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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1384251
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-17 
確定日 2022-03-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6873048号発明「有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6873048号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6873048号は2016年12月2日(優先権主張 2015年12月28日 日本国)に国際出願され、令和3年4月22日に特許権の設定登録がなされ、同年5月19日にその特許公報が発行され、その後、請求項1〜12に係る特許に対して、令和3年11月17日に特許異議申立人 神保良男(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1〜12に係る発明
本件請求項1〜12に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)中、
LとMは各々独立に、電子供与性基D又は電子求引性基Aを表し、
前記電子供与性基Dは、電子供与性基で置換されたアリール基、置換されていてもよい電子供与性基の複素環基、及び置換されていてもよいアミノ基からなる群より選ばれる基であり、
前記電子求引性基Aは、置換されていてもよいカルボニル基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよいホスフィンオキサイド基、置換されていてもよいボリル基、電子求引性基で置換されていてもよいアリール基、電子求引性基で置換されている電子供与性の複素環基、及び置換されていてもよい電子求引性の複素環基からなる群より選ばれる基であり、
Qは各々独立に、置換されてもよい炭素原子又は窒素原子を表し、
炭素原子の置換基は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、フッ素で置換されていてもよいアルキル基、電子供与性基又は電子求引性基で置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい電子供与性基の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい電子求引性基の複素環基、置換されていてもよいカルボニル基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよいホスフィンオキサイド基、及び置換されていてもよいボリル基からなる群より選ばれる基であり、
一般式(3)中、
Rは置換されてもよい炭素原子、酸素原子、置換されてもよい窒素原子、硫黄原子、置換されてもよいホウ素原子又は置換されてもよいケイ素原子を表し、
前記Rの置換基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、芳香族複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基、ホスホノ基からなる群より選ばれる基である。)
【請求項2】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)において、前記LとMの一方が前記電子供与性基Dであり、他方が前記電子求引性基Aである、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子供与性基Dは、電子供与性基で置換されたアリール基又は置換されていてもよい電子供与性の複素環基である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子求引性基Aは、電子求引性基で置換されていてもよいアリール基、電子求引性基で置換されている電子供与性の複素環基、又は置換されていてもよい電子求引性の複素環基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記アシストドーパント材料の最低励起一重項準位と最低励起三重項準位とのエネルギー差の絶対値であるΔESTが、0.50eV以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記アシストドーパント材料が、励起子を生成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記アシストドーパント材料が、蛍光を放射する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記アシストドーパント材料が、遅延蛍光を放射する、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(一般式(I)中、
X101は、NR101、酸素原子、硫黄原子、スルフィニル基、スルホニル基、CR102R103又はSiR104R105を表し、
y1〜y8は、それぞれ独立に、CR106又は窒素原子を表し、
R101〜R106は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、
Ar101及びAr102は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表し、
n101及びn102は、各々0〜4の整数を表す。
ただし、R101が水素原子の場合は、n101は1〜4の整数を表す。)
【請求項10】
前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有する、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

(一般式(II)中、
X101は、NR101、酸素原子、硫黄原子、スルフィニル基、スルホニル基、CR102R103又はSiR104R105を表し、
R101〜R105は、各々水素原子又は置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、
Ar101及びAr102は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表し、
n102は0〜4の整数を表す。)
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含む、表示装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含む、照明装置。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:Nature Communications, Published 30 May 2014, pages 1-7
甲第2号証:特開2015−179817号公報
甲第3号証:国際公開第2015/133353号
甲第4号証:国際公開第2011/070963号
(以下、甲第1〜4号証を「甲1」〜「甲4」という。)

・申立ての理由1−1
本件発明1〜12は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由1−2
本件発明1〜12は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由1−3
本件発明1〜12は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2−1
本件発明1〜12は、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2−2
本件発明1〜12は、甲2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2−3
本件発明1〜12は、甲3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2−4
本件発明1〜12は、甲1〜3に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由3
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜12を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由4
本件発明1〜12は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1−1について
(1)甲1の記載事項(甲1訳文を参照した当審訳文により示す。)
ア 「蛍光ベースの有機発光ダイオードは、その長い動作寿命、エレクトロルミネッセンスの高い色純度、および次世代のフルカラーディスプレイおよび照明用途にて低コストで製造される可能性があるため、引き続き関心を集めている。しかし、蛍光分子では、三重項励起子が非活性化されるため、励起子の生成効率は25%に制限される。
本論文は、青、緑、黄、赤の発光で13.4〜18%もの外部量子効率を実現する蛍光ベースの 有機発光ダイオードを報告する。これは、励起子の発生効率がほぼ100%に達したことを示している。熱活性化遅延蛍光分子をアシスタントドーパントとして利用することで高性能が可能になり、電気的に生成された全ての一重項および三重項励起子をアシスタントドーパントから蛍光エミッターに効率的に移動させることができる。
この励起子収集プロセスを採用した有機発光ダイオードは、多種多様な従来の蛍光分子からエミッターを自由に選択できる。」(第1頁要約)

イ 「OLEDのエミッターにTADFプロセスを使用することに加えて、OLEDのアシスタントドーパントとしてTADF分子を適用することにより、三重項収集の有望なルートを提案する。よって、OLEDは、ダブルドーパントシステム、つまり、ワイドエネルギーギャップホスト、TADFアシスタントドーパント、および蛍光エミッタードーパントで構成され、ηγ=100%になる。このシステムでは、電気励起によってアシスタントTADF分子上に作成された三重項励起子(T1A)がTADF分子のS1状態(S1A)にアップコンバートされ、すべてのS1A励起子がFRETプロセスを介して蛍光エミッター分子のS1状態(S1E)に転送され、蛍光エミッターのS1Eからの効率的な放射減衰をもたらす。
このカスケードエネルギー伝達に基づいて、青、緑、黄、赤の色でそれぞれ13.5、15.8、 18、17.5%のηEQEを備えた高効率OLEDを実証する。我々は、アシスタントドーパントとしてTADF分子10-フェニル-10H,10’H-スピロ[アクリジン-9,9’-アントラセン]-10'-オン(ACRSA)23、3-(9,9-ジメチルアクリジン-10(9H)-イル)-9H-キサンテン-9-オン(ACRXTN)、 2-フェノキサジン-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(PXZ-TRX)20および2,4,6-トリ(4-(10Hフェノキサジン-10H-イル)フェニル)-1,3,5-トリアジン(tri-PXZ-TRZ) 22、および蛍光エミッタードーパントとして2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(TBPe)、9,10-ビス[N,N-ジ-(p-トリル)-アミノ]アントラセン(TTPA)、2,8-ジtert-ブチル-5,11-ビス(4-tert-ブチルフェニル)-6,12-ジフェニルテトラセン(TBRb)およびテトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)を使用する(図1a)。これらの蛍光分子は、OLEDの従来の蛍光エミッターとして広く使用されており、市販されている24-27。ホスト材料として、青、緑、黄、赤のOLEDには、それぞれ、ビス-(2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)、1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン(mCP)、3,3-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(mCBP)、4,4’-ビス(9-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(CBP)を使用する。このダブルドーパントシステムでは、アシスタントドーパント自体は発光しないが、電気的に生成された全ての励起子を蛍光エミッター分子に渡して放射性崩壊させる。

結果
エネルギー移動プロセス 図1aは、カスケードタイプのELデバイスのエミッター層(EML) のエネルギー伝達図を示す。ここで、EMLとして研究されたエミッターとアシスタントドーパント分子の組合せと濃度を表1に示す。アシスタントドーパントのないEMLの場合、注入キャリアはホスト分子上で輸送され、ホスト材料のものに比べて浅い最高被占分子軌道とより深い最低空分子軌道のため、キャリアは、やがてエミッタードーパントでトラップされる。これにより、主にエミッタードーパントで直接キャリア再結合が発生する。よって、 三重項励起子が全体のEL効率に寄与することは無い。

図1:エネルギー移動メカニズム (a)本研究で使用したアシスタントドーパントの電気的励起および化学構造下でのエミッタードーパント:アシスタントドーパント:ホストマトリックスにおける提案エネルギー移動メカニズムの概略図。(b-e)アシスタントドーパントの蛍光スペクトル:ホスト共蒸着フィルム(上)、および溶液中のエミッタードーパント(CH2C12中10-5moll-1) の吸収(破線)および蛍光(実線)スペクトル(下)。むしろ大きなフォルスター伝達半径〜2.2, 〜7.3, 〜6.9および〜10nmは、アクセプターの吸収スペクトルとドナーのPLスペクトルとの重複に基づいて青、緑、黄および赤のEMLマトリックスについて評価され、効率的なFRETが可能であることを示唆する。

一方、アシスタントドーパントがこれらのEMLにドープされる場合、主にアシスタント分子上での励起子形成が望まれる。…よって、アシスタントドーパント上にて一重項(S1A)及び三重項(T1A)励起子が形成した後、表1に要約されているように、S1AとT1Aレベル間のエネルギーギャップ(ΔEST)がかなり小さいため、形成された三重項励起子はISCによりS1A状態にアップコンバートされる。次いで、エミッター分子の吸収スペクトルとアシスタントドーパントのPLスペクトルの間のスペクトルの重なりに従って(図1b-e)、S1A励起子エネルギーはFRETプロセスに基づいてエミッター分子のS1E状態に移動する。最後に、光は、エミッター分子のS1E状態からの遅延蛍光として放出される。従来の蛍光分子をアシスタントドーパントとして使用した場合、図1aに示すように、従来の蛍光分子の△ESTが大きいため、三重項励起子はT1Aから基底状態に非放射的に減衰し、発光に寄与しない。よって、アシスタントドーパントが従来の蛍光材料である場合、生成した三重項励起子はエネルギー移動プロセスに寄与しない。

表1:4色OLEDのエミッター層の成分

ACRSA,10-フェニル-10H,10'H-スピロ[アクリジン-9,9'-アントラセン]-10'-オン;ACRXTN,3-(9,9-ジメチルアクリジン-10(9H)-イル)-9H-キサンテン-9-オン;CBP,4,4'-ビス(9-カルバゾリル)-1,1'-ビフェニル;DBP,テトラフェニルジベンゾペリフランテン;DPEPO,ビス-(2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド;EL,エレクトロルミネッセンス;mCBP,3,3-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル;mCP,1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン;PXZ-TRZ,2-フェノキサジン-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン;OLED,有機発光ダイオード;TBPe,2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン;TBRb,2,8-ジ-tert-ブチル-5,11-ビス(4-tert-ブチルフェニル)-6,12-ジフェニルテトラセン;トリ-PXZ-TRZ,2,4,6 -トリ(4-(10H-フェノキサジン-10H-イル)フェニル)-1,3,5-トリアジン;TTPA,9,10-ビス[N,N-ジ-(p-トリル)-アミノ]アントラセン。
*S1およびT1エネルギーは、それぞれ蛍光および燐光発光のピーク波長から推定した。

キャリアトラップと再結合に対する濃度の考えられる影響は、補足図1-3および補足注1に示すように、ηEQEがアシスタントドーパントの濃度に依存することによって十分に裏付けられる。ここで、15%のアシスタントドーパント濃度で最高のηEQE輝度(L)特性を観察した。アシスタントドーパント濃度が15%未満の場合、キャリア再結合がアシスタントドーパントで完全に発生しない可能性がある一方、15%を超える濃度の場合には、アシスタントドーパントから蛍光エミッター (T1E)の三重項レベルへのデクスターエネルギー移動またはアシスタントドーパントの濃度抑制が発生する可能性がある。最適な濃度は、異なるキャリア輸送と光物理的特性を持つホスト分子とゲスト分子のさまざまな組み合わせによって変化する。我々は、ホスト層が、アシスタント分子のS1AおよびT1Aよりも高い一重項 (S1H)および三重項(T1H)のエネルギーレベルを持っていることに留意する。よって、アシスタントドーパントのS1A状態からホスト層のS1H状態への逆エネルギー移動が抑制される。加えて、アシスタントドーパントをホストマトリックスに分散させることで、T1Aから T1Eへの直接エネルギー移動をさらに防ぐことができる。すなわち、損失をもたらすデクスターエネルギー移動プロセスを最小限に抑えることができる11。」(第2頁右欄第9行〜第4頁左欄第13行)

ウ 「OLEDの製造 アノードとして、事前パターン化された、厚さ100nm、100Ohmsq-2の錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板を使用した。中性洗剤、蒸留水、アセトン、イソプロパノールで順次超音波処理して基板を洗浄した後、紫外線オゾン(NL-UV253, Nippon Laser & Electronics Lab)に晒して、吸着した有機物を除去した。
基板の予備洗浄後、慣用のフォトリソグラフィー技術により、ポリイミド絶縁層によってパターン化されたITO基板上に1mm2の有効デバイス領域を規定した。基板を紫外線オゾンで25分間処理し、直ちに蒸発チャンバーに移した。
有機層を熱蒸発によって形成した。ドープされた発光層は、共蒸着によって堆積された。堆積は、<5×l0-5Paの圧力で真空下にて行った。デパイスは、有機層形成後に窒素ガスに晒され、カソード領域を規定する金属マスクを適用した。デバイス製造後、デバイスは、窒素グローブボックス(02<0.1ppm, H2O<0.1ppm)内でエポキシ接着剤を使用して、ガラス蓋で直ちにカプセル化した。市販の酸化カルシウム乾燥剤(Dynic社)を、カプセル化された各パッケージに入れた。
ITO/α-NPB(35 nm)/mCP(10 nm)/1wt%-TBPe:15w%-ACRSA:DPEPO(15 nm)/ DPEPO(8 nm)/ TPBi(57 nm)/LiF(0.8 nm)/Al(100 nm)の構造を有する青色 OLEDが作成された。参照デバイスとして、1wt%-TBPe: DPEPOからなるEMLを有するOLEDが作成された。
ITO/TAPC (35 nm)/1 wt%-TTPA: 50 wt%-ACRXTN: mCP(15nm)/TPBi(65 nm)/LiF(0.8 nm)/Al(100 nm)の構造を有する緑色OLEDが作成された。参照デバイスとして、1wt%-TTPA: mCPからなるEMLを有するOLEDが作成された。
ITO/TAPC(35 nm)/1 wt%-TBRb:25 wt%-PXZ-TRX:mCBP(30 nm)/T2T(10 nm)/Alq3(55 nm)/LiF(0.8 nm)/Al(100 nm)の構造を有する黄色OLEDが作成された。参照デバイスとして、1wt%-TBRb: mCBPからなるEMLを有するOLEDが作成された。
ITO/TAPC (35 nm)/1 wt%-DBP:15 wt%-tri-PXZ-TRZ:CBP(15 nm)/TPBi (65 nm)/LiF(0.8 nm)/Al(100 nm)の構造を有する赤色OLEDが作成された。参照デバイスとして、1wt%-DBP: CBPからなるEMLを有するOLEDが作成された。
製造デバイスのエネルギーレベルとそれらに使用されているアシスタントドーパント材料の化学構造の概略図を補足図7に示す。」(第6頁右欄下から第14行〜第7頁左欄第22行)

(2)甲1に記載された発明
上記(1)イ、特に表1、及び(1)ウから、甲1には、以下の甲1A発明〜甲1D発明が記載されている。

「アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板に、ドープされた発光層を共蒸着によって堆積させ、カソード領域を規定する金属マスクを適用することにより製造された、青色有機発光ダイオードであって、ドープされた発光層が、ホスト材料としてビス−(2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)、アシスタントドーパントとしてTADF分子10−フェニル−10H,10’H−スピロ[アクリジン−9,9’−アントラセン]−10’−オン(ACRSA)、蛍光エミッタードーパントとして2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(TBPe)を含む、青色有機発光ダイオード。」(以下、「甲1A発明」という。)

「アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板に、ドープされた発光層を共蒸着によって堆積させ、カソード領域を規定する金属マスクを適用することにより製造された、緑色有機発光ダイオードであって、ドープされた発光層が、ホスト材料として1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン(mCP)、アシスタントドーパントとしてTADF分子3−(9,9−ジメチルアクリジン−10(9H)−イル)−9H−キサンテン−9−オン(ACRXTN)、蛍光エミッタードーパントとして9,10−ビス[N,N−ジ−(p−トリル)−アミノ]アントラセン(TTPA)を含む、緑色有機発光ダイオード。」(以下、「甲1B発明」という。)

「アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板に、ドープされた発光層を共蒸着によって堆積させ、カソード領域を規定する金属マスクを適用することにより製造された、黄色有機発光ダイオードであって、ドープされた発光層が、ホスト材料として3,3−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(mCBP)、アシスタントドーパントとしてTADF分子2−フェノキサジン−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(PXZ−TRX)、蛍光エミッタードーパントとして2,8−ジtert−ブチル−5,11−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−6,12−ジフェエルテトラセン(TBRb)を含む、黄色有機発光ダイオード。」(以下、「甲1C発明」という。)

「アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板に、ドープされた発光層を共蒸着によって堆積させ、カソード領域を規定する金属マスクを適用することにより製造された、赤色有機発光ダイオードであって、ドープされた発光層が、ホスト材料として4,4’−ビス(9−カルバゾリル)−1,1−ビフェニル(CBP)、アシスタントドーパントとしてTADF分子2,4,6−トリ(4−(10Hフェノキサジン−10H−イル)フェニル)−1,3,5−トリアジン(tri−PXZ−TRZ)、蛍光エミッタードーパントとしてテトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)を含む、赤色有機発光ダイオード。」(以下、「甲1D発明」という。)

(5)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板」、「ドープされた発光層」、「カソード領域を規定する金属マスク」、「青色有機発光ダイオード」は、それぞれ、本件発明1の「陽極」、「発光層」、「陰極」、「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
甲1A発明は、アノードとして、事前パターン化された、錫ドープ酸化インジウム(ITO)コーティングしたガラス基板に、共蒸着によってドープされた発光層を堆積させ、カソード領域を規定する金属マスクを適用することにより製造されたものであるから、甲1A発明のドープされた発光層は、ガラス基板と金属マスクとの間に設けられた、すなわち「前記陽極と前記陰極との間に設けられた」ものと認められる。
また、甲1A発明の「ホスト材料としてビス−(2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)」、「アシスタントドーパントとしてTADF分子10−フェニル−10H,10’H−スピロ[アクリジン−9,9’−アントラセン]−10’−オン(ACRSA)」、「蛍光エミッタードーパントとして2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(TBPe)」は、それぞれ、本件発明1の「ホスト化合物」、「アシストドーパント材料」、「蛍光発光性化合物」に相当するから、甲1A発明の「ドープされた発光層が、ホスト材料としてビス−(2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)、アシスタントドーパントとしてTADF分子10−フェニル−10H,10’H−スピロ[アクリジン−9,9’−アントラセン]−10’−オン(ACRSA)、蛍光エミッタードーパントとして2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(TBPe)を含む」は、本件発明1の「発光層の少なくとも一層が、アシストドーパント材料と、蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、ホスト化合物とを含む」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1A発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(1−A):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲1A発明は、「TADF分子10−フェニル−10H,10’H−スピロ[アクリジン−9,9’−アントラセン]−10’−オン(ACRSA)」(以下「ACRSA」という。)である点。

イ 検討
上記相違点(1−A)について検討する。
ACRSAの化合物名、及び上記(1)イ、特に図1に記載されたACRSAの化学構造式をみると、ACRSAは、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれとも一致しない。
そうすると、上記相違点(1−A)は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1A発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

ウ 本件発明1と甲1B発明との対比
上記アと同様に、本件発明1と甲1B発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(1−B):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲1B発明は、「TADF分子3−(9,9−ジメチルアクリジン−10(9H)−イル)−9H−キサンテン−9−オン(ACRXTN)」(以下「ACRXTN」という。)である点。

エ 検討
上記相違点(1−B)について検討する。
ACRXTNの化合物名、及び上記(1)イ、特に図1に記載されたACRXTNの化学構造式をみると、ACRXTNは、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれとも一致しない。
そうすると、上記相違点(1−B)は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1B発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

オ 本件発明1と甲1C発明との対比
上記アと同様に、本件発明1と甲1C発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(1−C):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲1C発明は、「TADF分子2−フェノキサジン−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(PXZ−TRX)」(以下「PXZ−TRX」という。)である点。

カ 検討
上記相違点(1−C)について検討する。
PXZ−TRXの化合物名、及び上記(1)イ、特に図1に記載されたPXZ−TRXの化学構造式をみると、PXZ−TRXは、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれとも一致しない。
そうすると、上記相違点(1−C)は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1C発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

キ 本件発明1と甲1D発明との対比
上記アと同様に、本件発明1と甲1D発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(1−D):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲1D発明は、「TADF分子2,4,6−トリ(4−(10Hフェノキサジン−10H−イル)フェニル)−1,3,5−トリアジン(tri−PXZ−TRZ)」(以下「tri−PXZ−TRZ」という。)である点。

ク 検討
上記相違点(1−D)について検討する。
tri−PXZ−TRZの化合物名、及び上記(1)イ、特に図1に記載されたtri−PXZ−TRZの化学構造式をみると、tri−PXZ−TRZは、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれとも一致しない。
そうすると、上記相違点(1−D)は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1D発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

ケ 申立人の主張について
申立人は異議申立書において、「甲1は いくつかのTADF材料をアシスタントドーパントとして利用した例を示すが、この中には本件発明1に規定する一般式(1)等を満足する化合物はない。しかし、甲1は、冒頭1頁に記載のとおり、「TADF材料をアシスタントドーパント」として利用することで高性能を発現することを開示しているのであるから、具体例で使用したアシスタントドーパントに限定されないことは当然である。 …
よって、甲1に、「アシスタントドーパント」として熱活性遅延蛍光(TADF)材料を利用することが開示されている以上、TADF材料として公知であれば、新規性又は進歩性がないということになる。」(11頁下から14行〜4行)と主張する。

申立人も認めるように、甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載されていない。
そして、上記(1)アには、「熱活性化遅延蛍光分子をアシスタントドーパントとして利用することで高性能が可能になり、電気的に生成された全ての一重項および三重項励起子をアシスタントドーパントから蛍光エミッターに効率的に移動させることができる。」と記載されているが、技術常識を参酌しても、「熱活性化遅延蛍光分子をアシスタントドーパントとして利用する」という記載から、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料という技術的事項が導き出されるともいえない。
そうすると、申立人の主張は採用できない。

コ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(6)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が、甲1に記載されたものでない以上、本件発明2〜12も、甲1に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(7)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものではないから、申立ての理由1−1には、理由がない。

3 申立ての理由2−1について
(1)本件発明1について
ア 相違点(1−A)について
甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲1A発明のACRSAに代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲1A発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 相違点(1−B)について
甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲1B発明のACRXTNに代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲1B発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 相違点(1−C)について
甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲1C発明のPXZ−TRXに代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲1C発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 相違点(1−D)について
甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲1D発明のtri−PXZ−TRZに代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲1D発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 申立人の主張について
申立人は、2(5)ケのとおり主張するが、甲1には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1A発明〜甲1D発明におけるアシスタントドーパントに代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

カ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1A発明〜甲1D発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が甲1A発明〜甲1D発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜12も、甲1A発明〜甲1D発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものでないから、申立ての理由2−1には、理由がない。

4 申立ての理由1−2について
(1)甲2の記載事項
ア 「【請求項1】
陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、以下の式(A)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物とを少なくとも含み、前記第2有機化合物は遅延蛍光体であり、前記第3有機化合物は発光体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(A) ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
(上式において、ES1(A)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(B)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(C)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。)
【請求項2】
前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.3eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.08eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第1有機化合物と前記第2有機化合物が以下の式(B)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(B) ET1(A)>ET1(B)
(上式において、ET1(A)は第1有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、ET1(B)は第2有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)
【請求項5】
前記第3有機化合物は、最低励起一重項エネルギー準位から基底エネルギー準位に戻るときに蛍光を放射するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発光効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、アシストドーパントとして遅延蛍光体を用いれば励起三重項状態の遅延蛍光体が励起一重項状態に逆項間交差するため、結果的に三重項励起エネルギーを蛍光に変換することができ、高い発光効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。

【発明の効果】
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、特定の条件を満たす3種類の有機化合物を組み合わせて用いるため、発光効率が極めて高いという特徴を有する。特に、本発明は、第3有機化合物が最低励起一重項エネルギー準位から基底エネルギー準位に戻るときに蛍光を放射する化合物である場合に発光効率を大きく向上させることができる。」

エ 「【0015】
[発光層]
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層は、以下の式(A)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物とを少なくとも含み、第2有機化合物は遅延蛍光体であり、第3有機化合物は発光体である。
式(A) ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
上式において、ES1(A)は第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(B)は第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(C)は第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。
また、本発明における「遅延蛍光体」は、励起三重項状態に遷移した後、励起一重項状態に逆項間交差することができ、励起一重項状態から基底状態に戻るときに蛍光を放射する有機化合物のことを言う。なお、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により生じる光の寿命は、通常の蛍光(即時蛍光)やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。このため、このような蛍光を「遅延蛍光」と称する。
【0016】
このような発光層は、第1有機化合物〜第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーES1(A),ES1(B),ES1(C)が上記式(A)を満たし、かつ第2有機化合物が遅延蛍光体であることにより、該発光層に注入されたホールと電子との再結合によって生じた励起エネルギーが効率よく蛍光に変換され、高い発光効率を得ることができる。これは以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、この発光層では、ホールおよび電子の再結合によって励起エネルギーが発生すると、発光層に含まれる各有機化合物が基底状態から励起一重項状態および励起三重項状態に遷移する。励起一重項状態の有機化合物(一重項励起子)と励起三重項状態の有機化合物(三重項励起子)との形成確率は、統計的に一重項励起子が25%、三重項励起子が75%である。そして、励起子のうち励起一重項状態の第1有機化合物および第2有機化合物のエネルギーが第3有機化合物に移動し、基底状態の第3有機化合物が励起一重項状態に遷移する。励起一重項状態になった第3有機化合物は、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。
【0017】
このとき、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、第2有機化合物が遅延蛍光体であるため、励起三重項状態の第2有機化合物が励起一重項状態に逆項間交差し、この逆項間交差による一重項励起エネルギーも第3有機化合物に移動する。このため、存在比率の大きい励起三重項状態の第2有機化合物のエネルギーも間接的に発光に寄与し、発光層が第2有機化合物を含まない構成に比べて有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を飛躍的に向上させることができる。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は主として第3有機化合物から生じるが、発光の一部あるいは部分的に第1有機化合物および第2有機化合物からの発光であってもかまわない。また、この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。

【0019】
(第2有機化合物)
第2有機化合物として用いる遅延蛍光体としては、特に限定されないが、熱エネルギーの吸収によって励起一重項状態から励起三重項状態に逆項間交差する熱活性化型の遅延蛍光体であることが好ましい。熱活性化型の遅延蛍光体は、デバイスが発する熱を吸収して励起三重項状態から励起一重項へ比較的容易に逆項間交差し、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。」

オ 「【0021】
第2有機化合物として用いる遅延蛍光体は遅延蛍光を放射しうるものであれば特に制限されないが、例えば下記一般式(1)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化1】

[一般式(1)において、Ar1〜Ar3は各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基で置換されたアリール基を表す。]
【化2】

[一般式(2)において、R1〜R8は各々独立に水素原子または置換基を表す。ZはO、S、O=CまたはAr4−Nを表し、Ar4は置換もしくは無置換のアリール基を表す。R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]

【0206】
好ましい発光材料として、下記の化合物を挙げることもできる。
[1] 下記一般式(311)で表される化合物。
一般式(311)
A−D−A
[一般式(311)において、Dは下記式:
【化158】

で表される構造(ただし構造中の水素原子は置換基で置換されていてもよい)を含む2価の基であり、2つのAは各々独立に下記の群:
【化159】

から選択される構造(ただし構造中の水素原子は置換基で置換されていてもよい)の基を表す。]

【0211】
第2有機化合物の分子量は、例えば第2有機化合物を含む発光層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、例えば一般式(1)または(9)で表される化合物であれば、これらの一般式で表される最小化合物の分子量である。
また、発光層を塗布法で成膜する場合には、比較的大きな分子量のものであっても分子量を問わずに好ましく用いることができる。
【0212】
なお、本発明において第2有機化合物として使用することができる遅延蛍光体は一般式(1)で表される化合物に限定されるものではなく、式(A)を満たす限り、一般式(1)で表される化合物以外の遅延蛍光体も用いることができる。この他の遅延蛍光体として、一般式(1)のトリアジン骨格をピリジン骨格とした化合物、ベンゾフェノン骨格やキサントン骨格に各種複素環構造が置換した化合物等を挙げることができる。
【0213】
(第1有機化合物)
第1有機化合物は、第2有機化合物および第3有機化合物よりも最低励起一重項エネルギーが大きい有機化合物であり、キャリアの輸送を担うホスト材料としての機能や第3有機化合物のエネルギーを該化合物中に閉じ込める機能を有する。これにより、第3有機化合物は、分子内でホールと電子とが再結合することによって生じたエネルギー、および、第1有機化合物および第2有機化合物から受け取ったエネルギーを効率よく発光に変換することができ、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
第1有機化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。以下に、第1有機化合物として用いることができる好ましい化合物を挙げる。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R1〜R10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。nは3〜5の整数を表す。」

カ 「【0280】
(実施例1) mCBP(第1有機化合物)、PXZ−TRZ(第2有機化合物)、TBRb(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
発光層の材料として下記の有機化合物を準備した。
【化209】

【0281】
mCBPは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.7eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.90eVであり、PXZ−TRZは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.3eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.23eVであり、TBRbは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.18eVである。また、PXZ−TRZ薄膜の過渡減衰曲線を図2に示す。図2から、PXZ−TRZは遅延蛍光を示す有機化合物であることが確認できた。PXZ−TRZの最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstは0.070eVであった。
【0282】
次に、mCBP、PXZ−TRZ、TBRbを発光層の材料として有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
膜厚110nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Pa以下で積層した。まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに形成し、その上にTrisPCzを30nmの厚さに形成した。次に、mCBPとPXZ−TRZとTBRbとを異なる蒸着源から共蒸着し、15nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、PXZ−TRZの濃度は10〜50重量%の範囲で選択し、TBRbの濃度は1重量%とした。次に、T2Tを10nmの厚さに形成し、その上にBPyTP2を55nmの厚さに形成した。さらに、フッ化リチウム(LiF)を0.8nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、発光層の組成比が異なる各種有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
製造した有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルを図3に示し、輝度−外部量子効率特性を図4に示し、過渡減衰曲線を図5、図6に示した。

【0288】
表22に示すように、発光層がmCBPとPXZ−TRZとTBRbを含む実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、PXZ−TRZを用いていない比較例1またはmCBPを用いていない比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子に比べて外部量子効率および電流効率が格段に高く、優れた特性を有していた。…
【0289】
(実施例2) ADN(第1有機化合物)、PXZ−TRZ(第2有機化合物)、TBRb(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例では、実施例1のmCBPのかわりにADNを第1有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し評価した。ADNは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.83eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が1.69eVである。実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子からは波長約560nmの発光が認められた。
実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子よりも、実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は有意に高い外部量子効率を達成しており、一段と優れた特性を示すことが確認された。
【化210】

【0290】
(実施例3) mCBP(第1有機化合物)、PXZ−TRZ(第2有機化合物)、TBRb(第3有機化合物A)、DBP(第3有機化合物B)を用いた4元系の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
実施例1では第3有機化合物としてTBRbのみを用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製したが、本実施例ではさらに下記のDBPも第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。DBPは、最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.0eVである。
【化211】


【0292】
(実施例4) CBP(第1有機化合物)、ptris−PXZ−TRZ(第2有機化合物)、DBP(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例では下記のCBPを第1有機化合物として用い、下記のptris−PXZ−TRZを第2有機化合物として用い、DBPを第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。CBPは最低励起一重項エネルギー準位ES1が3.26eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.55eVであり、ptris−PXZ−TRZは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.30eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.16eVでありである。
【化212】


【0294】
(実施例5) DPEPO(第1有機化合物)、ASAQ(第2有機化合物)、TBPe(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例では下記のDPEPOを第1有機化合物として用い、下記のASAQを第2有機化合物として用い、下記のTBPeを第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。DPEPOは最低励起一重項エネルギー準位ES1が3.20eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が3,00eVであり、ASAQは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.75eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.52eVであり、TBPeは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.70eVである。
【化213】


【0296】
(実施例6) DPEPO(第1有機化合物)、ASAQ(第2有機化合物)、TBPe(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
TPBiの厚さを57nmに変更したこと以外は、実施例5と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
形成した発光層の、最低励起一重項状態と最低励起三重項状態とのエネルギー差ΔEstと、フォトルミネッセンス量子効率φPLを表24に示す。また、製造した有機エレクトロルミネッセンス素子の輝度−外部量子効率特性を図18に示し、特性値を表25に示す。
【0297】
(実施例7) mCP(第1有機化合物)、MN04(第2有機化合物)、TTPA(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例では下記のmCPを第1有機化合物として用い、下記のMN04を第2有機化合物として用い、下記のTTPAを第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。mCPは最低励起一重項エネルギー準位ES1が3.30eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.90eVであり、MN04は最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.60eVで最低励起三重項エネルギー準位ET1が2.47eVであり、TTPAは最低励起一重項エネルギー準位ES1が2.34eVである。
【化214】


【0299】
(実施例8) mCBP(第1有機化合物)、PXZ−TRZ(第2有機化合物)、TBRb(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例ではmCBPを第1有機化合物として用い、PXZ−TRZを第2有機化合物として用い、TBRbを第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。

【0300】
(実施例9) CBP(第1有機化合物)、ptris−PXZ−TRZ(第2有機化合物)、DBP(第3有機化合物)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
本実施例ではCBPを第1有機化合物として用い、ptris−PXZ−TRZを第2有機化合物として用い、DBPを第3有機化合物として用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して評価した。

【産業上の利用可能性】
【0304】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は高い発光効率が得られるため、画像表示装置として様々な機器に適用することが可能である。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。」

(2)甲2に記載された発明
上記(1)アから、甲2には、以下の甲2発明が記載されている。
「陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、以下の式(A)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物とを少なくとも含み、前記第2有機化合物は遅延蛍光体であり、前記第3有機化合物は発光体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(A) ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
(上式において、ES1(A)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(B)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(C)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。)」

(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「陽極」、「陰極」、「前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」は、それぞれ、本件発明1の「陽極」、「陰極」、「前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含」む、「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
上記(1)オには、第1有機化合物が、キャリアの輸送を担うホスト材料としての機能を有することが記載されているから、甲2発明の「第1有機化合物」は、本件発明1の「ホスト化合物」に相当する。
上記(1)ウ〜オには、アシストドーパントとして遅延蛍光体を用いることが記載されているから、甲2発明の「遅延蛍光体」である「第2有機化合物」は、本件発明1の「アシストドーパント材料」に相当する。
上記(1)ア、エには、第3有機化合物は、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射することが記載されているから、甲2発明の「第3有機化合物」は、本件発明1の「蛍光発光性化合物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層とを含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(2):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲2発明は、「第2有機化合物」である点。

イ 検討
上記相違点(2)について検討する。
甲2には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料は記載されていない。
そして、技術常識を参酌しても、「アシストドーパントとして遅延蛍光体を用いる」という記載から、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料という技術的事項が導き出されるともいえない。
そうすると、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は異議申立書において、「本件発明1は、「アシストドーパント材料」として、一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(6) で表される構造を有するπ共役系化合物に限定している。
一方、甲2は、上述のとおり、「アシスタントドーパント」として「遅延蛍光体」を利用する。
よって、本件発明1で規定した一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(6)で表される構造を有するπ共役系化合物(アシストドーパント材料)が「遅延蛍光体」である限り、甲2で公知である。
本件発明においても、アシストドーパントとしてTADF材料を積極的に利用し、π共役系化合物が TADF性(遅延蛍光性)を示すことを明記する(本件【請求項8】、段落【0083】参照)。よって、甲2に、「アシスタントドーパント」が「遅延蛍光体」であることが開示されている以上、遅延蛍光体(TADF材料)として公知であれば、新規性又は進歩性がないということになる。」(12頁下から5行〜13頁4行)と主張する。

申立人も認めるとおり、本件発明1の「アシストドーパント材料」は、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するものに限定されている。
甲2にはアシストドーパントとして遅延蛍光体を用いることが記載されているが、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料は記載されていない。
そして、技術常識を参酌しても、「アシストドーパントとして遅延蛍光体を用いる」という記載から、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料という技術的事項が導き出されるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が、甲2に記載されたものでない以上、本件発明2〜12も、甲2に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものではないから、申立ての理由1−2には、理由がない。

5 申立ての理由2−2について
(1)本件発明1について
ア 相違点(2)について
甲2には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲2発明における第2有機化合物として、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲2発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、4(3)ウのとおり主張するが、甲2には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明における第2有機化合物に代えて、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が甲2発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜12も、甲2発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものでないから、申立ての理由2−2には、理由がない。

6 申立ての理由1−3について
(1)甲3の記載事項
ア 「請求の範囲
[請求項1]
電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物を含有する有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
分子軌道計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEH)及び
前記計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEL)の和(ΔEH+ΔEL)が、2.0eV以上であり、かつ、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−5.2eV以上であり、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−1.2eV以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
[請求項2]
前記化合物が、熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

[請求項5]
前記化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[化1]

(式中、R1〜R10は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数6〜30のヘテロアリール基を表す。R1〜R10の少なくとも一つは、電子吸引性のアリール基又はヘテロアリール基を表す。また、R1〜R10は、更に置換基を有していてもよい。)
[請求項6]
前記化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有することを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[化2]

(式中、R1〜R8は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又はヘテロアリール基を表す。Aは、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数6〜30のヘテロアリール基を表し、これらは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数6〜12のヘテロアリール基で置換されていてもよく、各々の置換基と環を形成していてもよい。EWGは、電子吸引性のアリール基又はヘテロアリール基を表す。また、R1〜R8、A及びEWGは、更に置換基を有していてもよい。)

[請求項8]
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が、具備されていることを特徴とする表示装置。
[請求項9]
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が、具備されていることを特徴とする照明装置。」

イ 「 技術分野
[0001] 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。また、当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された表示装置及び照明装置並びに発光性組成物に関する。より詳しくは、発光効率が改良された有機エレクトロルミネッセンス素子等に関する。」

ウ 「発明の課題
発明が解決しようとする課題
[0014] 本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、膜耐久性が向上することにより長時間安定した駆動が可能である有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。また、当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された表示装置及び照明装置並びに発光性組成物を提供することである。
課題を解決するための手段
[0015] 本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部を同一分子内に有する化合物を含有する有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、分子軌道計算により算出される分子全体及び分子の構成部分についての被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道(HOMO)のエネルギー値と、空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道(LUMO)のエネルギー値との関係が所定の相関関係を有することにより、顕著な膜耐久性の改善が見られることを見いだし、本発明に至った。…」

エ 「発明の効果
[0026] 本発明の上記手段により、膜耐久性が向上することにより長時間安定した駆動が可能である有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。また、当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された表示装置及び照明装置並びに発光性組成物を提供することができる。」

オ 「[0063] <電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部>
本発明は、発光材料(ドーパント)として用いる化合物が電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部を程良く両立していることが特徴である。
ここで、電子ドナー構成部(以下、単に「ドナー構成部」ともいう。)及び電子アクセプター構成部(以下、単に「アクセプター構成部」ともいう。)とは、本発明で用いられる化合物の構造中で、電子供与(ドナー)性が強い部位と、電子吸引(アクセプター)性が強い部位とをそれぞれドナー構成部及びアクセプター構成部と呼ぶこととする。
本発明で用いられる化合物のドナー構成部の具体例としては、置換又は無置換のアルコキシ基あるいはアミノ基等によって置換されたアリール基、カルバゾリル基、アリールアミノ基、ピロリル基、インドリル基、インドロインドリル基、インドロカルバゾリル基、フェナジル基、フェノキサジル基、イミダゾリル基等が挙げられる。また、Hammet則における置換基定数σ−p値が負の値を取るような基も好ましく用いられる。
[0064] また、本発明で用いられる化合物のアクセプター構成部の具体例としては、置換又は無置換のシアノ基、スルフィニル基、スルホニル基、ニトロ基、アシル基等によって置換されたアリール基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、キノリル基、キノキサリル基、シンノリル基、キナゾリル基、ピリミジル基、トリアジノ基、ピリジル基、ピラジル基、ピリダジル基、アザカルバゾリル基、ヘプタジノ基、ヘキサアザトリフェニレン基、ベンゾフラニル基、アザベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ベンゾジフラニル基、アザジベンゾフラニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチオフェニル基、アザベンゾジオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、アザジベンゾチオフェニル基等が挙げられ、硫黄を含む複素環の場合、ジベンゾチオフェン−S,S−ジオキシドのように硫黄が酸素で酸化されているものも好適に用いられる。また、Hammet則における置換基定数σ−p値が正の値を取るような基も好ましく用いられる。
ただし、分子内における電子供与と電子吸引のバランスは相対的なものであるので、必ずしも上記の構成に限定されるものではない。」

カ 「[0099] 本発明の有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明に用いられる発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。

[0104] 《発光層》
本発明に用いられる発光層は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に用いられる発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の層厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜5μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2〜500nmの範囲に調整され、更に好ましくは5〜200nmの範囲に調整される。
また、本発明に用いられる個々の発光層の層厚としては、2nm〜1μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2〜200nmの範囲に調整され、更に好ましくは3〜150nmの範囲に調整される。
本発明に用いられる発光層には、前述の発光材料を発光ドーパント(発光性化合物、発光性ドーパント化合物、ドーパント化合物、単にドーパントともいう。)として含有し、さらに前述のホスト化合物(マトリックス材料、発光ホスト化合物、単にホストともいう。)とを含有することが好ましい。
[0105] (1)発光ドーパント
発光ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光発光性化合物、蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう。)と、リン光発光性ドーパント(リン光発光性化合物、リン光ドーパント、リン光性化合物ともいう。)が好ましく用いられる。本発明においては、少なくとも1層の発光層が前述の発光材料を含有することが好ましい。
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の層厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に用いられる発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
[0106] また、本発明においては、少なくとも1層の発光層が、本発明又は公知の発光性化合物に加えて、発光補助剤(アシストドーパント)として機能する本発明に係る化合物を含有することも好ましい。
また、発光層が、本発明に係る化合物と発光性化合物を含有し、ホスト化合物を含有しない場合、本発明に係る化合物はホスト化合物として作用させることも可能である。
図1B及び図1Cに、本発明に係る化合物がそれぞれアシストドーパント及びホスト化合物として作用する場合の模式図を示す。図1B及び図1Cは一例であって、本発明に係る化合物上に生成する三重項励起子の生成過程は電界励起のみに限定されず、発光層内又は周辺層界面からのエネルギー移動や電子移動等も含まれる。
[0107] 本発明に係る化合物がアシストドーパントとして使用される場合、本発明に係る化合物のS1とT1のエネルギー準位は、ホスト化合物のS1とT1のエネルギー準位よりも低く、発光性化合物のS1とT1のエネルギー準位よりも高い方が好ましい。

[0109] (1.1)本発明で発光ドーパントとして用いられる化合物
本発明で発光ドーパントとして用いられる化合物は、熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることが好ましい。
また、本発明に係る化合物は、18π電子以上の共役面を含む構造を有することが好ましい。さらには、本発明に係る化合物は、5員環が二つ以上縮環した構造を有することが好ましい。
また、本発明に係る化合物は、発光性組成物として好適に用いることができる。
具体的には、下記の一般式(1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。本発明の発光性化合物は、蛍光を発光するもの、リン光を発光するもの、遅延蛍光を発光するものが含まれる。
[0110][化4]

[0111] 式中、R1〜R10は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数6〜30のヘテロアリール基を表す。R1〜R10の少なくとも一つは、電子吸引性のアリール基又はヘテロアリール基を表す。また、R1〜R10は、更に置換基を有していてもよい。…

[0121] 以下に、本発明における化合物として好ましく用いられる化合物を例示するが、一例であってこれに限定するものではない。以下に示す化合物例は、全てHOMOのエネルギー値が−5.2eV以上であり、LUMOのエネルギー値が−1.2eV以下であり、ΔEHとΔELの和が2.0eV以上であることを確認している。例えば、例示化合物D32については、HOMOのエネルギー値が−5.0eVであり、LUMOのエネルギー値が−2.0eVであり、ΔEHとΔELの和が3.3eV(ΔEH=1.8eV、ΔEL=1.5eV)である。

[0131]
[化16]



キ 「[0257] [実施例1]
≪有機EL素子1−1の作製≫
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
[0258] この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚20nmの正孔注入層を設けた。
[0259] この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにm−MTDATA(4,4′,4″−トリス[フェニル(m−トリル)アミノ]トリフェニルアミン)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにTCTA(4,4′,4″−(カルバゾール−9−イル)−トリフェニルアミン)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物C1(H−159)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)を200mg入れ真空蒸着装置に取り付けた。
[0260] 次いで、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、m−MTDATAの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔注入層上に蒸着し30nmの正孔輸送層を設けた。
[0261] 更に、TCTAの入った前記加熱ボートと比較化合物C1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し30nmの発光層を設けた。
[0262] 更に、BCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記発光層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
[0263] 引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
[0264] ≪有機EL素子1−2〜1−8の作製≫
有機EL素子1−1の作製において、比較化合物C1を表2に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子1−2〜1−8を作製した。
[0265] (連続駆動安定性(半減寿命)の評価)
分光放射輝度計CS−2000を用いて輝度を測定し、測定した輝度が半減する時間(LT50)を求めた。
駆動条件は、連続駆動開始時に3000cd/m2となる電流値とした。
表2において、有機EL素子1−1のLT50を100とした相対値を求め、これを連続駆動安定性の尺度とした。その評価結果を表2に示す。表中、数値が大きいほど、連続駆動安定性に優れている(長寿命である)ことを表す。
[0266][表2]

[0267] 表2の結果から本発明の構成では、比較例の構成よりも優れた駆動寿命を示すことがわかる。このことから、本発明の構成によってキャリアバランスを改善した結果、素子の連続駆動安定性が向上することが示された。」

ク 「



(2)甲3に記載された発明
上記(1)アの記載から、上記(1)クの図1Bに記載された「本発明に係る化合物」は、「電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物であって、分子軌道計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEH)及び
前記計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEL)の和(ΔEH+ΔEL)が、2.0eV以上であり、かつ、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−5.2eV以上であり、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−1.2eV以下であることを特徴とする」化合物であって、「熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることを特徴とする」化合物であると認められる。
そうすると、上記(1)ア、(1)クから、甲3には、以下の甲3発明が記載されている。
「ホスト化合物と、電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物であって、分子軌道計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEH)及び
前記計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEL)の和(ΔEH+ΔEL)が、2.0eV以上であり、かつ、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−5.2eV以上であり、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−1.2eV以下であることを特徴とする化合物であって、熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることを特徴とする化合物であるアシストドーパントと、蛍光発光性化合物を含む、有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の「ホスト化合物」、「アシストドーパント」、「蛍光発光性化合物」、「有機層」、「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件発明1の「ホスト化合物」、「アシストドーパント材料」、「蛍光発光性化合物」、「発光層」、「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「発光層を含み、
前記発光層の少なくとも一層が、
アシストドーパント材料と、
蛍光発光性化合物及びリン光発光性化合物の少なくとも一方と、
ホスト化合物と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点(3−1):
本件発明1は、「陽極と、陰極と」を含み、発光層が「前記陽極と前記陰極との間に設けられた」ものであるのに対し、甲3発明は、このような特定がされていない点。

相違点(3−2):
アシストドーパント材料が、本件発明1は、「下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する」(注:一般式(1)〜(4)、(6)省略)のに対し、甲3発明は、「電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物であって、分子軌道計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する被占軌道のうち最も高いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEH)及び
前記計算により描像される前記電子ドナー構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値と、前記電子アクセプター構成部上に分布する空軌道のうち最も低いエネルギー値を有する軌道のエネルギー値との差(ΔEL)の和(ΔEH+ΔEL)が、2.0eV以上であり、かつ、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる被占軌道のうち最も高いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−5.2eV以上であり、
前記化合物の分子全体について前記分子軌道計算により得られる空軌道のうち最も低いエネルギーを有する軌道のエネルギー値が、−1.2eV以下であることを特徴とする化合物であって、熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることを特徴とする化合物」である点。

イ 検討
事案に鑑み、相違点(3−2)について検討する。
甲3には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料は記載されていない。
そして、技術常識を参酌しても、「熱活性化型遅延蛍光を発する化合物であることを特徴とする化合物であるアシストドーパント」という記載から、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料という技術的事項が導き出されるともいえない。
そうすると、上記相違点(3−2)は実質的な相違点であるから、相違点(3−1)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、「本件発明1は、「アシストドーパント材料」として、一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(6) で表される構造を有する共役系化合物に限定している。
一方、甲3は、「アシスタントドーパント」として使用できる「本発明(甲3)に係る化合物」について、請求項1、2において、「電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物」、「熱活性化型遅延蛍光を発する化合物」であると開示する。さらに、請求項3、4において、「18π電子以上の共役面を含む構造を有する化合物」であることも開示する。
よって、本件発明1で規定した一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(6)で表される構造を有するπ共役系化合物(アシストドーパント材料)が「電子ドナー構成部と電子アクセプター構成部とを同一分子内に有する化合物」や「熱活性化型遅延蛍光を発する化合物」や「18π電子以上の共役面を含む構造を有する化合物」である限り、甲2(注:「甲3」の誤記と認められる。)で公知である。

さらに、引用文献4 (= 甲3)は、アシストドーパント材料として使用できる本発明(甲3)化合物について、具体的化合物を例示しており、そのうち、段落[0131]に例示された化合物「D66」は、本件発明1の一般式(6)の構造を含む化合物である。

したがって、本件発明1は、甲3によっても公知であり、新規性を有しない。少なくとも、甲3から当業者が容易になし得たものであり、進歩性を有しない。」(13頁下から6行〜14頁下から4行)と主張する。

申立人も認めるとおり、本件発明1の「アシストドーパント材料」は、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するものに限定されている。
そして、上記(1)ア、クから、甲3には熱活性化遅延蛍光分子を発する化合物をアシストドーパントとすることが記載されているといえるが、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料は記載されていない。
そして、上記記載から、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有するアシストドーパント材料という技術的事項が導き出されるともいえない。
また、上記(1)カには、申立人が指摘する「D66」の化学構造式が記載されており、D66は、一般式(6)の骨格が、L、Mの置換位置で、それぞれ、複素環基で置換されたトリアジン環、ベンゼン環で置換された化合物であると認められる。
本件発明1の一般式(6)は、「…LとMは各々独立に、電子供与性基Dまたは電子求引性Aを表し、…前記電子求引性基Aは、置換されていてもよい電子求引性の複素環基からなる群より選ばれる基であり…」と定義されており、「置換されていてもよい電子求引性の複素環基」について、本件特許の発明の詳細な説明には、「置換されていてもよい電子求引性の複素環基」における「複素環」として「トリアジン環」は記載されているが(【0048】)、「「置換されていてもよい電子求引性の複素環基」における置換基としては、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基で置換されていてもよいアリール基、フッ素原子で置換されていてもよいアリール基が挙げられる。アルキル基及びアリール基は前述のアルキル基及びアリール基と同義である。」と記載されており(【0049】)、「置換されていてもよい電子求引性の複素環基」の置換基には複素環は含まれない。
そうすると、一般式(6)の置換基L、Mは、複素環基で置換されたトリアジン環は含まないものと認められる。
したがって、D66は、本件発明1の一般式(6)の定義に当てはまらないから、一般式(6)の化合物ではなく、甲3に一般式(6)の化合物が記載されているということはできない。
よって、申立人の主張はいずれも採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が、甲3に記載されたものでない以上、本件発明2〜12も、甲3に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものではないから、申立ての理由1−3には、理由がない。

7 申立ての理由2−3について
(1)本件発明1について
ア 相違点(3−2)について
事案に鑑み、相違点(3−2)について検討する。
甲3には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲3発明におけるアシストドーパントとして、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用する動機付けはない。
そうすると、本件発明1は、甲3発明及び甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、6(3)ウのとおり主張するが、甲3には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料は記載も示唆もされていないから、当業者が、甲3発明におけるアシストドーパントとして、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)のいずれか1つで表される構造を有する、アシストドーパント材料を採用することを容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲3発明及び甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が甲3発明及び甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜12も、甲3発明及び甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものでないから、申立ての理由2−3には、理由がない。

8 申立ての理由2−4について
(1)甲4の記載事項
ア 「請求の範囲
[請求項1] 蛍光及び遅延蛍光を放射する有機発光材料であって、下記一般式(1)で示される化合物からなることを特徴とする有機発光材料。

ここで、環Aは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される芳香環を表し、環Bは隣接環と任意の位置で縮合する式(1b)で表される複素環を表す。式(1)、(1b)中のArは、独立に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。式(1)、(1a)中のRは、独立に水素又は1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。nは1以上4以下の整数を示す。」

イ 「技術分野
[0001] 本発明は新規な蛍光及び遅延蛍光を放射する有機発光材料及びこれを用いた有機発光素子に関するものである。」

ウ 「[0010] 本発明は、高効率な実用上有用な有機発光素子及びそれに適する有機発光材料を提供することを目的とする。
[0011] 本発明者らは、鋭意検討した結果、蛍光及び遅延蛍光を放射する有機発光材料を見出し、これを有機発光素子に使用することで、有機PL素子や高効率な有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0012] 本発明は、蛍光及び遅延蛍光を放射する有機発光材料であって、下記一般式(1)で示される化合物からなることを特徴とする有機発光材料に関する。

ここで、環Aは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される芳香環を表し、環Bは隣接環と任意の位置で縮合する式(1b)で表される複素環を表す。式(1)、(1b)中のArは、独立に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。式(1)、(1a)中のRは、独立に水素又は1価の置換基であり、隣接する置換基が一体となって環を形成してもよい。nは1以上4以下の整数を示す。」

エ 「[0024] すなわち、一般式(1)において、環Aは式(1a)で表される芳香環であり、環Bは式(1b)で表される複素環である。そして、環Aと環Bと縮合した環はインドール環となる。この環Aと環Bと縮合した環は、環A-環B-環A-環Bのように連続的に縮合することができ、環A-環Bの組み合わせはn個存在し得る。一般式(1)において、nは1〜4の整数を示す。
一般式(1)で示される化合物の骨格は、左からインドール環、n個の環Aと環Bと縮合した環及びベンゼン環が連結した縮環構造を有する。例えば、n=1の場合は、環Aと環Aの左側のインドール環で構成される3環の縮合環をカルバゾール環、環Bと環Bの右側のベンゼン環で構成される2環の縮合環をインドール環とすれば、カルバゾール環の1,2-位、2,3-位又は3,4-位の位置とインドール環の2,3-位又は3,2-位の位置で縮合することができるので、式(1b)で表される複素環中のNの向きが異なる異性体がある。したがって、n=1の場合は、一般式(1)で示される化合物の骨格であるインドロカルバゾール環には下式(A)〜(E)に示す5種類の異性体がある。なお、nが増えると異性体の数は増えるが、構造的に縮合可能な位置が限定されるので限られる。
[0025]



オ 「[0047] 一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
[0048]



カ 「[0184]実施例1
ガラス基板上に真空蒸着法にて、真空度5.0×10-4 Paの条件にて化合物(11)を蒸着源から蒸着し、薄膜を0.2nm/秒にて100nmの厚さで形成した。作成した薄膜にN2レーザーにより337nmの光を照射した際の薄膜からの発光スペクトルを温度5Kで評価したところ、466nmの蛍光発光及び486nmの燐光発光が確認された。この波長から化合物(11)の励起一重項エネルギーが2.66eV、励起三重項エネルギーが2.55eVであることがわかった。また、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーの差(ΔE)は0.11eVであった。
[0185]実施例2
ガラス基板上に真空蒸着法にて、真空度5.0×10-4 Paの条件にて1,3−ジカルバゾリルベンゼン(mCP)を蒸着源から蒸着し、薄膜を0.2nm/秒にて100nmの厚さで形成した。作成した薄膜にN2レーザーにより337nmの光を照射した際の薄膜からの発光スペクトルを5Kで評価したところ、375nmの蛍光発光及び420nmの燐光発光が確認された。この波長からmCPの励起一重項エネルギーが3.30eV、励起三重項エネルギーが2.95eVであることがわかった。
mCPは、化合物(11)の励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーに対して、0.64eV高い励起一重項エネルギー、0.4eV高い励起三重項エネルギーを有すると計算される。

[0191]実施例5
膜厚100nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-4 Paで積層させた。まず、ITO上に三酸化モリブデンを0.7nmの厚さに形成した。次に、ジフェニルナフチルジアミン(NPD)を40 nmの厚さに形成した。次に、mCPを10nmの厚さに形成した。次に、化合物(11)とmCPを異なる蒸着源から、共蒸着し、20nmの厚さに形成した。この時、化合物(11)の濃度は6.0wt %であった。次に、バソフェナントロリン(BPhen)を40nmの厚さに形成した。更に、セシウムを、0.5nmの厚さに形成した。最後に、電極としてアルミニウム(Al)を70nmの厚さに形成し、有機EL素子を作成した。
得られた有機EL素子に外部電源を接続し直流電圧を印加しながら、浜松ホトニクス(株)製C9920-02型絶対量子収率測定装置を用いて、300Kでの特性評価を行った。その結果、化合物(11)に由来する478nmの発光が確認された。外部発光効率は、0.03mA/cm2の電流密度において、3.4%であった。次に、浜松ホトニクス(株)製C4334型ストリークカメラにより、この素子の時間分解スペクトルの評価を行った。2μS以下の発光寿命の成分を蛍光、発光寿命が2μSより長い成分を遅延蛍光と判断した。その結果、素子発光のうち、蛍光成分が60%、遅延蛍光成分が40%であった。
この有機EL素子について、5mA/cm2の電流密度とした他は上記と同様にして150K、200K、250K、及び300Kで評価した結果を併せて表3に示す。
[0192][表3]



(2)本件発明1について
ア 検討
上記(1)オに記載された(12)〜(17)、(19)の化合物は、本件発明1の一般式(6)の定義を満たす化合物ではあるが、甲4には、(12)〜(17)、(19)の化合物が実際に遅延蛍光を放射することが実施例等によって具体的に裏付けられていない。
そして、甲4に遅延蛍光を放出する化合物として例示された多数の化合物の中から、遅延蛍光を放射することが具体的に裏付けられていない、(12)〜(17)、(19)の化合物に着目し、甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明のアシストドーパント材料として用いることを当業者が動機づけられるとはいえない。
そうすると、本件発明1は、甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明及び甲1〜4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、「エ)甲4は、構造式(A)〜(E)を有するインドロカルバゾール系化合物として、【0048】〜【0153】に具体的化合物を多数例示している(化合物1〜987)。
一例として、冒頭の【0048】に記載された具体的化合物を以下に示す。

いずれも、甲4の上記式(B)で表されるインドロカルバゾール環構造を有する化合物であり、本件発明1で規定された一般式(6)で表される構造を含む。

オ) してみると、甲1、甲2又は甲3によれば、ホスト化合物と発光性化合物からなる発光層に、「熱活性化遅延蛍光(TADF : Thermally Activated Delayed Fluorescence)」を示す化合物を第三成分(アシストドーパント)として発光層に含めることが知られている状況下、TADF材料として甲4が開示する公知のインドロカルバゾール環構造を有する化合物を選択することは、当業者であれば容易な事項である。
したがって、本件発明1のうち、熱活性化遅延蛍光(TADF)を示す一般式(6)で表されるインドロカルバゾール環構造を有するアシスタントドーパント材料を選択することは、甲1、甲2又は甲3に、甲第4号証を参照することにより、容易になし得たものに過ぎない。」(16頁4行〜17頁15行)と主張する。
しかし、上記アのとおり、甲4においては、本件発明1の一般式(6)の定義を満たす化合物が実際に遅延蛍光を放射することが実施例等によって具体的に裏付けられておらず、甲4には、申立人も認めるとおり、他に遅延蛍光を放出する多数の化合物が例示されているから、遅延蛍光を放射することが具体的に裏付けられていない、(12)〜(17)、(19)の化合物に着目し、甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明のアシストドーパント材料として用いることを当業者が動機づけられるとはいえない。
そうすると、申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明及び甲1〜4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明1が甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明及び甲1〜4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜12も、甲1A発明〜甲1D発明、甲2発明または甲3発明及び甲1〜4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものでないから、申立ての理由2−4には、理由がない。

9 申立ての理由3について
(1)申立人の主張について
申立人は以下のとおり主張する。
ア 「ア) 上述のとおり、本件出願人は、審査段階の引用文献と区別するために、本願出願当初に記載されている実施例1〜6のうち、数多くの化合物を使用している実施例1、5、6の「発光性化合物」や実施例3、4の「ホスト化合物」を全て対象外とし、実施例2の「第三成分」だけを抽出し、これを補正後の請求項1(本件発明1)において、「アシストドーパント」材料として規定したものである。」

イ 「イ) ところで、本件発明1の対象として絞った実施例2の「第三成分」として使用した化合物は、以下の11種である。



ウ 「ウ) しかし、上記11種の化合物は、実施例2の「第三成分」としてだけではなく、全て、本件発明の対象外とされた実施例1等の「発光性化合物」としても使用され、その殆どが、実施例3、4の「ホスト化合物」としても使用されている。
しかも、本件実施例2の「第三成分」として使用した化合物は、本件請求項1で規定された一般式のうち、一般式(1)で表される構造を有する化合物が殆どであり、T−95が一般式(3)の唯一の例であり、同列に規定されている一般式(2)、(4)又は(6)で表される構造を有する化合物は、皆無である。
よって、一般式(2)、(4)又は(6)で表される構造を有する化合物を用いた場合に、一般式(1)で表される構造を有する化合物を用いた場合と同様に、本件発明の課題を解決できる根拠は無い。本件出願時の技術常識に照らしても、一般式(2)、(4)又は(6)で表される構造を有する化合物を用いた範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとも言えない。」

エ 「エ) なお、本件発明1は、各式(1)等中、記号L、M、Q、Rについて規定するが、非常に広範であり、多岐に亘る化合物を包含する。一方、本件発明の対象として絞った実施例2の第三成分として使用した化合物は、上記「11種」だけであり、そのうち10種が式(1)、1種が式(3)の例である。
よって、(1)、(3)等において、記号L、M、Q、Rで表される非常に広範で多岐に亘る化合物が、上記11種の化合物と同様に、本件発明の課題を解決できる根拠は無く、本件出願時の技術常識に照らしても、その非常に広範で多岐に亘る化合物の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとも言えない。」

オ 「オ) してみると、本件発明1〜12は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
同様の理由により、本件発明1〜12を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に明細書が記載されていない。」

(2)検討
ア 上記(1)ア〜ウについて
(ア)本件特許の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0006】
TADF現象発現のためには、室温又は発光素子中の発光層温度で電界励起により生じた75%の三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差が起こる必要がある。さらに、逆項間交差により生じた一重項励起子が、直接励起により生じた25%の一重項励起子と同様に蛍光発光することにより、100%の内部量子効率が理論上可能となる。この逆項間交差が起こるためには、最低励起一重項エネルギー準位(S1)と最低三重項励起エネルギー準位(T1)の差の絶対値(以降、ΔESTと呼ぶ。)が極めて小さいことが必須である。
【0007】
さらに、ホスト化合物と発光性化合物からなる発光層に、TADF性を示す化合物を第三成分(アシストドーパント)として発光層に含めると、高発光効率発現に有効であることが知られている(非特許文献3参照。)。アシストドーパント上に25%の一重項励起子と75%の三重項励起子を電界励起により発生させることによって、三重項励起子は逆項間交差(RISC)を伴って一重項励起子を生成することができる。一重項励起子のエネルギーは、発光性化合物へエネルギー移動し、発光性化合物が移動してきたエネルギーにより発光することが可能となる。従って、理論上100%の励起子エネルギーを利用して、発光性化合物を発光させることが可能となり、高発光効率が発現する。
【0008】
有機化合物においてΔESTを極小化するには、分子内の最高被占分子軌道(HOMO)と最低空分子軌道(LUMO)を混在させずに局在化させることが望ましい。

【0010】
従来技術では、HOMOとLUMOを明確に分離するには、強力な電子供与性基又は電子求引性基を用いる手法が知られている。しかしながら、強力な電子供与性基又は電子求引性基を用いることは、強い分子内電荷移動(CT)性の励起状態を形成するため、吸収スペクトルや発光スペクトルが長波長化する要因となり、発光波長の制御が困難であるという課題が生じている。逆に、発光波長を制御するために電子供与性又は電子求引性を弱めると、TADF現象の発現に支障をきたすことになる。そのため、発光波長の制御しながら、TADF現象を発現させる新たな手法が望まれている。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を高めうる新たなπ共役系化合物を提供することである。また、当該π共役系化合物を用いた、有機エレクトロルミネッセンス素子材料、発光材料、電荷輸送材料、発光性薄膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、並びに当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子が存在し、これら3〜5原子が全て含まれる2個又は3個の環構造を有するπ共役系化合物が、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を向上できることを新たに見出して本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。

【0023】
本発明者は、電子供与性基D及び/又は電子求引性基Aを含むπ共役系化合物において、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に3〜5個の原子が存在し、これらの3〜5個の原子の全てが環構成原子として含まれる2個又は3個の環構造を有する分子設計を行うことで、TADF現象をより発現させることができることを見いだした。但し、2つの電子供与性基Dの間に3〜5個の原子が存在し、これらの原子の全てを環構成原子として含む2個又は3個の環構造が形成される場合、該環構造は電子求引性の環である。同様に、2つの電子求引性基Aの間に3〜5個の原子が存在し、これらの原子の全てを環構成原子として含む2個又は3個の環構造が形成される場合、該環構造は電子供与性の環である。2個又は3個の環構造とは、2個又は3個の単環式芳香族環が縮合した縮合環を意味する。
TADF現象をより発現させるためには、HOMOとLUMOを分離してCT性の励起状態を形成する必要があることが知られている。本願手法では、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造を配置することで、HOMOとLUMOを分離し、ΔESTを極小化することに成功している。更に本発明における特定の構造においては、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aは、平行に近い角度で空間的に対面することが可能となるため、CT性の励起状態を効果的に形成し、安定化することで、無輻射失活を抑制できると考えられる。このようなΔESTの極小化と無輻射失活の抑制とによって、本願化合物の発光効率が向上できたものと考えられる。
【0024】
また、TADFを発現するCT性の励起状態では、電子供与部と電子求引部が電荷分離した状態であることが知られている。化合物が高い発光量子収率を発現するためには、電荷分離状態を安定化させることが重要である。
【0025】
(同種同士の組み合わせ)
本発明のπ共役系化合物が2つの電子供与性基D又は2つの電子求引性基Aを有する場合、電子供与性基D同士又は電子求引性基A同士の間に3〜5原子を含んだ環構造を有する分子設計では、電子供与性基D同士又は電子求引性基A同士が、励起状態において空間的に共鳴して正電荷又は負電荷を安定化し、分子全体としてCT性の励起状態を安定に形成できるので、無輻射失活が抑制でき、発光効率を高めることができると考えられる。
【0026】
(異種同士の組み合わせ)
本発明のπ共役系化合物が電子供与性基Dと電子求引性基Aとを有する場合、電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に3〜5原子を含んだ環構造を有する分子設計では、電子供与性基Dと電子求引性基Aが、励起状態において平行に近い角度で空間的に対面しうるので、電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間でCT性の励起状態を効果的に形成し、安定化することができる。その結果、無輻射失活を抑制でき、発光効率を高めることができると考えられる。また、そのようなπ共役系化合物は、ΔESTを極小としうるので、発光効率をさらに高めることができると考えられる。
【0027】
具体的には、次のように考えられる。従来技術では、電子供与性基Dと電子求引性基Aを直接連結し、且つそれらが空間的に作用しにくい位置にあることにより、スルーボンドのみでCT性励起状態を形成させる手法が知られている。しかし、このような従来技術では、励起状態の安定化にあまり寄与しないため、基底状態、一重項励起状態、三重項励起状態で化合物の構造がそれぞれ変化し、無輻射失活が生じるという問題がある。一方、本発明のように電子供与性基Dと電子求引性基Aとが空間上で平行に近い角度で対面すると、ごく近傍に位置する電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間(即ち、スルースペース)でCT性の励起状態が形成されると考えられる。その結果、CT性の励起状態が安定化し、従来技術よりも無輻射失活を抑制することができるため、有機エレクトロルミネッセンス素子による高発光効率の発現において有利になると考えられる。
【0028】
中でも、本発明のπ共役系化合物においては、一般式(1)〜(6)において、LとMの一方が電子供与性基Dであり、他方が電子求引性基Aであること、即ち、化合物が電子供与性基Dと電子求引性基Aの両方を有することが、ΔESTを小さくすることができ、高い発光効率を達成する上で好ましい。また、本発明のπ共役系化合物のように電子供与性基Dと電子求引性基Aとが対面する構造であると、強力な電子供与性基や電子求引性基を使用しなくとも、高い発光効率を達成しうるため好ましい。それにより、吸収スペクトルや発光スペクトルの長波長化も抑制できると考えられる。」

(イ)また、本件特許の発明の詳細な説明には、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(6)で表される構造の化合物を合成したこと(【0236】、【0237】)、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(6)で表される構造の化合物を発光性化合物として使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例1、5)、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物をアシストドーパントとして使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例2)、一般式(1)、(2)、(3)で表される構造の化合物をホスト化合物として使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例3、4)が記載されている。

(ウ)本件特許の発明の詳細な説明の【0023】〜【0027】には、本発明のπ共役系化合物において、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造を配置することで、HOMOとLUMOを分離し、ΔESTを極小化できること、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士が平行に近い角度で空間的に対面すると、励起状態において空間的に共鳴して正電荷又は負電荷を安定化し、分子全体としてCT性の励起状態を安定に形成できること、電子供与性基Dと電子求引性基Aとが平行に近い角度で空間的に対面すると、ごく近傍に位置する電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間(即ち、スルースペース)でCT性の励起状態が形成される結果、CT性の励起状態が安定化し、従来技術よりも無輻射失活を抑制することができること、このようなΔESTの極小化と無輻射失活の抑制とによって、本願化合物の発光効率が向上できることが記載されている。

(エ)本件発明1〜12の一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)において、LとMは各々独立に電子供与性基Dまたは電子求引性基Aである。
そして、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)におけるLとMの間には、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造が配置され、LとMの置換位置から、LとMは平行に近い角度で空間的に対面することが理解される。
そうすると、LとMが電子供与性基D同士、または電子求引性基A同士であれば、励起状態において空間的に共鳴して正電荷又は負電荷を安定化し、分子全体としてCT性の励起状態を安定に形成できることから、無輻射失活を抑制し、発光効率を高めることができるといえる。
また、LとMが電子供与性基Dと電子求引性基Aであれば、ΔESTを小さくすることができ、さらに、ごく近傍に位置する電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間(即ち、スルースペース)でCT性の励起状態が形成される結果、CT性の励起状態が安定化し、従来技術よりも無輻射失活を抑制することができるから、発光効率が向上できるといえる。
それを裏付けるように、実施例2の一般式(1)、(3)で表される構造を有する11種の化合物のみならず、実施例1、3〜5においては、一般式(2)、(4)、(6)で表される構造を有する化合物も、ホスト化合物、または発光性化合物として高い発光効率を示すことが実証されており、さらに、ΔESTが極めて小さいとTADF現象が発現すること(【0006】)、TADF性を示す化合物をアシストドーパントとして発光層に含めると、高発光効率発現に有効であることも踏まえれば(【0007】)、発光効率が高いことが実証された、一般式(2)、(4)、(6)で表される構造を有する化合物も、一般式(1)で表される構造を有する化合物を用いた場合と同様に、アシストドーパント材料として使用することができると理解される。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜12の有機エレクトロルミネッセンス素子、それを含む表示装置、またはそれを含む照明装置を作り、かつ、使用できるように記載されているといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜12を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものである。

イ 上記(1)エについて
本件発明1〜12の一般式(1)、(3)において、L、Mは各々独立に、特定の選択肢から選ばれる電子供与性基Dまたは特定の選択肢から選ばれる電子求引性基Aであり、Qは置換されてもよい炭素原子または窒素原子であり、Rは置換されてもよい、炭素原子、酸素原子、置換されていてもよい窒素原子、硫黄原子、置換されてもよいホウ素原子又は置換されてもよいケイ素原子であるから、L、M、Q、Rの選択肢は限られた範囲に特定されており、当業者が、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物を、申立人の主張するような非常に広範で多岐に亘るものと理解するとはいえない。
そして、上記アで検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物を合成したことが記載されており、また、(1)、(3)で表される構造の化合物は、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造を配置することで、HOMOとLUMOを分離し、ΔESTを極小化すること、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aは、平行に近い角度で空間的に対面することが可能となるため、CT性の励起状態を効果的に形成し、安定化することで、無輻射失活を抑制できると考えられるから、一般式(1)、(3)において、L、Mが各々独立に、特定の選択肢から選ばれる電子供与性基Dまたは特定の選択肢から選ばれる電子求引性基Aである化合物はいずれも、実施例で発光効率が高いことが実証された化合物と同様に、アシストドーパント材料として使用できるといえる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜12の有機エレクトロルミネッセンス素子、それを含む表示装置、またはそれを含む照明装置を作り、かつ、使用できるように記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜12を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものである。

(3)小括
以上のことから、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものではないから、申立ての理由3には、理由がない。

10 申立理由4について
(1)申立人の主張について
申立人は上記9(1)のとおり主張する。

(2)検討
ア 上記9(1)ア〜ウについて
(ア)本件発明1〜12の記載、及び上記9(2)ア(ア)【0013】の記載から、本件発明1〜12の解決しようとする課題は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を高めうる新たなπ共役系化合物であるアシストドーパント材料を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することであると認められる。
上記9(2)ア(ア)【0023】〜【0027】には、本発明のπ共役系化合物において、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造を配置することで、HOMOとLUMOを分離し、ΔESTを極小化できること、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士が平行に近い角度で空間的に対面すると、励起状態において空間的に共鳴して正電荷又は負電荷を安定化し、分子全体としてCT性の励起状態を安定に形成できること、電子供与性基Dと電子求引性基Aとが空間上で平行に近い角度で対面すると、ごく近傍に位置する電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間(即ち、スルースペース)でCT性の励起状態が形成される結果、CT性の励起状態が安定化し、従来技術よりも無輻射失活を抑制することができること、このようなΔESTの極小化と無輻射失活の抑制とによって、本願化合物の発光効率が向上できることが記載されている。

また、本件特許の発明の詳細な説明には、9(2)ア(イ)のとおり、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(6)で表される構造の化合物を合成したこと(【0236】、【0237】)、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(6)で表される構造の化合物を発光性化合物として使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例1、5)、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物をアシストドーパントとして使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例2)、一般式(1)、(2)、(3)で表される構造の化合物をホスト化合物として使用した有機EL素子は、高い発光効率を示すこと(実施例3、4)が記載されている。

(イ)本件発明1〜12の一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)において、LとMは各々独立に電子供与性基Dまたは電子求引性基Aである。
そして、一般式(1)、(2)、(3)、(4)および(6)におけるLとMの間には、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造が配置され、LとMの置換位置から、LとMは平行に近い角度で空間的に対面することが理解される。
そうすると、LとMが電子供与性基D同士、または電子求引性基A同士であれば、励起状態において空間的に共鳴して正電荷又は負電荷を安定化し、分子全体としてCT性の励起状態を安定に形成できることから、無輻射失活を抑制し、発光効率を高めることができるといえる。
また、LとMが電子供与性基Dと電子求引性基Aであれば、ΔESTを小さくすることができ、さらに、ごく近傍に位置する電子供与性基Dと電子求引性基Aとの間(即ち、スルースペース)でCT性の励起状態が形成される結果、CT性の励起状態が安定化し、従来技術よりも無輻射失活を抑制することができるから、発光効率が向上できるといえる。
それを裏付けるように、実施例2の一般式(1)、(3)で表される構造を有する11種の化合物のみならず、実施例1、3〜5においては、一般式(2)、(4)、(6)の化合物も、ホスト化合物、または発光性化合物として高い発光効率を示すことが実証されており、ΔESTが極めて小さいとTADF現象が発現すること(上記9(2)ア(ア)【0006】)、TADF性を示す化合物をアシストドーパントとして発光層に含めると、高発光効率発現に有効であることも踏まえれば(上記9(2)ア(ア)【0007】)、発光効率が高いことが実証された、一般式(2)、(4)、(6)の化合物も、一般式(1)で表される構造を有する化合物を用いた場合と同様に、本件発明1〜12の課題を解決できるということができる。
そうすると、本件発明1〜12は発明の詳細な説明に記載したものといえる。

イ 上記9(1)エについて
本件発明1〜12の一般式(1)、(3)において、L、Mは各々独立に、特定の選択肢から選ばれる電子供与性基Dまたは特定の選択肢から選ばれる電子求引性基Aであり、Qは置換されてもよい炭素原子または窒素原子であり、Rは置換されてもよい、炭素原子、酸素原子、置換されていてもよい窒素原子、硫黄原子、置換されてもよいホウ素原子又は置換されてもよいケイ素原子であるから、L、M、Q、Rの選択肢は限られた範囲に限定されており、当業者が、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物を、非常に広範で多岐に亘ると理解するとはいえない。
そして、上記アで検討したとおり、一般式(1)、(3)で表される構造の化合物は、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aの間に、3〜5個の原子を含む、2個又は3個の環構造を配置することで、HOMOとLUMOを分離し、ΔESTを極小化すること、電子供与性基D同士、電子求引性基A同士、又は電子供与性基Dと電子求引性基Aは、平行に近い角度で空間的に対面することが可能となるため、CT性の励起状態を効果的に形成し、安定化することで、無輻射失活を抑制できると考えられるから、一般式(1)、(3)において、L、Mが各々独立に、特定の選択肢から選ばれる電子供与性基Dまたは特定の選択肢から選ばれる電子求引性基Aである化合物はいずれも、発光効率が高いことが実証された化合物と同様に、上記本件発明1〜12の課題を解決できるものということができる。
そうすると、本件発明1〜12は発明の詳細な説明に記載したものといえる。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜12に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものではないから、申立ての理由4には、理由がない。

11 まとめ
以上のとおり、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおり、異議申立ての理由によっては、本件請求項1〜12に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-02-21 
出願番号 P2017-558903
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C07D)
P 1 651・ 113- Y (C07D)
P 1 651・ 536- Y (C07D)
P 1 651・ 121- Y (C07D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 小堀 麻子
吉岡 沙織
登録日 2021-04-22 
登録番号 6873048
権利者 メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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