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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1384279
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-16 
確定日 2022-04-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6888722号発明「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6888722号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6888722号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月29日に出願された特願2019−516891号(優先権主張 2017年(平成29年) 5月11日 日本国)の一部を令和2年8月5日に新たな特許出願とした特願2020−133260号であって、令和3年5月24日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月16日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許の請求項1〜11に係る特許に対し、令和3年12月16日に特許異議申立人 前田洋志(以下、「申立人」という。)が特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書」及び「本件図面」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)、(2)、(5)及び(6)を満たす炭素材料を含み、
ラマン分光測定のR値が0.1〜1.0であり、前記炭素材料は、黒鉛粒子を前記黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆してなる材料である、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)平均粒子径(D50)が22μm以下である。
(2)粒子径のD90/D10が2.2以下である。
(5)界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)が0.90以上である。
(6)円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合が、炭素材料全体の5個数%以上である。
【請求項2】
下記(1)、(2)、(5)及び(6)を満たす炭素材料を含み、
ラマン分光測定のR値が0.1〜1.0であり、前記炭素材料は、黒鉛粒子を前記黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆してなる材料である、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)平均粒子径(D50)が22μm以下である。
(2)粒子径のD90/D10が2.0以下である。
(5)界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)が0.90以上である。
(6)円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合が、炭素材料全体の5個数%以上である。
【請求項3】
前記炭素材料は、下記(3)及び(4)の少なくとも一方を満たす、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
(3)亜麻仁油吸油量が50mL/100g以下である。
(4)タップ密度が1.00g/cm3以上である。
【請求項4】
X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.334nm〜0.338nmである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素材料は、空気気流中における示差熱分析において、300℃〜1000℃の温度範囲に二つ以上の発熱ピークを有さない、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記炭素材料の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が2m2/g〜8m2/gである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記炭素材料の273Kでの二酸化炭素吸着より求めたCO2吸着量の値をA、前記炭素材料の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積の値をBとしたとき、下記(a)式で算出される単位面積あたりのCO2吸着量が0.01cm3/m2〜0.10cm3/m2である、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
単位面積あたりのCO2吸着量(cm3/m2)=A(cm3/g)/B(m2/g)・・・(a)
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を製造するリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、核となる第一炭素材と、第一炭素材よりも結晶性の低い第二炭素材の前駆体と、を含む混合物を熱処理して前記炭素材料を製造する工程を含む、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項9】
前記工程では、950℃〜1500℃にて前記混合物を熱処理する、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含むリチウムイオン二次電池。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本件特許に係る出願の優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布され、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、次の甲第1号証〜甲第6号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1〜11に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:国際公開2015/037551号
甲第2号証:国際公開2014/050097号
甲第3号証:特開2014−165156号公報
甲第4号証:国際公開2012/137770号
甲第5号証:国際公開2012/015054号
甲第6号証:特開2000−90930号公報

1 申立理由1(進歩性
本件発明1〜11は、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、請求項1〜11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 申立理由2(実施可能要件
本件発明1〜11の「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」及び「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」の値を、どのようにして変えているのかについて、本件明細書には明確かつ十分に記載されていないため、本件発明1〜11について、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、請求項1〜11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1〜6の記載事項、甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。(なお、「・・・」は記載の省略を表す。下線は当審が付した。以下同様。)
(ア) 「[0012]・・・本発明の複合粒子の製造方法は、電極活物質、粘度調整剤、および粒子状結着剤を含むスラリー組成物であって、前記スラリー組成物の粘度が20〜1500mPa・s、前記スラリー組成物の固形分濃度が10〜75wt%、前記電極活物質の粒度分布の体積基準の積算量が小さい方から90%の粒子径D90と、前記電極活物質の粒度分布の体積基準の積算量が小さい方から10%の粒子径D10との比(D90/D10)が1.0〜5.0であるスラリー組成物を得るスラリー製造工程と、前記スラリー組成物を細孔から連続的な液柱として吐出させ、気体中で液滴に分裂させる液体微粒化工程と、前記液滴を乾燥させて複合粒子を得る乾燥工程とを含む。
[0013] (電極活物質)・・・
[0015] また、上述したリチウムイオン二次電池の正極の対極としての、リチウムイオン二次電池の負極に用いる負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。これらのなかでも、グラファイト、活性炭を用いることが好ましい。なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
[0016] リチウムイオン二次電池の電極に用いる電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに好ましくは2〜20μmである。・・・」

(イ) 「[0021] また、本発明に用いる電極活物質(正極活物質または負極活物質)の粒度分布は、電極活物質の粒度分布の体積基準の積算量が小さい方から90%の粒子径(D90)と、体積基準の積算量が小さい方から10%の粒子径(D10)との比(D90/D10)は1.0〜5.0、好ましくは1.0〜3.0である。また、この比(D90/D10)が大きすぎると、液体微粒化工程において用いる細孔が閉塞する虞がある。」

(ウ) 「[0060](実施例1)
(スラリー組成物の調製)
電極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:20μm、D90/D10=2)100部、粘度調整剤としてエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ということがある。)水溶液(第一工業製薬社製「BS−H」)を固形分換算で1.0部、及び粒子状結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR)の水分散液(商品名「BM−451B」、日本ゼオン社製)を固形分換算で1.5部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、ディスパーにて混合分散して固形分濃度25%、B型粘度計を用いて温度25℃、60rpmにおいて測定した粘度が300mPa・sのスラリー組成物を調製した。なお、以下において、スラリー組成物の粘度は、B型粘度計を用いて温度25℃、60rpmにて測定した値である。
[0061](複合粒子の製造)
上記にて得られたスラリー組成物を、25μmの目開きを有するメッシュストレーナーに通した後に、図1に示す細孔2を用いて送液圧力1MPa、送液距離0.7mmの条件でスラリー組成物を送液し、100μmの細孔径を有する細孔2の吐出口4からスラリー組成物を連続的な液柱として吐出させた。吐出されたスラリー組成物は、液柱から液滴に分裂した。また、液滴を乾燥させることにより複合粒子を得た。ここで、乾燥させる際には、まず第1乾燥工程として熱風温度150℃にて複合粒子の含有水分量が10%になるまで乾燥し、さらに第2乾燥工程として熱風温度100℃にて複合粒子の含有水分量が0.1%以下になるまで乾燥した。得られた複合粒子の平均体積粒子径は100μmであった。
[0062](負極の製造)
上記にて得られた電気化学素子用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度25℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としての銅箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としての銅箔上に、シート状に成形し、厚さ60μmの負極活物質層を有する負極を得た。
[0063](正極の製造)・・・
[0064](リチウムイオン二次電池の製造)
上記にて得られた正極を直径13mmの円盤状に、また、上記にて得られた負極を直径14mmの円盤状に、それぞれ切り抜いた。そして、13mmの円盤状の正極上に、径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、14mmの円盤状の負極をこの順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いで、この容器中に電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(20℃での容積比)、電解質:1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型のリチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を製造した。」

イ 甲1に記載された発明
上記ア(ア)〜(ウ)より、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「下記(1)及び(2)を満たす人造黒鉛を含む、電気化学素子用複合粒子。(1)平均粒子径が20μmである。(2)粒子径のD90/D10が2である。」

ウ 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(ア) 「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池負極用炭素材およびその製造方法並びに用途に関する。より詳細に、本発明は、初期効率が高く且つ高い放電容量と優れたサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる負極用の活物質として有用な炭素材およびその製造方法、並びに用途に関する。」

(イ) 「[0012] 以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用炭素材(以下、単に「炭素材」ということがある。)を説明する。
本発明の一実施形態に係る炭素材は、比表面積が、通常、1.5m2/g以上6.5m2/g以下、好ましくは1.5m2/g以上5m2/g以下、より好ましくは1.5m2/g以上4m2/g以下、さらに好ましくは1.5m2/g以上3m2/g以下である。比表面積は、窒素吸着に基づきBET法で算出されるものである。測定装置としては、例えばNOVA−4200e(QUANTANCHROME INSTRUMENTS社製)が挙げられる。比表面積が広すぎると電解液との副反応が起きやすくなり初期効率が低下する傾向がある。比表面積が狭すぎると電解液との接触面積が減りリチウムイオンの挿入がスムーズに進み難くなりサイクル特性などが低下する傾向がある。」

(ウ) 「[0014] 本発明の一実施形態に係る炭素材は、ラマンR値が、通常、0.1以上0.4以下、好ましくは0.1以上0.3以下、より好ましくは0.1以上0.2以下である。ラマンR値は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによるラマン分光測定における1350〜1370cm-1の領域に存在するピークの強度IDと、1570〜1630cm-1の領域に存在するピークの強度IGとの比ID/IGである。R値が低すぎると、リチウムイオンの挿入または脱離に関わるエッジが少なすぎ、電池特性が低下する傾向がある。R値が高すぎると充放電時に副反応が生じやすい傾向がある。」

(エ) 「[0017] 本発明の一実施形態に係る炭素材は、d002が、通常、0.337nm以下、好ましくは0.3367nm以下である。d002がこのような数値範囲にある場合は挿入または脱離できるリチウムイオン量が多くなり、電池の重量当たりのエネルギー密度が高くなる傾向がある。 また、本発明の一実施形態に係る炭素材は、Lcが、好ましくは20nm以上1000nm以下である。Lcがこのような数値範囲にある場合は重量当たりのエネルギー密度やつぶれ性が良好になる傾向がある。
なお、d002およびLcは、粉末X線回折における002回折線に基づいて算出した値である。
[0018] 本発明の一実施形態に係る炭素材は、熱重量−示差熱分析において500℃以上1000℃未満の領域に多くとも1つのピークしかない。また、本発明の好ましい実施形態に係る炭素材は、熱重量−示差熱分析において600℃以上800℃以下の領域にピークが存在せず且つ800℃以上1000℃未満の領域にピークが一つだけ存在する。
熱重量−示差熱分析は、空気流通雰囲気中で測定(TG−DTA測定)が行われる。示差熱分析(DTA)における発熱分解ピークは、炭素骨格構造の広がりを示しており、発熱分解ピークの現れる温度が高いものほど炭素骨格構造が発達した高結晶性炭素材料である。一般的に炭素骨格が規則的に配列していない非晶質炭素は800℃以下の領域で発熱ピークが観察される。炭素骨格が高度に発達した黒鉛では800℃以上の領域で発熱ピークが観察される。」

(オ) 「[0021] 本発明に係る炭素材の製造方法は、粉粒状黒鉛に、機械式回転機を用いて衝撃圧縮力を与えて表面改質することを含むものである。
[0022] 粉粒状黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛のいずれも使用可能であるが、人造黒鉛が好ましい。天然黒鉛に比べ人造黒鉛は、衝撃力によって菱面体晶が形成し難い。人造黒鉛のうち、粉粒状黒鉛は、コークスまたはピッチを原料として合成された人造黒鉛であることが好ましい。
コークスまたはピッチは、石油または石炭のどちらに由来するものであってもよいが、石油に由来のものが好ましい。」

エ 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
(ア) 「【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、特に高出力型のリチウムイオン二次電池および非水電解液二次電池の負極板の製造方法に関するものである。」

(イ) 「【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、出入力特性に優れた非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の負極板の製造方法を提供することを目的とする。」

(ウ) 「【0010】
第1の本発明は、
正極集電体の少なくとも何れか一方の表面に正極合剤層を設けた正極板と、負極集電体の少なくとも何れか一方の表面に負極合剤層を設けた負極板と、前記正極板と前記負極板の間に設けたセパレータとを、非水電解液とともにケースに収納した非水電解液二次電池であって、
前記負極合剤層は、少なくとも負極活物質としての黒鉛粉末と、前記黒鉛粉末を前記負極集電体の表面に固定化するためのバインダとを含み、
前記黒鉛粉末の吸油量が50cm3/100g以上から100cm3/100g以下であることを特徴とする非水電解液二次電池である。」

(エ) 「【0043】
負極活物質3としては、黒鉛粉末を用い、かつ、吸油量が50cm3/100g以上から100cm3/100g以下であるものを用いる。
【0044】
吸油量とは、粉末の性能を表す特性因子の一つであり、100gの粉末にオイルを少しずつ加え、練り合わせながら粉末の状態を確認し、ばらばらに散らばった状態から固まりの状態になる点を見出し、そのときのオイルの体積を吸油量と称する。吸油量は、粉末の大きさと形に大きく影響し、粒径が小さいほど、不規則な形であるほど、吸油量が大きく、ゴム用カーボンブラックでは、オイルとしてDBPを用いる測定法が、JIS K6217−4に定義されている。本発明における吸油量測定は、JIS K6217−4に準拠した吸収量測定器(株式会社あさひ総研製S−410)により、亜麻仁油を用いて行った。
【0045】
吸油量が50cm3/100g以上である黒鉛粉末を負極活物質として用いることで、より多量の電解液を黒鉛粉末の表面近傍に保持することができ、黒鉛粉末からのリチウムイオンの吸蔵および放出が容易になり、出入力特性に優れた非水電解液二次電池が実現できる。しかし、吸油量が100cm3/100gを超える黒鉛粉末を負極活物質として用いると、負極活物質とバインダと溶媒とを混合してなる負極合剤塗料に必要となる溶媒量が多くなり過ぎ、溶媒の揮発乾燥工程に長時間を要する、または、長大な乾燥炉が必要となり、生産性が低下するとともに、溶媒の揮発乾燥後の合剤層の密度が低くなるため、電池の高入出力特性も低下する。
【0046】
また、黒鉛粉末の表面近傍に十分な量の電解液を保持するためには、局所的に黒鉛粉末間の空隙が小さくなっている状態を避ける、すなわち前記負極合剤層の密度は層内で均等であることが望ましい。特に、異なる物性を有する二種類以上の黒鉛粉末を混合すると、充填性が向上し、局所的に黒鉛粉末が密に充填された状態になりやすい。このような異粒子混合による局所的な充填性向上を回避するため、本発明の黒鉛粉末としては、上述の吸油量値に加えて、球形に近い円形度0.5以上のものを90%以上含むようにすることが望ましい。前記の球形に近く充填性の高い円形度0.5以上の黒鉛粉末に対して、充填性の低い円形度0.5未満の黒鉛粉末が10%より多く含まれると、負極合剤層内で局所的に充填性が低下するため、負極合剤層内に粗密が生じてしまう。また、充填性の低い円形度が0.5未満の黒鉛粉末を主として用いる場合、前記黒鉛粉末の平均粒子径が3μm未満の微小なものになると、黒鉛粉末が局所的に密に充填されてしまう。ここで、本発明の目的とする入出力特性の優れた電池においては、負極集電体から負極合剤層の表面までの距離を短くする、すなわち負極合剤層の厚みを薄くすることが必要で、最小で30μmまで薄く設計するため、前記黒鉛粉末の平均粒子径は大きくとも30μmとすることが望ましい。よって、前記の円形度が0.5未満の黒鉛粉末を主として用いる場合は、さらに黒鉛粉末の平均粒子径が3μm以上から30μm以下のものを用いることが望ましい。」

オ 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
(ア) 「[0001] 本発明は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池の負極板における負極活物質として有用な、改質天然黒鉛粒子に関する。」

(イ) 「[0018] 以下、本発明に係る改質天然黒鉛粒子とその製造方法について説明する。
1.天然黒鉛粒子
本発明に係る改質天然黒鉛粒子の原料となる天然黒鉛粒子(以下「原料黒鉛」という)は、鱗片形状の黒鉛(具体的には次に述べる鱗片状黒鉛または鱗状黒鉛)であって、改質処理や熱処理を受けていないものである。この天然黒鉛粒子に、例えば、後述する形状調整処理を施すことにより、本発明に係る改質天然黒鉛粒子を製造することができる。」

(ウ) 「[0027] 本発明に係る改質天然黒鉛粒子の特性について以下に詳しく説明する。
(1)円形度
本発明に係る改質天然黒鉛粒子の円形度は0.92以上である。円形度が0.92未満であると、黒鉛粒子はアスペクト比が大きな扁平形状をなしているため、塗布時の配向、電池としての容量低下などの問題が生じやすくなる。円形度の上限は粒子形状が真球となる場合の円形度、つまり1.0である。円形度は好ましくは0.93以上である。」

(エ) 「[0053] (3)タップ密度
本発明に係る改質天然黒鉛粒子は、容積100cm3の容器を用いてタッピング回数180回として測定されるタップ密度が、1.0g/cm3以上1.4g/cm3以下であることが好ましい。
[0054] タップ密度が1.0g/cm3以上であることで、負極板中の負極活物質の充填密度が高くなる。タップ密度は好ましくは1.05g/cm3以上である。原料黒鉛に球形化処理を施したのみの黒鉛粒子は、表面が粗なため、タップ密度は高まりにくい。タップ密度は、より高いほうが好ましいが、現実的には1.4g/cm3が上限である。
[0055] (4)亜麻仁油吸収量
本発明に係る改質天然黒鉛粒子は、概ねJISK6217−4:2008に規定されるオイル吸収量測定方法に準拠して、アブソープドメータを用いて測定される亜麻仁油吸収量が20cm3/100g以上50cm3/100g以下であることが好ましい。
[0056] 原料黒鉛に球形化処理を施したのみの黒鉛粒子は、その表面が過度に粗であるため、亜麻仁油吸収量が高くなる傾向がある。亜麻仁油吸収量が過度に高いと、バインダの利用効率が低下し、容量を高めることが困難となる。したがって、亜麻仁油吸収量は50cm3/100g以下であることが好ましい。吸油量はより小さいほうが好ましいが、現実的には20cm3/100gが下限である。
[0057] (5)被覆層
上記の特性を備える本発明に係る改質天然黒鉛粒子は、その表面に炭素質材料を付着させた炭素付着黒鉛粒子としてもよい。こうすると電池特性が向上する。
[0058] ここで、「炭素質材料」とは炭素を主成分とする材料を意味し、その構造は特に限定されない。炭素質材料は改質天然黒鉛粒子の表面の一部に付着していてもよいし、実質的に全面を覆うように付着していてもよい。
[0059] 炭素質材料は、核材となる改質天然黒鉛粒子よりも結晶性が低いか、および/または全炭素−炭素結合におけるsp3結合の構成比率が高いものが好ましい。そのような炭素質材料は、黒鉛粒子よりバルク的な硬度が高いので、この炭素質材料が改質天然黒鉛粒子の表面に付着して存在することにより、粒子全体の硬度が高まる。その結果、負極板の製造過程、特に圧縮工程において、負極活物質である電極内部に閉気孔が形成されて充電受け入れ性が低下する可能性が少なくなる。さらに、後述する実施例からもわかるように、炭素付着により黒鉛粒子の比表面積が低減するため、電解液との反応性が抑制される。そのため、この炭素付着黒鉛粒子を活物質とする負極板は、充放電効率が向上し、電池容量が向上する。」

カ 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
(ア) 「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。」

(イ) 「[0005] 本発明は、エネルギー密度が大きく、入出力特性、寿命特性及び熱安定性に優れたリチウムイオン二次電池、並びにそれを得るためのリチウムイオン二次電池用負極材、及び該負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とするものである。」

(ウ) 「[0011]<負極材>
本発明にかかる負極材は、所定の平均面間隔d002、所定の体積平均粒子径、所定の最大粒子径、所定の発熱ピークを有する炭素材料を含む。本発明にかかる負極材(負極活物質)は前記炭素材料を含むものであればよいが、前記炭素材料は全負極材中50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、前記炭素材料からなる(100質量%)のものであることが特に好ましい。
[0012] 前記炭素材料におけるX線回折法による求めた平均面間隔d002は、0.335nm〜0.340nmである。平均面間隔d002の値は、0.3354nmが黒鉛結晶の理論値であり、この値に近いほどエネルギー密度が大きくなる傾向があり、前記平均面間隔d002の値が0.335nm未満の炭素材料を得ることはできない。一方、0.340nmを超えると、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率及びエネルギー密度の双方が充分とは言えない。前記平均面間隔d002は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の点で、0.335nm〜0.337nmであることが好ましい。
前記平均面間隔d002は、X線(CuKα線)を炭素粒子粉末試料に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定し得た回折プロファイルより、回折角2θ=24°〜27°付近に現れる炭素002面に対応した回折ピークより、ブラッグの式を用い算出することができる。
前記平均面間隔d002は、例えば、前記炭素材料への熱処理温度を高くすることで値が小さくなる傾向があり、この性質を利用して平均面間隔d002を上記範囲内に設定することができる。
[0013] 前記負極材に含まれる炭素材料の体積平均粒子径(50%D)は、1μm〜40μmである。体積平均粒子径が1μm未満の場合、比表面積が大きくなり、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率が低下すると共に、粒子同士の接触が悪くなり入出力特性が低下する。一方、体積平均粒子径が40μmを超える場合、電極面に凸凹が発生して電池の短絡が生じやすくなる傾向があると共に、粒子表面から内部へのLiの拡散距離が長くなるためリチウムイオン二次電池の入出力特性が低下する傾向がある。前記炭素材料の体積平均粒子径は、初回充放電容量及び入出力特性の点で、3μm〜35μmであることが好ましく、5μm〜25μmがより好ましい。
前記体積平均粒径(50%D)は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となる粒子径として与えられる。前記体積平均粒子径(50%D)は、界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、(株)島津製作所製SALD−3000J)で測定することができる。」

(エ) 「[0037]・・・
前記炭素材料としては、黒鉛(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等)、低結晶性炭素、及びメゾフェーズカーボン等の炭素材料を挙げることができる。充放電容量が大きくしやすいことから、黒鉛であることが好ましい。黒鉛の場合には、鱗片状、球状、塊状等、いずれの形態であってもよい。中でも球形の黒鉛が高タップ密度を得られる点から好ましい。これらの炭素材料から前述した物性を備えた炭素材料を適宜選択すればよい。これらの炭素材料は1種単独で、又は2以上を組み合わせて用いることができる。
[0038] また、上記炭素材料は、核となる炭素相とその被覆層となる別種の炭素相で構成された複合材料としてもよい。すなわち、核となる第一の炭素相と、該第一の炭素相の表面に存在し、該第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相とを含む炭素材料とすることができる。このような結晶性の異なる複数の炭素相から構成された炭素材料とすることにより、所望の物性又は性質を効果的に発揮可能な炭素材料とすることができる。
[0039] 核となる前記第一の炭素相としては、前述した黒鉛(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維)等の炭素材料を挙げることができる。
前記第二の炭素相としては、第一の炭素相よりも結晶性が低いものであれば特に制限はなく、所望の性質に応じて適宜選択される。好ましくは、熱処理により炭素質を残し得る有機化合物(炭素前駆体)から得られる炭素相であり、例えば、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して生成するピッチ、ナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製される合成ピッチ等が挙げられる。また、熱可塑性の高分子化合物として、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性合成樹脂を用いることもできる。また、デンプンやセルロース等の天然物を用いることもできる。」

(オ)「[0044] 前記負極材の好ましい形態の一例としては、第一の炭素相としての核となる黒鉛材料と、該黒鉛材料の表面に配置された第二の炭素相としての低結晶性炭素層を有する複合化した炭素材料を含む。
核となる炭素材料は、平均面間隔d002が0.335nm〜0.340nmの範囲の黒鉛材料であることが、充放電容量が大きくなる点で好ましい。d002が0.335nm〜0.338nmの範囲、特に0.335nm〜0.337nmの範囲の黒鉛材料を用いた場合、充放電容量が330nAh/g〜370mAh/gと大きく望ましい。」

キ 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非水電解質2次電池に係わり、特にリチウムイオン二次電池の負極用炭素材に関する。」

(イ) 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】前述した発明は、リチウムイオン二次電池の高率での充放電特性および低温時の放電特性の向上に極めて効果的であるだけでなく、サイクル初期に決定づけられる不可逆容量の低減に効果的であった。しかし、充放電サイクルを繰り返す長期の信頼性に対しては、不十分であり課題を有していた。
【0009】本発明は、リチウム二次電池のさらなる放電特性の改善とサイクル寿命特性の改善を図ることをその目的とする。
【0010】【課題を解決するための手段】前述したリチウムイオン二次電池における課題を解決するために、本発明は、
○1(○中に1)平均厚みTと平均直径Dの比T/Dが、0.065〜1
○2(○中に2)体積分率10%時の粒径D10と、体積分率90%時の粒径D90の比D10/ D90が、0.2〜0.5
○3(○中に3)4μm以下の粒子の体積含有率が4%以下に規制した黒鉛粉末を負極材料として用いることにより、優れた高率放電特性および低温における放電特性を確保した上で、極めて小さい不可逆容量、優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池の実現を可能にしたものである。
【0011】 更に、黒鉛粉末の比表面積を制御するため、天然あるいは、人造黒鉛材料を核とし、その核の表面に炭素前駆体を被覆後、高温で焼成し、炭素質物の表層を形成させた複層構造をとることが、より効果的である。」

(ウ)「【0013】更に、本発明の1つの目的である、黒鉛粉末の比表面積を制御するため、実施形態の一つとして、天然あるいは、人造黒鉛材料を核とし、その核の表面に炭素前駆体を被覆後、不活性ガス雰囲気下で700〜2800℃の温度範囲で焼成し、炭素質物の表層を形成させた複層構造をとることが、より効果的である。」

(エ) 「【0036】(実施例2)実施例1で評価した負極用炭素粉末(試料No.1−9)をそれぞれ核として、ナフサ分解時に得られる石油系タールピッチを炭素前駆体として用いて炭素化後5重量%になるよう被覆後、不活性ガス気流(Ar、N2等)の下、最終的に1200℃で熱処理した。その後、室温まで冷却後、粉砕機を用いて解砕し、一定の粒経分布をもった炭素系複合粉末を得た。こうして核の表面上に新しい炭素質物の表層を形成させた複層構造の炭素質粉末(試料No.10−18)を作成し、負極用供試粉末とした。」

(2)本件発明1と甲1発明との対比と判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「人造黒鉛」は、本件発明1の「炭素材料」に相当する。
また、甲1の[0062]には、「電気化学素子用複合粒子」を、ロールプレス機のロールに、集電体としての銅箔とともに供給し、集電体としての銅箔上に、シート状に成形し、厚さ60μmの負極活物質層を有する負極とすることが記載され、[0064]には、得られた負極を用いて「リチウムイオン二次電池」を製造することが記載されているから、甲1発明の「電気化学素子用複合粒子」は、本件発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「下記(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。(2)粒子径のD90/D10が2.2以下である。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「ラマン分光測定のR値が0.1〜1.0」であるのに対し、甲1発明では、R値が明らかではない点。

<相違点2>
本件発明1は、「炭素材料は、黒鉛粒子を前記黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆してなる材料である」のに対し、甲1発明では、人造黒鉛のみを用い、結晶性の低い炭素材で被覆したものではない点。

<相違点3>
本件発明1は、「(1)平均粒子径(D50)が22μm以下である。」のに対し、甲1発明の「体積平均粒子径が20μmである。」における「体積平均粒子径」が「平均粒子径(D50)」であるのか不明である点。

<相違点4>
本件発明1は、「(5)界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)が0.90以上である。」のに対し、甲1発明では「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」が明らかではない点。

<相違点5>
本件発明1は、「(6)円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合が、炭素材料全体の5個数%以上である。」のに対し、甲1発明では「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」が明らかではない点。

イ 相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(ア) 甲1の[0015]には、「リチウムイオン二次電池の負極に用いる負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料・・・が挙げられる」ことが記載されている。
甲1の[0015]の上記記載からは、上記複合化炭素材料としては、物理的性質の異なる炭素を混合する形態や、炭素の表面に物理的性質の異なる炭素を被覆する形態等、複数の形態が想定されるが、その複数の形態の中から炭素の表面に低結晶性炭素(非晶質炭素)を被覆する形態を選択し、甲1発明の人造黒鉛を当該低結晶性炭素(非晶質炭素)で被覆することの動機付けを見いだすことはできない。

(イ) また、甲4には、上記オ(エ)より、改質天然黒鉛粒子の表面に、改質天然黒鉛粒子よりも結晶性が低い炭素質材料を付着させることで、圧縮工程において、負極活物質である電極内部に閉気孔が形成されて充電受け入れ性が低下する可能性が少なくなることや、黒鉛粒子の比表面積が低減するため、電解液との反応性が抑制されることが記載されているが、甲1発明において、甲4の記載事項を参酌し、人造黒鉛の表面に、人造黒鉛よりも結晶性が低い炭素質材料を付着させた場合においても、甲1発明の課題である「高濃度、高粘度のスラリー組成物を用いて粒度分布が狭い複合粒子を得ることができる電気化学素子用複合粒子の製造方法を提供すること」を解決し得るのか不明であるため、甲1発明において、人造黒鉛の表面に、人造黒鉛よりも結晶性が低い炭素質材料を付着させることの動機付けを見いだすことはできない。

(ウ) さらに、甲2、甲3、甲5、甲6の各記載事項を参照しても、甲1発明の人造黒鉛を、人造黒鉛よりも結晶性の低い炭素材で被覆することの動機付けを見いだすことはできない。

(エ) 申立人は特許異議申立書のなかで、甲1の[0015]には、「リチウムイオン二次電池の負極に用いる負極活物質としては・・・低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)・・・あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料・・・が挙げられる」ことが記載されていることから、甲1発明の炭素材料として、「グラファイト」を「低結晶性炭素(非晶質炭素)」で被覆した「複合化炭素材料」を選択することは、当業者が適宜なし得た設計的事項に過ぎないことを主張している。 しかしながら、上記(ア)のとおり、甲1には複合化炭素材料として複数の形態が想定されるものの、その複数の形態の中から人造黒鉛を低結晶性炭素で被覆する形態を選択するための動機付けを見いだすことはできず、当業者が適宜なし得た設計的事項とはいえない。
仮に、甲1発明の人造黒鉛を低結晶性炭素で被覆することを、当業者が適宜なし得たとしても、その場合は、甲1発明の(2)粒子径のD90/D10に影響を与えると考えられるため、本件発明1で特定されている(2)の数値を依然として満足するかは不明といえる。

(オ) よって、相違点2に係る事項について、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明2について
本件発明1と本件発明2は、「(2)粒子径のD90/D10」の上限値のみ相違するところ、甲1発明をその範囲内に含む点で、両者の間に差異はない。
そうすると、本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記(3)アと同様に、相違点1〜5が存在する。
そして、相違点2については、上記(3)イと同様に、当業者が適宜なし得た設計的事項とはいえない。
よって、本件発明2は、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明3〜11について
本件発明3〜11は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)及び(4)で述べたとおり、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明3〜11についても、同様に、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜11は、甲1に記載された発明と甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1) 本件明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような炭素材料の特性を考慮し、非晶質炭素と黒鉛とを複合化して高いエネルギー密度を維持しつつ入出力特性を高め、かつ黒鉛を非晶質炭素で被覆した状態とすることで表面の反応性を低減させ、初期の充放電効率を良好に維持しつつ入出力特性を高めた負極材も提案されている(例えば、特許文献3参照)。EV、HEV等に用いられるリチウムイオン二次電池においては、回生ブレーキの電力の充電と、モータ駆動用に放電するため、高い入出力特性が求められる。また、自動車は外気温の影響を受けやすく、特に夏場はリチウムイオン二次電池が高温状態に晒される。そのため、入出力特性と高温保存特性との両立が求められる。
【0007】
本発明の一態様では、入出力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能なリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法及びリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。さらに、本発明の一態様では、入出力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
入出力特性を向上させる方法として、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材の粒子径を小さくすることが挙げられる。しかしながら、粒子径を小さくした場合、入出力特性を向上させることができる一方で、高温保存特性は悪化する傾向にある。本発明者らは、鋭意研究を行った結果、トレードオフの関係にある入出力特性と高温保存特性とを両立させる手段を見出した。」

イ 「【0029】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態におけるリチウムイオン二次電池用負極材は、下記(1)〜(3)を満たす炭素材料を含む。
(1)平均粒子径(D50)が22μm以下である。
(2)粒子径のD90/D10が2.2以下である。
(3)亜麻仁油吸油量が50mL/100g以下である。
【0030】
リチウムイオン二次電池用負極材が、上記(1)〜(3)を満たすことにより、入出力特性及び高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となる。
【0031】
また、上記(1)〜(3)を満たすことにより、炭素材料のタップ密度が向上する傾向にある。炭素材料のタップ密度が向上することにより、リチウムイオン二次電池用負極材を集電体に塗布した際の電極密度が高くなり、リチウムイオン二次電池用負極における目的の電極密度を得るために必要なプレス圧を低くすることができる傾向にある。プレス圧を低くすることにより、炭素材料の横方向の配向性が低くなり、充放電時のリチウムイオンの出し入れをしやすくなる結果、入出力特性により優れるリチウムイオン二次電池が製造可能となる傾向にある。
【0032】
リチウムイオン二次電池では、充放電により炭素材料が膨張収縮を繰り返すため、炭素材料と集電体との密着性が低いと炭素材料が集電体から剥離し、充放電容量が低下してサイクル特性が低下するおそれがある。一方、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極材では、炭素材料のタップ密度が向上することにより、負極活物質である炭素材料と集電体との密着性が向上する傾向にある。そのため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極材を用いることにより、充放電により炭素材料が膨張収縮を繰り返した場合であっても、炭素材料と集電体との密着性を維持し、高温保存特性及びサイクル特性等の寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となる傾向にある。
【0033】
さらに、リチウムイオン二次電池用負極材では、炭素材料と集電体との密着性が高いため、負極を製造する際に必要となる結着剤の量を削減することができ、エネルギー密度に優れるリチウムイオン二次電池を低コストで製造可能となる傾向にある。」

ウ 「【0034】
以下、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用負極材の構成について、より詳細に説明する。
【0035】
〔炭素材料〕・・・
【0036】
炭素材料の平均粒子径(D50)は、22μm以下である。また、炭素材料の平均粒子径(D50)は、負極材の表面から内部へのリチウムの拡散距離が長くなることが抑制され、リチウムイオン二次電池における入出力特性をより向上させる点から、17μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、13μm以下であることがさらに好ましい。また、炭素材料の平均粒子径(D50)は、タップ密度に優れる炭素材料が得られやすい点から、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、9μm以上であることがさらに好ましい。
【0037】
炭素材料の平均粒子径(D50)は、炭素材料の粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。平均粒子径(D50)は、例えば、界面活性剤を含んだ精製水に炭素材料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD−3000J)を用いて測定することができる。
【0038】
炭素材料の粒子径のD90/D10は、2.2以下である。また、炭素材料の粒子径のD90/D10は、タップ密度に優れる炭素材料が得られやすい点及び炭素材料同士の凝集を抑制する点から、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。また、炭素材料の粒子径のD90/D10の下限は特に限定されず、1.0以上であればよく、例えば、粒子間接触が良好となり、入出力特性及びサイクル特性により優れる点から、1.3以上であることが好ましい。
【0039】
炭素材料の粒子径(D10)は、炭素材料の粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積10%となるときの粒子径であり、炭素材料の粒子径(D90)は、炭素材料の粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積90%となるときの粒子径である。粒子径(D10)及び粒子径(D90)は、炭素材料0.06gと、質量比0.2%の界面活性剤(商品名:リポノールT/15、ライオン株式会社製)を含む精製水とを、試験管(12mm×120mm、株式会社マルエム製)に入れ、試験管ミキサー(Pasolina NS−80、アズワン株式会社製)で20秒間撹拌した後、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD−3000J)を用いて測定することができる。
【0040】
炭素材料の亜麻仁油吸油量は、50mL/100g以下である。また、炭素材料の亜麻仁油吸油量は、炭素材料のタップ密度を向上させ、リチウムイオン二次電池における入出力特性及びサイクル特性をより向上させる点から、48mL/100g以下であることが好ましく、47mL/100g以下であることがより好ましく、45mL/100g以下であることがさらに好ましい。また、炭素材料の亜麻仁油吸油量の下限は特に限定されず、例えば、35mL/100g以上であってもよく、40mL/100g以上であってもよい。
【0041】
本開示において、炭素材料の亜麻仁油吸油量は、JIS K6217−4:2008「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:オイル吸収量の求め方」に記載の試薬液体としてフタル酸ジブチル(DBP)ではなく、亜麻仁油(関東化学株式会社製)を使用することにより測定することができる。対象炭素粉末に定速度ビュレットで亜麻仁油を滴定し、粘度特性変化をトルク検出器から測定する。発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、炭素材料の単位質量当りの試薬液体の添加量を亜麻仁油吸油量(mL/100g)とする。測定器としては、例えば、株式会社あさひ総研の吸収量測定装置を用いて測定することができる。」

エ 「【0042】
炭素材料は、上記(1)〜(3)とともに、下記(4)及び(5)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(4)タップ密度が1.00g/cm3以上である。
(5)界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10(前述の(2)における炭素材料の粒子径(D10)と同様)に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)が0.90以上である。
【0043】
炭素材料が、上記(4)及び(5)の少なくとも一方を満たすことにより、入出力特性及びサイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となる。
【0044】
詳述すると、上記(4)を満たすことにより、リチウムイオン二次電池用負極における目的の電極密度を得るために必要なプレス圧をより低くすることができる傾向にある。これにより、入出力特性により優れるリチウムイオン二次電池が製造可能となる傾向にある。さらに、上記(4)を満たすことにより、炭素材料と集電体との密着性により優れ、サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となる傾向にある。
【0045】
また、上記(5)を満たすことにより、炭素材料の超音波照射前後におけるD10の変化する割合が小さい。これにより、炭素材料同士の凝集がより抑制されており、炭素材料の円形度がより高くなる傾向にある。その結果、炭素材料のタップ密度に優れ、リチウムイオン二次電池用負極における入出力特性及びサイクル特性により優れる傾向にある。・・・
【0050】
上記(5)における超音波照射後のD10の測定に用いる試料は以下のようにして得られる。炭素材料0.06gと、質量比0.2%の界面活性剤(商品名:リポノールT/15、ライオン株式会社製)を含む精製水とを、試験管(12mm×120mm、株式会社マルエム製)に入れ、試験管ミキサー(Pasolina NS−80、アズワン株式会社製)で20秒間撹拌する。その後、超音波洗浄機(US−102、株式会社エスエヌディ製)に前記試験管が動かないように設置し、試験管内の溶液が浸かる程度まで超音波洗浄機に精製水を入れ、15分間超音波を照射(高周波出力100W及び発振周波数38kHz)する。これにより、超音波照射後のD10の測定に用いる試料が得られる。
炭素材料において、超音波照射前のD10及び超音波照射後のD10の測定方法は、前述の炭素材料の粒子径(D10)の測定方法と同様である。」

オ 「【0051】
炭素材料は、上記(1)〜(3)とともに、下記(6)及び(7)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、下記(6)及び(7)を満たすことがより好ましい。
(6)円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合が、炭素材料全体の5個数%以上である。
(7)円形度が0.7以下で粒子径が10μm以下の割合が、炭素材料全体の0.3個数%以下である。
上記(6)を満たす場合、円形度が0.6〜0.8の炭素材料が所定量存在するため、粒子間の接触面積を増加させることができ、電気抵抗の低い電極が得られる傾向にある。電気抵抗の低い電極が得られることにより、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。また、粒子径が10μm〜20μmの炭素材料が所定量存在するため、電極を製造する際のプレスの圧力が塗布面の表面から集電体付近の粒子まで均一性が高い状態にて伝わり、電極密度の均一性に優れる電極が得られる傾向にある。電極密度の均一性に優れることにより、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。
上記(7)を満たす場合、負極材と集電体との密着性が低下しにくく、負極材と集電体との密着性に優れた電極が得られる傾向にある。負極材と集電体との密着性が良好となることで、入出力特性、高温貯蔵特性、サイクル特性等の寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。・・・
【0054】
本開示において、炭素材料の円形度及び所定の範囲の粒子径の割合は湿式フロー式粒子径・形状分析装置で測定することができる。例えば、粒子径を0.5μm〜200μmの範囲及び円形度を0.2〜1.0の範囲に設定して炭素材料の粒子径及び円形度を測定する。測定データから、円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合、及び円形度が0.7以下で粒子径が10μm以下の割合をそれぞれ算出する。
測定器としては、FPIA−3000(マルバーン社製)を用いて測定することができる。本測定の前処理として、炭素材料0.06gと、質量比0.2%の界面活性剤(商品名:リポノールT/15、ライオン株式会社製)を含む精製水とを、試験管(12mm×120mm、株式会社マルエム製)に入れ、試験管ミキサー(Pasolina NS−80、アズワン株式会社製)で20秒間撹拌した後、1分間超音波で撹拌してもよい。超音波洗浄機としては、株式会社エスエヌディ製US102(高周波出力100W、発振周波数38kHz)を用いることができる。」

カ 「【0055】
また、炭素材料は、X線回折法により求めた平均面間隔d002が0.334nm〜0.338nmであることが好ましい。平均面間隔d002が0.338nm以下であると、リチウムイオン二次電池における初回充放電効率及びエネルギー密度に優れる傾向にある。
平均面間隔d002の値は、0.3354nmが黒鉛結晶の理論値であり、この値に近いほどエネルギー密度が大きくなる傾向にある。」

キ 「【0058】
(ラマン分光測定のR値)
炭素材料のラマン分光測定のR値は、0.1〜1.0であることが好ましく、0.2〜0.8であることがより好ましく、0.3〜0.7であることがさらに好ましい。R値が0.1以上であると、リチウムイオンの出し入れに用いられる黒鉛格子欠陥が充分存在し、入出力特性の低下が抑制される傾向にある。R値が1.0以下であると、電解液の分解反応が充分に抑制され、初回効率の低下が抑制される傾向にある。
【0059】
前記R値は、ラマン分光測定において得られたラマン分光スペクトルにおいて、1580cm−1付近の最大ピークの強度Igと、1360cm−1付近の最大ピークの強度Idの強度比(Id/Ig)と定義する。ここで、1580cm−1付近に現れるピークとは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1530cm−1〜1630cm−1に観測されるピークを意味する。また1360cm−1付近に現れるピークとは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1300cm−1〜1400cm−1に観測されるピークを意味する。
【0060】
本開示において、ラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(型番:NRS−1000、日本分光株式会社)を用い、リチウムイオン二次電池用負極材を平らになるようにセットした試料板にアルゴンレーザー光を照射して測定を行う。測定条件は以下の通りである。
アルゴンレーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm−1
測定範囲:1180cm−1〜1730cm−1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去」

ク 「【0082】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態におけるリチウムイオン二次電池用負極材は、下記(1)、(2)及び(5)を満たす炭素材料を含む。
(1)平均粒子径(D50)が22μm以下である。
(2)粒子径のD90/D10が2.2以下である。
(5)界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10(前述の(2)における炭素材料の粒子径(D10)と同様)に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)が0.90以上である。・・・
【0089】 炭素材料は、上記(1)、(2)及び(5)とともに、下記(6)及び(7)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、下記(6)及び(7)を満たすことがより好ましい。
(6)円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合が、炭素材料全体の5個数%以上である。
(7)円形度が0.7以下で粒子径が10μm以下の割合が、炭素材料全体の0.3個数%以下である。
炭素材料が上記(6)を満たすことにより、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。
炭素材料が上記(7)を満たす場合、入出力特性及び高温貯蔵特性、サイクル特性等の寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。」

ケ 「【0112】
以下、本発明を以下の試験結果により具体的に説明するが、本発明はこれらの試験結果に限定されるものではない。
【0113】
〔試験1〕
(負極材の作製)
平均粒子径10μmの球形天然黒鉛(d002=0.336nm)100質量部とコールタールピッチ(軟化点90℃、残炭率(炭化率)50%)1質量部を混合した。次いで窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温し、1100℃(焼成処理温度)にて1時間保持して炭素層被覆黒鉛粒子(炭素材料)とした。得られた炭素層被覆炭素粒子をカッターミルで解砕した後、350メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分を本試験の負極材とした。得られた負極材については、下記方法により、平均面間隔d002の測定、R値の測定、N2比表面積の測定、平均粒子径(50%D)の測定、D90/D10の測定、タップ密度の測定及び超音波照射後のD10/超音波照射前のD10の測定を行った。
各物性値を表2に示す。なお、表2中の炭素被覆量(%)は、球形天然黒鉛に対するコールタールピッチを使用した割合(質量%)を意味する。・・・
【0124】
〔試験2〜11〕
試験1において炭素被覆量を表2に示す値に変更し、かつ原料として用いる球形天然黒鉛を適宜変更して平均粒子径(D50)及びD90/D10の測定を表2に示す値としたこと以外は試験1と同様にして負極材を作製した。作製した負極材について、試験1と同様に各物性値を測定した。
各物性値を表2に示す。
【0125】
〔試験12〜17〕
試験1において炭素被覆量を表2に示す値に変更し、かつ原料として用いる球形天然黒鉛を適宜変更して平均粒子径(D50)及びD90/D10を表2に示す値としたこと以外は試験1と同様にして負極材を作製した。作製した負極材について、試験1と同様に各物性値を測定した。各物性値を表2に示す。
【0126】
【表2】



(2) 本件明細書の【0113】には、試験1の負極材の作製について記載され、【0124】には、試験2〜11について、「試験1において炭素被覆量を表2に示す値に変更し、かつ原料として用いる球形天然黒鉛を適宜変更して平均粒子径(D50)及びD90/D10の測定を表2に示す値としたこと以外は試験1と同様にして負極材を作製した」ことが記載されている。
また、本件明細書の【0036】〜【0039】、【0049】〜【0050】、【0054】、【0058】〜【0060】には、「ラマン分光測定のR値」、「平均粒子径(D50)」、「粒子径のD90/D10」、「界面活性剤を含んだ精製水中にて撹拌した後、さらに、超音波洗浄機で15分間超音波を照射したときに、超音波照射前のD10に対する超音波照射後のD10の割合(超音波照射後のD10/超音波照射前のD10)」、「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」の測定方法について記載され、【0091】〜【0094】には、負極材の製造方法が記載されている。
そうすると、本件明細書の上記【0036】〜【0039】、【0049】〜【0050】、【0054】、【0058】〜【0060】、【0091】〜【0094】、【0113】及び【0124】を参照し、当業者であれば本件発明の負極材、負極、二次電池を製造ないし実施することができるといえる。

(3) 申立人は特許異議申立書のなかで、本件明細書中の【0113】、【0124】、【0125】及び【表2】から、炭素被覆量が3%である負極材(試験2、4、6、8、10、12〜14および17の負極材)は、本件発明1で規定される「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」や「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」について、試験1の負極材とは異なる値を示しているが、本件明細書には、「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」や「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」の値を、どのようにして試験1の負極材と異ならせたのかは記載されていないことを主張している。
しかしながら、本件明細書の【0124】に記載されているとおり、試験1の炭素被覆量を表2に示す値に変更し、球形天然黒鉛を適宜変更して平均粒子径(D50)及びD90/D10を表2に示す値に変更することで、「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」及び「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」が表2に示す値に変更したものであることは理解できるから、「超音波照射後のD10/超音波照射前のD10」及び「円形度が0.6〜0.8で粒子径が10μm〜20μmの割合」をどのように試験1の負極材と異ならせたのかが記載されていないとはいえない。

(4)よって、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-04-05 
出願番号 P2020-133260
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 渡部 朋也
平塚 政宏
登録日 2021-05-24 
登録番号 6888722
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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