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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1377034 |
審判番号 | 不服2019-14230 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-25 |
確定日 | 2021-08-13 |
事件の表示 | 特願2018-502641「電気光学媒体との使用のためのポリマー配合組成」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日国際公開、WO2017/015561、平成30年 8月23日国内公表、特表2018-523727〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年7月22日(パリ条約による優先権主張:平成27年7月23日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成31年1月8日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年6月10日に意見書が提出されたが、同年6月24日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年10月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年10月28日に手続補足書が提出されたものである。 第2 令和元年10月25日提出の手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年10月25日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 令和元年10月25日提出の手続補正における補正事項 令和元年10月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「組成物であって、 ウレタンアクリレートと、 接着促進剤と、 伝導性モノマーと を含み、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物。」 を、補正後の特許請求の範囲の請求項1である 「組成物であって、 ウレタンアクリレートと、 芳香族モノアクリレートオリゴマー、酸性アクリレート、およびこれらの混合物からなる群から選択される接着促進剤と、 エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー、アルコキシ化フェノールアクリレートモノマー、カプロラクトンアクリレートモノマー、2-フェノキシエチルアクリレートモノマー、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー、イソオクチルアクリレートモノマー、イソデシルアクリレートモノマー、ポリエーテルアクリレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される伝導性モノマーと を含み、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物。」 とする補正を含むものである。 したがって、本件補正は、次の補正事項1、2を含むものである。 (1)補正事項1 「接着促進剤」を「芳香族モノアクリレートオリゴマー、酸性アクリレート、およびこれらの混合物からなる群から選択される接着促進剤」と補正する。 (2)補正事項2 「伝導性モノマー」を「エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー、アルコキシ化フェノールアクリレートモノマー、カプロラクトンアクリレートモノマー、2-フェノキシエチルアクリレートモノマー、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー、イソオクチルアクリレートモノマー、イソデシルアクリレートモノマー、ポリエーテルアクリレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される伝導性モノマー」と補正する。 2 補正の適否について (1)新規事項の判断手法 特許法第17条の2第3項は、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正するときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定している。当初明細書等に記載した事項とは、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということができる。 そこで、本件補正が、当業者によって、国際出願日における明細書、請求の範囲又は図面の中の説明の翻訳文、並びに図面(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかを検討する。 (2)翻訳文等に記載された事項 翻訳文等には、上記請求項1に関連する記載としては、以下のものがある。 ア「【請求項1】 組成物であって、 ウレタンアクリレートと、 接着促進剤と、 伝導性モノマーと を含み、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物。 【請求項2】 光開始剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 酸化金属粒子をさらに含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項5】 前記酸化金属粒子は、100nmまたはそれ未満の平均粒子粒径を有する、請求項4に記載の組成物。 【請求項6】 前記酸化金属粒子は、18を上回る原子番号を伴う金属を含む、請求項4に記載の組成物。 【請求項7】 前記金属は、チタン、銅、インジウム、亜鉛、ニッケル、スズ、ランタン、セリウム、およびジルコニウムから成る群から選択される、請求項6に記載の組成物。 【請求項8】 前記組成物は、0.01%?25%酸化金属粒子(重量粒子/重量組成物)を含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項9】 前記組成物は、1%未満の金属を含有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項10】 前記伝導性モノマーの分子量は、1000g/mol未満である、請求項1に記載の組成物。 【請求項11】 非伝導性モノマーをさらに含み、前記非伝導性モノマーは、ホモポリマーとして硬化されると、10^(10)Ohm・cmを上回る体積抵抗率を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項12】 前記組成物の体積抵抗率は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(7)?10^(9)Ohm・cmである、請求項1に記載の組成物。 【請求項13】 前記組成物の体積抵抗率は、1週間、25℃で硬化されると、10^(8)?10^(9)Ohm・cmである、請求項12に記載の組成物。 【請求項14】 前記組成物は、-25℃未満のガラス遷移温度(T_(g))を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項15】 前記組成物は、可視光に対して1.0?2.0の屈折率を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項16】 前記伝導性モノマーは、アクリレート官能基を含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項17】 前記アクリレート官能基は、アルコキシ化される、請求項16に記載の組成物。 【請求項18】 加えて、イオン性液体を含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項19】 前記イオン性液体は、0.1%(重量イオン性液体/前記組成物の重量)未満で存在する、請求項18に記載の組成物。 【請求項20】 前記イオン性液体は、リン酸塩、ホウ酸塩、スルホンアミド、またはシアナミド塩を含む、請求項18に記載の組成物。 ・・・ 【請求項24】 電気光学ディスプレイの層の厚さを判定するための方法であって、 電気光学ディスプレイを提供するステップであって、前記電気光学ディスプレイは、 電気光学媒体と、 光透過性電極と、 ウレタンアクリレートと、接着促進剤と、酸化金属粒子と、伝導性モノマーを含む組成物を含む層であって、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、層と を含む、ステップと、 前記酸化金属に対応するX線蛍光信号の強度を測定するステップと、 前記電気光学ディスプレイの層の厚さを判定するステップと を含む、方法。 【請求項25】 前記酸化金属粒子は、ジルコニウム酸化物を含む、請求項24に記載の方法。」 イ「【0014】 本発明の、すなわち、本明細書に説明されるような配合組成は、改良された伝導性、接着性、および光学特性を伴う接着剤ならびに/または平坦化層を提供することによって、先行技術の欠点を克服する。配合組成は、種々の電気光学媒体と併用するために非常に好適である。 【0015】 一側面では、本発明は、ウレタンアクリレートと、接着促進剤と、伝導性モノマーとを含む、ポリマー組成物を提供する。組成物は、典型的には、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を生産するであろう。典型的には、配合組成は、非常にわずかのみのまたは実質的に無溶媒を含む。ポリマー組成物は、電気光学ディスプレイの構築において等、低溶媒比導電率コーティングが有益である、種々の用途のために使用されることができる。ポリマー組成物はまた、酸化金属粒子、例えば、酸化金属ナノ粒子を含んでもよい。酸化金属ナノ粒子は、層状活性材料、例えば、前面ラミネート(FPL)の全体的屈折率が、FPLが設置される基板の屈折率に合致するように、組成物の屈折率を改変するように選択されることができる。例えば、組成物の屈折率は、可視光に対して1.0?2.0となるように加工されることができる。 【0016】 ポリマー組成物は、加えて、UV硬化を促進するための光開始剤、および/または強度を改良するための架橋剤を含んでもよい。ポリマー組成物はまた、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]イミド(EMI TFSI)等のイオン性液体を含んでもよい。例示的ウレタンアクリレートは、脂肪族および/または芳香族官能基を含んでもよい。例示的伝導性モノマーは、アルコキシ化アクリレート、カプロラクトンアクリレート、およびアクリル等の官能化アクリレートモノマー(および/またはオリゴマー)を含む。本明細書に説明されるように、ポリマー組成物は、比導電率、光学、および/または機械的特性を達成するように調整されることができる。例えば、非伝導性希釈モノマーは、組成物のための具体的体積抵抗率を達成するために添加されることができる。」 ウ「【0019】 別の側面では、本発明のポリマー組成物は、電気光学ディスプレイの中に組み込まれることができる。そのようなディスプレイは、電気光学媒体と、伝導性層と、本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート、接着促進剤、および伝導性モノマー)とを含む。電気光学媒体は、液晶、エレクトロクロミック材料、または電気泳動材料を含んでもよい。特に、カプセル化された電気泳動媒体(EEM)を使用する電気光学ディスプレイは、平坦化接着剤としての本発明のポリマー組成物の使用に伴って改良される。典型的には、EEMを使用するディスプレイの加工の際、EEM層は、剥離または伝導性材料のシートにわたって拡散され、乾燥または硬化される。いったん拡散されると、EEMの層は、剥離または電極の別の層と整合するためにあまり好適ではない、不規則表面形態を呈する。本発明のポリマー組成物は、EEM層の表面の粗度を平滑化し、別の基板または電極に接合されるようにEEM層を調製するために使用されることができる。さらに、ポリマー組成物の体積抵抗率は、調節されることができるため、電極間の抵抗率は、標的作業条件下での最適性能のために修正されることができる。 【0020】 ある実施形態では、電気光学ディスプレイは、電気光学媒体を提供し、電気光学媒体と、本発明のポリマー組成物(すなわち、10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、ウレタンアクリレート、接着促進剤、および伝導性モノマーを含む)とを接触させることによって加工されてもよい。いくつかの事例では、電気光学媒体は、本発明のポリマー組成物によって平滑化(平坦化)された表面不規則性を有するであろう。加工方法は、加えて、例えば、熱またはUV光を使用して、ポリマー組成物を硬化するステップを含んでもよい。付加的ステップは、剥離シートまたは伝導性層をポリマー組成物に積層するステップを含んでもよい。本発明はまた、本発明のポリマー組成物を組み込む、前面ラミネート、反転前面ラミネート、または二重剥離シートに拡張される。」 エ「【0021】 別の側面では、ポリマー組成物は、可変透過性(VT)媒体の中に組み込まれることができ、その光学透過性は、要求に応じて修正されることができる。典型的には、VT媒体は、透明基板と、電気光学媒体と、第1の透明電極と、第2の透明電極と、本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート接着促進剤、二官能性架橋剤、非伝導性希釈剤、および硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマー)とを含むであろう。・・・ ・・・ 【0023】 伝導性モノマーならびに/またはナノ粒子添加剤の量およびタイプを修正することによって、具体的屈折率を伴う接着剤を達成し、それによって、用途の必要性に応じて、種々の電気光学媒体および基板の使用を可能にすることが可能である。ある実施形態では、電気光学媒体は、ポリマー分散電気泳動媒体またはカプセル化電気泳動媒体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、加えて、例えば、低濃度においてイオン性液体を含むであろう。」 オ「【0042】 本発明は、ウレタンアクリレートと、接着促進剤と、伝導性モノマーとを含む、ポリマー組成物を含む。伝導性モノマーは、典型的には、高イオン性伝導性特徴を硬化されたフィルムにもたらす、低分子量(<1000g/mol)単官能モノマーである。いくつかの実施形態では、モノマーは、極性官能基を含み、水に対して中程度の親和性を呈する。モノマー(または配合組成)の伝導性特徴は、硬化されたフィルム、例えば、「ホモポリマー」を1週間25℃および50%相対湿度(RH)に暴露し、次いで、硬化されたフィルムの体積抵抗率の測定を行うことによって判定される。伝導性モノマーは、典型的には、10^(10)Ohm・cm未満、より典型的には、1×10^(8)?9×10^(9)Ohm・cmの体積抵抗率を呈する。」 カ「【0043】 伝導性モノマーに加え、本発明の配合組成はまた、他の成分の中でもとりわけ、非伝導性希釈モノマー、架橋剤、光開始剤、および可塑剤を含んでもよい。伝導性モノマーのように、非伝導性モノマーも、典型的には、低分子量(<1000g/mol)の単官能モノマーである。しかしながら、伝導性モノマーと異なり、非伝導性希釈モノマーは、10^(11)Ohm・cmを上回る、例えば、10^(12)Ohm・cmを上回る測定された伝導性を有する。表1は、ガラス遷移温度(T_(g))、屈折率、および伝導性に影響を及ぼすためにポリマー配合組成に添加され得る、添加剤を列挙する。 表1.本発明の配合組成に添加され得るモノマーのガラス遷移温度(Tg)、屈折率(nN)、および比重。添加剤毎の説明および販売元は、以下の表1に列挙される。 【表1】 Sartomer SR9087-市販のアルコキシ化フェノールアクリレートモノマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR339-市販の2-フェノキシエチルアクリレートモノマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR495B-市販のカプロラクトンアクリレートモノマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR9038-市販のエトキシル化(30)ビスフェノールAジアクリレートモノマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer CN966H90-10%の2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートとブレンドされた市販の脂肪族ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR349-市販のエトキシル化(3)ビスフェノールAジアクリレートモノマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer CD9055-市販の酸性アクリレート接着促進剤。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR531-市販の環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)モノマー。Sartomer(Exton, PA)。 SartomerCN3108-市販のアクリレートオリゴマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer SR256-市販のアクリレートオリゴマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer CN9782-市販の芳香族ウレタンアクリレートオリゴマー。Sartomer(Exton, PA)。 Sartomer CN131B-市販の低粘度アクリルオリゴマー。Sartomer(Exton, PA)。」 キ「【0044】 表1に列挙される成分に加え、他の添加剤も、体積抵抗率を調節するために含まれてもよく、例えば、Sartomer SR440(市販のイソオクチルアクリレートモノマー)Sartomer SR395(市販のイソデシルアクリレートモノマー)、およびRahn M166(市販のポリエステルアクリレート;Rahn AG, Zurich, Switzerland)が挙げられる。組成物は、加えて、Sartomer CN964(市販のウレタンジアクリレートオリゴマー)等の架橋剤、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(両方ともSigma-Aldrich, Milwaukee, WI)等の光開始剤、および/またはグリセロール、炭酸プロピレン、またはフタル酸塩(Sigma-Aldrichから市販)等の可塑剤を含んでもよい。いくつかの事例では、Sartomer CN964(市販のウレタンアクリレートオリゴマー)等の付加的接着剤樹脂が、添加されることができる。いくつかの実施形態では、配合組成は、0?70%(重量/重量)伝導性モノマー、例えば、5?50%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、0?50%(重量/重量)非伝導性モノマー、例えば、5?45%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、0?40%(重量/重量)架橋剤、例えば、5?15%(重量/重量)、例えば、10?15%(重量/重量)を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、0?50%(重量/重量)接着促進剤、例えば、5?45%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、2%未満(重量/重量)光開始剤、例えば、約1%(重量/重量)光開始剤、例えば、約0.5%(重量/重量)光開始剤を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、2%未満(重量/重量)可塑剤、例えば、約1%(重量/重量)可塑剤、例えば、約0.5%(重量/重量)可塑剤を含むであろう。いくつかの実施形態では、配合組成は、1%未満(重量/重量)イオン性液体、例えば、0.5%未満(重量/重量)イオン性液体、例えば、0.1%未満(重量/重量)イオン性液体を含むであろう。」 ク「【0047】 典型的には、配合組成は、処理、例えば、コーティングおよび積層の間、適切に流動するために、低粘度(5000cP未満、例えば、2000cP未満、例えば、1000cP未満)を要求するであろう。低粘度は、配合組成が低コーティング重量で材料をコーティングするが、依然として、硬化前に均平を達成することを可能にする。それでもなお、配合組成は、依然として、硬化に先立って、材料を脱湿潤させない、またはインク表面を優先的に湿潤させる、十分な高粘度を有していなければならない。本理由から、本発明の配合組成は、典型的には、また、硬化の間、例えば、光開始を介して活性化される、架橋剤を含む。使用される架橋剤のタイプは、コーティングされるべき材料に伴って変動し得、例えば、異なる架橋剤が、電気光学媒体がカプセル化された液体ポリマーまたは電気光学無機固体であるかどうかに応じて使用されてもよい。加えて、加工プロセスの間の架橋結合のタイミングも、用途の必要性に応じて変動し得る。例えば、いくつかの実施形態では、接着剤層は、電気光学媒体に適用された後、または積層プロセスの間に架橋結合されるであろう。他の実施形態では、接着剤層は、前面ラミネート等の電気光学アセンブリが加工された後に架橋結合されるであろう。架橋結合が加工の後に開始されるとき、接着剤層に隣接する電極または剥離シートは、光開始のために必要とされる光に対して実質的に透明でなければならない。当然ながら、熱等のポリマーを架橋結合させるための他の手段も、用途に応じて使用されることができる。 【0048】 配合組成の接着性およびコーティングとしての性能は、2つの主要な方法において助長されることができる。1つ目は、接合されるべき表面に対して接着剤層の親和性を増加させることである。2つ目は、剥離力を、層剥離の代わりに、ポリマー運動中に消散させることである。重要なこととして、ポリマー間の凝集力が、ポリマーと表面との間の接着力より強い場合、ポリマーは、表面から剥ぎ取られるであろう。逆の状況では、すなわち、接着剤力が凝集力より強い場合、ポリマーは、分裂し、わずかのみ表面に付着するであろう。最良性能のために、接着力は、ポリマー間の凝集力より強いように選択されるが、しかしながら、接着性および凝集性の両方とも、比較的に高くあるべきである。 【0049】 接着剤および凝集力は両方とも、ポリマーの官能基ならびにモノマー単位の長さを修正することによって改変されることができる。例えば、ウレタンは、大きい種々の表面に対して比較的に強い親和性を有するが、ある官能基(例えば、カルボキシル酸、アミン、アセタール、フェニル基)の添加は、表面の組成物に応じて、接着性を著しく改良することができる。同時に、配合組成が剥離力に暴露されるときの層剥離を回避するために必要なエネルギーの消散は、比較的に長く、絡合されたポリマー鎖を生成することによって改良される。これは、プレポリマー(例えば、硬化前に数千分子量単位である二官能アクリレート)を使用する、架橋結合密度を変動させる、または硬化条件を変動させることによって行われることができる。」 ケ「【0050】 モノマー自体の組成物に加え、ポリマー混合物の屈折率も、添加剤の含有に伴って改変されることができる。例えば、より短く、かつより高い官能性の架橋剤は、屈折率におけるより大きい増加につながる一方、非常に長い架橋剤は、わずかな増加につながる。加えて、硬化されたフィルムは、典型的には、非硬化混合物より若干高い屈折率を有する。(硬化するにつれたポリマー内の無減少体積に起因した硬化に伴う屈折率依存性が可能性として考えられる。)電気光学媒体の屈折率は、実質的に変動し得る、例えば、ポリマー分散電気泳動媒体は、約1.5の屈折率を有し得る一方、エレクトロクロミック媒体の屈折率は、2を上回り得る。いったん電気泳動媒体が選択されると、本発明のポリマー混合物を修正し、必要に応じて、屈折率整合配合組を達成することが可能である。特に、良好な透明性を達成するために、配合組成の屈折率は、電気光学媒体がクリア状態にあるとき、電気光学媒体の屈折率に可能な限り近くあるべきである。 【0051】 接着剤層の屈折率は、高屈折酸化金属ナノ粒子の添加によって調整されることができる。接着剤にナノ粒子をドープすることは、Tgおよび伝導性に影響を及ぼさずに、屈折率が調整されることを可能にする。好ましい充填剤は、高屈折率ナノ材料を有し、低Tg高伝導性UV流体連続相中に分散可能である。そのような組成物は、マトリクスを通して高伝導性経路を残し、ナノ材料および硬化されたUV流体の平均である屈折率を生産するであろう(充填剤が浸透濃度を下回る限り)。金属ナノ粒子もまた、本発明の組成物中に含まれ、屈折率を修正することができる。適切に選定されると、ナノ粒子の組成物、粒径、および量は、組成物の屈折率が、電気光学媒体の屈折率に合致する、または電気光学媒体の屈折率に反作用するように、組成物の屈折率を改変することができる。すなわち、本発明の組成物は、層、例えば、電気光学層および光透過性電極層間の界面を調整し、全体的透過性を改良し、うねり、斑点、または他の歪曲を低減させるために使用されることができる。いくつかの実施形態では、金属ナノ粒子は、ジルコニアナノ粒子等の酸化金属ナノ粒子である。好適なナノ粒子は、Pixelligent(Baltimore, MD)およびSigma Aldrich(Milwaukee, WI)等のいくつかの供給業者から市販されている。ナノ粒子は、典型的には、(平均して)500nm未満の粒径、例えば、(平均して)300nm未満の粒径、例えば、(平均して)200nm未満の粒径、例えば、(平均して)100nm未満の粒径、例えば、(平均して)50nm未満の粒径、例えば、(平均して)20nm未満の粒径である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、狭粒径分布(すなわち、3?7nm)を伴う、約5nmの平均粒径を有する。加えて、ナノ粒子は、表面処理され、分散性を改良し、また、ポリマー混合物内の架橋結合のための活性部位を提供することができる。両面処理および未処理のジルコニウム、チタン、銅、インジウム、亜鉛、ニッケル、スズ、ランタン、およびセリウムナノ粒子を含む、種々の金属ナノ粒子が、本発明と併用されてもよい。他の実施形態では、これらの金属の酸化物、炭化物、または窒化物が、好適なナノ粒子を作製するために使用されてもよく、例えば、ZrO_(2)、TiO_(2)、ZnO、MnO、NiO、CdO、Cr_(2)O_(3)、Mn_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、またはCeO_(2)が挙げられる。 【0052】 屈折率および接着特性の修正に加え、ポリマー配合組成の性能は、伝導性を修正することによって改良されることができる。例えば、電気光学材料を伴う多くの用途では、約1x10^(9)Ohm・cmの体積抵抗率を有することが有益である。これは、体積抵抗率約1×10^(13)Ohm・cm(すなわち、絶縁性)を有する従来の接着剤と比較して、比較的に低体積抵抗率である。したがって、所望の抵抗率を達成するためのモノマータイプおよび官能性を選択することが有益である。しかしながら、多くの場合、伝導性を増加させる添加剤は、配合組成の光学または機械的特性に悪影響を及ぼす。例えば、伝導性金属粒子の添加は、接着剤および光学特性を著しく変化させる。故に、容認可能物理的特性を維持しながら、伝導性を促進するための接着剤の設計において妥協することが必要である。 【0053】 本発明のポリマー配合組成では、伝導性特性は、硬化されたネットワークを通してイオン輸送を促進するモノマーを添加することによって改良される。多数の電荷担体およびそれらの電荷担体のための多数の結合部位の両方を助長するための2つの主要な方法がある。1つ目は、カルボニルまたはアルコキシ基を含むモノマー等の極性ゴム状吸湿性モノマーを組み込むことである。2つ目は、有機イオン性ドーパントを添加することである。極性基およびドーパントクラスタは両方とも、電荷担体、おそらく、ヒドロニウムイオンおよび水酸化物イオンのための低エネルギー部位として作用する。しかしながら、伝導性モノマーまたはイオン性液体(IL)の含有は、排他的ではなく、いくつかの事例では、組み合わせは、伝導性モノマーおよびILからの寄与の加算和より低い、バルク体積抵抗率を達成する等の相乗効果をもたらし得る。 【0054】 本発明と併用するために好適なイオン性液体は、リン酸塩、スルホンアミド、ホウ酸塩、およびシアナミド等の強対イオンに結合されるイミダゾリウム等の近隣分子によって溶媒和される高帯電成分を伴う、有機化合物を含む。例えば、1-ブチル-3-ヘキサフルオロリン酸メチルイミダゾリウム(BMIPF6)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]イミド(BMITFSI)、1-デシル-3-ヘキサフルオロリン酸メチルイミダゾリウム(DMIPF6)、1-エチル-3-テトラフルオロホウ酸メチルイミダゾリウム(EMIBF4)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジシアンジアミド(EMIDCN)、および1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]イミド(EMITFSI)が挙げられる。」 コ「【0055】 ・・・二重刺激配合組成は、例えば、約40%(重量/重量)吸湿性アクリレートモノマー(伝導性を改良する、例えば、SR9088、またはSR9087)、約10%(重量/重量)ウレタンアクリレートオリゴマー(機械的特性を改良する、例えば、CN964)および約50%(重量/重量)アクリレートオリゴマーモノマー混成物(粘着剤/接着促進剤;例えば、CN3108)を含んでもよい。例えば、VT窓は、温度が所与の温度を上回って上昇すると、クリアから銀色状に変化し、それによって、暑い日に太陽からの入射光を最小限にすることに役立つように設計されてもよい。」 サ「【0059】 配合組成は、電気光学媒体を含むデバイス、例えば、前面ラミネートおよびディスプレイの構造において使用するために説明されるが、配合組成は、伝導性接着剤等の他の用途にも有用であり得ることを理解されたい。例えば、本発明の配合組成は、伝導性感圧式接着剤として使用されることができる。そのような配合組成は、約30%カプロラクトンアクリレートモノマー(例えば、SR495B)、約40%ポリエステル/ウレタンモノマー混成物(例えば、CN966H90)、および約30%アルキル化アクリレートモノマー(例えば、SR440)を含んでもよい。」 シ「【実施例1】 【0074】 表面平坦性の評価 【0075】 (メタ)アクリレート化ポリウレタンオリゴマー樹脂を含む、UV硬化性平坦化層が、カプセル化された電気泳動媒体上への堆積のために調製された。配合組成が、45百分率樹脂(phr)(メタ)アクリレート化樹脂(SR9088)および15phrポリエステルウレタンジアクリレートオリゴマー(CN964)および40phrアクリレートオリゴマー(CN3108)を瓶内で混合し、混合物を60℃まで2時間加熱し、次いで、一晩圧延し、高粘度ポリマー混合物を生産することによって調製された。徹底した混合後、1phrの1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(CPK)光開始剤および1phrのジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)光開始剤が、添加され、混合物が、40℃まで2時間加熱され、配合組成が、再び、一晩圧延され、混合物を均質化した。」 ス「【実施例2】 【0079】 配合組成性能の評価 ・・・ 【0082】 45phr SR9087と、15phr SR9038と、40phr CN3108と、0.5phr ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドと、0.5phr 1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトンとを含む、代替配合組成が、前述の技法を使用して調製された。・・・」 セ「【実施例3】 【0084】 VTガラスのためのUVポリマー配合組成 ・・・ 【0086】 モノマーの各混成物が、モノマーを計量し、表2に記載のモノマーをアンバーバイアル内において光開始剤およびイオン性液体とともに組み合わせることによって調製された。混合物は、次いで、12時間、ロールミル上で圧延され、配合組成の均一な混合を確実にした。いくつかの事例では、モノマーは、混合に先立って加温され、粘度を減少させた。いったん完了されると、各配合組成が、屈折率、体積抵抗率、および最大剥離力に関して評価された。表面処理されたジルコニアナノ粒子が、酢酸エチル中に懸濁された状態で(PCPB-50ETAおよびPCPG-50ETA, Pixelligent, Baltimore, MD)から購入されたが、これは、表面処理されたジルコニアを溶液に添加後、回転蒸発で除去された。体積抵抗率測定は、ITOガラスの2つの平面間の各フィルムを硬化し、次いで、Solartronインピーダンス分析器(Solartron Analytical、Farnborough、UK)を用いてインピーダンスを測定することを伴った。 【0087】 表2.VTガラスにおいて使用するために調製されたポリマー配合組成の組成物。 【表2】 【0088】 表2を見ると、伝導率および屈折率は、配合組成の組成物を変動させることによって調整されることができることが明白である。そのような配合組成は、したがって、動作条件および使用される材料の組成物に応じて、可変透過性媒体内の平坦化および接着層のための種々のオプションを提供する、例えば、電気光学媒体および透明媒体が挙げられる。」 ソ「【実施例4】 【0089】 ガラス遷移温度の修正 【0090】 屈折率の修正に加え、また、配合組成の屈折率をT_(g)および伝導率から分断することも可能である。これは、屈折率を改変するが、マトリクスを通して高伝導性経路を提供するように分散する、ナノ粒子を添加することによって行われることができる。屈折率をT_(g)および伝導率から分断する能力は、以下の配合組成および図12のグラフとともに図示される。実際は、温度に対する配合組成の伝導性応答が可能な限り平坦となるであろうように、配合組成のT_(g)を可能な限り低く保つことが望ましい。したがって、本配合組成を組み込む、ディスプレイまたはVTデバイスは、より広範な動作温度にわたって安定するであろう。接着剤配合組成が、以下に列挙される。配合組成Aは、有機物のみの配合組成であって、配合組成Bは、表面処理されたジルコニアナノ粒子を含み、配合組成Cは、表面処理されたジルコニアナノ粒子を伴わない配合組成Bであって、配合組成Dは、高T_(g)配合組成であった。図12は、これらの接着剤とともに構築されたディスプレイの抵抗率ならびに各接着剤のT_(g)を示す。図12における配合組成BおよびCの比較から明白であるように、表面処理されたジルコニアナノ粒子の添加は、ある範囲の温度にわたって伝導率曲線を事実上平坦化させる。 【0091】 配合組成A:40phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;40phr CN131B低粘度アクリルオリゴマー;0.5phr TPO光開始剤;および0.5phr CPK光開始剤。 【0092】 配合組成B:50phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;30phr SR495Bカプロラクトンアクリレート;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;PGMEA中50phr Pixclear PG50重量%ナノジルコニアゾル(PGの除去後、0.5phr TPO光開始剤および0.5phr CPK光開始剤)。 【0093】 配合組成C:50phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;30phr SR495Bカプロラクトンアクリレート;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;0.5phr TPO光開始剤、および0.5phr CPK光開始剤。 【0094】 配合組成D:15phr SR495B、40phr CN3108、45phr SR349エトキシル化(3)ビスフェノール-Aジアクリレート、0.5phr TPO光開始剤、および0.5phr CPK光開始剤・・・」 (3)甲号証に記載された事項(甲第1?11号証) 請求人が令和元年6月10日に提出した意見書には、甲第1?6号証が添付され、令和元年10月28日に提出した手続補足書には、甲第7?11号証が添付されている。(以下、「甲第1号証」?「甲第11号証」を「甲1」?「甲11」という。) 甲1には、次の事項が記載されている。 ア「 」(第48頁) (請求人による訳) 「いくつかの表面において、接着は、接着剤配合組成物中の成分として、または接着剤を施与する前に基板に適用されるプライマーとして別々に、のいずれかで、接着促進剤を使用して増強されなければなりません。接着促進剤は、二官能性または多官能性モノマーまたはオリゴマーであり、ここで、1つ以上の反応性基が基板に化学的に結合し、他の反応性基は、接着剤と結合を形成し、このようにして、分子架橋を生成します。」 また、当審が上記した請求人による訳以降を訳した。以下に記す。 (当審による訳) 「この架橋メカニズムのため、接着促進剤は、カップリング剤としても知られています。最も広く使われている接着促進剤は、アミノアルコキシシラン(例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン)とメルカプトアルコキシシランです。アミノ基又はメルカプト基がポリマーと化学結合を形成し、アルコキシ基が・・・」 甲2には、次の事項が記載されている。 イ「 」 (請求人による訳) 「ポリマー分子は、通常、それらが呼ばれるように、1つのみのマー-モノマー(単数または複数)を含む化合物(単数または複数)から誘導される」 甲3には、次の事項が記載されている。 ウ「 」 (請求人による訳) 「アクリルポリマーは、アクリル酸およびそのホモログの誘導体として構造的に考えられ得る。アクリルのファミリーは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のエステルおよびメタクリル酸のエステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、およびこれらの化合物のコポリマーに基づくある範囲の商業的ポリマーを含む。」 甲4には、次の事項が記載されている。 エ「 」 (請求人による訳) 「(Sartomer Company IncorporatedからE INK CorporationへのCN3108についてのe-mail) 20%SR339A(2-フェノキシエチルアクリレート) 60%CN131B(これは、芳香族モノ官能性エポキシアクリレートです) 20%CN9782(高分子量ポリエーテルウレタンアクリレートです)」 甲5には、次の事項が記載されている。 オ「 」 (当審による訳) 「(CN131B) 低粘度アクリルオリゴマー 説明 CN131Bは、低粘度芳香族モノアクリレートオリゴマーで、速硬化で強く柔軟な硬化フィルムを製造するのに使用される。 製品の特徴 高伸張性 水酸基官能性 製品性能 良好な接着性 良好な化学耐性 良好な固さ 良好な耐熱性 良好な耐水性 良好な耐候性 高い耐摩耗性 高い柔軟性 高い耐衝撃性 低収縮性 提案される用途 塗料 塗料、床 塗料、ガラス 塗料、金属 塗料、プラスチック 電気分野 電気分野、フォトレジスト インク (CN9782) 芳香族ウレタンアクリレート 説明 CN9782は、二官能芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーで、靱性、柔軟で、耐摩耗性の放射線硬化性フィルムの製造に用いられる。CN9782は、特にプラスチック、布、皮革、木材、金属のコーティングに適している。 製品の特徴 耐摩耗性 靱性 製品性能 良好な接着性 高い耐摩耗性 高い柔軟性 提案される用途 接着剤 塗料 塗料、金属 塗料、紙 塗料、プラスチック 塗料、布 塗料、木材 (SR339) 2-フェノキシエチルアクリレート・・・」 甲6には、次の事項が記載されている。 カ「 」 (請求人による訳) 「Sartomer USC,LLC 化学物質安全データシート 製品:CN3108」 甲7には、次の事項が記載されている。 キ「【0019】・・・低粘度芳香族モノアクリレートオリゴマー(Sartomer社製 CN131B、25℃での粘度100mPa・s、水酸基含有)・・・」 甲8には、次の事項が記載されている。 ク「【0020】・・・低粘度芳香族モノアクリレートオリゴマー(Sartomer社製 CN131B、25℃での粘度100mPa・s、水酸基含有)・・・」 甲9には、次の事項が記載されている。 ケ「【0085】・・・aromatic monoacrylate oligomers, such as CN131B, available from Sartomer.」 (請求人による訳) 「芳香族モノアクリレートオリゴマー、例えば、Sartomerから入手可能なCN131B」 甲10には、次の事項が記載されている。 コ「【0088】・・・aromatic monoacrylate oligomers, such as CN131B, are available from Sartomer.」 (請求人による訳) 「芳香族モノアクリレートオリゴマー、例えば、Sartomerから入手可能なCN131B」 甲11には、次の事項が記載されている。 サ「 」 (請求人による訳) 「(ULのPROSPECTORのMIRAMER M166) MIRAMER M166は、ポリエーテルアクリレートである。」 (4)引用文献Aに記載された事項 当審が職権調査で発見した、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2013/0116358号明細書(以下「引用文献A」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア「[0028] ・・・ ethoxylated nonylphenol acrylate (Miramer M1602, M164 or M166, Rahn AG). ・・・」 (当審による訳) 「エトキシル化ノニルフェノールアクリレート(Miramer M1602, M164 又はM166, Rahn AG)。」 (5)翻訳文等に記載されている事項の確認 以下では、まず翻訳文等の請求の範囲及び明細書の段落【0001】?【0073】の一般的な記載を検討し、次に、同【0074】以降の実施例の記載を検討する。 一般的な記載を検討するにあたり、はじめにア.として組成物中に含まれる成分の概要を把握し、そして、イ.として製品名で表される材料が組成物中のどの成分の具体例であると解されるのか検討する。この検討にあたっては、甲号証の記載も参照する。その後で、ウ.として実施例の記載を検討する。 ア 組成物中の各成分の記載の確認 翻訳文等には、その請求項1に、 「組成物の発明であって、 ウレタンアクリレートと、 接着促進剤と、 伝導性モノマーと を含み、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物。」 と記載されているから、まず請求項1に記載された組成物に含まれる各成分について、以下に翻訳文等の記載をみていく。下線は当審で付与した。 (ア)ウレタンアクリレートについて 「ウレタンアクリレート」について、翻訳文等には以下のように記載されている。 a 【0016】には、「例示的ウレタンアクリレートは、脂肪族および/または芳香族官能基を含んでもよい」ことが記載されている。 よって、「ウレタンアクリレート」はその表記のとおり、「ウレタンアクリレート」構造を有するものであり、上記記載から、「ウレタンアクリレート」には、脂肪族および/または芳香族官能基を含んでもよいといえる。 (イ)接着促進剤について 「接着促進剤」について、翻訳文等には以下のように記載されている。 a 【0021】には、「ポリマー組成物は、可変透過性(VT)媒体の中に組み込まれることができ、その光学透過性は、要求に応じて修正されることができる。典型的には、VT媒体は、透明基板と、電気光学媒体と、第1の透明電極と、第2の透明電極と、本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート接着促進剤、二官能性架橋剤、非伝導性希釈剤、および硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマー)とを含むであろう。」と記載されている。 ここで、下線部は、【0019】、【0020】の記載や請求項1の記載からみて、「ウレタンアクリレート、接着促進剤」を意味しているといえる。 b 【0044】には、その配合量として、「配合組成は、0?50%(重量/重量)接着促進剤、例えば、5?45%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう。」と記載されている。 よって、「接着促進剤」は、ウレタンアクリレートを含む組成物の接着を促進する成分であるといえ、組成物中に0?50重量%配合される。 (ウ)伝導性モノマーについて 「伝導性モノマー」について、翻訳文等には以下のように記載されている。 a 請求項10には、「伝導性モノマーの分子量は、1000g/mol未満である」こと、請求項16には、「伝導性モノマーは、アクリレート官能基を含む」こと、請求項17には、その「アクリレート官能基は、アルコキシ化されること」が記載されている。 b 【0016】には、「例示的伝導性モノマーは、アルコキシ化アクリレート、カプロラクトンアクリレート、およびアクリル等の官能化アクリレートモノマー(および/またはオリゴマー)を含む」と記載されている。 c 【0021】には、「本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート接着促進剤、二官能性架橋剤、非伝導性希釈剤、および硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマー)とを含むであろう」と記載されている。 d 【0023】には、「伝導性モノマーならびに/またはナノ粒子添加剤の量およびタイプを修正することによって、具体的屈折率を伴う接着剤を達成し、それによって、用途の必要性に応じて、種々の電気光学媒体および基板の使用を可能にすることが可能である」と記載されている。 e 【0042】には、「本発明は、ウレタンアクリレートと、接着促進剤と、伝導性モノマーとを含む、ポリマー組成物を含む。伝導性モノマーは、典型的には、高イオン性伝導性特徴を硬化されたフィルムにもたらす、低分子量(<1000g/mol)単官能モノマーである。いくつかの実施形態では、モノマーは、極性官能基を含み、水に対して中程度の親和性を呈する。モノマー(または配合組成)の伝導性特徴は、硬化されたフィルム、例えば、「ホモポリマー」を1週間25℃および50%相対湿度(RH)に暴露し、次いで、硬化されたフィルムの体積抵抗率の測定を行うことによって判定される。伝導性モノマーは、典型的には、10^(10)Ohm・cm未満、より典型的には、1×10^(8)?9×10^(9)Ohm・cmの体積抵抗率を呈する」と記載されている。 f 【0044】には、配合量として、「配合組成は、0?70%(重量/重量)伝導性モノマー、例えば、5?50%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう」と記載されている。 g 【0052】?【0053】には、「屈折率および接着特性の修正に加え、ポリマー配合組成の性能は、伝導性を修正することによって改良されることができる。例えば、電気光学材料を伴う多くの用途では、約1x10^(9)Ohm・cmの体積抵抗率を有することが有益である。これは、体積抵抗率約1×10^(13)Ohm・cm(すなわち、絶縁性)を有する従来の接着剤と比較して、比較的に低体積抵抗率である。したがって、所望の抵抗率を達成するためのモノマータイプおよび官能性を選択することが有益である。・・・本発明のポリマー配合組成では、伝導性特性は、硬化されたネットワークを通してイオン輸送を促進するモノマーを添加することによって改良される。多数の電荷担体およびそれらの電荷担体のための多数の結合部位の両方を助長するための2つの主要な方法がある。1つ目は、カルボニルまたはアルコキシ基を含むモノマー等の極性ゴム状吸湿性モノマーを組み込むことである」と記載されている。 後記第5 3(2)ア、イでも述べるように、「伝導性モノマー」について、上記した様々な記載があり、いずれの記載を満足することが必要であるのかが不明であるものの、ここでは、「伝導性モノマー」は、アクリレート官能基を有するモノマーであって、ホモポリマーの体積抵抗率が10^(7)?10^(10)Ohm・cmであり、分子量が1000未満の極性官能基を含む単官能モノマーであるものと解することとする。具体的には、アルコキシ化アクリレート、カプロラクトンアクリレート及び官能化アクリレートの中から選ばれるものであるといえ、組成物中に0?70重量%配合される。 (エ)請求項2以降で特定される成分について 請求項2以降では、上記3成分に加えて、他の成分も配合できることが記載されているから、他の成分についても、翻訳文等の記載を以下に確認する。 a 非伝導性モノマーについて 翻訳文等には、「非伝導性モノマー」について以下のように記載されている。 (a)請求項11には、「非伝導性モノマーをさらに含み、前記非伝導性モノマーは、ホモポリマーとして硬化されると、10^(10)Ohm・cmを上回る体積抵抗率を有する」ことが記載されている。 (b)【0016】には、「非伝導性希釈モノマーは、組成物のための具体的体積抵抗率を達成するために添加されることができる」ことが記載されている。 (c)【0021】には、「本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート接着促進剤、二官能性架橋剤、非伝導性希釈剤、および硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマー)とを含むであろう」と記載されている。 (d)【0043】には、「伝導性モノマーに加え、本発明の配合組成はまた、他の成分の中でもとりわけ、非伝導性希釈モノマー、架橋剤、光開始剤、および可塑剤を含んでもよい。伝導性モノマーのように、非伝導性モノマーも、典型的には、低分子量(<1000g/mol)の単官能モノマーである。しかしながら、伝導性モノマーと異なり、非伝導性希釈モノマーは、10^(11)Ohm・cmを上回る、例えば、10^(12)Ohm・cmを上回る測定された伝導性を有する」と記載されている。 (e)【0044】には、含有量として、「配合組成は、0?50%(重量/重量)非伝導性モノマー、例えば、5?45%(重量/重量)、例えば、10?40%(重量/重量)を含むであろう」と記載されている。 よって、「非伝導性モノマー」は、明示はないが、モノマーという記載から、ウレタンアクリレートと重合可能な官能基を有していると解され、具体的には、ホモポリマーの体積抵抗率が10^(10)Ohm・cmを上回り、分子量が1000未満の単官能モノマーであるといえ、組成物中に0?50重量%配合される。 b 架橋剤について 翻訳文等には、「架橋剤」について、以下のように記載されている。 (a)請求項3には、「架橋剤をさらに含む」と記載されている。 (b)【0016】には、「ポリマー組成物は、加えて、UV硬化を促進するための光開始剤、および/または強度を改良するための架橋剤を含んでもよい。」と記載されている。 (c)【0021】には、「本発明のポリマー組成物(すなわち、ウレタンアクリレート接着促進剤、二官能性架橋剤、非伝導性希釈剤、および硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマー)とを含むであろう。」と記載されている。 (d)【0043】には、「伝導性モノマーに加え、本発明の配合組成はまた、他の成分の中でもとりわけ、非伝導性希釈モノマー、架橋剤、光開始剤、および可塑剤を含んでもよい。」と記載されている。 (e)【0044】には、含有量について、「配合組成は、0?40%(重量/重量)架橋剤、例えば、5?15%(重量/重量)、例えば、10?15%(重量/重量)を含むであろう」と記載されている。 (f)【0047】には、「本発明の配合組成は、典型的には、また、硬化の間、例えば、光開始を介して活性化される、架橋剤を含む。使用される架橋剤のタイプは、コーティングされるべき材料に伴って変動し得、例えば、異なる架橋剤が、電気光学媒体がカプセル化された液体ポリマーまたは電気光学無機固体であるかどうかに応じて使用されてもよい」と記載されている。 (g)【0050】には、「モノマー自体の組成物に加え、ポリマー混合物の屈折率も、添加剤の含有に伴って改変されることができる。例えば、より短く、かつより高い官能性の架橋剤は、屈折率におけるより大きい増加につながる一方、非常に長い架橋剤は、わずかな増加につながる」と記載されている。 よって、「架橋剤」は、その記載から、ポリマー組成物と何らかの化学結合を生じることで架橋することができる配合剤であると解され、具体的には、二官能性架橋剤であるといえ、組成物中に0?40重量%配合される。 c 光開始剤について 請求項2、【0043】、【0044】、【0075】、【0086】、【0091】?【0094】より、光開始剤を配合できるといえ、その例示として、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトンを用いることができ、2重量%未満で配合される。 d 酸化金属粒子について 請求項4?8、24?25より、酸化金属粒子を配合できるといえ、【0015】より、酸化金属粒子は、例えば、酸化金属ナノ粒子であり、【0051】より、これによって屈折率を調整できる。 e イオン性液体について 請求項18?20、【0044】より、イオン性液体を配合できるといえ、1重量%未満で配合される。 また、【0053】、【0054】より、伝導性モノマーとイオン性液体からの寄与の加算和より低い、バルク体積抵抗率を達成する等の相乗効果をもたらし得ることが記載されている。 f 可塑剤について 【0043】、【0044】より、可塑剤を配合できるといえ、その例示として、グリセロール、炭酸プロピレン、またはフタル酸塩を用いることができ、2重量%未満で配合される。 (オ)任意成分も含めた組成物中の各成分のまとめ 以上より、本発明の組成物は、翻訳文等全体からみて、 「ウレタンアクリレート、 接着促進剤、 伝導性モノマーを必須成分として含み、 非伝導性モノマー、 架橋剤、 光開始剤、 酸化金属粒子、 イオン性液体、 可塑剤を任意成分として配合でき、 前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物」 であるとすることができる。 イ 製品名で表される材料の検討 ここでは、一般的な記載に記載された製品名で表される材料が組成物中のどの成分の具体例であるのかを検討する。 (ア)【0043】、【0044】の記載について 【0043】、【0044】には、各種製品が記載されているから、以下に確認していく。 a 「SR9087」(アルコキシ化フェノールアクリレートモノマー)は、【0055】の「吸湿性アクリレートモノマー(伝導性を改良する、例えば、SR9088、またはSR9087)」との記載から、「伝導性モノマー」であるといえる。 b 「SR339」(2-フェノキシエチルアクリレートモノマー)は、分子量1000未満のアクリレートモノマーであるが、ホモポリマーの体積抵抗率は明らかでないから、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでないし、また、「接着促進剤」の具体例であるか否かも明らかでない。 c 「SR495B」(カプロラクトンアクリレートモノマー)は、上記ア(ウ)bで述べたように「伝導性モノマー」といえる。 d 「SR9038」(エトキシル化(30)ビスフェノールAジアクリレートモノマー)は、ホモポリマーの体積抵抗率が明らかでなく、分子量1000を越える2つの官能基を有するモノマーであるから、「架橋剤」といえる。 e 「CN966H90」は、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートと脂肪族ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーのブレンドである。 2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートのホモポリマーの体積抵抗率は明らかでないから、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでないし、また、「接着促進剤」の具体例であるか否かも明らかでない。 一方、脂肪族ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーは「ウレタンアクリレート」の構造を有するから、「ウレタンアクリレート」に相当する。 f 「SR349」(エトキシル化(3)ビスフェノールAジアクリレートモノマー)は、そのホモポリマーの体積抵抗率が明らかでなく、また、二官能であるから、「架橋剤」といえる。 g 「CD9055」は、「酸性アクリレート接着促進剤」と記載されているから、「接着促進剤」であるといえる。 h 「SR531」(環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー)は、分子量1000未満の単官能モノマーであるが、そのホモポリマーの体積抵抗率が明らかでないから、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでない。また、「接着促進剤」の具体例であるか否かも明らかでない。 i 「CN3108」(アクリレートオリゴマー)は、【0055】の「アクリレートオリゴマーモノマー混成物(粘着剤/接着促進剤;例えば、CN3108)」との記載、【0091】?【0093】の「CN3108ウレタンアクリレート混成物」との記載によれば、「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有するといえる。 ここで、上記(3)エの甲4の記載によれば、CN3108は、20%のSR339A(2-フェノキシエチルアクリレート)、60%のCN131B(芳香族モノ官能性エポキシアクリレート)、20%CN9782(高分子量ポリエーテルウレタンアクリレート)からなるといえる。このうち、CN9782が「ウレタンアクリレート」であることは明らかであるものの、甲4の記載からは、SR339AとCN131Bのいずれが「接着促進剤」であるのかが明らかでない。CN131Bについては、後記lで検討する。 j 「SR256」(アクリレートオリゴマー)は、【0043】にしか記載されておらず、「アクリレートオリゴマー」であること以外不明であるから、本発明の組成物において、どのような成分であるかは不明である。 k 「CN9782」(芳香族ウレタンアクリレートオリゴマー)は、その骨格に「ウレタンアクリレート」を含むから、「ウレタンアクリレート」といえる。 l 「CN131B」(低粘度アクリルオリゴマー)は、【0091】に記載される配合組成Aにも使用されているが、【0043】、【0091】の記載のみからは、本発明の組成物において、どのような役割を果たす成分であるのかは、不明である。 請求人は意見書において、甲1を示しながら、接着促進剤が「基板と接着剤と反応し得る」成分であることを述べた上で、甲4?甲6を示しながら、「CN131B」が「ヒドロキシル官能性を有する芳香族モノアクリレートオリゴマー」であって「接着促進剤」であること、甲5を示しながら、「CN131Bは、基板と接着剤ポリマーに同時に反応/相互作用し得る2つの官能基を有するので、接着剤ポリマーとして役立ち得ることが当業者に示されています」と主張している。 また、審判請求書及び手続補足書(甲7?10)でも、「CN131B」が「芳香族モノアクリレートオリゴマー」であると主張している。 すなわち、「CN131B」が「ヒドロキシル官能性を有する芳香族モノアクリレートオリゴマー」であって、「CN131B」のアクリレート基が接着剤ポリマーと反応する基であり、「CN131B」の水酸基が基板と反応する基であるから、「CN131B」が「接着促進剤」であると主張していると解されるから、この点について検討する。 本件補正前の請求項1に記載された「接着促進剤」は、上記ア(イ)で述べたように、ウレタンアクリレートを含む組成物の接着を促進する成分であるといえ、組成物中に0?50重量%配合されるものである。 請求人は、この「接着促進剤」を、甲1に照らして、「基板と接着剤と反応し得る」成分であると述べるが、翻訳文等には、このようなことは何も記載されていない。 したがって、請求人がする甲1の記載をふまえた上で甲4?10を参照して「CN131B」を検討することができない。 念のために、請求人の主張に基づいて「CN131B」を検討する。 まず、甲4?10の記載を見てみるに、甲4には「CN131B」が芳香族モノ官能性エポキシアクリレートと記載され、甲5には低粘度芳香族モノアクリレートオリゴマーで水酸基官能性を有することが記載され、甲7?8には水酸基を含有する低粘度芳香族モノアクリレートオリゴマーであることが記載され、甲9?10には芳香族モノアクリレートオリゴマーであることが記載されている。 このように、甲4?甲10をみても「CN131B」が「芳香族モノアクリレートオリゴマー」の一種であり、水酸基を有することが記載されているだけであり、「CN131B」が「接着促進剤」であることは記載されていないから、これらの記載によれば、「CN131B」が水酸基を有する「芳香族モノアクリレートオリゴマー」という化学構造を有する化合物であることは理解できても、「接着促進剤」の具体例であることは明らかでない。 次に、「水酸基」が基板と反応/相互作用し得る基であることについて検討するに、「水酸基」が基板とは反応/相互作用し得る基であることは翻訳文等には記載されておらず、また、甲4?甲10にも記載されていない。 さらに、どのような材料・性質の基板に適用するかも明らかでないから、技術常識を考慮しても、「水酸基」が基板と反応/相互作用し得る官能基であるのか、判然としない。 加えて、請求人の主張する、「反応/相互作用」とは共有結合のみを指すのか、ファンデルワールス結合等、その他の結合も含むのか等、どのような状態であるのかも明らかでない。 したがって、「水酸基」が基板と同時に反応/相互作用し得る基であると解するべき根拠が十分であるとはいえないから、「CN131B」の化学構造を考慮しても、「CN131B」が「接着促進剤」の具体例であることは明らかでない。 よって、「CN131B」が、組成物中のどの成分の具体例であるのかが不明である。 m 「SR440」(イソオクチルアクリレートモノマー)は、【0044】には、体積抵抗率を調節するために含まれてもよい他の添加剤として記載され、分子量が1000未満の単官能モノマーである。また、【0059】に「アルキル化アクリレートモノマー(例えば、SR440)」との記載があるだけである。「SR440」のホモポリマーの体積抵抗率は明らかでないから、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでない。 n 「SR395」(イソデシルアクリレートモノマー)も、上記mと同様に、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでない。 o 「Rahn M166」は、上記(4)で摘記した引用文献Aのアの記載事項を参照するに、エトキシル化ノニルフェノールアクリレートであるから、ノニルフェノールである疎水性基を有しており、また、上記「SR440」、「SR395」と同等の成分として【0044】に挙げられているだけである。ホモポリマーの体積抵抗率も明らかでないから、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれの具体例であるのかが明らかでない。 p 「CN964」(市販のウレタンジアクリレートオリゴマー)は、【0044】に架橋剤であると記載され、同段落には、付加的接着剤樹脂であるとも記載されている。また、「ウレタンアクリレート」を有していることから、「ウレタンアクリレート」であるともいえる。 「架橋剤」又は「ウレタンアクリレート」の具体例であるのかが明らかでないものの、ここでは上記ア(ア)で述べたように、「ウレタンアクリレート」とする。 (イ)【0055】の記載について 【0055】には、「二重刺激配合組成は、例えば、約40%(重量/重量)吸湿性アクリレートモノマー(伝導性を改良する、例えば、SR9088、またはSR9087)、約10%(重量/重量)ウレタンアクリレートオリゴマー(機械的特性を改良する、例えば、CN964)および約50%(重量/重量)アクリレートオリゴマーモノマー混成物(粘着剤/接着促進剤;例えば、CN3108)を含んでもよい」と記載されている。 「SR9088」、「SR9087」は、同段落に「伝導性を改良する」と記載されているとおり、「伝導性モノマー」といえ、上記(ア)pのとおり、「CN964」は「ウレタンアクリレート」であるといえる。 また、「CN3108」は、上記(ア)iで述べたように、「ウレタンアクリレート」と「接着促進剤」を含有するといえる。 (ウ)【0059】の記載について 【0059】には、「本発明の配合組成は、伝導性感圧式接着剤として使用されることができる。そのような配合組成は、約30%カプロラクトンアクリレートモノマー(例えば、SR495B)、約40%ポリエステル/ウレタンモノマー混成物(例えば、CN966H90)、および約30%アルキル化アクリレートモノマー(例えば、SR440)を含んでもよい」と記載されている。 ここで、上記(ア)cで述べたように、「SR495B」は「伝導性モノマー」に相当し、上記(ア)eで述べたように、「CN996H90」は少なくとも「ウレタンアクリレート」を含有している。 一方、「SR440」は、上記(ア)mで述べたように、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれかが明らかでない。 ウ 実施例で使用される材料の検討 ここでは、【0074】以降に記載される実施例で使用される材料について、組成物中のどの成分として使用されているのかを検討する。 (ア)実施例1の配合組成について 実施例1の配合組成について、【0075】には、45百分率樹脂(phr)(メタ)アクリレート化樹脂(SR9088)および15phrポリエステルウレタンジアクリレートオリゴマー(CN964)および40phrアクリレートオリゴマー(CN3108)を混合し、1phrの1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(CPK)光開始剤および1phrのジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)光開始剤が添加されてなる混合物と記載されている。 ここで、上記イ(イ)で述べたように、「SR9088」は「伝導性モノマー」に相当し、「CN964」は上記イ(ア)pで述べたように、「ウレタンアクリレート」に相当する。 また、CN3108は、上記イ(ア)iで述べたように、「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含んでいる。 そうすると、実施例1の配合組成は、「伝導性モノマー」、「ウレタンアクリレート」、「接着促進剤」を含有している組成物であるといえる。 (イ)実施例2の配合組成について 実施例2の配合組成について、【0082】には、45phr SR9087と、15phr SR9038と、40phr CN3108と、0.5phr ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドと、0.5phr 1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトンを含むことが記載されている。 ここで、「SR9087」は、上記イ(ア)aで述べたように「伝導性モノマー」に相当する。 また、「SR9038」は、上記イ(ア)dで述べたように「架橋剤」に相当する。 さらに、「CN3108」は、上記イ(ア)iで述べたように「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含んでいる。 そうすると、実施例2の配合組成は、「伝導性モノマー」、「架橋剤」、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」を含有している組成物であるといえる。 (ウ)実施例3の配合組成について 実施例3のモノマーの配合組成が表2に記載されているから、これらについて検討する。なお、請求人は意見書の第3頁下から第15行?第14行目、および、審判請求書の第8頁最下行?第9頁第1行において、このうち、「NOA 74および929-59Dは、比較例です。それ以外はすべて実施例です」と説明している。 a 「NOA74」について メルカプトエステルアクリレートとイソデシルアクリレートからなる配合組成である。メルカプトエステルアクリレートは、どのような成分として配合されているのか、翻訳文等をみても明らかでない。 一方、イソデシルアクリレートについては、上記イ(ア)nで述べたように、【0044】に記載されているものの、「伝導性モノマー」又は「非伝導性モノマー」のいずれであるのか、明らかでない。 そうすると、「NOA74」は、どのような成分からなるのか、明らかでない。 b 「929-47A」について 「CN3108」は、上記イ(ア)iで述べたように「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9038」は、上記イ(ア)dで述べたように「架橋剤」に相当する。 そうすると、「929-47A」は、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」を含有する組成物であり、「伝導性モノマー」を含有するとはいえない。 c 「929-47E」について 同様に、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9038」は「架橋剤」に相当する。 一方、「SR531」は、上記イ(ア)hで述べたように、どの成分に相当するかは不明である。 (なお、意見書の第3頁下から第9行?第7行に、「c.929-47Eは、ウレタンアクリレート(CN9782、CN3108の一部)、接着促進剤(CN131B、CN3108の一部)、および伝導性モノマー(SR9038)を含みます。」と記載されているものの、「SR531」については、何ら説明がされていない。 また、審判請求書の第9頁第7行?第9行にも同一の記載がある。) そうすると、「929-47E」は、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」を含有する組成物であり、「伝導性モノマー」を含有するとはいえない。 d 「929-59D」について 「SR339」、「SR531」は、上記イ(ア)b、hで述べたように、どの成分に相当するかは不明である。 一方、「SR9038」は、上記イ(ア)dで述べたように「架橋剤」に相当する。 また、「CD9055」は、上記イ(ア)gで述べたように「接着促進剤」に相当する。 そうすると、「929-59D」は、「架橋剤」、「接着促進剤」を含有する組成物であり、「伝導性モノマー」、「ウレタンアクリレート」を含有するとはいえない。 e 「1097-70」について 同様に、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9038」は「架橋剤」に相当する。 一方、「CN131B」は、上記イ(ア)lで述べたように、どの成分に相当するかは不明である。 そうすると、「1097-70」は、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」を含有する組成物であり、「伝導性モノマー」を含有するとはいえない。 f 「1141-81C」について 同様に、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9038」は「架橋剤」に相当し、「CN131B」はどの成分かは不明である。 また、「SR9087」は、上記イ(ア)aで述べたとおり、「伝導性モノマー」に相当する。 そうすると、「1141-81C」は、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」、「伝導性モノマー」を含有する組成物であるといえる。 g 「1141-86」について 同様に、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9087」は「伝導性モノマー」に相当し、「CN131B」はどの成分かは不明である。 そうすると、「1141-86」は、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「伝導性モノマー」を含有する組成物であるといえる。 h 「1095-39」について 同様に、「SR9087」は「伝導性モノマー」に相当し、「SR9038」は「架橋剤」に相当し、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有する。 そうすると、「1095-39」は、「伝導性モノマー」、「架橋剤」、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」を含有する組成物であるといえる。 (エ)実施例4の配合組成について 実施例4の配合組成は、【0091】?【0094】に、以下の通り記載されている。 「【0091】 配合組成A:40phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;40phr CN131B低粘度アクリルオリゴマー;0.5phr TPO光開始剤;および0.5phr CPK光開始剤。 【0092】 配合組成B:50phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;30phr SR495Bカプロラクトンアクリレート;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;PGMEA中50phr Pixclear PG50重量%ナノジルコニアゾル(PGの除去後、0.5phr TPO光開始剤および0.5phr CPK光開始剤)。 【0093】 配合組成C:50phr CN3108ウレタンアクリレート混成物;30phr SR495Bカプロラクトンアクリレート;20phr SR9038エトキシル化(30)ビスフェノール-Aジアクリレート;0.5phr TPO光開始剤、および0.5phr CPK光開始剤。 【0094】 配合組成D:15phr SR495B、40phr CN3108、45phr SR349エトキシル化(3)ビスフェノール-Aジアクリレート、0.5phr TPO光開始剤、および0.5phr CPK光開始剤」 ここで、上記(ウ)と同様に、配合組成Aの「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR9038」は「架橋剤」に相当し、「CN131B」は組成物中のどの成分かは不明である。 よって、配合組成Aは、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」を含有する組成物であり、「伝導性モノマー」を含有するとはいえない。 同様に、配合組成B、Cの「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR495B」は「伝導性モノマー」、「SR9038」は「架橋剤」に相当する。 また、配合組成Dの「SR495B」は「伝導性モノマー」に相当し、「CN3108」は「接着促進剤」と「ウレタンアクリレート」を含有し、「SR349」は「架橋剤」に相当する。 そうすると、配合組成B、Cは、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「伝導性モノマー」、「架橋剤」を含有する組成物であるといえる。 また、配合組成Dは、「伝導性モノマー」、「接着促進剤」、「ウレタンアクリレート」、「架橋剤」を含有する組成物であるといえる。 (6)当審の判断 ア 補正事項1について (ア)判断 補正事項1は、「接着促進剤」を「芳香族モノアクリレートオリゴマー、酸性アクリレート、およびこれらの混合物からなる群から選択される接着促進剤」とする補正である。 このうち、「接着促進剤」を「芳香族モノアクリレートオリゴマー」から選択する点について検討する。 上記(5)イ(ア)g、iで述べたように、翻訳文等には、「接着促進剤」の1つが「CD9055-市販の酸性アクリレート接着促進剤」であること、「CN3108」には「接着促進剤」の成分が含まれることが記載されているだけであり、「芳香族モノアクリレートオリゴマー」自体の記載もなく、当然、「芳香族モノアクリレートオリゴマー」が「接着促進剤」であることも記載されていない。 また、技術常識を加味して、翻訳文等に記載されている商品名(CN131B)に関する甲4?甲10をみても、上記(5)イ(ア)lで述べたとおり、「CN131B」が「芳香族モノアクリレートオリゴマー」の1種であることを示すにとどまり、「CN131B」が「接着促進剤」と解釈することができず、ましてや「芳香族モノアクリレートオリゴマー」全般が「接着促進剤」であると解釈できるとはいえない。 また、仮に、「CN131B」が「接着促進剤」であると解釈できるとしても、水酸基を有する特定の「芳香族モノアクリレートオリゴマー」が「接着促進剤」であることを示すにとどまり、「芳香族モノアクリレートオリゴマー」全般が「接着促進剤」であると解釈できるとはいえない。 よって、「芳香族モノアクリレートオリゴマー」全般が「接着促進剤」であるとする上記補正は、新たな技術的事項を導入しようとするものである。 (イ)小括 よって、「接着促進剤」を「芳香族モノアクリレートオリゴマー・・・からなる群から選択される接着促進剤」とする補正事項1は、翻訳文等に記載されておらず、また、翻訳文等の記載から自明ともいえないから、翻訳文等のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 イ 補正事項2について (ア)判断 補正事項2は、「伝導性モノマー」を「エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー、アルコキシ化フェノールアクリレートモノマー、カプロラクトンアクリレートモノマー、2-フェノキシエチルアクリレートモノマー、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー、イソオクチルアクリレートモノマー、イソデシルアクリレートモノマー、ポリエーテルアクリレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される伝導性モノマー」とする補正である。 「伝導性モノマー」として列挙される上記モノマーについて、以下に、新たな技術的事項を導入しないものでないか、1つずつ検討する。 a 「エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー」について、【0043】には、「Sartomer SR9038-市販のエトキシル化(30)ビスフェノールAジアクリレートモノマー」、「Sartomer SR349-市販のエトキシル化(3)ビスフェノールAジアクリレートモノマー」と記載され、上記(5)イ(ア)d、fで述べたように「SR9038」、「SR349」は「架橋剤」であって「伝導性モノマー」とはいえない。 b 「アルコキシ化フェノールアクリレートモノマー」について、【0043】には、「Sartomer SR9087-市販のアルコキシ化フェノールアクリレートモノマー」と記載され、上記(5)イ(ア)aで述べたように「SR9087」は「伝導性モノマー」といえる。 c 「カプロラクトンアクリレートモノマー」について、【0016】には、「例示的伝導性モノマーは、・・・カプロラクトンアクリレート」と記載され、【0043】には、「Sartomer SR495B-市販のカプロラクトンアクリレートモノマー」と記載されているから、上記(5)イ(ア)cで述べたように「SR495B」は「伝導性モノマー」といえる。 d 「2-フェノキシエチルアクリレートモノマー」について、【0043】には、「Sartomer SR339-市販の2-フェノキシエチルアクリレートモノマー」と記載されているものの、上記(5)イ(ア)bで述べたように「SR339」は「伝導性モノマー」とは直ちにいえない。 e 「環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー」について、【0043】には、「Sartomer SR531-市販の環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)モノマー」と記載されているものの、上記(5)イ(ア)hで述べたように、「SR531」は「伝導性モノマー」とは直ちにいえない。 f 「2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー」について、【0043】には、「Sartomer CN966H90-10%の2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートとブレンドされた市販の脂肪族ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマー」と記載されているものの、上記(5)イ(ア)eで述べたように「2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート」は「伝導性モノマー」とは直ちにいえない。 g 「イソオクチルアクリレートモノマー」、「イソデシルアクリレートモノマー」について、【0044】には、「Sartomer SR440(市販のイソオクチルアクリレートモノマー)Sartomer SR395(市販のイソデシルアクリレートモノマー)」と記載されているものの、上記(5)イ(ア)m、nで述べたように、「SR440」、「SR395」は「伝導性モノマー」とは直ちにいえない。 h 「ポリエーテルアクリレート」について、翻訳文等には、これが「伝導性モノマー」の具体例であるとの明示はない。請求人は【0044】の「Rahn M166」を補正の根拠と説明しているが、上記(5)イ(ア)oで述べたように、「Rahn M166」は、「伝導性モノマー」とは直ちにいえない。 よって、「Rahn M166」なる記載から直ちに「ポリエーテルアクリレート」が「伝導性モノマー」であるとはいえない。 以上をまとめると、翻訳文等には、「エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー」、「2-フェノキシエチルアクリレートモノマー」、「環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー」、「2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー」、「イソオクチルアクリレートモノマー」、「イソデシルアクリレートモノマー」、「ポリエーテルアクリレート」が「伝導性モノマー」として記載されているとはいえない。 さらに、本願出願時の技術常識について検討するに、これらのモノマーが「伝導性モノマー」であるという技術常識が存在していたとはいえない。 よって、翻訳文等の記載、及び、本願出願時の技術常識を考慮しても、翻訳文等に「伝導性モノマー」として記載されていたとはいえない上記モノマーを「伝導性モノマー」とすることは、新たな技術的事項を導入しようとする補正である。 (イ)小括 以上のとおりであるから、「エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートモノマー」、「2-フェノキシエチルアクリレートモノマー」、「環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートモノマー」、「2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートモノマー」、「イソオクチルアクリレートモノマー」、「イソデシルアクリレートモノマー」、「ポリエーテルアクリレート」を「伝導性モノマー」とする補正事項2は、翻訳文等に記載されておらず、また、翻訳文等の記載から自明ともいえないから、翻訳文等のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 (7)請求人の主張 請求人は、補正事項1及び2に関し、以下のように主張する。 ア 補正事項1について 請求人は、審判請求書において「芳香族モノアクリレートオリゴマー」の補正の根拠として、【0043】に記載される「CN131B」なる製品を挙げ、さらに、甲7?甲10を提出して、「CN131B」が「芳香族モノアクリレートオリゴマー」であると主張している。 しかしながら、上記(5)イ(ア)lで述べたように、甲7?甲10は「C131B」が「芳香族モノアクリレートオリゴマー」の1種であることを示しているに過ぎず、「C131B」が「接着促進剤」であることについて何ら技術常識を示していない。 また、仮に請求人が主張するとおり、「C131B」を「接着促進剤」の具体例であると解釈したとしても、甲4には、「CN131B」が「芳香族モノ官能性エポキシアクリレート」であると記載され、及び、甲5には、ヒドロキシ官能基を有する、低粘度モノアクリレートオリゴマーと記載され、意見書(第2頁第23行?第24行)には、「b.CN131B-ヒドロキシル官能性を有する芳香族モノアクリレートオリゴマー」と記載されている。 これらの記載からすると、「CN131B」は、エポキシ基又はヒドロキシ基を有する芳香族モノアクリレートオリゴマーであるといえ、いずれにしても特定の官能基を含有する芳香族モノアクリレートオリゴマーであるといえるにとどまるものである。 これらの技術常識によれば「CN131B」として特定の官能基を含有する芳香族モノアクリレートオリゴマーは記載されていると解することもできるが、このような官能基の特定のない「芳香族モノアクリレートオリゴマー」は記載されているとはいえない。 そして、特定の構造を有する「芳香族モノアクリレートオリゴマー」である「C131B」の一例をもって、翻訳文等に記載のない「芳香族モノアクリレートオリゴマー」に包含されるすべての化合物が「接着促進剤」として機能すると解することは、当初明細書等に記載した事項の範囲においてするものということはできず、新たな技術的事項を導入しようとする補正である。 よって、「芳香族モノアクリレートオリゴマー」が「接着促進剤」であるとする請求人の解釈に基づく主張は採用できない。 イ 補正事項2について (ア)請求人は、審判請求書において【0043】、【0044】を補正の根拠として、製品名と物質名をまとめ、補正事項2でした補正が適法である旨主張しているが、何故その製品が「伝導性モノマー」であるといえるのか、何ら根拠が示されておらず、上記(6)イ(ア)で述べたように、一部の化合物については翻訳文等の記載、及び、技術常識を考慮しても「伝導性モノマー」であるとはいえないから、当該主張を採用できない。 (イ)また、請求人は意見書の第3頁?第4頁において、表2(実施例3)で記載される組成物に含まれる製品が組成物中にどのような成分として配合されているか、説明しているが、この中で、「SR9038」が「伝導性モノマー」であると主張している。 しかしながら、「SR9038」が「伝導性モノマー」である根拠が示されておらず、上記(5)イ(ア)dで述べたように、「SR9038」は、そのホモポリマーの体積抵抗率が明らかでなく、また、分子量1000を越える2つの官能基を有するモノマーであるから「架橋剤」であるといえ、「SR9038」が「伝導性モノマー」であるとの主張を採用できない。 3 まとめ よって、補正事項1及び2は、当業者にとって、国際出願日における国際特許出願の明細書、請求の範囲及び図面の中の説明の翻訳文、並びに、図面を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?25に係る発明は、翻訳文提出時の特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「組成物であって、 ウレタンアクリレートと、 接着促進剤と、 伝導性モノマーと を含み、前記組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有する、 組成物。」 第4 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶理由は、 「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」 というものを含むものであり、概要は、以下のとおりである。 「●理由1(明確性)について ・請求項1?25について 請求項1,24に記載の「接着促進剤」及び「伝導性モノマー」が、どのようなものを意味しているのかが全く不明であり、その結果、請求項1,24に係る発明が著しく不明確になっている。 具体的には、「接着促進剤」について、発明の詳細な説明の[0043]には、「Sartomer CD9055-市販の酸性アクリレート接着促進剤。Sartomer(Exton, PA)」と記載されており、[0055]には、「アクリレートオリゴマーモノマー混成物(粘着剤/接着促進剤;例えば、CN3108)」と記載されている一方で、[0091]には、「CN3108ウレタンアクリレート混成物」なる記載がある。 上記記載では、「CN3108」なる物質が、ウレタンアクリレート以外に何らかの「接着促進剤」を含む混合物なのか、ウレタンアクリレート自体が「接着促進剤」としての機能するのか、判然としない。 また、「伝導性モノマー」について、発明の詳細な説明の[0016]には、「例示的伝導性モノマーは、アルコキシ化アクリレート、カプロラクトンアクリレート、およびアクリル等の官能化アクリレートモノマー(および/またはオリゴマー)を含む。」と記載されているものの、下線部分のアクリル等の官能化アクリレートモノマーとは、一体どのようなモノマーなのかが不明であり、「伝導性モノマー」自体の意味するところが理解できない。 請求項1,24を引用する請求項2?23,25についても同様である。 よって、請求項1?25に係る発明は明確でない。」 第5 当審の判断 1 明確性要件の判断手法 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない、とされている。(平成21年(行ケ)第10434号判決参照。) 以下、この観点に従って検討する。 2 翻訳文等に記載された事項 翻訳文等には、上記第2 2(2)で列挙した事項が記載されている。 3 本願発明1について 本願発明1は、組成物の発明であって、「ウレタンアクリレート」、「接着促進剤」、「伝導性モノマー」の3つの成分が特定され、「組成物は、1週間25℃および50%相対湿度で調整された後、10^(6)?10^(10)Ohm・cm」という体積抵抗率で特定される発明である。 そして、本願発明1の組成物には、接着促進剤が含まれているところ、発明の詳細な説明の【0014】には、発明の概要として、「改良された伝導性、接着性、および光学特性を伴う接着剤ならびに/または平坦化層を提供する」ことが記載されているから、本願発明1の組成物の用途は、主に接着剤であるということができる。 また、本願発明1は、ウレタンアクリレートを含む組成物であり、【0044】には、硬化のために架橋剤や光開始剤を配合することが記載されているから、本願発明1のウレタンアクリレートが含有するアクリル基の炭素-炭素不飽和結合が付加反応することにより、接着剤としての機能を奏するといえる。 上記のとおり、本願発明1は、接着剤を主な用途として、「ウレタンアクリレート」、「接着促進剤」、「伝導性モノマー」の3つの成分を含む組成物であるところ、「接着促進剤」、「伝導性モノマー」という機能で特定される成分は、生じさせる機能を具体的に理解でき、そして、翻訳文等の記載、及び、本願出願時の技術常識を考慮して、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定できないとその成分が明確であるとはいえないといえる。 以下、本願発明1の組成物の成分のうち、「接着促進剤」と「伝導性モノマー」の明確性について、検討する。 (1)「接着促進剤」についての判断 「接着促進剤」とは、その表記から、接着を促進するための添加剤であることは理解できる。 この場合、当業者が「接着促進剤」として、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定できないと、発明が明確であるとはいえないところ、ウレタンアクリレートを成分として含む組成物の場合、ウレタンアクリレートと付加反応する成分であると理解でき、炭素-炭素不飽和結合を有する化合物であるということは想定できるものの、接着を促進するために、具体的にどのような官能基を有する化合物であるか想定できなければ、明確とはいえない。 したがって、「接着促進剤」として明確であるといえるためには、炭素-炭素不飽和結合に加えて、どのような官能基を有する化合物であるのか、具体的に想定できる必要がある。 そこで、上記の点に関し、特許請求の範囲の記載、明細書の記載、及び、本願出願時の技術常識の順で検討する。 ア 特許請求の範囲の記載について 特許請求の範囲については、請求項1、24に「接着促進剤」と記載されているのみで、上記の点を明確にするような記載はない。 イ 明細書の記載について 次に明細書の記載をみてみることとする。 「接着促進剤」について、明細書によれば、上記第2 2(5)ア(イ)で述べたように「ウレタンアクリレートを含む組成物の接着を促進する成分」で解するにとどまり、具体的な化合物まで想定できない。 また、上記第2 2(5)イ(ア)g、iで述べたように、「接着促進剤」の具体例として、「CD9055-市販の酸性アクリレート接着促進剤」、CN3108には「接着促進剤」が含まれることが記載されているだけであり、その他の具体例は明示されていない。 加えて、上記第2 2(5)イ(ア)lで検討したとおり、明細書の「CN131B」という記載は、「接着促進剤」の具体例とはいえない。 確かに上記のとおり、明細書には、「接着促進剤」として使用できる具体的な製品名は記載されているが、これらの製品は、接着促進剤の例にすぎないものである。 そうすると、明細書の記載から、「接着促進剤」として用いることができる化合物を上記の具体例以外に想定することができない。 ウ 本願出願時の技術常識について 請求人は、意見書において、「接着促進剤」は、当業者に周知の用語であると主張し、甲1を示しながら、「当業者が、基板と接着剤と反応し得る接着促進剤の官能基の性質を認識することは明らかです。2つ以上の官能基は、同じであっても異なっていてもよいです。例えば、接着促進剤は、その分子構造内に、反応性アクリレート官能基(-C=C-COOR)およびヒドロキシル官能基の両方を有し得ます。エトキシ基(またはポリオキシエチレン基)は、同じように機能する能力を有さず、反応性と特徴づけられ得ません。」と主張している。 ここで、甲1の記載をみてみると、「いくつかの表面において、接着は、接着剤配合組成物中の成分として、または接着剤を施与する前に基板に適用されるプライマーとして別々に、のいずれかで、接着促進剤を使用して増強されなければなりません。接着促進剤は、二官能性または多官能性モノマーまたはオリゴマーであり、ここで、1つ以上の反応性基が基板に化学的に結合し、他の反応性基は、接着剤と結合を形成し、このようにして、分子架橋を生成します」と記載されている。 さらに、意見書で引用されなかった甲1のその他の記載をみてみると、「この架橋メカニズムのため、接着促進剤は、カップリング剤としても知られています。最も広く使われている接着促進剤は、アミノアルコキシシラン(例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン)とメルカプトアルコキシシランです。アミノ基又はメルカプト基がポリマーと化学結合を形成し、アルコキシ基が・・・」と記載されている。 これらの記載によれば、上記主張は、「接着促進剤」が基板と接着剤と反応し得る化合物であることを主張するものと理解できるものの、翻訳文等にはこのようなことは何も記載されていない。 念のため、この主張の内容を検討しておくと、この「接着促進剤」が、炭素-炭素不飽和結合に加えて、どのような官能基を有する化合物であるのかは、甲1に記載の反応性の高いシラノール基以外に明らかでなく、2つ以上の官能基、すなわち、基板と反応し得る官能基と接着剤と反応し得る官能基が同じであっても異なっていてもよいことや、反応性アクリレート官能基(-C=C-COOR)およびヒドロキシル官能基の両方を有する化合物のヒドロキシル基が基板と化学的に結合を形成することを示しているのでもない。 また、甲1の記載をみても、「基板に化学的に結合」とは、共有結合、ファンデルワールス結合等、どのような化学的な結合までを想定しているかも明らかでないから、基板と反応し得る官能基として、どのような官能基までが想定されるのか、甲1から、当業者が認識できるとはいえない。 加えて、本願発明1に係る組成物は、適用する基板の材質や性質が特定されておらず、基板の材質や性質によって基板と反応し得る官能基も異なることから、請求項1の記載、翻訳文等の記載、及び、意見書の主張に照らしても、当業者が本願発明1に係る「接着促進剤」において想定する、基板と接着剤と反応し得る官能基を認識できるとはいえない。 よって、当該主張を考慮しても、「接着促進剤」が有する官能基が明確であるとはいえないから、「接着促進剤」として使用される化合物を一定の範囲で、具体的に種類を想定できるとはいえない。 エ 小括 よって、本願発明における「接着促進剤」は、翻訳文等の記載、及び、本願出願時の技術常識を考慮しても、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定できないから、明確であるとはいえない。 したがって、当業者であっても、どのような化合物であれば、本願発明1の「接着促進剤」に含まれるのか否かの判別ができないから、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。 (2)「伝導性モノマー」についての判断 本願発明1に係る「伝導性モノマー」は、「モノマー」であることから、組成物中のウレタンアクリレートと反応する成分であること、すなわち、炭素-炭素不飽和結合を有することは理解できる。 また、【0014】には、「改良された伝導性・・・を伴う接着剤ならびに/または平坦化層を提供することによって、先行技術の欠点を克服する」と記載されていることから、組成物の伝導性を改良する成分であるといえる。 さらに、上記第2 2(5)ア(エ)aで述べたように、明細書には、組成物が「非伝導性モノマー」を任意成分として含有することが記載されているから、「伝導性モノマー」と「非伝導性モノマー」の両者は明確に区別される概念であるといえる。 このため、「伝導性モノマー」が明確であるといえるためには、そのモノマーが「伝導性」であるのか、「非伝導性」であるのか、明確に区別できることが、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定するために必要であるといえる。 そこで、この点に関し、特許請求の範囲の記載、明細書の記載、及び、本願出願時の技術常識の順で検討する。 ア 特許請求の範囲の記載について 請求項1、24には、「伝導性モノマー」と記載され、請求項10には、「伝導性モノマーの分子量は、1000g/mol未満である」こと、請求項16には、「伝導性モノマーは、アクリレート官能基を含む」こと、請求項17には、その「アクリレート官能基は、アルコキシ化される」ことが記載されている。 一方、「非伝導性モノマー」については、請求項11には、「ホモポリマーとして硬化されると、10^(10)Ohm・cmを上回る体積抵抗率を有する」と記載されている。 しかしながら、「伝導性モノマー」については、「伝導性」の点について、体積抵抗率のような定量的な定義は記載されていないから、「伝導性」といえるか否か、明確に判断することができない。 イ 明細書の記載について 次に、明細書の記載をみてみるに、「伝導性モノマー」に関して上記第2 2(5)ア(ウ)、上記第2 2(5)イ(イ)で指摘した記載があり、少なくとも下記(伝a)?(伝i)の点が記載されているといえる。 (伝a)【0016】より、「伝導性モノマー」の例として、アルコキシ化アクリレート、カプロラクトンアクリレート、およびアクリル等の官能化アクリレートモノマー(および/またはオリゴマー)が挙げられる。 (伝b)【0021】より、「伝導性モノマー」は、硬化されると10^(7)?10^(10)Ohm・cmの体積抵抗率を有するホモポリマーを生産する伝導性モノマーであるといえる。 (伝c)【0042】より、「伝導性モノマー」は、高イオン性伝導性特徴を硬化されたフィルムにもたらす、低分子量(<1000g/mol)単官能モノマーであるといえる。 (伝d)【0042】より、「伝導性モノマー」は、極性官能基を含み、水に対して中程度の親和性を呈するといえる。 (伝e)【0042】より、「伝導性モノマー」は、「ホモポリマー」を1週間25℃および50%相対湿度(RH)に暴露し、次いで、硬化されたフィルムの体積抵抗率の測定を行い、10^(10)Ohm・cm未満の体積抵抗率を呈するといえる。 (伝f)【0042】より、「伝導性モノマー」は、「ホモポリマー」を1週間25℃および50%相対湿度(RH)に暴露し、次いで、硬化されたフィルムの体積抵抗率の測定を行い、1×10^(8)?9×10^(9)Ohm・cmの体積抵抗率を呈するといえる。 (伝g)【0053】より、本発明のポリマー配合組成では、伝導性特性は、硬化されたネットワークを通してイオン輸送を促進するモノマーを添加することによって改良されるといえる。 (伝h)【0053】より、カルボニルまたはアルコキシ基を含むモノマー等の極性ゴム状吸湿性モノマーであるといえる。 (伝i)【0055】より、吸湿性アクリレートモノマー(伝導性を改良する、例えば、SR9088、またはSR9087)であるといえ、【0043】より、SR9087は、「市販のアルコキシ化フェノールアクリレートモノマー」であるといえる。 上記第2 2(5)ア(ウ)では、「伝導性モノマー」は、アクリレート官能基を有するモノマーであって、具体的には、ホモポリマーの体積抵抗率が10^(7)?10^(10)Ohm・cmであり、分子量が1000未満の極性官能基を含む単官能モノマーであると解することができると述べたが、明細書には、上記のとおり、その他の記載もあるから、いずれと解するのかが判然としない。 また、上記第2 2(5)イで検討したように、確かに明細書には、「伝導性モノマー」として使用できる具体的な化合物や製品名が記載されているが、これらの化合物や製品は、伝導性モノマーの例にすぎないものである。 よって、明細書の記載から、当業者が「伝導性モノマー」を明確に定義することができず、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定することができない。 ウ 本願出願時の技術常識について さらに、本願出願時の技術常識について検討するに、「伝導性モノマー」として、どの範囲の体積抵抗率を有するものであるといった明確な定義に関する技術常識は存在していたものとはいえない。 エ 小括 よって、本願発明における「伝導性モノマー」は、翻訳文等の記載、及び、本願出願時の技術常識を考慮しても、アクリレート官能基を有するモノマーであって、具体的には、ホモポリマーの体積抵抗率が10^(7)?10^(10)Ohm・cmであり、分子量が1000未満の極性官能基を含む単官能モノマーであると解するべきか、それ以外の定義によるモノマーと解するべきかが不明であり、そうすると「伝導性」であるのか、「非伝導性」であるのかの区別を明確にできないから、使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定できず、明確であるとはいえない。 したがって、当業者であっても、どのような化合物であれば、本願発明1の「伝導性モノマー」に含まれるのか否かの判別ができないから、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。 (3)請求人の主張について ア 「接着促進剤」について 上記(1)ウで述べたとおり、請求人の主張を考慮しても、「接着促進剤」として使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定することができるとはいえない。 イ 「伝導性モノマー」について (ア)請求人は意見書において、【0042】の記載を挙げた上で、当業者はその分子構造を知れば、「伝導性モノマー」として分類できると主張している。 しかしながら、上記(2)イで述べたように、【0042】には、(伝c)?(伝f)の定義が記載され、請求人の主張は、すべてを満足することを意味するのか、いずれかを満足すれば良いのかについて何ら説明がされていない。 また、仮に(伝c)または(伝d)の定義を採用するのであれば、「高イオン性伝導性特徴を硬化されたフィルムにもたらす」、「極性官能基を含み、水に対して中程度の親和性を呈する」なる点は、定性的な定義であり、モノマーが「伝導性」であるのか、「非伝導性」であるのか、明確に区別することができないから、当業者が使用する化合物を一定の範囲で具体的に種類を想定できるとはいえない。 (イ)加えて、請求人は意見書において、【0016】の「例示的伝導性モノマーは、・・・アクリル等の官能化アクリレートモノマー(および/またはオリゴマー)を含む」との記載について、上記第2 2(3)で摘記した甲2、甲3を提示しながら「アクリル」の用語の定義を説明し、「用語「アクリル」は、伝導性モノマーの一例」であると主張しているものの、例えば、長鎖アルコールとアクリル酸のエステルであるアクリル酸エステルは、疎水性であり、技術常識から見て、「伝導性モノマー」とはいえず、すべての「アクリル」が「伝導性モノマー」であるとはいえないから「用語「アクリル」は、伝導性モノマーの一例」との主張を採用できない。 また、「アクリル」のうち、「伝導性」であるものを「伝導性モノマー」というとしても、上記のとおり、「伝導性モノマー」が明確であるとはいえないから、「伝導性モノマー」である「アクリル」を一定の範囲で、具体的に種類を想定できるとはいえない。 (ウ)よって、請求人の主張を考慮しても、依然として、「伝導性モノマー」が明確であるとはいえない。 4 まとめ よって、本願発明1は、特許請求の範囲の記載に加え、明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、特許請求の範囲の記載は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本願は特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-03-18 |
結審通知日 | 2021-03-19 |
審決日 | 2021-03-31 |
出願番号 | 特願2018-502641(P2018-502641) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C08F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
佐藤 健史 佐藤 玲奈 |
発明の名称 | 電気光学媒体との使用のためのポリマー配合組成 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |