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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1376706 |
異議申立番号 | 異議2019-701064 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-26 |
確定日 | 2021-06-18 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6539336号発明「半導体加工用シートおよび半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6539336号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6539336号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6539336号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は,2015年(平成27年)10月20日(優先権主張 平成27年3月23日:日本)を国際出願日とする出願であって,令和元年6月14日にその特許権の設定登録がされ,令和元年7月3日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は,以下のとおりである。 令和元年12月26日:特許異議申立人南雲嘉明により請求項1?8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和元年12月27日:特許異議申立人中谷浩美により請求項1?8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和2年4月17日付け:取消理由通知書 令和2年6月15日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和2年8月3日:特許異議申立人中谷浩美による意見書の提出 令和2年11月9日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和3年1月8日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和3年3月4日:特許異議申立人中谷浩美による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 令和3年1月8日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を,上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであって,その内容は以下のとおりである。 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「100%強度が,3?14N/15mmであり」 とあるのを,訂正後の 「100%強度が,3.6?11.3N/15mmであり」 と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「復元率が,75?100%である」 とあるのを,訂正後の 「復元率が,81?100%である」 と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正する。) (3)一群の請求項について 訂正前の請求項1?8について,訂正事項1,2を含む請求項1の記載を,その他の請求項2?8がそれぞれ引用しているものであるから,請求項2?8は,訂正事項1,2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって,訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項〔1?8〕は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について (1.1)訂正の目的の適否 訂正事項1は,「100%強度」の範囲を「3?14N/15mm」から「3.6?11.3N/15mm」に狭めるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (1.2)新規事項の有無 訂正事項1は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の段落0133の表1の記載に基づくものである。よって,訂正事項1は明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。 (1.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は,本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項2?8に係る発明の技術的範囲を狭めるものであり,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について (2.1)訂正の目的の適否 訂正事項2は,「復元率」の範囲を「75?100%」から「81?100%」に狭めるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2.2)新規事項の有無 訂正事項2は,明細書等の段落0133の表1に記載された事項に基づくものである。よって,訂正事項2は明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。 (2.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は,本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項2?8に係る発明の技術的範囲を狭めるものであり,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (3)小括 以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法120条9項において準用する126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 100%強度が,3.6?11.3N/15mmであり, 復元率が,81?100%である 半導体加工用シートであって, 前記100%強度は,前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において,長さ方向の両端を,つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ,速度200mm/minで長さ方向に引張り,つかみ具間の長さが200mmとなったときの力の強さであり, 前記復元率は,前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において,長さ方向の両端を,つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ,その後,つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り,つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し,その後,つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し,つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し,その後,60mm/minの速度で長さ方向に引張り,引張測定の測定値が0.1N/15mmを超えた時のつかみ具間の長さを測定し,当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし,前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき,次式(I) 復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (I) から算出される値である ことを特徴とする半導体加工用シート。 【請求項2】 基材と,前記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の半導体加工用シート。 【請求項3】 前記基材は,熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項2に記載の半導体加工用シート。 【請求項4】 前記粘着剤層は,エネルギー線硬化性粘着剤を含有し,前記100%強度および前記復元率は,前記半導体加工用シートにエネルギー線を照射した後の測定に基づく値であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体加工用シート。 【請求項5】 個片化された複数の半導体チップが一方の面に貼付された請求項1?4のいずれか一項に記載の半導体加工用シートを用意する工程, 前記半導体チップの1つを,前記半導体加工用シートの他方の面側から前記一方の面側に向けて突き上げる工程,および 突き上げられた前記半導体チップをピックアップする工程 を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。 【請求項6】 前記半導体チップの1つの突き上げを,前記半導体加工用シートと接する面に平面を含む突き上げブロックを用いて行うことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。 【請求項7】 前記突き上げブロックは,前記半導体加工用シートに対して垂直に独立して移動可能な複数のプレートからなることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。 【請求項8】 前記半導体加工用シートにおいて,突き上げられる半導体チップに隣接する半導体チップが貼付された領域は,前記半導体チップの1つを突き上げる際に実質的に動かないことを特徴とする請求項5?7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)における取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?8に係る特許に対して,当審が令和2年11月9日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は,令和2年6月15日に提出された訂正請求書により訂正請求された訂正後の特許請求の範囲の請求項1において特定されている「100%強度」は「3?12N/15mm」であり,「復元率」は「80?100%」であるところ,本件特許の発明の詳細な説明において課題が解決できる数値範囲として開示されている「100%強度」及び「復元率」の数値範囲は,それぞれ「3.6?11.3N/15mm」及び「81?100%」であり,当該数値範囲を上記請求項1に係る発明における「100%強度」及び「復元率」の範囲まで拡張ないし一般化できると認めることはできないから,本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を充足しない,というものである。 第5 当審の判断 1.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について (1)本件発明1?8(36条6項1号)について 本件訂正により,訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「100%強度が,3?14N/15mmであり」との発明特定事項は,訂正後の「100強度が,3.6?11.3N/15mmであり」と訂正され,「復元率が,75?100%である」との発明特定事項は,訂正後の「復元率が,81?100%である」と訂正され,請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正された。 したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?8の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を充足するから,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては,本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 (2)異議申立人の主張について ア 異議申立人中谷浩美は令和元年12月27日提出の異議申立書において,実施例で用いた特定の基材及び特定の粘着剤層がそれぞれ特定の厚みとなっている半導体加工用シート以外については,本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると主張している。 しかしながら,本件特許明細書の記載(特に段落0117?0134)によれば,本件発明1?8は,「100%強度」及び「復元率」を特定することにより本件発明の課題を解決するものであると理解できる。すなわち,「厚み」は課題解決手段ではなく,また,本件発明1?8における「100%強度」及び「復元率」の範囲内であるにもかかわらず,「厚み」が本件特許明細書の実施例と異なる場合に本件発明の課題を解決し得ないとの特段の事情を認めることはできない。したがって,上記の主張は採用できない。 イ 異議申立人中谷浩美は令和3年3月4日提出の意見書において,次の旨を主張している。 ・本件発明が解決しようとする課題は,本件特許明細書段落0010に記載された,「半導体チップを良好にピックアップすることができる半導体加工用シート及び半導体装置の製造方法を提供すること」である。また,本件特許明細書の段落0009の記載から,本件特許権者は,「突き上げの高さが良好であること」と「基材の固定が良好であること」のいずれが欠けていたとしても,「半導体チップを良好にピックアップすることができる」という本件特許発明が解決しようとする課題を解決し得ないことを認識している。 上記を踏まえると,本件特許明細書の比較例2は,「突き上げ高さについての評価」は「良好」となっているものの「基材の固定についての評価」は「不良」であるから,両方の評価が「良好」でない比較例2の「100%強度」の数値「11.3N/15mm」では,本件特許発明の課題が解決できるとはいえない。同様に,本件特許明細書の比較例1も両方の評価が「良好」ではないから,本件特許明細書の比較例1の「復元率」の数値「81%」では,本件特許発明の課題が解決できるとはいえない。 しかしながら,本件特許明細書の表1によれば,「100%強度」とその「突き上げ高さについての評価」,及び,「復元率」とその「基材の固定についての評価」は,それぞれ独立に評価されるものと理解でき,「100%強度」が「3.6?11.3N/15mm」であれば「突き上げ高さについての評価」が「良好」であり,「復元率」が「81?100%」であれば,「基材の固定についての評価」が「良好」であると理解できる。なお,「100%強度」と「復元率」をそれぞれ個別に評価できることは,片方の評価だけが「良好」である例(比較例1,2)が存在することからも明らかである。 そうすると,例えば,表1の比較例2は「100%強度」が「11.3N/15mm」であるが「復元率」が「43%」であるから,本件特許の課題を解決し得ない(本件発明の範囲に含まれない)例であるものの,比較例2から進んで,「100%強度」を例えば「11.3N/15mm」としつつ,「復元率」を「81?100%」の範囲に調整すれば本件特許の課題を解決し得ることは,本件特許明細書の記載から当業者であれば直ちに理解できることであるといえる。 したがって上記の主張は採用できない。なお,上記意見書におけるその余の主張(ピックアップの条件,基材の材料)は,いずれも本件発明1?8に特定される「100%強度」及び「復元率」によっては本件特許の課題を解決し得ないことを具体的証拠に基づいて示すものではなく,採用できない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)異議申立理由の概要 異議申立人南雲嘉明(以下「申立人A」という。)による,令和元年12月26日付け特許異議申立書(以下「異議申立書A」という。)に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1?8に係る特許は,下記の申立理由のとおり,特許法113条4号に該当する,というものである。 ・申立理由A-1(明確性) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1?8に係る特許は,同法113条4号に該当する。 ・申立理由A-2(サポート要件) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1?8に係る特許は,同法113条4号に該当する。 異議申立人中谷浩美(以下「申立人B」という。)による,令和元年12月27日付け特許異議申立書(以下「異議申立書B」という。)に記載した特許異議の申し立ての理由の概要は,本件特許の請求項1?8に係る特許は,下記の申立理由のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する,というものである。 ・申立理由B-1(サポート要件) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1?8に係る特許は,同法113条4号に該当する。 ・申立理由B-2(実施可能要件) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明について,本件特許明細書には当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,特許法36条4項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1?8に係る特許は,同法113条2号に該当する。 ・申立理由B-3(新規性) 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は,甲1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?5に係る特許は,同法113条2号に該当する。 ・申立理由B-4(進歩性) 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は,甲1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。 ・申立理由B-5(進歩性) 本件訂正前の請求項6?8に係る発明は,甲1号証に記載された発明に甲5号証?甲7号証に記載の周知慣用技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。 (2)証拠方法 ア 上記異議申立書Aとともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。 文献1A:“プラスチック-引張特性の求め方-第1部:通則”,JIS K 7161-1:2014,インターネット<URL:http://www.kikakurui.co./k7/k7161-1-2014-01.html> 文献2A:“加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方”,JIS K 6251:2010,インターネット<URL:https://kikakurui.com/k6/k6251-2010-01.html> 文献3A:A.N.Gent (訳)ゴム科学技術研究委員会,“連載 ゴムの科学と技術[第14回] 第10章 エラストマーの強さ”,日本ゴム協会誌,1983年,第56巻,第9号,p.573-591 イ 上記異議申立書Bとともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。 文献1B:特開2007-63340号公報 文献2B:“セプトン<R>ハイブラー<R>高性能熱可塑性エラストマー Technical Information”,2018年5月,[online],2018年5月,株式会社クラレエラストマー事業部,インターネット[令和元年12月17日検索]<URL: https://www.kuraray.co.jp/uploads/5b6973dcdf8f2/septon_technical_brochure_japanese.pdf>(当審註:<R>は丸にRを示す。) 文献3B:特開2002-105217号公報 文献4B:特開平4-353530号公報 文献5B:特開2007-317748号公報 文献6B:特開2009-4609号公報 文献7B:特開2012-191237号公報 文献8B:知財高裁平成21年4月23日判決(平成18年(行ケ)第10489号),写し (3)文献の記載 文献1Aの記載事項は以下のとおりである。 「8 状態調節 試験片は,試験する材料の規格に従って状態調節を行う。この規定がなく,受渡当事者間の合意(例えば,高温・低温測定)もない場合は,JIS K 7100の中の最も適した条件を選んで,16時間以上行う。 推奨する温度及び湿度は,(23±2)℃,(50±10)%である。試験する材料が,湿度に影響を受けない場合には,湿度制御を行う必要はない。」 文献2Aの記載事項は以下のとおりである。 「14 試験温度 試験は,JIS K 6250の6.1(試験室の標準温度)で実施する。他の温度で試験を行う場合には,JIS K 6250の11.2.2(その他の試験温度)から選ぶことが望ましい。比較を目的とした一連の評価は,すべて同じ温度で行う。」 文献3Aの記載事項は以下のとおりである。 「このような引張強さが温度とともに変化するのは,主としてセグメントの易動度の変化によるものである。」(585頁左欄10?11行) 「無定形エラストマーは,温度が上昇すると徐々に引張強度が低下する(図21)のに対して,ひずみ結晶性エラストマーは,ある臨界温度T_(c)で急激に低下する^(48)?51))(図27)。この温度は図27に示したように架橋度に強く依存する。」(586頁右欄10?14行) 文献3Aの図21,27として以下の図が示されている。 文献1Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0006】 本発明の目的は,エキスパンド性に優れ,かつエキスパンド後の半導体ウエハ加工用粘着テープの復元率が高い等の半導体ウエハ加工用粘着テープに要求される性能に優れたフィルム基材およびそれを用いた半導体ウエハ加工用粘着テープを提供することにある。」 「【0010】 まず,フィルム基材1について説明する。 フィルム基材1は,主としてプロピレン系共重合体を含む樹脂組成物で構成されている。これにより,エキスパンドした時に半導体素子間の距離を大きく広げることができるのでピックアップ性が向上すると共に切り屑の発生を抑制することができる。」 「【0015】 前記樹脂組成物は,さらに熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。これにより,半導体ウエハ加工用粘着テープを裂けることなく均一にエキスパンドすることができ,かつフィルム基材1の復元性をより向上することができる。 前記熱可塑性エラストマーとしては,室温において弾性を示す天然および合成の重合体であれば特に限定されず,例えば天然ゴム,ポリブタジエン,ポリイソプレン,ポリクロロブタジエン,エチレン-プロピレンゴム,エチレン-ブテンゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー,スチレン-ブタジエン共重合体(ランダム共重合体,ブロック共重合体,グラフト共重合体等),スチレン-イソプレン共重合体(ランダム共重合体,ブロック共重合体,グラフト共重合体等)等のスチレン系熱可塑性エラストマー,アクリロニトリル-ブタジエン共重合体,イソプレン-イソブチレン共重合体,イソブチレン-ブタジエン共重合体,エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体,エチレン-プロピレン-ブテン三元共重合体,チオロールゴム,多加硫ゴム,ポリウレタンゴム,ポリエーテルゴム,エピクロルヒドリンゴム等およびこれらの熱可塑性エラストマーに水添加した重合体,例えば水添スチレン-ブタジエン共重合体,水添スチレン-イソプレン共重合体等が挙げられる。これら中でもスチレン系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。これにより,復元性が向上するとともに半導体ウエハを加工する際にフィルム基材1が裂けることを抑制することができる。」 「【0039】 次に,本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが,本発明はこれに限定されるものでは無い。 (実施例1) 1.フィルム基材の製造 プロピレン系共重合体としてMFR0.7,密度0.9g/cm^(3),引張弾性率540MPaのプロピレンとエチレンのブロック共重合体(サンアロマー社製)60重量%と,スチレン含有量20%,密度0.9g/cm^(3),復元率99%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体40重量%(クラレ社製)とを含む樹脂組成物をドライブレンドした後,T型ダイスの押出成形機で押し出して引張弾性率110MPaのフィルム基材(厚さ100μm)を得た。 【0040】 2.半導体ウエハ加工用粘着テープの製造 2-エチルヘキシルアクリレート29.7重量%,酢酸ビニル69.3重量%および2-ヒドロキシエチルメタクリレート1重量%を常法によりトルエン溶媒中にて溶液重合させ重量平均分子量150,000のベース樹脂Aを得た。 このベース樹脂100重量部に対して,エネルギー線硬化型樹脂として2官能ウレタンアクリレート100重量部(三菱レイヨン社製,重量平均分子量が11,000)と,架橋剤としてポリイソシアネート化合物(コロネートL,日本ポリウレタン社製)15重量部と,エネルギー線重合開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン5重量部とを酢酸エチルに溶解した後,前述したフィルム基材に乾燥後の粘着層厚みが10μmになるよう塗布し,80℃で5分間乾燥させることにより半導体ウエハ加工用粘着テープを得た。 【0041】 (実施例2) スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の配合量を50重量%にした以外は,実施例1と同様にした。得られたフィルム基材の引張弾性率は,50MPaであった。 【0042】 (実施例3) スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の配合量を25重量%にした以外は,実施例1と同様にした。得られたフィルム基材の引張弾性率は,210MPaであった。」 「【0049】 3.熱可塑性エラストマーおよびフィルム基材の復元率 復元率は,熱可塑性エラストマー単体,各実施例および各比較例で得られたフィルム基材の1号型引張試験片(JIS K 6301に規定)を作製した。得られた1号型引張試験片に40mm長の標線を引き,チャック間を40mmに設定したテンシロン万能試験機(A&D社製)に標線を合わせてセットし,200mm/minの速度で100%伸張(40mm伸張)した後,2分間保持してからチャックを開放し,チャック開放から5分後に1号型引張試験片の標線間距離を測定して復元率(下記式)を求めた。 式)復元率(%) = (80-チャック開放後の標線間距離)/40X100」 文献1Bの表1として以下の表が示されている。 文献2Bの記載事項は以下のとおりである。 (3頁下段) (8頁中段) 文献3Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0029】実施例1?4,比較例1 〈基材フィルムの製造〉オレフィン系重合体成分,ビニル芳香族エラストマー成分及びスチレン系重合体成分として表1に記載したものをそれぞれ使用し,表1に記載した配合割合でそれらを混合してオレフィン系樹脂組成物を調製し,Tダイより樹脂温度200?260℃で,厚さ170μm,幅300mmの単層フィルムを押し出して基材フィルムを製造した。 【0030】 【表1】 【0031】表1中の各成分の内容は以下のとおりである。 〈オレフィン系樹脂〉 (1) 「Q-401F」:Montell SDK Sunrise Ltd.製のリアクターブレンド法によって製造されているポリプロピレンとエチレンプロピレンゴム成分とを主成分とする融点約160℃の樹脂組成物。 (2) 「KS-081P」:Montell SDK Sunrise Ltd.製のポリプロピレンとエチレンプロピレンゴム成分とを主成分として含む融点162℃樹脂組成物。」 「【0035】 【表2】 」 文献4Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0009】このような基材フィルムとして具体的にはエチレンプロピレンラバー(EPR),線状低密度ポリエチレン(LLDPE),エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系の高伸縮性フィルムが好適に用いられる。フィルムの厚みは内容物,用途に応じて30μ?200μ程度とする。30μ以下では外傷に対する抵抗性に劣る場合があり,200μ以上では追従性に劣る場合がある。」 「【0015】 【実施例】 実施例1 基材としてEPR(厚さ100μ,伸度1100%,100%モジュラス30kg/cm2,日本合成ゴム(株)製 EPO7P)を用いこの基材上にPVA(ケン化度87モル%?89モル%,重合度1700,(株)クラレ PVA-217)10重量部,エチレングリコール5重量部,水50重量部及び消泡剤としてイソプロピルアルコール50重量部の配合により調製したPVA水溶液をロールコート(リバースコート)により15g/m^(2)(固形分)塗布した保護包装用積層フィルムを得た。」 文献5Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0055】 吸着駒102の上面の周辺部には,複数の吸引口103と,同心円状に形成された複数の溝104とが設けられている。溝104を設けずに吸引口103を全体に多く配置してもかまわない。吸引口103および溝104のそれぞれの内部は,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させる際,吸引機構(図示は省略)によって-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧される。このとき,ダイシングテープ4の裏面が下方に吸引され,吸着駒102の上面と密着する。」 「【0071】 次に,図17に示すように,中間の第2のブロック110Bと内側の第3のブロック110Cとを同時に上方に突き上げてダイシングテープ4を押し上げる。これにより,チップ1Cを支える第2のブロック110Bの上面の外周(角部)の位置が,第1のブロック110Aによって支えられていた状態に比較して,より内側に移るため,チップ1Cとダイシングテープ4との剥離が第2のブロック110Bの上面の外周より外側の領域からチップ1Cの中心方向へと進行する。図18は,このときの吸着駒102の上面近傍を示す拡大斜視図である(チップ1Cとダイシングテープ4の図示は省略)。」 文献6Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0113】 吸着駒102の上面の周辺部には,複数の吸引口103と,同心円状に形成された複数の溝104とが設けられている場合と複数の吸引孔のみの場合がある。吸引口103および溝104のそれぞれの内部は,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させる際,図示しない吸引機構によって減圧される。このとき,ダイシングテープ4の裏面が下方に吸引され,吸着駒102の上面と密着する。」 「【0129】 次に,図17に示すように,中間のブロック110bと内側のブロック110cとを同時に上方に突き上げてダイシングテープ4を押し上げる。これにより,チップ1を支えるブロック110bの上面の外周(角部)の位置が,ブロック110aによって支えられていた状態に比較して,より内側に移るため,チップ1とダイシングテープ4との剥離がブロック110bの上面の外周より外側の領域からチップ1の中心方向へと進行する。図18は,このときの吸着駒102の上面近傍を示す拡大斜視図である(チップ1とダイシングテープ4の図示は省略)。」 文献7Bの記載事項は以下のとおりである。 「【0056】 吸着駒102の上面の周辺部には,複数の吸引口103と,同心円状に形成された複数の溝104とが設けられている。溝104を設けずに吸引口103を全体に多く配置してもかまわない。吸引口103および溝104のそれぞれの内部は,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させる際,吸引機構(図示は省略)によって-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧される。このとき,ダイシングテープ4の裏面が下方に吸引され,吸着駒102の上面と密着する。」 「【0087】 次に,図23に示すように,中間の第2のブロック110Bと内側の第3のブロック110Cとを同時に上方に突き上げてダイシングテープ4を押し上げる。これにより,チップ1Cを支える第2のブロック110Bの上面の外周(角部)の位置が,第1のブロック110Aによって支えられていた状態に比較して,より内側に移るため,チップ1Cとダイシングテープ4との剥離が第2のブロック110Bの上面の外周より外側の領域からチップ1Cの中心方向へと進行する。図24は,このときの吸着駒102の上面近傍を示す拡大斜視図である(チップ1Cとダイシングテープ4の図示は省略)。」 文献8Bの記載事項は以下のとおりである。 「上記アのとおり,発明の詳細な説明には,本件数値(少なくとも150ppm)の水を含ませることにより所期の作用効果を奏したとの直接の記載は一切なく,実験に用いられた水の量のうち本件数値に最も近似する水の量である109ppmの水しか存在しない場合にはセボフルランの分解を抑制することができず,206ppm以上の水が存在する場合にはセボフルランの分解を抑制することができたとの記載(実施例4のうち40℃の場合)があるのみである。」(109頁12?17行) 「また,発明の詳細な説明には,水の量が増えるに従ってセボフルランの分解度が減少する傾向にあることが記載されている(実施例1,3及び4)といえるが,pHが3.0であり,「いまだ十分なレベルに達していなかった」サンプル7(109ppm)につき,「もう少し水分を増加させ(た)」数値,あるいは,「やや余裕を持たせた数値」が,なぜ109ppmの約1.38倍,206ppmの約0.73倍である150ppmとなるのかにつき,これを合理的に説明する証拠が一切ない以上,被告らの「もう少し水分を増加させ(た)」数値,「やや余裕を持たせた数値」との主張は,科学的な裏付けを欠いた単なる憶測にすぎないといわざるを得ない。」(110頁10?18行) (4)申立理由についての当審の判断 上記申立理由のうち,申立理由A-2及びB-1(サポート要件)は,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由と同旨であるから,申立理由A-2及びB-1(サポート要件)についての当審の判断は上記第5の1.に示したとおりである。 そして,他の申立理由についての当審の判断は以下のとおりである。 (4.1)申立理由A-1(明確性)について 異議申立書Aの4.(3)において申立人Aは,次のような要旨の主張をしている。 ・本件発明1?8における「100%強度」及び「復元率」は,本件特許請求の範囲において特定された測定方法の記載からみて,いずれも引張応力ないし引張強さに関連する特性であると解されるところ,文献1A?3Aからも明らかなとおり,引張応力ないし引張強さが測定温度に依存することは技術常識である。しかしながら,本件特許請求の範囲には,「100%強度」及び「復元率」の測定温度が記載されていないから,本件発明における「半導体加工用シート」の「100%強度」及び「復元率」を一義的に定めることができず,本件特許請求の範囲の請求項1?8の記載は不明確である。 しかしながら,本件発明1?8が,本件「半導体加工用シート」の使用時に本件発明1?8に特定される「100%強度」及び「復元率」であることによって,良好なピックアップ動作を行うものであることに照らせば,当該「100%強度」及び「復元率」が,本件「半導体加工用シート」をピックアップ動作に使用する時の温度であることは明らかであるから,本件特許請求の範囲の請求項1?8の記載は明確である。 したがって,申立理由A-1(明確性)によっては,本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 (4.2)申立理由B-2(実施可能要件)について 申立人Bは,「実施例で用いた特定の基材及び特定の粘着剤層がそれぞれ特定の厚みとなっている半導体加工用シート以外については,本件特許発明1?8に係る半導体加工用シートをどのようにして作るかが理解できず,また,そのような物をつくるために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験棟をする必要がある。」と主張している(異議申立書Bの11頁6行?10行)。 しかしながら,本件特許明細書の段落0117?0134には,特定の材料を用いて本件発明1?4に係る半導体加工用シートを作製する方法が具体的に説明され,当該シートをダイボンディング装置によりピックアップ動作に使用できること,すなわち本件発明5?8に係る半導体装置の製造方法が実施できることが具体的に説明されている。そうすると,本件特許明細書の記載により,本件発明1?4に係る物を作ることができ,使用することができること,また,本件発明5?8に係る製造方法を実施できることを当業者は理解できるといえる。よって,本件特許明細書は,本件発明1?8の実施ができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 したがって,申立理由B-2(実施可能要件)によっては,本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 (4.3)申立理由B-3(新規性)について (4.3.1)引用発明1の認定 上記(3)で摘記した文献1Bの記載によれば,文献1Bには次の発明(以下「引用発明1」)が記載されているものと認められる。 「プロピレン系共重合体としてMFR0.7,密度0.9g/cm^(3),引張弾性率540MPaのプロピレンとエチレンのブロック共重合体(サンアロマー社製)と,スチレン含有量20%,密度0.9g/cm^(3),復元率99%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(クラレ社製)とを含む樹脂組成物からなるフィルム基材を有し, フィルム基材の復元率が80?91%である半導体ウエハ加工用粘着テープであって, 前記復元率は, フィルム基材の1号型引張試験片(JIS K 6301に規定)を作製し,得られた1号型引張試験片に40mm長の標線を引き,チャック間を40mmに設定したテンシロン万能試験機(A&D社製)に標線を合わせてセットし,200mm/minの速度で100%伸張(40mm伸張)した後,2分間保持してからチャックを開放し,チャック開放から5分後に1号型引張試験片の標線間距離を測定して下記(式)により求めた復元率である,半導体ウエハ加工用粘着テープ。 (式)復元率(%) = (80-チャック開放後の標線間距離)/40X100」 (4.3.2)対比・判断 本件発明1と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1における「半導体ウエハ加工用粘着テープ」は,本件発明1における「半導体加工用シート」に相当する。 イ 引用発明1の復元率の測定では,チャック間を40mmに設定した試験片を40mm伸張して80mmとしているから,引用発明1の(式)における「40」(=80mm-40mm)は,本件発明1における「L1」すなわち「拡張された状態におけるつかみ具間の長さ」から「初期のつかみ具間の長さ」を引いた長さに相当する。また,引用発明1における「チャック開放後の標線間距離」から設定されたチャック間(40mm)を引いた長さが,本件発明1における「L2」に相当する。そうすると,引用発明1の(式)における (80?チャック開放後の標線間距離) =(40?(チャック解放後の標線間距離-40)) は,本件発明1における(L1-L2)に相当する。ここで,本件発明1の式(I)で{1-(L2÷L1)}=(L1-L2)/L1であるから,引用発明1の(式)は本件発明1の(式1)に相当する。 ウ 上記イから,引用発明1における「フィルム基材の復元率が80?91%である」ことは,本件発明1における「半導体加工用シート」が「復元率が81?100%」であることに対応する。 以上ア?ウによれば,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「半導体加工用シート。」 <相違点1> 本件発明1では,「前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において,長さ方向の両端を,つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ,速度200mm/minで長さ方向に引張り,つかみ具間の長さが200mmとなったときの力の強さ」である「100%強度」が,「3.6?11.3N/15mm」であるのに対し,引用発明1では,「100%強度」が特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1では,「半導体加工用シート」の「復元率が,81?100%」であるのに対し,引用発明1では,「半導体ウエハ加工用粘着テープ」の「フィルム基材」の「復元率が80?91%」であるものの,「半導体ウエハ加工用粘着テープ」の復元率は特定されていない点。 以上のとおり,本件発明1は引用発明1と同一ではない。そのため,本件発明1を減縮した発明である本件発明2?5も引用発明と同一ではない。したがって,申立理由B-3(新規性)によっては,本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 (4.3.3)申立人Bの主張について 申立人Bは,文献2Bには「ポリプロピレンと,セプトン4055たるスチレン系共重合体とを含む組成物の100%モジュラスが6.7MPaである」ことが,文献3Bには「ポリプロピレンとエチレンプロピレンゴム成分を主成分として含むオレフィン系樹脂と,スチレン系樹脂との混合物の100%モジュラスが4.35?8.76MPaである」ことが,文献4Bには「エチレンプロピレンラバー(EPR)の100%モジュラスが3MPaである」ことが示されているから,文献1Bに記載された,プロピレン及びエチレンのプロピレン系共重合体と,熱可塑性エラストマーたるスチレン系共重合体とで構成されたフィルム基材は,100%モジュラスが3?8.76MPa程度,すなわち,100%強度が5?13N/15mm程度であると主張している。 しかしながら,文献1Bにおいて復元率の数値とともに開示されているフィルム基材の材料は,「プロピレン系共重合体としてMFR0.7,密度0.9g/cm^(3),引張弾性率540MPaのプロピレンとエチレンのブロック共重合体(サンアロマー社製)と,スチレン含有量20%,密度0.9g/cm^(3),復元率99%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(クラレ社製)」であって,文献2B?4Bは,文献1Bの上記材料の100%強度を記載したものではない。したがって,上記申立人Bの主張は採用できない。 (4.4)申立理由B-4及びB-5(進歩性)について 上記(4.3)で指摘した,本件発明1と引用発明1の相違点1,2について検討する。 はじめに相違点1について検討すると,文献1Bには,フィルム基材として「プロピレン系共重合体」と「熱可塑性エラストマー」を含む樹脂を用いることが記載されており,文献2B?4Bには,プロピレン系共重合体と熱可塑性エラストマーであるスチレン系共重合体を含む樹脂の100%強度が5?13N/15mmであることが記載されている。しかしながら,文献1Bの段落0006には,「半導体ウエハ加工用粘着テープの復元率が高い」「フィルム基材」を提供することが発明の目的として記載されているところ,文献2B?4Bの各樹脂の復元率は不明であるから,上記引用発明1の目的に照らし,引用発明1において100%強度が5?13N/15mmである文献2B?4Bの樹脂をフィルム基材の材料として採用する動機がない。 また,文献5B?8B,文献1A?3Aにも,「100%強度」を「3.6?11.3N/15mm」とすることは記載も示唆もされていない。 よって,引用発明1において相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。そうすると,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件発明1を減縮した発明である本件発明2?8についても同様である。 したがって,申立理由B-4及びB-5(進歩性)によっては,本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 第6 結言 したがって,本件請求項1?8に係る特許は,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことはできない。さらに,他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 100%強度が、3.6?11.3N/15mmであり、 復元率が、81?100%である 半導体加工用シートであって、 前記100%強度は、前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、速度200mm/minで長さ方向に引張り、つかみ具間の長さが200mmとなったときの力の強さであり、 前記復元率は、前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り、つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し、その後、つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し、つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し、その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張測定の測定値が0.1N/15mmを超えた時のつかみ具間の長さを測定し、当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし、前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき、次式(I) 復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (I) から算出される値である ことを特徴とする半導体加工用シート。 【請求項2】 基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の半導体加工用シート。 【請求項3】 前記基材は、熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項2に記載の半導体加工用シート。 【請求項4】 前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤を含有し、前記100%強度および前記復元率は、前記半導体加工用シートにエネルギー線を照射した後の測定に基づく値であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体加工用シート。 【請求項5】 個片化された複数の半導体チップが一方の面に貼付された請求項1?4のいずれか一項に記載の半導体加工用シートを用意する工程、 前記半導体チップの1つを、前記半導体加工用シートの他方の面側から前記一方の面側に向けて突き上げる工程、および 突き上げられた前記半導体チップをピックアップする工程 を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。 【請求項6】 前記半導体チップの1つの突き上げを、前記半導体加工用シートと接する面に平面を含む突き上げブロックを用いて行うことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。 【請求項7】 前記突き上げブロックは、前記半導体加工用シートに対して垂直に独立して移動可能な複数のプレートからなることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。 【請求項8】 前記半導体加工用シートにおいて、突き上げられる半導体チップに隣接する半導体チップが貼付された領域は、前記半導体チップの1つを突き上げる際に実質的に動かないことを特徴とする請求項5?7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-06-09 |
出願番号 | 特願2017-507316(P2017-507316) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L) P 1 651・ 113- YAA (H01L) P 1 651・ 536- YAA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山口 大志 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 小田 浩 |
登録日 | 2019-06-14 |
登録番号 | 特許第6539336号(P6539336) |
権利者 | リンテック株式会社 |
発明の名称 | 半導体加工用シートおよび半導体装置の製造方法 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 飯田 理啓 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 田岡 洋 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 田岡 洋 |
代理人 | 飯田 理啓 |