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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01C
管理番号 1379549
審判番号 不服2020-13733  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-30 
確定日 2021-11-04 
事件の表示 特願2017-536473号「ショベル及びショベルの計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月2日国際公開、WO2017/033991号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月25日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 平成27年8月26日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成30年 2月13日 :国内書面の提出
平成31年 3月27日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 8月27日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年12月16日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 2年 4月22日 :意見書の提出
令和 2年 6月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 6月30日 :原査定の謄本の送達)
令和 2年 9月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月21日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 7月26日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1?10に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本願発明1」などという。)は、令和3年7月26日に提出された手続補正書により補正された請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメントと、前記上部旋回体に取り付けられるステレオ撮影可能な単眼カメラとを備えるショベルで用いられるショベルの計測装置であって、
ショベルの旋回中又は走行中の異なるタイミングで前記単眼カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、取得したステレオペア画像と前記異なるタイミング間の旋回角度若しくは移動距離とに基づいてショベル周辺の地形を計測する演算処理装置を備える、ショベルの計測装置。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が令和3年5月21日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての理由1の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性)
本願の令和2年9月30日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開平11-211473号公報
引用文献2:特開2000-291048号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2007-256029号公報(技術常識を示す文献)

第4 当審の判断
当審は、以下に詳述するとおり、本願発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。
1 引用発明等の認定
(1)引用発明
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1(特開平11-211473号公報)には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。以下同様。)。
「【0012】図1は、地形形状計測装置を搭載した車両1を示すもので、車両1は、自動走行、遠隔操縦走行、または有人走行の何れの走行制御を行うものでもよいが、少なくともGPS(グローバル.ポジショニング.センサ)などを用いたナビゲーション機能を有しているものとする。
【0013】この場合には、車両1は有人走行を行うものとするので、GPSナビゲーション用のGPSモニタを有し、このGPSモニタ上には車両が走行している地図が表示され、この地図上のいずれの位置に車両が位置しているかを表示することができるとする。
【0014】以下の実施例では、計測対象地形は地山の切羽部であるとする。
【0015】図1において、車両1には、地山の立体的な全体的形状を原画像でモニタするためと、地山の車体1に対する3次元位置を測定するために、視覚カメラ手段としてのカメラ2が備えられており、この場合は2台のカメラまたは多眼カメラによる視差を利用したステレオ法により、地山までの距離を測定する。
【0016】すなわち、カメラ2台の場合を例にあげると、図2の上半分は左カメラによって撮像された地形を示すもので、下半分は右カメラによって撮像された同じ地形部分を示すものとする。まず、例えば左カメラ画像に対し、複数の点マトリックス(i,j)を設定する。そして、左カメラ画像の1つの点(i,j)の画像が右カメラ画像のうちのどの点に対応するかをパターンマッチングなどの手法を用いて探査する。そして、対応する点が求められると、これら両点の画像上での位置を求め、さらにこれらの視差dを求める。そして、該視差dの他に、両カメラ間の距離、両カメラの焦点距離を用いて点(i,j)から両カメラを結ぶ線分までの距離データを求める。このような処理を、各点に関して繰り返し実行することにより距離データを求める。
【0017】距離画像生成装置3は、上記のようにして地山までの距離データを演算する。このようにして得られた各(i,j)画素毎の距離データdは、距離dに応じた階調データに変換されモニタ10に出力されることにより、モニタ10に距離画像が表示される。なお、モニタ10にはカメラ2で撮像した原画像も入力されており、モニタ10は距離画像および原画像の双方を表示することができる。
【0018】また、距離画像生成装置3では、前述したように、(i,j,d)の3次元情報に対応付けられた距離画像データを、図3に示すように、車両1の所定地点を原点とする車体座標系X1-Y1-Z1の3次元座標データ(Xp1,Yp1,Zp1)に変換する。
【0019】位置計測センサ4は、車両1の3次元位置を検出するもので、この場合は、GPS受信機を用いるようにしている。すなわち、位置計測センサ4は、図3に示すように、車体座標系X1-Y1-Z1の原点位置(HX0,HY0,HZ0)を検出する。GPS受信機による3次元位置データは、アンテナ5を介して入力される。なお、GPS受信機から得られたデータに基づいてモニタ10上に、車両1が走行しているエリアの地図が表示され、この地図上のいずれの位置に車両が位置しているかを表示することができる。
【0020】回転角度検出センサ6は、例えば、車両1の車体のヨー方向の回転角を検出するヨーレイトジャイロと、車体のピッチング角およびローリング角を検出する2つの傾斜計から成り、これらの検出結果に基づき車体3方向の回転角、すなわち姿勢を検出する。すなわち、図3において、X0-Y0-Z0を絶対座標系(全体座標系)とすると、回転角検出センサ6からは、全体座標系X0-Y0-Z0に対する車体座標系X1-Y1-Z1の回転角を表す車体の回転角(RX0,RY0,RZ0)を出力される。
【0021】地形計測部7では、主につぎの3つの処理を実行する。
【0022】(a)距離画像生成装置3から得られた地山の車体座標系における3次元位置データを回転角度検出センサ6および位置計測センサ4の出力を用いて絶対座標系における3次元位置データに変換する。
(b)カメラ2で撮像した複数箇所の地山の地形データを合成して地山の全体的な地形データを作成する。
(c)地山を連続的に撮影する為の車両位置(撮像用車両位置)を演算する。この演算された撮像用車両位置は、モニタ10のナビゲーションマップ上に表示される。」
「【0051】ところで、以上のようにして得ることができる切羽の3次元位置データを掘削の前と後で取得するようにすれば、それらを用いて図11に示すようにして土工量を簡単に演算することができる。
【0052】すなわち、図11(a)は掘削前の切羽の3次元形状を示すものであり、図11(b)は掘削後の切羽の3次元形状を示すものであるが、これらの各3次元形状データから掘削前後の切羽の体積をそれぞれ求め、これらの差を演算することで今回の掘削の土工量を求めることができる。また、掘削前後の切羽の3次元形状から図11(c)に示すように実際に掘削された部分の形状データを求めることもでき、実際に掘削された部分の形状データから土工量を演算するようにしてもよい。通常、土工量は、土砂を積み込んだダンプトラックの重量を累計することで演算されるが、この場合は掘削される側の切羽部分の形状に基づき掘削土量を演算するようにしているので、何回も掘削、積み込み作業が行われた場合でも、最初の切羽の状態と最終的な切羽の状態を計測するようにすれば、トータル的な土工量を一度に簡単に求めることができる。
【0053】また、上述のようにして得られる切羽の3次元位置データを毎日や数日置きに計測し、これらの計測データを記憶保存しておくようにすれば、掘削の履歴データが得られることになり、掘削スケジューリングや工程管理のために非常に有用である。
【0054】なお、実施例の車両1に遠隔操縦や自動走行を行わせる場合は、少なくとも、ステレオカメラ2、GPSなどの位置計測センサ4、回転角度検出センサ6および距離画像生成装置3を車両に搭載し、これらのデータを無線などで基地局に伝送するようにすれば、他の地形計測部7やモニタ10などの構成要素は車両1から省略することができる。
【0055】また、上記実施例では有人走行を行う場合を例にとったので、各撮像ポイント位置を車両上のGPSモニタ上に表示するようにしたが、遠隔操縦を行う場合は各撮像ポイント位置を遠隔操作盤上に表示させるようにすればよい。また自動走行を行わせる場合は、特に車両の移動のためには各撮像ポイント位置をモニタ表示する必要はなく、演算した各撮像ポイント位置を車両の自動走行制御系に指令するようにすればよい。
【0056】また、車両1をパワーショベルやホイールローダなどの掘削機とし、これら掘削機に図1の構成要素を搭載するようにしてもよい。」
「【図1】


「【図3】


「【図11】



引用発明の認定
上記アにおいて摘記した記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「地形形状計測装置を搭載した車両1であって、(【0012】)
上記車両1はパワーショベルであり、(【0056】)
計測対象地形は地山の切羽部であり、(【0014】)
上記車両1には、地山の立体的な全体的形状を原画像でモニタするためと、地山の車両1に対する3次元位置を測定するために、視覚カメラ手段としてのカメラ2が備えられており、この場合は2台のカメラまたは多眼カメラによる視差を利用したステレオ法により、地山までの距離を測定するものであり、
(【0015】)
上記車両1に備えられた距離画像生成装置3は、左カメラによって撮像された左カメラ画像に対し、複数の点マトリックス(i,j)を設定し、左カメラ画像の1つの点(i,j)の画像が、右カメラによって撮像された右カメラ画像のうちのどの点に対応するかをパターンマッチングなどの手法を用いて探査し、対応する点が求められると、これら両点の画像上での位置を求め、これらの視差dを求め、該視差dの他に、両カメラ間の距離、両カメラの焦点距離を用いて点(i,j)から両カメラを結ぶ線分までの距離データを求め、このような処理を、各点に関して繰り返し実行することにより地山までの距離データを演算するものであり、(【0016】、【0017】、【図1】)
このようにして得られた各(i,j)画素毎の距離データdは、距離dに応じた階調データに変換されモニタ10に出力されることにより、モニタ10に距離画像が表示され、モニタ10にはカメラ2で撮像した原画像も入力されており、モニタ10は距離画像および原画像の双方を表示することができるものであり、(【0017】)
距離画像生成装置3は、(i,j,d)の3次元情報に対応付けられた距離画像データを、車両1の所定地点を原点とする車体座標系X1-Y1-Z1の3次元座標データ(Xp1,Yp1,Zp1)に変換し、(【0018】、【図3】)
上記車両1に備えられた位置計測センサ4は、アンテナ5を介して入力される3次元位置データをGPS受信機により得て、車両1の3次元位置を検出し、車体座標系X1-Y1-Z1の原点位置(HX0,HY0,HZ0)とするものであり、(【0019】、【図1】、【図3】)
上記車両1に備えられた回転角度検出センサ6は、車両1の車体のヨー方向の回転角を検出するヨーレイトジャイロと、車体のピッチング角およびローリング角を検出する2つの傾斜計から成り、これらの検出結果に基づき車体3方向の回転角、すなわち姿勢を検出し、絶対座標系(全体座標系)X0-Y0-Z0に対する車体座標系X1-Y1-Z1の回転角を表す車体の回転角(RX0,RY0,RZ0)を出力するものであり、(【0020】、【図1】、【図3】)
上記車両1に備えられた地形計測部7は、主につぎの3つの処理を実行するものであり、
(a)距離画像生成装置3から得られた地山の車体座標系における3次元位置データを回転角度検出センサ6および位置計測センサ4の出力を用いて絶対座標系における3次元位置データに変換する。
(b)カメラ2で撮像した複数箇所の地山の地形データを合成して地山の全体的な地形データを作成する。
(c)地山を連続的に撮影する為の車両位置(撮像用車両位置)を演算する。この演算された撮像用車両位置は、モニタ10のナビゲーションマップ上に表示される。(【0021】、【0022】)
掘削前の切羽の3次元形状データと、掘削後の切羽の3次元形状データから掘削前後の切羽の体積をそれぞれ求め、これらの差を演算することで今回の掘削の土工量を求めることができ、(【0051】、【0052】、【図11】)
切羽の3次元位置データは、毎日や数日置きに計測される、(【0053】)
地形形状計測装置を搭載した車両1。」

(2)周知技術・技術常識
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2(特開2000-291048号公報)には、以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】パワーショベルは、下部機構,上部旋回体,ブーム,アーム及びバケットなどから構成されている。下部機構はキャタピラ(クローラ)を備えており、該キャタピラを駆動させることでパワーショベルは地上を走行するようになっている。また、下部機構は、運転室を備えた上部旋回体を旋回部を介して自身の上面に対して平行に旋回可能に支持している。上部旋回体は、油圧モータにより下部機構に対して360°旋回されるようになっている。その上部旋回体には、ブームが回動可能に支持されており、上部旋回体とブームの中間部との間にはブームシリンダが連結されている。ブームは、ブームシリンダの伸縮に基づいてブームと上部旋回体との連結部を中心に回動するようになっている。」
「【0027】前記上部旋回体2の前側には、運転室Rが設けられている。運転室Rの屋根上前側中央には作業位置設定装置Aが設置されている。作業位置設定装置Aについて説明すると、該装置Aの基台Fの前側に支柱12が立設され、その支柱12にはレーザ測距装置7の前部(レーザ光照射側)が回動可能に支持されている。また、基台Fの後側には上下に昇降する可動柱13が備えられており、その可動柱13の上部にはレーザ測距装置7の後部が支持されている。」
「【0030】また、レーザ測距装置7の上部にはCCDカメラ(撮像手段)80が取り付けられており、レーザ測距装置7からのレーザ光の照射位置を撮像するように設置されている。CCDカメラ80によって撮像された映像は、運転室R内に設置されているモニタ(表示手段)81の画面に映し出されるようになっている。」
「【0060】先ず、作業者は、掘削開始位置Pを決定するために、アップスイッチ16aまたはダウンスイッチ16bをオン操作する。コントローラ55は、アップスイッチ16aがオン操作されると、レーザ測距装置7の前部側が仰角方向に変位するようにパルスモータ14にパルス信号を出力し(ステップS5)、また、ダウンスイッチ16bがオン操作されると、レーザ測距装置7の前部側が俯角方向に変位するようにパルスモータ14にパルス信号を出力する(ステップS6)。これらの操作に応じて、レーザ光の照射角が変化すると共に、CCDカメラ80の視点も変化する。
【0061】そして、作業者は、モニタ81の画面を見ながらアップスイッチ16aまたはダウンスイッチ16bを操作して掘削開始位置Pを決定し、決定した場合には、スタートスイッチ16cをオン操作する。すると、コントローラ55は、ステップS4で「YES」と判断してステップS7に移行し、スタートフラグfをメモリ62の格納領域にセットすると、走行用の切換弁(図示せず)及び旋回用の切換弁(バルブ)25を閉じる(ステップS8)。これらの切換弁を閉じるのは、上部旋回体2が動かないようにして、以降のレーザ測距装置7による距離測定を正確に行うためである。
【0062】次に、コントローラ55は、その時点でモニタ81の画面上に映し出され十字線82で指示されている地点に対し、レーザ測距装置7により測定された距離Zと、パルスモータ14に出力したパルス信号数より反射角度θとを得る(ステップS9)。」
「【図1】



イ 周知技術1の認定
上記アにおいて摘記した引用文献2の段落【0002】、【0027】、【0030】の記載から、次の技術事項は、当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
[周知技術1]
「走行機構(キャタピラ)を有する下部機構と、下部機構に旋回可能に搭載される上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられるアタッチメント(ブーム、アーム及びバケットなど)を備えており、上部旋回体には、光学的計測手段が取り付けられているパワーショベル。」

ウ 引用文献3の記載事項
引用文献3(特開2007-256029号公報)には、以下の記載がある。
「【0002】従来から、車両にカメラを搭載し、車両前方や後方の画像を撮影し、車両周辺の環境を3次元的に認識するシステムが開発されている。カメラで3次元座標(距離)を測定する方法としては、2台以上のカメラを利用するステレオ視(以後、複眼ステレオとする)が一般的であるが、1台のカメラでも、時間的にずれた別視点から撮影された複数枚の画像を利用することによりステレオ視が実現できる。これは一般に、単眼ステレオ、モーションステレオ、SfM(Structure from Motion)などと呼ばれる。単眼ステレオを実現するには、空間的に移動したカメラ間の幾何学的位置関係(移動距離および回転)が必要となる。複眼ステレオの場合、カメラ間の位置関係は事前にキャリブレーションをしておけば済むが、単眼ステレオの場合、カメラ間の位置関係(カメラ移動量、エゴモーション)は毎回異なるため、そのつど計算する必要がある。」

エ 技術常識の認定
上記ウにおいて摘記した引用文献3の記載から、次の事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識」という。)。
[技術常識]
「車両にカメラを搭載し、車両前方や後方の画像を撮影し、車両周辺の環境を3次元的に認識するシステムにおいて、カメラで3次元座標(距離)を測定する方法としては、2台以上のカメラを利用するステレオ視(複眼ステレオ)する方法の代わりに、1台のカメラを利用して、時間的にずれた別視点から撮影された複数枚の画像によりステレオ視(単眼ステレオ)する方法を採用できること。また、単眼ステレオを実現するには、空間的に移動したカメラ間の幾何学的位置関係が必要となること。」

オ この審決において新たに引用する特開2010-60344号公報には、以下の記載がある。
「【0020】
本発明の一実施の形態に係る空間情報表示装置(システム)は、例えば、図1に示すような、例えば双腕型の複雑な操縦系を持つ建設車両などの作業機械(又はロボットなど)1などの搭乗型におけるオペレータ補助システム或いは遠隔操作型の作業機械(又はロボットなど)1を遠隔操作によりオペレータが操作する際の補助システムなどに利用される。
【0021】
搭乗型或いは遠隔操作型の作業機械1には、作業空間の映像(画像)を取得すると共に、三次元情報(空間情報)を取得するためのステレオカメラ10が備えられる。
このステレオカメラ10が撮像する映像(画像)は、動画とすることができるが、静止画であっても良いものである。」
「【0024】
このようなステレオカメラ10の撮像データに基づく作業空間の映像(二次元情報すなわち画素位置情報)に対応付けられた三次元情報の取得処理は、図示しないPC(パーソナルコンピュータ)などの演算処理装置により実行される。」
「【0037】
ところで、ステレオカメラ座標系(ステレオカメラ10の取付位置を原点とする座標系)と、ショベル座標系(作業機械1の座標系)と、の関係は、例えば、図14に示すような関係とすることができる。なお、ステレオカメラ10や作業機械1の地理的位置として、例えばGPS等からの位置情報を利用することもできる。
【0038】
これにより、図3に示すように、作業機械1の各作業アーム1A、1Bの基端部取り付け部分(オペレータ室)の旋回中心等を基準として、各作業アーム1A、1Bの先端部分等の現在位置や作業対象物までの距離や相対位置などを取得できることになる。」
「【図1】


「【図3】



カ この審決において新たに引用する特開2014-225803号公報には、以下の記載がある。
「【0012】
図1は、本発明の実施例に係る画像生成装置100の構成例を概略的に示すブロック図である。
【0013】
画像生成装置100は、作業機械の周辺を監視する作業機械用周辺監視装置の1例であり、制御部1、カメラ2、入力部3、記憶部4、表示部5、及びステレオカメラ6で構成される。具体的には、画像生成装置100は、作業機械に搭載されたカメラ2が撮像した入力画像とステレオカメラ6が出力する入力距離画像とに基づいて出力画像を生成しその出力画像を操作者に提示する。
【0014】
図2は、画像生成装置100が搭載される作業機械としてのショベル60の構成例を示す図であり、ショベル60は、クローラ式の下部走行体61の上に、旋回機構62を介して、上部旋回体63を旋回軸PVの周りで旋回自在に搭載している。
【0015】
また、上部旋回体63は、その前方左側部にキャブ(運転室)64を備え、その前方中央部に掘削アタッチメントEを備え、その右側面及び後面にカメラ2(右側方カメラ2R、後方カメラ2B)及びステレオカメラ6(右側方ステレオカメラ6R、後方ステレオカメラ6B)を備えている。なお、キャブ64内の操作者が視認し易い位置には表示部5が設置されている。」
「【0023】
ステレオカメラ6は、ショベル60の周囲に存在する物体の距離情報の二次元配列を取得するための装置であり、例えば、キャブ64にいる操作者の死角となる領域を撮像できるよう上部旋回体63の右側面及び後面に取り付けられる(図2参照。)。なお、ステレオカメラ6は、上部旋回体63の前面、左側面、右側面、及び後面のうちの何れか1つに取り付けられていてもよく、全ての面に取り付けられていてもよい。」
「【図1】


「【図2】



キ 周知技術5の認定
上記オ及びカにおいて摘記した記載事項から、次の技術事項は、当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術5」という。)。
[周知技術5]
「下部走行体の上に上部旋回体を旋回軸の周りで旋回自在に搭載しているショベルにおいて、上部旋回体に画像計測用のステレオカメラが取り付けられること。」

2 対比・判断について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「パワーショベル」である「車両1」は、本願発明1の「ショベル」に相当する。また、両者は「走行体」を備える点で共通する。

イ 引用発明の「車両1」に備えられた「視覚カメラ手段としてのカメラ2」は、「2台のカメラまたは多眼カメラによる視差を利用したステレオ法により、地山までの距離を測定する」ためのものであるから、本願発明1の「ステレオ撮影可能な」「カメラ」に相当する。

ウ 上記ア及びイの検討内容を踏まえると、本願発明1の「ショベル」と引用発明の「パワーショベル」である「車両1」は、「走行体と、ステレオ撮影可能なカメラとを備えるショベル」である点で一致する。

エ 引用発明では、「掘削前の切羽の3次元形状データと、掘削後の切羽の3次元形状データから掘削前後の切羽の体積をそれぞれ求め、これらの差を演算することで今回の掘削の土工量を求めることができ」るとされていることから、「切羽部」がパワーショベルの掘削対象であって、パワーショベルの周辺に存在することは明らかといえる。したがって、引用発明の「計測対象地形」である「地山の切羽部」は、本願発明1の「ショベル周辺の地形」に相当する。

オ 引用発明の「距離画像生成装置3」は、「左カメラによって撮像された左カメラ画像に対し、複数の点マトリックス(i,j)を設定し、左カメラ画像の1つの点(i,j)の画像が、右カメラによって撮像された右カメラ画像のうちのどの点に対応するかをパターンマッチングなどの手法を用いて探査し、対応する点が求められると、これら両点の画像上での位置を求め、これらの視差dを求め、該視差dの他に、両カメラ間の距離、両カメラの焦点距離を用いて点(i,j)から両カメラを結ぶ線分までの距離データを求め、このような処理を、各点に関して繰り返し実行することにより地山までの距離データを演算するもの」である。
また、引用発明の「地形計測部7」は、「(a)距離画像生成装置3から得られた地山の車体座標系における3次元位置データを回転角度検出センサ6および位置計測センサ4の出力を用いて絶対座標系における3次元位置データに変換する。(b)カメラ2で撮像した複数箇所の地山の地形データを合成して地山の全体的な地形データを作成する。(c)地山を連続的に撮影する為の車両位置(撮像用車両位置)を演算する。この演算された撮像用車両位置は、モニタ10のナビゲーションマップ上に表示される。」という「処理を実行するもの」である。
そうすると、引用発明の「車両1に備えられた」「距離画像生成装置3」及び「地形計測部7」の組み合わせは、本願発明1の「ショベル周辺の地形を計測する演算処理装置」に相当する。
以上の検討内容を踏まえると、引用発明の「パワーショベル」である「車両1」に「搭載」され、「地山の切羽部」を「計測対象地形」とする「地形形状計測装置」は、本願発明1の「ショベルで用いられるショベルの計測装置であって」、「ショベル周辺の地形を計測する演算処理装置を備える、ショベルの計測装置」に相当する。

カ 引用発明では、「上記車両1に備えられた距離画像生成装置3は、左カメラによって撮像された左カメラ画像に対し、複数の点マトリックス(i,j)を設定し、左カメラ画像の1つの点(i,j)の画像が、右カメラによって撮像された右カメラ画像のうちのどの点に対応するかをパターンマッチングなどの手法を用いて探査し、対応する点が求められると、これら両点の画像上での位置を求め、これらの視差dを求め、該視差dの他に、両カメラ間の距離、両カメラの焦点距離を用いて点(i,j)から両カメラを結ぶ線分までの距離データを求め」ており、引用発明の「左カメラによって撮像された左カメラ画像」と「右カメラによって撮像された右カメラ画像」は、本願発明1の「ステレオペア画像として取得」された「カメラが撮像した2つの画像」に相当する。

上記ア?カの対比内容をまとめると、本願発明1と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

[一致点]
「走行体と、ステレオ撮影可能なカメラとを備えるショベルで用いられるショベルの計測装置であって、
前記カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、
ショベル周辺の地形を計測する演算処理装置を備える、ショベルの計測装置。」

[相違点1]
本願発明1では、「ショベル」が「下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメント」を備えており、「ステレオ撮影可能なカメラ」が「前記上部旋回体に取り付けられ」ているのに対して、引用発明では、「車両1」が「パワーショベル」であることは特定されているものの、「下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメント」を備えているか明らかではなく、カメラの取り付け箇所も明らかではない点。

[相違点2]
本願発明1では、「ステレオ撮影可能なカメラ」が「単眼カメラ」であり、「ショベルの旋回中又は走行中の異なるタイミングで前記単眼カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、取得したステレオペア画像と前記異なるタイミング間の旋回角度若しくは移動距離とに基づいてショベル周辺の地形を計測する」のに対して、引用発明では、「ステレオ撮影可能なカメラ」が「単眼カメラ」ではなく、「ショベルの旋回中又は走行中の異なるタイミングで前記単眼カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、取得したステレオペア画像と前記異なるタイミング間の旋回角度若しくは移動距離とに基づいてショベル周辺の地形を計測する」ものではない点。

(2)判断
上記相違点1及び2について以下検討する。
ア 走行機構(キャタピラ)を有する下部機構と、下部機構に旋回可能に搭載される上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられるアタッチメント(ブーム、アーム及びバケットなど)を備えており、上部旋回体には、光学的計測手段が取り付けられているパワーショベルは、本願優先日前に周知の技術である(前記1(2)イの周知技術1を参照)。
ここで、引用発明では、「地山の立体的な全体的形状を原画像でモニタするためと、地山の車両1に対する3次元位置を測定するために、視覚カメラ手段としてのカメラ2が備えられて」いるから、カメラ2をパワーショベルに設置するにあたり、地山の立体的な全体的形状を的確にモニタしたり、3次元位置を測定できるようにするために、ある程度のカメラの見通しの良さ(撮像範囲の広さ)が求められることは当然であって、そのためにカメラの設置箇所はパワーショベルの下部側よりも上部側が有利であることも明らかであるといえる。
よって、引用発明の「パワーショベル」として上記周知技術1を適用して上部旋回体を備えるものを選択する際に、カメラ2の設置箇所を上部側にある上部旋回体とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。

イ また、車両にカメラを搭載し、車両前方や後方の画像を撮影し、車両周辺の環境を3次元的に認識するシステムにおいて、カメラで3次元座標(距離)を測定する方法としては、2台以上のカメラを利用するステレオ視(複眼ステレオ)する方法の代わりに、1台のカメラを利用して、時間的にずれた別視点から撮影された複数枚の画像によりステレオ視(単眼ステレオ)する方法を採用できることは、技術常識である(前記1(2)エ参照)。
そうすると、引用発明の「パワーショベル」に上記周知技術1を適用して、下部走行体(キャタピラ)と、下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられるアタッチメント(ブーム、アーム及びバケットなど)を備え、ステレオカメラを上部旋回体に取り付けるようにする際に、上記技術常識に照らして、複眼ステレオの代わりに単眼ステレオの構成を採用して、ステレオ撮影可能な単眼カメラを用いて異なるタイミングで前記単眼カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、3次元形状計測を行うことは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ そして、単眼ステレオを実現するには、空間的に移動したカメラ間の幾何学的位置関係が必要となることも、技術常識であり(前記1(2)エ参照)、また、移動及び旋回によりカメラの幾何学的位置関係が変化することは自明であるから、異なるタイミングで取得したステレオペア画像と当該異なるタイミング間の旋回角度や移動距離に基づいて3次元形状計測を行うことは、単眼ステレオ法を採用した場合の当然の帰結である。

エ 上記ア?ウの検討内容をまとめると、引用発明、周知技術1及び技術常識に基づいて、上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者にとって格別の困難性はない。
そして、本願発明1の奏する効果についても、引用発明、周知技術1及び技術常識から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明、周知技術1及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得たものである。

3 請求人の主張について
(1)主張の概要
令和3年7月26日に提出した意見書において、請求人は概ね次のア?ウの主張をしている。
ア 技術常識として認定されたものは「車両に搭載されたカメラ」を用いた計測方法にすぎず、「車両に旋回自在に設置される上部旋回体に搭載されたカメラ」を用いた計測方法ではないから、技術常識をそのまま引用発明へ適用することはできない。

イ 引用文献1から「上部旋回体」が存在することや「カメラ(単眼カメラ等)が前記上部旋回体に取り付けられている」ことを読み取ることはできない。

ウ 引用発明と周知技術1と技術常識とから本願発明を導き出そうとすると、当業者は、先ず引用発明の「パワーショベル」の文言より上部旋回体を想起した上で「車両1」に備えられた「ステレオカメラ2」から、「ステレオカメラ2」が上部旋回体に取り付けられた構成を想定し、その想定した構成に対して、技術常識に基づいて新たに想定された「車両に旋回自在に設置される上部旋回体に搭載されたカメラ」を用いた計測方法へ置き換える必要があり、当業者は、多くの想定を行わなければそれらから本願発明を導き出すことができない。

(2)検討
上記(1)の主張について検討する。
まず、前記2(2)において説示したとおり、パワーショベルが、走行機構(キャタピラ)を有する下部機構と、下部機構に旋回可能に搭載される上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられるアタッチメント(ブーム、アーム及びバケットなど)を備えていることは、周知の技術であるから(周知技術1を参照)、引用発明の「パワーショベル」に上部旋回体を有するものが含まれると想起することは当業者ならば格別の困難性はない。
また、引用発明では、カメラ2をパワーショベルに設置するにあたり、地山の立体的な全体的形状を的確にモニタしたり、3次元位置を測定できるようにするために、カメラの見通しの良さ(撮像範囲の広さ)などを考慮してパワーショベルの上部側に設置しようとする動機はあるというべきであって、引用発明の「パワーショベル」として上部旋回体を備えるものを選択する際にカメラ2の設置箇所を上部旋回体とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
さらに、本願発明1は、「ショベルの旋回中又は走行中の異なるタイミングで前記単眼カメラが撮像した2つの画像をステレオペア画像として取得し、取得したステレオペア画像と前記異なるタイミング間の旋回角度若しくは移動距離とに基づいてショベル周辺の地形を計測する演算処理装置」と規定しているから、ショベル周辺の地形を計測するにあたって、ショベルが旋回することは必須なものではなく、ショベルが旋回せずに走行し、その移動距離のみに基づいて計測する場合も本願発明1に含まれることになり、そのような場合には、ステレオ撮影可能なカメラが上部旋回体に取り付けられていることに格別の意義は見出せない。
したがって、上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものであるというべきであって、上記(1)の主張を採用することはできない。
なお、本願発明1は、「下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられるアタッチメントと、前記上部旋回体に取り付けられるステレオ撮影可能な単眼カメラとを備えるショベルで用いられるショベルの計測装置」と規定しているから、「ステレオ撮影可能な単眼カメラ」は、「ショベル」の構成要素であって「ショベルの計測装置」の構成要素ではなく、上記規定された内容は、「ショベルの計測装置」が用いられる用途先を特定したものにすぎないといえる。そうすると、下部走行体の上に上部旋回体を旋回軸の周りで旋回自在に搭載しているショベルにおいて、上部旋回体に画像計測用のステレオカメラが取り付けられることは、周知の技術であるから(周知技術5を参照)、かかる用途先は周知のものであって格別ではない。

第5 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-08-27 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-09-16 
出願番号 特願2017-536473(P2017-536473)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶田 真也仲野 一秀  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
濱本 禎広
発明の名称 ショベル及びショベルの計測装置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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