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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1379892
異議申立番号 異議2021-700896  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-15 
確定日 2021-11-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6844882号発明「刻印装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6844882号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6844882号の請求項1及び2に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、令和2年11月9日に出願され、令和3年3月1日にその特許権の設定登録がされ、令和3年3月17日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年9月15日に、特許異議申立人 有角 幸子(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1及び2に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6844882号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
建築用の仮設資材として使用され、パイプ本体と前記パイプ本体の両端に固定された爪部を有する手すりまたはブラケットの所望の位置にレーザー光を照射して刻印する刻印装置であって、
前記手すりまたは前記ブラケットの刻印位置を決める位置決め装置と、前記刻印位置にレーザー光を照射して刻印するレーザー照射装置とを備え、
前記位置決め装置は、
ボルトを差し込むことが可能な複数個の取付穴が形成された作業台と、
前記作業台上に固定され、一方向に延びる第1アングルと、
前記第1アングルの端部で前記第1アングルと直交し、かつ前記作業台上に固定された第2アングルと、
前記第2アングルと平行に、かつ前記取付穴に前記ボルトを抜き差しすることによって取り外し可能に取り付けられた補助アングルとを含み、
前記手すり又は前記ブラケットの前記パイプ本体を前記第1アングルに押し当てるとともに、前記爪部を押し当てたときに、前記パイプ本体の刻印する位置が前記レーザー照射装置の照射部の直下に配置されるように、前記第2アングルまたは前記補助アングルを前記作業台に取り付けて、前記手すり又は前記ブラケットの位置決めを行った後に、前記パイプ本体の表面に前記レーザー照射装置からレーザー光を照射することによって識別情報を刻印する、刻印装置。
【請求項2】
前記手すりの前記パイプ本体の両端に取り付けられた前記爪部をそれぞれ挿入したときに、前記パイプ本体の刻印する位置が前記レーザー照射装置の前記照射部の直下に位置するように前記作業台に設けられた差込み穴、および、前記第1アングルに前記ブラケットの前記パイプ本体の上面を押し当てたときに、前記パイプ本体の上面に形成された突起部が嵌まるように形成された前記第1アングルの切込み部のうち少なくともいずれかが設けられている、請求項1に記載の刻印装置。」

第3 申立理由の概要
本件発明1及び2は、本件の出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであり、本件発明1及び2に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書 「3.3 申立ての根拠」及び「3.4 具体的理由」)。


第4 証拠について
1 証拠一覧
申立人が申立書に添付して提出した証拠は、甲第1号証ないし甲第9号証(以下、「甲1」等という。)であり、以下のとおりである。

甲1: 特開昭61-255787号公報
甲2: 特開昭62-242178号公報
甲3: 特開2003-145284号公報
甲4: 特開2006-174996号公報
甲5: 特開2008-113853号公報
甲6: 特開昭61-38838号公報
甲7: 特開2019-94618号公報
甲8: 登録実用新案第3191622号公報
(平成26年7月3日発行)
甲9: 実願平4-28745号(実開平5-86430号)
のCD-ROM

2 各証拠の記載
(1)甲1
ア 記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

「以下に本発明の好適一実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図は本発明を実施する装置の全体正面図、第2図は同装置の一部破断側面図、第3図は同装置の一部平面図である。
符号(1)はレーザ刻印装置であり、内部には不図示のレーザ発振器、集光光学系及び光路可変光学系等を備えてなり、このレーザ刻印装置(1)の近傍にはワーク(3)の外形寸法等を測定する測定装置(2)が設けられている。
この測定装置(2)は支柱(4),(4)に架設されたレール(5)に沿って移動可能とされ、ワーク(3)を検出してその寸法等を測定する検出機構(6)と、ワーク(3)の測定時にワーク(3)を支持する支持装置(7)と、ワーク(3)を移動コンベア(9)から支持装置(7)までレール(5)に沿って搬送する搬送機構(10)とからなる。
検出機構(6)はレール(5)(Y方向)に沿って移動可能とされた支持部(11)と、この支持部(11)に上下方向(Z方向)に移動可能に支持されたアーム取付部(12)と、このアーム取付部(12)にこれと直交する方向(X方向)に移動可能とされ、その両側部に相対向すべく検出器(13),(13)を設けたアーム(14)とからなり、これらは夫々の適所に設けられたラック(15),(16),(17)とこれらに噛合され、不図示のモータにより駆動されるビニオンにより移動せしめられる。
支持装置(7)はワーク(3)の両端部のセンターを支持する支持部(18)と、この支持部を載置する支持台(19)とからなり、この支持台(18)はモータ(20)等からなる機構により支持部(18)を適宜に左右上下に移動調整することができ、第2図で示す如く、ワーク(3)を検出器(13),(13)の中間部に支持する。
搬送機構(10)はレール(5)に対し移動可能に支持される支持部(21)と、この支持部(21)に対し上下動可能に取り付けられ、下端部(22a)でワーク(3)を握持するワーク支持部(22)とからなり、この支持部(21)及びワーク支持部(22)は前記検出機構(6)の支持部(11)及びアーム取付部(12)と同様な機構により夫々レール(5)及び支持部(21)に対して移動せしめられる。
ところで第2図において符号(23)で示す演算処理装置はメモリ、CPU、入出力装置等を備え、検出器(13),(13)から得られる検出信号に基づいてレーザ刻印装置(1)を作動させ、ワーク(3)が支持装置(7)に支持された状態において、該ワーク(3)に刻印を行わしめるものである。」(第2頁左上欄下から2行-右下欄6行)

イ 甲1に記載された発明
上記アにおいて、「レーザ刻印装置(1)」による「刻印」が、「ワーク(3)が支持装置(7)に支持された状態において」行われること、及び、当該「支持装置(7)」は「測定装置(2)」が有するものであることから、「ワーク(3)」への刻印を行う装置は、全体として「支持装置(7)」を有する「測定装置(2)」及び「レーザ刻印装置(1)」を含むと理解されることを踏まえると、上記アより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「レーザ刻印装置(1)、及び、レーザ刻印装置(1)の近傍に設けられ、ワーク(3)の外形寸法等を測定する測定装置(2)を含む、ワーク(3)への刻印を行う装置であって、
測定装置(2)は、レール(5)に沿って移動可能とされ、ワーク(3)を検出してその寸法等を測定する検出機構(6)と、ワーク(3)の測定時にワーク(3)を支持する支持装置(7)とを有し、
支持装置(7)は、ワーク(3)の両端部のセンターを支持する支持部(18)と、この支持部を載置する支持台(19)とからなり、
レーザ刻印装置(1)を作動させ、ワーク(3)が支持装置(7)に支持された状態において、該ワーク(3)に刻印を行わしめる、
ワーク(3)への刻印を行う装置。」

(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「第1図において、2個のピストンリング1,1’は夫々ブツシヤ-2により、送り量lだけ送られ、2台の位置決め装置3,3’の中に送り込まれて、位置決め装置3,3’に設けたばね4、例えば板ばねにより所定位置に固定保持される。図示しないレーザ装置、例えばYAGレーザ装電の1個の光源よりのレーザ光線5は、ミラー6aにより第1図の右方向へと向けられ、次いで、ミラー6a’により紙面に直交する方向に向け、位置決め装置3上のリング1のマーキング位置8に照射される。ミラー6を図示しないコンピユータと連動させて、マーキング位置8に刻印される文字、図形に合致する動きとさせる。
ピストンリング1の刻印が終了すると、ミラー6aが上方又は下方に移動し、レーザ光線5は、ミラー6bにより右方向へ向けられ、次いで、ミラー6b’により紙面に直交する方向に向け、位置決め装置3’上のリング1’のマーキング位置8に照射される。
ミラー6bは図示しないコンピユータと連動し、マーキング位置8に刻印される文字、図形に対応する動きをする。このピストンリング1’のマーキング中、新たなピストンリング1が位置決め装置3上に配され、前述したマーキングを受けるための準備を完了させる。これら作業を繰返しピストンリングに連続的に刻印をしていく。」(第2頁左上欄5行-右上欄11行)

(3)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0012】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について図1?図4を用いて説明する。まず、製造番号印字装置の構成を図2、図3について説明する。製造番号印字装置1は、供給されるモールドケース等の被印字体(ワーク)11にレーザ光を放射しして印字する半導体を使用したレーザマーカ2と、レーザマーカ2を支持すると共にワーク11をレーザマーカ2の下方の印字位置に供給するワーク供給治具3と、レーザマーカ2及びワーク供給治具3を制御するシーケンサ4と、レーザマーカ2に電源を供給する電源ボックス5と、印字するデータフォーマットをレーザマーカ2に登録するデータ入力用パソコン9等で構成されている。
【0013】上記ワーク供給治具3は、上面にワークを固定するワークガイド3dを備えたワーク載置部3cを有するトレー式作業台3bと、レーザマーカ2のレーザ光出射窓に対応するレーザ入射窓(図示省略)とトレー式作業台3bをレーザマーカ2下側の印字位置に案内する作業台案内孔3hとを有するワーク供給治具本体3aと、トレー式作業台3bをワーク供給治具本体3aに出し入れする内部エアーシリンダ(図示省略)とにより構成されている。」

(4)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0035】
次に、各種回路基板31?43に識別符号S1を刻印する際に、回路基板31?43の位置決めを行い、且つ、水平に設置する位置決め治具61及び位置決めされた回路基板31?43に識別符号S1を刻印するレーザマーキング装置62について説明する。まず、レーザマーキング装置62について図11に従って説明する。なお、図11では、電源基板35を位置決めしている様子を示している。」

(5)甲5
甲5には、次の事項が記載されている。
「【0010】
以下、最良の実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明に係る二次元コードの印字装置Aの平面図であり、図2は、図1のX-X線断面矢視図であり、図3は、図1のY-Y線断面矢視図である。図1ないし図3において、本発明に係る二次元コード印字装置Aは、表面にセル板Sが貼り付けられたパチンコ面板Pを搬送させるためのローラコンベア装置Dと、当該ローラコンベア装置Dにより搬送されるパチンコ面板Pを一時停止させて、表面のセル板Sのコーナー部に二次元コードCをレーザ印字するためのレーザ印字ユニットEと、前記パチンコ面板Pの搬送方向Q、及びこれと直交する水平方向Rとの双方に対するパチンコ面板Pの各位置決めを行って、前記レーザ印字ユニットEによる前記セル板Sの特定位置に対する二次元コードCの印字を可能にするために、前記ローラコンベア装置Dに組み込まれる第1及び第2の各位置決め装置B_(1),B_(1)とを備えている。」

(6)甲6
甲6には、次の事項が記載されている。
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、ワークを工作機械等へ位置決めして取り付けるアングルやクランプ等の治具エレメントを定盤にブロック的に組合わせて固定するブロック治具装置に関する。
〔従来の技術〕
従来この種のブロック治具装置としては、第5図に示すような構成のものが知られている。即ち肉厚の金属板からなる定盤1にリーマ穴1aとネジ穴1bが交互に一定の間隔をもって設けられており、この定盤1上には例えばL形アングル2を載置すると共に、L形アングル2に穿設した透孔2aにボルト3を挿入して、定盤1のネジ穴1bに螺着している。」(第1頁左欄下から5行-右欄9行)

(7)甲7
甲7には、次の事項が記載されている。
「【0022】
本発明の実施形態にかかる仮設足場用部材は、本体10と構造体20とで構成される。
本体10は、仮設足場用部材の本体である。
構造体20は、本体に追加される構造である。
本体10は、棒状部11と連結部12とで構成される。
本体10は、棒状部11と1対の連結部12とで構成されてもよい。
【0023】
棒状部11は、管状の鋼材でできた部分である。
棒状部11は、円管状の鋼材でできた部分であってもよい。
棒状部11は、他の輪郭をもつ管状の鋼材でできた部分であってもよい。
【0024】
連結部12は、棒状部11の端部に固定され他の仮設足場用部材に連結できる部分である。
連結部12は、棒状部11の端部に固定され他の仮設足場用部材の被連結部に連結できる部分である。
連結部12は、くさび形状をしていてもよい。
被連結部は上から見てコの字状のコマであってもよい。
1対の連結部12は、棒状部11の両端部に固定され他の仮設足場用部材に連結できる部分である。」

(8)甲8
甲8には、次の事項が記載されている。
「【0019】
くさび受け部材20は、図1?3に示すように、上面視略コ字状のくさび受け本体21を有し、足場支柱1の周囲に90°ずつ4箇所配置され、これらを1組として足場支柱1の軸方向に適宜の間隔で複数設けられている。このくさび受け部材20では、図3に示すように、くさび受け本体21の内側面22と、足場支柱1の外周面1aとで、上側連結部材13または下側連結部材14が挿入可能なポケット部23が形成される。また、くさび受け本体21は、足場支柱1の周囲にそれぞれ同一高さで配置されるように構成してもよいが(図示せず)、実施例では隣接するくさび受け本体21,21同士が段違い状に配置されている。なお、図示のくさび受け本体21は、足場支柱1の外周面1aに溶接等により固着されている。
【0020】
くさび受け部材20では、図2?4に示すように、くさび受け本体21の外側面25に、管理記号40が複数刻印される表示面30が形成されている。この表示部30は、図4に示すように、管理記号40で構成される管理情報50が表示される管理用表示部31を有する。なお、管理記号40とは、漢字,ひらがな,カタカナ,数字,アルファベット等の適宜の文字、図形,模様,ロゴ等の適宜の図柄等で構成される記号である。」

(9)甲9
甲9には、次の事項が記載されている。
「 【0006】
【実施例】
本考案の一実施例を図1?図4を用いて説明する。図において1は円筒形部材、2はピン、3は円筒形部材1を支持する定板、4はベース6に定板3を取付るL型部材、5はワーク11の高さを決める受けボルトである。
【0007】
図1、図2においてワーク11の外形形状の直線部分に適宜円筒形部材1を配置し、ワーク11の位置を固定する。円筒形部材1の高さ及び位置の調整はL型部材4の長穴8、9によりワーク11に合せ適宜行う。またワーク11の水平度は受けボルト5の位置及び高さの調整により行う。
【0008】
上記のように構成されたワーク固定装置では、図3に示すような簡便な固定ユニットによりワーク11の固定が容易にできると共にワーク11の移動と共に円筒形部材1が回転するのでワーク11のリセット、セットが容易になり更に円筒形部材1が耐摩耗性弾性部材により成形されているのでワーク11の表面を傷つける可能性が低くなり、またL字部材4に設ける2個の固定用の取付穴を長穴8、9としたので形状の異なるワーク11に対応して固定ユニットを調節することができる。」


第5 当審の判断
1 本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「レーザ刻印装置(1)」は、本件発明1における「レーザー光を照射して刻印するレーザー照射装置」に相当する。
甲1発明において、「刻印」が行われる「ワーク(3)」と、本件発明1において、「刻印」が行われる、「建築用の仮設資材として使用され、パイプ本体と前記パイプ本体の両端に固定された爪部を有する手すりまたはブラケット」とは、「刻印対象部材」という点で共通する。
甲1発明における「支持装置(7)」は、「ワーク(3)が支持装置(7)に支持された状態において、該ワーク(3)に刻印を行わしめる」から、刻印されるワーク(3)が支持装置(7)に支持されることで刻印位置が定まることを踏まえると、本件発明1における「前記手すりまたは前記ブラケットの刻印位置を決める位置決め装置」と、「刻印対象部材の刻印位置を決める位置決め装置」という点で共通する。また、甲1発明において、「レーザ刻印装置(1)を作動させ、ワーク(3)が支持装置(7)に支持された状態において、該ワーク(3)に刻印を行わしめる」構成は、本件発明1において、「位置決めを行った後」に、「前記レーザー照射装置からレーザー光を照射する」ことによって「刻印する」構成に相当する。
甲1発明における「ワーク(3)への刻印を行う装置」は、本件発明1における「刻印装置」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲1発明とは、
「刻印対象部材の刻印位置を決める位置決め装置と、前記刻印位置にレーザー光を照射して刻印するレーザー照射装置とを備え、
位置決めを行った後に、前記レーザー照射装置からレーザー光を照射することによって刻印する、刻印装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1においては、
a)刻印対象部材が、「建築用の仮設資材として使用され、パイプ本体と前記パイプ本体の両端に固定された爪部を有する手すりまたはブラケット」であり、刻印対象部材に対して「レーザー光を照射して刻印」が行われる「所望の位置」は、「前記パイプ本体の表面」であり、
b)上記a)の刻印対象部材を位置決めする「位置決め装置」が、「ボルトを差し込むことが可能な複数個の取付穴が形成された作業台と、前記作業台上に固定され、一方向に延びる第1アングルと、前記第1アングルの端部で前記第1アングルと直交し、かつ前記作業台上に固定された第2アングルと、前記第2アングルと平行に、かつ前記取付穴に前記ボルトを抜き差しすることによって取り外し可能に取り付けられた補助アングルと」を含んでおり、
c)「位置決め装置」が備える上記b)の「第1アングル」、「第2アングル」及び「補助アングル」は、「前記手すり又は前記ブラケットの前記パイプ本体を前記第1アングルに押し当てるとともに、前記爪部を押し当てたときに、前記パイプ本体の刻印する位置が前記レーザー照射装置の照射部の直下に配置されるように、前記第2アングルまたは前記補助アングルを前記作業台に取り付けて、前記手すり又は前記ブラケットの位置決めを行」うことで、「刻印位置を決める」ものであるのに対し、
甲1発明においては、上記a)ないしc)の構成を有さない点。

<相違点2>
刻印装置が刻印する内容について、
本件発明1においては、「識別情報」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「識別情報」とは特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について判断する。

a 甲2ないし甲5
甲2ないし甲5には、上記第4の2(2)ないし(5)に摘記した事項が記載されており、刻印を行う際に刻印対象部材を位置決めすることが示されている。
しかしながら、甲2ないし甲5においては、刻印対象部材及び刻印を行う位置が、いずれも上記相違点1のa)に係る本件発明1の構成とは異なっており、刻印対象部材を位置決めする装置について、上記相違点1のb)及びc)に係る本件発明1の構成を有するものもない。そのため、甲2ないし甲5は、甲1発明において上記相違点1に係る本件発明1の構成に至ることを示唆するものではない。

b 甲6
甲6には、上記第4の2(6)に摘記した事項が記載されているが、甲6の記載は、ワークの位置決めにおいて、定盤1上に螺着されるL形アングル2が使用されることを示すにとどまり、上記相違点1のb)に係る「作業台上に固定され、一方向に延びる第1アングルと、前記第1アングルの端部で前記第1アングルと直交し、かつ前記作業台上に固定された第2アングルと、前記第2アングルと平行に、かつ前記取付穴に前記ボルトを抜き差しすることによって取り外し可能に取り付けられた補助アングル」という構成を示すものではない。
また甲6は、上記相違点1のb)に係る「作業台」、「第1アングル」、「第2アングル」及び「補助アングル」について、上記相違点1のa)に係る「建築用の仮設資材として使用され、パイプ本体と前記パイプ本体の両端に固定された爪部を有する手すりまたはブラケット」の「前記パイプ本体の表面」を刻印位置とするために、上記相違点1のc)に係る位置決めを行うように構成することを、記載あるいは示唆するものでもない。

c 甲7
甲7には、上記第4の2(7)に摘記した事項が記載されているが、棒状部11の両端部にくさび形状の連結部12を有する仮設足場用部材が示されているのみであり、上記相違点1のa)に係る構成のように、「建築用の仮設資材として使用され、パイプ本体と前記パイプ本体の両端に固定された爪部を有する手すりまたはブラケット」の「前記パイプ本体の表面」を刻印位置とすること、及び、刻印のための位置決め装置について上記相違点1のb)及びc)に係る構成を採用することを、記載あるいは示唆するものではない。

d 甲8
甲8には、上記第4の2(8)に摘記した事項が記載されているが、甲8において刻印がされるのは「足場支柱1の外周面1a」に「固着」される「上面視略コ字状のくさび受け本体21」の「外側面25」に形成された「表示部30」であるから、上記相違点1のa)に係る構成のように、「手すりまたはブラケット」の「前記パイプ本体の表面」ではない。また甲8は、刻印の際に用いる位置決め装置について、上記相違点1のb)及びc)に係る構成を採用することを、記載あるいは示唆するものではない。

e 甲9
甲9には、上記第4の2(9)に摘記した事項が記載されているが、甲9の記載は、ワーク固定装置において、ベース6上に位置の調整ができるL型部材4を用いることを示すにとどまり、甲6について上記bに指摘したと同様に、上記相違点1のa)ないしc)に係る本件発明1の構成を記載あるいは示唆するものではない。

f 甲1ないし甲5を周知技術とする申立人の主張について
申立人は申立書において、甲1ないし甲5に示されるとおり、「ワークの刻印位置を決める位置決め装置と、刻印位置にレーザー光を照射して刻印するレーザー照射装置とを備える刻印装置」は、周知技術であり、本件発明1におけるその余の構成は、甲6ないし甲8に記載の発明を適用することにより容易に発明をすることができた旨を主張している(申立書 「(3) 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比 (3.1)本件特許発明1」)。
しかしながら、甲1ないし甲5における刻印対象部材及び刻印を行う位置は、いずれも上記相違点1のa)に係る本件発明1の構成とは異なっており、また甲1ないし甲5は、刻印対象部材を固定する装置について、上記相違点1のb)及びc)に係る本件発明1の構成を示すものではないから、刻印を行う際に刻印対象部材を位置決めすることが周知技術であることを踏まえて検討しても、甲1ないし甲5より、上記相違点1に係る本件発明1の構成が記載あるいは示唆されるものではない。
また、その余の証拠である甲6ないし甲9も、上記bないしeに指摘したとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成を採用することを、記載あるいは示唆するものではない。

(イ)小括
上記(ア)aないしeのとおり、甲1発明において上記相違点1に係る本件発明1の構成に至ることは、甲2ないし甲9に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到することができたとは言えない。
また、上記(ア)fのとおり、刻印を行う際に刻印対象部材を位置決めすることが周知技術であることを踏まえて、甲1ないし甲9の記載を検討しても、本件発明1が有する、甲1発明との上記相違点1に係る構成について、甲1ないし甲9に記載される事項より、当業者が容易に想到することができたとは言えない。
そして、上記相違点1に係る本件発明1の構成について、甲1ないし甲9より容易に想到することができたものではないから、その余の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1ないし甲9に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を有し、さらに限定を加えたものである。
上記(1)のとおり、本件発明1は、甲1ないし甲9に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を有する本件発明2も、甲1ないし甲9に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び提出された証拠によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-11-15 
出願番号 特願2020-186364(P2020-186364)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
長井 真一
登録日 2021-03-01 
登録番号 特許第6844882号(P6844882)
権利者 株式会社刻守
発明の名称 刻印装置  

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