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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1379602 |
審判番号 | 不服2020-12847 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-14 |
確定日 | 2021-11-10 |
事件の表示 | 特願2018-158399「眼科用フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月18日出願公開、特開2019- 61232〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2018-158399号(以下「本件出願」という。)は、2012年(平成24年)12月6日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2011年12月8日(以下「本件優先日」という。))を国際出願日とする、特願2014-545429号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成30年 9月26日 :手続補正書 令和 元年 7月18日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月22日 :意見書 令和 2年 1月22日 :手続補正書 令和 2年 5月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 9月14日 :審判請求書 令和 2年 9月14日 :手続補正書 令和 2年10月15日 :手続補正書(方式) 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年9月14日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の(令和2年1月22日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1及び17の記載は、次のとおりである。 「 【請求項1】 光学基板であって、前記可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを少なくとも5%の阻止率において選択的に阻止するように使用者に応じて構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた光学基板、 を含み、 前記選択的光学フィルタリング手段が、更に、前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側の前記可視スペクトルの入射光の少なくとも8%を透過するように使用者に応じて構成されており、 前記少なくとも1つの選択波長範囲が、435nm、445nm又は460nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する、 使用者のための光デバイス。」 (当合議体注:1行目の「前記可視光スペクトル」は、「可視光スペクトル」の、また、7行目の「前記可視スペクトル」は、「前記可視光スペクトル」の誤記である。) 「 【請求項17】 緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー遺伝性視神経症、加齢黄斑変性(AMD)、スタルガルド病、網膜色素変性又はベスト病などの変性過程に起因する眼の劣化に罹患している使用者の眼の少なくとも一部を光毒性から保護することにおける、請求項1?13のいずれか一項に記載の光デバイスの使用。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び16の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。 「 【請求項1】 光学基板であって、前記可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを少なくとも5%の阻止率において選択的に阻止するように使用者に応じて構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた光学基板、 を含み、 前記選択的光学フィルタリング手段が、更に、前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側の前記可視スペクトルの入射光の少なくとも8%を透過するように使用者に応じて構成されており、 前記選択的光学フィルタリング手段が第1の選択的光学フィルタリング手段と第2の選択的光学フィルタリング手段と第3の選択的光学フィルタリング手段を含み、前記第1の選択的光学フィルタリング手段が、435nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第1の波長範囲を阻止するように構成されており、前記第2の選択的光学フィルタリング手段が、445nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第2の波長範囲を阻止するように構成されており、前記第3の選択的光学フィルタリング手段が460nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第3の波長範囲を阻止するように構成される、 使用者のための光デバイス。」 (当合議体注:1行目の「前記可視光スペクトル」は、「可視光スペクトル」の、また、7行目の「前記可視スペクトル」は、「前記可視光スペクトル」の誤記である。) 「 【請求項16】 緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー遺伝性視神経症、加齢黄斑変性(AMD)、スタルガルド病、網膜色素変性又はベスト病などの変性過程に起因する眼の劣化に罹患している使用者の眼の少なくとも一部を光毒性から保護することにおける、請求項1?12のいずれか一項に記載の光デバイスの使用。」 2 新規事項の追加について 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「選択的光学フィルタリング手段」について、[A]「第1の選択的光学フィルタリング手段と第2の選択的光学フィルタリング手段と第3の選択的光学フィルタリング手段とを含」むという要件を付加し、さらに[B]各「選択的光学フィルタリング手段」について、「第1の選択的光学フィルタリング手段が、435nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第1の波長範囲を阻止するように構成されており、第2の選択的光学フィルタリング手段が、445nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第2の波長範囲を阻止するように構成されており、第3の選択的光学フィルタリング手段が460nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第3の波長範囲を阻止するように構成される」という限定を付加する補正事項を含む。 しかしながら、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、上記「選択的光学フィルタリング手段」が、上記[A]及び[B]で特定される3つの第1?第3の選択的光学フィルタリング手段を組み合わせて用いることは、本件出願の【請求項2】及び【0011】を参酌しても、明示的には記載されていない。 また、当初明細書等には、上記箇所以外に選択的フィルタについて、以下の記載がある。 (1) 「選択的フィルタは、例えば、約435nmの波長を中心とする波長の狭帯域の光を選択的に阻止するように構成してもよい。この波長範囲は、AMDの一次細胞モデルを使用してRPEの光毒性を調べる際に本発明者によって実施された上述の革新的研究によってAMD、スタルガルド病、網膜色素変性又はベスト病などの疾患に最大の毒性を呈することが示された。」(【0016】)、 (2)「別の例では、選択的フィルタを、例えば、約460nmの波長を中心とする波長の狭帯域の光を選択的に阻止するように構成してもよい。この波長範囲は、緑内障の一次細胞モデルを使用してRGCの光毒性を調べる際に本発明者により実施された上述の革新的研究によって緑内障、糖尿病性網膜症又はレーバー遺伝性視神経症などの疾患に最大の毒性を呈することが示された。」(【0017】) (3)「特定実施形態においては、選択的光学フィルタリング手段は第1の選択的光学フィルタリング手段と第2の選択的光学フィルタリング手段とを含み、第1の選択的光学フィルタリング手段は、実質的に435nmの波長を中心とする、10nm?30nmの範囲内の帯域幅を有する第1の波長範囲を阻止するように構成されており、第2の選択的光学フィルタリング手段は、実質的に460nmの波長を中心とする、10nm?30nmの範囲内の帯域幅を有する第2の波長範囲を阻止するように構成されている。この手法において、選択的デュアルバンドフィルタは、AMD、スタルガルド病、網膜色素変性又はベスト病の進行に有害であることが細胞モデル研究によって示された波長を中心とする波長の狭帯域の光、及び緑内障、レーバー遺伝性視神経症又は糖尿病性網膜症の経過に有害であることが細胞モデル研究によって示された波長の狭帯域の光を選択的に阻止するようになっている。」(【0019】) (4)「別の例では、選択的フィルタは、例えば、約445nmの波長を中心とする波長のより広帯域の光を選択的に阻止するように構成してもよく、それによって、RPE及びRGC細胞デルにおける研究において、加齢黄斑変性(AMD)、スタルガルド病、網膜色素変性、ベスト病、緑内障、糖尿病性網膜症又はレーバー遺伝性視神経症などの疾患の進行に有毒であることが示されている光をフィルタリングする。」(【0018】) (当合議体注:「細胞デル」は、「細胞モデル」の誤記である。) 上記記載からは、RPE及びRGC細胞モデルを用いた研究によって毒性が示された全ての疾患に対しては、 (A)約435nmの波長を中心とする波長の狭帯域の光を選択的に阻止するように構成された選択的フィルタと、約460nmの波長を中心とする波長の狭帯域の光を選択的に阻止するように構成された選択的フィルタとを組み合わせて使用する(選択的デュアルバンドフィルタ)又は (B)約445nmの波長を中心とする波長のより広帯域の光を選択的に阻止するように構成された選択的フィルタを使用する、 か、いずれかの手段を選択すれば足りることが理解できるにとどまり、3つの第1?第3の選択的光学フィルタリング手段を組み合わせて用いるという技術的事項が当初明細書等に記載されていることが自明であるとまではいえない。 したがって、上記補正事項は、当初明細書等の記載から自明な事項ということができない。 そうしてみると、本件補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということができない。 したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 ところで、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「選択的光学フィルタリング手段」に、上記[A]及び[B]の限定を付加して、新たな請求項1とすることを含む。また、本件補正後の請求項16に係る発明は、本件補正前の請求項1を引用する請求項17に記載された、上記「選択的光学フィルタリング手段」に上記[A]及び[B]の限定を付加したものと理解することができる。 そうしてみると、本件補正前の請求項1に係る発明及び本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明1」という。その他の請求項についても同様に称する。また、これらの発明を総称して、「本件補正後発明」ということがある。)並びに本件補正前の請求項17に係る発明及び本件補正後発明16とは、いずれも、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題が同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0005】?【0008】)。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものといえる。 本件補正が、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことは上記のとおりであるが、念のため、本件補正後発明1及び16が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)についても、以下、検討する。 3 独立特許要件について (1)特許法29条2項について ア 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された、特表2010-511205号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体がものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 (ア) 「【請求項1】 めがねレンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、角膜インレー、角膜アンレー、角膜移植および角膜組織のグループから選択されるオフサルミックレンズを備えたオフサルミックシステムであって、前記オフサルミックレンズが選択型光波長フィルタを備え、前記選択型フィルタによってコントラスト感度が改善されるオフサルミックシステム。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、改良型コントラスト感度を提供する高性能選択型光波長フィルタリングに関わる。 【背景技術】 ・・・省略・・・ 【0006】 現在の研究は、約400nm?500nmの波長を有する短波長可視光(青色光)は、AMD(加齢に伴う黄斑変性)の原因になり得る、という前提命題を強力にサポートしている。レベルが最も高い青色光吸収は、400nm?460nmなどの約430nmの近辺の領域で生じるとされている。また、研究によれば、青色光は、AMDの原因となり得る、遺伝、たばこの煙および過度のアルコール消費などの他の要因をより悪化させている。 【0007】 人間の網膜には複数の層が含まれている。以下は、眼に入射するあらゆる光に最初に露光される層から最も深い層の順にこれらの層を列記したものである。 1)神経線維層 2)神経節細胞 3)内部叢状層 4)双極細胞および水平細胞 5)外部叢状層 6)光受容体(桿状体および錐状体) 7)網膜色素上皮(RPE) 8)ブルック膜 9)脈絡膜 【0008】 光が眼の光受容体細胞(桿状体および錐状体)によって吸収されると、細胞が退色し、それらが回復するまで非受容性になる。この回復過程は代謝性過程であり、「視覚サイクル」と呼ばれている。青色光の吸収は、この過程とは時期尚早の逆の過程とされている。この時期尚早の逆転によって酸化的損傷の危険が増し、網膜中における色素脂褐素の沈着を招くと考えられている。この沈着は、網膜色素上皮(RPE)層に生じる。結晶腔と呼ばれている余分の細胞物質の集合の形成は、過剰な量の脂褐素によるものと考えられている。 【0009】 現在の研究は、光と網膜の相互作用のため、乳児から始まる個人の生涯にわたって、代謝性廃棄副産物が網膜の色素上皮層内に蓄積することを示している。この代謝性廃棄生成物は、特定の蛍光団を特徴としており、最も際立っているものの1つは脂褐素成分A2Eである。Sparrowのインビトロ研究は、RPE中で見出される脂褐素発色団A2Eは、430nmの光によって最大限に励起されることを示している。この代謝性廃棄物(詳細には脂褐素蛍光団)の蓄積の組合せが特定の蓄積レベルを達成すると傾斜点に到達し、人間が特定の年齢閾値に到達すると、この廃棄物の網膜内で代謝する身体の生理的能力が衰え、適当な波長の青色光刺激によって結晶腔がRPE層中に形成されることになることは理論化されている。これらの結晶腔は、さらに、適切な栄養素を光受容体に取り込み、それにより加齢に伴う黄斑変性(AMD)に対する寄与を可能にする通常の生理学/代謝性活動度を妨害していると考えられている。AMDは、米国および西洋では、不可逆的な重大な視力低下の第1の原因になっている。AMDの患者は、人口の計画シフトおよび高齢者の数の総合的な増加のため、次の20年で劇的に増加するものと思われる。 【0010】 結晶腔は、RPE層が適切な栄養素を光受容体に提供するのを妨害または阻止しており、したがってこれらの細胞が損傷し、さらには死滅する原因になっている。この過程をさらに複雑にするために、脂褐素は、大量の青色光を吸収すると、毒性を帯びるようになり、RPE細胞をさらに損傷および/または死滅させる原因になるように思われる。脂褐素成分A2Eは、少なくとも部分的にRPE細胞の短波長感度に寄与していると考えられている。A2Eは、青色光によって最大限に励起されるようであり、このような励起によって生じる光化学的な事象によって細胞が死滅することがある。例えば、Janet R.Sparrowet al.、「Blue light-absorbing intraocular lens and retinal pigment epithelium protection in vitro」J.Cataract Refract.Surg.2004年、第30版、873?78頁(非特許文献3)を参照されたい。 【0011】 理論的な観点から以下の事柄が生じるものと思われる。 1)乳児期から始まって生涯を通して色素上皮レベル内に廃棄物が蓄積する。 2)網膜の代謝性活動度およびこの廃棄物を処理する能力は、通常、年齢と共に衰える。 3)黄斑色素は、通常、年齢と共に減少し、したがってフィルタ除去される青色光が減少する。 4)青色光は脂褐素を毒性にする。したがってその毒性によって色素上皮細胞が損傷する。 ・・・省略・・・ 【0013】 Columbia大学でのSparrowによる実験室の証拠は、430±30nmの波長範囲内の青色光の約50%が遮断されると、青色光によって死滅するRPE細胞を最大80%減少させることができることを示している。眼の健康を改善するための試行では、サングラス、めがね、ゴーグルおよびコンタクトレンズなどの青色光を遮断する外部アイウェアが、例えばPrattの米国特許第6,955,430号明細書(特許文献1)に開示されている。その目的がこの光毒性の光から網膜を保護することである他のオフサルミックデバイスには、眼内レンズおよびコンタクトレンズがある。これらのオフサルミックデバイスは、環境光と網膜の間の光路内に配置され、通常、青色光および青紫色光を選択的に吸収する染料が含まれているか、あるいはコーティングされている。 ・・・省略・・・ 【0016】 青色光を遮断および/または禁止することは、色平衡に影響し、また、光学デバイスを通して見た場合の色視に影響し、さらには光学デバイスが知覚する色に影響するため、遮断される青色光の範囲および量のバランスを取ることは、場合によっては困難である。例えば、射撃用めがねは、明るい黄色に見え、青色光を遮断する。射撃用めがねは、青空を覗き込んだ場合にしばしば特定の色をより鮮明にし、射撃手は、より迅速に、かつ、より正確に標的を認識することができる。射撃用めがねの場合はこれでよいが、多くのオフサルミック適用にとってはこれは許容することはできない。詳細には、このようなオフサルミックシステムは、青色を遮断することによって黄色または黄褐色の色合いがレンズに生成されるため、場合によっては美容的に魅力がない。より詳細には、青色を遮断するための一般的な技法の1つには、BPI Filter Vision 450またはBPI Diamond Dye 500などの青色を遮断する色合いでレンズを着色し、あるいは染色する必要がある。この着色は、例えば、何らかの所定の時間期間の間、青色を遮断する染料溶液が入った加熱着色ポットにレンズを浸すことによって達成することができる。通常、染料溶液は、黄色または黄褐色の色を有しており、したがって黄色または黄褐色の色合いがレンズに付与される。多くの人にとって、この黄色または黄褐色の色合いの外観は、場合によっては美容的に望ましくない。さらに、この色合いは、レンズ使用者の正常な色知覚を妨害し、例えば交通信号の色または標識の正しい知覚を困難にすることがある。 ・・・省略・・・ 【0019】 従来の青色遮断が抱えているもう1つの問題は、青色を遮断することによって暗所視が低下する可能性があることである。青色光は、明るい光つまり明所視の場合より、光レベルが低い場合、つまり暗所視の場合により重要であり、その結果は、暗所視および明所視に対する視感感度スペクトルで定量的に表される。眼内レンズ組織による400nmないし450nmの光の吸収は、光化学反応および酸化的反応により、加齢に伴って自然に増加する。また、網膜上の低光視に寄与している桿状光受容体の数は加齢に伴って減少するが、眼内レンズによる吸収の増加は、暗所視を低下させるためには重要である。例えば、暗所視視覚感度は、53歳の眼内レンズでは33%低下し、また、75歳のレンズでは75%低下する。網膜の保護と暗所視感度の間のテンションは、Mainster and Sparrow、「How Much Light Should and IOL Transmit?」Br.J.Ophthalmol.、2003年、v.87、1523?29頁(非特許文献1)にさらに記載されている。 ・・・省略・・・ 【0021】 最近、眼内レンズ(IOL)の分野で、UVおよび青色光の適切な遮断、ならびに許容可能な明所視、暗所視、色視および概日リズムの維持に関する討論がなされた。 【0022】 以上の観点から、次のうちの1つまたは複数を提供することができるオフサルミックシステムが必要である。 1)許容可能なレベルの青色光保護を備えた青色遮断。 2)許容可能なカラーコスメチクス、つまり、着用者が着用した場合に、そのオフサルミックシステムを観察している人が、ほぼ色中性として知覚するカラーコスメチクス。 3)使用者のための許容可能な色知覚。詳細には、着用者の色視を損なうことがなく、さらにはシステムの裏面から着用者の眼の中への反射が着用者にとって不愉快にならないレベルであるオフサルミックシステムが必要である。 4)青色光波長以外の波長に対する許容可能なレベルの光透過率。詳細には、青色光の波長を選択的に遮断することができ、それと同時に80%を超える可視光を透過させることができるオフサルミックシステムが必要である。 5)許容可能な明所視、暗所視、色視および/ または概日リズム。」 (ウ) 「【発明を実施するための形態】 【0028】 本発明の実施形態は、有効な青色遮断を実行し、かつ、美容的に魅力のある製品、使用者による正常または許容可能な色知覚、および良好な視力のための高レベルの透過光を提供するオフサルミックシステムに関している。80%またはそれより良好な平均可視光透過率を提供し、青色光の波長を選択的に禁止し(「青色遮断」)、着用者の適切な色視性能を可能にし、また、このようなレンズまたはレンズシステムを着用している着用者を見ている観察者にほぼ色中性の外観を提供することができるオフサルミックシステムが提供される。本明細書において使用されているように、システムの「平均透過率」は、可視スペクトルなどのある範囲内における波長の平均透過率を表している。また、システムは、個々の波長における眼の感度に従って重み付けされる波長範囲における平均を表すシステムの「視感透過率」を特徴とすることができる。本明細書において説明されているシステムは、所望の効果を得るために様々なオプティカルコーティング、膜、材料および吸収染料を使用することができる。 【0029】 より詳細には、本発明の実施形態は、色平衡化と相俟って有効な青色遮断を提供することができる。本明細書において使用されている「色平衡化」または「色平衡」は、黄色もしくは黄褐色の色または青色遮断による他の望ましくない効果が抑制され、相殺され、中性化され、さもなければ補償され、それにより、そのために青色遮断の有効性が損なわれることなく美容的に許容可能な結果が得られることを意味している。例えば、400nm?460nmの波長またはその近傍の波長を遮断し、あるいはその強度を小さくすることができる。詳細には、例えば、420?440nmの波長またはその近傍の波長を遮断し、あるいはその強度を小さくすることができる。さらに、遮断されない波長の透過率は、高いレベル、例えば少なくとも80%に維持することができる。また、外部の観察者には、オフサルミックシステムは、透明またはほぼ透明に見える。システムの使用者に対しては、その色知覚を正常な知覚または許容可能な知覚にすることができる。 【0030】 ここで使用されている「オフサルミックシステム」には、例えば透明なガラスまたは着色されたガラス(またはめがね)のために使用される処方または非処方オフサルミックレンズ、サングラス、可視性および/またはコスメチック着色が施されたコンタクトレンズおよび可視性および/またはコスメチック着色が施されていないコンタクトレンズ、眼内レンズ(IOLs)、角膜グラフト、角膜インレー、角膜アンレーおよびエレクトロ-アクティブオフサルミックデバイスが含まれており、他のコンポーネントと共に取り扱い、処理し、あるいは組み合わせて、本明細書においてさらに詳細に説明されている所望の機能を提供することができる。本発明は、処方に従って作ることができ、したがって角膜組織中に直接適用することができる。 【0031】 本明細書において使用されているように、「オフサルミック材料」は、矯正レンズなどのオフサルミックシステムを製造するために広く使用されている材料である。例示的オフサルミック材料には、ガラス、CR-39、Trivexなどのプラスチック、およびポリカーボネート材料があるが、他の材料を使用することも可能であり、様々なオフサルミックシステム用として知られている。 【0032】 オフサルミックシステムは、色平衡コンポーネントの後側に青色遮断コンポーネントを備えることができる。青色遮断コンポーネントまたは色平衡コンポーネントのうちのいずれか一方は、それ自体がレンズなどのオフサルミックコンポーネントであっても、あるいはそのようなオフサルミックコンポーネントの一部を形成していてもよい。後側の青色遮断コンポーネントおよび前側の色平衡コンポーネントは、オフサルミックレンズの1つまたは複数の表面上の、もしくは表面に隣接する、または表面の近傍のまったく別の層であってもよい。色平衡コンポーネントは、美容的に許容可能な外観を得るために、後側の青色遮断コンポーネントの黄色または黄褐色の色合いを薄くし、あるいは中性にすることができる。例えば、外部の観察者には、オフサルミックシステムは、透明またはほぼ透明に 見える場合がある。システムの使用者に対しては、その色知覚を正常な知覚または許容可能な知覚にすることができる。さらに、青色遮断および色平衡のために色合いが混合されず、したがって青色光スペクトル中の波長を遮断し、あるいはその強度を小さくすることができる。また、オフサルミックシステムにおける入射光の透過強度は、遮断されない波長に対して少なくとも80%にすることができる。 【0033】 上で説明したように、青色を遮断するための技法は知られている。青色光波長を遮断するための知られている技法には、吸収、反射、干渉またはそれらの任意の組合せがある。既に説明したように、ある技法によれば、BPI Filter Vision 450またはBPI Diamond Dye 500などの青色を遮断するティントを使用して、適切な比率または濃度でレンズを着色し/染色することができる。この着色は、例えば、何らかの所定の時間期間の間、青色を遮断する染料溶液が入った加熱着色ポットにレンズを浸すことによって達成することができる。他の技法によれば、フィルタを使用して青色が遮断される。フィルタは、例えば、青色光波長を吸収および/または反射し、かつ/または青色光波長と干渉する有機化合物または無機化合物を含むことができる。フィルタは、有機および/または無機物質の複数の薄い層またはコーティングを備えることができる。個々の層は、個々の層が個別に、あるいは他の層と相俟って、青色光波長を有する光を吸収し、反射し、あるいはその光と干渉する特性を有することができる。ルーゲートノッチフィルタは青色遮断フィルタの一例である。ルーゲートフィルタは、大きい値と小さい値の間でその屈折率が常に発振している無機誘電体の単一薄膜である。屈折率が異なる2つの材料(例えばSiO_(2)およびTiO_(2))の共蒸着によって製造されるルーゲートフィルタは、波長を遮断するための極めて明瞭な阻止帯を有しており、帯域外の減衰がほとんどないことで知られている。フィルタの構造パラメータ(発振周期、屈折率変調、屈折率発振の数)によってフィルタの性能パラメータ(阻止帯域の中心、阻止帯域の幅、帯域内の透過率)が決まる。ルーゲートフィルタは、例えば、それぞれその全体が参照されている米国特許第6,984,038号明細書(特許文献7)および米国特許第7,066,596号明細書(特許文献8)により詳細に開示されている。青色を遮断するための他の技法は、多層誘電体スタックの使用である。多層誘電体スタックは、屈折率が大きい材料と屈折率が小さい材料の離散層を交互に付着させることによって製造される。ルーゲートフィルタと同様、個々の層の厚さ、個々の層の屈折率および層の繰返し数などの設計パラメータによって、多層誘電体スタックの性能パラメータが決まる。 ・・・省略・・・ 【0044】 図7A?7Cは、青色遮断コンポーネントおよび色平衡コンポーネントを備えた他の例示的システムを示したものである。図7Aでは、オフサルミックシステム700は、青色遮断コンポーネント703および色平衡コンポーネント704を備えている。これらのコンポーネントは隣接して形成されているが、透明またはほぼ透明なオフサルミックレンズ702の前側表面の、または前側表面に隣接するまったく異なるコーティングまたは層である。青色遮断コンポーネント703は、色平衡コンポーネント704の後側に位置している。透明またはほぼ透明なオフサルミックレンズの後側表面に、または後側表面に隣接して、ARコーティングまたは他の層701を形成することができる。色平衡層704の前側表面に、または前側表面に隣接して、他のARコーティングまたは層705を形成することができる。 ・・・省略・・・ 【0051】 単なる例にすぎないが、図10?11では、GENTEX染料材料E465の透過率および吸光度を示している。吸光度(A)は、式A=log10(1/T)によって透過率(T)と関係している。この場合、透過率は0と1の間である(0<T<1)。透過率は、百分率つまり0%<T<100%で表されることがしばしばである。E465染料は、465未満のこれらの波長を遮断し、通常、光学濃度が高い(OD>4)これらの波長を遮断するために提供される。他の波長を遮断する同様の製品を入手することも可能である。例えばGENTEXのE420は、420nm未満の波長を遮断する。他の例示的染料には、ポルフィリン、ペリレンおよび青色波長で吸収することができる同様の染料がある。 ・・・省略・・・ 【0054】 オフサルミックシステムにおける短波長透過率の低減は、場合によっては、A2Eの励起などの眼の光電効果による細胞死滅を抑制するのに有用である。430±30nmで入射する光を約50%少なくすることによって細胞の死滅を約80%少なくすることができることが分かっている。例えば、参照によりその開示全体が組み込まれている、Janet R.Sparrow et al.、「Blue light-absorbing intraocular lens and retinal pigment epithelium protection in vitro、」J.Cataract Refract.Surg.2004年、第30版、873?78頁(非特許文献3)を参照された。さらに、430?460nmの範囲の光などの青色光の量をほんの5%程度少なくすることにより、同様に、細胞の死滅および/または変性を抑制することができ、したがって加齢に伴う萎縮性黄斑変性などの条件の悪影響を防止し、あるいは抑制することができると考えられている。 【0055】 吸収染料を使用して光の望ましくない波長を遮断することができるが、その染料によって、副作用としてレンズに色がつくことがある。例えば、多くの青色遮断オフサルミックレンズは、望ましくなく、かつ/または美感的に不快であることがしばしばである黄色い色合いを有している。この色合いを相殺するために、中に吸収染料を含有した基板の一方の表面または両方の表面に色平衡コーティングを加えることができる。 ・・・省略・・・ 【0073】 上で開示した構造および技法は、すべて、本発明によるオフサルミックシステムに使用することができ、400?460nmの青色光波長またはこの近辺の青色光波長の遮断を実行することができる。例えば、実施形態では、遮断される青色光の波長を所定の範囲内の波長にすることができる。実施形態では、この範囲を430nm±30nmにすることができる。他の実施形態では、この範囲を430nm±20nmにすることができる。さらに他の実施形態では、この範囲を430nm±10nmにすることができる。実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に90%に制限することができる。他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に80%に制限することができる。他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に70%に制限することができる。他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に60%に制限することができる。他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に50%に制限することができる。他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に40%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に30%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に20%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に10%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に5%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に1%に制限することができる。さらに他の実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に0%に制限することができる。つまり、上で特定された範囲における波長の電磁スペクトルのオフサルミックシステムによる減衰を少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または実質的に100%にすることができる。 【0074】 いくつかのケースでは、場合によっては、400nm?460nm領域などの青色スペクトルの比較的微小部分をフィルタリングすることがとりわけ望ましい。例えば、青色スペクトルを遮断しすぎると、暗所視および概日リズムを妨害することがあることが分かっている。従来の青色遮断オフサルミックレンズは、通常、着用者の「生体時計」に悪影響を及ぼす可能性があり、また、他の悪影響を及ぼす可能性のある、広範囲にわたるはるかに大量の青色スペクトルを遮断している。したがって、本明細書において説明されているように、場合によっては比較的狭い範囲の青色スペクトルを遮断することが望ましい。比較的狭い範囲の比較的微少量の光をフィルタリングすることができる例示的システムは、400nm?460nm、410nm?450nmおよび420nm?440nmの波長を有する光の5?50%、5?20%および5?10%を遮断または吸収するシステムを備えている。 【0075】 青色光の波長が上で説明したように選択的に遮断されるのと同時に、オフサルミックシステムによって視覚電磁スペクトルの他の部分の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%を透過させることができる。つまり、青色光スペクトルの外側の波長、例えば430nm近辺の範囲の波長以外の波長の電磁スペクトルのオフサルミックシステムによる減衰は、場合によっては20%以下、15%以下、10%以下であり、また、他の実施形態では5%以下である。 ・・・省略・・・ 【0077】 上で開示したオフサルミックシステムは、すべて、めがね、サングラス、ゴーグルまたはコンタクトレンズなどの外部着用アイウェアを始めとするアイウェア物品に組み込むことができる。このようなアイウェアの場合、システムの青色遮断コンポーネントは色平衡コンポーネントの後側に位置しているため、青色遮断コンポーネントは、アイウェアが着用されると常に色平衡コンポーネントよりも眼に近くなる。また、オフサルミックシステムは、外科的に移植可能な眼内レンズのような製造物品に使用することも可能である。 【0078】 いくつかの実施形態には、青色光を遮断するための膜が使用されている。オフサルミックシステムまたは他のシステム内の膜は、400nm?460nmの範囲内の青色光の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%および/または少なくとも50%を選択的に禁止することができる。本明細書において使用されているように、膜は、膜が波長範囲内における少なくとも一部の透過を禁止すると、その波長範囲を「選択的に禁止し」、一方、その波長範囲外の可視波長の透過にはほとんど影響を及ぼさないか、あるいはまったく影響を及ぼさない。膜および/または膜を組み込んだシステムは、その色平衡化が可能であり、それにより観察者および/または使用者による知覚を無色にすることができる。本発明による膜を組み込んだシステムは、 85%またはそれより良好な可視光の暗所視視感透過率を有することができ、したがって、さらに、膜またはシステムを通して見ている人にほぼ正常な色視を持たせることができる。 ・・・省略・・・ 【0098】 一実施形態では、437nmの光の吸収を最大として約2/3の光を吸収するだけの十分な濃度および厚さのペリレン(C20H12、CAS #198-55-0)がオフサルミックデバイスに組み込まれている。図35において、このデバイスの透過率スペクトルが示される。このフィルタによって生じる照度の変化は、表Iに示されているように、暗所視観察条件で約3.2%にすぎず、また、明所視観察条件の下で0.4%にすぎない。デバイス中のペリレンの濃度を濃くし、あるいは厚さを分厚くすることにより、ベールの法則に従って個々の波長における透過率が小さくなる。図36は、ペリレンの濃度が図6の場合の2.27倍であるデバイスの透過率スペクトルを示したものである。このデバイスは、図6に示されているデバイスより多くの光毒性青色光を選択的に遮断するが、暗所視照度が6%未満だけ小さくなり、また、明所視照度が0.7%未満だけ小さくなる。染料による吸収の効果のみを示すために、図35および36には、スペクトルから反射が除去されていることに留意されたい。 【0099】 ペリレン以外の染料は、青色波長またはほぼ青色の波長範囲で強力に吸収し、また、可視スペクトルの他の領域ではほとんど吸収しないか、あるいはまったく吸収しない。図46に示されているこのような染料の例には、単独または組み合わせて使用し、小さいが400nm?460nmで除去されない透過率を得ることができるポルフィリン、クマリンおよびアクリジン系分子がある。したがって、本明細書において説明されている方法およびシステムは、他の分子構造に基づく同様の染料を、ペリレン、ポルフィリン、クマリンおよびアクリジンの透過率スペクトルを模倣する濃度で使用することができる。 【0100】 本発明の実施形態による光路中への染料の挿入は、光製造分野の熟練者には馴染みの多種多様な方法によって達成することができる。1つまたは複数の染料を、直接基板に組み込み、重合コーティングに加え、レンズ中に吸収し、染料が注入された層を備えた積層構造中に組み込み、あるいは染料が注入された微粒子との複合材料として使用することができる。 ・・・省略・・・ 【0122】 本発明には、窓、自動車フロントガラス、白熱電球、フラッシュバルブ、蛍光照明、LED照明、テレビジョン、コンピュータモニタ、等々などの選択型光波長フィルタリング実施形態を含むことができる。本発明によって、網膜に影響を及ぼすあらゆる光を選択的にフィルタ除去することができる。本発明を可能にしているのは、単なる例にすぎないが、選択型フィルタリング染料または顔料を含有した膜、基板が製造された後に加えられる染料成分または顔料成分、基板材料の製造または形成に不可欠の染料成分、メラニン、ルテインまたはゼアキサンチンなどの合成色素または天然色素、コンタクトレンズの場合のように視感度ティント(1つまたは複数の色を有している)として提供される選択型フィルタリング染料または顔料、オフサルミック耐引っ掻き傷コーティング(ハードコート)の中に提供される選択型フィルタリング染料または顔料、オフサルミック無反射コートの中に提供される選択型フィルタリング染料または顔料、疎水性コーティング、干渉フィルタ、選択型光波長フィルタの中に提供される選択型光波長フィルタリング染料または顔料、フォトクロミックレンズの中に提供される選択型光波長フィルタリング染料または顔料、もしくは白熱電球または白熱管のマトリックスの中に提供される選択型光波長フィルタリング染料または顔料である。本発明には、選択型光波長フィルタは、可視スペクトル全体にわたって一様に波長をフィルタ除去することはまったくないが、1つの特定の範囲の波長または複数の特定の範囲の波長を選択的にフィルタ除去することが企図されていることに留意されたい。 ・・・省略・・・ 【0137】 (実施例) (実施例1) 青色遮断染料の濃度が可変の統合膜を有するポリカーボネートレンズが製造され、図45に示されているように個々のレンズの透過率スペクトルが測定された。使用されたペリレン濃度は、2.2mmのレンズ厚さでそれぞれ35、15、7.6および3.8ppm(重量ベースで)であった。表IVにおいて、レンズ毎に計算された様々なメトリクスが示され、図45の参照番号に対応する番号が参照されている。光の選択吸光度は、ベールの法則によれば、主として染料濃度とコーティング厚さの積で決まるため、ハードコートおよび/またはプライマーコートを膜と共に使用し、あるいは膜の代わりに使用して、匹敵する結果を達成することができると考えられている。 【0138】 【表5】 ・・・省略・・・ 【0140】 上で説明した例示的データが示しているように、本発明によるシステムは、青色光、とりわけ400nm?460nmの領域の光を選択的に禁止することができ、その一方で依然として少なくとも約85%の明所視視感透過率を提供することができ、また、約80%未満、より好ましくは約70%未満、さらに好ましくは約60%未満、より好ましくは約50%未満の光毒性量を提供することができる。上で説明したように、本明細書において説明されている技法を使用して、最大95%以上の明所視視感透過率を達成することも可能である。」 (エ) 図7A 「 」 (オ) 図45 「 」 イ 引用発明 引用文献1の【0028】、【0030】、【0044】には、次の「オフサルミックシステム700」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「 青色光の波長を選択的に禁止する、青色遮断コンポーネント703および色平衡コンポーネント704を備え、 これらのコンポーネントは隣接して形成されているが、透明またはほぼ透明なオフサルミックレンズ702の前側表面の、または前側表面に隣接するまったく異なるコーティングまたは層であり、 透明なガラスまたは着色されたガラス(またはめがね)のために使用される処方または非処方オフサルミックレンズ、サングラス、可視性および/またはコスメチック着色が施されたコンタクトレンズおよび可視性および/またはコスメチック着色が施されていないコンタクトレンズ、眼内レンズ(IOLs)、角膜グラフト、角膜インレー、角膜アンレーおよびエレクトロ-アクティブオフサルミックデバイスが含まれており、 オフサルミックシステム700。」 ウ 対比 本件補正後発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 (ア) 光学基板、選択的光学フィルタリング手段 引用発明の「オフサルミックレンズ702」は、「透明またはほぼ透明」である。また、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、「オフサルミックレンズ702の前側表面の、または前側表面に隣接する全く異なるコーティングまたは層である」「コンポーネント」を備えている。また、オフサルミックレンズは、通常、板状の光デバイスといえる。(引用文献1の図7Aからも理解できる事項である。)そうしてみると、引用発明の「オフサルミックレンズ702」は、「コンポーネント」が配置される基材といえる。 以上の特性及び構成(形状)からみて、引用発明の「オフサルミックレンズ702」は、「光学基板」であるといえる。 (当合議体注:本件出願の明細書の【0053】に記載された「光学基板」の概念にも適うものである。) また、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」は、「青色光の波長を選択的に禁止する(「青色遮断」)」。上記機能は、青色光の波長を選択的に禁止する、すなわち、光を選択的に阻止、遮断、フィルタリングする機能といえる。そうしてみると、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」は、本件補正後発明1の「選択的光学フィルタリング手段」に相当する。 さらに、青色光が可視光スペクトル内の一部の波長範囲であることは技術常識である。また、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」が、入射光のうちの、青色光の波長を選択的に阻止する機能を具備することは明らかである。そうしてみると、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」が、選択的に禁止する青色光は、可視光スペクトル内における、入射光の選択波長範囲内の光であるといえる。 また、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」は、「オフサルミックレンズ702の前側表面の、または前側表面に隣接するコーティングまたは層であ」る。そうしてみると、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」が選択的に禁止する青色光は、後側の「オフサルミックレンズ702」を透過しないものといえる。 さらに、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、「透明なガラスまたは着色されたガラス(またはめがね)のために使用される処方または非処方オフサルミックレンズ、サングラス、可視性および/またはコスメチック着色が施されたコンタクトレンズおよび可視性および/またはコスメチック着色が施されていないコンタクトレンズ、眼内レンズ(IOLs)、角膜グラフト、角膜インレー、角膜アンレーおよびエレクトロ-アクティブオフサルミックデバイスが含まれ」るものである。そして、引用発明の「オフサルミックシステム700」の「サングラスやコンタクトレンズ」等が、使用者に応じて構成されたものであることは明らかであり、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」も使用者に応じて構成されたものといえる。 そうしてみると、引用発明の「青色遮断コンポーネント703」は、本件補正後発明1の「選択的光学フィルタリング手段」における、「可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が」「光学基板を透過することを」「選択的に阻止するように使用者に応じて構成された」という要件を満たす。 また、引用発明の「オフサルミックレンズ702」は、その構成からみて、「青色遮断コンポーネント703」が設けられているといえる。 以上を総合すると、引用発明の「オフサルミックレンズ702」は、本件補正後発明1の「光学基板」における、「可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が」「光学基板を透過することを」「選択的に阻止するように」「構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた」という要件を満たす。 (イ) 光デバイス 引用発明の「オフサルミックシステム700」は、上記(ア)に示した構成を備え、使用者のために使われるものである。上記構成からみて、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、本件補正後発明1の「光デバイス」に相当する。 (本件出願の明細書の【0053】における、「光デバイス」の定義からも確認できる事項である。) そうしてみると、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、本件補正後発明1の「光デバイス」における、「使用者のための」という要件を満たす。 また、その構成からみて、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、「オフサルミックレンズ702」を含む。 以上の点及び上記(ア)の対比結果から、引用発明の「オフサルミックシステム700」は、本件補正後発明1において、「光学基板であって、前記可視スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを」「選択的に阻止するように」「構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた光学基板、を含み」及び「使用者のための」とされる、「光デバイス」に相当する。 エ 一致点及び相違点 (ア) 一致点 本件補正後発明1と引用発明は、次の構成で一致する。 「 光学基板であって、前記可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを選択的に阻止するように使用者に応じて構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた光学基板、 を含む、使用者のための光デバイス。」 (イ) 相違点 本件補正後発明1と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「選択的光学フィルタリング手段」が、本件補正後発明1は、「可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを少なくとも5%の阻止率において選択的に阻止するように使用者に応じて構成され」たものであるのに対し、引用発明は、阻止率が特定されていない点。 (相違点2) 「選択的光学フィルタリング手段」が、本件補正後発明1は、「更に、前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側の前記可視スペクトルの入射光の少なくとも8%を透過するように使用者に応じて構成されて」いるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 (相違点3) 「選択的光学フィルタリング手段」が、本件補正後発明1は、「第1の選択的光学フィルタリング手段と第2の選択的光学フィルタリング手段と第3の選択的光学フィルタリング手段を含み、前記第1の選択的光学フィルタリング手段が、435nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第1の波長範囲を阻止するように構成されており、前記第2の選択的光学フィルタリング手段が、445nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第2の波長範囲を阻止するように構成されており、前記第3の選択的光学フィルタリング手段が460nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する第3の波長範囲を阻止するように構成される」ものであるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 オ 判断 相違点についての判断は以下のとおりである。 (ア) 相違点1について 引用文献1の【0073】には、「上で開示した構造および技法は、すべて、本発明によるオフサルミックシステムに使用することができ、400?460nmの青色光波長またはこの近辺の青色光波長の遮断を実行することができる。例えば、実施形態では、遮断される青色光の波長を所定の範囲内の波長にすることができる。」、「実施形態では、オフサルミックシステムは、上で画定された範囲内における青色波長の透過率を入射波長の実質的に90%に制限することができる。」ことが記載されている。 したがって、引用発明において、上記記載に基づいて、「青色遮断コンポーネント703」が遮断する青色光の透過率を実質的に90%、すなわち阻止率を10%程度とし、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (イ) 相違点2について 引用文献1の【0075】には、「青色光の波長が上で説明したように選択的に遮断されるのと同時に、オフサルミックシステムによって視覚電磁スペクトルの他の部分の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%を透過させることができる。」ことが記載されている。 したがって、引用発明において、上記記載に基づいて、「青色光遮断コンポーネント703」が、青色光の外側の可視光スペクトルの入射光を少なくとも8%透過させるように構成し、相違点2に係る本本願補正後発明1の構成に想到することは当業者が容易に想到し得たことである。 (ウ) 相違点3について 引用文献1の【0054】には、「オフサルミックシステムにおける短波長透過率の低減は、場合によっては、A2Eの励起などの眼の光電効果による細胞死滅を抑制するのに有用である。430±30nmで入射する光を約50%少なくすることによって細胞の死滅を約80%少なくすることができることが分かっている。」、「さらに、430?460nmの範囲の光などの青色光の量をほんの5%程度少なくすることにより、同様に、細胞の死滅および/または変性を抑制することができ、したがって加齢に伴う萎縮性黄斑変性などの条件の悪影響を防止し、あるいは抑制することができると考えられている。」と記載されている。 また、一般的に、450nm?490nmの範囲の青色光が緑内障等の網膜への損傷を与える要因であることは、例えば、「N N Osborne, G Lascaratos, A J Bron, G Chidlow, J P M Wood, A hypothesis to suggest that light is a risk factor in glaucoma and the mitochondrial optic neuropathies, Br J Ophthalmol 2006年 90 p. 237-241」、「Dan Ji, Tengku A. Kamalden, Susana del Olmo-Aguado, Neville N. Osborne, Light- and sodium azide-induced death of RGC-5 cells in culture occurs via different mechanisms, Apoptosis (2011) 16 p. 425-437」に記載されているように本件の優先日前に周知の技術である。 さらに、引用文献1の【0055】、【0098】及び【0099】に記載されているように、染料を用いて光を選択的に吸収できること、複数の染料を組み合わせてもよいことは、本件の優先日前に周知の技術である。 そうしてみると、引用発明において、目の細胞が死滅及び又は変性するという課題を解決するために、上記記載及び周知の技術に基づいて、「青色光遮断コンポーネント703」として、430±30nmを中心とする光を少なくする染料、430nm?460nmの範囲の光を少なくする染料、450?490nmの範囲の光を少なくする染料を組み合わせたものを用いてみることは、当業者が容易に想到し得たものであり、その際の中心波長及び帯域幅を、それぞれ435nm、445nm、460nmの波長を中心とする10nm?70nmの範囲の帯域幅とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。 カ 発明の効果について 本件発明の効果として、本件出願の明細書の【0012】には、「細胞モデルにおける本発明者の革新的研究により、AMD、スタルガルド病、網膜色素変性、ベスト病、緑内障、糖尿病性網膜症又はレーバー遺伝性視神経症などの網膜疾患に有害であることが示された波長の選択的フィルタリングを可能にする。」と記載されている。 しかしながら、本願発明の上記効果は、上記オ(ウ)で述べたとおり、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術から想到し得る発明が具備する効果である。また、その効果は、引用文献1及び周知技術から当業者が予測可能な範囲内のものであって、顕著なものともいえない。 キ 審判請求書について 審判請求人は、手続補正書(方式)の【請求の理由】3.(2)[1]において、以下の主張をしている。 (ア)「第1?第3の選択的光学フィルタリング手段は、それぞれ、光の有毒部分の波長の選択的フィルタリングするものであるため(明細書の段落0016?0018等参照)、このような3つの選択的光学フィルタリング手段を有することにより、本願発明は、使用者の眼の特性やニーズに合わせて、第1?第3の選択的光学フィルタリング手段の中から、最適なフィルタリング手段を選択し、各使用者の眼に最適な光学デバイスをきめ細やかに提供することができるという効果を有します(明細書の段落0010?0019参照)。」 (イ)「新請求項1に記載の光学デバイスは、特定の波長フィルタリング機能に加え、日光からの保護機能も有するものですが、このような光学デバイスは、いずれの引用文献にも開示されておりません。」 上記主張について検討する。 上記(ア)について、前記カで述べたとおりである。 上記(イ)について、日光からの保護機能を有することは、本件補正後発明1において特定された事項ではない。あるいは、引用発明から容易に想到し得る発明が具備する効果であって、その効果が顕著なものともいえない。 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できない。 ク 小括 本件補正後発明1は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (2)特許法第29条柱書について 本件補正後の請求項16に係る発明(以下「本件補正後発明16」という。)は、「緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー遺伝性視神経症、加齢黄斑変性(AMD)、スタルガルド病、網膜色素変性又はベスト病などの変性過程に起因する眼の劣化に罹患している使用者の眼の少なくとも一部を光毒性から保護することにおける、請求項1?12のいずれか一項に記載の光デバイスの使用。」である。そして、本件補正後発明16の上記「使用」は、実質的に「方法」と解されるところ、当該「使用」は、例えば、医者(眼科医等)が、緑内障、糖尿病性網膜症等に罹患している使用者に、このような疾病の進行を抑制する等の目的で、本件補正後発明16の光デバイス(眼用レンズ等)を処方するという行為(使用)を排除するものではない。そうしてみると、本件補正後発明16は、実質的にみて、人間を治療する方法に該当する発明といえる。 したがって、本件補正後発明16は、特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (3)小括 上記(1)及び(2)によれば、本件補正後発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、また、仮にそうでなかったとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、[理由2(進歩性)]本願発明は、その原出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含む。 引用文献1:特表2010-511205号公報 3 引用文献及び引用発明 引用文献1の記載、引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)ア及びイに記載したとおりである。 4 対比 本願発明と引用発明との対比は、前記「第2」[理由]3(1)ウに記載したとおりである。 5 一致点及び相違点 (1) 一致点 本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「 光学基板であって、前記可視光スペクトル内における、入射光の少なくとも1つの選択波長範囲が前記光学基板を透過することを選択的に阻止するように使用者に応じて構成された選択的光学フィルタリング手段が設けられた光学基板、 を含む、使用者のための光デバイス。」 (2) 相違点 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 相違点1は、前記「第2」[理由]3(1)エ(イ)に記載したとおりである。 (相違点2) 相違点2は、前記「第2」[理由]3(1)エ(イ)に記載したとおりである。 (相違点3) 「少なくとも1つの選択波長範囲」が、本願発明は、「435nm、445nm又は460nmの波長を中心とする、10nm?70nmの範囲内の帯域幅を有する」ものであるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 6 判断 相違点についての判断は以下のとおりである。 (1)相違点1について 相違点1の判断は、前記「第2」[理由]3(1)オ(ア)に記載したとおりである。 (2)相違点2について 相違点2の判断は、前記「第2」[理由]3(1)オ(イ)に記載したとおりである。 (3)相違点3について 引用文献1の【0073】には、「上で開示した構造および技法は、すべて、本発明によるオフサルミックシステムに使用することができ、400?460nmの青色光波長またはこの近辺の青色光波長の遮断を実行することができる。例えば、実施形態では、遮断される青色光の波長を所定の範囲内の波長にすることができる。」、「さらに他の実施形態では、この範囲を430nm±10nmにすることができる。」と示唆されている。 また、引用文献1の【0074】には、「いくつかのケースでは、場合によっては、400nm?460nm領域などの青色スペクトルの比較的微小部分をフィルタリングすることがとりわけ望ましい。」と示唆されている。 そうしてみると、引用発明において、上記示唆に基づいて、「青色光遮断コンポーネント703」が遮断する青色光波長の範囲として、430nm±10nmを一応の目安として選択し、その波長の中心及び帯域幅を、それぞれ、435nm及び10nm?70nmの範囲内とすることは当業者が適宜なし得る事項である。 そうしてみると、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2021-06-03 |
結審通知日 | 2021-06-08 |
審決日 | 2021-06-25 |
出願番号 | 特願2018-158399(P2018-158399) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B) P 1 8・ 561- Z (G02B) P 1 8・ 14- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邊 吉喜、川口 聖司、大竹 秀紀 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井亀 諭 関根 洋之 |
発明の名称 | 眼科用フィルタ |
代理人 | 上西 浩史 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 上西 浩史 |
代理人 | 伊東 秀明 |