• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1376726
異議申立番号 異議2020-700643  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-26 
確定日 2021-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6655833号発明「スライス方法およびスライス装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6655833号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕,4,〔5-9〕,10,11について訂正することを認める。 特許第6655833号の請求項1-3,5-9,11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6655833号の請求項1?11に係る特許についての出願は,平成28年3月31日を出願日とする出願であって,令和2年2月6日にその特許権の設定登録がされ,令和2年2月26日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は,以下のとおりである。

令和2年8月26日:特許異議申立人中田義直(以下「申立人」という。)による請求項1?3,5?9,11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年11月10日付け:取消理由通知書
令和3年1月6日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年3月9日:申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年1月6日提出の訂正請求書における訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,次の訂正事項1?5からなる。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と」とあるのを,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記排出工程は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する工程を有する,請求項1から3のいずれかに記載のスライス方法。」とあるのを,「レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで,前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と,
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備え,
前記排出工程は,前記改質層形成工程の実行中に行われ,
前記排出工程は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する工程を有する,スライス方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部と」とあるのを,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部と」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6?9も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「前記排出部は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する電圧印加部を有する,請求項5から9のいずれかに記載のスライス装置。」とあるのを,「被加工材の内部に改質層を形成し,当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置であって,
レーザ光を,集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部と,
前記集光部の温度を測定するための第1温度センサと,
前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサと,
前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて,前記改質層が融点以上,前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部と,
を備え,
前記排出部は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する電圧印加部を有する,スライス装置。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と」とあるのを,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と」に訂正する。

(6)一群の請求項について
ア 訂正前の請求項1?4について,請求項2?4は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ 訂正前の請求項5?10について,請求項6?10は請求項5を直接的又は間接的に引用しているものであって,訂正事項3によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項5?10に対応する訂正後の請求項5?10は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ウ また,訂正後の請求項4及び10に係る訂正について,特許権者は,当該訂正が認められるときに,訂正前の一群の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件について
(1)訂正事項1について
(1.1)訂正の目的の適否
訂正事項1は,訂正前の請求項1に係る発明における「排出工程」において,訂正前の請求項1では溶融した改質層物質の一部が排出されるのか全部が排出されるのかが特定されていなかったところ,訂正後の請求項1では,溶融した改質層物質の一部が排出される旨を特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものである。よって,訂正事項1は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(1.2)新規事項の有無
訂正事項1について,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の段落0052には「改質層8の中で既レーザ照射部8fは溶融したGaとして存在する」との記載があり,段落0053には「被加工材1の端部においては,内圧により押し出された液体Gaが球状に凝固したGa部8gが生じる」との記載がある。また,特許明細書等の図3には,溶融したGaの一部によって形成されたGa部8gが示されていると共に,溶融したGaの残部である既レーザ照射部8fが被加工材1の外部に排出されずに存在していることが示されており(段落0052及び段落0053参照),同図4は,被加工材1の端部を情報から観察した写真であり,溶融したGaが押し出され球状に凝固した部位8gが示されている(段落0054参照。)。そうすると,特許明細書等には,「排出工程」において,溶融した改質層の全部ではなく一部が排出されることが記載されているものと理解できる。よって,訂正事項1は,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。
(1.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は,本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項2?3に係る発明の発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。よって,訂正事項1は,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
(1.4)独立特許要件
本件においては,訂正前の請求項1?3,5?9,11について特許異議の申立がされているので,訂正前の請求項1?3に係る訂正事項1に対して,特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
(2.1)訂正の目的の適否
訂正事項2は,訂正前の請求項4が訂正前の請求項1の記載を引用する請求項であったものを,独立形式の請求項へ改めるための訂正であって,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものにすること」を目的とするものである。
(2.2)新規事項の有無
訂正事項2は,何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。
(2.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は,本件訂正前の請求項4を独立形式の請求項へ改める訂正であって,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
(2.4)独立特許要件
訂正事項2は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものにすること」を目的とする訂正であって,特許法120条の5第2項ただし書1号又は2号に掲げる事項を目的とする訂正ではないから,訂正後の請求項4に係る発明に対して,特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3及び5について
訂正事項3及び5は訂正前の請求項5及び11に対し訂正事項1と同様の訂正を行うものであるから,上記(1)で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するものである。
また,訂正後の請求項5及び11に対して,特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正前の請求項10を,訂正前の請求項5を引用する形式から独立形式の請求項へ改める訂正であるから,上記(2)の検討と同様にして,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法120条の5第9項において準用する特許法126条5項及び6項の規定に適合するものである。また,請求項10に係る訂正事項4に対して,特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕,4,〔5-9〕,10,11について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで,前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と,
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備え,
前記排出工程は,前記改質層形成工程の実行中に行われる,ことを特徴とするスライス方法。
【請求項2】
前記排出工程は,前記被加工材を,前記改質層の融点以上,前記被加工材の融点以下かつ前記集光部の耐熱温度以下に加熱する,請求項1に記載のスライス方法。
【請求項3】
前記排出工程は,前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記被加工材の周囲を負圧にする工程を有する,請求項1または2に記載のスライス方法。
【請求項4】
レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで,前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と,
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備え,
前記排出工程は,前記改質層形成工程の実行中に行われ,
前記排出工程は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する工程を有する,スライス方法。
【請求項5】
被加工材の内部に改質層を形成し,当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置であって,
レーザ光を,集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部と,
前記集光部の温度を測定するための第1温度センサと,
前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサと,
前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて,前記改質層が融点以上,前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部と,
を備える,スライス装置。
【請求項6】
前記レーザ光と前記被加工材の間に前記レーザ光を透過するが,熱を遮断するフィルタを有する,ことを特徴とする請求項5に記載のスライス装置。
【請求項7】
前記排出部は,前記被加工材と接触して加熱する接触式の熱源を有する,請求項5または6に記載のスライス装置。
【請求項8】
前記排出部は,前記被加工材と接触せずに加熱する非接触式の熱源を有する,請求項5または6に記載のスライス装置。
【請求項9】
前記排出部は,前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記被加工材の周囲を負圧にする真空チャンバおよび真空ポンプを有する,請求項5から8のいずれかに記載のスライス装置。
【請求項10】
被加工材の内部に改質層を形成し,当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置であって,
レーザ光を,集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部と,
前記集光部の温度を測定するための第1温度センサと,
前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサと,
前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて,前記改質層が融点以上,前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部と,
を備え
前記排出部は,前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて,当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記改質層に電圧を印加する電圧印加部を有する,スライス装置。
【請求項11】
レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで,前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と,
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備え,
前記排出工程は,前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記被加工材の周囲を負圧にする工程を有する,ことを特徴とするスライス方法。」


第4 異議申立理由の概要
1.申立理由
令和2年8月26日付け特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1?3,5?9,11に係る特許は,下記の申立理由A?Cのとおり,特許法113条2号又は4号に該当する,というものである。

・申立理由A(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は,甲1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1に係る特許は,同法113条2号に該当する。

・申立理由B(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3,5?9,11に係る発明は,甲1号証に記載された発明及び甲2号証?甲6号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由C(実施可能要件)
本件訂正前の請求項2及び5についての本件特許明細書の記載は,特許法36条4項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項2及び5に係る特許は,同法113条4号に該当する。

2.証拠方法
上記特許異議申立書とともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。
甲1号証:米国特許出願公開第2013/0248500号明細書及び部分訳文
甲2号証:特開2003-168820号公報
甲3号証:特開平2-290690号公報
甲4号証:特開2006-167756号公報
甲5号証:米国特許第6071795号明細書及び部分訳文
甲6号証:特開2000-94173号公報


第5 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3,5?9,11に係る特許に対して,当審が令和2年11月10日付けの取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由」という。)の概要は,以下のとおりである。

1.(新規性)請求項1に係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当するから,請求項1に係る特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものである。

2.(進歩性)請求項1?3,5?9,11に係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証に記載された発明並びに甲2号証?甲5号証及び下記の周知例1に記載された事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?3,5?9,11に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

周知例1:特開2008-114228号公報


第6 甲号証及び周知例の記載事項
1.甲号証の記載
(1)甲1号証の記載
取消理由通知書で引用した甲1号証(米国特許出願公開2013/0248500号明細書には,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「[0001] Group of the inventions relates to laser treatment of hard materials, in particular, to the method of separating surface layer of semiconductor crystals by means of a laser including laser cutting.」
(和訳:[0001]一群の発明は硬質材料のレーザー処理に関し,特に,半導体結晶のレーザー切断を含む,レーザーによる半導体結晶の表層の分離方法に関する。)(和訳は当審で作成した。以下同じ。)

「[0009] In the preferred embodiment, a crystal or a crystal boule can be previously heated up to 100-1000℃. to avoid cracking of the crystal.」
(和訳:[0009]好ましい実施形態によると,結晶または結晶ブールは,結晶の亀裂を回避するために,事前に100?1000℃に加熱される。)

「Example 1
[0038] FIG. 3 shows the scheme 300 illustrating the first variation of the method by the example of separating the surface layer of the gallium nitride semiconductor crystal. For this purpose Nd:YAG laser is used which operates in the mode of modulated Q-factor, with frequency doubling and generates light pulses with λ=532 nm, energy of 5 μJ, duration of 5 ns and repetition rate of 1000 Hz. Laser beam is focused to the spot of 16 μm in diameter which provides energy density of 2 J/cm^(2).」
(和訳:実施例1
[0038]図3は,窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する実施例による方法の第1変形例を例示するスキーム300を示す。ここでは,周波数を2倍化する変調Q値のモードで作用し,ならびにλ=532nm,5μJのエネルギー,5nsの持続時間,および1000Hzの繰り返し率の光パルスを生成するNd:YAGレーザーが使用される。レーザービームは,2J/cm^(2)のエネルギー密度を提供する直径16μmのスポットに集束される。)

「[0039] Under action of the Nd:YAG laser beam 102 with wavelength λ=532 nm weakly absorbed in the gallium nitride crystal 101, focused under the upper crystal surface 105 at the depth of 100 μm, the crystal is locally heated up to temperature higher than 900℃. leading to chemical decomposition of gallium nitride crystal into gaseous nitrogen and liquid gallium in the vicinity 106 of the laser beam focus. Movement of the laser beam 102 focus at velocity of 1.5 cm/s in the horizontal (lateral) plane parallel to the crystal surface 105 through which laser beam enters the crystal, and perpendicular towards the axis 103 of the focused laser beam, lead to consequent decomposition of gallium nitride and to increase of width of the lateral cut 304 from left to right deep into the crystal. On achieving by the lateral cut 304 the right bound of the crystal in FIG. 3, continuity of the crystal 101 is disturbed and the upper layer 307 being higher the cut 304 is separated from the main crystal. To avoid cracking of the gallium nitride crystal caused by thermal stresses laser cutting is performed at temperature Tp=600℃.」
(和訳:[0039]100μmの深さで上部結晶面105下に集束され,窒化ガリウム結晶101に弱く吸収される,λ=532nmの波長を有するNd:YAGレーザービーム102の作用下において,結晶が900℃より高い温度に局所的に加熱されて,これにより窒化ガリウム結晶が,レーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解される。レーザービーム102集束が,レーザービームが結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動し,これに起因して窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加する。横方向切断304によって図3の結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307が主要結晶から分離される。熱応力によって窒化ガリウムに亀裂が起こるのを防ぐために,レーザー切断がTp=600℃の温度で行われる。)



FIG.3


(2)甲2号証の記載
取消理由通知書で引用した甲2号証(特開2003-168820号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,剥離方法及びレーザー光の照射方法及びこれらを用いた素子の製造方法に関する。更に詳しくは,レーザー光をライン状に照射することにより結晶層を剥離する剥離方法及びレーザー光の照射方法及びこれらを用いた素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】GaN系化合物半導体により形成される半導体発光素子の製造方法の製造プロセスにおいて,サファイア基板上に形成されたGaN系化合物結晶層を当該サファイア基板の裏面からレーザー光を照射することにより剥離する技術が知られている。
【0003】例えば,特開2000-101139号公報においては,サファイア基板上にGaN層を形成し,当該サファイア基板の裏面からレーザー光を照射することにより,GaN層を形成するGaNが分解され,当該GaN層からサファイア基板を剥離する技術が開示されている。しかし,照射するレーザー光の照射密度及びGaN層に吸収され易い波長のレーザー光を例示するに止まっている。」

「【0018】レーザー光3の照射により結晶層2が分解され,基板1と結晶層2の結合が解放され,機械的な手法(例えば,チャッキングなど)により容易に基板1から結晶層2を剥離することが可能となる。特に,結晶層2がGaN系化合物結晶層である場合には,レーザー光3の照射により,基板1と結晶層2の境界付近に金属ガリウムが蓄積されることになるが,金属ガリウムの融点が30℃程度であり,例えばレーザー光3が照射された積層体4をホットプレートなどで加熱することにより,基板1と結晶層2の接着力が低下し,基板1から容易に結晶層2を剥離することができる。また,金属ガリウムとともにN_(2)ガスが発生するが,ライン状に成形されたレーザー光3をその長手方向と垂直な方向に順次照射していく場合,既にレーザー光3が照射され,基板1と結晶層2の結合力が低下した領域にN_(2)が排気されることにより,過剰な応力が結晶層2に加わることがない。」

(3)甲3号証の記載
取消理由通知書で引用した甲3号証(特開平2-290690号公報)には,次の記載がある。
「[産業上の利用分野]
この発明は,真空室の外部に設けられたレーザー発振装置から出射されたレーザー光を,透明な窓板を通過させて真空室内に導入することにより,この真空室内に配設された被照射物にレーザー光を照射して実験等を行なう真空レーザー照射装置に関するものである。」(第1頁左下欄14行?20行)

「まず構成を説明すると,第2図は,この実施例の真空レーザー照射装置の全体図を示し,図中符号1は載置台2上に載置された真空容器で,この真空容器1内の真空室3は図示省略のバキューム装置により,高真空状態になるように設定されている。」
(第2頁左下欄7行?12行)

(4)甲4号証の記載
取消理由通知書で引用した甲4号証(特開2006-167756号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
本発明は,レーザ溶接装置および溶接構造物の製造方法に関するものである。」

「【0025】
胴部2の側部には,窓状のレーザ光透過部材4が設けられている。このレーザ光透過部材4を介して密封容器外部から内部の溶接対象物に向けてレーザ光が照射される。レーザ光透過部材4の材料としては,溶接の際の温度や圧力等の環境に耐え得る材料であり,かつレーザ光のエネルギーを吸収しない材料が用いられる。これらの条件から,レーザ光透過部材4の材料としては,石英ガラスを好適に用いることができる。」

「【0028】
また,前記密封容器1の外部には,密封容器内部に連通する真空ポンプ(真空排気装置)25が設けられている。この真空ポンプ25により密封容器1内の大気を除去することにより,溶接対象物中の金属元素が大気中の酸素や窒素と反応して脆い酸化物や窒化物を形成するのを防ぐことができる。」

(5)甲5号証の記載
取消理由通知書で引用した甲5号証(米国特許第6071795号明細書)には,次の記載がある。
「In the specific embodiment, the laser radiation incident upon the sapphire donor substrate 104 may be 248 nm radiation from a KrF pulsed excimer laser having a pulse width of 38 ns. This radiation easily passes through the sapphire donor substrate 104 but is strongly absorbed by the GaN thin film 102 in a separation region 118. In this irradiation step 114, a relatively small laser beam preferably rasters the area of the film segment to be separated. The actual irradiation does not separate the film from its substrate. Because the irradiation process affects only the buried interface, the irradiation can be performed in either vacuum, air, or other ambient.」(4欄5段落)
(和訳:特定の実施形態では,サファイアドナー基板104に入射するレーザ放射は,38nsのパルス幅を有するKrFパルスエキシマーレーザからの248nm放射であってもよい。この放射線は,サファイアドナー基板104を容易に通過するが,分離領域118においてGaN薄膜102に強く吸収される。この照射ステップ114では,比較的小さなレーザビームは,好ましくは,分離されるフィルムセグメントの領域をラスタリングする。実際の照射は,フィルムを基板から分離することはない。照射工程は,埋設された界面のみに影響を与えるので,照射は,真空中,空気中又は他の雰囲気中のいずれかで行うことができる。)

(6)甲6号証の記載
甲6号証(特開2000-94173号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,レーザ加工機において,熱レンズ効果によって生ずるレンズの焦点位置の変動を調節するための装置およびその方法に関するものである。」

「【0017】前記レンズ18の側面には温度センサ31が取付られ,その検出出力が制御装置32に入力される。制御装置32は温度センサの検出出力レベルに応じて,前記駆動モータ23の回転方向及び回転量を決定し,それに従って駆動モータ23を回転させる。」

「【0019】さて,レーザ発振器(図示しない)からレーザビームが発振されて,ワーク12に対する加工が行われている時には,制御装置32は常時温度センサ31を介してレンズ18の温度を監視する。そして,レンズ18の温度があらかじめ定められた範囲を逸脱すると,その逸脱量に応じた回転方向及び回転量で駆動モータ23を回転させ,レンズホルダ17を光軸方向へ移動させる。」

「【0021】従って,この実施形態では以下のような効果を発揮する。
(1)レーザ加工にともなうレンズ18の温度の上昇に基づく熱レンズ効果によりレンズ18が膨張して焦点距離が短くなる。この場合,温度センサ31がレンズ18の温度を検出し,焦点距離の変動分を補うように,制御装置32が駆動モータ23を駆動させる。この駆動に基づき,レンズホルダ17を光軸方向の下降方向へ移動させ,レンズを適切な位置に配置させて,焦点位置をワーク12の加工部と一致するように調節することができる。従って,この調節装置を備えたレーザ加工機は,ワークの切断や溶接等のレーザ加工を常に良好に,かつ正確に行うことができる。しかも,直接レンズ18の温度を検出するので,従来の類推検出の場合とは異なり,熱レンズ効果の度合いを正確に検出して,高精度加工を可能とする。加えて,熱レンズ効果を検出して焦点位置を正確に調節するため,冷却装置が不要となり,装置の複雑化や大型化を避けることができる。
(2)・・・(以下略)・・・」

2.周知例の記載
取消理由通知書で引用した周知例1(特開2008-114228号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
本発明は,レーザ加工機に関し,特に,状態診断を自動で実施可能なレーザ加工機に関するものである。」
「【0042】
また,加工レンズ162が汚れると,レーザビームが加工レンズ162を透過する際の温度上昇が大きくなる。たとえば図4-2に示すように,レンズモニタ出力と時間との関係を示す特性図において,レンズモニタ出力が該レンズモニタ出力の正常範囲の上限を定める正常上限値α3を上回った場合には,加工レンズ162が汚れているためメンテナンスが必要であると判断することができる。たとえば,レーザビームを30秒間照射時のレンズモニタ出力が正常上限値α3を上回った場合には,加工レンズ162が汚れているためメンテナンスが必要であると判断することができる。ここで,レンズモニタ出力としては,加工レンズ162の温度を検出する。」


第7 当審の判断
1.取消理由通知書に記載した取消理由について
1.1.取消理由1(29条1項3号)について
(1)本件発明1について
(1.1)引用発明1
上記第6の1.(1)の摘記から,特に,実施例1についての記載に注目すると,甲1号証には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「レーザビーム102を,窒化ガリウム結晶101の100μmの深さで上部結晶面105下に集束し,窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす工程と,
レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動し,これに起因して窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加し,横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離される工程とを備え,
熱応力によって窒化ガリウムに亀裂が起こるのを防ぐために,レーザー切断がTp=600℃の温度で行われる,
窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する方法。」

(1.2)対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1の「レーザービーム102」及び「窒化ガリウム結晶101」は,本件発明1の「レーザ光」及び「被加工材」にそれぞれ相当する。また,引用発明1の「レーザービーム102」は「上部結晶面105下に集束」されていることから,本件発明1と同様に,「集光部を介して被加工材の内部に集光させ」ているものと理解できる。
イ 引用発明1の「窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす」ことは,本件発明1の「当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する」ことに相当する。
ウ 上記ア,イから,引用発明1における「レーザビーム102を,窒化ガリウム結晶101の100μmの深さで上部結晶面105下に集束し,窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす工程」は,本件発明1における「レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程」に相当する。
エ 引用発明1は,「レーザー切断がTp=600℃の温度で行われる」ものであるから,本件発明1と引用発明1は,ともに「前記被加工材を加熱する」「工程」を備える点で共通する。
オ 引用発明1における「レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動」させることは,本件発明1における「前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させること」に相当する。そうすると,引用発明1における「レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動し,これに起因して窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加し,横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続体が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離される工程」は,本件発明1の「前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させる」「走査工程」に対応する。
カ また,引用発明1における「レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動し,これに起因して窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加し,横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離される工程」は,本件発明1における「前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」に対応する。
キ 引用発明1における「窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する方法」は,本件発明1における「スライス方法」に相当する。

以上によれば,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
<一致点>
「レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱する工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させる走査工程と,
前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備える,
スライス方法。」
<相違点1>
本件発明1では,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程」を備え,「前記排出工程は,前記改質層形成工程の実行中に行われる」のに対し,引用発明1では,当該「排出工程」が特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1では,「前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程」及び「前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」により被加工材のスライスを行っているのに対し,引用発明1では,「レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動」させ,「横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離される」ことでスライスを行うものであり,「前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程」及び「前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」という2つの工程は特定されていない点。

(1.3)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると,甲2号証の段落0018の記載によれば,金属ガリウムの融点は30℃程度であることは技術常識であるから,「レーザー切断がTp=600℃の温度で行われ」る引用発明1において,「窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす」,「レーザービーム102」を移動させることで「窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加」する際,レーザ照射箇所及びレーザ既照射箇所には液体ガリウムと窒素ガスが存在し,窒素ガスの圧力により液体ガリウムが外部へ排出されるものと理解できる。
しかしながら,「前記溶融した改質層物質の一部を」「前記被加工材の外部に排出する」ことは,甲2号証の技術常識を参酌しても,引用発明1が備える事項であると認めることはできない。
したがって,上記相違点1は,実質的な相違点である。
よって,本件発明1と引用発明1は上記相違点1について相違するから,上記相違点2について判断するまでもなく,本件発明1は甲1号証に記載された発明ではない。

(2)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1は甲1号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当する発明ではない。

1.2 取消理由2(29条2項)について
(1)本件発明1について
ア 上記相違点1について検討すると,甲1号証の段落0039には,「レーザービーム102」を移動させることで「窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加」することは記載されているが,「前記溶融した改質層物質の一部を」「前記被加工材の外部に排出する」ことについては,具体的な記載や示唆はされていない。
また,甲2号証の段落0018には,結晶層2がGaN系化合物半導体である場合には,レーザー光3の照射により,基板1と結晶層2の境界付近に金属ガリウムが蓄積されることは記載されているが,改質層形成工程の実行中に前記被加工材を加熱して,前記溶融した改質層物質の一部を前記被加工材の外部に排出する排出工程については,記載も示唆もされていない。甲3?甲5号証は,いずれもレーザー照射を真空において行うことは記載されているものの,上記相違点1に係る本件発明1の構成については,記載も示唆もされていない。さらに,周知例1にも,上記相違点1に係る本件発明1の構成については,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1において,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項に基づいて,上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 上記相違点2について検討すると,引用発明1は,「レーザービーム102」を移動させることにより,「左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加し」,「横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると」,「切断304より高い上層307を主要結晶から分離される」ものであり,「レーザービーム102」を移動させるという1つの工程によりスライスを行うものであるところ,それを「前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程」及び「前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」という2つの工程で行うように変更することは,記載も示唆もされていない。
また,甲2号証?甲5号証及び周知例1にも,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることについて,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1において甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項に基づいて,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ よって,本件発明1は,引用発明1,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

(2)本件発明2?3について
本件発明2?3は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1と同様に,引用発明1,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

(3)本件発明5について
(3.1)引用発明1a
上記1.1の(1)(1.1)で検討したとおり,甲1号証には,「窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する方法」の発明である引用発明1が記載されていることに照らすと,甲1号証には,当該方法を行う装置の発明として,次の発明(以下「引用発明1a」という。)が記載されているものと認められる。
「レーザビーム102を,窒化ガリウム結晶101の100μmの深さで上部結晶面105下に集束し,窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす手段と,
レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動し,これに起因して窒化ガリウムの分解が起こり,左から右に結晶の奥深くに横方向切断304の幅が増加し,横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離する手段と,
熱応力によって窒化ガリウムに亀裂が起こるのを防ぐために,レーザー切断がTp=600℃の温度で行われるようにする手段とを備えた,
窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する装置。」

(3.2)対比
本件発明5と引用発明1aを対比する。
ア 上記1.1の(1)(1.2)における本件発明1と引用発明1との対比を参照すると,引用発明1aにおける「レーザビーム102を,窒化ガリウム結晶101の100μmの深さで上部結晶面105下に集束し,窒化ガリウム結晶101のレーザービーム集束近傍106で窒素ガスおよび液体ガリウムに化学分解を引き起こす手段」は,本件発明5における「レーザ光を,集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部」に相当する。
イ 本件発明5における「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部」と引用発明1aにおける「熱応力によって窒化ガリウムに亀裂が起こるのを防ぐために,レーザー切断がTp=600℃の温度で行われるようにする手段」は,「前記被加工材を加熱する」「手段」である点で共通する。
ウ 本件発明5における「被加工材の内部に改質層を形成し,当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置」と,引用発明1aにおける「窒化ガリウム半導体結晶の表層を分離する装置」とは,「基板のスライス装置」である点で共通する。

以上によれば,本件発明5と引用発明1aの一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。
<一致点>
「基板のスライス装置であって,
レーザ光を,集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と,
前記被加工材を加熱する手段と,
を備える,スライス装置。」
<相違点1a>
本件発明5は,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出部」との構成を備えるのに対し,引用発明1aは,「被加工材を加熱する」「手段」に対応する構成は備えているものの,上記「排出部」の構成は特定されていない点。
<相違点2a>
「基板のスライス装置」について,本件発明5は,「被加工材の内部に改質層を形成し,当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する」ものであるのに対し,引用発明1aは,当該構成を備えることが特定されていない点。
<相違点3a>
本件発明5は,「前記集光部の温度を測定するための第1温度センサ」を備えるのに対し,引用発明1aは,当該構成を備えることが特定されていない点。
<相違点4a>
本件発明5は,「前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサ」を備えるのに対し,引用発明1aは,当該構成を備えることが特定されていない点。
<相違点5a>
本件発明5は,「前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて,前記改質層が融点以上,前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部」を備えるのに対し,引用発明1aは,当該構成を備えることが特定されていない点。

(3.3)相違点についての判断
上記相違点1a及び相違点2aは,上記1.1の(1)(1.2)で認定した相違点1及び相違点2に,それぞれ対応するものである。そうすると,上記1.2の(1)ア,イで検討したのと同様に,引用発明1aにおいて,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項に基づいて,上記相違点1a及び相違点2aに係る本件発明5の構成とすることは,当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって,上記相違点3a?5aについて検討するまでもなく,本件発明5は,引用発明1a,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

(4)本件発明6?9について
本件発明6?9は,いずれも本件発明5の全ての構成を有する発明であるから,本件発明5と同様に,引用発明1,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

(5)本件発明11について
ア 上記1.1の(1)(1.2)における本願発明1と引用発明1の対比を参照しつつ本件発明11と引用発明1を対比すると,両者の一致点及び相違点は以下のようになる。
<一致点>
「レーザ光を,集光部を介して被加工材の内部に集光させ,当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と,
前記被加工材を加熱する工程と,
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させる走査工程と,
前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と,
を備える,
スライス方法。」
<相違点1b>
本件発明11では,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する排出工程」を備えるのに対し,引用発明1では,当該「排出工程」が特定されていない点。
<相違点2b>
本件発明11では,「前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程」及び「前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」により被加工材のスライスを行っているのに対し,引用発明1では,「レーザービーム102を結晶に入射する結晶面105に平行かつ集束レーザービームの軸103に直交する水平(横方向)面を1.5cm/sの速さで移動」させ,「横方向切断304によって結晶の右側境界面に到達すると,結晶101の連続性が乱され,切断304より高い上層307を主要結晶から分離される」ことでスライスを行うものであり,「前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程」及び「前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程」という2つの工程は特定されていない点。
<相違点3b>
本件発明11では,「前記排出工程は,前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記被加工材の周囲を負圧にする工程を有する」のに対し,引用発明1では,当該工程が特定されていない点。

イ 上記相違点のうち,相違点1b及び相違点2bは,上記1.1の(1)(1.2)で認定した相違点1及び相違点2にそれぞれ対応するものである。そうすると,上記1.2の(1)ア,イで検討したのと同様に,引用発明1において甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項に基づいて,上記相違点1b及び相違点2bに係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって,上記相違点3bについて検討するまでもなく,本件発明11は,引用発明1,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

(6)取消理由2についてのまとめ
よって,本件発明1?3,5?9,11は,引用発明1又は引用発明1a,甲1?甲5号証及び周知例1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明ではない。

1.3 小括
以上のとおりであるから,取消理由1,2によっては本件発明1?3,5?9,11に係る特許を取り消すことはできない。

2.取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
上記申立理由A?Cのうち,申立理由A?Bは,以下の(1)を除き,取消理由通知書に記載した取消理由1?2と同旨であるから,申立理由A?Bについての当審の判断は上記1.1?1.3に示したとおりである。
そして,他の申立理由についての当審の判断は以下のとおりである。

(1)申立理由B(進歩性)の本件発明2,5について
ア 本件発明2と引用発明1を対比すると,上記1.1の(1)(1.2)で認定した相違点1?2に加え,本件発明2では「前記排出工程は」「前記集光部の耐熱温度以下に加熱する」のに対し,引用発明1では,「前記集光部の耐熱温度以下に加熱する」ことが特定されていない点で相違する(以下,「相違点3」という。)。
ここで,甲6号証には,熱レンズ効果によって生ずるレンズの焦点位置の変動を調節するための装置及び方法として,温度センサ31がレンズ18の温度を検出し,焦点距離の変動分を補うように,制御装置32が駆動モータ23を駆動させることで,レンズを適切な位置に調節する技術が記載されている(段落0001,0021)。しかしながら,甲6号証には,「前記集光部の耐熱温度以下に加熱する」ことは記載も示唆もされていない。そうすると,引用発明1において,上記相違点3に係る本件発明2の「前記集光部の耐熱温度以下に加熱する」構成とすることは,甲6号証から容易に想到し得たことではない。

イ 本件発明5と引用発明1aを対比すると,上記1.2の(3)(3.2)で認定した相違点1a?5aにおいて相違する。
ここで,甲6号証の段落0019には,温度センサ31を介してレンズ18の温度を監視することが記載されているから,「前記集光部の温度を測定するための第1温度センサ」について記載されているといえる。しかしながら,上記アで述べたとおり,甲6号証に記載されている技術は,熱レンズ効果によって生ずるレンズの焦点位置の変動を調節するために,温度センサ31がレンズ18の温度を検出し,焦点距離の変動分を補うように,制御装置32が駆動モータ23を駆動させることで,レンズを適切な位置に調節する技術であるから,上記相違点5aの「前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて,前記改質層が融点以上,前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部」については,記載も示唆もされていない。そうすると,引用発明1aにおいて,上記相違点5aに係る本件発明5の構成とすることは,甲6号証から容易に想到し得たことではない。

ウ したがって,本件発明2は,引用発明1及び甲6号証から当業者が容易に発明をすることができたものではない。また,本件発明5は,引用発明1a及び甲6号証から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)申立理由C(実施可能要件)について
ア 請求項2の「集光部の耐熱温度」について
特許明細書等の段落0033の記載によれば,「対物レンズ7が本発明の「集光部」に対応する」ものであるところ,対物レンズは,特許明細書等の【背景技術】である段落0008等に記載されているように,従来から用いられているものであるから,その耐熱温度の具体的な記載がなくとも,請求項2に係る発明は当業者であれば実施できるものである。

イ 請求項5の「排出部」について
請求項5の「排出部」は,「前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに,ガスを発生させ,前記溶融した改質層物質の一部を,前記発生させたガスの圧力により,前記被加工材の外部に排出する」ものであるところ,請求項5を引用する請求項7には,「前記排出部は,前記被加工材と接触して加熱する接触式の熱源を有する」と記載され,請求項5を引用する請求項8には,「前記排出部は,前記被加工材と接触せずに加熱する非接触式の熱源を有する」と記載され,また,請求項5を引用する請求項9には,「前記排出部は,前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように,前記被加工材の周囲を負圧にする真空チャンバおよび真空ポンプを有する」と記載されている。
そして,特許明細書等の段落0049,0052には,熱源2によりGaの融点Tm以上に被加工材1を加熱する場合,Ga部8a,N2ガス8dが発生するが,改質層8中で既レーザ照射部8fは溶融したGaとして存在し,発生したN2ガス8dによる被加工材1の内部の圧力(内圧)は,溶融したGaを押し出すことが記載され,また,同段落0066には,「なお,上記第1,第2および第3の各実施の形態に係る熱源2では,接触式の熱源(例えばホットプレートなど)が用いられたが,本発明はこれに限らず,例えば,図7に示すような非接触式熱源40が用いられてもよい。」と記載されており,上記請求項7及び8に記載されている接触式又は非接触式の熱源について記載されているといえる。
さらに,同段落0057には,「真空チャンバ20は,被加工材1を覆うような形で設置されている。真空チャンバ20の対物レンズ7側の面は,熱線カットフィルタ12で構成されている。熱線カットフィルタ12は,レーザ光5を90%以上透過するが,熱線をカット(吸収)する。真空ポンプ21は,真空チャンバの排気口に接続されており,真空チャンバ20の内部を真空引きすることができる。」と記載されており,上記請求項9に記載されている真空チャンバ及び真空ポンプについて記載されているといえる。
そうすると,特許明細書等には,請求項5に記載されている「排出部」について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。


第8 結言
したがって,本件請求項1?3,5?9,11に係る特許は,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことはできない。また,他に本件請求項1?3,5?9,11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を、集光部を介して被加工材の内部に集光させ、当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と、
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに、ガスを発生させ、前記溶融した改質層物質の一部を、前記発生させたガスの圧力により、前記被加工材の外部に排出する排出工程と、
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで、前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と、
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と、
を備え、
前記排出工程は、前記改質層形成工程の実行中に行われる、ことを特徴とするスライス方法。
【請求項2】
前記排出工程は、前記被加工材を、前記改質層の融点以上、前記被加工材の融点以下かつ前記集光部の耐熱温度以下に加熱する、請求項1に記載のスライス方法。
【請求項3】
前記排出工程は、前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように、前記被加工材の周囲を負圧にする工程を有する、請求項1または2に記載のスライス方法。
【請求項4】
レーザ光を、集光部を介して被加工材の内部に集光させ、当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と、
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに、ガスを発生させ、前記溶融した改質層物質を、前記発生させたガスの圧力により、前記被加工材の外部に排出する排出工程と、
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで、前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と、
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と、
を備え、
前記排出工程は、前記改質層形成工程の実行中に行われ、
前記排出工程は、前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて、当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように、前記改質層に電圧を印加する工程を有する、スライス方法。
【請求項5】
被加工材の内部に改質層を形成し、当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置であって、
レーザ光を、集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ、当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と、
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに、ガスを発生させ、前記溶融した改質層物質の一部を、前記発生させたガスの圧力により、前記被加工材の外部に排出する排出部と、
前記集光部の温度を測定するための第1温度センサと、
前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサと、
前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて、前記改質層が融点以上、前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部と、
を備える、スライス装置。
【請求項6】
前記レーザ光と前記被加工材の間に前記レーザ光を透過するが、熱を遮断するフィルタを有する、ことを特徴とする請求項5に記載のスライス装置。
【請求項7】
前記排出部は、前記被加工材と接触して加熱する接触式の熱源を有する、請求項5または6に記載のスライス装置。
【請求項8】
前記排出部は、前記被加工材と接触せずに加熱する非接触式の熱源を有する、請求項5または6に記載のスライス装置。
【請求項9】
前記排出部は、前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように、前記被加工材の周囲を負圧にする真空チャンバおよび真空ポンプを有する、請求項5から8のいずれかに記載のスライス装置。
【請求項10】
被加工材の内部に改質層を形成し、当該改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する基板のスライス装置であって、
レーザ光を、集光部を介して前記被加工材の内部に集光させ、当該被加工材の内部における集光点近傍に前記改質層を形成する改質層形成部と、
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに、ガスを発生させ、前記溶融した改質層物質を、前記発生させたガスの圧力により、前記被加工材の外部に排出する排出部と、
前記集光部の温度を測定するための第1温度センサと、
前記被加工材の温度を測定するための第2温度センサと、
前記第1および第2の温度センサの測定結果に基づいて、前記改質層が融点以上、前記被加工材が融点以下および前記集光部が耐熱温度以下になるように排出部を制御する温度制御部と、
を備え、
前記排出部は、前記溶融した改質層物質の濡れ性を向上させて、当該溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように、前記改質層に電圧を印加する電圧印加部を有する、スライス装置。
【請求項11】
レーザ光を、集光部を介して被加工材の内部に集光させ、当該被加工材の内部における集光点近傍に改質層を形成する改質層形成工程と、
前記被加工材を加熱することにより前記被加工材の内部で前記改質層を溶融するとともに、ガスを発生させ、前記溶融した改質層物質の一部を、前記発生させたガスの圧力により、前記被加工材の外部に排出する排出工程と、
前記被加工材の内部に集光させた前記レーザ光を走査させることで、前記被加工材の内部に前記改質層により境界を形成する走査工程と、
前記改質層を境界として前記被加工材を少なくとも2枚以上の基板に分離する分離工程と、
を備え、
前記排出工程は、前記溶融した改質層物質を前記被加工材の外部に排出し易くするように、前記被加工材の周囲を負圧にする工程を有する、ことを特徴とするスライス方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-23 
出願番号 特願2016-71040(P2016-71040)
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (H01L)
P 1 652・ 121- YAA (H01L)
P 1 652・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
登録日 2020-02-06 
登録番号 特許第6655833号(P6655833)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 スライス方法およびスライス装置  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ