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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1377577
審判番号 不服2020-16155  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-24 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 特願2016-227054「コーティング層付き偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月31日出願公開,特開2018- 84652〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-227054号(以下「本件出願」という。)は、平成28年11月22日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 4月20日付け:拒絶理由通知書
令和2年 7月17日付け:意見書
令和2年 7月17日付け:手続補正書
令和2年 8月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年11月24日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年7月17日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。
「 偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の面に配置された保護フィルムとを備える、偏光板と、
少なくとも1枚の該保護フィルムの該偏光子とは反対側の面に形成されたコーティング層とを含む、
コーティング層付き偏光板の製造方法であって、
該偏光子と該保護フィルムを積層して、偏光板を形成した後に、該保護フィルムにコーティング層形成用組成物を塗工することにより、該コーティング層を形成すること、および
該保護フィルムに該コーティング層形成用組成物の一部を浸透させて、浸透層を形成することを含む、
コーティング層付き偏光板の製造方法。」

3 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献2:国際公開第2005/050299号
引用文献4:国際公開第2015/068483号
なお、主引用例は引用文献2であり、引用文献4は副引用例である。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(国際公開第2005/050299号)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、反射防止性や傷つき性及び耐久性に優れ、画面をどの方向から見ても均質な表示で高いコントラストを有する液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特徴をもち、テレビジョン、パーソナルコンピューター、カーナビゲーターなどに広く用いられている。
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、反射防止性や傷つき性及び耐欠性に優れ、視野角が広く、どの方向から見ても均質な表示で高いコントラストが得られる液晶表示装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の屈折特性を有する光学異方体層を含む2層を液晶セル及び偏光子に対して特定の位置関係に配置することにより、コントラストの低下を防止して、視野角が広く、高いコントラストを有する液晶表示装置が得られることを見出し、さらに、波長550nmの光で測定した面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x)、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn_(y)、厚さ方向の屈折率をn_(z)としたとき、n_(z)>n_(y)である光学異方体(A)とn_(x)>n_(z)である光学異方体(B)とを、液晶セル及び偏光子に対して特定の位置関係に配置することにより、コントラストの低下を防止して、視野角が広く、高いコントラストを有するインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置が得られることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
…省略…
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
…省略…
【0010】
本発明に用いる光学異方体(A)は、(i)固有複屈折値が負である材料を含む層、(ii)ディスコティック液晶又はライオトロピック液晶を含む層、(iii)光異性化物質を含む層より選ばれたものからなることが好ましい。
…省略…
【0050】
本発明に用いる光学異方体(B)は、n_(xB)>n_(zB)を満たす光学異方体であれば特に制限はないが、好ましくは固有複屈折値が正である材料を含む層からなる。
…省略…
【0065】
本発明の液晶表示装置において、使用する偏光子としては、ポリビニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光子の厚さは、5?80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0066】
偏光子は通常、その両面に保護フィルムが接着され、偏光板として供される。
偏光子の保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れるポリマーからなるフィルム等が好ましく用いられる。そのポリマーの例としては、脂環式構造を有する重合体、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルフォン重合体、ポリエーテルスルフォン重合体、ポリアリレート重合体、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族化合物共重合体等を挙げることができる。特に、透明性、軽量性の観点から、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、脂環式構造を有する重合体樹脂が好ましく、寸法安定性、膜厚制御性の観点からポリエチレンテレフタレート、脂環式構造を有する重合体樹脂がさらに好ましい。さらに、本発明に用いる光学異方体は、偏光子の保護フィルムを兼ねることができ、液晶表示装置の薄型化が可能である。
…省略…
【0069】
本発明の液晶表示装置の視認側の偏光子の保護フィルムには、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層することができる。
【0070】
前記ハードコート層とは表面硬度の高い層である。具体的には、JIS K 5600-5-4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板)で「HB」以上の硬度を持つ層である。上記ハードコート層は高屈折率を有することが好ましい。高屈折率にすることによって、外光の映りこみ等が防止され、耐擦傷性、防汚性等にも優れた偏光板とすることが可能になる。ハードコート層の平均厚さは特に限定されないが、通常0.5?30μm、好ましくは3?15μmである。ここで、高屈折率とは、後に積層させる低屈折率層の屈折率よりも大きい屈折率のことをいい、好ましくは1.55以上である。屈折率は、例えば、公知の分光エリプソメータを用いて測定し求めることができる。
【0071】
前記ハードコート層を構成する材料としては、JIS K 5600-5-4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板)で「HB」以上の硬度を示すことのできるものであれば、特に制限されない。
例えば、有機系シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系等の有機ハードコート材料;二酸化ケイ素等の無機系ハードコート材料;等が挙げられる。なかでも、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料の使用が好ましい。
…省略…
【0072】
ハードコート層は、無機酸化物粒子をさらに含むものであるのが好ましい。
無機酸化物粒子を添加することにより、耐擦傷性に優れ、屈折率が1.55以上のハードコート層を容易に形成することが可能となる。
【0073】
ハードコート層に用いることができる無機酸化物粒子としては、屈折率が高いものが好ましい。具体的には、屈折率が1.6以上、特に1.6?2.3である無機酸化物粒子が好ましい。
【0074】
このような屈折率の高い無機酸化物粒子としては、例えば、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、五酸化アンチモン、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、リンをドープした酸化錫(PTO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等が挙げられる。
これらの中でも、五酸化アンチモンは、屈折率が高く、導電性と透明性のバランスに優れるので、屈折率を調節するための成分として適している。
【0075】
前記低屈折率層は、ハードコート層よりも屈折率が低い層である。低屈折率層の屈折率は、1.36以下であることが好ましく、1.35?1.25であることがさらに好ましく、1.34?1.30であることが特に好ましい。上記好ましい条件であることにより、視認性と耐擦傷性、強度のバランスに優れる偏光板保護フィルムが形成される。低屈折率層の厚さは、10?1000nmであることが好ましく、30?500nmであることがより好ましい。
…省略…
【実施例】
【0103】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、偏光子と偏光子保護フィルムの積層体である偏光板[(株)サンリッツ、HLC2-5618]を用いた。
…省略…
【0106】
(製造例I)(ハードコート剤の調製)
5酸化アンチモンの変性アルコールゾル(固形分濃度30%、触媒化成社製)100重量部に、紫外線硬化型ウレタンアクリレート[商品名:紫光UV7000B、日本合成化学社製]10重量部、光重合開始剤[商品名:イルガキュアー184、チバガイギー社製]0.4重量を混合し、紫外線硬化型のハードコート剤を得た。
…省略…
【0108】
(製造例III)(ハードコート層の作製)
長尺の偏光板[サンリッツ社製、HLC2-5618]の片面に、高周波発振機[コロナジェネレーターHV05-2、Tamtec社製]を用いて、3秒間コロナ放電処理を行い、表面張力が0.072N/mになるように表面改質した。この表面改質面に、製造例Iで得られたハードコート剤を硬化後のハードコート層の膜厚が5μmになるように、ダイコーターを用いて連続的に塗布した。次いで、これを80℃で5分間乾燥させた後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))を行うことにより、ハードコート剤を硬化させ、長尺のハードコート層積層偏光板(C’)を得た。硬化後のハードコート層の膜厚は5μm、屈折率は1.62、表面粗さは0.2μmであった。
…省略…
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の液晶表示装置は、反射防止性及び傷つき性に優れ、正面方向からの画像特性を低下させることなく、画面を斜め方向から見たときのコントラストの低下が防止され、視野角が広く、どの方向から見ても均質で高いコントラストを有する。本発明の液晶表示装置は、インプレーンスイッチングモードの液晶表示装置に特に好適に適用することができる。」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献2の【0106】及び【0108】には、次の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。なお、各工程を区別する便宜上、「工程(1)」などの記載を加えた。
「 5酸化アンチモンの変性アルコールゾル(固形分濃度30%、触媒化成社製)100重量部に、紫外線硬化型ウレタンアクリレート[商品名:紫光UV7000B、日本合成化学社製]10重量部、光重合開始剤[商品名:イルガキュアー184、チバガイギー社製]0.4重量を混合し、紫外線硬化型のハードコート剤を得る工程(1)、
長尺の偏光板[サンリッツ社製、HLC2-5618]の片面に、コロナ放電処理を行い、表面張力が0.072N/mになるように表面改質する工程(2)、
この表面改質面に、工程(1)で得られたハードコート剤を硬化後のハードコート層の膜厚が5μmになるように、ダイコーターを用いて連続的に塗布する工程(3)、
次いで、これを80℃で5分間乾燥させた後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))を行うことにより、ハードコート剤を硬化させ、長尺のハードコート層積層偏光板(C’)を得る工程(4)をこの順に有し、
硬化後のハードコート層の膜厚は5μm、屈折率は1.62、表面粗さは0.2μmである、
長尺のハードコート層積層偏光板(C’)の製造方法。」

イ 引用発明B
引用文献2の【0069】には、「本発明の液晶表示装置の視認側の偏光子の保護フィルムには、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層することができる。」と記載されている。また、上記「偏光子」に関して、引用文献2の【0066】には、「偏光子は通常、その両面に保護フィルムが接着され、偏光板として供される。」及び「偏光子の保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れるポリマーからなるフィルム等が好ましく用いられる。」と記載されている。さらに、上記「ハードコート層」に関して、引用文献2の【0071】には、「前記ハードコート層を構成する材料としては、JIS K 5600-5-4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板)で「HB」以上の硬度を示すことのできるものであれば、特に制限されない。」としつつも、「なかでも、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料の使用が好ましい。」と記載されている。
これら記載からみて、引用文献2には、次の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。
「 偏光子の保護フィルムに、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層する方法であって、
偏光子は、その両面に保護フィルムが接着され、偏光板として供され、
偏光子の保護フィルムとしては、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れるポリマーからなるフィルムが用いられ、
ハードコート層を構成する材料は、JIS K 5600-5-4で示す鉛筆硬度試験で「HB」以上の硬度を示すことのでき、接着力が良好であり、生産性に優れるウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料である、
方法。」

(3) 引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献4(国際公開第2015/068483号)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、光学積層体に関する。
背景技術
[0002] 液晶ディスプレイ(LCD)、陰極線管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示装置は、外部からの接触によりその表面に傷がつくと、表示画像の視認性が低下する場合がある。このため、画像表示装置の表面保護を目的として、基材フィルムとハードコート層とを含む光学積層体が用いられている。光学積層体の基材フィルムとしては、代表的にはトリアセチルセルロース(TAC)が用いられている(特許文献1)。しかし、TACからなる基材フィルムは、透湿度が高い。そのため、このような基材フィルムを含む光学積層体をLCDに用いた場合、高温高湿下では水分が当該光学積層体を透過して、偏光子の光学特性が劣化するという問題が生じる。近年、屋内での使用に加え、カーナビゲーションシステム、携帯情報端末のような屋外で使用される機器にもLCDが用いられることも多くなっており、高温高湿等の過酷な条件下においても上記問題の生じない信頼性の高いLCDが求められている。
…省略…
発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明は、ハードコート層と基材層との密着性および硬度を両立することができ、かつ、基材フィルムの変形を惹起し得る温度の加熱を必要とせずに製造され得る光学積層体を提供する。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明の光学積層体は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成される基材層と、該(メタ)アクリル系樹脂フィルムにハードコート層形成用組成物を塗工して形成されたハードコート層と、該基材層と該ハードコート層との間に、該ハードコート層形成用組成物が該(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成された浸透層とを備える。該ハードコート層形成用組成物は、1個以上のラジカル重合性不飽和基および芳香環を含有する硬化性化合物(A)と、2個以上のラジカル重合性不飽和基を含有するが、芳香環を含有しない硬化性化合物(B)と、1個のラジカル重合性不飽和基を含有するが、芳香環を含有しない単官能モノマー(C)と、を含む。
…省略…
発明の効果
[0007] 本発明によれば、所定の3種類の硬化性化合物を含むハードコート層形成用組成物を用いることにより、基材層とハードコート層との密着性および硬度の両方に優れ、かつ、基材フィルムの変形を惹起し得る温度での加熱を必要とせずに製造され得る光学積層体が得られる。」

イ 「[0009]
…省略…
A.光学積層体の全体構成
図1(a)は、本発明の好ましい実施形態による光学積層体の概略断面図であり、図1(b)は、浸透層を有さない光学積層体の概略断面図である。図1(a)に示す光学積層体100は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成される基材層10と、浸透層20と、ハードコート層30とをこの順に備える。ハードコート層30は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムにハードコート層形成用組成物を塗工して形成される。浸透層20は、ハードコート層形成用組成物が(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成される。基材層10は、このようにハードコート層形成用組成物が(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透した際に、(メタ)アクリル系樹脂フィルムにおいてハードコート層形成用組成物が到達(浸透)しなかった部分である。
…省略…
[0010] 浸透層20は、上記のとおり、光学積層体100において、ハードコート層形成用組成物が(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成される。すなわち、浸透層20とは、(メタ)アクリル系樹脂フィルムにおいて、ハードコート層成分が存在している部分である。浸透層20の厚みは、例えば1.0μm以上である。
…省略…
[0015] 本発明の光学積層体のハードコート層表面の鉛筆硬度は、好ましくは2H以上、より好ましくは3H以上である。
[0016] 本発明の光学積層体は、例えば、偏光フィルム(偏光板とも称される)に適用される。具体的には、本発明の光学積層体は、偏光フィルムにおいて、偏光子の片面または両面に設けられ、偏光子の保護材料として好適に用いられ得る。」

ウ 「[0103]<製造例1>基材フィルムAの作製
特開2010-284840号公報の製造例1に記載のイミド化MS樹脂(重量平均分子量:105,000)100重量部およびトリアジン系紫外線吸収剤(アデカ社製、商品名:T-712)0.62重量部を、2軸混練機にて220℃にて混合し、樹脂ペレットを作製した。得られた樹脂ペレットを、100.5kPa、100℃で12時間乾燥させ、単軸の押出機にてダイス温度270℃でTダイから押出してフィルム状に成形した(厚み160μm)。さらに当該フィルムを、その搬送方向に150℃の雰囲気下に延伸し(厚み80μm)、次いでフィルム搬送方向と直交する方向に150℃の雰囲気下に延伸して、厚み40μmの基材フィルムA((メタ)アクリル系樹脂フィルム)を得た。得られた基材フィルムAの波長380nmの光の透過率は8.5%、面内位相差Reは0.4nm、厚み方向位相差Rthは0.78nmであった。また得られた基材フィルムAの透湿度は、61g/m^(2)・24hrであった。
…省略…
[0104]<実施例1>
硬化性化合物(A)としてのフェノールノボラック系アクリレート(日立化成社製、製品名「ヒタロイドUV251」)30部と、硬化性化合物(B)としてのウレタンアクリレートのオリゴマー(Mw=2300、官能基数:15)とジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物(新中村化学社製、製品名「UA53H」)70部と、単官能モノマー(C)としてのヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学社製、製品名「4-HBA」)20部と、レベリング剤(DIC社製、商品名:PC4100)0.5部と、光重合開始剤(チバ・ジャパン社製、商品名:イルガキュア907)3部とを混合し、固形分濃度が50%となるように、メチルイソブチルケトンで希釈して、ハードコート層形成用組成物を調製した。
[0105] 製造例1で得られた基材フィルムA上に、得られたハードコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、当該塗布層を75℃で1分間加熱した。加熱後の塗布層に高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させて、基材層、ハードコート層および浸透層を形成し、光学積層体を得た。」

エ 図1




2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明Bを対比すると、以下のとおりとなる。
ア コーティング層付き偏光板の製造方法
引用発明Bは、「偏光子の保護フィルムに、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層する方法」である。また、引用発明Bの「偏光子」は、「その両面に保護フィルムが接着され、偏光板として供され」る。
上記構成からみて、引用発明Bは、「偏光子」と、「その両面に」「接着され」た「保護フィルム」を備える「偏光板」と、「保護フィルム」の「偏光子」と反対側の面に形成された「ハードコート層」を含む、「ハードコート層」付き「偏光板」の製造方法といえる。また、「ハードコート層」が塗工により形成されることは、その文言からみて明らかである(当合議体注:引用文献2の【0106】及び【0108】の記載(引用発明Aの「工程(3)」)からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明Bの「偏光子」、「保護フィルム」、「偏光板」、「ハードコート層」及び「方法」(偏光子の保護フィルムに、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層する方法)は、それぞれ、本願発明の「偏光子」、「保護フィルム」、「偏光板」、「コーティング層」及び「コーティング層付き偏光板の製造方法」に相当する。また、引用発明Bの「偏光板」は、本願発明の「偏光板」における、「偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の面に配置された保護フィルムとを備える」という要件を満たす。加えて、引用発明Bの「ハードコート層」は、本願発明の「コーティング層」における「少なくとも1枚の該保護フィルムの該偏光子とは反対側の面に形成された」という要件を満たす。さらに、引用発明Bの「方法」は、本願発明の「コーティング層付き偏光板の製造方法」における、「偏光板と」、「コーティング層とを含む」という要件を満たす。

イ コーティング層を形成すること
引用発明Bの「偏光子は、その両面に保護フィルムが接着され、偏光板として供され」たものであり、また、引用発明Bは、前記アで述べたとおり、「偏光子の保護フィルムに、ハードコート層及び低屈折率層を、この順に積層する方法」である。そして、「ハードコート層を構成する材料は、JIS K 5600-5-4で示す鉛筆硬度試験で「HB」以上の硬度を示すことのでき、接着力が良好であり、生産性に優れるウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料である」。
上記構成からみて、引用発明Bの「方法」は、「偏光子」と「保護フィルム」を接着して「偏光板」とした後に、「保護フィルム」に「ハードコート層を構成する材料」を塗工することにより、「ハードコート層」を形成するものである。
そうしてみると、引用発明Bの「方法」は、本願発明の「コーティング層付き偏光板の製造方法」における、「該偏光子と該保護フィルムを積層して、偏光板を形成した後に、該保護フィルムにコーティング層形成用組成物を塗工することにより、該コーティング層を形成すること」「を含む」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明Bは、次の構成で一致する。
「 偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の面に配置された保護フィルムとを備える、偏光板と、
少なくとも1枚の該保護フィルムの該偏光子とは反対側の面に形成されたコーティング層とを含む、
コーティング層付き偏光板の製造方法であって、
該偏光子と該保護フィルムを積層して、偏光板を形成した後に、該保護フィルムにコーティング層形成用組成物を塗工することにより、該コーティング層を形成することを含む、
コーティング層付き偏光板の製造方法。」

イ 相違点
本願発明と引用発明Bは、次の点で相違する。
(相違点)
「コーティング層付き偏光板の製造方法」が、本願発明は、「該保護フィルムに該コーティング層形成用組成物の一部を浸透させて、浸透層を形成すること」を含むのに対して、引用発明Bは、このように特定されたものではない点。
(当合議体注:「ハードコート層を構成する材料」と「保護フィルム」のSP値が大きく異なれば、「保護フィルム」に「ハードコート層を構成する材料」が浸透せず、「浸透層」は形成されないと考えられる。)

(3) 判断
「ハードコート層」と「保護フィルム」の間に十分な接着力が必要であることは、本件出願前の当業者に自明な課題であり、この点は、引用発明Bの構成からも理解できる。すなわち、引用発明Bの「ハードコート層を構成する材料」は、「接着力が良好であり、生産性に優れるウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料である」。そして、ここでいう「接着力」とは、「ハードコート層を構成する材料」と「保護フィルム」の「接着力」のことである。
そうしてみると、引用発明Bを具体化する当業者ならば、「ハードコート層を構成する材料」と「保護フィルム」を、「接着力」を考慮して選択するといえるところ、引用文献4には、[A]「ハードコート層と基材層との密着性および硬度を両立することができ」([0005])ることを発明の課題の一つとして、[B]「(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成される基材層10と、浸透層20と、ハードコート層30とをこの順に備え」、「ハードコート層30は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムにハードコート層形成用組成物を塗工して形成され」、「浸透層20は、ハードコート層形成用組成物が(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成され」、「基材層10は、このようにハードコート層形成用組成物が(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透した際に、(メタ)アクリル系樹脂フィルムにおいてハードコート層形成用組成物が到達(浸透)しなかった部分である」「光学積層体100」(以上[0009])であって、[C]「偏光フィルムにおいて、偏光子の片面または両面に設けられ、偏光子の保護材料として好適に用いられ得る」([0016])ものが開示されている(以下「引用文献4記載技術」という。)。
上記[A]及び[C]の点からみて、引用文献4記載技術は、「ハードコート層を構成する材料」と「保護フィルム」の「接着力」を考慮する当業者が、採用するに適した技術といえる。そして、引用文献4記載技術の「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」は、技術的にみて、引用発明Bの「偏光子の保護フィルムとしては、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れるポリマーからなるフィルムが用いられ」という要件と整合する(引用文献4の[0103]に記載の「基材フィルムA」とも整合する。)。さらに、引用文献4記載技術の「ハードコート層形成用組成物」に関して、引用文献4の[0006]には、「該ハードコート層形成用組成物は、1個以上のラジカル重合性不飽和基および芳香環を含有する硬化性化合物(A)と、2個以上のラジカル重合性不飽和基を含有するが、芳香環を含有しない硬化性化合物(B)と、1個のラジカル重合性不飽和基を含有するが、芳香環を含有しない単官能モノマー(C)と、を含む。」と記載されているところ、この「ハードコート層形成用組成物」は、引用発明Bの「ウレタンアクリレート系、多官能アクリレート系ハードコート材料」という要件とも整合する(引用文献4の[0104]に記載の「ハードコート層形成用組成物」とも整合する。)。
以上勘案すると、引用発明Bの「ハードコート層を構成する材料」及び「保護フィルム」として、引用文献4記載技術の上記[B]の要件を満たすものを採用し、相違点に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 発明の効果について
本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0009】には、「本発明によれば、偏光子と保護フィルムとを積層して偏光板を形成した後に、コーティング層を形成することにより、耐候性の低下を防止して、コーティング層と保護フィルムとの密着性に優れるコーティング層付き偏光板を製造することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明Bも奏する効果である。
仮に、上記「コーティング層と保護フィルムとの密着性に優れる」という、「密着性」の程度を、「該保護フィルムに該コーティング層形成用組成物の一部を浸透させて、浸透層を形成すること」によって得られる程度のものであると善解するとしても、そのような効果は、前記(3)で述べたとおり容易推考する当業者が期待する効果を超えないものである。

(5) 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の3.(2)において、「引用文献4は、基材/ハードコート層構成の光学積層体を記載するにすぎず、偏光板に直接コーティング層(引用文献4においてはハードコート層)を形成すること、すなわち、「偏光板を形成した後に、保護フィルムにコーティング層形成用組成物を塗工すること」は開示も示唆もしていません。」と主張する。
しかしながら、請求人が開示も示唆もしていないと主張する構成は、引用発明を前提として、これに引用文献4記載技術を採用することにより到る構成にとどまる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

3 その他
引用発明Aの「偏光板」である「サンリッツ社製、HLC2-5618」は、偏光子の両面に保護フィルムを貼り合わせたものである(例えば、特開2007-332292号公報の【0191】、【0208】及び【図1】からも理解できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明Bに替えて、引用発明Aに基づいて検討しても、同様である。

第3 まとめ
本願発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献4に記載された技術に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-25 
結審通知日 2021-06-29 
審決日 2021-07-20 
出願番号 特願2016-227054(P2016-227054)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 早川 貴之
河原 正
発明の名称 コーティング層付き偏光板の製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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