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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1384255
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-22 
確定日 2022-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6886240号発明「濡れた路面でのグリップ特性が向上したタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6886240号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6886240号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)7月24日を国際出願日とする特願2015−523540号(パリ条約による優先権主張 2012年7月25日 フランス)であって、令和3年5月18日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年6月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年11月22日に特許異議申立人 小島 早奈実(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)を行った。

第2 本件特許発明
特許第6886240号の請求項1ないし6の特許に係る発明は、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」といい、これらをあわせて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、
前記ゴム組成物が、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂を含み、
前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、
前記SBRのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上であり、
前記カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、
前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)、前記炭化水素可塑性樹脂の含有量が1から10phrの範囲であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記SBRの含有量の範囲が20から80phrである、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記SBRの含有量の範囲が20から40phrである、請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が60phr以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項5】
前記炭化水素可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが30℃以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記充填剤が、全補強充填剤の少なくとも10%であって最大で50%を占める(但し、50%を除く)シリカを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載のタイヤ。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1−1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし6は、甲第1−1号証に記載された発明及び甲第1−2号証ないし甲第1−4号証の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2−1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし6は、甲第2−1号証に記載された発明及び甲第1−1号証、甲2−2号証ないし甲第2−4号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲第3−1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし6は、甲第3−1号証に記載された発明及び甲1−2号証ないし甲第1−3号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(甲第4−1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし6は、甲第4−1号証に記載された発明及び甲1−2号証ないし甲第1−4号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし6についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
・甲第1−1号証:特開平11−217004号公報
・甲第1−2号証:特開2011−88998号公報
・甲第1−3号証:特開平11−130909号公報
・甲第1−4号証:特開2011−174027号公報
・甲第2−1号証:特開2009−263587号公報
・甲第2−2号証:特開2009−298910号公報
・甲第2−3号証:特開2010−13540号公報
・甲第2−4号証:国際公開第2009/072650号
・甲第3−1号証:欧州特許出願公開第2284023号
・甲第4−1号証:欧州特許出願公開第2308692号
・甲第5−1号証:日本接着学会誌 Vol.50 No.2(2014)、第59〜64ページ
・甲第5−2号証:日本ゴム協会誌 第73巻 第5号(2000)、第233〜239ページ
・甲第5−3号証:特開2012−7145号公報
・参考資料1−1:米国特許出願公開第2019/0092937号
・参考資料2−1:米国特許出願公開第2018/0229553号
・参考資料3−1:特開昭60−185601号公報
・参考資料3−2:特開2011−140628号公報
なお、甲各号証等の番号に応じて、甲第1−1号証を「甲1−1」、参考資料1−1を「参1−1」などという。

第4 当審の判断
当審は、申立人がした申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立理由1(甲第1−1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲1−1の記載事項等
(ア)甲1−1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、「空気入りタイヤ」について、以下の記載がされている。
なお、下線については当審において付与したものである。以下、同様。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の周溝によりトレッド幅方向に複数に区分されそれぞれ周方向に延びる陸部列を有し、トレッド幅方向中央からトレッド端に向かって、タイヤの回転の向きに逆らって傾斜して陸部列を横切るサイプを有するパターンのトレッドを備えた空気入りタイヤにおいて、トレッドのゴム組成物が、分子鎖の少なくとも一方の末端をスズで変性した溶液重合のスチレン・ブタジエン共重合体ゴムを20〜70重量%含有し、残部が天然ゴム単独か天然ゴムとブタジエンゴムの混合物よりなるゴム成分100重量部に対して、シリカを5〜25重量部と、カーボンブラックを前記シリカより多い割合(重量部)で、かつ前記シリカとの合計重量部で40〜60重量部配合してなることを特徴とする空気入りタイヤ。
・・・
【請求項4】 カーボンブラックが、70〜170m2/gの窒素吸着法比表面積(N2 SA)および100〜200cc/100gのジブチルフタレート(DBP)吸油量の特性を有することを特徴とする請求項1、2または3記載の空気入りタイヤ。」
「【0002】
【従来の技術】トラックやバス等の重荷重用空気入りタイヤに、耐ウエット性等を付与するため、トレッドにサイプを形成したものがあるが、サイプをトレッド幅方向に形成するよりも傾斜させた方がサイプ長さが長くなるため、より効果的である反面、偏摩耗し易い等の欠点を有する。しかし、陸部列を発散配列的に横切るサイプ方向をトレッド端側でカーブさせて、トレッド端側の陸部端に対してより大きい角度とすることにより、この欠点を解消したものもある(特開平6−32115号公報参照)。しかし、サイプ周辺のゴムの動きが大きくなるため、このようなサイプを有するタイヤは、突起を有する路面等の悪路では、サイプ部に応力が集中して、ティアやクラックが生じやすい傾向にある。そのため、主に良路での走行を前提としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、トレッドのゴム組成物自体を改良することにより、特定のトレッドパターンを有する空気入りタイヤの耐ティア・クラック性を高めて、走行に適した路面状態の範囲を拡大して、良路に限らず走行可能にすることを目的とする。」
「【0009】また、本発明では、カーボンブラックを前記シリカより多い割合(重量部)で、かつゴム成分100重量部に対して、前記シリカとの合計重量部で40〜60重量部配合する。カーボンブラックの配合量をシリカの配合量より多くした理由は、カーボンブラックの方が補強効果が高いからであり、カーボンブラックの配合量を、ゴム100重量部に対して、前記シリカとの合計重量部で40〜60重量部としたのは、低発熱性および破断時の伸びを改善すると共に、耐摩耗性を市場からの要求レベルで満足させつつ、多量配合の際の分散不良による不都合を生じさせないためである。同様の観点から、40〜50重量部が好ましく、カーボンブラックのコロイダル特性は、70〜170m2/gのN2 SAおよび100〜200cc/100gのDBP吸油量であることが好ましい。また、本発明に好適に使用できるカーボンブラックとしては、N234(旭カーボン社製の商品名:No.78、東海カーボン社製の商品名:シースト7HM)、N220(旭カーボン社製の商品名:No.100、東海カーボン社製の商品名:シースト600K)等が挙げられる。補強充填剤として、上記のように、シリカを配合した場合には、同量のカーボンブラックを配合した場合に比べて、耐屈曲疲労性で30%以上、低発熱性で10〜20%の効果が得られる。」
「【0011】
【実施例】以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。実験に使用したタイヤは、タイヤサイズ:11R22.5であり、トレッドパターンは、図1に示されるものであり、サイプ深さは12mm、周溝深さは14.8mmである。このタイヤのトレッドゴムとして、表1および表2記載の配合のゴム組成物を使用して、通常の条件で加硫し、下記の測定方法により、タイヤ性能を調べた。その結果は、各測定値の逆数を実験番号1の従来例を100として指数で表した。各測定項目とも、数値が大きい程良好であることを表す。
【0012】タイヤ性能(実地走行試験による)耐摩耗性良路を50000km走行したときの摩耗量を測定した。耐偏摩耗性5万km走行し、ショルダーリブとセンターリブとの間に生じた段差を測定し、その最大値を求めた。耐ウェット性コンクリート上で水深2cmのスキッド路面を形成し、この路面を時速50kmから制動させた際の停止距離を測定した。耐クラック・ティア性良路を50000km走行したときのクラック・ティアの発生した総長さを測定した。
【0013】
【表1】


「【0016】
【発明の効果】本発明は、耐摩耗性、耐偏摩耗性および耐ウェット性を低下させることなく、耐ティア・クラック性を改良して、タイヤの寿命を延ばすと共に、良路でなくても走行できる空気入りタイヤを実現することに成功した。」

(イ)甲1−1に記載された発明
甲1―1の記載について、特に実施例5(段落【0011】ないし【0013】)に着目すると共に【請求項1】の記載にならって整理すると、甲1−1には、以下の発明が記載されているといえる。
「複数の周溝によりトレッド幅方向に複数に区分されそれぞれ周方向に延びる陸部列を有し、トレッド幅方向中央からトレッド端に向かって、タイヤの回転の向きに逆らって傾斜して陸部列を横切るサイプを有するパターンのトレッドを備えた空気入りタイヤにおいて、トレッドのゴム組成物が、NR(天然ゴム)50重量部、SBR(スチレン・ブタジエン共重合体ゴム)30重量部、BR(ブタジエンゴム)20重量部、C/B(カーボンブラック)(N2 SA(窒素吸着法比表面積)130m2/g、DBP(ジブチルフタレート吸着量)125cc/100g)30重量部、シリカ(N2 SA200m2/g、DBP180cc/100g)22重量部、シランカップリング剤2.0重量部、ステアリン酸2.0重量部、亜鉛華3.0重量部、加硫促進剤1.2重量部、硫黄1.0重量部の配合組成を有するゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。」(以下、「甲1−1発明」という。)

イ 甲1−2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1−2には、「ゴム組成物及びタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス−1,4−結合量が75%以上である共役ジエン系重合体を10質量%以上45質量%以下含有し、さらに他のジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、水素添加樹脂を0.5質量部以上100質量部未満配合してなるゴム組成物。
・・・
【請求項4】
前記共役ジエン系重合体が、ポリブタジエンゴムである請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
・・・
【請求項12】
前記水素添加樹脂が、テルペン樹脂を水添してなる水添テルペン樹脂である請求項1〜11のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記水添テルペン樹脂の軟化点が、80℃以上180℃以下である請求項12に記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記他のジエン系ゴムが、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びポリブタジエンゴムから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜13のいずれかに記載のゴム組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、タイヤの転がり抵抗等の他の性能を悪化させることなく、ウェットグリップ性能、さらには優れた耐摩耗性、耐亀裂成長性を向上させることが可能なゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することである。」
「【0026】
上記水素添加樹脂として、具体的には、出光興産(株)製アイマーブS100(商品名、軟化点:100℃)、出光興産(株)製アイマーブS110(商品名、軟化点:110℃)、出光興産(株)製アイマーブY100(商品名、軟化点:100℃)、出光興産(株)製アイマーブY135(商品名、軟化点:135℃)、出光興産(株)製アイマーブP90(商品名、軟化点:90℃)、出光興産(株)製アイマーブP100(商品名、軟化点:100℃)、出光興産(株)製アイマーブP125(商品名、軟化点:125℃)、出光興産(株)製アイマーブP140(商品名、軟化点:140℃)、荒川化学(株)製アルコンP70(商品名、軟化点:70℃)、荒川化学(株)製アルコンP90(商品名、軟化点:90℃)、荒川化学(株)製アルコンP100(商品名、軟化点:100℃)、荒川化学(株)製アルコンP115(商品名、軟化点:115℃)、荒川化学(株)製アルコンP125(商品名、軟化点:125℃)、荒川化学(株)製アルコンP140(商品名、軟化点:140℃)、荒川化学(株)製アルコンSP10(商品名、軟化点:100℃)、荒川化学(株)製アルコンM90(商品名、軟化点:90℃)、荒川化学(株)製アルコンM100(商品名、軟化点:100℃)、荒川化学(株)製アルコンM115(商品名、軟化点:115℃)、荒川化学(株)製アルコンM135(商品名、軟化点:135℃)、荒川化学(株)製アルコンSM10(商品名、軟化点100℃)、荒川化学(株)製KR1840(商品名、軟化点:100℃)、荒川化学(株)製KR1842(商品名、軟化点:120℃)、丸善石油化学(株)製マルカレッツH505(商品名、軟化点:105℃)、丸善石油化学(株)製マルカレッツH90(商品名、軟化点:90℃)、丸善石油化学(株)製マルカレッツ700F(商品名、軟化点:95℃)、丸善石油化学(株)製マルカレッツH925(商品名、軟化点:123℃)、丸善石油化学(株)製マルカレッツH970(商品名、軟化点:175℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP105(商品名、軟化点:105℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP115(商品名、軟化点:115℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP125(商品名、軟化点:125℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP135(商品名、軟化点:135℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP150(商品名、軟化点:152℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンM105(商品名、軟化点:105℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンM115(商品名、軟化点:115℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンK100(商品名、軟化点:100℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンK110(商品名、軟化点:110℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンK4100(商品名、軟化点:100℃)、ヤスハラケミカル(株)製クリアロンK4090(商品名、軟化点:90℃)等が挙げられる。これら水素添加樹脂は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本実施形態のゴム組成物において、上記水素添加樹脂としては、テルペン樹脂を水添してなる水添テルペン樹脂が更に好ましく、軟化点(測定法:ASTM E28−58−T)が80℃以上180℃以下の水添テルペン樹脂が特に好ましい。水添テルペン樹脂は、元々SP値の低いテルペン樹脂を水添しているため、SP値が特に低い。そのため、水添テルペン樹脂は、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びポリブタジエンゴム等のゴム成分とのSP値の差が特に小さく、前記本実施形態の効果が顕著に現れる。なお、軟化点が80℃未満の水添テルペン樹脂をタイヤ用ゴム組成物に使用した場合、操縦安定性が悪化する傾向があり、一方、軟化点が180℃を超える水添テルペン樹脂を使用した場合、0℃でのtanδの上昇効果が小さく、50℃でのtanδも高くなってしまう。前記軟化点は100℃以上160℃以下であることがより好ましい。
・・・
【0029】
本実施形態では、前記水素添加樹脂は後述するゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上100質量部未満配合される。水素添加樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部未満では、0℃でのtanδを向上させる効果が小さいため、タイヤのウェットグリップ性能を十分に向上させることできず、一方、100質量部以上では、水素添加樹脂のゴム成分に対する溶解度を超えてしまうために、0℃付近でのtanδの向上が小さくなり、50℃でのtanδが高くなってしまう。また、これらの観点から、水素添加樹脂の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下が好ましく、5質量部以上45質量部以下がより好ましい。」
「【実施例】
・・・
【0096】
<タイヤ性能>
(低発熱性)
タイヤトレッドから加硫ゴムサンプルを切り出して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機株式会社製)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδ値の逆数を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、低発熱性が良好(転がり抵抗が低い)である。
低発熱性指数={(比較例1のtanδ値)/(供試タイヤのtanδ値)}×100
【0097】
(ウェット性能)
粘弾性スペクトロメーター(東洋精機株式会社製)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度0℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδ値を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、ウェット性能が良好である。
ウェット性能指数={(供試タイヤのtanδ値)/(比較例1のtanδ値)}×100
【0098】
(耐摩耗性)
タイヤトレッドから加硫ゴムサンプルを切り出して、JIS K6264に従い、ランボーン型摩耗試験機を用い、室温におけるスリップ率60%の摩耗量を測定し、比較例1の摩耗量の逆数を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、耐摩耗性が良好である。
耐摩耗性指数={(比較例1の摩耗量)/(供試タイヤの摩耗量)}×100
【0099】
(耐亀裂成長性)
JIS3号試験片中心部に0.5mmの亀裂を入れ、室温で50〜100%の歪みで繰り返し疲労を与え、試験片が切断するまでの回数を測定した。比較例1の回数を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、耐亀裂成長性が良好である。
耐亀裂成長性指数={(供試タイヤの回数)/(比較例1の回数)}×100
・・・
【0109】
重合体製造例1 変性ポリブタジエンゴム−1の製造
タービンアジテイターブレイドを装備する反応器にヘキサン1.526kg及び1,3−ブタジエン18.8質量%のヘキサン溶液2.940kgが加えられた。
次に、メチルアルミノキサン4.32mol/Lのトルエン溶液7.35mL、1,3−ブタジエン20.6質量%のヘキサン溶液1.66g、バーサチック酸ネオジム0.537mol/Lのシクロヘキサン溶液0.59mL、水素化ジイソブチルアルミニウム1.0mol/Lのヘキサン溶液6.67mL、及び塩化ジエチルアルミニウム1.0mol/Lのヘキサン溶液1.27mLを混合することにより触媒を準備した。この触媒は反応に先立ち15分熟成した。
【0110】
反応ジャケットの温度を65℃に設定し、触媒を投入して60分間経過後、重合体混合物を室温に冷却した。得られた重合体セメント423gを窒素パージした瓶に移した後、その瓶に変性剤a{N,N,N’,N’−テトラキス(トリメチルシリル)−4,4’−ジアミノベンゾフェノン}0.200mol/Lのシクロヘキサン溶液8.88mLを投入し、65℃に保った水浴中で、その瓶を30分間回転した。瓶内の重合体を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.5gを含むイソプロパノール3Lで凝固した後、ドラム乾燥した。
得られた変性ポリブタジエンゴム−1(以下、「変性BR−1」という。)の諸物性を第1表に示す。
【0111】
重合体製造例2 変性ポリブタジエンゴム−2の製造
重合体製造例1と同様にして得られた重合体セメント433gを窒素パージした瓶に移した後、その瓶に変性剤b{N,N−ビス(トリメチルシリル)−4−アミノベンゾフェノン}0.300mol/Lのシクロヘキサン溶液6.06mLを投入し、65℃に保った水浴中で、その瓶を30分間回転した。瓶内の重合体を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.5gを含むイソプロパノール3Lで凝固した後、ドラム乾燥した。 得られた変性ポリブタジエンゴム−2(以下、「変性BR−2」という。)の諸物性を第1表に示す。
【0112】重合体製造例3 変性ポリブタジエンゴム−3の製造
タービンアジテイターブレイドを装備する反応器にヘキサン1.512kg及び1,3−ブタジエン21.5質量%のヘキサン溶液2.954kgが加えられた。
次に、重合体製造例1と同様にして触媒を準備し、熟成した。
反応ジャケットの温度を65℃に設定し、触媒を投入して55分間経過後、重合体混合物を室温に冷却した。得られた重合体セメント435gを窒素パージした瓶に移した後、その瓶に変性剤c{N,N−ビス(トリメチルシリル)グリシジルアミン}0.463mol/Lのヘキサン溶液5.26mLを投入し、65℃に保った水浴中で、その瓶を30分間回転した。瓶内の重合体を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.5gを含むイソプロパノール3Lで凝固した後、ドラム乾燥した。
得られた変性ポリブタジエンゴム−3(以下、「変性BR−3」という。)の諸物性を第1表に示す。
【0113】
重合体製造例4 変性ポリブタジエンゴム−4の製造
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロヘキサン300g、1,3−ブタジェン50gを注入し、ジテトラヒドロフリルプロパン/n−ブチルリチウムのモル比が0.03になるようにジテトラヒドロフリルプロパンを注入した。更にn−ブチルリチウムを0.36mmol加えた後、50℃で5時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。次に、重合反応系に、3−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランを速やかに加え、更に50℃で30分間変性反応を行った。3−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシラン/n−ブチルリチウム(モル比)は、0.9であった。その後、重合反応系に、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更にスチームストリッピングにより脱溶媒し乾燥して変性ポリブタジエンゴム−4を得た。
得られた変性ポリブタジエンゴム−4(以下、「変性BR−4」という。)の諸物性を第1表に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
<実施例1〜6及び比較例1〜7>
第2表に示す配合組成を有する13種のゴム組成物を調製し、それら13種類のゴム組成物を各々乗用車用空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ195/60R15)のトレッド(トレッドキャップ部)に配設して、13種類の乗用車用空気入りラジアルタイヤを常法に従って製造し、それら13種類のタイヤを用い、あるいはこれらのトレッドからゴムサンプルを切り出し、上記の方法に従い、低発熱性、ウェット性能、耐摩耗性及び耐亀裂成長性を評価した。評価結果を第2表に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
[注]
1) SBR1712:乳化重合油展スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、JSR(株)製、商品名「SBR1712」
2)〜5) 変性BR−1〜4: 重合体製造例1〜4の変性BR
6) プロセスオイル:三共油化工業(株)製、商品名「A/O ミックス」
7) 水添テルペン樹脂、ヤスハラケミカル(株)製、商品名「クリアロンP105」(軟化点:105℃)
8) 水添テルペン樹脂、ヤスハラケミカル(株)製、商品名「クリアロンP150」(軟化点:152℃)
9) 水添C9樹脂、荒川化学(株)製、商品名「アルコンM100」(軟化点:100℃)
10) C9樹脂、新日本石油化学(株)製、商品名「日石ネオポリマーL90」(軟化点:90℃)
11) カーボンブラック:ISAF、旭カ−ボン(株)製、商品名「旭#80」
12) シリカ:日本シリカ工業(株)製 ニップシールAQ(SHg=140m2 /g:ニップシールVN3を顆粒にしたもの)
13) デグサ社製、商品名「Si75」(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドの混合物)
14) ミクロクリスタリンワックス:精工化学(株)製、商品名「サンタイト S」
15) 老化防止剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、精工化学(株)製、商品名「オゾノン 6C」
16) 加硫促進剤DPG:ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラー D」
17) 加硫促進剤CZ: N−シクロヘキシル−2−ベンゾジアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラー CZ」
18) 加硫促進剤DM:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラー DM」

ウ 甲1−3の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1−3には、「タイヤトレッド用ゴム組成物」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 非芳香族系油からなるプロセス油と樹脂成分が配合されており、且つ該樹脂成分が脂肪族系炭化水素樹脂、石油樹脂、ロジン誘導体、クマロン樹脂、フェノールテルペン系樹脂のいずれかの樹脂からなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物において、特に耐摩耗性やウェット摩擦性等のタイヤトレッドゴムとしての性能を維持しつつ、有毒性を低減したタイヤトレッド用ゴム組成物の改良に関する。
・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この芳香族系油に多く含まれる多環芳香族化合物(Poly Cyclick Aromatics :以下PCAという)の有毒性が近年問題となり、芳香族系油以外の石油系のプロセス油の使用が求められている。そこで、プロセス油にパラフィン系油やナフテン系油等の非芳香族系油を使用することが考えられるが、これらのプロセス油を使用した場合は芳香族系油を使用した場合に比べそのゴム組成物の耐摩耗性やウェット摩擦性等のゴム物性が低下するという問題があった。」
「【0034】
【表2】


「【0037】尚、樹脂成分に使用した樹脂は、樹脂成分1にはエスコレッツ1102(脂肪族炭化水素樹脂)、樹脂成分2にはペンセルKK(重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)、樹脂成分3にはトーホーハイレジン90S(C4 からC5 脂肪族系炭化系素留分とC8 からC10 芳香族系炭化水素留分との共重合物)を用いた。
【0038】また、いずれのゴム組成物にも表2及び表3に示す配合成分の他に以下の成分が配合されている。
スチレンブタジエンゴム1502 100重量部
カーボンブラックN339 70重量部
亜鉛華 2重量部
ステアリン酸 2重量部
老化防止剤 6C 2重量部
加硫促進剤D/CZ 0.3/1.3重量部
硫黄 2重量部」

エ 甲1−4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1−4には、「タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはイソプレンゴム40〜70質量部およびジエン系ゴム(但し前記天然ゴムおよびイソプレンゴムを除く)30〜60質量部からなるゴム成分100質量部に対し、シリカを50〜150質量部、窒素吸着比表面積が100〜200m2/gのカーボンブラックを10〜50質量部および樹脂を30〜80質量部配合し、前記シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計が60〜160質量部であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムが、ガラス転移温度−35〜0℃のスチレン−ブタジエン共重合体ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、ウェット条件下における高い走行初期グリップ性能を有し、トレッドが発熱した後にも該性能を走行中長時間にわたり維持するとともに、耐摩耗性にも優れるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定のゴム成分の組み合わせに対し、シリカの特定量、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量および樹脂の特定量を配合することにより、ウェット条件下における高い走行初期グリップ性能を有し、トレッドが発熱した後にも該性能を走行中長時間にわたり維持するとともに、耐摩耗性にも優れるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。」
「【0012】
本発明では、前記ジエン系ゴムがガラス転移温度(Tg)−35〜0℃のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)である場合に、本発明の効果がさらに高まり好ましい。
SBRのTgが−35℃以上であることにより、充分なグリップ持続性が提供される。また、SBRのTgが0℃以下であることにより、ウェット条件下での走行初期のグリップ性能がさらに向上する。」
「【0018】
シリカの配合量が50質量部未満であると、充分な補強効果が得られず耐摩耗性が悪化し、また、ウェット条件下での走行初期のグリップ性能およびグリップ持続性が悪化するので好ましくない。逆に150質量部を超えると、混練時において分散が悪化し耐摩耗性が低下するので好ましくない。
カーボンブラックの配合量が10質量部未満であると、グリップ持続性が悪化する。逆に50質量部を超えると、特に低温時のウェット条件下での走行初期のグリップ性能およびグリップ持続性が悪化する。
樹脂の配合量が30質量部未満であると、特にグリップ持続性が悪化するので好ましくない。逆に80質量部を超えると、特に低温時のウェット条件下での走行初期のグリップ性能が悪化するので好ましくない。
シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計が60質量部未満では、発熱性が低下し充分なグリップ性能が得られず、また充分な補強効果が得られないため耐摩耗性が悪化するので好ましくない。逆に160質量部を超えると、混練時において分散が悪化し耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0019】
シリカのさらに好ましい上記配合量は、65〜115質量部である。
カーボンブラックのさらに好ましい上記配合量は、20〜40質量部である。
樹脂のさらに好ましい上記配合量は、40〜70質量部である。
シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計は、85〜135質量部であるのがさらに好ましい。」
「【0023】
実施例1〜8および比較例1〜6
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤および硫黄を除く成分を55リットルのニーダーで15分間混練した後、ニーダー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同ニーダーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、タイヤトレッド用ゴム組成物を得た。
【0024】
グリップ性能
上記のように調製された各種ゴム組成物をトレッドに用いた195/55R15サイズの試験タイヤを作製した。次に、試験タイヤを4輪車両の4輪に装着し、1周2.2kmのサーキットをウェット条件下、可能限界スピードで3もしくは10周連続走行した。
低温グリップ性能:低温かつウェット条件下(水温10℃の水をサーキットの路面に一様に濡らした条件下)、高速走行の際の走行初期のグリップ性能を評価するため、1〜3周の周回タイムの平均値を求め、比較例1のゴム組成物をトレッドに使用したタイヤで得られた1〜3周の周回タイムの平均値を対照基準とした場合に、以下のように5段階で評価した:
5:対照基準に対して0.5秒以上速い場合、
4:対照基準に対して0.2秒以上0.5秒未満速い場合、
3:対照基準に対して±0.2秒未満である場合、
2:対照基準に対して0.2秒以上0.5秒未満遅い場合、
1:対照基準に対して0.5秒以上遅い場合。
走行初期グリップ性能:上記の低温グリップの試験において、ウェット条件を、20℃のウェット条件下(水温20℃の水をサーキットの路面に一様に濡らした条件下)に変更し、可能限界スピードで10周連続走行し、そのうち1〜3周の周回タイムの平均値を求め、比較例1のゴム組成物をトレッドに使用したタイヤで得られた1〜3周の周回タイムの平均値を対照基準とした場合、上記の低温グリップの試験と同様に5段階で評価した。
グリップ持続性能:20℃のウェット条件下(水温20℃の水をサーキットの路面に一様に濡らした条件下)、高速走行の際のグリップ性能の変化を評価するため、上記の10周の走行のうちの8〜10周の周回タイムの平均値を求め、比較例1のゴム組成物をトレッドに使用したタイヤで得られた8〜10周の周回タイムの平均値を対照基準とした場合に、以下のように5段階で評価した:
5:対照基準に対して0.5秒以上速い場合、
4:対照基準に対して0.2秒以上0.5秒未満速い場合、
3:対照基準に対して±0.2秒未満である場合、
2:対照基準に対して0.2秒以上0.5秒未満遅い場合、
1:対照基準に対して0.5秒以上遅い場合。」
・・・
【0026】
【表1】

【0027】
*1:NR(TSR20)
*2:SBR−1(旭化成ケミカルズ(株)製タフデン2330、Tg=−50℃、油展量=SBR100質量部に対し37.5質量部)
*3:SBR−2(旭化成ケミカルズ(株)製タフデン4350、Tg=−22℃、油展量=SBR100質量部に対し50質量部)
*4:SBR−3(日本ゼオン(株)製Nipol NS412、Tg=−6℃、油展量=SBR100質量部に対し50質量部)
*5:シリカ(エボニックデグッサ社製ULTRASIL 7000GR)
*6:シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製Si69)
*7:カーボンブラック−1(三菱化学(株)製ダイアブラックA、窒素吸着比表面積(N2SA)=142m2/g)
*8:カーボンブラック−2(キャボットジャパン(株)製キャボットBLACKPEALS880、窒素吸着比表面積(N2SA)=220m2/g)
*9:芳香族変性テルペン樹脂−1(ヤスハラケミカル(株)製YSレジンTO85、軟化点=85±5℃)
*10:芳香族変性テルペン樹脂−2(ヤスハラケミカル(株)製YSレジンTO125、軟化点=125±5℃)
*11:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル(株)製YSポリスターT160、軟化点=160±5℃)
*12:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*13:老化防止剤(フレキシス製サントフレックス6PPD)
*14:亜鉛華(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*15:ステアリン酸(日油(株)製ステアリン酸YR)
*16:加硫促進剤(フレキシス製PERKACIT DPG)
*17:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ−G)
*18:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1−1発明とを対比する。
甲1−1発明における「NR(天然ゴム)」は、本件特許発明1における「天然ゴム(NR)」に相当し、その含有量も50重量部(phr)で重複一致し、甲1−1発明における「SBR(スチレン・ブタジエン共重合体ゴム)」は、本件特許発明1における「スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)」に相当し、その含有量も30重量部(phr)で重複一致し、甲1−1発明における「BR(ブタジエンゴム)」は、本件特許発明1における「ポリブタジエン(BR)」に相当し、その含有量も20重量部(phr)で重複一致する。
また、甲1−1発明における「シリカ」は、本件特許発明1の「補強充填剤」である「無機充填剤」に相当し、甲1−1発明における「C/B(カーボンブラック)」及び「シリカ」は、本件特許発明1における「カーボンブラックを含む補強充填剤」に相当する。
そして、甲1−1発明におけるカーボンブラックの含有量がゴム成分100重量部に対して「30重量部」であり、シリカの含有量が同「22重量部」であり、これらの含有量は合計で同「52重量部」であり、また、これら充填剤中のシリカ含有率が42重量%(=22/52×100)であるから、甲1−1発明は、本件特許発明1における「前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」との要件を満足する。
さらに、甲1−1発明における「ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ」は、本件特許発明1における「ゴム組成物を少なくとも含有するタイヤ」に相当する。
してみると、両発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、
前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、
前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)ことを特徴とするタイヤ

<相違点1−1>
ゴム組成物について、本件特許発明1では「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」を「1から10phrの範囲」で含むと特定されているのに対して、甲1−1発明ではそのような樹脂を含まない点
<相違点1−2>
カーボンブラックのCTAB比表面積について、本件特許発明1では「100m2/gと150m2/gの間」と特定されているのに対して、甲1−1発明では不明である点
<相違点1−3>
SBRのガラス転移温度(Tg)について、本件特許発明1では「−50℃以上」と特定されているのに対して、甲1−1発明では不明である点

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点1−3>から検討する。
甲1−1発明の課題は、サイプを有する特定のトレッドパターンを有する空気入りタイヤの耐ティア・クラック性を高めること(段落【0003】)である。一方、甲1−4は、ウェット条件下における高い走行初期グリップ性能を有し、トレッドが発熱した後にも該性能を走行中長時間にわたり維持するとともに、耐摩耗性にも優れるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供すること(段落【0005】)を課題とするものであり、両者の課題は異なるものである。
そして、甲1−1発明は、「C/B(カーボンブラック)(N2 SA(窒素吸着法比表面積)130m2/g、DBP(ジブチルフタレート吸着量)125cc/100g)30重量部、シリカ(N2 SA200m2/g、DBP180cc/100g)22重量部」含むもので、甲1の【請求項1】には、「・・・ゴム成分100重量部に対して、シリカを5〜25重量部と、カーボンブラックを前記シリカより多い割合(重量部)で、かつ前記シリカとの合計重量部で40〜60重量部配合してなる・・・」と記載されている。
一方、甲1−4は、その【請求項1】に、「・・・ゴム成分100質量部に対し、シリカを50〜150質量部、窒素吸着比表面積が100〜200m2/gのカーボンブラックを10〜50質量部・・・配合し、前記シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計が60〜160質量部である」、段落【0018】には、「シリカの配合量が50質量部未満であると、充分な補強効果が得られず耐摩耗性が悪化し、また、ウェット条件下での走行初期のグリップ性能およびグリップ持続性が悪化するので好ましくない。・・・カーボンブラックの配合量が・・・50質量部を超えると、特に低温時のウェット条件下での走行初期のグリップ性能およびグリップ持続性が悪化する。」と記載されているように、カーボンブラックはシリカより少ない割合で配合する事項しか記載されていない。
そうすると、甲1−1発明において、甲1−1発明と課題も異なると共に、カーボンブラックとシリカの配合量や、カーボンブラックとシリカの配合割合も異なる甲1−4に記載される技術を適用する動機付けはないし、むしろ阻害要因があると言える。
また、甲1−4の段落【0002】に「従来、競技用ウェットタイヤでは、路面が湿潤状態(ウェット条件)であっても、走行初期から高いグリップ性能を有し、かつトレッドが発熱した後にも高いグリップ性能を維持することが求められている。また、耐摩耗性との両立も重要である。グリップ性能を高めるために、高いガラス転移温度(Tg)のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を配合する技術がある。しかし、この技術ではウェット条件下のグリップ性能は向上するものの、走行初期のグリップ性能は低下する。また、シリカを多量に配合する、あるいは高い軟化点の粘着性付与樹脂を配合する、などの技術も知られている。しかし、これら技術はグリップ性能の向上にある程度の効果はあるものの、前者はグリップ性能が持続せず、後者は走行初期グリップ性能が犠牲になるという問題点がある。」と記載されているように、タイヤ用ゴム組成物は、一般的に、ある性能を向上させるために、ある成分を別の成分に変更したり、含有量を変更したりすると、他の性能が低下する、いわゆる二律背反性を示すことが技術常識である。
そうすると、甲1−4に、「グリップ性能を高めるために、高いガラス転移温度(Tg)のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を配合する技術」(段落【0002】【0007】【0012】)が記載されているからと言って、甲1−1発明において、当該SBRを配合した場合に甲1−1発明の課題である耐ティア・クラック性が維持されるのかは不明なのであるから、甲1−1発明におけるSBRとして、「高いガラス転移温度(Tg)のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)」を採用する動機付けがあるとは言えない。
そして、甲1−2、甲1−3には、ガラス転移温度(Tg)が「−50℃以上」であるSBRについては記載されていない。
また、本件特許明細書を参酌するに、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上のSBR及びガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂の両方を含有する本件特許発明1を充足する組成物C10は、コントロール組成物C9と比べると、転がり抵抗性能は僅かに劣るものの、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上が見られることが示されており、このような本件特許発明1が奏する効果は、甲1−1に記載された事項(段落【0016】)及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1−1発明、すなわち甲1−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、本件特許発明2ないし6は、甲1−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立理由1のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明6は、甲1−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではないから、本件特許発明1ないし本件特許発明6についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、特許異議申立人が主張する進歩性欠如に係る申立理由1は理由がない。

2 申立理由2(甲第2−1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲2−1の記載事項等
(ア)甲2−1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2−1には、「タイヤ」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、熱可塑性樹脂及び充填材を含有するゴム組成物であって、該ゴム成分中、(A)変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を10〜60質量%及び(B)共役ジエン重合体を90質量%以下含み、(A)成分の重合開始剤がリチウムアミド化合物であるか又は(A)成分の活性末端に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物もしくは(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であるゴム組成物をトレッドに用いることを特徴とするタイヤ。
・・・
【請求項4】
前記(A)成分の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体のガラス転移温度Tgが、−60〜−20℃である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記(A)成分の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体が、変性スチレン−ブタジエンゴムである請求項3又は4に記載のタイヤ。
・・・
【請求項9】
前記(B)成分の共役ジエン重合体が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムである請求項7又は8に記載のタイヤ。
・・・
【請求項20】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂5〜20質量部及び前記充填材50〜100質量部を含有する請求項1〜19のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項21】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が、50〜150℃である請求項1〜20のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項22】
前記熱可塑性樹脂が、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環式系炭化水素樹脂、テルペン樹脂及びテルペンフェノール樹脂から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜21のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項23】
前記充填材が、カーボンブラック及び/又はシリカである請求項1〜22のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項24】
前記充填材が、カーボンブラック及びシリカであり、且つカーボンブラックとシリカとの含有割合が、質量比で(10:90)〜(50:50)である請求項1〜23のいずれかに記載のタイヤ。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好であり、湿潤路面での操縦安定性に優れ、且つ加工性の良好なタイヤ、特に空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体、特定の共役ジエン重合体、カーボンブラック及び特定の熱可塑性樹脂をそれぞれ所定の割合で配合してなるゴム組成物をトレッドに用いることにより、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好であり、湿潤路面での操縦安定性(以下、「ウエット性能」という)に優れ、且つ加工性の良好なタイヤ、特に空気入りタイヤを提供することができる。」
「【0010】
[ゴム組成物]
本発明タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物は、ゴム成分中、上記(A)成分を含むことにより、低燃費性が大幅に改良され、ウエット性能も良化される。また、上記(B)成分を含むことにより、氷雪性能、低燃費性及び耐摩耗性が大幅に改良される。
また、(A)成分の重合開始剤がリチウムアミド化合物であるか、又は(A)成分の活性末端に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であることにより、カーボンブラック及び/又はシリカ等の充填材のゴム成分中への分散性が改良され、ゴム組成物の補強性が向上する。一方、(A)成分の活性末端に用いられる変性剤が(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であることにより、充填材、特にシリカのゴム成分中への分散性が改良され、同様にゴム組成物の補強性が向上する。
【0011】
[ゴム成分]
本発明タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物のゴム成分中、(A)成分を10〜60質量%含むことを要するのは、10質量%未満では低燃費性改良効果を奏することが困難となり、60質量%を超えると氷雪性能を改良することが困難になるからである。
上記(A)成分である変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体のガラス転移温度Tgは、−60〜−20℃であることが好ましい。この範囲内であれば、好適に低燃費性改良効果を享受できるからである。
また、(B)成分である共役ジエン重合体のガラス転移温度Tgは−110〜−50℃であることが好ましい。−110℃以上であれば製造し易く、〜−50℃以下であれば、氷雪性能改良効果をより好適に奏することができるからである。ゴム成分中、(B)成分を10〜90質量%含むことが好ましい。90質量%以下であればウエット性能をより好適に改良することができるからである。10質量%以上であれば氷雪性能、低燃費性及び耐摩耗性をより向上することができる。
このようなゴム成分を用いることにより、ウエット性能、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好なタイヤ、特に空気入りタイヤを与えることができるタイヤトレッド用ゴム組成物を得ることができる。」
「【0075】
[熱可塑性樹脂]
【0076】
本発明タイヤに係るトレッド用ゴム組成物に用いられる熱可塑性樹脂の軟化点は、50〜150℃であることが好ましい。この範囲であれば、未加硫ゴム組成物が可塑化され、押出工程での収縮が抑えられ加工性が著しく向上すると共に、加硫ゴム組成物のウエット性能が大幅に改良されることとなる。軟化点が50℃未満であると、常温で軟化するためハンドリング性が悪くなり混練り時に固形で投入することが困難になる。また、軟化点が150℃を超えるとゴム組成物の発熱が増加するためタイヤの転がり抵抗が増大する。
本発明タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することが好ましい。5質量部以上であれば、加工性改良効果、特に収縮改良効果が好適に発揮され、20質量部以下であれば、低燃費性が向上する。
好適な熱可塑性樹脂としては、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環式系炭化水素樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。
【0077】
脂肪族系炭化水素樹脂としては、C5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂が挙げられる。高純度の1,3−ペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン100」シリーズ(A100、B170、K100、M100、R100、N295、U190、S100、D100、U185、P195N等)が挙げられる。また、他のC5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂としてはエクソンモビール社製の商品名「エスコレッツ」シリーズ(1102、1202(U)、1304、1310、1315、1395等)、三井化学(株)製の商品名「ハイレッツ」シリーズ(G−100X、−T−100X、−C−110X、−R−100X等)が挙げられる。
【0078】
脂環式系炭化水素樹脂としては、C5留分から抽出されたシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂やC5留分中のジシクロペンタジエンを主原料として製造されたジシクロペンタジエン系石油樹脂が挙げられる。例えば、高純度のシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン1000」シリーズ(1325、1345等)が挙げられる。また、ジシクロペンタジエン系石油樹脂としては、丸善石油化学(株)の商品名「マルカレッツM」シリーズ(M−890A、M−845A、M−990A等)が挙げられる。
【0079】
テルペン樹脂は、天然由来のテレピン油又はオレンジ油を主原料に製造された樹脂をいい、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジン」シリーズ(PX−1250、TR−105等)、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ(A115、S115等)が挙げられる。
【0080】
テルペンフェノール樹脂としては、例えば、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSポリスター」シリーズ(U−130、U−115等のUシリーズ、T−115、T−130、T−145等のT−シリーズ、)、荒川化学工業(株)製の商品名「タマノル901」等が挙げられる。」
「【0081】
[充填材]
本発明タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物は、充填材として、ゴム成分100質量部に対して、充填材50〜100質量部を含有することが好ましい。50質量部以上であれば、耐摩耗性が向上し、100質量部以下であれば、低燃費性が向上する。カーボンブラックとシリカとを併用することがウエット性能、耐摩耗性及び破壊特性を改良する見地から好ましい。
この充填材は、カーボンブラック及び/又はシリカであることが好ましい。特に、充填材が、カーボンブラック及びシリカであることが好ましく、カーボンブラックとシリカとの含有割合が、質量比で(10:90)〜(50:50)であることが好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、30〜80質量部であることが好ましい。この範囲であれば、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性がより良好となり、且つウエット性能をより向上することができる。
カーボンブラックとしては特に制限はなく、例えば、HAF、N339、IISAF、1SAF、SAFなどが用いられる。
カーボンブラックの窒素吸着法比表面積(N2SA、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定する)は、好ましくは70〜180m2/g、より好ましくは80〜180m2/gである。また、DBP吸油量(JIS K 6217−4:2001に準拠して測定する)は、好ましくは70〜160mL/100g、より好ましくは90〜160mL/100gである。カーボンブラックを用いることにより、耐破壊特性、耐摩耗性等の改良効果は大きくなる。耐摩耗性に優れるN339、IISAF、ISAF、SAFが特に好ましい。
【0082】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられるが、中でもウエット性能及び耐摩耗性の両立効果が最も顕著である湿式シリカが好ましい。
シリカのBET比表面積(ISO 5794/1に準拠して測定する)としては80m2/g以上のものが好ましく、より好ましくは120m2/g以上、特に好ましくは150m2/g以上である。BET比表面積の上限値には特に制限はないが、通常450m2/g程度である。このようなシリカとしては東ソーシリカ社製、商品名「ニプシルAQ」(BET比表面積 =190m2/g)、「ニプシルKQ」、デグッサ社製商品名「ウルトラジルVN3」(BET比表面積 =175m2/g)等の市販品を用いることができる。
カーボンブラック及び/又はシリカは、それぞれ、1種用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「【実施例】
【0089】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中の各種の測定は下記の方法によっておこなった。
[未変性又は変性共役ジエン重合体及び未変性又は変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体物性]
<ガラス転移温度Tg>
示差走査熱分析機(DSC)にて、−150℃まで冷却した後に10℃/minで昇温する条件で測定した。
<ミクロ構造の分析法>
赤外法(モレロ法)により、1−4シス結合含有量及びビニル結合含有量(%)を測定した。また、結合スチレン量は、1H-NMRでスペクトルの積分比を算出することにより求めた。
<重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定>
GPC[東ソー製、HLC−8020]により検出器として屈折計を用いて測定し、単分散ポリスチレンを標準としたポリスチレン換算で示した。なお、カラムはGMHXL[東ソー製]で、溶離液はテトラヒドロフランである。
<ムーニー粘度(ML1+4,100℃)の測定>
JIS K6300に従って、Lロ一夕一、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃で求めた。
<第一アミノ基含有量(mmol/kg)の測定>
先ず、重合体をトルエンに溶解した後、大量のメタノール中で沈殿させることにより重合体に結合していないアミノ基含有化合物をゴムから分離した後、乾燥した。本処理を施した重合体を試料として、JIS K7237に記載された「全アミン価試験方法」により全アミノ基含有量を定量した。続けて、前記処理を施した重合体を試料として「アセチルアセトンブロックド法」により第二アミノ基及び第三アミノ基の含有量を定量した。試料を溶解させる溶媒には、o−ニトロトルエンを使用、アセチルアセトンを添加し、過塩素酢酸溶液で電位差滴定を行った。全アミノ基含有量から第二アミノ基及び第三アミノ基の含有量を引いて第一アミノ基含有量(mmol)を求め、分析に使用したポリマー質量で割ることにより重合体に結合した第一アミノ基含有量(mmol/kg)を求めた。
【0090】
[未加硫ゴムによる特性値の評価]
<未加硫ゴムの収縮>
タイヤトレッドの押出機にて一定長さで押し出した後のトレッド収縮量を測定した。比較例1の収縮長さを100として下記色により指数表示した。値が小さい方が収縮が少なく良好である。
(供試未加硫ゴムの収縮量/比較例1の未加硫ゴムの収縮量)×100
[加硫ゴムによる特性値の評価]
<ウエット性能>
ウエット路面において、80km/hからブレーキテストを実施し、停止するまでの距離(m)の逆数を、比較例1を100として指数表示した。値が大きい方が良好である。
<氷雪性能>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度−20℃、動歪1%で動的貯蔵弾性率E’を測定し、その値の逆数を、比較例1のE’の逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、氷雪性能が良好である。
<低燃費性>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%でtanδを測定し、その値の逆数を、比較例1のtanδの逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、低燃費性が良好である。
<耐摩耗性>
JIS K 6264−1993ランボーン摩耗試験により、室温で試験した後、下記式により算出し、比較例1を100として指数表示した。
耐摩耗性指数=(比較例1の摩耗量/供試サンプルの摩耗量)×100
耐摩耗性指数が大きいほど、耐摩耗性が優れることを示す。
【0091】
製造例1 第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴムの製造
<変性剤の合成>
合成例1:N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランの合成
窒素雰囲気下、撹拌機を備えたガラスフラスコ中のジクロロメタン溶媒400mL中にアミノシラン部位として36gの3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(Gelest社製)を加えた後、更に保護部位として塩化トリメチルシラン(Aldrich社製)48mL、トリエチルアミン53mLを溶液中に加え、17時間室温下で撹拌し、その後反応溶液をエバポレーターにかけることにより溶媒を取り除き、反応混合物を得、更に得られた反応混合物を圧力665Pa条件下で減圧蒸留することにより、130〜135℃留分としてN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを40g得た。
<第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴムの合成>
窒素置換された内容積5L(リットル)のオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン2,750g、テトラヒドロフラン16.8mmol、スチレン125g、1,3−ブタジエン375gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、n−ブチルリチウム1.2mmolを添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達した時点で、ブタジエン10gを追加し、更に5分重合させた。リアクターからポリマー溶液を、メタノール1gを添加したシクロヘキサン溶液30g中に少量サンプリングした後、合成例1で得られたN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1.1mmolを加えて、変性反応を15分間行った。この後、テトラキス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン0.6mmolを加え、更に15分間撹拌した。最後に反応後の重合体溶液に、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第一アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熟ロールによりゴムを乾燥し、第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴムを得た。得られた第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴムのガラス転移温度Tgが−38℃、結合スチレン量24.5質量%、共役ジエン部のビニル含有量は56モル%、ムーニー粘度は32、変性前の重量平均分子量は158,000、変性前の分子量分布は1.05であった。また、第一アミノ基含有量は6.3mmol/kgであった。
【0092】
製造例2 ヘキサメチレンイミン変性スチレン−ブタジエンゴムの製造
乾燥し、窒素置換された800mL(ミリリットル)の耐圧ガラス容器に、シクロヘキサン300g、1,3−ブタジエン単量体37.5g、スチレン単量体12.5 g、カリウム−t−アミレート0.03mmol、THF 2mmolを注入し、更に第二アミンとしてヘキサメチレンイミン0.41mmolを加えた。これにn−ブチルリチウム(BuLi)0.45 mmolを加えた後、50℃で2.5時間重合を行った。重合系は重合開始から終了まで、全く沈澱は見られず均一で透明であった。重合転化率はほぼ100%であった。重合溶液の一部をサンプリングし、イソプロピルアルコールを加え、固形物を乾燥し、ゴム状共重合体を得た。この共重合体についてミクロ構造、分子量、及び分子量分布を測定した。この重合系に更に変性剤として四塩化スズの1mol/Lシクロヘキサン溶液0.09 mmolを加えた後に、更に30分間変性反応を行った。この後、重合系に更に2,6−ジ−ターシャリブチルパラクレゾール(BHT)のイソプロピルアルコール5質量%溶液0.5mLを加えて反応の停止を行い、更に常法に従い乾燥することにより、変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(変性SBR)を得た。得られた変性SBRは、ガラス転移温度Tgが−50℃、結合スチレン量が25質量%で、ビニル結合量が28モル%、ムーニー粘度は27、変性前の重量平均分子量は180,000、変性前の分子量分布は1.21であった。
【0093】
製造例3 GPMOS変性スチレン−ブタジエンゴムの製造
乾燥し、窒素置換された800mLの耐圧ガラス容器に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(16モル%)、スチレンのシクロヘキサン溶液(21モル%)をブタジエン単量体40g、スチレン単量体10gとなるように注入し、2,2−ジテトラヒドロフリルプロパン0.44mmolを注入し、これにn−ブチルリチウム(BuLi)0.48mmolを加えた後、50℃の温水浴中で1.5時間重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
この重合系に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPMOS)0.43mmolを加えた後、更に50℃で30分間変性反応を行った。この後、重合系に、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ1.26mmol及び水1.26mmolを加えた後、50℃で30分間縮合反応を行った。この後、重合系に更に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)のイソプロパノール5重量%溶液0.5mLを添加し、反応を停止させた。その後、常法に従い乾燥することにより、変性スチレン−ブタジエンゴムを得た。得られた変性スチレン−ブタジエンゴムのガラス転移温度Tgが−40℃、結合スチレン量20質量%、共役ジエン部のビニル含有量は52.6モル%、ムーニー粘度は70、変性前の重量平均分子量は184,000、変性前の分子量分布は1.21であった。
【0094】
製造例4 テトラエトキシシラン変性スチレン−ブタジエンゴムの製造
乾燥し、窒素置換された800mLの耐圧ガラス容器に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(16モル%)、スチレンのシクロヘキサン溶液(21モル%)をブタジエン単量体40g、スチレン単量体10gとなるように注入し、2,2−ジテトラヒドロフリルプロパン0.44mmolを注入し、これにn−ブチルリチウム(BuLi)0.48mmolを加えた後、50℃の温水浴中で1.5時間重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
この重合系にテトラエトキシシラン0.43mmolを加えた後、更に50℃で30分間変性反応を行った。この後、重合系に、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン1.26mmol及び水1.26mmolを加えた後、50℃で30分間縮合反応を行った。この後、重合系に更に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)のイソプロパノール5重量%溶液0.5mLを添加し、反応を停止させた。その後、常法に従い乾燥することにより、変性スチレン−ブタジエンゴムを得た。得られた変性スチレン−ブタジエンゴムのガラス転移温度Tgが−50℃、結合スチレン量19.9質量%、共役ジエン部のビニル含有量は52モル%、ムーニー粘度は64、変性前の重量平均分子量は186,000、変性前の分子量分布は1.07であった。
【0095】
製造例5 変性ポリブタジエンゴムの製造
<触媒の調製>
乾燥・窒素置換された、ゴム詮付容積100mLのガラスびんに、以下の順番に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(15.2質量%)7.11g、ネオジムネオデカノエートのシクロヘキサン溶液(0.56mol/L)0.59mL、メチルアルミノキサンMAO(東ソーアクゾ製PMAO)のトルエン溶液(アルミニウム濃度として3.23mol/L)10.32ミリリットル、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製)のヘキサン溶液(0.90mol/L)7.77mLを投入し、室温で2分間熟成した後、塩素化ジエチルアルミニウム(関東化学製)のヘキサン溶液(0.95mol/L)1.45mLを加え室温で、時折撹拌しながら15分間熟成した。こうして得られた触媒溶液中のネオジムの濃度は、0.011mol/Lであった。
<中間重合体の製造>
約900mL容積のゴム栓付きガラスびんを乾燥・窒素置換し、乾燥精製されたブタジエンのシクロヘキサン溶液及び乾燥シクロヘキサンを各々投入し、ブタジエン12.5質量%のシクロヘキサン溶液が400g投入された状態とした。次に、前記(1)で調製した触媒溶液2.28mL(ネオジム換算0.025mmol)を投入し、50℃温水浴中で1.0時間重合を行い、中間重合体を製造した。
<変性処理>
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPMOS)濃度が1.0mol/Lのヘキサン溶液を、GPMOSがネオジムに対して23.5モル当量になるように、前記(2)で得た重合液に投入し、50℃にて60分間処理した。
次いで、ソルビタントリオレイン酸エステル(関東化学社製)を1.2mL加えて、更に60℃で1時間変性反応を行った後、重合系に老化防止剤2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(NS−5)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを加えて反応の停止を行い、更に微量のNS−5を含むイソプロパノール中で再沈殿を行ない、ドラム乾燥することにより、変性ポリブタジエンを得た。この変性ポリブタジエンには、マクロゲルは認められず、ガラス転移温度Tgがー103℃、変性前のムーニー粘度は22、変性後のムーニー粘度は59であった。
【0096】
実施例1〜11及び比較例1〜6
表1に示す配合組成を有する17種のゴム組成物を調製し、それぞれ未加硫ゴム組成物の押出工程における収縮を評価すると共に、加硫ゴム物性、即ちウエット性能、氷雪性能、低燃費性及び耐摩耗性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0097】
【表1】


[注]
1)乳化重合SBR:SBR#1500、JSR社製
2)カーボンブラック:N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」
3)シリカ:東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」
4)シランカップリング剤:デグッサ社製、商品名「Si69」
5)熱可塑性樹脂A:C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃)
6)熱可塑性樹脂B:ジシクロペンタジエン樹脂、丸善石油化学(株)製、商品名「マルカレッツM M−890A」(軟化点105℃)
7)熱可塑性樹脂C:テルペン樹脂、ヤスハラケミカル(株)製、商品名「YSレジンPX−1250」(軟化点125℃)
8)熱可塑性樹脂D:テルペンフェノール樹脂、ヤスハラケミカル(株)製、商品名「YSポリスターT145」(軟化点145℃)
9)低温軟化剤:オクチルオレエート、花王(株)製、商品名「スプレンダーR400」
10)老化防止剤6PPD:大内新興化学工業社製「ノクセラー6C」
11)加硫促進剤DPG:大内新興化学工業社製「ノクセラーD」
12)加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ」
13)加硫促進剤DM:大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」
【0098】
表1から明らかなように、実施例1〜11のゴム組成物は、比較例1〜6のゴム組成物と比較して、いずれも未加硫ゴムの収縮が小さく加工性が良好であり、ウエット性能、氷雪性能、低燃費性及び耐磨耗性がバランスよく良好であった。
次に実施例1〜11及び比較例1〜6の17種類のゴム組成物を夫々オールシーズン用空気入りタイヤ(タイヤサイズ195/60R15)のトレッドに配設して、17種類のオールシーズン用空気入りタイヤを常法に従って製造し、それら17種類のタイヤについて夫々、ウエット路面のテストコース走行によりウエット性能を、雪上路面及び氷上路面のテストコース走行により氷雪性能を、SAE J2452に準拠した空気入りタイヤの転がり抵抗測定により低燃費性を、一般路走行により耐磨耗性を評価した所、実施例1〜11の空気入りタイヤは、比較例1〜6の空気入りタイヤと比較して、いずれもウエット性能、氷雪性能、低燃費性及び耐磨耗性が良好であった。」

(イ)甲2−1に記載された発明
甲2―1の記載について、特に実施例2、4、6、8(段落【0089】ないし【0098】)に着目すると、甲2−1には、以下の発明が記載されているといえる。
「以下の配合組成、
天然ゴム 40質量部、
SBR(第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−38℃) 50質量部、
BR (変性ポリブタジエンゴム) 10質量部、
カーボンブラック(N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」) 10質量部、
シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」) 60質量部、
シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名「Si69」) 6質量部、
熱可塑性樹脂A(C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃) 10質量部、
老化防止剤6PPD(大内新興化学工業社製「ノクセラー6C」) 1.0質量部、
ステアリン酸 2.0質量部、
亜鉛華 2.5質量部、
加硫促進剤DPG(大内新興化学工業社製「ノクセラーD」) 1.5質量部、
加硫促進剤CZ(大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ」) 0.5質量部、
加硫促進剤DM(大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」) 1.0質量部、
硫黄 1.8質量部、
を有するゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。」(以下、「甲2−1実施例2発明」という。)

「以下の配合組成、
天然ゴム 40質量部、
SBR(ヘキサメチレンイミン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−50℃) 50質量部、
BR (変性ポリブタジエンゴム) 10質量部、
カーボンブラック(N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」) 10質量部、
シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」) 60質量部、
シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名「Si69」) 6質量部、
熱可塑性樹脂A(C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃) 10質量部、
老化防止剤6PPD(大内新興化学工業社製「ノクセラー6C」) 1.0質量部、
ステアリン酸 2.0質量部、
亜鉛華 2.5質量部、
加硫促進剤DPG(大内新興化学工業社製「ノクセラーD」) 1.5質量部、
加硫促進剤CZ(大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ」) 0.5質量部、
加硫促進剤DM(大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」) 1.0質量部、
硫黄 1.8質量部、
を有するゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。」(以下、「甲2−1実施例4発明」という。)

「以下の配合組成、
天然ゴム 40質量部、
SBR(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−40℃) 50質量部、
BR (変性ポリブタジエンゴム) 10質量部、
カーボンブラック(N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」) 10質量部、
シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」) 60質量部、
シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名「Si69」) 6質量部、
熱可塑性樹脂A(C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃) 10質量部、
老化防止剤6PPD(大内新興化学工業社製「ノクセラー6C」) 1.0質量部、
ステアリン酸 2.0質量部、
亜鉛華 2.5質量部、
加硫促進剤DPG(大内新興化学工業社製「ノクセラーD」) 1.5質量部、
加硫促進剤CZ(大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ」) 0.5質量部、
加硫促進剤DM(大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」) 1.0質量部、
硫黄 1.8質量部、
を有するゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。」(以下、「甲2−1実施例6発明」という。)

「以下の配合組成、
天然ゴム 40質量部、
SBR(テトラエトキシシラン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−50℃) 50質量部
BR (変性ポリブタジエンゴム) 10質量部、
カーボンブラック(N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」) 10質量部、
シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」) 60質量部、
シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名「Si69」) 6質量部、
熱可塑性樹脂A(C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃) 10質量部、
老化防止剤6PPD(大内新興化学工業社製「ノクセラー6C」) 1.0質量部、
ステアリン酸 2.0質量部、
亜鉛華 2.5質量部、
加硫促進剤DPG(大内新興化学工業社製「ノクセラーD」) 1.5質量部、
加硫促進剤CZ(大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ」) 0.5質量部、
加硫促進剤DM(大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」) 1.0質量部、
硫黄 1.8質量部、
を有するゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。」(以下、「甲2−1実施例8発明」という。)

イ 甲2−2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2−2には、「キャップトレッド用ゴム組成物」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを50重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを20重量部以上含む充填剤を30〜150重量部、再生ゴムを1〜10重量部配合したゴム組成物であり、前記カーボンブラックがCTAB吸着比表面積70〜200m2/g、24M4DBP吸収量80〜120ml/100gであり、前記再生ゴムがムーニー粘度35〜65、該再生ゴム中のゴム成分の天然ゴム含有比率が60重量%以上、かつ該再生ゴム中のゾルのゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量が60000以下であるキャップトレッド用ゴム組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、再生ゴムを配合しながら破断強度の低下及び耐エッジ切れ性の悪化を可及的に小さくし、かつシュリンク防止性を向上するようにしたキャップトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
「【0018】
本発明において使用するカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積が70〜200m2/g、好ましくは90〜160m2/gであり、24M4DBP吸収量が80〜120ml/100g、好ましくは90〜110ml/100gである。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が70m2/g未満の場合には、十分な破断強度が得られない。また、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が200m2/gを超える場合には、押出成形時の耐エッジ切れ性が悪化する。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3に準拠して求められるものとする。」
「【実施例】
【0025】
表1,2に示す配合からなる16種類のゴム組成物(実施例1〜8、比較例1〜8)を、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く配合成分を秤量し、1.5Lのバンバリーミキサーで4分間混練し、温度160℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.5Lのバンバリーミキサーに供し、硫黄及び加硫促進剤を加え混合し、キャップトレッド用ゴム組成物を調製した。なお、表1の10種類のゴム組成物(実施例1〜5、比較例1〜5)は、充填剤としてカーボンブラックを配合したものであり、表2の6種類のゴム組成物(実施例6〜8、比較例6〜8)は、充填剤としてカーボンブラックとシリカとを共に配合したものである。
【0026】
得られた16種類のゴム組成物(実施例1〜8、比較例1〜8)を、それぞれ所定形状の金型中で、150℃、30分間加硫して試験片を作製し、破断強度を下記に示す方法により測定した。また、これらのゴム組成物の押出成形時のシュリンク防止性及び耐エッジ切れ性を下記に示す方法により測定した。
【0027】
破断強度
JIS K6251に準拠し、3号型ダンベル試験片、23℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した。得られた結果は、比較例1,6の値をそれぞれ100とする指数で表わし表1,2に示した。この指数が大きいほど破断強度が高いことを意味する。
【0028】
耐エッジ切れ性
単軸押出機(ブラベンダー社製プラスティコーダー、スクリュー回転数40rpm、シリンダ温度100℃)を用いて、ダイス形状が半径約14mmの円に内接する頂角約30℃の二等辺三角形(頂点の曲率半径が0.25mm)に近似したダイから、各ゴム組成物を20秒押出したときの、押出成形体の耐エッジ切れ性の度合いをパネラー5人が5点満点で評価し、その平均値を求めた。得られた結果を表1,2に示した。評点が大きいほど押出加工性が優れ、評点3を基準(実用的に問題のないレベル)とする。
【0029】
シュリンク防止性
上記の耐エッジ切れ性試験で得られた押出成形体の断面積を測定し、ダイスの開口部の面積に対する押出成形体の断面積比を算出した。得られた結果は、比較例1、6の値をそれぞれ100とする指数で表し、その結果を表1,2に示した。この指数が小さいほどシュリンクが小さく所期の断面形状を有する押出成形体が容易に得られることを意味する。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
再生ゴム1:Gujarat社製GR555、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=45、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=30000)
再生ゴム2:村岡ゴム工業社製TBR100%タイヤリク、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=60、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=60000)
再生ゴム3:アセトン抽出量4.5重量%、クロロホルム抽出量2.2重量%の加硫ゴム(NR/BRの重量比が80/20のもの)を180℃に温調したラボプラストミル(容積60cc)で4分間せん断をかけて脱硫し作製したもの、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=70、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=200000)
再生ゴム4:アセトン抽出量4.5重量%、クロロホルム抽出量2.2重量%の加硫ゴム(NR/BRの重量比が20/80のもの)を180℃に温調したラボプラストミル(容積60cc)で8分間せん断をかけて脱硫し作製したもの、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=40、ゴム成分中の天然ゴム比率=20%、ゾルの重量平均分子量=30000)
CB1:カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN234(CTAB吸着比表面積120m2/g、24M4DBP吸収量105ml/100g)
CB2:カーボンブラック、新日化カーボン社製HTC#G(CTAB吸着比表面積31m2/g、24M4DBP吸収量67ml/100g)
シリカ:ローディアシリカ社製ZEOSIL 55
カップリング剤:シランカップリング剤、デグッサ社製Si69
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸
オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
硫黄:アクゾノーベル社製クリステックスHS OT 20
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーNS P」

ウ 甲2−3の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2−3には、「キャップトレッド用ゴム組成物」について、以下の記載がされている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、CTAB吸着比表面積110〜180m2/gのカーボンブラック20質量部以上、CTAB吸着比表面積95〜175m2/gのシリカ10質量部以上、油展白土1〜20質量部および下記式1で表されるポリエーテルポリオール0.2〜5.0質量部を配合し、前記カーボンブラック、シリカおよび油展白土の合計が35〜150質量部であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
式1
【化1】

(式中、l、mおよびnはそれぞれ独立に2〜10の整数を表す)」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、破断伸び及び耐摩耗性を損なうことなく、低燃費性を実現できるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。」
「【0012】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積(JIS K 6217に従って測定)が110〜180m2/gである必要がある。CTAB吸着比表面積が110m2/g未満では、耐摩耗性が不利となり、逆にCTAB吸着比表面積が180m2/gを超えると、加工性が不利となり、好ましくない。さらに好ましいCTAB吸着比表面積は、120〜170m2/gである。」
「【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0023】
実施例1〜2および比較例1〜7
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで150℃で5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片を用いて、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0024】
破断伸び:JIS K6251に準拠して、23℃における破断伸びを測定した。比較例1を基準(100)として、指数が大きいほど、高い破断伸びを示す。
【0025】
tanδ(60℃):東洋精機製作所(株)製粘弾性スペクトロメーターを用いて初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz、雰囲気温度60℃で測定した。比較例1を基準(100)とし、指数が小さいほど転がり抵抗が低いことを示す。
【0026】
耐摩耗性:ランボーン摩耗試験を使用して、JIS K6264に準拠して測定した。比較例1を基準(100)とし、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0027】
【表1】

【0028】
*1:天然ゴム(STR20)
*2:カーボンブラック(東海カーボン(株)製、シースト7HM、CTAB吸着比表面積=120m2/g)
*3:カーボンブラック(東海カーボン(株)製、シーストKH、CTAB吸着比表面積=90m2/g)
*4:シリカ(デグッサ社製、Ultrasil VN3GR、CTAB吸着比表面積=165m2/g)
*5:ポリエーテルポリオール(ランクセス社製、商品名KA9202、上記式1において、l=3、m=3、n=3)
*6:油展白土(日本サン石油社製試料、白土を潤滑油の精製工程に使用して得られたもの、油分の含有量=36質量%)
*7:クレー(日本タルク社製、Tクレー)
*8:亜鉛華(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*9:ステアリン酸(日油(株)製、ビーズステアリン酸YR)
*10:シランカップリング剤(デグッサ社製、Si69)
*11:硫黄(鶴見化学工業社製、金華印油入微粉硫黄)
*12:加硫促進剤CZ(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーCZ−G)
【0029】
上記の表から明らかなように、実施例1〜2で調製されたゴム組成物は、ジエン系ゴムに本発明で規定する範囲内のカーボンブラック、シリカ、油展白土およびポリエーテルポリオールを配合しているので、従来の代表的な比較例1の配合からなるゴム組成物に対し、破断伸び、転がり抵抗および耐摩耗性が全て改善されている。これに対し、比較例2は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が本発明の範囲外であるので、破断伸びおよび耐摩耗性に劣る結果となった。比較例3は、シリカを配合していないので、転がり抵抗が改善されない。比較例4は、油展白土を配合していないので、破断伸びが改善されない。比較例5は、油展白土の替わりにクレーを使用した例であるが、耐摩耗性に劣る結果となった。比較例6は、油展白土の配合割合が本発明で規定する上限を超えているので、転がり抵抗および耐摩耗性に劣る結果となった。比較例7は、ポリエーテルポリオールの配合割合が本発明で規定する上限を超えているので、破断伸びおよび耐摩耗性が改善されない結果となった。」

エ 甲2−4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2−4には、「タイヤ」について、以下の記載がされている。
「[0007] 本発明は、このような状況下で、低燃費性能、氷雪性能、ウエット性能及びドライ性能の良好なタイヤを提供することを目的とするものである。」
「[0072] <充填材>
本発明に係るゴム組成物は、充填材として、シリカとカーボンブラックとを、質量比10:90〜80:20の割合で含む。シリカとカーボンブラックとの合計量中、シリカが10質量%より少ないとウエット性能が低下し、シリカが80質量%を超えると操縦安定性が低下するからである。」
「[0079] 以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中の各種の測定は下記の方法によっておこなった。
・・・
[0080] 《加硫ゴムによる特性値の評価》
<操縦安定性(ドライ性能)>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度30℃、動歪1%で30℃E’を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、ドライ操縦安定性が良好である。
<氷雪性能>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度−20℃、動歪1%で−20℃E’を測定し、比較例1のE’の逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、氷雪性能が良好である。
<低燃費性>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδの逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、低燃費性が良好である。
<ウエット性能>
東洋精機(株)製、スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度0℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδの逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど、ウエット性能が良好である。
・・・
[0086] 実施例1〜10及び比較例1〜8
第1表に示す配合組成を有する18種のゴム組成物を調製し、それら18種のゴム組成物をそれぞれトレッドに用いる18種の乗用車用空気入りタイヤ(205/55R16)を製造し、それらのトレッドからサンプリングしたゴムの加硫ゴム物性、すなわちドライ性能、氷雪性能、低燃費性及びウエット性能を評価した。評価結果を第1表に示す。
[0087] [表1]

[注]
*1.SBR#1712:JSR社製、伸展油37.5質量部の油展SBR、第1表には伸展油を含んだ量を記載
*2.SBR#1500:JSR社製
*3.変性SBR−1:製造例1の第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴムを用いた
*4.変性SBR−2:製造例2のアミン変性スチレン−ブタジエンゴムを用いた
*5.変性SBR−3:製造例3のシラン変性スチレン−ブタジエンゴムを用いた
*6.BR01:ポリブタジエンゴム,JSR社製
*7.変性BR−1:製造例4の変性ポリブタジエン−1を用いた
*8.変性BR−2:製造例5の変性ポリブタジエン−2を用いた
*9.A/O MIXオイル:三共油化工業社製、商品名「A/O MIX」
*10.カーボンブラック:N234、東海カーボン社製、商品名「シーストHM」
*11.シリカ:東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」
*12.シランカップリング剤:デグッサ社製、商品名「Si69」
*13.老化防止剤6PPD:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー6C」
*14.加硫促進剤DPG:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーD」
*15.加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
*16.加硫促進剤DM:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDM」
*17.シリカ比率:〔シリカ量/(シリカ+カーボンブック)量〕×100
第1表から明らかなように、比較例2〜4のシリカ比率の高過ぎるゴム組成物ではドライ性能が低下し、比較例6の変性ポリブタジエンゴム及び非変性スチレンブタジエンの組み合わせのゴム組成物ではウエット性能及び低発熱性が低下し、比較例7の非変性ポリブタジエンゴム及び変性スチレンブタジエンの組み合わせのゴム組成物ではウエット性能及び氷雪性能が低下し、比較例8のシリカ比率が低過ぎるゴム組成物ではドライ性能は改良されるが、ウエット性能、氷雪性能及び低燃費性は低下する。 これらに対し、実施例1〜10のゴム組成物は、変性スチレンブタジエンゴム、変性ポリブタジエン及び好ましい範囲のシリカ量とカーボンブラック量とを組み合わせることによりはじめて本発明の課題を達成し得た。」
「請求の範囲
[1] ゴム成分と充填材を含有し、かつ前記ゴム成分が、(A)変性共役ジエン重合体及び(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含み、前記(A)成分及び(B)成分に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物、又は(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であって、変性前の共役ジエン重合体及び共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と前記各変性剤との組み合わせが、1:共役ジエン重合体と(C)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(D)成分、2:共役ジエン重合体と(D)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(C)成分、3:共役ジエン重合体と(C)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(C)成分のいずれかであるとともに、前記充填材が、シリカとカーボンブラックとを質量比10:90〜80:20の割合で含むゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ。」

オ 甲1−1の記載事項
上記1(1)ア(ア)に示した通りである。

カ 参2−1の記載事項
参2−1は、以下の記載がある。なお、括弧内は当審による翻訳を示す。
「[0037]・・・The glass transition temperature for the ESCOREZ− 1102 resin is about 126°F. (52℃.) based on ETM 300-90.(ESCOREZ(商標)1102樹脂のガラス転移温度は、ETM300-90を基準にして、約126°F(52℃)である。)」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明とを対比する。
甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「天然ゴム」は、本件特許発明1における「天然ゴム(NR)」に相当し、その含有量も40phrで重複一致する。
甲2−1実施例2発明の「SBR(第一アミン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−38℃)」、甲2−1実施例4発明における「SBR(ヘキサメチレンイミン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−50℃)」、甲2−1実施例6発明における「SBR(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−40℃)」、甲2−1実施例8発明における「SBR(テトラエトキシシラン変性スチレン−ブタジエンゴム、Tg−50℃)」は、いずれも本件特許発明1における「ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上」である「スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)」に相当し、その含有量も50phrで重複一致する。
甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「BR (変性ポリブタジエンゴム)」は、 本件特許発明1における「ポリブタジエン(BR)」に相当し、その含有量も10phrで重複一致する。
甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「熱可塑性樹脂A(C5脂肪族炭化水素樹脂、東燃化学(株)製、商品名「ESCOREZ1102」(軟化点100℃)」のガラス転移温度(Tg)は、参2−1の段落[0037]によると、52℃であるから、本件特許発明1における「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」に相当し、その含有量も10phrで重複一致する。
甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」)」は、本件特許発明1の「無機充填剤」に相当する。
甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「カーボンブラック(N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」)」のCTAB比表面積は、甲2−3号証の段落【0028】によると、120m2/gであるから、本件特許発明1の「CTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間」である「カーボンブラック」に相当する。そして、甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明におけるカーボンブラックの含有量が「10質量部」であり、シリカの含有量が「60質量部」であり、これらの含有量は、 合計で「70質量部」であるから、本件特許発明1における「補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲」である要件を充足する。一方、甲2−1実施例2発明ないし甲2−1実施例8発明における「シリカ」は、カーボンブラック及びシリカ全体の含有量の「85.7%」(=60質量部/70質量部)である。
さらに、甲2−1実施例2ないし甲2−1実施例8発明における「ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ」は、本件特許発明1における「ゴム組成物を少なくとも含有するタイヤ」に相当する。
してみると、両発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、前記ゴム組成物が、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂を含み、前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、前記SBRのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上であり、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記炭化水素可塑性樹脂の含有量が1から10phrの範囲であるタイヤ

<相違点2−1>
無機充填剤の含有量について、本件特許発明1では「補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」と特定されているのに対して、甲2−1実施例2ないし甲2−1実施例8発明は、85.7%である点

そこで、上記相違点について検討する。
甲2−2には、その実施例6ないし8において、SBR80重量部、BR20重量部に対し、カーボンブラック50重量部、シリカ10重量部配合したキャップトレッド用ゴム組成物が記載されており、シリカの配合量は、充填剤全体の質量の16.7%=(10/(50+10)×100)となっている。
甲2−3には、その実施例1において、NR100質量部に対し、カーボンブラック50質量部、シリカ20質量部配合したタイヤトレッド用ゴム組成物が記載されており、シリカの配合量は、充填剤全体の質量の28.6%=(10/(50+10)×100)となっている。
甲2−4の請求項1には、「ゴム成分と充填材を含有し、かつ前記ゴム成分が、(A)変性共役ジエン重合体及び(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル共重合体を含み、前記(A)成分及び(B)成分に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物、又は(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であって、変性前の共役ジエン重合体及び共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と前記各変性剤との組み合わせが、1:共役ジエン重合体と(C)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(D)成分、2:共役ジエン重合体と(D)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(C)成分、3:共役ジエン重合体と(C)成分、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体と(C)成分のいずれかであるとともに、前記充填材が、シリカとカーボンブラックとを質量比10:90〜80:20の割合で含むゴム組成物」が記載されている。
しかしながら、甲2−1には、その【請求項24】に「前記充填材が、カーボンブラック及びシリカであり、且つカーボンブラックとシリカとの含有割合が、質量比で(10:90)〜(50:50)である請求項1〜23のいずれかに記載のタイヤ。」と記載され、その段落【0081】にも「特に、充填材が、カーボンブラック及びシリカであることが好ましく、カーボンブラックとシリカの含有割合が、質量比で(10:90)〜(50:50)であることが好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、30〜80質量部であることが好ましい。この範囲であれば、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性がより良好となり、且つウエット性能をより向上することができる。」と記載されており、また、その実施例を見ても上記カーボンブラックとシリカの含有割合は、シリカが50%以上のものしか記載されていない。
そして、上記1(2)で示したように、タイヤ用ゴム組成物は、いわゆる二律背反性を示すことが技術常識であるところ、特に甲2−4では、シリカ比率が77.8%の実施例2がウェット性能指数が103、低発熱性指数が106(いずれも指数の値が大きいほど、性能が良好である。)であるのに対し、シリカ比率が11.1%の実施例3及びシリカ比率が20.0%の実施例6は、共にウェット性能指数が100、低発熱性指数が100と性能が低下している。
そうすると、低燃費、氷雪性能及び耐摩耗性がより良好となり、且つウェット性能をより向上する課題を解決することを目的とする甲2−1実施例2ないし甲2−1実施例8発明において、カーボンブラックとシリカとの含有割合をシリカが50%以上とすることしか想定していない甲2−1の記載や上記技術常識を参酌すると、甲2−2ないし甲2−4にシリカの配合量として、「補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」の範囲内としたものが記載されているとしても、当該事項を甲2−1実施例2ないし甲2−1実施例8発明に適用する動機付けはないし、むしろ阻害要因があるといえる。
そして、本件特許明細書を参酌するに、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上のSBR及びガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂の両方を含有する本件特許発明1を充足する組成物C10は、コントロール組成物C9と比べると、転がり抵抗性能は僅かに劣るものの、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上が見られることが示されており、このような本件特許発明1が奏する効果は、甲2−1に記載された事項(段落【0008】)及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は、甲2−1実施例2ないし甲2−1実施例8発明、すなわち甲2−1に記載された発明及び甲2−2ないし甲2−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、本件特許発明2ないし6は、甲2−1に記載された発明及び甲2−2ないし甲2−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立理由2のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明6は、甲2−1に記載された発明及び甲2−2ないし甲2−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではないから、本件特許発明1ないし本件特許発明6についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、特許異議申立人が主張する進歩性欠如に係る申立理由2は、理由がない。

3 申立理由3(甲第3−1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲3−1の記載事項等
(ア)甲3−1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3−1には、「Kautschukmischung(ゴム混合物)」について、以下の記載がされている。なお、当審による翻訳のみを示す。
「特許請求の範囲
1.次の組成を特徴とするゴム混合物。
少なくとも1つの極性または非極性ゴムと
少なくとも1つのフィラーと
主鎖に少なくとも1つのへテロ原子を含む少なくとも1つの線状または分岐ポリサルファイド ポリマー
その他の添加剤。
・・・
5.充填剤がシリカおよび/またはカーボンブラックである、請求項1ないし4に記載のゴム混合物
9.乗用車用タイヤまたは商用車用タイヤ用である、請求項1ないし5に記載のゴム混合物。
10.乗用車用タイヤのトレッドまたは商用車用タイヤのトレッドまたは乗用車用タイヤのボディまたは商用車タイヤのボディ混合物を製造するための、請求項9に記載のゴム混合物の使用。」
「[0028] 0.l〜20phrの少なくとも1つの可塑剤がゴム混合物中に存在する可能性がある。このさらなる 可塑剤は、鉱物油・・・樹脂・・・からなる群から選択される。」
「[0030] 本発明はまた、他の物理的特性が同様のレベルに留まりながら、トレードオフにある耐引裂性と発熱性を両立するゴム組成物を製造するための方法を提供するという目的に基づいている。」
「[0040] 次に、表1aからlb、2 aから2 c、および3 aから3 cに要約されている比較および例示的な実施形態を使用して、本発明をより詳細に説明する。
ラベル「a」の表には混合物の組成が記載されており、ラベル「b」の表にはこれらの混合物の物性が記載されており、ラベル「c」の表には老化した混合物の物性が記載されている。「E」でマ ークされた混合物は本発明による混合物であり、「V」でマークされた混合物は比較混合物である。ゴム組成物を、気候チャンバー内で10O℃で3日間(表2c)、または70℃で10日間 (表3cおよび表4c)エージングした。
[0041] 表に含まれるすベての混合例において、記載されている量は、総ゴム(phr)の100重量部に基づく重量部である。−
組成物は、実験室の接線ミキサーで2段階の通常の条件下で調製した。試験片はすべての組成物から加硫によって製造され、ゴム産業に典型的な材料特性をこれらの試験片で決定した。上記の試験片の試験には、以下の試験方法を使用した。


aTSR
b高シスポリブタジエン、シス含有量≧95重量%
cSSBRスチレンブタジエンゴム、Nipol NS116R、日本ゼオン
dチオプラストg4、アクゾノーベル、分岐:2 mol%TCP、n<7、中モル質量<1100 g/mol;SH含有量>5.9%、ヘテロ原子:(-0-)
eThioplast g44、Akzo Nobel、分岐:0.5 mol%TCP、n<7、平均モル質量<1100 g/mol ;SH含有量>5.9%、ヘテロ原子:(-0-)
fThioplast g1、Akzo Nobel、分岐:2 mol%TCP、n=20−21、平均モル質量=3400−3600g/mol; SH含有量=1.8−2.0%、ヘテロ原子:(-0-)
gThiplast g10, Akzo Nobel、分岐:0mol%TCP、n=26−27、平均モル質量=4400−4700g/ mol;
SH含有量=1.4−1.5%、ヘテロ原子:(-0-)
hVN3、Evonik
iMES
jDTPD、6PPD、抗オゾンワックス、ステアリン酸、TBBS)−」

(イ)甲3−1に記載された発明
甲3―1の記載によれば、特許請求の範囲の請求項9の「乗用車用タイヤまたは商用車用タイヤ用である、請求項1ないし5に記載のゴム混合物。」の記載を考慮すると共に、特に実施例E1のゴム混合物に着目すると、甲3−1には以下の発明が記載されているといえる。
「以下の配合組成、
イソプレンゴム 60phr、
BR(高シスポリブタジエン、シス含有量≧95重量%)20phr
SBR(スチレンブタジエンゴム、Nipol NS116R、日本ゼオン) 20phr、
ポリスルフィドポリマー(チオプラストg4、アクゾノーベル、分岐:2 mol%TCP、n<7、中モル質量<1100 g/mol;SH含有量>5.9%、ヘテロ原子:(-0-)) 1.0phr
カーボンブラックN121 45phr、
シリカ(VN3、Evonik) 5phr、
ミネラルオイル(DTPD、6PPD、抗オゾンワックス、ステアリン酸、TBBS) 1.5phr
ZnO 3phr、
硫黄 1.3phr
その他の添加剤 7.8phr
を有するゴム混合物を用いる乗用車用または商用車用タイヤ。」(以下、「甲3−1発明」という。)

イ 甲1−2の記載事項
上記1(1)イに示した通りである。

ウ 甲1−3の記載事項
上記1(1)ウに示した通りである。

エ 参3−1の記載事項
参3−1には、以下の記載がされている。



(第6ページ右上欄第1表)

オ 参3−2の記載事項
参3−2には、以下の記載がされている。
「【0060】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
ENR:MRB社(マレーシア)製のENR−25(エポキシ化率:25モル%、Tg:−47℃)
NR:RSS♯3
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含有量:97質量%、ML1+4(100℃):40、25℃における5%トルエン溶液粘度:48cps、Mw/Mn:3.3)
変性BR:下記方法により製造
変性S−SBR:日本ゼオン(株)製のニッポールNS116Rの片末端をN−メチルピロリドンで変性したもの(スチレン含有量:21質量%、Tg:−25℃)・・・」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3−1発明とを対比する。
甲3−1発明における「イソプレンゴム」は、本件特許発明1における「合成ポリイソプレン」に相当し、その含有量も60phrで重複一致する。
甲3−1発明の「SBR(スチレンブタジエンゴム、Nipol NS116R、日本ゼオン)」は、参3−2の段落【0060】より、ガラス転移温度(Tg)は、−25℃であるから、本件特許発明1における「ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上」である「スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)」に相当し、その含有量も20phrで重複一致する。
甲3−1発明における「BR(高シスポリブタジエン、シス含有量≧95重量%)」は、 本件特許発明1における「ポリブタジエン(BR)」に相当し、その含有量も20phrで重複一致する。
甲3−1発明における「シリカ(VN3、Evonik)」は、本件特許発明1の「無機充填剤」に相当する。
甲3−1発明における「カーボンブラックN121」のCTAB比表面積は、参3−1の第1表によると、121m2/gであるから、本件特許発明1の「CTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間」である「カーボンブラック」に相当する。そして、甲3−1発明におけるカーボンブラックの含有量が「45phr」であり、シリカの含有量が「5phr」であり、これらの含有量は、 合計で「50phr」であり、また、充填剤中のシリカ含有率が10重量%(=5/50×100)であるから、甲3−1発明は、本件特許発明1における「前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」との要件を満足する。
さらに、甲3−1発明における「ゴム混合物を用いる乗用車用または商用車用タイヤ」は、本件特許発明1における「ゴム組成物を少なくとも含有するタイヤ」に相当する。
してみると、両発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、前記SBRのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上であり、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)、ことを特徴とするタイヤ

<相違点3−1>
ゴム組成物について、本件特許発明1では「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」を「1から10phrの範囲」で含むと特定されているのに対して、甲3−1発明ではそのような特定がされていない点

そこで、上記<相違点3−1>について検討する。
甲1−2には、「タイヤの転がり抵抗等の他の性能を悪化させることなく、ウェットグリップ性能、さらには優れた耐摩耗性、耐亀裂成長性を向上させることが可能なゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供すること」(段落【0009】)を目的とする「シス−1,4−結合量が75%以上である共役ジエン系重合体を10質量%以上45質量%以下含有し、さらに他のジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、水素添加樹脂を0.5質量部以上100質量部未満配合してなるゴム組成物」(請求項1)、「前記水素添加樹脂が、テルペン樹脂を水添してなる水添テルペン樹脂である請求項1〜11のいずれかに記載のゴム組成物」(請求項12)、及び「前記水添テルペン樹脂の軟化点が、80℃以上180℃以下である請求項12に記載のゴム組成物」(請求項13)について記載されており、「ミクロ構造を特定の範囲とした重合体を含むゴム成分に対して水素添加樹脂を特定量配合してなるゴム組成物をトレッド部材に用いることで、転がり抵抗等の他の性能を悪化させること無く、ウェットグリップ性能が向上すること、さらには耐摩耗性、耐亀裂成長性も向上する」ことが示されている。
甲1−3には、「ゴム組成物としての性能(耐摩耗性やウェット摩擦性等)を維持しつつ、有害性の少ないタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する」(段落【0003】【0004】)ことを目的とする「非芳香族系油からなるプロセス油と樹脂成分が配合されており、且つ該樹脂成分が脂肪族系炭化水素樹脂、石油樹脂、ロジン誘導体、クマロン樹脂、フェノールテルペン系樹脂のいずれかの樹脂からなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物」(請求項1)について記載されており、「芳香族系油に替えて非芳香族系油をプロセス油として使用したため、有毒な多環芳香族化合物の含有量を低下させることができると同時に、芳香族系油を使用した場合と同様に、ゴム硬度や耐摩耗性或いは、ウェット摩擦係数等のゴム物性を高いレベルに維持できる。」ことが示されている。また、実施例では、樹脂成分として、「エスコレッツ1102(脂肪族炭化水素樹脂)(樹脂成分1)、ペンセルKK(重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)(樹脂成分2)、トーホーハイレジン90S(C4 からC5 脂肪族系炭化系素留分とC8 からC10 芳香族系炭化水素留分との共重合物)(樹脂成分3)」を用いたものが記載されている。
甲3−1発明の課題は、「他の物理的特性が同様のレベルに留まりながら、トレードオフにある耐引裂性と発熱性を両立するゴム組成物を製造するための方法を提供する」(段落[0030])というものであるところ、甲1−2、甲1−3の上記課題と異なるか、あるいは完全には一致しないため、甲3−1発明に甲1−2、甲1−3に記載の技術的事項を組み合わせる動機付けに乏しいものである。
また、上記1(2)で示したように、タイヤ用ゴム組成物は、いわゆる二律背反性を示すことが技術常識である。そうすると、甲1−2及び甲1−3において、ゴム組成物に「軟化点が、80℃以上180℃以下である水添テルペン樹脂」や「トーホーハイレジン90S(C4 からC5 脂肪族系炭化系素留分とC8 からC10 芳香族系炭化水素留分との共重合物)」を配合することが記載されており、当該樹脂が、仮に「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上」であることを満たす場合があるとしても、甲3−1発明において、当該樹脂を配合した場合に、甲3−1発明の課題(段落[0030])である耐引裂性と発熱性が維持されるのかは不明なのであるから、甲3−1発明において、甲1−2及び甲1−3に記載の「樹脂」を採用する動機付けがあるとは言えない。
そして、本件特許明細書を参酌するに、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上のSBR及びガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂の両方を含有する本件特許発明1を充足する組成物C10は、コントロール組成物C9と比べると、転がり抵抗性能は僅かに劣るものの、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上が見られることが示されており、このような本件特許発明1が奏する効果は、甲3−1に記載された事項(段落[0030])及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
そうすると、本件特許発明1は、甲3−1発明、すなわち甲3−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、本件特許発明2ないし6は、甲3−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立理由3のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明6は、甲3−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではないから、本件特許発明1ないし本件特許発明6についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、特許異議申立人が主張する進歩性欠如に係る申立理由3は理由がない。

4 申立理由4(甲第4−1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲4−1の記載事項等
(ア)甲4−1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4−1には、「Schwefelvernetzbare Kautschukmischung und Reifen(硫黄架橋性ゴム混合物とタイヤ)」について、以下の記載がされている。なお、当審による翻訳のみを示す。
「特許請求の範囲
次の組成を含むタイヤトレッド用の硫黄架橋性ゴム混合物。
少なくとも1つのブタジエンゴム 40phr以上、
シリカ 4−8 phr、
少なくとも1つのシランカップリング剤、
DBP番号が105cm3/10Og以上の少なくとも1つのカーボンブラック 50phrを超える
45〜55phrの少なくとも1つのブタジエンゴムを含む請求項1に記載のゴム組成物。
・・・
40phr以上の天然ゴムを含むことを特徴とする前記請求項に記載のゴム組成物。
・・・
7. 2−5phrの可塑剤油および/または加工助剤を含むことを特徽とする前記請求項に記載のゴム組成物。」
「[0004] この先行技術から進んで、本発明は、タイヤトレッドに使用されるときに、ウェットグリップを劣化させることなく改善された摩耗挙動をもたらすゴム混合物を提供するという目的に基づいている。」
「[0017] ゴム組成物がスチレン−ブタジエン共重合体を含む場合、それは、約10から45%のポリマーに基づくスチレン含有量およびビニル含有量(1,2の含有量)を有する溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体(S−SBR)であり得る。全ポリマーに基づく結合ブタジエンは10〜70%作用する。これは、たとえば有機溶媒中のリチウムアルキルを使用して調製できる。ただし、エマルジョン重合スチレン−ブタジエンコポリマー(E−SBR)およびE−SBRとS−SBRの混合物も使用 できる。E−SBRのスチレン含有量は約15〜50%であり、水性エマルジョン中でスチレンと1,3−ブタジエンを共重合することによって得られた従来技術から知られているタイプを使用することができる。」
[[0019]・・・同時に良好な引裂き特性を備えた良好な加工性のために、混合物中の可塑剤油および/または加工助剤の割合は2から5phrである。
[0020] 例えば、可塑剤油としては、DAE(蒸留芳香族抽出物)、RAE(残留芳香族抽出物)MES(軽度抽出溶媒)およびナフテン油からなる群から選択されるものを使用することができる。加工助剤にはZが含まれ、B.樹脂、金属石けん、脂肪酸が含まれる。
[0021] 言及された充填剤、カーボンブラックおよびシリカに加えて、ゴム混合物はまた、例えば、アルミノケイ酸塩、チョーク、デンプン、酸化マグネシウム、二酸化チタンまたはゴムゲルなどの他の充填剤を含むことができる。」
「[0028] 混合物は、実験室の接線ミキサーで通常の条件下で生成された。ムーニー粘度ML(1+4)は、DIN 53523に進拠したローターレスバルカノメーター(MDR=ムービングディスクレオメーター)を 使用して、100℃で測定した。試験片は、一方ではタイヤからの調製によって、他方では160℃で15分間の加圧下での加硫によってすべての混合物から製造され、これらの試験片を用いてゴム産業の典型的な材料特性が以下を使用して決定した。
以下に示すテスト方法。
タイヤから作られた試験片の場合:
・直径30mm、厚さ6mmの層状試験片でのDIN53505に準拠した室温および70℃でのショアA硬度
・S3バーのDIN53504に準拠した室温での300%伸びでの応力値(モジュール)
・直径30mm、厚さ6mmの層状試験片でのDIN53512に準拠した室温および70℃での反発弾性 160℃での加硫による試験片の場合:
・Grosch、KA、第131回ACSゴム部門によるとGroschに類似した摩耗
97 (1987)および Grosch、KA et al. Kautschuk Gummi Kunststoffe、50、841(1997)、
表の情報は評価であり、配合1(V)の値は100に設定され、100を超える値は摩耗の改善を意味する (つまり、ボリューム摩耗)
・DIN53515に準拠したGravesに準拠した100℃での引裂き抵抗
・DIN EN10 045 (HSTE)に準拠した高速引裂エネルギー試験に準拠した室温での変形体積あたりの引裂エネルギー
[0029] さらに、寸法315/80 R22. 5 HDR+のタイヤは、トレッドとして本発明による組成物で製造され、5%および7%の勾配で、湿潤路面の牽引力の官能評価を実施した。配合1(V)(基準)は0に 設定される。+(プラス)は特性の改善を意味し、−(マイナス)は劣化を意味し、マイナスは夕イヤの市場性を意味する。」



「[0030] 室温での反発弾性は、混合物をトレッドとして使用する場合のウエットグリップの尺度として機能するもより低いリバウンドレジリエンスは、良好なウエットグリップと相関している必要がある。」

(イ)甲4−1に記載された発明
甲4―1の記載によれば、実施例のゴム混合物は、寸法315/80 R22. 5 HDR+のタイヤトレッドに製造されて試験(段落[0029])されているところ、特に表1の実施例1(V)に着目すると、甲4−1には以下の発明が記載されているといえる。
「次の組成を含むタイヤトレッド用の硫黄架橋性ゴム混合物を用いて製造されたタイヤ。
天然ゴム 60phr
BR(高シスポリブタジエン) 20phr以上、
SSBR(溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体) 20 phr、
カーボンブラックN121 45phr、
シリカVN3 5phr、
可塑剤 3phr
老化防止剤 5phr
ステアリン酸 2phr
ZnO 2phr、
促進剤 1.3phr
硫黄 1.3phr
リターダー 0.1phr」(以下、「甲4−1発明」という。)

イ 甲1−2の記載事項
上記1(1)イに示した通りである。

ウ 甲1−3の記載事項
上記1(1)ウに示した通りである。

エ 参3−1の記載事項
上記3(1)エに示した通りである

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4−1発明とを対比する。
甲4−1発明における「天然ゴム」は、本件特許発明1における「天然ゴム」であり、その含有量も60phrで重複一致する。
甲4−1発明の「SSBR(溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体」は、本件特許発明1における「ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上」である「スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)」に相当し、その含有量も20phrで重複一致する。
甲4−1発明における「BR(高シスポリブタジエン)」は、 本件特許発明1における「ポリブタジエン(BR)」に相当し、その含有量も20phrで重複一致する。
甲4−1発明における「シリカVN3」は、本件特許発明1の「無機充填剤」に相当する。
甲4−1発明における「カーボンブラックN121」のCTAB比表面積は、参3−1の第1表によると、121m2/gであるから、本件特許発明1の「CTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間」である「カーボンブラック」に相当する。そして、甲4−1実施例発明におけるカーボンブラックの含有量が「45phr」であり、シリカの含有量が「5phr」であり、これらの含有量は、 合計で「50phr」であり、また、充填剤中のシリカ含有率が10重量%(=5/50×100)であるから、甲4−1発明は、本件特許発明1における「前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」との要件を満足する。
そして、甲4−1発明における「タイヤトレッド用の硫黄架橋性ゴム混合物を用いて製造されたタイヤ」は、本件特許発明1における「ゴム組成物を少なくとも含有するタイヤ」に相当する。
してみると、両発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)ことを特徴とするタイヤ

<相違点4−1>
ゴム組成物について、本件特許発明1では「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」を「1から10phrの範囲」で含むと特定されているのに対して、甲4−1発明ではそのような特定がされていない点
<相違点4−2>
SBR(スチレン-ブタジエン共重合体)について、本件特許発明1では「ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上」と特定されているのに対して、甲4−1発明ではそのような特定がされていない点

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点4−1>について
甲4−1発明の課題は、「タイヤトレッドに使用されるときに、ウェットグリップを劣化させることなく改善された摩耗挙動をもたらすゴム混合物を提供する」(段落[0004])というものであるところ、甲1−2、甲1−3の課題と異なるか、あるいは完全には一致しないため、甲3−1発明に甲1−2、甲1−3に記載の技術的事項を組み合わせる動機付けに乏しいものである。
また、上記1(2)で示したように、タイヤ用ゴム組成物は、いわゆる二律背反性を示すことが技術常識である。そうすると、甲1−2及び甲1−3において、ゴム組成物に「軟化点が、80℃以上180℃以下である水添テルペン樹脂」や「トーホーハイレジン90S(C4 からC5 脂肪族系炭化系素留分とC8 からC10 芳香族系炭化水素留分との共重合物)」を配合することが記載されており、当該樹脂が仮に「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上」であることを満たす場合があるとしても、甲4−1発明において、当該樹脂を配合した場合に、甲4−1発明の課題(段落[0004])であるウェットグリップ性と耐摩耗性が維持されるのかは不明なのであるから、甲4−1発明において、甲1−2及び甲1−3に記載の「樹脂」を採用する動機付けがあるとは言えない。
そして、本件特許明細書を参酌するに、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上のSBR及びガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂の両方を含有する本件特許発明1を充足する組成物C10は、コントロール組成物C9と比べると、転がり抵抗性能は僅かに劣るものの、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上が見られることが示されており、このような本件特許発明1が奏する効果は、甲4−1発明に記載された事項(段落[0004])及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4−1発明、すなわち甲4−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、本件特許発明2ないし6は、甲4−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立理由4のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明6は、甲4−1に記載された発明及び甲1−2ないし甲1−4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものではないから、本件特許発明1ないし本件特許発明6についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、特許異議申立人が主張する進歩性欠如に係る申立理由4は理由がない。

5 申立理由5(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
「【背景技術】
【0002】
現行の「道路用」タイヤは、より長い距離を高速で走行するように設計されている。これは、道路網が改善され、世界的に高速道路網が発展しているからである。しかしながら、燃料の節約と環境保護の必要性が最優先となっていることから、ウェットグリップ性能の向上を進めつつ、転がり抵抗を抑えたタイヤの製造が必要であることがわかってきた。
この種のタイヤのエラストマーマトリックスにおいては、天然ゴムと混合するものとして、ガラス転移温度Tgが高い(−65℃以上)スチレン‐ブタジエン共重合体(SBR)を使用することが知られているが、このようなエラストマーを使用すると、ヒステリシス損失が上昇することでタイヤの転がり抵抗は悪化する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本願出願企業は、驚くべきことに、高ガラス転移温度のSBRと高ガラス転移温度(20℃以上)の可塑性樹脂とをゴム組成物中で混合して使用することで、該組成物によるトレッドを有するタイヤにおいて、転がり抵抗を全く同様に保ちつつ、ウェットグリップの向上が可能となったことを発見した。
【0004】
そこで、本発明の対象の一つは、天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン‐ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、SBR含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上の混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくともべースとしたゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、前記ゴム組成物が、ガラス転移温度(Tg)20℃以上、好ましくは30℃以上の可塑性樹脂を含み、前記SBRのガラス転移温度(Tg)が-65℃以上であることを特徴とするタイヤである。
また、本発明は、天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン‐ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、SBR含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上の混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を含有するトレッドを含むタイヤであって、前記ゴム組成物が、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の可塑性樹脂を含み、前記SBRのガラス転移温度(Tg)が−65℃以上であることを特徴とするタイヤに関する。」
「【0005】
I.使用した測定及び試験
ゴム組成物は、硬化後に以下に示す特徴を有する。
動力学的特性
動力学的特性tan(δ)max及びtan(δ)-20℃を、ASTM D5992-96の規格にしたがって、粘度分析計(Metravib VA4000)で測定する。加硫後の組成物試料(厚み4mm、断面積400mm2の円筒形試験片)に単純な正弦波交番剪断応力を周波数10Hzで印加し、その応答を記録する。
−tan(δ)maxの測定では、60℃で歪振幅を0.1%から100%(フォワードサイクル)掃引し、リターンサイクルは100%から1%の掃引で行った。測定結果は、動的損失率(tanδ)を使用した。リターンサイクルでは、0.1%と100%歪の間で検出されたtanδの最大値(tan(δ)max)(ペイン効果)を示す。
コントロール組成物には任意の値として100を設定する。結果が100より大きい場合は、tan(δ)maxの値が高いことを示し、これは転がり抵抗の悪化に相当する。−tan(δ)-20℃の測定については、0.7MPaの応力下、温度掃引を行い、-20℃で観察されたtanの値を記録する。
【0006】
当該分野の当業者には周知であるように、この値はウェットグリップの潜在能力を表すもので、tan(δ)−20℃の値が高いほどグリップが良好であると理解しておかなければならない。
コントロール組成物には任意の値として100を設定する。結果が100より大きい場合は、tan(δ)−20℃の値が高いことを示し、これはウェットグリップ性能の向上に相当する。・・・」
「【0007】
ジエンエラストマー
天然又は合成に拘わらず、「ジエン」エラストマー(ゴムと言い換えることができる)は公知であるが、少なくとも部分的にジエンモノマー単位(2つの共役又は非共役炭素‐炭素二重結合を有するモノマー)からなる(即ち、ホモポリマー又はコポリマーからなる)エラストマーを意味する。
本発明による組成物のエラストマーマトリックスは、少なくとも以下を含む。
−天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンで、含有量は好ましくは30から80phr、より好ましくは40phr以上、更に好ましくは60phr以上。
−ガラス転移温度(Tg:ASTM D3418にしたがって測定)が-65℃以上のSBRで、含有量が20phr以上、好ましくは20から80phr、より好ましくは20から60phr、更に好ましくは20から40phr、より好ましくは、SBRのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上である。
好ましくは、エラストマーマトリックスがポリブタジエン(BR)を含んでもよく、含有量は好ましくは5から40phr、より好ましくは10から30phrである。」
「【0010】補強充填剤、 カップリング剤及び被覆剤
・・・
本発明の組成物は、タイヤ製造に使用できるゴム組成物を強化できることで知られる補強充填剤であればいずれのものを含んでもよく、例えば、カーボンブラック等の有機充填剤、シリカ等の無機補強充填剤で、これらは公知の方法でカップリング剤と組み合わせる。この他、これらの2種の充填剤の混合物が挙げられる。
【0011】
すべてのカーボンブラック類がカーボンブラックとして適しており、特にタイヤ又はタイヤのトレッド用に従来から使用されているブラック類(タイヤグレードのブラック)が適している。後者の中でもより詳細には、補強用ブラック100、200又は300シリーズ、或は、ブラック500、600又は700シリーズ(ASTMグレード)、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683及びN772ブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、市販のまま単独で使用してもよいし、或は、例えば使用するゴム添加剤のいずれかのキャリアーとして使用してもよい。カーボンブラックは、ジエンエラストマーに、特にマスターバッチ形態のイソプレンエラストマーに、先に混和させておいてもよい(例えば、国際特許出願WO97/36724又はWO99/16600参照)。また、カーボンブラックとして、後処理により局所的又は全体的にシリカで被覆したカーボンブラック、或は、限定はされないが、キャボット社製Ecoblack(登録商標)「CRX 2000」又は「CRX4000」という商品名で販売されている充填剤等の、現場でシリカにより改質されたカーボンブラックが好適である。
CTAB比表面積が75と200m2/gの間、より好ましくは100と150m2/gの間のカーボンブラック、例えば、カーボンブラック100又は200シリーズが好適である。
【0012】
カーボンブラック以外の有機充填剤の例としては、国際特許出願WO-A-2006/069792、WO-A-2006/069793、WO-A-2008/003434及びWO-A-2008/003435に記載の官能化ポリビニル有機充填剤を挙げることができる。
「無機補強充填剤」という用語は、本願明細書では、カーボンブラックに対して、「白色充填剤」「透明充填剤」又は「黒以外の充填剤」として知られるもので、色や、何からできているか(天然又は合成か)は問題ではなく、仲介するカップリング剤以外の手段を用いなくてもそれ自体で空気タイヤ製造用のゴム組成物を強化することができるもの、換言するならば、従来からのタイヤグレードのカーボンブラックの代わりに補強の役目を果たすいずれの無機又は鉱物系充填剤も意味すると解される。このような充填剤の一般的な特徴は既知であるが、その表面に水酸基(-OH)が存在することである。
ケイ質鉱物系充填剤、好ましくはシリカ(SiO2)は、とりわけ無機補強充填剤として好適である。使用するシリカは、当該分野の当業者に公知の補強用シリカであればいずれでもよく、なかでも、BET表面積もCTAB比表面積も450m2/g未満、好ましくは30から400m2/g、特には60と300m2/gの間である沈降シリカ又はヒュームドシリカであるとよい。高分散性沈降シリカ(「HDS」)として、例えば、Degussa社製シリカ、Ultrasil 7000及びUltrasil 7005、Rhodia社製シリカのZeosil 1165MP、1135MP及び1115MP、PPG社製シリカHi-Sil EZ150G、Huber社製シリカZeopol 8715、8745及び8755、又は国際特許出願WO03/016387に記載の如く、高比表面積シリカが挙げられる。
【0013】
無機補強充填剤として、アルミニウムを含む鉱物系充填剤、特にはアルミナ(Al2O3)又は(酸化)水酸化アルミニウム、或は、例えば米国特許第6610261号及び第6747087号に記載の補強用酸化チタンも挙げることができる。
無機補強充填剤は物理的な形態は重要ではなく、粉末状、ミクロパール状、細粒状、ビーズ状である。当然のことながら、「無機補強充填剤」という用語は、様々な無機補強充填剤、とりわけ前記に記載したような高分散性シリカ類の混合物も意味するものと解釈される。
別の性質、とりわけ有機性を有するカーボンブラック等の補強充填剤も、その有機補強充填剤がシリカ等の無機層で被覆されているか、或は、充填剤とエラストマーとの結合を形成するためにカップリング剤の使用を必要とする官能部位、特にヒドロキシル部位等を表面に有するならば、本項目に記載の無機補強充填剤に匹敵する充填剤として使用できることは、この分野の当業者であれば理解できよう。一例であるが、例えば、国際特許WO96/37547及びWO99/28380に記載されているようなタイヤグレードのカーボンブラックが挙げられる。
本発明の組成物では、補強充填剤(カーボンブラック及び/又はシリカ等の無機補強充填剤)の全含有量は、好ましくは20と200phrの間、より好ましくは30と150phrの間である。
【0014】
更に好ましくは、補強充填剤の含有量は40から70phrの範囲、とりわけ45から65phrの範囲が好ましい。
本発明の実施形態の一つによると、組成物中には、カーボンブラックにくわえて、無機補強充填剤が全補強充填剤の少なくとも10%、より好ましくは全補強充填剤の最大で50%含まれる。
本発明の実施形態の一つでは無機充填剤がシリカを含み、好ましくはシリカからなる。・・・」
「【0016】
炭化水素可塑性樹脂
本発明のゴム組成物は、ガラス転移温度Tgが20℃より高く、軟化点が170℃より低い炭化水素可塑性樹脂を用いる。詳細は下記に記す。
当該分野の当業者には公知であるが、「可塑性樹脂」という用語は、室温(23℃)で固体(油のような液体の可塑系化合物とは異なる)である一方、目的とするゴム組成物と相溶性がある(即ち、通常5phrより多い使用量で混和性を示す)ため、結果、真の希釈剤の役目を果たす化合物として本明細書では定義されている。
炭化水素樹脂は当該分野の当業者には周知のポリマーで、更に「可塑」がつくと、生来からエラストマー組成物において混和性を有するポリマーである。
炭化水素樹脂については、本明細書の序文に引用した特許又は特許明細書に広く記載されている。また、例えば、R. Mildenberg, M. Zander及びG. Collinによる「Hydrocarbon Resins(炭化水素樹脂)」(New York、VCH、1997、ISBN 3-527-28617-9)という研究の第5章が本明細書に相当するが、特にタイヤのゴム(5.5.「Rubber Tires and Mechanical Goods(ゴムタイヤ及び機械物品)に記載されている。
【0017】
この炭化水素樹脂は、脂肪族、ナフテン系、芳香族又は脂肪族/ナフテン系/芳香族タイプであるとよく、換言すると、脂肪族及び/又はナフテン系及び/又は芳香族モノマーをベースとしている。炭化水素樹脂は天然でも合成であってもよく、石油系(この場合、石油系樹脂という名称で知られている)又は非石油系であってもよい。これらは、炭化水素系に限定されていることが好ましく、即ち、炭素原子と水素原子のみで構成されているものである。
炭化水素可塑性樹脂は、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することが好ましく、以下の特徴のすべてを有することがより好ましい。
− 数平均分子量(Mn)が400と2000g/molの間である。
− 多分散指数(Ip)が3未満である(注:Ip = Mw/Mnで、Mwは質量平均分子量である)。
より好ましくは、当該炭化水素可塑性樹脂が、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することが好ましく、以下の特徴のすべてを有することがより好ましい。
− ガラス転移温度(Tg)が30℃を超える。
− 質量平均分子量(Mn)が500と1500g/molの間である。
− 多分散指数(Ip)が2未満である。
【0018】
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量法)により公知の方法でASTM D3418(1999)の規格にしたがって測定する。軟化点はASTM E−28の規格にしたがって測定する。
炭化水素樹脂のマクロ構造(Mw、Mn及びIp)は、サイズ排除クロマトグラフィ−(SEC)により求める。溶媒:テトラヒドロフラン、温度:35℃、濃度:1g/l、流速:1ml/分、注入する前に溶液を多孔度0.45μmのフィルタに通す。ポリスチレン標準試料によるMoore較正:3本セットの「WATERS」カラム(「STYRAGEL」HR4E、HR1及びHR0.5)を使用。検出:示差屈折計(「WATERS 2410」)とそれに関連した操作ソフトウェア(「WATERS EMPOWER」)
特に好適な実施形態によると、炭化水素可塑性樹脂は、シクロペンタジエン(CPDと略す)又はジシクロペンタジエン(DCPDと略す)のホモポリマ−又はコポリマ−樹脂、テルペンホモポリマ−又はコポリマ−樹脂、C5−留分(cut)ホモポリマ−又はコポリマ−樹脂及びそれらの樹脂の混合物からなる群から選択される。
【0019】
上記コポリマ−樹脂のなかでも、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマ−樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマ−樹脂、(D)CPD/C5−留分コポリマ−樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマ−樹脂、C5−留分/ビニル芳香族コポリマ−樹脂、及びこれらの樹脂の混合物からなる群から選択されるものを使用することが好ましい。
本願明細書では、「テルペン」という用語は、既知のごとく、α−ピネン、β−ピネン及びリモネン単量体を包含する。リモネン単量体の利用が好ましく、その化合物は既知のごとく3種の異性体の形態で存在する。即ち、L−リモネン(左旋性鏡像異性体)、D−リモネン(右旋性鏡像異性体)、又は他のジペンテン、即ち右旋性及び左旋性鏡像異性体のラセミ体である。
好適なビニル芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、オルト−、メタ−及びパラ−メチルスチレン、ビニルトルエン、パラ−t−ブチルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、C9−留分(より一般的にはC8−〜C10−留分)から誘導されるビニル芳香族単量体が挙げられる。ビニル芳香族化合物としては、スチレン又はC9−留分(より一般的にはC8−〜C10−留分)から誘導されるビニル芳香族単量体が好ましい。該当するコポリマ−において、ビニル芳香族化合物が、モル率で表した際に小さい方の単量体であると好ましい。
【0020】
特に好ましい実施形態の一つによると、炭化水素可塑性樹脂は、(D)CPDホモポリマ−樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマ−樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマ−樹脂、リモネン/ D(CPD)コポリマ−樹脂、C5−留分/スチレンコポリマ−樹脂、C5−留分/C9−留分コポリマ−樹脂、及びこれらの樹脂の混合物からなる群から選択される。
上記の好適な樹脂は当該分野の当業者には周知であり、市販されている。例えば、
−ポリリモネン樹脂:「Dercolyte L120」(Mn=625g/mol、Mw=1010g/mol、Ip=1.6、Tg=72℃)の商品名でDRT社より販売、「Sylvagum TR7125C」(Mn=630g/mol、Mw=950g/mol、Ip=1.5、Tg=70℃)の商品名でARIZONA社より販売。
−C5−留分/ビニル芳香族コポリマ−樹脂、特に、C5−留分/スチレン又はC5−留分/C9−留分コポリマ−樹脂:「Super Nevtac 78」、「Super Nevtac 85」又は「Super Nevtac 99」の商品名でNeville Chemical社より販売、「Wingtack Extra」という商品名でGoodyear Chemicals社から販売、「Hikorez T1095」及び「Hikorez T1100」という商品名でKolon社から販売、「Escorez 2101」及び「ECR 373」という商品名でExxon社から販売。
−リモネン/スチレンコポリマ−樹脂:「Dercolyte TS 105」という商品名でDRT社より販売、「ZT115LT」及び「ZT5100」という商品名でARIZONA Chemical社より販売。
炭化水素樹脂の含量は、好ましくは1〜20phrの範囲である。より好ましくは、炭化水素樹脂の含量は10phr以下である。」
「【0025】
本発明は、「未硬化」状態(即ち、硬化前)と「硬化」又は加硫状態(即ち、加硫後)の両方の状態として説明したゴム組成物に関するものであることを書き留めておく。
III 本発明の実施形態
以下の実施例により本発明を説明することができるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
ゴム組成物の調製
以下の試験を次のように行う。密閉式ミキサーには70%充填し、内部容器温度は約50℃とし、この中に、混合ジエンエラストマー(NR、SBR、該当する場合は更にBR)、補強充填剤(カ−ボンブラック、該当する場合は更にシリカ)、該当する場合はカップリング剤(後者の補強充填剤が入る場合)を導入し、1〜2分間混錬した後、加硫系を除く様々な他の成分を導入する。熱動力的加工(非生成段階)を1回の工程で行い(全混錬時間は約5分)、最高滴点の約165℃まで加熱する。こうして得られた混合物を回収して冷却した後、加硫系(硫黄及びスルフェンアミド促進剤)を70℃で外部ミキサー(ホモフィニシャー(homofinisher))に加え、すべての成分を約5〜6分間混合する(生成段階)。
【0026】
こうして得られたゴム組成物は、物性又は機械的特性の測定用としてスラブ状(厚み:2〜3mm)又は薄板状のどちらかにカレンダー処理を行う。或は、所望の寸法に切削及び/又は組立てを行った後、タイヤや特にタイヤトレッド用の半製品としてすぐに使用可能な型出しエレメントの形態にする。
III−3 ゴム組成物の特徴づけ
III−3.1試験1
本試験の目的は、道路用タイヤトレッドに従来から使用されているコントロール組成物と比較して、本発明による組成物の特性が向上していることを示すことである。
【0027】
そこで、カーボンブラックの補強剤を加えた、NR/BR/SBR混合物(40/20/40phr)をベ−スとした6種の組成物を調製した。
これら6種の組成物は、以下にしめす技術的特徴により本質的に異なる。
−コントロール組成物C1は従来から使用されている組成物で、ガラス転移温度(Tg)が−65℃のSSBRを含み、可塑性樹脂は含まない。
−コントロ−ル組成物C2は、ガラス転移温度(Tg)が−65℃のSSBRと高ガラス転移温度(44℃)の可塑性樹脂とを含む。
−コントロール組成物C3は、ガラス転移温度(Tg)が−65℃のSSBRと高ガラス転移温度(72℃)の可塑性樹脂とを含む。
−コントロール組成物C4は 高ガラス転移温度(−48℃)のSSBRを含み、可塑性樹脂は含まない。
−本発明による組成物C5は、高ガラス転移温度(−48℃)のSSBRと高ガラス転移温度(44℃)の可塑性樹脂とを含む。
−本発明による組成物C6は、高ガラス転移温度(−48℃)のSSBRと高ガラス転移温度(72℃)の可塑性樹脂とを含む。
表1は様々な組成物の処方(表1−それぞれの含有量はphrで表す)、表2は硬化(140℃で約30分)後の特性をそれぞれ示す。
【0028】
それぞれの組成物における促進剤の含有量は、当該分野の当業者による調整方法のように樹脂の含有に応じて調整されるため、組成物は同じ硬化条件(時間及び温度)で比較することができることを記しておく。
表2を検討すると、従来のコントロール処方(C1)に脂肪族又はテルペン系の高ガラス転移温度樹脂を添加することによって(組成物C2及びC3)、ウェットグリップ性能を向上させることができ(tan(δ)−20°の値が向上)、転がり抵抗(tan(δ)maxの値)がわずかに上昇する。同様に、組成物C4(高ガラス転移温度SBRを含むが高ガラス転移温度可塑性樹脂を含まない)も、従来のコントロール組成物C1と比べ、ウェットグリップ性能の向上(tan(δ)−20°の値が向上)を示し、転がり抵抗がわずかに上昇する。
しかしながら、驚くべきことに、高ガラス転移温度SBR及び高ガラス転移温度樹脂の両方を含有する本発明の組成物C5及びC6は、組成物C1と比べると、ウェットグリップ性能において極めて顕著な向上を示すと同時に、転がり抵抗性能は悪化するがこれは些少であることがわかる。本発明による組成物C5及びC6に関する結果は、高ガラス転移温度SBR及び高ガラス転移温度樹脂の効果という単純な加成則(組成物C2又はC3により得られる効果が組成物C4で得られる効果に付けくわえられた)をはるかに超え、本発明による組成物におけるこれらの成分間の真の相乗作用を示している。
【0029】
III−3.2 試験2
本試験の目的は、道路用タイヤトレッドに従来から使用されているコントロール組成物と比較して、本発明による組成物(試験1の組成物とは処方が異なる)のすぐれた特性を示すことである。
そこで、6種類の組成物を調製した。2つの組成物は、カーボンブラック補強剤を加えた、NR/BR/SBRエラストマー混合物(60/20/20)をベースとし、更なる2つの組成物は、補強剤としてカーボンブラック及びシリカを加え、NR/BR/SBRエラストマー混合物(60/15/25)をベースとし、残りの2つの組成物は、カーボンブラック補強剤を加えた、NR/SBRエラストマー混合物(80/20)をベ−スとする。
これら6種の組成物は、以下に示す技術的特徴により本質的に異なる。
−コントロール組成物C7、C9及びC11は従来から使用されている組成物で、ガラス転移温度(Tg)が−65℃のSSBRを含み、可塑性樹脂は含まない。
−本発明による組成物C8、C10及びC12は、高ガラス転移温度Tg(−48℃)のSBR及び高ガラス転移温度Tg(44℃)の可塑性樹脂とを含む。
表3は様々な組成物の処方(表3−それぞれの含有量はphrで表す)、表4は硬化(140℃で約30分)後の特性をそれぞれ示す。
【0030】
先の試験のように、それぞれの組成物における促進剤の含有量は、当該分野の当業者による調整方法のように樹脂の含有に応じて調整されるため、組成物は同じ硬化条件(時間及び温度)で比較することができる。
驚くべきことに、高ガラス転移温度SBR及び高ガラス転移温度樹脂の両方を含有する本発明の組成物C8、C10及びC12は、それぞれコントロール組成物C7、C9及びC11と比べると、転がり抵抗性能は僅かに劣るが、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上を示す。
III−3.3 試験3
本試験の目的は、道路用タイヤトレッドに従来から使用されているコントロール組成物と比較して、本発明による組成物(試験1及び2の組成物とは処方が異なる)のすぐれた特性を示すことである。
そこで、カーボンブラック補強剤を加えた、NR/BR/SBR混合物(60/10/30phr)をベースとした2種類の組成物を調製した。
これら4種の組成物は、以下にしめす技術的特徴により本質的に異なる。
−コントロール組成物C13は従来から使用されているコントロ−ル組成物で、ガラス転移温度(Tg)が−65℃のSSBRを含み、可塑性樹脂は含まない。
【0031】
−本発明による組成物C14は、高ガラス転移温度Tg(−48℃)のSSBR及び高ガラス転移温度Tg(44℃)の可塑性樹脂とを含む。
表5は様々な組成物の処方(表5−それぞれの含有量はphrで表す)、表6は硬化(140℃で約30分)後の特性をそれぞれ示す。
それぞれの組成物における促進剤の含有量は、当該分野の当業者による調整方法のように樹脂の含有に応じて調整されるため、組成物は同じ硬化条件(時間及び温度)で比較することができることを記しておく。
表6を検討すると、驚くべきことに、高ガラス転移温度SBR及び高ガラス転移温度樹脂の両方を含有する本発明の組成物C16は、コントロール組成物C13と比べると、ウェットグリップ性能において極めて顕著な向上を示すと同時に、転がり抵抗性能は劣るがこれは些少であることがわかる。
このように、高ガラス転移温度SBR及び高ガラス転移温度補強樹脂の両方を含有する本発明の組成物は、エラストマー混合物も補強充填剤も様々であるが、ウェットグリップ特性においては驚くべき効果が見られ、転がり抵抗特性の劣化も大きすぎることはない。
【0032】
【表1】

【0033】
(1)天然ゴム
(2)ネオジムポリブタジエン 98% 1,4−Cis, Tg=−108℃
(3)エクステンダ−を含まない(no−extended)スズ−官能化SBR溶液で24%の1,2−ポリブタジエン単位と15.5%のスチレン。Tg=−65℃
(4)エクステンダ−を含まない、スズ−官能化SBR溶液で24%の1,2−ポリブタジエン単位と26.5%のスチレン。Tg=−48℃
(5)カーボンブラックN234
(6)Cray Valley社製の商品名「Resine THER 8644」で販売されているC5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)
(7)DRT社製の商品名「Dercolyte L120」で販売されているポリリモネン樹脂(Tg=72℃)
(8)Flexsys社製の商品名「Santoflex 6−PPD」で販売されているN−1,3−ジメチルブチル−N−フェニル−p−フェニレンジアミン
(9)酸化亜鉛(工業グレ−ド、Umicore社製)
(10)Uniqema社製の商品名「Pristerene 4931」で販売されているステアリン
(11)Flexsys社製の商品名「Santocure CBS」で販売されているN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
(12)Rhodia社製マイクロパール状シリカ「ZEOSIL 1165 MP」(BET及びCTAB:150〜160m2/g)
(13)TESPT(Evonik−Degussa社製「SI69」)
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】



(3)判断
本件特許発明の課題は、上記(2)の段落【0002】【0003】記載より、「転がり抵抗を同様に保ちつつ、ウェットグリップの向上を図ることができるゴム組成物によるトレッドを有するタイヤを提供すること」である。
一方、上記(2)の段落【0025】ないし【0039】には、試験例が記載されているところ、試験2の組成物C9、C10は、それぞれNR/BR/SBRエラストマー混合物(60/15/25)をベースとし、補強剤としてカーボンブラック及びシリカを加えたものであり、本件特許発明の実施例は、C10のみとなっている。【表3】には、組成物を硬化した後の特定として、tan(δ)max 、tan(δ)-20℃の値が示されている(ここで、tan(δ)maxは値が高い程、転がり抵抗が悪化することを意味し、tan(δ)-20℃は値が高いほどグリップが良好であることを意味する(段落【0005】【0006】)。)ところ、コントロール組成物C9は、tan(δ)maxが100、tan(δ)-20℃が100であるのに対し、組成物C10は、tan(δ)maxの値が102、tan(δ)-20℃が134となっていることから、「ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上のSBR及びガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂の両方を含有する」組成物C10は、コントロール組成物C9と比べると、転がり抵抗性をほぼ同様に保ちつつ、ウェットグリップ性能は極めて顕著な向上が示されている。
また、試験1においては、補強剤としてカーボンブラックのみを加えたものであるものの、「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」として、「C5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)」を用いた組成物C5と、「ポリリモネン樹脂(Tg=72℃)」を用いた組成物C6が同等の性能を示すものである。そうすると、当業者は、本件特許発明を満足する、補強剤としてカーボンブラックに加え、シリカを加えた組成物C10において、「C5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)」に代えて、「ポリリモネン樹脂(Tg=72℃)」を用いた場合でも同等に上記課題を解決できるものと解される。
そうすると、当業者は、「天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンとスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)との混合物で、前記天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、前記SBRの含有量がエラストマー100部に対して20部(phr)以上である混合物と、カーボンブラックを含む補強充填剤とを少なくとも含むゴム組成物を少なくとも含有するタイヤであって、前記ゴム組成物が、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂を含み、前記ゴム組成物が、ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有し、前記SBRのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上であり、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、前記補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)、前記炭化水素可塑性樹脂の含有量が1から10phrの範囲である」という技術的事項により、本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件件特許発明1は、上記技術的事項を備えたものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明1を直接または間接的に引用する本件特許発明2ないし6についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(4)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、下記の具体的理由をもって本件特許に対するサポート要件違反を主張しているため、以下検討する。
ア 具体的理由
(ア)使用するゴムの種類と樹脂の種類によって相溶性が異なり、樹脂の種類を変更すると、ゴム組成物の転がり抵抗、グリップ性能などの性能も変化することは当業者の技術常識である。その一方で、本件明細書の実施例として具体的に開示されているのは、スズ−官能化SBR溶液(24%の1,2−ポリブタジエン単位と26.5%のスチレン単位、Tg=−48℃)と、C5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)とを用いた組成物C10のみであるが、このような組成物C10の樹脂の種類を変更すれば、転がり抵抗、グリップ性能などが変化することは当業者の技術常識と言える。してみると、C5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)に代えて、本件請求項1の「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」に該当する他の樹脂を用いた場合でも同等の効果が得られることは当業者でも予測できない。
(イ)本件特許明細書の実施例における評価結果について、実施例、比較例では、転がり抵抗とウェットグリップ性能がそれぞれの物性値を指数化した値によって示されている。そして、転がり抵抗は指数が小さい方が良好で、ウェットグリップ性能は指数が大きい方が良好であると記載されているが、両方の指数の重み(それぞれの重要度)が不明であり、これらの指数値と、実際のタイヤ性能との重みが等価であるという保証はない。よって、表4の組成物C10に関する評価結果(tan(δ)max(転がり抵抗の指標):102、tan(δ)−20℃(ウェットグリップ性能の指標):134)のみを根拠に、本件特許発明の課題とされている転がり抵抗とウェットグリップ性能の両立が十分に達成されていると理解することもできない。
(ウ)請求項1では、「天然ゴム(NR)又は合成ポリイソプレンの含有量が30から80phrの範囲であり、」と記載されているのに対し、組成物C10として示されているのはNR60phrの みである。「SBRの含有量がエラストマー100部に対して2 0部(phr)以上である」、「SBRのガラス転移温度(Tg)が−50℃以上であり、」と記載されているのに対し、組成物C10として示されているのはスズ−官能化SBR溶液(24%の1,2−ポリブタジエン単位と26.5%のスチレン単位、Tg=−48℃)25phrのみである。「ポリブタジエン(BR)を5から40phrの範囲で含有、」と記載されているのに対し、組成物C10として示されているのはBR15phrのみである。「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂を含み、」、「炭化水素可塑性樹脂の含有量が1から10phrの範囲である」と記載されているのに対し、組成物C10として示されているのはTg44℃のC5−留分/C9−留分樹脂8phrのみである。「カーボンブラックのCTAB比表面積が100m2/gと150m2/gの間であり、」、「補強充填剤の含有量の範囲が40から70phrの範囲であり、」、「前記補強充填剤が無機充填剤を含み、前記無機充填剤が補強充填剤全体の質量の少なくとも10%であって、最大で50%を占める(但し、50%を除く)」と記載されているのに対し、組成物C10として示されているのはカーボンブラックN234を51phr、シリカを7phr含むもののみである。 本件特許発明は、以上の構成要件を組み合わせることで、転がり抵抗とウェットグリップ性能を両立できるという効果を奏するものであるが、明細書には、該効果を奏するメカニズムの記載もなく、各構成要件を組み合わせることで如何にして本件特許発明の効果が得られるのかは不明である。そして、具体的に示されている本件特許発明のゴム組成物は、組成物C10の1点のみであることから、当業者であっても、請求項1に係る発明の全範囲において同様の効果が得られるとは言えない。
(以下、順に「主張(ア)」ないし「主張(ウ)」という。)

ア 検討
(ア)主張(ア)について
「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」について、本件特許明細書の段落【0016】ないし【0020】に説明があり、同【0020】に例示があり、また、ゴムについては、同【0007】ないし【0009】に例示がある。そして、上記(3)で示したように、本件特許明細書の試験1からC5−留分/C9−留分樹脂(Tg=44℃)に代えて、「ガラス転移温度(Tg)が20℃以上の炭化水素可塑性樹脂」に該当する他の樹脂を用いた場合でも同等の効果が得られることは当業者が予測し得るものである。さらに、本件明細書の段落【0016】に定義されているように、当該樹脂は、「目的とするゴム組成物と相溶性がある(即ち、通常5phrより多い使用量で混和性を示す)ため、結果、真の希釈剤の役目を果たす化合物」であり、そのようなものである限りにおいて、課題が解決され得るものである。
そして、特許異議申立人は、実施例以外の範囲が課題を解決しない可能性を指摘するだけで、具体的な証拠を示していない。
よって、特許異議申立人の主張(ア)を首肯することができない。

(イ)主張(イ)について
例えば、甲1−2の段落【0096】及び【0097】に、
「<タイヤ性能>
(低発熱性)
タイヤトレッドから加硫ゴムサンプルを切り出して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機株式会社製)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδ値の逆数を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、低発熱性が良好(転がり抵抗が低い)である。
低発熱性指数={(比較例1のtanδ値)/(供試タイヤのtanδ値)}×100
【0097】
(ウェット性能)
粘弾性スペクトロメーター(東洋精機株式会社製)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度0℃、動歪1%でtanδを測定し、比較例1のtanδ値を100として以下の式により指数で表示した。この指数の値が大きい程、ウェット性能が良好である。
ウェット性能指数={(供試タイヤのtanδ値)/(比較例1のtanδ値)}×100」
と記載されているように、ゴム組成物の物性値を指数化した値をもって、実際のタイヤ性能として評価することが当業者の技術常識であるから、本件特許発明においても、表4の組成物C10に関する評価結果を根拠に、本件特許発明の課題とされている転がり抵抗とウェットグリップ性能の両立が十分に達成されていると理解することができるものである。
よって、特許異議申立人の主張(イ)も首肯することができない。

(ウ)主張(ウ)について
上記(3)で示したように、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
そして、特許異議申立人は、実施例以外の範囲が課題を解決しない可能性を指摘するだけで、具体的な証拠を示していない。
よって、特許異議申立人の主張(ウ)も首肯することができない。

(5)申立理由5のまとめ
本件特許発明1ないし本件特許発明6に係る本件特許の請求項1ないし6の記載は、いわゆるサポート要件を満たすと判断されるから、特許異議申立人が主張する特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないとする申立理由5は、理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-04-21 
出願番号 P2015-523540
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 細井 龍史
橋本 栄和
登録日 2021-05-18 
登録番号 6886240
権利者 コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
発明の名称 濡れた路面でのグリップ特性が向上したタイヤ  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 松田 七重  

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