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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
管理番号 1384168
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-06 
確定日 2021-12-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6826821号発明「金属部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6826821号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6826821号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)5月12日に出願され、令和3年1月20日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月10日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許の請求項1〜3に係る特許に対し、令和3年8月6日に特許異議申立人 日向ヨシ子(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書」及び「本件図面」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記溶体化処理を行う工程は、
(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理を、常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気で行う工程を含み、かつ、前記温度範囲より高い温度での熱処理を含んでおらず、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材の製造方法であって、
前記Ni基合金が、析出硬化型のNi−Cr系Ni基合金である
金属部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属部材の製造方法であって、
前記溶体化処理を行う工程は、
前記(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲の温度での熱処理が行われた前記金属部材に対して急冷する処理を行う工程をさらに含む
金属部材の製造方法。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本件特許に係る出願の出願前に日本国内または外国において頒布され、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、次の甲第1号証〜甲第16号証(以下、「甲1」等という。)を提出するとともに、甲第1号証〜甲第6号証、甲第12号証〜甲第14号証、及び甲第16号証の抄訳文を提出し、以下の申立理由1〜11により、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:"IN718 Additive Manufacturing Properties and influences", Dennis M.Lambert, PhD, Raytheon ESSSA Group, JANNAF Conference, Nashville, TN, 1-4 June 2015, pp.1-14
甲第2号証:"IN718 Additive Manufacturing Properties and influences", Dennis M.Lambert, PhD, Raytheon ESSSA Group, NASA-MSFC, Matthew A, Adler, PhD, Jacobs ESSSA Group, NASA-MSFC, Additive Manufacturing Consortium meeting, 29 October 2014, pp.1-23
甲第3号証:国際公開2015/108599号
甲第4号証:国際公開2015/047128号
甲第5号証:"ADDITIVELY MANUFACTURED INCONEL▲R▼ ALLOY 718", Raymond C.Benn & Randy P.Salva, 7th International Symposium on Superalloy 718 and Derivatives, TMS(The Minerals, Metals & Materials Society), 2010, pp.455-469
(当審注:甲第5号証の論文名表記の「▲R▼」は、「R」を○で囲った登録商標マークを意味する。)
甲第6号証:"Microstructure and mechanical properties of selective laser melted Inconel 718 compared to forging and casting", Tanja Trosch et.al., Materials Letters, 164(2016), pp.428-431
甲第7号証:特開2013−96013号公報
甲第8号証:国際公開2016/013433号
甲第9号証:特開2015−227505号公報
甲第10号証:特表2016−509632号公報
甲第11号証:特開2014−40663号公報
甲第12号証:中国特許出願公開第103008657号明細書
甲第13号証:"DESIGN OF SOLUTIONIZING HEAT TREATMENTS FOR AN EXPERIMENTAL SINGLE CRYSTAL SUPERALLOY", S.R. Hegde, R.M. Kearsey, J. Beddoes, TMS(The Minerals, Metals & Materials Society), 2008, pp.301-310
甲第14号証:"Development of a Improved Heat Treatment for Investmant Cast Inconel 718(PWA 649)", John J. Schirra, Superalloys 718,625,706 and Various Derivatives, Edited by E.A.Loria, The Minerals, Metals & Materials Society, 1997, pp.439-446
甲第15号証:特開2011−12346号公報
甲第16号証:PRODUCTION OF METAL PARTS USING THE THREE DIMENSIONAL PRINTING PROCESS, STEVEN P.MICHAELS, Massachusetts Institute of Technology[2002.2.19受入], pp.1-87

1 申立理由1(新規性進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.1、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜3は、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 申立理由2(新規性進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.2、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜3は、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

3 申立理由3(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.3、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

4 申立理由4(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.4、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

5 申立理由5(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.5、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

6 申立理由6(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.6、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

7 申立理由7(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.7、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

8 申立理由8(進歩性)(特許異議申立書3.4.3.1.8、3.4.3.2、及び3.4.3.3)
本件発明1〜3は、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

9 申立理由9(サポート要件)(特許異議申立書3.4.4)
以下の(1)〜(7)のとおり、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載された「アディティブ・マニュファクチャリングにより作成された金属部材について、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保する技術を提供する」(【0009】)との課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
したがって、本件発明1〜3について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(1)インコネル718以外のNi基合金の使用について(特許異議申立書3.4.4(1))
本件発明1〜3において、インコネル718以外のNi基合金である析出硬化型のNi−Cr系合金や、析出硬化型ではないNi基合金が用いられる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(2)溶体化処理の熱処理温度について(特許異議申立書3.4.4(2))
本件発明1〜3において、Ni基合金がインコネル718であり1180℃で溶体化処理する以外の熱処理温度条件にて溶体化処理が行われる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(3)溶体化処理の熱処理時間について(特許異議申立書3.4.4(3))
本件発明1〜3の熱処理時間が特定されない溶体化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(4)溶体化処理の冷却条件について(特許異議申立書3.4.4(4))
本件発明1及び2の冷却条件が特定されない溶体化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(5)析出硬化処理の熱処理温度について(特許異議申立書3.4.4(5))
本件発明1〜3において、Ni基合金がインコネル718であり720℃及び620℃で析出硬化処理する以外の熱処理温度条件にて析出硬化処理が行われる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(6)析出硬化処理の熱処理時間について(特許異議申立書3.4.4(6))
本件発明1〜3の熱処理時間が特定されない析出硬化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(7)急冷する処理をさらに含む溶体化処理について(特許異議申立書3.4.4(7))
本件発明3の急冷する処理をさらに含む溶体化処理は、実施例に記載されておらず、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

10 申立理由10(明確性要件)
(1)Ni基合金としてどのように析出硬化処理を行うのか判然としない合金が含まれることについて(特許異議申立書3.4.5(1))
請求項1及び3に記載されたNi基合金は、析出硬化型ではない合金であって、どのように析出硬化処理を行うのか判然としないものを含む点で、明確とはいえない。
したがって、本件発明1及び3について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1及び3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)急冷の冷却速度が不明なことについて(特許異議申立書3.4.5(2))
請求項3に記載された急冷は、具体的にどのような冷却速度の範囲であるかという点で、明確とはいえない。
したがって、本件発明3について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

11 申立理由11(実施可能要件)(特許異議申立書3.4.6)
本件発明1及び3のNi基合金のうち析出硬化型ではない合金について、「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」において、どのようにして析出硬化するのかについて、発明の詳細な説明には明確かつ十分な記載がなされていない。
したがって、本件発明1及び3について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1 申立理由1(新規性進歩性)について
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
なお、甲1の翻訳文として、申立人が提示した抄訳文を採用した。また、下線は当審による(以下、同じ。)。

ア 「ABSTRACT
The results of tensile, fracture, and fatigue testing of IN718 coupons produced using the selective laser melting (SLM) additive manufacturing technique are presented.」(第1頁第4行〜第6行)
[翻訳文]
要約
選択的レーザー溶融 (SLM: Selective Laser Melting) 積層造形技術を使用して製造されたIN718クーポンの引張、破壊、および疲労試験の結果を示す。

イ 「INTRODUCTION
A large aggregate of tensile, fatigue, and fracture test data has been produced from coupons generated from the additive manufacturing (AM) process called selective laser melting (SLM). The preponderance of testing done to-date used IN718, nickel-base super alloy, and this is the material discussed in this document. SLM is a laser powder-bed fusion process using a laser to melt and consolidate powder. This produces three-dimensional objects as a sequential buildup of layers, and this process shows promise in the aerospace industry, since it can produce near net shapes and has the potential for producing very complex configurations that are difficult with conventional manufacturing techniques.」(第1頁第18行〜第25行)
[翻訳文]
はじめに
引張、疲労、および破壊のテストデータの大規模な集計は、選択的レーザー溶融 (SLM)と呼ばれる積層造形(AM: Additive Manufacturing) プロセスから作製されたクーポンから作られた。これまでに行われたテストの多くが、ニッケル基超合金であるIN718を使用しており、これが本稿で議論する材料である。SLMは、レーザーを使用して粉末を溶融および固化するレーザー粉末床融解プロセスである。これにより、3次元オブジェクトが、層を連続的に積み重ねたものとして作製される。このプロセスは、ニアネットシェイプを作製することができ、従来の製造技術では困難な非常に複雑な構成を作製するポテンシャルを有するため、航空宇宙産業で有望である。

ウ 「Build and Heat Treatment
A Concept M2 powder bed fusion selective laser melt machine was used for builds performed by NASA Marshall Space Flight Center (MSFC). The results reported herein were for tests of IN718 nickel-base superalloy. Specimens were produced as a dedicated build or as representative "witness samples" of build lots where prototype components were produced. No effort was used herein to segregate results from different powders in the analysis, although some information was available.
All specimens were stress relieved for 1.5 hours at 1950°F in a vacuum and then quenched in argon. After stress relief, parts were excised from the build platen. Hot-isostatic pressing (HIP) was performed next. The HIP process subject parts to high pressure and temperature. In this case, an argon atmosphere was maintained at a pressure of 15 ksi and a temperature of 2125°F for four hours, and then the furnace was slow cooled. Two heat treat conditions were used that differed from this point in the post-build processing. Some specimens received heat treat "A". For these, after stress relief and HIP, parts were homogenized for one hour at 2150°F in a vacuum and then quenched to below 1100°F in argon in less than 10 minutes. These were then solution treated at 1750°F for one hour in a vacuum, argon quenched, and then aged in two steps at 1325°F for eight hours followed by 1150°F for ten hours. This is the heat treatment specified by AMS 5663 [1]. Other specimens received heat treat "D". In this case, after stress relief and HIP, specimens were solution treated at 1950°F for 1 hour, argon quenched, and then aged in two steps at 1400°F for 10 hours followed by 1200°F for 10 hours. This is the heat treatment specified by AMS 5664 [2]. No homogenization step was performed on the heat treat D specimens.」( 第1頁第26行〜第2頁第6行)
[翻訳文]
ビルド及び熱処理
コンセプトM2粉末床融解選択的レーザー溶融機が、NASAマーシャル宇宙飛行センター (MSFC:Marshall Space Flight Center) によって実行されたビルドに使用された。本稿で報告する結果は、IN718ニッケル基超合金の試験に関するものである。試験片は、専用のビルドとして、またはプロトタイプ部品が作製されたビルドロットの代表的な「ウィットネスサンプル」として作製された。いくつかの情報は入手可能であったが、分析において異なる粉末からの結果をそれぞれ分離するための努力はここでは使用しなかった。
すべての試験片は、真空中1950°Fで1.5時間応力除去された後、アルゴンで急冷された。応力除去後、ビルドプラテンから部材を切り出した。次に、熱間静水圧プレス(HIP: Hot-Isostatic Pressing) を行った。HIPプロセスは、部材を高圧と高温に曝露した。このケースでは、アルゴン雰囲気を圧力15ksi、温度2125°Fで4時間維持した後、炉をゆっくりと冷却した。ビルド後の処理では、この時点とは異なる2つの熱処理条件を使用した。試験片の一部は、熱処理「A」で処理した。これらに対し、応力除去とHIPの後、部材を真空中2150°Fで1時間均質化し、アルゴン中で1100°F未満に10分未満で急冷した。次に、これらを真空中1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷した後、1325°Fで8時間、続いて1150°Fで10時間の2ステップで時効処理した。これはAMS5663に準じた熱処理である[1]。その他の試験片は、熱処理「D」で処理した。このケースでは、応力除去とHIPの後、試験片を1950°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷した後、1400°Fで10時間、続いて1200°Fで10時間の2ステップで時効処理した。これはAMS5664に準じた熱処理である[2]。熱処理Dの試験片に対して均質化ステップは実行しなかった。

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)イより、甲1は、「レーザーを使用して粉末を溶融および固化するレーザー粉末床融解プロセス」であって「選択的レーザー溶融 (SLM)と呼ばれる積層造形(AM: Additive Manufacturing) プロセスから作製された」「IN718ニッケル基超合金」の「クーポン」に対し、引張、疲労、および破壊のテストを行った結果を開示する文献と解される。

イ また、上記(1)ウにおいて、上記アのテストに用いる試験片のビルド及び熱処理に関し、特に熱処理「A」が行われる場合に着目すると、甲1には、以下の順に行われる各プロセスが開示されていると認められる。
(ア)コンセプトM2粉末床融解選択的レーザー溶融機を使用したビルドにより、IN718ニッケル基超合金の試験片を作製するプロセス。
(イ)試験片を真空中1950°Fで1.5時間応力除去した後、アルゴンで急冷するプロセス。
(ウ)ビルドプラテンから試験片としての部材を切り出すプロセス。
(エ)試験片をアルゴン雰囲気にて圧力15ksi、温度2125°Fで4時間維持した後、ゆっくりと冷却する熱間静水圧プレス(HIP: Hot-Isostatic Pressing)を行うプロセス。
(オ)試験片を真空中2150 °Fで1時間均質化し、アルゴン中で1100°F未満に10分未満で急冷するプロセス。
(カ)試験片を真空中1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷するプロセス。
(キ)試験片を1325°Fで8時間、続いて1150°Fで10時間の2ステップで時効処理するプロセス。

ウ そして、上記アの「クーポン」は上記イの「試験片」に相当すると判断されるから、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「以下、(ア)〜(キ)のプロセスを順に行うことによるIN718ニッケル基超合金の試験片の製造方法。
(ア)コンセプトM2粉末床融解選択的レーザー溶融機を使用したビルドにより、IN718ニッケル基超合金の試験片を作製するプロセス。
(イ)試験片を真空中1950°Fで1.5時間応力除去した後、アルゴンで急冷するプロセス。
(ウ)ビルドプラテンから試験片としての部材を切り出すプロセス。
(エ)試験片をアルゴン雰囲気にて圧力15ksi、温度2125°Fで4時間維持した後、「ゆっくりと冷却する熱間静水圧プレス(HIP: Hot-Isostatic Pressing)を行うプロセス。
(オ)試験片を真空中2150°Fで1時間均質化し、アルゴン中で1100°F未満に10分未満で急冷するプロセス。
(カ)試験片を真空中1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷するプロセス。
(キ)試験片を1325°Fで8時間、続いて1150°Fで10時間の2ステップで時効処理するプロセス。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「プロセス」は、本件発明1の「工程」に相当する。

(イ)甲1発明の(ア)のプロセスの「IN718ニッケル基超合金」、「IN718ニッケル基超合金の試験片」及び「コンセプトM2粉末床融解選択的レーザー溶融機を使用したビルド」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」、「金属部材」及び「アディティブ・マニュファクチャリング」に相当する。そして、甲1発明の「コンセプトM2粉末床融解選択的レーザー溶融機を使用したビルドにより、IN718ニッケル基超合金の試験片を作製する」(ア)のプロセスは、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(ウ)甲1発明は、少なくとも(カ)のプロセスにおいて試験片の「真空中」での「溶体化処理」を行うものであるから、本件発明1と甲1発明とは、「真空雰囲気」で「金属部材に対して溶体化処理を行う工程」を具備する点において一致する。

(エ)甲1発明の(カ)のプロセスに続く(キ)のプロセスにおいて、「時効処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当する。また、当該時効処理の熱処理温度「1325°F」及び「1150°F」は、それぞれ「718℃」及び「621℃」に相当するから、これらの温度での熱処理は、いずれも本件発明1の「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理」に相当する。そして、甲1発明の(キ)のプロセスは、本件発明1の「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」としての「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」に相当する。

(オ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲1発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(カ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
<一致点1>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記溶体化処理を行う工程は、
真空雰囲気で行う工程を含み、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲1発明は、(カ)のプロセスとして、IN718ニッケル基超合金の試験片を1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷するプロセスは備えるものの、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点2>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲1発明には、そのような溶体化処理における熱処理温度の制限が特定されていない点。

イ 相違点の検討
相違点1について検討する。
(ア)相違点1が実質的な相違点であることについて
a 甲1発明の溶体化処理の熱処理温度について
(a)甲1発明の「IN718」と、本件明細書【0019】に記載の「インコネル718」との対応関係について検討すると、例えば、甲3(原文)において、第3頁第9行に「Inconel 718」と記載されているのに対し、第6頁第7行に「Inconel(e.g. ・・・IN718)」(点線(・・・)は当審による記載抽出の省略を示す。(以下同じ。))と記載されているように、「IN718」が「Inconel 718」、すなわち、「インコネル718」の略称であることは、本件特許に係る出願の出願前において周知であるから、甲1発明の「IN718」は、本件明細書【0019】に「固相線温度が1260℃」と説明される「インコネル718」に相当するものである。
そして、そのような甲1発明の「IN718」は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(b)これに対し、甲1発明の(カ)のプロセスの溶体化処理の熱処理温度は「1750°F」で、これは「954℃」に相当しており、上記(a)を踏まえると、甲1発明の(カ)のプロセスの溶体化処理の熱処理温度(954℃相当)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)に相当するものではない。

b 甲1発明の均質化が溶体化処理に相当するともいえないことについて
(a)また、甲1発明は、(カ)のプロセスの直前に行われる(オ)のプロセスとして、「2150°F」の温度で均質化が行われるものであって、「2150°F」は「1177℃」に相当することから、仮に、甲1発明の(オ)のプロセスの「均質化」が、「溶体化処理」に相当するものであるとして、上記a(a)の検討内容を踏まえると、甲1発明の(オ)のプロセスの均質化の熱処理温度「2150°F」は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」の温度に相当するといえる余地もあるので、この点についても検討する。
(b)しかしながら、たとえば、特開平7−11405号公報(申立人が特許異議の申立ての理由において提示している証拠方法ではなく、当審により例示するもの。)において、
「【0031】[均質化処理]得られたインゴットの熱間塑性加工に先立ち、ミクロ偏析を低減して組織を均一化することによって加工時の割れを防止するために、均質化処理を行う。本発明合金にあってはNb、W、Cr等の濃厚偏析に伴ってCr2 Nb型を基本とするLaves 相なる金属間化合物が凝固時のミクロ偏析に伴って生成する。この相は極めて脆く、熱間塑性変形時に割れの起点となるため、熱処理によって拡散・消失させる必要がある。
【0032】そのためにはNbやW等の合金元素の拡散速度が大きい融点直下のできるだけ高温で長時間熱処理を行うことが望ましいが、一方、そのような高温での熱処理はミクロ偏析の無い部分での結晶粒の粗大化を招くため、これではかえって加工性を低下させる悪影響をもたらす場合があることと、高温長時間の熱処理は製造コストを大幅に上昇させることから経済性をも考慮して、温度は1000〜1300℃で、時間は1時間〜200 時間とした。」
との均質化処理に関する説明がなされている一方、
「【0037】[第一溶体化熱処理]熱間加工後に冷却に先立って900 ℃以上1050℃以下に1分〜100 時間保持する。これは、その後の時効処理によってNi3Nb を主体とする強化相γ" を有効に析出させるために、いったんNbを固溶させる目的と、第二熱間塑性加工時に結晶粒径を微細化させる前処理として一時的にγ" 相の安定相であるδ相を析出させるために行うのであって、次に第二熱間塑性加工を行う場合には次の二つに分けられる。
(i) 980 〜1050℃×1分〜20時間 (Nb固溶化処理)
(ii)900 〜980 ℃×20〜100 時間 (δ相析出処理) 。」
及び
「【0042】[第二溶体化熱処理]第二熱間塑性加工を行ってから、900 〜1050℃で1分〜100 時間加熱する溶体化熱処理を行う。これは前述の第一溶体化熱処理と同様の目的で行うものであり、この場合には加熱温度の上限は結晶粒の粗大化しない1050℃である。」
との溶体化熱処理に関する説明が別途なされているように、均質化と溶体化とは、本件特許に係る出願の出願前から、異なる目的の熱処理として当業者には知られていたものであるし、甲1発明の(オ)のプロセスの均質化と(カ)のプロセスの溶体化処理も、甲1において明確に書き分けされていることからみて、互いに異なる目的の熱処理と解するのが自然である。
そうすると、甲1発明において「2150°F」の温度で均質化が行われる(オ)のプロセスは、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」とはいえないものである。

c 小括
以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。

(イ)相違点1の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点1に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1の相違点1に係る「溶体化処理を行う工程」における熱処理温度範囲の発明特定事項は、本件明細書の記載(【0018】〜【0021】、【0035】)によれば、鍛造や鋳造によって成形されたNi基合金の金属部材の溶体化処理において一般的に用いられる温度範囲よりも相当に高いが、固溶線温度から少し離れた温度範囲の溶体化処理を行うことにより、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保することができるという、技術的意味を理解することができる。

b 甲1、3、8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1、3、8、及び16の記載(なお、このうち甲3及び8の記載事項は、それぞれ以下の3(1)及び8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点1の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点1が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような本件発明1における相違点1に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1、3、8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲1発明の「真空中1750°Fで1時間」との条件による「溶体化処理」を相違点1の条件を満たすように条件変更して実行することは、甲1、3、8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点1は、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由1(新規性進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。
したがって、申立理由1(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(新規性進歩性)について
(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
なお、甲2の翻訳文は、申立人が提示した抄訳文が存在する箇所は該抄訳文を採用(ただし、誤記箇所を除く。)し、他の箇所は当審による。

ア 「IN718 Additive Manufacturing Properties and Influences」(第1頁表題)
[翻訳文]
IN718アディティブ・マニュファクチャリング特性及び影響

イ 「Material Information:
・The materials tested were IN718 nickel-base superalloy.
・Specimens were produced as a dedicated build or as representatives of the build lot where parts were produced.
・Two heat treat conditions are represented, and both received stress relief and hot isostatic pressing (HIP) processing, as follows:
○Stress Relieve at 1950F, vacuum, 1.5 hours, then quench in argon.
○Excise parts from build platen.
○HIP 2125F, 15 ksi argon, 3 hours, furnace cool (4 hours).
・Some specimens received heat treat A: after stress relief and HIP* the following was performed
○Homogenize 2150F, vacuum, 1 hour, quench to 1100F in argon in less than 10 minutes.
○Solution treat and age per AMS 5663.
・Other specimens received heat treat D: after stress relief and HIP the following was performed
○No homogenization step was performed.
○Solution treat and age per AMS 5664.
○Surfaces were either bead blasted micro-machining processed (MMP) finished per a proprietary process.」(第4頁第1行〜第17行)
[翻訳文]
材料情報:
・試験した材料は、IN718ニッケル基超合金とした。
・試験片は、専用のビルドとして、または部品が製造されたビルドロットを代表するものとして製造された。
・2つの熱処理条件が示されており、両方とも以下の応力除去と熱間静水圧プレス(HIP)処理を受けた:
〇1950F、真空、1.5時間で応力除去、アルゴンで急冷。
〇ビルドプラテンから部材の切り出し。
〇HIP 2125F、15ksiのアルゴン、3時間、炉冷(4時間)。
・試験片の一部は、熱処理Aで処理した。:応力除去とHIP*の後、以下を行った。
〇2150F、真空、1時間で均質化、アルゴン中で1100Fに10分未満で急冷。
〇AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理。
・他の試験片は、熱処理Dで処理した。:応力除去とHIPの後、以下を行った。
〇均質化ステップは行わなかった。
〇AMS5664に準じた溶体化処理と時効処理。
〇表面は、独自のプロセスに従ってビードブラストまたはマイクロマシニング処理(MMP)仕上げのいずれかを行った。

(2)甲2に記載された発明
ア 上記(1)アによると、甲2は「IN718アディティブ・マニュファクチャリング特性及び影響」を示す文献である。

イ また、甲2に記載された上記(1)イの試験片は、上記アの「IN718アディティブ・マニュファクチャリング特性及び影響」を調べるための試験片であり、上記(1)イの熱処理がなされる前には、「(ア)IN718ニッケル基超合金を用いたアディティブ・マニュファクチャリングにより試験片を製造するプロセス」が行われることは明らかである。

ウ そして、上記(1)イの試験片に対する熱処理として、特に熱処理「A」が行われる場合に着目すると、甲2には、以下の順に行われる各プロセスが開示されているとも認められる。
「(イ)1950F、真空、1.5時間で応力除去、アルゴンで急冷するプロセス。
(ウ)ビルドプラテンから部材の切り出しを行うプロセス。
(エ)HIP 2125F、15ksiのアルゴン、3時間、炉冷(4時間)の処理を行うプロセス。
(オ)2150F、真空、1時間で均質化、アルゴン中で1100Fに10分未満で急冷するプロセス。
(カ)AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理を行うプロセス。」

エ そうすると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「以下、(ア)〜(カ)のプロセスを順に行うことによる試験片の製造方法。
(ア)IN718ニッケル基超合金を用いたアディティブ・マニュファクチャリングにより試験片を製造するプロセス。
(イ)1950F、真空、1.5時間で応力除去、アルゴンで急冷するプロセス。
(ウ)ビルドプラテンから部材の切り出しを行うプロセス。
(エ)HIP 2125F、15ksiのアルゴン、3時間、炉冷(4時間)の処理を行うプロセス。
(オ)2150F、真空、1時間で均質化、アルゴン中で1100Fに10分未満で急冷するプロセス。
(カ)AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理を行うプロセス。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「プロセス」は、本件発明1の「工程」に相当する。

(イ)甲2発明の(ア)のプロセスの「IN718ニッケル基超合金」は、本件発明1の「Ni基合金」に相当する。また、甲2発明の「IN718ニッケル基超合金」の「試験片」は、本件発明1の「金属部材」に相当する。そして、甲2発明の「IN718ニッケル基超合金を用いたアディティブ・マニュファクチャリングにより試験片を製造する」(ア)のプロセスは、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(ウ)甲2発明の(カ)のプロセスの「時効処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当しており、甲2発明の「溶体化処理と時効処理を行うプロセス」は、本件発明1同様に「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを具備するものと解される。

(エ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲2発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
<一致点2>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備する
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲2発明には、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点4>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲2発明には、そのような溶体化処理における熱処理温度の制限が特定されていない点。

<相違点5>
本件発明1は、溶体化処理を「常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気」で行うものであるのに対し、甲2発明には、本件発明1のような雰囲気で溶体化処理を行うことは直接開示されていない点。

<相違点6>
本件発明1の「析出硬化処理を行う工程」は、「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲2発明には、本件発明1のような温度範囲で時効処理を行うことは開示されていない点。

イ 相違点の検討
(ア)甲2発明の「AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理」について
具体的な相違点の検討に入る前に、甲2発明の(カ)のプロセスの「AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理」について検討しておく。
a 甲1記載の「AMS5663に準じた熱処理」について
上記1(1)ウのとおり、甲1には、「次に、これらを真空中1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷した後、1325°Fで8時間、続いて1150°Fで10時間の2ステップで時効処理した。これはAMS5663に準じた熱処理である[1]。」との記載がある。

b 甲2発明の溶体化処理と時効処理の適用条件について
そして、上記aの甲1の記載を参照すると、甲2発明の(カ)のプロセスにおける「AMS5663に準じた溶体化処理と時効処理」は、実質的に「真空中1750°Fで1時間溶体化処理し、アルゴンで急冷した後、1325°Fで8時間、続いて1150°Fで10時間の2ステップで時効処理」することを指していると、読替えができる。

(イ)相違点3が実質的な相違点であることについて
上記(ア)を踏まえた上で、相違点3について検討する。
a 甲2発明の溶体化処理の熱処理温度について
(a)甲2発明の試験片に用いられる「IN718」の固相線温度は、上記1(3)イ(ア)aで検討したのと同様に1260℃であるから、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(b)これに対し、上記(ア)bで述べたとおり、甲2発明の(カ)のプロセスにおける「AMS5663に準じた溶体化処理」は、甲1発明の(カ)のプロセス同様、「真空中1750°Fで1時間溶体化処理」することを意味していると解されるから、上記1(3)イ(ア)bで検討したように、甲2発明の(カ)のプロセスの溶体化処理の熱処理温度は「954℃」に相当し、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)に相当するものではない。

b 甲2発明の均質化が溶体化処理に相当するともいえないことについて
また、甲2発明は、(カ)のプロセスの直前に行われる(オ)のプロセスとして、「2150F」の温度で均質化が行われるものであって、「2150F」は「1177℃」に相当することから、上記a(a)の検討内容を踏まえると、仮に、甲2発明の(オ)のプロセスの「均質化」が、「溶体化処理」に相当するものであるとして、甲2発明の(オ)のプロセスの均質化の熱処理温度(1177℃相当)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)のものといえそうではある。
しかしながら、実際には、上記1(3)イ(ア)bで検討したのと同様、甲2発明において1177℃相当の温度で均質化が行われる(オ)のプロセスは、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」とはいえないものである。

c 小括
以上によれば、相違点3は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえない。

(ウ)相違点3の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点3に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点3は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点3に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜3、8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜3、8、及び16の記載(なお、このうち甲3及び8の記載事項は、それぞれ以下の3(1)及び8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点3の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点3が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点3に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜3、8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲2発明の「溶体化処理」を相違点3の条件を満たすように実行することは、甲1〜3、8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点3は、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点4〜6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由2(新規性進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1、3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。
したがって、申立理由2(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(進歩性)について
(1)甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
なお、甲3の翻訳文は、申立人が提示した抄訳文が存在する箇所は該抄訳文を採用し、他の箇所は当審による。

ア 「Abstract: The present disclosure provides a method of preparing superalloy metals having a crystallographic texture controlled micro structure by electron beam melting.」(第1頁要約)
[翻訳文]
要約: 本開示は、電子ビーム溶解による結晶組織の制御された微細構造を有する超合金を製造する方法を提供する。

イ 「In certain embodiments, the process for the preparation of a superalloy metal according to the invention further comprises subjecting the superalloy metal, after processing, to heat treatment, hot isostatic pressing (HIP), or both. In embodiments where the after processing steps are performed the heat treatment and the hot isostatic pressing can be performed in any order.
In some embodiments, the processing step is performed by electron beam melting, electron beam solid freeform fabrication, epitaxial laser beam formation, laser engineered net shaping, spray forming, three-dimensional printing, shaped metal deposition, or metal inert gas welding. In particular embodiments, the processing step is performed by electron beam melting.」(第2頁第14行〜第22行)
[翻訳文]
ある実施形態において、本発明に係る超合金の調製プロセスは、処理後、超合金を、熱処理、熱間静水圧プレス(HIP)又はその両方に供することを更に含む。処理後工程が行われる実施形態において、熱処理及び熱間静水圧プレスは、任意の順序で行うことができる。
幾つかの実施形態において、処理工程は、電子ビーム溶解、電子ビーム固体フリーフォーム製造、エピタキシャルレーザービーム成形、レーザー直接積層法、溶射成形、3Dプリンタ、成形金属蒸着又はミグ溶接によって行われる。特定の実施形態において、処理工程は、電子ビーム溶解によって行われる。

ウ 「In still other embodiments, the metal alloy powder composition comprises a powder of Inconel 718, Inconel 600, Inconel 625, Inconel X-750, or Inconel 100.
In a specific embodiment, the metal alloy powder composition comprises a powder of Inconel 718.」(第3頁第8行〜第11行)
[翻訳文]
更に他の実施形態において、金属合金粉体組成物は、Inconel 718、Inconel 600、Inconel 625、Inconel X-750 又は Inconel 100 の粉体を含む。
特定の実施形態において、金属合金粉体組成物は、Inconel 718 の粉体を含む。

エ In certain embodiments, the process for the preparation of a superalloy metal according to the invention further comprises subjecting the superalloy metal, after processing, to heat treatment, hot isostatic pressing (HIP), or both. Such after processing steps provide increased control over the ultimate texture/micro structure as well as the ductility and creep resistance. In embodiments where the after processing steps are performed the heat treatment and the hot isostatic pressing can be performed in any order.
Such heat treatment can be performed using standard methods known in the art, for example, and without limitation, the methods of DeAntonio-ASM International, ASM Handbook,1991;or Harf(US4,676,846),each of which is incorporated herein by reference. In general, and without limitation, heat treatment is performed at 750-2500°F for about 15 minutes-3 hours. In certain embodiments, heat treatment is performed at 1000-2200°F, 1500-2000°F, or 1800-1900°F, for about 30 minutes-2 hours, about 45 minutes - 90 minutes, or about 1 hour.
Similarly, such hot isostatic pressing can be performed using standard methods known in the art, for example, and without limitation, the methods of ASTM A1080-12; ASTM A989/A989M-13;DeAntonio-ASM International, ASM Handbook,1991;Neil (U.S.4,952,353),or HT Larker, R Larker-Materials Science and Technology,1991,each of which is incorporated herein by reference. In general, and without limitation, hot isostatic pressing is performed at 500-2500°C and 5-25 ksi, for about 30 minutes - 8 hours. In certain embodiments, heat treatment is performed at 750-2000℃,1000-1500℃,or 1100-1200℃;and at 10-20ksi,12-17 ksi, or about 15ksi;for a about 1 hour-6 hours, about 3 hours-5 hours, or about 4 hours.(第10頁第1行〜第20行)
[翻訳文]
ある実施形態において、本発明に係る超合金の調製プロセスは、処理後、超合金を、熱処理、熱間静水圧プレス(HIP)又はその両方に供することを更に含む。そのような処理後工程によって、最終的なテクスチャ/微細構造並びに延性及びクリープ抵抗に対する制御の増大が得られる。処理後工程が行われる実施形態において、熱処理及び熱間静水圧プレスは、任意の順序で行うことができる。
そのような熱処理は、当該技術分野において既知の標準的な方法、例えば、限定はされないが、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる DeAntonio-ASM International ASM Handbook,1991又はHarf(米国特許第4,676,846号明細書)の方法を使用して行うことができる。一般に、且つこれに限定はされないが、熱処理は、750〜2500°Fで、約15分から3時間行われる。ある実施形態において、熱処理は、1000〜2200°F、1500〜2000°F又は1800〜1900°Fで、約30分〜2時間、約45分〜90分又は約1時間行われる。
同様に、そのような熱間静水圧プレスは、当該技術分野において既知の標準的な方法、例えば、限定はされないが、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる ASTM A1080-12;ASTM A989/A989M-13;DeAntonio-ASM International, ASM Handbook,199l;Neil(米国特許第4,952,353号明細書)又は HT Larker, R Larker-Materials Science and Technology,1991の方法を使用して行うことができる。一般に、且つ限定はされないが、熱間静水圧プレスは、500〜2500℃且つ5〜25ksiで、約30分〜8時間行われる。ある実施形態において、熱処理は、750〜2000℃、1000〜1500°又は1100〜1200℃で且つ10〜20ksi、12〜17ksi又は約15ksiで、約1時間〜6時間、約3時間〜5時間又は約4時間行われる。

オ Cylindrical IN718 rods(0.75”-dia x 4”long) were built layer by layer using IN 718 powders by electron beam melting on a heated stainless steel plate in vacuum.(第14頁第11行〜第12行)
[翻訳文]
円筒状のIN718のロッド(直径0.75”x 長さ4”)を、真空下、加熱したステンレス銅プレート上に、電子ビーム溶解によりIN718粉体を用いて積層形成した。

カ Heat treatment of as-processed EBM IN 718 rods at 1900F/1hr+standard IN 718 solution & precipitation heat treatment resulted in gradual reduction in texture and introduced grain coarsening with little delta phase being present as shown in Figure 10 (data collected on transverse section).(第16頁第6行〜第9行)
[翻訳文]
処理後のEBM IN718ロッドを1900F/1時間+標準IN718溶体化&析出熱処理で熱処理した結果、図10(横断面で収集したデータ)に示すように、テクスチャの漸減及びデルタ相の少ない結晶粒粗大化の導入が得られた。

キ The as-processed EBM IN 718 rods were subjected to hot isostatic pressing (HIP) at 1163C(2125F)/15 ksi/4hr.In general, there is an overall reduction of porosity and considerable grain coarsening. The average grain size was larger than ASTM 1 as shown in Figure 12a and b. The hardness values for both transverse(planar) and longitudinal (axial) sections were the same〜30.5 RC.(第16頁第17行〜第21行)
[翻訳文]
処理後のEBM IN718ロッドを、1163C(2125F)/15ksi/4時間で熱間静水圧プレス(HIP)に供した。概して、多孔性の全体的な減少及び相当な結晶粒粗大化がある。平均粒径は、図12a及びbに示すように、ASTM1よりも大きかった。横(平面)断面及び縦(軸方向)断面の硬度値は両方とも同じ約30.5RCだった。

ク 「Tensile tests were conducted on Hip'd and heat treated EBM 718 specimens at RT & 1200F (see tables A and Bbelow).

Table A: Tensile Properties of Hip'ed and Heat Treated EBM 718


* Hip'ed at 1163C(2125F)/15 ksi/4h+Post HIP Heat treatment:
(a)Solution HT:1750±25F/1 hr−5min/+15min suitable protective atmosphere(Ar, He, VAC),Air Cool or Faster
(b)Aging Precip HT:1325±25F/8 hr±24 min, suitable protective atmosphere (Ar, He, VAC), Furnace cool to 1150F+1150±25F/8 hr±24 min, suitable protective atmosphere (Ar, He, VAC),Air Cool or Faster」(第17頁第8行〜第17行)
[翻訳文]
HIP後(Hip’d)且つ熱処理後のEBM 718試料に対して、RT&1200Fで引張試験を行った(以下の表A及びBを参照)

表A:HIP後(Hip’d)且つ熱処理後のEBM718の引張特性

*1163C(2125F)/15ksi/4hでHip+HIP後熱処理:
(a)溶体化処理:1750±25F/1hr−5min/+15min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷
(b)時効析出処理:1325±25F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、1150Fまで炉冷+1150±25F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷

ケ 「Table B: Tensile Properties of Hip'ed and Heat Treated EBM 718


*Hip'ed at 1163C(2125F)/15 ksi/4h+Post HIP Heat treatment:
(a)Solution HT:1750±25F/lhr−5min/+15min suitable protective atmosphere(Ar, He, VAC),Air Cool or Faster
(b)Aging Precip HT: 1325±25F/8 hr±24 min, suitable protective atmosphere(Ar, He, VAC),Furnace cool to 1150F+1150±25F/8 hr±24 min,suitable protective atmosphere(Ar, He, VAC),Air Cool or Faster」(第18頁第1行〜第8行)
[翻訳文]
表B:HIP後(Hip’ed)且つ熱処理後のEBM718の引張特性

*1163C(2125F)/15ksi/4hでHip+HIP後熱処理:
(a)溶体化処理:1750±25F/1hr−5min/+15min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷
(b)時効析出処理:1325±25F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、1150Fまで炉冷+1150±25F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷

コ 「1. A process for the preparation of a superalloy metal comprising the step of providing a metal alloy powder composition; providing a seed crystal; processing the metal alloy powder composition in the presence of the seed crystal to provide a superalloy metal having a highly textured or single crystal microstructure.」(第20頁請求項1)
[翻訳文]
1.金属合金粉末を提供し;種結晶を提供し;種結晶の存在下に金属合金粉末を高度集合組織又は単結晶ミクロ構造の超合金金属となるよう処理する各ステップを備えた、超合金金属の製造方法。

(2)甲3に記載された発明
ア 甲3には、上記(1)アのように結晶組織が制御された上記(1)コの超合金金属の製造方法の具体例に相当するものとして、上記(1)オのIN718のロッドの形成方法が示されている。

イ また、甲3には、上記アのように製造された超合金金属を、上記(1)カのように熱処理したり、上記(1)キのように熱間静水圧プレス(HIP)に供したりすることが記載されており、また、上記(1)ク及びケに示す甲3の表A及びBに関する補足説明では、HIP後に熱処理する場合のHIP及び熱処理に関する具体的な条件が示されている。
なお、甲3に温度を表す単位として記載の「C」及び「F」は、それぞれ「℃」及び「°F」を意味すると解され、本来あるべき正しい温度の単位表記となっていないため、以後そのように読み替える。

ウ そうすると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
「以下、(ア)〜(エ)の工程を順に行うことによる超合金金属の製造方法。
(ア)円筒状のIN718のロッド(直径0.75”x 長さ4”)を、真空下、加熱したステンレス銅プレート上に、電子ビーム溶解によりIN718粉体を用いて積層形成する工程。
(イ)1163℃(2125°F)/15ksi/4hという条件で熱間静水圧プレス(HIP)に供する工程。
(ウ)1750±25°F/1hr−5min/+15min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷という条件で溶体化処理する工程。
(エ)1325±25°F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、1150°Fまで炉冷という条件と、1150±25°F/8hr±24min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷との条件で時効析出処理する工程。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の(ア)の工程の「IN718」及び「円筒状のIN718のロッド」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」及び「金属部材」に相当する。そして、甲3発明の「円筒状のIN718のロッド(直径0.75”x 長さ4”)を、真空下、加熱したステンレス銅プレート上に、電子ビーム溶解によりIN718粉体を用いて積層形成する」(ア)の工程は、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(イ)甲3発明の(ウ)の工程で溶体化処理が行われる「適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)」は、本件発明1で溶体化処理が行われる雰囲気と、少なくとも「真空雰囲気」が選択可能な点において共通する。

(ウ)甲3発明の(エ)の工程の「時効析出処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当する。また、当該時効析出処理が行われる「1325±25°F」及び「1150±25°F」は、それぞれ「718±14℃」及び「621±14℃」に相当するから、これらの温度での熱処理は、いずれも本件発明1の「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理」に相当する。そして、甲3発明の(エ)の工程は、本件発明1の「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」としての「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」に相当する。

(エ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲3発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、
<一致点3>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して真空雰囲気で溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲3発明は、(ウ)の工程として、1750±25°F/1hr−5min/+15min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷という条件で溶体化処理する工程は備えるものの、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点8>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲3発明には、溶体化処理における熱処理温度について、そのような制限は特定されていない点。

イ 相違点の検討
相違点7について検討する。
(ア)相違点7が実質的な相違点であることについて
a 甲3発明の溶体化処理の熱処理温度について
(a)甲3発明のロッドの製造に用いられる「IN718」の固相線温度は、上記1(3)イ(ア)aで検討したのと同様に1260℃であるから、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(b)これに対し、甲3発明の(ウ)の工程の溶体化処理の熱処理温度は「1750±25°F」で、これは「954±14℃」に相当しており、上記(a)を踏まえると、甲3発明の(ウ)の工程の溶体化処理の熱処理温度「1750°±25°F」は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に相当するものではない。

b 小括
以上によれば、相違点7は実質的な相違点である。

(イ)相違点7の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点7に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点7は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点7に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜6、及び8〜16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜6、及び8〜16の記載(なお、このうち甲4、5、6、及び8の記載事項は、それぞれ以下の4(1)、5(1)、6(1)、及び8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点7の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点7が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点7に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜6、及び8〜16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲3発明の「1750±25°F/1hr−5min/+15min、適切な保護雰囲気(Ar、He、真空)、空冷又はより急冷という条件」による「溶体化処理」を相違点7の条件を満たすように条件変更して実行することは、甲1〜6、及び8〜16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点7は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由3(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲1、2、4〜6、及び8〜16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(進歩性)について
(1)甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
なお、甲4の翻訳文は、申立人が提示した抄訳文が存在する箇所は該抄訳文を採用し、他の箇所は当審による。

ア 「The present invention relates to a method for nickel-based alloy manufacturing with post heat-treatment to increase the mean grain size within the alloy of fine-grained structure comprising second-phase particles. The present invention relates further to a component manufactured using the method, particularly a component within a turbine.」(第1頁第6行〜第11行)
[翻訳文]
本発明は、第二相粒子を含む微細粒子構造の合金内の平均粒径を増加する後熱処理を伴うニッケル基合金製造方法に関する。本発明は、更に、本方法を用いて製造した部品、特に、タービン内の部品に関する。

イ 「An example for a superalloy is the Alloy 718, which is one of the most widely used nickel-based superalloys. The mechanical properties of Ni-based superalloys are very much depending on grain size of the fee gamma (γ) phase matrix. Life time and creep resistance increase with grain size. On the other hand, excessively large grains lower the tensile strength. In superalloys an equilibrium balance should be kept in order to achieve superior mechanical performance at elevated temperatures.」(第1頁第20行〜第28行)
[翻訳文]
超合金の例として 最も広く使用されているニッケル基超合金の1つであるAlloy718が挙げられる。ニッケル基超合金の機械特性は、面心立方ガンマ(γ)相マトリックスの粒径に大きく依存する。粒径に伴い、寿命と耐クリープ性が向上する。一方、粒子が大きすぎると、引張強度が低下する。超合金では、高温で優れた機械的性能を達成するために、平衡バランスを維持する必要がある。

ウ 「Recently, a variety of additive-layer manufacturing technologies employing electron and laser beam melting of metal powder precursors have been described. They have demonstrated novel prospects for developing complex and multifunctional components with applications in biomedical, aerospace, and automotive areas. More homogeneous microstructures suitable for high-temperature applications have been obtained by powder metallurgy, as for example described in D. Furrer and H. Fecht, ▼"▲Ni-based superalloys for turbine disks", JOM 51 (1999), 14-17.

However, compared to conventionally produced Ni-base superalloys for example in cast and wrought form, additive layer manufacturing can result in more fine-grained microstructures which are less advantageous in terms of fatigue and creep- rupture properties.」(第2頁第1行〜第16行)
(当審注:甲4の記載事項とした「▼"▲」は、「"」を上下左右反転させた表記の記号を意味する。)

[翻訳文]
近年、電子ビームおよびレーザービームによる金属粉末前駆体の溶融を採用する様々な積層造形技術が提案されている。これらにより、生物医学、航空宇宙、および自動車分野での応用を伴う複雑で多機能な部品を開発するための新しい展望が示されてきた。例えば、 D.Furrer および H.Fecht 著、「タービンディスク用のNi基超合金」、JOM51(1999)、14〜17頁に記載されているように、高温用途に適したより均質な微細構造が粉末冶金によって得られている。
しかしながら、例えば従来の鋳造および鍛造形態で製造されたNi基超合金と比較して、積層造形製造は、疲労およびクリープ破裂特性に関しあまり有利ではない、より微細な粒子構造をもたらし得る。

エ 「In order to improve fatigue crack growth resistance and mechanical properties at elevated temperatures, these alloys are then heat treated above their γ' solvus temperatures. This is generally referred to as a super-solvus heat treatment, to cause uniform coarsening of the grains.」(第2頁第25〜30行)
[翻訳文]
高温での疲労亀裂成長耐性および機械的特性を改善するために、これらの合金は、次いで、それらのγ'ソルバス温度より高い温度で熱処理される。これは、一般に、粒子の均一な粗大化を引き起こすためのスーパーソルバス熱処理と呼ばれる。

オ 「A method for nickel-based alloy manufacturing according to the present invention comprises a post heat-treatment to increase the mean grain size D within the alloy of fine-grained structure with second-phase particles. The second-phase particles can be for example carbon and/or boron containing compounds accumulated at the grain boundaries. An annealing step is comprised for a defined period of time t anneal, in hours respectively h, at a temperature T in the range of more than 1000℃.

During the post-heat treatment in form of annealing the second-phase particles are dissolved, particularly totally in the material matrix. Metal carbides and/or borides, particularly accumulated at the grain boundaries are dissolved at temperatures higher than 1000°C. The reduction and/or total solving of precipitates from the grain boundaries enables a grain size growth above a limiting grain size value DL, which exists in the presence of pinning second-phase particles.」(第4頁第19行〜第36行)
[翻訳文]
本発明に係るニッケル基合金の製造方法は、第二相粒子を含む微細粒子構造の合金内の平均粒径Dを増大する後熱処理を含む。第二相粒子は、例えば、粒界に蓄積された炭素および/またはホウ素含有化合物であり得る。アニーリングステップは、それぞれ時間単位hで定義された時間tannealと、1000℃を超える範囲の温度Tとにより構成される。
アニーリングの形態での後熱処理中に、第二相粒子は材料マトリックスに特に完全に溶解する。特に粒界に蓄積された金属炭化物および/またはホウ化物は、1000℃を超える温度で溶解する。粒界からの析出物の減少および/または完全な溶解により、ピン止めする第二相粒子の存在下で存在する限界粒径値DLを超える粒径成長が可能となる。

カ 「The temperature T during the annealing step can be in the range of 1140℃ to 1150℃. With a temperature T below 1000℃ metal carbides and/or borides are not dissolved. Very high temperatures T, for example above 1200℃ lead to an increase of grain size to values, where the material shows a strongly reduced tensile strength.

The nickel-based alloy can be a gamma double prime (γ'') precipitation-hardened nickel-base superalloy, particularly Alloy 718. This kind of alloy is widely used in components requiring high mechanical strength at high temperatures.」(第5頁第10行〜第20行)
[翻訳文]
アニーリングステップ中の温度Tは、1140℃〜1150℃の範囲であってよい。1000℃未満の温度Tでは、金属炭化物および/またはホウ化物は溶解しない。非常に高い温度T、例えば1200℃を超えると、粒径が材料の引張強度が大幅に低下する値まで増大する。
ニッケル基合金は、ガンマダブルプライム(γ'')析出硬化ニッケル基超合金、特にAlloy718でよい。この種の合金は、高温で高機械的強度を必要とする部品に広く使用されている。

キ 「The post-heat treatment according to the present invention can further facilitate a rapid relief of internal stresses, induced during additive manufacturing.

Nickel-base superalloys can contain 15 to 20% Fe, 17 to 20% Cr, 4.75 to 5.5% Nb, 2.8 to 3.3% Mo, 0.65 to 1.15% Ti, up to 0.6% Al, up to 0.05% C, up to 0.006% B, up to 0.015% P, the balance being nickel. Other compositions and components are possible too. The nickel-base superalloys can be produced for example by additive manufacturing techniques, e.g. selective laser melting or electron beam melting.

The nickel-base superalloys are used i.a. as material to produce components of arrangements like turbines, such as gas turbines, other engines and parts of heavy duty equipment. The process for improving the mechanical properties, such as fatigue and creep-rupture resistance, includes heat treatment of as-fabricated components in the temperature range 1140℃ to 1150℃ for 3 hours or more, so as to enable grain growth in the presence of inert second-phase particles up to a desired size range. The component can be then subjected to a two-step aging at temperatures of 719℃ and 621℃, respectively, and finally air cooled to room temperature.」(第9頁第8行〜第30行)
[翻訳文]
本発明に係る後熱処理は、積層造形中に誘発される内部応力の迅速な緩和を更に助長することができる。
ニッケル基超合金は、15〜20%のFe、17〜20%のCr、4.75〜5.5%のNb、2.8〜3.3%のMo、0.65〜1.15%のTi、最大0.6%のAl、最大0.05%のC、最大0.006%のB、最大0.015%のPを含み、その残部はニッケルである。他の組成物および成分も可能である。ニッケル基超合金は、例えば、選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術によって製造することができる。
ニッケル基超合金は、ガスタービンなどのタービン、その他のエンジン、及び、重機のパーツのような装置の部品を製造するための材料として使用される。耐疲労性や耐クリープ性などの機械的特性を改善するための加工には、製造したままの部品の熱処理を、不活性な第二相粒子の存在下において粒子の成長を所望のサイズ範囲まで可能とするように1140℃〜1150℃の温度範囲で3時間以上することが含まれる。次に、部品を、それぞれ719℃と621℃の温度で2ステップの時効処理にかけ、最後に室温まで空冷する。

ク 「1. Method for nickel-based alloy manufacturing with post heat-treatment to increase the mean grain size D within the alloy of fine-grained structure comprising second-phase precipitates, characterized in that an annealing step is comprised for a defined period of time tanneal at a temperature T in the range of more than 1000℃」(第12頁 請求項1)
[翻訳文]
1.第2相析出物を含む微細結晶粒構造の合金内の平均結晶粒径Dを増加させるための後熱処理を伴うニッケル基合金の製造方法であって、1000℃を超える範囲の温度Tで所定の時間tanneal行うアニーリングステップが含まれることを特徴とする方法。

ケ 「3. Method according to any one of claims 1 or 2, characterized in that the temperature T during the annealing step is substantially in the range of 1140℃ to 1150℃.」(第12頁 請求項3)
[翻訳文]
3.アニーリングステップ中の温度Tが実質的に1140℃〜1150℃の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。

コ 「4. Method according to any one of claims 1 to 3, characterized in that the nickel-based alloy is a gamma double prime (γ”) precipitation-hardened nickel-base superalloy, particularly Alloy 718.」(第12頁 請求項4)
[翻訳文]
4.前記ニッケル基合金が、ガンマダブルプライム(γ”)析出硬化ニッケル基超合金、特に合金718であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。

サ 「5. Method according to any one of claims 1 to 4, characterized in that the nickel based alloy is produced by additive layer manufacturing technologies, particularly selective laser beam melting.」(第12頁 請求項5)
[翻訳文]
5.ニッケル基合金が、積層造形技術、特に選択的レーザービーム溶融によって製造されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

(2)甲4に記載された発明
ア 上記(1)ア、エ、オ、カ及びキによると、甲4には、選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術によって製造する部品のニッケル基超合金に関し、1000℃を超える範囲の温度Tでアニーリングステップを実施することにより、粒界に蓄積される炭素および/またはホウ素含有化合物のようなピン止めにより限界粒径値を定める第二相粒子を材料マトリックスに溶解させることで、限界粒径値を超える粒径成長を可能とし、高温での疲労亀裂成長耐性および機械的特性を改善する発明が開示されていると認められる。

イ また、上記(1)イによると、ニッケル基超合金について、最も広く使用されている1つとして「Alloy718」が挙げられている。

ウ また、上記(1)キによれば、甲4には、以下の順に行われるニッケル基超合金の部品製造に関わる各工程が開示されているとも認められる。
「(ア)ニッケル基超合金の部品を、選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術によって製造する工程。
(イ)不活性な第二相粒子の存在下において粒子の成長を所望のサイズ範囲まで可能とするように1140℃〜1150℃の温度範囲で3時間以上、部品を熱処理する工程。
(ウ)部品をそれぞれ719℃と621℃の温度で2ステップの時効処理にかけ、最後に室温まで空冷する工程。

エ そうすると、甲4には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
「以下、(ア)〜(ウ)の工程を順に行うことによるAlloy718の部品の製造方法。
(ア)Alloy718の部品を、選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術によって製造する工程。
(イ)不活性な第二相粒子の存在下において粒子の成長を所望のサイズ範囲まで可能とするように1140℃〜1150℃の温度範囲で3時間以上、部品を熱処理する工程。
(ウ)部品をそれぞれ719℃と621℃の温度で2ステップの時効処理にかけ、最後に室温まで空冷する工程。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の(ア)の工程の「Alloy718」、「Alloy718の部品」及び「選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」、「金属部材」及び「アディティブ・マニュファクチャリング」に相当する。そして、甲4発明の「Alloy718の部品を、選択的レーザー溶融または電子ビーム溶融といった積層造形技術によって製造する」(ア)の工程は、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(イ)甲4発明の(イ)の工程の熱処理は、上記(1)オに説明されるとおり、粒界に蓄積された炭素および/またはホウ素含有化合物のような第二相粒子を材料マトリックスに溶解させ、粒径成長するためのものであるから、本件発明1の「溶体化処理」に相当する。

(ウ)甲4発明の(ウ)の工程の「時効処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当する。また、当該時効処理が行われる「719℃」及び「621℃」は、いずれも本件発明1の析出硬化処理が行われる「600℃以上、800℃以下の温度範囲」のものに相当する。そして、甲4発明の「部品をそれぞれ719℃と621℃の温度で2ステップの時効処理にかけ、最後に室温まで空冷する」(ウ)の工程は、本件発明1の「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」としての「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」に相当する。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲4発明とは、
<一致点4>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点9>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲4発明は、(イ)の工程として、1140℃から1150℃の温度範囲で3時間以上との条件により、溶体化処理相当の熱処理を行う工程は備えているものの、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点10>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲4発明には、溶体化処理相当の熱処理温度について、そのような制限は特定されていない点。

<相違点11>
本件発明1は、溶体化処理を「常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気」で行うものであるのに対し、甲4発明は、溶体化処理相当の熱処理について、どのような雰囲気で行うとも特定されていない点。

イ 相違点の検討
相違点9について検討する。
(ア)相違点9が実質的な相違点であることについて
a 甲4発明における溶体化処理相当の熱処理温度について
(a)甲4発明の部品製造に用いられる「Alloy718」の組成は、たとえば、特表2013−518726号公報の【0068】の表2に、「Alloy718」の公称化学的仕様(当審注:かかる表2中、Tiに関する「% w/ w.最大」欄の「1 15」なる表記は、正しくは「1.15」と表記すべきものと解される。)として、



と示されるような組成であることが知られている。
(b)その一方、本件明細書【0023】において、「規格で定められたインコネル718の化学組成を示す表である」ことが補足説明される本件図面【図2】には、



との組成が開示されている。
(c)そして、上記(a)の「Alloy718」と上記(b)の「インコネル718」とは、化学組成の範囲が一致していることから、甲4発明の「Alloy718」は、本件発明1の「Ni基合金」の具体例として本件明細書に記載された「インコネル718」に相当するものと考えられる。
(d)そうすると、甲4発明の部品製造に用いられる「インコネル718」の固相線温度は、上記1(3)イ(ア)aで検討したのと同様に1260℃であるから、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応する温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(e)そして、上記(d)を踏まえると、甲4発明の(イ)の工程の溶体化処理相当の熱処理温度(1140℃〜1150℃)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)に相当するものではない。

b 小括
以上によれば、相違点9は実質的な相違点である。

(イ)相違点9の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点9に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点9は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点9に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜4、8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜4、8、及び16の記載(なお、このうち甲8の記載事項は、それぞれ以下の8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点9の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点9が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点9に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜3、8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲4発明の「1140℃から1150℃の温度範囲で3時間以上」との条件による溶体化処理相当の熱処理を相違点9の条件を満たすように条件変更して実行することは、甲1〜4、8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点9は、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点10及び11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由4(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲1〜3、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由5(進歩性)について
(1)甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
なお、甲5の翻訳文は、申立人が提示した抄訳文が存在する箇所は該抄訳文を採用し、他の箇所は当審による。

ア 「Abstract
Significant contributions have been made in recent years to the development of Additive Manufacturing (AM) technology. Improvements in laser and electron beam-based AM equipment using powder injection, powder bed or wire feed systems have benefited from advances in software programs to convert complex CAD models into Digitally Manufactured parts. Wider acceptance of AM technology in, for example the aerospace industry, is driven by meeting stringent quality, schedule and cost requirements. These factors, in addition to the specific property requirements and level of part-family complexity, strongly influence the selection of the appropriate Additive Manufacturing process. This presentation will briefly review some of the factors and criteria that must be addressed to transition an "AM opportunity" into a viable business case.」(第455頁 要約)
[翻訳文]
要約
近年、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)技術の開発に著しい貢献がなされている。粉末噴射、粉末床またはワイヤ供給システムを使用するレーザー及び電子ビームベースのAM装置の改善は、複雑なCADモデルをデジタル製造部品に変換するソフトウェアプログラムの進歩から恩恵を受けてきた。例えば、航空宇宙産業におけるAM技術のより広範な受け入れは、厳しい品質、スケジュール及びコスト要件を満たすことによって推進される。これらの要因は、特定の特性要件及び部品群の複雑さのレベルに加えて、適切なアディティブ・マニュファクチャリングプロセスの選択に強く影響する。この発表は、「AM機会」を実用化するために対処しなければならない要素及び基準のいくつかについて、簡単な調査を行うものである。

イ 「Experimental Methods and Results
There is a plethora of possible AM processes, materials, part quality standards and design property requirements. Hence, the down-selection methodology to transition an "AM opportunity" into a viable business case needs to be discerning in coverage and cost effective. The metallurgical approach taken as part of the present work methodology was to define a standard shape, which could be manufactured by each AM process under consideration. The material of choice was INCONEL alloy 718, although 625 and Cobased alloys have also been evaluated. The standard shape was a 3.15 inch (80mm)-sided cube, which enabled X (run), Y (traverse), Z (build) and Z-interface orientations to be characterized and compared using ASTM approved specimens. The AM alloy 718 cubes from each process were evaluated for:
l. Microstructure and quality (porosity, inclusions etc.),
2. Mechanical properties (monotonic and time-dependent)
3. Shape-forming capability (surface finish and freeform fabrication).

Four relatively mature AM processes, were evaluated to down-select a suitable process that met structure/property/shape-forming and business case criteria for a given part family. The AM processes included Electron Beam Wire (Metal) Deposition (EBWD), Direct Metal Laser Sintering (DMLS), Laser Powder Deposition (LPD) and Gas Metal Arc Welding (GMAW). The EBWD process was evaluated in more detail and established (i) a methodology that was then adopted for the other AM processes, and (ii) a property data-base by which the other processes could be compared.」(第456頁第1行〜第22行)
[翻訳文]
実験方法と結果
考えられるAMプロセス、材料、部品品質基準、および設計特性要件は多数存在する。したがって、「AMの機会」を実用化するために選択肢を絞る方法論は、カバレッジと費用効果において慎重に検討する必要がある。現在の作業方法論の一部として採用された冶金学的アプローチは、検討中の各AMプロセスで製造できる標準形状を定義することであった。選択した材料はインコネル合金718であったが、625およびCo基合金も評価した。標準形状は、各辺3.15インチ(80mm)の立方体で、ASTMに準じた試験片を使用して、X(ラン)、Y(トラバース)、Z(ビルド)、およびZインターフェイスの方向を特徴付けて比較することを可能とした。各プロセスのAM合金718立方体は、以下の点で評価された。
1.微細構造と品質(気孔率、介在物など)、
2.機械的特性(モノトニックおよび時間依存)
3.形状形成能力(表面仕上げおよびフリーフォーム製造)
4つのAMプロセスを評価して、特定の部品ファミリの構造/特性/形状形成およびビジネスケースの基準を満たす適切なプロセスを選択(ダウンセレクト)した。AMプロセスには、電子ビームワイヤ(金属)蒸着(EBWD: Electron Beam Wire Deposition)、直接金属レーザー焼結(DMLS:Direct Metal Laser Sintering)、レーザー粉末蒸着(LPD:Laser Powder Deposition)、およびガス金属アーク溶接(GMAW:Gas Metal Arc Welding)が含まれていた。EBWDプロセスはより詳細に評価され、(i)その後に他のAMプロセスに採用された方法論、および(ii)他のプロセスが比較できる特性データベースが確立された。

ウ 「Precipitation hardenable alloy 718, similar to the solid solution alloy 625, shows the same temperature effect on grain shape during recrystallization. But, when as-sintered DMLS- 718 is given the conventional solution heat treatment (SHT) at 1750°F/1h, followed by the standard AMS 5663 precipitation (aging) heat treatment (1325°F/8h+1150°F/8h); the microstructural complexity is revealed, (Figure 12a), and is ostensibly reminiscent of a worked product. Re-solutioning as-sintered solid alloy at higher temperatures, then rapid cooling, produces equiaxed grains. Figure 12(b) shows an equiaxed, twinned microstructure (ASTM〜5) given a "homogenization" heat treatment. Homogenization of conventional (cast) alloy 718 is typically performed at 2000°F/1h to dissolve Laves phase. Surprisingly, insufficient recrystallization was observed even at l 950-2000°F. So 2100°F/1h was adopted in the present work simply to compare with alloy 625 shown in Figure 10(c); recognizing that delta phase also re-solutions above its solvus (〜l850°F) When given the full “homogenization+Solution Treat and Age (STA),” the more detailed microstructure shown in Figure 12(c), was developed.」(第463頁第33行〜第464頁第15行)
[翻訳文]
固溶強化合金625と同様の析出硬化合金718は、再結晶中の粒子形状に対して同じ温度効果を示す。しかし、焼結ままのDMLS718に1750°F/1時間で従来の溶体化熱処理(SHT:Solution Heat Treatment) を施した後、標準のAMS5663の析出(時効)熱処理(1325°F/8時間+1150°F/8時間)を行うと、微細構造の複雑さが明らかになり(図12a)、表面上は加工製品とよく似た状態となる。焼結ままの固体合金を高温で再溶解し、次に急冷すると、等軸結晶粒が生成される。図12(b)は、「均質化」熱処理を施した等軸双晶微細構造(ASTM〜5)を示す。従来の(鋳造)合金718の均質化は、通常、ラーベス相を溶解するために2000°F/1時間で行われる。驚いたことに、1950〜2000°Fでも不十分な再結晶が観察された。そのため、図10(c)に示す合金625と単に比較するために、本研究では2100°F/1時間を採用し、デルタ相もそのソルバス(〜1850°F)を超えると再溶解することを認識した。完全な「均質化+溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)を与えると、図12(c)に示すより細かな微細構造が生成した。

エ 「

Figure 12. Effect of Stress Relief/SHT temperature+/- STA on recrystallization response of as-sintered DMLS-718; (a) 1750°F/1h+STA, (b) 2100°F/1h SHT and (c) 2100°F/1h+STA.」(第464頁 図12の説明)
[翻訳文]
図12.焼結ままのDMLS−718の再結晶応答に対する応力除去/SHT温度十/−STAの影響。(a)1750°F/1時間+STA、(b)2100°F/1時間SHT、および(c)2100°F/1時間十STA。

(2)甲5に記載された発明
ア 上記(1)アより、甲5は、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)技術の実用化のため対処しなければならない要素及び基準についての調査結果を開示する文献と解される。

イ また、上記(1)イには、材料として「インコネル合金718」を選択した「試験片」を形成するアディティブ・マニュファクチャリング(AM)の一手法として「直接金属レーザー焼結(DMLS:Direct Metal Laser Sintering)」が挙げられていることも踏まえると、上記(1)ウにおける「焼結ままのDMLS718」(当審注:ここでは、申立人が提示した抄訳文の表現どおりに記載をしているが、正確には、上記(1)エのように「DMLS−718」と訳すべきものと考えられる。)は、図12に関し上記(1)エで説明される(a)〜(c)対応の各処理が行われる対象物であって、直接金属レーザー焼結によりインコネル合金718を焼結させたままの状態のものを指していると認められる。

ウ そして、上記ア及びイの検討内容を踏まえつつ、さらに、上記(1)ウ及びエの、特に図12(c)に関する処理工程に着目すると、甲5には、以下の順に行われるインコネル合金718の試験片の製造に関する各工程が開示されていると認められる。
(ア)アディティブ・マニュファクチャリングとしての直接金属レーザー焼結によりインコネル合金718を焼結する工程。
(イ)2100°F、1時間の条件で均質化熱処理を行う工程。
(ウ)溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)を行う工程。

エ そうすると、甲5には、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲5発明>
「以下、(ア)〜(ウ)の工程を順に行うことによるインコネル合金718の試験片の製造方法。
(ア)アディティブ・マニュファクチャリングとしての直接金属レーザー焼結によりインコネル合金718を焼結する工程。
(イ)2100°F、1時間の条件で均質化熱処理を行う工程。
(ウ)溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)を行う工程。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の(ア)の工程の「インコネル合金718」は、本件発明1の「Ni基合金」に相当する。そして、甲5発明のように「アディティブ・マニュファクチャリングとしての直接金属レーザー焼結によりインコネル合金718を焼結する」(ア)の工程は、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(イ)甲5発明の(ウ)の工程の「時効処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当しており、甲5発明の「溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)を行う工程」は、本件発明1と同様に「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを具備するものと解される。

(ウ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲5発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲5発明とは、
<一致点5>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備する
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点12>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲5発明には、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点13>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲5発明には、そのような溶体化処理における熱処理温度の制限が特定されていない点。

<相違点14>
本件発明1は、溶体化処理を「常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気」で行うものであるのに対し、甲5発明は、溶体化処理相当の熱処理について、どのような雰囲気で行うとも特定されていない点。

<相違点15>
本件発明1の「析出硬化処理を行う工程」は、「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲5発明には、本件発明1のような温度範囲で時効処理を行うことは開示されていない点。

イ 相違点の検討
(ア)甲5発明の(ウ)の工程の熱処理条件について
具体的な相違点の検討に入る前に、甲5発明の(ウ)の工程の「溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)」について検討しておく。
a 上記(1)ウには、図12(c)に関する処理工程の説明の前に、図12(c)との比較対象としての図12(a)に関する処理工程として、「焼結ままのDMLS718に1750°F/1時間で従来の溶体化熱処理(SHT:Solution Heat Treatment) を施した後、標準のAMS5663の析出(時効)熱処理(1325°F/8時間+1150°F/8時間)を行う」との説明がなされている。

b そして、上記(1)ウの図12(c)に関する処理工程の説明にある甲5発明の(ウ)の工程の「溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)」も、上記aの従来の溶体化熱処理及び析出(時効)熱処理の条件、すなわち、それぞれ「1750°F/1時間」及び「1325°F/8時間+1150°F/8時間」との熱処理条件で行われる、と解する余地がある。

(イ)相違点12が実質的な相違点であることについて
上記(ア)bのとおり、甲5発明の(ウ)の工程に関し、甲5の記載は、溶体化処理が「1750°F/1時間」及び時効処理が「1325°F/8時間+1150°F/8時間」なる熱処理条件で行われる意図に解せると仮定した場合の相違点12について検討する。

a 甲5発明の溶体化処理及び時効処理の熱処理温度について
(a)甲5発明の(ウ)の工程について、溶体化処理の「1750°F/1時間」及び時効処理の「1325°F/8時間+1150°F/8時間」との熱処理条件において、「1750°F」、「1325°F」及び「1150°F」は、それぞれ「954℃」、「718℃」及び「621℃」と換算できる。
(b)また、甲5発明の試験片に用いられる「インコネル合金718」は、本件明細書【0019】において「固相線温度が1260℃」と説明される「インコネル718」に相当するから、上記1(3)イ(ア)aで検討したのと同様、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(c)そうすると、甲5発明の(ウ)の工程の「溶体化処理および時効処理(STA:Solution Treat and Age)」のうち、時効処理の熱処理温度(718℃及び621℃に相当)は、本件発明1の析出硬化処理に関する「600℃以上、800℃以下の温度範囲」に相当するものの、上記(b)を踏まえると、他方の溶体化処理の熱処理温度(954℃に相当)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)に相当するものではない。

b 甲5発明の均質化が溶体化処理に相当するともいえないことについて
甲5発明は、(ウ)の工程の直前に行われる(イ)の工程として、「2100°F」の温度で均質化が行われるものであって、「2100°F」は「1149℃」に相当することから、上記a(b)の検討内容を踏まえると、仮に、甲5発明の(イ)の工程の「均質化」が、「溶体化処理」に相当するものであるとして、甲5発明の(イ)の工程の均質化の熱処理温度(1149℃相当)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」のものといえそうではある。
しかしながら、実際には、上記1(3)イ(ア)bで検討したのと同様、甲5発明において1149℃相当の温度で均質化が行われる(イ)の工程は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」とはいえないものである。

c 小括
以上によれば、相違点12は実質的な相違点である。

(イ)相違点12の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点12に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点12は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点12に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜6、8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜6、8、及び16の記載(なお、このうち甲6、及び8の記載事項は、それぞれ以下の6(1)、及び8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点12の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点12が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点12に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜6、8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲5発明の「溶体化処理」を相違点12の条件を満たすように実行することは、甲1〜6、8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点12は、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点13〜15について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由5(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲5に記載された発明に基いて、または、甲5に記載された発明と甲1〜4、6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由6(進歩性)について
(1)甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
なお、甲6の翻訳文は、申立人が提示した抄訳文が存在する箇所は該抄訳文を採用し、他の箇所は当審による。

ア 「ABSTRAST
The additive manufacturing technique selective laser melting (SLM) is compared to forging and casting regarding differences in microstructure and mechanical properties of lnconel 718, a commonly and widely used nickel-based superalloy. Semi-finished parts were produced by different manufacturing techniques and tensile test samples were prepared. Tensile tests were performed at room and elevated temperatures (450℃ and 650℃). Microstructural investigations were done by optical and scanning electron microscopy (SEM). The results show the capability of the SLM-process to produce parts with mechanical properties better than forged and cast material at room temperature and equal properties to forged material at elevated temperatures with a high proportion of intragranular δ-phase in the SLM processed material.」
[翻訳文]
要約
アディティブ・マニュファクチャリング技術の選択的レーザー溶融(SLM)は、一般に広く使用されているニッケル基超合金であるインコネル718の微細構造および機械的特性の違いに関し、鍛造および鋳造と比較される。様々な製造技術によって半完成部品を製造し、引張試験試料を調製した。引張試験は、室温および高温(450℃および650℃)で行った。光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)によって微細構造の調査を行った。結果は、室温で鍛造および鋳造材料よりも良好な機械的特性を有し、高温で鍛造材料と同等の特性を有し、SLM処理された材料中の粒内δ相の割合が高いペレットを製造するSLMプロセスの能力を示す。

イ 「2.1. SLM-material
The powdered lnconel 718 was shaped into cylindrical bars by selective laser melting using processing parameters, scan strategy and building rate, optimized over several years [10]. As depicted in Fig. 1(b) the cylindrical bars from which the samples were cut (13 mm in diameter and 71 mm in length) were built up in three different orientations (horizontal, vertical and 45°) to reflect the direction dependency of the mechanical properties. The samples were cut off the building platform and solution heat treated at 980°C for 1 h. Aging was performed at 718°C for 8 h followed by 621°C for 8 h.」(第429頁左欄第6行〜 第17行)
[翻訳文]
2.1.SLM材料
粉末化されたインコネル718を、数年にわたって最適化された処理パラメータ、スキャン方式、およびビルド速度を用いた選択的レーザー溶融によって円柱状のバーに成形した[10]。図1(b)に示すように、サンプル(直径13mm、長さ71mm)を切り取った円柱状のバーは、機械的特性の方向依存性を反映するために3つの異なる方向(水平、垂直、45°)でビルドされたものである。サンプルをビルド用プラットフォームから切り離し、980℃で1時間の溶体化処理を行った。時効処理は718℃で8時間行った後、621℃で8時間行った。

ウ 「To improve the mechanical properties of the SLM samples, especially at high temperatures, the formation of intragranular δ-phase must be diminished. By homogenization above 1030℃ δ-phase is dissolved and a subsequent heat treatment results in SLM microstructure similar to the forged and cast microstructure with almost exclusively δ-phase at the grain boundaries [9,10].」(第431頁左欄第11行〜第17行)
[翻訳文]
特に高温でのSLMサンプルの機械的特性を改善するには、粒内のδ相の形成を減少しなければならない。1030℃より高い温度での均質化により、δ相が溶解し、その後の熱処理により、ほぼ独占的にδ相が粒界に存在する、鍛造および鋳造による微細構造と同様のSLM微細構造が得られる[9、10]。

(2)甲6に記載された発明
ア 上記(1)アより、甲6は、アディティブ・マニュファクチャリング技術の選択的レーザー溶融(SLM)と鍛造および鋳造とに関し、インコネル718の微細構造および機械的特性の違いを調査した結果を開示する文献と解される。

イ そして、上記(1)イの記載を整理すると、甲6には、以下の順に行われる各工程が開示されていると認められる。
(ア)粉末化されたインコネル718を、選択的レーザー溶融によって円柱状のバーに成形する工程。
(イ)サンプルをビルド用プラットフォームから切り離す工程。
(ウ)980℃で1時間の溶体化処理を行う工程。
(エ)718℃で8時間という条件の後、621℃で8時間の条件の時効処理を行う工程。

ウ そうすると、甲6には、以下の発明が記載されていると認められる。
<甲6発明>
「以下、(ア)〜(エ)の工程を順に行うことによるサンプルの製造方法。
(ア)粉末化されたインコネル718を、選択的レーザー溶融によって円柱状のバーに成形する工程。
(イ)サンプルをビルド用プラットフォームから切り離す工程。
(ウ)980℃で1時間の溶体化処理を行う工程。
(エ)718℃で8時間という条件の後、621℃で8時間の条件の時効処理を行う工程。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
(ア)甲6発明の(ア)の工程の「インコネル718」、「選択的レーザー溶融」及び「粉末化されたインコネル718」を成形した「円柱状のバー」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」、「アディティブ・マニュファクチャリング」及び「金属部材」に相当する。そして、甲6発明の「粉末化されたインコネル718を、選択的レーザー溶融によって円柱状のバーに成形する」(ア)の工程は、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(イ)甲6発明の(エ)の工程の「時効処理」は、本件発明1の「析出硬化処理」に相当する。また、当該時効処理が行われる「718℃」及び「621℃」は、いずれも本件発明1の析出硬化処理が行われる「600℃以上、800℃以下の温度範囲」のものに相当する。そして、甲6発明の「718℃で8時間という条件の後、621℃で8時間の条件の時効処理を行う」(エ)の工程は、本件発明1の「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」としての「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」に相当する。

(ウ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲6発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲6発明とは、
<一致点6>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点16>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲6発明は、(ウ)の工程として、980℃で1時間との条件により、溶体化処理相当の熱処理を行う工程は備えているものの、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点17>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲6発明には、溶体化処理相当の熱処理温度について、そのような制限は特定されていない点。

<相違点18>
本件発明1は、溶体化処理を「常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気」で行うものであるのに対し、甲6発明は、溶体化処理相当の熱処理について、どのような雰囲気で行うとも特定されていない点。

イ 相違点の検討
相違点16について検討する。
(ア)相違点16が実質的な相違点であることについて
a 甲6発明における溶体化処理相当の熱処理温度について
(a)甲6発明の円柱状のバーに用いられる「インコネル718」の固相線温度は、上記1(3)イ(ア)aで検討したのと同様に1260℃であるから、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1160℃以上、1210℃以下」と推定される。
(b)そして、上記(a)を踏まえると、甲6発明の(ウ)の工程の溶体化処理の熱処理温度(980℃)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1160℃以上、1210℃以下と推定)に相当するものではない。

b 小括
以上によれば、相違点16は実質的な相違点である。

(イ)相違点16の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点16に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点16は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点16に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜6、8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜6、8、及び16の記載(なお、このうち甲8の記載事項は、以下の8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点16の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点16が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点16に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜6、8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲6発明の「980℃で1時間」との条件による「溶体化処理」を相違点16の条件を満たすように条件変更して実行することは、甲1〜6、8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点16は、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点17及び18について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由6(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲6に記載された発明に基いて、または、甲6に記載された発明と甲1〜5、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由6(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

7 申立理由7(進歩性)について
(1)甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
NiもしくはCoもしくはFe又はそれらの組み合わせをベースとする耐熱超合金から構成される部品又はクーポンの製造方法であって、以下の工程:
a)前記の部品もしくはクーポンを、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリングプロセスによって形成する工程と、
その際、そのプロセスの間には、粉体は完全に溶融され、その後に固化される;
b)前記の形成された部品もしくはクーポンを、特定の材料特性の最適化のために熱処理に供する工程とを含む方法において、
c)前記熱処理が、鋳造された部品もしくはクーポンと比較してより高い温度で行われることを特徴とする、前記方法。」

イ 「【請求項14】
前記の熱処理が、複数の工程を含み、かかるそれぞれの工程は、加熱速度、保持温度、保持時間及び冷却速度の特定の組み合わせに相当することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。」

ウ 「【請求項23】
前記の熱処理工程の少なくとも1つが、付加的に、前記の部品又はクーポンの微細構造を更に改善するために、熱間等静圧圧縮成形(HIP)として知られる、等静圧下で行われることを特徴とする、請求項14から22までのいずれか1項に記載の方法。」

エ 「【背景技術】
【0002】
例えばIN738LCなどのNi基鋳造超合金に対する様々な熱処理の影響は、過去に調査されてきている。
【0003】
この超合金の耐久性は、γ′析出物の強化に依存する(例えば、非特許文献1を参照のこと)。前記文献にある、1120℃/2時間/急速空冷(accelerated air−cooled(AAC))される溶体化処理は、バイモーダルな析出物の微細構造をすでにもたらすため、それは、最初から合金中に単相の固溶体を得るための適した溶体化法ではない。微細な析出物を有する微細構造は、溶体化を1200℃/4時間/AACの条件下で行う場合に発生する。1200℃/4時間/AACもしくは1250℃/4時間/AAC又はWQの条件の後に、より低い温度での時効により、同様の微細構造が得られる。950℃未満での24時間にわたる複数の時効は、ほぼ球状の析出物をもたらし、そして1050℃もしくは1120℃での24時間にわたる単独の時効は、立方体様の析出物をもたらす。
【0004】
2種の異なるγ′析出物の成長プロセスが観察される:より小さい析出物が合わさって、より大きな析出物(二倍の析出物サイズの微細構造で)がもたらされ、かつマトリックスから溶質吸収を通じて成長する。
【0005】
しかしながら、この種の、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング方法(additive manufacturing process)によって製造される超合金は、異なる微細構造のためその機械的特性に関して異なる挙動をとる。」

オ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング方法によって、NiもしくはCoもしくはFe又はそれらの組み合わせをベースとする耐熱超合金から構成される部品又はクーポン、すなわち部品の一部を製造する方法であって、テーラーメードの機械的特性の獲得に関して最適化された方法を提供することである。」

カ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、請求項1に記載の方法であって、
a)前記の部品もしくはクーポンを、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング方法によって形成する工程と、
その際、その方法の間に、粉体は完全に溶融され、その後に固化される;
b)前記の形成された部品もしくはクーポンを、特定の材料特性の最適化のために熱処理に供する工程とを含み、ここで
c)前記熱処理は、鋳造された部品もしくはクーポンと比較してより高い温度で行われる、前記方法によって解決される。」

キ 「【発明を実施するための形態】
【0041】
粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング技術により製造されたNi/Co/Feをベースとする超合金が一般に残留共晶含分を含まないという事実のため、鋳造された部品/クーポンと比してより高い温度での熱処理は、初期溶融のリスクを伴わずにより高い固溶度を達成するために実現できる。特別に調整された熱処理は、今日まで達成できなかった非常に広い範囲で、クリープ強度又は低サイクル疲労挙動などの特定の材料特性を最適化することを可能にする。これは、特定の位置/用途のために仕立てられた材料特性が必要とされる、モジュール部品コンセプトのためにも、クーポン補修アプローチによるリコンディショニング(reconditioning)のためにも有用である。
【0042】
従って、本発明は、耐熱材料からなる粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング技術によって三次元の物品を製造し、それに引き続き、最適化された微細構造をもたらし、ひいては高められた材料特性をもたらす特別に調整された熱処理を行うことを含む。
【0043】
前記の粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリング技術は、選択的レーザ溶融(SLM)、選択的レーザ焼結(SLS)、電子ビーム溶融(EBM)、レーザ金属成形(LMF)、レーザエンジニアドネット成形(LENS)、直接金属堆積(DMD)又は同様のプロセスであってよい。前記のプロセスの間に、該粉体は、完全に溶融され、その後に固化される。
【0044】
前記の耐熱材料は、Ni基合金、例えば、これらに限定されないが、Waspaloy、Hastelloy X、IN617、IN718、IN625、Mar−M247、IN100、IN738、IN792、Mar−M200、81900、RENE 80、Alloy 713、Haynes 230、Haynes 282及び他の誘導体であってよい。」

ク 「【0048】
本発明は、IN738LC合金(LCは、低炭素を意味する)に関して詳細に説明する。図1は、室温(RT)で選択的レーザ溶融(SLM)により加工されたIN738LC試験片の電子マイクロプローブ分析(EPMA)の結果を示している(合金の様々な元素の幾つかしか印されていない)。対比のために、図2は、従来のように鋳造された参照IN738LC試験片の電子マイクロプローブ分析(EPMA)の相応の結果を示している。図1及び図2の対比によって、SLMでの試験片における散乱/偏差は、"鋳造された参照物"に対して実質的により低いが、SLMでの試験片と鋳造された試験片との間に、平均値の有意な差異は見られない。特に、Al及びTiなどのγ′形成体の有意な枯渇は、SLMでの試験片の加工の間に生じなかった。本発明によれば、かかるSLMでのIN738LC試験片は、従来の熱処理(図3(a))の変更である熱処理(図4(a))に供されている。前記の変更は、初期の高温の溶体化熱処理(SHT)工程Aを含み、それに引き続き、より低温で、3つの他の(従来の)熱処理工程B1〜B3が行われる。
【0049】
微細構造のそれぞれの写真(図3(b)及び図4(b))から理解できるように、前記の変更した熱処理は、微細構造を変化させ、かつ最適化し、こうして、クリープ強度、低サイクル疲労(LCF)挙動などの特定の材料特性が向上される。特に、変更された熱処理の結果として、かなりの結晶粒の粗大化が生じる。
【0050】
結晶粒度に対する溶体化温度及び保持時間の影響を調査するために、IN738LC材料の4種の異なる試料を、図5〜8に示される異なる熱処理に供した。それらの熱処理試験は、小さい矩形の試験片で行った。該熱処理試験は"できたままの(as−built)"条件で、例えば事前の熱処理をせずに(例えば熱間静圧圧縮処理なく)行ったことに留意することが重要である。
【0051】
前記処理は、以下の通りである:
第一の試料: 1250℃/3時間(図5)
第二の試料: 1250℃/3時間+1180℃/4時間+1120℃/2.5時間+850℃/24時間(図6)
第三の試料: 1250℃/1時間(図7)
第四の試料: 1260℃/1時間(図8)
対比のために、更なる試料を、図3による参照熱処理に供した。前記熱処理は、
B1 HIP(1180℃/4時間)
B2 1120℃/2.5時間
B3 850℃/24時間
として特定される熱処理工程B1〜B3を有する。
【0052】
1250℃/3時間で溶体化熱処理された試料1及び2(図5、6)の得られた微細構造は、図9及び図10の写真に示されている。図13から理解できるように、参照熱処理(上方の左右の写真)と比較して、かなりの結晶粒の粗大化が生じた(下方の左右の写真)。
【0053】
しかしながら、それぞれ図7及び図8による、1250℃及び1260℃での1時間の保持時間は、完全に再結晶化された/粗大化された微細構造を達成するにはまだ十分ではない(図11及び図12を参照のこと)。
【0054】
更に、γ′(ガンマプライム)析出物のサイズと形態は、冷却速度に強く依存することに留意することが重要である。
【0055】
結晶粒界の形態及び析出物は、良好なクリープ特性のために重要である。従って、従来のように鋳造されたIN738LC微細構造を同様に分析した。結果として、炭化物析出物は、結晶粒界に沿って見出される。IN738LCにおいては、主に2つの種類の炭化物、Ti(Ta,Nb)リッチのMCタイプの炭化物と、特にクロムリッチなM23C6炭化物が存在する。
【0056】
前記の"できたままの"条件においては、μmスケールの炭化物析出物は、選択的レーザ溶融(SLM)により製造された材料中では見出されなかった。硬化性γ′相の他にも、少ない割合のMC及びM23C6炭化物及びM3B2ホウ化物も、追加の硬化性析出物であり、それらは結晶粒界強化のために特に重要であることに留意することが重要である。
【0057】
まとめると、前記の結果は、選択的レーザ溶融によって製造されたIN738LC("できたままの"条件)の結晶粒の粗大化は、例えば1250℃で3時間に及ぶ、γ′ソルバス温度(solvus temperature)より高い温度での完全な溶体化熱処理によって達成できることを示している。
【0058】
その基本思想は、γ′ソルバス温度より高い温度で熱処理を行うことにある。SLM材料が非常に均質である(電子マイクロプローブ分析(図1)を参照)という事実により、初期溶融の危険性が低減される。鋳造された部品/クーポンにおいて観察される顕著な組成的な不均一性、例えば樹状の固化による微細偏析は、これまでSLMによって製造された部品/クーポンにおいて見られない。
【0059】
このように、SLMによって製造されたNi基超合金及び/又はCo基超合金は、同じ組成の従来のように鋳造された材料と比較して、より高温で熱処理される可能性を有する。これは、主に、粉体ベースの物品の製造と、前記SLMプロセスにおけるエネルギービームと材料の相互作用の固有の高い冷却速度とによるものである。原則的に偏析を含まない、SLM材料の均質な組成は、電子マイクロプローブ分析(EPMA)によって示されている。」

ケ 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】



(2)甲7に記載された発明
ア 上記(1)ア及びキによると、甲7には、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリングプロセスにより形成されるNi基合金など耐熱超合金の部品又はクーポンに関し、鋳造された部品もしくはクーポンと比較してより高い温度で熱処理を行うことにより、最適化された微細構造をもたらし、クリープ強度又は低サイクル疲労挙動などの特定の材料特性を最適化する発明が開示されていると認められる。

イ また、上記(1)クには、上記アの材料特性に影響する微細構造に関し、「室温(RT)で選択的レーザ溶融(SLM)により加工されたIN738LC試験片」(【0048】)について、「結晶粒度に対する溶体化温度及び保持時間の影響を調査する」ため「4種の異なる試料を、図5〜8に示される異なる熱処理に供した。」(【0050】)ことが記載されているが、かかる4種の異なる試料のうち特に「第二の試料」の熱処理条件は、「第二の試料: 1250℃/3時間+1180℃/4時間+1120℃/2.5時間+850℃/24時間(図6)」(【0051】)
と記載されている。

ウ そうすると、甲7には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲7発明>
「室温(RT)で選択的レーザ溶融(SLM)によりIN738LC試験片を加工し、1250℃/3時間+1180℃/4時間+1120℃/2.5時間+850℃/24時間の熱処理を行う方法。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
(ア)甲7発明の「IN738LC」、「選択的レーザー溶融」及び「IN738LC試験片」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」、「アディティブ・マニュファクチャリング」及び「金属部材」に相当する。そして、甲7発明の「室温(RT)で選択的レーザ溶融(SLM)によりIN738LC試験片を加工」することは、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」に相当する。

(イ)また、甲7発明の「1250℃/3時間+1180℃/4時間+1120℃/2.5時間+850℃/24時間」との各条件が付された熱処理について、甲7の記載内容に照らし、それぞれどのような意図の熱処理であるのかを具体的に検討した上で、本件発明1と対比する。
a 甲7発明の熱処理内容を理解するにあたっての甲7における関連記載
(a)上記(1)クの【0051】には、
「第二の試料: 1250℃/3時間+1180℃/4時間+1120℃/2.5時間+850℃/24時間(図6)」
と記載されている。
(b)上記(1)ケの【図6】には、


と記載されている。
(c)上記(1)クの【0048】には、
「本発明によれば、かかるSLMでのIN738LC試験片は、従来の熱処理(図3(a))の変更である熱処理(図4(a))に供されている。前記の変更は、初期の高温の溶体化熱処理(SHT)工程Aを含み、それに引き続き、より低温で、3つの他の(従来の)熱処理工程B1〜B3が行われる。」
と記載されている。
(d)上記(1)クの【0057】には、
「選択的レーザ溶融によって製造されたIN738LC("できたままの"条件)の結晶粒の粗大化は、例えば1250℃で3時間に及ぶ、γ′ソルバス温度(solvus temperature)より高い温度での完全な溶体化熱処理によって達成できることを示している。」
と記載されている。
(e)上記(1)クの【0051】には、
「対比のために、更なる試料を、図3による参照熱処理に供した。前記熱処理は、
B1 HIP(1180℃/4時間)
B2 1120℃/2.5時間
B3 850℃/24時間
として特定される熱処理工程B1〜B3を有する。」と記載されている。
(f)上記(1)エの【0003】には、
「1200℃/4時間/AACもしくは1250℃/4時間/AAC又はWQの条件の後に、より低い温度での時効により、同様の微細構造が得られる。950℃未満での24時間にわたる複数の時効は、ほぼ球状の析出物をもたらし、そして1050℃もしくは1120℃での24時間にわたる単独の時効は、立方体様の析出物をもたらす。」
と記載されている。
(g)上記(1)アの【請求項1】には、
「NiもしくはCoもしくはFe又はそれらの組み合わせをベースとする耐熱超合金から構成される部品又はクーポンの製造方法であって、以下の工程:
a)前記の部品もしくはクーポンを、粉体ベースのアディティブ・マニュファクチュアリングプロセスによって形成する工程と、
その際、そのプロセスの間には、粉体は完全に溶融され、その後に固化される;
b)前記の形成された部品もしくはクーポンを、特定の材料特性の最適化のために熱処理に供する工程とを含む方法において、
c)前記熱処理が、鋳造された部品もしくはクーポンと比較してより高い温度で行われることを特徴とする、前記方法。」
と記載されている。
(h)上記(1)イの【請求項14】には、
「前記の熱処理が、複数の工程を含み、かかるそれぞれの工程は、加熱速度、保持温度、保持時間及び冷却速度の特定の組み合わせに相当することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。」
と記載されている。
(i)上記(1)ウの【請求項23】には、
前記の熱処理工程の少なくとも1つが、付加的に、前記の部品又はクーポンの微細構造を更に改善するために、熱間等静圧圧縮成形(HIP)として知られる、等静圧下で行われることを特徴とする、請求項14から22までのいずれか1項に記載の方法。」
と記載されている。

b 甲7発明の各熱処理の技術的意味について
(a)上記a(a)の「1250℃/3時間」、「1180℃/4時間」、「1120℃/2.5時間」及び「850℃/24時間」という各条件の熱処理は、上記a(b)の図6中に「A」、「B1」、「B2」及び「B3」と記載された符号に対応した熱処理であり、その図6に記載された温度変化の様子から、これら「A」、「B1」、「B2」及び「B3」の各熱処理条件は、上記a(h)の請求項14記載のように、加熱速度、保持温度、保持時間及び冷却速度の特定の組み合わせからなるものと解される。
(b)上記a(c)〜(f)及び(g)によると、図6記載の上記(a)の符号に対応した熱処理のうち、
i 甲7発明の「1250℃/3時間」に対応する「A」は、「初期の高温の溶体化熱処理(SHT)工程」としての「γ′ソルバス温度(solvus temperature)より高い温度での完全な溶体化熱処理」を意味するものと解され、
ii 甲7発明の「1180℃/4時間」に対応する「B1」は、「熱間等静圧圧縮成形(HIP)」に伴う熱処理を意味するものと解され、
iii 甲7発明の「850℃/24時間」に対応する「B3」は、【0003】記載の「時効」関する熱処理のタイミング(溶体化熱処理後に行われる)、温度(950℃未満という温度範囲)及び時間(24時間)とも適用条件が共通しており、これも実質「時効」を意味する熱処理である蓋然性が高い。

c 本件発明1と甲7発明との熱処理の対応関係
上記b(b)i及びiiiと、通常、「時効」は「析出硬化処理」を意味することとを踏まえると、甲7発明の熱処理のうち、「1250℃/3時間」及び「850℃/24時間」の熱処理は、本件発明1の「溶体化処理」及び「析出硬化処理」に相当する。

(ウ)また、本件発明1の「金属部材の製造方法」の「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程」と、「前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程」と、「前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程」とを「具備」する旨の特定は、上記した3工程以外の工程をも別途含むことを許容すると解せるから、たとえ甲7発明に、本件発明1で特定される工程には対応しないプロセスが含まれていたとしても、そのことを以て、両者の相違点とすることはできない。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲7発明とは、
<一致点7>
「アディティブ・マニュファクチャリングにより、Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備する
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点19>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲7発明は、1250℃/3時間との条件により、溶体化処理相当の熱処理を行う工程は備えているものの、本件発明1のような温度範囲で溶体化処理を行うことは開示されていない点。

<相違点20>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲7発明には、溶体化処理相当の熱処理温度について、そのような制限は特定されていない点。

<相違点21>
本件発明1は、溶体化処理を「常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気」で行うものであるのに対し、甲7発明は、溶体化処理相当の熱処理を、どのような雰囲気で行うとも特定されていない点。

<相違点22>
本件発明1の「析出硬化処理を行う工程」は、「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲7発明には、「850℃/24時間」との条件による熱処理を行うことは示されているものの、本件発明1のような温度範囲で時効に相当する熱処理を行うことは開示されていない点。

イ 相違点の検討
相違点19について検討する。
(ア)相違点19が実質的な相違点であることについて
a 甲7発明における溶体化処理相当の熱処理温度について
(a)上記1(3)イ(ア)aにおいて「IN718」が「インコネル718」の略称であることを述べたのと同様に、甲7発明の「IN738LC」は、本件明細書【0007】にも記載される「インコネル738LC」の略称と解される。
そして、本件明細書【0007】において「インコネル738LC」は「固相線温度が1230℃」と説明されていることから、甲7発明の試験片に用いられる「IN738LC」は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」に関する「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」に対応した温度範囲が、「1130℃以上、1180℃以下」と推定される。
(b)上記(a)を踏まえると、甲7発明の「1250℃/3時間」の熱処理における熱処理温度(1250℃)は、本件発明1の「溶体化処理を行う工程」において熱処理が行われる「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」(1130℃以上、1180℃以下と推定)に相当するものではない。

b 小括
以上によれば、相違点19は実質的な相違点である。

(イ)相違点19の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点19に係る発明特定事項の技術的意味
本件発明1において、相違点19は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点19に係る発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同じ技術的意味を有する。

b 甲1〜8、及び16の記載内容に関する検討
これに対し、甲1〜8、及び16の記載(なお、このうち甲8の記載事項は、以下の8(1)において示す。)の範囲全体を検討しても、上記aで参酌した上記1(3)イ(イ)aのように、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、相違点19の温度範囲で溶体化処理を行うことは何ら開示されてなく、また、そのようなことが、本件特許に係る出願の出願前の技術常識であったともいえない。

c 相違点19が想到容易といえないことについて
そして、上記aのような相違点19に係る発明特定事項の技術的意味と、上記bの甲1〜8、及び16の記載内容に関する検討結果を踏まえると、本件特許に係る出願の出願前に当業者が、甲7発明の「1250℃/3時間」との条件による溶体化処理相当の熱処理を相違点19の条件を満たすように条件変更して実行することは、甲1〜8、及び16いずれの記載によっても動機付けられるものではない。

d 小括
上記a〜cの検討結果を踏まえると、相違点19は、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点20〜22について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由7(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲7に記載された発明に基いて、または、甲7に記載された発明と甲1〜6、8、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由7(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

8 申立理由8(進歩性)について
(1)甲8の記載事項
甲8には、以下の記載がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、Ni合金部品の製造方法に係り、特に、析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法により焼結して成形されるNi合金部品の製造方法に関する。」

イ 「発明が解決しようとする課題
[0005] ところで、金属粉末をバインダと混合して射出成形した後に、焼結して最終製品を得る成形法は、金属粉末射出成形法(MIM:Metal Injection Molding)と呼ばれている。金属粉末射出成形法は、合成樹脂の射出成形と同様な形状自由度を保ちつつ、鍛造材に迫る材料強度をもつ最終形状部品が得られる製造方法である。金属粉末射出成形法によれば、複雑な形状の製品を、複雑な組み立て工程等が必要なく得られることから、ジェットエンジン部品等のNi合金部品への適用が検討されている。
[0006] 一方、析出硬化型Ni合金からなる鍛造材では、強制的に歪みを導入して結晶粒を小さくすることにより機械的強度を向上させている。このため、鍛造材の溶体化処理では、回復や再結晶等による結晶粒の粗大化を抑制するために、上記の特許文献1等に示すように比較的低い溶体化処理温度で処理される。
[0007] ここで、析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法で成形した焼結体に、鍛造材に用いられる溶体化処理を適用した場合には、比較的低い溶体化処理温度で溶体化処理されることから、硬くて脆性なδ相(デルタ相)が結晶粒界等に析出し、疲労強度等の機械的強度が低下する可能性がある。
[0008] そこで本発明の目的は、析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法で成形されるNi合金部品の機械的強度特性をより向上させることが可能なNi合金部品の製造方法を提供することである。」

ウ 「課題を解決するための手段
[0009] 本発明に係るNi合金部品の製造方法は、Ti:0.65質量%以上1.15質量%以下、Al:0.20質量%以上0.80質量%以下、Cr:17.00質量%以上21.00質量%以下、Nb:4.75質量%以上5.50質量%以下、Mo:2.80質量%以上3.30質量%以下、Ni:50.00質量%以上55.00質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法で焼結させて成形した焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷して溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した焼結体を、600℃以上800℃以下で保持した後に、室温まで冷却して時効処理する時効処理工程と、を備える。」

エ 「発明の効果
[0013] 上記構成によれば、Ti:0.65質量%以上1.15質量%以下、Al:0.20質量%以上0.80質量%以下、Cr:17.00質量%以上21.00質量%以下、Nb:4.75質量%以上5.50質量%以下、Mo:2.80質量%以上3.30質量%以下、Ni:50.00質量%以上55.00質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法で焼結させて成形した焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷して溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した焼結体を、600℃以上800℃以下で保持した後に、室温まで冷却して時効処理する時効処理工程と、を備えているので、硬くて脆性なδ相(デルタ相)の結晶粒界等の析出が抑制され、Ni合金部品の疲労強度等の機械的強度を向上させることが可能となる。」

オ 「[0016] 以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、Ni合金部品の製造方法の構成を示すフローチャートである。Ni合金部品の製造方法は、溶体化処理工程(S10)と、時効処理工程(S12)と、を備えている。
[0017] 溶体化処理工程(S10)は、析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法で焼結させて成形した焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷して溶体化処理する工程である。
[0018] まず、金属粉末射出成形法(MIM:Metal Injection Molding)について説明する。金属粉末射出成形法は、混練処理と、射出成形処理と、脱脂処理と、焼成処理と、から構成されている。
[0019] 混練処理では、析出硬化型Ni合金粉末と、熱可塑性樹脂やワックスで構成されるバインダと、を混練機で混ぜ合わせて混練体を作製する。
[0020] 析出硬化型Ni合金粉末には、耐熱性に優れた析出硬化型Ni合金であるAlloy718(登録商標)相当のNi合金粉末が用いられる。析出硬化型Ni合金粉末の組成については、Ti(チタン):0.65質量%以上1.15質量%以下、Al(アルミニウム):0.20質量%以上0.80質量%以下、Cr(クロム):17.00質量%以上21.00質量%以下、Nb(ニオブ):4.75質量%以上5.50質量%以下、Mo(モリブデン):2.80質量%以上3.30質量%以下、Ni(ニッケル):50.00質量%以上55.00質量%以下、残部がFe(鉄)及び不可避的不純物から構成される。なお、不可避的不純物として、B(ホウ素)、Si(ケイ素)、P(リン)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ta(タンタル),Cu(銅)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Se(セレン)、O(酸素)、C(炭素)またはN(窒素)を含んでもよい。
[0021] 合金成分であるTiは、γ’相(ガンマプライム相)を形成する元素である。γ’相(ガンマプライム相)は、[Ni3(Al,Ti)]を主体とする金属間化合物で形成されている。Alは、γ’相(ガンマプライム相)を形成する元素であると共に、アルミナ等のアルミニウム酸化物を形成して耐酸化性を向上させる元素である。Crは、酸化クロム等のクロム酸化物を形成して耐酸化性や耐食性を向上させる元素である。Nbは、γ”相(ガンマダブルプライム相)を形成する元素である。γ”相(ガンマダブルプライム相)は、[Ni3Nb]を主体とする金属間化合物で形成されている。Moは、Ni母相であるγ相(ガンマ相)に固溶して固溶強化すると共に、耐食性を向上させる元素である。Feは、Ni母相であるγ相(ガンマ相)に固溶して固溶強化する元素である。Niは、Ni母相であるγ相(ガンマ相)、γ’相(ガンマプライム相)、γ”相(ガンマダブルプライム相)を形成する元素である。これら各合金成分を、上記の組成範囲とすることにより、耐熱性と耐食性とを備えた析出硬化型Ni合金を得ることができる。
[0022] 析出硬化型Ni合金粉末の平均粒径については、35μmより小さいことが好ましい。このように、通常の合金粉末よりも平均粒径が小さいものを使用することにより、鍛造材と略同等の密度と結晶粒径の焼結体を得ることが可能となる。なお、平均粒径とは、例えば、レーザ回折・散乱法で測定した粒子の粒度分布を用いて、粒径の小さい方から粒度分布の結果を累積し、その累積した値が50%となる粒度(メディアン直径)である。析出硬化型Ni合金粉末については、ガスアトマイズ粉や水アトマイズ粉等を用いることが可能であるが、水アトマイズ粉よりも酸素濃度の低いガスアトマイズ粉を用いることが好ましい。
[0023] バインダには、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂等の熱可塑性樹脂と、パラフィンワックス等のワックスとにより構成されるものを用いることが可能である。析出硬化型Ni合金粉末とバインダとを混練機により混練して、混練体を形成する。
[0024] 射出成形処理では、射出成形機により、混練体を加圧しながら金型内に射出して予備成形体を成形する。射出成形機には、合成樹脂部品の製造等で用いられる射出成形機と同じものを用いることが可能である。
[0025] 脱脂処理では、金型から取り出した予備成形体について、加熱や溶剤によってバインダの成分を除去する。例えば、予備成形体を脱脂炉に入れ、アルゴンガス等の不活性雰囲気中で加熱して脱脂することが可能である。
[0026] 焼成処理では、脱脂した予備成形体を、真空雰囲気中やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で加熱焼結して焼結体を形成する。焼結条件については、例えば、焼結温度が1100℃から1300℃であり、焼成時間が1時間から5時間である。なお、焼結体を緻密化するために、析出硬化型Ni合金の融点に近い焼結温度で焼結することが好ましい。また、焼成後の冷却については、室温まで炉冷してもよいし、室温まで空冷や水冷等で急冷してもよい。焼成処理では、一般的な金属材料の焼結炉を用いることができる。このようにして、析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法で成形された焼結体が得られる。
[0027] 次に、析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法で成形された焼結体の溶体化処理について説明する。溶体化処理では、この焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷する。溶体化処理を行うのは、後述する時効処理で、[Ni3(Al、Ti)]を主体とするγ’相(ガンマプライム相)や、[Ni3Nb]を主体とするγ”相(ガンマダブルプライム相)を、Ni母相であるγ相(ガンマ相)中に微細に析出させるために、γ’相(ガンマプライム相)やγ”相(ガンマダブルプライム相)を形成するAl、Ti,Nb等の合金成分を、Ni母相であるγ相(ガンマ相)中に固溶させるためである。
[0028] 溶体化処理温度が1050℃以上であるのは、1050℃より低温である場合には、硬くて脆性な[Ni3Nb]を主体とするδ相(デルタ相)が結晶粒界等に析出するからである。なお、γ”相(ガンマダブルプライム相)の結晶構造が正方晶であるのに対して、δ相(デルタ相)の結晶構造は、斜方晶である。
[0029] 溶体化処理温度が1250℃以下であるのは、1250℃より高温である場合には、結晶粒の成長が大きくなり、結晶粒が粗大化することにより機械的強度が低下するからである。
[0030] 溶体化処理温度については、1100以上1250℃以下であることが好ましい。溶体化処理温度を1100℃以上とすることで、δ相(デルタ相)の析出をより抑制可能だからである。
[0031] 溶体化処理温度での保持時間が1時間から5時間であるのは、保持時間が1時間より短い場合には、Al、Ti,Nb等の合金成分のNi母相であるγ相(ガンマ相)中への固溶が十分に行えない場合があるからであり、保持時間が5時間より長い場合には、結晶粒の成長が大きくなり、結晶粒が粗大化する可能性があるからである。
[0032] 溶体化処理温度から室温までの冷却については、Al、Ti,Nb等の合金成分を室温で過飽和状態とするために急冷される。溶体化処理温度からの冷却については、空冷以上の冷却速度で急冷されることが好ましく、ガスファン冷却や水冷等で急冷することがより好ましい。
[0033] 溶体化処理については、真空雰囲気や、アルゴンガス等の不活性ガスを用いた不活性雰囲気で処理することが可能である。また、溶体化処理については、溶体化処理炉等の一般的な金属材料の熱処理炉を用いることができる。
[0034] 時効処理工程(S12)は、溶体化処理した焼結体を、600℃以上800℃以下で保持した後に、室温まで冷却して時効処理する工程である。
[0035] 時効処理温度が600℃以上800℃以下であるのは、この温度範囲であると、Ni母相であるγ相(ガンマ相)中に、γ’相(ガンマプライム相)、γ”相(ガンマダブルプライム相)を微細に析出させることが可能となると共に、δ相(デルタ相)の析出を抑制できるからである。γ”相(ガンマダブルプライム相)は、準安定相であるので、高温で熱処理されると安定なδ相(デルタ相)に相変態する。このため、時効処理温度を、600℃以上800℃以下とすることにより、γ”相(ガンマダブルプライム相)からδ相(デルタ相)への相変態が抑制される。時効処理温度での保持時間については、5時間から30時間であることが好ましい。また、時効処理温度から室温までの冷却については、例えば、空冷やガスファン冷却等で冷却される。」

カ 「[0038] このようにして製造されたNi合金部品は、Ni母相であるγ相(ガンマ相)中に、γ’相(ガンマプライム相)やγ”相(ガンマダブルプライム相)が微細に分散されて析出していると共に、延性や靭性等を低下させる硬くて脆性なδ相(デルタ相)の結晶粒界等の析出と、結晶粒の成長による結晶粒の粗大化とが抑制されている。これにより、Ni合金部品の引張強度や疲労強度等の機械的強度を向上させることが可能となる。
[0039] なお、上記構成の溶体化処理では、析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法で成形された焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷することにより、硬くて脆性なδ相(デルタ相)の析出を抑制すると共に、結晶粒の粗大化を抑えている。一方、鍛造材の場合には、強制的に歪みを付与して結晶粒を微細化することにより機械的強度を向上させており、このような高温で鍛造材の溶体化処理を行うと、回復や再結晶により結晶粒が粗大化して機械的強度が低下する。これに対して、金属粉末射出成形法では、粒径が小さい金属粉末を焼結させて成形するので、焼結体に歪みを強制的に付与しなくても結晶粒を微細化することが可能となる。このため、上記構成によれば、1050℃以上1250℃以下のような高温で溶体化処理しても、結晶粒の粗大化が抑制されて機械的強度の低下が抑えられる。」

キ 「実施例
[0044] 析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法により焼結体を成形した後に、熱処理して試験片を作製し、金属組織観察と疲労特性評価とを行った。
[0045]
(金属粉末射出成形)
析出硬化型Ni合金粉末を用いて金属粉末射出成形法により焼結体を成形した。焼結体については、金属組織観察用及び疲労試験用に各々成形した。析出硬化型Ni合金粉末には、Alloy718(登録商標)粉末を使用した。析出硬化型Ni合金粉末の合金組成については、20.40質量%のCrと、16.40質量%Feと、3.10質量%のMoと、5.20質量%のNbと、1.00質量%のTiと、0.50質量%のAlと、を含み、残部がNiと、0.05質量%のC等の不可避的不純物とにより構成されている。析出硬化型Ni合金粉末には、平均粒径が35μmよりも小さいガスアトマイズ粉末を用いた。」

ク 「[0047] (熱処理)
金属粉末射出成形法で成形した焼結体を、各熱処理条件で熱処理して実施例1から4、比較例1の試験片を作製した。なお、焼結体については、いずれの試験片も同じ成形条件で作製したものを使用した。
[0048] 実施例1の試験片では、焼結体を1050℃で1時間保持した後に、ガスファン冷却で室温まで急冷して溶体化処理した。次に、溶体化処理された焼結体を、718℃で8時間保持し、炉冷により621℃まで冷却した後、621℃で8時間保持し、ガスファン冷却で室温まで冷却して時効処理した。
[0049] 実施例2の試験片では、焼結体を718℃で8時間保持し、炉冷により621℃まで冷却した後、621℃で8時間保持し、ガスファン冷却で室温まで冷却して時効処理した。なお、実施例2の熱処理では、溶体化処理を行っていない。
[0050] 実施例3の試験片では、焼結体を1100℃で1時間保持した後に、ガスファン冷却で室温まで急冷して溶体化処理した。次に、溶体化処理された焼結体を、718℃で8時間保持し、炉冷により621℃まで冷却した後、621℃で8時間保持し、ガスファン冷却で室温まで冷却して時効処理した。
[0051] 実施例4の試験片では、焼結体を1250℃で5時間保持した後に、ガスファン冷却で室温まで急冷して溶体化処理した。次に、溶体化処理された焼結体を、718℃で8時間保持し、炉冷により621℃まで冷却した後、621℃で8時間保持し、ガスファン冷却で室温まで冷却して時効処理した。」

ケ 「[請求項1] Ti:0.65質量%以上1.15質量%以下、Al:0.20質量%以上0.80質量%以下、Cr:17.00質量%以上21.00質量%以下、Nb:4.75質量%以上5.50質量%以下、Mo:2.80質量%以上3.30質量%以下、Ni:50.00質量%以上55.00質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法で焼結させて成形した焼結体を、1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷して溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した焼結体を、600℃以上800℃以下で保持した後に、室温まで冷却して時効処理する時効処理工程と、
を備えるNi合金部品の製造方法。」

コ 「[図1]



(2)甲8に記載された発明
ア 上記(1)ア、イ、エ〜カ及びケによると、甲8の請求項1には、耐熱性に優れた析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法により焼結して成形されるNi合金部品の製造方法に関し、鍛造材に用いられる溶体化処理の温度よりも高い温度(1050℃以上1250℃以下)で溶体化処理を行い、所定の温度範囲(600℃以上800℃以下)で保持して時効処理を行うことで、硬くて脆性なδ相(デルタ相)の結晶粒界等への析出と、結晶粒が粗大化することとを抑制し、疲労強度等の機械的強度特性をより向上させる発明が開示されていると認められる。

イ また、上記(1)オの[0033]には、「溶体化処理については、真空雰囲気や、アルゴンガス等の不活性ガスを用いた不活性雰囲気で処理することが可能である。」と記載されており、上記アの発明の溶体化処理も、[0033]に記載されるような雰囲気中で実施可能なことが示唆されている。

ウ さらに、上記(1)カの[0039]には、「金属粉末射出成形法では、粒径が小さい金属粉末を焼結させて成形するので、焼結体に歪みを強制的に付与しなくても結晶粒を微細化することが可能となる。このため、上記構成によれば、1050℃以上1250℃以下のような高温で溶体化処理しても、結晶粒の粗大化が抑制されて機械的強度の低下が抑えられる。」と記載されており、焼結する金属粉末の粒径が小さいからこそ、請求項1記載の高い温度(1050℃以上1250℃以下)において、結晶粒の粗大化を抑制しながら溶体化処理することが可能となっていると理解される。そして、上記(1)オの[0022]には、「析出硬化型Ni合金粉末の平均粒径については、35μmより小さいことが好ましい。このように、通常の合金粉末よりも平均粒径が小さいものを使用することにより、鍛造材と略同等の密度と結晶粒径の焼結体を得ることが可能となる。」と記載され、また、実施例の金属粉末射出成形に関する上記(1)キの[0045]にも、「析出硬化型Ni合金粉末には、平均粒径が35μmよりも小さいガスアトマイズ粉末を用いた。」と記載されていることから、上記アの発明で、熱処理目的を達するように請求項1記載の高い温度(1050℃以上1250℃以下)での溶体化処理を可能とするためには、金属粉末射出成形時の金属粉末として、通常の合金粉末よりも平均粒径が小さいものを使用することが必要であり、その平均粒径の具体的目安は「35μmより小さい」ものであることが理解できる。

エ そうすると、甲8には、以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲8発明>
「Ti:0.65質量%以上1.15質量%以下、Al:0.20質量%以上0.80質量%以下、Cr:17.00質量%以上21.00質量%以下、Nb:4.75質量%以上5.50質量%以下、Mo:2.80質量%以上3.30質量%以下、Ni:50.00質量%以上55.00質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる、平均粒径が35μmよりも小さい析出硬化型Ni合金粉末を金属粉末射出成形法で焼結させて成形した焼結体を、真空雰囲気又は不活性雰囲気で1050℃以上1250℃以下で1時間から5時間保持した後に、室温まで急冷して溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した焼結体を、600℃以上800℃以下で保持した後に、室温まで冷却して時効処理する時効処理工程と、
を備えるNi合金部品の製造方法。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。
(ア)甲8発明の「析出硬化型Ni合金」、「Ni合金部品」、「時効処理」及び「不活性雰囲気」は、それぞれ本件発明1の「Ni基合金」、「金属部材」、「析出硬化処理」、「不活性ガスの雰囲気」に相当する。

(イ)以上によれば、本件発明1と甲8発明とは、
<一致点8>
「Ni基合金で構成される金属部材の成形を行う工程と、
前記金属部材に対して不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気で溶体化処理を行う工程と、
前記溶体化処理に続いて前記金属部材に対する析出硬化処理を行う工程と
を具備し、
前記析出硬化処理を行う工程は、
600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程を含む
金属部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点23>
本件発明1は、金属部材の成形を「アディティブ・マニュファクチャリング」により行うものであるのに対し、甲8発明は、「金属粉末射出成形法」により行うものである点。

<相違点24>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度での熱処理」を行うものであるのに対し、甲8発明には「1050℃以上1250℃以下」の温度範囲で溶体化処理を行うことは示されているものの、それが本件発明1のような温度範囲での熱処理に相当するかどうかは不明な点。

<相違点25>
本件発明1の「溶体化処理を行う工程」は、「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)」「より高い温度での熱処理を含んで」いないのに対し、甲8発明には、溶体化処理における熱処理温度について、そのような制限は特定されていない点。

<相違点26>
溶体化処理を不活性の雰囲気で行う場合について、本件発明1は、これを「常圧」下で行うのに対し、甲8発明では、どのような気圧下で行うとも特定されていない点。

イ 相違点の検討
相違点23及び24について検討する。
(ア)相違点23及び24が実質的な相違点であることについて
a 相違点23が実質的な相違点であることについて
(a)本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリング」と甲8発明の「金属粉末射出成形法」とは、どちらも金属粉末をベースとした成形方法である点では共通している。
(b)しかしながら、甲8発明の「金属粉末射出成形法」は、上記(1)オの[0018]に記載されるように「混練処理と、射出成形処理と、脱脂処理と、焼成処理と、から構成」される成形処理であって、上記(1)オの[0019]における「混錬処理」に関する説明、上記(1)オの[0024]における「射出成形処理」に関する説明、及び上記(1)オの[0025]における「脱脂処理」に関する説明からも明らかなように、成形時に金属粉末とともにバインダをも必須で用いる技術であるのに対し、本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリング」は、成形時に金属粉末とともにバインダを用いる前提の技術ではない点において、両者は実質的に相違する。

b 相違点24が実質的な相違点であることについて
(a)本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリング」により成形される金属部材と甲8発明の「金属粉末射出成形法」とによりそれぞれ成形される金属部材とは、上記aのように、その成形方法に関する相違点23が実質的な相違点となっている。
そのため、本件発明1と甲8発明とでは、成形後の金属部材の金属組織等が互いに異なる可能性が考えられ、ひいては、これら両者の金属部材に対し、たとえ同程度の条件でそれぞれ熱処理を施すとしても、これら熱処理それぞれの技術的意味が異なる場合は、相違点24は、相違点23の実現を前提とする相違点として、相違点23と一体化して把握すべき相違点として把握されるものであって、実質的な相違点といえる可能性も考えられるので、以下そのような観点から検討する。
(b)本件発明1において、相違点24は相違点1と実質的に同じ発明特定事項に対応するから、相違点24に係る「溶体化処理を行う工程について」の発明特定事項は、上記1(3)イ(イ)aで検討した相違点1に係る発明特定事項と同様に、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するとの技術的意味を有する。
(c)これに対し、甲8発明における「1050℃以上1250℃以下」の温度範囲での「溶体化処理工程」は、上記(2)アで検討したように、硬くて脆性なδ相(デルタ相)の結晶粒界等への析出と、結晶粒が粗大化することとを抑制し、疲労強度等の機械的強度特性をより向上させるとの技術的意味を有するものである。
(d)上記(b)及び(c)によると、相違点24について、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくような温度範囲で熱処理を行う本件発明1の「溶体化処理を行う工程」と、結晶粒が粗大化することとを抑制するような温度範囲で熱処理を行う甲8発明の「溶体化処理工程」とは、特に、前者が粒子の粗大化を発生させるものであるのに対し、後者が粒子の粗大化を抑制するものである点において技術的意味が全く異なるものとなっている。そして、上記(a)を踏まえると、相違点24は、相違点23の実現を前提とする相違点として、相違点23と一体化して検討すべき相違点として把握されるものであって、実質的な相違点であるといえる。

c 小括
以上によれば、相違点23及び24は実質的な相違点である。

(イ)相違点23及び24の想到容易性の検討
a 本件発明1の相違点23の想到容易性
相違点23に関する本件発明1の「アディティブ・マニュファクチャリング」と甲8発明の「金属粉末射出成形法」とは、どちらも本件特許に係る出願の出願時に一般に知られていた金属材料の成形方法であり、かつ、上記(ア)a(a)のとおり、どちらも金属粉末をベースとした成形方法である点で共通しているから、「金属粉末射出成形法」を用いる甲8発明の技術思想を、本件発明1のような「アディティブ・マニュファクチャリング」に転用しようとすることまでは、当業者が容易に想到し得たといえる余地もある。
よって、相違点23は、甲8発明と周知技術とから当業者が容易に想到し得たといえる余地がある。

b 本件発明1の相違点24の想到容易性
(a)甲8発明における阻害要因の存在
その一方、上記(ア)b(d)のとおり、相違点23の実現を前提とする相違点として、相違点23と一体化して検討すべきものと把握される相違点24に関しては、析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくような温度範囲で熱処理を行う本件発明1の「溶体化処理を行う工程」と、結晶粒が粗大化することとを抑制するような温度範囲で熱処理を行う甲8発明の「溶体化処理工程」とは、特に、前者が粒子の粗大化を発生させるものであるのに対し、後者が粒子の粗大化を抑制するものである点において技術的意味が全く異なるものとなっており、かつ、そのような技術的意味を有する甲8発明の「溶体化処理工程」を、本件発明1のように析出硬化処理前に結晶粒の粗大化を発生させておくような相違点24に係る温度範囲の熱処理として実行することには、明らかに阻害要因があるものと認められる。

(b)相違点24が想到容易といえないことについて
また、甲1〜8、及び16の記載の範囲全体を検討しても、甲8発明に関する上記(a)の阻害要因を解消しつつ、当業者が、相違点23の実現を前提とする相違点24を容易になし得たといえる格別な動機も見出せない。

c 小括
上記bの検討結果を踏まえると、相違点24は、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点25及び26について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(5)申立理由8(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲8に記載された発明に基いて、または、甲8に記載された発明と甲1〜7、及び16に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由8(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

9 申立理由9(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許に係る出願の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明に関するサポート要件判断
上記(1)の判断手法を踏まえ、本件発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しているか否かについて検討する。

ア 本件発明は、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形し、所定の熱処理を行う、Ni基合金で構成される金属部材の製造方法に関するものである。

イ 本件明細書の記載(【0009】)によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「アディティブ・マニュファクチャリングにより作成された金属部材について、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保する技術を提供することにある」と認められる。

ウ 本件明細書の記載(【0018】〜【0021】、【0035】)によれば、上記アのアディティブ・マニュファクチャリングにより成形したNi基合金に対する所定の熱処理は、以下の要件(ア)及び(イ)をともに満たすことによって、結晶粒の粗大化を発生させた後に、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化し、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保することができ、本件発明の上記イの課題を解決できることが示されている。

要件(ア):金属部材に対し、常圧の不活性ガスの雰囲気又は真空雰囲気で、(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下(TCは、固溶線温度)という、鍛造や鋳造によって成形されたNi基合金の金属部材の溶体化処理において一般的に用いられる温度範囲よりも相当に高いが、固溶線温度から少し離れた温度範囲の溶体化処理を行うこと。

要件(イ):続いて、600℃以上、800℃以下の温度範囲での析出硬化処理が行われること。

エ 本件明細書【0022】〜【0034】には、ニッケルを主成分とするインコネル718(固相線温度1260℃)で構成される金属部材の成形を行い、それに続く熱処理として、常圧の不活性化ガスの雰囲気又は真空雰囲気における所定の熱処理条件の溶体化処理と、720℃、8時間の熱処理が行われ、その後、620℃、10時間の熱処理が行われるとの内容の析出硬化処理と、のみが行われる実施例及び比較例の金属部材の製造方法が記載されており、このうち、
(ア)実施例の溶体化処理の熱処理は、1180℃、3時間との条件で行われ
(イ)比較例の溶体化処理の熱処理は、955℃、1時間との条件で行われる
ものとなっている。

オ また、本件明細書には、上記エのように溶体化処理の熱処理条件が異なる実施例と比較例の試験片に関する特性試験結果として、
(ア)比較例の試験片は、破断時間が長くても30時間であり劣悪なクリープ特性を示した一方、実施例の試験片については約200時間の破断時間が得られており、鍛造によって作製された金属部材よりはやや劣るものの、鋳造によって作製された金属部材と同等で、比較例の試験片と比較して良好なクリープ特性を示したこと(【0029】)
(イ)実施例の試験片は、比較例の試験片と比較すると低サイクル疲労特性において劣っていたものの、実用上十分な低サイクル疲労特性を示したこと(【0033】)
がそれぞれ記載された上で、比較例の試験片には微細結晶の組織が形成され、実施例の試験片では結晶粒の粗大化が認められるとの、以下【図5】の組織写真についての説明がなされている(【0034】)。
「【図5】



カ そして、当業者であれば、上記エ(ア)の実施例以外の場合であっても、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形したNi基合金に対し、結晶粒を粗大化させる上記ウの要件(ア)の溶体化処理に続き、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させ材料を硬化させる上記ウの要件(イ)の析出硬化処理が行われる金属部材の製造方法であれば、実施例同様に、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保され、本件発明の上記イの課題を解決することを、十分期待できるものといえる。

キ なお、上記カの実施例以外の金属部材の製造方法は、
(ア)実質的に、上記ウの要件(ア)の熱処理によって溶体化が生じ、上記ウの要件(イ)の熱処理によって析出硬化が生じる前提のNi基合金が用いられる金属部材の製造方法を対象としたものであると、限定的に解釈できる。
(イ)また、上記(ア)の解釈を前提として、上記ウの要件(ア)の溶体化処理により結晶粒の粗大化が期待でき、上記ウの要件(イ)の析出硬化処理により過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させ材料を硬化させることが期待できるものでもある。

ク 以上の本件明細書の記載を総合すれば、上記ウの要件(ア)及び要件(イ)を兼ね備えた本件発明1〜3は、実質的な発明対象が、該要件(ア)の熱処理によって溶体化が生じ、該要件(イ)の熱処理によって析出硬化が生じる前提のNi基合金が用いられる金属部材の製造方法に限定されると解され、かつ、溶体化処理において該要件(ア)の温度範囲より高い温度での熱処理を含んでいないものでもあるから、該要件(ア)の溶体化処理によって結晶粒を粗大化させた状態で、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させ材料を硬化させる該要件(イ)の析出硬化処理が行われることによって、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保されることが十分期待され、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されるように上記イの課題が解決されると、当業者が認識できる範囲のものということができる。

ケ このように、本件発明1〜3については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)申立人の主張について
特許異議の申立ての理由の概要として、上記第3の9(1)〜(7)に摘記をした申立理由9(サポート要件)に関する申立人の主張につき、以下のア〜キで検討する。

ア インコネル718以外のNi基合金の使用について(申立理由9(1))
(ア)申立人は、本件発明1〜3において、インコネル718以外のNi基合金である析出硬化型のNi−Cr系合金や、析出硬化型ではないNi基合金が用いられる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、
a 本件発明1〜3は、析出硬化処理を含む金属部材の製造方法の発明であるから、これら発明に用いられるNi基合金は析出硬化型であることを前提としたものであって、析出硬化型ではないNi基合金を用いる場合は発明対象に含まれないことは、明らかである。
b また、上記(2)ウで検討したように、本件明細書には、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形したNi基合金に対して行う熱処理が、要件(ア)及び(イ)をともに満たすことによって、結晶粒の粗大化を発生させた後に、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化し、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保することができ、上記(2)イの課題を解決できることが説明されており、本件発明1〜3のNi基合金として、実施例記載のインコネル718以外の析出硬化型のNi−Cr系合金が用いられる場合にも、上記(2)ウの要件(ア)の溶体化処理が行われる際には、結晶粒の粗大化が発生し、上記(2)ウの要件(イ)の析出硬化処理が行われる際には、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化するとの、実施例同様の金属組織の構造的特徴が実現し、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保されることが十分期待されるから、当業者であれば上記(2)イの課題を解決することを認識できるといえる。
c なお、上記(2)イの課題に関わるNi基合金のクリープ特性や低サイクル疲労特性といった機械的特性は、合金組成の違いによっても多少影響される可能性はあるものの、本件明細書の説明には、上記したような金属組織の構造的特徴が課題解決に寄与することが専ら記載されるのみであるし、実施例記載のインコネル718以外の析出硬化型のNi−Cr系合金が用いられる場合、上記(2)ウの要件(ア)の溶体化処理が行われる際に、結晶粒の粗大化が必ずしも発生しないといえたり、上記(2)ウの要件(イ)の析出硬化処理が行われる際に、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相が必ずしも析出しないといえたりするような、金属組織に関する何らかの技術常識が本件特許に係る出願の出願時に存在していたとも認められないし、かつ、申立人も、何らかの具体的証拠を示しているわけでもないから、上記bの場合において、本件明細書の説明に反し、課題解決できないといえる特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

イ 溶体化処理の熱処理温度について(申立理由9(2))
(ア)申立人は、本件発明1〜3において、Ni基合金がインコネル718であり1180℃で溶体化処理する以外の熱処理温度条件にて溶体化処理が行われる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、
a 本件発明1〜3の「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度」とされる溶体化処理における熱処理温度条件は、上記(2)ウで検討したように、鍛造や鋳造によって成形されたNi基合金の金属部材の溶体化処理において一般的に用いられる温度範囲よりも相当に高いが、固溶線温度から少し離れた温度範囲を特定する、結晶粒の粗大化を発生させるための条件として特定されるものであるから、本件発明1〜3において、Ni基合金がインコネル718であり1180℃で溶体化処理する以外の熱処理温度条件にて溶体化処理が行われる場合にも、実施例同様の結晶粒の粗大化という金属組織の構造的特徴が実現し、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保されることが十分期待されるから、当業者であれば上記(2)イの課題を解決することを認識できるといえる。
b なお、本件発明1〜3の、Ni基合金がインコネル718であり1180℃で溶体化処理する以外の「(TC−100)℃以上、(TC−50)℃以下の温度範囲(TCは、前記Ni基合金の固相線温度)の温度」という条件で溶体化処理が行われる場合において、結晶粒の粗大化が必ずしも発生しないといえる、金属組織に関する何らかの技術常識が本件特許に係る出願の出願時に存在していたとも認められないし、かつ、申立人も、何らかの具体的証拠を示しているわけでもないから、上記aの場合において、本件明細書の説明に反し、課題解決できないといえる特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

ウ 溶体化処理の熱処理時間について(申立理由9(3))
(ア)申立人は、本件発明1〜3の熱処理時間が特定されない溶体化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、上記(2)ウで検討したように、本件発明1〜3の溶体化処理は、上記(2)イの課題を解決する実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とを確保するため、結晶粒の粗大化を発生させるという技術的意味を有するものであって、かかる溶体化処理の際の熱処理時間までも特定しなければ結晶粒の粗大化が発生しえず、上記(2)イの課題が解決できないといえるような特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

エ 溶体化処理の冷却条件について(申立理由9(4))
(ア)申立人は、本件発明1及び2の冷却条件が特定されない溶体化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、本件発明1及び2の溶体化処理は、本件明細書【0018】に説明されるように、金属の合金成分が固溶体に溶解する温度以上に加熱して、十分な時間保持した後に、急冷する処理を意味するから、急冷するという冷却条件を備えることは明らかである。また、上記(2)イの課題を解決するために、急冷するとの特定以上に冷却条件を特定しなければいけないような特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

オ 析出硬化処理の熱処理温度について(申立理由9(5))
(ア)申立人は、本件発明1〜3において、Ni基合金がインコネル718であり720℃及び620℃で析出硬化処理する以外の熱処理温度条件にて析出硬化処理が行われる場合、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、本件発明1〜3の析出硬化処理は、上記(ア)のような特定温度の処理のみに限らず、本件明細書【0020】に説明されるように、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化させるための析出硬化(時効硬化)を人工的に行う熱処理そのものを意味するし、また、本件発明1〜3の「600℃以上、800℃以下の温度範囲」の析出硬化処理において、本件明細書【0020】に説明されるのとは異なる現象により析出硬化が生じてしまうなどの、上記(2)イの課題が解決できないといえるような特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

カ 析出硬化処理の熱処理時間について(申立理由9(6))
(ア)申立人は、本件発明1〜3の熱処理時間が特定されない析出硬化処理によって、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、本件発明1〜3の析出硬化処理は、上記オ(イ)で検討したとおりの処理であって、かかる析出硬化処理の熱処理時間までも特定しなければ、上記(2)イの課題が解決できないといえるような特段の事情も見いだせない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

キ 急冷する処理をさらに含む溶体化処理について(申立理由9(7))
(ア)申立人は、本件発明3の急冷する処理をさらに含む溶体化処理は、実施例に記載されておらず、課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、上記エ(イ)のように、溶体化処理は、本件明細書【0018】に説明されるように、金属の合金成分が固溶体に溶解する温度以上に加熱して、十分な時間保持した後に、急冷する処理をもともと意味するものと解されるから、実施例記載の溶体化処理が急冷まで伴うものであることは明らかである。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由9(サポート要件)についてのまとめ
したがって、申立理由9(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

10 申立理由10(明確性要件)について
(1)明確性要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)申立人の主張と本件発明に関する明確性要件判断
上記(1)の判断手法を踏まえ、申立人が申立理由10(明確性要件)について主張をする本件発明に関する特許請求の範囲の記載について、それぞれ明確性要件に適合しているか否かについて検討する。

ア 本件発明1及び3のNi基合金にどのように析出硬化処理を行うのか判然としない合金が含まれるか否かについて
(ア)申立人は、請求項1及び3に記載されたNi基合金は、析出硬化型ではない合金であって、どのように析出硬化処理を行うのか判然としないものを含む点で、明確とはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、上記9(3)ア(イ)aで検討したとおり、本件発明1及び3は、析出硬化処理を含む金属部材の製造方法の発明であるから、これら発明に用いられるNi基合金は析出硬化型であることを前提としたものであって、析出硬化型ではないNi基合金、すなわち、どのように析出硬化処理を行うのか判然としない合金を用いる場合は、発明対象に含まれないことは、明らかである。
したがって、析出硬化型ではない合金を含まないNi基合金に対する本件発明1及び3の析出硬化処理は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

イ 本件発明3の急冷する処理は明確といえるか否かについて
(ア)申立人は、請求項3に記載された急冷は、具体的にどのような冷却速度の範囲であるかという点で、明確とはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、本件発明3の「急冷する処理」は、「溶体化処理を行う工程」に含まれるとされているから、溶体化処理に支障のない範囲の冷却速度で行われる処理であることは明らかであり、該「急冷する処理」は、具体的な冷却速度の範囲が特定されていないからといって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

(3)申立理由10(明確性要件)についてのまとめ
したがって、申立理由10(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。

11 申立理由11(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断手法
物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから、物を生産する方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつ、その方法により生産した物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。

(2)本件発明に関する実施可能要件判断
ア 本件発明は、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形し、所定の熱処理を行う、Ni基合金で構成される金属部材の製造方法に関するものである。

イ 本件明細書には、上記アの本件発明を構成する発明特定事項、すなわち、Ni基合金で構成される金属部材(【0015】)、アディティブ・マニュファクチャリングにより金属部材の成形を行う工程(【0017】)、金属部材に対して溶体化処理を行う工程(【0018】、【0019】、【0021】)、及び溶体化処理に続いて金属部材に対する析出硬化処理を行う工程(【0020】)の各事項を、一通り理解できる程度の具体的な説明がなされている。

ウ また、本件明細書【0022】〜【0034】には、ニッケルを主成分とするインコネル718(固相線温度1260℃)で構成される金属部材の成形を行い、それに続く熱処理として、常圧の不活性化ガスの雰囲気又は真空雰囲気における1180℃、3時間の溶体化処理と、720℃、8時間の熱処理が行われ、その後、620℃、10時間の熱処理が行われるとの内容の析出硬化処理のみが行われる実施例が記載されている。

エ さらに、上記イ及びウの本件明細書の説明に加え、本件明細書【0035】の記載を参酌すると、本件発明は、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形したNi基合金に対し、結晶粒の粗大化を図る溶体化処理と、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化する析出硬化処理とを行うことで、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保される金属部材の製造方法であることが理解できる。

オ 以上によれば、実施例のとおりに本件発明を実施することはもとより、該実施例以外の態様により、アディティブ・マニュファクチャリングにより成形したNi基合金に対し、結晶粒の粗大化を図る溶体化処理と、過飽和固溶体から金属間化合物などの異相を析出させて材料を硬化する析出硬化処理とを行う本件発明を実施することも十分可能なものと判断されるから、本件発明の金属部材の製造方法を当業者が何ら支障なく使用できることについて、本件明細書の発明の詳細な説明には、明確かつ十分な記載がなされているといえる。
また、そのようにして得られる金属部材は、実用上十分なクリープ特性と低サイクル疲労特性とが確保されるものであり、当業者が何ら支障なく使用することができることについて、本件明細書の発明の詳細な説明には、明確かつ十分な記載がなされているともいえる。

カ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜3について、実施可能要件を満たすものである。

(3)申立人の主張について
ア 本件発明1及び3のNi基合金に析出硬化型ではない合金が用いられた場合の析出硬化について
(ア)申立人は、本件発明1及び3のNi基合金のうち析出硬化型ではない合金について、「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」において、どのようにして析出硬化するのかについて、発明の詳細な説明には明確かつ十分な記載がなされていない旨を主張する。
(イ)しかしながら、上記9(3)ア(イ)aで検討したとおり、本件発明1及び3は、析出硬化処理を含む金属部材の製造方法の発明であるから、これら発明に用いられるNi基合金は析出硬化型であることを前提としたものであって、析出硬化型ではないNi基合金、すなわち、どのように析出硬化処理を行うのか判然としない合金を用いる場合は、発明対象に含まれないことは、明らかである。
したがって、析出硬化型ではない合金を含まないNi基合金に対する、本件発明1及び3の析出硬化処理としての「600℃以上、800℃以下の温度範囲の温度での熱処理を行う工程」は、当業者が実施をするに何ら支障のないものである。
(ウ)よって、上記(ア)の申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由11(実施可能要件)についてのまとめ
したがって、申立理由11(実施可能性要件)によっては、本件特許の請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-15 
出願番号 P2016-096238
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B22F)
P 1 651・ 113- Y (B22F)
P 1 651・ 537- Y (B22F)
P 1 651・ 536- Y (B22F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 市川 篤
佐藤 陽一
登録日 2021-01-20 
登録番号 6826821
権利者 三菱重工業株式会社
発明の名称 金属部材の製造方法  
代理人 狩野 芳正  

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