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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
管理番号 1381316
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-03 
確定日 2022-01-13 
事件の表示 特願2016−30236「回転機械」拒絶査定不服審判事件〔平成29年8月24日出願公開、特開2017−145813〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成28年2月19日に出願され、平成31年2月19日に手続補正書が提出され、令和2年1月22日付けで拒絶理由(発送日:令和2年1月28日)が通知され、その指定期間内である令和2年3月30日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年5月19日付けで拒絶査定(発送日:令和2年6月2日)がされ、これに対して、令和2年8月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において令和2年12月23日に令和2年8月3日にされた手続補正を却下(送達日:令和3年1月12日)するとともに拒絶理由(発送日:令和3年1月5日)が通知され、その指定期間内である令和3年3月8日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに当審において令和3年5月27日付けで拒絶理由(発送日:令和3年6月1日)が通知され、その指定期間内である令和3年8月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和3年8月2日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「軸線の周方向に延びる静止側周面を有する静止体と、
前記軸線回りに回転して前記静止側周面と対向する回転側周面を有する回転体と、を備え、
前記静止側周面と前記回転側周面との一方が、
前記軸線方向に延びる上流側周面と、
前記上流側周面における作動流体の下流側に位置して前記軸線方向に延びるとともに、前記上流側周面よりも前記静止側周面と前記回転側周面との他方へ突出する中央周面と、
前記中央周面の下流側に位置して前記軸線方向に延びるとともに、前記中央周面よりも前記他方から後退する下流側周面と、
前記上流側周面と前記中央周面とを接続して前記上流側を向く前向きステップ面と、を有し、
前記他方から前記上流側周面に向かって延びて、前記上流側周面との間に微小隙間を形成する上流側シールフィンと、
前記他方から前記中央周面に向かって延びて、前記中央周面との間に微小隙間を形成する中央シールフィンと、
前記他方から前記下流側周面に向かって延びて、前記下流側周面との間に微小隙間を形成する下流側シールフィンと、をさらに備え、
前記前向きステップ面が、前記他方に向かうに従って前記下流側に向かって傾斜するとともに、前記軸線を含む断面視で、角度をもって前記上流側周面と交差し、前記中央周面に接続された案内面を有し、
前記上流側シールフィンと前記中央シールフィンと前記下流側シールフィンとは、前記一方側に向かうに従って上流側に向かうように前記他方側の根元から傾斜している回転機械。」

第3.当審において通知した拒絶の理由について
当審において令和3年5月27日付けで通知した拒絶の理由のうち、理由5の概要は以下のとおりである。
理由5(進歩性要件違反)
本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

《引用文献等一覧》
引用文献1:特開2014−141955号公報
引用文献2:特開2015−96730号公報
引用文献3:特開2013−19537号公報
引用文献4:特開2012−2234号公報

第4.当審の判断
1.引用文献の記載、引用発明等
(1)引用文献1、引用発明
当審の拒絶の理由に引用した引用文献1には、「回転機械」の発明に関して、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与。以下同様。)。
ア.「【0001】 本発明は、蒸気タービン、ガスタービンなどの回転機械に関する。」

イ.「【0017】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態の回転機械である蒸気タービンについて図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態の蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する回転軸30と、ケーシング10に保持された静翼40と、回転軸30に設けられた動翼50と、回転軸30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60とを備えて大略構成されている。
【0018】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されていると共に、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、回転軸30が挿通されるリング状の仕切板外輪(静止環状体)11が強固に固定されている。
【0019】
調整弁20は、ケーシング10の内部に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23とを備えており、弁体22が弁座23から離れると蒸気流路が開いて、蒸気室24を介して蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入するようになっている。
【0020】
回転軸30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から回転軸30の径方向(以下、単に径方向と呼ぶ)に延出した複数のディスク32とを備えている。この回転軸30は、回転エネルギーを図示しない発電機等の機械に伝達するようになっている。
軸受部60は、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を備えており、回転軸30を回転自在に支持している。
【0021】
静翼40は、ケーシング10から内周側に向かって伸び、回転軸30を囲繞するように放射状に多数配置される環状静翼群を構成しており、それぞれ上述した仕切板外輪11に保持されている。これら静翼40の径方向における内方側は、回転軸30が挿通されたリング状の仕切板内輪14等で連結されている。
【0022】
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸30の軸方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)に間隔を空けて六つ形成されており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50に流入させる。
【0023】
動翼50は、回転軸30が有するディスク32の外周部に強固に取り付けられ、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。すなわち、蒸気タービン1は、六段に構成されている。このうち、最終段における動翼50の先端部は、回転軸30の周方向(以下、単に周方向と呼ぶ)に隣接する動翼の先端部同士と連結されておりシュラウド51と呼ばれている。
【0024】
図2に示すように、シュラウド51は、軸方向における中央部分が突出してステップ状に形成されたステップ部52(52A〜52C)を備えている。
【0025】
仕切板外輪11の軸方向下流側には、仕切板外輪11の内周部から拡径されケーシング10の内周面を底部13とする円筒状の環状溝12が形成されており、環状溝12には、シュラウド51が収容され、底部13は、シュラウド51のステップ部52A、52B、52Cと隙間Gdを介して径方向に対向している。
【0026】
この底部13には、シュラウド51に向けて径方向に延出する三つのシールフィン17(17A〜17C)が設けられている。シールフィン17(17A〜17C)は、それぞれステップ部52(52A〜52C)に向けて、底部13から内周側に延出しており、周方向に延びている。これらシールフィン17(17A〜17C)は、ステップ部52(52A〜52C)と微小隙間m(mA〜mC)を径方向に形成している。
【0027】
これら微小隙間m(mA〜mC)の各寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量や動翼50の遠心伸び量等を考慮して、シールフィン17(17A〜17C)と動翼50とが接触することがない範囲で設定されている。
【0028】
ケーシング10内周の静翼40の下流側であって、動翼50の先端とケーシングとの隙間Gdの上流側には、リング状部材71を有するスワール案内部70が設置されている。リング状部材71は、隙間Gdの上流側の空間において周方向に延在する環状の板部材であり、周方向にわたって断面形状が一様とされている。換言すれば、リング状部材71は、回転軸30の軸方向に直交する主面を有する円盤状の部材である。
また、リング状部材71は、仕切板外輪11の軸方向一方側の面とシュラウド51の軸方向他方側の面の略中間位置に設けられ、リング状部材71の外周端は、ケーシング10から離間している。
【0029】
また、リング状部材71は、周方向に沿って複数設けられた支持部材72によって支持されている。支持部材72は棒状をなし、リング状部材71の両面のうち、隙間Gdとは反対側の面とケーシング10とを接続するように設けられている。
なお、支持部材72の設置箇所は、図2に示したような箇所には限定されず、例えば、径方向外周側からリング状部材71の外周端を支持するような構成としてもよい。即ち、環状溝12の底部13に設けられた支持部材72によってリング状部材71を支持する構成としてもよい。
【0030】
ここで、上記の構成からなる蒸気タービン1の動作について説明する。
まず、調整弁20(図1参照)を開状態とすると、図示しないボイラから蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入する。
【0031】
ケーシング10の内部空間に流入した蒸気Sは、各段における環状静翼群と環状動翼群とを順次通過する。
各段の環状静翼群において蒸気Sは、静翼40を通過しながらその周方向速度成分が増大する。この蒸気Sのうち大部分の蒸気SMは、動翼50間に流入し、蒸気SMのエネルギーが回転エネルギーに変換されて回転軸30に回転が付与される。
【0032】
一方、蒸気Sのうち一部(例えば、約数%)の蒸気SLは、静翼40から流出した後、周方向成分が増大した状態で環状溝12に流入する。
【0033】
本実施形態の蒸気タービン1によれば、スワール案内部70が周方向に延在するリング状部材71を有することによって、隙間Gdの上流側を流通する旋回流SLとの濡れ面積が増加し、蒸気SLとの間で摩擦が発生するため、旋回流である蒸気SLの旋回成分を低減することができる。
換言すれば、リング状部材71が隙間Gdの上流側において流路幅を狭める、即ち濡れ面積を増やすことにより、蒸気SLに働く壁面摩擦が増加して、蒸気SLの旋回成分を低減することができる。
【0034】
また、リング状部材71が回転軸30の軸方向に直交する主面を有する断面形状が周方向にわたって一様な板部材であることによって、スワール案内部70が旋回流の流通方向に沿う形状となるため、隙間Gdの上流側における擾乱の発生を抑制することができる。
【0035】
なお、上述した実施形態においては、スワール案内部70のリング状部材71を一枚のみ設ける構成を示したが、これに限ることはなく、空間的余裕に応じてリング状部材71を二枚又は複数、軸方向に離間して設置してもよい。これにより、さらに濡れ面積を増加させて、蒸気SLの旋回成分を低減することができる。
【0036】
また、リング状部材71は平板のみならず、面上に複数の孔が規則的に形成された多孔板(例えばパンチングメタル)を用いて、ある程度の蒸気SLの軸方向の流れを許容する構成としてもよい。なお、複数の孔は規則的である必要はなく、不規則に形成されていてもよい。さらに、リング状部材71に複数の突起を設けてもよい。」

ウ.「【図1】



エ.「【図2】



オ.上記アの段落【0017】、【0018】、【0024】及び【0025】、ウの【図1】並びにエの【図2】から、ケーシング10は軸線Oの周方向に延びる内壁面を有していること及び回転軸30が軸線O周りに回転して内壁面と対向する周面を有するシュラウド51を備えていることは明らかである。

カ.上記エの【図2】から、シュラウド51が、軸線Oの方向に延びるステップ部52Aの周面と、前記ステップ部52Aの周面における蒸気Sの下流側に位置して前記軸線Oの方向に延びるとともに、前記ステップ部52Aの周面よりも内壁面へ近づいて突出するステップ部52Bの周面と、前記ステップ部52Bの周面の下流側に位置して前記軸線Oの方向に延びるとともに、前記ステップ部52Bの周面よりも前記内壁面から遠ざかった位置にあるステップ部52Cの周面と、前記ステップ部52Aの周面と前記ステップ部52Bの周面とを接続する面と、を有することが看取できる。

キ.上記アの段落【0026】及びエの【図2】から、内壁面からステップ部52Aの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Aの周面との間に微小隙間mAを形成するシールフィン17Aと、内壁面からステップ部52Bの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Bの周面との間に微小隙間mBを形成するシールフィン17Bと、内壁面からステップ部52Cの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Cの周面との間に微小隙間mCを形成するシールフィン17Cと、がさらに備えられていることは明らかである。

ク.以上を踏まえると、上記引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

《引用発明》
「軸線Oの周方向に延びる内壁面を有するケーシング10と、
前記軸線O回りに回転して前記内壁面と対向する周面を有するシュラウド51を備えた回転軸30と、を備え、
前記シュラウド51が、
前記軸線Oの方向に延びるステップ部52Aの周面と、
前記ステップ部52Aの周面における蒸気Sの下流側に位置して前記軸線Oの方向に延びるとともに、前記ステップ部52Aの周面よりも前記内壁面へ近づいて突出するステップ部52Bの周面と、
前記ステップ部52Bの周面の下流側に位置して前記軸線Oの方向に延びるとともに、前記ステップ部52Bの周面よりも前記内壁面から遠ざかった位置にあるステップ部52Cの周面と、
前記ステップ部52Aの周面と前記ステップ部52Bの周面とを接続する面と、を有し、
前記内壁面から前記ステップ部52Aの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Aの周面との間に微小隙間mAを形成するシールフィン17Aと、
前記内壁面から前記ステップ部52Bの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Bの周面との間に微小隙間mBを形成するシールフィン17Bと、
前記内壁面から前記ステップ部52Cの周面に向かって延びて、前記ステップ部52Cの周面との間に微小隙間mCを形成するシールフィン17Cと、
をさらに備えた、蒸気タービン1。」

(2)引用文献2、引用文献2記載事項
当審の拒絶の理由に引用した引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア.「【0017】
(第1参考例)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1参考例に係る蒸気タービンの構成について説明する。図1は、第1参考例に係る蒸気タービン1を示す概略断面図である。
蒸気タービン1は、中空のケーシング10と、このケーシング10の内部に流入する蒸気S(流体)の量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内部に回転自在に設けられ、不図示の発電機等の機械に動力を伝達する軸体30と、ケーシング10に保持された環状静翼群40と、軸体30に設けられた環状動翼群50(ブレード)と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60と、を備えている。
【0018】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されているとともに、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、軸体30が挿通されたリング状の仕切板外輪11(構造体)が強固に固定されている。
【0019】
調整弁20は、ケーシング10の内部に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23とを備えており、弁体22が弁座23から離れると蒸気流路が開いて、蒸気室24を介して蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入するようになっている。
【0020】
軸体30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から径方向に延出した複数のディスク32とを備えている。この軸体30は、回転エネルギーを、図示しない発電機等の機械に伝達するようになっている。
【0021】
環状静翼群40は、軸体30を包囲して周方向に所定間隔で設けられ、その基端部が前記仕切板外輪11によってそれぞれ保持された複数の静翼41と、これら静翼41の径方向先端部を周方向に互いに連結するリング状のハブシュラウド42と、を有している。そして、このハブシュラウド42には、径方向に所定幅の隙間を介するようにして、軸体30が挿通されている。
そして、このように構成される6個の環状静翼群40が、軸体30の軸方向に所定間隔で設けられており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼51側に案内するようになっている。
【0022】
軸受部60は、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を有し、軸体30を回転可能に支持している。
【0023】
環状動翼群50は、軸体30を包囲して周方向に所定間隔で設けられ、その基端部が前記ディスク32にそれぞれ固定された複数の動翼51と、これら動翼51の径方向先端部を周方向に互いに連結するリング状のチップシュラウド(図1には不図示)と、を有している。
そして、このように構成される6個の環状動翼群50が、6個の環状静翼群40の下流側に隣接するようにしてそれぞれ設けられている。これにより、1組1段とされる環状静翼群40及び環状動翼群50が、軸方向に沿って合計6段に構成されている。
【0024】
ここで、図2は、図1における動翼51の先端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。動翼51の先端部には、前述のようにリング状のチップシュラウド52が配設されている。このチップシュラウド52は、階段状の断面形状を有し、軸方向に沿う3つの軸方向壁面521a,521b,521cと、径方向に沿う3つの径方向壁面522a,522b,522cと、を有している。尚、チップシュラウド52の断面形状は、本参考例に限定されず適宜設計変更が可能である。
【0025】
一方、図2に示す仕切板外輪11の内周面には、断面凹型の環状溝111が形成されている。そして、この環状溝の底面111aには、3つのシールフィン12が、径方向に突出するようにしてそれぞれ設けられている。
【0026】
ここで、3つのシールフィン12のうち、蒸気の流通方向すなわち軸方向に沿って最も上流側に位置する第1シールフィン12Aは、チップシュラウド52の径方向壁面522aより若干下流側に設けられ、その先端とチップシュラウド52の軸方向壁面521aとの間には、微小隙間13Aが径方向に形成されている。また、3つのシールフィン12のうち、2番目に上流側に位置する第2シールフィン12Bは、チップシュラウド52の径方向壁面522bより若干下流側に設けられ、その先端とチップシュラウド52の軸方向壁面521bとの間にも、微小隙間13Bが径方向に形成されている。更に、3つのシールフィン12のうち、最も下流側に位置する第3シールフィン12Cは、チップシュラウド52の径方向壁面522cより若干下流側に設けられ、その先端とチップシュラウド52の軸方向壁面521cとの間にも、微小隙間13Cが径方向に形成されている。このように構成されるシールフィン12は、第1シールフィン12A,第2シールフィン12B,及び第3シールフィン12Cの順にその長さが短くなっている。
【0027】
尚、シールフィン12の長さや形状や設置位置や個数等は本参考例に限定されず、チップシュラウド52および/または仕切板外輪11の断面形状等に応じて適宜設計変更が可能である。また、微小隙間13の寸法は、ケーシング10や動翼51の熱伸び量、動翼の遠心伸び量等を考慮した上で、シールフィン12とチップシュラウド52とが接触することがない安全な範囲内で、最小の値に設定することが好適である。本参考例では、3つの微小隙間13を全て同じ寸法に設定しているが、必要に応じて、各シールフィン12によって微小隙間13を異なる寸法に設定してもよい。
また、本参考例では、シールフィン12を仕切板外輪11から突出して設け、チップシュラウド52との間に微小隙間13を形成したが、これとは逆に、シールフィン12をチップシュラウド52から突出して設け、仕切板外輪11との間に微小隙間13を形成してもよい。
【0028】
そして、このような動翼51の先端部周辺の構成によれば、図2に示すように、仕切板外輪11とシールフィン12とチップシュラウド52とによって、3つのキャビティC(空間)が形成されている。」

イ.「【0052】
(第3参考例)
次に、本発明の第3参考例に係る蒸気タービンの構成について説明する。本参考例に係る蒸気タービンも、第1参考例の蒸気タービン1と比較すると、動翼51の先端部周辺に形成されるキャビティCにおいて、死水域充填部を設ける位置が異なっている。それ以外の構成については第1参考例と同じであるため、同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。
【0053】
図5は、第3参考例の動翼51の先端部周辺を示す概略断面図である。環状動翼群50と仕切板外輪11との間には、第1参考例と同様に、3つのキャビティCが形成されている。そして、3つのキャビティCのうち、軸方向に沿って最も上流側に位置する第1キャビティC1には、図2に示す第1参考例と同じ2つの隅部に死水域充填部15がそれぞれ設けられている。尚、図5では、第1参考例と同じ構成については図2と同じ符号を付している。【0054】
また、図5に示すように、3つのキャビティCのうち、軸方向に沿って2番目に上流側に位置する第2キャビティC2には、図2に示す第1参考例と同じ2つの隅部に死水域充填部17がそれぞれ設けられるとともに、図4に示す第2参考例と同じ1つの隅部にも死水域充填部70が設けられている。
【0055】
また、図5に示すように、3つのキャビティのうち、軸方向に沿って最も下流側に位置する第3キャビティC3にも、図2に示す第1参考例と同じ2つの隅部に死水域充填部19がそれぞれ設けられるとともに、図4に示す第2参考例と同じ1つの隅部にも死水域充填部71が設けられている。
【0056】
次に、第3参考例に係る蒸気タービン1の作用効果について、第1参考例と異なる点を中心に説明する。図5に示す構成によれば、第2キャビティC2には2つの死水域充填部17に加えて死水域充填部70が更に設けられているので、第1参考例と比較すると、蒸気Sのエネルギーが死水域で損失することを一層防止することができる。これにより、主渦SU2を一層強めることができるので剥離渦HU2も一層強めることができ、微小隙間13Bにおける蒸気Sのリーク量を第1参考例より更に低減させることができる。また、第3キャビティC3についても、第2キャビティC2と同様の理由により、微小隙間13Cにおける蒸気Sのリーク量を第1参考例より更に低減させることができる。
【0057】
更に、本参考例では、チップシュラウド52の先鋭な角部52B,52Cに死水域充填部70,71をそれぞれ設けたことにより、第2参考例と同様に、熱伸びや遠心力による伸びによって当該箇所で応力集中が生じるのを緩和することができる。」

ウ.「【0063】
(第5参考例)
次に、本発明の第5参考例に係る蒸気タービンの構成について説明する。本参考例に係る蒸気タービンは、第1参考例の蒸気タービン1と比較すると、動翼51の先端部周辺に形成されるキャビティCにおいて、死水域充填部を設ける位置及びその形状が異なっている。それ以外の構成については第1参考例と同じであるため、同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。
【0064】
図7は、第5参考例の動翼51の先端部周辺を示す概略断面図である。環状動翼群50と仕切板外輪11との間には、第1参考例と同様に、3つのキャビティCが形成されている。そして、3つのキャビティCには、図5に示す第3参考例と同じ隅部に死水域充填部がそれぞれ設けられているが、各死水域充填部が有する傾斜面Kの形状が第3参考例とは異なっている。尚、図7では、第1参考例と同じ構成については図2と同じ符号を付している。
【0065】
より詳細に説明すると、図7に示すように、3つのキャビティCのうち、軸方向に沿って最も上流側に位置する第1キャビティC1には、図2に示す第1参考例と同じ2つの隅部に、略直線状の傾斜面Kを有する死水域充填部77が設けられている。 また、軸方向に沿って2番面に上流側に位置する第2キャビティC2にも、第1参考例と同じ2つの隅部に、略直線状の傾斜面Kを有する死水域充填部78が設けられるとともに、第2参考例と同じ1つの隅部に、略直線状の傾斜面Kを有する死水域充填部79が設けられている。
更に、軸方向に沿って最も下流側に位置する第3キャビティC3にも、第1参考例と同じ2つの隅部に、略直線状の傾斜面Kを有する死水域充填部80が設けられるとともに、第2参考例と同じ1つの隅部に、略直線状の傾斜面Kを有する死水域充填部81が設けられている。
【0066】
次に、第5参考例に係る蒸気タービン1の作用効果について、第3参考例と異なる点を中心に説明する。図6に示す構成によれば、3つのキャビティCに設けた死水域充填部77〜81の全てが略直線状の傾斜面Kを有しているので、第3参考例の蒸気タービン1が奏する効果に加えて、死水域充填部77〜81の製作を第3参考例より簡略化できるという効果がある。具体的には、死水域充填部77〜81を仕切板外輪11やチップシュラウド52とは別部材として構成する場合には、死水域充填部77〜81の加工作業を容易化することができる。一方、死水域充填部77〜81を、仕切板外輪11やチップシュラウド52と一体的に構成する場合には、仕切板外輪11やチップシュラウド52を形成するための金型の形状を簡素化することができる。」

エ.「【図5】



オ.「【図7】



カ.上記オの【図7】から、死水域充填部79が、仕切板外輪11に向かうに従って下流側に向かって傾斜する略直線状であるとともに、軸線を含む断面視で、角度をもって軸方向壁面521aと交差していることが看取できる。

キ.以上を踏まえると、上記引用文献2には以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認める。

《引用文献2記載事項》
「仕切板外輪11とチップシュラウド52との間に設けられたシールフィン12を有するシール構造において、チップシュラウド52が有する軸方向壁面521aと軸方向壁面521bとを接続して上流側を向く径方向壁面522bに、仕切板外輪11に向かうに従って下流側に向かって傾斜する略直線状であるとともに、軸線を含む断面視で、角度をもって軸方向壁面521aと交差し、軸方向壁面521bに接続された死水域充填部79を設けることで、シール構造に発生する渦を強め、蒸気の漏洩を低減すること。」

(3)引用文献3、引用文献3記載事項
当審の拒絶の理由に引用した引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア.「【0029】
ガスタービンあるいは蒸気タービンのような軸流タービンは、複数のタービン段を有しているのが一般的であり、各段は角度的に間隔をおいて配置された可動ブレードの環状アレーを備えており、この環状アレーは角度的に間隔をおいて配置された静止したベーンの環状アレーの前に置かれており、この環状アレーの機能はタービン作動流体を可動なブレード上に案内することである。
【0030】
図1に関しては、可動ブレードの半径方向で外側要素が示してあり、この外側要素は翼要素10と弓状のブレードシュラウド11を備えており、このブレードシュラウドは翼要素10の半径方向での外側先端部上に取付けられており、かつそこと一体化されている。隣接したブレードシュラウド11は環状のシュラウドリングを形成するために協働する。円周方向に延びている静止ケーシング12は、可動ブレードの半径方向で外側に向かって配置されており、かつ可動ブレードを取囲んでいる。
【0031】
特に図1の実施例において、ブレードシュラウド11は各々、軸方向に間隔をおいて配置され、半径方向で外側に円周方向に延びている複数のランド16により形成された半径方向で外側に溝付された面14を有しており、各ランド16には他と比べて引っ込んでいる、半径方向で内側の面要素18が続いており、この面要素18はランドと円周方向に同一の広がりをもっている。図1には二つのランドを備えたシュラウド面が示してあるが、タービン設計の特有な環境において、都合が良くかつ役に立つ程度にできるだけ多くのランドを組込むことが考慮されているのは当業者の判断に基づいている。しかしながら、この後説明するように、シュラウド11と静止ケーシング12の間の間隙を流れる作動流体の漏洩を減らすために、複数のランド16があるのが普通である。
【0032】
図1の矢印19で示したように、作動流体は軸流タービンを流れて膨張し、かつ下流方向において可動なブレード翼要素10の間の流体流路に沿って移動する。ラビリンスシール20は、可動なブレードシュラウド11と半径方向で隣接した静止ケーシング12の間で封止を行い、可動なブレードの先端部でブレードシュラウド11を越える流体の漏洩を最小限度に抑える。
【0033】
図1の特別な実施例において、ラビリンスシール20は円周方向に延びており、かつ軸方向に間隔をおいて配置された複数の第一の封止フィン24を備えており、これらの封止フィンは可動なブレードシュラウド11の溝を付された面14上で、ランド16に向いた漏洩流体流路を横切り、静止ケーシング12から半径方向で内側に突出している。さらにラビリンスシール20は円周方向に延びており、かつ軸方向に間隔をおいて配置された複数の第二の封止フィン26も備えており、これらの封止フィンは同様に可動なブレードシュラウド11の溝を付された面14の半径方向で内側要素18に向いた漏洩流体流路を横切り静止ケーシング12から半径方向で内側に突出している。
【0034】
円周方向に延びている第一及び第二の封止フィン24,26は、第一の封止フィン24を各々第二の封止フィンが追従するように、軸線方向で静止ケーシング12に沿って交互に配置されている。円周方向に延びている第一及び第二の封止フィン24,26は、例えば静止ケーシング12内の円周方向に延びている凹部内で(図示していない)、知られるような加締め工程によって、独立した構成要素として製造されかつ固定されてもよい。代替え的に、機械加工あるいは鋳造工程によりケーシングと一体に封止フィンを製造することも可能である。
【0035】
第一及び第二の封止フィン24,26の各々の遠心端あるいは先端部は、可動なブレードシュラウド11の溝を付された面14の封止近傍にある。すなわちタービンの通常運転時には、封止フィンの遠心端と溝を付された面14の間には小さい半径方向の間隙がある。このような半径方向の間隙は1あるいは2mmのオーダーであり、かつタービン運転時に静止ケーシング12に対する可動なブレードシュラウド11の小さい半径方向の偏位により生じる、封止フィン24,26とブレードシュラウド11の隣接した金属の間の摩擦接触を防ぐか、あるいは改善する。このような摩擦接触により封止フィン24,26の先端部は摩耗し、そのために変形し、従ってラビリンスシール20の封止効果は減少する。使用するための正確な半径方向の間隙は、タービンの運転挙動をコンピュータモデリングすることにより計算することができ、あるいはリグ試験により確定される。
【0036】
選定される半径方向の間隙は、静止ケーシング12に対する可動なブレードシュラウド11の最大の半径方向の偏位時における第一及び第二の封止フィン24,26の先端部と隣接した可動なブレードシュラウド11の溝を付された面14の間の摩擦接点を防ぐのに一般的には十分であるが、外側の通常のタービン運転挙動である大きな半径方向の間隙は、第一及び第二の封止フィン24,26の先端部に隣接したブレードシュラウド11の溝を付された面14上で摩耗性材料27を用意することにより許容することができる。摩耗性材料27は、封止フィン24,26の先端部における材料に比べて軟質であるが、可動なブレードシュラウド11の半径方向の偏位中に封止フィン24,26の先端部によって擦り減らされる。従って、封止フィン24,26の先端部への損傷は防がれるか、あるいは最小限に抑えられ、これにより封止フィン24,26の先端部の形状は保護され、従って封止フィン24,26の封止効果も保護される。
【0037】
上記目的に適した摩耗性材料は、例えばサーメットのような様々なタイプの熱溶射被膜である。よく知られた代替え品はフェルトメタル(登録商標)であり、これは様々な耐熱性合金からできた金属繊維フェルトを備えており、フェルト内の繊維は焼結工程により不規則にからみ合っている。フェルトメタル(登録商標)は、Technetics, 1700 E. Int’l Speedway Blvd. FL 32724 USAにより製造されている。
【0038】
第一の封止フィン24は各々、作業上流方向に傾斜しており、かつ半径方向に対して鋭角の範囲を定めている。本発明の場合、角度Aは半径方向から約45°離れているが、他の実施例において、角度Aは訳10〜70°の間で変わってもよい。従って、第一の封止フィン24は各々、前記の範囲内で鈍角Aで向きを定められた直線の(すなわち曲がっていない)作業上流側に向いた面28を有している。第一の封止フィン24は各々、静止ケーシング12上に取付けられ、かつその遠心端が、可動なブレードシュラウド11の溝を付された面14の対応する円周方向のランド16と極めて封止に近い状態にあるように、漏洩流路全体にわたって突出している。第一の封止フィン24の各々の傾斜した直線状の作業上流側に向いた面28は、対応する円周方向に延びているランド16と協働し、かつ作業上流側方向に戻って漏洩流21を偏向させるために作用する、渦を発生させる流れの循環面を形成し、それにより漏洩流内に再循環渦が生じる。従って、第一の封止フィン24の先端部を越えた漏洩流21は減少する。
【0039】
図2において、第二の封止フィン26は各々、作業上流側に向いた面30を含み、漏洩流路全体にわたり静止ケーシング12からほぼ半径方向で内側に向かう方向に突出した第一のフォン要素32と、フィンの先端部に隣接しておりかつフィンの先端部を含んでいる第二の遠位部34を備えており、この第二の遠位部は作業上流側方向に向かって、すなわちこのようなフィンがある、作業のすぐ上流側の封止フィンの作業下流側に向かって傾斜している。図1および2に図示した実施例において、各第二の封止フィンの傾斜した末端要素34は、作業上流側に向いた面30の凹面状に彎曲した要素である。この凹面状に彎曲した要素は、渦を発生させる流れの循環面を形成しており、この流れの循環面は、第二の封止フィンの先端部と静止ケーシング面の間で測定された、第二の封止フィン26の全長Lの約30%を成す間隔にわたって延びている。他の実施例において、彎曲部は第二の封止フィンの先端部と静止ケーシング面の間のフィンの長さの約20%〜約50%の間の範囲の間隔にわたって延びていてもよい。
【0040】
一実施例として、静止ケーシング面12への連結の点と第二の封止フィンの先端部の間で10mmの長さを備えたフィンを採用するとする。フィンの作業上流側に向いた面30の遠位部における彎曲部が4mmの半径を有した場合、彎曲部は半径方向で測定された、先端部に隣接した、フィンの約最後の3mmを占める。
【0041】
第二の封止フィン26の作業上流側に向いた面30の凹面状に彎曲した遠位部34が、円の弧として示してあるのに対して、当業者は彎曲部が代替え的に楕円の弧あるいは他の円錐曲線になり得ることに気付く。
【0042】
第二の封止フィン26の作業上流側に向いた面30の凹面状に彎曲した遠位部34は、半径方向にある角度傾斜したまっすぐな(直線の)遠位部により近似されてもよい。これは図3に示してあり、長さLのフィン26はまっすぐな遠位部34Aを備えた作業上流側に向いた面30Aを有しており、このまっすぐな遠位部は半径方向に対して角度Bで傾斜しており、渦を発生させる流れの循環面を形成している。図2の彎曲した遠位部34に類似して、図3の遠位部34は、第二の封止フィンの先端部と静止ケーシング面の間で測定された、第二の封止フィン26の全長Lの約30%を成す間隔にわたって傾斜しているが、他の実施例において、傾斜した要素は第二の封止フィンの先端部と静止ケーシング面の間のフィンの長さの約20%〜約50%の間で成す間隔にわたって延びていてもよい。
【0043】
一実施例として、図3の角度Bは約10°〜約60°、好ましくは約25°〜45°の範囲内であってもよく、フィンの長さLが10mmであった場合、作業上流側に向いた面30Aの傾斜した遠位部34Aは、半径方向で測定された、先端部に隣接したフィンの約最後の3〜4mmを占める。
【0044】
図4には大きな封止効率を可能にする態様から好まれる別の代替え的な実施例が示してあるが、製造するにはさらに困難であるか、あるいはさらに費用がかかることが確実らしい。この実施例においては、ただ遠位部だけでなく、フィン26Bの作業上流側に向いた面30B全体が作業上流側方向に彎曲している。図示した特殊な場合において、半径方向に対して、作業上流側に向いた面30Bが作る角度は、フィンが静止面もしくは可動面から突出する点におけるゼロから、フィンの先端部34Bにおける最大角度Bまで徐々に増える。例えば、面30Bは楕円形状に、放物線状にあるいは双曲線状に彎曲してもよい。さらに、角度Bは約10°〜約60°、好ましくは約25°〜45°の範囲内であってもよい。」

イ.「【図1】



ウ.「【図4】



エ.以上を踏まえると、上記引用文献3には以下の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認める。

《引用文献3記載事項》
「可動なブレードシュラウド11と半径方向で隣接した静止ケーシング12の間で、第一の封止フィン24及び第二の封止フィン26Bは、作業上流側方向に傾斜又は作業上流面側に向いた面30B全体が作業上流側方向に湾曲していることで、シール構造に発生する渦を強め、蒸気の漏洩を低減すること。」

2.引用発明と本願発明との対比、一致点、相違点
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明の「軸線O」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「軸線」に相当し、同様に「内壁面」は「静止側周面」に、「ケーシング10」は「静止体」に、「シュラウド51を備えた回転軸30」は「回転体」に、「ステップ部52Aの周面」は「上流側周面」に、「ステップ部52Bの周面」は「中央周面」に、「ステップ部52Cの周面」は「下流側周面」に、「前記ステップ部52Aの周面と前記ステップ部52Bの周面とを接続する面」は「前向きステップ面」に、「シールフィン17A」は「上流側シールフィン」に、「シールフィン17B」は「中央シールフィン」に、「シールフィン17C」は「下流側シールフィン」に、「蒸気タービン1」は「回転機械」に、それぞれ相当する。
以上を踏まえると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
軸線の周方向に延びる静止側周面を有する静止体と、
前記軸線回りに回転して前記静止側周面と対向する回転側周面を有する回転体と、を備え、
前記静止側周面と前記回転側周面との一方が、
前記軸線方向に延びる上流側周面と、
前記上流側周面における作動流体の下流側に位置して前記軸線方向に延びるとともに、前記上流側周面よりも前記静止側周面と前記回転側周面との他方へ突出する中央周面と、
前記中央周面の下流側に位置して前記軸線方向に延びるとともに、前記中央周面よりも前記他方から後退する下流側周面と、
前記上流側周面と前記中央周面とを接続して前記上流側を向く前向きステップ面と、を有し、
前記他方から前記上流側周面に向かって延びて、前記上流側周面との間に微小隙間を形成する上流側シールフィンと、
前記他方から前記中央周面に向かって延びて、前記中央周面との間に微小隙間を形成する中央シールフィンと、
前記他方から前記下流側周面に向かって延びて、前記下流側周面との間に微小隙間を形成する下流側シールフィンと、
をさらに備える、回転機械。

《相違点1》
本願発明は、「前記前向きステップ面が、前記他方に向かうに従って前記下流側に向かって傾斜するとともに、前記軸線を含む断面視で、角度をもって前記上流側周面と交差し、前記中央周面に接続された案内面を有し」ているのに対し、引用発明は、「前記ステップ部52Aの周面と前記ステップ部52Bの周面とを接続する面」が、他方に向かうに従って下流側に向かって傾斜していない点。
《相違点2》
本願発明では、「前記上流側シールフィンと前記中央シールフィンと前記下流側シールフィンとは、前記一方側に向かうに従って上流側に向かうように前記他方側の根元から傾斜している」のに対し、引用発明では、シールフィン17Aないし17Cがそのように特定されていない点。

3.相違点の判断
(1)相違点1について
引用文献2記載事項の「仕切板外輪11」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「静止体」に相当し、同様に「チップシュラウド52」は「回転体」に、相当する。そして、引用発明は、引用文献2記載事項と同様に、静止体と回転体との間に設けられた、シールフィンを有するシール構造を有しているから、引用発明におけるシール構造においても渦が発生していることは明らかであって、当然、蒸気の漏洩を低減するという課題を内在しているといえるところ、引用文献2記載事項は、当該課題を解決するものである。
したがって、引用発明における、「前記ステップ部52Aの周面と前記ステップ部52Bの周面とを接続する面」の構成に、引用文献2記載事項を適用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は、引用文献3記載事項と同様に、静止体と回転体との間に設けられた、シールフィンを有するシール構造を有しているから、引用発明におけるシール構造においても渦が発生していることは明らかであって、当然、蒸気の漏洩を低減するという課題を内在しているといえるところ、引用文献3記載事項は、当該課題を解決するものである。
さらに、引用文献3記載事項の「第一の封止フィン24及び第二の封止フィン26Bは、作業上流側方向に傾斜又は作業上流面側に向いた面30B全体が作業上流側方向に湾曲していること」は、引用文献3の図1及び図4も参酌すれば「すべての封止フィンを回転体側に向かうに従って静止体の根元から上流側に向かうように傾斜させること」といえる事項である。
したがって、引用発明における、シールフィン17Aないし17Cについて、引用文献3記載事項を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)本願発明が奏する作用効果について
本願発明が奏する作用効果、すなわち本願明細書の段落【0059】〜【0060】に記載された「第一シールフィン7Aと第一ベース面74Aとの間の微小隙間H1から流入した蒸気Sが、前向きステップ面73に衝突することで、キャビティC1に主渦MV3が発生する。その際、案内面77と中央ステップ面75との角部において、主渦MV3から一部の流れが剥離されることで、剥離渦SV3が発生する。剥離渦SV3は、第一の実施形態の剥離渦SV1と同様に微小隙間H2を通って下流側Da2に流入する漏れ流れを低減する。」、「微小隙間H2から下流側Da2に流入した蒸気Sが第三シールフィン7Cに衝突することで、キャビティC2に主渦MV4が発生する。その際、中央ステップ面75と後向きステップ面76との角部において、主渦MV4から一部の流れが剥離されることで、剥離渦SV4が発生する。」、「前向きステップ面73の案内面77が傾斜して形成されていることによって、剥離渦SV3がより小さく形成される。これにより、剥離渦SV3による縮流効果をより強化することができる。また、主渦MV3が、シールフィン7に沿うように形成されることによって、主渦MV3を強めることができる。主渦MV3が強められることにより、剥離渦SV3を強めることができる。」等の作用効果は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項から、当業者が予測し得た程度のものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、令和3年8月2日付けの意見書において、「補正後の本願発明では、「上流側シールフィン」、「中央シールフィン」、「下流側シールフィン」が、根元から上流側に向かうように傾斜している点を特徴としています。一方で、引用文献3のシールフィンは、先端部のみが傾斜しているに留まります。」と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたように、引用文献3の特に段落【0038】及び段落【0044】並びに図1及び図4には第一の封止フィン24及び第二の封止フィン26Bを静止体の根元から傾斜させることが記載されているといえる。
よって、請求人の上記主張は失当である。

4.小括
以上を踏まえると、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-04 
結審通知日 2021-11-09 
審決日 2021-11-24 
出願番号 P2016-030236
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 正章
特許庁審判官 山本 信平
鈴木 充
発明の名称 回転機械  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 松沼 泰史  
代理人 橋本 宏之  
代理人 古都 智  
代理人 鎌田 康一郎  

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