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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H02H
管理番号 1375914
判定請求番号 判定2020-600011  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 判定 
判定請求日 2020-03-02 
確定日 2021-06-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第6153000号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「サンダーカット」シリーズの「サンダーカットタップ」品番TAP7-3P-E内に配置された回路は、特許第6153000号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号説明書に示す「サンダーカット」シリーズの「サンダーカットタップ」品番TAP7-3P-E内に配置された回路は特許第6153000号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 手続の経緯
特許第6153000号(以下、「本件特許」という。)は、平成24年9月20日の出願であって、平成29年6月9日に特許権の設定登録がなされた。
そして、令和2年3月1日付けで本件特許の特許権者である金村貴康(以下、「請求人」という。)によって本件判定請求がなされ、同年5月26日付け審尋が請求人に通知され、同年11月4日に請求人から判定請求書に係る手続補正書(以下、「補正判定請求書」という。)、回答書が提出され、その後、令和3年2月2日に被請求人から判定請求答弁書が提出されたものである。
ここで、本件特許に係る発明は、請求項1ないし3に係る発明が存在するが、補正判定請求書の「5 請求の理由」の「(3)本件特許発明の説明」及び「(5)本件特許発明とイ号との対比」において請求項1に係る発明のみが記載されていることから、本件判定請求において判定を求めている発明は、請求項1に係る発明であると認める。

第3 本件特許の請求項1に係る発明及び本件特許明細書の記載
1 本件特許の請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、当判定において、構成要件ごとに分説し、記号A?Dを付し適宜改行した(以下、「構成要件A」?「構成要件D」という。)。

「A 酸化亜鉛板を複数積層してその表面積を電子基板の制限電圧に対応可能な面積とすると共に、最低電圧と応答開始電圧を調整可能にリード棒を一体に形成した電極板を、前記積層した酸化亜鉛板の両端に接続配置することで、二極型SPD素子とし、
B さらに、前記二極型SPD素子に放電極となるアース極を中間極として積層して接合された三極型SPD素子を構成し、
C 該三極型SPD素子に電子機器等の電源ケーブル回路、アンテナ線回路、電話線回路又はネットワークケーブル回路に接続された線路抵抗の異なるケーブルを前記三極型SPD素子と直列又は並列に接続してニアバイアース化し、線路抵抗が最小となる線路に過剰電流を放流させるための、等電位ボンディングアース極を前記電子基板内に設け、
D 落雷時に発生したサージ電流がアースケーブルから逆流して前記電子基板内へ回り込むことを防止するサージ電流防止回路を搭載したことを特徴とする三極型SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路。」

2 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、サージ電流逆流防止回路に関して、以下のように記載されている(下線は当判定で付与。以下同様。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷や静電気によって発生する外部サージ電流から、発電システム(風力・太陽光・振動・ノイズ・光フィバー発電)及び、蓄電池(バッテリー、EV・PHV・コンデンサー)や、LED・CP・監視カメラ、精密機器を含む全ての、電子機器等を保護するための避雷技術に関し、とくにパソコンや携帯電話等に使用されているごく小型の電子基板にも搭載することができる3極型SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路とカウンター回路システムを、複数のブレーカー、コンセントに搭載し、しかも、電子機器内部の交流回路や、直流回路、通信回路、センサー回路、無線回路に搭載し、基板内の等電位ボンディングアース回路にノイズ電流を放電し、しかも、建築物の水平アース極と垂直アース極の等電位アース極に放電し、更に、敷地内の水平地層と垂直地層を等電位アース接続したアース極に放電し、大地に埋設しているアース極から落雷電流がアースケーブルから逆流を防止した三極避雷器構造とアース接続回路への接続工法に関する技術である。」

(2)「【0034】
本発明は、電子機器にノイズ電流が流れたことを確認できることは無論のこと、機器が破壊された原因であるノイズ電流が雷によるものなのか、帯電等で生じる静電気のように人為的に引き起こされたものなのかという判断が可能になる。サージ電流の逆流を防止する。コンパクトでありながら高電圧用の放電素子として使用でき、電子基板内に搭載できるので、分電盤内のブレーカー、コンセント、OAタップコンセント、電子基板の回路に各々搭載し、ケーブルに流れるサージ電流を、三極素子の直列・並列接続素子を通じて全てニアバイアース接続することができ、高圧電力回路、低圧電力回路、照明回路、蓄電池回路、通信回路の直流回路をサージ電流の逆流、アースからの回り込みサージ電流から保護することを目的とする。」

(3)「【0048】
本発明では、LEDの電源等に使用される電子基板の狭小なスペース内に配置できなかった雷サージ対応の二極又は三極ギャップ式素子、又は、酸化亜鉛の二極素子を、一対の二極式酸化亜鉛素子のマイナス極とマイナス極を直列接合することで三極素子を構成し、基板の表面の省スペースボードに配置し、三極のうちの二極を電線ケーブルの正負極に各々接続し、残りの一極をアース極に接続してニアバイアース化することで、アース極からのサージ電流の逆流を防止する。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、補正判定請求書において、概ね以下のように主張している。なお、請求人は下記主張において品番を略して「サンダーカットタップ」といっている。

(1)請求人によるイ号の特定
請求人はイ号の特定について以下のとおり主張している(補正判定請求書第5頁第8行ないし第6頁第17行)。

a.酸化亜鉛版、又はガス入り放電管の素子のサンダーカットタップ内部の電子基板に配置された交流回路SPD素子、直流回路SPD素子に、2本の電極を接続したリード端子を2極型SPD素子とし、
b.さらに、前記二極型SPD素子に放電極となるアース極を中間極として積層して接合された三極型SPD素子を「サンダーカットタップ」内の電子基板に配置された、二極型SPD素子を2個接続された三極型SPD素子、直流SPD素子を構成し、
c.該二極型SPD素子、又は、三極型SPD素子を、電子機器の電源回路を含む、電子機器(クーラー室外機、パソコン、火災報知器、監視カメラ、電話主装置、通信ケーブル、ネットワーク無線LAN/HUB配線装置)等の、電源ケーブル回路、TV・無線アンテナ線回路、電話線回路又はネットワークケーブル回路の中の、通信システムに接続された線路抵抗の異なるケーブルの直流回路と電源回路のAC100Vを前記「サンダーカットタップ」コンセント回路と通信回路の基板に配置されている二極型SPD素子又は、三極型SPD素子と直列又は並列に接続してニアバイアース化し、線路抵抗が最小となる線路と接続された、建築構造に使用している金属に過剰電流を放流させるための、等電位ボンディングアース極を前記「サンダーカットタップ」内の電子基板内に設け、
d.落雷時に発生したサージ電流がアースケーブルに逆流して、前記、電子機器に直接接続された電力回路とコンセント回路と接続された電子機器内の電子基板内へ回り込むことを防止するサージ電流防止回路を搭載したことを特徴とする二極型SPD素子または、三極型SPD素子を備えた「サンダーカットタップ」シリーズのサージ電流逆流防止回路。

(2)請求人による本件特許発明の各構成要件とイ号の各構成の対比
請求人は、本件特許発明の各構成要件とイ号の各構成は以下のとおり一致すると主張している。
(4.(5)本件特許発明とイ号の対比;補正判定請求書第13頁第3行ないし第14頁第19行)
なお、本件特許発明の請求人による分説○1(判定注;原文は○の中に1。以下同じ)ないし○4は、当判定の「第3 1」の構成要件AないしDに対応しているので、以下、分説「○1?○4」を構成要件「A?D」に置き換えることとする。

ア 構成要件Aと構成aとの対比
イ号が掲載されているパンフレット(P1?P64)(判定注:「パンフレット」は、「イ号説明書」に添付された甲第14号証の「白山のSPD(Surge Protective Devices)<サージプロ>シリーズ 総合カタログ 株式会社白山」である。以下、「甲14総合カタログ」という。)に示したとおり、イ号の「サンダーカットタップ」(P61)内のSPD素子(P25)は、2極型SPD素子を電子基板に配置する素子概念であることから、構成要件Aと構成aは一致している。

イ 構成要件Bと構成bとの対比
2極型SPD素子、または、3極型SPD素子の交流回路、直流回路(P44品番DT-MD-110VのL1・L2線間避雷器は3極式ガス入り放電管・T1・T2線間避雷器は2極式酸化亜鉛避雷器を2個直列接続した3極素子)に接続した、「サンダーカットタップ」内のSPD素子を配置する電子基板内には、電子基板内に等電位ボンディングアース極とコンセント接続するプラグがアース付き3Pブラグの回路(P61)が接続されていることからも、構成要件Bと構成bは素子の応答開始電圧、成分が異なっていたとしても、放電素子と等電位ボンディングアース極から敷地内の等電位ボンディングアース極に流し、逆流防止回路を一致している。
したがって、構成要件Bと構成bは一致する。

ウ 構成要件Cと構成cとの対比
「サンダーカットタップ」(P61)SPD素子収納専用ボックス内の電子基板内に回避素子と回避回路と、基板内の等電位ボンディングアース極を接続する回路は、下位概念である。
したがって、構成要件Cと構成cは一致する。

エ 構成要件Dと構成dとの対比
落雷時に発生したサージ電流がアースケーブルから逆流して前記電子基板内へ回り込むことを防止するサージ電流防止回路を搭載したことを特徴とする二極型SPD素子、または、三極型SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路の「サンダーカットタップ」(P61)は、「少なくとも二極型SPD素子を2個直列接続した、三極SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路」の下位概念である。
両者とも建築物内外に配置された、LED照明、太陽光発電・風力発電、蓄電池、通信機器等の電子機器内の電子基板内に、少なくとも二極型・三極型SPD素子を基板に配置し、基板内に等電位ボンディングアース極と、建築内の等電位ボンディングアース極と接続する回避回路に、全ての電線からと、アースケーブルからの雷サージ電流を、電子基板内に単独アース極の無い電子基板には、3Pアース付きコンセントタップの電源回路を分電盤の鉄板と建築構造の金属と接続された分電盤内の等電位ボンディングアース極に、ブレーカーの二次側に接続された全ての電子機器の電源回路に雷サージ・静電気サージ、そして施行時、漏電ブレーカーが、OFF時に、ブレーカーの一次側に接続されたSPD素子が断線状態で、ブレーカー二次側に接続された電線と電子機器の電源回路に流れるサージ電流と、直撃雷時に敷地内に流れた雷電流が、地域内が冠水しているとしたら、アースケーブルからの雷サージ電流を回避する回避回路の「逆流防止回路」であり、建築構造の垂直金属と水平金属と、分電盤が金属で建築構造体の金属に並列接続したアース極と敷地内の地層の異なる地層の水平地層と、垂直地層に埋設している金属とアース極を直列・並列接続したアース極の等電位ボンディングアース極に落雷電気を流し、アース極が水没した場合を想定した中で、アースケーブルから電子機器内部に逆流を防止するために電子基板内に等電位ボンディングアース極で屋外の電柱の変圧器に接続された、地域の複数のB種アース極に回避させるシステムとカウンター回路で監視するシステムに差異はない。
したがって、構成要件Dと構成dは一致する。

(3)請求人による予備的な主張
請求人は、予備的な主張として、イ号において本件特許発明の構成要件A、Bの二極型SPD素子、三極型SPD素子と構造の異なる素子が接続されても、本件特許発明と均等である旨主張している(補正判定請求書第14頁第20行ないし第18頁第31行)。

2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)において、以下のように主張している。
「判定請求書(令和2年3月2日差出)及び手続補正書(令和2年11月4日差出)に記載されたイ号の各構成要件の特定の根拠が著しく不明瞭であるため、請求人の請求する判定を行うことができないと思料する。回答書(令和2年11月4日差出)において請求人が主張しているようにイ号が甲第14号証に記載された『サンダーカットタップ』の品番『TAP7-3P-E』であると仮定しても、甲第14号証には、『サンダーカットタップ』の品番『TAP7-3P-E』について、第6頁及び第61頁の記載があるのみであり、内部構成について全く記載されていない。このような甲第14号証の記載から、請求人が上記回答書で主張する、下記のイ号の構成要件a?dをどうして特定できるのか、全く理解できない。
・・・(中略)・・・
請求人は、イ号の各構成要件を、証拠からではなく判定すべき特許発明から特定しているように推察される。
よって、イ号が証拠によって十分に特定されていないから、正当な審理を行うことができないので、判定請求を棄却すべきであると思料する。」(答弁書第2頁第4行?第3頁最終行)

第5 当判定におけるイ号物件の特定
請求人は、甲14総合カタログのうち、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-E内に配置された回路をイ号として主張している。
一方、被請求人はイ号が証拠によって十分に特定されていない旨主張している。
確かに請求人によるイ号の構成の特定では、甲14総合カタログ中のサンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eの記載からでは不足する情報を、他の製品の情報(上記「第4 1(2)」における「SPD素子(P25)」、「P44品番DT-MD-110V」や、イ号説明書で述べる甲14総合カタログ第62頁のサンダーカットX、同第63頁のサンダーカットハイブリッド等)から所々抽出して補っている部分を含んでおり、これらの部分はサンダーカットタップ品番TAP7-3P-E内に配置された回路を示しているものとはいえない。
そこで、本判定では甲14総合カタログに記載された種々の製品のうち、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eに関する記載に基づいてイ号の構成(以下、「イ号物件」という。)を認定する。

1 甲14総合カタログの第61頁によれば、「高度な雷防護機能を備えたサンダーカットタップは、手軽に雷防護環境の構築が可能」と説明されており、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eは、雷防護機能を備えている。

2 同頁の「仕様」の一覧表によれば、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eは「電源側雷防護回路」、「通信側雷防護回路」、「ノイズフィルタ」を有しており、タップの内部に「電源側雷防護回路」、「通信側雷防護回路」及び「ノイズフィルタ」を含む電子回路が配置されていることは明白である。

3 上記「仕様」の一覧表によれば、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eは、「コード長2m」の「2極接地極付」プラグの電源コードと、「アース端子」とを備えており、上記タップ内部に配置された電子回路は、電源コードの電源線及び接地線と接続され、またアース端子と接続されるものと解される。

4 さらに、上記「仕様」の一覧表及び同頁にある外観写真によれば、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eは、「コンセント口数7」に対応するコンセント口と、通信回線「1回線」に対応する接続インターフェイスを備えていることが明らかであり、コンセント口に対応する回路、及び通信回線の接続インターフェイスに対応する回路を有するものと認められる。
また、コンセント口には、電気機器の電源ケーブルのコンセントプラグが差し込まれ、通信回線の接続インターフェイスに対応する回路には、通信ケーブルのコネクタが差し込まれることは自明である。

5 そして、上記タップ内部に配置された電子回路は、「3」で述べた電源コードの電源線及び接地線、アース端子、「4」で述べたコンセント口に対応する回路、及び通信回線の接続インターフェイスに対応する回路と配線により接続されることで、雷防護機能の回路を構成するものと認められる。

6 甲14総合カタログの第6頁には、「特徴【ビル(建物)の場合】」に「白山の<サージプロ>シリーズは、JIS規格対応のSPDを各種取り揃えております。豊富なラインナップの中から、各種設備機器や配線形態にあわせたタイプをお選びください。」との説明があり、その下の「SPD(雷対策品含む)設置イメージ」の図には、「<サージプロ>シリーズ」の「各階分電盤」及び「受電盤」とともに、フロア内にサンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eを設置することが記載されている。
また、同図によれば、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eは接地線で「各階分電盤」に接続されており、さらに「各階分電盤」は接地線で建物の共用の接地極に接続されるから、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eのタップ内部に配置された電子回路は、アース端子または2極接地極付プラグの接地極を経由して建物の共用の接地極と等電位を形成するものと認められる。

7 甲14総合カタログの第61頁によれば、「サンダーカットタップ」シリーズの「落雷防護機能」は、「電源、アース、通信回線から侵入する雷サージに有効」である。

8 上記を総合して、イ号物件を上記本件特許発明の構成要件A?Dに対応させて整理すると、イ号物件は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号a'?d'を付した。以下、分説した構成を「構成a'」などという。)。

「a' 雷防護機能を備えたサンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eのタップ内部に配置された電子回路であって、
a'1 電源側雷防護回路、通信側雷防護回路、ノイズフィルタを含んでおり、
b' 電源コードの電源線及び接地線と接続され、またアース端子と接続されており、
c'1 コンセント口に対応する回路、及び通信回線の接続インターフェイスに対応する回路と配線により接続されており、
c'2 前記コンセント口には、電気機器の電源ケーブルのコンセントプラグが差し込まれ、前記通信回線の接続インターフェイスに対応する回路には、通信ケーブルのコネクタが差し込まれ、
c'3 アース端子または2極接地極付プラグの接地極を経由して建物の共用の接地極と等電位を形成するものであり、
d' 前記落雷防護機能は、電源、アース、通信回線から侵入する雷サージに有効である、
a' サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eのタップ内部に配置された電子回路。」

第6 属否の判断
イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。

1 構成要件A及びBについて
本件特許発明は構成要件A及びBからなるSPD素子を用いているところ、イ号物件の構成a'1の「電源側雷防護回路」及び「通信側雷防護回路」は、雷防護のデバイスであるSPDを備えるものと認められるが、具体的な素子の構成等は不明である。またSPDとアース端子や2極接地極付プラグの接地極との接続構成も不明である。
よって、イ号物件が備えるSPDが構成要件A及びBに係る「酸化亜鉛板を複数積層してその表面積を電子基板の制限電圧に対応可能な面積とすると共に、最低電圧と応答開始電圧を調整可能にリード棒を一体に形成した電極板を、前記積層した酸化亜鉛板の両端に接続配置することで、二極型SPD素子とし、さらに、前記二極型SPD素子に放電極となるアース極を中間極として積層して接合された三極型SPD素子」であるかを判断するに当たり、請求人が提出した甲号証からは具体的な構成が不明であるから、イ号物件の構成a1'及びb'は本件特許発明の構成要件A及びBを充足しない。

2 構成要件Cについて
(1)イ号物件の構成c'1の「コンセント口に対応する回路」及び「通信回線の接続インターフェイスに対応する回路」に対して、構成c'2の「電気機器の電源ケーブルのコンセントプラグ」及び「通信ケーブルのコネクタ」がそれぞれ差し込まれた場合には、電源ケーブルと通信ケーブルとでは線路抵抗が異なることが明白である。

(2)また、差し込まれて接続された電源ケーブル及び通信ケーブルは、雷サージへの対応を必要とするから、「電源コードの電源線及び接地線」及び「アース端子」とともに「電源側雷防護回路」及び「通信側雷防護回路」のSPDに接続されることは明らかである。

(3)そして、これらの電源ケーブル及び通信ケーブルは、SPDに直列又は並列に接続してニアバイアース化されているといえる。

(4)そうすると、上記(1)ないし(3)より、イ号物件の構成c'1ないしc'2は、SPDに電子機器等の電源ケーブル回路、電話線回路又はネットワークケーブル回路に接続された線路抵抗の異なるケーブルをSPDと直列又は並列に接続してニアバイアース化しているということができる。

(5)さらに、上記電源ケーブルや通信ケーブルから雷サージ(サージ電流)が侵入した際には、「建物の共用の接地極と等電位を形成」する「接地線」または「アース端子」に対して、サージ電流に起因する過剰電流を放流する構成を有することは明らかであり、本件特許発明の「過剰電流を放流させるための、等電位ボンディングアース極を前記電子基板内に設け」ることに相当する。

(6)しかしながら、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eはタップ内部の回路の構成が不明であり、イ号物件が電源、アース、通信線からの雷サージに起因する過剰電流を常に線路抵抗が最小となる線路に放流させるものであること、及びイ号物件が備えるSPDが三極型SPD素子であるかを判断するに当たり、上記構成要件A、Bで説示したと同様に請求人が提出した甲号証からは具体的な構成が不明であるから、イ号物件の構成c'1ないしc'3は、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

3 構成要件Dについて
(1)イ号物件の構成d'の落雷防護機能は「アース」「から侵入する雷サージに有効である」から、アースから侵入したサージ電流が「コンセント口に対応する回路」や「通信回線の接続インターフェイスに対応する回路」に回り込むことを防止するものと認められる。
そうすると、イ号物件のタップ内部に配置された電子回路は、落雷時に発生したサージ電流がアースケーブルから逆流して前記電子基板内へ回り込むことを防止するサージ電流防止回路を搭載したことを特徴とするサージ電流逆流防止回路ということができる。

(2)しかしながら、サンダーカットタップ品番TAP7-3P-Eはタップ内部の回路の構成が不明であり、イ号物件が備えるSPDが三極型SPD素子であるかを判断するに当たり、請求人が提出した甲号証からは具体的な構成が不明であるから、イ号物件の構成d'は本件特許発明の構成要件Dを充足しない。

4 均等論の適用について
上記1ないし3で説示したとおり、イ号物件の構成a'ないしd'は、本件特許発明の構成要件AないしDを充足しない。
請求人は均等論の適用について言及しており(上記「第4 1(3)」)、イ号において本件特許発明の構成要件A、Bの二極型SPD素子、三極型SPD素子と構造の異なる素子が接続されても、本件特許発明と均等である旨主張している。
そこで、以下、検討する。

(1)均等の要件について
均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するための要件は、最高裁平成10年2月24日判決(平成6年(オ)第1083号)にて、以下のとおり判示されている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)上記部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、上記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」(以下上記判示事項の要件である「(1)?(5)」を、「第1要件」などという。)。

(2)第1要件について
上記判例における「特許発明の本質的部分」は、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するといえる。
この点について本件特許発明を検討すると、本件特許発明は、上記「第3 2(1)」に示したように「パソコンや携帯電話等に使用されているごく小型の電子基板にも搭載することができる3極型SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路」(【0001】【技術分野】)に関する技術であり、「コンパクトでありながら高電圧用の放電素子として使用でき、電子基板内に搭載できるので、・・・、コンセント、OAタップコンセント、電子基板の回路に各々搭載し、・・・サージ電流の逆流、アースからの回り込みサージ電流から保護する」(【0034】)ことを目的とし、「一対の二極式酸化亜鉛素子のマイナス極とマイナス極を直列接合することで三極素子を構成し、基板の表面の省スペースボードに配置し、・・・アース極からのサージ電流の逆流を防止する 」(【0048】【発明の効果】)ものである。
したがって、本件特許発明の構成要件A及びBにおける二極型SPD素子と三極型SPDの構造は、本件特許発明の「コンパクトでありながら高電圧用の放電素子として使用でき」るという課題を解決するための本件特許発明の解決手段を基礎付ける本質的部分である。
よって、本件特許発明は特許請求の範囲に記載された構成中にイ号物件と異なる部分(「三極型SPD素子」を備えること)があり、かつ、その異なる部分が本件特許発明の本質的部分であるから、上記第1要件を満たしていない。

(3)小活
以上のとおりであるから、イ号物件は、上記第2?5要件を検討するまでもなく、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、本件特許発明の技術範囲に属するとすることはできない。

5 まとめ
よって、イ号物件は本件特許発明の構成要件AないしDを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は本件特許の請求項1に係る発明の構成要件AないしDのいずれも充足しないから、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2021-05-31 
出願番号 特願2012-207005(P2012-207005)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H02H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑江 晃  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 五十嵐 努
山田 正文
登録日 2017-06-09 
登録番号 特許第6153000号(P6153000)
発明の名称 三極型SPD素子を備えたサージ電流逆流防止回路とカウンターシステム  
代理人 吉田 芳春  

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