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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1380945
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-25 
確定日 2021-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6792662号発明「着色粘着シートおよび表示体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6792662号の請求項1−13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6792662号の請求項1〜13に係る特許についての出願は、平成31年3月29日に出願され、令和2年11月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜13に係る特許に対し、令和3年5月25日に特許異議申立人谷口俊春(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、当審は、令和3年8月11日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年10月22日に意見書の提出を行った。

第2 本件発明
特許第6792662号の請求項1〜13に係る発明(以下、「本件特許発明1」等といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための、着色剤を含有する粘着剤からなる着色粘着剤層を備えた着色粘着シートであって、
前記着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である
ことを特徴とする着色粘着シート。
【請求項2】
前記着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下であることを特徴とする請求項1に記載の着色粘着シート。
【請求項3】
波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の着色粘着シート。
【請求項4】
前記着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、
前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項5】
前記着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項6】
前記着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項7】
前記着色剤が、黒色の顔料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項9】
前記粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、架橋剤(B)および着色剤(C)を含有する粘着性組成物を架橋したものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項10】
2枚の剥離シートと、
前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持された前記着色粘着剤層と
を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の着色粘着シート。
【請求項11】
一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材を互いに貼合する着色粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記着色粘着剤層が、請求項1〜10のいずれか一項に記載の着色粘着シートの着色粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。
【請求項12】
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材の少なくとも一方は、少なくとも前記着色粘着剤層によって貼合される側の面に段差を有することを特徴とする請求項11に記載の表示体。
【請求項13】
黒色の枠材を有することを特徴とする請求項11または12に記載の表示体。」

第3 取消理由通知に記載した取消理由について
本件特許の請求項1〜13に係る特許に対して、当審が令和3年8月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由(実施可能要件)本件特許の請求項1〜13に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

本件特許発明に係る着色粘着剤層は、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下」(本件特許発明1〜13)、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下」(本件特許発明2〜13)、「波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下」(本件特許発明3〜13)、「着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7」(本件特許発明4〜13)、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下」(本件特許発明5〜13)、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下」(本件特許発明6〜13)であることを要するものであるから、例えば、本件特許発明1(本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2〜13についても同様。)を実施することができるといえるためには、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下」を充足する着色粘着剤層を製造する方法について、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができる程度に理解できることを要するといえる。
また、本件特許発明2〜13については、上記に加えさらに、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下」を充足する着色粘着剤層を製造する方法について、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができる程度に理解できることを要するといえる。
「波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下」(本件特許発明3〜13)、「着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7」(本件特許発明4〜13)、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下」(本件特許発明5〜13)、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下」(本件特許発明6〜13)についても同様である。

(1)実施例の記載について
本件特許発明の実施例の記載によると、本件特許発明を実施するためには適切なカーボンブラックを選択することが必要であると認められるが、実施例で使用されるカーボンブラックについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0056】に、「[着色剤(C)]
C1〜C6:表2に示す物性を有するカーボンブラック系黒色顔料」とのみ記載され、カーボンブラックの商品名や製造方法等は記載されていない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当該カーボンブラックを得ることができないから、実施例を再現することができるとはいえないし、実施例を参考にして適切なカーボンブラックを得ることができるともいえない。

(2)実施例以外の記載及び技術常識について
本件特許発明で使用されるカーボンブラックについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはカーボンブラックとして表2に示す6種類が開示されており、このうち、C1〜C5の5種類を使用した場合に、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下」であるものとなることが、理解できる。
しかし、表2に示すカーボンブラックの平均ヘイズなどの物性と表3に示す着色粘着剤の平均ヘイズなどの物性は相関しているとはいえない。例えば、C3〜C5にかけて平均ヘイズは大きくなっているが、C3〜C5を同量使用した実施例6〜8にかけて平均ヘイズは大きくなっていない。
そうすると、表2の物性を評価しても、当該カーボンブラックを使用すれば、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であるものを得ることができるのか否かを区別することができるとはいえない。
「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下」、「波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下」、「着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満」、「前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7」についても同様である。
さらに、これらの事項を同時に満たすカーボンブラックを入手する方法については、完全に不明であるとしかいえない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の他の記載をみても、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であり、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下であり、波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下であり、着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7であるものを得る方法は、記載されていないし、どのようなカーボンブラックを使用すれば、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であり、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下であり、波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下であり、着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7であるものを得られることが、出願時の技術常識でもない。
さらに、発明の詳細な説明にはどのようなカーボンブラック(顔料)であれば、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下」、あるいは、「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下」を満足するのかについての説明も一切記載されておらず、これらを満足するカーボンブラックを入手するための指針となるような技術常識もないから、これらを満足するカーボンブラックを入手するためには、そのようなカーボンブラックを見いだすまで「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値」を実際に測定し続ける他ないといえる。そうすると、これらを満足するカーボンブラックを入手するためには、過度の試行錯誤を要するといえる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であり、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下であり、波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下であり、着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7、着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下、着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下であるという発明特定事項を有する着色粘着剤層について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されているとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明が、本件特許発明1〜13について、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載されているとはいえない。

第4 前記第3における実施可能要件についての判断
1.本件特許発明1
本件特許発明1は、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であるという特定を含むものである。
ここで、本件特許明細書の実施例1〜8から明らかなように、平均ヘイズが4.11〜32.56であるC1〜C5のカーボンブラックを0.4〜1.5質量部使用することにより、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすことができる。
一方、本件特許明細書の比較例2においては、平均ヘイズが84.66であるC6のカーボンブラックを多めの量である1.9質量部で使用すると、本件特許発明1の平均ヘイズを満たしていない。
そうすると、平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラックを適量使用すれば、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすことができる可能性が高くなることが理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0041】−【0042】にも、上記着色粘着剤層の平均ヘイズを含む光学物性を満たすためには、平均ヘイズが60%以下の着色剤を使用することが好ましい旨が記載されている。
さらに、乙第1号証(ヘイズメーター「SH−7000」のカタログの写し)の記載から明らかなとおり、「SH−7000」をPCに接続した上で、波長380nmにおけるヘイズ値および波長780nmにおけるヘイズ値を測定し、それらの平均値を当該PC上で計算することで、極めて簡単に平均ヘイズを算出することができるといえる。
そうすると、一般的に入手したカーボンブラックのヘイズ値を測定し、平均ヘイズが極端に高いカーボンブラックを除き、平均ヘイズ60%以下を目安としたカーボンブラックを、本件特許明細書の実施例に記載の量を参考に使用すれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要なく、本件特許発明1の平均ヘイズを満たし、本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造することができるといえる。

2.本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1において「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値(ヘイズ値差分)が、15ポイント以下である」と特定されるものである。
ここで、本件特許明細書の実施例1〜7から明らかなように、平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラック(上記1を参照。)であるC1〜C5の中から、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が1.3〜15.2であるC1〜C4のカーボンブラックを選択し、0.4〜1.5質量部使用することにより、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たすことができる。
一方、本件特許明細書の実施例8においては、ヘイズ値差分が27.2と高いC5のカーボンブラックを使用し、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たしていない。
なお、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものである。
そうすると、平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラックの中からヘイズ値差分が極端に高くないカーボンブラックを選択し、適量使用すれば、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たすことができる可能性が高くなることが理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0041】、【0043】にも、上記着色粘着剤層のヘイズ値差分を含む光学物性を満たすためには 、ヘイズ値差分が25ポイント以下の着色剤を使用することがより好ましい旨が記載されている。
さらに、カーボンブラックのヘイズ値差分は、前述した装置を使用することにより、複雑高度な実験等をする必要なく、簡単に取得することができるといえる。
そうすると、本件特許発明1の平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラック(上記1を参照。)の中から、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たすカーボンブラックのヘイズ値差分を計算し、カーボンブラックのヘイズ値差分が極端に高いカーボンブラックを除き、カーボンブラックのヘイズ値差分15ポイント以下を目安としたカーボンブラックを選択し、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たす量で使用すれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要なく、本件特許発明2のヘイズ値差分を満たし、本件特許発明2に係る着色粘着シートを製造することができるといえる。

3.本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2において「波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差(ヘイズ値の標準偏差)が、5以下である」と特定されるものである。
本件特許明細書の実施例1〜7から明らかなように、ヘイズ値の標準偏差が0.48〜4.31であるC1〜C4のカーボンブラックを0.4〜1.5質量部使用することにより、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差を満たすことができる。
一方、本件特許明細書の実施例8においては、ヘイズ値の標準偏差が7.99であるC5のカーボンブラックを使用し、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差を満たしていない。
そうすると、ヘイズ値の標準偏差が極端に高くないカーボンブラックを適量使用すれば、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差を満たすことができる可能性が高くなることが理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0041】、【0046】にも、上記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差を含む光学物 性を満 たすためには、ヘイズ値の標準偏差が6以下の着色剤を使用することが特に好ましい旨が記載されている。
さらに、カーボンブラックのヘイズ値の標準偏差は、前述した装置を使用することにより、複雑高度な実験等をする必要なく、簡単に取得することができるといえる。
なお、本件特許発明3は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2を引用する発明を含むものである。
そうすると、本件特許発明1の平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラック(上記1を参照。)であって、本件特許発明2ヘイズ値差分が極端に高くないカーボンブラック(上記2を参照。)の中から、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差を計算し、ヘイズ値の標準偏差が極端に高いカーボンブラックを除き、ヘイズ値の標準偏差5以下を目安としたカーボンブラックを選択し、本件特許発明3の平均ヘイズを満たす量で使用すれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要なく、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差を満たし、本件特許発明3に係る着色粘着シートを製造することができるといえる。

4.本件特許発明4
本件特許発明4は、本件特許発明1〜3のいずれかにおいて「前記着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、
前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7である」と特定されるものである。
ここで、本件特許明細書の実施例1〜8および比較例2から明らかなように、使用量が所定量(0.4〜1.9質量部)であれば、C1〜C6のカーボンブラックのいずれを使用しても、本件特許発明4の全光線透過率を満たすことができる。
一方、本件特許明細書の比較例1のように、カーボンブラックを全く使用しなければ、本件特許発明4の全光線透過率を満たさない。
また、本件特許明細書の実施例1〜8および比較例2から明らかなように、使用量が所定量(0.4〜1.9質量部)であれば、C1〜C6のカーボンブラックのいずれを使用しても、本件特許発明4の色度色度a*および色度b*を満たすことができる。
さらに、本件特許明細書の比較例1のように、カーボンブラックを全く使用しなくても、本件特許発明4の色度a*および色度b*を満たすことができる。
なお、本件特許発明4は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2を引用する本件特許発明3を引用する発明を含むものである。
そうすると、本件特許発明1の平均ヘイズが極端に高くないカーボンブラック(上記1を参照。)であり、本件特許発明2のヘイズ値差分が極端に高くないカーボンブラック(上記2を参照。)であり、さらに、本件特許発明3のヘイズ値の標準偏差5以下を目安としたカーボンブラック(上記3を参照)を選択し、本件特許発明1の平均ヘイズを満たす量で使用すれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要なく、本件特許発明4の全光線透過率、色度a*および色度b*を満たし、本件特許発明4に係る着色粘着シートを製造することができるといえる。

5.本件特許発明5
本件特許発明5は、本件特許発明1〜4のいずれかにおいて「前記着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下である」と特定されるものである。
ここで、前記着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下であるという上記発明特定事項は、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすにあたり、事前に取得する物性であり、当該物性を満たす着色剤を選択することで、本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造することができる。
すなわち、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすということは、実質的に、本件特許発明5の平均ヘイズを満たす着色剤を使用していることとなり、本件特許発明5に係る着色粘着シートを製造していることになるといえる。
なお、本件特許発明5は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2を引用する本件特許発明3を引用する本件特許発明4を引用する発明を含むものである。
また、上記4のとおり、本件特許発明4に係る着色粘着シートは、その製造をすることができるといえるものである。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

6.本件特許発明6
本件特許発明6は、本件特許発明1〜5のいずれかにおいて「前記着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値(ヘイズ値差分)が、30ポイント以下である」と特定されるものである。
ここで、本件特許明細書の実施例1〜8から明らかなように、C1〜C5のカーボンブラックを適量(0.4〜1.5質量部)使用することにより、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすことができ、C1〜C5のカーボンブラックは、全て本件特許発明6のヘイズ値差分を満たしている。
すなわち、本件特許発明1の平均ヘイズを満たすということは、実質的に、本件特許発明6のヘイズ値差分を満たす着色剤を使用していることとなり、本件特許発明6に係る着色粘着シートを製造していることになるといえる。
なお、本件特許発明6は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2を引用する本件特許発明3を引用する本件特許発明4を引用する本件特許発明5を引用する発明を含むものである。
また、上記5のとおり、本件特許発明5に係る着色粘着シートは、その製造をすることができるといえるものである。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

7.本願発明7〜13について
本件特許発明7〜13は、本件特許発明1〜6をさらに特定するものであるが、物性に関する発明特定事項を独自には備えていない。
したがって、本件特許発明1〜6と同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明7〜13について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

8.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、令和3年11月25日付けの上申書(3頁4行〜4頁3行)において「(3)しかしながら、本件特許明細書には、カーボンブラッ クの平均ヘイズを1%以上60%以下に調節するための方法が全く記載されていません。特許権者の主張によれば、入手したカーボンブラックの平均ヘイズを測定し、その平均ヘイズ(着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値)が1%以上60%以下であるカーボンブラックを選択することで、本件特許発明に係る着色粘着シートを得ることができるというものです。
ところが、カーボンブラックの平均ヘイズを1%以上60%以下に調節する方法が不明である以上、この事項を満たすカーボンブラックを入手する方法については、完全に不明であるとしかいえません。しかも、本件特許に係る出願時において、平均ヘイズが1%以上60%以下を満足するカーボンブラックを入手するための指針となるような技術常識もありません。
そうである以上、前記平均ヘイズを満足するカーボンブラックを人手するためには、結局のところ、そのようなカーボンブラックを見いだすまで「着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値」を実際に測定し続ける他ないと言わざるを得ず、当該カーボンブラックを入手するためには、過度の試行錯誤を要するものです。しかも、本件特許発明では、着色剤はカーボンブラックにすら限定されていないので、多種多様に存在する着色剤に対して上記測定をしなければならず、当業者に期待し得る程度を超える複雑高度な実験をする必要があります。つまり、本件特許明細書においてカーボンブラックですら十分な開示がない以上、それ以外の着色剤については、当然に必要以上の試行錯誤を当業者に強いるものです。

(4)さらに付言すると、着色粘着シートにおいて、着色粘着剤層自体の平均ヘイズは、着色剤のみならず、シートを形成するための樹脂材料や着色剤の分散状態にも依拠するものであり、これらの事項を含めて所望の平均ヘイズを有する着色粘着剤層を形成することは、当業者であっても到底実施することができるものではなく、この点においても、過度の試行錯誤無しに本件特許発明を実施することができるものではありません。」と主張する。

しかし、上記1.で検討したとおり、「SH−7000」をPCに接続した上で、波長380nmにおけるヘイズ値および波長780nmにおけるヘイズ値を測定し、それらの平均値を当該PC上で計算することで、極めて簡単に平均ヘイズを算出することができ、一般的に入手したカーボンブラックのヘイズ値を測定し、平均ヘイズが極端に高いカーボンブラックを除き、平均ヘイズ60%以下を目安としたカーボンブラックを使用すれば本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造することができるといえる。
また、本件特許明細書の実施例の記載によれば、C1〜C6の6つの着色剤のうち5つの着色剤を使用すると本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造することができるのであるから、市販の着色剤の大部分(6銘柄中5銘柄程度)を本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造するために使用することができるであろうと期待することができるのであって、C1〜C6の着色剤の銘柄等が不明であっても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要なく、本件特許発明1の平均ヘイズを満たし、本件特許発明1に係る着色粘着シートを製造することができる着色剤を入手することができるといえる。
また、カーボンブラック以外の着色剤を使用する場合や、樹脂材料の選択や着色剤の分散状態の影響があるとしても、そのような影響が原因で本件特許発明の実施ができなかった態様が本件特許明細書に具体的に記載されているわけではなく、それだけで直ちに本件特許発明を実施することができないとはいえるような具体的な証拠を特許異議申立人が示しているわけでもないから、特許異議申立人の主張は単なる懸念に過ぎない。
そうすると、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

9.まとめ
以上のとおりであるから、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であり、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、15ポイント以下であり、波長領域380nm〜780nmの5nmピッチの各波長における前記着色粘着剤層のヘイズ値の標準偏差が、5以下であり、着色粘着剤層の全光線透過率が、10%以上、95%未満であり、前記着色粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*が、それぞれ−7〜7、着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、1%以上、60%以下、着色剤を酢酸エチルで1万倍希釈した液の、波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との差分の値が、30ポイント以下であるという発明特定事項を有する着色粘着剤層を備える本件特許発明1〜13について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されているといえる。
したがって、発明の詳細な説明が、本件特許発明1〜13について、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載されているといえる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2000−265133号公報
甲第2号証:特開2003−82302号公報
甲第3号証:特開2017−149980号公報
甲第4号証:特開2014−199336号公報

理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1〜13に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

1.理由1(進歩性)について
(1)甲号証の記載について
ア 甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【請求項1】 透明基材の一面に、光重合性化合物、光重合開始剤及びカーボンブラックを分散せしめた粘着剤層を設けたことを特徴とする電子ディスプレイ用貼着フィルム。」
1b「【0010】本発明において光散乱率はヘイズとしても表現される。ヘイズは次のようにして測定された値である。
ヘイズ(%)=(散乱光強度/全光線透過強度)×100
通常、画像表示部であるガラス体の色調はニュートラルグレイが好ましいとされている。ニュートラルグレイとは、Labによる色相表示において、a値とb値がほぼゼロに近い色相であることを意味する。より具体的には、a値とb値とが±5以内の範囲にある色相を意味する。さらに好ましくは、a値が±3以内、b値が±4以内の範囲にある色相が好ましく使用される。より好ましくは、a値が+1〜−2.5、b値が±3.5以内の範囲にある色相が好ましく使用される。a値、b値が上記範囲特に±5の範囲を超えるとディスプレイの表示色に影響を及ぼし、色再現性が悪化する。粘着層に添加する顔料がカーボンブラックのみであると、目的の色相にならないことがあり、褐色になり易く、発色体によっては黒白のコントラストを不良とし、あるいは各種色相を不良とする場合がある。このため、貼着フィルムの色相を発色体等の変化による要求に応えるため、すなわち色再現性を良くするため、顔料が添加される。顔料としては平均粒子径が、0.02〜5μm、さらに好ましくは0.05〜1μmであるものが好ましく使用される。本発明での使用に適した顔料を例示すると次の通りである。イソインドリノン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、アゾ系、ナフトール系、キノフタロン系、アゾメチン系、ベンズイミダゾロン系、ペリノン系、ピランスロン系、キナクリドン系、ペリレン系、ピランスロン系、フタロシアニン系、スレン系等。これらの顔料は、目的とする色相に調整するため適宜混合して使用することもできる。好ましい顔料としては、ジオキサジン系、アゾ系、ナフトール系、キナクリドン系の赤色顔料、フタロシアニン系の青色顔料が挙げられ、特に好ましい顔料としてはジオキサジン系赤色顔料と銅フタロシアニン系青色顔料、あるいはそれらの混合物が挙げられる。色相調整のためには、染料を添加することもできる。しかし、染料は、耐候性に劣り、長時間使用したときの光透過率の変化が大きく、本発明での使用には適していない。」
1c「【0014】以下本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
製造例
<アクリルポリマーaの重合例>温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管を備えたフラスコ中にn−ブチルアクリレート94重量部、アクリル酸6重量部、過酸化ベンゾイル0.3重量部、酢酸エチル40重量部、トルエン60重量部を加え、ついで窒素導入管から窒素を導入してフラスコ内を窒素雰囲気とした後、65℃に加温して10時間重合反応を行い、重量平均分子量約120万、Tg約−49℃のアクリルポリマー溶液を得た。このアクリルポリマー溶液に固形分が20重量%となるように酢酸エチルを加え、マスターバッチ用アクリルポリマー溶液aを得た。この溶液aの100重量部(固形分として)に、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン0.1重量部を加え、粘着剤塗工液a’を得た。
【0015】<アクリルポリマーbの重合例>温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管を備えたフラスコ中にn−ブチルアクリレート96重量部、アクリル酸3重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1重量部、過酸化ベンゾイル0.3重量部、酢酸エチル40重量部、トルエン60重量部を加え、ついで窒素導入管から窒素を導入してフラスコ内を窒素雰囲気とした後、65℃に加温して10時間重合反応を行い、重量平均分子量約100万、Tg約−50℃のアクリルポリマー溶液を得た。このアクリルポリマー溶液に固形分が20重量%となるように酢酸エチルを加え、マスターバッチ用アクリルポリマー溶液bを得た。この溶液bの100重量部(固形分として)に対してポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製、“コロネートL”)0.1重量部を加え、粘着剤塗工液b’を得た。
【0016】<実施例1>マスターバッチ用アクリルポリマー溶液aに、該溶液aの100重量部(固形分として)に、カーボンブラックSpecial Black 6(デグサ社製:1次粒子径17nm、BET比表面積300m2/g、揮発分18重量%、pH2.5)を6重量部添加した後撹拌して、カーボンブラックを十分に分散させたマスターバッチ溶液Aを作製した。粘着剤塗工液a’の100重量部(粘着剤濃度20重量%)に、マスターバッチ溶液A0.2重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(モノマー)を粘着剤固形分100重量部に対して2重量部及びベンゾフェノン系光重合開始剤0.06重量部を添加し、均一になるよう撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施した透明PETフィルムの未処理面に、乾燥後の粘着層の厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。該粘着層面をITOスパッタリング反射防止処理及びハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm、層構成、反射防止層/ハードコート層/PETフィルム)の未処理面に貼着し、本発明の着色粘着フィルムを得た。
【0017】<実施例2>6重量部のカーボンブラックSpecial Black 6を11重量部のColor Black FW200(デグサ社製:一次粒子径13nm、BET比表面積460m2/g、揮発分20重量%、pH2.5)に代えた以外は、実施例1と同様に操作してマスターバッチ溶液Bを作製した。粘着剤塗工液a’の100重量部(粘着剤濃度20重量%)に、マスターバッチ溶液Bの0.5重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(モノマー)を粘着剤固形分100重量部に対して1重量部及びアセトフェノン系光重合開始剤0.03重量部を添加し、均一になるよう撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施したPETフィルムの未処理面に、乾燥後の粘着層の厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。該粘着層面を実施例1と同様に反射防止処理及びハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm)の未処理面に貼着し、本発明の着色粘着フィルムを得た。
【0018】<実施例3>6重量部のカーボンブラックSpecial Black 6を4.5重量部のSpecial Black4 (デグサ社製:一次粒子径25nm、BET比表面積180m2/g、揮発分14重量%、pH3)に代えた以外は、実施例1と同様に操作してマスターバッチ溶液Cを作製した。粘着剤塗工液a’の100重量部(粘着剤20重量%)に、マスターバッチ溶液Cの0.2重量部、ペンタエリスリトールトリメタクリレート(モノマー)を粘着剤固形分100重量部に対して4重量部及びチオキサントン系光重合開始剤0.12重量部を添加し、均一になるよう撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施したPETフィルムに、乾燥後の粘着層の厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。該粘着層面を実施例1と同様に反射防止処理及びハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm)の未処理面に貼着し、本発明の着色粘着フィルムを得た。
【0019】<実施例4>マスターバッチ用アクリルポリマー溶液bの100重量部(固形分として)に、7.5重量部のカーボンブラックColor Black FW200、4.5重量部の青色有機顔料(モノクロルシアニンブルー) 及び2.2重量部の赤色有機顔料(キナクリドンレッド)を添加した後撹拌し、カーボンブラック、青色顔料 及び赤色顔料を十分に分散させたマスターバッチ溶液Dを作製した。粘着剤塗工液b’の100重量部(粘着剤20重量%)に、マスターバッチ溶液Dの0.5重量部、テトラメチロールメタンテトラアクリレート(モノマー)を粘着剤固形分100重量部に対して3重量部及びベンゾインエーテル系光重合開始剤0.09重量部を添加し、均一になるように撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施したPETフィルムに、乾燥後の粘着層厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。この粘着層面を実施例1と同様に反射防止処理ハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm)の未処理面に貼着し、本発明の着色粘着フィルムを得た。
【0020】<比較例1>粘着剤塗工液b’の100重量部(粘着剤20重量%)に、0.48重量部のスピロン染料(金属錯塩型)溶液(東亜化成社製、TK−スモーク)を添加し、均一になるように撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施したPETフィルムに、乾燥後の粘着層厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。この粘着層面を実施例1と同様に反射防止処理及びハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm)の未処理面に貼着し、比較用の着色粘着フィルムを得た。
【0021】<比較例2>粘着剤塗工液a’の100重量部(粘着剤20重量%)に、0.48重量部のスピロン染料(金属錯塩型)溶液(東亜化成社製、TK−スモーク) 及び0.4重量部の紫外線吸収剤(チバガイギー社製、TINUVIN109)を添加し、均一になるように撹拌した後、厚さ38μmの剥離処理を施したPETフィルムに、乾燥後の粘着層厚さが25μmとなるように塗工し、乾燥した。この粘着層面を実施例1と同様に反射防止処理及びハードコートを施した透明PETフィルム(厚さ188μm)に貼着し、比較用の着色粘着フィルムを得た。
【0022】<比較例3>トリメチロールプロパントリアクリレート及び光重合開始剤を添加しない以外は実施例1と同様に操作して比較用の着色粘着フィルムを得た。
【0023】<実施例5>テトラメチロールメタンテトラアクリレート(モノマー)3重量部の代わりにウレタンアクリレートオリゴマー3重量部を用いた他は実施例4と同様に操作して本発明の着色粘着フィルムを得た。
【0024】<評価サンプルの作成>上記実施例および比較例で得られた着色粘着フィルムから剥離処理を施したPETフィルム(38μm)を剥がし、ガラス板(松波ガラス社製、マイクロスライドガラス)に貼合わせ、下記の試験を行った。
・フェードメーターによる耐光性試験
評価サンプルをフェードメーター(スガ試験機社製、紫外線ロングライフ・フェードメーターFAL−AU型、紫外線は紫外線カーボンアークにより発生させた)に着色粘着フィルム側が暴露するようにセットし、400時間後の透過率及びヘイズを測定した。
・a値及びb値
分光光度計(日本分光工業社製、可視紫外分光光度計UVDEC−670型)を用いて測定した。本測定結果は表2に示す。
・透過率の測定
フェードメーターセット前 及びセット後の評価サンプルについて、着色粘着フィルム側から、波長550nmでの透過率を、分光光度計(日本分光工業社製、可視紫外分光光度計UVDEC−670型)を用いて測定した。
・ヘイズの測定
フェードメーターセット前 及びセット後の評価サンプルについて、着色粘着フィルム側から、ヘイズメーター(日本電色社製、Haze Meter NDH2000)を用いて測定した。
・気泡の評価
フェードメーターセット前及びセット後の評価サンプルを目視で気泡が発生しているか否かを確認した。気泡が認められないものは○、認められたものは×とした。 各評価サンプルの測定結果を表1及び表2に示す。
【0025】
表1
フェードメーターセット前 フェードメーター400時間後
透過率(%) ヘイズ 気泡 透過率(%) ヘイズ 気泡
実施例1 71.5 1.9 ○ 71.8 1.8 ○
実施例2 38.2 1.6 ○ 38.3 1.7 ○
実施例3 82.2 2.1 ○ 83.4 2.2 ○
実施例4 56.2 2.5 ○ 56.7 2.6 ○
実施例5 56.6 2.4 ○ 56.8 2.5 ○
比較例1 43.5 0.8 ○ 58.9 1.1 ×
比較例2 41.2 0.9 ○ 50.7 1.1 ×
比較例3 71.6 1.8 ○ 71.6 1.7 ×」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】 光透過性フィルムの一面に(メタ)アクリル系樹脂を含有する粘着剤層を設けてなり、該粘着剤層がネオンカット色素、キセノンカット色素及び近赤外線カット色素から選ばれた少なくとも1種とカーボンブラックを含有することを特徴とする電子ディスプレイ用着色粘着剤付フィルム。」
2b「【0020】
【実施例】以下、本発明を実施例によって説明する。
<(メタ)アクリル系樹脂の合成>
製造例1
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管を備えたフラスコ中に、n−ブチルアクリレート95重量部、アクリル酸5重量部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.2重量部、過酸化ベンゾイル0.3重量部、酢酸エチル40重量部、トルエン60重量部を投入し、窒素導入管より窒素を導入してフラスコ内を窒素雰囲気とした。その後、混合物を65℃に加温して10時間重合反応を行い、重量平均分子量約120万、Tg約−49℃のアクリルポリマーの溶液を得た。このアクリルポリマーの溶液100重量部に多官能エポキシ(エチレングリコールジグリシジルエーテル)0.2重量部を加え、更に固形分が20重量%となるように酢酸エチルを加えてポリマー溶液Aを得た。
【0021】製造例2
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管を備えたフラスコ中に、n−ブチルアクリレート93重量部、アクリル酸6重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、酢酸エチル90重量部、トルエン60重量部を投入し、窒素導入管より窒素を導入してフラスコ内を窒素雰囲気とした。その後、混合物を65℃に加温して10時間重合反応を行い、重量平均分子量約80万、Tg約−48℃のアクリルポリマーの溶液を得た。このアクリルポリマーの溶液100重量部にポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名:コロネートL)1重量部を加え、更に固形分が20重量%となるように酢酸エチルを加えてポリマー溶液Bを得た。
【0022】<着色粘着剤付きフィルムの作製>
実施例1
前記ポリマー溶液A100重量部にネオンカット色素(旭電化工業社製、商品名:アデカアークルズTY−100、極大吸収値582nm)を0.1重量部溶解し、更にカーボンブラック(平均一次粒子径16nm)0.06重量部を添加し混合して塗布液を作製した。次にシリコーン樹脂により剥離処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)の一面に乾燥後の厚さが25μmになるようアプリケータで上記塗布液を塗工して粘着剤層を形成した。一方、光透過性フィルムとして、片面に反射防止層を有する厚さ188μmのPETフィルムを用意し、該フィルムにおける反射防止層の反対面に、上記のPETフィルムに形成された粘着剤層面を重ねラミネーターで貼り合わせ本発明の着色粘着剤付フィルムを得た。
【0023】実施例2
ポリマー溶液Aの代わりに、ポリマー溶液Bを用いた以外は実施例1と同様にして本発明の着色粘着剤付フィルムを得た。
実施例3
ネオンカット色素の代わりに、キセノンカット色素(林原生物化学研究所製、商品名:NK−5450、極大吸収値576nm)を用いた以外は実施例1と同様にして本発明の着色粘着剤付フィルムを得た。
【0024】実施例4
ネオンカット色素の代わりに、近赤外線カット染料(日本触媒社製、商品名:イーエックスカラー814K)を用いた以外は実施例1と同様にして本発明の着色粘着剤付フィルムを得た。
比較例1
カーボンブラックを含有しない以外は実施例1と同様にして比較用の着色粘着剤付フィルムを得た。
【0025】比較例2
カーボンブラックを含有しない以外は実施例2と同様にして比較用の着色粘着剤付フィルムを得た。
比較例3
カーボンブラックを含有しない以外は実施例3と同様にして比較用の着色粘着剤付フィルムを得た。
比較例4
カーボンブラックを含有しない以外は実施例4と同様にして比較用の着色粘着剤付フィルムを得た。
【0026】次に前記実施例および比較例で得られた着色粘着剤付フィルムを、200×300mmのサイズに切り出しガラス板にラミネーターで貼合した後、該積層体を100℃の高温環境下に調整した恒温槽に1000時間放置した。また、別に用意した同様の積層体を60℃/95%RHの高温高湿環境下に調整した恒温恒湿槽に1000時間放置した。そして、放置後の積層体における着色粘着剤付フィルムの退色性を目視にて評価し、その結果を表1に示した。なお、上記着色粘着剤付フィルムの退色性は次の基準に基づいて評価した。○:退色なし、△:若干の退色有り、×:完全に退色
【0027】
【表1】



(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【0093】
なお、前記着色剤は、光学特性(例えば、遮光性)、意匠性等を付与する目的で、粘着剤層に、適宜、配合されてもよい。特に、粘着剤層に遮光性を付与する場合には、黒色顔料であるカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック)を用いることが好ましい。カーボンブラックの使用量は、アクリル系ポリマー(A)を形成するために利用される全モノマー成分100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。」

(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
4a「【0003】
これら表示体は電源オフ時、すなわち表示部が暗い状態にあったとき、枠などの非表示部と表示部に境界が容易に認識できるものが多い。枠は表示体の光が漏れないように設けられる。電源オフ時に表示部と非表示部の境界が見えない状態であれば電源を入れたときにだけ表示部が明確に表れ、電源オフ時の意匠性が向上すると考えられる。
・・・
【0008】
本発明は、上記問題に顧みてなされたものであり、表示部の著しい輝度低下が起こらない上、表示体の電源オフ時の表示部と非表示部の境目が認識しにくい液晶表示体用偏光板を提供することである。」

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には「透明基材の一面に、光重合性化合物、光重合開始剤及びカーボンブラックを分散せしめた粘着剤層を設けたことを特徴とする電子ディスプレイ用貼着フィルム。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a参照)。

イ 甲2に記載された発明
甲2には「光透過性フィルムの一面に(メタ)アクリル系樹脂を含有する粘着剤層を設けてなり、該粘着剤層がネオンカット色素、キセノンカット色素及び近赤外線カット色素から選ばれた少なくとも1種とカーボンブラックを含有することを特徴とする電子ディスプレイ用着色粘着剤付フィルム。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2a参照)。

(3)甲1発明を主たる引用発明とする場合
ア 本件特許発明1
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「カーボンブラックを分散せしめた粘着剤層」は、本件特許発明1の「着色剤を含有する粘着剤からなる着色粘着剤層」に相当する。
甲1発明の「電子ディスプレイ用貼着フィルム」は、粘着フィルムにカーボンブラックを分散せしめた粘着剤層が設けられているので、本件特許発明1の「一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための・・・着色粘着シート」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための、着色剤を含有する粘着剤からなる着色粘着剤層を備えた着色粘着シート」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であると特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
<相違点1>について検討する。
甲1には、甲1発明の電子ディスプレイ用粘着フィルムのヘイズ値について記載はあるものの(摘記1b、1c参照)、粘着剤層のヘイズ値についての記載はなく、また、どの波長におけるヘイズ値であるのか不明であり(可視光におけるヘイズ値と思われる。)、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズを計算し、かつ、当該平均ヘイズの値を特定の範囲に限定することを動機づける記載がなく、示唆もない。
また、甲3に示されているように、光学特性(例えば、遮光性)や意匠性等を付与する目的で、粘着剤層に黒色顔料であるカーボンブラックを配合することは周知の技術であるし(段落【0093】)、また、甲4の記載(段落【0003】、【0008】)から、表示体において、電源オフ時の意匠性を向上させることは当業者における周知の課題でもあるかもしれないが、甲3、甲4には、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズを計算し、かつ、当該平均ヘイズの値を特定の範囲に限定することを動機づける記載がなく、示唆もない。
そうすると、甲1発明において、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であると特定することは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許明細書の【表3】からみて、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である本件特許発明1の着色粘着シートは、意匠性(特に画面の色味に関する意匠性)および視認性(特に広角視認性および画面の明るさに起因する視認性)に優れており、甲1発明及び甲1、甲3、甲4の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明、及び、甲1、甲3、甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2〜13について
本件特許発明2〜13は、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明1と甲1発明との相違点1と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2〜13についても、甲1発明、及び、甲1、甲3、甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)甲2発明を主たる引用発明とする場合
ア 本件特許発明1
(ア)甲2発明との対比
甲2発明の「粘着剤層がネオンカット色素、キセノンカット色素及び近赤外線カット色素から選ばれた少なくとも1種とカーボンブラックを含有する」、「電子ディスプレイ用着色粘着剤付フィルム」は、本件特許発明1の「着色剤を含有する粘着剤からなる着色粘着剤層」、「一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための・・・着色粘着シート」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、「一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための、着色剤を含有する粘着剤からなる着色粘着剤層を備えた着色粘着シート」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明1は着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であると特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
<相違点2>について検討する。
甲2には、粘着剤層のヘイズ値についてすら記載はなく、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズを計算し、かつ、当該平均ヘイズの値を特定の範囲に限定することを動機づける記載がなく、示唆もない。
また、甲3に示されているように、光学特性(例えば、遮光性)や意匠性等を付与する目的で、粘着剤層に黒色顔料であるカーボンブラックを配合することは周知の技術であるし(段落【0093】)、また、甲第4号証の記載(段落【0003】、【0008】)から、表示体において、電源オフ時の意匠性を向上させることは当業者における周知の課題でもあるかもしれないが、甲3、甲4には、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズを計算し、かつ、当該平均ヘイズの値を特定の範囲に限定することを動機づける記載がなく、示唆もない。
そうすると、甲2発明において、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下であると特定することは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許明細書の【表3】からみて、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である本件特許発明1の着色粘着シートは、意匠性(特に画面の色味に関する意匠性)および視認性(特に広角視認性および画面の明るさに起因する視認性)に優れており、甲2発明及び甲2〜甲4の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものである。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2発明及び甲2〜甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2〜13について
本件特許発明2〜13は、「着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明1と甲1発明との相違点1と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2〜13についても、甲2発明及び甲2〜甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)特許異議申立理由
本件特許発明の課題は、「表示体の意匠性を向上させることのできる着色粘着シート、および意匠性が向上した表示体を提供すること」にある。
この点、本件特許明細書の詳細な説明には、着色剤として特定のカーボンブラックを使用することで上記課題を解決できることが示されているものの、それ以外の着色剤を使用した場合に上記課題が解決できることは示されていない。着色剤の種類が異なれば意匠性が異なることは当業者における技術常識であるところ、特定のカーボンブラック以外の着色剤を使用した場合に上記課題を解決できるものであることは特許明細書の記載からは何ら理解できない。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、サポート要件を充足しない。

(2)判断
本件特許発明の課題は、本件特許明細書【0006】の記載からみて、表示体の意匠性を向上させることのできる着色粘着シート、および意匠性が向上した表示体を提供することにあると認める。
そして、本件特許明細書の【表3】からみて、着色粘着剤層の波長780nmにおけるヘイズ値と、波長380nmにおけるヘイズ値との平均値である平均ヘイズが、2.4%以上、27.9%以下である本件特許発明の着色粘着シートは、意匠性(特に画面の色味に関する意匠性)および視認性(特に広角視認性および画面の明るさに起因する視認性)に優れていることから、表示体の意匠性を向上させることのできる着色粘着シート、および意匠性が向上した表示体を提供することができるといえる。
ここで、特許異議申立人は、「本件特許明細書の詳細な説明には、着色剤として特定のカーボンブラックを使用することで上記課題を解決できることが示されているものの、それ以外の着色剤を使用した場合に上記課題が解決できることは示されていない。着色剤の種類が異なれば意匠性が異なることは当業者における技術常識であるところ、特定のカーボンブラック以外の着色剤を使用した場合に上記課題を解決できるものであることは特許明細書の記載からは何ら理解できない。」と主張する。
確かに、着色剤の種類が異なれば意匠性が異なることは当業者における技術常識であるかもしれないが、本件特許明細書の【0026】において「上記平均ヘイズが1%以上であることにより、表示体の消灯時において、表示体の画面に入射する光が適度に散乱され、表示部とその周辺部材との境界を見え難くする(シームレス化する)ことができる。これにより、表示体の消灯時における表示体と周辺部材との一体感が向上する。一方、上記平均ヘイズが60%以下であることにより、表示体の消灯時において、表示体の画面の白っぽさが抑制され、周辺部材との一体感が向上する。すなわち、上記平均ヘイズが、1%以上、60%以下であることによって、表示体の消灯時における当該表示体と周辺部材との一体感を付与することができ、優れた外観を呈するものとすることができる。本実施形態に係る着色粘着シート1によれば、このようにして表示体の意匠性を向上させることができる。」という作用機序が示されており、平均ヘイズが「1%以上、60%以下」に含まれる2.4%以上、27.9%以下であれば、着色粘着シートは表示体の意匠性を向上させることのできる着色粘着シート、および意匠性が向上した表示体を提供できるといえるから、特定のカーボンブラック以外の着色剤を使用した場合であっても、着色粘着シートは表示体の意匠性を向上させることのできる着色粘着シート、および意匠性が向上した表示体を提供できると認められる。
そうすると、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和3年10月22日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-08 
出願番号 P2019-068290
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09J)
P 1 651・ 537- Y (C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J)
P 1 651・ 536- Y (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 瀬下 浩一
蔵野 雅昭
登録日 2020-11-10 
登録番号 6792662
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 着色粘着シートおよび表示体  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  

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