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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60C
管理番号 1377772
異議申立番号 異議2020-700625  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-20 
確定日 2021-07-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6654105号発明「重荷重用空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6654105号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし7]について訂正することを認める。 特許第6654105号の請求項1、2及び5ないし7に係る特許を維持する。 特許第6654105号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6654105号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年6月20日を出願日とする出願であって、令和2年1月31日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、特許掲載公報が同年2月26日に発行され、その後、その特許に対し、同年8月20日に特許異議申立人 泉 美幸(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年12月4付けで取消理由が通知され、令和3年2月9日に特許権者 株式会社ブリヂストン(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年2月19日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月25日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正について

1 訂正の内容
令和3年2月9日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を、「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、
前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3及び4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれか一項に記載の」との記載を、「請求項1又は2に記載の」に訂正する。
併せて、請求項5を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1?5のいずれか一項に記載の」との記載を、「請求項1、2又は5に記載の」に訂正する。
併せて、請求項6を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項6を訂正したことに伴う訂正をする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6のいずれか一項に記載の」との記載を、「請求項1、2、5又は6に記載の」に訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に対して、
「前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、
前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる」
との事項を追加するものであって、当該事項は、訂正前の「ベルト層」に係る限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についての訂正も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3及び4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ないし5について
訂正事項3ないし5に係る請求項5ないし7の訂正は、引用請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項5又は6を直接又は間接的に引用する他の請求項についての訂正も同様である。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし5は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし5は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項2ないし7は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし5は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし7]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、
前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側にトレッドを備え、
前記トレッドの厚さは、20?35mmである、請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記内側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる、請求項1又は2のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1のベルト層の補強素子の径をr1、前記第2のベルト層の補強素子の径をr2とするとき、
d+r1+r2
が2.7mm以上である、請求項1、2又は5のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より小さい、請求項1、2、5又は6のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。」

第4 特許異議申立書に記載した理由の概要

令和2年8月20日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号:甲第1号証に基づく新規性)

本件特許の請求項1及び5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(特許法第29条第1項第3号:甲第2号証に基づく新規性)

本件特許の請求項1及び5ないし7に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1及び5ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(特許法第29条第2項:甲第1号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(特許法第29条第2項:甲第2号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第3ないし11号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 申立理由5(特許法第29条第2項:甲第6号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第1ないし5号証及び甲第7ないし11号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

6 証拠方法

甲第1号証 : 国際公開第2013/031021号
甲第2号証 : 特開2014-213648号公報
甲第3号証 : 国際公開第2014/010349号
甲第4号証 : 特表2006-528102号公報
甲第5号証 : 特表2002-511039号公報
甲第6号証 : 特開2010-120530号公報
甲第7号証 : 特開2000-177314号公報
甲第8号証 : 特開平11-170809号公報
甲第9号証 : 特開2015-003666号公報
甲第10号証 : 特表2001-522749号公報
甲第11号証 : 特開2003-211911号公報

なお、文献名等の表記は特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 当審の取消理由の概要

令和2年12月4日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。

1 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由2(新規性) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 取消理由3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2、甲7ないし11に記載の技術事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 取消理由4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び甲2、甲7ないし11に記載の技術事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 取消理由5(新規性進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲11に記載された発明であり、また、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲11に記載された発明及び甲1、甲2及び甲7ないし10号証に記載の技術事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

なお、取消理由1は申立理由1を包含し、取消理由2は、申立理由2の一部であり、取消理由3及び4は、申立理由3及び4と同旨である。

第6 取消理由についての当審の判断

1 甲1、2及び甲7ないし11の記載事項等

(1)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。下線については当審において付与した。以下同じ。
ア 「請求の範囲
[請求項1] 周方向補強層を含む複数のベルトプライを積層して成るベルト層を備える空気入りタイヤであって、
前記ベルト層が、少なくとも2枚の前記ベルトプライを前記周方向補強層のタイヤ径方向外側に有し、且つ、
隣り合う前記ベルトプライの各ベルトコード間のタイヤ径方向の距離をコード間距離と呼ぶと共に、前記周方向補強層からタイヤ径方向外側の領域にある複数の前記コード間距離をタイヤ径方向内側の前記コード間距離から順にT1、T2、・・・、Tk(k:前記周方向補強層のタイヤ径方向外側にある前記ベルトプライの枚数)とするときに、
隣り合うベルトプライのコード間距離T1?Tkが、T1≦T2≦・・・≦TkかつT1<Tkの関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
[請求項2] コード間距離T1とコード間距離Tkとが、2.0≦Tk/T1≦4.0の関係を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。」

イ 「技術分野
[0001] この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、耐偏摩耗性を向上できる空気入りタイヤに関する。」

ウ 「発明が解決しようとする課題
[0004] しかしながら、ベルト層が周方向補強層を有する構成では、タイヤ周方向の剛性が大きいため、急制動時および急加速時にトレッド部にかかる負荷が大きい。このため、ベルト層が周方向補強層を有さない構成と比較して、偏摩耗(特に、ヒールアンドトゥ摩耗)が発生し易いという課題がある。
[0005] そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐偏摩耗性を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。」

エ 「[0021][空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、空気入りタイヤ1の一例として、長距離輸送用のトラック、バスなどに装着される重荷重用ラジアルタイヤを示している。
[0022] この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(図1参照)。一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、ローアーフィラー121およびアッパーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された複数のベルトプライ141?145から成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。」

オ 「[0027] ベルト層14は、高角度ベルト141と、一対の交差ベルト142、143と、ベルトカバー144と、周方向補強層145とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される(図2参照)。
[0028] 高角度ベルト141は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコード1411をコートゴム1412で被覆して圧延加工して構成され、絶対値で40[deg]以上60[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有する。また、高角度ベルト141は、カーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
[0029] 一対の交差ベルト142、143は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコード1421、1431をコートゴム1422、1432で被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上30[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト142、143は、相互に異符号のベルト角度を有し、ベルトコード1421、1431の繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ここでは、タイヤ径方向内側に位置する交差ベルト142を内径側交差ベルトと呼び、タイヤ径方向外側に位置する交差ベルト143を外径側交差ベルトと呼ぶ。なお、3枚以上の交差ベルトが積層されて配置されても良い(図示省略)。また、一対の交差ベルト142、143は、高角度ベルト141のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
[0030] ベルトカバー144は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコード1441をコートゴム1442で被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー144は、交差ベルト142、143のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。なお、この実施の形態では、ベルトカバー144が、外径側交差ベルト143と同一のベルト角度を有し、また、ベルト層14の最外層に配置されている。」

カ 「[0074] 次に、図7の変形例では、周方向補強層145が、高角度ベルト141のタイヤ径方向内側(カーカス層13と高角度ベルト141との間)に配置されている。このため、周方向補強層145からタイヤ径方向外側の領域には、4枚のベルトプライ(高角度ベルト141、一対の交差ベルト142、143およびベルトカバー144)が配置され、4つのコード間距離T1?T4と、4つのコード間領域A1?A4とが形成されている。また、4つのコード間距離T1?T4が、タイヤ径方向内側からT1、T2、T3、T4の順に配置され、また、4つのコード間領域A1?A4がタイヤ径方向内側からA1、A2、A3、A4の順に配置されている。
[0075] また、周方向補強層145からタイヤ径方向外側の領域にて、4つのコード間距離T1?T4が、T1<T2<T3<T4の関係を有している。具体的には、シート状の緩衝ゴム146?148が、高角度ベルト141と内径側交差ベルト142との間、内径側交差ベルト142と外径側交差ベルト143との間、および、外径側交差ベルト143とベルトカバー144との間にそれぞれ配置されて、これらのコード間距離T2?T4が調整されている。これにより、各ベルトプライ141?145間のコード間距離T1?T4が、周方向補強層145からタイヤ径方向外側に向かうに連れて大きくなるように設定されている。
[0076] また、タイヤ径方向の最も外側にあるコード間距離T4と、タイヤ径方向の最も内側にある(最も小さい)コード間距離T1とが、2.0≦T4/T_1≦4.0の関係を有している。また、このとき、コード間距離T1、T4が、0.2[mm]≦T1≦0.5[mm]かつ0.3[mm]≦T4≦1.5[mm]の範囲内にある。」

キ 「



ク 「



(2)甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)アないしクの記載があり、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2に係る発明の実施態様にあたる図1及び7に記載されている重荷重用空気入りタイヤであって、段落[0076]に記載されている空気入りタイヤとして、次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、周方向補強層145、高角度ベルト141、内径側交差ベルト142、外径側交差ベルト143、ベルトカバー144を備え、
内径側交差ベルト142と外径側交差ベルト143は、絶対値で10[deg]以上30[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、これらの交差ベルト142、143は、相互に異符号のベルト角度を有し、ベルトコード1421、1431の繊維方向を相互に交差させて積層されるものであり、
高角度ベルト141は、絶対値で40[deg]以上60[deg]以下のベルト角度を有し、
コード間距離をタイヤ径方向内側の前記コード間距離から順にT1、T2、T3、T4とするときに、
隣り合うベルトプライのコード間距離T1?T4が、T1≦T2≦T3≦T4かつT1<T4の関係を有し、
コード間距離T1とコード間距離T4とが、2.0≦T4/T1≦4.0の関係を有し、
0.3[mm]≦T4≦1.5[mm]である、
重荷重用空気入りタイヤ。」

(3)甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、
前記ベルト層が、タイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内にあるベルト角度を有する周方向補強層と、絶対値で10[deg]以上70[deg]以下のベルト角度を有すると共に前記周方向補強層のタイヤ径方向内側およびタイヤ径方向外側にそれぞれ積層されて前記周方向補強層に隣接する内側ベルトプライおよび外側ベルトプライとを備え、且つ、
タイヤ赤道面における前記周方向補強層と前記内側ベルトプライとのコード間距離G_(cl)、タイヤ赤道面における前記周方向補強層と前記外側ベルトプライとのコード間距離G_(cu)、前記周方向補強層の端部領域における前記周方向補強層と前記内側ベルトプライとのコード間距離G_(sl)、および、前記周方向補強層の端部領域における前記周方向補強層と前記外側ベルトプライとのコード間距離G_(su)が、1.20≦(G_(cl)+G_(cu))/(G_(sl)+G_(su))≦9.20の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。」

イ 「【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、外径均一成長性能を向上できる空気入りタイヤに関する。」

ウ 「【0009】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、空気入りタイヤ1の一例として、長距離輸送用のトラック、バスなどに装着される重荷重用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。また、同図では、トレッド端Pとタイヤ接地端Tとが、一致している。また、同図では、周方向補強層145にハッチングを付してある。」

エ 「【0010】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(図1参照)。
【0011】
一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、ローアーフィラー121およびアッパーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0012】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で85[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0013】
ベルト層14は、複数のベルトプライ141?145を積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。ベルト層14の具体的な構成については、後述する。」

オ 「【0019】
ベルト層14は、高角度ベルト141と、一対の交差ベルト142、143と、ベルトカバー144と、周方向補強層145とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される(図2参照)。
【0020】
高角度ベルト141は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で45[deg]以上70[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有する。また、高角度ベルト141は、カーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0021】
一対の交差ベルト142、143は、コートゴムで被覆されたスチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト142、143は、相互に異符号のベルト角度を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ここでは、タイヤ径方向内側に位置する交差ベルト142を内径側交差ベルトと呼び、タイヤ径方向外側に位置する交差ベルト143を外径側交差ベルトと呼ぶ。なお、3枚以上の交差ベルトが積層されて配置されても良い(図示省略)。また、一対の交差ベルト142、143は、この実施の形態では、高角度ベルト141のタイヤ径方向外側に積層されて配置されている。
【0022】
また、ベルトカバー144は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー144は、一対の交差ベルト142、143のタイヤ径方向外側に積層されて配置されている。なお、この実施の形態では、ベルトカバー144が、外径側交差ベルト143と同一のベルト角度を有し、また、ベルト層14の最外層に配置されている。
【0023】
周方向補強層145は、コートゴムで被覆されたスチール製のベルトコードをタイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内で傾斜させつつ螺旋状に巻き廻わして構成される。また、周方向補強層145は、この実施の形態では、一対の交差ベルト142、143の間に挟み込まれて配置されている。また、周方向補強層145は、一対の交差ベルト142、143の左右のエッジ部よりもタイヤ幅方向内側に配置される。具体的には、1本あるいは複数本のワイヤが内径側交差ベルト142の外周に螺旋状に巻き廻されて、周方向補強層145が形成される。この周方向補強層145がタイヤ周方向の剛性を補強することにより、タイヤの耐久性能が向上する。」

カ 「【0030】
例えば、図2の構成では、周方向補強層145が、一対の交差ベルト142、143の間に挟み込まれて配置されている。このため、内径側交差ベルト142が、内側ベルトプライとなり、外径側交差ベルト143が、外側ベルトプライとなっている。また、内側ベルトプライおよび外側ベルトプライが、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共に相互に異符号のベルト角度を有している。
【0031】
しかし、これに限らず、周方向補強層145が、一対の交差ベルト142、143のタイヤ径方向外側に配置されても良い(図示省略)。また、周方向補強層145が、一対の交差ベルト142、143の内側、すなわち、高角度ベルト141と内径側交差ベルト142との間に配置されても良い(図示省略)。これらの場合も、内側ベルトプライおよび外側ベルトプライが、上記した周方向補強層145との位置関係に応じてそれぞれ定義される。
【0032】
次に、図4に示すように、タイヤ赤道面CLにおける周方向補強層145と内側ベルトプライとのコード間距離G_(cl)、および、タイヤ赤道面CLにおける周方向補強層145と外側ベルトプライとのコード間距離G_(cu)を定義する。また、図5に示すように、周方向補強層145の端部領域における周方向補強層145と内側ベルトプライとのコード間距離G_(sl)、および、周方向補強層145の端部領域における周方向補強層145と外側ベルトプライ143とのコード間距離G_(su)を定義する。」

キ 「【0037】
例えば、図2の構成では、上記のように、周方向補強層145が、一対の交差ベルト142、143の間に挟み込まれて配置されている。このため、内径側交差ベルト142が、内側ベルトプライとなり、外径側交差ベルト143が、外側ベルトプライとなっている。また、図4および図5に示すように、一対の交差ベルト142、143が、コートゴム1422、1432で被覆された複数のベルトコード1421、1431を圧延加工して構成されている。また、周方向補強層145が、コートゴム1452で被覆されたベルトコード1451をタイヤ周方向に螺旋状に巻き廻わして構成されている。」

ク 「【0041】
なお、図2、図4および図5の構成では、コード間距離G_(cl)、G_(cu)、G_(sl)、G_(su)が、G_(sl)<G_(cl)およびG_(su)<G_(cu)の関係を有している。すなわち、周方向補強層145と内側ベルトプライ142とのコード間距離G_(cl)、G_(sl)および周方向補強層145と外側ベルトプライ143とのコード間距離G_(cu)、G_(su)の双方が、タイヤ赤道面CLと周方向補強層145の端部領域とでそれぞれゲージ差を有している。これにより、周方向補強層145の中央部領域と端部領域との間のトレッド部の外径成長差が効果的に均一化される。
・・・
【0043】
また、上記の構成では、コード間距離G_(cl)、G_(cu)、G_(sl)、G_(su)が、いずれも0.10[mm]以上の範囲にあることが好ましい。コード間距離G_(cl)、G_(cu)、G_(sl)、G_(su)の上限は、特に限定がないが、タイヤの仕様や周方向主溝2の溝下ゲージとの関係により制約を受ける。」

ケ 「【0084】
また、この空気入りタイヤ1では、周方向補強層145、内側ベルトプライ142および外側ベルトプライ143のベルトコード1451、1421、1431の径が、それぞれ1.20[mm]以上2.20[mm]以下の範囲内にある。これにより、ベルトプライ145、142、143間の剛性差を低減できるので、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。」

コ 「【実施例】
【0091】
図6および図7は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0092】
この性能試験では、相互に異なる複数の試験タイヤについて、(1)外径均一成長性能および(2)耐久性能に関する評価が行われた。この評価では、タイヤサイズ315/60R22.5の試験タイヤがリムサイズ22.5×9.00のリムに組み付けられる。
・・・
【0095】
実施例1?15の試験タイヤは、図1?図5に記載した構造を有する。従来例の試験タイヤは、図1?図5の構成において、周方向補強層145と一対の交差ベルト142、143との間の中間ゴム201、202が省略されて、コード間距離G_(cl)、G_(cu)、G_(sl)、G_(su)が、(G_(cl)+G_(cu))/(G_(sl)+G_(su))=1.10、G_(cl)=G_(sl)およびG_(cu)=G_(su)の関係を有している。」

サ 「



シ 「



(4)甲2に記載された発明
甲2には、上記(3)アないしシの記載からみて、実施例8(注:取消理由の実施例9に基づいたものより変更されている。)として記載されている重荷重用空気入りタイヤとして、次のとおりの発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「カーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、
前記ベルト層が、タイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内にあるベルト角度を有する周方向補強層145と、絶対値で17[deg]のベルト角度を有すると共に前記周方向補強層のタイヤ径方向内側およびタイヤ径方向外側にそれぞれ積層されて前記周方向補強層145に隣接する内側ベルトプライ142および外側ベルトプライ143とを備え、且つ、
外側ベルトプライのタイヤ径方向外側にベルトカバー144を有し、
内側ベルトプライのタイヤ径方向内側に高角度ベルト141を有し、
タイヤ赤道面における前記周方向補強層145と前記内側ベルトプライ142とのコード間距離G_(cl)が0.30mm、タイヤ赤道面における前記周方向補強層145と前記外側ベルトプライ143とのコード間距離G_(cu)が0.39mm、前記周方向補強層145の端部領域における前記周方向補強層と前記内側ベルトプライとのコード間距離G_(sl)が0.20mm、および、前記周方向補強層145の端部領域における前記周方向補強層と前記外側ベルトプライとのコード間距離G_(su)が0.30mmであって、1.20≦(G_(cl)+G_(cu))/(G_(sl)+G_(su))≦9.20の関係を有する重荷重用空気入りタイヤ。」

(5)甲11に記載された事項
甲11には以下の記載がある。

ア 「【0018】また本発明のタイヤ1は、第1、第2、3及び第4のベルトプライ7A、7B、7C及び7Dのタイヤ赤道Cに対するベルトコード10の傾斜角度θ1、θ2、θ3及びθ4と、第1、第2、第3及び第4のベルトプライ7A、7B、7C及び7Dのそれぞれのタイヤ軸方向の巾BW1、BW2、BW3及びBW4とが下式を満足する。なお、前記角度θ1ないし4は、タイヤ赤道Cの位置で測定するものとし、符号TWはトレッド接地幅である。またベルトプライの巾は、正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷状態のものとする。
15゜<θ1<21゜
15゜<θ2<21゜
47゜<θ3<53゜
15゜<θ4<21゜
0.80<BW2/TW<0.95
BW1>BW2>BW3>BW4」

イ 「【0025】また図4に示すように、第1のベルトプライ7Aと第2のベルトプライ7Bとの間のタイヤ半径方向のベルトコード間距離d12、第2のベルトプライ7Bと第3のベルトプライ7Cとの間のベルトコード間距離d23、及び第3のベルトプライ7Cと第4のベルトプライ7Dとの間のベルトコード間距離d34が下式を満たすように設定される。なお該コード間距離は、タイヤ赤道Cを中心とするトレッド接地巾TWの50%の領域で満たすものとする。
0.15mm<d12<0.40mm
0.35mm<d23<0.85mm
0.15mm<d34<0.40mm」

ウ 「【0030】
【実施例】タイヤサイズが11R22.5の重荷重用ラジアルタイヤを表1の仕様に基づき試作し、乗り心地、タイヤ強度及び操縦安定性についてテストを行った。テスト方法は次の通りである。」

エ 「【0033】
【表1】



オ 「





(6)甲11に記載された発明
甲11には、上記(5)アないしオの記載からみて、従来例として記載されている重荷重用空気入りタイヤとして、次のとおりの発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認める。

「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第3のベルトプライ7Cと、該第3のベルトプライ7Cのタイヤ径方向内側に位置する第2のベルトプライ7Bを備え、前記第3のベルトプライ7Cのタイヤ赤道Cに対するベルトコード10の傾斜角度が18L、前記第2のベルトプライ7Bのタイヤ赤道Cに対するベルトコード10の傾斜角度が18Rであり、
前記第3のベルトプライのベルトコード10と前記第2のベルトプライのベルトコードとの最短距離d23は0.28mmであり、
前記第2のベルトプライ7Bのタイヤ径方向内側に、1層の第1のベルトプライ7Aをさらに備え、前記第1のベルトプライ7Aのタイヤ赤道Cに対するベルトコード10の傾斜角度が50Rであり、
第2のベルトプライ7Bのベルトコードと第1のベルトプライ7Aのベルトコードとの最短距離d12は0.60mmであり、
前記第3のベルトプライ7Cのタイヤ径方向外側に、1層の第4のベルトプライ7Dを備え、前記第4のベルトプライ7Dのタイヤ赤道Cに対するベルトコード10の傾斜角度が18Lであって、第3ベルトプライ7Cのベルトコードと第4のベルトプライ7Dのベルトコードとの最短距離d34は0.28mmである、
重荷重用空気入りタイヤ。」

2 取消理由1及び3(甲1に基づく新規性進歩性)について

(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「外径側交差ベルト143」、「内径側交差ベルト142」、「高角度ベルト141」、「ベルトカバー144」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層」、「第2のベルト層」、「1層の内側ベルト層」、「1層の外側ベルト層」に相当し、甲1発明は、本件発明1の「前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる」及び「前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく」との構成を有している。
甲1発明は、図1からみて、本件発明1の「前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置」するとの構成を有している。
甲1発明の「コード間距離T3」、「コード間距離T2」、「コード間距離T4」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離d」、「第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離db」、「第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離da」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備える、
重荷重用空気入りタイヤ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
本件発明1は、「前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、」「前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、」「前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、」「前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる」と特定するのに対し、甲1発明は、第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離d、第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離db及び第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daを満足する範囲を取り得るものの、このような特定はない点。

相違点1-1について検討する。
まず、上記相違点1-1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
そして、ベルト層全体のなかの一部としてのベルト層どうしの角度に関する事項についての構成は甲6ないし8に開示があり、同じくベルト層全体のなかの一部のベルト層における距離d、db、daを特定の範囲の値とする点について、甲11には記載はあるものの、甲1発明において、相違点1-1に係るベルト層どうしの角度及びベルト層における距離の関係を特定の範囲とする動機付けとなる記載は提示されたいずれの文献にも記載されていないから、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。
そして、本件発明1は、提示されたいずれの文献にも記載されていない「耐偏摩耗性及び補強素子の耐久性を確保しつつも、転がり抵抗を低減することができる」との格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明から容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、異議申立人は、特許異議申立書及び令和3年3月25日提出の意見書において、上記相違点1-1における距離d、db、daに係る事項は、甲1発明との間に重複する範囲を有することから、相違点とは認められない旨主張しているが、本件発明1においての上記相違点1-1に係るd、db、daの数値範囲については、本件特許明細書においてその数値範囲に臨界的な意義があることが確認されているから、引用発明と一部重複する範囲があることをもって、相違点ではないということはできず、異議申立人の主張は採用できない。

(2)本件発明2、5ないし7について
本件発明2及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、また、本件発明2及び5ないし7は、同様に、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)取消理由1及び3についてのまとめ
したがって、本件発明1、2及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許1、2及び5ないし7は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないから、本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る特許は、取消理由1及び3によっては取り消すことはできない。

3 取消理由2及び4(甲2に基づく新規性進歩性)について

(1)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「外側ベルトプライ143」、「周方向補強層145」、「内側ベルトプライ142」、「ベルトカバー144」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層」、「第2のベルト層」、「1層の内側ベルト層」、「1層の外側ベルト層」に相当し、甲2発明の「外側ベルトプライ143」のベルト角度が17[deg]であって、「周方向補強層145」のベルト角度が±5[deg]であることから、甲2発明は、本件発明1の「前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる」との構成を有している。
甲2発明は、図1からみて、本件発明1の「前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置」するとの構成を有している。
甲2発明の「タイヤ赤道面における前記周方向補強層145と前記外側ベルトプライ143とのコード間距離G_(su)」、「タイヤ赤道面における前記周方向補強層145と前記内側ベルトプライ142とのコード間距離G_(sl)」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離d」、「第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離db」に相当するから、甲2発明は、本件発明1における「前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし」、「前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下である」との構成を有している。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備える、
重荷重用空気入りタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-1>
本件発明1は、「前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、」「前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、」「前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、」「前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる」と特定するのに対し、甲2発明は、このようには特定しない点。

相違点2-1について検討する。
まず、上記相違点2-1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
そして、ベルト層全体のなかの一部としてのベルト層どうしの角度に関する事項についての構成は甲6ないし8に開示があり、同じくベルト層全体のなかの一部のベルト層におけるdaを特定の範囲の値とする点について、甲11には記載はあるものの、甲2発明において、相違点2-1に係るベルト層どうしの角度及びベルト層における距離daを特定の範囲とする動機付けとなる記載は提示されたいずれの文献にも記載されていないから、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。
そして、本件発明1は、提示されたいずれの文献にも記載されていない「対偏摩耗性及び補強素子の耐久性を確保しつつも、転がり抵抗を低減することができる」との格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲2発明から容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2、5ないし7について
本件発明2は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、また、本件発明2、5ないし7は、同様に、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)取消理由2及び4についてのまとめ
したがって、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許1、2及び5ないし7は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないから、本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る特許は、取消理由2及び4によっては取り消すことはできない。

4 取消理由5(甲11に基づく新規性進歩性)について

(1)本件発明1について
本件発明1と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「第3のベルトプライ7C」、「第2のベルトプライ7B」、「第1のベルトプライ7A」、「第4のベルトプライ7D」、「ベルトコード」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層」、「第2のベルト層」、「1層の内側ベルト層」、「1層の外側ベルト層」、「補強素子」に相当する。
そして、甲11発明における「第3のベルトプライ7C」(第1のベルト層)の「ベルトコード10」(補強素子)の傾斜角度が18Lで、「第2のベルトプライ7B」(第2のベルト層)の「ベルトコード」(補強素子)の傾斜角度が18Rで、第1のベルトプライ7A(内側ベルト)のベルトコード(補強素子)の傾斜角度が50Rで、第4のベルトプライ7D(外側ベルト層)のベルトコード(補強素子)の傾斜角度が18Lであることから、甲11発明は、本件発明1の「前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる」及び「前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく」との構成を有している。
甲11発明は、図1からみて、本件発明1の「前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置」するとの構成を有している。
甲11発明の「前記第3のベルトプライのベルトコード10と前記第2のベルトプライのベルトコードとの最短距離d23」、「第2のベルトプライ7Bのベルトコードと第1のベルトプライ7Aのベルトコードとの最短距離d12」、「第3ベルトプライ7Cのベルトコードと第4のベルトプライ7Dのベルトコードとの最短距離d34」は、それぞれ、本件発明1における「第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離d」、「第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離db」、「前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離da」に相当するから、甲11発明は、本件発明1における「前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし」、「前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下である」、「第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり」との構成を有している。

そうすると、本件発明1と甲11発明とは、
「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下である、
重荷重用空気入りタイヤ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点11-1>
本件発明1は、「前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、」「前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる」と特定するのに対し、甲11発明は、第4のベルトプライ7D(外側ベルト層)の角度が、第3のベルトプライ7C(第1のベルト層)と同じ18度である点。

相違点11-1について検討する。
まず、上記相違点11-1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲11発明であるとはいえない。
そして、ベルト層全体のなかの一部としての外側ベルト層と第1及び第2の交差ベルト層との相対的な角度関係についての構成は甲6ないし8には開示があるものの、当該構成を甲11発明に採用する動機付けとなる記載は提示されたいずれの文献にも記載されていないから、相違点11-1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。
そして、本件発明1は、提示されたいずれの文献にも記載されていない「対偏摩耗性及び補強素子の耐久性を確保しつつも、転がり抵抗を低減することができる」との格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲11発明から容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2及び5ないし7について
本件発明2及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲11発明であるとはいえないし、また、本件発明2及び5ないし7は、同様に、甲11発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)取消理由5についてのまとめ
したがって、本件発明1、2及び5ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許1、2及び5ないし7は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないから、本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る特許は、取消理由5によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について

取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2のうち請求項5-7に対してのもの(甲2に基づく新規性)及び申立理由5(甲6に基づく進歩性)である。
そこで、検討する。

1 申立理由2のうち請求項5ないし7に対してのものについて

申立理由2は、甲2に基づく新規性であるが、請求項5ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5ないし7は本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記第5 3(1)で検討したとおり、本件発明5ないし7は、甲2発明であるとはいえず、本件特許の請求項5ないし7に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。

2 申立理由5(甲6に基づく進歩性)について

(1)甲6に記載された発明
甲6の特許請求の範囲の請求項1及び4、段落【0001】、【0013】、【0014】、【0016】、【0018】、【0019】、【0027】、【0028】?【0030】、図1、図3の記載からみて、発明例タイヤ1ないし3について、整理すると、次のとおりの発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカス3を有し、
前記カーカス3のクラウン部のタイヤ径方向外側に、互いに隣接する2層によるコード交差層であるベルト層4cと、ベルト層4cのタイヤ径方向内側に位置するベルト層4bを有し、
前記のベルト層4cのコード4cc、前記ベルト層4bのコード4bcのタイヤ赤道面に対する傾斜角度がL18°及びR18°であって、
前記ベルト層4bのタイヤ径方向内側に、ベルト層4aをさらに備え、前記ベルト層4aのコード4acのタイヤ赤道面に対する傾斜角度がL50°であって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記ベルト層4cのタイヤ径方向外側に、ベルト層4dをさらに備え、前記ベルト層4dのコード4dcのタイヤ赤道面に対する傾斜角度がL30°又は40°である
重荷重用空気入りタイヤ。」

(2)本件発明1と甲6発明との対比・判断
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「ベルト層4c」、「ベルト層4b」、「ベルト層4a」、「ベルト層4d」は、それぞれ、本件発明1の「第1のベルト層」、「第2のベルト層」、「1層の内側ベルト層」、「1層の外側ベルト層」に相当する。
甲6発明のそれぞれのベルト層の「コード4cc」、「コード4bc」、「コード4ac」、「コード4dc」は、それぞれ、本件発明1のそれぞれのベルト層の「補強素子」に相当し、甲6発明におけるその「タイヤ赤道面に対する傾斜角度」は、本件発明1の「タイヤ周方向に対する傾斜角度」に相当しているから、甲6発明におけるそれぞれのベルト層の傾斜角度から、甲6発明は、本件発明1の「第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる」、「前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく」、「前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく」及び「前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる」を満足している。

そうすると、本件発明1と甲6発明とは、
「一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる重荷重用空気入りタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6-1>
本件発明1は、「前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、」「前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、」「前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり」と特定するのに対し、甲6発明は、このようには特定しない点。

相違点6-1について検討する。
上記相違点6-1に係るベルト層間の補強素子同士の最短距離についての構成は、ベルト層全体のなかのある一部のベルト層における距離d、db、daを特定の範囲の値とする点について甲11には記載はあるものの、甲6発明における相違点6-1に係るベルト層における距離d、db、daを特定の範囲の値とする動機付けとなる記載は提示されたいずれの文献にも記載されていないから、相違点6-1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。
そして、本件発明1は、提示されたいずれの文献にも記載されていない「対偏摩耗性及び補強素子の耐久性を確保しつつも、転がり抵抗を低減することができる」との格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲6発明から容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2及び5ないし7について
本件発明2、5ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由5についてのまとめ
したがって、本件発明1、2及び5ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る特許は、申立理由5によっては取り消すことはできない。

第8 結語

上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1、2、5ないし7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び5ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3及び4に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3及び4に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間をトロイド状に跨るカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、前記ビード部にてタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部と、からなるカーカスを有し、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、第1のベルト層と、該第1のベルト層のタイヤ径方向内側に位置する第2のベルト層との2層からなり、前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子とが、層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して5°?30°の角度で傾斜して延びる、傾斜ベルトを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカス折り返し部のタイヤ径方向外側端は、タイヤ最大幅位置よりタイヤ径方向内側に位置し、
前記第1のベルト層の補強素子と前記第2のベルト層の補強素子との最短距離dを0.64mm以下とし、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向内側に、1層の内側ベルト層をさらに備え、
前記内側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第2のベルト層の補強素子と前記内側ベルト層の補強素子との最短距離dbは、0.70mm以下であり、
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側に、1層の外側ベルト層をさらに備え、
前記外側ベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子及び前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より大きく、
前記第1のベルト層の補強素子と前記外側ベルト層の補強素子との最短距離daは、0.70mm以下であり、
前記外側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びることを特徴とする、重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記傾斜ベルトのタイヤ径方向外側にトレッドを備え、
前記トレッドの厚さは、20?35mmである、請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記内側ベルト層の補強素子は、タイヤ周方向に対して、30°?90°の角度で傾斜して延びる、請求項1又は2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1のベルト層の補強素子の径をr1、前記第2のベルト層の補強素子の径をr2とするとき、
d+r1+r2
が2.7mm以上である、請求項1、2又は5に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、前記第1のベルト層の補強素子のタイヤ周方向に対する傾斜角度より小さい、請求項1、2、5又は6に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-28 
出願番号 特願2016-121449(P2016-121449)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B60C)
P 1 651・ 121- YAA (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
岩本 昌大
登録日 2020-01-31 
登録番号 特許第6654105号(P6654105)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 重荷重用空気入りタイヤ  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 杉村 憲司  
代理人 冨田 和幸  
代理人 冨田 和幸  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 光嗣  

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