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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D01D
審判 全部申し立て 特174条1項  D01D
管理番号 1379885
異議申立番号 異議2021-700630  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2021-11-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6807960号発明「無捲縮短繊維の製造方法、及び得られた無捲縮短繊維を含む湿式不織布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6807960号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6807960号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月29日(優先権主張 2017年(平成29年)1月30日、2017年(平成30年)3月6日)を国際出願日とする出願であって、令和2年12月10日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月5日に特許異議申立人山内憲之(以下「申立人」という。)が、本件特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許6807960号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
紡糸速度600m/分以上で紡糸し、該紡糸速度以上の速度で繊維トウを35mm以下の長さにカットする無捲縮短繊維の製造方法において、下記要件(I)?(IV):
(I)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントをそのまま、または複数本を束ねて、合糸後に20000?85000dtexの繊維トウとすること;
(II)該束ねた繊維トウを収缶することなく連続してカットすること;
(III)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントから繊維トウのカット前までに1か所以上のポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する工程を有すること;及び
(IV)該カットの速度が1232m/分以上であること
を具備する手法であって、下記A?Cのいずれか一つの手法を満たすことを特徴とする無捲縮短繊維の製造方法:
A.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、断面視で円弧形をなす湾曲部を含む液体付与装置を用い、前記繊維トウを、該湾曲部に接触させた状態で走行させながら該湾曲部から液状油剤を吐出させて該繊維トウに付与する工程を含み、抱き角を20°より大きく180°より小さくし、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウを液体付与装置の湾曲部に接触させる接触時間を0.001?0.05秒とする手法;
B.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、平面部を含み該平面部の一部に開孔領域を設け、該開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウが液体付与装置の開孔領域を走行する通過時間を0.001?0.05秒とする手法;及び
C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法。
【請求項2】
前記カットが、複数のカッター刃を有し、各カッター刃の間隔がカッター刃の切断面から背面まで同一である短繊維用カッターによってカットする方法である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記未延伸に関し、その複屈折率が0.001?0.100の範囲にある、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記未延伸に関し、そのカット前までの各工程における繊維トウの張力が降伏張力未満である、請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立人は、以下の甲号証を提出し、本件発明1?4に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

2.理由1(進歩性)
甲第1号証(特開2002-227041号。以下「甲1」という。)
甲第2号証(特開2000-220026号。以下「甲2」という。)
甲第3号証(特開平9-241974号。以下「甲3」という。)
甲第4号証(特開2014-70303号。以下「甲4」という。)
甲第5号証(特開2002-339287号。以下「甲5」という。)
甲第6号証(特開昭57-149516号。以下「甲6」という。)
甲第7号証(特開昭57-139524号。以下「甲7」という。)
甲第8号証(特開2009-221611号公報。以下「甲8」という。)
甲第9号証(特開2012-112079号公報。以下「甲9」という。)

本件発明1?4は、甲1?9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?4は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、それらに係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3.理由2(サポート要件)
出願時の技術常識に照らしても、下記(1)及び(2)の点で、本件発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(1)本件発明1における構成要件「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を満たす無捲縮短繊維を製造する方法は、本件特許明細書の発明な詳細の説明において、得られる無捲縮短繊維の水中分散性が優れるという課題を解決できる製造方法であると当業者が認識できるように具体的な例が開示して記載されているとはいえない。

(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、得られる無捲縮短繊維の水中分散性が優れるというという課題を解決できると認識できるように記載された範囲は、オイリングローラーの回転数、直径および親水性油剤を含む分散液の粘度等のあらゆる付与条件を含み得る本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。

したがって、本件発明1?4は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件発明1?4についての特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4.理由3(明確性)
本件発明1?4は、下記(1)?(3)の点で、請求項の記載自体が不明であるため、また、範囲を曖昧にし得る表現があるため、明確でない。

(1)「紡糸直後の未延伸マルチフィラメントをそのまま」との記載がどの文章に掛かっているのか、また、修飾関係を仮定した場合にも意味が不明確である。

(2)本件発明1は、「延伸糸に関し」と規定しているが、本件発明1には、延伸する旨の規定がないため、「延伸糸」が何を示しているのかが不明確である。また、本件発明1では、無捲縮短繊維を構成する材料が規定されていないことから、その材料を用いて製造される繊維が延伸されることが一般的であるのかそうでないのかも不明であるため、延伸糸が一般的でない繊維である場合にも不明確である。

(3)本件発明1は、紡糸からカットまでを連続した無捲縮短繊維の製造方法であることを考慮すると、「紡糸直後」が、どの段階までの親水性油剤の付与が紡糸直後に該当するのかが不明確である。

よって、本件発明1?4についての特許は、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5.理由4(実施可能要件)
本件発明1?4は、下記(1)及び(2)の点で、本件特許明細書に、当業者が実施可能な程度に記載されていない。

(1)本件特許明細書中において、「未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%」で行われた実施例は存在しておらず、どのような場合において、「オイリングローラー」を用いて「液体の付与方法は、繊維トウの高速走行においても、充分に液体を付与することができる」のか、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から理解することができない。

(2)本件発明1において、構成要件「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」により無捲縮短繊維の未延伸糸を製造する方法では、紡糸速度とカット速度とが同程度である必要があるが、カット速度が1232m/分以上であるとの規定があるため、紡糸速度が600?1232m/分の場合には、当業者はどのように未延伸糸を製造することができるのか理解できない。

よって、本件発明1?4についての特許は、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

6.理由5(新規事項)
令和2年10月20日提出の手続補正書による請求項1?4に係る補正は、下記(1)の点で、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(1)本件発明1の構成要件「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を追加する補正は、当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正にも、当初明細書等の記載から自明な事項にする補正にも該当しない。

よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 証拠の記載及び引用発明
1.甲1には、以下の事項(1)?(5)が記載されている。なお、下線は理解の便のため当審で付与した。以下同様。
(1)「【請求項1】紡糸口金より溶融紡出されたポリエステル糸条を冷却固化した後、該繊維束の水分率を3?50%の範囲となして、直ちにカット長を3?30mmの範囲にカットすることを特徴とするポリエステル短繊維の製造方法。」

(2)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来技術の現状を背景になされたものであり、その目的は、ポリエステル未延伸糸条を紡糸後直ちに、安定して、かつ正確にカットし、高品質なポリエステル短繊維、特に、抄紙用に適したポリエステル短繊維を製造する方法を提供するものである。」

(3)「【0006】該ポリエステルは乾燥され、溶融、吐出され、冷却固化され、糸条群となり、走行しつつ処理剤の水分散液が付与され、直ちにカットされ短繊維となる。使用するカッターは、通常のドラム式カッターが品質および生産性の面から好ましいが、本発明においてはこの方式のカッターに限定されるものではない。本発明者等は、カッターに供給する該繊維束の水分率を3?50%の範囲に保持すれば、捲縮がほどこされていない未延伸繊維束でも安定して、かつ正確にカットされることを見出した。水分率が3%より低いと、カットされた短繊維の飛散が激しくなり、歩留まりが低下する。水分率が50%を越えると、ドラム式カッターに巻き付けられた繊維束から、遠心力によって飛散する水分の量が非常に多くなり、設備の運転が不可能となる。
【0007】繊維束の水分は、冷却固化後、回転ローラーあるいはスプレー装置等で繊維処理剤分散液を走行糸条に付与し、ピックアップ量として調整する。繊維処理剤としては、平滑性の高いものが好ましい。たとえば、ステアリン酸メチルやオレイン酸メチル等の脂肪酸エステル、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素、ラウリルアルコールやセチルアルコール等の高級アルコールおよび水溶性の変性シリコン等が好適である。抄紙用としては、ポリアルキレングリコールーポリエステル共重合体との混合使用が、抄紙時の分散性が向上するため、より好ましい。なお、処理剤の繊維に対する付着量は0.05?3%が好適である。」

(4)「【0012】3)カット繊維の飛散状態
繊維束をドラム式カッターで表面速度1000m/minで回転するドラムに巻き付けてカットする際、該繊維束から遠心力によってカット繊維が飛散しドラム周辺に堆積した状態を目視観察により、以下の基準で格付けした。ランクB以上を合格とした。
ランクA:飛散繊維の付着がほとんど認められない。ランクB:数箇所に飛散繊維の付着が認められる。ランクC:ドラム周辺に多数の飛散繊維が付着、堆積している。運転継続に支障がある。ランクB以上を合格とした。」

(5)「【0016】[実施例1?3、比較例1?2]35℃のオルソクロロフェノール中で測定した固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートを乾燥後、300℃で溶融し、孔数が1200個の口金を通して、単糸繊度が1.7デシテックスとなるように1000m/minの紡糸速度で引き取り、直ちに5mmにカットした。なお、カッターに供給される繊維束は6錘分を集束し、ポリエーテル-ポリエステル共重合体が50%、ラウリルホスフェートカリウム塩が20%、パラフィンワックスが30%混合された水分散液を回転ローラーで付与した。この際、ローラーの回転数を調整し、カッターに供給される繊維束の水分率を変更し、表1の結果を得た。繊維束の水分率が4.2%の実施例1、25.5%の実施例2および45.3%の実施例3では、カット繊維の飛散が少なく、カット時の水の飛散も少なく安定して繊維束のカットが実施できた。繊維束の水分率が2.0%の比較例1では、カッタードラム周辺へのカット繊維の飛散が極めて多く、カッターの継続運転ができなくなった。水分率が54.5%の比較例2では、カット時の水分飛散が極めて多く、カッターの継続運転ができなくなった。」

(6)「【0018】[実施例4?7、比較例3?4]カッターに供給される繊維束の水分率を20.5%に固定し、カット長を表2に示すように変更すること以外は実施例1と同様の条件下で実施し、カット繊維の品質をチェックし、表2の結果を得た。カット長が3.2mmの実施例4、5.0mmの実施例5、10mmの実施例6および25mmの実施例7では、絡みが少なく、水中分散性の良いカット繊維が得られた。カット長が2.0mmの比較例3では、カット繊維同志の絡みが多く、抄紙用として使用できない品質のものとなった。カット長が35mmの比較例4では、カット繊維の水中分散性が極めて悪く、抄紙用として使用できない品質のものとなった。」

(7)上記事項を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「紡糸速度1000m/minで紡糸した未延伸糸条である繊維束を、紡糸後直ちに、速度1000m/minで3.2mm、5.0mm、10mm、または25mmの長さにカットする、捲縮がほどこされていない短繊維の製造方法において、孔数が1200個の口金を通して、単糸繊度が1.7デシテックスとなるように引き取り、繊維束は6錘分を集束し、ポリエーテル-ポリエステル共重合体が混合された水分散液を回転ローラーで付与し、ドラム式カッターでカットしたこと。」

2.甲5には、以下の事項(1)?(3)が記載されている。
(1)「【0017】[実施例1?4、比較例1?3]固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートチップを乾燥後、300℃で溶融し、孔数が1192の紡糸口金を通して、180g/分で吐出し、1150m/分の速度で引取り、単繊維の繊度が約1.3dtex、Δnが0.015の未延伸ポリエステル繊維を得た。該未延伸ポリエステル繊維を約20万dtexのトウとなし、モル比でテレフタル酸80モル%、イソフタル酸20モル%の酸成分、平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%(共重合体重量基準)とエチレングリコールのグリコール成分からなる平均分子量約12000のポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液中を70m/分の速度で通過させ、一対のローラーで絞り率を調整する方法によりトウの水分率を種々変更した。また、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液の濃度を種々変更することにより付着量を変えた。ポリエーテル・ポリエステル共重合体が付与されたトウをドラム式カッターに供給して5mmに切断した。各々の例におけるポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量、水分率、水中分散性および裂断長の測定結果をまとめて表1に示す。」

(2)「【0020】ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.08重量%、水分率6重量%の実施例2およびポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.08重量%、水分率15重量%の実施例3では、ポリエステル繊維の水中分散性は極めて良好で、カッターでの水飛散も無く、抄紙後のポリエステル繊維紙の紙強力(裂断長)も優れた値を示した。ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.15重量%、水分率35重量%の実施例4では、トウ切断時少し水飛散が認められたがカッター運転に支障をきたすことはなかった。ポリエステル繊維の水中分散性は極めて良好で、ポリエステル繊維紙の紙強力(裂断長)も優れた値を示した。ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.08重量%、水分率3重量%の比較例2では、ポリエステル繊維の水中分散性は良好で、カッターでの水飛散も無かったが、抄紙後のポリエステル繊維紙の紙強力(裂断長)は極めて低い値となった。ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.15重量%、水分率45重量%の比較例3では、トウ切断時の水飛散が非常に多く、カッター運転が不能となった。」

(3)上記実施例2について、ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.08重量%、水分率6重量%であることより、水性分散液の濃度は、約1.3質量%(=0.08÷6×100)であると解される。

(4)上記事項を総合すると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「速度1150m/分で紡糸し、トウを5mmに切断する未延伸ポリエステル繊維の製造方法において、孔数が1192の紡糸口金を通して、単繊維の繊度が約1.3dtexの未延伸ポリエステル繊維を得た後、約20万dtexのトウとなし、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の濃度約1.3質量%の水性分散液中を通過させ、ドラム式カッターに供給して切断したこと。」

第5 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)甲1発明との対比、判断
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「紡糸速度1000m/min」は、本件発明1の「紡糸速度600m/分以上」に相当し、以下同様に、「繊維束を、速度1000m/minで3.2mm、5.0mm、10mm、または25mmの長さにカットする」は「紡糸速度以上の速度で繊維トウを35mm以下の長さにカットする」に、「捲縮がほどこされていない短繊維」は「無捲縮短繊維」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「孔数が1200個の口金を通して、単糸繊度が1.7デシテックスとなるように引き取り、繊維束は6錘分を集束し、ポリエーテル-ポリエステル共重合体が混合された水分散液を回転ローラーで付与し、ドラム式カッターでカットしたこと」は、本件発明1の「(I)紡糸直後の未延伸マルチフィラメント」を「複数本を束ねて」、「繊維トウとすること;(II)該束ねた繊維トウを収缶することなく連続してカットすること;(III)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントから繊維トウのカット前までに1か所以上のポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する工程を有すること」に相当する。
甲1発明の「繊維束」に「ポリエーテル-ポリエステル共重合体が混合された水分散液を回転ローラーで付与し、ドラム式カッターでカットした」ことと、本件発明1の「下記A?Cのいずれか一つの手法」「A.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、断面視で円弧形をなす湾曲部を含む液体付与装置を用い、前記繊維トウを、該湾曲部に接触させた状態で走行させながら該湾曲部から液状油剤を吐出させて該繊維トウに付与する工程を含み、抱き角を20°より大きく180°より小さくし、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウを液体付与装置の湾曲部に接触させる接触時間を0.001?0.05秒とする手法;B.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、平面部を含み該平面部の一部に開孔領域を設け、該開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウが液体付与装置の開孔領域を走行する通過時間を0.001?0.05秒とする手法;及びC.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を「満たす」こととは、「下記の手法」「未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する手法」を「満たす」ことである限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点1>?<相違点3>で相違する。

<一致点>
紡糸速度600m/分以上で紡糸し、該紡糸速度以上の速度で繊維トウを35mm以下の長さにカットする無捲縮短繊維の製造方法において、下記要件(I)?(III):
(I)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントを複数本を束ねて、繊維トウとすること;
(II)該束ねた繊維トウを収缶することなく連続してカットすること;及び
(III)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントから繊維トウのカット前までに1か所以上のポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する工程を有すること
を具備する手法であって、下記の手法を満たす無捲縮短繊維の製造方法:
未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する手法。

<相違点1>
本件発明1は、「合糸後に20000?85000dtexの繊維トウ」とするのに対して、甲1発明は、集束した繊維束が「孔数が1200個の口金を通して、単糸繊度が1.7デシテックスとなるように引き取り、繊維束は6錘分を集束し」たものである点。

<相違点2>
本件発明1は、「(IV)該カットの速度が1232m/分以上である」のに対して、甲1発明は、カットの速度が1000m/minである点。

<相違点3>
「未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する手法」について、本件発明1は、「下記A?Cのいずれか一つの手法」「A.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、断面視で円弧形をなす湾曲部を含む液体付与装置を用い、前記繊維トウを、該湾曲部に接触させた状態で走行させながら該湾曲部から液状油剤を吐出させて該繊維トウに付与する工程を含み、抱き角を20°より大きく180°より小さくし、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウを液体付与装置の湾曲部に接触させる接触時間を0.001?0.05秒とする手法;B.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、平面部を含み該平面部の一部に開孔領域を設け、該開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウが液体付与装置の開孔領域を走行する通過時間を0.001?0.05秒とする手法;及びC.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を「満たす」のに対して、甲1発明は、「繊維束」に「ポリエーテル-ポリエステル共重合体が混合された水分散液を回転ローラーで付与し、ドラム式カッターでカットした」ものである点。

(イ)まず、上記<相違点2>について検討する。
甲1発明の課題は、段落0003に記載されているように、「ポリエステル未延伸糸条を紡糸後直ちに、安定して、かつ正確にカット」することである。そして、甲1発明は、未延伸糸条を、紡糸後直ちにカットするものであるため、紡糸速度及びカット速度は、ともに1000m/分になっていると解される。
ここで、未延伸糸条を、紡糸後直ちにカットする甲1発明において、紡糸速度を変えずに、カット速度のみを上昇させることは、糸条が延伸されることになるため、技術的に困難である。さらに、紡糸速度及びカット速度の両方を上昇させるにしても、カット速度の上昇は、「安定して、かつ正確にカット」を行うという甲1発明の課題に反することであるから、本件発明1のように、カット速度を1232m/分以上とすることの動機が、甲1発明には存在しない。
また、甲2には、延伸速度を約300?6000m/分にしたこと(段落0007)が記載されているが、カット速度については記載されていない。もし仮に、甲2におけるカット速度が、延伸速度と同等の約300?6000m/分であったとしても、甲1発明においてカット速度を上昇させることは、「安定して、かつ正確にカット」を行うという甲1発明の課題に反することであるから、甲1発明におけるカット速度を甲2に記載の範囲とすることの動機が、甲1発明には存在しない。
したがって、本件発明1の上記<相違点2>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、<相違点1>及び<相違点3>について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

イ.本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?4についても同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)甲5発明との対比、判断
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「速度1150m/分で紡糸し」は、本件発明1の「紡糸速度600m/分以上で紡糸し」に相当し、同様に、「トウを5mmに切断する」は「繊維トウを35mm以下の長さにカットする」に相当する。
また、甲5発明の「無捲縮短繊維」と本件発明1の「未延伸ポリエステル繊維」とは、「繊維」である限りで一致する。
また、甲5発明の「孔数が1192の紡糸口金を通して、単繊維の繊度が約1.3dtexの未延伸ポリエステル繊維を得た後、約20万dtexのトウとなし、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の濃度約1.3質量%の水性分散液中を通過させ、ドラム式カッターに供給して切断した」ことは、本件発明1の「(I)紡糸直後の未延伸マルチフィラメント」を「複数本を束ねて」、「繊維トウとすること;(II)該束ねた繊維トウを収缶することなく連続してカットすること;」及び「(III)紡糸直後の未延伸マルチフィラメントから繊維トウのカット前までに1か所以上のポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する工程を有すること」に相当する。
甲5発明の「トウ」を「ポリエーテル・ポリエステル共重合体の濃度約1.3質量%の水性分散液中を通過させ」ることと、本件発明1の「下記A?Cのいずれか一つの手法」「A.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、断面視で円弧形をなす湾曲部を含む液体付与装置を用い、前記繊維トウを、該湾曲部に接触させた状態で走行させながら該湾曲部から液状油剤を吐出させて該繊維トウに付与する工程を含み、抱き角を20°より大きく180°より小さくし、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウを液体付与装置の湾曲部に接触させる接触時間を0.001?0.05秒とする手法;B.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、平面部を含み該平面部の一部に開孔領域を設け、該開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウが液体付与装置の開孔領域を走行する通過時間を0.001?0.05秒とする手法;及びC.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を「満たす」こととは、「下記の手法」「未延伸糸に関し、親水性油剤を付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を「満たす」ことである限りで一致する

そうすると、本件発明1と甲5発明とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点4>?<相違点7>で相違する。

<一致点>
紡糸速度600m/分以上で紡糸し、繊維トウを35mm以下の長さにカットする繊維の製造方法において、
紡糸直後の未延伸マルチフィラメントを複数本を束ねて、繊維トウとすること;
該束ねた繊維トウを収缶することなく連続してカットすること;及び
紡糸直後の未延伸マルチフィラメントから繊維トウのカット前までに1か所以上のポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤を付与する工程を有すること
を具備する手法であって、下記の手法を満たす繊維の製造方法:
未延伸糸に関し、親水性油剤を付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法。

<相違点4>
本件発明1は、紡糸速度以上の速度で繊維トウをカットし、カットの速度が1232m/分以上であるのに対して、甲5発明は、切断の速度が不明である点。

<相違点5>
「繊維」に関して、本件発明1は、無捲縮短繊維の製造方法であるのに対して、甲5発明は、製造される繊維が無捲縮短繊維か不明である点。

<相違点6>
本件発明1は、合糸後の繊維トウが20000?85000dtexであるのに対して、甲5発明は、トウが20万dtexである点。

<相違点7>
「未延伸糸に関し、親水性油剤を付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」について、本件発明1は、「下記A?Cのいずれか一つの手法」「A.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、断面視で円弧形をなす湾曲部を含む液体付与装置を用い、前記繊維トウを、該湾曲部に接触させた状態で走行させながら該湾曲部から液状油剤を吐出させて該繊維トウに付与する工程を含み、抱き角を20°より大きく180°より小さくし、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウを液体付与装置の湾曲部に接触させる接触時間を0.001?0.05秒とする手法;B.延伸糸に関し、前記親水性油剤を付与する工程が、平面部を含み該平面部の一部に開孔領域を設け、該開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、開孔部から吐出される液体の流速を0.2?3.0m/秒とし、繊維トウが液体付与装置の開孔領域を走行する通過時間を0.001?0.05秒とする手法;及びC.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」を「満たす」のに対して、甲5発明は、「トウ」を「ポリエーテル・ポリエステル共重合体の濃度約1.3質量%の水性分散液中を通過させ」る点。

(イ)上記<相違点6>及び<相違点7>について検討する。
甲5発明の課題は、段落0003に記載されているように、「ポリエステル繊維紙を製造する際、抄紙工程での水中分散性を損なうことなく、接着性に優れた抄紙用ポリエステル未延伸繊維を提供すること」である。そして、甲5発明は、当該課題を解決するために、請求項1及び段落0007に記載されているように、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の付着量を、所定の範囲に特定している。
ここで、甲5発明において、トウの繊度を変更すること、及び、水性分散液を付与する方法を湾曲部を含む液体付与装置、平面部を含む液体付与装置、またはオイリングローラーに変更することは、上記甲5発明の課題を解決するために所定の範囲に調整されていたポリエーテル・ポリエステル共重合体の付着量を変更することであるから、上記甲5発明の課題を解決することに反する
したがって、本件発明1の上記<相違点6>及び<相違点7>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、<相違点4>?<相違点5>について検討するまでもなく、甲5発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

イ.本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?4についても同様に、甲5発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.理由2(サポート要件)
(1)本件特許の課題は、本件特許明細書の段落0005の記載によると、「水中分散性に優れた無捲縮短繊維をより効率的に製造する方法を提供すること」である。そして、本件特許の課題を解決するための手段として、本件発明1には、「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」と記載されている。
ここで、本件特許明細書の実施例6には、口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントに対し、オイリングローラーで、エマルジョン油剤(紡糸油剤)を付与し、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液のエマルジョン濃度を1質量%として用意したこと、が記載されており(段落0117)、オイリングローラーで、エマルジョン油剤(紡糸油剤)が付与される、口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントは、未延伸糸であると解される。
したがって、本件発明1における上記構成は、実施例6に開示されている。
よって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)本件特許の課題は、本件特許明細書の段落0005の記載によると、「水中分散性に優れた無捲縮短繊維をより効率的に製造する方法を提供すること」である。
そして、本件特許明細書の段落0021には、「従来は、短繊維を製造する工程で、紡糸後に、収缶する工程があったため、マルチフィラメントがばらける問題があり、収束性の高い油剤を使用しなければならず、その結果、湿式不織布に必要な水中分散性が十分ではなかった。しかしながら、本発明の収缶工程等を省略し、紡糸からカットまでを連続とする製造方法とすることで、収缶時に生じる上記のマルチフィラメントがばらける問題が回避でき、収束性が従来より多少劣りながらも、本発明で使用する親水性油剤の収束性で生産が可能となり、親水性油剤が付与する抄紙時の水中分散性の向上と相俟って、抄紙品位が大きく向上することとなった。」と記載されている。
そうすると、上記課題を解決するための手段は、収缶工程を省略することであって、当該手段により、従来使用していた収束性の高い油剤の代わりに、収束性が従来よりも多少劣る親水性油剤を使用可能にしたことであり、前記手段は、本件発明1において特定されている。
よって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

3.理由3(明確性)
(1)本件特許の請求項1には、「紡糸直後の未延伸マルチフィラメントをそのまま、または複数本を束ねて、合糸後に20000?85000dtexの繊維トウとすること」と記載されている。ここで、「紡糸直後の未延伸マルチフィラメントをそのまま」は、「束ねて」に掛かっているとすると、上記記載は、「紡糸直後の未延伸マルチフィラメントをそのまま」「束ねて、合糸後に20000?85000dtexの繊維トウとすること」、または「紡糸直後の未延伸マルチフィラメントを」「複数本を束ねて、合糸後に20000?85000dtexの繊維トウとすること」との意味と理解される。そして、前記理解は、本件特許明細書の段落0025の記載とも整合する。
よって、本件発明1?4は、明確である。

(2)本件特許の請求項1における、「延伸糸に関し」との記載は、延伸された糸に関係することを意味しており、その記載自体は明確である。そして、前記記載は、本件特許明細書の段落0013?0014に記載された材料よりなる糸に対して、段落0078に記載されているように、「紡糸からカットの間で、目的に応じて延伸を施す」ことと整合している。
よって、本件発明1?4は、明確である。

(3)本件特許の請求項1における、「未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し」との記載において、「紡糸直後」とは、紡糸したすぐ後のことを意味していると理解でき、その記載自体は明確である。
そして、前記理解は、本件特許明細書の段落0021における、「口金から吐出された溶融ポリマーを冷却固化後、繊維トウを束ねることなく速やかに親水性油剤を付与することが好ましい」との記載とも整合する。
よって、本件発明1?4は、明確である。

4.理由4(実施可能要件)
(1)本件発明1には、「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」と記載されている。
ここで、本件特許明細書の実施例6には、口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントに対し、オイリングローラーで、エマルジョン油剤(紡糸油剤)を付与し、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液のエマルジョン濃度を1質量%として用意したこと、が記載されている。
したがって、本件発明1における上記構成は、実施例6に開示されている。
よって、本件発明1?4について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(2)本件特許の請求項1には、「紡糸速度600m/分以上で紡糸し、該紡糸速度以上の速度で繊維トウを35mm以下の長さにカットする無捲縮短繊維の製造方法において、下記要件(I)?(IV)・・・(IV)該カットの速度が1232m/分以上であることを具備する手法であって、下記A?Cのいずれか一つの手法を満たすことを特徴とする無捲縮短繊維の製造方法・・・C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」と記載されている。
ここで、本件特許明細書の実施例6には、紡糸速度750m/分で紡糸し、工程速度2,482m/分で繊維トウを5mmの長さにカットするものにおいて、口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントに対し、オイリングローラーで、エマルジョン油剤(紡糸油剤)を付与し、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液のエマルジョン濃度を1質量%として用意したこと、が記載されており、前記口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントは、未延伸糸であると解される。
したがって、本件発明1における上記構成は、実施例6に開示されている。
よって、本件発明1?4について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

5.理由5(新規事項)
令和2年10月20日提出の手続補正書により、請求項1に、「C.未延伸糸に関し、オイリングローラーを用い、親水性油剤を紡糸直後に付与し、ポリアルキレングリコール誘導体を含む親水性油剤の濃度を1?5質量%とする手法」との記載が追加された。
ここで、願書に最初に添付された明細書の実施例6には、口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントに対し、オイリングローラーで、エマルジョン油剤(紡糸油剤)を付与し、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液のエマルジョン濃度を1質量%として用意したこと、が記載されており、前記口金吐出直後の未延伸マルチフィラメントは、未延伸糸であると解される。また、水性分散液の濃度を、1%から5%に上げて実施したことも記載されている。また、濃度が1%から5%の間の値をとり得ることも、明細書の記載から自明な事項である。
よって、上記請求項1に係る補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-11-12 
出願番号 特願2018-564690(P2018-564690)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D01D)
P 1 651・ 55- Y (D01D)
P 1 651・ 537- Y (D01D)
P 1 651・ 536- Y (D01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤井 眞吾
矢澤 周一郎
登録日 2020-12-10 
登録番号 特許第6807960号(P6807960)
権利者 帝人フロンティア株式会社
発明の名称 無捲縮短繊維の製造方法、及び得られた無捲縮短繊維を含む湿式不織布  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 中島 勝  

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