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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1383654
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-16 
確定日 2022-04-14 
事件の表示 特願2018− 28554「発光ダイオード表示装置の点像補正方法及びそのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日出願公開、特開2018− 88002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月3日に出願した特願2016−111827号(パリ条約による優先権主張 2015年7月3日、台湾)の一部を、特許法44条1項の規定に基づき平成30年2月21日に新たな特許出願とした、いわゆる分割出願であって(パリ条約による優先権主張 2015年7月3日、台湾)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

平成30年 2月21日 :上申書の提出
平成30年12月27日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月 5日 :手続補正書、意見書の提出
令和 元年 8月28日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年11月29日 :手続補正書、意見書の提出
令和 2年 4月 6日付け:拒絶理由通知書
同年 7月 8日 :手続補正書、意見書の提出
同年 8月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月26日:原査定の謄本の送達)
同年12月16日 :審判請求書の提出


第2 本件発明
1 請求項1の記載
審理の対象となっている、令和2年7月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7のうち、請求項1の記載は、次のとおりである。下線は当審が付した。

「【請求項1】
アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法において、
前記発光ダイオード表示装置は、前記複数の発光ダイオードユニットに電気的に接続され、複数の発光ダイオードユニットに駆動電流を提供する駆動回路を含み、
前記点像補正方法は、
スキャンにより、点順次に前記発光ダイオード表示装置の列(column)又は行(row)毎における発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、前記列又は行毎における複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程と、
スキャンの方式により、前記発光ダイオード表示装置の列又は行毎と対応する前記複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度を得て、得た不均一輝度を列又は行毎の不均一輝度情報に記憶して、前記不均一輝度情報を前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニットに記憶する工程と、
前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ、前記不均一輝度情報に従い、スキャンで、点順次に列又は行毎に対して列又は行毎におけるそれぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する場合、前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整することにより、前記複数の発光ダイオードユニットの発光輝度が同じであるようにする工程と、
を含むことを特徴とする発光ダイオード表示装置の点像補正方法。」

2 請求項1に係る発明の認定
(1) 請求項1における不明瞭な記載
上記請求項1の下線部を含む段落の記載を参照すると、「得た不均一輝度を列又は行毎の不均一輝度情報に記憶して」、「前記不均一輝度情報を前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニットに記憶する」と記載されており、「記憶」が重複しており、一見して誤りがあることが明らかな、不明確な記載となっている。そして、そもそも「得た不均一輝度を列又は行毎の不均一輝度情報に記憶して」の記載自体も不明瞭である。

(2) 明細書の記載を参酌しての本件発明の認定
ア 明細書の関連する記載
前記(1)において指摘したとおり、請求項1には不明瞭な記載があるので、当該記載に関連する本願明細書の記載を参照すると、次の記載がある。下線は当審による。
「【0017】
換言すれば、駆動回路13により図3の工程S110を実現することができ、図3の工程S120は輝度検出装置2により、アレイで配列される発光ダイオードユニット11における各発光ダイオードユニットの発光輝度を検出するとともに、検出された輝度信号を輝度情報生成装置3に送信して不均一輝度情報NHを生成する。」
「【0018】
同時に図3、図4及び図5を参照されたい。図5は図3の工程S120の詳細フロー図である。工程S121において、各発光ダイオードユニットにより生成された第1の輝度と目標輝度(又は所定輝度)とを比較して、第1の輝度と目標輝度との差異を得る。この工程S121は輝度情報生成装置3により実現することができ、輝度情報生成装置3は、例えば、コンピュータ又は他のコンピューティングプラットフォームであってもよいが、本発明はこれにより限定されるものではない。詳しくは、各列(又は各行)の発光ダイオードユニットが発光するように駆動される場合、輝度検出装置2は、この列(又はこの行)の各発光ダイオードユニットにより生成された光の輝度(第1の輝度)をそれぞれ検出し、前記同一の列(又は同一の行)の各発光ダイオードユニットに対応する第1の輝度は一つの所定の目標輝度と比較でき、このようにしてこの列(又はこの行)の各発光ダイオードユニットの第1の輝度と目標輝度との差異が得られる。プロセスの要因から、各発光ダイオードは同じ駆動電流により異なる輝度を生成する可能性があるので、発光ダイオード表示装置1について、少なくとも一つの(又は複数の)発光ダイオードユニットの輝度と他の発光ダイオードユニットの輝度とは異なることが見られるはずである。その後、駆動回路13は同じ方法で、さらに別の列(又は別の行)の発光ダイオードユニットを駆動することにより、各列(又は各行)の各発光ダイオードユニットの第1の輝度と目標輝度との差異を得る。
【0019】
次に、工程S122において、第1の輝度と目標輝度との差異に従い、前記発光ダイオードユニットに対応する不均一輝度情報NHを得る。前記不均一輝度情報NHは、各発光ダイオードユニットの第1の輝度と目標輝度との差異を含む。」
【0020】
その後、工程S123において、不均一輝度情報NHを発光ダイオード表示装置に記憶する。例えば、発光ダイオード表示装置1の記憶ユニット12に記憶する。」

イ 明細書の記載を参酌しての請求項1に係る発明認定
前記アに摘記した明細書の関連箇所を参酌すると、記憶されるものは「不均一輝度情報」であり、「不均一輝度情報」は、発光ダイオードユニットごとに異なる「検出された輝度信号」から「生成される」ことが理解できる。
このことも踏まえると、請求項1における「得た不均一輝度を列又は行毎の不均一輝度情報に記憶して」は「得た不均一輝度から列又は行毎の不均一輝度情報を生成して」の意味であることが理解できる。
そこで、当審は、請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)は、明細書の記載を参酌することにより請求項1の記載を正した次の事項により特定されるとおりのものであると認める。なお、修正箇所に下線を付した。

<明細書の記載を参酌することにより修正した請求項1の記載>
「【請求項1】
アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法において、
前記発光ダイオード表示装置は、前記複数の発光ダイオードユニットに電気的に接続され、複数の発光ダイオードユニットに駆動電流を提供する駆動回路を含み、
前記点像補正方法は、
スキャンにより、点順次に前記発光ダイオード表示装置の列(column)又は行(row)毎における発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、前記列又は行毎における複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程と、
スキャンの方式により、前記発光ダイオード表示装置の列又は行毎と対応する前記複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度を得て、得た不均一輝度から列又は行毎の不均一輝度情報を生成して、前記不均一輝度情報を前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニットに記憶する工程と、
前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ、前記不均一輝度情報に従い、スキャンで、点順次に列又は行毎に対して列又は行毎におけるそれぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する場合、前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整することにより、前記複数の発光ダイオードユニットの発光輝度が同じであるようにする工程と、
を含むことを特徴とする発光ダイオード表示装置の点像補正方法。」


第3 原査定における拒絶の理由の概要
本件発明に対する原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4に記載された発明及び引用文献5又は6に記載された周知の技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献4 特開平11−085104号公報
・引用文献5 国際公開第2011/030669号
・引用文献6 特開平02−231164号公報


第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献4に記載された発明の認定
(1) 引用文献4の記載事項
本願の優先日前に発行された引用文献4(特開平11−085104号公報には、以下の記載がある。下線は、当審が付したものであり、後述の引用発明の認定に直接用いるところに付してある。また、段落【0028】における「○1」等は、○の中に1などの数字が記載されているものを示す。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 大画面LED表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれるLEDのすべてを1個ずつ等信号レベルで順次点灯するとともに、前記ブロックの1つを同時に視野内に入れることのできる望遠鏡または望遠レンズを具えたCCDカメラにより前記順次点灯されたLEDを撮影し、得られた画像信号の輝度レベルに基づいて前記順次点灯されたLEDの輝度補正係数を計算して、該計算結果を補正係数メモリに書き込み、全てのブロックの各LEDの輝度補正係数の書き込みが終了した後、前記LED表示装置が画像表示を行うに際して、前記補正係数メモリから前記補正係数を各LEDごとに読み出し、そしてそれら読み出した補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するステップを含んでいることを特徴とする大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。
【請求項2】 請求項1記載の方法において、前記順次点灯されたLEDの撮影は、点灯されたLEDが含まれる前記ブロックが前記CCDカメラの撮影出力の画枠内に入いるように前記CCDカメラを固定して撮影し、当該ブロック内のLEDの撮影が終了したとき、他のブロックの撮影に移るよう前記CCDカメラの向きを変えるようにしたことを特徴とする大画面LED表示装置の固
定パターンノイズ除去方法。
【請求項3】 請求項2記載の方法において、前記CCDカメラの向きを変えるために、赤道儀を使用したことを特徴とする大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。
【請求項4】 請求項1記載の方法において、前記順次点灯されたLEDの輝度補正係数Kxの計算は、
【数1】

に基づいて行われることを特徴とする大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。
【請求項5】 請求項1記載の方法において、前記掛算された結果の出力信号レベルを電流量に変換するために、前記出力信号レベルに対応して電流量が振幅変調され、該振幅変調された電流レベルを所定期間維持するよう構成されていることを特徴とする大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。
【請求項6】 請求項4記載の方法において、前記所定期間は、前記LED表示装置がハイビジョンをライン単位で表示するとき、29.6μ秒であることを特徴とする大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。」

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ハイビジョン画像等を発光ダイオード(LED)を用いた大画面の画像表示装置に表示するに際して、個々のLEDの輝度差から生ずる画面の輝度むらを除去する大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】LEDを発光画素として使用する画像表示装置においては、個々のLEDの輝度差がそのまま表示画面の輝度むらとなり、これは、経時劣化を除き時間とともに変化しないことから固定パターンノイズと呼ばれている。固定パターンノイズは、多数の画素をマトリックス配置した画像表示装置等においては常に問題となり、何らかの解決策が施されている。
【0003】現在、広告等の目的で戸外に配置されてカラー画像を表示する大画面の画像表示装置は、発光素子として電球やガス入り電球が使用されているものが多い。しかし、ハイビジョンのような高精細な画像を表示する場合には、小型の発光素子を高密度に配置することが必要であるが、これに最も適した発光素子としてLEDが有望である。
【0004】LEDを用いた大画面表示装置の、上記電球等を用いた大画面表示装置と大きく異なる点は、発光素子自体の大きさ、素子配置の密度(従って、使用素子数)、および個々の発光素子の発光輝度にある。
【0005】本発明の目的は、発光素子自体は小型で、高密度に膨大な数の発光素子が配置される大画面のLED画像表示装置に関し、その固定パターンノイズを除去するのに最も適するように構成した大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、大画面LED表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれるLEDのすべてを1個ずつ等信号レベルで順次点灯するとともに、前記ブロックの1つを同時に視野内に入れることのできる望遠鏡または望遠レンズを具えたCCDカメラにより前記順次点灯されたLEDを撮影し、得られた画像信号の輝度レベルに基づいて前記順次点灯されたLEDの輝度補正係数を計算して、該計算結果を補正係数メモリに書き込み、全てのブロックの各LEDの輝度補正係数の書き込みが終了した後、前記LED表示装置が画像表示を行うに際して、前記補正係数メモリから前記補正係数を各LEDごとに読み出し、そしてそれら読み出した補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するステップを含んでいることを特徴とするものである。
【0007】また、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、前記順次点灯されたLEDの撮影が、点灯されたLEDが含まれる前記ブロックが前記CCDカメラの撮影出力の画枠内に入いるように前記CCDカメラを固定して撮影し、当該ブロック内のLEDの撮影が終了したとき、他のブロックの撮影に移るよう前記CCDカメラの向きを変えるようにしたことを特徴とするものである。
【0008】また、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、前記CCDカメラの向きを変えるために、赤道儀を使用したことを特徴とするものである。
【0009】また、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、前記順次点灯されたLEDの輝度補正係数Kxの計算が、
【数2】

に基づいて行われることを特徴とするものである。
【0010】また、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、前記掛算された結果の出力信号レベルを電流量に変換するために、前記出力信号レベルに対応して電流量が振幅変調され、該振幅変調された電流レベルを所定期間維持するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0011】また、本発明大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法は、前記所定期間が、前記LED表示装置がハイビジョンをライン単位で表示するとき、29.6μ秒であることを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下に添付図面を参照し、発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明による大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法を概念的に示している。図1において、1は大画面LED表示装置の画像表示面、2は、この画像表示面1を遠方から撮影する望遠鏡または望遠レンズを具えたCCDカメラ(これは、超望遠レンズ付CCDカメラでもよい)、3は、CCDカメラ2が撮影した画像信号に基づいて、個々のLEDの輝度補正係数を計算して、その結果(補正係数)を書き込むメモリを具えた計算記憶系、そして4は、計算記憶系3のメモリから補正係数を各LEDごとに読み出し、必要に応じガンマ補正されて個々のLEDを輝度変調する画像信号と掛け算し、掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するように構成した画像表示面1の駆動回路である。
【0013】いま、本発明による固定パターンノイズ除去方法で、対象としている大画面LED表示装置の画像表示面1の規模は、例えば、各LEDをハイビジョン信号で駆動するものとすると、LEDは、1,920×1,080=2,073,600個必要となる。これらLEDを縦横1cm間隔で配置するものとすると、図2に示すように、19.2m×10.8m、また、5mm間隔としても9.6m×5.4mと巨大な画像表示面となる。
【0014】次に、この図2を参照して個々のLEDの発光輝度の輝度レベル測定について説明する。もともと、LEDの発光輝度は極めて高いため、外光遮断は厳密に行う必要はなく、曇天や新月の夜、外灯の明かりなどに注意して測定すればよい。測定位置は、画像表示面の中点から表示面1の高さ(10.8m)の5倍前方(すなわち、54m)としたが、このような距離に厳密な意味はなく、標準的な鑑賞位置としてよい。
【0015】各LEDの輝度レベル測定は、具体的には、LEDを1個づつ等信号レベルで順次点灯し、望遠鏡(例えば、天体望遠鏡)に取り付けたCCDカメラ2でその発光輝度を測定する。いま、天体望遠鏡の視野角を2度(画像表示面上で1,000mm程度)とすると、表示面の横方向の視野角は20度であるため10回の測定角の移動で、また、縦方向の視野角は11.42度であるため6回の測定角の移動で全表示面をカバーすることができる。すなわち、測定のための測定角の移動は合計60回となる。この測定角の移動には、例えば、天体観測用の赤道儀を使用することができる。
【0016】点灯されて撮影された映像(LEDを被写体とする映像)は、A/D変換され、例えば、信号の最大値より3dB低下するまでの画素平均値を信号出力として測定する。また、相隣るLED間の視野角は0.01度となるため、天体望遠鏡の視野角2度、すなわち、一測定ブロックの中には200×200=40,000画素、カラー画像として表示するためには、各画素が赤(R)、緑(G)および青(B)の3個のLEDによって構成されるため120,000個のLEDが含まれることになる。
【0017】全表示面のLEDの輝度レベル測定に要する時間(全測定時間)は、
全測定時間=〔{(LED発光時間+計算処理時間+データ格納時間)
×1ブロックのLED数}+{ブロック移動時間}〕×ブロック数
この式中の各要素時間は以下の通りである。
・LED発光時間: 1フィールド(16m秒のうち1水平走査期間29.6μ秒)
・計算処理時間 :同フィールド内処理
・データ格納時間 :同フィールド内処理
・ブロック移動時間:2秒
従って、全測定時間=(16÷1,000×120,000+2)×60=115,320秒(≒32時間)となる。
【0018】32時間では、暗い夜間に測定を完了させることは不可能である。どうしても6時間以内で完了させたい場合には、1日に一つの色(例えば、赤(R)など)のみを測定することにすると約11時間となるが、これでも一夜の測定にはならない。従って、一つの色の測定を二系統で行い、一夜につき5.5時間で完了させ、三夜で全ての測定を終了させることが考えられる。
【0019】次に、計算記憶系3(図1参照)で行われる補正係数を求める1方法を次に示す。最大の輝度を示すLEDの輝度をLmax、最小の輝度を示すLEDの輝度をLminとした場合、輝度Lxを示すLEDの補正係数Kxは次式で求めることができる。
【数3】

【0020】計算記憶系3から読み出された個々のLEDの補正係数Kxは駆動系4に送られ、そこで個々のLEDを輝度変調するための画像信号と掛け算され、その掛け算結果に応じたレベルの電流に変換する。
【0021】このように、本発明による方法では、信号の強さに依存した電流駆動方式を採用している。個々のLEDの点灯は、ハイビジョン映像の表示を行う場合、その水平走査期間は29.6μ秒で、デューティサイクルは30Hzである。駆動回路4(図1参照)の一実施形態を図3に示している。
【0022】図3において、5−R,5−Gおよび5−Bは、図1に示す計算記憶系3(図1参照)に含まれる補正係数メモリを示し、それらは合計で、8ビット並列の1,920×1,080×3ビット、すなわち、ほぼ6Mバイトの容量を有し、上述の補正係数Kxを記憶している。
【0023】一方、大画面LED表示装置の画像表示面1を駆動するために入力される赤(R)、緑(G)および青(B)信号(図3の最左端に示す)は、それぞれガンマ補正回路6−R,6−Gおよび6−Bでガンマ補正され(このガンマ補正は、時により省略され得る)、次いで掛け算回路7−R,7−Gおよび7−Bにて、それぞれ対応する色の補正係数と掛け算される。
【0024】これにより補正を受けたR,GおよびBの各色信号は、それぞれ8ビット並列の1,920段シフトレジスタ8−R,8−Gおよび8−Bにハイビジョンのクロックレート(74.25MHz)で書き込まれる。これらシフトレジスタに1水平走査期間分の信号が書き込まれた時点で、書き込み内容を表示バッファ9に転送する。
【0025】表示バッファ9からの出力データは、1,920×3ビットのD−A変換器10に送られアナログの電圧レベルに変換される。この電圧レベルは、さらに電流変換器11において、電圧レベルに対応して振幅変調された電流量に変換され、これが個々のLED1(1走査線あたり、1,920×3個)の縦方向に1水平走査期間の間同一レベルを保って供給される。LEDの陰極側は、垂直走査回路(図示しない)からの垂直走査信号により走査して水平ライン毎に接地に接続され、該当する走査線上のLED1を活性にする。これにより、任意の画素点のLEDの発光輝度は、それに対応する画素点の画像信号のレベルを正しく再現することになる。
【0026】本発明の上記実施形態においては、LED表示装置の画像表示面を駆動するのに、D−A変換器出力のアナログ電圧レベルを、そのレベルに応じた電流に変換(電流量の振幅変調)して1水平走査期間供給するようにした。これは、考えられる他の方法、例えば、上記アナログ電圧レベルに応じて、電流の振幅を一定にしてLEDの点灯時間を変化させる(点灯時間の時間幅変調)場合に比して、LED駆動回路の応答周波数を低くすることができ、ひいてはLED表示装置の価格を廉価にすることができるからである。
【0027】ハイビジョン表示の場合、1水平走査期間Thは29.6μ秒であり、時間幅変調の場合、これの256分の1の時間幅に相当する輝度も正しく再現するためには、回路の応答周波数を8.64MHzにする必要があるが、振幅変調方式の上記実施形態の場合には33.75kHzでよい。図4に、振幅変調方式と時間幅変調方式の両方式の駆動電流波形を、それぞれ波形(a),(b)として示している。
【0028】
【発明の効果】本発明方法による固定パターンノイズ除去方法によれば、次のような顕著な効果が得られる。
○1 個々のLEDの個体差を補正するので、それぞれの特性を厳密に合わせる必要がなく、従って、装置が廉価になる。
○2 上述した電流量の振幅変調を行うLED駆動回路を採用すれば、駆動回路に要求される周波数応答が低いため、廉価な回路素子が使用でき、時間要素に基づく誤差が少ない。
○3 経年変化によるLEDの輝度むらも容易に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による固定パターンノイズ除去方法を概念的に示している。
【図2】大画面LED表示装置の画像表示面の規模と個々のLEDの発光輝度の輝度レベル測定を説明する図である。
【図3】図1中の画像表示面、計算記憶系の一部、および駆動回路の詳細を示している。
【図4】振幅変調方式と時間幅変調方式の両方式の駆動電流波形を、それぞれ(a)および(b)に示している。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



「【図4】




(2) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献4の記載を総合すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「 ハイビジョン画像等を発光ダイオード(LED)を用いた大画面の画像表示装置に表示するに際して、個々のLEDの輝度差から生ずる画面の輝度むらを除去する大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法であって、(【0001】)
大画面LED表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれるLEDのすべてを1個ずつ等信号レベルで順次点灯するとともに、前記ブロックの1つを同時に視野内に入れることのできる望遠鏡または望遠レンズを具えたCCDカメラにより前記順次点灯されたLEDを撮影し、得られた画像信号の輝度レベルに基づいて前記順次点灯されたLEDの輝度補正係数を計算して、該計算結果を補正係数メモリに書き込み、全てのブロックの各LEDの輝度補正係数の書き込みが終了した後、前記LED表示装置が画像表示を行うに際して、前記補正係数メモリから前記補正係数を各LEDごとに読み出し、そしてそれら読み出した補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するステップを含んでおり、(【請求項1】)
前記掛算された結果の出力信号レベルを電流量に変換するために、前記出力信号レベルに対応して電流量が振幅変調され、該振幅変調された電流レベルを所定期間維持するよう構成されており、(【請求項5】)
望遠鏡または望遠レンズを具えたCCDカメラ2は、大画面LED表示装置の画像表示面1を遠方から撮影し、計算記憶系3は、CCDカメラ2が撮影した画像信号に基づいて、個々のLEDの輝度補正係数を計算して、その結果(補正係数)を書き込むメモリを具え、画像表示面1の駆動回路4は、計算記憶系3のメモリから補正係数を各LEDごとに読み出し、必要に応じガンマ補正されて個々のLEDを輝度変調する画像信号と掛け算し、掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するように構成され、(【0012】)
固定パターンノイズ除去方法で、対象としている大画面LED表示装置の画像表示面1の規模は、例えば、各LEDをハイビジョン信号で駆動するものとすると、LEDは、1,920×1,080=2,073,600個必要となり、これらLEDを縦横1cm間隔で配置するものとすると、19.2m×10.8m、また、5mm間隔としても9.6m×5.4mと巨大な画像表示面であり、(【0013】)
各LEDの輝度レベル測定は、具体的には、LEDを1個づつ等信号レベルで順次点灯し、望遠鏡(例えば、天体望遠鏡)に取り付けたCCDカメラ2でその発光輝度を測定し、(【0015】)
点灯されて撮影された映像(LEDを被写体とする映像)は、A/D変換され、例えば、信号の最大値より3dB低下するまでの画素平均値を信号出力として測定し、【0016】
最大の輝度を示すLEDの輝度をLmax、最小の輝度を示すLEDの輝度をLminとした場合、輝度Lxを示すLEDの補正係数Kxは次式で求め、(【0019】)
【数3】

計算記憶系3から読み出された個々のLEDの補正係数Kxは駆動系4に送られ、そこで個々のLEDを輝度変調するための画像信号と掛け算され、その掛け算結果に応じたレベルの電流に変換され、(【0020】)
大画面LED表示装置の画像表示面1を駆動するために入力される赤(R)、緑(G)および青(B)信号は、それぞれガンマ補正回路6−R,6−Gおよび6−Bでガンマ補正され、次いで掛け算回路7−R,7−Gおよび7−Bにて、それぞれ対応する色の補正係数と掛け算され、(【0023】)
これにより補正を受けたR,GおよびBの各色信号は、それぞれ8ビット並列の1,920段シフトレジスタ8−R,8−Gおよび8−Bにハイビジョンのクロックレート(74.25MHz)で書き込まれ、これらシフトレジスタに1水平走査期間分の信号が書き込まれた時点で、書き込み内容を表示バッファ9に転送し、(【0024】)
表示バッファ9からの出力データは、1,920×3ビットのD−A変換器10に送られアナログの電圧レベルに変換され、この電圧レベルは、さらに電流変換器11において、電圧レベルに対応して振幅変調された電流量に変換され、これが個々のLED1(1走査線あたり、1,920×3個)の縦方向に1水平走査期間の間同一レベルを保って供給され、LEDの陰極側は、垂直走査回路からの垂直走査信号により走査して水平ライン毎に接地に接続され、該当する走査線上のLED1を活性にし、これにより、任意の画素点のLEDの発光輝度は、それに対応する画素点の画像信号のレベルを正しく再現することになる、(【0025】)
大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法。」

2 引用文献6の記載事項及び技術常識の認定
(1) 引用文献6の記載事項
本願の優先日前に発行された引用文献6(特開平02−231164号公報)には、以下の記載がある。なお、特に重要なところに下線を付した。

2頁右下欄6−14行
「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は、LEDプリンタヘッド,サーマルヘッド等の各種プリンタやプラズマディスプレイ等の表示装置に適用される多出力電流供給用集積回路に関し、詳しくは、ドット毎の濃度又は光量の補正を可能とする多階調電流出力を多数ビット備えた多出力電流供給用集積回路及びこれを使用可能とする駆動制御装置に関する。」

4頁左上欄15行−左下欄7行
「〔発明が解決しようとする課題〕
上記のLEDプリンタヘッド駆動用集積回路は、LED毎の発光強度のバラツキや出力トランジスタアレイ部自体のFET毎の電流容量(オン抵抗)のバラツキにより発生する印字むら(光量むら又は濃度むら)を解消するため、LED毎の発光時間を長短制御することにより総発光量を標準量へ補正するものである。即ち、3ラッチ・サイクルを以ってFETのオン時間が7段階に調整されるが、1ライン印字においては3ラッチ・サイクルの印字期間を必要とする。ラッチ・サイクルを短くすると、クロックサイクルの短縮化を余儀なくされるが、これには限界がある。1ライン印字のビット数を多くし、しかも短時間印字を図るためには、上記パルス幅制御の時間補正によっては対応がはなはだ困難となる。また、イネーブル信号の異なるパルス幅毎に対応するように、1ライン印字においてその都度3つの連続した補正データ信号を内部的に作成する必要があり、マイクロプロセッサ5のプログラム又は制御には複雑さが伴っていた。
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、LED等の被駆動素子の出力強度のバラツキを出力時間の長短調整で均等化するのではなく、各被駆動素子の出力時間をすべて一定としながらも、直接的に各被駆動素子の出力強度自体を調整すべく各素子毎に供給すべき電流値を増減的に可変制御することにより、1ライン印字又は表示の短時間化と共に、併せてマイクロプロセッサ等の構成又は制御の簡単化を実現する新規な多出力電流供給用集積回路及びそれを用いた多数の素子の駆動制御装置を提供することにある。」

7頁右下欄14行−11頁右上欄9行
「〔実施例〕 次に、本発明に係る多出力電流供給用集積回路をLEDプリンタ駆動回路に適用した実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図はLEDプリンタ駆動回路の実施例を示すブロック図である。
メインフレーム1はデータ信号等をマイクロプロセッサ11に送出するコンピュータ等で構成されている。マイクロプロセッサ11は補正コード格納ROM(読出し専用メモリ)12に対し制御信号を送り、これから補正コードデータを取り入れ、後述する態様で、データ信号,ラッチ信号,補正データ信号及びイネーブル信号をLEDプリンタヘッド駆動用集積回路13へ送出する。LEDプリンタヘッド駆動用集積回路13は、マイクロプロセッサ11から供給される第1クロック信号に同期してメインフレーム1から供給される1ライン印字分のデータ信号をマイクロプロセッサ11を介してそのまま入力されるデータ用シフトレジスタ部14と、ラッチ信号に同期してデータ用シフトレジスタ部14の各フリップ・クロップ(F/F)の内容を取り込み一時保持するラッチ回路アレイ部15と、第2クロック信号に同期して補正データ信号を直−並列変換する補正データ用シフトレジ部16と、このレジスタ部16にて作成された4ビット・ディジタル信号とイネーブル信号とに基づいてゲート信号を出力する出力トランジスタ制御回路部17と、各ゲート信号によりスイッチング制御されるスイッチング回路18−1〜18−mを有する出力トランジスタ部18と、から大略構成されている。
このLEDプリンタヘッド駆動用集積回路13における出力トランジスタ部18の各スイッチング回路18−1〜18−mとLEDアレイ集積回路19の各LED19−1〜19−mとが一対一で接続されており、各LEDは各スイッチング回路の継断動作により電源VSSからの電流供給・遮断で発光・消光する。なお、20はLEDアレイ集積回路19に近接対向する感光ドラムで、2は主電源である。
第2図は第1図中のLEDプリンタヘッド駆動用集積回路13の構成を示すブロック図である。
データ用シフトレジスタ部14はm個のDフリップ・フロップ14−1〜14−mで構成され、第1クロック端子14aに第1クロック信号のパルスが1つずつ加わるたびにデータ端子14bを介して取り込まれる2進直列のデータをシフトするもので、1ライン印字分のデータが直列−並列変換される。ラッチ回路アレイ部15はDフリップ・フロップのラッチ回路(LAT)15−1〜15−mで構成され、ラッチ端子15aに入るラッチ同期信号によってシフトレジスタ部14の各桁の内容を一時保持する。補正データ用シフトレジスタ部16は4m個のDフリップ・フロップで構成され、補正データ端子16bに入力される2進4m桁の直列信号の補正データを第2クロック端子16aに入力される第2クロックによって1つずつシフトするものである。補正データ用シフトレジスタ部16は4段のDフリップ・フロップを1単位とするm個の部分シフトレジスタ(SR)を有しており、各部分シフトレジスタは対応するLEDの発光強度を補正するための4ビット並列信号(例えばB14,B13,B12,B11)を出力する。出力トランジスタ制御回路部17は制御及びレベルシフト回路とを1回路単位としてこれをm個有しており、各制御及びレベルシフト回路はラッチ回路アレイ部15の各ラッチ回路の出力たるデータ(例えばDi1)と補正データ用シフトレジスタ部16の部分シフトレジスタの出力たる4ビット並列補正データ(例えばB14,B13,B12,B11)とを受け、イネーブル端子17aに入力されるイネーブル信号に同期して対応する後述の電流合成回路に4ビット並列ゲート制御信号を送出する。
第3図は第2図における出力トランジスタ制御回路部17の制御及びレベルシフト回路17−1を示す回路図である。なお、他の制御及びレベルシフト回路17−2〜17−mの回路構成もこれと同様である。
制御及びレベルシフト回路17−1は論理制御回路部21−1とレベルシフト回路22−1とから構成されている。この実施例におけるデータ信号DはHレベルのときが印字指令で、Lレベルのとき無印字指令とされており、またイネーブル信号はHレベルのとき印字期間で、Lレベルのとき無印字期間とされている。この制御及びレベルシフト回路17−1に対応するLED19−1をオン状態又はオフ状態のいずれかに設定するために、論理制御回路部21−1には、イネーブル信号及びデータ信号Di1を入力されるNANDゲート21−1aとインバータ21−1bとで構成される印字モード決定回路21−1cが設けられている。また補正データの4ビット並列信号B14,B13,B12,B11及び上記印字モード決定回路21−1cの出力たる印字モード信号とを受け後述する電流合成回路のいわばディジタル・アナログ変換器(DAC)の4ビット出力信号を論理的に作成するNANDゲート21−1dと、印字モード信号を反転するインバータ21−1eとが設けられている。制御及びレベルシフト回路部17−1はオフセット用ゲート制御電圧OS1及びDAC用ゲート制御電圧S14,S13,S12,S11を得るために、同一構成の5個のレベルシフト回路から構成されている。この各レベルシフト回路は、インバータ21−1e又はNANDゲート21−1dの出力信号を反転させるインバータ22−1aと、その出力信号とインバータ22−1bの反転出力を制御入力として外部ゲートバイアス電圧VGGを伝達するトランスミッションゲートTMと、このトランスミッションゲートTMのオフ時における出力を外部ソース電圧VSSに強制確定するためのPチャネルMOSFET22−1cとを備えている。
印字モード決定回路21−1cの出力たる論理電圧レベルの印字モード信号は外部ゲートバイアス電圧VGGと外部ソース電圧VSSとの間で変化するオフセット用制御信号OS1に変換される。またNANDNゲート21−1dの出力も同様の電圧レベルのDAC用制御信号S14,S13,S12,S11に変換される。なお、外部ゲートバイアス電圧VGGには、後述の電界効果トランジスタFOS1、及びFT1乃至FT15が定電流動作するような電圧が印加される。
第4図は第2図における電流合成回路の構成を示す回路図である。
本実施例における各スイッチング手段としての電流合成回路はディジタル・アナログ変換回路とオフセット用電界効果型トランジスタで構成されている。第4図の電流合成回路18−1はほぼ同等の電流容量を持つ15個のPチャネル電界効果型トランジスタFT1〜FT15の並列接続体としての電流出力型ディジタル・アナログ変換回路18−1aと、これに並列接続した全電流容量のほぼ1/3を占める単一のオフセット用Pチャネル電界効果型トランジスタFOS1とからなる。この電流合成回路18−1の半導体構造は後述するが、制御信号S11をゲート信号とするトランジスタ(FT8)の個数は1個、制御信号S12をゲート信号とするトランジスタ(FT4,FT12)の個数は2個、制御信号S13をゲート信号とするトランジスタ(FT2,FT6,FT10,FT14)の個数は4個、及び制御信号S14をゲート信号とするトランジスタ(FT1,FT3,FT5,FT7,FT9FT11,FT13,FT15)の個数は8個とされている。即ち、制御信号S11がLレベルのときトランジスタFT8がオン状態で、制御信号S12がLレベルのときトランジスタFT4及びFT12がオン状態であり、また制御信号S13がLレベルのときトランジスタFT2,FT6,FT10及びFT14がオン状態であり、更に制御信号S14がLレベルのとき、トランジスタFT1,FT3,FT5,FT7,FT9,FT11,FT13及びFT15がオン状態になる。
次に上記実施例の動作につき第5図を参照しつつ説明する。
印字動作に先立ち、LEDプリンタの電源2を投入すると、まず、マイクロプロセッサ11が制御信号を補正データ格納ROM12に送出し、これにより補正データ格納ROM12からマイクロプロセッサ11に対し補正コードデータ信号が送られる。そしてマイクロプロセッサ11は第2クロック信号と共に補正コードデータ信号を補正データ用シフトレジスタ部16に送出する。ここで補正データコード信号は、1ライン印字がmドットとすると、4mビットの直列ディジタル信号で、そのうち直列4ビットが1ビット印字の補正データに対応している。補正データ信号及び第2クロック信号の送出期間は電源2の投入後の一定期間だけであり、それらが一度送出されると、電源を切るまで補正データは再び送出されることがない。この4mビットの直列ディジタル信号は第2クロック毎に順次補正データ用シフトレジスタ部16の最下位Dフリップ・フロップ(F/F)に入力される。4m個の第2クロックパルスによって4mビットの直列ディジタル信号が補正データ用シフトレジスタ部16に全部記憶される。この後においては、マイクロプロセッサ11が第2クロックパルスを送出しないため、補正データ用シフトレジスタ16自身はシフト動作せず、4mビットの直列ディジタル信号たる補正データがそのまま補正データ用シフトレジスタ部16に保持される。ここで、補正データ用シフトレジスタ16の部分シフトレジスタ16−1の出力は、第1桁目B11,第2桁目B12,第3桁目B13,第4桁目B14の4ビット信号(1ドット補正データ信号に相当する)を維持する。
補正データ信号の補正データ用シフトレジスタ16への設定動作が完了すると、第1クロック信号の発生と共に、データ信号がマイクロプロセッサ11を介してデータ用シフトレジスタ14に供給される。ここで1ライン印字データが第i桁目のデータDiとすると、m個の第1クロックによってデータDiがデータ用シフトレジスタ部14部に記憶される。そしてラッチ信号Liがマイクロプロセッサ11から送出され、これがラッチ回路アレイ部15に供給されると、ラッチ回路アレイ部15のラッチ回路15−1〜15−mがデータ用シフトレジスタ部14の対応するDフリップ・フロップ14−1〜14−mの出力(データDi)を取り込みこれを一時保持する。即ち、ラッチ回路15−1〜15−mの出力がデータDi1〜Dimに設定される。
ここでLED19−1の印字動作に注目して本実施例の動作を説明する。次にイネーブル信号がHレベルになると、データ信号Di1のレベルによってLED19−1の印字の有無が決定される。つまり、データ信号Di1がHレベルのときは、印字モード決定回路21−1cの出力がHレベルとなり、データ信号Di1がLレベルのときはその出力がLレベルとなる。回路21−1cの出力がHレベルの場合は、印字モード期間を意味しており、オフセット用トランジスタのトランスミッションTMが閉成されてゲートバイアス電圧VGGが信号OS1としてオフセット用Pチャネル電界効果型トランジスタFOS1に供給され、電界効果型トランジスタFOS1が閉成する。また補正データ信号がB14,B13,B12,B11として制御及びレベルシフト回路17−1に供給される。例えば、ここでデータ信号B14がHレベルで、データ信号B13,B12,B11がLレベルの場合には、信号S14がゲートバイアス電圧VGGとなり、信号S13,S12,S11がソース電圧VSSとなる。これにより、DAC18−1aのトランジスタのうち、トランジスタFT1,FT3,FT5,FT7,FT9,FT11,FT13,FT15がオフ状態である。ここでオフセット用Pチャネル電界効果型トランジスタFOS1の電流容量をiOSとし、DAC18−1aの各トランジスタの電流容量をi0とすると、信号S14のみがゲートバイアス電圧VGGに設定された場合、出力端子O1を介してLEDA19−1に供給される電流値はiOS+8iOとなる。即ち4ビット信号S14,S13,S12,S11の如何により、LED19−1に対する供給電流値をIとすると、
iOS≦i≦iOS+15iO ・・・(1)
の式が成立する。
このように、1ドット(1LED)に供給できる電流値iを増減的に可変できるため、供給すべきLEDの発光の強弱に応じてそれを是正するように供給電流値に相当する補正コードデータを予め補正データ格納ROM12に記憶させておくことにより、すべてのLEDの発光強度が標準値に補正されるので、これにより印字むらが防止される。この印字むら補正は各LEDに対して供給電流を増減的に可変するものであるから、1ラッチサイクル毎の1ライン印字が実現される。それ故、印字スピードの高速化を図ることができる。即ち、従来プリンタヘッドに比して3倍のスピードアップが実現される。また、内部的にデータ信号を生成し直さずに、データ信号をそのまま転送しながら、補正データ信号を補正データ用シフトレジスタ部16が一度記憶するだけでその後の各LEDに対する供給電流値が設定されるので、マイクロプロセッサ11のプログラムの単純化及び制御の簡素化が達成される。また1ライン印字のうち各ドット毎の独立的な濃淡制御が可能である。
オフセット用Pチャネル電界効果型トランジスタを付設した意義は、LEDの発光強度のバラツキは一般的に±20%程度と見込まれている。勿論、LED毎にバラツキがあっても、各LEDの発光強度自体は供給電流にほぼ正比例する。このため、各LEDに最低限必要とされる電流を供給するオフセット用トランジスタFOS1を設けておけば、発光強度の約20%程度だけがDAC18−1aによって加算的に補正される。DACの16階調の電流供給により、本実施例ではLEDの発光強度のバラツキが約±1%程度まで圧縮された。」

「第1図



「第2図



「第3図



「第4図



「第5図



(2) 技術常識の認定
前記(1)において引用文献6の記載事項により例示したように、次の技術は、技術常識であると認められる(以下「技術常識A」という)。
<技術常識A>
「発光素子の輝度補正技術として、電流調整値を加算することにより駆動電流の調整を行うこと。」


第5 対比・判断
1 対比
(1) 対比分析
本件発明を特定する請求項1の記載(前記第2の2(2)イ参照)の分説の順に沿って、本件発明と引用発明を対比する。
ア(ア) 本願の明細書の段落【0010】の「図2を例にして、発光ダイオードユニットはMxNのアレイ、即ちM行N列のアレイで配列されるもの、即ち各列(column)にはM個の発光ダイオードユニットを有し、各行(row)にはN個の発光ダイオードユニットを有するものである。」との記載を参酌すると、上記「発光ダイオードユニット」は個々の発光素子を意味しているから、引用発明における(個々の)「LED」は、本件発明の「発光ダイオードユニット」に相当する。そして、引用発明の「大画面LED表示装置の画像表示面」の「1,920×1,080=2,073,600個」の「LED」は、本件発明における「アレイで配列される複数の発光ダイオードユニット」に相当し、引用発明の「大画面LED表示装置」は、本件発明の「発光ダイオード表示装置」に相当する。
(イ) また、引用発明の「個々のLEDの輝度差から生ずる画面の輝度むらを除去する」ことは、本件発明の「発光ダイオード表示装置の点像補正」をすることに相当する。
(ウ) この点も踏まえると、引用発明の「ハイビジョン画像等を発光ダイオード(LED)を用いた大画面の画像表示装置に表示するに際して、個々のLEDの輝度差から生ずる画面の輝度むらを除去する大画面LED表示装置の固定パターンノイズ除去方法」は、本件発明の「アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法」に相当する。
(エ) したがって、本件発明と引用発明は、「アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法」の発明である点で一致する。

イ 引用発明における「(計算記憶系3のメモリから補正係数を各LEDごとに読み出し、必要に応じガンマ補正されて個々のLEDを輝度変調する画像信号と掛け算し、掛け算された結果の)出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調するように構成され」ている「画像表示面1の駆動回路4」は、本件発明における「前記複数の発光ダイオードユニットに電気的に接続され、複数の発光ダイオードユニットに駆動電流を提供する駆動回路」に相当する。したがって、本件発明と引用発明は、「前記発光ダイオード表示装置は、前記複数の発光ダイオードユニットに電気的に接続され、複数の発光ダイオードユニットに駆動電流を提供する駆動回路を含」む点で一致する。

ウ 本件発明における「スキャンにより、点順次に前記発光ダイオード表示装置の列(column)又は行(row)毎における発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、前記列又は行毎における複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程」と、引用発明における「大画面LED表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれるLEDのすべてを1個ずつ等信号レベルで順次点灯する」ステップは、「点順次に発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程」である点で共通する。
また、引用発明において、「垂直走査回路からの垂直走査信号により走査する」ことは、本件発明における「スキャン」に相当する。
したがって、本件発明と引用発明は、「前記点像補正方法は、スキャンにより、点順次に発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程」を含む点で共通する。

エ(ア) 引用発明においては、「個々のLED」に「輝度差」があり、当該「輝度差から生ずる画面の輝度むら」があることが前提となっているから、引用発明における「CCDカメラ」で測定した「個々のLED」の「発光輝度」の「画面」全体での集合は、「複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度」に相当する。そして、当該輝度の情報は、前記ウにおいて共通点とされた「前記点像補正方法は、スキャンにより、点順次に発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程」をしながら測定されるものであるから、「スキャンの方式により」「得た」ものであるということができる。
(イ) 引用発明における「個々のLEDの補正係数Kx」を「【数3】」の式で「求める」ことは、本件発明における「得た不均一輝度から不均一輝度情報を生成」することに相当する。

(ウ)a 引用発明においては、「計算記憶系3から読み出された個々のLEDの補正係数Kxは駆動系4に送られ、そこで個々のLEDを輝度変調するための画像信号と掛け算され、その掛け算結果に応じたレベルの電流に変換され、大画面LED表示装置の画像表示面1を駆動するために入力される赤(R)、緑(G)および青(B)信号は、それぞれガンマ補正回路6−R,6−Gおよび6−Bでガンマ補正され、次いで掛け算回路7−R,7−Gおよび7−Bにて、それぞれ対応する色の補正係数と掛け算され、これにより補正を受けたR,GおよびBの各色信号は、それぞれ8ビット並列の1,920段シフトレジスタ8−R,8−Gおよび8−Bにハイビジョンのクロックレート(74.25MHz)で書き込まれ、これらシフトレジスタに1水平走査期間分の信号が書き込まれた時点で、書き込み内容を表示バッファ9に転送」するものであるところ(下線は当審による。)、このことは、「1走査線あたり、1,920×3個」のLEDの集合体(行単位のLED集合体)に対して、「1水平走査期間の間同一レベルを保って」「1水平走査期間分の信号」が「供給され」ることを意味する。
b そして、上記「1水平走査期間分の信号」は、行単位のLED集合体に属する個々のLEDの輝度を補正するための「個々のLEDの補正係数Kx」を「掛け算」因子として含むから、「1水平走査期間分」の「個々のLEDの補正係数Kx」は、本件発明の「行毎の不均一輝度情報」に相当する。
c また、引用発明では、「1水平走査期間の間同一レベルを保って」信号供給される行単位のLED集合体について、「垂直走査回路からの垂直走査信号により走査して」「該当する走査線上のLED1を活性」にするから、「CCDカメラ」で測定した「個々のLED」の「発光輝度」の垂直走査方向(「縦方向」)についての集合は、「前記発光ダイオード表示装置の列」「毎と対応する前記複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度」に相当するといえる。
(エ) 引用発明において「個々のLEDの補正係数Kx」は「計算記憶系3から読み出され」るのであるから、「個々のLEDの補正係数Kx」は「計算記憶系3」に記憶されている。この点を踏まえると、引用発明の「計算記憶系3」は本件発明の「前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニット」に相当する。
(オ) (ア)〜(エ)の検討結果を踏まえると、本件発明と引用発明は、「前記点像補正方法は、」「スキャンの方式により、前記発光ダイオード表示装置の列又は行毎と対応する前記複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度を得て、得た不均一輝度から列又は行毎の不均一輝度情報を生成して、前記不均一輝度情報を前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニットに記憶する工程」を備える点で一致する。

オ(ア) 引用発明における「前記補正係数メモリから前記補正係数を各LEDごとに読み出し、そしてそれら読み出した補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調する」ことは、本件発明における、「前記不均一輝度情報に従い」、「それぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する」ことに相当する。
(イ) 引用発明における「前記掛算された結果の出力信号レベルを電流量に変換するために、前記出力信号レベルに対応して電流量が振幅変調され、該振幅変調された電流レベルを所定期間維持するよう構成されており」、「シフトレジスタに1水平走査期間分の信号が書き込まれた時点で、書き込み内容を表示バッファ9に転送し、」「表示バッファ9からの出力データは、1,920×3ビットのD−A変換器10に送られアナログの電圧レベルに変換され、この電圧レベルは、さらに電流変換器11において、電圧レベルに対応して振幅変調された電流量に変換され、これが個々のLED1(1走査線あたり、1,920×3個)の縦方向に1水平走査期間の間同一レベルを保って供給され、LEDの陰極側は、垂直走査回路からの垂直走査信号により走査して水平ライン毎に接地に接続され、該当する走査線上のLED1を活性に」することは、前記ウ及びエ(ウ)における検討を踏まえると、行単位のLED集合体に対して駆動電流を提供して「垂直走査信号により走査」すると、垂直走査方向(縦方向)についてはLEDの一つずつに駆動電流が提供されることを意味するものである。したがって、垂直走査で、LEDの一つずつ順次に行毎に対して行毎におけるそれぞれのLEDに駆動電流を提供するものであるから、本件発明の「スキャンで、点順次に列又は行毎に対して列又は行毎におけるそれぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する」ことに相当する。
(ウ) 引用発明における、「前記補正係数メモリから前記補正係数を各LEDごとに読み出し、そしてそれら読み出した補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調する」ことは、本件発明における、「前記駆動電流を調整後の駆動電流となるように調整すること」に相当する。
(エ) 引用発明における「任意の画素点のLEDの発光輝度は、それに対応する画素点の画像信号のレベルを正しく再現することになる」ようにすることは、本件発明における「前記複数の発光ダイオードユニットの発光輝度が同じであるようにする」ことに相当する。
(オ) 前記(ア)から(エ)の検討結果をまとめると、本件発明と引用発明は、「前記点像補正方法は、」「前記不均一輝度情報に従い、スキャンで、点順次に列又は行毎に対して列又は行毎におけるそれぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する場合、前記駆動電流を調整後の駆動電流となるように調整することにより、前記複数の発光ダイオードユニットの発光輝度が同じであるようにする工程」を含む点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

ア 一致点
「 アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法において、
前記発光ダイオード表示装置は、前記複数の発光ダイオードユニットに電気的に接続され、複数の発光ダイオードユニットに駆動電流を提供する駆動回路を含み、
前記点像補正方法は、
スキャンにより、点順次に前記発光ダイオード表示装置の発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程と、
スキャンの方式により、前記発光ダイオード表示装置の列又は行毎と対応する前記複数の発光ダイオードユニットの不均一輝度を得て、得た不均一輝度から列又は行毎の不均一輝度情報を生成して、前記不均一輝度情報を前記発光ダイオード表示装置の記憶ユニットに記憶する工程と、
前記不均一輝度情報に従い、スキャンで、点順次に列又は行毎に対して列又は行毎におけるそれぞれの前記発光ダイオードユニットに前記駆動電流を提供する場合、前記駆動電流を調整後の駆動電流となるように調整することにより、前記複数の発光ダイオードユニットの発光輝度が同じであるようにする工程と、
を含む発光ダイオード表示装置の点像補正方法」である点。

イ 相違点
(ア) 相違点1
点像補正方法における、スキャンにより、点順次に前記発光ダイオード表示装置の発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させる工程について、
本件発明は、
「前記発光ダイオード表示装置の列(column)又は行(row)毎における発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、前記列又は行毎における複数の発光ダイオードユニットを発光させる」ものであるのに対して、
引用発明は、発光ダイオード表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれる発光ダイオードユニットのすべてを1個ずつ順次点灯するものである点。

(イ) 相違点2
本件発明においては、
点像補正方法は、「前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ」、「前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整すること」を含むのに対して、
引用発明においては、点像補正方法は、「補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調する」ものである点。

2 本件発明の想到容易性の判断
(1) 相違点1について
ア 引用発明におけるブロック分割の意味
引用発明は、「発光ダイオード表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれる発光ダイオードユニットのすべてを1個ずつ順次点灯する」ところ、「複数のブロックに分割」することの意味について検討する。
まず、引用発明は、「対象としている大画面LED表示装置の画像表示面1の規模は、例えば、各LEDをハイビジョン信号で駆動するものとすると、LEDは、1,920×1,080=2,073,600個必要となり、これらLEDを縦横1cm間隔で配置するものとすると、19.2m×10.8m、また、5mm間隔としても9.6m×5.4mと巨大な画像表示面」である。
そして、引用文献4の段落【0014】を参照すると、「測定位置は、画像表示面の中点から表示面1の高さ(10.8m)の5倍前方(すなわち、54m)としたが、このような距離に厳密な意味はなく、標準的な鑑賞位置としてよい。」と記載されている。
また、段落【0015】及び【0016】を参照すると、「天体望遠鏡の視野角を2度(画像表示面上で1,000mm程度)とすると、表示面の横方向の視野角は20度であるため10回の測定角の移動で、また、縦方向の視野角は11.42度であるため6回の測定角の移動で全表示面をカバーすることができる。すなわち、測定のための測定角の移動は合計60回となる。この測定角の移動には、例えば、天体観測用の赤道儀を使用することができる。」及び「相隣るLED間の視野角は0.01度となるため、天体望遠鏡の視野角2度、すなわち、一測定ブロックの中には200×200=40,000画素、カラー画像として表示するためには、各画素が赤(R)、緑(G)および青(B)の3個のLEDによって構成されるため120,000個のLEDが含まれることになる。」と記載されている。
そうすると、「発光ダイオード表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれる発光ダイオードユニットのすべてを1個ずつ順次点灯する」のは、「望遠鏡または望遠レンズ」の画角が狭く、全ての発光ダイオードを同時に撮影することができないという前提があるからであることが理解できる。

イ 相違点1の想到容易性について
「発光ダイオード表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割し、それら分割されたブロックに含まれる発光ダイオードユニットのすべてを1個ずつ順次点灯する」のは、「望遠鏡または望遠レンズ」の画角が狭く、全ての発光ダイオードを同時に撮影することができないという前提があるからであることが理解できる当業者にとっては、「発光ダイオード表示装置の画像表示面」が、「19.2m×10.8m」のような「巨大な画像表示面」ではなく、例えばその1/10程度の大きさ以下であって、発光ダイオード表示装置の画像表示面の全ての発光ダイオード一度に撮影できる場合にまで、「発光ダイオード表示装置の画像表示面を複数のブロックに分割」する必要のないことは、自明である(引用文献4の段落【0015】を参照すると、表示面の横方向は10回の測定角の移動で、また、縦方向は6回の測定角の移動で全表示面をカバーしている。)。
この場合、点順次に前記発光ダイオード表示装置の発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、複数の発光ダイオードユニットを発光させるに際して、前記発光ダイオード表示装置の列(column)又は行(row)毎における発光ダイオードユニットにそれぞれ駆動電流(I)を提供して、前記列又は行毎における複数の発光ダイオードユニットを発光させるのは、ごく自然な操作の仕方であるから、このような操作方法を採用することは、当業者には自明である。したがって、相違点1は、格別のものではない。

(2) 相違点2について
ア 相違点2は実質的な相違点ではないこと
相違点2について、「前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ、」との技術事項があるところ、「電流調整値(ΔI)を求める」との記述はない。そして、「前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整する」との記述としては、実際に「前記駆動電流(I)」の値に「前記電流調整値」を加えるという、「I+ΔI」の演算を行わなくとも、結果として、「前記駆動電流」が「前記駆動電流」よりも「前記電流調整値」の分だけ変化したものと同じ大きさの電流値であるように調整することを含む記載となっている。
この点に注意すると、引用発明においては、「補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調する」ところ、本件発明の「不均一輝度情報」に相当する「補正係数」に依存して「LEDを輝度変調する」「電流量」は変化しているのであるから、その変化分を「ΔI’」と置けば、調整後の駆動電流は、調整前の駆動電流+ΔI’となっており、「ΔI’」は本件発明の「不均一輝度情報」に相当する「補正係数」に依存するものであるから、「ΔI’」は「不均一輝度情報」に対応しているということができる。
すなわち、引用発明の点像補正方法も、「前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ、前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整する工程」を含むということができるから、相違点2は、表現上の相違にすぎず、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2の想到容易性について
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、「発光素子の輝度補正技術として、電流調整値を加算することにより駆動電流の調整を行うこと」は、技術常識(「技術常識A」)であるから、引用発明における補正方法について、「補正係数を、それぞれ相当するLEDを輝度変調する画像信号またはガンマ補正された画像信号と掛け算し、その掛け算された結果の出力信号の信号レベルを電流量に変換してそれぞれ相当するLEDを輝度変調する」工程(以下、「引用発明の工程A」という。)に換えて、技術常識Aを採用することは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。この場合、引用発明において、「不均一輝度情報」に対応して、加算するための電流値を求めなければならないことは自明であるから、加算される電流値は「不均一輝度情報」に対応すべきことは当然のことである。
したがって、引用発明における「引用発明の工程A」に換えて、「前記駆動回路が、各前記発光ダイオードユニットの前記駆動電流(I)の電流調整値(ΔI)を前記不均一輝度情報に対応させ、前記駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整する工程」を選択することは、技術常識を採用して設計変更したものにすぎず、格別のものではない。

(3) 総合評価
以上検討のとおり、相違点1及び相違点2は、格別のものではない。そして、本件発明の奏する作用効果には、引用発明及び技術常識Aから予測されるものを超える、格別顕著なものは認められない。
したがって、本件発明は、引用発明及び技術常識Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について
(1) 請求人の主張
ア 請求人の主張1
請求人は、審判請求書において、次の点を主張している。
「 本願発明の技術的な特徴点は、スキャンの方式を採用した上で、異なるタイミングで同一の駆動回路により、点順次に、複数の発光ダイオードユニットに補償された異なる駆動電流を給電することを可能とすることにより、従来の方法、例えば、補正ビットにより各ドット(dot)の輝度を修正することであり、パルス幅変調(PWM)信号の制御ビットを増やす不具合を克服し、点像補正の回路が簡略化され、且つこの回路の関連コストが低減されることが看取できる、ところにあります。即ち、審査官殿が認定された「本願発明の技術的な特徴点は、スキャンの方式を採用した上で、異なるタイミングで同一の駆動回路により、複数の発光ダイオードユニットに補償された異なる駆動電流を給電することを可能とした構成」とは明らかに異なります。」

イ 請求人の主張2
引用文献4の段落[0025]に「表示バッファ9からの出力データは、1,920×3ビットのD−A変換器10に送られアナログの電圧レベルに変換される。この電圧レベルは、さらに電流変換器11において、電圧レベルに対応して振幅変調された電流量に変換され、これが個々のLED1(1走査線あたり、1,920×3個)の縦方向に1水平走査期間の間同一レベルを保って供給される。LEDの陰極側は、垂直走査回路(図示しない)からの垂直走査信号により走査して水平ライン毎に接地に接続され、該当する走査線上のLED1を活性にする。これにより、任意の画素点のLEDの発光輝度は、それに対応する画素点の画像信号のレベルを正しく再現することになる。」との記載がある。
この記載から、引用文献4の技術では、振幅変調された電流量を、1水平走査期間の間に、個々のLED1の縦方向に同一レベルを保って供給するという意味と解される。つまり、引用文献4の水平方向への走査では、点単位でスキャンではなく、垂直の行を単位で水平方向へ走査して、その際垂直走査で垂直の行における各点のLEDを接地させるように、対応する画素点の画像信号のレベルを正しく再現することになる。このように、引用文献4に記載の技術では、水平方向への走査では、点単位でスキャンではなく、垂直の行を単位で行うため、本願発明1のように「駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整する」のみで、輝度の補正をすることはできず、少なくとも8ビットのデータで各LEDに至る信号を制御しなければならない。

ウ 請求人の主張3
引用文献4には、本願発明1の解決しようとする課題である「スキャンの方式を採用した上で、異なるタイミングで同一の駆動回路により、点順次に、複数の発光ダイオードユニットに補償された異なる駆動電流を給電することを可能とすることにより、従来の方法、例えば、補正ビットにより各ドット(dot)の輝度を修正することであり、パルス幅変調(PWM)信号の制御ビットを増やす不具合を克服し、点像補正の回路が簡略化され、且つこの回路の関連コストが低減される」ことについては、全く記載されていない。その点から見れば、本件発明は、引用文献4と課題が異なり、解決する技術的思想も異なる。

(2) 請求人の主張についての検討
ア 請求人の主張1について
請求人の主張1のうち、「審査官殿が認定された「本願発明の技術的な特徴点は、スキャンの方式を採用した上で、異なるタイミングで同一の駆動回路により、複数の発光ダイオードユニットに補償された異なる駆動電流を給電することを可能とした構成」とは明らかに異なります。」との部分の主張については、誤訳があるものと思われ、日本語として正確な記載になっていないので、この部分の意味が不明であり、全体的な主張も意味が不明である。
仮に、請求人の主張1を、「点順次に」「駆動電流を給電すること」が相違点であるとの主張であると善解しても、前記1(1)ウにおいて検討したとおり、引用発明においても、点順次駆動をしており、相違点であるとは認められない。
また、請求人の主張1を、引用文献4はパルス幅変調(PWM)であるから、「スキャンの方式を採用した上で、異なるタイミングで同一の駆動回路により、点順次に、複数の発光ダイオードユニットに補償された異なる駆動電流を給電する」ものではない旨の主張であると善解したとしても、次に示す、引用文献4の段落【0026】の記載を参酌すれば、引用文献4はパルス幅変調(PWM)でないことは明らかであるから、請求人の主張1は、採用できるものではない。
「【0026】本発明の上記実施形態においては、LED表示装置の画像表示面を駆動するのに、D−A変換器出力のアナログ電圧レベルを、そのレベルに応じた電流に変換(電流量の振幅変調)して1水平走査期間供給するようにした。これは、考えられる他の方法、例えば、上記アナログ電圧レベルに応じて、電流の振幅を一定にしてLEDの点灯時間を変化させる(点灯時間の時間幅変調)場合に比して、LED駆動回路の応答周波数を低くすることができ、ひいてはLED表示装置の価格を廉価にすることができるからである。」

イ 請求人の主張2について
請求人は、引用文献4の技術では、振幅変調された電流量を、1水平走査期間の間に、個々のLED1の縦方向に同一レベルを保って供給するという意味と解され、引用文献4の水平方向への走査では、点単位でスキャンではなく、垂直の行を単位で水平方向へ走査する旨主張しているが、引用発明は、「LEDの陰極側は、垂直走査回路からの垂直走査信号により走査して水平ライン毎に接地に接続され、該当する走査線上のLED1を活性に」するものであるから、垂直方向に一斉に発光するものではなく、垂直方向に点順次に発光するものである。
そして、引用発明は、電流量の振幅変調によるものであるところ、電流量の振幅変調であれば、「駆動電流を前記駆動電流(I)と前記電流調整値の和(I+ΔI)である調整後の駆動電流となるように調整する」のみで輝度の補正をすることができることは明らかである。したがって、請求人の主張は採用することができない。

ウ 請求人の主張3について
前記1(1)及び(2)で検討したとおり、引用発明と本件発明は、「アレイで配列される複数の発光ダイオードユニットを有する発光ダイオード表示装置に用いられる発光ダイオード表示装置の点像補正方法」である点において一致し、前記アにおいても説示したとおり、引用発明は、引用文献4の段落【0026】に記載されたパルス幅変調(PWM)の問題点を認識し、電流量の振幅変調を採用したものである。したがって、本件発明は、引用発明と課題が異なり、解決する技術的思想も異なるとの主張は採用することができない。

エ 請求人の主張についてのまとめ
前記アからウにおいて検討したとおり、請求人の主張1から請求人の主張3はいずれも採用できないものであるから、前記2(3)の結論に変わりはない。


第6 むすび
以上検討のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 中塚 直樹
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-11-04 
結審通知日 2021-11-10 
審決日 2021-11-25 
出願番号 P2018-028554
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 岡田 吉美
濱野 隆
発明の名称 発光ダイオード表示装置の点像補正方法及びそのシステム  
代理人 相原 史郎  

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