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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1382150
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-14 
確定日 2022-02-16 
事件の表示 特願2016−562819「ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置用の眼鏡レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日国際公開、WO2015/158833、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017−514172〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016−562819号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年4月17日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年12月19日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月 3日提出:意見書
平成31年 4月 3日提出:手続補正書
令和 元年 9月10日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月17日提出:意見書
令和 2年 3月17日提出:手続補正書
令和 2年 8月28日付け:補正の却下の決定
令和 2年 8月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 1月14日提出:審判請求書
令和 3年 1月14日提出:手続補正書


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年1月14日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(平成31年4月3日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1〜4、8、9の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置(1)用の眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズ(3)は、湾曲した前面(18)と、湾曲した後面(15)と、結合入射セクション(11)と、該結合入射セクション(11)から離隔した結合出射セクション(13)と、
前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内に結合されて生成される画像のピクセルの光束(9)を、前記眼鏡レンズ(3)内において、前記光束(9)が前記眼鏡レンズ(3)から外に結合される前記結合出射セクション(13)までガイドするのに適した光ガイドチャネル(12)と
を有する眼鏡レンズにおいて、
前記眼鏡レンズ(3)は、幾つかのシェルを有するように構築されて、外側シェル(19)と、該外側シェル(19)に結合される内側シェル(20)とを有し、
湾曲した第1反射表面(24)と湾曲した第2反射表面(25)とを有する湾曲したチャネルシェル(21)が、前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間に構成され、
前記光ガイドチャネル(12)は、前記光束(9)が反射されて前記結合入射セクション(11)から前記結合出射セクション(13)までガイドされる、前記チャネルシェル(21)及び前記2つの反射表面(24、25)を有し、
結合出射セクションは、ユーザの眼から見て前方の視野方向から左右方向の何れかにずれていることを特徴とする、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記湾曲したチャネルシェル(21)は、前記湾曲した第1反射表面(24)を介して前記外側シェル(19)に結合されると共に、前記湾曲した第2反射表面(25)を介して前記内側シェル(20)に結合されることを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記チャネルシェル(21)は、前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間にスペーサシェルとして構成され、これにより、前記外側シェルと内側シェル(19、20)が直接接触しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記外側シェル(19)の前記内側シェル(20)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記前面(18)を形成すると共に、前記内側シェル(20)の前記外側シェル(19)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記後面(15)を形成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
・・・省略・・・
【請求項8】
互いに対向している内側シェルとチャネルシェル、及び外側シェルとチャネルシェルの各面が互いに結合されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項9】
前記結合出射セクション(13)は、互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面(14)を有し、チャネル層の材料境界表面上に形成されており、或いは、チャネル層内に埋め込まれていることを特徴とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置(1)用の眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズ(3)は、湾曲した前面(18)と、湾曲した後面(15)と、結合入射セクション(11)と、該結合入射セクション(11)から離隔した結合出射セクション(13)と、
前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内に結合されて生成される画像のピクセルの光束(9)を、前記眼鏡レンズ(3)内において、前記光束(9)が前記眼鏡レンズ(3)から外に結合される前記結合出射セクション(13)までガイドするのに適した光ガイドチャネル(12)と
を有する眼鏡レンズにおいて、
前記眼鏡レンズ(3)は、幾つかのシェルを有するように構築されて、外側シェル(19)と、該外側シェル(19)に結合される内側シェル(20)とを有し、
湾曲した第1反射表面(24)と湾曲した第2反射表面(25)とを有する湾曲したチャネルシェル(21)が、前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間に構成され、
前記光ガイドチャネル(12)は、前記光束(9)が反射されて前記結合入射セクション(11)から前記結合出射セクション(13)までガイドされる、前記チャネルシェル(21)及び前記2つの反射表面(24、25)を有し、
前記湾曲したチャネルシェル(21)は、前記湾曲した第1反射表面(24)を介して前記外側シェル(19)に結合されると共に、前記湾曲した第2反射表面(25)を介して前記内側シェル(20)に結合され、
前記チャネルシェル(21)は、前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間にスペーサシェルとして構成され、これにより、前記外側シェルと内側シェル(19、20)が直接接触せず、
前記外側シェル(19)の前記内側シェル(20)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記前面(18)を形成すると共に、前記内側シェル(20)の前記外側シェル(19)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記後面(15)を形成し、
互いに対向している前記内側シェル(20)と前記チャネルシェル(21)、及び前記外側シェル(19)と前記チャネルシェル(21)の各面が互いに結合され、
前記結合出射セクション(13)は、互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面(14)を有し、チャネル層の材料境界表面上に形成されており、或いは、チャネル層内に埋め込まれ、
前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)は湾曲した前記後面(15)に設けられており、
結合出射セクションは、ユーザの眼から見て前方の視野方向から左右方向の何れかにずれていることを特徴とする、眼鏡レンズ。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1〜4、8を全て引用した本件補正前の請求項9に係る発明の、発明を特定するために必要な事項である「結合入射セクション(11)」の構成を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0029】、【0048】、図2の記載に基づいて、「湾曲した前記後面(15)に設けられており」と限定して、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正事項を含むものである。
ここで、本件補正前の請求項1〜4、8を全て引用した本件補正前の請求項9に係る発明と、本件補正後発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】〜【0003】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後発明が、同条第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件についての判断
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2005/111669号(以下、「引用文献3」という。)は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、シースルー性を有した光伝搬用の光学素子、その光学素子を用いたコンパイナ光学系、及びコンパイナ光学系を用いた画像表示装置に関する。
背景技術
・・・省略・・・
[0003] アイグラスディスプレイは、観察者の眼前に透明基板を配置しており、画像表示素子からの表示光束は、その透明基板内を観察眼の瞳の直前にまで伝搬し、さらに透明基板内に設けられたハーフミラーなどのコンパイナ上で外界光束重畳して瞳に入射する。
このようなアイグラスディスプレイにより観察者は、外界と画像表示素子の画像とを同時に観察することができる。
[0004] このアイグラスディスプレイを広く普及させるためには、他の様々な機能と共に、眼鏡と同様の機能(視度補正機能)を付加する必要がある。
特許文献1:特開2001-264682号公報
特許文献2:特表2003-536102号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0005] しかし、透明基板の内面反射機能を利用するアイグラスディスプレイは、透明基板の表面を曲面にして透明基板自身に屈折力を持たせることも、屈折力を有した別の屈折部材(平凸レンズ又は平凹レンズ。透明基板と同等又はそれ以上の屈折率。)を透明基板の表面に貼付することも基本的にできない。
このため、視度補正機能を付加する方法として現在考えられているのは、そのような屈折部材を、エアギャップを介して透明基板の表面に取り付けることであるがそれには以下の様々な困難がある
[0006] 例えば、エアギャップの間隔を必要精度で保ちつつ機械的強度を得ることは難しく、しかも部品点数、重量、及び厚み等の増加、製造工程の煩雑化や高コスト化を伴う。また、観察眼と透明基板との位置関係によっては、エアギャップによる余分な反射光が観察眼に入射し、視認性が損なわれることもある。
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、屈折部材など、周囲の媒質よりも屈折率の高い部材が表面に密着しても内面反射機能とシースルー性とが損なわれない光伝搬用の光学素子を提供することを目的とする。
[0007] 本発明は、視度補正などの機能を搭載することが容易なコンパイナ光学系、及び視度補正などの機能を搭載することが容易な画像表示装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明の光学素子は、所定の光束が内部を伝搬可能な基板と、前記伝搬する前記所定の光束が到達可能な前記基板の面上に密着して設けられ、その所定の光束を反射すると共にその面に到来する外界光束を透過する干渉又は回折作用を有した光学機能部とを備えたことを特徴とする。
前記光学機能部は、特定の偏光方位の前記所定の光束を反射し、かつ他の偏光方位の光束を透過する性質を有していてもよい。
[0009] また、前記光学機能部は、前記基板と空気との屈折率によって決定する、基板内部の光束が全反射する条件の臨界角又は前記臨界角よりも大きな入射角度で前記面に到達する前記所定の光束を、所望の反射特性で反射する性質を有していてもよい。
また、前記光学機能部は、前記所定の光束の光路の光量ロスを増大させることなく前記外界光束を減光する機能を有していてもよい。
[0010] 本発明のコンパイナ光学系は、所定の画像表示素子から射出した表示光束を伝搬させると共に、少なくとも前記基板を観察眼に正対させた状態で外界からその観察眼に向かう前記外界光束を透過する本発明の光学素子と、前記光学素子に設けられ、前記基板の内部を伝搬した前記表示光束を前記観察眼の方向に反射すると共に前記外界光束を透過するコンパイナとを備えたことを特徴とする。
[0011] 前記光学機能部は、前記基板の表面に設けられた光学膜であり、前記光学膜の表面には、第2の基板が設けられていてもよい。
また、前記第2の基板は、視度補正用の屈折レンズであってもよい。
また、前記光学機能部は、前記基板の外界側の面に設けられており、前記光学機能部と前記第2の基板とからなる光学系の全体は、前記表示光束の光路の光量ロスを増大させることなく前記外界光束を減光する機能を有していてもよい。
・・・省略・・・
[0015] 本発明の画像表示装置は、画像表示用の表示光束を出射する画像表示素子と、前記表示光束を前記観察眼へ導光する本発明のコンパイナ光学系とを備えたことを特徴とする。
この画像表示装置においては、前記コンパイナ光学系を前記観察者の頭部に装着する装着手段が備えられてもよい。
発明の効果
[0016] 本発明によれば、周囲の媒質よりも屈折率の高い部材が表面に密着しても内面反射機能とシースルー性とが損なわれない光伝搬用の光学素子が実現する。
本発明によれば、視度補正などの機能を搭載することが容易なコンパイナ光学系、及び視度補正などの機能を搭載することが容易な画像表示装置が実現する。
図面の簡単な説明
[0017] [図1]第1実施形態のアイグラスディスプレイの外観図である。
[図2]第1実施形態のアイグラスディスプレイの光学系部分を観察者の水平面で切断した概略断面図である。
・・・省略・・・
[図33]第4実施形態のアイグラスディスプレイの光学系部分を観察者の水平面で切断してできる概略断面図である。」

イ「発明を実施するための最良の形態
[0018] [第1実施形態]
以下、図1、図2、図3、図4を参照して本発明の第1実施形態を説明する。
本実施形態は、アイグラスディスプレイ(請求項における画像表示装置に対応する。)の実施形態である。
先ず、アイグラスディスプレイの構成を説明する。
[0019] 図1に示すように、本アイグラスディスプレイは、画像表示光学系1、画像導入ユニット2、ケーブル3などからなる。画像表示光学系1、画像導入ユニット2は、眼鏡のフレームと同様の支持部材4によって支持され、観察者の頭部に装着される (支持部材4は、テンプル4a、リム4b、ブリッジ4cなどからなる。)。
画像表示光学系1は、眼鏡のレンズと同様の外形をしておりリム4bによって周囲から支持される。
[0020] 画像導入ユニット2は、テンプル4aによって支持される。画像導入ユニット2には、外部機器からケーブル3を介して映像信号及び電力が供給される。
装着時、観察者の一方の眼(以下、右眼とし「観察眼」という。)の眼前に画像表示光学系1が配置される。以下、装着時のアイグラスディスプレイを、観察者及び観察眼の位置を基準として説明する
[0021] 画像導入ユニット2の内部には、図2に示すように、ケーブル3を介して供給される映像信号に基づき映像を表示する液晶表示素子21(請求項における画像表示素子に対応。)と、液晶表示素子21の近傍に焦点を有した対物レンズ22とが配置される。この画像導入ユニット2は、対物レンズ22から射出する表示光束 L1(可視光である。)を、画像表示光学系1の観察者側の面の右端部に向けて出射する。
[0022] 画像表示光学系1は、観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してなる。
基板13、基板11、基板12の各々は、少なくとも可視光に対し透過性を有した材料(例えば、光学ガラス)からなる。
このうち、基板11は、画像導入ユニット2から導入された表示光束L1を外界側の面11−1と観察者側の面11−2とで繰り返し内面反射する平行平板である(請求項における基板に対応する。)。
[0023] 基板11の外界側に配置された基板12は、観察眼の視度補正をする働きを担う。基板12は、観察者側の面12-2が平面、外界側の面12-1が曲面となったレンズである。
基板11の観察者側に配置された基板13も、観察眼の視度補正をする働きを担う。基板13は、外界側の面13-1が平面、観察者側の面13-2が曲面となったレンズである。
[0024] なお、面13-2のうち表示光束L1が最初に通過する領域は、表示光束L1に対し何ら光学的パワーを与えない平面になっている。
また、基板11の内部において表示光束L1が最初に入射する領域には、表示光束L1の角度を、基板11内を内面反射可能な角度に変化させるための導入ミラー11aが形成される。
[0025] また、基板11の内部において、観察眼の瞳に対向する領域には、内面反射した表示光束L1を瞳の方向に反射するハーフミラー11b(請求項におけるコンパイナに対応する。)が設けられる。
なお、ハーフミラー11bに代えて、所定の回折条件に合致した光を所定の方向に偏向する性質のHOE(ホログラフィック・オプチカル・エレメントの略。)を用いることもできる。また、コンパイナには光学的パワーが付与されていてもよい。
[0026] ここで、基板12と基板11との間には、置換膜12aが両者に密着して設けられる。また、基板13と基板11との間には、置換膜13aが両者に密着して設けられる (置換膜12a, 13aが請求項における光学機能部に対応する。)。
置換膜12a, 13aは、60°近傍の入射角度で入射する可視光を反射し、かつ0°近傍の入射角度で入射する可視光を透過する性質を有している。
[0027] 次に、画像表示光学系1の各面の配置の詳細を表示光束L1の振る舞いに基づき説明する。
図2に示すように、画像導入ユニット2内の液晶表示素子21の表示画面から射出した表示光束L1(図示は、中心画角の表示光束のみ。)は、対物レンズ22を介して0°近傍の入射角度で基板13に入射するので、置換膜13aを通過して基板11内に入射する。
[0028] 基板11内に入射した表示光束 L1は、導入ミラー11aに対し所定の入射角度で入射し、反射する。反射した表示光束L1は、置換膜13aに対し60°近傍の入射角度θで入射するので、置換膜13aにて反射し、置換膜12aに向かう。置換膜12aに対する入射角度も同じくθとなるので、表示光束L1は、置換膜12aでも反射する。
よって、表示光束L1は、置換膜13a、12aで繰り返し交互に反射しつつ、画像導入ユニット2から離れた観察者の左方向へ伝搬する。
[0029] その後、表示光束L1は、ハーフミラー11bに入射して観察眼の瞳の方向に反射する。
反射した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で置換膜13aに入射するので、置換膜13aを透過し、基板13を介して観察眼の瞳に入射する。
一方、外界(遠方)からの外界光束L2は、基板12を介して0°近傍の入射角度で置換膜12aに入射するので、置換膜12aを透過し、基板11を介して置換膜13aに対し0°近傍の入射角度で入射する。その外界光束L2は、置換膜13aを透過し、基板13を介して観察眼の瞳に入射する。
[0030] ここで、基板12の外界側の面12-1の形状、基板13の観察者側の面13-2の形状は、観察眼の視度補正をするよう設定されている。
因みに、観察眼の外界に対する視度補正は、外界光束L2の光路に配置される面12-1と面13-2との形状の組み合わせによって図られる。観察眼の画像に対する視度補正は、表示光束L1の光路に配置される面13-2の形状によって図られる。観察眼の画像に対する視度補正を図るために、対物レンズ22の光軸方向の位置、液晶表示素子21の光軸方向の位置が調整されることもある。
・・・省略・・・
[0043] 次に、本アイグラスディスプレイの効果を説明する。
アイグラスディスプレイでは、基板11の外界側と観察者側とに置換膜12a, 13aが形成される。
置換膜12a, 13aの性質は、60°近傍の入射角度で入射する可視光を反射し、かつ0°近傍の入射角度で入射する可視光を透過するよう設定されている。
[0044] これらの置換膜12a, 13aで挟まれた基板11は、表示光束L1を内面反射し、かつ外界(遠方)からの外界光束L2を透過させることができる。
したがって、基板11と略同じ屈折率の基板12,13が貼付されたにも拘わらず、基板11の内面反射機能とシースルー性は、何ら損なわれない。
その結果、基板12,13を貼付するだけの簡単な方法で、アイグラスディスプレイに対し視度補正機能を搭載することができた。
[0085]・・・省略・・・
[第3実施形態]
以下、図28を参照して本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態は、アイグラスディスプレイの実施形態である。ここでは、第1実施形態との相違点を主に説明する。
[0086] 図28は、本アイグラスディスプレイの光学系部分を観察者の水平面で切断してできる概略断面図である。図28に示すように、本アイグラスディスプレイは、第1実施形態のアイグラスディスプレイ(図2参照)において、置換膜12a, 13aの代わりに、それぞれ反射増強膜22aを備えたものである。
この反射増強膜22aは、第2実施形態のそれと同様の機能を持つ。すなわち、反射増強膜22aが反射性を示す可視光の入射角度範囲の下限は、基板11の臨界角度θよりも引き下げられている。
[0087] したがって、本アイグラスディスプレイは、第1実施形態と同様に視度補正の効果が得られると共に、第2実施形態と同様に画角拡大の効果が得られる。
・・・省略・・・
[0095] [第4実施形態]
以下、図33を参照して本発明の第4実施形態を説明する。本実施形態は、上述した反射増強膜を、射出瞳の大きいタイプのアイグラスディスプレイに適用したものである。
図33は、本実施形態のアイグラスディスプレイの光学系部分を観察者の水平面で切断してできる概略断面図である。図33に示すように、本アイグラスディスプレイは、表示光束L1を内面反射する基板11中に、互いに平行な複数のハーフミラー11bを配置している。これらの複数のハーフミラー11bのそれぞれは、基板11を内面反射する表示光束L1のうち所定角度範囲で入射したものを反射し、基板11の外部に射出瞳を形成する。この射出瞳のサイズは、ハーフミラー11bが複数化された分だけ大きい。このように射出瞳が大きいと、観察眼の瞳の位置の自由度が高まる点で有利である。
[0096] このアイグラスディスプレイにおいて、反射増強膜22aは、基板11の観察者側の面、外界側の面のそれぞれに密着して形成される。この反射増強膜22aは、上述した実施形態におけるそれと同様に、基板11を内面反射可能な表示光束L1の入射角度範囲を拡大する。よって、このアイグラスディスプレイの画角も拡大される。」

ウ [図1]「



エ [図2]「



オ [図33]「



(2)引用発明
引用文献3の[0019]〜 [0029]には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 画像表示光学系1、画像導入ユニット2、ケーブル3などからなるアイグラスディスプレイにおいて、画像表示光学系1、画像導入ユニット2は、眼鏡のフレームと同様の支持部材4によって支持され、観察者の頭部に装着され、画像導入ユニット2の内部には、ケーブル3を介して供給される映像信号に基づき映像を表示する液晶表示素子21と、液晶表示素子21の近傍に焦点を有した対物レンズ22とが配置され、画像導入ユニット2は、対物レンズ22から射出する表示光束L1を、画像表示光学系1の観察者側の面の右端部に向けて出射するものであり、画像表示光学系1は、眼鏡のレンズと同様の外形をしておりリム4bによって周囲から支持されるものであり、
画像表示光学系1は、観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してなり、
基板11は、画像導入ユニット2から導入された表示光束L1を外界側の面11−1と観察者側の面11−2とで繰り返し内面反射する平行平板であり、
基板11の外界側に配置された基板12は、観察者側の面12-2が平面、外界側の面12-1が曲面となったレンズであり、
基板11の観察者側に配置された基板13は、外界側の面13-1が平面、観察者側の面13-2が曲面となったレンズであり、
面13-2のうち表示光束L1が最初に通過する領域は、表示光束L1に対し何ら光学的パワーを与えない平面になっており、
基板11の内部において、観察眼の瞳に対向する領域には、内面反射した表示光束L1を瞳の方向に反射するハーフミラー11bが設けられ、
基板12と基板11との間には、置換膜12aが両者に密着して設けられ、基板13と基板11との間には、置換膜13aが両者に密着して設けられ、置換膜12a, 13aは、60°近傍の入射角度で入射する可視光を反射し、かつ0°近傍の入射角度で入射する可視光を透過する性質を有しており、
画像導入ユニット2内の液晶表示素子21の表示画面から射出した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で基板13に入射し、置換膜13aを通過して基板11内に入射し、基板11内に入射した表示光束L1は、導入ミラー11aに対し所定の入射角度で入射し、反射し、表示光束L1は、置換膜13a、12aで繰り返し交互に反射しつつ、画像導入ユニット2から離れた観察者の左方向へ伝搬し、その後、表示光束L1は、ハーフミラー11bに入射して観察眼の瞳の方向に反射し、反射した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で置換膜13aに入射するので、置換膜13aを透過し、基板13を介して観察眼の瞳に入射する、画像表示光学系1。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア ディスプレイ装置(1)
引用発明の「アイグラスディスプレイ」は、「画像表示光学系1、画像導入ユニット2、ケーブル3などからな」り、「画像表示光学系1、画像導入ユニット2は、眼鏡のフレームと同様の支持部材4によって支持され、観察者の頭部に装着され」、さらに、「画像導入ユニット2内の液晶表示素子21の表示画面から射出した表示光束L1」が、「観察眼の瞳に入射する」ものである。その構成からみて、引用発明の「アイグラスディスプレイ」は、本件補正後発明の「ディスプレイ装置(1)」に相当する。
また、その構成からみて、引用発明の「アイグラスディスプレイ」は、観察者の頭部に装着可能、すなわち頭部上にフィット可能であると共に、画像を生成しているといえる。
そうすると、引用発明の「アイグラスディスプレイ」は、本件補正後発明の「ディスプレイ装置(1)」における、「ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成する」という要件を満たす。

イ 眼鏡レンズ、眼鏡レンズ(3)
引用発明の「画像表示光学系1は、眼鏡のレンズと同様の外形をしておりリム4bによって周囲から支持されるものであ」り、「観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してなり、」「基板11の外界側に配置された基板12は、観察者側の面12-2が平面、外界側の面12-1が曲面となったレンズであり、基板11の観察者側に配置された基板13は、外界側の面13-1が平面、観察者側の面13-2が曲面となったレンズであ」る。その構成からみて、引用発明の「画像表示光学系1」は、本件補正後発明の「眼鏡レンズ(3)」に相当する。
(当合議体注:請求項1の3行目の「前記眼鏡レンズ(3)」という記載から、「眼鏡レンズ」と「眼鏡レンズ(3)」は同じものを意味すると認められる。)
また、引用発明の「アイグラスディスプレイ」は、「画像表示光学系1、画像導入ユニット2、ケーブル3などからな」るものであり、引用発明の「画像表示光学系1」は、「アイグラスディスプレイ」用の部材であるといえる。
そうすると、その構成及び上記アの対比結果からみて、引用発明の「画像表示光学系1」は、本件補正後発明の「眼鏡レンズ」における、「ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置(1)用の」という要件を満たす。

ウ 前面(18)、後面(15)
引用発明の「画像表示光学系1」は、「観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してなり、」「基板11の外界側に配置された基板12は、観察者側の面12-2が平面、外界側の面12-1が曲面となったレンズであり、基板11の観察者側に配置された基板13は、外界側の面13-1が平面、観察者側の面13-2が曲面となったレンズであ」る。ここで、引用発明の「基板12」の「外界側の面12-1」及び「基板13」の「観察者側の面13-2」は、観察者からみて、それぞれ前側の面及び後側の面であるといえる。
その配置からみて、引用発明の「基板12」の「外界側の面12-1」及び「基板13」の「観察者側の面13-2」は、それぞれ本件補正後発明の「前面(18)」及び「後面(15)」に相当する。
また、引用発明の「基板12」の「外界側の面12-1」及び「基板13」の「観察者側の面13-2」は、「曲面となった」という構造からみて、本件補正後発明の「前面(18)」及び「後面(15)」における、「湾曲した」という要件を満たす。

エ 結合入射セクション(11)
引用発明は、「画像導入ユニット2内の液晶表示素子21の表示画面から射出した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で基板13に入射し」、「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」を有する。ここで、引用発明の「表示光束L1」は、「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」で「基板13」内に結合入射されるといえる。
そうすると、引用発明の「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」は、本件補正後発明の「結合入射セクション(11)」に相当する。

オ 結合出射セクション(13)
引用発明の「基板11内に入射した表示光束L1」は、「置換膜13a、12aで繰り返し交互に反射しつつ、画像導入ユニット2から離れた観察者の左方向へ伝搬し、その後、表示光束L1は、ハーフミラー11bに入射して観察眼の瞳の方向に反射し、」「反射した表示光束L1は、」「基板13を介して観察眼の瞳に入射する」ものである。ここで、引用発明の「基板11内に入射した表示光束L1」は、「ハーフミラー11b」が設けられるセクションで「基板11」から結合出射されるといえる。
そうすると、引用発明の「ハーフミラー11b」が設けられるセクションは、本件補正後発明の「結合出射セクション(13)」に相当する。
さらに、その作用からみて、引用発明の「ハーフミラー11b」が設けられるセクションは、「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」から離隔しているといえる。
そうすると、その構成及び上記エの対比結果からみて、引用発明の「ハーフミラー11b」が設けられるセクションは、本件補正後発明の「結合出射セクション(13)」における、「結合入射セクション(11)から離隔した」という要件を満たす。

カ 光束(9)、光ガイドチャネル(12)
引用発明は、「画像導入ユニット2内の液晶表示素子21の表示画面から射出した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で基板13に入射し、置換膜13aを通過して基板11内に入射し、基板11内に入射した表示光束L1は、導入ミラー11aに対し所定の入射角度で入射し、反射し、表示光束L1は、置換膜13a、12aで繰り返し交互に反射しつつ、画像導入ユニット2から離れた観察者の左方向へ伝搬し、その後、表示光束L1は、ハーフミラー11bに入射して観察眼の瞳の方向に反射し、反射した表示光束L1は、0°近傍の入射角度で置換膜13aに入射するので、置換膜13aを透過し、基板13を介して観察眼の瞳に入射する」ものである。
その文言からみて、引用発明の「表示光束L1」は、本件補正後発明の「光束(9)」に相当する。
また、引用発明の「表示光束L1」は、「液晶表示素子21の表示画面から射出した」ものであるから、画像のピクセルの光束であることは明らかである。
そうすると、その構成及び上記イ、エの対比結果からみて、引用発明の「表示光束L1」は、本件補正後発明の「光束(9)」における、「前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内において結合されて生成される画像のピクセルの」という要件を満たす。
さらに、上記構成からみて、引用発明の「表示光束L1」は、基板13、基板11に入射した後、置換膜13a, 12aで繰り返し交互に反射しつつ観察者の左方向へ伝搬し、その後、ハーフミラー11bまでガイドされ、基板13から外に結合されるものであり、引用発明の「置換膜13a、12a」及び「基板11」からなるものは、光をガイドし、光が通過する経路、すなわちチャネルであるといえる。
そうすると、引用発明の「置換膜13a、12a」及び「基板11」からなるものは、本件補正後発明の「光ガイドチャネル(12)」に相当する。
さらに、上記構成からみて、引用発明の「置換膜13a、12a」及び「基板11」からなるものは、「表示光束L1」が、「ハーフミラー11b」までガイドするのに適したものであるといえる。
そうすると、その点及び上記イ、エ〜カの対比結果からみて、引用発明の「置換膜13a、12a」及び「基板11」からなるものは、本件補正後発明の「光ガイドチャネル(12)」における、「前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内において結合されて生成される画像のピクセルの光束(9)を、前記眼鏡レンズ(3)内において、前記光束(9)が前記眼鏡レンズ(3)から外に結合される前記結合出射セクション(13)までガイドするのに適した」という要件を満たす。

キ 眼鏡レンズ(3)の構成要素、外側シェル(19)、内側シェル(20)
上記イ〜カを総合すれば、引用発明の「画像表示光学系1」は、「前記眼鏡レンズ(3)は、湾曲した前面(18)と、湾曲した後面(15)と、結合入射セクション(11)と、該結合入射セクション(11)から離隔した結合出射セクション(13)と、前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内に結合されて生成される画像のピクセルの光束(9)を、前記眼鏡レンズ(3)内において、前記光束(9)が前記眼鏡レンズ(3)から外に結合される前記結合出射セクション(13)までガイドするのに適した光ガイドチャネル(12)とを有する眼鏡レンズ」という要件を満たす。
また、引用発明の「画像表示光学系1」は、「観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してな」るものである。ここで、引用発明の「基板12」及び「基板13」は、眼鏡レンズのシェル部分であるといえ、観察者からみて、それぞれ外側及び内側に配置されるものといえる。
その構成及び配置からみて、引用発明の「基板12」及び「基板13」は、それぞれ本件補正後発明の「外側シェル(19)」及び「内側シェル(20)」に相当し、引用発明の「基板13」は、本件補正後発明の「内側シェル(20)」における、「外側シェル(19)に結合される」という要件を満たす。
さらに、その配置及び上記イの対比結果からみて、引用発明の「画像表示光学系1」は、本件補正後発明の「前記眼鏡レンズ(3)は、幾つかのシェルを有するように構築されて、外側シェル(19)と、該外側シェル(19)に結合される内側シェル(20)とを有し」という要件を満たす。

ク 第1反射表面(24)、第2反射表面(25)、チャネルシェル(21)
引用発明の「置換膜12a, 13a」は、「60°近傍の入射角度で入射する可視光を反射し、かつ0°近傍の入射角度で入射する可視光を透過する性質を有」するものである。
上記の機能からみて、引用発明の「置換膜12a, 13a」は、それぞれ本件補正後発明の「第1反射表面(24)」及び「第2反射表面(25)」に相当する。
また、引用発明の「基板11内に入射した表示光束L1」は、「置換膜13a、12aで繰り返し交互に反射しつつ、画像導入ユニット2から離れた観察者の左方向へ伝搬」するものである。ここで、上記イ、キの構成及びその対比結果からみて、引用発明の「観察者の側から順に、基板13、基板11、基板12を密着して重ねて配置してな」る「画像表示光学系1」は、眼鏡レンズのシェル部分であるといえるから、引用発明の「基板11」は、シェルであるといえ、さらに、光が通過する経路、すなわちチャネルであるといえる。
そうすると、引用発明の「基板11」は、本件補正後発明の「チャネルシェル(21)」に相当する。
また、引用発明の「置換膜12a, 13a」は、「基板12と基板11との間には、置換膜12aが両者に密着して設けられ」、「基板13と基板11との間には、置換膜13aが両者に密着して設けられ」るものである。
上記の配置及び上記クの対比結果からみて、引用発明の「基板11」と本件補正後発明の「チャネルシェル(21)」とは、「第1反射表面(24)と」「第2反射表面(25)とを有する」という点で共通する。
さらに、上記の配置及び上記キの対比結果からみて、引用発明の「基板11」は、本件補正後発明の「チャネルシェル(21)」における、「前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間に構成され」という要件を満たす。
また、上記の配置及び上記クの対比結果からみて、引用発明の「基板11」と本件補正後発明の「チャネルシェル(21)」とは、「前記」「チャネルシェル(21)は、前記」「第1反射表面(24)を介して前記外側シェル(19)に結合されると共に、前記」「第2反射表面(25)を介して前記内側シェル(20)に結合され」という点で共通する。
さらに、上記の配置及び上記キの対比結果からみて、引用発明は、本件補正後発明における、「互いに対向している前記内側シェル(20)と前記チャネルシェル(21)、及び前記外側シェル(19)と前記チャネルシェル(21)の各面が互いに結合され」という要件を満たす。

ケ 光ガイドチャネル(12)の構成要素
上記エ〜カ、クを総合すれば、引用発明の「置換膜13a、12a」及び「基板11」からなるものは、本件補正後発明の「光ガイドチャネル(12)」における、「前記光ガイドチャネル(12)は、前記光束(9)が反射されて前記結合入射セクション(11)から前記結合出射セクション(13)までガイドされる、前記チャネルシェル(21)及び前記2つの反射表面(24、25)を有し」という要件を満たす。

コ 外側シェル(19)、内側シェル(20)の面と前面(18)、後面(15)との関係
上記ウ、キの対比結果からみて、引用発明は、本件補正後発明における、「前記外側シェル(19)の前記内側シェル(20)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記前面(18)を形成すると共に、前記内側シェル(20)の前記外側シェル(19)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記後面(15)を形成し」という要件を満たす。

サ 反射性偏向表面(14)、チャネル層、結合出射セクション(13)の構成要素及び配置
引用発明の「ハーフミラー11b」は、表示光束L1を観察眼の瞳の方向に反射するものであり、反射性の偏向表面であるといえ、引用発明の「ハーフミラー11b」は、本件補正後発明の「反射性偏向表面(14)」に相当する。
上記の点及び上記オの対比結果からみて、引用発明の「ハーフミラー11b」が設けられるセクションと本件補正後発明の「結合出射セクション(13)」とは、「前記結合出射セクション(13)は、」「反射性偏向表面(14)を有し」という点で共通する。
また、引用発明の「ハーフミラー11b」は、「基板11の内部において」「設けられ」るものである。ここで、上記クの対比関係からみて、引用発明の「基板11」は、本件補正後発明の「チャネル層」に相当する。
その構成及び上記オ、クの対応関係からみて、引用発明の「ハーフミラー11b」が設けられるセクションは、本件補正後発明の「結合出射セクション(13)」における、「結合出射セクション(13)は、」「チャネル層の材料境界表面上に形成されており、或いは、チャネル層内に埋め込まれ」という要件を満たす。

シ 結合入射セクション(11)の位置
上記ウ、エ、キの対応関係からみて、引用発明の「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」と本件補正後発明の「結合入射セクション(11)」とは、「前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)は、」「前記後面(15)に設けられており」という点で共通する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置(1)用の眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズ(3)は、湾曲した前面(18)と、湾曲した後面(15)と、結合入射セクション(11)と、該結合入射セクション(11)から離隔した結合出射セクション(13)と、
前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)を介して前記眼鏡レンズ(3)内に結合されて生成される画像のピクセルの光束(9)を、前記眼鏡レンズ(3)内において、前記光束(9)が前記眼鏡レンズ(3)から外に結合される前記結合出射セクション(13)までガイドするのに適した光ガイドチャネル(12)と
を有する眼鏡レンズにおいて、
前記眼鏡レンズ(3)は、幾つかのシェルを有するように構築されて、外側シェル(19)と、該外側シェル(19)に結合される内側シェル(20)とを有し、
第1反射表面(24)と第2反射表面(25)とを有するチャネルシェル(21)が、前記外側シェルと内側シェル(19、20)の間に構成され、
前記光ガイドチャネル(12)は、前記光束(9)が反射されて前記結合入射セクション(11)から前記結合出射セクション(13)までガイドされる、前記チャネルシェル(21)及び前記2つの反射表面(24、25)を有し、
前記チャネルシェル(21)は、前記第1反射表面(24)を介して前記外側シェル(19)に結合されると共に、前記第2反射表面(25)を介して前記内側シェル(20)に結合され、
前記外側シェル(19)の前記内側シェル(20)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記前面(18)を形成すると共に、前記内側シェル(20)の前記外側シェル(19)に対し反対面である第1の面が、前記眼鏡レンズ(3)の前記後面(15)を形成し、
互いに対向している前記内側シェル(20)と前記チャネルシェル(21)、及び前記外側シェル(19)と前記チャネルシェル(21)の各面が互いに結合され、
前記結合出射セクション(13)は、反射性偏向表面(14)を有し、チャネル層の材料境界表面上に形成されており、或いは、チャネル層内に埋め込まれ、
前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)は前記後面(15)に設けられていることを特徴とする、眼鏡レンズ。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「第1反射表面(24)」、「第2反射表面(25)」及び「チャネルシェル(21)」が、本件補正後発明は、「湾曲した」ものであるのに対し、引用発明は、湾曲したものではない点。

(相違点2)
「チャネルシェル(21)」が、本件補正後発明は、「外側シェルと内側シェル(19、20)の間にスペーサシェルとして構成され、これにより、」「外側シェルと内側シェル(19、20)が直接接触」しないものであるのに対して、引用発明は、そのように特定されてない点。

(相違点3)
「結合出射セクション(13)」が、本件補正後発明は、「互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面(14)を有」するのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(相違点4)
「眼鏡レンズ(3)」の「結合入射セクション(11)」が、本件補正後発明は、「湾曲した」「後面に設けられて」いるのに対して、引用発明では、平面である「基板13」の「観察者側の面13-2」に設けられている点。

(相違点5)
「結合出射セクション(13)」が、本件補正後発明では、「ユーザの眼から見て前方の視野方向から左右方向の何れかにずれている」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(5)判断
相違点についての判断は以下のとおりである。
(相違点1について)
アイグラスディスプレイの技術分野において、軽量化等のために、光束をガイドする機能を有する反射面及び導光部材として湾曲したものを用いることは、例えば、特開2004−21078号公報の【0027】、【0043】〜【0046】、図4(a)、特表2012−510075号公報の【0010】、図1(b)、国際公開第2014/020073号の第4頁第22〜23行、第5頁第1〜18行、図2等に記載されているように本件出願の優先日前に周知の技術である。
してみると、引用発明において、軽量化という周知の課題を解決するために、上記の周知技術に基づいて、「置換膜13a, 12a」及び「基板11」として、湾曲したものを用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点2について)
引用文献3の図2には、基板11が、基板12と基板13の間に、基板12と基板13が直接接触しないように配置されている、すなわち、スペーサシェルとして構成されている画像表示光学系1が看取される。
してみると、引用発明において、上記の事項に基づいて、基板11を、基板12と基板13の間に、スペーサシェルとして構成され、これにより、基板12と基板13が直接接触しないようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点3について)
引用文献3の[0095]には、「本アイグラスディスプレイは、表示光束L1を内面反射する基板11中に、互いに平行な複数のハーフミラー11bを配置している」ことが記載されている。
ここで、上記の「互いに平行な複数のハーフミラー11b」は、互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面であるといえる。
また、アイグラスディスプレイの技術分野において、導波している光を偏向させて外部に出射する機能を有するセクションとして、互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面を有するようにすることは、例えば、米国特許出願公開第2012/0001833号明細書の[0084]、[0094]、[0098]、 [0099]、[0110]、[0119]、図2〜4、6、11〜15等に記載されているように本件出願の優先日前に周知の技術である。
してみると、引用発明において、上記引用文献3の記載又は上記周知の技術に基づいて、引用発明のハーフミラー11bに変えて、互いに隣接した状態で構成される幾つかの反射性偏向表面を有する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点4について)
アイグラスディスプレイの技術分野において、画像の光束を入射させるセクションを、湾曲した後面に設けることは、例えば、特表2003−502711号公報の【0018】、図5、国際公開第2014/020073号の図2等に記載されているように本件出願の優先日前に周知の技術である。
さらに進んで検討すると、特表2003−502711号公報の【0018】には、「接眼レンズ15は、図5に示すように、規範的な視野修正を行うために、外面31、32上に湾曲を持つことができる。このような場合、湾曲面32を通る光線10伝播を修正するために、種々のレンズ素子を変更しなければならない。」、国際公開第2014/020073号の第7頁第32〜33行には、「追加の光学系9は、コリメートされた光束として画像生成装置の光束L1〜L3が眼鏡レンズ3に当たるように、設計される。」、引用文献3の[0025]に「コンパイナには光学的パワーが付与されていてもよい。」と記載されており、これらを考慮すれば、一般的に、画像表示素子から観察眼の瞳までの結像光学系の全体として適切な結像(虚像)となるように、各要素の光学パワーを設計することがなされるものである。
そうしてみると、(a)眼鏡レンズの後面の一部である入射領域を「光学的パワーを与えない平面」とした上で、結像光学系の全体として光学パワーを最適に設計するか、(b)同入射領域の光学的パワーを眼鏡レンズの本来のまま(湾曲)として、結像光学系の全体として光学パワーを最適に設計するかは、当業者にとってみれば任意の光学設計であり、そうすると、一般の眼鏡レンズが後面に湾曲を持つことが当然であるという前提、且つ、上記2つの文献が採用している上記の周知の構成と上記説示に導かれて、後者(b)のような、すなわち引用発明のような設計を行うことは、当業者が容易に想到し得たものである。なお、上記相違点1の判断で述べたように置換膜13a, 12aや基板11を湾曲とすると、それによる光学パワーが生じるが、当業者であればそれも考慮した上で結像光学系の全体として最適な設計をすることは、技術常識から明らかである。
してみると、引用発明において、上記周知の技術に基づいて、「基板13」の「観察者側の面13-2」「のうち表示光束L1が最初に通過する領域」を曲面とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点5について)
アイグラスディスプレイの技術分野において、導波している光を偏向させて外部に出射する機能を有するセクションとして、ユーザの眼から見て前方の視野方向から左右方向の何れかにずれるように構成することは、例えば、特開2002−31777号公報の図1、特表2010−517090号公報の図6a、図6b等に記載されているように本件出願の優先日前に周知の技術である。
してみると、引用発明において、上記本件の優先日前に周知の技術に基づいて、「ハーフミラー11b」が設けられるセクションを、ユーザの眼から見て前方の視野方向から左右方向の何れかにずれるように構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果として、本願明細書の【0005】には、「この2つの反射表面の埋込み型の設計を通じて、眼鏡レンズの前面及び/又は後面が汚れている際にも、光束が良好にガイドされることを保証することが出来る。更には、眼鏡レンズを良好に製造することも可能である。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、基板12と基板11との間には、置換膜12aが両者に密着して設けられ、基板13と基板11との間には、置換膜13aが両者に密着して設けられた構成を有する引用発明が、自ずと奏する効果である。

(7)審判請求書について
審判請求人は、令和3年1月14日提出の審判請求書において、結合入射セクションが湾曲した後面に設けられることはいずれの文献にも記載されておらず、引用文献3は、結合入射セクションが平らな表面上に形成されている点は、引用文献3に記載された発明の必須要件といえ、容易でない旨の主張をしている。
上記主張について検討する。
前記(5)で述べたとおり、アイグラスディスプレイにおいて、画像の光束を入射させるセクションを、湾曲した後面に設けることは、周知の事項である。
さらに、引用文献3の[0024]には、「面13-2のうち表示光束L1が最初に通過する領域は、表示光束L1に対し何ら光学的パワーを与えない平面になっている。」ことが記載されているが、引用文献3の[0008]の記載や、そしてまた、上記(相違点4について)で説示したとおり、結像光学系の一部の光学パワーが置き換わったとしても、結像光学系の全体として適切な結像(虚像)が得られるように光学設計をすればよいことが当業者に明らかであることからも、引用文献3で結合入射セクションが平らな表面上に形成されている点が、当業者にとって置き換えが困難な必須の要件であるとは認められない。
以上のとおり、請求人の主張は採用できない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、(進歩性)本願発明は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2004−21078号公報
引用文献3:国際公開第2005/111669号
引用文献7:米国特許出願公開第2012/0001833号明細書
引用文献8:特表2012−510075号公報
引用文献9:特開2002−31777号公報
引用文献10:特表2010−517090号公報
なお、引用文献3が主引用例、引用文献1、引用文献7〜10は周知技術を例示する文献である。

3 引用文献及び引用発明
(1) 引用文献3
引用文献3の記載、引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)、(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]1(2)の本件補正後発明から、請求項2〜4、8〜9の発明特定事項と、「前記眼鏡レンズ(3)の前記結合入射セクション(11)は湾曲した前記後面(15)に設けられており」という限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]3で述べたとおり、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]3で述べた理由と同様の理由により、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 榎本 吉孝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-26 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-09-30 
出願番号 P2016-562819
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 井亀 諭
関根 洋之
発明の名称 ユーザの頭部上にフィット可能であると共に画像を生成するディスプレイ装置用の眼鏡レンズ  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  

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