,請求項1に係る発明は,甲2発明から容易に想到できたものではない。 ウ 請求項4?7に係る発明について 請求項4?7に係る発明はいずれも,請求項1,2に係る発明を更に技術的に特定したものであるから,甲2発明との対比において,少なくとも,上記ア(イ)又はイ(イ)と同様の相違点を有する。 そして,上記ア(ウ)又はイ(ウ)と同様の理由により,請求項4?7に係る発明は,甲2発明から容易に想到できたものではない。 エ 申立理由2についての小括 以上のとおり,本件特許の請求項2に係る発明は,甲2に記載された発明ではなく,また,請求項1,2,4?7に係る発明は,甲2に記載された発明及び甲1,3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)進歩性(申立理由1,2),新規性(申立理由2)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項2に係る発明は,甲第2号証に記載された発明ではなく,また,甲第2号証及び甲第1及び3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。さらに,本件特許の請求項1,2,4ないし7に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易には発明をすることができたものでもない。よって,申立理由1ないし2によって本件特許を取り消すことはできない。 2 記載要件(取消理由1,2,申立理由3,4)について (1)明確性(取消理由1,申立理由4)について ア 「第1凹部」について 凹部とは,一般には,凹んでいる部分のことであり,願書に添付された明細書においては,集電部材を構成する基材の側面に形成され(段落【0070】),そこにアンカー部が係止されることで,アンカー効果(段落【0072】)が生まれるような部分であるといえる。 よって,当業者であれば,集電部材を構成する基材の側面において,そこにアンカー部が係止されることで,アンカー効果が生まれる程度に凹んでいる部分が「第1凹部」であると理解することができるから,その外延は明確であるといえる。 なお,訂正前の請求項3において「第1凹部」が「第2領域」に形成される点に係る明確性については,本件訂正により請求項3が削除されたため,取消理由は解消した。 イ 「第1アンカー部」について 本件訂正により,請求項1,2,4?7には「第1アンカー部」が「第1凹部」に「充填され」ていることが特定され,「第1凹部」と「第1アンカー部」とがほぼ同じ大きさ及び同じ形状であることが明らかにされた。 そして,当業者であれば,「第1アンカー部」とは,「第1凹部」に係止されることによって,「第1アンカー部」が接続されたコーティング膜を基材に固定する機能(すなわち,アンカー効果)を発揮するものであると理解することができるから,その外延は明確であるといえる。 また,訂正前の請求項7において複数の「第1アンカー部」が「平行」である点に係る明確性については,本件訂正により,請求項7における複数の「第1アンカー部」のそれぞれは「直線状に形成されて」いることが特定され,「平行」の語義に当てはまらない態様を含まないことが明らかとなったため,取消理由は解消した。 (2)委任省令要件(取消理由2)について ア 「アンカー部」について 「アンカー部302cを取り囲む基材本体302aが酸化」すると,どのようにして「アンカー部302cが肥大化する」のか,また,「酸素をアンカー部302cが優先的に取り込む」ことで,どのようにして「アンカー部302cの形状を保つことができるのかについては,特許権者が釈明するように,以下のとおりのものと解される(令和 2年 3月 9日差出の意見書第3?4頁)。 (ア)アンカー部が低平衡酸素圧酸化物を含有しない場合,コーティング膜を透過した酸素は,基材本体に取り込まれ,元のアンカー部を取り囲むように酸化クロムが生成し,該酸化クロムと基材合金との境界によって外延(当審注:「外縁」の誤記と認める。以下同じ。)が規定されたアンカー部が形成されて,元のアンカー部の形状とは異なり,全体的に大きく,かつ,丸みを帯びる。 (イ)アンカー部が低平衡酸素圧酸化物を含有する場合,低平衡酸素圧酸化物はクロムを含有する基材本体に比べて酸素を取り込みやすいため,コーティング膜を透過した酸素は,低平衡酸素圧酸化物に取り込まれること,また,低平衡酸素圧酸化物の酸化が進行すると,アンカー部の外延は基材の凹部によって拘束されているため,高密度化したアンカー部が形成されること,その後,アンカー部の酸化が更に進行しても,アンカー部の外延は基材の凹部によって当方的に拘束されているためアンカー部は相似拡大し,元のアンカー部の形状と略同じであることにより,アンカー部の酸化度合いに関わらずアンカー部の形状を保つことができ,アンカー効果を長期間に亘って維持することができる。 したがって,発明の詳細な説明には,アンカー部がクロムよりも平衡酸素圧の低い元素(低平衡酸素圧元素)の酸化物を含有することに関して,請求項1,4?7に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえる。 (3)サポート要件(申立理由3)について ア 「アンカー部」(および凹部)の形状について 発明の詳細な説明の記載によれば,発明が解決しようとする課題は,コーティング膜の剥離を抑制可能なセルスタックを提供することである(段落【0005】)。 そして,本件訂正により,請求項1,2,4?7には「第1アンカー部」が「第1凹部」に「充填され」ていることが特定され,「第1凹部」と「第1アンカー部」とが同じ大きさ及び同じ形状であることが明らかにされたところ,発明の詳細な説明には,そのようなアンカー部が凹部に係止されることによって,アンカー部が接続されたコーティング膜にアンカー効果が生じ,基材に対するコーティング膜の密着力が向上するため,コーティング膜が基材から剥離することを抑制でき,特に,アンカー部が燃料電池セルに近づく方向に向かって斜めに延びているため,燃料電池セルから引き離される向きの外力が集電部材にかかったとしても,コーティング膜が剥離することを抑制できる旨が記載されている(段落【0072】)。 したがって,当業者であれば,発明の詳細な説明に記載されたアンカー部は,凹部に充填・係止されることによってアンカー効果を生じ,基材に対するコーティング膜の密着力を向上させるものであると理解することができるから,請求項1,2,4?7に記載された「第1アンカー部」は発明の詳細に記載された範囲を超えるものではない。 イ 「アンカー部」の構成材料について 発明の詳細な説明によれば,発明が解決しようとする課題は,コーティング膜の剥離を抑制可能な電気化学セル用金属部材、及びこれを用いた電気化学セル組立体を提供することである(段落【0005】)。 そして,発明の詳細な説明には,コーティング膜に接続されるアンカー部が基材の側面に形成される凹部に係止されることによって,アンカー部が接続されたコーティング膜にアンカー効果が生じ,基材に対するコーティング膜の密着力が向上するため,コーティング膜が基材から剥離することを抑制でき,特に,アンカー部が燃料電池セルに近づく方向に向かって斜めに延びているため,燃料電池セルから引き離される向きの外力が集電部材にかかったとしても,コーティング膜が剥離することを抑制できることを抑制できる旨が記載されている(段落【0072】)。 他方,アンカー部が含有する「低平衡酸素圧元素」について,発明の詳細な説明には,Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素(低平衡酸素圧元素)の酸化物が記載されるとともに,Crよりも酸素との親和力が大きくて酸化しやすい低平衡酸素圧元素の酸化物を含有することにより,被覆膜を透過してくる酸素をアンカー部に優先的に取り込むことができるため,アンカー効果を長期間に亘って維持でき,コーティング膜の剥離を長期間に亘って抑制できることが記載されている(段落【0078】)。 そうすると,長期間に亘る剥離抑制効果はともかく,発明が解決しようとする課題(コーティング膜の剥離を抑制可能なセルスタックの提供)に徴し,「第1アンカー部」の構成材料が特定されていなくとも,アンカー効果によりコーティング膜の密着力を向上させることができる旨を一応は理解することができるといえるから,請求項2,4?7に記載された「第1アンカー部」は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではない。 (4)記載要件(取消理由1,2,申立理由3,4)についてのまとめ 以上のとおり,請求項1,2,4ないし7に係る発明は明確であり,かつ,経済産業省令で定めるところにより記載されたものとなったから,当審が通知した取消理由1ないし2は解消した。 また,請求項1,2,4ないし7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許を受けようとする発明が明確であるから,申立理由3ないし4によって本件特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり,当審が通知した取消理由,及び,特許異議申立書に記載した申立理由によっては,請求項1,2,4ないし7に係る特許を取り消すことはできず,また,他に請求項1,2,4ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項3,8ないし10に係る特許は,いずれも訂正により削除されたから,請求項3,8ないし10に係る特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含み、 前記第1アンカー部は、前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び、 前記第1アンカー部は、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素を含む酸化物を含有する、 セルスタック。 【請求項2】 電気化学セルと、 前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、 を備え、 前記集電部材は、 クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、 前記基材の少なくとも一部を覆うコーティング膜と、 を有し、 前記基材は、 前記電気化学セルと対向する主面と、 前記主面に連なる側面と、 前記側面に形成される第1凹部と、 前記第1凹部内に充填され、前記コーティング膜に接続される第1アンカー部と、 を含み、 前記第1アンカー部は、前記側面に形成された開口を起点として、前記電気化学セルに近づく方向に延び、 前記側面に垂直な断面において、前記側面に対する前記第1アンカー部の角度は、60度以下である、 セルスタック。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記第1アンカー部の実長さは、15μm以上である、 請求項1又は2に記載のセルスタック。 【請求項5】 前記第1アンカー部の幅は、0.5μm以上である、 請求項1、2及び4のいずれかに記載のセルスタック。 【請求項6】 前記基材は、 前記第1凹部を含む複数の第1凹部と、 前記第1アンカー部を含み、前記側面に形成された開口を起点として前記電気化学セルに近づく方向にそれぞれ延びる複数の第1アンカー部とを含む、 請求項1、2、4及び5のいずれかに記載のセルスタック。 【請求項7】 前記側面に垂直な断面において、前記複数の第1アンカー部のそれぞれは、直線状に形成されており、平行である、 請求項6に記載のセルスタック。 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-04-26 |
出願番号 | 特願2018-197006(P2018-197006) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M) P 1 651・ 113- YAA (H01M) P 1 651・ 121- YAA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 菊地 リチャード平八郎 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 平塚 政宏 |
登録日 | 2019-02-22 |
登録番号 | 特許第6484381号(P6484381) |
権利者 | 日本碍子株式会社 |
発明の名称 | セルスタック |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |