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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
管理番号 1379776
異議申立番号 異議2020-700462  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-07 
確定日 2021-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6669368号発明「取引型および非取引型の商業を奨励する分散型台帳プロトコル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6669368号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。 特許第6669368号の請求項1?2,5?8,10,17に係る特許を維持する。 特許第6669368号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6669368号の請求項1?18に係る特許についての出願は,2015年(平成27年)7月10日(優先権主張 2014年7月11日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2017-522466号の一部を平成30年10月23日に新たな特許出願としたものであって,令和2年3月2日にその特許権の設定登録がされ,令和2年3月18日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許について,令和2年7月7日に特許異議申立人廣瀬敏一(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,当審は,令和2年12月3日付けで取消理由を通知した。特許権者は,その指定期間内である令和3年3月5日に意見書の提出及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)を行った。


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,以下のア?ウのとおりである。

ア 訂正請求人は,特許請求の範囲の請求項1を,以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(以下,「訂正事項1」という。)。

少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置と,
奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバーと,
前記第1のサーバーと通信し,分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバーと,
を有する奨励プロトコルネットワークを備え,
前記第1のサーバーは,
前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信し,
前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて,奨励単価の取引記録を作成し,
前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に同報送信し,
作成された前記奨励単価の取引記録に基づいて奨励単価の価値を計算し,
前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する,
ような命令を実行し,
前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものであることを特徴とするシステム。
(下線は,訂正箇所。訂正請求人が付与した。)

イ 訂正請求人は,特許請求の範囲の請求項3,4及び,11を削除することを請求する(以下,「訂正事項2」という。)。

ウ 特許権者は,特許請求の範囲の請求項1を上記アの事項により特定されるとおりの請求項1として訂正し,その結果として請求項1を引用する請求項2,5?10,12?18も訂正することを請求する(以下,「訂正事項3」という。)

よって,本件訂正請求は,一群の請求項ごとに請求されている。

(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は,訂正前の請求項1に係る特許発明の「前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する」を,「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものである」との記載により,訂正後の請求項1に係る発明における「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配」の構成を具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項1は「奨励単価の価値の分配」の構成を具体的に特定し,更に限定するものであり,また訂正事項1は,訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項11の特徴を訂正前の請求項1に加入したものであるため,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項1は,上述したように特許請求の範囲の訂正前の請求項11の記載であり,明細書記載の実施形態に基づいて導き出される構成である。この実施形態に係る説明として,訂正前の請求項11には「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものである」との記載がなされていることから,当該訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法126条第5項に適合するものである。

イ 訂正事項2
訂正事項2は,訂正前の請求項3,4及び11の記載を削除するものである。
したがって,訂正事項2は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は,訂正前の請求項3,4及び11の記載を削除するのみであるから,訂正前の請求項3,4及び11に記載された発明のカテゴリーを変更するものでもなく,かつ,訂正前の請求項3,4及び11に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。
したがって,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項2は,訂正前の請求項3,4及び11の記載を削除するものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法126条第5項に適合するものである。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は,訂正後の請求項2,5?10,12?18が,訂正後の請求項1の記載を引用することにより,訂正後の請求項2,5?10,12?18に係る発明を,それぞれより具体的に特定し,更に限定するものであるため,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は,上記アと同様の理由により,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項3は,上記アと同様の理由により,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法126条第5項に適合するものである。
訂正事項3は,訂正後の請求項2,5?10,12?18が,訂正後の請求項1の記載を引用するものであって,当該請求項1に係る発明は,後記「4」のとおり,特許を受けることができるものであるから,特許異議申立ての対象外である請求項9,12?16,18に係る発明についても,特許を受けることができないとする証拠は見当たらず,請求項9,12?16,18に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができないとすべき理由は存在しない。よって,訂正事項3でする請求項9,12?16,18に対する訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法126条第7項に適合するものである。

(3)小括
したがって,上記の訂正請求による訂正事項1?3は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第5項,第6項及び第7項の規定に適合する。
よって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。


3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?18に係る発明(以下,それぞれ,「本件発明1」,「本件発明2」…「本件発明18」といい,これらをまとめて「本件発明」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

[本件発明1]
少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置と,
奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバーと,
前記第1のサーバーと通信し,分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバーと,
を有する奨励プロトコルネットワークを備え,
前記第1のサーバーは,
前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信し,
前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて,奨励単価の取引記録を作成し,
前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に同報送信し,
作成された前記奨励単価の取引記録に基づいて奨励単価の価値を計算し,
前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する,
ような命令を実行し,
前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものであることを特徴とするシステム。

[本件発明2]
前記分散型台帳にブロックチェーンが含まれていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明3]
(削除)

[本件発明4]
(削除)

[本件発明5]
前記第1のサーバーが,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明6]
前記第1のサーバーが,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行し,前記多重署名モデルは,少なくとも所定数の参加者鍵が提供された場合に,鋳造することを承認し,前記第1のサーバーは,前記承認に基づいて新たに鋳造された奨励単価トークンを同報送信する命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明7]
前記イベントの種類が取引型であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明8]
前記イベントの種類が非取引型であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明9]
前記奨励イベントデータが,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットから受信されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明10]
前記奨励イベントデータが,商用プラットフォームから受信されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明11]
(削除)

[本件発明12]
前記第1のサーバーは,前記奨励単価の価値に関連付けられたブランド化された価値を定めている命令をさらに実行し,前記奨励単価の価値が,限られた一部の参加者に利用可能となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明13]
前記奨励プロトコルネットワーク参加者を第1の奨励プロトコルネットワーク参加者とし,前記奨励単価の価値を第1の奨励単価の価値としたとき,前記第1のサーバーは,
第2の奨励プロトコルネットワーク参加者から通貨を受け取り,
前記通貨を第2の奨励単価の価値に変換する,
ような命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明14]
前記奨励プロトコルネットワーク参加者を第1の奨励プロトコルネットワーク参加者としたとき,前記第1のサーバーは,
第2の奨励プロトコルネットワーク参加者から第1型の奨励単価の価値を受信し,
前記第1型の奨励単価の価値を第2型の奨励単価の価値に交換する,
ような命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明15]
前記第1のサーバーは,非参加者に関連付けられた非参加者の計算装置にリンクを送信する命令をさらに実行し,前記非参加者の計算装置によりリンクが実行されると,非参加者に対する参加者アカウントが動的に作成され,前記非参加者の計算装置にデジタルウォレットがダウンロードされ,ダウンロードされた前記デジタルウォレットが,動的に作成された前記参加者アカウントに関連付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明16]
前記第1のサーバーは,前記奨励プロトコルネットワーク参加者の生体フィードバック装置から生体データを受信するという命令をさらに実行し,前記奨励単価の取引記録の作成が前記生体データにさらに基づくものであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明17]
前記第1のサーバーは,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。

[本件発明18]
前記第1のサーバーは,複数の奨励単価トークンを鋳造し,前記複数の奨励単価トークンの額または種類のうち少なくとも一方を変更することで,積層化された奨励データを有する奨励単価トークンを生成する,という命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。


4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1,2?4,7,8及び10に係る特許に対して,当審が令和2年12月3日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。

ア 請求項1,2,7,8及び10係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用文献1(甲第1号証)及び引用文献2(甲第2号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1,2,7,8及び10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 請求項3及び4に係る特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)甲号証の記載
ア 引用文献1(特開2011-59884号公報,甲第1号証)には,次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ユーザのコンピュータによるノード同士が通信接続されて成るネットワークを有し,
前記ノードは,
ハードウェア及びソフトウェアによる資源を提供することにより,クラウドコンピューティングによるサービスを提供する処理を行う提供機能と,
前記サービスを要求して利用する処理を行う利用機能と,
前記利用機能を用いる第1のノードと前記提供機能を用いる第3のノードとの間に介在して,前記サービスを実行する処理を行う実行機能と,
前記提供機能を用いる第3のノードによる前記サービスの提供の行為を評価してその評価情報を保持するための評価機能と,を有し,
前記サービスを利用する第1のノードの利用機能は,第2のノードの実行機能を経由して,当該サービスを提供する第1のグループの複数の第3のノードの提供機能にアクセスし,当該提供機能からの応答は,当該第2のノードの実行機能を経由して,当該第1のノードの利用機能へ応答され,
上記に伴い,前記第2のノードまたは第4のノードの評価機能は,前記第1のグループの複数の第3のノードの提供機能の各々からの応答を評価処理し,その評価情報を保存し,
前記第2のノードの実行機能または前記第4のノードの評価機能は,前記評価情報における評価の高低に基づいて,前記第3のノードが前記利用機能を用いて前記サービスを利用する際に当該サービスの実行を制御すること,を特徴とするクラウドコンピューティングシステム。
【請求項2】
請求項1記載のクラウドコンピューティングシステムにおいて,
前記第2のノードの評価機能は,前記第1のグループの複数の第3のノードの提供機能の各々からの応答を評価処理し,その評価情報を,第2のグループの複数の第4のノードの評価機能にアクセスして保存すること,を特徴とするクラウドコンピューティングシステム。
【請求項3】
請求項1記載のクラウドコンピューティングシステムにおいて,
前記第2のノードの評価機能は,前記第1のグループの複数の第3のノードの提供機能の各々からの応答の結果を含むログ情報を記録し,そのログ情報を,第2のグループの複数の第4のノードの評価機能にアクセスして保存し,
前記第2のグループの複数の第4のノードの評価機能は,前記ログ情報に基づき,前記第1のグループの複数の第3のノードの提供機能の各々からの応答を評価処理し,その評価情報を保持すること,を特徴とするクラウドコンピューティングシステム。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,クラウドコンピューティングの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ITにおける趨勢としてクラウドコンピューティングがある。本明細書では,クラウドコンピューティング(以下適宜「クラウド」等と略称する)とは,インターネット上で,記憶資源や計算資源などの資源(リソース)を,サービスとして提供ないし利用する形態を指すとする。クラウド的なサービスを実現するシステム(クラウドコンピューティングシステム)では,要素技術としては,サーバ仮想化技術(1つの物理的なサーバ上で複数の仮想サーバを稼働させる技術等)や,分散処理技術(1つの計算を複数のノード(コンピュータ)で分散させて処理する技術等)などが用いられる。
【0003】
クラウド的なサービス(以下単に「サービス」ともいう)の例は以下である。ユーザ(クライアント)が使用するWebブラウザ等を備えるPC等のコンピュータ(端末)は,インターネット上のサービス(コンテンツ等)にアクセスする。例えばAmazon(登録商標)等による電子商取引(EC)のサービスや,Google(登録商標)等による情報検索のサービスなどがあり,当該サービスを提供するWebサイト(サーバ)にアクセスする。当該サーバを含むノード群の中では,複数のノード間でサービスの処理(例えば分散処理等)が行われ,その結果がユーザの端末へ応答される。またユーザの端末は,当該ノード群の中でどのように処理が行われたか等について知る必要が無い。」

「【0009】
以上を鑑み,本発明の主な目的は,クラウドコンピューティングシステムに係わり,多数・多様なユーザが参加することができ,システム環境全体を良好に発展させることができる仕組みを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち,代表的なものの概要を簡単に説明すれば,次の通りである。本発明では,前述の仕組みを実現するために,クラウドコンピューティングシステムの構成のモデルとして,オープン,完全分散型のシステムを考える。即ち,通信ネットワーク上における情報処理システム(ノード(コンピュータ)群のネットワーク)において,例えば一部の企業のノードに限定されることなく,不特定多数のユーザ(参加者)のノードが自由に参加/離脱が可能であり,各ノードが,クラウド的なサービスの提供(構成)のためのコンピュータ資源を提供(供出)すると共に,当該サービスを利用可能であるような仕組みである。
【0011】
サービス提供側のモデルとして,各参加者のノードは,記憶資源や計算資源等を自由に提供し,それらの複数のノードの資源(その結合)により,クラウド的なサービスを構成し提供する。また,サービス利用側のモデルとして,各参加者のノードは,上記によるクラウド的なサービスにアクセス,利用することができる。
【0012】
ここで,上記のように各ノードがサービス(資源)の提供と利用の両方を行うようなシステムでは,上記サービス(その資源)の提供と利用のバランスが1つの問題になる。即ち,一方のユーザはサービス(資源)の利用の度合いよりも提供の度合いの方が大き過ぎるのに対し,逆に他方のユーザは利用の度合いが大き過ぎる,といった偏りや,ただ乗り等を許容する仕組みは望ましくない。
【0013】
この点,本システムでは,公平性などの実現のために,サービス(資源)の提供(供出)における貢献度(実績など)に応じてサービス(資源)の利用が可能になる仕組みを有する。即ち,各参加者のノードは,サービスの提供のための資源を提供(供出)する代わりに,サービス(資源)を利用する権限等を得る。言い換えれば,サービス(資源)を利用するための条件として,自らもサービス(資源)を供出しなければならない。これにより,適切なノードの参加を促し,不適切なノードの排除を促し,システム環境全体の実装などを効率化する。
【0014】
上記仕組みとして,本システムでは,あるノードによるサービス(資源)の提供の行為における正確性などを,別のノードにより評価し,その評価結果を,当該サービス(資源)を提供したノードによる別のサービス(資源)の利用(その権限等)に反映する仕組みを有する。
【0015】
例えば,上記評価処理として,評価主体のノードは,評価対象のノード毎のサービス(資源)の提供の行為における,正確な応答データの有無などを判断することにより,上記正確性を評価する。当該評価(評価情報)として,例えば,当該ノードに関する利用の権限やポイント等を増減する。そして,当該評価結果の反映として,当該評価情報に応じて,当該評価対象のノードによるサービス(資源)の利用に関する制御(許可等)を実行する。
【0016】
本システム形態は,例えば,ユーザのコンピュータによるノード(群)が通信接続されるネットワークを有し,前記ノードは,ハードウェア及びソフトウェアによる資源を提供することにより,クラウドコンピューティングによるサービス(各種のサービス)を提供する処理を行う提供機能と,前記サービスを要求して利用する処理を行う利用機能と,前記利用機能を用いるノード(第1のノード)と前記提供機能を用いるノード(第3のノード)との間に介在して前記サービスを実行(制御等)する処理を行う実行機能と,前記提供機能を用いるノード(第3のノード)による前記サービス(その資源)の提供の行為を評価してその評価情報を保持するための評価機能と,を有する。例えば第1のノード(NA)は利用機能,第2のノード(NB)は実行機能及び評価機能,第3のノード(NC)は提供機能,第4のノード(ND)は評価機能を用いた処理を行う。
【0017】
本システムでは,前記サービス(各種サービスのうちいずれのサービスでもよい)の実行(利用)時,第1のノードの利用機能は,第2のノードの実行機能を経由して,第1のグループの複数の第3のノードの提供機能にアクセスし,当該提供機能からの応答が,当該第2のノードの実行機能を経由して,当該第1のノードの利用機能へ応答される処理が行われる。また,上記処理に伴い,前記第2のノードまたは第4のノードの評価機能は,前記第1のグループの複数の第3のノードの提供機能の各々からの応答を評価処理し,その評価情報を保存する。そして,本システムでは,前記評価情報における評価の高低に基づいて,前記第3のノードが前記サービス(各種サービスのうちいずれのサービスでもよい)を利用する際における前記利用機能(即ち前記第1のノードの利用機能と同じ)からの前記サービスの利用(実行)時,当該利用の可否などを制御する(前記評価の高低を,前記サービスの利用の条件に反映する)。」

「【0022】
図1のように,本実施の形態のシステム(クラウドコンピューティングシステム)は,インターネットにおいて,不特定多数の参加者(ユーザU)によるコンピュータのノードN群の接続(配置)によりネットワーク100が構成される。本システムでは,ノードNでクラウド的なサービスSのための資源(記憶資源や計算資源)を提供(供出)し,ノードN間で当該サービスS(資源)を相互に利用し合う,オープン(参加/離脱が自由),完全分散型のクラウドコンピューティングの情報処理システムである。完全分散型とは,集中管理ノードなどの特別なノードを持たず,各ノードが同様の機能を持つこと等を指す。
【0023】
本システムでは,参加者のノードによるサービス(資源)の提供の行為(貢献度)を評価し,その評価結果に応じたサービス(資源)の利用を可能にする仕組みを持つ。これにより,ノードによるサービス(資源)の提供と利用のバランスをとる。本システムでは,参加者のノードに対し,サービス(資源)の提供(供出)の対価として,サービス(資源)の利用を可能とする。逆に言えば,サービス(資源)の利用の条件として,サービス(資源)の提供(供出)を要求(強制)する。ユーザは,サービス(資源)の提供の評価に応じて,サービス(資源)を利用する権限やポイントなどを得る。」

「【0027】
サービスSは,基本的な,ストレージサービスと,コンピューティングサービス(計算サービス)と,を含む。ストレージサービスは,複数のノード(それらで供出される記憶資源)に保存されるデータ(コンテンツ)に対する読み書き等の操作を行うことができるサービスである。計算サービスは,複数のノード(それらで供出される計算資源)に対して,データ(コンテンツ)と操作(オペレーション)の組を与え,当該ノードで当該データに対し当該操作を適用した結果を新しいデータとして返すことができるサービスである。
【0028】
評価機能(評価処理)としては,評価主体のノードは,例えばストレージサービスを提供するグループの各ノード(評価対象のノード)から,正確な応答データを正常に受信できたか否か等の判断により,当該ノードによるサービス(資源)の提供の正確性などを評価する。その評価結果(評価情報P)は,所定のノード(評価処理に係わるグループの複数のノード)に保存され,当該各ノード(評価対象のノード)におけるサービス(資源)の利用の権限やポイントなどに反映される。」

「【0030】
<概念2-規約>
本システム環境において,ノード群のサービス(資源)の提供と利用のバランスをとり,公平性などを確保するために,参加者(ノード)が遵守すべき規約を有する。本規約の目標の1つとして,大多数の参加者のノードが本規約を遵守することにより,本規約を遵守しない参加者のノード(不適切なノード)による実装(群)が本システム環境から自動的に排除されることがある。本システムのノードは,本規約を反映(実装)した構成(図2のモジュール10)を持つ。
【0031】
本システムは,参加者のノードが規約を正しく遵守していることを評価する仕組みを有する。この仕組みとして,特に,ノードによるサービス(資源)の提供による貢献を正確性などによって評価するものである。
【0032】?【0038】(省略)
【0039】
サービス提供の評価における評価情報(ポイント)Pは,上記証明書に基づいて,アイデンティティ(そのノード)単位に管理される。」

「【0041】
<概念4-評価方式>
本システムのネットワーク100上,アイデンティティ(それに対応付けられるノード)におけるサービス(資源)の提供と利用のバランスを確保,管理するための仕組み(評価方式)及びその主体(ノードやその機能)を設ける。
【0042】
本システムでは,図3,図4のように,サービスSに関する,利用(NA),実行等(NB),提供(NC),評価等(ND)といった各ノード状態(機能)のノード間で処理が行われる。各ノードは,その都度の処理・状態に応じて機能(図2の21?24)を切り替える。例えばノードNBは,サービスの実行の制御の際にはNB機能22を用いた処理を行い,評価に係わる処理の際にはND機能24を用いた処理を行うように切り替える。
【0043】
ノード(サービス提供ノードNC)によるサービスS(資源)の提供の行為(正確性など)を正しく公平に評価するために,サービス利用ノードNAは,所定のアルゴリズムに従って決定されるノード(NB,ND等)を経由して,サービス提供ノードNCによるサービスSを利用する。
【0044】
本実施の形態では,評価主体として,当該所定のノード(NB,ND等)を用いて,最終的なサービス提供ノードNC(そのアイデンティティ)を評価対象として,当該サービス提供ノードNCによるサービス(資源)の提供に係わる評価(評価処理)を行う。特に,第1の評価方式では,サービス実行ノードNBにより評価処理を行い,第2の評価方式では,サービス評価ノードNDにより評価処理を行う。
【0045】
評価(評価処理)の対象は,ノード(グループの複数の各ノード)によるサービスS(資源)の提供の行為における正確性などである。この正確性の評価については,簡単には例えば,ノードNB-NC間における正確な応答の有無を2値的に判断することによる。また2値に限らず,上記提供(応答)の品質を多値で評価してもよい。例えば,応答時間(要求-応答に要した時間)の判断や,応答データの内容を正確な応答データと比較した場合の相違の程度の判断などによる。
【0046】
また,評価処理としては,評価主体のノード(NB)は,サービスS(例えばストレージサービス)に応じたグループの複数のノードNCによる応答結果(例えばデータD)を,相互比較して,多数決的に,正確性などを判断,評価する。即ち例えば,一番多数の応答結果を正しい応答とみなし,他(少数)の応答結果を誤った応答とみなす,等である。
【0047】?【0048】(省略)
【0049】
また,他の評価方式として,上記サービス(資源)の提供の評価によるポイント(評価値)を,サービス(資源)の利用に関するポイント(ポイントサービスのような方式)とも捉える方式としてもよい。即ち,サービス提供単位(評価の向上)毎に当該ポイントを増やし,サービス利用毎に当該ポイントを減らす(消費する)ような方式である。
【0050】
また,自ノード内に自ノードに関する評価情報(ポイント)Pを保持しない仕組みにより,例えば悪意ある参加者が当該ポイントを改ざん等してサービス利用すること等が防止される。なお,上記改ざん等の情報セキュリティ上の問題が解決できるのであれば,自ノード内に自ノードに関する評価情報Pを保持して参照可能にする形態としてもよい。
【0051】
<ネットワーク>
上記に基づき,詳細な実施の形態について以下に説明する。図1において,本システムにおける,参加者(ユーザU-アイデンティティ)のノードN(群)によるネットワーク100を示している。いくつかのノードN(例:N1?N8)のみを概略的に示す。N1に限らず,各ノードNi毎に,ユーザUi(アイデンティティ,証明書),IPアドレスAi,そのハッシュ値Bi,評価情報(ポイント)Pi,管理情報Mi,等が対応付けられるとする。なおノードNi毎の評価情報(ポイント)Piは,自ノードNi内ではなく,他ノード(後述のND)内に保持・管理され,必要に応じてその情報が参照される。」

「【0053】
<ノード,モジュール>
図2において,ノードNの構成例を示す。各参加者(ユーザU)のノードNは,本システムの仕組みを実現するモジュール10がインストールされる,例えばPCなどのコンピュータである。モジュール10は,プログラム等による構成であり,ノードNにより実行される。ユーザは,ノードN(モジュール10)を稼働させた状態(ネットワーク100に接続した状態)において,外部(他ノードN)にクラウド的なサービス(資源)を提供し,また,外部(他ノードN)のクラウド的なサービス(資源)を利用する。その提供と利用は,その都度,ユーザにより選択や設定ができる。
【0054】(省略)
【0055】
ノードNは,ハードウェア101(CPU,メモリ,ディスク,IO(周辺機器)など),及びソフトウェア102(OS,ミドルウェア,サーバ,ブラウザ,アプリケーションなど)を備える。これらが記憶資源103や計算資源104に相当する。」

「【0064】
<クラウドコンピューティングサービス>
本システムにおいて,基本的なクラウドコンピューティングサービス(クラウド的なサービスS)の機能について説明する。このサービスS自体の仕組みは,既存技術と基本的に同様である。
【0065】
本サービスSは,基本的なものとして,ストレージサービス13aと,コンピューティングサービス(計算サービス)13bと,を含む。それぞれ識別のためのサービスタイプTを,T1,T2とする。サービス毎に異なるサービスタイプT等の情報が設定され管理情報Mに管理される。」

「【0071】
<モデル,処理の流れ>
図3,図4を用いて,本システム(ネットワーク100)におけるノード群によるサービスSの実行時(利用(要求),提供(応答),評価等)における一連の処理の流れやモデルについて説明する。図3,図4では,ユーザU1のノードN1(NA)から,サービスS(例えばストレージサービス(T1))を利用する場合における,各状態のノード(NA,NB,NC,ND)の接続関係の例を示している。図3は特にサービス提供ノードNCとなるグループG1を示す。図4は特にサービス評価ノードNDとなるグループG2を示す。
【0072】
ノードNA(例えばN1)は,NA機能21により,クラウド的なサービスSを要求して利用するノードであり,「サービス利用ノード」と称する。ノードNC(例えばN3(NC1),N4(NC2),N5(NC3))は,NC機能23により,クラウド的なサービスSを提供するノードであり,「サービス提供ノード」と称する。
【0073】
ノードNB(例えばN2)は,ノードNAによるサービスSの利用と,ノードNCによる当該サービスSの提供との間に介在(経由)するノードであり,「サービス実行ノード」と称する。ノードNBは,NB機能22により,サービスSの実行を制御し,ノードNCによるサービスSの提供を把握してログ情報Lとして記録すると共に,当該提供(応答)を評価処理して評価情報Pとして記録し,これらの情報をノードNDに送信して保存させる。
【0074】
ノードND(NDa,NDc)は,ND機能23により,サービス提供ノードNCに関する評価情報P等を保持し,またノードNBからの要求(参照)に応じて当該評価情報P等を確認または提供するノードであり,「サービス評価ノード」と称する。ノードNDc(例えばN6)は,図3のノードNC(グループG1)に関するログ情報L(Lc)及び評価情報P(Pc)を保持するノードである。評価情報Pcの中には,グループG1の各ノード(N3?N5)の評価情報(ポイント)(P3?P5)が含まれている。同様に,ノードNDa(例えばN8)は,図3のノードNA(N1)(当該ノードがNC状態の時)に関するログ情報L(La)及び評価情報P(Pa)を保持するノードである。評価情報Paの中には,当該ノードN1の評価情報(ポイント)P1が含まれている。」

「【0077】
(1)(a1:サービス要求): サービス利用ノードNA(N1)(そのNA機能21)から,サービス実行ノードNB(N2)(そのNB機能22)へ,サービスSの利用要求を発行・送信する。この要求には,[サービスタイプ(T1)+キー(Ka)]等の情報(その他,適宜,書き込みデータ,操作の指示等の情報)が含まれる。例えば,NA(N1)は,管理情報M(M1)の参照に基づき,アクセス先となるNBを決定してアクセスする。
【0078】
(2)(b1,b2:評価情報確認): サービス実行ノードNB(N2)は,NAからのアクセス(a1)に対し,管理情報M(M2)の参照に基づき,まず,ノードND(NDa:NA(N1)に関する評価情報Pa(P1)を保持しているノード)に対して,当該NA(N1)に関する評価情報Pa(P1)の確認(参照)のためのアクセス・要求(b1)を行う。本実施の形態では,ノードNBのNB機能22(またはND機能24)は,ノードNDa(ND機能24)にアクセスし,当該ノードNAの評価情報Paを確認し,当該サービスSの実行を制御する。なお当該評価情報Pの確認の処理についても所定のサービスとして実現され,アクセス先は所定のグループG3の複数のノードNDaとなる。
【0079】
上記アクセス(b1)に対し,例えば,NDa(N8)は,管理情報M(M8)及び評価情報Pa(P1)の参照に基づき,当該ノードNA(N1)(そのアイデンティティ)が現在のポイントP1等に応じて当該サービスSの利用(実行)が許可されるか否か(権限)等を確認する。あるいは,他の方式では,NDaは,当該サービスSの利用のために当該ノードNA(N1)のポイントPa(P1)を消費(減少)する処理などを行う。
【0080】?【0082】(省略)
【0083】
(4)(a2:サービス実行(要求)): NB(NB機能22)は,アクセス先のグループG1の複数(3つ)の各ノードNC(NC1?NC3)(キーKaのデータDaを保有するノード)に対し,並列的に,サービスSの提供の要求を送信する(a2-1?3)。当該要求には,サービスタイプT1,キーKa,操作指示等の情報が含まれる。例えばデータDa自体の参照(読み出し)の要求である。
【0084】(省略)
【0085】
(5)(a3:サービス提供(応答)): NBからの要求(a2)を受けた各ノードNC(NC機能23)は,稼働状態の場合において,自ノードの記憶資源43における,キーKaにより指定されるデータDaに対する指定の操作(例えば読み出し)を行い,その結果(例えばデータDa自体)をNBへ応答として送信する(a3-1?3)。NBは,各NC(NC1?NC3)からの応答を受信する。ただし,NCが非稼働状態,高負荷状態,NB-NC間の通信リンクが障害状態,などの場合には,正確で迅速な応答は得られない。また,その時点のノードNCの状況(例えば非稼働状態)によっては,当該対象データDaを更新できない場合もあるが,少なくとも1つのノードNCで当該データを更新できれば,その後,当該グループG1内のノードNC間で当該データを授受(コピー)することにより(205),各ノードNCで当該データDaを保持することができる。
【0086】(省略)
【0087】
(7)(評価処理): ノードNBは,上記処理(a3,a4)を行うと共に,ノードND(グループG2)との間で,ノードNC(サービスSの提供)に関する評価に係わる処理を行う。まず,NB(NB機能22)は,G1の各NCによる応答の状態・結果を含む,当該サービスS(T1)の実行(201,203)の状態・結果(実績)に関して,ログ情報L(Lc)を記録する。また,NB(ND機能24)は,G1の各NCの応答結果(a3-1?3)について評価処理を行う。詳しくは例えば,NBは,各NCの応答結果を集計し,多数決的な判断に基づいて,各NCの応答の正確性を評価する。例えば各NCからの応答結果が同一であることをもって,正しい応答内容であることが確認できる。またNBは,例えば各NCから正確な応答(そのデータ)を正常に(迅速に)受信できたか(OK)否か(NG)を2値で判断し,それにより当該ノードNCの評価値(ポイント)を増減する。計算サービス(T2)の場合にも,他の応用的サービス(Td)の場合にも,同様な考え方で評価可能である。NBは,上記評価処理の結果により評価情報P(Pc)を作成し,例えばログ情報L(Lc)と共に,またはその一部として,記録する。」

「【0090】
(b3:評価情報の保存): NB(そのND機能24)は,上記評価処理に基づき,上記ログ情報Lc及び評価情報Pcを,所定のグループG2の複数の各ノードND(NDc)(そのND機能24)へ送信(コピー)して保存させる。なお各NDはb3に対する応答をNBへ返してもよい。この評価情報P等の保存の処理についても,所定のサービスS(サービスタイプをTdとする)として実現され,当該処理の際にアクセス先となる複数のノードNDcによるグループG2(例えば図4の3つのノードND1?ND3)についても,前述同様に,所定のハッシュ処理(入力値:例えば[Td]を含む)により決定される。なおNDとして,NCとは異なるノードが選択,決定される。
【0091】
グループG2の複数の各ノードNDc(例えばN6)(そのND機能24)は,内部に,NC(G1)に関するログ情報Lc及び評価情報Pcを保存(登録)する。評価情報Pcには,各NC(例:N3?N5)に関するポイント(例:P3?P5)が含まれる。なお,その時点のノードNDの状況(例えば非稼働状態)によっては,当該ログ情報Lc及び評価情報Pcを保存できない場合もあるが,少なくとも1つのノードNDcで当該情報を保存できれば,その後,当該グループG2内のノードNDc間で当該情報を授受(コピー)することにより(305),各ノードNDcで当該情報を保持することができる。
【0092】
上記NDによる評価情報Pは,評価方式に応じて,例えば,当該ノードNCの評価値(ポイント)の絶対値(現在値)であり,NBからの評価情報P(増減量)を加算することにより更新される。」

上記【0014】【0015】【0023】【0028】の「評価結果」の記載から,「評価結果」と「評価情報」は同じものである。

イ 上記アから,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」)が記載されていると認められる。

不特定多数の参加者(ユーザU)によるコンピュータのノード群の接続(配置)によりネットワーク100が構成されるクラウドコンピューティングシステムであって(【0022】),
ノードは,ハードウェア101(CPU,メモリ,ディスク,IO(周辺機器)など),及びソフトウェア102(OS,ミドルウェア,サーバ,ブラウザ,アプリケーションなど)を備え(【0055】),
クラウド的なサービスSを要求して利用するノードであって「サービス利用ノード」と称されるノードNA,及び,クラウド的なサービスSを提供するノードであって「サービス提供ノード」と称されるノードNCと(【0072】),
ノードNAによるサービスSの利用と,ノードNCによる当該サービスSの提供との間に介在(経由)するノードであり「サービス実行ノード」と称されるノードNBと(【0073】),
サービス提供ノードNCに関する評価情報等を保持する,必要に応じて評価情報等が参照されるノードであって「サービス評価ノード」と称されるノードNDと(【0051】【0074】),
を有するネットワーク100を備え(【0071】),
参加者(ノード)の遵守すべき規約を有し,参加者のノードが規約を正しく遵守していることを評価する仕組みを有し(【0023】【0030】【0031】),
その評価情報は,当該各ノード(評価対象のノード)におけるサービス(資源)の利用の権限やポイントなどに反映され,評価情報はノード単位で管理され(【0028】【0039】),このとき,評価情報は,評価による評価値(ポイント)の絶対値であって,サービスSの提供の評価によるポイントを,サービスSの利用に関するポイントと捉えることができ(【0049】【0091】【0092】),
ノードNBは,
サービス利用ノードNAからのサービスSの利用要求に対し,サービス提供ノードNCによるサービスSを利用させることができ(【0043】【0077】),
各ノードNCに対し操作指示等の情報を含むサービスSの提供要求を送信し,各ノードNCから,指定の操作の結果である応答を受信し(【0083】【0085】),
評価主体として,最終的なサービス提供ノードNC(そのアイデンティティ)を評価対象として,当該サービス提供ノードNCによるサービス(資源)の提供に係わる評価(評価処理)を行うものであって,ノードNCからの上記応答について評価処理を行い(【0044】【0087】),
上記評価処理は,サービスSに応じたグループの複数のノードNCによる応答結果を,相互比較して,多数決的に,正確性などを判断,評価する処理であり(【0046】),
上記評価処理に基づき,評価情報を,複数の各ノードNDへ送信(コピー)して保存させ(【0090】),
ノードNDが評価情報を保存できない場合,少なくとも1つのノードNDで当該情報を保存させる(【0091】),
ノードNDは,ノードNBからの要求(参照)に応じて当該評価情報等を確認または提供する(【0074】),
クラウドコンピューティングシステム(【0022】)。

(3)当審の判断
ア 特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1について
本件発明1を次のとおり分説する。

A 少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置と,
B 奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバーと,
C 前記第1のサーバーと通信し,分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバーと,
D を有する奨励プロトコルネットワークを備え,
E 前記第1のサーバーは,
F 前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信し,
G 前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて,奨励単価の取引記録を作成し,
H 前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に同報送信し,
I 作成された前記奨励単価の取引記録に基づいて奨励単価の価値を計算し,
J 前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する,
K1 ような命令を実行し,
L 前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が,前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものである
K2 ことを特徴とするシステム。

(イ)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

あ 「奨励プロトコル」について
引用発明1の「ポイント」は,サービスを提供するノードが規則を遵守しようとするインセンティブになる点で,本件発明1の「奨励」に相当する。そして,引用発明1には,ノードのユーザである参加者に,遵守すべき「規約」があり,参加者のノードが規約を正しく遵守することで評価されるものであって,評価情報は利用の権限やポイントに反映されることから,引用発明1の「規約」は,本件発明1の「奨励プロトコル」に相当する。

い 構成要件Aについて
引用発明1の「ノード」は,ハードウェア101(CPU,メモリ,ディスク,IO(周辺機器)など),及びソフトウェア102(OS,ミドルウェア,サーバ,ブラウザ,アプリケーションなど)を備えており,その時々の利用のされ方に応じて,ノードNA,ノードNB,ノードNC,ノードNDとして機能する。
そして,これらのノードには遵守すべき規約があり,これらのノードにより構築された引用発明1の「ネットワーク100」は,上記「あ」を踏まえると,本件発明1の「奨励プロトコルネットワーク」に相当し,引用発明1のノードのユーザは,本件発明1の「参加者」に相当し,引用発明1の,その時々の利用のされ方に応じて,ノードNA,ノードNB,ノードNC,ノードNDとして機能する「ノード」は,本件発明1の「計算装置」に相当する。
以上より,引用発明1の,「ネットワーク100」を構成する「ユーザ」の「ノード」は,本件発明1の「少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置」に相当する。

う 構成要件Bについて
引用発明1は,ノードが正しく「規約」を遵守しているかを評価するための環境を有しており,上記「あ」を踏まえると,引用発明1の当該「環境」は,本件発明1の「奨励プロトコルプラットフォーム」に相当する。
そして,引用発明1の「ノードNB」は,上記「環境」において,ノードNAとノードNCとの間に介在(経由)するノードであって,ノードNAからのサービスSの利用要求に対して,ノードNCによるサービスSを利用させるというサービスを提供する点で,「サーバー」として機能するものであり,規約が遵守されているかを評価する「評価主体」である点で,引用発明1の「ノードNB」は,本件発明1の「奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバー」に相当する。

え 構成要件Cについて
引用発明1は,評価情報が複数のノードNDに送信(コピー)されることで,複数のノードNDは同じ評価情報を保持されるから,分散型ということができ,評価情報は必要に応じて参照されるように,評価情報(ポイント)の増減を記録しているものであり,台帳等の形態で管理されることは技術常識であるから,引用発明1における,ノードNDで保持される当該台帳等の形態は,本件発明1の「ホスト」される「分散型台帳」に相当する。
さらに,引用発明1の「ノードND」は,ノードNBからの要求(参照)に応じて当該評価情報等を確認または提供する点で,ノードNBと通信をする「サーバー」として機能するものである。
以上より,引用発明1の,「ノードNB」と通信し,「評価情報等を保持する」「ノードND」は,本件発明1の「前記第1のサーバーと通信し,分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバー」に相当する。

お 構成要件Dについて
上記「い」のとおり,引用発明1の「ネットワーク100」は,本件発明1の「奨励プロトコルネットワーク」に相当する。

か 構成要件Eについて
後述する相違点は別にして,上記「う」のとおり,引用発明1の「ノードNB」は,本件発明1の「第1のサーバー」に相当する。

き 構成要件Fについて
引用発明1の,サービス利用ノードNAが,サービス提供ノードNCによるサービスSを利用するということは,イベントということができ,本件発明1の「イベント」に相当する。そして,引用発明1の,ノードNBが受信するものであって,ノードNCに対し送信した操作指示等の情報を含むサービスSの提供要求に対する,「所定の操作の結果である応答」は,サービスSに関連付けられているデータであって,評価の対象となる点で,本件発明1のイベントに関連付けられた「奨励イベントデータ」に相当する。
よって,引用発明1における「ノードNB」が,サービスSの提供要求に含まれる操作指示の「結果である応答」を受信することは,本件発明1の「前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信」することに相当する。

く 構成要件G,Jについて
引用発明1の,ノードNBが,複数のノードNCからの応答結果を,相互比較して,多数決的に,正確性などを判断,評価する評価処理を行うことは,規約に基づく評価処理であるから,引用発明1のこのような評価処理の内容及び手順は,本件発明1の「奨励プロトコルシステム規則」に相当する。そして,引用発明1の,ノードNBによる評価処理に基づき得られる「評価情報」は,評価情報をサービス(資源)の利用の権限やポイントなどに反映するためのものである点で,本件発明1の「奨励単価の取引記録」に相当し,引用発明1の「ポイント」は,「サービスSの利用に関するポイント」の点において,本件発明1の「奨励単価の価値」に相当する。
よって,引用発明1の「ノードNB」が,「規約」に基づき,複数のノードNCからの応答結果を,相互比較して,多数決的に,正確性などを判断,評価する評価処理を行い,評価情報を得ることは,本件発明1構成要件Gの「前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて,奨励単価の取引記録を作成し」に相当する。
また,引用発明1において,「評価情報」は,評価による評価値(ポイント)であって「サービスSの提供の評価によるポイント」を,「サービスSの利用に関するポイント」と捉えることができることから,引用発明1の「評価情報」を「ノード単位で管理」することは,「ノードNB」がサービスSを提供したノードNDに対して評価情報を付与する点で,本件発明1構成要件Jの「前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する」ことに相当する。

け 構成要件Hについて
引用発明1における,ノードNBが評価処理に基づき,「評価情報」を,複数の各ノードNDへ送信(コピー)して保存させることは,同報送信の点が不明であるものの,本件発明1の「前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に同報送信し」と,「前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に送信し」で共通する。

こ 構成要件K1及びK2について
引用発明1における,「クラウドコンピューティングシステム」は,後述する相違点は別にして,不特定多数の参加者(ユーザU)によるコンピュータのノード群の接続(配置)によりネットワーク100が構成され,ノードNBがノードNAからのサービス要求に対して,ノードNCによるサービスSを利用させるというサービスを提供し,ノードNDに評価情報を保持させる点で,本件発明1の「ような命令を実行する」「システム」に相当する。

さ 一致点及び相違点
上記「あ」?「こ」から,本件発明1と,引用発明1の一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置と,
奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバーと,
前記第1のサーバーと通信し,分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバーと,
を有する奨励プロトコルネットワークを備え,
前記第1のサーバーは,
前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信し,
前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて,奨励単価の取引記録を作成し,
前記奨励単価の取引記録を,前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に送信し,
前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する,
ような命令を実行することを特徴とするシステム。

<相違点>
(相違点1)
本件発明1は,「作成された前記奨励単価の取引記録に基づいて奨励単価の価値を計算」する構成であるのに対し,引用発明1は,奨励単価の取引記録に相当する「評価情報」を表す「サービスSの提供の評価によるポイント」を,奨励単価の価値に相当する「サービスSの利用に関するポイント」と捉える点。

(相違点2)
本件発明1は,奨励単価の取引記録を,分散型台帳に取り込ませるために分散型台帳に「同報」送信するのに対し,引用発明1は「同報」送信であるか定かではない点。

(相違点3)
「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配」が,本件発明1では,「前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレット」に対して行われるのに対し,引用発明1では,複数の各ノードNDに保持・管理させ,分配対象の「前記奨励プロトコルネットワーク参加者」に対して保持させるものではない点。

(ウ)相違点の判断
あ 相違点1について
引用発明1の「ポイント」について,「サービスSの提供の評価によるポイント」を,「サービスSの利用に関するポイント」と捉えることは,引用発明1においては,「サービスSの提供の評価によるポイント」を,そのまま,「サービスSの利用に関するポイント」として用いるものであって,2つの概念の異なるポイントを,1対1の関係で対応付けているものである。
そうすると,引用発明1において,評価情報である「サービスSの提供の評価によるポイント」を,「サービスSの利用に関するポイント」と捉えることは,本件発明1の「奨励単価の取引記録」に基づいて「奨励単価の価値」を計算することと,技術的に同じ事項を意味することから,相違点1の構成は,表現上の差異にすぎない。また,表現上の差異でないとしても,引用発明1に基づき,相違点1の構成とすることに技術的困難性はなく,当業者が容易に想到することのできた事項である。

い 相違点2について
引用発明1は,同報送信であるかは定かではないが,複数のノードNDに評価情報を保存させるものである。また,引用文献1【0091】には,「ノードNDの状況(例えば非稼働状態)によっては,当該ログ情報Lc及び評価情報Pcを保存できない場合もあるが,少なくとも1つのノードNDcで当該情報を保存できれば,その後,当該グループG2内のノードNDc間で当該情報を授受(コピー)することにより(305),各ノードNDcで当該情報を保持することができる。」として,評価情報を「少なくとも1つのノードND」に送信することが記載されており,複数のノードNDに評価情報を送信することができることが示唆されている。また,引用発明1において,ノードNDは,ノードNA,ノードNB,ノードNCでもないその他の不特定なノードに対してノードNDとして機能させることができるものである。そして,ノードNBは,そのようなノードNDに対して評価情報を送信するものであって,複数のノードNDに評価情報を送信する場合は,同報送信しているといえる。
よって,引用文献1には,ノードNBが複数のノードNDに対して評価情報を送信することは示唆されており,このとき,ノードNBが複数のノードNDに対して評価情報を「同報」送信する構成とすることは,引用発明1に基づき,当業者が容易に想到することができた事項である。

う 相違点3について
本件発明1の「デジタルウォレット」は本件特許明細書において符号20で示され,図1?図3,図6?図8から,「分散型台帳/ブロックチェーン24」とは異なるものであることは明らかである。そして,本件発明1は,「取引記録」を「分散型台帳」に取り込ませ,「奨励単価の価値」を「デジタルウォレット」に対して分配するものである。
これに対して,引用発明1は,サービス利用ノードNAとは異なるサービス評価ノードNDで保持される台帳等の形態が,本件発明1の「分散台帳」に相当し,サービス評価ノードNDが評価値(ポイント)である評価情報を保持するものである。そして,引用文献1は,評価情報を自ノード内ではなく,他ノードであるサービス評価ノードNDが保持・管理することが記載されている(上記摘記【0051】【0074】参照)。これにより,「自ノード内に自ノードに関する評価情報(ポイント)Pを保持しない仕組みにより,例えば悪意ある参加者が当該ポイントを改ざん等してサービス利用すること等が防止される」(上記摘記【0050】参照)もので,これにより,引用文献1には,サービス利用ノードNAが,ポイントを用いてサービスの提供を受けるためには,サービス評価ノードNDが,当該サービスの利用が許可されるか否か等を確認するものである(上記摘記【0077】?【0079】参照。)。他方,引用文献1には,評価情報とポイントを分けて,ポイントをノードND(分散型台帳)以外のものに保持・管理させることは記載も示唆もされておらず,技術常識でもない。また,サービス評価ノードNDが評価値(ポイント)である評価情報を保持・管理する構成とすることで,上記改ざん等を防止するものであることから,引用発明1において,引用文献1の記載に基づき,ポイントをサービス評価ノードNDとは異なるものに保持・管理する構成とすることには阻害要因がある。
そうすると,引用発明1において,引用文献1の記載に基づき「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配」が「前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレット」に対するものとの構成とすることは,当業者が容易になし得たものとはいえない。
また,引用文献2(Satoshi Nakamoto,Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System,URL:https://bitcoin.org/bitcoin.pdf,2008年,[検索日:令和2年11月25日],甲第2号証)には,「2. Transaction」,「6. Incentive」及び「9. Combination and Splitting Value」の項にコインの概念が記載されているものの,ブロックチェーンのブロックでコイン管理されるという,一般的な事項が記載されるのみである。そして,引用文献2の「5. Network」の,ブロックは各ノードが取り入れるものであって,本件発明1の「分散型台帳」が保持することに相当するものの,引用文献2には,分散型台帳とは異なる概念のものがブロックのコインを保持することは記載されていない。このため,引用発明1に引用文献2の当該技術的事項を適用したとしても,「前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配」が「前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレット」に対するものとの構成には至らない。

え よって,本件発明1は,引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明2,5?8,10及び17について
本件発明2,5?8及び17は,本件発明1に対して,さらに「前記分散型台帳にブロックチェーンが含まれていること」(本件発明2),「前記第1のサーバーが,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行すること」(本件発明5),「前記第1のサーバーが,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行し,前記多重署名モデルは,少なくとも所定数の参加者鍵が提供された場合に,鋳造することを承認し,前記第1のサーバーは,前記承認に基づいて新たに鋳造された奨励単価トークンを同報送信する命令をさらに実行すること」(本件発明6),「前記イベントの種類が取引型であること」(本件発明7),「前記イベントの種類が非取引型であること」(本件発明8),「前記奨励イベントデータが,商用プラットフォームから受信されること」(本件発明10),「前記第1のサーバーは,多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令をさらに実行すること」(本件発明17)という技術的事項を追加したものである。
よって,上記に示した理由と同様の理由により,本件発明2,5?8,10及び17は,上記引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)特許法第29条第2項のまとめ
以上のとおり,本件発明1?2,5?8,10及び17は,引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 特許法第36条第6項第2号について
上記訂正事項2により,請求項3及び4は削除された。このため,当審で通知した特許法第36条第6項第2項の取消理由は存在しない。

ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)請求項1,2,7,8,10に対する新規性について
申立人は,請求項1,2,7,8,10に係る発明と,甲第1号証(引用文献1)に記載された発明との間に差異はない旨主張する。
しかしながら,上記ア(イ)「さ」のとおり,独立形式請求項である請求項1に係る発明と,引用発明1との間には相違点があり,請求項2,7,8,10は,請求項1を引用する引用形式請求項であるため,請求項1に係る発明と,引用発明1との間の相違点と同じ相違点が存在する。
よって,申立人の主張を採用することはできない。

(イ)請求項2に対する記載不備(明確性)について
申立人は,請求項2について,「ブロックチェーン」との用語は,特許発明の技術的範囲を確定するための請求項に用いる用語としては不適切である旨主張する。
しかしながら,「ブロックチェーン」は,甲第2号証によって初めて提唱された技術であることは当業者に知られており,本件発明のブロックチェーンは,甲第2号証のものとは異なるものでないことは明らかであるから,本件発明においても,「ブロックチェーン」は甲第2号証に記載された技術的事項の範囲内であることは明らかである。
よって,申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)請求項17に対する記載不備(明確性)について
申立人は,請求項17に係る発明と請求項5に係る発明は実質的に同一である点で記載不備がある旨主張する。
しかしながら,特許法第36条第5項では「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない」と規定されていることから,申立人の当該主張は失当である。


5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1?2,5?8,10及び17に係る特許を取り消すことはできない。
また,請求項3及び4に係る特許は,上記のとおり,訂正により削除された。これにより,申立人による特許異議の申立てについて,請求項3及び4に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置と、
奨励プロトコルプラットフォームをホストする第1のサーバーと、
前記第1のサーバーと通信し、分散型台帳をホストする少なくとも1つの第2のサーバーと、
を有する奨励プロトコルネットワークを備え、
前記第1のサーバーは、
前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に関連する奨励プロトコルネットワーク参加者のイベントに関連付けされた奨励イベントデータを受信し、
前記奨励イベントデータおよび少なくとも1つの奨励プロトコルシステム規則に基づいて、奨励単価の取引記録を作成し、
前記奨励単価の取引記録を、前記分散型台帳に取り込ませるために前記分散型台帳に同報送信し、
作成された前記奨励単価の取引記録に基づいて奨励単価の価値を計算し、
前記奨励単価の価値を前記少なくとも1つの奨励プロトコルネットワーク参加者の計算装置に分配する、
ような命令を実行し、
前記奨励プロトコルネットワーク参加者に対する前記奨励単価の価値の分配が、前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットに対するものであることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記分散型台帳にブロックチェーンが含まれていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記第1のサーバーが、多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のサーバーが、多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令を実行し、前記多重署名モデルは、少なくとも所定数の参加者鍵が提供された場合に、鋳造することを承認し、前記第1のサーバーは、前記承認に基づいて新たに鋳造された奨励単価トークンを同報送信する命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記イベントの種類が取引型であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記イベントの種類が非取引型であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記奨励イベントデータが、前記奨励プロトコルネットワーク参加者のデジタルウォレットから受信されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記奨励イベントデータが、商用プラットフォームから受信されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記第1のサーバーは、前記奨励単価の価値に関連付けられたブランド化された価値を定めている命令をさらに実行し、前記奨励単価の価値が、限られた一部の参加者に利用可能となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記奨励プロトコルネットワーク参加者を第1の奨励プロトコルネットワーク参加者とし、前記奨励単価の価値を第1の奨励単価の価値としたとき、前記第1のサーバーは、
第2の奨励プロトコルネットワーク参加者から通貨を受け取り、
前記通貨を第2の奨励単価の価値に変換する、
ような命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記奨励プロトコルネットワーク参加者を第1の奨励プロトコルネットワーク参加者としたとき、前記第1のサーバーは、
第2の奨励プロトコルネットワーク参加者から第1型の奨励単価の価値を受信し、
前記第1型の奨励単価の価値を第2型の奨励単価の価値に交換する、
ような命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1のサーバーは、非参加者に関連付けられた非参加者の計算装置にリンクを送信する命令をさらに実行し、前記非参加者の計算装置によりリンクが実行されると、非参加者に対する参加者アカウントが動的に作成され、前記非参加者の計算装置にデジタルウォレットがダウンロードされ、ダウンロードされた前記デジタルウォレットが、動的に作成された前記参加者アカウントに関連付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1のサーバーは、前記奨励プロトコルネットワーク参加者の生体フィードバック装置から生体データを受信するという命令をさらに実行し、前記奨励単価の取引記録の作成が前記生体データにさらに基づくものであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1のサーバーは、多重署名モデルを用いて奨励単価トークンを鋳造するという命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1のサーバーは、複数の奨励単価トークンを鋳造し、前記複数の奨励単価トークンの額または種類のうち少なくとも一方を変更することで、積層化された奨励データを有する奨励単価トークンを生成する、という命令をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-02 
出願番号 特願2018-199278(P2018-199278)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G06Q)
P 1 651・ 121- YAA (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大野 朋也  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 吉田 誠
松田 直也
登録日 2020-03-02 
登録番号 特許第6669368号(P6669368)
権利者 ロイヤル ホールディングス インコーポレイテッド
発明の名称 取引型および非取引型の商業を奨励する分散型台帳プロトコル  
代理人 牛木 護  
代理人 特許業務法人牛木国際特許事務所  
代理人 高橋 知之  
代理人 牛木 護  
代理人 高橋 知之  
代理人 特許業務法人牛木国際特許事務所  

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