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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
管理番号 1379856
異議申立番号 異議2021-700587  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-22 
確定日 2021-10-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6804928号発明「ビール様発泡性飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6804928号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6804928号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年10月19日の出願であって、令和2年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同年12月23日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和3年6月22日に山内 慶子(以下「特許異議申立人1」という。)により、同日に千野 肇(以下「特許異議申立人2」という。)により、同日に田中 眞喜子(以下「特許異議申立人3」という。)により、同年同月23日に石久保 孝人(以下「特許異議申立人4」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものである(以下では特許異議申立人1?4をあわせて、「特許異議申立人」ということがある。)。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
前記発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理工程と、
を有し、
前記仕込工程以降、前記吸着剤処理工程前の溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行い、
前記吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり、
前記吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上であることを特徴とする、ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項2】
前記吸着剤が、活性炭である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項3】
前記吸着剤が、平均細孔径0.5nm以下の活性炭である、請求項1又は2に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項4】
前記発酵原料が、麦芽を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項5】
前記発酵原料に対する麦芽の比率が50%以上である、請求項4に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。」

第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
1 特許異議申立人1が申し立てた理由の概要
[理由1-1]本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1?10号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由1-2]本件発明1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由1-3]本件発明1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由1-2の具体的な理由の概要は次のとおりである。
吸着剤の種類や性質によって、吸着できる物質や吸着特性は異なるから、活性炭のみの実施例しか記載されていない本件明細書の記載に基づき、活性炭以外の吸着剤を用いた場合に、吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上であって、最終的にプリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を製造できるとは全くいえない。
したがって、実施例1のサンプルDの記載およびその他の発明の詳細な説明の記載に基づいて、プリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を製造できると当業者は理解できるものとはいえず、本件発明の課題を解決し得ると認識できない。

理由1-3の具体的な理由の概要は次のとおりである。
どのようなプリンヌクレオシダーゼをどの程度添加すれば、本件発明で特定されるアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率の範囲にアデニンとグアニンを十分に減らせることができるかを理解できない。また、発酵液に対してどのような種類の吸着剤をどの程度の範囲で添加すれば、本件発明で特定されるアデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率の範囲でキサンチンを選択的に吸着できるのかも理解できない。
したがって、当業者が発明の詳細な説明および技術常識に基づいて本件発明を実施しようとしたときに、当業者に通常期待し得る程度を越える過度の試行錯誤を課すものである。

特許異議申立人1は証拠方法として以下の証拠を提示している。
甲第1号証:特開2012-125205号公報
甲第2号証:特開平10-57063号公報
甲第3号証:中国特許出願公開第1743444号明細書(抄訳添付)
甲第4号証:中国特許出願公開第101475888号明細書(抄訳添付)
甲第5号証:中国特許出願公開第101948719号明細書(抄訳添付)
甲第6号証:特開2004-275091号公報
甲第7号証:特開2004-321004号公報
甲第8号証:特開2005-187405号公報
甲第9号証:特開2013-106581号公報
甲第10号証:国際公開第96/25483号
甲第11号証:化学と教育、(1999)、47巻、9号、pp.588?591
甲第12号証:日衛誌(Jap.J.Hyg.)、(1978)、第33巻、第3号、pp.512?520
甲第13号証:三澤 忠則編、増補・吸着 工場操作シリーズ No.7、株式会社化学工業社発行、昭和59年7月25日増補、pp.87?90
甲第14号証:生活衛生、(1997)、Vol.41、No.5、pp.161?173
(以下順に「甲1-1」?「甲1-14」ということがある。)

2 特許異議申立人2が申し立てた理由の概要
[理由2-1]本件発明1、4?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1、4?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2-2]本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1?4号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由2-1の具体的な理由の概要は次のとおりである。
実施例に記載された活性炭以外のプリン体を吸着除去可能な吸着剤を用いた本件発明1のすべてが、本件発明の課題を解決することができるのか不明であり、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張、または一般化できるとはいえない。
本件発明4、5についても同様である。

特許異議申立人2は証拠方法として以下の証拠を提示している。
甲第1号証:特開2012-125205号公報
甲第2号証:国際公開第96/25483号
甲第3号証:特開2003-169658号公報
甲第4号証:特開2015-112090号公報
(以下順に「甲2-1」?「甲2-4」ということがある。)

3 特許異議申立人3が申し立てた理由の概要
[理由3-1]本件発明1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由3-2]本件発明1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由3-3]本件発明1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由3-4]本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1?6号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由3-1の具体的な理由の概要は次のとおりである。
吸着剤の吸着特性を特定するための発酵液の組成が特定されていないため、同じ吸着剤であっても発酵液の組成次第で(発酵液の製造条件次第で)本件発明1の吸着剤の要件を満たす場合と満たさない場合が考えられ、本件発明1の吸着剤処理工程における吸着剤として、如何なる吸着剤を用いればよいのかを理解することができないから、本件発明1は不明確であり第三者に不測の不利益を与えるおそれがある。
特に、甲第1号証や甲第2号証では、キサンチンが相当量存在し且つアデニンとグアニンの総含有量が極めて少ない発酵液が開示されており、このような発酵液を用いて吸着特性を測定した場合には、キサンチンを吸着する一方でアデニンやグアニンについてはほとんど吸着し得ないのであるから、プリン塩基を吸着し得る吸着剤であれば如何なる吸着剤であっても「アデニンの吸着最とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率」がほぼ1となる筈であり、所望の課題を解決するために如何なる吸着剤を用いればよいのか全く理解できない。
従って、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3-2の具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件明細書では、市販のビール様発泡飲料を用いて吸着特性を測定しているが、測定に供された市販のビール様発泡飲料についての詳細は記載されておらず、本件特許発明1で規定する「アデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上」の発酵液を用いて吸着特性を特定した吸着剤を用いたか否かが不明である。
また、所望の効果があることを具体的に示した吸着剤は、平均細孔径:0.2nmの活性炭製品Aのみであり、これ以外の吸着剤を用いて課題が解決できたことは示されていない。

理由3-3の具体的な理由の概要は次のとおりである。
吸着特性試験に係る発酵液の組成が変われば吸着剤の吸着特性試験の結果も変化することから、製造条件が変わる度に、同じ吸着剤であっても所望の吸着特性を満たすか否かを逐一測定して確認する必要があり、過度の試行錯誤が必要であるといえる。
また、本件明細書では特定の活性炭が好ましいとされているが、活性炭とそれ以外の吸着剤(ゼオライト、モンモリロナイト、合成樹脂等)の選択原理は全く異なるものであるから、活性炭以外の吸着剤を用いる場合には、種々の吸着剤の中から「アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着呈の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上」という特異な吸着特性を満たすか否かを逐一測定して確認する必要があり、過度の試行錯誤が必要であるといえる。従って、特許請求の範囲の全体に渡って当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

特許異議申立人3は証拠方法として以下の証拠を提示している。
甲第1号証:再公表特許第96/25483号
甲第2号証:特開2012-125205号公報
甲第3号証:財団法人日本醸造協会編、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会発行、平成11年12月、pp.198?199
甲第4号証:特開2003-169658号公報
甲第5号証:Can.J.Biochem.、(1977)、Vol.55、pp.935?941(抄訳付き)
甲第6号証:特開平10-57063号公報
甲第7号証:三澤 忠則編、増補・吸着 工場操作シリーズ No.7、株式会社化学工業社発行、昭和59年7月25日増補、pp.87?90
(以下順に「甲3-1」?「甲3-7」ということがある。)

4 特許異議申立人4が申し立てた理由の概要
[理由4-1]本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1?3号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由4-2]本件発明1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由4-2の具体的な理由の概要は次のとおりである。
吸着剤が新規なものであることを前提として、請求項1の「吸着剤」を当業者が調製することができない。
したがって、物を生産する方法の発明である本件発明1?5において、(i)原材料、(ii)その処理工程および (iii) 生産物のうち (i)原材料が記載されているとはいえず、「その方法により物を生産できる」ように記載されているとはいえない。

特許異議申立人4は証拠方法として以下の証拠を提示している。
甲第1号証:特開2012-125205号公報
甲第2号証:再公表特許第96/25483号
甲第3号証:特開平10-57063号公報
(以下順に「甲4-1」?「甲4-3」ということがある。)

第4 当審の判断
当審は、本件発明1?5に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリン体を多く含む麦芽を原料としているにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を製造する方法、及び当該方法により得られたビール様発泡性飲料に関する。
・・・
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-169658号公報
【特許文献2】国際公開第96/25483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法では、ヌクレオシダーゼ等による処理を行っていない従来の製造方法で製造されたビール様発泡性飲料よりはプリン体含有量を抑えることができるものの、プリン体低減効果が不充分であった。
【0007】
本発明は、原料に占める麦芽使用比率が高いにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を製造する方法、当該方法を用いて製造されたビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、単に麦汁等の発酵原料液や発酵液をヌクレオシダーゼ処理しただけでは、プリン体のうちの相当量が酵母に資化されないキサンチンに変換されてしまう結果、ビール様発泡性飲料に対するプリン体低減効果はかなり限定的であること、一方で、活性炭処理によって、プリン体のうちキサンチンが特に強く吸着除去されることを見出し、本発明を完成させた。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明により、プリン体を多く含む麦芽を原料としているにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を提供できる。」

b)「【発明を実施するための形態】
・・・
【0012】
本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法により製造されるビール様発泡性飲料は、酵母による発酵工程を経て製造される発酵ビール様発泡性飲料である。本発明に係るビール様発泡性飲料のアルコール濃度は限定されず、0.5容量%以上のアルコール飲料であってもよく、0.5容量%未満のいわゆるノンアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ノンアルコールビール等が挙げられる。その他、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。
・・・
【0014】
本発明及び本願明細書において、プリン体とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種に加えて、アデニル酸及びグアニル酸のようなプリンヌクレオチドと、アデノシン、グアノシン等のようなプリンヌクレオシドも含まれる。なお、アデニン、グアニン、アデニル酸、及びグアニル酸は酵母資化性プリン体であり、アデノシン、グアノシン、キサンチンは、酵母非資化性プリン体である。ただし、プリン体の定量では、アデニル酸及びアデノシンはアデニンと区別して定量することが困難であり、グアニル酸及びグアノシンはグアニンと区別して定量することが困難である。このため、本願発明及び本願明細書では、「アデニン」には、アデニン塩基とアデニル酸とアデノシンの両方が含まれる。「グアニン」も同様である。発酵原料液や飲料中のプリン体含有量は、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いて検出する方法(「酒類のプリン体の微量分析のご案内」、財団法人日本食品分析センター、インターネット、平成25年1月検索)や、LC-UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)等により測定することができる。
【0015】
特許文献1に記載の方法のように、発酵原料液をプリンヌクレオシダーゼ処理した場合には、発酵原料液中のアデノシン及びグアノシンの含有量を顕著に低下させることができるが、得られた発酵原料液を発酵させても、プリン体総含有量は十分に低下しない。このように、プリンヌクレオシダーゼ処理によるプリン体低減効果が限定的である理由は明らかではないが、糖化処理やその後の発酵の間に、アデニンやグアニンがキサンチンへ変換されているためと推察される。実際に後記実施例に示すように、プリンヌクレオシダーゼ処理だけでは、発酵原料液中のキサンチン含有量はさほど低減されていなかった。酵母非資化性のキサンチンは発酵工程以降でも系外に除去されないため、プリンヌクレオシダーゼ処理のみによっては、最終的に得られるビール様発泡性飲料中のプリン体濃度を充分に低くすることはできなかった。
【0016】
本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法は、発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、前記発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理工程と、を有し、前記仕込工程以降、前記吸着剤処理工程前の溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことを特徴とする。予め発酵前の発酵原料液又は発酵液に対してプリンヌクレオシダーゼを作用させることにより、溶液中のアデノシンやグアノシンを遊離のプリン基に変換し、この遊離プリン基の少なくとも一部を酵母非資化性遊離プリン基であるキサンチンに変換させる。こうしてアデニン、グアニン、キサンチンの総量に対するキサンチンの濃度比率を高めた後、吸着剤処理を行うことによって、プリン体のうち特にキサンチンを優先的に吸着除去することにより、最終的に得られるビール様発泡性飲料中のプリン体濃度を効率よく低減させることができる。
【0017】
プリンヌクレオシダーゼ処理は、吸着剤処理工程の前であればいつ行ってもよく、仕込工程において、糖化処理と同時に行ってもよく、発酵工程において発酵と同時に行ってもよく、発酵工程後の発酵液に対して行ってもよい。プリンヌクレオシダーゼ処理により得られたアデニン及びグアニンを、酵母に資化させることで消費できることから、本発明においては、プリンヌクレオシダーゼ処理を、発酵終了前に行うことが好ましく、発酵工程開始前に行うことがより好ましく、仕込工程における糖化処理と同時に行うことがさらに好ましい。
【0018】
本発明において用いられるプリンヌクレオシダーゼは、微生物由来の酵素であってもよく、動物由来の酵素であってもよく、植物由来の酵素であってもよい。また、天然型の酵素であってもよく、天然型の酵素に人工的に適宜変異等が導入された改変体であってもよい。
【0019】
当該プリンヌクレオシダーゼ処理におけるプリンヌクレオシダーゼの量や反応温度、反応時間等の条件は、充分量のアデノシンやグアノシンをアデニンやグアニンへ変換できる条件であれば特に限定されるものではなく、使用するプリンヌクレオシダーゼの種類や酵素活性の強度等を考慮して適宜調整することができる。例えば、使用するプリンヌクレオシダーゼの量を多くしたり、プリンヌクレオシダーゼ処理の時間を長くすることにより、プリンヌクレオシダーゼ処理後の溶液中のアデノシンとグアノシンの含有量をより低下させることができる。なお、本発明におけるヌクレオシダーゼの1Uは、1ppmのグアニンをグアノシンから遊離させるのに必要な酵素量として定義する。例えば、100U/kggrist(穀物原料1kg当たり100U)以上、好ましくは500U/kggrist以上、より好ましくは1000U/kggrist以上のプリンヌクレオシダーゼを用いて、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは60分間以上、よりさらに好ましくは60?120分間保持することにより、効率よくプリンヌクレオシダーゼ処理を行うことができる。また、プリンヌクレオシダーゼ処理の時間を長くすることにより、使用するプリンヌクレオシダーゼの量を少なく抑えることもできる。
【0020】
プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことにより、吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率([キサンチン含有量]/([アデニン含有量]+[グアニン含有量]))を0.5以上に高めることができる。本発明では、このように吸着剤に対して選択的に吸着されるキサンチンの含有量を高めた後に吸着剤処理を行うことにより、使用する吸着剤の量を減らすことができ、結果として香気成分等の有用な成分の吸着除去も抑制できる。
【0021】
本発明において用いられる吸着剤としては、プリン体を吸着除去可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、活性炭、ゼオライト、モンモリロナイト、及び合成樹脂等が挙げられる。本発明において用いられる吸着剤としては、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には例えば、1種類の活性炭のみを用いてもよく、2種類の活性炭を組み合わせて用いてもよく、活性炭とゼオライトを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明において用いられる吸着剤としては、プリン体のうち特にキサンチンに対して優先的に吸着除去し得るものが好ましい。具体的には、プリン体を含む溶液に1000ppmの濃度で添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率[([キサンチンの吸着量]/([アデニンの吸着量]+[グアニンの吸着量]+[キサンチンの吸着量])](以下、「キサンチン吸着比率」ということがある。)が0.6以上出会うことが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明において用いられる吸着剤としては、キサンチン吸着比率に優れていることから、活性炭が好ましく、平均細孔径0.5nm以下の活性炭がより好ましく、平均細孔径0.35nm以下の活性炭がより好ましく、平均細孔径0.3nm以下の活性炭がさらに好ましく、平均細孔径0.25nm以下の活性炭がより好ましく、0.1?0.25nmの活性炭がよりさらに好ましい。なお、活性炭の平均細孔径は、細孔を円筒形と仮定することによって、下記式(1)から求めることができる。
【0024】
式(1): 平均細孔直径 = 4×(細孔容積)/(比表面積)
・・・
【0030】
本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法は、麦芽の使用量が多い場合でも、プリン体総含有量の低いビール様発泡性飲料を製造することができる。このため、本発明の効果がより充分に発揮されることから、本発明においては、発酵原料として少なくとも麦芽を含むものが好ましく、発酵原料の総量に対する麦芽使用量の比率(麦芽使用比率)が50%以上であることが好ましく、67%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。」

c)「【実施例】
【0044】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<プリン体濃度の測定>
・・・
【0048】
<ヌクレオシダーゼ活性の測定>
・・・
【0049】
[実施例1]
プリンヌクレオシダーゼと活性炭処理の有無が、ビール様発泡性飲料中のプリン体に対する影響を調べた。
【0050】
<サンプルA>
麦芽重量1に対して4の比率で原料水を投入し、55℃で120分間、その後65℃で60分間保持し、その後78℃で10分間加温して酵素を失活させるという温度ダイアグラムで糖化工程を行い、麦汁を調製した。得られた麦汁を濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させてビールを製造した。得られたビールのプリン体濃度を測定した。
【0051】
<サンプルB>
サンプルAと同様にしてビールを製造した後、このビールに活性炭製品C(クラレケミカル社製、平均細孔径:0.4nm)を1000ppmとなるように混合した後、濾過処理により活性炭を除去して、最終的なビールを得た。得られたビールのプリン体濃度を測定した。
【0052】
<サンプルC>
麦芽重量1に対して4の比率で原料水を投入し、さらにヌクレオシダーゼ1500U/kggristを投入して、サンプルAと同じ温度ダイアグラムで糖化工程を行った。得られた麦汁を濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させてビールを製造した。得られたビールのプリン体濃度を測定した。
【0053】
<サンプルD>
麦芽重量1に対して4の比率で原料水を投入し、さらにヌクレオシダーゼ1500U/kggristを投入して、サンプルAと同じ温度ダイアグラムで糖化工程を行った。得られた麦汁を濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させてビールを製造した。このビールに活性炭製品A(クラレケミカル社製、平均細孔径:0.2nm)を1000ppmとなるように混合した後、濾過処理により活性炭を除去して、最終的なビールを得た。得られたビールのプリン体濃度を測定した。
【0054】
各プリン体の含有量を測定した測定結果を表1に示す。また、アデニンとグアニンとキサンチンの総含有量を表1の「合計量(ppm)」の欄に、アデニンとグアニンとキサンチンの合計量の、サンプルAを1とした比率を表1の「A比」の欄に、それぞれ示す。
【0055】
【表1】


【0056】
プリンヌクレオシダーゼ未使用のサンプルでは、活性炭処理を行ったサンプルBのプリン体によるアデニンとグアニンとキサンチンの合計量は、活性炭未処理のサンプルAに比べ75%程度であった。また、プリンヌクレオシダーゼを使用しても活性炭処理を行わなかったサンプルCでは、プリン体組成は異なるものの、アデニンとグアニンとキサンチンの合計量はサンプルAとほぼ同程度であり、減少しなかった。これに対して、プリンヌクレオシダーゼを使用し、かつ活性炭処理を行ったサンプルDは、対照となるサンプルAに比べてプリン体合計量は56%であり、サンプルBやサンプルCに比べてプリン体低減効果が顕著に大きかった。これらの結果から、プリンヌクレオシダーゼ処理と活性炭処理を併用することで、効率的にプリン体を低減できることが示唆された。
【0057】
プリンヌクレオシダーゼ処理と活性炭処理の併用により、効率的にプリン体を低減できる理由として、プリンヌクレオシダーゼ未使用のサンプルAとプリンヌクレオシダーゼを使用したサンプルCが異なる点として、プリン体組成の違いが考えられた。具体的には、サンプルCとサンプルDの各プリン体値を比較すると、サンプルDではキサンチン含有量が大幅に低下していることから、サンプルCのように活性炭処理前のキサンチン含有量が多いと活性炭によるプリン体低減効果が高いと考えられた。プリンヌクレオシダーゼ未使用のサンプルAとプリンヌクレオシダーゼを使用したサンプルCのアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率([キサンチン含有量]/([アデニン含有量]+[グアニン含有量]))の測定結果を表2に示す。この値より、活性炭処理前の発酵液中の[キサンチン含有量]/([アデニン含有量]+[グアニン含有量])の濃度比率が0.5以上である場合に、プリン体低減効果が大きくなると推察された。
【0058】
【表2】


【0059】
[実施例2]
市販のビール様発泡飲料に対して、平均細孔径の異なる活性炭製品A?D(いずれも、クラレケミカル社製)又は活性炭製品E(大阪ガスケミカル社製)を1000ppmとなるように混合して活性炭処理した後、プリン体としてアデニンとグアニンとキサンチンの含有量を測定した。測定値をもとに、活性炭処理前のビール様発泡飲料中のアデニン・グアニン・キサンチン値から活性炭処理による減少量を算出し、アデニン吸着量とグアニン吸着量とキサンチン吸着量の合計量を100%とした時のアデニン吸着量とグアニン吸着量とキサンチン吸着量の内訳(%)を算出した。結果を各活性炭製品の平均細孔径と共に表3に示す。
【0060】
【表3】


【0061】
処理時の[キサンチンの吸着量]/([アデニン吸着量]+[グアニン吸着量]+[キサンチン吸着量])の値は、プリン体低減効果が大きかった活性炭製品A、B、及びCでは70%以上と高かったのに対して、プリン体低減効果が小さかった活性炭製品D及びEでは小さかった。活性炭製品A、B、及びCは平均細孔径が0.5nm以下であり、活性炭製品D及びEよりも平均細孔径は0.5nm超であったことから、平均細孔径が0.5nm以下の活性炭が、キサンチン吸着量が高い吸着剤であることがわかった。
【0062】
[実施例3]
市販のビール様発泡性飲料9種類(市販品A?I)について、総プリン体濃度(アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンの合計濃度)及びアミノ酸としてプロリン含有濃度を定量した。プロリン濃度(mg/100mL)に対する総プリン体濃度(ppm)比([総プリン体濃度(ppm)]/[プロリン濃度(mg/100mL)])を算出した結果を表4に示す。ビール様発泡性飲料中のプロリン含有量は、日立社製アミノ酸自動分析装置L-8800A型を用いて測定した。
【0063】
【表4】


【0064】
表4に示すように、市販品のビール様発泡性飲料では、プロリン濃度に対する総プリン体濃度比は1.8以上と高かった。ビール様発泡性飲料では、液量あたりに原料として使用される麦芽の使用量に応じて、総プリン体及びプロリンの含有量が増加することが知られており、使用する原料組成の違いにも影響するが、プロリン濃度に対する総プリン体濃度比は1.5以上の値になることが推察された。
【0065】
一方で、実施例1のサンプルDについても、同様にプロリン濃度に対する総プリン体濃度比を測定したところ、0.6であったことから、本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法により、液量あたりの麦芽使用量に対して、プリン体濃度を低く抑えられることが確認された。」

2 特許異議申立人が提示した甲各号証の記載事項
(1)特許異議申立人1が提示した甲1-1?甲1-14の記載事項
甲1-1:
1-1a)「【請求項1】
大麦、小麦、及び該麦類を発芽させた麦芽から選択される1種又は2種以上の穀物原料と、ホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造方法において、酵母添加後の発酵工程以降の製造工程において、発酵液を、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤により処理することにより、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンを3ppm以下に吸着・除去し、かつ、ホップ由来の香気成分及び酵母由来のエステル成分を吸着せずに保持させたプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤が、活性白土又は酸性白土であることを特徴とする請求項1記載のプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
吸着剤の細孔容積が、0.20?0.50ml/gであることを特徴とする請求項1又は2記載のプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
発酵アルコール飲料中に、ホップ由来の香気成分としてリナロールを1ppb以上、及び、酵母由来のエステル成分として酢酸イソアミルを0.5mg/L以上保持することを特徴とする請求項1?3のいずれか記載のプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
酵母添加後の発酵工程以降の製造工程において、発酵液を発酵液1L当り1?20gの吸着剤処理濃度で、処理温度-2?5℃程度の温度範囲、吸着剤処理時間1時間から7日間の期間で、吸着剤による処理を行うことを特徴とする請求項1?4のいずれか記載のプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
ビール風味発酵アルコール飲料が、ビール、発泡酒、又は、発泡酒に蒸留酒を添加したアルコール飲料であることを特徴とする請求項1?5のいずれか記載のプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法によって製造された、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチン含有量が3ppm以下であり、かつ、ホップ由来の香気成分としてリナロールを1ppb以上、及び、酵母由来のエステル成分として酢酸イソアミルを0.5mg/L以上保持することを特徴とする高香味のプリン塩基化合物低減ビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項8】
キサンチン1ppmあたりのリナロールの量が、10ppb以上、酢酸イソアミル量が1mg/L以上とすることにより、ホップ由来の香気成分と、酵母由来のエステル成分とのバランスを調和させたことを特徴とする請求項7記載の高香味のプリン塩基化合物低減ビール風味発酵アルコール飲料。」

1-1b)「【0002】
プリン体化合物は、肉や、白子、魚卵、肝等のプリン体高含有食品をはじめとして、多くの食品に含有されている。健常人においては、食餌中の遊離プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、及び高分子核酸は、消化器官中で、消化、吸収され、肝臓で尿酸に分解される。高尿酸血症や痛風の原因の一つとしては、プリン体高含有食の摂取が挙げられており、高尿酸血症や痛風の予防手段として、摂取プリン体量を減らすことが挙げられている。近年、食生活の変化等から、成人男子等の血中尿酸値の上昇が問題として取り上げられ、健康管理の面からも、プリン体の過剰摂取を警戒する傾向が見受けられる。
【0003】
ビール等のアルコール飲料にもプリン体は含まれている。アルコール飲料の中でも、ビール、清酒、ワインなどの醸造酒には、ウイスキーや、焼酎などの蒸留酒に比較して、プリン体が多く含まれている。したがって、人によっては通風の原因となることを考慮して、これらのアルコール飲料を敬遠する傾向がある。そこで、消費者のニーズとして、ビール等のアルコール飲料において、飲料中に含まれるプリン体を低減したアルコール飲料の提供を望む声がある。プリン体には、プリン塩基(アデニン・グアニン・キサンチンなど)とプリンヌクレオシド(アデノシン・グアノシンなど)があるが、今までに、ビール等のアルコール飲料に含まれるプリン体を低減する幾つかの方法が開示されている。
【0004】
例えば、特開平10-57063号公報には、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/又はヌクレオシダ?ゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造方法が開示されている。この方法は、ビールの製造において、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドを、酵素を用いてプリン塩基に分解せしめ、該プリン塩基を発酵工程において酵母に資化させ、プリン化合物含量を低減させたビールを得るというものであるが、この方法では、プリンヌクレオシド分解比率(試行例では約64%)と、生成されたプリン塩基と元々麦汁に存在するプリン塩基の合計量の酵母による資化率により、左右されるものでありその低減量には限界がある。
・・・
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
・・・
【特許文献2】特開平10-57063号公報。
・・・」

1-1c)「
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、麦類穀物原料とホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造において、吸着剤により、発酵液中のプリン塩基化合物を有効に吸着・除去し、しかも、ビール風味発酵アルコール飲料の本来の香気成分を吸着せずに有効に保持させ、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を有するビール風味発酵アルコール飲料、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、麦類穀物原料とホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造において、吸着剤処理により、発酵液中の酵母代謝で生成するプリン塩基を有効に吸着・除去するとともに、しかも、ビール風味発酵アルコール飲料の本来の香気成分を吸着せずに有効に保持させ、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を保持できる方法について鋭意検討する中で、特定の粘度鉱物からなる吸着剤を用いて、酵母添加後の発酵工程以降のアルコール飲料の製造工程において処理することにより、プリン塩基を有効に吸着・除去し、しかも、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を保持した発酵アルコール飲料を製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、大麦、小麦、及び該麦類を発芽させた麦芽から選択される1種又は2種以上の穀物原料と、ホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造方法において、酵母添加後の発酵工程以降の製造工程において、発酵液を、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤により処理することにより、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンを3ppm以下に吸着・除去し、かつ、ホップ由来の香気成分及び酵母由来のエステル成分を吸着せずに保持させたプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【0012】
ここで、ビール風味発酵アルコール飲料の製造において生成される香味成分について説明すると、ビール風味発酵アルコール飲料の製造においては、穀物原料に、ホップが添加されるが、ビール飲料の製造時に添加されるホップは、単に苦味を与えるだけでなく、フローラル様・ハーブ様と称される心地よい香気をビール飲料に付与する。また酵母発酵の副産物として生成する数多くのエステル類は、ビール飲料に華やかさで複雑な香味を付与する。従来の活性炭を用いてプリン体低減率を高める技術ではプリン体を除去すると同時に、これらのビール飲料に不可欠な香味成分も除去してしまうため、得られる低プリン体飲料はビール飲料らしい香味バランスを損なったものになる傾向がある。
【0013】
一方、本研究における調査の結果、プリン体を構成する物質の挙動は各々異なることが判明した。プリン塩基は、先行技術文献として挙げた特許文献2に記載されているように、酵母発酵により消費されるが、プリン体代謝経路の末端物質であるキサンチンは酵母発酵により増加するため、最終的なプリン体総量に大きく影響を及ぼすことがわかった。参考として、2010年時点で通年販売されている市販ビール飲料のプリン塩基測定結果を表1に示す。表1に示されるように、市販ビール飲料のプリン塩基では、キサンチンの含量が高く、したがって、酵母代謝によって増加するプリン塩基、とりわけキサンチンをビール飲料中から選択的に除去することができれば、ビール飲料らしい香味バランスを維持したプリン体化合物低減ビール風味飲料が実現できることが見て取れる。
【0014】
【表1】

【0015】
なお、ここで、本発明における言葉の定義について説明すると、本発明において「ビール風味飲料」とは、原料として麦を使用している飲料であり、ビールを含み、更に、発泡酒、発泡酒に蒸留酒を添加したアルコール飲料、低アルコールのビール風味アルコール飲料をいう。「ビール」とは、麦芽、ホップ、水を原料とし、その他米、麦、コーン、スターチ等の澱粉質を原料とするものであり、水を除く麦芽の使用量が、66.7重量%以上のアルコール飲料である。「発泡酒」とは、上記原料のうち水を除く麦芽の使用量が、66.7重量%未満のアルコール飲料である。「発泡酒に蒸留酒を添加したアルコール飲料」とは、上記発泡酒に、焼酎、ウイスキー、ウォッカ、スピリッツなどの蒸留酒を添加したアルコール飲料である。
・・・
【0017】
本発明において、発酵液処理する、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤としては、活性白土又は酸性白土を挙げることができる。該吸着剤の細孔容積は、0.20?0.50ml/gであることが好ましい。該細孔容積の吸着剤を用いることにより、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンを3ppm以下に吸着・除去することができる。また、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンは、1ppm未満に吸着・除去することが好ましい。更に好ましくは0.5ppm未満に吸着・除去することが好ましい。」

1-1d)「【0028】
<麦汁の調製>
麦汁の調製は、常法に従って行うことができる。例えば、(a)麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得る工程、(b)得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸する工程、(c)煮沸した麦汁を冷却する工程を行うことにより得ることができる。工程(a)において、麦芽粉砕物は、大麦、例えば2条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであれば良い。
・・・
【0032】
<酵母による発酵>
アルコールを含むビール風味飲料においては「麦汁の調製」に従い、製造した麦汁に酵母を添加し、アルコールを生成させる。」

1-1e)「【0035】
<モンモリロナイト>
本発明において、吸着剤の活性成分であるモンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイトに分類される粘土鉱物である。シリカ層・アルミナ層・シリカ層の三層から成る結晶構造を有する多孔質構造を有する。一般的な化学成分として、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、CaO、MgO等を含有するものである。
【0036】
<活性白土・酸性白土>
酸性白土は、天然に産出するモンモリロナイト系粘土から得られる白土であり、市販されている酸性白土として、水澤化学社製のミズカエースシリーズ(商品名)、東新化成株式会社のニッカナイトシリーズ(商品名)を挙げることができる。これに対し、活性白土は、上記酸性白土をさらに硫酸などで酸処理したものであり、酸性白土に比べて比表面積が大きく、一般的には吸着能も活性白土に比べて高い傾向にある。市販されている活性白土として、水澤化学社製のガレオンアースシリーズ(商品名)、東新化成株式会社のニッカナイトシリーズ(商品名)を挙げることができる。この活性白土は、アルミナ・鉄・マグネシウムの一部を溶出させることにより、比表面積及び吸着能を高めている特徴を有している。
【0037】
<プリン体化合物>
プリン体と称される物質はプリン塩基とプリンヌクレオシドに大別される。プリンヌクレオシドはプリン塩基にリボース(糖)が結合した物質である。ビールを製造する際に酵母を添加し、増殖・発酵させるが、このときの酵母代謝によりプリン塩基は消費・生成される。プリン塩基の一種であるキサンチンはプリン体代謝の後半に位置し、酵母発酵が進むにつれ増加することから、代謝経路が働く結果、酵母から排出されるものと考えられる。キサンチンの増加は製品ビール中のプリン体増加に直結する。
【0038】
活性白土/酸性白土は、プリン塩基に対して選択的吸着能を有するため、ビール製造中の酵母代謝により増加したキサンチンを除去することができる。一方でホップ香気・エステルといったビール風味飲料の香味に不可欠な成分は吸着しないため、プリン塩基を低減しつつもビール風味を備えた、香料およびホップ抽出物無添加のビール風味飲料を提供することが可能になる。
・・・
【0041】
<ビール風味飲料>本発明によるビール風味飲料は、香料及びホップ抽出物無添加であるにも関わらず、製品中のプリン塩基が抑制されるとともに、ビール風味が備わっている。プリン塩基としては、アデニン、グアニン、キサンチンなどがあるが、本発明では、これらのプリン塩基のうち、特に、キサンチンのビール風味飲料中の濃度を3ppm未満、より望ましくは1ppm未満とすることができる。かかるプリン塩基の吸着・除去により、ビール風味飲料の製品中のプリン塩基を効果的に減少させることができる。」

1-1f)「【実施例1】
【0044】
[ビールの製造]
<(1)麦汁の調製>
仕込槽に麦芽粉砕物300kgと副原料100kgに温水900Lを加えて混合し、50?76℃で糖化を行った。糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁を得た。得られた麦汁を煮沸釜に移し、ホップを5kg加えて、100℃で煮沸した。煮沸した麦汁をワールプール槽に入れて、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去した。この際、煮沸後の麦汁に温水を加え、糖度を13%に調整した。得られた麦汁(2,000L)をプレートクーラーで10℃まで冷却し、1mlあたり100万個に相当する酵母を添加した。発酵タンクにて7日間10℃でアルコールを生成させた後、貯蔵タンクに移して-1℃まで冷却、十分な熟成期間をとった。ここに後述の吸着剤による処理に供した。なお、振動式密度計により測定した20℃における密度を糖度(%)とした。
【0045】
<(2)吸着剤による処理>
(1)のようにして得られたビール1Lをビーカーに採取した。ビーカーには、少量の水で溶解した活性白土(ガレオンアースNV(商標名)、水澤化学社)(細孔容積:0.400ml/g)10g(試験1)あるいは酸性白土(ミズカエース#300(商標名)、水澤化学社)(細孔容積:0.250ml/g)10g(試験2)、活性炭(白鷺(商標名)、日本エンバイロケミカルズ社)(細孔容積:0.779ml/g)10g(試験3)を添加した。添加後、3℃で6時間接触させた。
【0046】
<(3)麦芽飲料の濾過>
(2)のようにして吸着剤処理されたビールをメンブラン濾過機により濾過し、アルコール度数を5%に調整したビールを得た。
【0047】
<(4)品質の確認>
吸着剤処理しないビール(対照)と吸着剤処理した後のビール(試験1、試験2、試験3)のプリン塩基の濃度はHPLC-UV法(逆相クロマトグラフィー)で測定した。ホップ由来の香気成分はC18固相カラムで抽出し、それをGC/MSに供し、測定した。エステル成分はHS-GC法(ヘッドスペースガスクロマトグラフィー)で測定した。吸着剤処理しないビール(対照)は、試験に用いたビールと同じビールに対し吸着剤を加えずに、上記と同等の温度条件にて保管したものを、同様に濾過を行い、製品詰めしたものを評価した。吸着剤処理した後のビールは、活性白土をビール1Lあたり10g使用したビール(試験区1、活性白土)、酸性白土を10g使用したビール(試験区2、酸性白土)、活性炭を10g使用したビール(試験区3、活性炭)を評価した。対照区及び試験区のビールに含まれるプリン塩基の一種、キサンチンの分析値は、表2のとおりであった。
【0048】
【表2】

・・・
【実施例2】
【0053】
・・・
【0056】
<(4)品質の確認>
実施例1と同様の分析を実施した。吸着剤処理しない発泡酒(対照)は、試験に用いた発泡酒と同じ発泡酒に対し吸着剤を加えずに、上記と同等の温度条件にて保管したものを、同様に濾過を行い、製品詰めしたものを評価した。吸着剤処理した後の発泡酒は、活性白土を発泡酒1Lあたり10g使用した発泡酒(試験区1、活性白土)、酸性白土を10g使用した発泡酒(試験区2、酸性白土)、活性炭を10g使用した発泡酒(試験区3、活性炭)を評価した。対照区および試験区の発泡酒に含まれるプリン塩基の一種、キサンチンの分析値は、表5のとおりであった。
【0057】
【表5】

・・・
【実施例3】
【0064】
[発泡酒の製造]
<(1)麦汁の調製>
仕込槽に麦芽粉砕物200kgと副原料100kgに温水700Lを加えて混合し、50?76℃で糖化を行った。糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁を得た。得られた麦汁を煮沸釜に移し、液糖を主体とする副原料150kg(固形分換算)とホップを4kg加えて、100℃で煮沸した。煮沸した麦汁をワールプール槽に入れて、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去した。この際、煮沸後の麦汁に温水を加え、糖度を13%に調整した。得られた麦汁(2,000L)をプレートクーラーで10℃まで冷却し、1mlあたり100万個に相当する酵母を添加した。発酵タンクにて7日間10℃でアルコールを生成させた後、貯蔵タンクに移して-1℃まで冷却、十分な熟成期間をとった。ここに後述の吸着剤による処理に供した。なお、振動式密度計により測定した20℃における密度を糖度(%)とした。
【0065】
<(2)吸着剤による処理>
実施例1と同様の処理を施した。すなわち(1)のようにして得られた発泡酒1Lに少量の水で溶解した活性白土1、5、10、15、20g(試験1)あるいは酸性白土1、5、10、15、20g(試験2)、活性炭1、5、10、15、20g(試験3)を添加した。添加後、3℃で6時間接触させた。
【0066】
<(3)麦芽飲料の濾過>
(2)のようにして吸着剤処理された発泡酒をメンブラン濾過機により濾過し、アルコール度数を5%に調整した発泡酒を得た。
【0067】
<(4)品質の確認>
実施例1と同様の分析を実施した。活性炭の処理濃度を変化させた際の発泡酒中のキサンチン、リナロール、酢酸イソアミルの濃度変化およびキサンチン1ppmあたりのリナロール、酢酸イソアミル量を表9、及び図1、図2、図3に示す。
【0068】
【表9】

【0069】
一方でビール飲料の主要香気成分であるリナロール、酢酸イソアミル、特に酢酸イソアミルは低濃度の活性炭であっても速やかに吸着除去され、ビール風味飲料本来の香味特性が失われている。活性炭の物質に対する吸着優先度は処理濃度の影響を受けず、仮に低濃度で活性炭処理したとしても、キサンチンよりもリナロール、酢酸イソアミルをより多く吸着するため、実施例1、実施例2で示した比率は達成できない。酸性白土及び活性白土での処理は、処理濃度5g/L以上、より好ましくは処理濃度10g/L以上でキサンチンの量が有意に低減したが、リナロール及び酢酸イソアミルの量は全く低減しなかった。ホップ香気・エステル香気を十分に有したビール風味飲料本来の香味を持つ飲料となった。」

甲1-2:
1-2a)「【請求項1】 以下の酵素学的性質を有するプリンヌクレオシダーゼ:
(1)基質特異性;プリン化合物に作用する;
(2)至適pH;基質として、アデノシンについてはpH5.0 ?7.5 、グアノシンについてはpH4.0 ?5.5 、そしてイノシンについてはpH5.5 である;
(3)pH安定性;50℃、60分処理した場合ではpH6.5 ?7.0 において90%以上の残存活性を示し、30℃、30分処理した場合ではpH6.0 ?7.0 において80%以上の残存活性を示す;
(4)至適温度;アデノシン又はイノシンを基質とした場合の至適温度は60℃であり、グアノシンを基質とした場合の至適温度は50℃である;
(5)温度安定性;アデノシンを基質とした場合、pH6.0 、30分処理の場合は40℃まで、pH4.5 、60分処理した場合は30℃まで安定である;
(6)分子量;172000(ゲル濾過クロマトグラフィーによる測定)、43000(サブユニット、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による測定)。
・・・
【請求項9】 請求項1?3のいずれか1項記載の酵素又は蛋白質を麦汁に作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いることを特徴とするビールの製造方法。
【請求項10】 発酵前又は発酵中に、麦汁に請求項1?3のいずれか1項記載の酵素又は蛋白質を添加することを特徴とする請求項9記載の製造方法。」

1-2b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】プリン化合物と呼ばれるものの中には遊離プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、および高分子核酸が含まれる。ビール製造工程中の各プリン化合物の消長を調べると麦汁中にはプリンヌクレオチドおよび高分子核酸は全く含まれず、遊離プリン塩基とプリンヌクレオシドが多く含まれている。発酵中に遊離プリン塩基は酵母によって吸収・代謝されてほぼなくなる。・・・以上の分析結果より、麦汁中のプリンヌクレオシドをリボースと遊離プリン塩基に分解できれば、酵母により遊離プリン塩基が吸収・代謝されるため、ビール中のプリン化合物含量を減らすことが可能である。」

1-2c)「【0040】つまり、通常の酵母は、プリンヌクレオシドを吸収することはできないが、プリン塩基を吸収・代謝することはできる。そこで、本発明においては、麦汁に酵素を使用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解せしめ、ヌクレオシド分解麦汁を製造し、このヌクレオシド分解麦汁を用いることによりビール中のプリン化合物含量を低減することができる。なお、ヌクレオシド分解麦汁は、麦汁中のプリンヌクレオシドの一部または全てが酵素によりプリン塩基に分解されたものであり、このヌクレオシド分解麦汁中のプリンヌクレオシド含量は、添加する酵素の量、反応時間、反応温度等により調節することができるが、好ましくはプリンヌクレオシドの全てがプリン塩基に分解され、プリンヌクレオシドを含有していない麦汁がよい。
【0041】この酵素は(1)麦汁製造過程、(2)麦汁製造後発酵工程前、又は(3)発酵過程において働かせることができる。麦汁製造過程で酵素を働かせるためには、麦汁製造(糖化)開始時又は麦汁製造の間の適当な時点で酵素を添加することができる。発酵工程前に酵素を働かすためには、麦汁製造過程の麦汁に酵素を添加し、発酵開始前に所定時間置けばよいが、この中で最も望ましいのは麦汁製造工程途中の煮沸以前の添加である。なぜならば、煮沸により酵素を失活させることが出来るので、ビール製品中に活性のある酵素を持ち込み品質になんらかの影響を与える可能性がないためである。また、発酵の過程で酵素を働かせるためには、発酵開始時又は発酵中に酵素を添加する。但し、酵素の作用によって生成したプリン塩基は酵母により代謝・消滅させる必要があるから、酵素は発酵開始時、又は発酵期間の前半に添加するのが好ましい。」

1-2d)「【0081】実施例15.ヌクレオシド分解麦汁の製造
図11に麦汁製造工程における仕込釜および仕込槽の時間-温度曲線を示す。また、仕込釜及び仕込槽の原料配合の割合を表6に示す。この製造工程において、仕込槽に熱処理、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等で部分精製したオクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi) のヌクレオシダーゼ、約20,000u(基質:イノシン、反応温度:60℃)(1Uは1分間に1μmol のイノシンを分解する酵素量)を破砕麦芽と共に加えて麦汁製造を行った。酵素を添加して製造した麦汁と酵素を加えずに製造した麦汁中のプリン体分析結果を図12に示す。酵素を添加した麦汁からはプリンヌクレオシドが検出されず、プリン塩基が増加していた。以下この麦汁をヌクレオシド分解麦汁と呼ぶ。
【0082】
・・・
【0083】
実施例16.ヌクレオシド分解麦汁を用いたビール醸造
実施例15で製造したヌクレオシド分解麦汁と通常の麦汁を用いてビール醸造を行った。麦汁2リットルにビール酵母を湿重量で10.5g懸濁し、12℃で8日発酵した。その後4℃で5日間貯酒した。その発酵中のプリン体の消長を図13に示す。アデニンは発酵時間内に全て資化された。発酵液中のグアニンの量は時間と共に減少し、発酵終了時には検出されなくなる。」

1-2e)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図13】図13は、実施例16で製造したヌクレオシド分解麦汁と通常の麦汁を用いた発酵中のプリン体の消長を示す図である。
・・・
【図13】



甲1-3(訳文で示す。):
1-3a)「[54]発明の名称
一種の低プリン体類物質を含むビールの製造方法
[57]要約
一種の低プリン体類物質を含むビールの製造方法であって、ビール製造技術分野に属する。本発明はビール製造プロセスにおける大麦麦芽の使用量を減らし、糖化ポットにおいて核酸類高分子物質を可能な限り沈殿及び分解させ、煮沸及び貯酒プロセス中でヌクレオチドを2回吸着させることを含むプロセスを採用し、その後、高濃度希釈プロセスにより、更にビール中のプリン体類物質の濃度を下げる。本発明に係るビールは、プリン体類物質の含有量が通常のビールのわずか5%-10%、2-5mg/Lに制御され、当該低プリン体ビールの品質は国家標準を満たし、口当たりは普通のビールと同様であり、泡は白く繊細であり、泡保持性は180秒以上と長く持続する。」(1頁)

1-3b)「本発明は、糖化ポットにおいて濃縮膠を用いてプリン体類高分子物質を分解し、分解温度37℃、pH5.2の場合、各種ヌクレアーゼ活性が最も高く、分解時間は40分である。この段階で、麦芽中のタンパク質もプロテアーゼの作用により分解される。更に、本発明は、Caイオンの濃度を増加させるために、糖化ポットにCaCl_(2)を補充するが、一部の核酸及びヌクレオチドはCaイオンと結合し、溶解度が低下し、沈殿が起こる。
本発明は、糖化のために濃縮膠を使用し、核酸類プリン体の分解を継続させるために、糖化温度を70-72℃としている。
本発明は、沸騰終了の10分前に、沸騰した麦汁の質量0.2‰のゼオライトを、吸着剤として加え、専ら高分子プリン体類物質を吸着させている。ゼオライトは、渦巻き状に清澄化する際に麦汁から分離する。
本発明は、麦汁中のビール酵母の比率を減少させ、高活性酵母の比率は麦汁の質量の0.8%であるため、酵母は麦汁中の大部分のプリン体を十分に吸収して代謝することができる。
麦汁中における糖発酵の終了後、直ちに酵母の回収を開始すれば、酵母が自己溶解して、高分子プリン体類物質が再びビールに侵入することを防ぐことができる。酵母回収後、直ちに凝縮した固形物と廃酵母をビールから分離しなければならない。
ジアセチルの還元が終了後、タンク注入を行い、タンク注入時は、遠心分離機を使用してビールから酵母を完全に分離するが、若ビール質量の0.2%の活性炭を加えても良い。活性炭は上澄み酒を濾過する際にビールから分離される。」(7頁表の下3?17行)

甲1-4(訳文で示す。):
1-4a)「)「[54]発明の名称
一種の低プリン体ビール及びその製造方法
[57]要約
本発明は一種の低プリン体ビールに関し、lOOOL当たり麦芽30?45kg、白小麦15?30kg、麦根1?5kg、米36?60kg及び75%シロップ30?45kgから製造される。製造工程における麦芽、米等の原補助材料の添加量を減らし、白小麦、麦根等のその他原料を選択し、その他穀物やシロップ等の補助材料の添加量を増加させ、生物発酵及び濾過吸着等の処理によってプリン体含有量を減少させ、更には製造プロセスを最適化する。醸造されたビールは透き通った明るいボディ、白くて細かい泡、余韻の持続、適度な苦味、優れた香り、柔らかくさわやかな口当たりといった特徴を有する。当該発明により醸造されるビールは、ビールの栄養保健機能を有すると同時にプリン体含有量を通常のビールの約20%程度に低減することで、ビール飲用によって誘発される消費者の痛風リスクを大幅に低減し、消費者の健康に非常に有益である。」(1頁)

1-4b)「具体的実施方式
実施例1: 8°P低プリン体ビールの製造
1) 糖化ポット内に、ミネラル水180L、麦芽30Kg、白小麦18Kg、麦根1.8Kg、活力5万単位/gのプロテアーゼ32g、活力10万単位/gのジアスターゼ28g及び小麦専用酵母30gを投入し、リン酸及び/又は乳酸でpHを5.6に調整し、温度を48℃とし、60分間保温した;
2) 糊化ポット内に、ミネラル水150L及び米37Kgを投人し、活力2万単位/gのa-アミラーゼ24gを投入し、リン酸及び乳酸でpHを5.8に調整し、温度を48℃とし、続いて70℃まで昇温して20分間保温し、沸騰するまで昇温させ、30分間沸騰した;
3) 糊化ポット内の全てのモロミを糖化ポット内に投入し、62℃で75分間糖化し、その後濾過し;次に沸騰済の76?78℃の温水を添加して粕を繰り返し洗浄して制御糖度に達するまで濾過した;濾過後の麦汁に麦汁重量で0.05%の活性炭を添加し、3?5分後、沸騰ポットに投人した;」(6頁3?13行)

甲1-5(訳文で示す。):
1-5a)「)「[54]発明の名称
一種の低プリン体ビール及びその製造方法
[57]要約
本発明は一種の低プリン体ビール及びその製造方法に関する。前記低プリン体ビールは、lOOOL当たりの原料が大麦麦芽32?49Kg、小麦麦芽53?73Kg、カラメル麦芽8?15Kg、コーンスターチシロップ94?136Kgである。本発明は一部の大麦麦芽を小麦麦芽で代替することで完成したビール中のプリン体含有量を低下させるとともに添加剤の比率を高めることによって生じる味の薄さ、泡の低持続性、といった難題を解決するとともに、カラメル麦芽を添加することで、ビールに濃厚な香りと正常な色度を具備させる。その製造方法は、珪藻土を混合した吸着剤を用い、濾過機に対してプリコート及び補助濾過を行い、吸着剤と酒体との接触時間を大幅に減らし、過度の吸着を防止し、ビールの特性を変化させる一方で、完成したビール中のプリン体含有量を低減させる。得られたビール中のプリン体類物質の含有量は10?20mg/Lであり、各理化学的指標の要求を満たす。」(1頁)

1-5b)「[0034] 実施例1: lOOOL 10度の低プリン体ビールの製造
[0035] 1)大麦麦芽33Kg、小麦麦芽63.7Kg及びカラメル麦芽10.7Kgを糖化ポットに投入し、その後、浄水390L、プロテアーゼ(活力は5万単位/mL、用量は上記麦芽の総重量の0.025%)、β-グルカナーゼ(活力は10万単位/mL、用量は上記麦芽の総重量の0.01 %)及びペントサナーゼ(活力は10万単位/ml、用量は上記麦芽の総重量の0.03%)を加え、50℃まで昇温し、25分間保温した;
[0036] 2)65℃まで昇温し、5分保温し、続いて70℃まで昇湿して20分保温し、その後76℃で濾過し、得られた麦汁を25分間煮沸した後に75%のコーンスターチシロップを108Kg加え、引き続き原麦汁濃度が14度になるまで煮沸し;煮沸工程において麦汁重量の0.03%の青島ホップ及び麦汁甫量の0.02%のチェコSAAZホップを加えた;
[0037] 3)煮沸後の麦汁を30分沈殿させた後に9℃まで冷却し、発酵罐内に酸素を充填した;
[0038] 4)煮沸後の麦汁に0.15億酵母/mLの割合で高活性ビール酵母を添加し、昇温し、10℃、0.02MPaの環境で発酵させ、発酵罐内の溶液の糖度が3度に達した際に0.08MPaまで昇圧し、発酵を継続させ、7日後に発酵を停止させ、酵母を排出し、酵母排出後の酒液中の総ジアセチルが0.15mg/L以下になると?1.5℃まで降湿し貯蔵した;
[0039] 4)酒液を熟成させた後にキャンドル式フィルターで第1次濾過し、具体的には:1.2kgの粗珪藻土(50?100μm)、1kgの活性炭(75?100μm)及び脱酸素水を均一に混合した後に第1次プリコートを行い;その後0.8kgの粗珪藻土(50?100μm)、4kgの微細珪藻土(2?50μm)、1kgの活性炭(75?100μm)及び脱酸素水を均一に混合した後に第2次プリコートを行い;連続濾過の際、珪藻土と活性炭の混合物及びシリカゲルを均一に添加し、ここで珪藻土と活性炭の混合物の配合比は:0.4kgの粗珪藻土(50?100μm)、0.4kgの微細珪藻土(2?50μm)及び0.5kgの活性炭(75?100μm)を脱酸素水と均一に混合して得られ;シリカゲルを0.15kg添加した;」(5頁13?30行)

甲1-6:
1-6a)「【0007】本発明の発酵麦芽飲料の製造方法においては、比表面積が1000m^(2)/g以上であり、平均細孔直径が2nm以下である活性炭を用いて、発酵麦芽飲料中のプリン体を除去する。活性炭の比表面積が上記範囲であれば、発酵麦芽飲料中のプリン体を効率よく除去することができる。また、活性炭の平均細孔直径が上記範囲であれば、発酵麦芽飲料の旨味成分等である蛋白質等を過剰に除去することなく、従って発酵麦芽飲料の香味のバランスを保持しつつ、プリン体を除去することができる。特に、本発明では、活性炭の比表面積は、好ましくは1300?2500m^(2)/gであり、より好ましくは1500?1900m^(2)/gである。また、活性炭の平均細孔直径は、好ましくは1.5?1.9nmであり、より好ましくは1.7?1.95nmである。このような活性炭は、LPN36やLPN37として武田薬品工業から入手できる。
ここで、活性炭の比表面積は、例えば窒素ガス吸着等温線からBET式(慶伊富長:吸着、第95?113頁(1967)、共立出版)により計算される。また、平均細孔直径は、細孔を円筒形と仮定することによって、次式から求めることができる。」

甲1-7:
1-7a)「【0009】
本発明の発酵麦芽飲料の製造方法においては、上記麦汁を、通常の発酵工程に供した後、発酵麦芽飲料を活性炭に接触させることによってプリン体を除去する。
本発明の製造方法においては、任意の活性炭を使用することができるが、比表面積が1000m^(2)/g以上であり、平均細孔直径が2nm以下である活性炭が好ましい。活性炭の比表面積が上記範囲であれば、発酵麦芽飲料中のプリン体を効率よく除去することができる。また、活性炭の平均細孔直径が上記範囲であれば、発酵麦芽飲料の色素、苦味物質、香料、酸味料等を過剰に除去することなく、従って活性炭処理を行っていない発酵麦芽飲料と同様の香味等を有する発酵麦芽飲料を製造することができる。特に、本発明では、活性炭の比表面積は、より好ましくは1300?2500m^(2)/gであり、さらに好ましくは1500?1900m^(2)/gである。また、活性炭の平均細孔直径は、より好ましくは1.5?1.9nmであり、さらに好ましくは1.7?1.95nmである。このような活性炭は、LPN36やLPN37として武田薬品工業から入手できる。
ここで、活性炭の比表面積は、例えば窒素ガス吸着等温線からBET式(慶伊富長:吸着、第95?113頁(1967)、共立出版)により計算される。また、平均細孔直径は、細孔を円筒形と仮定することによって、次式から求めることができる。」

甲1-8:
1-8a)「【0016】
本発明で用いられる活性炭の平均細孔径は、0.1nm以上100nm以下であるものが好ましく、より好ましくは0.5nm以上50nm以下、さらに好ましくは1nm以上20nm以下である。この範囲でプリン体の吸着量が特に良好であり、尿酸値抑制効果にも優れる。これは、プリン体が効率良く吸着され、しかも脱着が少ないためと推察している。なお、平均細孔径は、例えば、窒素の吸脱着等温線を測定し、Cranston-Inkley法やMolecular-Probe法、Dollimore-Heal法などにより算出される細孔径分布から求めることができる。」

甲1-9:
1-9a)「【0018】
前記活性炭は、例えば、多孔性であることが好ましい。前記活性炭の平均細孔直径は、例えば、1.5nm未満であるか、または2.3nmを超えることが好ましい。前者の前記平均細孔直径は、例えば、0.8?1.4nmの範囲がより好ましく、0.9?1.2nmの範囲がさらに好ましい。後者の前記平均細孔直径は、例えば、2.5?4.0nmの範囲がより好ましく、2.6?3.6nmの範囲がさらに好ましい。前記平均細孔直径は、前記比表面積および下記細孔容積との関係から、下記式により算出される。
平均細孔直径(nm)=4×10^(3)×細孔容積(mL/g)/比表面積(m^(2)/g)」

甲1-10:
1-10a)「1.麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させることを特徴とするビールの製造方法。
2.麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いて製造することを特徴とするビールの製造方法。
3.前記ヌクレオシド分解麦汁がプリンヌクレオシドを含有していないことを特徴とする請求項2記載の方法。
・・・
6.発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項記載の方法。」(特許請求の範囲)

1-10b)「ヌクレオシド・フォスフォリラーゼ又はヌクレオシダーゼによりプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られるプリンヌクレオシド含量の低減した麦汁を使用することにより、あるいは発酵中にプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解せしめ、プリン塩基を酵母により代謝させることによる、プリン化合物含有量を低減したビールの製造方法。」(要約)

1-10c)「発明の分野
本発明は、プリン化合物の濃度を低減したビールの製造方法に関する。より詳しくは麦汁中のプリンヌクレオシドを酵母が資化することのできるプリン塩基に酵素を作用させて分解することを特徴とするビールの製造法に関する。
・・・
発明の開示
従って、本発明はプリン化合物含量を低減したビールの製造方法を提供するものである。
本発明者らは、麦汁中のプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより、プリン化合物含量を低減したビールを製造しうるとの知見を得、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼまたはヌクレオシダーゼを作用させて、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することによりヌクレオシド分解麦汁を製造し、当該ヌクレオシド分解麦汁を用いて製造することを特徴とするビールの製造方法を提供する。」(1頁3行?2頁最下行)

1-10d)「図面の簡単な説明
図1は、70Lスケールのビール試験醸造でのプリン化合物の消長を示す図で、●はプリンヌクレオシドを、〇はプリン塩基を示す
図2は、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラ一ゼを添加した時の各プリン化合物量を示すグラフである。
図3は、イノシンを基質として、pH5.0で各温度にて10分反応させたときの活性を示す。
図4は、イノシンを基質として、各pHにて70℃で各時間インキュベー卜した後、同量の10mMイノシン溶液を加えて、70℃で10分間反応させたときの活性を示す。
図5は、50mM酢酸ナトリウムバッファー pH5.0中で、70℃で各時間インキュベートした後、同量のlOmMイノシン溶液を加えて、70℃で10分間反応させたときの活性を示す。
図6は、50mM酢酸ナトリウムバッファー pH5.0中で、70℃で各時間インキュベートした後、同量の10mMイノシン溶液を加えて、40℃で10分間反応させたときの活性を示す。
図7は、還元糖の定量によりpH5.0 で、60℃と70℃におけるイノシン、アデノシン、グアノシンに対する基質特異性を示す。
図8は、100℃で各時間インキュベートした後、60℃にてイノシンを基質としたときの活性を示す。
図9は、麦汁製造工程における仕込釜及び仕込槽の時間-温度曲線を示す。
図10は、酵素を添加して製造した麦汁と酵素を加えずに製造した麦汁中のプリン体分析結果を示す。
図11A及び11Bは、実施例4で製造したヌクレオシド分解麦汁と通常の麦汁を用いた発酵中のプリン体の消長を示す。」(3頁4行?4頁4行)

1-10e)「具体的な説明
本発明者らは、ビール中のプリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、プリン塩基及び高分子核酸量を測定し、これらプリン化合物の濃度を低減させたビールの製造法を提供することを目的とし、種々研究した結果、本発明を完成した。プリン塩基とは、プリン(9H-イミダゾ〔4,5-d〕ピリミジン)の種々の部分が置換された誘導体の総称であり、アデニン、グアニン、キサンチンがある。
プリンヌクレオシドとは、プリン塩基と糖の還元基とがN-グリコシド結合した配糖体化合物の総称であり、アデノシン、グアノシン、イノシン等がある。
プリンヌクレオチドとは、プリンヌクレオシドの糖部分がリン酸とエステルをつくっている化合物の総称であり、アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸等がある。
プリン化合物とは、上記プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド等のプリン骨格を含有する化合物の総称である。
本発明者らは、ビール中およびその製造工程中の各プリン化合物量を測定することにより以下の点を明らかにした。
1)各種市販ビール中のプリン化合物は40?100mg/lと変動するが、プリンヌクレオシドがプリン塩基の2?25倍存在する。即ち、ビール中のプリン化合物の大半はプリンヌクレオシドとして存在する。
2)発酵工程中に、麦汁中のプリン塩基は酵母によって吸収・代謝されてほぼなくなる。
以上の分析結果を基に、本発明者らはこの問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、プリン化合物含量を低下せしめるビールの製造法を発明するにいたった。
つまり、通常の酵母は、プリンヌクレオシドを吸収することはできないが、プリン塩基を吸収・代謝することはできる。そこで、本発明においては、麦汁に酵素を使用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解せしめ、ヌクレオシド分解麦汁を製造し、このヌクレオシド分解麦汁を用いることによりビール中のプリン化合物含量を低減することができる。なお、ヌクレオシド分解麦汁は、麦汁中のプリンヌクレオシドの一部または全てが酵素によりプリン塩基に分解されたものであり、このヌクレオシド分解麦汁中のプリンヌクレオシド含量は、添加する酵素の量、反応時間、反応温度等により調節することができるが、好ましくはプリンヌクレオシドの全てがプリン塩基に分解され、プリンヌクレオシドを含有していない麦汁がよい。
この酵素は(1)麦汁製造過程、(2)麦汁製造後発酵工程前、又は(3)発酵過程において働かせることができる。麦汁製造過程で酵素を働かせるためには、麦汁製造(糖化)開始時又は麦汁製造の間の適当な時点で酵素を添加することができる。発酵工程前に酵素を働かすためには、麦汁製造過程の麦汁に酵素を添加し、発酵開始前に所定時間置けばよいが、この中で最も望ましいのは麦汁製造工程途中の煮沸以前の添加である。なぜならば、煮沸により酵素を失活させることが出来るので、ビール製品中に活性のある酵素を持ち込み品質になんらかの影響を与える可能性がないためである。
また、発酵の過程で酵素を働かせるためには、発酵開始時又は発酵中に酵素を添加する。但し、酵素の作用によって生成したプリン塩基は酵母により代謝・消滅させる必要があるから、酵素は発酵開始時、又は発酵期間の前半に添加するのが好ましい。
・・・
このための酵素としては、麦芽由来の酵素でもよく、また他起源の酵素でもよく、例えばヌクレオシド・フォスフォリラーゼ又はヌクレオシダーゼを用いることができる。麦芽以外の酵素源としては、・・・。」(4頁5行?6頁10行)

1-10f)「試験例1. ビール中のプリン化合物の測定
ビール中のプリン化合物をEP-10型高速液体クロマ卜グラフィー(EICOM社製)によって分析した。カラムはGS320-H(7.6 mm D X 250 mm L 、(Asahipak社製))を用い、移動層として、10mMリン酸ナトリウム(pH5.0)、流速は1.0ml/min、温度は30℃で分析した。試料をメンブレンろ過して固形分を除いた後、10μlを注入し、260nmの吸光度でプリン化合物量を定量した。
あらかじめ、基準サンプルとして既知濃度のプリン塩基3種(アデニン、グアニン、キサンチン)とプリンヌクレオシド3種(アデノシン、グアノシン、イノシン)を分析し、各プリン化合物のリテンションタイムとピーク面積を求めておく。実際のサンプル中の各プリン化合物の同定は各ピークのリテンションタイムから、濃度は既知濃度の基準サンプルのピーク面積より求めた検量線から求めた。なお、3種のプリンヌクレオチド(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)は、この分析の条件ではずっと早く溶出されるので、上記6種のプリン化合物の分析を妨害しない。
各種市販ビール7種類及びワイン2種類の分析結果を表1に示した。プリン塩基とプリン塩基量に換算したプリンヌクレオシドの和で示される総プリン量は、ビールの種類によって変動し、40?100mg/lを示した。また、プリン化合物の大半はヌクレオシドで存在していた。
ビールと同じ醸造酒であるワインでは、赤ワインは60mg/lと高いものの、白ワインでは 20mg/lと低い。

なお、ビール中及び麦汁中のプリンヌクレオチドをイオン交換力ラムで分析したところ、プリンヌクレオチドはビール中にも麦汁中にも存在しなかった。また、ビール及び麦汁を酸加水分解して分析しても酸加水分解前とプリン化合物の総量が変わらなかったことから、RNAやDNAなどの高分子核酸類はビール及び麦汁中には存在しないと考えられる。
・・・
実施例1. ヌクレオシド・フォスフォリラーゼによるプリン塩基への分解
エキス濃度12.5%の麦汁に、7unit/ml になるように子牛脾臓由来のヌクレオシド・フォスフォリラーゼ(ベーリンガー社製)を添加、30℃で3時間反応させた。酵素添加の麦汁と、対照として酵素を添加せずに30℃で3時間保持した麦汁について、試験例1に記載の方法でプリン化合物量を測定した。
図2に示すように、酵素を添加した麦汁は、酵素無添加の麦汁と比較して、アデノシン、グアノシン、イノシンのいずれのプリンヌクレオシドも減少し、それに対応してアデニン、グアニン、キサンチンのプリン塩基が増加していた。なお、各プリンヌクレオシドの分解率は約60%であった。
この結果は、子牛脾臓由来のヌクレオシド・フォスフォリラーゼが麦汁中のプリンヌクレオシドの分解に有効であることを示している。試験例2の結果より、プリン塩基は発酵初期の酵母増殖期に酵母によって吸収・代謝されるので、ヌクレオシド・フォスフォリラーゼでプリンヌクレオシドを分解することによって得られたプリン塩基も発酵中に酵母によって吸収・代謝され、本酵素で処理した麦汁を用いてビールを製造すれば、ビール中のプリンヌクレオシド含量を約60%低減することができることを示している。
さらに、試験例2で示したビールは90mg/lのプリンヌクレオシドと10mg/lのプリン塩基を含有しているから、麦汁を本酵素で処理することによりビール中のプリンヌクレオシド含量を約半分にすることができることになる。
・・・
実施例4. ヌクレオシド分解麦汁の製造
図9に麦汁製造工程における仕込釜および仕込槽の時間-温度曲線を示す。また、仕込釜及び仕込槽の原料配合の割合を表3に示す。この製造工程において、仕込槽に熱処理、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィ一等で部分精製したオクロバクトラム・アンスロビ(Ochrobactrum anthropi)のヌクレオシダーゼ、約20,000u(基質:イノシン、反応温度:60℃)を破砕麦芽と共に加えて麦汁製造を行った。酵素を添加して製造した麦汁と酵素を加えずに製造した麦汁中のプリン体分析結果を図10に示す。酵素を添加した麦汁からはプリンヌクレオシドが検出されず、プリン塩基が増加していた。以下この麦汁をヌクレオシド分解麦汁と呼ぶ。

実施例5. ヌクレオシド分解麦汁を用いたビール醸造
実施例4で製造したヌクレオシド分解麦汁と通常の麦汁を用いてビール醸造を行った。麦汁2リットルにビール酵母を湿重量で10.5g 縣濁し、12℃で8 日発酵した。その後4 ℃で5 日間貯酒した。その発酵中のプリン体の消長を図11に示す。アデニンは発酵時間内に全て資化された。発酵液中のグアニンの量は時間と共に減少し、発酵終了時には検出されなくなる。
差し引き約90μM に相当するグアニンが酵母により資化された。従って、麦汁中の計260μM に相当するプリン体が発酵過程で消失する。酵素で処理せずに製造した麦汁を用いて醸造したビールのプリン体は計500μM で、酵素処理した麦汁を用いて醸造したビールのプリン体は計180μM であるので、計320μM プリン体を低減したビールを醸造することが出来た。発酵は酵母増殖、エキスの消費共に通常の麦汁を用いたものとほぼ変わらず、味覚の面でも大きな差は見られなかった。」(11頁下から4行?23頁4行)

1-10g)「

・・・

」(Fig.2、10、11A、11B)

甲1-11:
1-11a)「2 吸着と吸着剤^(1,2))
固体の表面に他の物質が結合して集まる現象を吸着という。吸着を,吸着剤と吸着する物質(吸着質)との間の結合の強さによって,物理吸着と化学吸着に分ける分類法がある。これらの特徴を表1に示す。吸着熱は吸着剤と吸着質との間の結合の強さを示す。
吸着は表面で起こるのだから,吸着剤は一般に単位重量当たりの面積(比表面積)が大きい多孔質である(図1)。この多孔質性は,一般に,沈殿生成時の一次粒子(1?100nm)間の間隙により生じる。固体吸着剤にはいくつかの分類法があるが,ここでは表面の性質により,親水性吸着剤と疎水性吸着剤とに分けるものを紹介する。
シリカゲル,アルミナゲル,ゼオライト等は,表面に酸素原子やOH基などの極性基をもち,水のような極性分子を選択的に吸着する。これらを親水性吸着剤または極性吸着剤という。身の回りでは,吸湿・乾燥剤にはシリカゲルが,吸着クロマトグラフィー(薄層,カラム)の固定相にはシリカゲルとアルミナが使われることが多い。有機溶剤の乾燥などに使われる合成ゼオライト(モレキュラシーブズ)は,吸水量は少ないがシリカゲルより1ケタ低い含水率にまで乾燥できる。
一方,木炭からつくられる活性炭(空気を分散質としてふくむ一種のコロイド状態の炭素)は,疎水性の表面をもつ多孔質で,比表面積が大きく(?1500m^(2)/g),水中に溶けている有害,有臭,有色成分などの有機物や大気中の低分子の有機物を吸着する。そのため,浄水器の吸着剤や冷蔵庫,トイレなどの消臭剤などに使われている。活性炭のような疎水性表面をもつ吸着剤を疎水性吸着剤または非極性吸着剤という。」(588頁左欄下から12行?589頁左欄21行(表1、図1を除く。))

甲1-12:
1-12a)「IV. 結 論
二硫化メチルを除去するため,活性炭12種,ゼオライト3種,ケイ酸塩5種を用い,静的吸着実験を試み,次の結論を得た。
1. 20種吸着剤のうち,活性炭No.4の吸着量は最も多く,吸収速度も速い。
2. 活性炭No.2,No.4に対する二硫化メチルの吸着はDubinin-Astakhov式で表現することができ,これらの吸着はミクロ孔への充てんによって行われている。
3. 活性炭No.4の吸着熱は約14?21kcal/molであり,化学吸着量は約4?5%であった。この結果に基づいて,二硫化メチルが活性炭No.4のミクロ孔内へ物理的な力により充てんされる量が支配的であると考えた。
4. 二硫化メチル吸着量を支配する因子は吸着剤のpH,pKa,塩基量,表面積よりはむしろミクロ孔容積が主であることが判明した。
5.二硫化メチルの吸着速度はミクロ孔容積が0.27ml/g以上では比較的速く,0.16ml/g以下ではきわめて遅い。」(519頁左欄26行?右欄1行)

甲1-13:
1-13a)「活性炭の吸着性に関して,もう一つの大きな特徴は,その選択吸着性である.
著者^(6))は,工業用吸着剤についてその選択吸着性から図-4に示すように簡明な位置づけを行なっている.
シリカアルミナ系吸着剤は極性吸着剤,活性炭は非極性吸着剤と呼ばれることがあるように,シリカアルミナ系吸着剤は水その他の極性分子を選択的に吸着するのに対し,活性炭は非極性分子を選択的に吸着する.図-5^(7))に各種・・・.
二重結合,三重結合を持った有機化合物は,シリカアルミナ系吸着剤には選択的に吸着される.図-6^(7))において活性炭の平衡曲線のみが対角線の右下にあり,シリカアルミナ系の吸着剤ではすべて対角線の左上に位置している.図-7は,活性炭とシリカゲル^(8))による低沸点炭化水素の吸着を比較したものであるが,アセチレンやエチレンの吸着量とエタンの吸着量の関係を見ると,シリカゲルでは,アセチレン>エチレン>エタン,活性炭ではエタン>エチレン>アセチレンとなっており,選択吸着性の相異がはっきりと認められる.」(89頁左欄3?22行)

1-13b)「

」(89頁)

1-13c)「

」(90頁)

甲1-14:
1-14a)「活性炭を水処理に適用する場合には、活性炭の物性と並んで、吸着する物質の性質、液相のpH、濃度、温度などの条件によって吸着能が変化することに留意しなくてはならない。」(165頁左欄20?23行)

(2)特許異議申立人2が提示した甲2-1?甲2-4の記載事項
甲2-1は甲1-1と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲2-1に関する事項は、甲1-1として記載することがある。)。
甲2-2は甲1-10と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲2-2に関する事項は、甲1-10として記載することがある。)。

甲2-3:
2-3a)「【請求項1】 発酵麦芽飲料の製造工程において、プリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤でプリン体化合物を選択的に吸着、除去することを特徴とするプリン体化合物低減発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項2】 プリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤が、活性炭であることを特徴とする請求項1記載のプリン体化合物低減発酵麦芽飲料の製造方法。」

2-3b)「【0003】
ビールの製造において、プリン体化合物を低減化する試みが、報告されている。再公表特許公報WO96/25483には、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/又はヌクレオシダ?ゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造方法が開示されている。この方法は、ビールの製造において、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドを酵素を用いてプリン塩基に分解せしめ、該プリン塩基を発酵工程において酵母に資化させ、プリン化合物含量を低減させたビールを得るというものであるが、この方法は、プリンヌクレオシド分解比率(本実施例では約60%)と、生成されたプリン塩基と元々麦汁に存在するプリン塩基の合計量の酵母による資化率により、左右されるものでありその低減量には限界がある。
したがって、血中尿酸値の上昇を懸念する消費者の要望を満足するために、効率的で、且つ効果的なプリン体化合物の低減化方法の開発が望まれているところである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、プリン体化合物が低減化された発酵麦芽飲料、及びその製造方法を提供すること、より詳しくは、ビールもしくは発泡酒等の発酵麦芽飲料の製造において、製造工程中に、麦汁若しくは発酵液からプリン体化合物を選択的に、且つ効率的、効果的に除去する方法、及び該方法によって製造されるプリン体化合物が低減化された発酵麦芽飲料を提供することに関する。」

2-3c)「【0009】活性炭を吸着剤として用いて、発酵麦芽飲料を処理すると、その種類によっては脱色効果が顕著に現れるものがある。本発明においては、発酵麦芽飲料の色度を、市販されているビールや発泡酒の色度が低いものでも3.0[EBC]であり、それ以下になると「色が薄い又はない」という状態になることから、少なくても3.0以上に保持する。発酵麦芽飲料の色度を保持するためには、色度の高い麦芽を用いて、色度の低下を抑えることもできる。
本発明の発酵麦芽飲料のプリン体の低減の程度は、総プリン体が少なくとも90%以上は除去されることが望ましく、より好ましくは95%以上は除去されることが望ましい。原料全体のうち麦芽が50%以上の発酵麦芽飲料(ビール等)においては、麦芽由来の総プリン体含有量が高いので、総プリン体濃度が8mg/l以下まで低減されていることが好ましく、より好ましくは4mg/lまで、特には2mg/lまで低減されていることが好ましい。同様に、原料全体のうち麦芽が50%未満の発酵麦芽飲料においては、総プリン体濃度が4mg/l以下に低減されていることが好ましい。より好ましくは2mg/lまで低減されていることが好ましい。従来法として、ビール麦汁に酵素として、ヌクレオシドフォスフォリラーゼ/ヌクレオシダーゼを作用させて、プリン塩基を酵母に資化させる技術が公表されているが、この方法による場合、生成するプリン塩基、特にグアニンの酵母による資化が十分に行えず、グアノシンやグアニンを含むプリン体濃度として20mg/l以上は残ってしまうことになる。本発明の方法は、総プリン体が全てグアニンとグアノシンとしても、その低減化が可能であり、上記のような低プリン体化合物濃度の発酵麦芽飲料を得ることが出来る。」

2-3d)「【0025】(5)活性炭二回処理によるビール・発泡酒のプリン体化合物の低減
市販発泡酒(麦芽25%以下)について、平均細孔径1.8nmの活性炭を選び、活性炭添加量を変えて、二回(2段階)処理した際の総プリン体濃度の低減量を測定した。結果をを表5に示す。
【0026】
【表5】

【0027】表5に示す通り、2回に分け処理することにより、少ない添加量で効率的にプリン体化合物を低減することができる。例えば計450mg/100mlの添加でも、1回処理(試験区No.6)の除去率98.3%に比較して、2回処理(試験区No.3:1回目350mg/100ml、2回目100mg/100ml)は、99.7%となっている。従って、一定量の活性炭を分割して処理した方が有効である。また、同じ程度に除去しようとする場合、分割処理した方が、少ない活性炭量で済む。他の成分の除去割合を考慮して適宜選択することも可能である。」

甲2-4:
2-4a)「【請求項1】
発酵麦芽飲料の製造工程において、平均細孔径が2.0?3.0nmの木質系活性炭を用いて、発酵麦芽飲料中のプリン体化合物を選択的に吸着、除去することを特徴とするプリン体化合物を除去し、かつ、発酵麦芽飲料の香味を保持したプリン体化合物除去発酵麦芽飲料の製造方法。
・・・
【請求項6】
発酵麦芽飲料の製造工程において、木質系活性炭を用いてプリン体化合物を吸着、除去する処理を、2段階以上で行なうことを特徴とする請求項5に記載のプリン体化合物除去発酵麦芽飲料の製造方法。」

2-4b)「【0012】
本発明の課題は、麦芽を原料として用いる発酵麦芽飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料の香味を保持しつつ、しかも、含有するプリン体化合物を「0.00mg/100mL」以下(0.005g/100mL未満)に除去するプリン体除去発酵麦芽飲料及びその製造方法を提供することにある。」

2-4c)「【0033】
本発明において、木質系活性炭により処理する期間としては、1時間から7日間の期間で実施することができる。木質系活性炭により処理する温度としては、特に制限されず、例えば、かかる処理を発酵後の工程、熟成工程あるいは濾過工程で行う場合は、それぞれの工程の温度で木質系活性炭による処理を行うことができる。また、本発明において、木質系活性炭の使用濃度は、発酵麦芽飲料中のプリン体化合物をより高い効率で吸着、除去しつつ、色素の減少率をプリン体除去率の割に抑制させる観点から、発酵麦芽飲料1kL当たり2?16kg、好ましくは2?10kg、より好ましくは4?10kg、さらに好ましくは6?10kg、より好ましくは6?8kgとすることができる。また、本発明において、木質系活性炭の処理は、回数は、1回の処理であってもよいが、その吸着、除去効率を高める観点から2回以上(2段階以上)の処理とすることが好ましい。」

2-4d)「【実施例4】
【0050】
[ラボスケールにおける活性炭処理試験]
【0051】
<試験方法>
発酵麦芽飲料の貯酒を用い、木質系活性炭(味の素ファインテクノ社製SD-K6 平均細孔径2.26nm、メソ孔細孔容積0.274mL/g)を用いて、2回(2段階)の活性炭処理により、プリン体化合物の吸着、除去試験を実施した。試験は、5kg/kL(4kg+1kgの2回)、6kg/kL(4kg+2kgの2回)、7kg/kL(4kg+3kgの2回)、8kg/kL(4kg+4kgの2回)を添加し、恒温振とう機にて4℃で20時間以上吸着処理した。
【0052】
プリン体除去試験は以下のような方法で行った。所定量のビールに所定量の活性炭を添加した後、恒温振とう機にて4℃で20時間以上反応させた。ビール中の活性炭を孔径0.45μmのフィルターで除去した。活性炭除去後の濾過ビールに対して、再度、所定量の活性炭を添加した後、恒温振とう機にて4℃で20時間以上反応させた。ビール中の活性炭を孔径0.454μmのフィルターで除去した。活性炭除去後の濾過ビール中の総プリン体化合物濃度を、前述の藤森らの方法で測定した。
【0053】
<結果>
結果を図5に示す。図5の結果から分かるように、2回目の活性炭処理で用いた活性炭の濃度が高くなるにつれて、濾過ビール中の総プリン体化合物濃度(ppb)が低下した。2回目の活性炭処理濃度が2kg/kL以上のサンプルである、(4+2)、(4+3)及び(4+4)では、いずれも総プリン体化合物濃度が40ppb(約0.004mg/100mL)未満となり、プリン体含量「0.00mg/100mL」との表示が許されるプリン体含量0.005mg/100mL未満という濃度が達成できた。
【実施例5】
【0054】
[プラントスケールにおける活性炭処理試験]
【0055】
<試験方法>
2kL貯蔵タンクを用い、発酵麦芽飲料の貯酒について、木質系活性炭(味の素ファインテクノ社製SD-K6 平均細孔径2.26nm、メソ孔細孔容積0.274mL/g)を用いて、2回活性炭処理により、プリン体化合物の吸着、除去試験を実施した。プリン体除去試験は以下のような方法で行った。空の貯蔵タンクAに所定量(4kg/kL)の活性炭を投入した。プラントで製造したビール(貯酒)が入った貯蔵タンクB内のビールを貯蔵タンクAに移送した後、1週間反応させた。空の貯蔵タンクCに、2回目の活性炭処理用の所定量(それぞれ+1kg/kL、+3kg/kL、+4kg/kL)の活性炭を投入した後、貯蔵タンクB内のビールを貯蔵タンクCに移送し、1週間反応させた。活性炭をほとんど含まないビール上清中の総プリン体化合物濃度を、前述の藤森らの方法で測定した。
【0056】
<結果>
結果を図6に示す。図6の結果から分かるように、(4+3)のサンプルでは、総プリン体化合物濃度が50ppb(約0.005mg/100mL)未満となり、プリン体含量「0.00mg/100mL」との表示が許されるプリン体含量0.005mg/100mL未満という濃度が達成できた。上記実施例4の[ラボスケールにおける活性炭処理試験]の試験結果と比較すると、プラントスケールの試験では、残存する総プリン体化合物濃度が若干高かったが、本発明における木質系活性炭は、プラントスケールでも優れたプリン体除去率を発揮することが示された。」

2-4e)「【図5】

【図6】



(3)特許異議申立人3が提示した甲3-1?甲3-7の記載事項
甲3-1は甲1-10の再公表特許公報であるから、その記載事項も同じである(以下、甲3-1に関する事項は、甲1-10として記載することがある。)。
甲3-2は甲1-1と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲3-2に関する事項は、甲1-1として記載することがある。)。
甲3-4は甲2-3と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲3-4に関する事項は、甲2-3として記載することがある。)。
甲3-6は甲1-2と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲3-6に関する事項は、甲1-2として記載することがある。)。
甲3-7は甲1-13と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲3-7に関する事項は、甲1-13として記載することがある。)。

甲3-3:
3-3a)「ロ 由来と生成経路
ビール中の核酸関連化合物の存在は1950年代後半から知られていた。その由来は,主に麦芽と発酵中の酵母に由来する。発酵中にアデニンとグアニンは減少するが,キサンチンは増加する。麦汁からビールに至る過程で,アデニンの95%以上が減少する。」(199頁右欄19?24行)

甲3-5(訳文で示す(図中を除く。)):
3-5a)「

図2. 放射性のアデニン、ヒポキサンチン、グアニンおよびグリシンを用いてインキュベートしたサッカロミセスセレビシエにおけるプリン代謝の代替的な経路に沿ったプリン代謝の経路および放射能のフロー。代謝されたそれぞれの放射性前駆体の総量(アデニン412nmol;ヒポキサンチン298nmol;グアニン365nmol;グリシン22.7nmol;表1のデータ)は100に等しくなるように設定された。60分のインキュベーションの経過の間のそれぞれの個々の反応により代謝されたこの総量のパーセンテージを、この反応を表す矢印の上または矢印の隣に示す。図1にあるように省略。」(940頁図2)

(4)特許異議申立人4が提示した甲4-1?甲4-3の記載事項
甲4-1は甲1-1と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲4-1に関する事項は、甲1-1として記載することがある。)。
甲4-2は甲1-10の再公表特許公報であるから、その記載事項も同じである(以下、甲4-2に関する事項は、甲1-10として記載することがある。)。
甲4-3は甲1-2と同じ証拠であるから、その記載事項も同じである(以下、甲4-3に関する事項は、甲1-2として記載することがある。)。

3 引用発明
(1)甲1-1(甲2-1、甲3-2、甲4-1と同じ)に記載された発明
甲1-1には、ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法に関する事項が記載されている(摘示1-1a?1-1f)。そして、摘示1-1d、1-1fの【0044】の記載からみて、ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法は、麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、製造した麦汁に酵母を添加する工程を有するといえる。したがって、甲1-1(特に、請求項1、6及び【0044】参照。)には、
「大麦、小麦、及び該麦類を発芽させた麦芽から選択される1種又は2種以上の穀物原料と、ホップとを用いる、ビール、発泡酒、又は、発泡酒に蒸留酒を添加したアルコール飲料である、ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法において、酵母添加後の発酵工程以降の製造工程において、発酵液を、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤により処理することにより、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンを3ppm以下に吸着・除去し、かつ、ホップ由来の香気成分及び酵母由来のエステル成分を吸着せずに保持させたプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法であって、麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、製造した麦汁に酵母を添加する工程を有する製造方法」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

(2)甲1-10(甲2-2、甲3-1、甲4-2と同じ)に記載された発明
甲1-10には、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いて製造するビールの製造方法に関する事項が記載されている(摘示1-10a?1-10g)。そして、発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加すること(摘示1-10a)が記載されている。
したがって、甲1-10には、
「麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いて製造することを特徴とするビールの製造方法であって、発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加することを含む製造方法」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

4 特許異議申立人が申し立てた各理由についての判断
(1-1)理由1-1について
理由1-1は甲1-1を主引用例、甲1-2を副引用例とし、本件発明1、2、4、5についてはさらに、甲1-3?甲1-5を副引用例とする又はしない、本件発明3についてはさらに甲1-6?1-9を副引用例とし、甲1-3?甲1-5を副引用例とする又はしない、理由である。

ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得」る工程は、引用発明1はその後に発酵工程を有することからみて、本件発明1の「発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する仕込工程」に相当する。
引用発明1の「製造した麦汁に酵母を添加する工程」及び「酵母添加後の発酵工程」は、本件発明1の「前記発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程」に相当する。
引用発明1の「酵母添加後の発酵工程以降の製造工程において、発酵液を、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤により処理すること」は、本件発明1の「前記発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理工程」に相当する。
本件明細書には、「ビールらしさを有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である」(【0011】)、「本発明に係るビール様発泡性飲料のアルコール濃度は限定されず、0.5容量%以上のアルコール飲料であってもよく、0.5容量%未満のいわゆるノンアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ノンアルコールビール等が挙げられる」(【0012】)との記載があるから、引用発明1の「ビール、発泡酒、又は、発泡酒に蒸留酒を添加したアルコール飲料である、ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法」は、本件発明1の「ビール様発泡性飲料の製造方法」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
前記発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理工程と、
を有する、ビール様発泡性飲料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は「前記仕込工程以降、前記吸着剤処理工程前の溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行」うことを特定しているのに対し、引用発明1はかかる処理を行うものではない点。

<相違点2>
本件発明1は「前記吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり、前記吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」と特定しているのに対し、引用発明1はかかる特定をしていない点。

上記相違点について検討する。
相違点1について
甲1-1には、仕込工程以降、吸着剤処理工程前の溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことについては記載も示唆もされていない。
甲1-1には、先行技術文献として甲1-2(特開平10-57063号公報)が記載され、甲1-2に記載の方法について、「プリンヌクレオシド分解比率(試行例では約64%)と、生成されたプリン塩基と元々麦汁に存在するプリン塩基の合計量の酵母による資化率により、左右されるものでありその低減量には限界がある」ことが記載され(摘示1-1b)、甲1-1に記載の発明の解決しようとする課題が「麦類穀物原料とホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造において、吸着剤により、発酵液中のプリン塩基化合物を有効に吸着・除去し、しかも、ビール風味発酵アルコール飲料の本来の香気成分を吸着せずに有効に保持させ、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を有するビール風味発酵アルコール飲料、及びその製造方法を提供すること」であることが記載されている(摘示1-1c)。
一方、甲1-2(摘示1-2a?1-2e)には、特定の酵素学的性質を有するプリンヌクレオシダーゼ、該プリンヌクレオシダーゼを麦汁に作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いることを特徴とするビールの製造方法、発酵前又は発酵中に、麦汁に該プリンヌクレオシダーゼを添加することが記載され(摘示1-2a)、その具体的な実施例が記載されている(摘示1-2d、1-2e)。さらに、甲1-2に記載された発明は、「ビール中のプリン化合物含量を減らす」(摘示1-2b)ことを解決しようとする課題として含むといえる。
ここで、甲1-1に記載された発明と甲1-2に記載された発明とは、ビール等の飲料においてプリン体の含量を減らすことを解決しようとする課題として包含する点において共通するものであるといえる。
しかし、上述のとおり、甲1-1には、プリン化合物の低減量に限界がある技術として甲1-2を挙げた上で(摘示1-1b)、特定の吸着剤を用いることを含む方法によって、上記甲1-1に記載の課題を解決したものであって(摘示1-1c)、甲1-1には、甲1-1に記載の方法をプリンヌクレオシダーゼによる処理と組み合わせることは記載も示唆もされておらず、本件出願時の技術常識を考慮しても、甲1-1に記載の方法に加えてさらにプリンヌクレオシダーゼによる処理を行う動機付けがあるともいえない。
甲1-3?甲1-5には、概要、低プリン体ビールに関する記載があるところ、その製造方法において、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、ジアスターゼ、β-グルカナーゼ、ペントサナーゼを用い、さらに、ゼオライト、各種珪藻土、活性炭、シリリカゲルを用いることが記載されているが(摘示1-3a?1-5b)、これら甲各号証に記載のヌクレアーゼ等の酵素はプリン体を低減するために用いられるものであるとの記載はなく、プリンヌクレオシダーゼを添加してプリン体の低減に用いることも記載されていないので、プリンヌクレオシダーゼによる処理と吸着剤による処理とを併用することが示唆されているとはいえない。
したがって、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、相違点2及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-1?甲1-5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲1-1?甲1-5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3について
本件発明3は本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明である。甲1-6?甲1-9には、発酵麦芽飲料の製造方法、プリン体の吸着に用いる等の活性炭の平均細孔径、平均細孔直径についての記載があるところ(甲1-6a?甲1-9a)、これら甲各号証には、相違点1に係る本件発明1の技術的事項が記載・示唆されているとはいえないから、本件発明1と同様に、本件発明3は甲1-1?甲1-9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
したがって、理由1-1には理由がない。

(1-2)理由1-2について
ア 課題
本件明細書(特に【0007】参照。)、特許請求の範囲、本件出願時の技術常識からみて、本件発明1?5の解決しようとする課題は、「原料に占める麦芽使用比率が高いにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ないビール様発泡性飲料を製造する方法を提供すること」であると認める。

イ 判断
本件発明1は、吸着剤について「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」と特定する。
発明の詳細な説明には、「【0015】特許文献1に記載の方法のように、・・・糖化処理やその後の発酵の間に、アデニンやグアニンがキサンチンへ変換されているためと推察される。実際に後記実施例に示すように、プリンヌクレオシダーゼ処理だけでは、発酵原料液中のキサンチン含有量はさほど低減されていなかった。酵母非資化性のキサンチンは発酵工程以降でも系外に除去されないため、プリンヌクレオシダーゼ処理のみによっては、最終的に得られるビール様発泡性飲料中のプリン体濃度を充分に低くすることはできなかった。【0016】・・・予め発酵前の発酵原料液又は発酵液に対してプリンヌクレオシダーゼを作用させることにより、溶液中のアデノシンやグアノシンを遊離のプリン基に変換し、この遊離プリン基の少なくとも一部を酵母非資化性遊離プリン基であるキサンチンに変換させる。こうしてアデニン、グアニン、キサンチンの総量に対するキサンチンの濃度比率を高めた後、吸着剤処理を行うことによって、プリン体のうち特にキサンチンを優先的に吸着除去することにより、最終的に得られるビール様発泡性飲料中のプリン体濃度を効率よく低減させることができる。」、「【0020】プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことにより、吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率([キサンチン含有量]/([アデニン含有量]+[グアニン含有量]))を0.5以上に高めることができる。本発明では、このように吸着剤に対して選択的に吸着されるキサンチンの含有量を高めた後に吸着剤処理を行うことにより、使用する吸着剤の量を減らすことができ、結果として香気成分等の有用な成分の吸着除去も抑制できる。」との記載がある。
また、吸着剤について「【0021】本発明において用いられる吸着剤としては、プリン体を吸着除去可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、活性炭、ゼオライト、モンモリロナイト、及び合成樹脂等が挙げられる。本発明において用いられる吸着剤としては、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には例えば、1種類の活性炭のみを用いてもよく、2種類の活性炭を組み合わせて用いてもよく、活性炭とゼオライトを組み合わせて用いてもよい。【0022】本発明において用いられる吸着剤としては、プリン体のうち特にキサンチンに対して優先的に吸着除去し得るものが好ましい。具体的には、プリン体を含む溶液に1000ppmの濃度で添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率[([キサンチンの吸着量]/([アデニンの吸着量]+[グアニンの吸着量]+[キサンチンの吸着量])](以下、「キサンチン吸着比率」ということがある。)が0.6以上出会うことが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。」との記載がある。
そして、ビールについての実施例(【0049】?【0065】)には、吸着剤として活性炭を用いた具体例について、プリン体の含有量を測定した測定結果が表1として記載され、「プリンヌクレオシダーゼ処理と活性炭処理を併用することで、効率的にプリン体を低減できることが示唆された。」と記載されている。
さらに、麦芽使用比率について「【0030】本発明に係るビール様発泡性飲料の製造方法は、麦芽の使用量が多い場合でも、プリン体総含有量の低いビール様発泡性飲料を製造することができる。・・・発酵原料の総量に対する麦芽使用量の比率(麦芽使用比率)が50%以上であることが好ましく、67%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。」
これらの記載から、本件発明1は、プリンヌクレオシダーゼ処理によって、キサンチンの濃度を高めた後に、特定の吸着剤による処理を行うことによって効率的にプリン体を低減できるものであり、麦芽使用比率が高いとは、麦芽使用比率が50%以上のものを含むものである(我が国における「ビール」とは麦芽使用比率が50%以上のものである。)ということが理解でき、実施例において、本件発明1に相当する製造方法によって上記課題を解決できることが具体的に確認できる。
そして、本件発明1においては、吸着剤について、物質の種類は特定されてはいないが、吸着特性についてアデニン、グアニンに対してキサンチンの吸着量が一定以上であることが特定され、さらに、吸着剤を接触させる発酵液について、アデニン、グアニンに対するキサンチンの含有量の比率が一定以上であることが特定されているといえる。
してみると、吸着剤の種類等の違いによってその吸着特性が異なる(甲1-11?1-13参照。)としても、上記のとおりアデニン、グアニンに対してキサンチンの吸着量が一定以上の吸着剤を用い、該吸着剤をアデニン、グアニンに対するキサンチンの含有量の比率が一定以上である発酵液に適用することが特定された本件発明1について、当業者は、実施例おいて具体的に確認されたものと同様に、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものである。
本件発明2?5についても同様である。

よって、理由1-2には理由がない。

(1-3)理由1-3について
発明の詳細な説明には、「【0018】本発明において用いられるプリンヌクレオシダーゼは、微生物由来の酵素であってもよく、動物由来の酵素であってもよく、植物由来の酵素であってもよい。また、天然型の酵素であってもよく、天然型の酵素に人工的に適宜変異等が導入された改変体であってもよい。【0019】当該プリンヌクレオシダーゼ処理におけるプリンヌクレオシダーゼの量や反応温度、反応時間等の条件は、充分量のアデノシンやグアノシンをアデニンやグアニンへ変換できる条件であれば特に限定されるものではなく、使用するプリンヌクレオシダーゼの種類や酵素活性の強度等を考慮して適宜調整することができる。例えば、使用するプリンヌクレオシダーゼの量を多くしたり、プリンヌクレオシダーゼ処理の時間を長くすることにより、プリンヌクレオシダーゼ処理後の溶液中のアデノシンとグアノシンの含有量をより低下させることができる。」との記載があり、上記(1-2)で示したとおり、【0021】、【0022】に吸着剤の種類、特性についての記載があり、【0049】?【0065】にビールについての実施例の記載があり、実施例2には、平均細孔径の違いによってキサンチン吸着量が変化することが示されている。
してみれば、当業者は、少なくとも実施例の記載にしたがって、本件発明1を実施することができるということができる。また、活性炭を水処理に適用する場合には、活性炭の物性、吸着する物質の性質、液相のpH、濃度、温度などの条件によって吸着能が変化することが知られていたとしても(甲1-14参照。)、発明の詳細な説明に記載された、ビールについての実施例を参考にして、【0021】、【0022】に従って吸着剤を、【0018】、【0019】に従ってプリンヌクレオシダーゼをそれぞれ選択し、また、製造条件を適宜設定することで(例えば、プリンヌクレオシダーゼの量を変更する、平均細孔径を変更する)、過度の試行錯誤をすることなく「吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり」、「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」ようにすることができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
本件発明2?5についても同様である。

よって、理由1-3には理由がない。

(2-1)理由2-1について
本件発明1は、吸着剤について「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」と特定するものであるから、プリン体を吸着できない吸着剤は本件発明1で用いることはできず、また、上記(1-2)で述べたのと同様に、プリン体を吸着できる吸着剤の全てが同等の吸着除去特性を有するとはいえないとしても(甲2-1参照。)、アデニン、グアニンに対してキサンチンの吸着量が一定以上の吸着剤を用い、該吸着剤をアデニン、グアニンに対するキサンチンの含有量の比率が一定以上である発酵液に適用することが特定された本件発明1について、当業者は、実施例おいて具体的に確認されたものと同様に、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものである。
本件発明4、5についても同様である。

よって、理由2-1には理由がない。

(2-2)理由2-2について
理由2-2は甲2-1(甲1-1と同じ)を主引用例、甲2-2?甲2-4(甲2-2は甲1-10と同じ)を副引用例とする理由である。

ア 本件発明1について
本件発明1と甲2-1(甲1-1)に記載された発明(引用発明1)との一致点、相違点は上記(1-1)アで示したとおりである。

相違点について検討する。
相違点1について
甲2-1(甲1-1)には、仕込工程以降、吸着剤処理工程前の溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことについては記載も示唆もされていない。
甲2-1(甲1-1)には、先行技術文献として特開平10-57063号公報(甲1-2)が記載され、当該公報に記載の方法について、「ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/又はヌクレオシダ?ゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造方法が開示されている。この方法は、ビールの製造において、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドを、酵素を用いてプリン塩基に分解せしめ、該プリン塩基を発酵工程において酵母に資化させ、プリン化合物含量を低減させたビールを得るというものであるが、この方法では、プリンヌクレオシド分解比率(試行例では約64%)と、生成されたプリン塩基と元々麦汁に存在するプリン塩基の合計量の酵母による資化率により、左右されるものでありその低減量には限界がある」ことが記載され(摘示1-1b)、甲2-1(甲1-1)に記載の発明の解決しようとする課題が「麦類穀物原料とホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造において、吸着剤により、発酵液中のプリン塩基化合物を有効に吸着・除去し、しかも、ビール風味発酵アルコール飲料の本来の香気成分を吸着せずに有効に保持させ、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を有するビール風味発酵アルコール飲料、及びその製造方法を提供すること」であることが記載されている(摘示1-1c)。
一方、甲2-2(甲1-10)には、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いて製造することを特徴とするビールの製造方法(摘示1-10a)、発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加すること(摘示1-10a)、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造法を提供することを目的とすること(摘示1-10e)等の記載がある(摘示1-10a?1-10g)。
ここで、甲2-1(甲1?1)に記載された発明と甲2-2(甲1-10)に記載された発明とは、ビール等の飲料においてプリン体の含量を減らすことを解決しようとする課題として包含する点において共通するものであるといえる。
しかし、甲2-2(甲1-10)に記載の製造方法は、甲2-1(甲1-1)に先行技術文献として挙げられた特開平10-57063号公報に記載の製造方法と、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させるビールの製造方法であって、当該製造方法は、麦汁中のプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより、プリン化合物含量を低減したビールを製造しうるという点において共通するところ、甲2-1(甲1-1)にはそのような先行技術について、プリン化合物含量の低減量に限界があるとしており、そのような限界があることは甲2-2(甲1-10)に記載の製造方法においても同様であると認められる。そして、甲2-1(甲1-1)に記載の発明はそのような先行技術を挙げた上で(摘示1-1b)、特定の吸着剤を用いることを含む方法によって、上記甲2-1(甲1-1)に記載の課題を解決したものであって(摘示1-1c)、甲2-1(甲1-1)には、甲2-1(甲1-1)に記載の方法をプリンヌクレオシダーゼによる処理と組み合わせることは記載も示唆もされておらず、本件出願時の技術常識を考慮しても、甲2-1(甲1-1)に記載の方法に加えてさらにプリンヌクレオシダーゼによる処理を行う動機付けがあるとはいえない。
甲2-3?甲2-4(摘示2-3a?2-4e)には、概要、吸着剤でプリン体化合物を吸着、除去する、プリン体化合物を低減、除去した発酵麦芽飲料の製造方法において、2回に分け処理することにより、少ない添加量で効率的にプリン体化合物を低減することができること、木質系活性炭の処理は、吸着、除去効率を高める観点から2回以上の処理とすることが好ましいことが記載されているが、これらの処理は、吸着剤による処理を2回以上に分割することについての記載であり、吸着剤による処理とプリンヌクレオシダーゼによる処理を併用することを示唆するものであるとはいえない。
したがって、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、相違点2及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲2-1?甲2-4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲2-1?甲2-4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、理由2-2には理由がない。

(3-1)理由3-1について
本件発明1は、「吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり」、「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」と特定しているところ、これらの事項はいずれもその技術的意味は明確である。
ここで、発酵液の組成によっては、たとえばアデニン、グアニンの含有割合が相当高い場合と、極端に低い場合(甲3-1?甲3-3参照。)等では同じ吸着剤であってもアデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が異なることが考えられる。
しかし、たとえ発酵液の組成によって、同じ吸着剤であっても上記比率が異なることがあったとしても、本件発明1は、吸着剤を接触させる前の発酵液が上記特定を満たすものであり、該発酵液のアデニン、グアニン、キサンチンに対する吸着性について上記特定を満たす吸着剤を用いるものであると当業者は理解できる。
したがって、本件発明1は明確である。
本件発明2?5についても同様である。
よって、理由3-1には理由がない。

(3-2)理由3-2について
本件明細書【0059】?【0060】には、実施例2として、市販のビール様発泡飲料に対して、平均細孔径の異なる活性炭製品A?D(いずれも、クラレケミカル社製)又は活性炭製品E(大阪ガスケミカル社製)を1000ppmとなるように混合して活性炭処理した後、プリン体としてアデニンとグアニンとキサンチンの含有量を測定したこと、及びその結果についての記載があるところ、当該測定に供した発酵液が不明であるから、これらの飲料について、本件発明1に該当するものであるかどうかは不明である。
しかし、上記記載からは、活性炭製品A?Dが平均細孔径が異なるものであること、また、【0061】の「処理時の[キサンチンの吸着量]/([アデニン吸着量]+[グアニン吸着量]+[キサンチン吸着量])の値は、プリン体低減効果が大きかった活性炭製品A、B、及びCでは70%以上と高かったのに対して、プリン体低減効果が小さかった活性炭製品D及びEでは小さかった。活性炭製品A、B、及びCは平均細孔径が0.5nm以下であり、活性炭製品D及びEよりも平均細孔径は0.5nm超であったことから、平均細孔径が0.5nm以下の活性炭が、キサンチン吸着量が高い吸着剤であることがわかった。」との記載及び表3の記載から、吸着剤として用いる活性炭の平均細孔径の大きさによって、アデニン吸着量+グアニン吸着量+キサンチン吸着量に対するキサンチン吸着量に違いが生じることが一応把握できる。
したがって、実施例2は、本件発明1の発明特定事項である「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」に関連して、吸着剤として用いる活性炭の平均細孔径を変えることによって、アデニン吸着量+グアニン吸着量+キサンチン吸着量に対するキサンチン吸着量を変えることができることを示そうとするものであると解される。
そして、この実施例2が存在するからといって、本件発明1がサポート要件を満たさないとする理由はない。
さらに、実施例1を含めた本件明細書の記載から、本件発明1について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえることは、上記(1-2)イで述べたとおりである。
したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものである。
本件発明2?5についても同様である。

よって、理由3-2には理由がない。

(3-3)理由3-3について
上記(1-3)で述べたのと同様に、当業者は、少なくとも実施例の記載にしたがって、本件発明1を実施することができるということができ、また、活性炭とそれ以外の吸着剤とで選択吸着性が相違することが知られていたとしても(甲3-7参照。)、本件明細書の【0018】、【0019】、【0021】、【0022】の記載、実施例2を含む【0049】?【0065】の実施例の記載を参酌して、【0021】、【0022】に従って吸着剤を選択して(例えば、平均細孔径を変更する)、選択した吸着剤について、「吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり」、「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」との本件発明1で特定する吸着特性を有することを確認することは当業者の試行錯誤の範囲内であるといえ、過度の試行錯誤を要するとはいえない(なお、実施可能要件の判断において、用いることができる全ての吸着剤を特定する必要はないと考える。)。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
本件発明2?5についても同様である。

よって、理由3-3には理由がない。

(3-4)理由3-4について
理由3-4は、甲3-1(甲1-10と同じ)を主引用例、甲3-2?甲3-5(甲3-2は甲1-1と、甲3-4は甲2-3と同じ)を副引用例とする理由(理由3-4-1)と、甲3-2(甲1-1と同じ)を主引用例、甲3-6(甲1-2と同じ)を副引用例とする理由(理由3-4-2)である。

ア 理由3-4-1について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲3-1(甲1-10)に記載された発明(引用発明2)とを対比する。
引用発明2は、「麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解することにより得られたヌクレオシド分解麦汁を用いて製造する」、「ビールの製造方法」であって、「発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加する」ものであるところ、発酵の際に発酵原料液が存在することは当然であり、「麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを作用させることで、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解する」ものであり、「麦汁」は溶液であるといえる。
また、具体的な実施例として発酵に際し、ヌクレオシド分解麦汁とビール酵母を懸濁し、発酵したことが記載されており(摘示1-10f、実施例5)、これは本件発明1の「発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程」に相当する。
したがって、引用発明2は、本件発明1と、「発酵原料液」を「発酵させる発酵工程」を有し、「溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行」う点で共通する。
また、引用発明2の「ビールの製造方法」は本件発明1の「ビール様発泡性飲料の製造方法」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、
「発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
溶液に対して、プリンヌクレオシダーゼ処理を行う、
ビール様発泡性飲料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1は「発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する仕込工程」を有することを特定しているのに対し、引用発明2はかかる工程を有することを特定していない点。

<相違点4>
本件発明1は「前記発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理工程」を有することを特定しているのに対し、引用発明2はかかる工程を有するものではない点。

<相違点5>
プリンヌクレオシダーゼ処理について、本件発明1は「前記仕込工程以降、前記吸着剤処理工程前の溶液に対して」当該処理を行うことが特定されているのに対し、引用発明2は「発酵前または発酵中に、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/またはヌクレオシダーゼを添加する」と特定している点。

<相違点6>
本件発明1は「前記吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり、
前記吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」と特定しているのに対し、引用発明2はかかる特定をしていない点。

事案に鑑みて、相違点4について検討する。
甲3-1(甲1-10)には、発酵工程後、得られた発酵液を吸着剤に接触させる吸着剤処理を行うことについては記載も示唆もされていない。甲3-1(甲1-10)には、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造法を提供することを目的とすることが記載されている(摘示1-10e)。
甲3-2(甲1-1)には、概要、発酵液を、モンモリロナイトを主要成分とする吸着剤により処理することにより、発酵液中のプリン塩基化合物キサンチンを3ppm以下に吸着・除去し、かつ、ホップ由来の香気成分及び酵母由来のエステル成分を吸着せずに保持させたプリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法が記載されているところ(摘示1-1a)、先行技術文献2として、「特開平10-57063号公報には、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/又はヌクレオシダ?ゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン化合物の濃度を低減させたビールの製造方法が開示されている。」との記載(摘示1-1b)、「プリン塩基は、先行技術文献として挙げた特許文献2に記載されているように、酵母発酵により消費されるが、プリン体代謝経路の末端物質であるキサンチンは酵母発酵により増加するため、最終的なプリン体総量に大きく影響を及ぼすことがわかった。参考として、2010年時点で通年販売されている市販ビール飲料のプリン塩基測定結果を表1に示す。表1に示されるように、市販ビール飲料のプリン塩基では、キサンチンの含量が高く、したがって、酵母代謝によって増加するプリン塩基、とりわけキサンチンをビール飲料中から選択的に除去することができれば、ビール飲料らしい香味バランスを維持したプリン体化合物低減ビール風味飲料が実現できることが見て取れる。」との記載(摘示1-1c)がある。また、解決しようとする課題が「麦類穀物原料とホップとを用いるビール風味発酵アルコール飲料の製造において、吸着剤により、発酵液中のプリン塩基化合物を有効に吸着・除去し、しかも、ビール風味発酵アルコール飲料の本来の香気成分を吸着せずに有効に保持させ、吸着剤処理後に、香料やホップ抽出物を添加しなくても、ビール風味発酵アルコール飲料が本来備えるべきバランスのとれた香味を有するビール風味発酵アルコール飲料、及びその製造方法を提供すること」であることが記載されている(摘示1-1c)。
ここで、甲3-1(甲1-10)に記載された発明と甲3-2(甲1-1)に記載された発明とは、ビール等の飲料においてプリン体の含量を減らすことを解決しようとする課題として包含する点において共通するものであるといえる。
しかし、甲3-2(甲1-1)には、甲3-2(甲1-1)に記載されたモンモリロナイトを主要成分とする吸着剤による処理を、プリンヌクレオシダーゼによる処理と併用することについての記載、示唆はない。
甲3-2(甲1-1)に記載の発明は、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼ及び/又はヌクレオシダ?ゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン化合物の濃度を低減させるという先行技術に問題点があることを前提として(摘示1-1b)、特定の吸着剤を用いることを含む方法によって、上記甲3-2(甲1-1)に記載の課題を解決したものであるから(摘示1-1c)、たとえ、甲3-2(甲1-1)に上記のとおりの記載があったとしても、引用発明2において、さらに吸着剤による処理を加えて行うことを動機付けることはできない。
また、甲3-4(甲2-3)には、「発酵麦芽飲料の製造工程において、プリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤でプリン体化合物を選択的に吸着、除去することを特徴とするプリン体化合物低減発酵麦芽飲料の製造方法」についての記載があり(摘示2-3a)、プリン体化合物を低減化することが記載されている先行技術文献として甲3-1(甲1-10)が挙げられており(摘示2-3b)、「この方法は、ビールの製造において、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドを酵素を用いてプリン塩基に分解せしめ、該プリン塩基を発酵工程において酵母に資化させ、プリン化合物含量を低減させたビールを得るというものであるが、この方法は、プリンヌクレオシド分解比率(本実施例では約60%)と、生成されたプリン塩基と元々麦汁に存在するプリン塩基の合計量の酵母による資化率により、左右されるものでありその低減量には限界がある。」(摘示2-3b)、「従来法として、ビール麦汁に酵素として、ヌクレオシドフォスフォリラーゼ/ヌクレオシダーゼを作用させて、プリン塩基を酵母に資化させる技術が公表されているが、この方法による場合、生成するプリン塩基、特にグアニンの酵母による資化が十分に行えず、グアノシンやグアニンを含むプリン体濃度として20mg/l以上は残ってしまうことになる。本発明の方法は、総プリン体が全てグアニンとグアノシンとしても、その低減化が可能であり、上記のような低プリン体化合物濃度の発酵麦芽飲料を得ることが出来る。」との記載がある(摘示2-3c)が、これらの記載は、ヌクレオシドフォスフォリラーゼ/ヌクレオシダーゼによる処理吸着剤による処理の問題点を指摘し、吸着剤による処理によって、プリン体を低減することを教示しているに過ぎず、吸着剤による処理とプリンヌクレオシダーゼによる処理を併用することを示唆するものとはいえない。
甲3-3には、ビール中の核酸関連化合物の存在、その由来、その増減に関する記載があるに過ぎず(摘示3-3a)、甲3-5には、放射性のアデニン、ヒポキサンチン、グアニンおよびグリシンを用いてインキュベートしたサッカロミセスセレビシエにおけるプリン代謝の代替的な経路に沿ったプリン代謝の経路および放射能のフローが記載されているに過ぎないから(摘示甲3-5a)、吸着剤による処理とプリンヌクレオシダーゼによる処理を併用することを示唆するものとはいえない。
したがって、甲3-4、甲3-3及び甲3-5の記載及び本件出願時の技術常識を参酌しても、引用発明2において、さらに、吸着剤による処理を行うことを動機付けることはできない。
よって、引用発明2において、相違点4に係る本件発明1の技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、相違点3、5、6及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲3-1?甲3-5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2?5について
本件発明2?5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲3-1?甲3-5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、理由3-4-1には理由がない。

イ 理由3-4-2について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲3-2(甲1-1)に記載された発明(引用発明1)との一致点、相違点、及び、甲3-6(甲1-2)の記載を考慮しても、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるということはできず、本件発明1が、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないことは、上記(1-1)アで示したとおりである。
したがって、本件発明1は、甲3-2及び甲3-6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2?5について
本件発明2?5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲3-2及び甲3-6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、理由3-4-2には理由がない。

(4-1)理由4-1について
理由4-1は、甲4-1(甲1-1と同じ)を主引用例、甲4-2?甲4-3(甲4-2は甲1-10と、甲4-3は甲1-2と同じ)を副引用例とする理由である。

ア 本件発明1について
本件発明1と甲4-1(甲1-1)に記載された発明(引用発明1)との一致点、相違点は上記(1-1)アで示したとおりである。

相違点1について検討する。
甲4-2(甲1-10)を参酌しても、相違点1に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるということができないことは、上記(2-2)アで述べたとおりであり、甲4-3(甲1-2)を参酌しても、相違点1に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるということができないことは、上記(1-1)アで述べたとおりである。
そして、甲4-2(甲1-10)と甲4-3(甲1-2)のそれぞれに記載された発明は、いずれもプリンヌクレオシダーゼ、ヌクレオシド・フォスフォリラーゼ、ヌクレオシダーゼという酵素による処理に関する点で共通するものであり、たとえこれら両証拠を同時に参酌しても、上記した判断は変わらない。
なお、甲4-3(甲1-2)に、「プリン化合物と呼ばれるものの中には遊離プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、および高分子核酸が含まれる。ビール製造工程中の各プリン化合物の消長を調べると麦汁中にはプリンヌクレオチドおよび高分子核酸は全く含まれず、遊離プリン塩基とプリンヌクレオシドが多く含まれている。」との記載(摘示1-2b)、甲4-2(甲1-10)に、「本発明は、麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼまたはヌクレオシダーゼを作用させて、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解すること」との記載(摘示1-10c)、「通常の酵母は、プリンヌクレオシドを吸収することはできないが、プリン塩基を吸収・代謝することはできる」との記載(摘示1-10e)、「発酵工程中に、麦汁中のプリン塩基は酵母によって吸収・代謝されてほぼなくなる」(摘示1-10e)との記載があり、プリン体にはキサンチンの他にも各種プリン塩基及びプリンヌクレオシド等が含まれることが示されているとしても、甲4-1?甲4-3(甲1-1、甲1-10、甲1-2)のいずれにも吸着剤による処理とプリンヌクレオシダーゼによる処理とを併用することは記載も示唆もされていないから、甲4-1(甲1-1)に記載された発明に加えてプリンヌクレオシダーゼによる処理を行うことが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

したがって、相違点2及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲4-1?甲4-3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲4-1?甲4-3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、理由4-1には理由がない。

(4-2)理由4-2について
上記(1-3)、(3-3)で述べたのと同様に、当業者は、少なくとも実施例の記載にしたがって、本件発明1を実施することができるということができるところ、実施例で用いられている活性炭製品Aは新規なものでないことは明らかであるから、その調製を必要とするとはいえない。
また、本件明細書の実施例2に記載のとおり、平均細孔径の異なる活性炭は種々知られており、それらに調製の必要はない。さらに、【0018】、【0019】、【0021】、【0022】、実施例2を含む【0049】?【0065】の記載を参酌して、【0021】、【0022】に従って吸着剤を選択して(例えば、平均細孔径を変更する。購入可能なもの又は製造方法が公知であるものを用いればよい。)、選択した吸着剤について、「吸着剤を接触させる前の発酵液のアデニンとグアニンの総含有量に対するキサンチン含有量の比率が0.5以上であり」、「吸着剤の吸着特性が、前記発酵液に1000ppm添加した場合に、アデニンの吸着量とグアニンの吸着量とキサンチンの吸着量の和に対するキサンチンの吸着量の比率が0.6以上である」との本件発明1で特定する吸着特性を有することを確認することは当業者の試行錯誤の範囲内であるといえ、過度の試行錯誤を要するとはいえない(なお、実施可能要件の判断において、用いることができる全ての吸着剤を特定する必要はないと考える。)。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
本件発明2?5についても同様である。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-18 
出願番号 特願2016-205390(P2016-205390)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 536- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
冨永 保
登録日 2020-12-07 
登録番号 特許第6804928号(P6804928)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 ビール様発泡性飲料の製造方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 志賀 正武  

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