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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B44C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B44C
管理番号 1379571
審判番号 不服2021-6090  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-12 
確定日 2021-11-24 
事件の表示 特願2016-242621「加飾フィルム、転写シート、加飾成形品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018- 94823、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016-242621号(以下「本件出願」という。)は、平成28年12月14日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 2年 7月29日付け:拒絶理由通知書
令和 2年10月 1日提出:意見書
令和 3年 2月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 5月12日提出:審判請求書


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、理由1:本件出願の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当するので特許を受けることができない、理由2:本件出願の請求項1?13に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2013/002048号
引用文献2:特開2002-357704号公報
引用文献3:特開2015-193248号公報
(当合議体注:引用文献1は主引例であり、引用文献2及び3は請求項6?10、13についての副引例又は周知技術を示す文献である。)


第3 本件発明
本件出願の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明13」という。)は、本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1及び本件発明6は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
フィルム面が、第1領域、前記第1領域に接する第2領域、及び前記2領域に接する第3領域を有し、
前記第1領域が光透過性を有し、
前記第1領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(1)(60°)が、前記第3領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(3)(60°)よりも小さく、
前記第2領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(2)(60°)が、前記第1領域側から前記第3領域側に向かってGs_(1)(60°)からGs_(3)(60°)まで漸増している、加飾フィルム。」

「【請求項6】
離型シート上に、前記離型シートに接する転写層を少なくとも備えた転写シートであって、
前記転写層の転写面が、第1領域、前記第1領域に接する第2領域、及び前記第2領域に接する第3領域を有し、
前記第1領域が光透過性を有し、
前記転写層を黒色平滑板に転写した際に、
前記第1領域のJIS Z8741:1997に準じて測定される転写層表面の60度鏡面光沢測定される転写層表面の60度鏡面光沢度Gs'_(3)(60°)よりも小さく、
前記第2領域のJIS Z8741:1997に準じて測定される転写層表面の60度鏡面光沢度Gs'_(2)(60°)が、前記第1領域側から前記第3領域側に向かってGs'_(1)(60°)からGs'_(3)(60°)まで漸増している、転写シート。」

また、本件発明2?5は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものであり、本件発明7?10は、本件発明6に対してさらに他の発明特定事項を付加したものであり、本件発明11?12は、本件発明1の「加飾フィルム」を備えた「加飾成形品」の発明であり、本件発明13は、本件発明6の「転写シート」を用いた「加飾成形品の製造方法」の発明である。


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献1として引用され、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/002048号(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた訳の箇所に下線を付した。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、表面に微細凹凸構造が転写された被処理体を作製するための微細凹凸構造転写用鋳型に関する。
背景技術
[0002] ナノ・マイクロメートルサイズ領域に制御対象を有する光学素子やバイオ材料を開発する上で、ナノ・マイクロメートルサイズ領域において精密に加工制御された部材を用いることは、制御機能に大きく影響を与える。とりわけ民生用の光学素子の場合、主に数百nmスケールでの波長制御が求められるため、数nm?数十nmの加工精度が重要である。さらに、量産性の観点から、加工精度の再現性、均一性、スループット性も兼ね備えた精密加工技術であることが望まれる。
・・・省略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
・・・省略・・・
[0009] 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高離型性を具備しつつも、転写材の塗工性が良好な微細凹凸構造転写用鋳型を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明の被処理体に微細凹凸構造を転写するための微細凹凸構造転写用鋳型は、基材と、前記基材の一主面上の一部に被処理体に転写される微細凹凸構造が形成された転写領域と、前記基材の一主面内の前記転写領域以外の前記微細凹凸構造が形成されていない非転写領域と、前記転写領域と前記非転写領域との間に少なくともその一部が前記転写領域と隣接するように設けられたバリア領域と、を具備し、前記転写領域および前記バリア領域は複数の凹部を含み、且つ、前記転写領域の平均ラフネスファクタRf1と、前記バリア領域の平均ラフネスファクタRf2との間には、Rf1>Rf2の関係が成立すると共に、前記転写領域の平均開口率Ar1と前記バリア領域の平均開口率Ar2との間には、Ar1>Ar2の関係が成立することを特徴とする。
・・・省略・・・
発明の効果
[0014] 本発明によれば、高離型性を具備しつつも、転写材の塗工性が良好な微細凹凸構造転写用鋳型を提供できる。
・・・省略・・・
発明を実施するための形態
[0016] 本発明の実施の形態について、以下、具体的に説明する。
[0017] 図1および図2は、転写材を塗工して微細凹凸構造を転写する鋳型を示す模式図である。図1Aに示すように、鋳型110は、微細パタン加工された転写領域、すなわちパタン部111を備えている。鋳型110におけるパタン部111以外の領域は、微細パタン加工されていない非転写領域、すなわち非パタン部112である。
[0018] この鋳型110に転写材を含む塗工液113を塗工すると、パタン部111と非パタン部112とでは、塗工液113にかかる力F(θ)の方向が逆となる(図1B参照)、または力の方向は同じでも、その絶対値が大きく異なる。このような力F(θ)が、パタン部111と非パタン部112との界面部に集中する。このとき、(1)離型性の発現する表面自由エネルギーの範囲において、鋳型110の表面自由エネルギーを増加させ、塗工性を向上させる場合、塗工液113の液滴内部には大きな応力が加わるため、パタン部111と非パタン部112との界面において液膜の分裂が起こり、これにより塗工液113の塗工不良が誘発される(以下、この現象を「塗工不良(1)」とも記す)。
[0019] 一方、(2)離型性を強く発現させるために、鋳型110の表面自由エネルギーを大きく減少させた場合、非パタン部112と塗工液113の親和性が極端に低くなり、塗工された転写材は、非パタン部112上でミリメートル以上のスケールではじかれる。この場合、はじかれた非パタン部112上の塗工液113の液滴が、パタン部111内部へと部分的に侵入し、結果、パタン部111上の塗工液113の膜厚(特にパタン部111のエッジ部)に斑が生じる。このような、非パタン部112上ではじかれた塗工液113による、パタン部111上の塗工斑も、塗工不良に含まれる(以下、この現象を「塗工不良(2)」とも記す)。
[0020] また、図2Aに示すように、樹脂モールド121を、マスターモールド(原版)から得るとき、一般的に、特にロール・ツー・ロールプロセスを経る場合は、図2Aに示すように、樹脂モールド121には、パタン部122と非パタン部123が形成される。このような樹脂モールド121を鋳型として使用しそのパタンを転写形成するとき、離型性を優先させ、樹脂モールド121の離型力を高め自由エネルギーを大きく減少させた場合、塗工液124と樹脂モールド121との親和性が大きく低下する。このため、樹脂モールド121上に転写材を塗工した際に、図2Bに示すように、非パタン部123上にてはじかれた塗工液124が、矢印で示すように、パタン部122へと侵入し、パタン部122上で塗工液124の膜厚分布にばらつきが生じるという塗工不良(2)が発生する。
[0021] さらに、図1に示すパタン部111が有する微細パタンが微細凹凸構造であるほど、特に、ナノスケールになるほど、また、鋳型110の離型性が大きくなり、塗工液113と鋳型110との親和性が低下するほど、塗工液113にかかる力F(θ)は強くなり、塗工不良(1)、(2)の程度がより大きくなる。また、パタン部111と非パタン部112との間に存在する樹脂等の厚み斑の方向によっては、非パタン部112からパタン部111の方向に加わるF(θ)が見かけ上大きくなり、非パタン部112上にてはじかれた塗工液113の、パタン部111への侵入度合が増加し、塗工不良(2)の程度がより大きくなる。
[0022] そこで、本発明者は、塗工液113の液膜内部に加わる応力を緩和し、液体の分裂に代表される塗工不良(1)を抑制するために、または塗工液113の液滴内部に加わる応力を最大限に大きくし、非パタン部112上ではじかれた塗工液113の液滴が、パタン部111内部へと侵入することを阻害し、塗工不良(2)を抑制するために、図3に示すように、パタン部111と非パタン部112との間にバリア領域114を設けることを見出した。
[0023] 図4Aに示すように、パタン部111と非パタン部112との間にバリア領域114を設けることにより、塗工液113の接触角が連続的に変化し、塗工液113にかかる力F(θ)も連続的に変化する。そのため、塗工液113の液滴内部への応力集中に起因する塗工不良(1)は起こらずに、良好な塗工性を保つことができる。
[0024] また、バリア領域114を設けることにより、バリア領域114上における塗工液113の液膜内部への応力を大きくすることができる。そのため、図4Bに示すように、非パタン部112上ではじかれた塗工液113の液滴は、矢印で示すように、バリア領域114を乗り越えることができず、パタン部111上の塗工性、特にパタン部111のエッジ部の塗工性が良好に保たれて塗工不良(2)が抑制される。
[0025] 本発明の微細凹凸構造転写用鋳型(以下、単に転写用鋳型とも言う)は、下記の4種類を包含する。第1の転写用鋳型(I)および、第2の転写用鋳型(II)を使用することにより、塗工不良(2)を抑制し、パタン部111に対する塗工性を良質に保つことができる。一方で、第3の転写用鋳型(III)および、第4の転写用鋳型(IV)を使用することにより、塗工不良(1)を抑制し、パタン部111に対する塗工性を良質に保つことができる。
[0026] 本発明の第1の転写用鋳型(I)においては、基材の一主面上に、少なくともいずれも複数の凹部を具備する転写領域およびバリア領域を具備する転写用鋳型であって、前記転写領域の平均ラフネスファクタRf1と、前記バリア領域の平均ラフネスファクタRf2との間には、Rf1>Rf2の関係が成立すると共に、前記転写領域の平均開口率Ar1と前記バリア領域の平均開口率Ar2との間には、Ar1>Ar2の関係が成立する。
[0027] 本発明の第2の転写用鋳型(II)においては、基材の一主面上に、少なくともいずれも複数の凸部を具備する転写領域およびバリア領域を具備する転写用鋳型であって、前記転写領域の平均ラフネスファクタRf1と、前記バリア領域の平均ラフネスファクタRf2との間には、Rf1<Rf2の関係が成立すると共に、前記転写領域の平均開口率Ar1と前記バリア領域の平均開口率Ar2との間には、Ar1>Ar2の関係が成立する。
[0028] 本発明の第3の転写用鋳型(III)においては、基材の一主面上に、少なくともいずれも複数の凹部を具備する転写領域およびバリア領域を具備する転写用鋳型であって、前記転写領域の平均ラフネスファクタRf1と、前記バリア領域の平均ラフネスファクタRf2との間には、Rf1<Rf2の関係が成立すると共に、前記転写領域の平均開口率Ar1と前記バリア領域の平均開口率Ar2との間には、Ar1<Ar2の関係が成立する。
[0029] 本発明の第4の転写用鋳型(IV)においては、基材の一主面上に、少なくともいずれも複数の凸部を具備する転写領域およびバリア領域を具備する転写用鋳型であって、前記転写領域の平均ラフネスファクタRf1と、前記バリア領域の平均ラフネスファクタRf2との間には、Rf1>Rf2の関係が成立すると共に、前記転写領域の平均開口率Ar1と前記バリア領域の平均開口率Ar2との間には、Ar1<Ar2の関係が成立する。
[0030] 第1の転写用鋳型(I)においては、バリア領114域およびパタン部111ともに複数の凹部から構成される微細凹凸構造を具備し、バリア領域114のラフネスファクタRf2は、パタン部111のラフネスファクタRf1よりも小さく、且つ、バリア領域114の平均開口率Ar2は、パタン部111の平均開口率Ar1よりも小さく設定される。
[0031] また、第2の転写用鋳型(II)においては、バリア領域114およびパタン部111ともに複数の凸部から構成される微細凹凸構造を具備し、バリア領域114のラフネスファクタRf2は、パタン部111のラフネスファクタRf1よりも大きく、且つ、バリア領域114の平均開口率Ar2は、パタン部111の平均開口率Ar1よりも小さく設定される。このような、バリア領域114を設けることにより、バリア領域114上における塗工液113の液滴内部に加わる応力を最大限に大きくすることで、非パタン部112上にてはじかれた塗工液113の液滴が、パタン部111内部へと侵入することを阻害でき、塗工不良(2)を抑制できる。
[0032] 第3の転写用鋳型(III)においては、バリア領域114およびパタン部111ともに複数の凹部から構成される微細凹凸構造を具備し、バリア領域114のラフネスファクタRf2は、転写領域、すなわちパタン部111のラフネスファクタRf1よりも大きく、且つ、バリア領域114の平均開口率Ar2は、パタン部111の平均開口率Ar1よりも大きく設定される。
[0033] また、第4の転写用鋳型(IV)においては、バリア領域114およびパタン部111ともに複数の凸部から構成される微細凹凸構造を具備し、バリア領域114のラフネスファクタRf2は、パタン部111のラフネスファクタRf1よりも小さく、且つ、バリア領域114の平均開口率Ar2は、パタン部111の平均開口率Ar1よりも大きく設定される。このような、バリア領域114を設けることにより、バリア領域114上にて、塗工液113の液膜内部に加わる応力を緩和し、パタン部111と非パタン部112界面における液膜の分裂を抑制でき、塗工不良(1)を抑制することができる。
[0034] 下記表1に、上述の第1?第4の転写用鋳型(I)?(IV)についてまとめた。
[0035][表1]


[0036] 表1においてタイプとは、微細凹凸構造が、複数の凹部で構成されている場合を凹型、複数の凸部で構成されている場合を凸型と呼ぶ。
[0037] 以下、本発明の転写用鋳型の説明において、第1?第4の転写用鋳型(I)?(IV)のすべてに共通する説明の際は、単に転写用鋳型と記載し、第1?第4の転写用鋳型(I)?(IV)のいずれかの特徴を記載する場合は、第1の転写用鋳型(I)、第2の転写用鋳型(II)、第3の転写用鋳型(III)、または第4の転写用鋳型(IV)と記載する。また、転写用鋳型(I)、(II)といったような記載は、転写用鋳型(I)および転写用鋳型(II)に共通の特徴を記載することを意味する。
[0038] このような転写用鋳型としては、例えば、円筒状または円柱状のマスターモールド(原版)と、このマスターモールドからの転写で得られるリール状樹脂モールド、また、円盤に代表される平板形状を有する平板マスターモールドと、このマスターモールドからの転写で得られるフィルム状樹脂モールドが挙げられる。
[0039] 転写用鋳型(I)、(III)が具備する微細凹凸構造は、特に限定されないが、円錐形状、角錐形状、楕円錘形状、円柱形状、角柱形状、または楕円柱形状である複数の凹部(ホール形状)で構成されてもよい。また、微細凹凸構造は、特定方向にそれぞれ延在する線状の凸部および凹部(ラインアンドスペース構造)で構成されてもよい。ホール形状は、各ホールが滑らかな凸部を通じ隣接していてもよい。
[0040] 一方、転写用鋳型(II)、(IV)の具備する微細凹凸構造は、特に限定されないが、円錐形状、角錐形状、楕円錘形状、円柱形状、角柱形状、または楕円柱形状である複数の凸部(ドット形状)で構成されてもよい。また、微細凹凸構造は、特定方向にそれぞれ延在する線状の凸部および凹部(ラインアンドスペース構造)で構成されてもよい。ドット形状は、各ドットが滑らかな凹部を通じ隣接していてもよい。
[0041] ここで、ドット形状とは、図5Aに示すように、基材131の表面に「柱状(錐状)体(凸部)131aが複数配置された形状」を意味する。また、ホール形状とは、図5Bに示すように、基材132の表面に「柱状(錐状)の穴(凹部)132bが複数形成された形状」を意味する。微細凹凸構造において、凸部または凹部同士の距離が50nm以上5000nm以下であり、凸部の高さまたは凹部の深さが10nm以上2000nm以下であることが好ましい。特に、凸部の高さまたは凹部の深さが50nm以上1000nm以下であると、パタン部111に対する塗工性と、バリア領域114の機能をいっそう向上することが可能となり、パタン部111への塗工性が向上すため好ましい。用途にもよるが、凸部または凹部同士の隣接距離(凸部の頂点同士の間隔または凹部の開口部中心点間の間隔)が小さく、凸部の高さまたは凹部の深さ、すなわち凹部の底から凸部の頂点までの高さが大きいことが好ましい。ここで、凸部とは、微細凹凸構造の平均高さより高い部位をいい、凹部とは、微細凹凸構造の平均高さより低い部位をいうものとする。また、微細凹凸構造のアスペクト比(凸部高さ/凸部底部径、または凹部深さ/凹部開口径)は、塗工精度、バリア領域の機能、および、転写精度の観点から0.1?5.0であると好ましく、0.3?3.0であるとより好ましく、0.5?1.5であると最も好ましい。
・・・省略・・・
[0120](第1の実施形態)
図23は、第1の実施形態に係る転写用鋳型を示す模式図である。図23に示すように、この転写用鋳型(以下、単に鋳型という)300は、円筒状または円柱状で構成される。鋳型300は、外周表面に微細凹凸構造を有するパタン部301およびバリア領域302を具備する。なお、図23においては、上記説明した非パタンバリア領域や、非パタンバリア領域の途切れ、バリア領域の途切れは記載していないが、これらを含むものとする。また、以下において、パタン部301がバリア領域302に挟まれる、という表現を使用するが、これも上記説明した、挟まれの定義を適用するものとする。
[0121] 図23に示すように、パタン部301は、バリア領域302に挟まれた状態で配置されている。パタン部301とバリア領域302の配置は次のように定義される。鋳型300の長手方向の中心位置を点Oとする。この点Oから長手方向へ軸をとり、この軸上で鋳型300における各位置を説明する。点Aおよび点Fは、鋳型300のエッジ部である。パタン部301は、点Cと点Dとの間に存在する。点Cと点Dの間に点Oが存在する。フィルムへの転写性の観点から、点Cと点Dとの中点が、点Oであることが好ましい(距離CO=距離DO)。バリア領域302は、点Bと点Cとの間、および、点Dと点Eとの間に存在する。点Cと点Oとの距離は、点Bと点Oとの距離よりも小さい(距離CO<距離BO)。点Dと点Oとの距離は、点Eと点Oとの距離よりも小さい(距離DO<距離EO)。点Bと点Eとの中点が、点Oであってもよい(距離BO=距離EO)。
[0122] 鋳型300のエッジ部を示す点A,Fと、バリア領域302の外側の端部を示す点B,Eとは、点A=点B、点E=点Fの両方、またはいずれか一方の関係を満たしていてもよい。点A=点B、かつ、点E=点Fの場合には、鋳型300の外周全面が微細凹凸構造を具備することとなる。しかしながら、鋳型300からフィルム(図示せず)へと微細凹凸構造を転写する際に、エッジ部に近い部分の微細凹凸構造を転写することは困難である。したがって、スループット性の観点から、点A≠点B、かつ、点E≠点Fであることが好ましい。
[0123] バリア領域302の大きさ(距離BC,距離DE)は、必要な面積のパタン部301を得られるのであれば、鋳型300から転写形成されたフィルムへの直接塗工性の観点から、大きいほど好ましい。使用する溶液の粘度や、パタン部301における微細凹凸構造の形状によっても変わるが、概ね10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。バリア領域302およびパタン部301の転写性の観点から、100μm以上が好ましく、1mm以上であることが好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上であることがなお好ましい。バリア領域302上にて強い応力により分裂した転写材塗工液がパタン部301側へと移動するのを抑制するために、バリア領域302の幅は、30mm以下が好ましく、15mm以下が好ましく、8mm以下が最も好ましい。
[0124] 図23に示す鋳型300が、鋳型(I)、(IV)に相当する場合、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、パタン部301の平均ラフネスファクタRf1より小さい。特に、塗工性をより改善するために、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、バリア領域302の内側、すなわちパタン部301側から外側にかけて連続的に減少することが好ましい。すなわち、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、勾配を有することが好ましい。一方、転写用鋳型(II)、(III)においては、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、パタン部301の平均ラフネスファクタRf1より大きくすることが好ましい。特に、塗工性をより改善するために、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、バリア領域302の内側、すなわちパタン部301側から外側にかけて連続的に増加することが好ましい。すなわち、バリア領域302の平均ラフネスファクタRf2は、勾配を有することが好ましい。
[0125] 図23に示す鋳型300においては、微細凹凸構造を有するパタン部301と、微細凹凸構造を有さない非パタン部303(図23における点A-B間、点E-F間)との間に、パタン部301の平均ラフネスファクタRf1に対し、上記説明した平均ラフネスファクタRf2の関係性を満たすバリア領域302を配置している。これにより、微細凹凸構造を有さない領域、すなわち非パタン部303とパタン部301との間のラフネスファクタRfがなだらかに変化する構造となる。この構造により、鋳型300を原版(マスターモールド)として使用して転写形成された樹脂モールドを、被処理体への微細凹凸構造の転写に使用した場合に、塗工液の塗工性が良好になる。これは、塗工液と非パタン部303との親和性が離型性を発現する範囲で高い場合は、塗工液の接触角が連続的に変化し、塗工液にかかる力F(θ)も連続的に変化する。そのため、転写用鋳型(III)、(IV)を使用することで、塗工液の液滴(液膜)内部の応力集中は緩和され、塗工不良(1)を抑制して良好な塗工性を保つことができるためである。また、塗工液と非パタン部との親和性が低い場合は、バリア領域302上における塗工液に加わる応力を急激な接触角の変化により大きくできる。そのため、転写用鋳型(I)、(II)を使用した場合は、非パタン部上ではじかれた塗工液液滴は、バリア領域302を乗り越えることができず、塗工不良(2)を抑制してパタン部301上の塗工性を良好に保つことができるためである。また、鋳型300の微細凹凸構造を、光硬化性樹脂を転写材として使用し、樹脂モールドを作製する場合に、バリア領域302による転写材内部の応力緩和の効果により、得られた硬化した光硬化性樹脂膜内部の応力も緩和することもでき、残留応力を小さくできる。
[0126] (第2の実施形態)
図24は、第2の実施形態に係る転写用鋳型を示す模式図である。図24に示すように、この転写用鋳型(以下、単に鋳型という)310は、第1の実施形態に係る鋳型300から転写形成されるフィルム鋳型、すなわち、リール状樹脂モールドである。つまり、第1の実施形態に係る鋳型300を、本実施の形態に係る鋳型310へ微細凹凸構造の転写のための原版(マスターモールド)として使用している。図24に示すように、この鋳型310は、表面に微細凹凸構造を有するパタン部311およびバリア領域312を具備する。なお、図24においては、上記説明した非パタンバリア領域や、非パタンバリア領域の途切れ、バリア領域の途切れは記載していないが、これらを含むものとする。また、以下において、パタン部311がバリア領域312に挟まれる、という表現を使用するが、これも上記説明した、挟まれの定義を適用するものとする。
[0127] 図24に示すように、パタン部311は、バリア領域312に挟まれた状態で配置されている。パタン部311とバリア領域312の配置は、次のように定義される。フィルムの幅方向に軸を取り、フィルムの一端部と他端部との中心を点Oとする。この軸上で鋳型310における各位置を説明する。なお、パタン部311およびバリア領域312が有する微細凹凸構造は、フィルムの幅方向の軸と垂直な方向にも形成されている。
[0128] 点Aおよび点Fは、鋳型310を構成するフィルムのエッジ部である。パタン部311は、点Cと点Dとの間に存在する。点Cと点Dの間に点Oが存在する。フィルムへの転写性および、鋳型310への転写材の直接塗工性の観点から、点Cと点Dとの中点が、点Oであることが好ましい(距離CO=距離DO)。バリア領域312は、点Bと点Cとの間、および、点Dと点Eとの間に存在する。点Cと点Oとの距離は、点Bと点Oとの距離よりも小さい(距離CO<距離BO)。点Dと点Oとの距離は、点Eと点Oとの距離よりも小さい(距離DO<距離EO)。点Bと点Eとの中点が、点Oであってもよい(距離BO=距離EO)。
[0129] フィルムのエッジ部を示す点A,Fと、バリア領域312の外側の端部を示す点B,Eとは、点A=点B、点E=点Fの両方、またはいずれか一方の関係を満たしていてもよい。点A=点B、かつ、点E=点Fの場合には、フィルムの表面全面が微細凹凸構造を具備することとなる。しかしながら、第1の実施形態の鋳型300から第2の実施形態の鋳型310を構成するフィルムへと微細凹凸構造を転写する際、および、第2の実施形態の鋳型310の微細凹凸構造面上に転写材を塗工し、被処理体上へと転写する際に、エッジ部に近い部分の微細凹凸構造を転写することは困難である。したがって、スループット性の観点から、点A≠点B、かつ、点E≠点Fであることが好ましい。
[0130] バリア領域312の大きさ(距離BC,距離DE)は、必要な面積のパタン部311を得られるのであれば、フィルムへの直接塗工性の観点から大きいほど好ましい。使用する溶液の粘度や、パタン部311における微細凹凸構造の形状によっても変わるが、概ね10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。特に、鋳型310を使用する際に発生するウェブの振動や撓みに対してもバリア領域312の効果を発揮する観点から、100μm以上が好ましく、1mm以上であることが好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上であることがなお好ましい。バリア領域312上にて強い応力により分裂した転写材塗工液がパタン部311側へと移動するのを抑制するために、バリア領域312の幅は、30mm以下が好ましく、15mm以下が好ましく、8mm以下が最も好ましい。
[0131] 本実施の形態に係る鋳型310において、鋳型(I)、(IV)においては、バリア領域312の平均ラフネスファクタRf2は、パタン部311の平均ラフネスファクタRf1より小さくすることが好ましい。特に、塗工性をより改善するために、バリア領域312の平均ラフネスファクタRf2は、バリア領域312の内側、すなわちパタン部311側から外側にかけて連続的に減少する、すなわち勾配を有することが好ましい。一方、転写用鋳型(II)、(III)においては、バリア領域12の平均ラフネスファクタRf2は、パタン部311の平均ラフネスファクタRf1より大きくすることが好ましい。特に、塗工性をより改善するために、バリア領域312の平均ラフネスファクタRf2は、バリア領域312の内側、すなわちパタン部311側から外側にかけて連続的に増加することが好ましい。すなわち、バリア領域312の平均ラフネスファクタRf2は、勾配を有することが好ましい。
[0132] 本実施の形態に係る鋳型310においては、微細凹凸構造を有するパタン部311と、微細凹凸構造を有さない非パタン部313(図24における点A-B間、点E-F間)との間に、パタン部311の平均ラフネスファクタRf1に対し、上記説明した平均ラフネスファクタRf2の関係性を満たすバリア領域312を配置することにより、非パタン部313とパタン部311との間のラフネスファクタRfがなだらかに変化する構造となる。塗工液と非パタン部313との親和性が離型性を発現する範囲で高い場合は、塗工液の接触角が連続的に変化し、塗工液にかかる力F(θ)も連続的に変化する。そのため、転写用鋳型(III)、(IV)を使用することで塗工液の液滴(液膜)内部の応力集中は緩和され、塗工不良(1)を抑制して良好な塗工性を保つことができる。また、塗工液と非パタン部313との親和性が低い場合は、バリア領域312における塗工液に加わる応力を急激な接触角の変化により大きくできる。そのため、鋳型(I)、(II)を使用することにより、非パタン部313上ではじかれ液滴化した塗工液は、バリア領域312を乗り越えることができず、塗工不良(2)を抑制してパタン部311上の塗工性を良好に保つことができる。したがって、転写材の塗工性が良好な鋳型310を提供することが可能となる。
・・・省略・・・
[0237] 以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
[0238] 実施例においては、以下の材料および測定方法を用いた。
・DACHP…フッ素含有ウレタン(メタ)アクリレート(OPTOOL DAC HP(ダイキン工業社製))
・M350…トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成社製 M350)
・I.184…1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製 Irgacure(登録商標) 184)
・I.369…2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(BASF社製 Irgacure(登録商標) 369)
・TTB…チタニウム(IV)テトラブトキシドモノマー(Wako社製)
・DEDFS…ヂエトキシヂフェニルシラン(信越シリコーン社製 LS-5990)
・X21-5841…末端OH変性シリコーン(信越シリコーン社製)
・SH710…フェニル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング社製)
・3APTMS…3アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM5103(信越シリコーン社製))
・M211B…ビスフェノールA EO変性ジアクリレート(アロニックスM211B(東亞合成社製))
・M101A…フェノールEO変性アクリレート(アロニックスM101A(東亞合成社製))
・OXT221…3-エチルー3{[(3-エチルオキセタンー3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(アロンオキセタンOXT-221(東亞合成社製))
・CEL2021P…3、4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3、’4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
・DTS102…ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート(光酸発生剤(みどり化学社製))
・DBA…9、10-ジブトキシアントラセン(Anthracure(登録商標) UVS-1331(Anthracure(登録商標)UVS-1331(川崎化成社製))
・PGME…プロピレングリコールモノメチルエーテル
・MEK…メチルエチルケトン
・MIBK…メチルイソブチルケトン
・Es/Eb…微細凹凸構造を表面に具備する樹脂モールドの、XPS法により測定される表面(表層)フッ素元素濃度(Es)と、平均フッ素元素濃度(Eb)の比率。
[0239] 樹脂モールドの表面(表層)フッ素元素濃度はX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)にて測定した。XPSにおける、X線のサンプル表面への侵入長は数nmと非常に浅いため、XPSの測定値を本発明における樹脂モールド表面(表層)のフッ素元素濃度(Es)として採用した。樹脂モールドを約2mm四方の小片として切り出し、1mm×2mmのスロット型のマスクを被せて下記条件でXPS測定に供した。
XPS測定条件
使用機器 ;サーモフィッシャーESCALAB250
励起源 ;mono.AlKα 15kV×10mA
分析サイズ;約1mm(形状は楕円)
取込領域
Survey scan;0?1, 100eV
Narrow scan;F 1s,C 1s,O 1s,N 1s
Pass energy
Survey scan; 100eV
Narrow scan; 20eV
一方、樹脂モールドを構成する樹脂中の平均フッ素元素濃度(Eb)は、物理的に剥離した切片を、フラスコ燃焼法にて分解し、続いてイオンクロマトグラフ分析にかけることで測定した。
[0240] <転写用鋳型(IV)>
ドット形状の構造を具備する樹脂モールドへの塗工性試験を、次のように行った。
[0241] (a)円筒形状鋳型作製
円筒形状鋳型の基材には石英ガラスを用い、半導体レーザーを用いた直接描画リソグラフィー法により、微細凹凸構造を石英ガラス表面に形成した。円筒形状鋳型としては、パタン部301(以下、図23参照)のみを持つ円筒形状鋳型Aと、パタン部301およびバリア領域302を持つ円筒形状鋳型Bを作製した。パタン部301が有する凹凸構造は、円筒形状鋳型A,Bともに、ピッチ460nm、高さ460nm、凸部頂部径50nmとした。円筒形状鋳型Bにおけるバリア領域302は、パタン部301の外側に5mm幅で形成した。
[0242] 円筒形状鋳型A,Bに対し、デュラサーフHD-1101Z(ダイキン化学工業社製)を塗布し、60℃で1時間加熱後、室温で24時間静置、固定化した。その後、デュラサーフHD-ZV(ダイキン化学工業社製)で3回洗浄し、離型処理を実施した。
[0243] (b)リール状転写用鋳型(IV)作製
DACHP,M350,I.184およびI.369を混合し、硬化性樹脂組成物を調液した。DACHPは、M350、100質量部に対し、10?20質量部添加した。円筒形状鋳型A,Bそれぞれから、以下の工程に則り、樹脂モールドCを作製した。なお、後述する樹脂モールドCから樹脂モールドDを作る工程では、樹脂モールドCを作製する際に使用した樹脂と同様の樹脂を使用して、樹脂モールドDを作製した。さらに、樹脂モールド表面(表層)フッ素元素濃度(Es)と、バルクフッ素元素濃度(Eb)との比率は、パタン部311の構造部分で、測定算出した。
[0244] PETフィルム:A4100(東洋紡社製:幅300mm、厚さ100μm)の易接着面にマイクログラビアコーティング(廉井精機社製)により、塗布膜厚6μmになるように硬化性樹脂組成物を塗布した。次いで、円筒形状鋳型A,Bそれぞれに対し、硬化性樹脂組成物が塗布されたPETフィルムをニップロール(0.1MPa)で押し付け、大気下、温度25℃、湿度60%で、ランプ中心下での積算露光量が600mJ/cm^(2)となるように、フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製UV露光装置(Hバルブ)を用いて紫外線を照射し、連続的に光硬化を実施し、表面に微細凹凸構造が転写されたリール状の樹脂モールドC(長さ200m、幅300mm)を得た。リール状樹脂モールドCのパタン部311における表面微細凹凸構造の形状は、走査型電子顕微鏡観察で確認した結果、ホール形状の構造は、ピッチ460nm、深さ460nm、開口幅230nmであった。
[0245] PETフィルム:A4100(東洋紡社製:幅300mm、厚さ100μm)の易接着面にマイクログラビアコーティング(廉井精機社製)により、樹脂モールドCを作製した際に使用した樹脂と同様の硬化性樹脂組成物を塗布膜厚6μmになるように塗布した。次いで、円筒形状鋳型AまたはBから直接転写し得られた樹脂モールドCの微細凹凸構造面に対し、硬化性樹脂組成物が塗布されたPETフィルムをニップロール(0.1MPa)で押し付け、大気下、温度25℃、湿度60%で、ランプ中心下での積算露光量が600mJ/cm^(2)となるように、フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製UV露光装置(Hバルブ)を用いて紫外線を照射し、連続的に光硬化を実施し、表面に微細凹凸構造が転写された、円筒形状鋳型AまたはBと同様の微細凹凸構造を具備するリール状の樹脂モールドD(長さ200m、幅300mm)を複数得た。リール状樹脂モールドDの表面微細凹凸構造の形状は、走査型電子顕微鏡観察で確認した結果、ドット形状の構造は、ピッチ460nm、高さ460nm、凸部頂部径50nmであった。得られたドット形状を具備する樹脂モールドDの、表面(表層)フッ素元素濃度(Es)と、平均フッ素元素濃度(Eb)の比率(Es/Eb)は、DACHPの仕込み量により40?80の値をとり、樹脂モールドDの転写領域311およびバリア領域312の水に対する接触角は、いずれも90度より大きいことが確認された。
[0246] 以下の樹脂モールドDを使用した検討においては、Es/Eb=74.1,55.4,49.0である撥水性の強い樹脂モールドを選定し、それら全てに対して、塗工性の検討を行った。
[0247] (c)樹脂モールドD(リール状転写用鋳型(IV))への直接塗工
樹脂モールドDの表面に形成された微細凹凸構造面に対し、以下材料E,F,Gを、それぞれ直接塗工し、塗工性を判断した。塗工性は、鋳型A由来の樹脂モールドDを使用した場合は、パタン部311部分と、非パタン部313の界面部分で判断した。鋳型B由来の樹脂モールドDを使用した場合は、パタン部311とバリア領域312の界面およびバリア領域312と非パタン部313の界面で判断した。それぞれの界面部分で、塗膜にむらや弾きが生じた場合には塗工不良と判断し、むらや弾き無く塗工されていた場合には塗工良好と判断した。
[0248] 材料E…TTB;DEDFS;TEOS;X21-5841;SH710=65.25:21.75:4.35:4.35:4.35[g]で十分に混合した。続いて、3.25%の水を含むエタノール2.3mlを、攪拌下で、徐々に滴下した。その後、80度の環境で4時間熟成し、真空引きを行い、材料Eを得た。
[0249] 材料F…TTB;DEDRS;X21-5841;SH710;3APTMS;M211B;M101A;M350;I.184;I.369=33.0:11.0:4.4:4.4:17.6:8.8:8.8:8.8:2.4:0.9[g]で十分に混合し、材料Fを得た。
[0250] 材料G…TTB;DEDRS;X21-5841;SH710;3APTMS=46.9:15.6:6.3:6.3:25.0[g]で十分に混合し、続いて、3.25%の水を含むエタノール2.3mlを、攪拌下で徐々に滴下した。その後、80度の環境で2.5時間熟成し、真空引きを行った。この溶液に、M211B;M101A;M350;I.184;I.369=29.6:29.6:29.6:8.1:3.0[g]を混合した溶液42.2gを加え、十分に攪拌し、材料Gを得た。
[0251] 材料E,F,Gを、PGMEまたはMIBKで希釈した。希釈倍率は、1%?5%の範囲で行い、樹脂モールドDの微細凹凸構造内部のみが埋まる状態から、微細凹凸構造を完全に埋め、かつ、微細凹凸構造上に塗膜が形成される状態まで試みた。
[0252] 樹脂モールドDの微細凹凸構造面に対する材料E,F,Gの塗工は、上記(b)リール状転写用鋳型(IV)作製と同様の装置を使用した。マイクログラビアコーティングにて、樹脂モールドDの微細凹凸構造面に、希釈した材料を塗工し、80度の乾燥雰囲気を通過させた状態を確認した。
[0253] (d)バリア領域の構造
バリア領域における微細凹凸構造は、パタン部の平均ラフネスファクタRf1と、バリア領域の平均ラフネスファクタRf2とが連続化し、且つ、バリア領域の平均ラフネスファクタRf2が、非パタン部(Rf=1)へと連続的に変化することを設計指針として以下2種類を設計した。すなわち、平均ラフネスファクタRf2が、パタン部側からバリア領域側へと減少するようなバリア領域を設けた。
[0254] (d-1)バリア領域(1)
円筒形状鋳型の周方向のピッチ(周ピッチ)を変化させ、軸方向のピッチ(送りピッチ)は、周ピッチに従い、正規配列になるように設定した。パタン部とバリア領域との界面を点0としてとり、パタン部からバリア領域の方向への軸(距離)を設定した。図32は、この場合における周ピッチと距離(グラフ100)、および、ラフネスファクタRfと距離(グラフ101)との関係を示すグラフである。図32に示すグラフの横軸はパタン部とバリア領域との界面(点0)からの距離[mm]を示し、縦軸(左)は周ピッチ[nm]を示し、縦軸(右)はラフネスファクタRfの値を示す。図32において、送りピッチは、周ピッチ×(0.866)である。点0(距離0mm)におけるピッチは460nmであり、パタン部と連続である。点0からの距離が大きくなるほど、周ピッチは指数的に増加する。この周ピッチの変化に伴い、ラフネスファクタRf2は、フラットである1へと連続的に変化する。すなわち、ラフネスファクタRf2は、パタン部側からバリア領域側へと減少する。また、ピッチがパタン部側からバリア領域側へと大きくなることに伴い、開口率はパタン部側からバリア領域側へと増加している。
[0255] (d-2)バリア領域(2)
円筒形状鋳型の送りピッチのみを変化させ、周ピッチは460nmで一定とした。配列は正規配列とした。パタン部とバリア領域との界面を点0としてとり、パタン部からバリア領域の方向への軸(距離)を設定した。図33は、この場合における送りピッチと距離(グラフ102)、および、ラフネスファクタRfと距離(グラフ103)との関係を示すグラフである。図33に示すグラフの横軸はパタン部とバリア領域との界面(点0)からの距離[mm]を示し、縦軸(左)は送りピッチ[nm]を示し、縦軸(右)はラフネスファクタRfの値を示す。軸ピッチは、460nmで一定である。点0(距離0mm)における送りピッチは398nmであり、パタン部と連続である。点0からの距離が大きくなるほど、送りピッチは指数的に増加する。この送りピッチの変化に伴い、ラフネスファクタRfは、フラットである1へと連続的に変化する。すなわち、ラフネスファクタRf2は、パタン部側からバリア領域側へと減少する。また、ピッチがパタン部側からバリア領域側へと大きくなることに伴い、開口率はパタン部側からバリア領域側へと増加している。
[0256](e)塗工結果
バリア領域を持たない鋳型A由来の樹脂モールドDを用いた場合(比較例1)、材料E?Gおよびその濃度に関わらず、パタン部と非パタン部界面において、むらが観察された。むらは、溶剤の揮発乾燥と共に白いもやとなって観察された。これは、図1Bに示すように、パタン部111と非パタン部112との界面上において塗工液113の膜内部に強い応力が働き、塗工液113の膜の分裂が生じ、これにより塗工斑(膜厚斑)が生じたためである(塗工不良(1))。
[0257] バリア領域を持つ鋳型B由来の樹脂モールドDを用いた場合(実施例1)、材料E?Gおよびその濃度に関わらず、パタン部とバリア領域との界面、および、バリア領域と非パタン部との界面において、むらは観察されず、良好な塗工が得られた。これは、図4Aに示すように、バリア領域111上において塗工液113の膜内部の応力が緩和され、塗工液113の膜の分裂が生じず、これにより塗工が良好に行われたためである。」

(2)[図1]


(3)[図2]


(4)[図3]


(5)[図4]


(6)[図23]


(7)[図24]


2 引用発明
引用文献1の上記1の記載に基づけば、引用文献1には、第1の実施形態に係る鋳型300([0120]?[0125]、[図23])から転写形成されたフィルムとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 鋳型から転写形成されたフィルムであって、
鋳型は、円筒状または円柱状で構成され、外周表面に微細凹凸構造を有するパタン部およびバリア領域を具備し、パタン部がバリア領域に挟まれ、
バリア領域の平均ラフネスファクタRf2は、パタン部の平均ラフネスファクタRf1より小さく、バリア領域の平均ラフネスファクタRf2は、バリア領域の内側、すなわちパタン部側から外側にかけて連続的に減少し、
微細凹凸構造を有するパタン部と、微細凹凸構造を有さない非パタン部との間に、バリア領域を配置する、フィルム。」


第5 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「フィルム」と本件発明1の「加飾フィルム」とは、「フィルム」の点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、「フィルム」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「フィルム」が、本件発明1は、「加飾フィルム」であるのに対して、引用発明は、「加飾」のためのフィルムであるかどうかが明らかでない点。

(相違点2)
本件発明1が、「フィルム面が、第1領域、前記第1領域に接する第2領域、及び前記2領域に接する第3領域を有し、
前記第1領域が光透過性を有し、
前記第1領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(1)(60°)が、前記第3領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(3)(60°)よりも小さく、
前記第2領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(2)(60°)が、前記第1領域側から前記第3領域側に向かってGs_(1)(60°)からGs_(3)(60°)まで漸増している」のに対して、引用発明は、上記の構成を具備するかどうかが明らかでない点。

(3)判断
上記相違点1及び上記相違点2について検討する。
まず、上記相違点2について、引用発明において、パタン部、バリア領域及び非パタン部を具備するのはあくまでも鋳型であって、その鋳型によって表面に微細凹凸構造が転写形成されたフィルムが、当該バリア領域及び非パタン部を有するとは、必ずしもいえない。
この点につき、引用文献1の[0001]には、「本発明は、表面に微細凹凸構造が転写された被処理体を作製するための微細凹凸構造鋳型に関する。」と記載されているように、鋳型から転写形成されたフィルムには、微細凹凸構造であるパタン部は形成されているものの、バリア領域や非パタン部が転写されるとまではいえない。また、引用文献1の他の箇所にも、鋳型から転写形成されたフィルムがバリア領域及び非パタン部を具備することを窺わせる記載はない。むしろ、引用文献1には「非パタン部112上ではじかれた塗工液113による、パタン部111上の塗工斑も、塗工不良に含まれる」([0019])、「非パタン部112上ではじかれた塗工液113の液滴が、パタン部111内部へと侵入することを阻害し、塗工不良(2)を抑制するために、図3に示すように、パタン部111と非パタン部112との間にバリア領域114を設ける」([0022])と説明されているように、転写領域はあくまでパタン部であって、バリア領域は「塗工不良」を抑制する目的で鋳型に設けられるものと理解できる。念のため付言すると、引用文献1の[0247]や[0257]の記載は、あくまでも鋳型における塗膜のむらや弾きなどの塗工についての評価であるから、転写形成されたフィルムが、例えば光学素子として使用する部分において、バリア領域及び非パタン部を具備するかどうかについて言及するものではない。
さらに、上記相違点1及び上記相違点2に係る、フィルム面が、第1領域、前記第1領域に接する第2領域、及び前記2領域に接する第3領域を有する加飾フィルムは、引用文献1のみならず、原査定の理由に示された、特開2002-357704号公報(以下「引用文献2」という。)、特開2015-193248号公報(以下「引用文献3」という。)のいずれの文献にも、記載されておらず、公知技術又は周知技術であるともいえない。
そうしてみると、当業者であっても、引用発明に基づいて上記相違点1及び上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることが、容易になし得たということはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ということはできず、また、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

2 本件発明2?5、11?12について
本件発明2?5、11?12は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?5、11?12も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

3 本件発明6について
(1)対比
本件発明6と引用発明とを対比する。
引用発明の「フィルム」もシートであるといえるから、本件発明6の「転写シート」と引用発明の「フィルム」とは、「シート」の点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明6と引用発明とは、「シート」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
「シート」が、本件発明6は、「離型シート上に、前記離型シートに接する転写層を少なくとも備えた転写シート」であるのに対して、引用発明は、「フィルム」であることにとどまり、転写シートではない点。

(相違点4)
本件発明6が、「転写層の転写面が、第1領域、前記第1領域に接する第2領域、及び前記2領域に接する第3領域を有し、
前記第1領域が光透過性を有し、
前記転写層を黒色平滑板に転写した際に、
前記第1領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(1)(60°)が、前記第3領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(3)(60°)よりも小さく、
前記第2領域のJIS Z8741:1997に準じて測定されるフィルム表面の60度鏡面光沢度Gs_(2)(60°)が、前記第1領域側から前記第3領域側に向かってGs_(1)(60°)からGs_(3)(60°)まで漸増している」のに対して、引用発明は、上記の構成を具備するかどうかが明らかでない点

(2)判断
上記相違点3及び上記相違点4について検討する。
まず、上記相違点3について、引用文献1には、被処理体が転写シートであることは、記載も示唆もされていない。
そして、上記相違点4については、本件発明1の「加飾フィルム」を本件発明6の「転写シート」に置き換えたものであるから、上記1(3)で述べたとおりであり、したがって、上記相違点3及び上記相違点4に係る本件発明6の構成は、引用文献1、引用文献2及び引用文献3のいずれの文献にも、記載されておらず、公知技術又は周知技術であるともいえない。
そうしてみると、当業者であっても、引用発明に基づいて上記相違点3及び上記相違点4に係る本件発明6の構成とすることが、容易になし得たということはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

4 本件発明7?10、13について
本件発明7?10、13は、本件発明6の構成を全て具備するものであるから、本件発明7?10、13も、本件発明6と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。


第6 原査定について
上記第5で述べたように、本件の請求項1?13に係る発明は、引用文献1に記載された発明ということはできず、また、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-11-05 
出願番号 特願2016-242621(P2016-242621)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B44C)
P 1 8・ 113- WY (B44C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 加飾フィルム、転写シート、加飾成形品及びその製造方法  
代理人 大谷 保  

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