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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D06C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06C |
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管理番号 | 1379797 |
異議申立番号 | 異議2020-700775 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-08 |
確定日 | 2021-09-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6682705号発明「抗ピリング布地及びその製法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6682705号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6682705号の請求項1、3?5、7、8に係る特許を維持する。 特許第6682705号の請求項2及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6682705号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成30年8月1日(優先権主張平成29年8月7日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年3月27日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和2年4月15日発行)がされ、その後、その特許について、令和2年10月8日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和3年1月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年3月31日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求について、令和3年5月11日に申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6682705号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない抗ピリング布地であって、該布地の少なくとも片側表面に、該短繊維端部の溶融玉と、該短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする前記抗ピリング布地。但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。」と記載されているのを、 「ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない抗ピリング布地であって、該布地の少なくとも片側表面に、該短繊維端部の溶融玉と、該短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする前記抗ピリング布地。但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項3?5、7、8も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「織編物である、請求項1又は2に記載の抗ピリング布地。」と記載されているのを、「織編物である、請求項1に記載の抗ピリング布地。」に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に 「以下の工程: 原糸として熱可塑性合成繊維の短繊維を含む紡績糸を用いて、該短繊維の毛羽を有する布地を製織又は編成又は作製する工程; 得られた布地の少なくとも片側表面を毛焼きして該短繊維端部に溶融玉を形成する工程;及び 得られた布地の片側表面に形成された該短繊維の毛羽先端部の溶融玉を研磨により擦過して研磨痕を形成する工程; を含む、請求項1に記載の抗ピリング布地の製造方法。」と記載されているのを、 「以下の工程: 原糸として熱可塑性合成繊維の短繊維を含む紡績糸を用いて、該短繊維の毛羽を有する布地を製織又は編成又は作製する工程; 得られた布地の少なくとも片側表面を毛焼きして該短繊維端部に溶融玉を形成する工程;及び 得られた布地の片側表面に形成された該短繊維の毛羽先端部の溶融玉を、ベルト状の研磨紙を使用したベルトサンダー研磨機を用いた、該布地を該研磨紙に押し当てる強さを調節しながらの研磨により、擦過して研磨痕を形成する工程; を含む、請求項1に記載の抗ピリング布地の製造方法。」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項7、8も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「前記抗ピリング布地が織編物である、請求項5又は6に記載の方法。」と記載されているのを、「前記抗ピリング布地が織編物である、請求項5に記載の方法。」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。) 2 訂正の適否 (1)一群の請求項について 訂正前の請求項2?8は、訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 (2)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1の「熱可塑性合成繊維の短繊維」について、素材を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0023】に「本明細書中、用語「熱可塑性合成繊維」とは、ガス毛焼き等により溶融し溶融玉が形成されるものである限り、特に制限されないが、化学的に合成された高分子からできた化学繊維、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等の合成繊維が挙げられる。」と記載されており、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。 さらに、訂正事項1は、上記のように、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (3)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (4)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、訂正事項2により請求項2が削除されることに伴い、請求項3が引用する請求項の整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (5)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項5に記載されていた「研磨」を、「ベルト状の研磨紙を使用したベルトサンダー研磨機を用いた、該布地を該研磨紙に押し当てる強さを調整しながらの研磨」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書の段落【0032】に「研磨機としてはロールへ研磨剤を付与したロール研磨機、ロールへ研磨紙を巻きつけたロール研磨機、ベルト状の研磨紙を使用したベルトサンダー研磨機を使用することができる。」と記載されており、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。 さらに、訂正事項4は、上記のように、訂正前の請求項5の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (6)訂正事項5について 訂正事項5は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (7)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項7が請求項5又は6を引用するものであるところ、訂正事項5により請求項6が削除されることに伴い、請求項7が引用する請求項の整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 3 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1、3?5、7、8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、それらを「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5、7、8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない抗ピリング布地であって、該布地の少なくとも片側表面に、該短繊維端部の溶融玉と、該短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする前記抗ピリング布地。但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 織編物である、請求項1に記載の抗ピリング布地。 【請求項4】 JIS L 1930 C4M法(タンブル使用)に従う洗濯10回、及び30回後の、JIS L 1076 A法(ICI形試験機を用いる方法)に従う抗ピリング等級が、いずれも3等級以上である、請求項3に記載の抗ピリング布地。 【請求項5】 以下の工程: 原糸として熱可塑性合成繊維の短繊維を含む紡績糸を用いて、該短繊維の毛羽を有する布地を製織又は編成又は作製する工程; 得られた布地の少なくとも片側表面を毛焼きして該短繊維端部に溶融玉を形成する工程;及び 得られた布地の片側表面に形成された該短繊維の毛羽先端部の溶融玉を、ベルト状の研磨紙を使用したベルトサンダー研磨機を用いた、該布地を該研磨紙に押し当てる強さを調節しながらの研磨により、擦過して研磨痕を形成する工程; を含む、請求項1に記載の抗ピリング布地の製造方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】 前記抗ピリング布地が織編物である、請求項5に記載の方法。 【請求項8】 前記抗ピリング布地のJIS L 1930 C4M法(タンブル使用)に従う洗濯10回、及び30回後の、JIS L 1076 A法(ICI形試験機を用いる方法)に従う抗ピリング等級が、いずれも3等級以上である、請求項7に記載の方法。」 第4 当審の判断 1 取消理由の概要 (1)理由1 本件発明1、3、5、7は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)理由2 本件発明1、3?5、7、8は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)引用刊行物 甲1:中国特許出願公開第104480612号明細書 2 甲1の記載事項、甲1に記載された発明 (1)甲1の記載事項(以下、該当箇所の訳文を記載する。) ア「【特許請求の範囲】 【請求項1】 経糸は32番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、緯糸は32番手から20番手の綿とアクリルのプライヤーン、組織は2/2ツイルであり、密度は64×54本/inから100×68本/in。アクリルは、アクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成されることを特徴とするウール調生地。 【請求項2】 綿70%アクリル30%であることを特徴とする、請求項1に記載のウール調生地。 【請求項3】 製造方法は糸染→糊付→製織→後加工であり、後加工は毛焼き→糊抜き→中間セット→両面研磨→セット→予縮する工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウール調生地。」 イ「【発明の属する技術分野】 【0001】 本発明は紡績技術分野に係り、とりわけウール様生地およびその製造プロセスを開示している。 【従来技術】 【0002】 目下、ウール様生地として一般的なアクリル、ピュアコットンの混紡糸が比較的多く使用されている。加工後の生地は、本発明が開示するウール様生地に比べて保温性の面で劣っているほか、静電気が発生しやすいという欠点を有している。 【発明の概要】 【0003】 本発明は、前記の問題点を解決するために、ふんわりとした感触がより強く、手触りがより柔らかく、より優れた保温性を有し、かつ静電防止効果が著しく向上したウール様生地およびその製造プロセスを提供することを目的とする。」 ウ「【0011】 両面研磨工程:圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minである。」 (2)甲1に記載された発明 ア 上記記載事項からみて、甲1には、「ウール調生地」に係る、次の甲1発明1が記載されている。 「経糸は32番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、緯糸は32番手から20番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、アクリルはアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成され、組織は2/2ツイル、密度は64×54本/inから100×68本/inからなるウール調生地であって、糸染、糊付、製織の後、1)毛焼き、2)糊抜き、3)中間セット、4)圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minの両面研磨、5)セット、6)予縮の順に後加工して得た、ウール調生地。」 イ また、甲1には、「ウール調生地を製造する方法」に係る、次の甲1発明2も記載されている。 「経糸は32番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、緯糸は32番手から20番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、アクリルはアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成され、組織は2/2ツイル、密度は64×54本/inから100×68本/inからなるウール調生地を製造する方法であって、糸染、糊付、製織の後、1)毛焼き、2)糊抜き、3)中間セット、4)圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minの両面研磨、5)セット、6)予縮の順に後加工する、ウール調生地を製造する方法。」 3 本件発明1について (1)対比 ア 本件発明1と甲1発明1を対比すると、本件発明1の「抗ピリング布地」と、甲1発明1の「ウール調生地」とは、「布地」という限りで一致する。 また、本件発明1の「ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない」ことと、甲1発明1の「経糸は32番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、緯糸は32番手から20番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、アクリルはアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成され」たものとは、「熱可塑性合成繊維を含む糸」という限りにおいて一致する。 イ そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、「熱可塑性合成繊維を含む糸を用いた布地」で一致し、次の相違点1、2で相違する。 《相違点1》 熱可塑性合成繊維を含む糸について、本件発明1が「ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない」のに対し、甲1発明1は「経糸は32番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、緯糸は32番手から20番手の綿とアクリルを含むプライヤーン、アクリルはアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成され」たものである点。 《相違点2》 本件発明1が、布地の少なくとも片側表面に、短繊維端部の溶融玉と、短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする抗ピリング布地(但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。)であるのに対し、甲1発明1は、「毛焼き」や「圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minの両面研磨」を布地に施すものの、短繊維端部の溶融玉と、短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有し、抗ピリング性を備える布地であるか不明である点。 ウ 相違点1について検討する。 甲1発明1は、熱可塑性合成繊維として「アクリル」を含むものであるところ、本件発明1は「ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維」であり、アクリルを含まないから、上記相違点1は実質的なものである。 また、この相違点1に関し、甲1発明1の「アクリルはアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成され」るもので、これにより、「より優れた保温性を有し、かつ制電防止効果が著しく向上」(甲1の【0003】)させたものであるから、アクリルから、本件発明1に特定される繊維に換える動機付けはない。 よって、本件発明1の相違点1に係る構成は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 相違点2について検討する。 甲1発明1の「ウール調生地」は、「毛焼き」されるものではあるが、甲1には、これにより「ウール調生地」の表面に、短繊維端部の溶融玉が形成されるとは記載されていないし、甲1発明1のアクリル鞘層と発熱微粒子芯層で構成されるアクリルを含むプライヤーンが、毛焼きにより溶融玉となることを示す証拠も提出されていない。 さらに、甲1発明1の「ウール調生地」は、「圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minの両面研磨」が施されるが、その結果、「ウール調生地」の表面に溶融玉の研磨痕を有することは記載されていないし、示唆もされていない。 そして、甲1には、「毛焼き」や「圧力6kg、35m/min、マングル速度460r/minの両面研磨」が施された「ウール調生地」が、抗ピリング性を備えることも、何ら記載されていない。 そうすると、甲1発明1の「ウール調生地」は、「布地の少なくとも片側表面に、短繊維端部の溶融玉と、短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする抗ピリング布地」とはいえず、上記相違点2は実質的なものである。 また、甲1に抗ピリング性について記載がない以上、甲1発明1において、布地の少なくとも片側表面に、短繊維端部の溶融玉と、短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする抗ピリング布地(但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。)の構成を備えようとする動機付けがなく、本件発明1の相違点2に係る構成は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 オ よって、上記相違点1、2は実質的なものであるから、本件発明1は甲1発明1ではない。 また、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 本件発明3?5、7、8について (1)本件発明3、4について 本件発明3、4は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記3で述べたように、本件発明1は甲1発明1ではなく、また、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、4も、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない (2)本件発明5について 本件発明5と甲1発明2とを対比すると、少なくとも、上記相違点1、2で相違する。 そして、上記3で述べた理由と同様の理由で、相違点1,2はいずれも実質的なものであり、また、本件発明5の相違点1、2に係る構成は、甲1発明1の製造方法の発明である甲1発明2に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 よって、本件発明5は甲1発明2ではなく、また、本件発明5は、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明7、8について 本件発明7、8は、本件発明5の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明5は甲1発明2ではなく、また、本件発明5は、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明7、8も、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 5 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第17条の2第3項に係る理由 ア 申立人は、特許異議申立書(20頁)において、令和1年12月13日の手続補正で追加された構成要件1C「但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。」との事項について、「本件特許の上記補正前の明細書等には、除くクレームで除いた布帛(布帛A)をも含む態様のみが開示されている(布帛が布帛Aを含まないとすることは導き出せない)。」とし、特許・実用新案審査基準において認められるような「除くクレーム」に関する要件を具備しておらず、新規事項の追加に該当する旨主張する。 イ しかし、本件特許の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、本件発明の「抗ピル性合成繊維布帛」が「繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛」のみであるとは記載されておらず、令和1年12月13日の手続補正は、令和1年10月28日の新規性に係る拒絶理由に引用された特開平1-139841号公報に記載された発明との重なりのみを除く補正であるから、特許・実用新案審査基準の「除くクレーム」に関する要件に適合する。 よって、申立人の特許法第17条の2第3項に係る上記主張は採用できない。 (2)特許法第36条第6項第2号に係る理由 ア 申立人は、特許異議申立書(21頁)において、「「研磨痕」は、物としてどのような範囲特有の物性・構造を有するのか不明であるし、その他の物と比して物としてどのように区別するのか不明である」旨主張する。 イ しかし、本件発明1には「短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕」と記載され、溶融玉を研磨すれば、玉状の部分が離脱して痕になることは技術常識であるから、「研磨痕」との記載は明確である。 ウ よって、申立人の特許法第36条第6項第2号に係る上記主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、3?5、7、8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、3?5、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項2、6に係る特許は削除されたため、請求項2、6に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系、及びポリウレタン系からなる群から選ばれる熱可塑性合成繊維の短繊維を含むが長繊維を含まない抗ピリング布地であって、該布地の少なくとも片側表面に、該短繊維端部の溶融玉と、該短繊維の毛羽先端部の溶融玉の研磨痕とを有することを特徴とする前記抗ピリング布地。但し、繊維強度が4g/d以下である合成繊維布帛の少なくとも表面を構成する該合成繊維が太さむらを有することを特徴とする抗ピル性合成繊維布帛を除く。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 織編物である、請求項1に記載の抗ピリング布地。 【請求項4】 JIS L 1930 C4M法(タンブル使用)に従う洗濯10回、及び30回後の、JIS L 1076 A法(ICI形試験機を用いる方法)に従う抗ピリング等級が、いずれも3等級以上である、請求項3に記載の抗ピリング布地。 【請求項5】 以下の工程: 原糸として熱可塑性合成繊維の短繊維を含む紡績糸を用いて、該短繊維の毛羽を有する布地を製織又は編成又は作製する工程; 得られた布地の少なくとも片側表面を毛焼きして該短繊維端部に溶融玉を形成する工程;及び 得られた布地の片側表面に形成された該短繊維の毛羽先端部の溶融玉を、ベルト状の研磨紙を使用したベルトサンダー研磨機を用いた、該布地を該研磨紙に押し当てる強さを調節しながらの研磨により、擦過して研磨痕を形成する工程; を含む、請求項1に記載の抗ピリング布地の製造方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】 前記抗ピリング布地が織編物である、請求項5に記載の方法。 【請求項8】 前記抗ピリング布地のJIS L 1930 C4M法(タンブル使用)に従う洗濯10回、及び30回後の、JIS L 1076 A法(ICI形試験機を用いる方法)に従う抗ピリング等級が、いずれも3等級以上である、請求項7に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-09-14 |
出願番号 | 特願2019-535143(P2019-535143) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D06C)
P 1 651・ 113- YAA (D06C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小石 真弓 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
矢澤 周一郎 井上 茂夫 |
登録日 | 2020-03-27 |
登録番号 | 特許第6682705号(P6682705) |
権利者 | 興和株式会社 |
発明の名称 | 抗ピリング布地及びその製法 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 武居 良太郎 |
代理人 | 池田 達則 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 中島 勝 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 武居 良太郎 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 池田 達則 |
代理人 | 中島 勝 |