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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1376683
異議申立番号 異議2020-700439  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-23 
確定日 2021-05-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6626151号発明「リチウム二次電池用正極活物質」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6626151号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6626151号の請求項1-9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6626151号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2015年(平成27年) 9月 3日(優先権主張平成26年 9月 3日、日本国)を国際出願日とする特願2016-505631号の一部を平成30年 4月 4日に新たな出願としたものであって、令和 1年12月 6日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月25日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 2年 6月23日付けで、特許異議申立人秋山重夫(以下、「申立人」という。)により、請求項1?9(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和 2年 9月 7日付けで取消理由が通知され、同年10月23日に特許権者との面接が行われ、特許権者により同年11月 9日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、特許権者により令和 3年 1月20日に上申書が提出され、申立人により同年 2月18日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6626151号の特許請求の範囲を、令和 2年11月 9日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「CM」、「CA」、「CA/CM」と記載されているのを、それぞれ、「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2?9も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、」と記載されているのを、「前記比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.6以下であり、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、」と訂正する。
請求項2を引用する請求項3?9も同様に訂正する。

2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「CM」、「CA」、「CA/CM」と記載されていたものを、それぞれ、「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」と訂正するものである。
本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0016】、【0032】等の記載を参照すれば明らかなように、訂正前に請求項1に記載された「CM」、「CA」、「CA/CM」が、それぞれ、「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

イ 本件明細書には
「構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))」(段落【0016】)、
「構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。また、構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))」(段落【0032】)、
等と記載されており(下線は当審が付与した。)、訂正事項1は、請求項1の「CM」、「CA」、「CA/CM」との記載を、それぞれ、本件明細書に記載された本来の記載である「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」とするものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2の冒頭に、「前記比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.6以下であり、」との事項を追加することにより、請求項2が引用する請求項1に記載された、「0より大きく0.8より小さく」と特定された「比率(C_(A)/C_(M))」の範囲を、さらに、狭い範囲である「0より大きく0.6以下」に限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 本件明細書には、
「かかる観点から、当該比率(C_(A)/C_(M))は、0より大きく0.8より小さいことが好ましく、中でも0より大きく0.6以下、その中でも0より大きく0.5以下、さらにその中でも0.4以下であるのが好ましい。」(段落【0032】)
等と記載されている(下線は当審が付与した。)。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?9が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?9は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?9〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(4)独立して特許を受けることができるかについて
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1?9)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

(5)小括
以上のとおりであるから、令和 2年11月 9日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、xは0.00?0.07、Mは、Mn、Co及びNiの3元素の組合せ、若しくは、Mn、Co、Ni及びAlの4元素の組合せ(これを「構成元素M」と称する))で表される層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する表面部を備えた粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さく、且つ、表面リチウム不純物量が0.40wt%未満であり、且つ、CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きい、ことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.6以下であり、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Niの濃度(at%)(「C_(Ni」)と称する。)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A」)と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(Ni))が0より大きく2.0より小さいことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく30at%より小さく、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく10at%より小さく、構成元素Niの濃度(at%)(「C_(Ni)」と称する。)が0at%より大きく25at%より小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記表面部の厚さが0.1nm?100nmであることを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
下記測定方法で測定される表面Li_(2)CO_(3)量が0.30wt%未満であることを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
表面Li_(2)CO_(3)量測定方法:試料10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、15min浸漬させた後、ろ過し、ろ液を塩酸で滴定する。その際、指示薬としてフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて、ろ液の変色とその時の滴定量をもとにして表面Li_(2)CO_(3)量を算出する。
【請求項6】
粉体抵抗測定機により測定される、2kNの圧力を加えたときの粉体抵抗が4500Ω以下であることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記表面部は、前記粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が前記粒子表面に存在する部分である、請求項1?6の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を正極活物質として備えたリチウム二次電池。
【請求項9】
請求項1?7の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を正極活物質として備えたハイブリット電気自動車用または電気自動車用のリチウム二次電池。」

第4 申立理由の概要
1 申立人は、異議申立書において、証拠方法として、本願の優先日前に、日本国内において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1号証を提出して、以下の申立理由1?3により、請求項1?9に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(サポート要件)
本件の特許請求の範囲の記載には不備があるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として一部採用)

(2)申立理由2(明確性)
本件の特許請求の範囲の記載には不備があるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

(3)申立理由3(進歩性)
本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

2 証拠方法
甲第1号証:特開2008-226495号公報
なお、申立人が提出した、上記甲第1号証を甲1ということがある。

第5 取消理由の概要
令和 2年 9月 7日付けで通知した取消理由は、上記申立理由1に基いて通知された、本件訂正前の請求項1?9に係る発明は、次の(1)に示す理由で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものであるというものと、職権によって通知された、本件訂正前の請求項1?9に係る発明は、次の(2)に示すように、特許を受けようとする発明が明確ではないから、同請求項に係る特許は 、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものであるというものである。

(1)サポート要件について
ア 本件明細書の段落【0006】、【0014】?【0015】によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として使用するにあたり、電解液との反応を抑えて電池の寿命特性を高めることができると共に、従来提案されている表面処理をした正極活物質に比べて、レート特性と出力特性を同等または若しくはそれ以上とすることができる、新たなリチウム二次電池用正極活物質を提供すること。」であると認められる。

イ 上記課題に対して、本件訂正前の本件発明1の正極活物質は、「X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「CM」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「CA」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(CA/CM)が0より大きく0.8より小さく」と特定されていた。

ウ そこで、本件発明1が上記課題を解決し得るものであるか検討するに、段落【0032】など本件明細書を参照しても、「比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さ」い正極活物質とすると、どのような作用機序によって、寿命特性と低温出力特性を向上させるかについての説明はされておらず、また、段落【0123】の表1を参照しても、比率(C_(A)/C_(M))の最小値(0.02、実施例8)と最大値(0.40、実施例7)の範囲において寿命特性、レート特性及び出力特性が、表面部を備えていない比較例1に比べて向上することが示されているだけである。

エ したがって、本件発明1のうち、比率(C_(A)/C_(M))が、上記実施例の最大値の0.4より大きく、0.8よりも小さい範囲において、寿命特性、レート特性及び出力特性の少なくともいずれかが向上することについて、本件明細書にその根拠は示されておらず、また、当該技術分野の技術常識であるともいえないから、実施例の範囲でしか課題が解決できることを確認できず、上記実施例において実証された範囲を越える範囲において、本件発明1が、上記課題を解決し得るものであるということができない。よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?9についても同様である。

(2)明確性について
本件訂正前の請求項1には「CM」、「CA」、「CA/CM」と記載されているが、発明の詳細な説明(例えば、段落【0016】、【0032】)には、「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」と記載されており、本来同じであるべき表記が整合しておらず、本件訂正前の請求項1に係る発明と発明の詳細な説明の記載の対応が不明瞭となっている結果として、本件訂正前の請求項1に係る発明は、明確であるとはいえない。
また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?9に係る発明についても同様である

第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)(サポート要件)請求項1に記載された「比率(C_(A)/C_(M))」の範囲について

ア 本件発明が解決しようとする課題は、上記第5(1)アに記載したように、「層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として使用するにあたり、電解液との反応を抑えて電池の寿命特性を高めることができると共に、従来提案されている表面処理をした正極活物質に比べて、レート特性と出力特性を同等または若しくはそれ以上とすることができる、新たなリチウム二次電池用正極活物質を提供すること。」であると認められる。

イ 上記課題に対して、本件明細書の段落【0032】には
「本リチウム金属複合酸化物粒子は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M」)と称する。また、構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A」)と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さいことが好ましい。なお、本リチウム金属複合酸化物粒子ではC_(M)>0である。
当該比率(C_(A)/C_(M))が0.8より小さくなる程度に表面元素Aが存在すれば、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させることができる。また、従来提案されている表面処理が為されたリチウム金属複合酸化物粉体と比べて、低温出力特性を同等または若しくはそれ以上にすることができる。
かかる観点から、当該比率(C_(A)/C_(M))は、0より大きく0.8より小さいことが好ましく、中でも0より大きく0.6以下、その中でも0より大きく0.5以下、さらにその中でも0.4以下であるのが好ましい。」
と記載されており(下線は当審が付した。)、寿命特性については、本件明細書の背景技術の欄の記載も参照すると、「層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面」に「表面部」が存在することによって、電解液との反応が抑えられて正極活物質表面への付着物の付着が抑制されるので、電池の寿命特性を高めることができると理解できるものの、比率(C_(A)/C_(M))が0.8より小さい範囲でなぜレート特性や出力特性が向上するのか、その作用機序についての説明はされていない。

ウ また、実施例と比較例についてそれらの各種電池特性が示された段落【0123】の表1を参照しても、比率(C_(A)/C_(M))の最小値(0.02、実施例8)と最大値(0.40、実施例7)の範囲において寿命特性、レート特性及び出力特性が、表面部を備えていない比較例1に比べて向上することが示されているだけであり、比率(C_(A)/C_(M))が、上記実施例の範囲外である、0.4より大きく0.8よりも小さい範囲において、レート特性や出力特性が実際に向上するかは不明である。

エ したがって、本件明細書に記載された事項からは、比率(C_(A)/C_(M))が、0.4より大きく0.8よりも小さい範囲において、レート特性や出力特性が向上しており、本件発明が上記課題を解決し得るものであるかは不明である。

オ しかしながら、特許権者によって令和 3年 1月20日に提出された上申書には、比率(C_(A)/C_(M))を0.8付近とした、本件発明のリチウム二次電池用正極活物質を製造し、その電池特性を測定した、追試の結果が示されている。
上記追試において製造されたのは、Li:Ni:Co:Mn=1.00:0.64:0.17:0.19となるように秤量した以外は、本件明細書に記載された実施例10と同様にして得られたリチウム二次電池用正極活物質であって、AEROXIDEのAluCを用いて熱処理することにより、表面部にAlが含有されたサンプル1と、AEROXIDEのAlu130を用いて熱処理することにより、表面部にAlが含有されたサンプル2と、表面部を形成しないサンプル3であり、これらサンプルを用いて作製した電池の電池特性の測定結果は、次に引用する表1のとおりである。




カ 上申書の上記表1によれば、比率(C_(A)/C_(M))が0.83であるサンプル1と0.73であるサンプル2は、表面部が形成されていないサンプル3と比較して、寿命特性、レート特性、出力特性のいずれについても改善されていることが確認できる。

キ したがって、上記追試の結果に基いて、本件発明は、比率(C_(A)/C_(M))が、0.4より大きく0.8よりも小さい範囲においても、寿命特性のみならず、レート特性や出力特性も向上するものであり、上記課題を解決し得るものであるということができるので、サポート要件に係る上記取消理由は解消した。

(2)(明確性)請求項1の「CM」、「CA」、「CA/CM」との記載について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「CM」、「CA」、「CA/CM」は、それぞれ、本件訂正によって「C_(M)」、「C_(A)」、「C_(A)/C_(M)」と訂正された。

イ そのため、請求項1の上記記載と本件明細書の記載との不整合は解消されたので、明確性に係る上記取消理由は解消された。

(3)以上のとおり、取消理由通知で通知された取消理由は全て解消した。

2 取消理由として採用しなかった申立理由について
2-1 申立理由1(サポート要件)について
(1)申立書5頁(1)の申立理由について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
請求項1の「一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、xは0.00?0.07、Mは、Mn、Co及びNiの3元素の組合せ、若しくは、Mn、Co、Ni及びAlの4元素の組合せ(これを「構成元素M」と称する))で表される層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物」について、本件明細書において、実施例として記載されているのは、3元素の組合せとしては「Li_(1.04)Ni_(0.48)Co_(0.20)Mn_(0.28)O_(2)」を含む2種のみ、4元素の組合せとしては「Li_(1.05)Ni_(0.46)Co_(0.21)Mn_(0.27)Al_(0.01)O_(2)」の1種のみであり、これら以外の組成比のものについては記載されていないので、上記3元素及び4元素の組成比について全く制限のない請求項1で特定したMの全範囲を支持するものとはいえない。

イ 当審の判断
本件明細書には
「【0128】
なお、上記の実施例は特定組成の層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物についての実施例であるが、これまで本発明者が行ってきた試験結果や技術常識からすれば、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物は共通する課題を有しており、また、表面処理及び熱処理による影響も同様であるから、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物であれば、その組成にかかわらず、共通して同様の効果を得ることができるものと考えることができる。 中でも、一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、Mは、Mn、Co、Ni、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「構成元素M」と称する。)で表される、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子を芯材とするものは、共通した課題及び性質を有していることから、同様の効果を得ることができるものと考えることができる。」
と記載されているとおり、本件発明1の「リチウム金属複合酸化物」は「層状結晶構造を有する」ものに限定されていて、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子を芯材とするものは、Mの組成が異なっていても共通した性質を有しているといえるから、実施例として記載された3元素の組合せである「Li_(1.04)Ni_(0.48)Co_(0.20)Mn_(0.28)O_(2)」を含む2種や、4元素の組合せである「Li_(1.05)Ni_(0.46)Co_(0.21)Mn_(0.27)Al_(0.01)O_(2)」の1種と同様に、その他の組成比のMを有するリチウム金属複合酸化物についても、これら実施例と同様に、寿命特性、レート特性及び出力特性が向上するものと考えられる。
また、本件発明1で特定された組成比のMのうち、上記課題を解決できないものがあることを示すような具体的な事実や論理的根拠が請求人によって示されているわけでもない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)申立書15頁[4-4]の申立理由について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
請求項4の「表面部の厚さが0.1nm?100nmである」について、本件明細書の表1において、実施例として記載されている表面部の厚さは、最小値が10nm(実施例3、9)であり、最大値が56nm(実施例2)である。したがって、0.1以上10nm未満の範囲と、56nm超100nm以下の範囲については、サポートされているとはいえない。

イ 当審の判断
本件明細書の段落【0029】には、「表面部の厚さは、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させると共に、出力特性とレート特性を維持乃至向上させる観点から、0.1nm?100nmであるのが好ましく、中でも5nm以上或いは80nm以下、さらにその中でも60nm以下であるのが好ましい。」と記載されており、厚さが薄すぎると電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させることができず、また、厚さが厚すぎると出力特性とレート特性が向上させることができないという、表面部の厚さについて特定の範囲のものが課題を解決し得るとする一応の作用機序が説明されていることから、実施例としてサポートされていない、最小値10nmよりも薄い範囲(0.1以上10nm未満の範囲)と、最大値56nmよりも厚い範囲(56nm超100nm以下の範囲)においても、上記作用機序の説明にしたがって、本件発明4は課題を解決し得ると理解することができる。
また、本件発明1で特定された厚さのうち、上記課題を解決できないものがあることを示すような具体的な事実や論理的根拠が請求人によって示されているわけでもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

2-2 申立理由2(明確性要件)について
(1)申立書8頁(3)の申立理由について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
本件発明1には、「表面部」が「Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せが存在する」ものであると特定されているので、「表面部」にはAl以外にTiやZrが存在する場合を含むものであるが、その一方で、本件明細書の段落【0107】には「上記実施例で得られた各実施例で得られたリチウム金属複合酸化物(サンプル)については、各粒子の表面にAl元素を多く含む層が存在していることを確認することができた。表面部の厚みは、粒子表面部でライン分析を行い、Al元素のピークの両端の長さを表面部の厚みとして計測した。」と記載されており、「表面部」は「Al」を多く含む層として説明されている。
したがって、本件発明1と明細書では「表面部」についての記載は矛盾しており、当該「表面部」を含む本件発明1は不明確である。

イ 当審の判断
段落【0107】の上記記載は、「表面部」に多い元素がAlである、実施例1?7、10についての説明であり、実施例8、9のように「表面部」に多い元素がTiやZrである場合には、ライン分析を行う元素はAlではなくTiやZrであると解するのが相当である。このように解釈すれば、請求項1の記載と、段落【0107】の記載には何ら矛盾はなく、したがって、本件発明1が不明確であるとの申立人の主張は採用できない。

(2)申立書9頁(4)の申立理由について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
段落【0028】には、「表面部」とは「粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分」であると説明されているが、本件発明1には「表面部」について「Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する」ものと特定されているだけであり、濃度についての特定がされていないため、「表面部」には、表面元素Aについて内部の濃度と表面の濃度が同じものも含まれているといえる。
したがって、本件発明1と明細書では「表面部」についての記載が矛盾しており、当該「表面部」を含む本件発明1は不明確である。

イ 当審の判断
特許法第70条第1項では、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載にもとづいて定めなければならない旨の規定があり、さらに同条第2項では、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基いて定められることを原則とした上で、特許請求の範囲に記載された用語について発明の詳細な説明にその意味するところや定義が記載されているときは、それらを考慮して特許発明の技術的範囲の認定を行うことを規定している。
そして、請求項1に記載の「表面部」がどのようなものであるかについては、ここ(2)と次の(3)について申立人が主張しているように、請求項の記載のみからでは不明であるので、その意味するところについては、発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して理解すべきものである。
そこで、段落【0048】の記載によれば、「本正極活物質」は「例えば、アルミニウム、チタン及びジルコニウムのうちの少なくとも一種を含有する表面処理剤を用いて、層状結晶構造を有する上記リチウム金属複合酸化物の粒子粉末(「本リチウム金属複合酸化物粒子粉末」と称する)の表面処理(「表面処理工程」と称する)を行った後、該表面処理後の本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を熱処理(「熱処理工程」と称する)する方法」によって形成されるものであり、また、上記「表面処理工程」と「熱処理工程」を行うことによって「本正極活物質」に形成された「表面部」については、段落【0028】の記載に基いて、「粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分」であると解するのが相当である。
このように、請求項1に記載された「表面部」は、「粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分」であると解することができるので、請求項1の記載と、段落【0028】の記載には何ら矛盾はなく、したがって、本件発明1が不明確であるとの申立人の主張は採用できない。

(3)申立書10頁(5)の申立理由について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
(ア)段落【0022】によれば、「本粒子」は「本リチウム金属複合酸化物粒子の表面に、表面元素Aを含む表面部を備えた粒子」であるところ、段落【0028】によれば、「表面部」は「粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分を備えていることを特徴とする」ものであるとされているが、ここでいう「粒子」が「本粒子」なのか「本リチウム金属複合酸化物粒子」なのか不明である。
(イ)「本リチウム金属複合酸化物粒子」の外側に「表面部」があるのか、内側に「表面部」があるのか不明である。
(ウ)段落【0032】に「本リチウム金属複合酸化物粒子は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。また、構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さいことが好ましい。」との記載があるところ、仮に、「表面部」が「本リチウム金属複合酸化物粒子」の内部にあればXPS分析で「表面元素A」は分析できるが、外部にあれば「表面元素A」は分析できないし、コアである「本リチウム金属複合酸化物粒子」を分析することもできない。

イ 当審の判断
(ア)事案に鑑みて、まず、上記ア(イ)の点について検討する。段落【0075】には、「表面処理工程」後の「熱処理工程」に関して、「このような熱処理により、・・・、表面処理剤中のアルミニウム又はチタン又はジルコニウムを、表面からより深層方向に拡散させることができ」と記載されていることから、「熱処理工程」を行うと、「表面元素A(アルミニウム又はチタン又はジルコニウム)」は、「本リチウム金属複合酸化物粒子」の表面から深層方向に拡散することによって、「表面部」が形成され、このように「表面部」が形成されたものが「本粒子」である。したがって、上記ア(イ)の点については、「表面部」とは「本リチウム金属複合酸化物粒子」の外側ではなく、内側にあるということができる。

(イ)次に、上記ア(ア)の点について検討する。上記(ア)で検討したとおり、「熱処理工程」によって「表面元素A」は「本リチウム金属複合酸化物粒子」の表面から深層方向に拡散することによって、「本リチウム金属複合酸化物粒子」の表面から深層方向にかけて、それ以外の領域よりも「表面元素A」の濃度が高い部分が形成されており、この濃度の高い部分が「表面部」であり、当該「表面部」が形成された「本リチウム金属複合酸化物粒子」が「本粒子」である。したがって、上記ア(ア)の点について、段落【0028】に記載された「粒子」とは、「表面部」を備えた粒子であるから、「本粒子」を意味するものと解するのが相当である。

(ウ)最後に、上記ア(ウ)の点について検討する。XPS分析では試料に軟X線を用いているため、試料の表面から数nmの範囲のみについて調べることができることは技術常識である(この点については、例えば、甲1の段落【0026】にも、XPSによって分析できる範囲は粒子表面から5nmの極表面であると記載されている。)。そして、上記(ア)で検討したとおり、「熱処理工程」によって「表面元素A」は「本リチウム金属複合酸化物粒子」の表面から深層方向に拡散することによって、「本リチウム金属複合酸化物粒子」の表面から深層方向にかけて「表面元素A」の濃度が高い部分である「表面部」が形成されているということは、「表面部」には、「熱処理工程」によって拡散した「表面元素A(アルミニウム又はチタン又はジルコニウム)」と、「本リチウム金属複合酸化物粒子」の形成時に含まれていた「構成元素M」の両元素が含まれているということができる。つまり、表面から数nmの範囲には、「表面元素A」と「構成元素M」の両元素が存在しているから、当該両元素についてXPS分析を行うことが可能であるということができる。

(エ)以上の検討から、上記アの(ア)?(ウ)のいずれの点についても、本件明細書の記載と技術常識を参酌すれば、不明であるとはいえないから、請求人の上記主張は採用することができない。

2-3 申立理由3(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項と甲1発明
ア 本願の優先日前に日本国内において頒布され、特許異議申立書に添付された甲第1号証には、「非水電解質二次電池用リチウム含有複合酸化物粒子及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付し、「…」は記載の省略を表す。)。
1ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li_(p)Ni_(x)Co_(y)Mn_(z)Me_(w)O_(2)(但し、Meは、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素、Al、Sn並びにアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。0.8≦p≦1.3、0≦x≦0.85、0.1≦y≦1.0、0≦z≦0.6、0≦w≦0.2)で表されるリチウム含有複合酸化物の粒子であって、該粒子の表面層にランタン原子及びA原子(但し、Aは、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素、Al、Sn並びにアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す)が含有されることを特徴とする非水電解質二次電池用リチウム含有複合酸化物粒子。」

1イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の正極活物質であるリチウム含有複合酸化物粒子、及びその製造方法に関する。」

1ウ 「【発明が解決しようとする課題】【0008】

【0009】
…特許文献3又は4に記載の遊離アルカリ量が多いリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いる場合、電池使用時に電解液の分解反応が顕著に進行して、多量の気体が発生することにより、電池が大きく膨れあがる傾向がある。さらに正極スラリー調製時にスラリーがゲル化して、アルミニウム箔上に塗工できない場合がある。【0010】
…遊離アルカリ量が多い正極活物質を使用した場合、リチウムが引き抜かれた不安定な充電状態で長期間保存したとき、上記したメカニズムと同様のメカニズムにて、電池内部で気体が発生して電池が膨れたり、破裂したりする。なお、本発明において、充放電に伴い発生する気体の量又は充電状態での長期間の保存に伴い発生する気体の量を、単にガス発生量ということがある。

【0012】
…なお、本発明において、遊離アルカリ量とは、正極活物質を水中に分散させた際に、水中に溶出する、活物質10gあたりのアルカリ量(mmol)をいう。

【0014】
…そこで、本発明の目的は、ガス発生量及び遊離アルカリ量が少なく、広い作動電圧及び高い放電容量を有して、かつ充放電サイクル特性、保存特性、安全性及び塗工性に優れた非水電解質二次電池用リチウム含有複合酸化物粒子、その製造方法、及び該リチウム含有複合酸化物粒子を正極活物質として含むリチウム二次電池等の非水電解質二次電池を提供することにある。


1エ 「【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を続けたところ、特定の組成を有するリチウム含有複合酸化物粒子の表面層に、ランタン原子及びA原子(Aは、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素、Al、Sn並びにアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す)を存在させることにより、リチウム含有複合酸化物粒子の遊離アルカリ量を著しく減少させるとともに、充放電サイクル特性を著しく向上させることができ、その結果、上記の課題を好適に解決できることを見出した。」

1オ 「【0026】
本発明のリチウム含有複合酸化物粒子の表面層とは、粒子表面からX線光電子分光分析(本発明中では、XPS又はESCAということがある)にて元素分析ができる範囲をいう。より具体的には、粒子表面から5nmの極表面に相当する。本発明において、表面層のランタン原子及びA原子の存在の確認には、XPS分析を用いた。」

1カ 「【0029】
また、本発明のリチウム含有複合酸化物粉末の粒子の表面層に含有されるランタン原子の存在割合が、粒子全体に含有されるランタン原子の存在割合に対して、5倍以上であると好ましく、さらには10倍以上がより好ましく、20倍以上が特に好ましい。なお、上限は、特に限定されないが、20000倍以下が好ましい。上記の粒子表面の表面層に含有されるランタン原子の存在割合は、次のようにして求めることができる。まずXPS分析を用いて、粒子表面の表面層における、La、Ni、Co、Mn、Me及びAに対するランタン原子の存在割合を原子%で求める。なお本発明において、この原子%の値をR_(La)と表すことがある。次いで、求めたR_(La)をQ_(La)で割ることにより、表面層に含有されるランタン原子の存在割合S_(La)(=R_(La)/Q_(La))を求めることができる。
【0030】
さらに、粒子表面の表面層に含有されるA原子及びMe原子の存在割合は、粒子全体に含有されるA及びMeの存在割合に対して、2倍以上が好ましく、さらには5倍以上がより好ましく、10倍以上が特に好ましい。なお上限は、特に限定されないが、20000倍以下が好ましい。表面層に含有されるA原子及びMe原子の存在割合は、次のようにして求めることができる。まずXPS分析を用いて、粒子表面の表面層における、La、Ni、Co、Mn、Me及びAに対するA原子及びMe原子の存在割合を原子%で求める。本発明において、この原子%の値をR_(A+Me)と表すことがある。次いで、求めたR_(A+Me)をQ_(A+Me)で割ることにより、表面層に含有されるA原子及びMe原子の存在割合S_(A+Me)(=R_(A+Me)/Q_(A+Me))を求めることができる。」

1キ 「【0049】
[例1](実施例)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを溶解させた硫酸塩水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、並びに水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内のスラリーのpHが11.0、温度が50℃になるように攪拌しつつ、それぞれ連続的に反応槽に供給した。オーバーフロー方式で反応系内の液量を調節し、オーバーフローした共沈スラリーをろ過、水洗し、次いで、80℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合オキシ水酸化物粉末を得た。
【0050】
得られた複合オキシ水酸化物粉末に炭酸リチウム粉末を所定量混合し、酸素含有雰囲気中1000℃で16時間焼成した後、粉砕することにより、Li_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の組成を有するリチウム含有複合酸化物の母材粉末を得た。このリチウム含有複合酸化物を母材とした。得られたリチウム含有複合酸化物に関して、CuKα線を使用して、粉末X線回折スペクトルを測定したところ、菱面体系(R-3m)の類似構造であることがわかった。なお測定には理学電機社製RINT 2100型を用いた。また走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、粉末の粒子表面を観察したところ、一次粒子が多数凝集して二次粒子を形成したものであり、かつその形状がおおむね球状もしくは楕円状であることがわかった。
【0051】
次いで、ランタン含量が40.5重量%の酢酸ランタン0.36gと、アルミニウム含量が4.5重量%の塩基性乳酸アルミニウム水溶液0.62gに、水29.0gを加えて、ランタンとアルミニウムを含有する水溶液を調製した。この水溶液を上記母材粉末に作用させる含浸液とした。具体的には、上記含浸液に上記母材粉末を浸漬した後、ゆっくり混合し、さらに乾燥して、ランタンとアルミニウムを含む含浸粒子を得た。次いで、酸素含有雰囲気下、400℃にて12時間、含浸粒子を加熱処理して、ランタンとアルミニウムを含有する表面層を有する、平均粒径が10μmの表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子を得た。

【0053】
さらにXPS分析により、得られた表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子の表面層を分析したところ、表面層に存在するランタンのR_(La)は15原子%であり、表面層に存在するアルミニウムのR_(A+Me)は36原子%であった。また遊離アルカリ量は0.08mmolであった。」

イ 上記1キによれば、実施例1において、リチウム含有複合酸化物粒子の母材粉末の組成はLi_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)であり、当該母材粉末を、ランタンとアルミニウムを含有する含浸液に浸漬した後、加熱処理することにより、ランタンとアルミニウムを含有する表面層を有する、表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子を得ている。

ウ 上記イで得られた表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子は、上記1イの請求項1に記載されたリチウム含有複合酸化物粒子の一般式において、Mが、Mn、Co及びNiの3元素の組合せの場合であり、MeがAlであり、その表面層にランタン原子と、A原子としてのAlが含有される場合に該当する。

エ 上記1キの【0053】によると、実施例1の表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子において、表面層に存在するランタン原子の存在割合であるR_(La)は15原子%である。また、上記ウのとおり、実施例1においてMeはAlであり、表面層に存在するA原子もAlであるから、R_(A+Me)は表面層におけるアルミニウム原子の存在割合を意味しており、R_(A+Me)は36原子%である。

オ 以上の検討から、甲1には、実施例の例1に注目すると、次のリチウム含有複合酸化物粒子が記載されているものと認められる。

「Li_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の組成を有するリチウム含有複合酸化物粒子の母材粉末の表面層に、ランタン及びアルミニウムが含有された、非水電解質二次電池用の表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子であって、
XPS分析により得られる、表面層に存在するランタン原子の存在割合であるR_(La)は15原子%であり、表面層に存在するアルミニウム原子の存在割合であるR_(A+Me)は36原子%である、
非水電解質二次電池用の表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「Li_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の組成を有するリチウム含有複合酸化物粒子の母材粉末」は、本件発明1の「一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、xは0.00?0.07、Mは、Mn、Co及びNiの3元素の組合せ」「(これを「構成元素M」と称する))で表される」「リチウム金属複合酸化物からなる粒子」に相当する。

イ 甲1発明の「表面層」は、本件発明1の「表面部」に相当する。

ウ 甲1発明の「非水電解質二次電池用の表面修飾リチウム含有複合酸化物粒子」は、上記1イに記載されているように、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の正極活物質として使用されるものであるから、本件発明1の「リチウム二次電池用正極活物質」に相当する。

エ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、xは0.00?0.07、Mは、Mn、Co及びNiの3元素の組合せ(これを「構成元素M」と称する))で表されるリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面に、表面部を備えた粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質。」の点。

<相違点1>
「リチウム金属複合酸化物からなる粒子」が、本件発明1では、「層状結晶構造を有する」のに対して、甲1発明では層状結晶構造を有していることが特定されていない点。

<相違点2>
「表面部」には、本件発明1では、「Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在」しているのに対して、甲1発明では、「ランタン及びアルミニウムが含有される」点。

<相違点3>
「表面部」に含まれる元素の濃度について、本件発明1では、「X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さ」いのに対して、甲1発明では、「XPS分析により得られる、表面層に存在するランタン原子の存在割合であるR_(La)は15原子%であり、表面層に存在するアルミニウム原子の存在割合であるR_(A+Me)は36原子%である」点。

<相違点4>
「表面リチウム不純物量」が、本件発明1では「0.40wt%未満」であるのに対して、甲1発明では特定されていない点。

<相違点5>
「CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターン」が、本件発明1では「(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きい」ものであるのに対して、甲1発明では特定されていない点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点2と相違点5について検討する。
ア 相違点2について
(ア)本件発明1において、「表面部」とは「粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する」ものと特定されており、表面元素Aとして、Al、Ti、Zrに限られており、これら以外の元素の混入は排除されている。

(イ)一方、甲1発明において、「Li_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の組成を有するリチウム含有複合酸化物粒子の母材粉末の表面層」には「ランタン及びアルミニウムが含有」されているところ、甲1の上記1エには、表面層に、ランタン原子及びA原子を存在させることにより、リチウム含有複合酸化物粒子の遊離アルカリ量を著しく減少させるとともに、充放電サイクル特性を著しく向上させることができ、その結果、甲1の課題を好適に解決できることを見出したと記載されていることから、甲1発明において表面層に含有される元素としてランタンは必須の元素であり、表面層から除くことができないものである。

(ウ)したがって、甲1発明において、表面層に含有されるランタンは、甲1の課題を解決するための必須の成分であるといえるから、甲1発明において、表面層からランタンを除くことによって、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

イ 相違点5について
(ア)最初に、相違点5が実質的な相違点であるかについて検討する。本件発明1の特定事項である「CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)」(以下、単に「ピーク比率」という。)には、XRDの原理を踏まえると、正極活物質の結晶状態が反映されていることは明らかであるから、甲1発明における結晶状態が、本件発明の結晶状態と同じになっているということができれば、甲1発明においてもピーク比率が「1.15より大きい」ということができる。

(イ)また、本件明細書の段落【0037】に「本正極活物質に関して、当該比率(003)/(104)を1.15より大きくするには、焼成条件を調整したり、表面処理における溶媒または水の量を調整したりすればよい。」と記載されており、ピーク比率を1.15より大きくするために、正極活物質の焼成条件を調整し、表面処理における溶媒または水の量を調整する方法が挙げられている。このことは、正極活物質の焼成条件と表面処理条件を調整することにより、ピークの比率が1.15より大きくなるような結晶状態の正極活物質が生成されることを意味するものと解される。

(ウ)したがって、甲1発明と本件発明とは、正極活物質の焼成条件と表面処理条件が同じであれば、同じ結晶状態となり、したがって、ピーク比率も同じになると推定されることから、甲1発明と本件発明において、正極活物質の焼成条件が同じであるといえるかについて検討する。
甲1の上記1キの段落【0050】には、「複合オキシ水酸化物粉末に炭酸リチウム粉末を所定量混合し、酸素含有雰囲気中1000℃で16時間焼成した後、粉砕することにより、Li_(1.02)Ni_(0.32)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2)の組成を有するリチウム含有複合酸化物の母材粉末を得た。」と記載されていることから、甲1発明においては、母材粉末を得るために、酸素含有雰囲気中1000℃で16時間という焼成条件で焼成しているものと認められる。
一方、本件明細書には、例えば、実施例1では「大気雰囲気下720℃で5時間仮焼成した後、大気中905℃で22時間本焼成した。」と記載されており、また、他の実施例のいずれにおいても、焼成は、仮焼成と本焼成の2段階で行われている。
したがって、甲1発明と本件発明では、焼成条件が異なるので、表面処理条件について検討するまでもなく、同一の結晶状態にあるということはできない。

(エ)なお、本件明細書において、正極活物質の焼成条件について、「本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を得るための焼成工程では、必要に応じて500?870℃で仮焼成した後、700?1000℃で本焼成するのが好ましい。当該仮焼成をせずに、700?1000℃で本焼成することも可能である。」(段落【0056】)と記載されており、仮焼成と本焼成の2段階の焼成を行う他に、「仮焼成をせずに700?1000℃で本焼成のみ行う」こともできると記載されている。
したがって、甲1発明と本件発明1では、仮焼成なしの本焼成において1000℃で焼成する点では共通しているけれども、本件発明1の正極活物質を製造するために温度1000℃の本焼成に必要な焼成時間については記載されておらず、不明であるから、「酸素含有雰囲気中1000℃で16時間の焼成」との焼成条件によって得られた甲1発明は、本件発明1と同一の結晶状態にあるということはできない。

(オ)以上の検討から、甲1発明と本件発明1では、正極活物質の焼成条件が同一とはいえないため、表面処理条件について検討するまでもなく、それらの結晶状態が同一であるということはできず、そのため甲1発明のピーク比率が「1.15より大き」くなっているということもできないから、相違点5は、実質的な相違点であるということができる。

(カ)次に、甲1発明において、相違点5に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。
上記(エ)で検討したように、甲1発明と本件発明1では、正極活物質の焼成条件が、温度1000℃の本焼成のみ行う点で共通しているとしても、甲1の焼成時間等の他の焼成条件を調整してピーク比率を「1.15より大き」いものとする動機はない。

(キ)したがって、甲1発明において相違点5に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

ウ 小括
(ア)以上のとおり、甲1発明において、相違点2と相違点5に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(イ)そして、上記相違点2に関して、本件発明1は、表面部を備えることによって、本件明細書の段落【0030】に記載されているように、従来提案されている表面処理が施された正極活物質に比べて、レート特性と出力特性を同等若しくはそれ以上にすることができるものであり、また、上記相違点5に関して、本件発明1は、ピーク比率を「1.15より大き」くすることによって、本件明細書の段落【0037】に記載されているように、岩塩構造が占める割合が小さくなり、レート特性や出力特性を良好にすることができる、という甲1には記載されていない格別な効果を奏するものである。

(ウ)したがって、相違点1、3、4について検討するまでもなく、甲1発明と甲1の記載に基いて、本件発明1とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?9についても、同様の理由によって、甲1発明と甲1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 意見書の主張について
申立人により提出された令和 3年 2月18日付けの意見書の下記の主張[1]?[3]のいずれについても、次の理由により採用することはできない。
(1)主張[1]について
(申立人の主張[1])
特許権者の提出した意見書における主張は、作用機序の説明にあたらない見当外れのものであり、比率(C_(A)/C_(M))の作用機序の説明はされていないため、サポート要件違反の取消理由(1)は解消していない。
(当審の判断)
上記第6の1(1)において検討したとおり、特許権者が提出した上申書に記載された追試の結果によって、比率(C_(A)/C_(M))が、0.4より大きく0.8よりも小さい範囲においても、本件発明が課題を解決し得ることが示されたので、本件発明がサポート要件に違反しているとはいえない。

(2)主張[2]について
(申立人の主張[2])
本件発明1において、Mが4元素の組合せである場合には、請求項1の文言上、Alを含む内部も表面部に該当すると解することができるので、「表面部」は不明確である。
(当審の判断)
上記第6の2の2-2(2)において検討したとおり、請求項1に記載された「表面部」は、発明の詳細な説明の段落【0028】の記載を考慮することにより、「粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分」であると解することができるから、不明確な記載であるとはいえない。

(3)主張[3]について
(申立人の主張[3])
本件発明は、新たに引用する甲第2号証(特開2012-230898号公報。甲2という。)に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(当審の判断)
異議申立書に記載されていない新たな甲2に基いて進歩性がないとする上記主張[3]に係る申立理由は、申立理由の要旨を変更するものであり、採用することができない。
なお、参考のために甲2について言及すると、甲2には、「(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)」(「ピーク比率」という。)について記載されていないし、甲2の段落【0091】?【0092】に記載された焼成条件も本件明細書に記載の焼成条件と同一であるとはいえないから、甲2に記載された複合酸化物粒子粉末において、ピーク比率が1.15より大きいものであるということはできない。また、甲2に記載された複合酸化物粒子粉末において、ピーク比率を1.15より大きくする動機もない。したがって、甲2に記載された発明に基いて、本件発明1とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、特許異議申立書に記載した申立理由、及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、xは0.00?0.07、Mは、Mn、Co及びNiの3元素の組合せ、若しくは、Mn、Co、Ni及びAlの4元素の組合せ(これを「構成元素M」と称する))で表される層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する表面部を備えた粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M)」と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A)」と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.8より小さく、且つ、表面リチウム不純物量が0.40wt%未満であり、且つ、CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きい、ことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記比率(C_(A)/C_(M))が0より大きく0.6以下であり、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Niの濃度(at%)(「C_(Ni」)と称する。)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A」)と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C_(A)/C_(Ni))が0より大きく2.0より小さいことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C_(M」)と称する。構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく30at%より小さく、表面元素Aの濃度(at%)(「C_(A」)と称する。表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく10at%より小さく、構成元素Niの濃度(at%)(「C_(Ni」)と称する。)が0at%より大きく25at%より小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記表面部の厚さが0.1nm?100nmであることを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
下記測定方法で測定される表面Li_(2)CO_(3)量が0.30wt%未満であることを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
表面Li_(2)CO_(3)量測定方法:試料10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、15min浸漬させた後、ろ過し、ろ液を塩酸で滴定する。その際、指示薬としてフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて、ろ液の変色とその時の滴定量をもとにして表面Li_(2)CO_(3)量を算出する。
【請求項6】
粉体抵抗測定機により測定される、2kNの圧力を加えたときの粉体抵抗が4500Ω以下であることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記表面部は、前記粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が前記粒子表面に存在する部分である、請求項1?6の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を正極活物質として備えたリチウム二次電池。
【請求項9】
請求項1?7の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を正極活物質として備えたハイブリット電気自動車用または電気自動車用のリチウム二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-17 
出願番号 特願2018-72064(P2018-72064)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 一平  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 磯部 香
池渕 立
登録日 2019-12-06 
登録番号 特許第6626151号(P6626151)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 リチウム二次電池用正極活物質  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  

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