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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A44C
審判 一部無効 特174条1項  A44C
管理番号 1380176
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-23 
確定日 2021-10-19 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5575340号発明「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5575340号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10について訂正することを認める。 特許第5575340号の請求項1、3、6、7、8、11に係る特許を維持する。 特許第5575340号の請求項10に係る特許についての無効理由を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5575340号に係る出願は、2011年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年11月5日、米国)を国際出願日とする特願2013−537663号の一部を平成26年1月29日に新たな出願としたものであって、平成26年7月11日に特許権の設定登録がなされた。
請求人株式会社ハナヤマ(以下、「請求人」という。)により平成27年2月23日に無効2015−800035号の無効審判の請求(以下、「一次無効」という。)がなされ、平成27年6月5日に被請求人ング、チェン チューン(以下、「被請求人」という。)により訂正請求書が提出され、平成28年1月6日に「請求のとおり訂正を認める。本件審判請求は、成り立たない。」との審決がなされ、これに対し、知的財産高等裁判所において請求棄却の判決(平成28年(行ケ)第10036号、平成28年11月28日)があり、最高裁判所において上告受理申立不受理の決定(平成28年(行ノ)第10056号、平成29年8月25日)があった。
請求人により平成30年2月23日に、本件請求項1、3、6、7、8、10、11に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明6」、「本件発明7」、「本件発明8」、「本件発明10」、「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)の特許について本件の無効審判の請求(以下、「二次無効」という。)がなされ、被請求人より平成30年6月6日付で答弁書が提出された。
その後、平成30年7月19日付で審理事項通知書が通知され、請求人より平成30年8月23日付口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成30年8月23日付口頭審理陳述要領書が提出され、平成30年9月5日付で審理事項が通知され、平成30年9月13日に口頭審理が行われ、請求人より平成30年9月25日付上申書、平成30年10月12日付上申書及び平成30年11月9日付上申書が提出され、被請求人より平成30年10月12日付上申書及び平成30年10月24日付上申書が提出され、平成31年2月27日付で審決の予告が通知され(送達日:平成31年3月11日)、これに対し特許権者より令和元年5月17日付で上申書及び訂正請求書が提出されたものである。


2.令和元年5月17日付の訂正請求による訂正の適否
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
a 訂正事項は、訂正前の請求項10を削除するというものであるので、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 上記aに記載したとおり、訂正事項は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
c 上記aの理由から明らかなように、訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
d 訂正事項は、訂正前の請求項10を削除するというものであるので、訂正前の請求項10に係る訂正事項に関して、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)むすび
したがって、本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項〜第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。


3.本件発明
本件特許の特許請求の範囲は、令和元年5月17日付の訂正請求により訂正した特許請求の範囲の記載及び本件特許明細書等からみて、その特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
前記リンクはブルニアンリンクであり、前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている
装置。
【請求項2】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
開口部が、上部部分からベースに向けて伸びているスロットである、装置。
【請求項3】
上部部分が、複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
複数のピンの各々が、上部部分から離された下部フレアー状部分と、リンクを保持するための中央部分を含む、装置。
【請求項5】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、装置。
【請求項6】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
前記リンクはブルニアンリンクであり、前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている、
キット。
【請求項7】
望ましい向きに保持されたリンクを、複数のピンの少なくとも1つの上で操作するためのフックツールを含む、請求項6記載のキット。
【請求項8】
一連のリンクの端部を接続するための少なくとも1つのクリップを含み、該クリップは、各リンクをクリップの内側エリア内に捕捉するための内向きに面した端部を含む、請求項6記載のキット。
【請求項9】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
開口部が、上部部分からベースに向けて伸びているスロットである、キット。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
上部部分が、複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む、請求項6記載のキット。
【請求項12】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
複数のピンの各々が、上部部分から離された下部フレアー状部分と、リンクを保持するための中央部分を含む、キット。
【請求項13】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、キット。
【請求項14】
リンクされたアイテムを作成するためのキットを組み立てる方法であって、
ピンの間に望ましい空間的な関係を規定するように、複数のピンをサポートするステップと、
複数のピンの1つ上にサポートされたリンクをつかむためにフックツールのためのアクセスを提供するように、複数のピンの各々上にアクセス開口部を提供するステップと、
前記リンクされたアイテムのための複数の弾性バンドを、望ましいパターンに従って複数のピンへ提供するステップと、
一旦望ましいパターンが完成されるとリンクを一緒に保持するための複数のクリップを提供するステップと、
を含む方法。
【請求項15】
複数のピンの1つ上にサポートされたリンクを操作するためのアクセス開口部中への挿入のためのフックツールを提供するステップを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部とを含み、且つ、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、
装置。」

なお、請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除されたので、請求項10に係る無効理由は、無効理由の対象が存在しないものとなった。


4.請求人の主張
請求人は、本件発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の無効審判を請求し、証拠方法として、甲第1号証の1[動画投稿サイトYouTube上に投稿された「Lesson 1: How to make a "Single" rubber band bracelet」と題する動画動画(https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI)を記憶した記憶媒体(写し)(当該動画が映し出されたパソコンの画面をキャプチャしたもの(録画日:平成29年10月10日、録画場所:代理人事務所)。なお、当該動画の左下部に、「2011/03/29に公開」と表示されているから、当該動画自体は、2011年3月29日にYouTube上に公開され、電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったことが確認できる。)]、甲第1号証の2[甲第1号証の1のYouTubeのウェブページをプリントアウトしたもの(写し)]、甲第2号証(米国特許第1,776,561号公報及び翻訳)、甲第3号証(米国特許第5,426,788号公報)、甲第4号証(米国意匠第D592,537S号公報)、甲第5号証(米国特許第1,994,659号公報)、甲第6号証(米国特許第3,758,923号公報)、甲第7号証(特開平7−189089号公報)、甲第8号証(実公昭47−24774号公報)、甲第9号証(実公昭50−46045号公報)、甲第10号証(米国特許第7,578,146 B2号公報及び翻訳)、甲第11号証(特開2003−171854号公報)、甲第12号証(特開平9−291447号公報)、甲第13号証(登録実用新案第3090300号公報)、甲第14号証(米国特許第7,506,524号公報)、甲第15号証(本件特許公報(特許第5575340号公報))、甲第16号証[本件特許に関する当初明細書書類(明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面)の翻訳文]、甲第17号証(本件特許のパリ条約による優先権の基礎となっている米国仮出願(61/410,399)及び翻訳)、甲第18号証(本件特許の基礎なるPCT出願の出願日を示す国際公開公報(WO2012/060906A1)の表紙)、甲第19号証[特許庁審査基準「第IV部 優先権」の一部(写し)]、甲第20号証[本件特許の平成27年6月5日付提出の訂正請求書(写し)]、甲第21号証[特許庁審査基準「第II部 第2章 新規性進歩性」の一部(写し)]、甲第22号証[本件特許の原出願に係る平成26年1月29日付手続補正書(写し)]、甲第23号証[本件特許の原出願に係る平成26年1月29日付け意見書(写し)]、甲第24号証[本件特許の平成26年6月4日付け手続補正書(写し)]、甲第25号証[本件特許の平成26年1月30日付手続補正書(写し)]、甲第26号証[本件特許の平成26年6月4日付け意見書(写し)]、甲第27号証(甲2発明により開示された編み機によりブルニアンリンクを作成することが可能であることを示す動画)、甲第28号証[広辞苑 第6版(「溝」の意義等)]、甲第29号証[特許庁審査基準「第III部 明細書,特許請求の範囲又は図面の補正」の一部(写し)]を提出し、以下のように主張している。
無効理由1
本件発明は、本件特許に係る出願(以下、「本件出願」という。)のパリ条約による優先権の主張の基礎とされている米国仮出願(以下、「本件米国仮出願」という。)の出願書類に記載されていないから、本件米国仮出願の出願日(2010年11月5日)までパリ条約による優先権の主張の効果が認められず、本件出願の優先日(出願日)は、本件米国仮出願に基づいて行われたPCT出願(PCT/US2011/041553)の出願日(2011年6月23日)となる。本件発明はその出願日前に甲第1号証の1に開示された発明であるから、本件発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張し、仮に、本件発明と甲第1号証の1に開示された発明との間に相違点があるとしても、当該相違点は甲第1号証の1に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
無効理由2
本件発明は、甲第2号証に記載された発明であるから本件発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張し、仮に、本件発明と甲第2号証に記載された発明との間に相違点があるとしても、当該相違点は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
無効理由3
本件発明1、3、6、10、11は、甲第10号証に記載された発明及び甲第8号証に記載の事項又は甲第10号証に記載された発明、甲第8号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。
本件発明7は、甲第10号証に記載された発明、甲第8号証に記載の事項及び甲第14号証に記載の事項又は甲第10号証に記載された発明、甲第8号証に記載の事項、甲第14号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。
本件発明8は、甲第10号証に記載された発明、甲第8号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。
無効理由4
本件発明が明確でないから、本件発明は、特許法第36条第6項第2号の規定よりに特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきであると主張している。
無効理由5
本件発明6、7、8、10、11に係る平成26年6月4日付の手続補正及び平成26年1月30日付の手続補正は、いわゆる新規事項の追加に該当するから、本件発明は特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第1号に該当し無効とすべきであると主張している。


5.被請求人の主張
被請求人は、証拠方法として乙第1号証[知財高判平成28年11月28日(平成28年(行ケ)第10036号)]、乙第2号証[「広辞苑 第六版」(2008年),岩波書店,458頁,626頁,1492頁]、乙第3号証[甲第17号証の抄訳(段落【0002】)]、乙第4号証[無効2015−800035号における甲第10号証(英国特許出願公開2147918号公報及び本件請求人が提出した翻訳)]、乙第5号証(無効2015−800035号審決)、乙第6号証[無効2015−800035号における甲第2号証(「Knitty: Spring 2007」と題するウェブページ(http://www.knitty.com/ISSUEspring07/FEATloomknitting.html)をプリントアウトしたもの、及び本件請求人が提出した抄訳)]、乙第7号証[「特許・実用新案ハンドブック」付属書A「特許・実用新案審査基準」事例集、「7.新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)に関する事例集」、事例7「光学素子用成形型」(14〜15頁)]を提出し、請求人の主張している無効理由1〜5に根拠はなく、本件発明は、無効にされるべきものではないと主張している。


6.無効理由1
(1)本件米国仮出願
本件出願は、2010年11月5日に本件米国仮出願(61/410,399)(甲第17号証)を行い、その本件米国仮出願に基づいて2011年6月23日にPCT出願(PCT/US2011/041553)(甲第18号証)(以下、「本件PCT出願」という。)を行い、2013年4月23日に本件PCT出願を日本に国内移行して国内出願(特願2013−537663号)を行い、その国内出願の一部を新たな出願としたものであり、パリ条約による優先権主張による優先日は、2010年11月5日である。
パリ条約による優先権の主張の効果が認められるためには、パリ条約では「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないものとされており(パリ条約第4条H)、この要件を満たすためには、日本出願の出願書類の全体の記載を考慮して把握される請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要があるから、本件発明のうち、第一国出願である本件米国仮出願の出願書類に記載されている発明は、パリ条約による優先権の主張の効果が本件米国仮出願の出願日まで認められるが、本件米国仮出願の出願書類に記載されていない発明は、パリ条約による優先権の主張の効果が本件米国仮出願の出願日まで認められない。

そこで、本件発明が、本件米国仮出願の出願書類の全体に記載されているかについて検討する。
(A)1つのピンに複数の溝がある場合が含まれる点
本件米国仮出願には図面とともに以下の事項が記載されている(訳は当審による仮訳)。
a「 CLAIMS
What is claimed is:
1. A device for creating an item consisting of a series of links, the device comprising;
a base template 12 defining at least one longitudinal groove;
at least one pin bar 14 mountable within the longitudinal grooves, the pin bar 14 including a plurality of pins including a top flared portion, a bottom flared portion and a mid portion for holding rubber bands in a desired orientation, and a front access groove from the top portion to the bottom portion of each pin;and
a hook adapted for extending through the front access groove for capturing an end of a rubber band supported on the pin.」
(請求項1.一連のリンクからなるアイテムを作成するデバイスであって、
少なくとも1つの長手方向溝が画定されるベーステンプレート12と、
前記長手方向溝内に取り付け可能である少なくとも1つのピンバー14であって、ゴムバンドを所望の向きに保持するために、上部の広がった部分、下部の広がった部分及び中央部分を含む複数のピンと、各ピンの前記上部から前記下部までの前部アクセス溝とを含む、前記少なくとも1つのピンバー14と、
前記ピン上に支えられるゴムバンドの端部を引っ掛けるように、前記前部アクセス溝を通り延在するように適応されたフックと、
を含む、デバイス。)
b「 SUMMARY
[0003]A Brunnian link is a link formed from a closed loop doubled over itself to capture another closed loop to form a chain. Elastic bands can be utilized to form such links in a desired manner. The example device provides a means of creating items using Brunnian links of complex configurations. Moreover,the example kit provides a device that allows for the successful creation of unique wearable items regardless of skill level.」
(概要
[0003]ブルニアンリンク(Brunnian link)とは、鎖を形成するように、別の閉ループを捉えるように2つに折り畳まれた閉ループから形成されるリンクである。弾性バンドを利用して、このようなリンクを望ましいやり方で形成することができる。例示的なデバイスは、複雑な構成のブルニアンリンクを使用してアイテムを作成する手段を提供する。更に、例示的なキットは、技量レベルに関係なく独自のウェアラブルアイテムをうまく作成することを可能にするデバイスを提供する。)
c「[0006]Referring to Figure 1, the example kit 10 includes a base template 12 that supports a plurality of pin bar 14. A hook 16 is provided for grasping and moving bands from one pin to another. The base template 12 includes slots 26 for receiving one pin bar 14. Each of the slots 26 are formed as grooves including opposing walls with semi-circle sections that correspond to the outer shape of the pin bar 14. The grooves of the template 12 and the outer shape of the pin bar 14 cooperate to hold the pin bar 14 in a desired longitudinal position. In the illustrated example,the template 12 includes six slots for six pin bars 14.」
([0006]図1を参照すると、例示的なキット10は、複数のピンバー14を支えるベーステンプレート12を含む。フック16が、バンドを1つのピンから別のピンへ掴んで動かすために設けられている。ベーステンプレート12は、1つのピンバー14を受容するスロット26を含む。各スロット26は、ピンバー14の外形に対応する半環状の横断面を有する対向する壁を含む溝として形成される。テンプレート12の溝とピンバー14の外形とは協働して、ピンバー14を所望の長手方向位置に保持する。図示される例では、テンプレート12は、6つのピンバー14に対して6つのスロットを含む。)
d「[0008]Referring to Figures 5A, 5B and 5C with continued reference to Figure 1,the example pin bar 14 includes a bottom opening 28 of a defined size and the base template 12 includes a plurality of circular bosses 30 that are sized to provide a desired tight interference fit with the opening in the pin bar 14 such that the pin bar 14 is retained in place within the groove of the base template 12. The interference fit between the pin bar 14 and the bosses of the base template 12 assure a positive mounting and securing of to the base to prevent separation during use and construction of a desired wearable item.」
([0008]引き続き図1を参照しながら、図5A、図5B及び図5Cを参照すると、例示的なピンバー14は、規定されたサイズの底部開口部28を含み、ベーステンプレート12は、ピンバー14がベーステンプレート12の溝で定位置に保持されるように、ピンバー14内の開口部と望ましくぴったりとした締まりばめを提供するようなサイズとされた複数の円形ボス30を含む。ピンバー14とベーステンプレート12のボスとの締まりばめは、望ましいウェアラブルアイテムの使用及び構築中の分離を防ぐために、ベースへの確実な取り付け及び固定を保証する。)
e「[0009]Referring to Figures 6A and 6B,one example configuration of pin bar 14 is shown and includes each of the pin bars 14 aligned with each other across the various grooves such that a first pin of each of the pin bars 14 is aligned at the end row of the base template 12. This orientation provides for a square pattern for a pluralily of side by side links.
[0010]Referring to Figures 7A and 7B,every other pin bar 14 is offset relative to the adjacent two pin bar 14s. In other words,the first row of pin bars 14 includes alternates between having a pin and having an open spot. This example configuration provides for a triangle pattern that provides a different capability to define different patterns for the creation of different linked patterns.」
([0009]図6A及び図6Bを参照すると、ピンバー14の1つの例示的な構成が示され、各ピンバー14の第1のピンがベーステンプレート12の端の列において整列するように、各ピンバー14が様々な溝に亘って互いに整列されている。この方向付けは、複数の隣り合わせのリンクの正方形パターンを提供する。
[0010]図7A及び図7Bを参照すると、1つおきのピンバー14が、隣接する2つのピンバー14に対してオフセットされている。つまり、ピンバー14の第1の列では、ピンと空いた場所とが交互にある。この例示的な構成は、様々なリンクパターンを作成するための様々なパターンを規定するように異なる可能性を提供する三角形パターンを提供する。)
f「[0011]Referring to Figures 8A,8B,8C and 8D, each pin bar 14 includes multiple pin 32 that extend upward from a bar portion 42 and include features for holding and spacing rubber bands. Each pin 32 includes a top surface 34 that is flared outward from a side portion 36 to prevent errant release of a rubber band during creation of a link. The side 36 of each of the pins 32 includes a longitudinal groove 38 that extends inward toward a center of the pin 32. The groove 38 provides a clearance for insertion of the hook tool 16 (Figure 1) utilized for moving ends of a rubber band between pins 32.」
([0011]図8A、図8B、図8C及び図8Dを参照すると、各ピンバー14は、バー部分42から上向きに延在し、ゴムバンドを保持して間隔を空けるための特徴を含む複数のピン32を含む。各ピン32は、リンクの作成中に、ゴムバンドが誤って外れないように、側部36から外向きに広がる上面34を含む。各ピン32の側部36は、ピン32の中心に向かって内向きに延在する長手方向の溝38を含む。溝38は、ピン32間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16(図1)の挿入のための間隙を提供する。)

上記記載及び図面を参照すると、本件米国仮出願の出願書類(甲第17号証)には、ピンの溝38(開口部)に関し、図1、図5〜7にあるように、ピンの列の方向の前面側にのみ溝38が形成されていることが看取できるとともに、[0011]には、「各ピン32の側部36は、ピン32の中心に向かって内向きに延在する長手方向の溝38を含む。溝38は、ピン32間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16(図1)の挿入のための間隙を提供する。」との記載がある。
そして、令和元年5月17日付の訂正請求による訂正により、「開口部が、複数のピンの各々の少なくとも1つのサイドに沿って配置されたアクセス溝である」とされた請求項10が削除された。
そうすると、1つのピンに複数の溝がある点に関し、本件出願には当該事項を含意する記載が存在しないこととなったため、当該事項が本件米国仮出願の出願書類の全体に記載されていないことを理由として本件出願のパリ条約による優先権の主張の効果は認めらないとすることはできない。


(B)ピンがベースと一体成型のものを含む変更がなされた点
上記記載に加え、本件米国仮出願には図面とともに以下の事項が記載されている。
g「BACKGROUND
[0001]This disclosure generally relates to method and device for creating a linked item. More particularly, this disclosure relates to a method and device for creating a linked wearable item from elastic bands.
[0002]Kits that include materials for making a uniquely colored bracelet or necklace have always enjoyed some popularity. However such kits usually just include the raw materials such as different colored threads and beads and rely on the individual's skill and talent to construct a usable and desirable item. Accordingly there is a need and desire for a kit that provides not only the materials for creating a unique wearable item, but also that provides for ease of construction to make it easy for people of many skill and artistic levels to successfully create a desirable and durable wearable item.」
(背景
[0001]この開示は全体的に、リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイスに関する。より特定には、この開示は、リンクされた装着可能なアイテムを弾性バンドから作成するための方法とデバイスに関する。
[0002]独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキットは、常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら、そのようなキットは通常、異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含むだけで、使用可能で望ましいアイテムを構築することは個人の技量と才能に依存する。従って、独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでなく、望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易するするように構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある。)
h「[0004]Referring to FIGS. 1,2 and 3 , an example kit for forming Brunnian linked item is indicated at 10 for creating Brunnian link items such as bracelets, necklaces and other wearable or decorative items shown in FIG. 2 .
[0005]Referring to FIG. 3 , a Brunnian link 18 is formed from a continuous looped structure without forming an actual knot. Several links are formed in a chain to form a circular structure. The ends are then secured and a durable wearable item is created. In this example three closed looped elastic items 20 such as rubber bands are shown forming a single chain. Each link is formed by capturing ends 22 of one loop structure with a mid portion 24 another loop structure in series. Each link depends on the previous and subsequent links to maintain the desired shape and integrity. Removing one link 18 results in all of the links becoming loose from each other.」
([0004]図1、2、3を参照すると、図2に示されたブレスレット、ネックレスおよびその他の装着可能なまたは装飾的なアイテムのようなブルニアンリンクアイテムを作成するためのブルニアンリンクアイテム形成用の例示的キットが10で指し示されている。
[0005] 図3を参照すると、ブルニアンリンク18が、実際の結び目を形成することなく、連続的なループ状構造から形成されている。いくつかのリンクが、円形構造を形成するようにチェインに形成されている。端部がそれからしっかり留められて、耐久性のある装着可能なアイテムが作成される。この例では、3つの閉じたループ状のゴムバンドのような弾性アイテム20が単一のチェインを形成しているのが示されている。各リンクは、系列中の別のループ構造の中央部分24で1つのループ構造の端部22を捕捉することによって形成される。各リンクは、望ましい形状と一体性を維持することを前および後続のリンクに依存する。1つのリンク18を取り除くことは、全てのリンクがお互いからはずれるようになることに結果としてなる。)
i[0007]Referring to FIGS. 4A ,4B and 4C with continued reference to FIG. 1 , the base template 12 includes first and second ends 28,30 and first and second sides 32 , 34 between the first and second ends 28,30. The first end includes a female joint and the second end includes a male joint. The first side includes a male joint and the second side includes a female joint. The alternating sides provide for attachment of several base templates 12 to each other to provide extended capability. FIG. 4B illustrates two base templates 12 connected to each other in a side-to-side configuration. FIG. 4C illustrates two base templates 12 connected to each other in an end-to-end configuration. As appreciated, any number of base templates 12 can be secured to each other to form many different desired configurations. The different configurations provide for many options for creating different shapes and configurations of wearable items.」
([0007]引き続き図1を参照しながら、図4A、4B及び4Cを参照すると、ベーステンプレート12は、第1および第2の端部28、30と、第1および第2の端部28、30の間の第1および第2のサイド32、34を含む。第1の端部が雌ジョイントを含み、第2の端部がる雄ジョイントを含む。第1のサイドが雄ジョイントを含み、第2のサイドが雌ジョイントを含む。拡張された能力を提供するように、交番するサイドがいくつかのベーステンプレート12のお互いとの取り付けを提供する。図4Bは、サイドが横並びの構成でお互いに接続された2つのベーステンプレート12を描いている。図4Cは、端部が隣り合わせの構成でお互いに接続された2つのベーステンプレート12を描いている。分かる通り、多くの異なる望ましい構成を形成するように、あらゆる数のベーステンプレート12がお互いにしっかり取り付けられることができる。異なる構成は、装着可能なアイテムの異なる形状および構成を作成するための多くのオプションを提供する。)
j「[0013]Referring to FIGS. 9A,9B, and 9C , a method of forming a Brunnian link as provided by the example kit includes the initial step of loading rubber bands onto adjacent pins. In this example, beginning at the right most ends each rubber band is stretched over adjacent pins and held at the mid portion. Another rubber band is then placed over one end of the previously assembled first rubber band, and so on until rubber bands have been placed on corresponding pin bars 14.
[0014]Once rubber bands are placed on each of the pins, the hook is inserted into the groove and placed downward past the bottommost rubber bands. The hook is then moved outward from the groove a sufficient amount to allow for one end of the rubber band to be caught in the hook end. Further lifting pulls the captured end up through the end of the other rubber band on the pin as is shown in Figure 9B. The captured end is pulled up and over the top flared portion and pulled back onto the adjacent pin to form a single link. The captured end of the rubber band is then released to engage the adjacent pin. This process is repeated until a chain of links a desired length is obtained.
[0015]Moreover ,the example shown in FIGS.9A , 9 B and 9 C illustrate a chain formed from a single row of links. The example base template 12 supports six pin bars 14s and therefore links can be formed longitudinally and laterally across adjacent pin bar 14s to form a wide variety of link configurations and combinations.」
([0013]図9A、9B、及び9Cを参照すると、例示的キットによって提供されるブルニアンリンクを形成する方法は、ゴムバンドを隣接するピン上に装填する最初のステップを含む。この例では、一番右の端部で始まって各ゴムバンドが隣接するピンに渡って引き伸ばされ中央部分において保持される。次に別のゴムバンドが、前に組み立てられたゴムバンドの一端の上に置かれ、ゴムバンドが対応するピンバー14上に置かれるまで続けられる。
[0014]一旦ゴムバンドがピンの各々の上に置かれると、フックが、溝の中に挿入され、一番下のゴムバンドを通り過ぎて下向きに置かれる。フックはそれから、ゴムバンドの一端がフック端中に捕捉されることを許容するのに十分な距離だけ溝から外向きに動かされる。更なる持ち上げによって、図9Bに示されるように引っかけれて異端部が、ピン上の別のゴムバンドの端部をとおり引っ張り上げる。捕捉された端部は、広がった上部を越えて越えて引っ張り上げられ、隣接するピン上に引っ張り戻されて、単一のリンクを形成する。ゴムバンドの捕捉された端部はそれから、隣接するピンと係合するように開放される。このプロセスが、望ましい長さのリンクのチェインが得られるまで繰り返される。
[0015]その上、図9A、9Bおよび9Cに示される例は、リンクの単一の列から形成されたチェインを描いている。例示的ベーステンプレート12は6つのピンバー14をサポートするように配列されることができ、従ってリンクは隣接するピンバー14に跨って縦方向および横方向に形成され、幅広い種類のリンク構成及び合わせを形成することができる。)
k「[0022]Accordingly, the example kit and method provide for the creation of many different combinations and configurations of Brunnian links for the creation of bracelets, necklaces, and other wearable items. Moreover, the example kit is expandable to further create and expand the capabilities of potential Brunnian link creations. Further, the example kit provides for the creation of such links and items in an easy manner allowing persons of varying skill levels to be successful in creating unique wearable items.
([0022]従って、例示的キットおよび方法は、ブレスレット、ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも、例示的キットは、潜在的なブルニアンリンク作成の発展性の能力を更に作り出して拡張するために拡張可能である。更には、例示的キットは、そのようなリンクおよびアイテムの簡単なやり方での作成を提供して、様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテムを成功裡に作成することを許容する。)

これらの記載によれば、本件米国仮出願の出願書類の全体には、ブレスレットやネックレスなどの「独自の装着可能なアイテム」を作成するキットは、通常、異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含むだけであり、アイテムを構築することは個人の技量と才能に依存するため、このように材料を提供するのみでなく、アイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易にするように構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み、アイテムをブルニアンリンクアイテムとし、ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテム成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載されている。
また、本件米国仮出願の出願書類の全体において、発明を実施するための形態として、次の(ア)〜(イ)といった複数のキットが記載されているととともに、前記のとおり、いずれのキットによっても、ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容することが記載されている([0022])
(ア)単一の列に規定された複数のピン38を有し、各ピン38に、リンクの作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために側部36から外向きに広がる上面34と、ピン32の間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16の挿入のための間隙を提供する溝38が形成されたピンバー14を、6つ横並びに揃えてベーステンプレート12上にサポートさせて一体構造としたキット([0004]〜[0008]、[0011]、[0013]〜[0015])
(イ) ベーステンプレート12のサイドに形成されたジョイント28、30、32、34を用いて、例えば2つの(ア)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造としたキット([0007])
そして、いずれのキットも、複数のピンバー14をベーステンプレート12上にサポートさせて一体構造としたものは、ピンバー14及びベーステンプレート12が一体をなして複数のピン32をサポートする構造にほかならい。そして、ベーステンプレート66も「ベース」の概念であると認められることから、いずれのキットも、複数のピンバー14をベース上にサポートさせて一体構造としたものは、ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための、複数のピンが(ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のものであると理解できる。
そうすると、いずれのキットも、複数のピンがベースにサポートさせて一体構造としたものであり、ピンがベースと一体成型のものを含む変更がなされた点は本件米国仮出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものではないとすることはできない。


(C)「溝」が「開口部」に変更された点
一般に、「溝」とは「一般に細長くくぼんだところ」の意味であり、「開口」とは「外に向かって穴が開くこと。また、その穴。」の意味である。
本件米国仮出願の出願書類には、図1、図5〜7に溝が示され、[0011]に、「各ピン32の側部36は、ピン32の中心に向かって内向きに延在する長手方向の溝38を含む。溝38は、ピン32間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16(図1)の挿入のための間隙を提供する。」との記載があるから、本件米国仮出願の出願書類の溝は、ピン32間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16の挿入のための間隙を意味することとなる。
そうすると、ピンのフックツール挿入のための間隙を、溝と呼称しても開口部と呼称しても当該間隙の実態は変わらず、「溝」と「開口部」に明白な構成上の違いも無いから、「開口部」は本件米国仮出願の出願書類の全体に記載されていないとすることはできない。


(2)本件米国仮出願のまとめ
したがって、本件発明に係る出願は、本件米国仮出願の出願書類のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件出願のパリ条約による優先権の主張の効果は認められ、本件発明の新規性進歩性等の判断基準日は、本件米国仮出願の出願日(2010年11月5日)となる。


(3)甲第1号証の1
甲第1号証の1の動画は、動画投稿サイトYouTube上に投稿された「Lesson 1: How to make a “Single” rubber band bracelet」と題する動画(https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI)であり、“Rainbow Loom”というキットに関する事項が開示されたもので、本件米国仮出願の出願日後の2011年3月29日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった。なお、甲第1号証の1の動画が2011年3月29日に公衆に利用可能になったことは、甲第1号証の1の動画の左下部(甲第1号証の2参照)に、動画の公開日として「2011/3/29に公開」と表示されている。
そうすると、本件発明は、その優先日前に甲第1号証の1に開示された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできず、同様に甲第1号証の1に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることもできない。


(4)むすび
以上のとおり、本件出願のパリ条約による優先権の主張の効果は認められるから、本件発明1、3、6−8、11は甲第1号証の1に開示された発明と同一とすることはできず、同様に本件発明1、3、6−8、11は甲第1号証の1に開示された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、無効理由1によっては、本件発明1、3、6−8、11に係る特許を無効にすることはできない。


7.無効理由2
(1)甲各号証
甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載されている(訳は当審による仮訳)。
a「My invention relates to improvements in knitting boards; and it consists in the combinations, constructions, and arrangements hereinafter described and claimed.」(1〜4行)
(本発明は、ニッティングボードの改良に関連し、また、以下に説明され、請求項に係る組み合わせ、構造及び配置にある。)
b「An object of my invention is to provide a knitting board which takes the place of one of the knitting needles, and which has novel means for supporting the yarn, yet permitting different portions of the yarn to be released from the supporting means as the knitting proceeds.」(5〜11行)
(本発明は、編み針のうちの1つの編み針の代わりをし、糸を支えるが、編み作業が進むにつれて、糸の様々な部分が支持手段から解放されることを可能にする新規の手段を有するニッティングボードを提供することを目的とする。)
c「Figure 1 is a top plan view of the device;
Figure 2 is a section along the line 2-2 of Figure 1; and
Figure 3 is a perspective view of a cotter pin used with the device.」(30〜34行)
(図1は、デバイスの平面図である。図2は、図1の線2−2に沿った断面図である。図3は、デバイスと共に使用されるコッタピンの斜視図である。)
d「In carrying out my invention I provide a board 1 which may be of any length desired, the length depending upon the size of the work to be knitted. The board is provided with a slot 2 that extends longitudinally thereof, and substantially from end to end of the board. Along each side of this slot I mount cotter pins 3 that are of standard construction. The pins are removably disposed in recesses 4. Figure 3 shows one of these pins and it will be noted that the pin has two leg portions 5, an eyelet 6, a round head 7 and flat faces 8.」(35〜48行)
(発明を実施するにあたり、任意の所望の長さであってよいボード1が提供される。長さは、編み上げる作品のサイズに応じる。ボードには、その長手方向に、また、実質的にボードの端から端まで延在するスロット2が設けられている。このスロットの各側に沿って、標準的な構造のコッタピン3が取り付けられる。ピンは、凹部4内に取り外し可能に配置される。図3は、これらのピンのうちの1つを示し、ピンは、2つの脚部5と、ヒモ穴6と、円形頭部7と、平らな面8とを有する。)
e「The device is designed for various kinds of knitting. In Figure 1 I have shown a piece of yarn 9 passed around the cotter pins 3 in a zigzag fashion. This piece extends the entire length of the board. Additional pieces of yarn are superimposed on the first in a predetermined manner. A needle (not shown) is then employed for removing the yarn from the pins so as to produce a piece of knitted fabric that will depend through the slot 2. The device is adaptable for various kinds of stitches, the design depending entirely upon the manner in which the yarn is placed on the pins 3 and the order in which it is removed therefrom. The knitting operation is continued until the knitted fabric is of the desired length. I have found that the cotter pin is the best type of pin to use for the work, since it has flat sides or faces 8 that permit the yarn to be removed over the head 7 without unduly stretching the yarn. Moreover the pins have a springy quality and will remain fixed in the recesses 4 due to this fact.」(51〜74行)
(デバイスは、様々な種類の編み物向けにデザインされている。図1では、1本の糸9が、ジグザグ様式にコッタピン3を通されていることが示されている。この1本は、ボードの全長に延在する。追加の1本の糸が、所定のやり方で、最初の糸の上に重ねられる。次に、針(図示せず)を使用して、糸をピンから取り外し、これにより、スロット2を通り垂れ下がる織物片が作られる。デバイスは、様々な種類の編み方に適応可能であり、デザインは、糸がピン3に置かれる方法と、当該糸がそこから取り外される順番とにもっぱら依存する。編み上げ作業は、編み物が所望の長さになるまで続けられる。コッタピンは、糸を過度に伸ばすことなく、糸が頭部7上を通り取り外されることを可能にする平らな面8を有するので、作業に使用する最適なタイプのピンであることが分かっている。更に、ピンは弾性を有し、これにより、凹部4内に固定されたままとなる。)
f「1. In a knitting device, a supporting member having a recess therein, a pin disposed in said recess and including resilient legs yieldingly held in contact with the walls of the recess, whereby the pin is retained in position, but may be readily removed therefrom.
2. In a knitting device, a supporting member having a recess therein, a pin removably disposed in said recess and including legs, a resilient head portion interconnecting said legs for urging the latter into contact with the walls of the recess, whereby the pin is retained in position, but may be readily removed therefrom.」(クレーム)
(1.凹部を有する支持部材と、前記凹部内に配置され、前記凹部の壁に接触して追従的に保持される弾性脚部を含むピンと、を含み、これにより、前記ピンは、適切な位置に保持されるが、前記位置から容易に取り外し可能である、編みデバイス。
2.凹部を有する支持部材と、前記凹部内に取り外し可能に配置され、脚部、及び、前記脚部を相互接続し、前記脚部を前記凹部の壁に接触するように付勢する弾性頭部を含むピンと、を含み、これにより、前記ピンは、適切な位置に保持されるが、前記位置から容易に取り外し可能である、編みデバイス。)
上記記載及び図1、2を参照すると、ボード1上に、複数のピンが取り付けられ、複数のピン3が2列に配置され、相互に離間され、ボードから上方に伸びている。
上記記載及び図2を参照すると、各ピン3がヒモ穴6を前方に向けた状態でボード1に固定されている。
上記記載及び図3を参照すると、各ピン3は、広がった円形頭部7と、2つの脚部5とを有する。
上記開示事項からみて、甲第2号証には、以下の発明が開示されている。
「編物を作成する編みデバイスであって、
ボード1と、
ボード1上に取り付けられた複数のピン3と、を備え、
複数のピン3の各々は、円形頭部7と、当該複数のピン3の各々の、ピン3の列の方向の前面側のヒモ穴6とを有し、複数のピン3は、2列に配置され、相互に離間され、且つ、ボード1から上方に伸びている、
編みデバイス。」(以下、「甲2発明」という。)

甲第3号証
「閉じたループ材料を編んで編み物製品(複数の“looped links 22”を編んで繋げた“ornament 20”)。」(FIG.1〜6)
「一連のリンクの端部を留めるa connecting loop 24」(FIG.3、第3欄42行〜46行)

甲第4号証
「複数の“rubber band”(ゴムバンド)を編んで繋げたブレスレット。」(“DESCRIPTION”の17行“The bracelet is comprised of linked rubber bands.”、FIG.1〜12)
「ゴムバンドのリンクの両端を留めているクリップ。」(FIG.1〜12)

甲第5号証
「複数のリング(バンド)を編んでカーペットを作ること。」(FIG.1〜3)

甲第6号証
「フック。」(FIG.1、FIG.3、FIG.4)

甲第7号証
「各々の側面に凹設された糸返し溝3が設けられた複数の編み棒1を有する手編み器。」(【0005】、【0009】、図3〜5)。
「毛糸10を編み棒1に巻きながら右方、または左方に移動して行く。適宜に巻き上げた時点で、図5に見られる如く、糸返し針11の針先を糸返し溝3に挿入し、先に巻いた毛糸10' をすくい上げ、後から巻き上げた毛糸10を越えるようにして、先に巻いた毛糸10'を編み棒1から外して行く。以下同様にして繰り返し、編み上げて行った。」(【0009】)

甲第8号証
「複数の突起2の各々の上部に縫針を差込むことの出来る程度の十字状の溝に形成された服装用モチーフ製作用スケール。」(第1欄24〜33行、図3、図6)

甲第9号証
「基台6上に中空の複数の支柱7を有し、前記複数の支柱7の各々には長さ方向に割り溝8が形成されているかがり組紐を形成する器具。」(第2欄9〜19行、図3)

甲第10号証
「複数のペグ(pegs)の各々にアクセス溝(groove or channel)が形成されているknitting loom。」(第2欄51〜54行、FIG.7)

甲第11号証
「糸掛け用の複数の突起12にかぎ針80の先端を挿入する凹溝13が設けられている編み具。」(【0030】、【0040】、図7〜9)
「図8に示すように、突起12に糸Yを掛けた場合、突起12の凹溝13がこの突起12と糸Yとの間の隙間s1を構成する。したがって、たとえば同図に示す糸Yの下段部分Yaを、上段部分Ybに掛けようとして図9の実線に示すようにかぎ針80を利用して引き上げる場合には、かぎ針80の先端を凹溝13に挿入することにより、このかぎ針80の先端に糸Yの下段部分Yaを容易に引っ掛けることが可能となる。」(【0040】)

甲第12号証
「編み棒22の小片の前面部12aに、鉤針74の先端の鉤針部78を案内するための案内溝32が形成されている手編み具。」(【0014】、【0021】、図6、図8)

甲第13号証
「針山4に、かぎ針7の針先を入れるためのスリット5が形成されている手芸用編み器。」(【0012】、【0013】、図1〜4)
「次に2周目は針山4の外側にかかる1周目の糸を図4に示すようなかぎ針8を用いて針山4のスリット5に針先を入れて引っ掛け、2周目の糸の上にし、針山にかけて編成する。」(【0013】)


(2)本件発明1と甲2発明との対比・判断
(2−1)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1の「リンク」が「編み物の目」を意味する英単語の「link」を日本語読みしたもので、「一連のリンクからなるアイテム」が「編み物」を意味するから、甲2発明の「編み物」は、本件発明1の「一連のリンクからなるアイテム」に相当し、甲2発明の「編みデバイス」は、本件発明1の「装置」に相当するから、甲2発明の「編物を作成する編みデバイス」は、本件発明1の「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置」に相当する。
甲2発明の「ボード1」、「ピン3」、「円形頭部7」、「ヒモ穴6」は、本件発明1の「ベース」、「ピン」、「上部部分」、「開口部」に相当する。
甲2発明の「ボード1上に取り付けられた複数のピン3」は、本件発明1の「ベース上にサポートされた複数のピン」に相当する。
甲2発明の「2列に配置され、相互に離間され、且つ、ボード1から上方に伸びている」は、本件発明1の「複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている」に相当する。

したがって、両者は、
「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、上部部分と、当該複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている
装置。」
の点で一致し 、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明1は、「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」を作成するための装置であるのに対し、甲2発明は、編物を作成する編みデバイスである点。
〔相違点2〕
本件発明1は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分を有するのに対し、甲2発明は、円形頭部7を有する点。


(2−2)甲2発明を主引用発明としたときの本件発明1についての判断
本件発明1の技術的意義
本件発明1の技術的意義は、本件特許明細書の記載によれば個人の技量に依存することのない「ブルニアンリンク」作成方法である本件作成方法を実現する手段として、列に配置された「複数のピン」、「ベース」、「上部部分」、及び「複数のピンの各々、のピンの列の方向の前面側の開口部」の構成を全て併せ持つ装置であって、更に「ベース上にサポートされた複数のピン」の技術的事項を有する装置を提供することにある。
ここで、相違点2の「リンクを望ましい向きに保持するための上部部分」について更に検討する。
「リンクを望ましい向きに保持するための上部部分」は、本件作成方法によって「ブルニアンリンク」を作成するに当たり、ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するためのものである。
「リンクを望ましい向きに保持するための上部部分」を有する理由は、「ピンの列の方向」に「保持」された弾性バンドの装着を外して掛け戻していくステップにおいて、各ピンの上部部分は、開口部の間隙にフックを挿入する際に、リンクを望ましい向きに保持しているから、本来、装着を外すことのない弾性バンドを誤って「開放」することを起こし難く、技量の乏しい者であっても、容易に「ブルニアンリンク」を作成することができるためである。
即ち、相違点2に係る「上部部分」は、個人の技量に依存することなく、様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成する装置を提供するという、本件課題を解決するために最適なものである。

相違点1の存否
請求人は、相違点1に関して、審判請求書56頁で、本件発明1の「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、前記リンクはブルニアンリンクであり、前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり」という用途限定部分(以下「本件用途限定」という。)が実質的な発明特定事項とはならない旨主張するので、この点について検討する。
用途限定に係る発明特定事項については、用途限定が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して、その用途に特に適した形状、構造、組成等(以下「構造等」という。)を意味すると解することができる場合のように、用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味すると解される場合は、その物は用途限定が意味する構造等を有する物であると解するべきである。
この前提に立って、請求人の上記主張について検討すると、請求項1に記載された装置は、「ブルニアンリンクアイテムを作成する」用途に特に適した物であって、「用途限定が意味する構造等を有する物」であると解することができる。したがって、本件用途限定は、実質的な発明特定事項であると解することができる。
また、甲2発明は、編み物を作成するための編みデバイスの発明であるから、甲第2号証には、「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もない。更に、本件作成方法はもとより、個人の技量に依存することのない「ブルニアンリンク」の作成方法や、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することが本件出願日当時に技術常識であったことを示す証拠方法は、提示されていない。そうすると、「ブルニアンリンクからなるブルニアンリンクアイテムを作成するための装置」が甲第2号証に記載されているに等しい事項であるということはできない。
したがって、本件発明1と甲2発明との間には、実質的に、相違点1が存在する。
そうすると、本件発明1は甲2発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

相違点1及び2の進歩性
甲第2号証には、「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もなく、また、本件課題である、様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成する装置を提供することを解決するために、甲2発明の上部部分の構造を最適化すること、すなわち「ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するための上部部分」とすることは記載も示唆もない。そうすると、甲第2号証には、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項に至る動機となるものはないから、甲2発明に基づいて、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項に想到することが容易であるとはいえない。

次に、甲第3〜5号証について検討する。
請求人は、相違点1に係る構成は甲第3〜5号証に記載されたように周知慣用技術である旨主張し、甲2発明に当該周知慣用技術を適用することは当業者が容易に考えられたものであるとしている。
甲第3号証には、複数のループ状リンク22A〜22Hを互いに連結して形成したチェーンリンクストリップと、当該チェーンリンクストリップの一対の端部を連結ループ24により互いに連結して形成した装飾品が記載されており、FIG.3等の記載より、前者は「ブルニアンリンク」に相当し、後者は「ブルニアンリンクアイテム」に相当するが、甲第3号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
甲第4号証には、連結されたゴムバンドから構成されるブレスレットが記載されており、FIG.7等の記載より、当該ブレスレットは「ブルニアンリンクアイテム」に相当するが、甲第4号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
甲第5号証には、二重連結部を形成してリンクを隣接するリンクに固定することにより形成されるカーペット地のチェーンが記載されており、FIG.1の記載より、当該チェーンは、「ブルニアンリンク」に相当するが、甲第5号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
以上から、甲第3〜5号証には、「ブルニアンリンク」ないしは「ブルニアンリンクアイテム」自体は開示されているものの、「ブルニアンリンクからなるブルニアンリンクアイテムを作成するための装置」は、甲第3〜5号証のいずれにも開示されておらず、甲第3〜5号証から周知慣用技術であるともいえない。また、甲第3〜5号証には、「ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するための上部部分」とすることは記載も示唆もない。
このように、甲第3〜5号証のいずれにも、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項は開示されておらず、動機となるものもないことから、甲2発明と甲第3〜5号証に記載のものをどのように組み合わせても、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に考えられるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(3)本件発明3と甲2発明との対比・判断
本件請求項3は本件請求項1を直接引用しており、上述のように、本件発明1は甲2発明と同一ではないから、本件発明3は甲2発明と同一ではなく、本件発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件発明3は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(4)本件発明6と甲2発明との対比・判断
(4−1)本件発明6と甲2発明との対比
本件発明6の「リンク」が「編み物の目」を意味する英単語の「link」を日本語読みしたもので、「一連のリンクからなるアイテム」が「編み物」を意味するから、甲2発明の「編み物」は、本件発明6の「一連のリンクからなるアイテム」に相当し、甲2発明の「編みデバイス」は、本件発明1の「キット」に相当するから、甲2発明の「編物を作成する編みデバイス」は、本件発明1の「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキット」に相当する。
甲2発明の「ボード1」、「ピン3」、「円形頭部7」、「ヒモ穴6」、「有し」は、本件発明6の「ベース」、「ピン」、「上部部分」、「開口部」、「含み」に相当する。
甲2発明の「ボード1上に取り付けられた複数のピン3」は、本件発明6の「ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピン」に相当する。
甲2発明の「2列に配置され、相互に離間され、且つ、ボード1から上方に伸びている」は、本件発明6の「複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている」に相当する。

したがって、両者は、
「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
上部部分と、複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている、
キット。」
の点で一致し 、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明6は、「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」を作成するためのキットであるのに対し、甲2発明は、編物を作成する編みデバイスである点。
〔相違点2〕
本件発明6は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分を有するのに対し、甲2発明は、円形頭部7を有する点。


(4−2)甲2発明を主引用発明としたときの本件発明6についての判断
「(2−2)」での判断と同様の理由で、本件発明6と甲2発明との間には、実質的に、相違点1が存在するから、本件発明6は甲2発明で同一ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

相違点1及び2の進歩性
「(2−2)」での判断と同様の理由で、本件発明6は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(5)本件発明7−8、11と甲2発明との対比・判断
本件請求項7−8、11は、本件請求項6を直接引用しており、上述のように、本件発明6は甲2発明と同一ではないから、本件発明7−8、11は甲2発明と同一ではなく、本件発明6は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件発明7−8、11は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(6)むすび
以上のとおり、本件発明1、3、6−8、11は、甲2発明と同一ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、無効理由2によっては、本件発明1、3、6−8、11に係る特許を無効にすることはできない。


8.無効理由3
(1)甲各号証
甲第10号証には、図面と共に以下の事項が記載されている(訳は当審による仮訳)。
a「Weaving may utilize any number of different kinds of looms, ranging from simple hand held structures to complex machines. Looms commonly used today for non-commercial knitting include handlooms that may be rectangular, circular or oblong and have projecting pegs configured to hold the warp loops and the woven weft loops.」(第1欄10〜15行)
(製織には、単純な手持ち式の構造のものから複雑な機械まで含む任意の数の様々な種類の編機が利用される。今日、非商用編み物に一般的に使用されている編機は、縦糸ループ及び織り込まれた横糸ループを保持するように構成されている突出ペグを有する長方形、円形又は楕円形の手編み機を含む。)
b「The examples discussed herein relate to a non-circular knitting loom. The loom includes a plurality of knitting pegs spaced generally equidistant relative to one another around the perimeter of the loom. The loom may provide for at least one knitting peg at one or more ends of the loom. Alternatively, the knitting peg may be located at the apex of the rectangle, ellipse, oval, rounded rectangle and/or oblong between two substantially parallel rows of knitting pegs.」(第2欄11〜18行)
(本明細書において説明される実施例は、非丸編み用編機に関する。編機は、編機の外周の周りに、互いに対してほぼ等距離に離間されている複数の編みペグを含む。編機は、編機の1つ以上の端において少なくとも1つの編みペグを提供する。或いは、編みペグは、2つの実質的に平行な編みペグの列の間で、長方形、長円、卵形、丸みが付けられた長方形及び/又は楕円形の頂点に置かれてもよい。)
c「In general, examples of the looms discussed herein may include a non-circular knitting loom having an orifice between two substantially parallel rows of knitting pegs and at least one knitting peg at an end of the loom between the two substantially parallel rows of knitting pegs. In another example, the plurality of knitting pegs may be spaced equidistant relative to one another around the loom. The loom maybe configured as, but not limited to, having a rectangular, elliptical, oblong, oval, or rounded rectangle shape. The loom may also have a knitting peg at one or more ends between the two substantially parallel rows of knitting pegs. In addition, a loom clip may be used instead or in place of the end-pegs.」(第2欄19〜30行)
(一般に、本明細書において説明される編機の実施例は、2つの実質的に平行な編みペグの列の間のオリフィスと、当該2つの実質的に平行な編みペグの列間で織機の一端における少なくとも1つの編みペグとを有する非丸編み編機を含む。別の実施例では、複数の編みペグは、編機の周りで互いに対して等距離に離間されていてよい。織機は、次に限定されないが、長方形、長円形、楕円形、卵形又は丸みが付けられた長方形の形状を有するように構成されてよい。編機は更に、上記2つの実質的に平行な編みペグの列間で1つ以上の端に編みペグを有してもよい。更に、編機用クリップがエンドペグの代わりに使用されてもよい。)
d「The substantially non-circular base structure of the loom may include, but is not limited to, the following shapes: an ellipse, an oblong, a rectangle, a rounded rectangle or an oval. In addition, the substantially non-circular base structure of the invention includes an orifice having a long axis and a short axis.」(第2欄41〜46行)
(編機の実質的に非円形の基部構造は、次に限定されないが、長円形、楕円形、長方形、丸みが付けられた長方形又は卵形の形状を含んでよい。更に、本発明の実質的に非円形の基部構造は、長軸及び短軸を有するオリフィスを含む。)
e「In an example, the knitting pegs are detachably connected to the loom. For example, the knitting pegs may be generally cylindrical in shape, having a top end and a bottom end, wherein the bottom end is configured to connect to a hole in the base structure. Optionally, the knitting pegs may have a groove or channel starting at or near the top end of the knitting peg and running to the bottom end or near the bottom end of the knitting peg. Alternatively, a reconfigurable loom clip may be used that allows the user to place a peg at a location of choice to re-size the loom.」(第2欄47〜56行)
(一実施例では、編みペグは、編機に取り外し可能に接続されている。例えば編みペグは、その形状はほぼ円筒であり、上部端と下部端とを有し、下部端は、基部構造内の穴に接続するように構成されている。任意選択的に、編みペグは、編みペグの上部端又は上部端付近から始まり、編みペグの下部端又は下部端付近まで延在する溝又はチャネルを有してもよい。或いは、ユーザが、編機のサイズを変更するように好みの場所にペグを配置することをできるようにする再構成可能な編機用クリップが使用されてもよい。)
f「FIG. 5 is a bottom perspective view of a knitting loom 500 for use with the loom clip of FIG. 1. Loom 500 includes a plurality of pegs 510 attached to a base structure 512, including an end-peg 520 used for knitting. A plurality of holes are placed on the bottom side of loom 500 to receive loom clip 100 (shown in FIG. 1-4). The holes are shown as hole pairs 530 and 540, as well as pairs 532, 542. Each of the holes are configured to receive location pegs 130, 132. The plurality of holes 530, 540, 532, 542 allow for the reconfigurable placement of loom clip 100.」(第3欄6〜15行)
(図5は、図1の編機用クリップと共に使用する編機500の底面斜視図である。編機500は、基部構造512に取り付けられる複数のペグ510を含む。複数のペグ510には、編むことに使用されるエンドペグ520も含まれる。編機用クリップ100(図1乃至図4に示される)を受け止めるために、編機500の底部側に、複数の穴が配置されている。穴は、穴対530及び540並びに穴対532及び542として示されている。各穴は、配置ペグ130、132を受け入れるように構成されている。複数の穴530、540、532、542によって、編機用クリップ100の再構成可能な配置が可能にされる。)
上記記載及び図5を参照すると、基部構造512上に、複数のペグ510が取り付けられ、複数のペグ510が2列に配置され、相互に離間され、基部構造512から上方に伸びており、各ペグ510には、外面側に溝又はチャネルが形成されており、各ペグ510の上部端が広がっている。
上記開示事項からみて、甲第10号証には、以下の発明が開示されている。
「編機500であって、
基部構造512と、
基部構造512上に取り付けられた複数のペグ510と、を備え、
複数のペグ510の各々は、広がった上部端と、当該複数のペグ510の各々の、ペグ510の外面側の溝又はチャネルとを有し、複数のペグ510は、2列に配置され、相互に離間され、且つ、基部構造512から上方に伸びている、
編機。」(以下、「甲10発明」という。)

甲第10号証以外の甲各号証については「7.(1)」のとおり。


(2)本件発明1と甲10発明との対比・判断
(2−1)本件発明1と甲10発明との対比
本件発明1の「リンク」が「編み物の目」を意味する英単語の「link」を日本語読みしたもので、「一連のリンクからなるアイテム」が「編み物」を意味するから、甲10発明の「編機500」は、本件発明1の「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置」に相当する。
甲10発明の「基部構造512」、「ペグ510」、「上部端」は、本件発明1の「ベース」、「ピン」、「上部部分」に相当する。
甲10発明の「基部構造512上に取り付けられた複数のペグ510」は、本件発明1の「ベース上にサポートされた複数のピン」に相当する。
甲10発明の「2列に配置され、相互に離間され、且つ、基部構造512から上方に伸びている」は、本件発明1の「複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている」に相当する。

したがって、両者は、
「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、上部部分を有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている
装置。」
の点で一致し 、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明1は、「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」を作成するための装置であるのに対し、甲10発明は、編機である点。
〔相違点2〕
本件発明1は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分を有するのに対し、甲10発明は、広がった上部端を有する点。
〔相違点3〕
本件発明1は、複数のピンの各々はピンの列の方向の前面側の開口部を有するのに対し、甲10発明は、複数のペグ510の各々はペグ510の外面側の溝又はチャネルを有する点。


(2−2)甲10発明を主引用発明としたときの本件発明1についての判断
相違点1、2について
甲第10号証には、「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もなく、また、本件課題である、様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成する装置を提供することを解決するために、甲10発明の上部部分の構造を最適化すること、すなわち「ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するための上部部分」とすることは記載も示唆もない。そうすると、甲第10号証には、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項に至る動機となるものはないから、甲10発明に基づいて、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項に想到することが容易であるとはいえない。

次に、甲第3〜5号証について検討する。
請求人は、相違点1に係る構成は甲第3〜5号証に記載されたように周知慣用技術である旨主張し、甲10発明に当該周知慣用技術を適用することは当業者が容易に考えられたものであるとしている。
甲第3号証には、複数のループ状リンク22A〜22Hを互いに連結して形成したチェーンリンクストリップと、当該チェーンリンクストリップの一対の端部を連結ループ24により互いに連結して形成した装飾品が記載されており、FIG.3等の記載より、前者は「ブルニアンリンク」に相当し、後者は「ブルニアンリンクアイテム」に相当するが、甲第3号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
甲第4号証には、連結されたゴムバンドから構成されるブレスレットが記載されており、FIG.7等の記載より、当該ブレスレットは「ブルニアンリンクアイテム」に相当するが、甲第4号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
甲第5号証には、二重連結部を形成してリンクを隣接するリンクに固定することにより形成されるカーペット地のチェーンが記載されており、FIG.1の記載より、当該チェーンは、「ブルニアンリンク」に相当するが、甲第5号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
以上から、甲第3〜5号証には、「ブルニアンリンク」ないしは「ブルニアンリンクアイテム」自体は開示されているものの、「ブルニアンリンクからなるブルニアンリンクアイテムを作成するための装置」は、甲第3〜5号証のいずれにも開示されておらず、甲第3〜5号証から周知慣用技術であるともいえない。また、甲第3〜5号証には、「ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するための上部部分」とすることは記載も示唆もない。
このように、甲第3〜5号証のいずれにも、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項は開示されておらず、動機となるものもないことから、甲10発明と甲第3〜5号証に記載のものをどのように組み合わせても、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に考えられるとはいえない。


相違点3について
本件発明1が開口部の位置を「ピンの列の方向の前面」としたのは、「ピンの列の方向」に「保持」された弾性バンドの装着を外して隣接するピンに係合させていく過程(図14A−C)において、装着を外す弾性バンドを捕捉するときも、捕捉した弾性バンドを隣接するピンに係合するときも、フックツールは、ピンの列の方向に動作させればよく[図14A(58)、図14B(60)]、技量の乏しい者であっても、容易に「ブルニアンリンク」を作成することができるからである。
開口部の位置を「ピンの列の方向の前面」から変更した場合には、装着を外す弾性バンドを捕捉するときと捕捉した弾性バンドを隣接するピンに係合するときで、フックツールの動作方向を前後方向以外の方向にも動作させなければならず、技量レベルに関わりなく誰でも容易に「ブルニアンリンク」を作成できるとは限らない。
甲第10号証には、「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もなく、また、本件課題である、様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成する装置を提供することを解決するために、ピンの列の方向の前面側の開口部を設けることは記載も示唆もない。
そうすると、甲10発明において溝又はチャネルが開口部であって、甲10発明を用いて「ブルニアンリンク」を作成することができたとしても、複数のペグの外面側に溝又はチャネルを設ければ、技量の乏しい者が容易に「ブルニアンリンク」を作成することができないから、甲10発明において、複数のペグの外面側の溝又はチャネルをピンの列の方向の前面側の開口部とすることは当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

次に、甲第8号証について検討する。
請求人は、相違点3に係る構成は甲第8号証に記載され、本件発明1と技術分野が同一であるから、甲10発明に当該技術を適用することは当業者が容易に考えられたものであるとしている。
甲第8号証には、「複数の突起2の各々の上部に縫針を差込むことの出来る程度の十字状の溝に形成された服装用モチーフ製作用スケール。」が記載されているが、甲第8号証には、本件作成方法も、「ブルニアンリンク」を作成する装置を用いて本件課題を解決することも何ら開示されていない。
したがって、甲第8号証には、「ブルニアンリンクからなるブルニアンリンクアイテムを作成するための装置」は開示されておらず、甲第8号証から周知慣用技術であるともいえない。また、甲第8号証には、「ブルニアンリンクを望ましい向きに保持するための上部部分」とすることは記載も示唆もない。
このように、甲第8号証には、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は開示されておらず、動機となるものもないことから、甲10発明と甲第8号証に記載のものをどのように組み合わせても、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を容易に考えられるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(3)本件発明3と甲10発明との対比・判断
本件請求項3は本件請求項1を直接引用しており、上述のように、本件発明1は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件発明3は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(4)本件発明6と甲10発明との対比・判断
(4−1)本件発明6と甲10発明との対比
本件発明6の「リンク」が「編み物の目」を意味する英単語の「link」を日本語読みしたもので、「一連のリンクからなるアイテム」が「編み物」を意味するから、甲10発明の「編機500」は、本件発明6の「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキット」に相当する。
甲10発明の「基部構造512」、「ペグ510」、「広がった上部端」、「有し」は、本件発明6の「ベース」、「ピン」、「上部部分」、「含み」に相当する。
甲10発明の「基部構造512上に取り付けられた複数のペグ510」は、本件発明6の「ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピン」に相当する。
甲10発明の「2列に配置され、相互に離間され、且つ、基部構造512から上方に伸びている」は、本件発明6の「複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている」に相当する。

したがって、両者は、
「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
上部部分を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている、
キット。」
の点で一致し 、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明6は、「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」を作成するためのキットであるのに対し、甲10発明は、編機である点。
〔相違点2〕
本件発明6は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分を有するのに対し、甲10発明は、広がった上部端を有する点。
〔相違点3〕
本件発明6は、複数のピンの各々はピンの列の方向の前面側の開口部を有するのに対し、甲10発明は、複数のペグ510の各々はペグ510の外面側の溝又はチャネルを有する点。


(4−2)甲10発明を主引用発明としたときの本件発明6についての判断
「(2−2)」と同様の理由で、本件発明6は、甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(5)本件発明7−8、11と甲10発明との対比・判断
本件請求項7−8、11は、本件請求項6を直接引用しており、上述のように、本件発明6は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件発明7−8、11は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


(6)むすび
以上のとおり、本件発明1、3、6−8、11は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、無効理由3によっては、本件発明1、3、6−8、11に係る特許を無効にすることはできない。


9.無効理由4
請求人が主張する無効理由4は、「本件発明1、3、6、7、8、10及び11における「開口部」が、本件特許出願の明細書及び図面のどの部材を示すのか不明瞭であり、本件特許は、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。本件発明10は、本件発明6との関係で、アクセス溝が複数のサイドにある場合のアクセス溝の向きが不明であり、本件特許は、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。」というものである。


(1)開口部について
特許法第36条第6項第2号の規定は、「特許を受けようとする発明が明確であること。」であるから、特許請求の範囲の記載が明確であれば当該規定に適合することとなる。
請求項1、6には「ピンの列の方向の前面側の開口部」とあり、ピンの開口部はピンの列の方向の前面側に設けられることとなり、明細書及び図面を参照するまでもなく十分に明確である。
そうであれば、本件発明1、3、6、7、8及び11における「開口部」の構成は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものとすることはできない。


(2)アクセス溝の向きについて
請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除されたので、請求項10に係る無効理由は、無効理由の対象が存在しないものとなった。


(3)むすび
以上のとおり、本件発明1、3、6−8、11の構成は明確であり、無効理由4によっては、本件発明1、3、6−8、11に係る特許を無効にすることはできない。


10.無効理由5
請求人が主張する無効理由5は、本件発明6に「ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピン」とあり、平成26年6月4日にされた複数のピンの各々が直接ベースに固定されているものを含む補正は、本件特許の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてされたものではないから、本件発明6に係る特許は特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、又、本件発明10に「開口部が、複数のピンの各々の少なくとも1つのサイドに沿って配置されたアクセス溝である」とあり、平成26年1月30日にされたアクセス溝が各ピンの複数のサイドにある構成を追加する補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものではないから、本件発明10に係る特許は特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第1号に該当し無効にすべきものであるというものである。


(1)本件発明6
(1−1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A「【請求項1】リンクされたアイテムを作成する方法であって、
少なくとも2つの隣接するピンの間に望ましい相対的な特別な関係を規定するように、複数のピンを含んだ少なくとも1つのピンバーをベースにサポートするステップと、
少なくとも2つの弾性バンドを隣接するピンに跨って組み立てるステップと、
弾性バンドの一端を捕捉し、別の弾性バンドと係合している間にその端部を隣接するピン上まで引っ張るステップと、
望ましいリンクの長および構成が得られるまで、後続する端部を捕捉して引っ張るステップと、
を含む方法。」
B「この開示は全体的に、リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイスに関する。より特定には、この開示は、リンクされた装着可能なアイテムを弾性バンドから作成するための方法とデバイスに関する。
【背景技術】
独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキットは、常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら、そのようなキットは通常、異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含むだけで、使用可能で望ましいアイテムを構築することは個人の技量と才能に依存する。従って、独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでなく、望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易するするように構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある。
【発明の概要】
ブルニアンリンク(Brunnian link)とは、チェインを形成するために、別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいやり方で形成するのに、弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよびデバイスは、複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも、例示的キットは、ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。
例示的キットは、少なくとも1つのベースによって望ましい特別な向きにサポートされたいくつかのピンバーを含む。望ましい特別な方向は、完成品の望ましいリンクされた構成に依存する。ベースとピンバーは、完成されたリンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように、様々な組み合わせおよび向きに組み立てられ得る。しかも、可能な完成品の作成を更に拡張するために、追加のベースとピンバーが追加されることができる。
ピンバーの各々は、弾性バンドをその場に保持するためのフランジ状の上部部分と、前方アクセス溝を含む。前方アクセス溝は、ブルニアンリンクを形成するために、より下のバンドが掴まれて隣接するバンドの上で引っ張られることができるように、一番上の弾性バンドの下にフックが挿入されることを提供する。開示されたキットは、隣接するピンの多くの可能な向きと、従って完成されたリンクされた物品についての異なる向きおよびデザインを提供する。」(【0002】−【0006】)
C「図1を参照すると、図2に示されたブレスレット、ネックレスおよびその他の装着可能なまたは装飾的なアイテムのようなブルニアンリンクアイテムを作成するための例示的キットが10で指し示されている。
図3を参照すると、ブルニアンリンク20が、実際の結び目を形成することなく、連続的なループ状構造から形成されている。いくつかのリンクが、円形構造を形成するようにチェインに形成されている。端部がそれからしっかり留められて、耐久性のある装着可能なアイテムが作成される。この例では、3つの閉じたループ状のゴムバンドのような弾性アイテム20が単一のチェインを形成しているのが示されている。各リンクは、系列中の別のループ構造の中央部分24で1つのループ構造の端部22を捕捉することによって形成される。各リンクは、望ましい形状と一体性を維持することを前および後続のリンクに依存する。1つのリンク20を取り除くことは、全てのリンクがお互いからはずれるようになることに結果としてなる。
図1を参照すると、例示的キット10は、その各々が複数のピン26を含むピンバー14をサポートするベース12を含む。フックツール16が、バンドを1つのピン26から別のものへ掴んで動かすために含まれている。クリップ18は、リンクされたアイテムを完成してしっかり留めるために完成したリンクの端部を受け取る。ピンバー14と対応するピン26を望ましい揃えでサポートするために、示されたように1つまたはいくつかのピンバー14がいくつかのベース12に載置されている。この例では、中央のピンバー14が、2つの最も外側のピンバー14から1つ先にされている。この揃えは、望ましいリンクされたアイテムの作成を提供する。この例では、ピンバー14を望ましい相対的な向きにサポートするために、3つのベース12が利用されている。
引き続き図1を参照しながら、図4、5A−Bを参照すると、ベース12は、ピンバー14の各ピン26の底部において規定された対応する開口部30内に受け取られる複数の直立に伸長する円筒28を含む。ベース12の円筒28と円筒28を受け取っている開口部30は、ピンバー14をその場に保持するための僅かな干渉フィットを規定する嵌合特徴である。3つのベース12がこの例では示されているが、追加の数のピンバー14をサポートするのにより少なくかまたはより多くが利用されることができる。
ベース12は、円筒28の間に配置された、ピンバー14上に規定された対応するスロット34内にフィットするタブ32を含む。タブ32とスロット34の間のインターフェースが、揃えを提供し、ピンバー14の直立した向きを維持する。ピン26の各々は、ベース12の円筒28の間に規定されたボス37を受け取る前方スロット36を含む。前方スロット36とボス37のインターフェースは、ピンバー14をベース12上に更に揃えてサポートする。
ピンバー14は、単一の列に規定された複数のピン26を有する一体構造である。ピン26の各々は等距離Aの間隔を空けられている。ピン26の各々は、フランジ状上部38と前方アクセス溝40を含む。
図6、7、8および9を参照すると、各ピン26は、バー部分42から上向きに伸長し、ゴムバンドを保持して間隔を空けるための特徴を含む。各ピン26は、リンクの作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になったフランジ状上部38を含む。アクセス溝40は、ピン26の中心に向けて内向きに伸長する縦方向の溝である。アクセス溝40は、バー部分42からフランジ状上部38との開放端まで伸長する。溝40は、ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16(図1)の挿入のための間隙を提供する。」(【0009】−【0015】)
D「図12および13を参照すると、ベース12が、望ましいパターンといくつかのピンバー14の間の均等な間隔を設定するのに利用される。従って、ベース12の各々は、1つまたはいくつかのピンバー14と係合することができる。ベース12は、縦方向に3つのピンバー14と係合し受け取ることができ、および/または1つのベース12によって提供された3つを超えて追加のピンバーを追加するように、ピンバーのグループのサイドに追加されても良い。図12は、3つのベースが3つのピンバー12をサポートし、2つの追加のベース12が1つの列だけで現行のピンバー14と係合されて、円筒28の2つの列が追加のピンバー14を受け取るように横方向に伸長するようになっている構成を描いている。図13は、図12に示されるように横方向に伸長されている追加のベース12によって提供される5つのピンバー14が横並びに揃えられている構成を描いている。分かる通り、追加のベースおよびピンバー14が追加できる程度と可能な構成は、開示されたキットのユーザの望みによってのみ制限される。ピンバー14の追加は、キットのユーザの想像力によってのみ制限される、より独自で込み入ったデザインを提供する。」(【0019】)
E「図14A−Cを参照すると、例示的キットによって提供されるブルニアンリンクを形成する方法は、弾性バンドを隣接するピン26上に装填する最初のステップを含む。この例では、一番右の端部で始まって各ゴムバンドが隣接するピンに渡って引き伸ばされ中央部分において保持される。第1の弾性バンド52が、隣接するピン26の第1のペアの間に置かれる。第2の弾性バンド54がそれから、前に組み立てられた第1の弾性バンド52の一端の上に置かれ、それから第3の弾性バンド56等々、望ましい数のゴムバンドが対応するピンバー14上に置かれるまで、となる。これらの例では、3つの弾性バンド52、54および56のみが説明の目的で示されているが、実際には、完成品の望ましい長さを提供するために多くの弾性バンドが利用され得ることに注意されたい。
一旦弾性バンド52、54および56がピン26の各々の上に置かれると、フック16が、アクセス溝40中に挿入され、一番上の弾性バンド56を通り過ぎて下向きに動かされる。フック16はそれから、弾性バンド54の一端がフック端中に捕捉されることを許容するのに十分な距離だけ矢印58によって指し示された方向に溝から外向きに動かされる。更なる持ち上げは、図14Bに示されるように別の隣接するピン26上での組み立てのために第3の弾性バンド56の端部を通して60によって指し示された方向に第2の弾性バンド54の捕捉された端部を引っ張り上げる。捕捉された端部は、フランジ状上部38の上を越えて引っ張り上げられ、隣接するピン上に引っ張り戻されて、単一のリンクを形成する。弾性バンド54の捕捉された端部はそれから、隣接するピン26と係合するように開放される。このプロセスが、望ましい長さのリンクのチェインが得られるまで繰り返される。
図14A、14Bおよび14Cに描かれた例は、リンクの単一の列から形成されたチェインを描いている。リンク構成および組み合わせの幅広い種類を形成するように、例示的ベーステンプレート12は多くのピンバー14をサポートするように配列されることができ、従ってリンクは隣接するピンバー14に跨って縦方向および横方向に形成されることができる。」(【0020】−【0022】)
F「図17−20を参照すると、6つのピンバー14を望ましい向きに保持するための例示的ベーステンプレート66が示されている。例示的ピンバー14の各々は、規定されたサイズの開口部30を含み、ベーステンプレート66は、ピンバー14がベーステンプレート66の溝70内でその場に留められるように、ピンバー14中の開口部30と望ましいきつさの干渉フィットを提供するようなサイズとされた複数の円形ボス68を含む。ピンバー14とベーステンプレート66のボスの間の干渉フィットは、望ましい装着可能なアイテムの使用および構築中の分離を防止するために、ベースへの積極的な載置および取り付けを確かにする。
図18、19および20を参照すると、ベーステンプレート66は、第1および第2の端部72、74と、第1および第2の端部72、74の間の第1および第2のサイド76、78を含む。第1の端部72が雄ジョイント82を含み、第2の端部74が対応する雌ジョイント80を含む。第1のサイド76が雄ジョイント82を含み、第2のサイド78が雌ジョイント80を含む。拡張された能力を提供するように、交番するサイドがいくつかのベーステンプレート66のお互いとの取り付けを提供する。
図19は、ジョイント84によって横並びの構成にお互いに接続された2つのベーステンプレート66を描いている。図20は、ジョイント84によってエンドツーエンドの構成にお互いに接続された2つのベーステンプレート66を描いている。分かる通り、多くの異なる望ましい構成を形成するように、あらゆる数のベーステンプレート66がお互いにしっかり取り付けられることができる。異なる構成は、装着可能なアイテムの異なる形状および構成を作成するための多くのオプションを提供する。
従って、例示的キットおよび方法は、ブレスレット、ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも、例示的キットは、潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張可能である。更には、例示的キットは、そのようなリンクおよびアイテムの簡単なやり方での作成を提供して、様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテムを成功裡に作成することを許容する。」(【0024】−【0027】)


(1−2)判断
これらの記載によれば、当初明細書等には、ブレスレットやネックレスなどの「独自の装着可能なアイテム」を作成するキットは、通常、異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含むだけであり、アイテムを構築することは個人の技量と才能に依存するため、このように材料を提供するのみでなく、アイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易にするように構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み、アイテムをブルニアンリンクアイテムとし、ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテム成功裡に作成することを許容するキットを提供するという課題が記載されている。
また、当初明細書等において、上記課題を解決するため発明の実施形態として、次の(ア)〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに、前記のとおり、いずれのキットによっても、ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容することが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し、各ピン26に、リンクの作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になったフランジ状上部38と、ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成されたピンバー14を、3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【0009】〜【0015】、【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して、例えば5つのピンバー14を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【0019】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80、82を用いて、例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造としたキット(【0025】、【0026】)
そして、いずれのキットも、複数のピンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは、ピンバー14及びベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポートする構造にほかならず、このことは、段落【0011】に、「ピン26を望ましい揃えでサポートするために、・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつかのベース12に載置されている。」との記載、すなわち、「ピン26」をサポート対象とする旨の記載があることからも明らかである。そして、ベーステンプレート66も「ベース」の概念であると認められることから、いずれのキットも、複数のピンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは、ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し、様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための、複数のピンが(ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のものであると理解できる。
そうすると、当初明細書等には上記課題を解決することができる技術思想として、特に「ピンバー」の限定がない、本件発明6の構成が記載されており、請求項6の上記補正事項は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものと認められる。


(2)本件発明10
請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除されたので、請求項10に係る無効理由は、無効理由の対象が存在しないものとなった。


(3)むすび
以上のとおり、本件発明6は新たな技術的事項を導入しないものであるから、無効理由5によっては本件発明6に係る特許を無効にすることはできない。


11.むすび
以上のとおり、無効理由1〜5によっては、本件請求項1、3、6〜8、11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3、6〜8、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除されたので、請求項10に係る無効理由は、無効理由の対象が存在しないものとなったため、特許法第135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
前記リンクはブルニアンリンクであり、前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている
装置。
【請求項2】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
開口部が、上部部分からベースに向けて伸びているスロットである、装置。
【請求項3】
F 上部部分が、複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
複数のピンの各々が、上部部分から離された下部フレアー状部分と、リンクを保持するための中央部分を含む、装置。
【請求項5】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、当該複数のピンの各々の前面側の開口部とを有し、複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、装置。
【請求項6】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
前記リンクはブルニアンリンクであり、前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の、ピンの列の方向の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びている、
キット。
【請求項7】
望ましい向きに保持されたリンクを、複数のピンの少なくとも1つの上で操作するためのフックツールを含む、請求項6記載のキット。
【請求項8】
一連のリンクの端部を接続するための少なくとも1つのクリップを含み、該クリップは、各リンクをクリップの内側エリア内に捕捉するための内向きに面した端部を含む、請求項6記載のキット。
【請求項9】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
開口部が、上部部分からベースに向けて伸びているスロットである、キット。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
上部部分が、複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む、請求項6記載のキット。
【請求項12】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
複数のピンの各々が、上部部分から離された下部フレアー状部分と、リンクを保持するための中央部分を含む、キット。
【請求項13】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって、
リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部を含み、ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え、
前記複数のピンは、複数の列に配置され、相互に離間され、且つ、前記ベースから上方に伸びており、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、キット。
【請求項14】
リンクされたアイテムを作成するためのキットを組み立てる方法であって、
ピンの間に望ましい空間的な関係を規定するように、複数のピンをサポートするステップと、
複数のピンの1つ上にサポートされたリンクをつかむためにフックツールのためのアクセスを提供するように、複数のピンの各々上にアクセス開口部を提供するステップと、
前記リンクされたアイテムのための複数の弾性バンドを、望ましいパターンに従って複数のピンへ提供するステップと、
一旦望ましいパターンが完成されるとリンクを一緒に保持するための複数のクリップを提供するステップと、
を含む方法。
【請求項15】
複数のピンの1つ上にサポートされたリンクを操作するためのアクセス開口部中への挿入のためのフックツールを提供するステップを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって、
ベースと、
ベース上にサポートされた複数のピンと、を備え、
前記複数のピンの各々は、リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と、複数のピンの各々の前面側の開口部とを含み、且つ、
追加のベースと追加の複数のピンを組み合わせるための嵌合特徴を含む、
装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-07-31 
結審通知日 2019-08-02 
審決日 2019-08-26 
出願番号 P2014-014615
審決分類 P 1 122・ 55- YAA (A44C)
P 1 122・ 113- YAA (A44C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 久保 竜一
堀川 一郎
登録日 2014-07-11 
登録番号 5575340
発明の名称 ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット  
代理人 原 裕子  
代理人 松山 智恵  
代理人 伊藤 正和  
代理人 栗林 知広  
代理人 廣瀬 文雄  
代理人 鳥海 哲郎  
代理人 金田 周二  
代理人 塩月 秀平  
代理人 稲葉 大輔  
代理人 伊藤 正和  
代理人 原 裕子  
代理人 廣瀬 文雄  

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