• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  A61J
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
管理番号 1384169
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-10 
確定日 2022-01-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6827247号発明「薬剤フィーダ及び薬剤払出し装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6827247号の請求項1−10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6827247号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)7月10日(優先権主張 2013年7月12日)を国際出願日とする特願2015−526418号の一部を平成31年1月25日に新たな特許出願としたものであって、令和2年7月29日付けで拒絶理由通知が通知され、それに対して令和2年11月25日に手続補正がされ、令和3年1月21日にその特許権の設定登録がされ(特許公報掲載日:令和3年2月10日)、その後、令和3年8月10日に特許異議申立人野田三佳(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし10に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
散薬を収容した状態で保管される薬剤容器と、本体側装置とによって構成される薬剤フィーダと、複数の前記薬剤容器を保管する薬剤容器収納棚と、薬剤容器収納棚の下方に位置し、前記薬剤容器から排出される散薬を受ける分配皿と、薬剤容器収納棚から本体側装置に前記薬剤容器を移動する薬剤容器移動装置とを備え、
前記薬剤容器は、散薬を収容する薬剤収容部と、散薬を排出する薬剤排出部とを有し、
前記薬剤容器は、本体側装置に対して着脱自在であり、
本体側装置は、前記薬剤容器の重量を直接的又は間接的に測定する重量測定手段を有し、
薬剤フィーダの本体側装置は複数であって、複数の本体側装置は分配皿の近傍に固定され、
薬剤容器移動装置によって、本体側装置から離脱した状態にあった薬剤容器収納棚に保管された前記複数の薬剤容器のいずれかを複数の本体側装置のいずれかに載置することが可能であり、
薬剤排出部から散薬を排出し、重量測定手段の検出値の減少値に基づいて散薬の排出量を検知することが可能であることを特徴とする薬剤払出し装置。
【請求項2】
薬剤容器移動装置は、上下昇降方向及び水平方向に前記薬剤容器を移動することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤払出し装置。
【請求項3】
前記薬剤容器は、薬剤排出部から散薬を分配皿に直接排出することを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤払出し装置。
【請求項4】
薬剤容器移動装置は、薬剤容器収納棚の近傍に配置され、
薬剤容器移動装置によって、薬剤容器収納棚と本体側装置とから離脱した状態にあった前記薬剤容器を本体側装置に載置することが可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薬剤払出し装置。
【請求項5】
前記薬剤容器を移動する際、薬剤容器収納棚に配置された複数の前記薬剤容器の中から前記薬剤容器を選定し、薬剤容器移動装置を用いて前記選定された薬剤容器を移動することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の薬剤払出し装置。
【請求項6】
さらに調剤する散薬の種類と処方量を入力する入力手段と、前記薬剤容器収納棚に保管されている散薬の種類及び残量を記憶する記憶手段とを有し、 前記入力手段に入力された散薬が収容されている前記薬剤容器を選択して前記薬剤容器移動装置で本体側装置に載置し、前記入力手段に入力された処方量の散薬を排出する動作を実行し、
前記薬剤容器収納棚に保管されている処方対象の散薬の残量が前記処方量に対して不足する場合には、排出動作に先立って所定の報知がなされる報知手段を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の薬剤払出し装置。
【請求項7】
報知手段は、前記散薬の残量が前記処方量に対して不足する場合には、前記散薬の残量が不足する旨の表示を行う表示装置であることを特徴とする請求項6に記載の薬剤払出し装置。
【請求項8】
さらに薬剤フィーダと分配皿との間に振動フィーダが設けられ、前記薬剤フィーダから一旦前記振動フィーダに散薬を供給し、前記振動フィーダから分配皿に散薬が供給されることを特徴とする請求項1、2、4、5、6又は7に記載の薬剤払出し装置。
【請求項9】
さらに散薬を包装する薬剤包装装置を有し、前記薬剤フィーダは運転と停止を繰り返して散薬を一服用分ずつ排出し、前記薬剤包装装置によって散薬を一服用分ずつ包装することが可能であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の薬剤払出し装置。
【請求項10】
前記薬剤フィーダは散薬を一服用分ずつ排出する動作を所定の回数繰り返すことを特徴とする請求項9に記載の薬剤払出し装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1、2、4、5、8−10は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、本件発明3は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された下記甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて、本件発明6及び7は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された下記甲第1号証に記載された発明並びに、甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、それらの特許は特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 申立理由2(新規事項の追加
本件特許に係る出願は、令和2年11月25日提出の手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、「分配皿」を備えることが特定され、請求項1を引用する請求項9及び10も同様に「分配皿」を備えることが特定された。
しかしながら、「分配皿」を備える請求項9及び10で特定される薬剤包装装置は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初の明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものではなく、本件発明9及び10に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件発明9及び10に係る特許は、特許法第113条第1号の規定に該当する。

3 証拠方法
甲第1号証:特開平5−237166号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開平1−284372号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:国際公開2013/154202号(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開平7−132135号公報(以下「甲4」という。)

4 甲各号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、下記の記載がある。なお、「包」、「直」、「層」、「置」、「様」、「所」、「給」、「空」、「滑」は、原文では、繁体字の記載である(下線は当審で付与した。以下同様である。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、散薬を包装装置によって1包ずつ分包するようになった散薬分包機に関するものである。」

「【0007】
【実施例】
図1はこの発明による散薬分包機の一実施例をブロック図で示したものであり、この散薬分包機は、散薬取り出し装置1と、散薬取り出し装置1の散薬取り出し口29から取り出された散薬を所要量ずつに分割する配分・分割装置4と、分割された散薬を包装する包装装置5とから構成されている。図2は散薬取り出し装置1の一実施例をブロック図で示したものであり、この散薬取り出し装置1は、各種類の散薬を収容した複数の散薬収容器10、10、…と、これらの散薬収容器10、10、…に対応して設けられた排出制御器20と、散薬取り出し口29とを具え、排出制御器20が、散薬収容器10、10、…の任意のものを選択して、その散薬を必要量だけ散薬取り出し口29から取り出すように構成されている。各散薬収容器10は、任意の種類の散薬を充分大量にストックしておける内容積を有するストック部11と、ストックした散薬を少量ずつ排出させる排出部13と、排出部13から散薬を連続的に排出させるため、ストック部11から排出部13へ散薬を供給する供給部12とから構成されている。一方、排出制御器20は、散薬収容器10、10、…のなかから、散薬を排出させるべき任意の散薬収容器10を選択する選択部21と、排出させるべき散薬の必要量を任意に設定する設定部22と、選択部21によって選択された散薬収容器10の排出動作にともなって、排出部13から排出される散薬を秤量する秤量部23と、秤量部23の秤量値と設定部22の設定値とを比較して、秤量値すなわち散薬の排出量が、設定値すなわち散薬の必要量に達したとき、その散薬収容器10の排出動作を終了させる制御部24とから構成されている。また、排出制御器20には、秤量部23で秤量され終わった必要量の散薬を、散薬取り出し口29に向けて給送するための適宜の給送装置25が設けられている。給送装置25は、たとえば、電磁フィーダ等の振動フィーダによって構成することができるが、これに限定するものでなく、また、秤量部23が、秤量終了にともなって、必要量の散薬を散薬取り出し口29に向けて送り出すことができるような構成のものである場合は、省略することが可能である。
・・・
図1に示す配分・分割装置4は、たとえば、1処方分の散薬を1回服用分の分量ずつに分割するものであり、従来から知られている種々の形式のものを利用することができる他、適宜の構成のものとすることが可能である。たとえば、分割マスを使用する場合は、往復動するようになった直線状分割マス、または、回転ないし回動するようになった環状分割マスのいずれでも使用することができ、また、これらを単独で使用できることはもちろん、直線状Vマスと直線状分割マスとを組み合わせてもよいし、環状Vマスと環状分割マスとを組み合わせてもよい。また、分割マスを使用しないで、平面または湾曲面のテーブル上に配分された散薬を所望の分量ずつ切り出すように構成したものを使用することもでき、この場合も、単独で使用することができるし、Vマスと組み合わせることも可能である。」

「【0009】図4は散薬取り出し装置1の他の実施例をブロック図で示したものであり、この散薬取り出し装置1は、各種類の散薬を収容した複数の散薬収容器10、10、…と、排出制御器20と、散薬取り出し口29とを具え、散薬収容器10、10、…または排出制御器20を移動させて、散薬収容器10、10、…の任意のものと、排出制御器20とを選択的に対応させ、排出制御器20と対応した散薬収容器10の散薬を必要量だけ散薬取り出し口29から取り出すように構成されている。排出制御器20を定位置に設置し、この排出制御器20に対して、散薬収容器10、10、…を移動させることによって任意の散薬収容器10を対応させる場合、散薬収容器10、10、…の配置、移動の方法およびその軌跡等については、種々の設計が可能であるため、具体的な図示を省略してある。たとえば、一例を挙げると、散薬収容器10、10、…を円形に配置し、これらを、適宜の移動機構26によって、その円の中心(移動機構26に連なる一点鎖線で示す)のまわりに回転移動させるように構成し、その回転軌跡の一箇所に対応した位置に、排出制御器20を設置することができる。また、このような円形配置の散薬収容器10、10、…を、上下に複層構造とすることもでき、その場合、各層の散薬収容器10、10、…ごとに排出制御器20をそれぞれ設置してもよいが、単一の排出制御器20を使用する場合は、その排出制御器20を、各層の散薬収容器10、10、…の高さに選択的に対応できるように、上下に移動可能に構成するか、または、複層構造の散薬収容器10、10、…を、一体的に上下移動(および回転移動)可能に構成することによって、単一の排出制御器20に対して、複層構造の任意の散薬収容器10を対応させることができる。さらに、適宜に配置された散薬収容器10、10、…のすベてをつねに移動させるのでなく、必要な一部(1個または数個)の散薬収容器10だけを移動させることによっても、散薬収容器10、10、…の任意のものと、排出制御器20とを選択的に対応させることが可能である。各散薬収容器10は、任意の種類の散薬を充分大量にストックしておける内容積を有するストック部11と、ストックした散薬を少量ずつ排出させる排出部13と、排出部13から散薬を連続的に排出させるため、ストック部11から排出部13へ散薬を供給する供給部12とから構成され、その詳細は、図3に示すものと同様のものである。一方、排出制御器20は、散薬収容器10、10、…のなかから、散薬を排出させるベき任意の散薬収容器10を選択する選択部21と、排出させるべき散薬の必要量を任意に設定する設定部22と、選択部21によって選択された散薬収容器10が、排出制御器20に対応した位置にくるように、その散薬収容器10または必要なすべての散薬収容器10、10、…を移動させる駆動部27と、選択部21によって選択され、かつ、駆動部27によって排出制御器20に対応した位置まで移動された散薬収容器10の排出動作にともなって、排出部13から排出される散薬を秤量する秤量部23と、秤量部23の秤量値と設定部22の設定値とを比較して、秤量値すなわち散薬の排出量が、設定値すなわち散薬の必要量に達したとき、その散薬収容器10の排出動作を終了させる制御部24とから構成されている。また、排出制御器20には、秤量部23で秤量され終わった必要量の散薬を、散薬取り出し口29に向けて給送するための適宜の給送装置25が設けられ、給送装置25は、たとえば、電磁フィーダ等の振動フィーダによって構成することができるが、これに限定するものでなく、また、秤量部23が、秤量終了にともなって、必要量の散薬を散薬取り出し口29に向けて送り出すことができるような構成のものである場合は、省略することが可能である。」

「【0010】上記のように構成された散薬取り出し装置1を使用する場合は、図2の散薬取り出し装置1の場合と同様に、各散薬収容器10、10、…のストック部11内に、それぞれ所定の種類の散薬を、充分大量に投入してストックするとともに、各部に必要な散薬の充填作業を行っておく。一方、排出制御器20の選択部21で、散薬収容器10、10、…のなかから、分包すべき種類の散薬を収容した任意の散薬収容器10を選択するとともに、設定部22で、その散薬の排出させるべき任意の必要量を設定する。すると、駆動部27が、この選択された散薬収容器10が排出制御器20に対応した位置にくるように、移動機構26を作動させて、その散薬収容器10または必要なすべての散薬収容器10、10、…を移動させる。そして、この散薬収容器10が排出制御器20に対応した位置まで移動されると、駆動部27が移動機構26を停止させ、制御部24が、この散薬収容器10に排出動作を行わせることとなり、その散薬収容器10は、排出制御器20の指示により、モータ16を駆動させて排出部材14を回転させるとともに、作動部材17を作動させてシャッタ15を開ける。すると、散薬の排出動作が開始することとなって、排出部13の円筒形空所内の散薬が、排出口に向かって徐々に移動して、排出口から連続的に排出される。このとき、排出部材14の回転によって排出部13から排出される量にほぼ見合う量の散薬が、攪拌部材18aの回転によって供給部12から排出部13内へ円滑に供給されるとともに、供給部12から排出部13へ供給される量にほぼ見合う量の散薬が、攪拌部材18aおよび攪拌部材18bの回転によってストック部11から供給部12内へ円滑に移動する結果、排出部13からの散薬の排出は、途切れなく連続的に行われることとなる。そして、排出部13から排出される散薬の排出量(すなわち秤量部23による秤量値)が、排出すべき必要量(すなわち設定部22による設定値)に達すると、排出制御器20の指示により、モータ16を停止させて排出部材14の回転を停止させるとともに、作動部材17を作動させてシャッタ15を閉め、同時に、モータ19による攪拌部材18aおよび攪拌部材18bの回転も停止する。そして、散薬収容器10の排出部13から排出され、秤量部23で秤量され終わった必要量(たとえば1処方分)の散薬は、給送装置25によって、散薬取り出し口29に向けて給送されて、散薬取り出し口29から取り出されたのち、配分・分割装置4によって所要量(1回服用分)ずつに分割されて、包装装置5に供給され、その投入口50に投入されて、包装装置5によってその1回服用分が1包となるように分包されることとなる。」




」(【図1】)



」(【図4】)

(2)甲2の記載事項
甲2には、下記の技術が記載されていると認められる(以下「甲2に記載された事項」という。)。
「ホッパは、粉粒体排出用フィーダであって、ホッパは、粉粒体排出用フィーダに対して着脱自在であり、粉粒体排出用フィーダは、ホッパの重量を直接的又は間接的に測定するロードセル27を有し、ホッパから粉粒体26を排出し、ロードセル27の検出値の減少値に基づいて粉粒体26の排出量を検知可能であること。」(公報2ページ右下欄12行ないし3ページ右上欄2行、3ページ右下欄下から3行ないし4ページ左上欄7行、図1、図5参照)

(3)甲3の記載事項
甲3には、下記の技術が記載されていると認められる(以下「甲3に記載された事項」という。)。
「薬品秤量装置であって、ホッパ25A、25Bは、散薬を分配皿に直接排出すること。」([0047]、図4参照)

(4)甲4の記載事項
甲4には、下記の技術が記載されていると認められる(以下「甲4に記載された事項」という。)。
「散薬分包機であって、散薬収納庫20に保管されている散薬の種類及び残量を記憶するデータキャリア80を有すること。」(【0009】、【0016】参照)

第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1) 甲1の認定事項、甲1発明
ア 甲1の認定事項
上記第3 4(1)から、甲1について下記のことが理解できる。
甲1の「各散薬収容器10は、任意の種類の散薬を充分大量にストックしておける内容積を有するストック部11と、ストックした散薬を少量ずつ排出させる排出部13と、排出部13から散薬を連続的に排出させるため、ストック部11から排出部13へ散薬を供給する供給部12とから構成されている。」(【0007】)との記載から、甲1の散薬収容器10は、散薬を収容した状態であり、散薬収容器10は、散薬を収容するストック部11と、散薬を排出する排出部13とを有しているといえる。
甲1の「この散薬取り出し装置1は、各種類の散薬を収容した複数の散薬収容器10、10、・・・と、これらの散薬収容器10、10、…に対応して設けられた排出制御器20と、散薬取り出し口29とを具え、排出制御器20が、散薬収容器10、10、・・・の任意のものを選択して、その散薬を必要量だけ散薬取り出し口29から取り出すように構成されている。」(【0007】)との記載から、複数の散薬収容器10、10、…と、排出制御器20とによって構成される散薬取り出し装置1が構成されているといえる。
甲1の「散薬取り出し装置1の散薬取り出し口29から取り出された散薬を所要量ずづに分割する分配・分割装置4」(【0007】)、「排出制御器20が、散薬収容器10、10、・・・の任意のものを選択して、その散薬を必要量だけ散薬取り出し口29から取り出すように構成されている。」(【0007】)、「分割マスを使用する場合は、・・・回転ないし回動するようになった環状分割マスのいずれでも使用することができ」(【0007】)との記載から、散薬収容器10、10、・・・から排出される散薬を受ける環状分割マスを有しているといえる。

イ 甲1発明
上記第3 4(1)の摘記事項及び上記「ア」の認定事項から、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。
「任意の種類の散薬を充分大量にストックしておける内容積を有するストック部11を有する散薬収容器10、10、…と、排出制御器20とによって構成される散薬取り出し装置1と、必要な一部(1個または数個)の散薬収容器10、10、…を移動させるように、散薬収容器10、10、…を適宜配置し、散薬収容器10、10、…から排出される散薬を受ける環状分割マスと、排出制御器20に散薬収容器10、10、…を移動する移動機構26とを備え、
散薬収容器10、10、…は、散薬を収容するストック部11と、散薬を排出する排出部13とを有し、
散薬収容器10、10、…は、排出制御器20に対応するように移動させられ、
排出制御器20は、散薬収容器10の排出部13から排出される散薬を秤量する秤量部23を有し、
散薬取り出し装置1の排出制御器20は、排出制御器20から排出された散薬が散薬取り出し口29を介して環状分割マスに取り出されるように固定され、
移動機構26によって、適宜配置された散薬収容器10、10、…のいずれかを排出制御器20に対応させることが可能であり、
排出部13から散薬を排出し、秤量部23により排出量を検知する散薬分包機。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の、「任意の種類の散薬を充分大量にストックしておける内容積を有するストック部11を有する散薬収容器10、10、…」は、その機能からみて、本件発明1の「散薬を収容した状態で保管される薬剤容器」に相当する。
以下同様に、「排出制御器20」は「秤量部23」を有する点において「本体側装置」に、「散薬収容器10、10、…と、排出制御器20とによって構成される散薬取り出し装置1」は「薬剤容器と、本体側装置とによって構成される薬剤フィーダ」に、「散薬収容器10、10、…から排出される散薬を受ける環状分割マス」は、「薬剤容器から排出される散薬を受ける分配皿」に、「散薬を収容するストック部11」は「散薬を収容する薬剤収容部」に、「散薬を排出する排出部13」は、「散薬を排出する薬剤排出部」に、「秤量部23」は散薬の排出量を検知するものである限度において「重量測定手段」に、「散薬分包機」は「薬剤払出し装置」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「必要な一部(1個または数個)の散薬収容器10、10、…を移動させるように、散薬収容器10、10、…を適宜配置」している態様は、本件発明1の「複数の薬剤容器を保管する」態様に相当する。
甲1発明の「移動機構26によって、適宜配置された散薬収容器10のいずれかを排出制御器20に対応させる」態様は、本件発明1の「薬剤容器収納棚から本体側装置に前記薬剤容器を移動する薬剤容器移動装置」と「本体側装置に薬剤容器を移動する薬剤容器移動装置」の限度で一致する。
甲1発明の「適宜配置された散薬収容器10」は「排出制御器20」から離脱した状態であることは明らかであるから、甲1発明の「移動機構26によって、適宜配置された散薬収容器10のいずれかを排出制御器20に対応させることが可能」である態様は、本件発明1の「薬剤容器移動装置によって、本体側装置から離脱した状態にあった薬剤容器収納棚に保管された前記複数の薬剤容器のいずれかを本体側装置のいずれかに載置することが可能」である態様と、「薬剤容器移動装置によって、本体側装置から離脱した状態にあった前記複数の薬剤容器のいずれかを本体側装置のいずれかに対応させることが可能」であることに限り一致する。
甲1発明の「排出部13から散薬を排出し、秤量部23により排出量を検知する」態様は、本件発明1の「薬剤排出部から散薬を排出し、重量測定手段の検出値の減少値に基づいて散薬の排出量を検知すること」と「薬剤排出部から散薬を排出し、薬剤排出部からの散薬の排出量を検知する」ことに限り一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点および相違点を有する。
<一致点>
散薬を収容した状態で保管される薬剤容器と、本体側装置とによって構成される薬剤フィーダと、
前記薬剤容器から排出される散薬を受ける分配皿と、本体側装置に前記薬剤容器を移動する薬剤容器移動装置とを備え、
前記薬剤容器は、散薬を収容する薬剤収容部と、散薬を排出する薬剤排出部とを有し、
本体側装置は、重量測定手段を有し、
薬剤容器移動装置によって、本体側装置から離脱した状態にあった前記複数の薬剤容器のいずれかを本体側装置のいずれかに対応させることが可能であり、
薬剤排出部から散薬を排出し、薬剤排出部からの散薬の排出量を検知することが可能である薬剤払出し装置。」

<相違点>
(ア)相違点1
本件発明1は、「薬剤容器収納棚」を備えるのに対し、甲1発明では、薬剤容器収納棚に相当する構成を有するのか否か不明な点で相違する。
また、この相違に関連して、分配皿を、本件発明1では、「薬剤容器収納棚の下方に配置」しているのに対し、甲1発明では、「薬剤容器収納棚の下方に配置」しているのか不明な点で相違する。また、薬剤容器移動装置が、本件発明1では、「薬剤容器収納棚」から本体側装置に薬剤容器を移動するのに対し、甲1発明では、「薬剤容器収納棚」から本体側装置に薬剤容器を移動させているのか不明な点で相違する。さらに、本体側装置から離脱した状態にあった複数の薬剤容器が、本件発明1では、「薬剤容器収納棚に保管」されているのに対し、甲1発明では、「薬剤容器収納棚に保管」されているのか不明な点で相違する。

(イ)相違点2
薬剤容器が本体側装置に対して、本件発明1では「着脱自在」であるのに対し、甲1発明では「対応」させられるものである点で相違する。

(ウ)相違点3
本件発明1では、薬剤容器が本体側装置に「載置」することが可能であり、重量測定手段が「前記薬剤容器の重量を直接的又は間接に測定」するものであり、「重量測定手段の検出値の減少値に基づいて」散薬の排出量を検知するのに対し、甲1発明では、薬剤容器が本体側装置に「対応」するものであり、また、重量測定手段が「散薬の排出量」を検知するものである点で相違する。

(エ)相違点4
本件発明1は、「薬剤フィーダの本体側装置は複数」であるのに対して、甲1発明は「排出制御器20」が複数であるか不明な点で相違する。

(オ)相違点5
本件発明1は、「本体側装置は分配皿の近傍に固定され」ているのに対して、甲1発明は、「排出制御器20」が「環状の分割マス」の近傍に固定されているか不明な点で相違する。

イ 判断
本件特許明細書の【0019】に記載されているように、本件発明1が薬剤容器を本体側装置に「載置」することによって、「薬剤容器の重量を測定」して、薬剤容器からの散薬の排出量を検知することが特徴の1つであると認められることから、まず、上記相違点3について検討する。
甲1には、「排出制御器20を定位置に設置し、この排出制御器20に対して、散薬収容器10、10、…を移動させることによって任意の散薬収容器10を対応させる場合、散薬収容器10、10、…の配置、移動の方法およびその軌跡等については、種々の設計が可能であるため、具体的な図示を省略してある。たとえば、一例を挙げると、散薬収容器10、10、…を円形に配置し、これらを、適宜の移動機構26によって、その円の中心(移動機構26に連なる一点鎖線で示す)のまわりに回転移動させるように構成し、その回転軌跡の一箇所に対応した位置に、排出制御器20を設置することができる。また、このような円形配置の散薬収容器10、10、…を、上下に複層構造とすることもでき、その場合、各層の散薬収容器10、10、…ごとに排出制御器20をそれぞれ設置してもよいが、単一の排出制御器20を使用する場合は、その排出制御器20を、各層の散薬収容器10、10、…の高さに選択的に対応できるように、上下に移動可能に構成するか、または、複層構造の散薬収容器10、10、…を、一体的に上下移動(および回転移動)可能に構成することによって、単一の排出制御器20に対して、複層構造の任意の散薬収容器10を対応させることができる。」(【0009】)との記載がある。
当該記載によれば、甲1には、散薬収容器の移動に関して、各層に設置された排出制御器20に対して回転移動させるか、単一の排出制御器20に対して上下移動させることが記載されているといえる。
しかしながら、甲1には、散薬収容器の上下移動についての具体的な構成が記載されていない。すなわち、散薬収容器を排出制御器20の上方において散薬収容器を上下移動することにより散薬収容器を排出制御器20に載置可能とすることができることは記載されていない。
そうすると、複数の排出制御装置20に対して、散薬収容器10を載置可能とすることは記載も示唆もされておらず、また、そのような構成とする動機付けはない。
また、甲1発明の秤量部23は、甲1発明の認定で示したとおり、散薬収容器10の排出部13から排出される散薬を秤量するものである。そして、この秤量部23により、散薬収容器10の重量を測定するようにすることは、甲1には記載も示唆もされていない。また、薬剤の排出量を測定する場合、その重量を直接測定することが一般的な測定方法であり、これに代えて、敢えて、薬剤容器の重量を測定するような構成とすることは、何らかの動機なければ通常試みられない構成であると考えられるが、甲1発明には、薬剤容器の重量を測定するような構成を採用するための動機は見当たらない。さらに、本件発明1で本体側装置に薬剤容器を載置して薬剤容器の重量を測定しているのは、本件特許明細書の段落【0019】に記載されているように別途の計量装置を不要とし計量装置が専有する領域を不要とするためのものであるが、甲1発明にはそのような動機は見当たらない。
申立人は、この点に関連して、特許異議申立書において「(相違点3の検討)」で、甲2に、ホッパー19の重量をロードセル27によって直接的又は間接的に測定し、その減量分が予め入力した量に達すると粉粒体26の排出を停止することが記載されている旨を主張している。しかし、甲2のホッパー19は、2ページ右下欄4−15行に記載されているように、振動フィーダに関するものであり、甲1においては、秤量部23の下流に設けられた給送装置25(【0009】)に相当するものである。
したがって、申立人の主張する甲2を参酌しても、甲1発明の秤量部23により薬剤収容器10の重量を測定するようにする動機付けはないというべきである。
また、甲3及び甲4にも、上記相違点3に係る本件発明1の構成についての記載や示唆は見当たらない。
そうすると、上記相違点3は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、上記(1)に示したのと同様の理由により、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由2について
(1)本件特許の出願当初の明細書等の記載
本件特許の出願当初の明細書等には、下記の記載がある。
「【0095】
モータ65が回転を開始すると、容器本体8内で螺旋部材12が回転し、薬剤収容部52内の散薬が螺旋部材12で押されて排出口形成部材11側にゆっくりと移動し、排出口形成部材11から少しずつ排出される。そして散薬の落下量Hが所望の重量となったところで、モータ65の回転を停止する。
【0096】
その後は、従来技術の散薬分包装置と同様、分配皿112の回転を停止し、分配皿112を分配個数に応じた角度だけ回転させて、掻き出し装置で散薬を分配皿112の外に掻き出し、後段側の薬剤包装装置に送り、個別に包装する。」
「【0124】
図15に示した薬剤払出し装置182では、薬剤フィーダ1を間欠的に動作させて、薬剤を一服用分ずつ排出する。そしてこれを薬剤包装装置120の投入ホッパー183に直接的に投入し、個別に包装する。
即ち薬剤払出し装置182では、薬剤フィーダ1は、起動と停止を繰り返し、薬剤フィーダ1から薬剤を一服用分ずつ排出する様にプログラムされている。そして薬剤の排出と連動して薬剤包装装置120が動作し、薬剤を一服用分ずつ排出する。
薬剤フィーダ1は、処方箋の内容に応じて所定の回数だけ起動と停止を繰り返し、処方された服用回数に分けて薬剤を排出し、薬剤包装装置120で包装される。」



」(図10)



」(図11)




」(図15)

(2)判断
上記のように、出願当初の明細書等の段落【0095】、【0096】には、容器本体8内の螺旋部材12を回転させて散薬を分配皿112に排出させ、散薬の落下量Hが所定の重量となったところで、モータ65の回転を停止させ、その後、分配皿112を回転させて薬剤包装装置に送り、個別包装することが記載されている。
そして、本件特許発明の薬剤払い出し装置は、そもそも、散薬を一服用分ずつ包装することを目的とするものであるから、上記段落【0095】、【0096】に記載された分配皿を有するものにおいても、モータ65の回転を停止する基準となる散薬の落下量Hを散薬一服用分とすることは、当然に選択し得る自明な選択肢の1つである。そして、出願当初の明細書等の段落【0124】に、薬剤フィーダ1の起動と停止を繰り返して散薬を一服用分ずつ排出し、薬剤包装装置によって散薬を一服用分ずつ包装することが記載されており、このような散薬の排出方法は、分配皿112を有するような場合でも採用し得ることは明らかである。このことは、図10及び図15において、薬剤包装装置の図番が同じ「120」が付されていることからも裏付けられる。
そうしてみると、上記出願当初の明細書等の段落【0095】、【0096】に記載された薬剤包装装置において、モータ65の回転を停止する基準として散薬一服用分とすること、及び、その際に、薬剤フィーダ1の起動と停止を繰り返して散薬を排出することは、出願当初の明細書等に記載されているに等しい自明な事項であるといえる。また、薬剤フィーダ1の起動と停止を繰り返して散薬を一服用分ずつ排出するということは、種々想到し得る散薬の排出態様を特定したにすぎず、何らかの新たな技術的事項が追加されるものでもない。
したがって、本件発明9及び10の「運転と停止を繰り返して散薬を一服用分ずつ排出」可能であり、かつ、「分配皿」を備える構成は、出願当初の明細書等に記載された事項である。
申立人は、「本件特許に係る特許出願(以下、本件出願)という。)の出願当初においては、『動作状態と停止状態を繰り返し、薬剤を一服用分ずつ排出可能である』構成は、旧請求項15に記載されていた。この旧請求項15は、旧請求項1乃至14に従属していたが、その何れにも、分配皿を有する特徴は記載されていなかった。」と主張している。しかしながら、新規事項が追加されたか否かは、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内である否かで判断するものであり、申立人が主張するように、出願当初の請求項に記載されていたか否かに基づき判断するものではない。
そもそも、出願当初の請求項1ないし15において、分配皿を有することが特定されていなかったということは、当該請求項1ないし15に係る発明は、分配皿を有するものと有さないものの両方のタイプを含み得ると解するのが相当である。
そして、本件補正により本件発明9及び10は分配皿を備える構成となったが、そのような発明が出願当初の明細書等に記載されていたことは、上述のとおりである。
また、申立人は、「本件出願の出願当初において、『薬剤フィーダ1を間欠的に動作させて、薬剤を一服用分ずつ排出する』構成の説明は、明細書の段落0123、0124、及び図15が全てであり、それ以外には見当たらない。」と主張している。しかしながら、上述したように、申立人の主張で指摘する箇所以外にも、明細書全体、具体的には段落【0095】、【0096】の記載等も含めて判断すべきものであり、申立人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件発明9及び10は、出願当初の明細書等に記載された発明であるから、本件補正は、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものである。

第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし10に係る特許を、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-22 
出願番号 P2019-011561
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61J)
P 1 651・ 55- Y (A61J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 聡
特許庁審判官 平瀬 知明
莊司 英史
登録日 2021-01-21 
登録番号 6827247
権利者 株式会社湯山製作所
発明の名称 薬剤フィーダ及び薬剤払出し装置  
代理人 藤田 隆  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ