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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1383255
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-26 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6689580号発明「濃縮飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6689580号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第6689580号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 特許第6689580号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6689580号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成27年7月8日に出願され、令和2年4月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項について、同年10月26日に特許異議申立人 日本香料工業会(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立以降の手続の経緯及び提出された証拠方法は次のとおりである。

(1)特許異議申立以降の手続の経緯
令和2年10月26日 :特許異議申立書及び
甲第1号証〜甲第2号証の提出
令和3年 2月 5日付け:取消理由通知
同年 4月 9日 :訂正請求書、意見書及び
乙第1号証の提出(特許権者)
同年 5月 7日付け:訂正拒絶理由通知
同年 6月11日 :手続補正書及び意見書の提出(特許権者)
同年 7月 5日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 9月 3日 :訂正請求書、意見書及び
乙第2号証〜乙第5号証の提出(特許権者)
同年 9月13日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知
同年10月15日 :意見書及び
甲第3号証〜甲第5号証の提出(申立人)

なお、令和3年4月9日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(2)提出された証拠方法
甲第1号証:特開2015−44号公報
甲第2号証:特表2015−509383号公報
甲第3号証:特開2010−126718号公報
甲第4号証:特開2004−168936号公報
甲第5号証:社団法人 全国清涼飲料工業会、財団法人 日本炭酸飲料検
査協会監修、「最新・ソフトドリンクス」、株式会社光琳、
平成15年9月30日、p.147−151
乙第1号証:鈴木敏幸、「乳化技術の基礎(相図とエマルション)」、日
本化粧品技術者会誌、2010年、第44巻、第2号、p.
103−117
乙第2号証:特許第4447116号公報
乙第3号証:特許第5090442号公報
乙第4号証:特許第6882163号公報
乙第5号証:特許第6768722号公報

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み」
と記載されているのを、
「当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み」
に訂正する(下線は、訂正箇所を示す。以下、同様である。)。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2〜6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料。」
と記載されているのを、
「オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2〜6も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
明細書の【0009】に、
「本発明によれば、5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料が提供される。」
と記載されているのを、
「本発明によれば、5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)が提供される。」
に訂正する。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項1〜7について、請求項2〜7はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1〜7にそれぞれ対応する訂正後の請求項1〜7に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

4 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1は、「当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み」との記載が、グリセロールは水に非常に溶けやすい物質であることが技術常識であるのに対し、「当該乳化香料は、非水溶性溶媒として(すなわち、技術常識に反して水に溶けにくい溶媒として)グリセロールを含み」という、それ自体意味の不明瞭な記載が存在していたところ、訂正事項1は、「当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み」と訂正するものである。
本件特許明細書には、「非水性溶媒」という用語について明確に定義を示したところはないが、本件特許明細書【0010】及び【0012】の「プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒」との記載や、【0013】の「非水性溶媒がエタノール、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールのいずれか1種以上を含む場合」との記載から、グリセロールやエタノールのように水に非常に溶けやすい物質と、ベンジルアルコールのように水に溶けにくい物質とをまとめて「非水性溶媒」としていること、選択肢に水が含まれていないことから、「非水性溶媒」という用語は、水ではない物質からなる溶媒を意味していることが理解できる。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載上の不備を「当該乳化香料は、非水性溶媒(すなわち、水ではない溶媒)としてグリセロールを含み」と訂正することで、その本来の意を明らかにすることを目的としたものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正後の請求項2〜6は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2〜6についての訂正も同様である。

新規事項の追加の有無について
訂正事項1の「当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み」との記載は、本件特許明細書【0038】に「また、乳化香料(ジボダン社製)は、・・・非水性溶媒としてグリセロールを79vol%含み・・・」との記載があること、上記アで述べたとおり、それ自体意味の不明瞭な記載を訂正してその本来の意を明らかにするものであって、新たな技術的事項を導入するものではないことから、新規事項の追加にあたらず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
また、訂正後の請求項2〜6は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2〜6についての訂正も同様である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、課題、解決手段、技術上の意義を含めた技術的意義やカテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
また、訂正後の請求項2〜6は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2〜6についての訂正も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明の「オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料」について、「アルコール飲料とするための濃縮飲料」を除くものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明の「オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料」のうち、甲第1号証に記載された発明との重なりのみを除く、いわゆる「除くクレーム」とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内においてしたものであって、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正後の請求項2〜6は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2〜6についての訂正も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内においてしたものであり、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項1及び2に伴い、訂正後の請求項1の記載と本件特許明細書【0009】の記載とを整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内においてしたものであり、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項4は、請求項1に関係するものであるから、訂正前の一群の請求項1〜7に関係する訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

5 申立人の主張について
申立人は、令和3年10月15日に提出した意見書において、特許権者が訂正事項1について誤記の訂正を目的としたものとしているところ、誤記を訂正するものとはいえないから、訂正事項1の訂正を認めない旨を主張しているが、上記4(1)アのとおり、訂正事項1は明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められるから、申立人の主張は採用できない。
また、同意見書において、訂正事項2について、甲第1号証に記載の発明は、訂正前の請求項1に係る発明とは技術的思想としては顕著に異なり、本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明であるとは言えないから、甲第1号証に記載の発明を除くとする訂正は、新規事項の追加又は実質的に特許請求の範囲を変更するものであり、訂正事項2の訂正を認めない旨を主張している。
しかしながら、上記4(2)のとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、訂正前の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明との関係は訂正の要件ではないから、両発明の関係性を前提とする申立人の主張は採用できない。

6 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1〜6に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)。
【請求項2】
前記乳化香料が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含む、請求項1に記載の濃縮飲料。
【請求項3】
当該濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50が、10nm以上200nm以下である、請求項1または2に記載の濃縮飲料。
【請求項4】
高甘味度甘味料をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の濃縮飲料。
【請求項5】
前記高甘味度甘味料の含有量が、当該濃縮飲料全量に対して0.001重量%以上1重量%以下である、請求項4に記載の濃縮飲料。
【請求項6】
クエン酸をさらに含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の濃縮飲料。
【請求項7】(削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審は、本件特許発明1〜6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が令和3年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由及び同年7月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。

(1)取消理由1(明確性
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1〜7の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1〜7に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

ア 請求項1に「当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み」と記載されているが、「グリセロール」は水に非常に溶けやすい物質であることが技術常識である。
したがって、請求項1の「非水溶性溶媒としてグリセロール」という記載は、技術的に正しくない記載を含んでいるため、明確でない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7も同様である。

イ 請求項7に「前記乳化香料が、非水溶性溶媒としてプロピレングリコール、エタノール、ベンジルアルコール、およびイソプロパノールを含まない」と記載されているが、エタノールは水に非常に溶けやすい物質であるのに対し、ベンジルアルコールは水に溶けにくい物質であることが技術常識である。
したがって、請求項7の「非水溶性溶媒としてプロピレングリコール、エタノール、ベンジルアルコール、およびイソプロパノール」という記載は、技術的に正しくない記載を含むことに加え、水への溶解性が異なる物質をまとめて「非水溶性溶媒」と定義づけているといえ、明確でない。

(2)取消理由2(新規性
本件特許の請求項1〜3、6〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1〜3、6〜7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(3)取消理由3(進歩性
本件特許の請求項4〜5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項4〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



引用文献1(甲1):特開2015−44号公報
引用文献2(甲2):特表2015−509383号公報

2 判断
(1)取消理由1(明確性)について
訂正前の請求項1は、「当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み」という、技術的に正しくない記載を含んでいるため明確でなかったが、訂正後の請求項1は、「当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み」であるから、技術的に正しくない記載を含んでおらず、明確である。
そして、訂正前の請求項7は削除された。
よって、取消理由1(明確性)は理由がない。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜6についても、同様である。

(2)取消理由2(新規性)について
ア 甲1及び甲2に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
次の成分(a)〜(c);
(a)親水性ポリグリセリン脂肪酸エステル
(b)親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル
(c)リゾレシチン
を含有することを特徴とする乳化香料組成物。
・・・
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかの項記載の乳化香料組成物を含有する飲料。」

(1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は乳化香料組成物に関し、より詳細には、微細な乳化粒子が均一に分散した状態を安定して保持することができ、水性溶媒に添加した際に透明性が高く、酸、熱およびアルコールに対する耐性を有する乳化香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化組成物は、油と水のように互いに溶け合わない液相の一方が、他の一方の相(連続相)に微小な液滴(乳化粒子)として分散しているものであるが、エネルギー状態が高く、熱力学的に不安定な系であるため、長期間にわたって平衡状態を維持することが困難であり、乳化粒子の凝集、合一などが起こり易く、その結果分離や濁りが生じるなど品質上問題となる。
【0003】
したがって、乳化組成物には、流通過程や保存中においても、微細な乳化粒子が均一に分散した状態を安定して維持し得る経時安定性が要求される。また乳化組成物を飲食品に添加して使用する場合、飲食品に含まれる酸、アルコールや熱に対する耐性が必要とされることがある。さらに飲食品においては、透明性が必要とされる場合があるが、乳化粒子の粒子径を十分小さくすることによって、水性溶媒に添加した際の透明性が向上するため、乳化粒子の粒子径を制御する技術が重要となる。
・・・
【0007】
したがって、乳化粒子の粒子径を微細な範囲に制御するとともに、微細な乳化粒子が均一に分散した状態を安定して維持し得る技術が求められており、本発明は、そのような乳化香料組成物を提供することを課題とする。」

(1c)「【0027】
本発明の乳化香料組成物は、食品、飲料全般に使用することができる。食品としては、特に限定されるものではないが、透明性を有するもの、例えばキャンデー、ゼリー、冷菓などの菓子類、スープ類等に好適に用いられる。また飲料としては、炭酸飲料、果汁飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、乳酸飲料、清涼飲料、乳飲料、ミネラルウオーター、スポーツドリンク、アルコール飲料などが挙げられる。このような食品、飲料における乳化香料組成物の含有量は、0.01〜1%が好ましく、0.02〜0.5%がより好ましい。本発明の乳化香料組成物は水性溶媒に添加した際の透明性に優れるものであり、特に酸やアルコールの存在下では、一般に乳化状態が不安定になり濁りが生じ易くなるが、本発明の乳化香料組成物は、アルコール飲料に配合しても安定性が高く、透明感の高い外観となる。例えば、濁度を指標とした場合、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下の範囲内のものとなる。本発明において、濁度は実施例に記載された条件により測定された測定波長680nmにおける吸光度(abs)である。」

(1d)「【0029】
実施例1〜2および比較例1〜4
乳化香料組成物の調製:
下記表1に示す組成および下記製法により、乳化香料組成物を調製した。製造後の乳化香料組成物について、下記条件により粒子径を測定した。またこれを40℃で1週間保存した後の粒子径についても同様にして測定した。結果を表1に示す。なお、表中の「×」は油浮きが生じたことを意味する。
・・・
【0042】
実施例2,7〜8
香料の検討およびアルコール飲料モデルへの適用:
下記表4に示す組成および下記製法により、乳化香料組成物を調製した。各組成物について実施例1と同様にして、製造直後および40℃1週間保存後の粒子径を測定した。
また各乳化香料組成物を用いて下記5倍濃縮アルコールシロップ(アルコール濃度30v/v%)を調製し、水で5倍に希釈した後、65℃で10分間殺菌してアルコール飲料モデル(Brix5.2,pH3.6,アルコール濃度6v/v%)を調製した。下記方法により、製造直後および40℃1週間保存後の濁度を測定した。結果を表4に示す。
【0043】
(製造方法)
A,成分1,2,4,9を加温混合する。
B,成分3,5〜8を混合する。
C.AとBを加温混合し、ホモミキサーで8000rpm10分〜1時間程度乳化処理を行う。
D.Cに10を混合する。
【0044】
(5倍濃縮アルコールシロップ(1L))
果糖ブドウ糖液糖 200.0g
無水クエン酸 8.0g
クエン酸3ナトリウム 5.0g
95%(v/v)エタノール 315.5ml
乳化香料組成物 5.0g
水 (残量)
【0045】
(濁度の測定方法)
分光光度計U−2900(日立製作所製)にて波長680nmでの吸光度を希釈せずに測定した。
【0046】
【表4】

【0047】
オレンジ精油に代えて、他の香料を使用しても、同様に微細で安定性に優れた乳化組成物が得られた。またこれらの乳化組成物をアルコール飲料モデルに用いた場合、いずれも、微細な乳化粒子として安定に存在し、透明性の高いものとなり、酸、熱およびアルコールへの耐性にも優れることが示された。」

甲2には、次の事項が記載されている。

(2a)「【0002】
本開示は、液体飲料濃縮物に関し、特に、飲料液体で希釈して風味付飲料を調製するのに適した、常温保存可能な粘性濃縮物に関する。」

(2b)「【0029】
濃縮物に含まれる甘味料は、高甘味度甘味料、栄養甘味料、またはそれらの組み合わせを含み、例えば、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、モナチン、ペプチドベースの高強度甘味料(例えば、Neotame(登録商標))、シクラメート(シクラメートナトリウム等)、羅漢果、アセスルファムカリウム、アリテーム、サッカリン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、N−[N−[3−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)プロピル]−L−α−アスパルチル]−L−10 フェニルアラニン 1−メチルエステル、N−[N−[3−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−3−メチルブチル]−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニン 1−メチルエステル、N−[N−[3−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロピル]−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニン 1−メチルエステル、これらの塩、ステビア、ステビオール配糖体、例えば、レバウジオサイドA(しばしば「Reb A」とも称される)、レバウジオサイドB、レバウジオサイドC、レバウジオサイドD、レバウジオサイドE、レバウジオサイドF、ズルコサイドA、ズルコサイドB、ルブソサイド、ステビア、およびステビオサイド、ならびにこれらの組み合わせが含まれる。添加された甘味料および甘味料の量の選択は、濃縮された風味付組成物の所望の粘度および甘味料を増粘剤として含むか否かに、少なくとも部分的に依存し得る。例えば、ショ糖のような栄養甘味料は、同レベルの甘味を付与するためには、ネオテームのような高甘味度甘味料よりもはるかに高い量で含むことができ、甘味料が寄与するこのように高い全固形分により、組成物の粘度が増大する。所望であれば、甘味料は、一般的に約0.2〜約60%の量で添加することができ、この範囲の下限は、一般的には高強度甘味料によりふさわしく、範囲の上限は、一般には栄養甘味料によりふさわしい。所望であれば、甘味料を他の量で含むこともできる。」

イ 甲1に記載された発明
甲1の上記(1a)の請求項1及び8に係る発明の具体例を示した5倍濃縮アルコールシロップ(上記(1d)【0044】及び【表4】)からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
なお、甲1の【0014】に「本発明の乳化組成物中の成分(a)の含有量は、1〜15質量%(以下、特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する)・・・」と記載されているから、【表4】の「(%)」は質量%である。

甲1発明:
「以下の組成からなる、5倍濃縮アルコールシロップ(1L)。
果糖ブドウ糖液糖 200.0g
無水クエン酸 8.0g
クエン酸3ナトリウム 5.0g
95%(v/v)エタノール 315.5ml
乳化香料組成物 5.0g
水 残量
ここで、上記の乳化香料組成物は、次の乳化香料組成物1〜3のいずれかである。
乳化香料組成物1:
デカグリセリンモノオレエート 1 質量%
デカグリセリンモノミリステート 5 質量%
デカグリセリンペンタオレエート 0.1質量%
リゾレシチン 0.2質量%
ビタミンE 0.1質量%
レモンフレーバー 5 質量%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 0.2質量%
グリセリン 70 質量%
水 18.4質量%
乳化香料組成物2:
デカグリセリンモノオレエート 1.8質量%
デカグリセリンモノミリステート 4 質量%
デカグリセリンペンタオレエート 0.1質量%
リゾレシチン 0.2質量%
ビタミンE 0.1質量%
アップルフレーバー 5 質量%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 0.8質量%
グリセリン 70 質量%
水 18 質量%
乳化香料組成物3:
デカグリセリンモノオレエート 1.8質量%
デカグリセリンモノミリステート 4 質量%
デカグリセリンペンタオレエート 0.1質量%
リゾレシチン 0.2質量%
ビタミンE 0.1質量%
レモンフレーバー 5 質量%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 0.4質量%
グリセリン 70 質量%
水 18.4質量%」

ウ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「5倍濃縮アルコールシロップ」は、上記(1d)【0042】のとおり、水で5倍に希釈してアルコール飲料とするためのものであるから、本件特許発明1の「5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料」に相当する。

b 「乳化香料」について、本件特許明細書【0015】に「乳化香料とは、食品に香気を付与増強する食品香料であるフレーバーを水に乳化させ微粒子状態にしたものを指す。」こと、同【0020】に「本発明における乳化香料は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含むことが好ましい。」ことが記載されている。
そして、同【0038】に、実施例で使用した「乳化香料(ジボダン社製)」について、「当該乳化香料全量に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを6vol%、オレンジフレーバー(蒸留酒抽出物、オレンジ分画物およびオレンジ精油)を6vol%、非水性溶媒としてグリセロールを79vol%含み、かつ、乳化粒子の平均粒子径d50が120nmであるものである。」こと、「乳化香料中には、上記成分の他に、食品素材、トコフェノール等の成分が含まれている。」ことが記載されている。
そうすると、甲1発明の「乳化香料組成物1〜3」は、デカグリセリンモノオレエートなどのポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、レモンフレーバーなどを水に乳化させ微粒子状態にしたものであり、「グリセリン」(当審注:グリセロールと同じ物質であることは技術常識である。)を含むものであるから、本件特許発明1の「乳化香料」に相当し、さらに「ビタミンE」などを含むことは、本件特許発明1の「乳化香料」に包含され、相違点とはならない。
そして、甲1発明の「乳化香料組成物1〜3」は、いずれも「5倍濃縮アルコールシロップ」に対して5.0g含まれている。
ここで、甲1には「5倍濃縮アルコールシロップ(1L)」の重量について記載されていないが、アルコールシロップの比重の技術常識からみて、1000gと大きく異なる重量ではないと考えられるから、約1000gとすると、甲1発明における「乳化香料組成物1〜3」の含有量は約0.5重量%(5.0/1000×100)と計算され、本件特許発明1の「乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下」に相当するといえる。

c 甲1発明の「乳化香料組成物1〜3」は、それぞれ「グリセリン」を70質量%含有するから、本件特許発明1の「乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロール」を含むことに相当する。
そして、上記bのとおり、甲1発明の「乳化香料組成物1〜3」は、「5倍濃縮アルコールシロップ」に対して約0.5重量%含まれているから、「グリセリン」の含有量を「5倍濃縮アルコールシロップ」に対する量に換算すると、約0.35重量%(70%×0.5%)となる。
グリセリンの密度は、20℃で1.25程度であるから、甲1発明における「5倍濃縮アルコールシロップ」に対する「グリセリン」の含有量は、本件特許発明1の「グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%」に相当するといえる。

d したがって、両発明は、次の一致点及び相違点1を有する。

一致点:
「5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水溶性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、濃縮飲料。」である点。

相違点1:
本件特許発明1は、「オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)。」と特定されているのに対し、甲1発明の5倍濃縮アルコールシロップは、そのように特定されていない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明の5倍濃縮アルコールシロップは、水で5倍に希釈してアルコール飲料とするためのものであるから(上記(1d)【0042】)、本件特許発明1から除かれる、アルコール飲料とするための濃縮飲料に該当し、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料であるか否かについて検討するまでもなく、甲1発明は本件特許発明1と相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。

エ 本件特許発明2〜3及び6について
本件特許発明2〜3及び6は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用して、さらに「前記乳化香料が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含む」(本件特許発明2)こと、「当該濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50が、10nm以上200nm以下である」(本件特許発明3)こと、「クエン酸をさらに含む」(本件特許発明6)ことを特定するものである。
したがって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2〜3及び6についても、上記ウで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、令和3年10月15日に提出した意見書において、甲1の【0027】の記載を根拠に(上記(1c)参照)、甲1に記載された飲料は、希釈されてアルコール飲料とするためのものに限定されていない旨を主張する。
しかしながら、甲1発明の5倍濃縮アルコールシロップは、水で5倍に希釈してアルコール飲料とするためのものであるから、申立人の主張は採用できない。

カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜3及び6は、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、取消理由2(新規性)には理由がない。

(3)取消理由3(進歩性)について
ア 甲1及び甲2に記載された事項及び甲1に記載された発明
上記(2)ア及びイのとおりである。

イ 本件特許発明4及び5について
本件特許発明4及び5は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用して、さらに「高甘味度甘味料をさらに含む」(本件特許発明4)こと、「前記高甘味度甘味料の含有量が、当該濃縮飲料全量に対して0.001重量%以上1重量%以上である」(本件特許発明5)ことを特定するものである。
そうすると、本件特許発明4及び5と甲1発明とは、上記(2)ウ(ア)dで述べた相違点1に加えて、次の相違点2及び3で相違する。

相違点2:
本件特許発明4は、「高甘味度甘味料をさらに含む」と特定しているのに対し、甲1発明は、高甘味度甘味料を含まない点。

相違点3:
本件特許発明5は、「高甘味度甘味料の含有量が、濃縮飲料全量に対して0.001重量%以上1重量%以下である」と特定しているのに対し、甲1発明は、高甘味度甘味料を含まない点。

ウ 判断
甲1発明の「5倍濃縮アルコールシロップ」には、「果糖ブドウ糖液糖」が配合されているところ、これは本件特許明細書【0022】にも「上述した天然甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、D−ソルビトール等の低甘味度甘味料、タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物等の高甘味度甘味料などが挙げられる。」と記載されているとおり、また、出願時の技術常識からみて、甘味料として配合されていることは明らかである。
そして、濃縮飲料に、甘味料として天然甘味料の他、高甘味度甘味料を使用できること、甘味料は一般的に約0.2〜約60%の量で添加できることは、濃縮飲料に関する技術を開示する甲2にも記載されているとおり、本件特許が属する食品分野における周知の技術的事項である(上記(2a)、(2b))。
したがって、甲1発明において、果糖ブドウ糖液糖にかえて、あるいはそれに加えて高甘味度甘味料を配合すること、その際に、所望とする飲料の香味に応じて、高甘味度甘味料であるから、甘味量の添加量範囲の下限付近の添加量を選択し設定すること、すなわち相違点2及び3に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。
しかしながら、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明4及び5は、上記(2)ウ(ア)dで述べた相違点1を有するところ、上記周知の技術的事項を考慮しても、甲1発明の「5倍濃縮アルコールシロップ」をアルコール飲料とするための濃縮飲料とは異なる濃縮飲料とすることを動機付けるところはない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書【0011】の記載や実施例の評価からみて、オイル浮きや沈殿の問題のない保存安定性に優れた濃縮飲料の提供が可能となるという、甲1の記載からは予測できない顕著な効果を奏するものである。

エ 申立人の主張について
申立人は、令和3年10月15日に提出した意見書において、同じ香料組成物をアルコールの有無によらず使用することは技術常識であることや、甲1の実施例の記載及び甲3〜甲5に示される技術常識から、甲1発明の5倍濃縮アルコールシロップを希釈して得られるアルコール飲料においても、少なくとも濁りや沈殿の発生がないことを当業者であれば容易に理解できる旨を主張している。
しかしながら、甲1は、濃縮飲料における乳化香料の安定性に着目したものではなく、濃縮飲料における乳化香料組成物の含有量を示唆したところもない。
また、甲3は、特定の増粘安定剤を用いることで高濃度のアルコール含有組成物に添加した乳化香料組成物を安定に保てることが示されているのであって、溶媒としてグリセリン、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを含有する比較例1では、濁りや沈殿が生じることが示されているものである。そして、甲4には、シトラス様香料組成物を飲料に限らない様々な食品に添加することが開示されているに過ぎず、甲5には、乳化破壊の確認の際の加速試験に関することが開示されているに過ぎない。
したがって、甲1の記載及び甲3〜甲5に示される技術常識を検討しても、甲1発明の5倍濃縮アルコールシロップを、アルコール飲料ではない飲料とするためのオイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料とする動機付けはないし、濃縮飲料の保存安定性に関する効果を予測することもできないので、申立人の主張は採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明4及び5は、甲1に記載された発明及び甲2に示される周知の技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由3(進歩性)には理由がない。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
当審は、本件特許発明1〜6に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立て理由の概要
訂正前の請求項1〜3に係る特許に対して、取消理由通知で採用しなかった申立人が申し立てた理由の要旨は次のとおりである。

申立理由1(サポート要件)
訂正前の請求項1〜3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1〜3に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(1)本件特許明細書【0021】に記載のとおり、乳化粒子径が分散安定性、品質の経時安定性に寄与することは出願時の技術常識であるところ、実施例において濃縮飲料の調製に用いた乳化香料の平均粒子径が120nmの一水準値だけをもって、乳化香料の粒子径を限定しない訂正前の請求項1に係る発明にまで、乳化香料を拡張できるとはいえない。

(2)訂正前の請求項1に係る発明の乳化香料及びグリセロールの濃縮飲料全量に対する含有量の範囲は、それぞれ濃縮飲料全量に対する量として規定されているため、乳化香料中のグリセロールの含有量は7.9vol%以上の任意の範囲を含むものであり、このような場合であってもオイル浮きおよび沈殿発生が抑制されるとまでは類推できない。

(3)乳化香料の分散安定性、品質の経時安定性、乳化粒子径などの特性は、乳化剤の種類とその使用量に影響されることは出願時の技術常識であるところ、実施例はポリグリセリン脂肪酸エステルを6vol%含む乳化香料1種のみであるため、乳化剤の種類及びその含有量を限定しない訂正前の請求項1に係る発明にまで技術的範囲を拡張することはできない。

(4)訂正前の請求項2に係る発明の乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニン及びアラビアガムのいずれかを選択できるとされているが、乳化香料の安定性は乳化剤の種類に大きく影態を受けるものであること、キラヤサポニンやアラビアガムなどを乳化剤として用いた場合、高濃度の使用で発泡性や粘度が上昇することが容易に想定されるので、ポリグリセリン脂肪酸エステルのみの実施例からこれら乳化剤の種類を拡張することはできない。

(5)実施例において濃縮飲料中の乳化粒子径は測定されておらず、濃縮飲料の調製に用いた乳化香料の粒子径が120nmであったことが記載されているにとどまるところ、乳化香料の粒子径はpHなどに影響を受けやすく濃縮飲料中においても変化しないという技術常識があるわけではないため、訂正前の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2 当審の判断
(1)本件特許明細書の記載
ア 背景技術に関する記載
「【0002】
濃縮飲料は、消費者自身が望む濃度となるように希釈した上で喫飲することを想定したものである。そのため、濃縮飲料は、市場に流通している各種容器詰め飲料と比べて、当該濃縮飲料全量に対する各種配合成分の濃度が高くなるよう調製されている。こうした事情に鑑みて、従来から、濃縮飲料に配合する各種成分については、喫飲時に希釈せずに飲用する各種容器詰め飲料と同程度の香味感を呈するよう種々の工夫されてきた。たとえば、従来の濃縮飲料では、各種配合成分の濃度を低下させることなく十分な香味感を付与すべく、たとえば、フレーバーなどの香味オイルを配合することが一般的であった。
【0003】
また、濃縮飲料は、希釈せずに飲用することを想定した各種容器詰め飲料と比べて、開封してから再度閉栓して保存する可能性が高いという事情を有している。そのため、従来の濃縮飲料では、保存時に上述した香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまうという不都合が生じてしまうことがあった。すなわち、従来の濃縮飲料は、保存安定性という観点において改善の余地を有していた。こうした事情に鑑みて、濃縮飲料の保存安定性については、従来から種々の検討がなされてきた。
【0004】
たとえば、特許文献1には、酸味料と、香味料と、水と、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、トリアセチン、酢酸エチル、ベンジルアルコール、イソプロパノール、1,3−プロパンジオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される両親媒性の非水性液体と、を含む濃縮飲料が記載されている。」

イ 発明が解決しようとする課題に関する記載
「【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の濃縮飲料は、長期保存時に、依然として、微量のオイル成分が分離して液面に浮いてしまうという不都合が生じる場合があった。具体的には、本発明者は、従来の濃縮飲料において香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまった場合、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質が低下する可能性があることを知見した。
【0007】
以上を踏まえ、本発明は、保存安定性に優れた濃縮飲料、および濃縮飲料の品質改善方法を提供する。」

ウ 課題を解決するための手段に関する記載
「【0008】
本発明者らは、保存安定性に優れた濃縮飲料を提供すべく、鋭意検討した。その結果、乳化香料と、非水性液体とを併用し、かつ上記非水性液体の含有量と、その組成とが所定の条件を満たすように制御することがその設計指針として有効であることを見出し、本発明に至った。」

エ 発明の効果に関する記載
「【0011】
本発明によれば、保存安定性に優れた濃縮飲料、および濃縮飲料の品質改善方法を提供することができる。」

オ 発明を実施するための形態に関する記載
「【0012】
本発明の濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することを想定したものである。かかる濃縮飲料は、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、乳化香料と、を含み、当該濃縮飲料全量に対する非水性溶媒の含有量が20vol%以下であるものである。こうすることで、保存時にオイル成分の浮きが発生することを抑制できる程度に保存安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。なお、上記非水性溶媒は、いずれも、両親媒性の溶媒である。
・・・
【0014】
・・・本発明者は、従来の濃縮飲料において香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまった場合、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質が低下する可能性があることを知見した。
【0015】
そこで、本発明者は、上述した不都合が生じることのない保存安定性に優れた濃縮飲料を提供すべく、その設計指針について鋭意検討した。その結果、本発明者は、乳化香料と、非水性液体とを併用し、かつ上記非水性液体の含有量と、その組成とが所定の条件を満たすように制御することが設計指針として有効であることを見出した。ここで、上記乳化香料とは、食品に香気を付与増強する食品香料であるフレーバーを水に乳化させ微粒子状態にしたものを指す。
【0016】
具体的には、本発明に係る濃縮飲料は、非水性溶媒と、乳化香料と、を含むものであり、かつ当該濃縮飲料全量に対する非水性溶媒の合計含有量が20vol%以下となるように制御されたものである。こうすることで、上述した乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させることが可能となる。それ故、本発明によれば、保存時にオイル成分が浮いてしまうことを抑制した保存安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。・・・また、本発明によれば、上述したように、保存時にオイル成分が浮いてしまうことを抑制できるため、結果として、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現可能である。
【0017】
ここで、本発明に係る濃縮飲料において、非水性溶媒の合計含有量は、上述した通り、当該濃縮飲料全量に対して20vol%以下であるが、乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させる観点から、好ましくは、17vol%以下であり、さらに好ましくは、13vol%以下である。なお、下限値は、3vol%以上であれば十分に乳化・分散作用を発現させることができる。
【0018】
また、本発明に係る濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することを想定したものであるが、その濃縮率は、好ましくは、5倍以上100倍以下であり、さらに好ましくは、5倍以上50倍以下である。つまり、本発明に係る濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することが好ましく、5倍以上50倍以下に希釈してから喫飲するとさらに好ましい。こうすることで、呈味の嗜好性にバラつきのない濃縮飲料を実現することが可能である。
【0019】
また、本発明に係る濃縮飲料において乳化香料の含有量は、当該濃縮飲料の保存安定性をより一層向上させる観点から、当該濃縮飲料全量に対して、好ましくは、0.05重量%以上4重量%以下であり、さらに好ましくは、0.1重量%以上2重量%以下である。
【0020】
本発明における乳化香料は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含むことが好ましい。ここで、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、植物油由来のグリセリンを脱水縮合したポリグリセリンと植物油由来の脂肪酸をエステル結合させた乳化剤である。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値の幅が広いため濃縮飲料の配合成分の種類に関係なく使用可能である点において汎用性に優れた乳化剤である。キラヤサポニンは、界面活性および均質性という観点において優れた植物由来の乳化剤である。アラビアガムは、水に対する溶解性に優れ、かつ良好な乳化安定性を示す乳化剤である。
【0021】
ここで、本発明に係る濃縮飲料において、乳化香料中に含まれる乳化剤は乳化粒子(エマルション)の形態をとっている。本発明に係る濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50は、好ましくは、10nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは、10nm以上150nm以下である。こうすることで、乳化粒子の分散安定性に優れ、かつ長期間保存した際においてもオイル浮きや沈殿といった不都合が生じにくい品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。」

カ 実施例の記載
「【0038】
<実施例1〜4および比較例1〜4>
まず、実施例及び比較例の濃縮飲料を作製するための配合原料である、クエン酸、クエン酸三カリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、香料(ジボダン社製)および乳化香料(ジボダン社製)を、それぞれ純水に溶解させた。なお、香料(ジボダン社製)は、蒸留酒抽出物、オレンジ分画物およびオレンジ精油を全量に対して9vol%、エタノールを84.2vol%および水を6.8vol%含むエタノール基材のエッセンス香料である。また、乳化香料(ジボダン社製)は、当該乳化香料全量に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを6vol%、オレンジフレーバー(蒸留酒抽出物、オレンジ分画物およびオレンジ精油)を6vol%、非水性溶媒としてグリセロールを79vol%含み、かつ、乳化粒子の平均粒子径d50が120nmであるものである。また、乳化香料中には、上記成分の他に、食品素材、トコフェノール等の成分が含まれている。
【0039】
次に、準備した配合原料を用い、下記表1に示す配合比率となるように混合して実施例1および比較例1の濃縮飲料を作製した。なお、実施例2〜4および比較例2〜4の濃縮飲料については、かかる実施例1および比較例1の濃縮飲料を純水で希釈して作製した。
【0040】
得られた各濃縮飲料について、以下に示す官能評価を行った。なお、評価に用いた濃縮飲料は、製造直後に20℃で48時間以上静置保管したものを使用した。
【0041】
(評価項目)
・官能評価試験1(オイル浮き):実施例1〜4および比較例1〜4の濃縮飲料を、熟練したパネラーが目視にて観察した。パネラーは、各濃縮飲料について、以下の評価基準に従って3段階評価を実施した。
○:オイル浮き無し。
△:飲料の表面がギラついている。
×:飲料の表面に油滴が浮いている。
【0042】
・官能評価試験2(沈殿):実施例1〜4および比較例1〜4の濃縮飲料を、熟練したパネラーが目視にて観察した。パネラーは、各濃縮飲料について、以下の評価基準に従って2段階評価を実施した。
○:沈殿なし。
×:飲料中に沈殿が生じている。
【0043】
上記評価項目に関する官能評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率と共に示す。なお、下記表1における「n.d.」という表記は、検出されなかったことを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1に示すように、実施例の濃縮飲料は、いずれも、保存安定性に優れた飲料であった。また、実施例の濃縮飲料は、いずれも、喫飲時の味および香りのバランスや、見栄えという観点において良好な品質を実現したものであった。一方、比較例の飲料は、いずれも、オイル浮きが生じ、保存安定性という観点において要求水準を満たすものではなかった。また、比較例の飲料は、少なくとも見栄え(品質)という観点において要求水準を満たすものではなかった。
【0046】
また、実施例の濃縮飲料は、いずれも、濃縮率が異なるものではあるが、喫飲時の味および香りのバランスという観点において呈味の嗜好性にバラつきの無いものであった。一方、比較例の濃縮飲料は、呈味の嗜好性(味および香りのバランス)にバラつきが生じ、結果として、品質という観点において要求水準を満たすものではなかった。」

(2)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許明細書の記載、特に上記(1)ア及びイからみて、本件特許発明1〜6の解決しようとする課題は、「保存安定性に優れた濃縮飲料」を提供することにあると認める。

(3)判断
本件特許明細書の上記(1)ウ〜オの一般記載及び上記(1)カの実施例の記載から、5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料において、濃縮飲料が乳化香料及び非水性溶媒としてグリセロールを含み、濃縮飲料全量に対する乳化香料の含有量を0.1重量%以上1重量%以下とし、濃縮飲料全量に対するグリセロールの含有量を0.079〜0.79vol%とすることで、乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させることが可能となり、保存時にオイル成分の浮きや沈殿が発生することを抑制することで、保存安定性に優れた濃縮飲料を提供するという、上記課題を解決できることが理解できる。
したがって、本件特許発明1〜6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1〜6の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1〜6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(4)申立人の主張について
ア 申立理由1(1)及び(5)について
上記(1)オ【0021】に、濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50の好ましい範囲が10nm以上200nm以下であること、この範囲とすることで、乳化粒子の分散安定性に優れ、長期間保存した際においてもオイル浮きや沈殿といった不都合が生じにくい品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現することができることが記載され、実施例において、その範囲内の具体例が示されている。
そして、申立人は、乳化粒子径が分散安定性、品質の経時安定性に寄与することは出願時の技術常識であると主張するものの、乳化粒子の平均粒子径d50を120nm以外、あるいは上記好ましい範囲以外のものとした場合に、課題を解決できないといえる具体的な根拠を示していない。
よって、申立理由1(1)及び(5)には理由がない。

イ 申立理由1(2)について
上記(1)オ【0017】に、乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させる観点から、濃縮飲料全量に対する非水性溶媒の好ましい含有量は17vol%以下であることが記載され、上記(1)オ【0019】に、保存安定性をより一層向上させる観点から、濃縮飲料全量に対する乳化香料の好ましい含有量は0.05重量%以上4重量%以下であることが記載され、実施例において、その範囲内の具体例が示されている。
申立人は、特許異議申立書において、「乳化香料中のグリセロール濃度が10vol%である乳化香料を、濃縮飲料に1重量%添加した場合、濃縮飲料中のグリセロール量は0.1vol%になり本件特許発明1を充足することになるが、このような場合であってもオイル浮きおよび沈殿発生が抑制されるとまでは類推できない。」こと、令和3年10月15日に提出した意見書において、「請求項1の記載事項に基づき、乳化香料中のグリセロールの含有量を計算すると、グリセロールの比重を1.26とした場合、9.95質量%〜100質量%未満となり、vol%に換算すると、7.9vol%〜100vol%未満となる。一方で、本特許明細書の実施例において、実際にオイル浮き及び沈殿がみられなかったことが記載されている濃縮飲料は、グリセロールが乳化香料に79vol%で含まれている濃縮飲料のみであり、グリセロールの含有量が79vol%以外である乳化香料を含む濃縮飲料については記載されておらず、また乳化香料が7.9vol%〜79vol%末満のグリセロールを含んでさえすれば濃縮飲料のオイル浮き及び沈殿を抑制できるという技術常識が本特許出願時にあったともいえない。」と主張している。
しかしながら、申立人の上記主張は、実施例で確認されたもの以外では課題を解決できると認識できないことを前提としていたり、最大限取り得る範囲に関する極端な例を挙げたものに過ぎない主張といえるところ、仮に、申立人の主張する含有量とした場合に、技術常識上、オイル浮き及び沈殿発生が抑制されていない範囲であれば、技術常識を考慮すれば本件特許発明に包含されていないともいえるのであるから、上記主張は採用できない。
よって、申立理由1(2)には理由がない。

ウ 申立理由1(3)及び(4)について
上記(1)オ【0020】に、乳化香料に含まれる好ましい乳化剤がそれぞれの利点とともに例示されおり、実施例において、その一つを用いた場合の具体例が示されている。
そして、上記(1)ア〜ウのとおり、本件特許発明は、乳化香料と非水性溶媒を特定の含有量で含むことで、保存安定性に優れた濃縮飲料を提供するものであり、乳化香料に含まれる乳化剤の種類によって課題を解決したものではない。
申立人は、乳化香料の分散安定性、品質の経時安定性、乳化粒子径などの特性は、乳化剤の種類とその使用量に影響されることは出願時の技術常識であることや、キラヤサポニンやアラビアガムなどを乳化剤として用いた場合、高濃度の使用で発泡性や粘度が上昇することが容易に想定されることを主張しているが、当業者であれば、技術常識に鑑み、濃縮飲料中では安定性が悪い乳化粒子を使用しないことや高濃度の使用ができないことを理解する。
よって、申立理由1(3)及び(4)には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項7に係る発明の特許は削除されたため、異議申立人の請求項7に係る発明の特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
したがって、請求項7に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】濃縮飲料
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
濃縮飲料は、消費者自身が望む濃度となるように希釈した上で喫飲することを想定したものである。そのため、濃縮飲料は、市場に流通している各種容器詰め飲料と比べて、当該濃縮飲料全量に対する各種配合成分の濃度が高くなるよう調製されている。こうした事情に鑑みて、従来から、濃縮飲料に配合する各種成分については、喫飲時に希釈せずに飲用する各種容器詰め飲料と同程度の香味感を呈するよう種々の工夫されてきた。たとえば、従来の濃縮飲料では、各種配合成分の濃度を低下させることなく十分な香味感を付与すべく、たとえば、フレーバーなどの香味オイルを配合することが一般的であった。
【0003】
また、濃縮飲料は、希釈せずに飲用することを想定した各種容器詰め飲料と比べて、開封してから再度閉栓して保存する可能性が高いという事情を有している。そのため、従来の濃縮飲料では、保存時に上述した香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまうという不都合が生じてしまうことがあった。すなわち、従来の濃縮飲料は、保存安定性という観点において改善の余地を有していた。こうした事情に鑑みて、濃縮飲料の保存安定性については、従来から種々の検討がなされてきた。
【0004】
たとえば、特許文献1には、酸味料と、香味料と、水と、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、トリアセチン、酢酸エチル、ベンジルアルコール、イソプロパノール、1,3−プロパンジオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される両親媒性の非水性液体と、を含む濃縮飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014−522670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の濃縮飲料は、長期保存時に、依然として、微量のオイル成分が分離して液面に浮いてしまうという不都合が生じる場合があった。具体的には、本発明者は、従来の濃縮飲料において香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまった場合、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質が低下する可能性があることを知見した。
【0007】
以上を踏まえ、本発明は、保存安定性に優れた濃縮飲料、および濃縮飲料の品質改善方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、保存安定性に優れた濃縮飲料を提供すべく、鋭意検討した。その結果、乳化香料と、非水性液体とを併用し、かつ上記非水性液体の含有量と、その組成とが所定の条件を満たすように制御することがその設計指針として有効であることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明によれば、5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、5倍以上200倍以下に希釈して喫飲する濃縮飲料の品質改善方法であって、
前記濃縮飲料は、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、乳化香料と、を含み、
前記濃縮飲料全量に対する前記非水性溶媒の含有量が20vol%以下となるように調製し、かつ前記非水性溶媒が前記グリセロールを含むように調製し、かつ前記非水性溶媒が前記プロピレングリコールを含む場合、前記プロピレングリコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して0.6vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記エタノールを含む場合、前記エタノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記ベンジルアルコールを含む場合、前記ベンジルアルコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記イソプロパノールを含む場合、前記イソプロパノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製し、前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.05重量%以上4重量%以下となるように調製する、濃縮飲料の品質改善方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存安定性に優れた濃縮飲料、および濃縮飲料の品質改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することを想定したものである。かかる濃縮飲料は、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、乳化香料と、を含み、当該濃縮飲料全量に対する非水性溶媒の含有量が20vol%以下であるものである。こうすることで、保存時にオイル成分の浮きが発生することを抑制できる程度に保存安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。なお、上記非水性溶媒は、いずれも、両親媒性の溶媒である。
【0013】
特に、本発明の濃縮飲料においては、かかる飲料中に配合する非水性溶媒の種類に応じて、その含有量をも制御することが重要である。具体的には、非水性溶媒がプロピレングリコールを含む場合、プロピレングリコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して0.6vol%以下である。同様に、非水性溶媒がエタノール、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールのいずれか1種以上を含む場合、各成分の含有量は、当該濃縮飲料全量に対してそれぞれ1vol%以下である。こうすることで、非水性溶媒と、上記非水性溶媒とともに濃縮飲料中に配合している乳化香料との相乗効果を最大限に発揮することができる。また、当該濃縮飲料全量に対するプロピレングリコール、エタノール、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールの含有量の下限値は、いずれも、0vol%に近ければ近いほど好ましい。
【0014】
上記発明が解決しようとする課題の項で述べたとおり、特許文献1に記載の濃縮飲料は、長期保存時に、依然として、微量のオイル成分が分離して液面に浮いてしまうという不都合が生じる場合があった。具体的には、本発明者は、従来の濃縮飲料において香味オイル等に起因するオイル成分が液面に浮いてしまった揚合、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質が低下する可能性があることを知見した。
【0015】
そこで、本発明者は、上述した不都合が生じることのない保存安定性に優れた濃縮飲料を提供すべく、その設計指針について鋭意検討した。その結果、本発明者は、乳化香料と、非水性液体とを併用し、かつ上記非水性液体の含有量と、その組成とが所定の条件を満たすように制御することが設計指針として有効であることを見出した。ここで、上記乳化香料とは、食品に香気を付与増強する食品香料であるフレーバーを水に乳化させ微粒子状態にしたものを指す。
【0016】
具体的には、本発明に係る濃縮飲料は、非水性溶媒と、乳化香料と、を含むものであり、かつ当該濃縮飲料全量に対する非水性溶媒の合計含有量が20vol%以下となるように制御されたものである。こうすることで、上述した乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させることが可能となる。それ故、本発明によれば、保存時にオイル成分が浮いてしまうことを抑制した保存安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。なお、本発明に係る濃縮飲料において、原材料として使用する水の形態は特に限定されない。上記原材料として使用する水の形態の具体例としては、市水、井水、蒸留水、ミネラルウォーター、イオン交換水、脱気水等が挙げられる。また、本発明によれば、上述したように、保存時にオイル成分が浮いてしまうことを抑制できるため、結果として、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現可能である。
【0017】
ここで、本発明に係る濃縮飲料において、非水性溶媒の合計含有量は、上述した通り、当該濃縮飲料全量に対して20vol%以下であるが、乳化香料による乳化・分散作用を最大限に発現させる観点から、好ましくは、17vol%以下であり、さらに好ましくは、13vol%以下である。なお、下限値は、3vol%以上であれば十分に乳化・分散作用を発現させることができる。
【0018】
また、本発明に係る濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することを想定したものであるが、その濃縮率は、好ましくは、5倍以上100倍以下であり、さらに好ましくは、5倍以上50倍以下である。つまり、本発明に係る濃縮飲料は、5倍以上200倍以下に希釈してから喫飲することが好ましく、5倍以上50倍以下に希釈してから喫飲するとさらに好ましい。こうすることで、呈味の嗜好性にバラつきのない濃縮飲料を実現することが可能である。
【0019】
また、本発明に係る濃縮飲料において乳化香料の含有量は、当該濃縮飲料の保存安定性をより一層向上させる観点から、当該濃縮飲料全量に対して、好ましくは、0.05重量%以上4重量%以下であり、さらに好ましくは、0.1重量%以上2重量%以下である。
【0020】
本発明における乳化香料は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含むことが好ましい。ここで、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、植物油由来のグリセリンを脱水縮合したポリグリセリンと植物油由来の脂肪酸をエステル結合させた乳化剤である。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値の幅が広いため濃縮飲料の配合成分の種類に関係なく使用可能である点において汎用性に優れた乳化剤である。キラヤサポニンは、界面活性および均質性という観点において優れた植物由来の乳化剤である。アラビアガムは、水に対する溶解性に優れ、かつ良好な乳化安定性を示す乳化剤である。
【0021】
ここで、本発明に係る濃縮飲料において、乳化香料中に含まれる乳化剤は乳化粒子(エマルション)の形態をとっている。本発明に係る濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50は、好ましくは、10nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは、10nm以上150nm以下である。こうすることで、乳化粒子の分散安定性に優れ、かつ長期間保存した際においてもオイル浮きや沈殿といった不都合が生じにくい品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0022】
本発明に係る濃縮飲料には、当該濃縮飲料に甘味を付与する甘味成分として、天然甘味料または合成甘味料を含んでいてもよい。こうすることで、嗜好性に優れた濃縮飲料とすることができる。上述した天然甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、D−ソルビトール等の低甘味度甘味料、タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物等の高甘味度甘味料などが挙げられる。他方、上述した合成甘味料としては、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、サッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料が挙げられる。これらの甘味料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合してもよい。中でも、濃縮飲料に甘味を付与する成分として、高甘味度甘味料を含有させることが好ましい。こうすることで、当該濃縮飲料中に配合される甘味成分を除く他成分の濃度を大幅に変動させることなく、十分な甘味を付与することができる。そのため、保存安定性能を損なうことなく、嗜好性に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0023】
また、上述した高甘味度甘味料の含有量は、本発明に係る濃縮飲料全量に対して、好ましくは、0.001重量%以上1重量%以下であり、さらに好ましくは、0.005重量%以上0.6重量%以下である。こうすることで、保存安定性能を損なうことなく、より一層嗜好性に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0024】
本発明に係る濃縮飲料には、たとえば、無水クエン酸、クエン酸、クエン酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、又はそれらの塩類等の酸味料を含有させてもよい。こうすることで、保存安定性能を損なうことなく、呈味性という観点において優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0025】
本発明に係る濃縮飲料のpHは、当該濃縮飲料の配合成分同士が化学に相互作用して生じた生成物が沈殿してしまうことを抑制する観点から、好ましくは、2以上6以下であり、さらに好ましくは、2.4以上5以下であり、最も好ましくは、3以上4以下である。
【0026】
本発明に係る濃縮飲料は、果汁を含んでいてもよい。ここで、果汁とは、果実を粉砕して搾汁、裏ごし等をし、皮、種子等を除去したものだけでなく、果実を粉砕しただけのピューレ状の果肉も含む。また、果実の種類としては、特に限定されるものではないが、たとえば、マスカットや巨峰等のぶどう類、みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、シークワーサー、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー、デコポン、ポンカン、イヨカン、バンペイユ等の柑橘類、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、アサイー、キウイフルーツ、ブドウ、マスカット、モモ、リンゴ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、プルーン、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、メロン、スイカ、サクランボ、西洋ナシ、スモモ等が挙げられる。これらの果実は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
また、本発明に係る濃縮飲料に含有させる果汁としては、上記果物由来の果汁に限定されず、以下に挙げる野菜由来の野菜汁を含有させてもよい。野菜の種類としては、スィートコーン、エダマメ、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ラディッシュ、カブ、サツマイモ、ジャガイモ、ナガイモ、ヤマイモ、サトイモ、ジネンジョ、ヤマトイモ、ピーマン、パプリカ、シシトウ、キュウリ、セロリ、ケール、ネギ、キャベツ、ハクサイ、シュンギク、サラダナ、サンチュ、オオバ、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、ミブナ、アスパラガス、クウシンサイ、レタス、タイム、セージ、パセリ、イタリアンパセリ、ローズマリー、オレガノ、レモンバーム、チャイブ、ラベンダー、サラダバーネット、ラムズイヤー、ロケット、ダンディライオン、ナスタチューム、バジル、ルッコラ、クレソン、モロヘイヤ、フキ、ナバナ、チンゲンサイ、ミツバ、セリ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ミョウガ、ナス、トマト、ミニトマト、カボチャ、ゴーヤ、オクラ、サヤエンドウ、サヤインゲン、ソラマメ等が挙げられる。また、野菜由来の果汁についても、果物と同様に、1種を単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。さらに、野菜由来の果汁と果物由来の果汁を混合して使用してもよい。
【0028】
本発明に係る濃縮飲料は、ミネラル成分を含んでいてもよい。具体的には、上記ミネラル成分は、カルシウム、鉄、ナトリウム、マグネシウムおよびカリウム等が挙げられる。こうすることで、かかる濃縮飲料を、スポーツ飲料および熱中症対策飲料等の機能性飲料として提供することが可能となる。ここで、上記ミネラル成分の含有量は、本発明に係る濃縮飲料100mLあたり、5mg以上80mg以下とすることが好ましく、さらに好ましくは、10mg以上70mg以下とするとさらに好ましい。こうすることで、本発明に係る濃縮飲料を喫飲した際に、消費者が、水分、電解質分およびミネラル分等の栄養成分を体内に補給しやすい配合組成とすることができる。
【0029】
本発明に係る濃縮飲料は、アミノ酸を含んでいてもよい。かかるアミノ酸としては、アルギニン、リジン、オルニチン、ヒスチジンおよびトリプトファン等の塩基性アミノ酸が好ましい。かかる塩基性アミノ酸は、アンチエイジング、生活習慣病の予防、疲労回復、成長ホルモンの分泌等の体内機能改善に役立つ成分として知られている。そのため、上記塩基性アミノ酸を本発明に係る濃縮飲料中に含有させた揚合、かかる濃縮飲料は、体内機能改善効果を有するものとすることができる。なお、本発明に係る塩基性アミノ酸とは、分子構造中に官能基としてカルボキシル基と、2以上のアミノ基を有する有機化合物のことを指す。そして、本実施形態に係る塩基性アミノ酸は、α−アミノ酸であってもよく、β−アミノ酸であってもよいし、γ−アミノ酸であってもよい。
【0030】
本発明に係る濃縮飲料にアミノ酸を含有させる場合、上記アミノ酸の含有量は、好ましくは、1.0g/L以上4.0g/L以下であり、さらに好ましくは、1.5g/L以上3.0g/L以下である。こうすることで、保存安定性能を損なうことなく、体内機能改善効果に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0031】
また、本発明に係る濃縮飲料は、カフェイン、高麗人参エキス、ガラナ・マカエキス、ローヤルゼリー粉末等の天然活力素材を含んでいてもよい。こうすることで、本発明に係る濃縮飲料をエナジードリンクの形態として市場に流通させることが可能となる。
【0032】
本発明に係る濃縮飲料に上述した天然活力素材を含有させる場合、上記天然活力素材の含有量は、好ましくは、1.0g/L以上4.0g/L以下であり、さらに好ましくは、1.5g/L以上3.0g/L以下である。こうすることで、保存安定性能を損なうことなく、体内への栄養補給効果に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0033】
なお、本発明に係る濃縮飲料には、以上に説明した成分の他にも、本発明の目的を損なわない範囲で各種栄養成分、抽出物、香料、着色剤、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を添加することもできる。
【0034】
本発明における濃縮飲料を封入する容器は、飲料業界で公知の密封容器であれば、適宜選択して用いることができる。その具体例としては、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)、等)、アルミ、スチール等の単体もしくは複合材料又は積層材料からなる密封容器が挙げられる。また、容器形状は、特に限定されるものではないが、たとえば、缶容器、ボトル容器等が挙げられる。
【0035】
<炭酸飲料の品質改善方法>
5倍以上200倍以下に希釈して喫飲する濃縮飲料について、保存時にオイル成分が浮いてしまうという不都合が生じ、結果として、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質が低下することのないものを実現するためには、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、乳化香料と、を含み、かつ濃縮飲料全量に対する上記非水性溶媒の含有量が20vol%以下となるように調製することが重要である。ただし、上記非水性溶媒がプロピレングリコールを含む場合、かかるプロピレングリコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して0.6vol%以下となるよう調製する必要が有り、上記非水性溶媒がエタノールを含む場合、エタノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製する必要が有り、上記非水性溶媒がベンジルアルコールを含む場合、ベンジルアルコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製する必要が有り、上記非水性溶媒がイソプロパノールを含む場合、イソプロパノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製する必要が有る。こうすることで、従来の濃縮飲料と比べて、味および香りのバランスや、見栄えという観点において品質の経時安定性に優れた濃縮飲料を実現することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を探用することもできる。
以下、本発明の参考形態の一例を示す。
<1>
5倍以上200倍以下に希釈して喫飲する濃縮飲料であって、
当該濃縮飲料は、
プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、
乳化香料と、
を含み、
当該濃縮飲料全量に対する前記非水性溶媒の含有量が20vol%以下であり、
前記非水性溶媒が前記プロピレングリコールを含む場合、前記プロピレングリコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して0.6vol%以下であり、
前記非水性溶媒が前記エタノールを含む場合、前記エタノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下であり、
前記非水性溶媒が前記ベンジルアルコールを含む場合、前記ベンジルアルコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下であり、
前記非水性溶媒が前記イソプロパノールを含む場合、前記イソプロパノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下である、濃縮飲料。
<2>
前記乳化香料が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含む、<1>に記載の濃縮飲料。
<3>
当該濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50が、10nm以上200nm以下である、<1>または<2>に記載の濃縮飲料。
<4>
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.05重量%以上4重量%以下である、<1>乃至<3>のいずれか一つに記載の濃縮飲料。
<5>
高甘味度甘味料をさらに含む、<1>乃至<4>のいずれか一つに記載の濃縮飲料。
<6>
前記高甘味度甘味料の含有量が、当該濃縮飲料全量に対して0.001重量%以上1重量%以下である、<5>に記載の濃縮飲料。
<7>
クエン酸をさらに含む、<1>乃至<6>のいずれか一つに記載の濃縮飲料。
<8>
5倍以上200倍以下に希釈して喫飲する濃縮飲料の品質改善方法であって、
前記濃縮飲料は、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、グリセリン酢酸エステル、酢酸エチル、ベンジルアルコールおよびイソプロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を含む非水性溶媒と、乳化香料と、を含み、
前記濃縮飲料全量に対する前記非水性溶媒の含有量が20vol%以下となるように調製し、かつ前記非水性溶媒が前記プロピレングリコールを含む場合、前記プロピレングリコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して0.6vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記エタノールを含む場合、前記エタノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記ベンジルアルコールを含む場合、前記ベンジルアルコールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製し、前記非水性溶媒が前記イソプロパノールを含む場合、前記イソプロパノールの含有量は、当該濃縮飲料全量に対して1vol%以下となるよう調製する、濃縮飲料の品質改善方法。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1〜4および比較例1〜4>
まず、実施例及び比較例の濃縮飲料を作製するための配合原料である、クエン酸、クエン酸三カリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、香料(ジボダン社製)および乳化香料(ジボダン社製)を、それぞれ純水に溶解させた。なお、香料(ジボダン社製)は、蒸留酒抽出物、オレンジ分画物およびオレンジ精油を全量に対して9vol%、エタノールを84.2vol%および水を6.8vol%含むエタノール基材のエッセンス香料である。また、乳化香料(ジボダン社製)は、当該乳化香料全量に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを6vol%、オレンジフレーバー(蒸留酒抽出物、オレンジ分画物およびオレンジ精油)を6vol%、非水性溶媒としてグリセロールを79vol%含み、かつ、乳化粒子の平均粒子径d50が120nmであるものである。また、乳化香料中には、上記成分の他に、食品素材、トコフェノール等の成分が含まれている。
【0039】
次に、準備した配合原料を用い、下記表1に示す配合比率となるように混合して実施例1および比較例1の濃縮飲料を作製した。なお、実施例2〜4および比較例2〜4の濃縮飲料については、かかる実施例1および比較例1の濃縮飲料を純水で希釈して作製した。
【0040】
得られた各濃縮飲料について、以下に示す官能評価を行った。なお、評価に用いた濃縮飲料は、製造直後に20℃で48時間以上静置保管したものを使用した。
【0041】
(評価項目)
・官能評価試験1(オイル浮き):実施例1〜4および比較例1〜4の濃縮飲料を、熟練したパネラーが目視にて観察した。パネラーは、各濃縮飲料について、以下の評価基準に従って3段階評価を実施した。
○:オイル浮き無し。
△:飲料の表面がギラついている。
×:飲料の表面に油滴が浮いている。
【0042】
・官能評価試験2(沈殿):実施例1〜4および比較例1〜4の濃縮飲料を、熟練したパネラーが目視にて観察した。パネラーは、各濃縮飲料について、以下の評価基準に従って2段階評価を実施した。
○:沈殿なし。
×:飲料中に沈殿が生じている。
【0043】
上記評価項目に関する官能評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率と共に示す。なお、下記表1における「n.d.」という表記は、検出されなかったことを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1に示すように、実施例の濃縮飲料は、いずれも、保存安定性に優れた飲料であった。また、実施例の濃縮飲料は、いずれも、喫飲時の味および香りのバランスや、見栄えという観点において良好な品質を実現したものであった。一方、比較例の飲料は、いずれも、オイル浮きが生じ、保存安定性という観点において要求水準を満たすものではなかった。また、比較例の飲料は、少なくとも見栄え(品質)という観点において要求水準を満たすものではなかった。
【0046】
また、実施例の濃縮飲料は、いずれも、濃縮率が異なるものではあるが、喫飲時の味および香りのバランスという観点において呈味の嗜好性にバラつきの無いものであった。一方、比較例の濃縮飲料は、呈味の嗜好性(味および香りのバランス)にバラつきが生じ、結果として、品質という観点において要求水準を満たすものではなかった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5倍以上200倍以下に希釈されて喫飲される濃縮飲料であって、
前記濃縮飲料は乳化香料を含み、
当該乳化香料は、非水性溶媒としてグリセロールを含み、
前記乳化香料の含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.1重量%以上1重量%以下であり、
前記グリセロールの含有量が当該濃縮飲料全量に対して0.079〜0.79vol%である、オイル浮きおよび沈殿発生が抑制された濃縮飲料(ただし、アルコール飲料とするための濃縮飲料を除く)。
【請求項2】
前記乳化香料が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンおよびアラビアガムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を合む、請求項1に記載の濃縮飲料。
【請求項3】
当該濃縮飲料中に含まれている乳化粒子の平均粒子径d50が、10nm以上200nm以下である、請求項1または2に記載の濃縮飲料。
【請求項4】
高甘味度甘味料をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の濃縮飲料。
【請求項5】
前記高甘味度甘味料の含有量が、当該濃縮飲料全量に対して0.001重量%以上1重量%以下である、請求項4に記載の濃縮飲料。
【請求項6】
クエン酸をさらに含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の濃縮飲料。
【請求項7】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-24 
出願番号 P2015-137025
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
登録日 2020-04-10 
登録番号 6689580
権利者 アサヒ飲料株式会社
発明の名称 濃縮飲料  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

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