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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1375911
異議申立番号 異議2021-700247  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-08 
確定日 2021-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6753591号発明「樹脂組成物、熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品及び樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753591号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6753591号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、2019年(令和1年)10月25日を出願日とする特許出願(特願2019-194188号)に係る特許であって、令和2年8月24日に設定登録がされ(特許掲載公報の発行日は同年9月9日である。)、令和3年3月8日に、本件特許の請求項1?8に係る特許に対して、特許異議申立人である森川真帆(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1?8に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
黒鉛粒子からなる熱膨張性黒鉛成分と樹脂成分とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂成分100質量部を基準にして、前記熱膨張性黒鉛成分を5?300質量部含み、
前記熱膨張性黒鉛成分が、熱膨張性黒鉛原料を加熱処理したことで改質された黒鉛粒子を含んでなる、下記式で求められるカサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるものであることを特徴とする樹脂組成物。
カサ体積倍率
=加熱後の熱膨張性黒鉛のカサ体積/加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積
【請求項2】
前記改質された黒鉛粒子の形態が、最大長が100?1000μmの範囲内で、且つ、最大の厚みが5?150μmの範囲内である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記カサ体積が増加した状態の熱膨張性黒鉛100質量部に、前記ポリイソシアナートが1?10質量部の範囲内で付与されている請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
黒鉛粒子からなる熱膨張性黒鉛成分と樹脂成分とを含む樹脂組成物からなる成形物である、熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品であって、
前記樹脂組成物が、請求項1?3のいずれか1項に記載の樹脂組成物であることを特徴とする熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品。
【請求項5】
前記樹脂成分が、熱可塑性樹脂及び熱硬化樹脂から選ばれるいずれかの樹脂である請求項4に記載の熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品。
【請求項6】
改質工程で熱膨張性黒鉛原料を改質し、該改質工程で得られた改質された黒鉛粒子を含んでなる熱膨張性黒鉛成分と、樹脂成分とを混合して、樹脂成分100質量部を基準にして、前記熱膨張性黒鉛成分を5?300質量部含む樹脂組成物を得るための樹脂組成物の作製方法であって、
前記改質工程が、熱膨張性黒鉛原料を100℃?250℃の温度で加熱処理して熱膨張性黒鉛原料の体積を増加させて、前記加熱処理前に比べて、前記加熱処理後の下記式で求められるカサ体積倍率が1.05?3.0倍になるようにする、熱膨張性黒鉛原料の体積の増加工程と、該体積の増加工程で、カサ体積を増加させた加熱処理済の熱膨張性黒鉛に、常温下でポリイソシアナートを添加し、その後に130℃以下の温度に加温するポリイソシアナートの付与工程と、を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
カサ体積倍率
=加熱後の熱膨張性黒鉛のカサ体積/加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積
【請求項7】
前記ポリイソシアナートの付与工程で、前記加熱処理済の熱膨張性黒鉛100質量部に、ポリイソシアナートを1?10質量部の範囲内で添加する請求項6に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記改質された黒鉛粒子の形態が、最大長が100?1000μmの範囲で、且つ、最大の厚みが5?150μmの範囲である請求項6又は7に記載の樹脂組成物の製造方法。」
(以下、請求項1?8に係る発明を、順に「本件発明1」等という。)

第3 特許異議申立ての申立理由
申立人は、本件発明1?8は下記1?4のとおりの理由があるから、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものであると主張し、証拠方法として、下記5の甲第1号証?甲第6号証(以下、順に「甲1」等という。)を提出した。

1.申立理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)「本件特許明細書において、膨張特性(ml/g)を向上するとして示されている実施例1?4の樹脂組成物は・・・特定のものにすぎない。」(申立書18頁22?24行)
(2)「本件特許明細書には・・・樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できる作用機序(作用機構)については何ら説明されていないことから、実施例1?4と同様に本件発明1?8が樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できるとはいえない。」(申立書19頁7?10行)

2.申立理由2(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)「甲第1号証に記載されているように、本件発明のメスシリンダーを用いたカサ体積の測定では、メスシリンダーの大きさ・形状、測定対象物である加熱前・加熱後の熱膨張性黒鉛の量・大きさ・形状、測定対象物のメスシリンダーへの投入速度等によって異なってくることは本件出願時点における技術常識であって、本件特許明細書には・・・カサ体積の測定方法が明確に記載ないし定義されているとはいえない。」(申立書22頁1?10行)
(2)「本件発明4及び5は、「本件発明1?3の樹脂組成物からなる熱膨張性のパテ状の耐火製品」を含んでいる。しかしながら、本件特許明細書には・・・「本件発明1?3の樹脂組成物」からどのようにして「パテ状の耐火製品」を製造するのか・・・どのようにしてその耐火性を評価するのかが明確ではない。」(申立書22頁13?24行)

3.申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)「本件特許明細書には・・・樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できる作用機序(作用機構)については何ら説明されていない。・・・カサ体積の測定方法、及び「パテ状の耐火製品」の製法・耐火性の評価方法が明確に記載されていない。したがって、当業者が、発明の課題が解決できるように本件発明を実施するには、過度の試行錯誤を要する。」(申立書23頁7?17行)
(2)「本件発明3及び7の樹脂組成物の熱膨張性黒鉛成分は、「熱膨張性黒鉛100質量部に、ポリイソシアナートが1?10質量部の範囲内で付与されている」ことを発明特定事項として備えているが・・・添加したポリイソシアナートが全て熱膨張性黒鉛と反応したり吸着される(すなわち、熱膨張性黒鉛に付与される)訳ではなく・・・本件特許明細書には、熱膨張性黒鉛へのポリイソシアナートの付与量を上記の範囲とする方法・手段が明確に記載されていない。したがって、当業者が、熱膨張性黒鉛へのポリイソシアナートの付与量を上記の範囲とするには、過度の試行錯誤を要する。」(申立書23頁18行?24頁7行)

4.申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)
請求項1?8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明、並びに甲3?甲6に記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5 証拠方法
甲1:最新粉体物性図説(第三版)、(有)エヌジーティー、2004年10月28日、第三版、第46?57頁
甲2:特開2018-109137号公報
甲3:特開平5-178605号公報
甲4:特開平6-64911号公報
甲5:特開2013-245320号公報
甲6:特開2009-57536号公報

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、申立書に記載した申立理由1?4のいずれによっても、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 申立理由1(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号の判断方法について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。

(2)本件発明の課題
本件発明の課題は、「膨張性黒鉛と樹脂成分とを含む樹脂組成物において、該樹脂組成物を用いて得られた火災の際における延焼防止効果を期待した各種の製品において、構成する熱膨張性黒鉛を改質することで、上記製品の膨張特性の向上を達成すること」(【0016】)であると解される。

(3)本件発明1について
本件発明1は、「熱膨張性黒鉛原料を加熱処理したことで改質された黒鉛粒子を含んでなる」「カサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるもの」である「熱膨張性黒鉛成分」を含むことを特定事項とするものである。
一方、発明の詳細な説明には、「熱膨張性黒鉛原料を100℃?250℃程度の比較的低温に加熱すると、黒鉛の層間が若干広がり、低倍率ながら個々の黒鉛粒子の体積の増加となる」(【0031】)、「添加されたポリイソシアネートは、「膨張黒鉛」粒子の広がった割れ目に付着した状態になる」(【0036】)及び「カサ体積倍率の増加にともなって開いた黒鉛粒子の層間にポリイソシアナートが含浸された状態又は黒鉛粒子の表面に濡れ密着された状態の「改質膨張性黒鉛」になる」(【0039】)と記載されており、カサ体積が増加した熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与したものは、ポリイソシアナートが膨張黒鉛の開いた層間に含浸したり濡れ密着したりした状態であることが示されている。
そして、発明の詳細な説明には、「「熱膨張性黒鉛原料を予め加熱処理することで、カサ体積倍率が、加熱前の原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加しており、且つ、加熱処理済のカサ体積が増加した状態の熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートが付与された状態のもの」とした・・・本発明で規定する改質された膨張性黒鉛を用いることで・・・より膨張特性の優れた製品が容易に提供できるようになる」(【0028】)、及び、「体積が若干増加した「膨張黒鉛」にポリイソシアナートが付与された状態の改質された膨張性黒鉛(改質膨張性黒鉛)を、本発明の樹脂組成物を構成する膨張性黒鉛として配合すると、該樹脂組成物を用いて得た成形体は、極めて高い膨張性能を示すものになることが確認され・・・本発明の樹脂組成物と比較して、樹脂組成物全体としての各成分の使用量を同じにして、未加熱の状態の熱膨張性黒鉛原料に、ポリイソシアナートを添加した構成の比較用の樹脂組成物の場合や、ポリイソシアナートを樹脂成分に添加して均一に分散させた後、この樹脂成分に、本発明で使用する加熱済の「膨張黒鉛」を添加して均一混合した構成の比較用の樹脂組成物の場合は、いずれの場合も、特に優れた膨張特性を示さなかった。これらのことから、本発明の樹脂組成物の新規な構成に対する有効性が確認された。」(【0036】)と記載され、カサ倍率が1.05?3.0倍の膨張黒鉛にポリイソシアナートを付与した改質膨張性黒鉛を使用した樹脂組成物は、上記改質膨張性黒鉛を使用しない樹脂組成物と比べて膨張特性に優れることが示されており、このことは、実施例1?4及び比較例1?10により具体的に確認することができる。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件発明1が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。

(4)申立人の主張について
ア 申立理由1(1)
申立人は、「本件特許明細書において、膨張特性(ml/g)を向上するとして示されている実施例1?4の樹脂組成物は・・・特定のものにすぎない」と主張する。
発明の詳細な説明には、申立人が述べるとおり、本件発明1の具体例である実施例1?4が記載されており、これらは複数の樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂)を用い、3種の熱膨張黒鉛原料にしたカサ体積倍率が異なる熱膨張性黒鉛成分を用い、樹脂100重量部に対する熱膨張性黒鉛成分の配合量を20、30及び100質量部と変えたものであって、非加熱の熱膨張性黒鉛を用いたり、ポリイソシアナートを単に樹脂組成物中に添加したりした比較例と比べて優れた膨張特性を示すことが記載されている。
そして、上記(3)で述べたように、発明の詳細な説明(特に【0028】、【0036】、【0039】)には、熱膨張性黒鉛原料を100℃?250℃程度の比較的低温に加熱することにより、黒鉛の層間が若干広がってカサ体積倍率が1.05?3.0倍に増加し、開いた黒鉛粒子の層間にポリイソシアナートが含浸された状態又は黒鉛粒子の表面に濡れ密着された状態にポリイソシアナートが付与された熱膨張性黒鉛を樹脂組成物に配合すると、これを用いた成形体は優れた膨張性能を示すものになることが記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には特定の実施例が記載されているにすぎないとはいえず、申立人の上記主張を採用することができない。

イ 申立理由1(2)
申立人は、「本件特許明細書には・・・樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できる作用機序(作用機構)については何ら説明されていないことから、実施例1?4と同様に本件発明1?8が樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できるとはいえない。」と主張する。
しかしながら、上記(3)で述べたように、本件明細書には、「熱膨張性黒鉛原料を100℃?250℃程度の比較的低温に加熱すると、黒鉛の層間が若干広がり、低倍率ながら個々の黒鉛粒子の体積の増加となる」(【0031】)、「添加されたポリイソシアネートは、「膨張黒鉛」粒子の広がった割れ目に付着した状態になる」(【0036】)及び「カサ体積倍率の増加にともなって開いた黒鉛粒子の層間にポリイソシアナートが含浸された状態又は黒鉛粒子の表面に濡れ密着された状態の「改質膨張性黒鉛」になる」(【0039】)と記載され、カサ体積倍率が増加した熱膨張性黒鉛に付与されたポリイソシアナートが作用した状態が示されているといえる。
更に、発明の詳細な説明には、「体積が若干増加した「膨張黒鉛」にポリイソシアナートが付与された状態の改質された膨張性黒鉛(改質膨張性黒鉛)を、本発明の樹脂組成物を構成する膨張性黒鉛として配合すると、該樹脂組成物を用いて得た成形体は、極めて高い膨張性能を示すものになる」(【0036】)と記載され、本件発明1の熱膨張性黒鉛成分を含む樹脂組成物とすることにより優れた膨張特性となることが示されているといえる。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1はその全般にわたって優れた膨張特性を示すことが記載されているということができ、申立人の上記主張を採用することはできない。

(5)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(3)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明2?5が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されており、本件発明2?5は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(6)本件発明6?8について
本件発明6は、要するに、本件発明1における樹脂組成物の製造方法であり、その課題は、【0016】の記載から、膨張性黒鉛と樹脂成分とを含む樹脂組成物の製造方法において、該樹脂組成物を用いて得られた火災の際に延焼防止効果を期待した各種の製品において、簡便な方法で熱膨張性黒鉛を改質し、上記製品の膨張特性の向上を達成することであると解される。そして、上記(3)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明6が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されていると解される。
また、本件発明7及び8は、本件発明6を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明6と同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明7及び8が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されている。

(7)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(明確性要件)について
本件発明1?8は、第2で述べたとおりのものである。

(1)本件発明1について
本件発明1は「カサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナナートが付与されてなるもの」であり、上記「カサ体積倍率」を算出する計算式が特定されている。また、発明の詳細な説明には、上記「カサ体積」は、個々の黒鉛粒子でなく、樹脂組成物を構成する熱膨張性黒鉛原料の体積であり(【0032】)、その一つの測定方法として、メスシリンダーに試料を入れて、軽く2回タップしてから体積を測定すること(【0032】及び【0051】)が記載されており、膨張黒鉛にポリイソシアナートを付与する具体的方法や付与された状態(【0039】)も記載されている。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載を参酌して、明確に記載されているといえる。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2?5に記載した事項も明確である。

(3)本件発明6?8について
本件発明6は、要するに、本件発明1における樹脂組成物の製造方法であり、特に、熱膨張性黒鉛原料の改質工程における上記原料の体積の増加工程及びポリイソシアナートの付与工程が明確に記載されている。そして、本件発明6を直接又は間接的に引用する本件発明7及び8に記載した事項も明確である。

(4)申立理由2(1)について
申立人は、「甲第1号証に記載されているように、本件発明のメスシリンダーを用いたカサ体積の測定では、メスシリンダーの大きさ・形状、測定対象物である加熱前・加熱後の熱膨張性黒鉛の量・大きさ・形状、測定対象物のメスシリンダーへの投入速度等によって異なってくることは本件出願時点における技術常識であって、本件特許明細書には・・・カサ体積の測定方法が明確に記載ないし定義されているとはいえない」と主張する。
甲1には、要するに、メスシリンダーを用いるかさ密度の測定に関して、壁面効果にも注意が必要であり、米粒を10cm^(3)及び100cm^(3)のメスシリンダーに米粒を入れ、一度メスシリンダーを横にした後ゆっくりと静かに立て、数粒を追加して標線まで入れたものと、これを木製テーブル上で2?3cmの高さから100回のタッピングを行ったものとでは、10cm^(3)のメスシリンダーに入れてタップしたものは壁面効果により100cm^(3)のメスシリンダーに静かに投入したものよりも少し密になる程度しか入らないこと、10cm^(3)のメスシリンダーに静かに投入したものは壁面でブリッジを起こすことによりかさ密度が小さくなること、かさ密度は、測定方法によってかなり変わるので、実際のプロセスに適用する場合は、それに適合する方法で測定することが重要であり、すべての状態を考慮したかさ密度の測定方法は存在しないので、一般には、標準化された方法を利用して測定すること、が記載されている(甲1の51?52頁「1.3.4 かさ密度(bulk density)の測定方法」)。
上記主張のうち、本件発明のメスシリンダーを用いたカサ体積は測定方法により変わるという点について、甲1に記載されるように、かさ密度は、測定方法によってかなり変わる、すなわち、かさ密度を算出するのに必要なカサ体積は測定方法によって変わるので、実際のプロセスに適用する場合は、それに適合する方法で測定するというのが本件出願時の技術常識であり、本件発明においては、熱膨張性黒鉛のカサ体積を、上記壁面効果の影響を極力受けない測定方法や測定器具を選択して測定するものと解され、本件発明では、加熱前後のカサ体積を同じ方法により測定すると解するのが自然である。そして、甲1には、熱膨張性黒鉛の加熱前後のカサ体積をメスシリンダーを用いた同じ方法により測定しても正確に測定できないことを示唆する記載は見当たらない。
また、甲1は、米粒のかさ密度を10cm^(3)及び100cm^(3)のメスシリンダーで測定した値の違いが壁面効果によるものであることを示唆するが、本件発明1は米粒より粒子径が相当小さい黒鉛粒子(例えば、実施例2及び3で用いた「SYZR802」は平均粒径が180μmである(甲2の【0066】))のかさ密度を測定したものであり、甲1の記載を本件発明1にそのまま適用できるとはいえないし、申立人はそのまま適用できる客観的な理由を何も述べていない。そして、申立人は、甲1に基づき、本件発明1(カサ体積倍率)が不明確となる可能性を指摘するのみであり、具体的に不明確となる証拠を何ら提示していない。
更に、測定方法により粉粒体のカサ体積が変わるとしても、本件発明1?8は、カサ体積を数値範囲で特定したものではなく、熱膨張性黒鉛の加熱前後のカサ体積倍率を特定したものであり、甲1には、メスシリンダーを用いて測定した加熱前後のカサ体積により、カサ体積倍率を正確に算出できないことを示唆する記載はない。
そうすると、本件発明1?8の「カサ体積」及び「カサ体積倍率」は、甲1に記載された事項を参酌しても、第三者に不測の不利益を及ぼす程度に明確でないとはいえない。

(5)申立理由2(2)について
申立人は、「本件発明4及び5は、「本件発明1?3の樹脂組成物からなる熱膨張性のパテ状の耐火製品」を含んでいる。しかしながら、本件特許明細書には・・・「本件発明1?3の樹脂組成物」からどのようにして「パテ状の耐火製品」を製造するのか・・・どのようにしてその耐火性を評価するのかが明確ではない」と主張する(申立理由2(2))。しかしながら、熱膨張性黒鉛を含有した樹脂組成物を用いたパテ状の製品は、本件出願時の技術常識であると解され(【0002】)、パテ状の耐火製品を製造する方法も技術常識であると解される。
また、発明の詳細な説明には、本件発明の樹脂組成物を用いたシート状の試料を用いて燃焼試験を行って膨張特性を評価した実施例1?4が記載されており、パテ状の耐火製品についても、上記実施例と同様に膨張特性を評価することができると解される。
そうすると、申立人の主張を採用することはできない。

(6)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由3(実施可能要件)について
第2のとおり、本件発明1?3は樹脂組成物に係る発明であり、本件発明4?5は上記組成物を用いた耐火製品に係る発明であり、本件発明6?8は上記組成物の製造方法に係る発明である。

(1)本件発明1?3について
発明の詳細な説明には、本件発明1?3における「改質された黒鉛粒子」を製造する方法(【0029】)、「熱膨張性黒鉛原料」としてどのようなものを用いるか(【0037】)、請求項1に記載された計算式によりカサ体積倍率を算出するための「カサ体積」の測定方法(【0032】及び【0051】)、「ポリイソシアナート」としてどのようなものを用いるか(【0042】)、熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与する方法(【0030】)がそれぞれ記載されており、本件発明1?3の具体例である実施例1?4も記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1?3の樹脂組成物を当業者が製造し使用できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(2)本件発明4及び5について
本件発明4及び5は、本件発明1?3のいずれかの樹脂組成物を用いたシート状又はパテ状の耐火製品に係る発明である。
発明の詳細な説明には、熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物からシート状の成形体を得て、建具の部品など装着する耐火シートが提供されていること、また、熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物をパテ状の製品に仕上げ、住宅等の外部と内部の隙間に挿入するものが提供されていることが記載されており、上記シート状又はパテ状の耐火製品は本件出願時の技術常識であると解される。 また、発明の詳細な説明には、実施例1?4におけるシート状試料を作製する方法(【0056】、【0071】及び【0075】)が具体的に記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明4及び5の樹脂組成物を当業者が製造し使用できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3)本件発明6?8について
上記(1)で述べたように、発明の詳細な説明には、「熱膨張性黒鉛原料」としてどのようなものを用いるか(【0037】)、「カサ体積」の測定方法(【0032】及び【0051】)、「ポリイソシアナート」としてどのようなものを用いるか(【0042】)がそれぞれ記載されており、本件発明6?8の具体例である実施例1?4も記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明6?8の樹脂組成物の製造方法を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、「本件特許明細書には・・・樹脂組成物の膨張特性(ml/g)を向上できる作用機序(作用機構)については何ら説明されていない。・・・カサ体積の測定方法、及び「パテ状の耐火製品」の製法・耐火性の評価方法が明確に記載されていない。したがって、当業者が、発明の課題が解決できるように本件発明を実施するには、過度の試行錯誤を要する。」(申立理由3(1))
しかしながら、上述のとおり、発明の詳細な説明にはカサ体積の測定方法が記載されており、上記2(1)で述べたように、本件発明の「カサ体積」及び「カサ体積倍率」が第三者に不測の不利益を及ぼす程度に不明確であるとはいえない。また、上記2(2)で述べたように、「パテ状の耐火製品」の製造方法は本件出願前の技術常識であり、パテ状の耐火製品の評価方法は、本件発明の樹脂組成物を用いたシート状の試料を用いて燃焼試験を行って膨張特性を評価した実施例1?4と同様に膨張特性を評価することができると解される。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

イ また、申立人は、「本件発明3及び7の樹脂組成物の熱膨張性黒鉛成分は、「熱膨張性黒鉛100質量部に、ポリイソシアナートが1?10質量部の範囲内で付与されている」ことを発明特定事項として備えているが・・・添加したポリイソシアナートが全て熱膨張性黒鉛と反応したり吸着される(すなわち、熱膨張性黒鉛に付与される)訳ではなく・・・本件特許明細書には、熱膨張性黒鉛へのポリイソシアナートの付与量を上記の範囲とする方法・手段が明確に記載されていない。したがって、当業者が、熱膨張性黒鉛へのポリイソシアナートの付与量を上記の範囲とするには、過度の試行錯誤を要する。」(申立理由3(2))
しかしながら、上記1(3)で述べたように、発明の詳細な説明には、カサ体積が増加した熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与したものは、ポリイソシアナートが膨張黒鉛の開いた層間に含浸したり濡れ密着したりした状態であって(【0036】及び【0039】)、ポリイソシアナートが熱膨張性黒鉛と反応したり吸着されたりしたものに限られないから、申立人の上記主張はその前提において誤りであると解される。
そして、上記(1)で述べたように、発明の詳細な説明には、「ポリイソシアナート」としてどのようなものを用いるか、熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与する方法がそれぞれ記載されており、本件発明の具体例である実施例1?4も記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明3及び7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。

4 申立理由4(進歩性)について
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
甲2には、請求項1に係る熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料、請求項8及び9に係るシート状又はペースト状の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料、請求項11に係る熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法が記載されており、上記シート状又はペースト状の樹脂材料は、【0001】によれば、熱膨張性シート又はパテ状の製品であるといえるから、以下の発明が記載されているといえる。

「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物であり、
800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料」(以下、「甲2発明1」という。)

「甲2発明1の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料からなり、その形状が、厚みが0.5mm?2.0mmのシート状である熱膨張性シート、又はパテ状の製品」(以下、「甲2発明2」という。)

「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、脱塩酸を抑制するための脱塩酸抑制化合物と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する際に、
前記脱塩酸触媒を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内になるように決定し、
更に、前記脱塩酸抑制化合物として、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物を用いることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法」(以下、「甲2発明3」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1を対比すると、甲2発明1の「塩化ビニル系樹脂」及び「熱膨張性黒鉛」は、本件発明1の「樹脂成分」及び「黒鉛粒子からなる熱膨張性黒鉛成分」に相当する。
そして、甲2発明1の「前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み」は、本件発明1の「前記樹脂成分100質量部を基準として、前記熱膨張性黒鉛成分を5?300質量部含み」と重複する。

そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「黒鉛粒子からなる熱膨張性黒鉛成分と樹脂成分とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂成分100質量部を基準にして、前記熱膨張性黒鉛成分を5?300質量部含む、樹脂組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件発明1は「前記熱膨張性黒鉛成分が、熱膨張性黒鉛原料を加熱処理したことで改質された黒鉛粒子を含んでなる、下記式で求められるカサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるものであ」り、「カサ体積倍率=加熱後の熱膨張性黒鉛のカサ体積/加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積」であるのに対して、甲2発明1は、その熱膨張性黒鉛が、上記「改質された黒鉛粒子」を含むものではない点

イ 相違点の検討
本件発明1の「熱膨張性黒鉛成分」は、「カサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるもの」であり、これにより、未加熱の熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与したものや、カサ体積倍率が1.05?3.0倍に増加した熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与しないものを用いる場合と比べて、樹脂組成物から得られる製品が優れた膨張特性を示すものである(【0036】、実施例1?4及び比較例1?10)。
一方、甲2には、熱膨張性黒鉛が「天然に産出される鱗片状黒鉛の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、或いは、酢酸、ギ酸等の有機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理したものであることが好ましい。上述のように処理した黒鉛は、例えば、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で、中和処理することが好ましい」(【0050】)と記載されており、甲2発明1の熱膨張性黒鉛は、天然に産出される鱗片状黒鉛の粉末を強酸化剤で処理した後、中和処理したものであることが示されている。
また、甲3及び甲4には、熱膨張性黒鉛は、黒鉛を酸処理し、その後水洗、必要に応じて中和処理し、120?180℃程度の温度で、105℃で2時間加熱したときの加熱減量が1%前後(甲3の【0007】及び【0008】)又は2重量%以下(甲4の【0011】及び【0012】)となるように乾燥して得られることが記載され、熱膨張性黒鉛が、黒鉛を酸処理後、120?180℃の温度で乾燥して得られることは、本願出願時の技術常識であると解される。
更に、甲5には、ポリイソシアナートとフッ素樹脂に含まれる水酸基との反応により、接着強度及びはんだ耐熱性を向上することが記載され(甲5の請求項1、【0018】及び【0019】)、甲6には、イソシアネート基を有するポリマー等の有機成分と、水酸基を有する無機粒子とを含み、イソシアネート基と水酸基の反応により、無機粒子が有機成分と化学結合する多層構造の耐火材料が記載されている(甲6の請求項1、【0017】及び【0019】)。
しかしながら、甲2?甲6には、「カサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるもの」を用いることにより、樹脂組成物から得られた製品が優れた膨張特性を示すことは記載も示唆もされておらず、相違点1に係る構成は、甲2?甲6の記載及び本件出願時の技術常識から動機付けられるものではない。
また、相違点1に係る本件発明1の「熱膨張性黒鉛原料」としては、市販品の熱膨張性黒鉛を用いることができ(本件明細書の【0037】及び【0050】)、甲3及び甲4に記載された酸処理後で乾燥前の黒鉛は市販品である熱膨張性黒鉛ではない。また、甲5及び甲6には、熱膨張性黒鉛にポリイソシアナートを付与することは記載されておらず、熱膨張性黒鉛を用いることすら記載されていない。
そうすると、甲2発明1において、甲2?甲6の記載に基づいて、「カサ体積倍率が、加熱前の熱膨張性黒鉛原料のカサ体積に比べて1.05?3.0倍に増加した状態の熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるもの」を含む樹脂組成物とすることは動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことでない。

ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「前記熱膨張性黒鉛成分が…熱膨張性黒鉛に、ポリイソシアナートが付与されてなるものである」ことにより、【0023】「上記製品の膨張特性の向上を達成することを実現することができる」ものであり、実施例から具体的に確認することができる。そして、このような本件発明の効果は、甲2?甲6の記載から予測し得るものではない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明、及び甲2?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)において本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲2に記載された発明、及び甲2?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4及び5について
本件発明4は、本件発明1?3に係る樹脂組成物からなる成形物である、熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品であるから、本件発明4と甲2発明2とは、少なくとも相違点1と同内容の点で相違し、本件発明1について上記(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明4は、甲2に記載された発明、甲2?甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明5は本件発明4を引用するものであり、本件発明4と同様に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明6?8について
本件発明6は、要するに、本件発明1の製造方法であり、本件発明6と甲2発明3とは、少なくとも「熱膨張性黒鉛原料を100℃?250℃の温度で加熱処理して熱膨張性黒鉛原料の体積を増加させて、前記加熱処理前に比べて、前記加熱処理後の下記式(当審注:式は省略)で求められるカサ体積倍率が1.05?3.0倍になるようにする、熱膨張性黒鉛原料の体積の増加工程と、該体積の増加工程で、カサ体積を増加させた加熱処理済の熱膨張性黒鉛に、常温下でポリイソシアナートを添加し、その後に130℃以下の温度に加温するポリイソシアナートの付与工程と、を有すること」の点で相違し、この相違点は相違点1と同内容であるから、本件発明1について上記(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明6は、甲2に記載された発明及び甲2?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明7及び8は、本件発明6を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明4について述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明、及び甲2?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)まとめ
したがって、本件発明1?8は、甲2に記載された発明、及び甲2?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由4によっては、本件発明1?8の特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-29 
出願番号 特願2019-194188(P2019-194188)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 澄也  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 佐藤 玲奈
近野 光知
登録日 2020-08-24 
登録番号 特許第6753591号(P6753591)
権利者 株式会社レグルス 都化工株式会社
発明の名称 樹脂組成物、熱膨張性のシート状又はパテ状の耐火製品及び樹脂組成物の製造方法  
代理人 近藤 利英子  
代理人 近藤 利英子  
代理人 岡田 薫  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 竹山 圭太  
代理人 菅野 重慶  

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