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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02K
管理番号 1385116
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-16 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6626934号発明「鉄心製品の製造方法及び鉄心製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6626934号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1−2〕、3について訂正することを認める。 特許第6626934号の請求項3に係る特許を取り消す。 同請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6626934号の請求項1〜3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年7月31日に出願され、令和元年12月6日にその特許権の設定登録がされ、令和元年12月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 6月16日 : 特許異議申立人 中野 圭二(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 8月31日付け: 取消理由通知書
令和2年10月21日 : 特許権者との面接
令和2年11月 5日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年11月18日付け: 手続補正指令書(方式)
令和2年12月15日付け: 特許権者による手続補正書の提出
令和3年 3月24日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和3年1月13日付けで通知書(訂正請求があった旨の通知)を特許異議申立人に送付したが、特許異議申立人による意見書の提出はされていない。また、令和3年3月24日付け取消理由通知書(決定の予告)により、特許権者に取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者による意見書の提出はされていない。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者が令和2年11月5日にした訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を当審で付したものである。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「高さ方向に延びるように」とあるのを、「中心軸の延在方向に延びるように、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「鉄心本体に設けられた樹脂注入部」とあるのを、「複数の打抜部材が積層された積層体に設けられた樹脂注入部」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「・・・溶接して鉄心製品を構成することとを含み」とあるのを、「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、・・・溶接して鉄心製品を構成することとを含み」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記鉄心本体を溶接して鉄心製品を構成する」とあるのを、「前記積層体の周面を・・・溶接して鉄心製品を構成する」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「溶接」とあるのを、「レーザ溶接」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記溶接ビードと前記樹脂注入部との間に設定されるバッファ領域」とあるのを、「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記鉄心本体を溶接することを含む」とあるのを、「前記積層体の周面を・・・溶接することを含む」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「高さ方向に延びる樹脂注入部が設けられた」とあるのを、「中心軸の延在方向に延びる樹脂注入部が設けられ、」と訂正する。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「樹脂注入部が設けられた鉄心本体」とあるのを、「樹脂注入部が設けられ、複数の打抜部材が積層されて構成された積層体」と訂正する。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「前記鉄心本体の周面に形成された溶接ビード」とあるのを、「前記積層体の周面に形成された溶接ビード」と訂正する。

(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「前記溶接ビードと前記樹脂注入部との間に設定されるバッファ領域」とあるのを、「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域」と訂正する。

(12)訂正事項12
本件訂正前の明細書の段落【0008】に記載された「【図9】図9は、溶接ビードと磁石挿入孔のバッファ領域との関係の他の例を説明するための上面図である。」を削除する。

(13)訂正事項13
本件訂正前の明細書の段落【0066】を削除する。

(14)訂正事項14
本件訂正前の明細書の段落【0067】の「(2)」を「(1)」と訂正し、同段落【0068】の「(3)」を「(2)」と訂正し、同段落【0069】の「(4)」を「(3)」と訂正し、同段落【0070】の「(5)」を「(4)」と訂正し、同段落【0071】の「(6)」を「(5)」と訂正し、同段落【0072】の「(7)」を「(6)」と訂正し、同段落【0073】の「(8)」を「(7)」と訂正し、同段落【0074】の「(9)」を「(8)」と訂正し、同段落【0075】の「(10)」を「(9)」と訂正し、同段落【0076】の「(11)」を「(10)」と訂正し、同段落【0077】の「(12)」を「(11)」と訂正する。

(15)訂正事項15
本件訂正前の明細書の段落【0081】の「R1,R2・・・バッファ領域」を「R1・・・バッファ領域」と訂正する。

(16)訂正事項16
本件訂正前の図面の図9を削除する。

<一群の請求項について>
ここで、本件訂正前の請求項1〜2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1〜7によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜2に対応する本件訂正後の請求項1〜2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。したがって、訂正事項1〜7に係る訂正は、一群の請求項[1〜2]に対して請求されたものである。
そして、訂正事項8〜11に係る訂正は、請求項3に対して請求されたものであり、明細書又は図面に係る訂正事項12〜16は、一群の請求項[1〜2]及び請求項3について請求されたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載において、樹脂注入部が延びる方向について不明瞭であった「高さ」方向を、「中心軸の延在」方向とすることにより明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0015】の記載及び図面に基づき、磁石挿入孔16(樹脂注入部)が中心軸Axの延在方向に延びることが把握できるから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載において、樹脂注入部が設けられる対象であった「鉄心本体」を、概念的により下位の、「鉄心製品」における「複数の打抜部材が積層された積層体」に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0012】、【0015】、【0018】の記載及び図面に基づき、複数の打抜部材Wが積み重ねられた積層体10に磁石挿入孔16(樹脂注入部)が設けられることが把握できるから、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「・・・溶接して鉄心製品を構成することとを含み」の記載を「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、・・・溶接して鉄心製品を構成することとを含み」とすることにより、「溶接して鉄心製品を構成すること」が、「樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に」行われることを明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0052】〜【0060】の記載及び図面に基づき、積層体10の磁石挿入孔16(樹脂注入部)に溶融樹脂を注入することの後に溶接することが把握できるから、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載において、「溶接して鉄心製品を構成すること」の対象であった「鉄心本体」を、概念的により下位の、「鉄心製品」における「積層体の周面」に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0026】、【0057】、【0074】の記載及び図面に基づき、積層体10の周面を溶接して回転体6(鉄心製品)を構成することが把握できるから、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項4に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載における「溶接」の手法を概念的により下位の「レーザ溶接」に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0047】、【0057】、【0059】の記載及び図面に基づき、溶接はレーザ溶接であり、レーザ溶接して回転体6(鉄心製品)を構成すること、溶接ビードがレーザ溶接によって形成されること、及び積層体10の周面をレーザ溶接することが把握できるから、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項5に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載において、定義の明瞭でない「バッファ領域」が、「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定された」ものであることを明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0058】、【0061】、【0062】及び図面に基づき、バッファ領域R1が磁石挿入孔16(樹脂注入部)を囲むように設定されることが把握でき、また、磁石挿入孔16に永久磁石12を樹脂封止する際、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がることがあり、その有機成分が拡がる領域に溶接ビードB1が重なって有機成分が発泡してしまうことを避けるために溶接ビードB1が到達しないような領域がバッファ領域R1であることを踏まえれば、バッファ領域R1が磁石挿入孔16への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたものであることも当業者は当然に把握できるから、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項6に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の記載において、「溶接すること」の対象であった「鉄心本体」を、概念的により下位の、「鉄心製品」における「積層体の周面」に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0026】、【0057】、【0074】の記載及び図面に基づき、積層体10の周面を溶接することが把握できるから、訂正事項7に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項7に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正は、本件訂正前の請求項3の記載において、樹脂注入部が延びる方向について不明瞭であった「高さ」方向を、「中心軸の延在」方向とすることにより明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、前記(1)で示したとおり、訂正事項8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9に係る訂正は、本件訂正前の請求項3の記載において、樹脂注入部が設けられる対象であった「鉄心本体」を、概念的により下位の、「鉄心製品」における「複数の打抜部材が積層された積層体」に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、前記(2)で示したとおり、訂正事項9に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10)訂正事項10について
訂正事項10に係る訂正は、本件訂正前の請求項3の記載において、溶接ビードが形成される箇所であった「鉄心本体」の周面を、概念的により下位の、「鉄心製品」における「積層体」の周面に具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の段落【0026】、【0057】、【0074】の記載及び図面に基づき、積層体10の周面に溶接ビードが形成されることが把握できるから、訂正事項10に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。また、訂正事項10に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(11)訂正事項11について
訂正事項11に係る訂正は、本件訂正前の請求項3の記載において、定義の明瞭でない「バッファ領域」が、「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定された」ものであることを明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、前記(6)で示したとおり、訂正事項11に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12)訂正事項12〜13、15〜16について
訂正事項12〜13、15〜16に係る訂正は、訂正事項6及び訂正事項11により不明瞭であった「バッファ領域」の定義を明瞭にしようとしたことにあわせて、本件訂正前の明細書又は図面におけるバッファ領域R2に関する記載を削除したもので、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(13)訂正事項14について
訂正事項14に係る訂正は、訂正事項13によって明細書の段落【0066】が削除されたことに伴い、明細書の後続の段落【0067】〜【0077】に関して、各段落の冒頭に記載されている括弧内の数字を繰り上げるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.小括
前記のとおり、訂正事項1〜16に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。なお、本件においては、本件訂正前の全ての請求項1〜3について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

したがって、明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、本件訂正後の請求項[1−2]、3について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜3に係る発明(以下、請求項順に「本件特許発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件特許発明1]
中心軸の延在方向に延びるように、複数の打抜部材が積層された積層体に設けられた樹脂注入部に溶融樹脂を注入することと、
前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成することとを含み、
前記鉄心製品を構成することは、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接することを含む、鉄心製品の製造方法。

[本件特許発明2]
前記溶接ビードと前記樹脂注入部との間は0.5mm以上離間している、請求項1に記載の方法。

[本件特許発明3]
中心軸の延在方向に延びる樹脂注入部が設けられ、複数の打抜部材が積層されて構成された積層体と、
前記樹脂注入部に形成された樹脂部と、
前記積層体の周面に形成された溶接ビードとを備え、
前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない、鉄心製品。

第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正後の請求項1〜3に係る特許のうち、請求項3に係る特許に対して、当審が令和3年3月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
1(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許発明3が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
2(進歩性)本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第6号証(特開2018−82539号公報)に記載された発明、甲第6号証に記載された技術的事項、及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(国際公開第2011/114414号)に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 当審の判断
1.引用文献の記載
(1)甲第1号証の記載
特許異議申立人が提出した甲第1号証(特開2006−204068号公報)には以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下、同様である。)。
ア「【0016】
図1及び図2に模式的に示すように、本発明の一実施の形態に係る永久磁石の樹脂封止装置10は、複数の鉄心片が積層され中央に軸孔11を備えた回転子積層鉄心12に形成された複数(本実施の形態では8個)の磁石挿入孔13に挿入された永久磁石14を、樹脂部材の一例である熱硬化性樹脂15を磁石挿入孔13に注入して固定する装置である。」

イ「【0040】
次に、永久磁石の樹脂封止装置10を用いた本発明の一実施の形態に係る永久磁石の樹脂封止方法について、主として図10を参照しながら説明する。
(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック74も含む)に対して位置決めして固定する(回転子積層鉄心の供給作業)。」

ウ「【0044】
このように、熱硬化性樹脂15の原料18を加熱して(約170℃近傍)、溶かして回転子積層鉄心12の上面から磁石挿入孔13内に充填するので、熱硬化性樹脂15が磁石挿入孔13内に容易に入る。」

エ 前記ア及び図1によると、磁石挿入孔13は、軸孔11の延びる方向と同じ方向に延びているから、磁石挿入孔13は、軸孔11の延びる方向と同じ方向に延びるように、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心12に形成されたものである。

オ 前記イ及び前記ウによると、永久磁石の樹脂封止方法は、磁石挿入孔13に溶かした熱硬化性樹脂15の原料18を充填することを含むものである。

(2)甲第1号証に記載された発明
前記(1)アないしオの記載及び図面を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

[甲1発明]
「軸孔11の延びる方向と同じ方向に延びるように、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心12に形成された磁石挿入孔13に溶かした熱硬化性樹脂15の原料18を充填することを含む、永久磁石の樹脂封止方法。」

(3)甲第6号証の記載
特許異議申立人が提出し、前記第4の取消理由(決定の予告)で引用した甲第6号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア「【0021】
<第1実施形態>
[固定子積層鉄心の構成]
まず、図1及び図2を参照して、固定子積層鉄心1の構成について説明する。固定子積層鉄心1は、固定子(ステータ)の一部である。固定子が回転子(ロータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。」

イ「【0023】
固定子積層鉄心1は、複数の打抜部材B1(鉄心部材)が積み重ねられた積層体10によって構成されている。打抜部材B1は、金属板(例えば、電磁鋼板)が所定形状に打ち抜かれた板状体である。当該金属板の厚さは、完全に均一ではなく、僅かに変動している。そのため、複数の打抜部材B1が積層されてなる積層体10には、図2に示されるように、積厚に偏りが生ずる場合がある。積層体10の積厚に偏りが存在すると、積層体10の端面(図2においては上端面)が斜めに傾斜した状態となる。」

ウ「【0030】
各溶接部15はそれぞれ、積層体10の外周面であって各耳金部13の頂点近傍に形成されている。各溶接部15は、積層体10の一端面から他端面にかけて中心軸Ax1方向(積層方向)に延びる溶接ビードであり、複数の打抜部材B1を接合している。積層体10の外周面には、少なくとも一つの溶接部15が形成されていてもよい。複数の単位ブロックが積層されて積層体10が構成されている場合、各溶接部15は、積層体10の一端面から他端面にかけて全体的に延びているのではなく、各単位ブロック同士の境界部分を接合する複数の溶接スポットであってもよい。すなわち、この場合、複数の溶接スポットは、各単位ブロック同士の境界部分に位置するように互いに離間しながら中心軸Ax方向に並んでいる。」

エ「【0032】
次に、図3に示される加圧装置100(積層鉄心の製造装置)により積層体10を加圧する(図5のステップS12)。ここで、加圧装置100について説明する。加圧装置100は、一対の挟持部材101,102と、保持部103と、昇降機構104と、溶接機105と、コントローラ106(制御部)とを備える。」

オ「【0041】
次に、挟持部材101,102によって積層体10が加圧された状態で、図4に示されるように、積層体10の外周面であって各耳金部13の頂点近傍を溶接機105によって溶接する(図5のステップS13)。具体的には、コントローラ106が駆動機構105cに指示して、溶接トーチ105aの先端が耳金部13の頂点近傍に対面した状態を保持したまま、溶接トーチ105aを積層体10の上端面から下端面に向けて移動させる。このとき同時に、コントローラ106が供給機構105bに指示して、ワイヤを溶接トーチ105aに供給させる。これにより、積層体10の外周面であって各耳金部13の頂点近傍に、中心軸Ax方向(積層方向)に延びる溶接部15(溶接ビード)が形成される。」

カ「【0046】
<第2実施形態>
[回転子積層鉄心の構成]
続いて、図6及び図7を参照して、回転子積層鉄心2の構成について説明する。回転子積層鉄心2は、回転子(ロータ)の一部である。回転子は、回転子積層鉄心2に端面板及びシャフトが取り付けられてなる。回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。回転子積層鉄心2は、図6に示されるように、積層体20と、複数の永久磁石22と、複数の樹脂材料23とを備える。
【0047】
積層体20は、円筒状を呈している。すなわち、積層体20の中央部には、中心軸Ax2に沿って延びるように積層体20を貫通する軸孔20aが設けられている。積層体20は、複数の打抜部材B2(鉄心部材)が積み重ねられて構成されている。打抜部材B2は、金属板(例えば、電磁鋼板)が所定形状に打ち抜かれた板状体である。当該金属板の厚さは、完全に均一ではなく、僅かに変動している。そのため、複数の打抜部材B2が積層されてなる積層体20には、図7に示されるように、積厚に偏りが生ずる場合がある。積層体20の積厚に偏りが存在すると、積層体20の端面(図7においては上端面)が斜めに傾斜した状態となる。」

キ「【0049】
積層体20には、複数の磁石挿入孔21(貫通孔)が形成されている図6に示される形態では、積層体20には8個の磁石挿入孔21が形成されている。磁石挿入孔21は、図7に示されるように、中心軸Ax2(積層方向)に沿って延びると共に積層体20を貫通している。」

ク「【0054】
樹脂材料23は、永久磁石22が挿入された後の磁石挿入孔21内に充填されている。樹脂材料23は、永久磁石22を磁石挿入孔21内において固定する機能と、上下方向で隣り合う打抜部材B2同士を接合する機能とを有する。樹脂材料23としては、例えば熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。なお、樹脂材料23として熱可塑性樹脂を使用してもよい。」

ケ「【0055】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、図8〜図10を参照して、回転子積層鉄心2の製造方法について説明する。まず、図示しない打抜装置を用いて、帯状の金属板(電磁鋼板)を所定形状に打ち抜いて打抜部材B2を形成しつつ、複数の打抜部材B2を積み重ねて、積層体20を形成する(図10のステップS21)。
次に、積層体20の各磁石挿入孔21内に永久磁石22を挿入する(図10のステップS22)。
【0056】
次に、図8に示される樹脂充填装置200(積層鉄心の製造装置)により積層体20を加圧する(図10のステップS23)。ここで、樹脂充填装置200について説明する。樹脂充填装置200は、一対の挟持部材201,202と、複数の直動ガイド207と、保持部203と、昇降機構204と、充填機205と、コントローラ206(制御部)とを備える。」

コ「【0066】
次に、挟持部材201,202によって積層体20が加圧された状態で、図9に示されるように、各磁石挿入孔21内に樹脂を充填する(図10のステップS24)。具体的には、まず、各樹脂流路202b内に樹脂ペレットPを配置する。樹脂ペレットPは、円柱形状を呈する固体状の樹脂である。続いて、各樹脂流路202bにそれぞれプランジャ205aを挿入する。この状態で、コントローラ206がヒータ202c及び駆動機構205bに指示して、樹脂ペレットPを溶融させつつ、溶融状態の樹脂をプランジャ205aによって樹脂流路202bから磁石挿入孔21内に押し出させる。各磁石挿入孔21内に充填された溶融樹脂が固化することにより、各永久磁石22が樹脂材料23によって各磁石挿入孔21内に固定される。
【0067】
以上により、回転子積層鉄心2が得られる。その後、軸孔20aにシャフトを挿通して固定し、回転子積層鉄心2の両端面に対して端面板をそれぞれ配置する。こうして、回転子積層鉄心2と、シャフトと、端面板とを備える回転子が得られる。」

サ「【0074】
固定子積層鉄心1を製造する際に、積層体10の貫通孔に樹脂を充填する工程が存在する場合には、第2実施形態に係る樹脂充填装置200を用いて樹脂充填処理を実施してもよい。回転子積層鉄心2を製造する際に、積層体20に溶接を施す工程が存在する場合には、第1実施形態に係る加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい。」

シ 前記カの段落【0047】、前記キ及び図面によると、積層体20は、中心軸Ax2に沿って延びる磁石挿入孔21が形成されるもので、複数の打抜部材B2が積層されて構成されたものである。また、磁石挿入孔21は、中心軸Ax2に沿って延びるように、複数の打抜部材B2が積層された積層体20に形成されたものである。

ス 前記カの段落【0046】、前記ク、前記ケ、前記コの段落【0066】及び図面によると、樹脂材料23は、磁石挿入孔21に充填されるものである。また、回転子積層鉄心2の製造方法は、磁石挿入孔21に溶融樹脂を充填する工程を含むものである。

セ 前記サ及び前記シによると、回転子積層鉄心2について、複数の打抜部材B2が積層されて構成されている積層体20に溶接を施す工程が存在する場合には、加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよいものである。また、回転子積層鉄心2の製造方法は、加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい、積層体20に溶接を施す工程が存在する場合を含むものである。

(4)甲第6号証に記載された発明及び技術的事項
前記(3)カないしセの記載及び図面を総合すると、甲第6号証には次の発明(以下、「甲6発明1」及び「甲6発明2」という。)が記載されている。

[甲6発明1]
「中心軸Ax2に沿って延びるように、複数の打抜部材B2が積層された積層体20に形成された磁石挿入孔21に溶融樹脂を充填する工程と、
加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい、積層体20に溶接を施す工程が存在する場合とを含む回転子積層鉄心2の製造方法。」

[甲6発明2]
「中心軸Ax2に沿って延びる磁石挿入孔21が形成され、複数の打抜部材B2が積層されて構成された積層体20と、
前記磁石挿入孔21に充填された樹脂材料23とを備え、
複数の打抜部材B2が積層されて構成されている積層体20に溶接を施す工程が存在する場合には、加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい、回転子積層鉄心2。」

また、前記(3)アないしオ並びにサの記載及び図面を総合すると、甲第6号証には次の技術的事項(以下、「甲6記載技術」という。)が記載されている。

[甲6記載技術]
「積層体10の外周面であって各耳金部13の頂点近傍に形成された溶接ビードを備える固定子積層鉄心1を製造するための加圧装置100であって、回転子積層鉄心2を製造する際に加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよいこと。」

(5)甲第2号証の記載
特許異議申立人が提出し、前記第4の取消理由(決定の予告)で引用した甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア「[0021] 以下,本発明にかかるロータを具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,電磁鋼板が複数枚積層された積層鋼板からなるコアをシャフトに固定したインナーロータに,本発明を適用したものである。

イ「[0023] 本形態のロータ100は,図1および図2に示すように,平板状の電磁鋼板21が複数枚積層されたコア11と,コア11に固定されたシャフト12とを備えている。コア11には,各所に永久磁石14が埋め込まれている。すなわち,ロータ100は,永久磁石埋め込み型(IPM型)でインナーロータ型のモータに利用されるものである。
[0024] また,コア11には,図1に示したように,積層方向に貫通する複数の貫通孔23,24,25,26が形成されている。すなわち,各電磁鋼板21には,各貫通孔23,24,25,26に相当する貫通孔が形成されており,各電磁鋼板21の貫通孔の位置が揃うように積層されている。
[0025] これらの貫通孔のうち最も外周側には,複数の磁石用貫通孔23が配置されている。各磁石用貫通孔23には,コア11を積層方向に貫通する永久磁石14が埋め込まれている。磁石用貫通孔23は,ほぼ全方位にわたってバランスよく配置されている。なお,本形態のコア11には,磁石用貫通孔23が全部で16箇所に形成されている。」

ウ「[0031] また,コア11の外周には,図1中の左右位置の2箇所に,積層方向に沿って延びる溝31が形成されている。この溝31は,図2に示したように積層方向に沿って上端から下端まで形成されている。つまり,各電磁鋼板21には,溝31に相当する切欠きが形成されており,各電磁鋼板21の切欠きの位置が揃うように積層されている。
[0032] さらに,溝31の積層方向の両端部には,溶接痕である外周側溶接部32,33が形成されている。このうち,外周側溶接部32は,コア11の積層方向の上面から5〜10mm程度にわたって形成されている。本形態では,上側端面の電磁鋼板21Uを含む,10〜20枚分の電磁鋼板21の厚さ(電磁鋼板21の1枚分の厚さは約0.5mm)に相当する。なお,図2は,電磁鋼板21の積層状態を略示しており,外周側溶接部32は3枚程度の電磁鋼板21を接合しているのみであるが,実際にはそれ以上の電磁鋼板21が外周側溶接部32によって接合される。この外周側溶接部32は,積層方向の上側の端部に位置する電磁鋼板21(本明細書でいう積層方向の「端部」に位置する電磁鋼板は,コア11の端面となる電磁鋼板のみではなく,端面の電磁鋼板を含む複数枚の電磁鋼板を意味する)について,溝31側面を溶接によって深さ1mm程度溶かし,隣り合う電磁鋼板21同士が溶け合って一体化したことを示している。
[0033] また,外周側溶接部33は,コア11の積層方向の下面から5〜10mm程度にわたって形成されている。本形態では,下側端面の電磁鋼板21Lを含む,10〜20枚分の電磁鋼板21の厚さに相当する。この外周側溶接部33は,積層方向の下側の端部に位置する電磁鋼板21について,溝31側面を溶接によって深さ1mm程度溶かし,隣り合う電磁鋼板21同士が溶け合って一体化したことを示している。」

(6)甲第2号証に記載された技術的事項
前記(5)アないしウの記載及び図面を総合すると、甲第2号証には次の技術的事項(以下、「甲2記載技術」という。)が記載されている。
「インナーロータの積層された電磁鋼板21を接合するために、コア11の外周に形成された溝31側面を溶接によって深さ1mm程度溶かし、隣り合う電磁鋼板21同士が溶け合って一体化し、溝31の積層方向の両端部には、溶接痕である外周側溶接部32、33が形成されていること。」

(7)甲第3号証の記載
特許異議申立人が提出した甲第3号証(「プラスチック成形加工入門」昭和59年12月5日 日刊工業新聞社)には以下の事項が記載されている。
ア「プラスチックは非常に大きい分子量の有機化合物を主体とするものであることを述べたが、この分子量の非常に大きい有機化合物(高分子、ポリマーと呼ぶ)に必要に応じて充てん材、補強材、可塑剤などを配合し、自由に成形加工し目的の性能が得られるようにしたものがプラスチックである。」(第1部「2.ポリマーの構造と改質」第1行〜第4行)

イ「プラスチックは熱硬化性と熱可塑性とに大別される。」(第1部「3.プラスチック成形材料」「3・1 どんなプラスチックがあるか」第12行)

(8)甲第4号証の記載
特許異議申立人が提出した甲第4号証(特開2006−255732号公報)には以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明は、自動車の車体パネルに代表されるような金属板の接合方法に関し、特にレーザ溶接と接着剤による接合とを併用した金属板の接合方法に関するものである。」

イ「【0004】
そこで、接合部の剛性向上や水密性向上等の補助的機能も兼ねて、上記のようなレーザ溶接に加えて接着剤やシール材による接合を併用することが行われている。具体的には、接合強度の向上を図るためにレーザ溶接と接着剤等を併用することを前提として、接合箇所を極力減らしながら設計自由度を上げるべく、接着剤を塗布した面上にレーザ溶接を施す技術が特許文献1で提案されている。」

ウ「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、接着剤を介在させた金属板同士の接合部位に重ねてレーザ溶接を施す方式であるため、レーザ光の照射により熱を加えると有機物である接着剤からガスが発生して、そのガスが溶融金属の内外に入り込んでポロシティとなり、接合強度がかえって低下するおそれがある。特にこの傾向は、母材である金属板がめっき鋼板等の表面処理鋼板である場合に一層顕著となる。」

エ「【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、二枚の金属板同士を重ね合わせて接合するにあたり、少なくともいずれか一方の金属板の接合面に発泡性熱硬化型接着剤を塗布した上で金属板同士を重ね合わせ、その重ね合わせ部位のうち上記発泡性熱硬化型接着剤の塗布位置から所定距離離れた位置にレーザ溶接を施し、レーザ溶接に伴って発生する熱により発泡性熱硬化型接着剤を発泡・硬化させて接合することを特徴とする。」

(9)甲第5号証の記載
特許異議申立人が提出した甲第5号証(「溶接・接合工学概論」平成11年8月25日 理工学社)には以下の事項が記載されている。
ア「溶融金属が凝固中に過飽和になったガスは、気泡になって大気中に逃げるが、逃げ遅れたガスは、凝固した溶接金属内で空洞となって残留し、気孔となる。」(第83ページ第1行〜第8行)

イ「気孔の発生を防止するには次のような対策が必要である。
○1(当審注:丸の中にアラビア数字の1)母材の溶接面に付着した水分・油脂・塗料・さびなどを溶接前に取り除く。」(第83ページ第10行〜第11行)

2.本件特許発明1,2について
前記第4に示したように、令和3年3月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において、本件訂正後の請求項1,2に係る特許に対して、取消理由は通知されていない。そこで、この取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 発明の詳細な説明の記載について
本件訂正後の明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)における発明の詳細な説明の段落【0004】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、鉄心本体における溶接ビードの状態を良好に維持することができる鉄心製品の製造方法及び鉄心製品を提供することであると解され、その課題を解決するための手段として、発明の詳細な説明の段落【0017】、【0025】、【0057】、【0058】、【0061】、【0062】には、溶接ビードB1,B2が、磁石挿入孔16を囲むように設定されるバッファ領域R1と重ならないように、積層体10及び端面板3の外周面にレーザを照射することが記載されている。そして、磁石挿入孔16に永久磁石12を樹脂封止する際、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がることがあるところ、バッファ領域R1は、この有機成分が拡がる領域に溶接ビードB1,B2が重ならないように設定されるものと解されるから、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がった領域を囲むように設定されるものである。
さらに、発明の詳細な説明の段落【0074】に「あるいは、回転子1は端面板を含んでいなくてもよい。この場合、例えば、複数の打抜部材Wを接合するように、積層体10に対して溶接が行われる。」と記載されていることも考慮すると、発明の詳細な説明には、前記した課題を解決するための手段として、溶接ビードB1,B2が、磁石挿入孔16を囲むように設定され、かつ溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域R1と重ならないように、積層体10の外周面にレーザを照射することが示されているといえる。

イ 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1は「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接する」という発明特定事項を備えるものであり、この発明特定事項を備える本件特許発明1は、前記アに示した、発明の詳細な説明に示されている課題を解決するための手段が反映されたものであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、当業者が前記アに示した課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)エ(エ)」において、図8に記載のバッファ領域R1と、図9に記載のバッファ領域R2との間に共通した技術的思想を見い出すことができないから、本件特許発明1には、課題を解決するための手段が反映されていない旨、及びバッファ領域の範囲に一切限定がないから、課題を解決できる「所定の範囲」を超えた範囲になっている旨を主張しているが、本件訂正請求により、図9及び図9に関する記載が削除され、また、請求項1に記載されたバッファ領域について「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定された」との限定が付加されたため、バッファ領域が、前記アに示した課題を解決するために設定されるものであることが明らかになったといえる。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)エ(オ)」において、発明の詳細な説明において、溶接トーチM15,M25から照射されるレーザの方向、当該レーザが照射される位置、当該レーザの強度等が説明されていないから、「前記溶接ビードが前記バッファ領域に到達しないように、前記鉄心本体を溶接する」構成は、発明の詳細な説明に開示されている構成であるとはいえない旨を主張しているが、前記アに示したように、発明の詳細な説明には、課題を解決するための手段として、溶接ビードB1,B2がバッファ領域R1と重ならないように、積層体10の外周面にレーザを照射することが示されており、この記載に接した当業者であれば、レーザの照射により形成される溶接ビードがバッファ領域R1と重ならないように、レーザの方向、照射位置、強度等の条件を調整可能であることは明らかである。すると、これらの具体的な条件が発明の詳細な説明に記載されていないことをもって、本件特許発明1が、前記アに示した課題を解決できないものであるとはいない。

よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすものである。

ウ 本件特許発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、前記イで検討した本件特許発明1と同様に、前記アに示した、発明の詳細な説明に示されている課題を解決するための手段が反映されたものであるから、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、当業者が前記アに示した課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許発明2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすものである。

(2)特許法第36条第6項第2号明確性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)「前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成する」について
本件特許発明1における「前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成する」という事項において、「前記積層体」とは、前記された「複数の打抜部材が積層された積層体」を意味するから、本件特許発明1の「前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成する」という事項が、「複数の打抜部材が積層された積層体」の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成することを意味していることは明らかである。
このことは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0074】に「あるいは、回転子1は端面板を含んでいなくてもよい。この場合、例えば、複数の打抜部材Wを接合するように、積層体10に対して溶接が行われる。」と記載されていることとも整合するものであり、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件特許発明1の「前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成する」という事項が不明確になるものではない。

(イ)「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、・・・バッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接すること」について

本件特許発明1における「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接すること」という事項は、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、バッファ領域に到達しないように、積層体の周面をレーザ溶接することを特定し、また、このバッファ領域が樹脂注入部を囲むように設定され且つ樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されるものであることを特定するものであって、その意味は明らかである。
このことは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】、【0025】、【0057】、【0058】、【0061】、【0062】、【0074】の記載とも整合するものであり、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件特許発明1の「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接すること」という事項が不明確になるものではない。

(ウ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)オ(イ)」において、複数の打抜部材W間を溶接ビードによって接合することについては、発明の詳細な説明のどこにも開示されていないから「前記鉄心本体を溶接して鉄心製品を構成すること」は明確であるとはいえない旨を主張しているが、前記(ア)に示したように、発明の詳細な説明の段落【0074】には、複数の打抜部材Wを接合するように、積層体10に対して溶接が行われることが記載されており、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件特許発明1における溶接される対象が不明確になることはない。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)オ(ウ)」において、図8に記載のバッファ領域R1を設定する基準と、図9に記載のバッファ領域R2を設定する基準が異なっているので、バッファ領域の技術的意義を明らかにすることができない旨、及び請求項1に記載された「溶接ビードが、・・・バッファ領域に到達しないように」することと図9の記載とが整合しないため、請求項1の記載の技術的意義が明確でない旨を主張しているが、本件訂正請求により、図9及び図9に関する記載が削除され、また、請求項1に記載されたバッファ領域について「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定された」との限定が付加されたため、バッファ領域がどのようなものかが明らかになったといえる。

さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)オ(ウ)」において、発明の詳細な説明には、レーザの方向、当該レーザが照射される位置、当該レーザの強度等の制御パラメータを適切な値に設定するための具体的なデータが記載されていないから、「溶接によって形成される溶接ビードが、前記溶接ビードと前記樹脂注入部との間に設定されるバッファ領域に到達しないように、前記鉄心本体を溶接すること」がいかなる構成であるか不明である旨を主張しているが、発明の詳細な説明に、レーザの方向、当該レーザが照射される位置、当該レーザの強度等の具体的なデータが記載されていないことをもって、本件特許発明1の発明特定事項が不明確になるものではない。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)オ(ウ)」において、バッファ領域には「所定の範囲」があるにもかかわらず、範囲を特定していないから発明が不明確である旨を主張しているが、本件訂正請求により、請求項1に記載されたバッファ領域について「前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定された」との限定が付加されたため、バッファ領域の範囲が明らかになったといえる。

よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たすものである。

イ 本件特許発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、また、請求項2に記載された事項に不明確な点はないから、本件特許発明2は、前記アで検討した本件特許発明1と同様に明確である。
したがって、本件特許発明2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たすものである。

(3)特許法第36条第4項第1号実施可能要件)について
ア 本件特許発明1について
(ア)発明の詳細な説明には、前記(1)アに示したように、溶接ビードB1,B2が、磁石挿入孔16を囲むように設定され、かつ溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域R1と重ならないように、積層体10の外周面にレーザを照射することが示されているといえる。
そして、この記載に触れた当業者であれば、磁石挿入孔16の周囲に拡がった溶融樹脂の有機成分と、溶接ビードB1,B2とが重ならないような適切な範囲のバッファ領域R1を過度の試行錯誤を要することなく設定できるものといえ、また、レーザの方向、照射位置、強度等の条件についても、過度の試行錯誤を要することなく、溶接ビードB1,B2がバッファ領域R1と重ならないような適切な条件に調整可能であるといえる。
すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の方法を使用することができる程度に記載されているといえる。

(イ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)カ(イ)」において、有機成分の拡がり幅が不明であるから、バッファ領域が不明である旨、及び発明の詳細な説明には、バッファ領域の「所定の範囲」についての記載がない旨を主張しているが、溶融樹脂の有機成分が拡がる幅は、当業者であれば、実験、シミュレーション等により過度の試行錯誤を要することなく、把握可能であり、また、この把握可能な有機成分の拡がる幅に基づいて、適切な範囲のバッファ領域を設定できるものといえる。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)カ(イ)」において、発明の詳細な説明には、レーザの方向、照射位置、強度等を例示していない旨を主張しているが、前記(ア)に示したように、発明の詳細な説明には、溶接ビードB1,B2がバッファ領域R1と重ならないように、積層体10の外周面にレーザを照射することが示されており、この記載に触れた当業者であれば、レーザの照射により形成される溶接ビードがバッファ領域R1と重ならないように、レーザの方向、照射位置、強度等の条件を過度の試行錯誤を要することなく調整可能であるといえる。

よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。

イ 本件特許発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、また、請求項2に記載された事項を実施することに過度な試行錯誤は要しないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、前記アで検討した本件特許発明1の方法と同様に、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2の方法を使用することができる程度に記載されているといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。

(4)甲1発明を主引用発明とした特許法第29条第2項進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「軸孔11の延びる方向と同じ方向」は、回転子積層鉄心12における中心の軸が延びる方向と同じ方向であるといえるから、本件特許発明1の「中心軸の延在方向」に相当する。また、甲1発明の「鉄心片」は、通常、電磁鋼板を打ち抜いて形成されるから、本件特許発明1の「打抜部材」に相当し、以下同様に、「回転子積層鉄心12」は「積層体」に、「形成された」は「設けられた」に相当する。さらに、甲1発明の「磁石挿入孔13」は、溶かした熱硬化性樹脂15の原料18が充填されるから、本件特許発明1の「樹脂注入部」に相当し、以下同様に「溶かした熱硬化性樹脂15の原料18」は「溶融樹脂」に、「充填する」は「注入する」に相当する。
さらに、甲1発明の「永久磁石の樹脂封止方法」は、回転子積層鉄心12の製造に用いられるものであるから、本件特許発明1の「鉄心製品の製造方法」に相当する。
以上のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、次の[一致点1−1]で一致し、[相違点1−1]において、相違する。
[一致点1−1]
「中心軸の延在方向に延びるように、複数の打抜部材が積層された積層体に設けられた樹脂注入部に溶融樹脂を注入することを含む、鉄心製品の製造方法。」

[相違点1−1]
本件特許発明1は、「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成することとを含み、前記鉄心製品を構成することは、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接することを含む」のに対し、甲1発明においては、回転子積層鉄心12の周面をレーザ溶接するのか不明であり、また、溶接をする際、バッファ領域を設定しているとはいえない点。

(イ)相違点の判断
上記相違点1−1について検討する。
本件特許発明1は、本件特許に係る明細書の段落【0061】、【0062】の記載を参照すると、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔(樹脂注入部)の周囲に拡がることがあり、この有機成分が拡がる領域に溶接ビードが重なると、該有機成分が発泡して溶接ビードに空孔が生じてしまうため、「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接」する際、「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接する」ものである。
しかしながら、甲1発明は、「回転子積層鉄心12に形成された磁石挿入孔13に溶かした熱硬化性樹脂15の原料18を充填する」ものではあるものの、甲第1号証には、回転子積層鉄心12を溶接することや、磁石挿入孔13の周囲から溶接ビードと重なる領域まで溶かした熱硬化性樹脂15の原料18が拡がることについて、何ら記載も示唆もされていない。すると、甲1発明において、磁石挿入孔13の周囲に拡がる溶かした熱硬化性樹脂15の原料18と、溶接ビードとが重なることは、当業者といえども、想定し得ないものであるから、磁石挿入孔13を囲み、且つ溶かした熱硬化性樹脂15の原料18が該磁石挿入孔13の周囲に拡がった領域を囲むようにバッファ領域を設定し、溶接ビードが該バッファ領域に到達しないように、回転子積層鉄心12の周面を溶接するという事項を採用する動機付けはないといえる。

また、甲第2号証には、甲2記載事項によると、コア11の外周に形成された溝31側面を溶接し、溶接痕である外周側溶接部32、33を形成することが記載されているが、磁石用貫通孔23に溶融樹脂を注入することについて、何ら記載も示唆もされていない。すると、仮に、甲1発明において、回転子積層鉄心12の外周を溶接することが、甲2記載事項に基づき、当業者が容易に想到し得るものであったとしても、甲1発明の「回転子積層鉄心12に形成された磁石挿入孔13に溶かした熱硬化性樹脂15の原料18を充填する」ことと、回転子積層鉄心12の外周を溶接することのどちらを先に行うかは不明であり、この溶接の際、磁石挿入孔13の周囲から溶接ビードと重なる領域まで溶かした熱硬化性樹脂15の原料18が拡がっていることを想定できるものではない。
さらに、甲第3号証の記載(前記1(7)ア及びイ参照。)から、プラスチックに有機化合物が含まれることが把握でき、甲第4号証の記載(前記1(8)ア〜エ参照。)から、接着剤を介在させた金属板同士の接合部位に重ねてレーザ溶接を施す方式では、レーザ光の照射により熱を加えると有機物である接着剤からガスが発生して、そのガスが溶融金属に入り込んで、接合強度が低下することが把握でき、甲第5号証の記載(前記1(9)ア及びイ参照。)から、溶融金属の凝固中に過飽和になったガスが溶接金属内に残留し、気孔となることが把握できるとしても、回転子積層鉄心の外周を溶接する際、磁石挿入孔の周囲から溶接ビードと重なる領域まで溶融樹脂が拡がっていることについては、いずれの文献にも記載も示唆もされていない。
そうすると、甲第2号証〜甲第5号証の記載を考慮しても、甲1発明において、磁石挿入孔13を囲み、且つ溶かした熱硬化性樹脂15の原料18が該磁石挿入孔13の周囲に拡がった領域を囲むようにバッファ領域を設定し、溶接ビードが該バッファ領域に到達しないように、回転子積層鉄心12の周面を溶接するという事項を採用することは、当業者といえども、容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第3号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明2も「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成することとを含み、前記鉄心製品を構成することは、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接することを含む」いう発明特定事項を備えるものであるから、本件特許発明2は、前記アで検討した本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第3号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲6発明を主引用発明とした特許法第29条第1項第3号新規性)及び同条第2項(進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲6発明1との対比
本件特許発明1と甲6発明1とを対比する。
甲6発明1の「中心軸Ax2に沿って延びる」は、本件特許発明1の「中心軸の延在方向に延びる」に相当し、以下同様に、「打抜部材B2」は「打抜部材」に、「積層体20」は「積層体」に、「形成された」は「設けられた」に相当する。また、甲6発明1の「磁石挿入孔21」は、溶融樹脂が充填されるから、本件特許発明1の「樹脂注入部」に相当し、同様に、「溶融樹脂を充填する工程」は「溶融樹脂を注入すること」に相当する。
さらに、甲6発明1の「回転子積層鉄心2」は、本件特許発明1の「鉄心製品」に相当する。また、甲6発明1の「積層体20に溶接を施す工程」は、積層体20を溶接して回転子積層鉄心2を製造するものであるから、本件特許発明1の「前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成すること」とは、「前記積層体を溶接して鉄心製品を構成すること」である点において共通する。同様に、甲6発明1の「積層体20に溶接を施す工程」と、本件特許発明1の「前記鉄心製品を構成することは、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接すること」とは、「前記鉄心製品を構成することは、前記積層体を溶接すること」である点において共通する。
以上のことから、本件特許発明1と甲6発明1とは、次の[一致点1−2]で一致し、[相違点1−2]において、相違する。
[一致点1−2]
「中心軸の延在方向に延びるように、複数の打抜部材が積層された積層体に設けられた樹脂注入部に溶融樹脂を注入することと、
前記積層体を溶接して鉄心製品を構成することとを含み、
前記鉄心製品を構成することは、前記積層体を溶接することを含む、鉄心製品の製造方法。」

[相違点1−2]
積層体を溶接して鉄心製品を構成することについて、本件特許発明1は、「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に」、「周面」を「レーザ」溶接し、「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように」溶接するものであるのに対し、甲6発明1においては、「加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい」ものの、「溶融樹脂を充填する工程」の後に行われるのかや、積層体20の周面を溶接するのかや、レーザ溶接を用いるのかが不明であり、また、溶接をする際、バッファ領域を設定しているとはいえない点。

(イ)相違点の判断
上記相違点1−2について検討する。
本件特許発明1は、本件特許に係る明細書の段落【0061】、【0062】の記載を参照すると、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔(樹脂注入部)の周囲に拡がることがあり、この有機成分が拡がる領域に溶接ビードが重なると、該有機成分が発泡して溶接ビードに空孔が生じてしまうため、「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接」する際、「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接する」ものである。
しかしながら、甲6発明1は、「複数の打抜部材B2が積層された積層体20に形成された磁石挿入孔21に溶融樹脂を充填する工程」と「加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい、積層体20に溶接を施す工程が存在する場合」とを含むものではあるものの、甲第6号証の記載をみても、該「溶融樹脂を充填する工程」と該「積層体20に溶接を施す工程」のどちらを先に行うかは不明であり、また、甲第6号証には、磁石挿入孔21を囲み、且つ溶融樹脂が該磁石挿入孔21の周囲に拡がった領域を囲むようにバッファ領域を設定し、溶接ビードが該バッファ領域に到達しないように、積層体20の周面をレーザ溶接するという事項について、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、相違点1−2は、実質的な相違点である。

さらに、甲第6号証には、磁石挿入孔21に溶融樹脂を充填する工程の後に、積層体20を溶接することや、磁石挿入孔21の周囲から溶接ビードと重なる領域まで溶融樹脂が拡がることについて、何ら記載も示唆もされていないから、甲6発明1において、磁石挿入孔21を囲み、且つ溶融樹脂が該磁石挿入孔21の周囲に拡がった領域を囲むようにバッファ領域を設定し、溶接ビードが該バッファ領域に到達しないように、積層体20の周面をレーザ溶接するという事項を採用する動機付けはないといえる。
したがって、甲6発明1において、本件特許発明1の相違点1−2に係る発明特定事項を採用することは、当業者といえども、容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、本件特許発明1は、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、甲6発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明2も「前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に」、「周面」を「レーザ」溶接し、「レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように」溶接するという発明特定事項を備えるものであるから、本件特許発明2は、前記アで検討した本件特許発明1と同じ理由により、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、甲6発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.本件特許発明3について
(1)特許法第36条第6項第2号明確性)について
本件訂正後の請求項3の「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」の記載に関して、「鉄心製品」という物の発明である本件特許発明3において、本件特許の明細書又は図面を参酌しても、前記記載のように定義されるバッファ領域が設定された「鉄心製品」であるのか否かを把握することができず、当該記載で物の発明である「鉄心製品」のどのような構造や性質等を特定しようとしているのかが不明であり、物としての「鉄心製品」において、「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」か否かをどのように判断するのかが不明である。
よって、本件特許発明3は、明確でない。

(2)特許法第29条第2項進歩性)について
ア 本件特許発明3と甲6発明2との対比
本件特許発明3と甲6発明2とを対比する。
甲6発明2の「中心軸Ax2に沿って延びる」は、本件特許発明3の「中心軸の延在方向に延びる」に相当し、甲6発明2の「磁石挿入孔21」は、孔内に磁石とともに樹脂材料が充填されることになるから、本件特許発明3の「樹脂注入部」に相当する。また、甲6発明2の「形成され」は、本件特許発明3の「設けられ」に相当し、以下同様に、「打抜部材B2」は「打抜部材」に、「積層体20」は「積層体」に、「充填された」は「形成された」に、「樹脂材料23」は「樹脂部」に、「回転子積層鉄心2」は「鉄心製品」に、それぞれ相当する。
以上のことから、本件特許発明3と甲6発明2とは、次の[一致点2]で一致し、[相違点2]において、相違する。
[一致点2]
「中心軸の延在方向に延びる樹脂注入部が設けられ、複数の打抜部材が積層されて構成された積層体と、
前記樹脂注入部に形成された樹脂部と、
を備えた鉄心製品。」

[相違点2]
鉄心本体の溶接に関して、本件特許発明3においては、「前記積層体の周面に形成された溶接ビード」を備え、「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」ことが特定されているのに対し、甲6発明2においては、「複数の打抜部材B2が積層されて構成されている積層体20に溶接を施す工程が存在する場合には、加圧装置100を用いて溶接処理を実施してもよい」ものの、溶接ビードの態様及びバッファ領域について不明である点。

相違点の判断
請求項3の「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」の記載は、前記(1)のとおり物の発明である鉄心製品のどのような構造や性質等を特定しようとしているのかが不明な記載であるが、本件特許発明3のバッファ領域は、樹脂注入部を囲む領域で、溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が周囲に拡がった領域を囲んでいる任意の領域、すなわち溶融樹脂の有機成分が周囲に拡がった領域そのものであるものも含まれるとして、上記相違点2について検討する。
甲6発明2において、回転子積層鉄心への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が周囲に拡がった領域については、回転子積層鉄心の周面から当該溶融樹脂が漏れ出すような状況は効率の低下につながり得ることから、当該周囲に拡がった領域の大きさをできる限り小さくすることが望ましく、当該周囲に拡がった領域が回転子積層鉄心の周面近傍まで達しないのが通常であるといえる。
そして、強度向上等のために回転子積層鉄心を溶接することは当業者が適宜行うものであり、甲6発明2において、加圧装置100を用いて溶接処理を実施する際に、甲6発明2が回転子積層鉄心であることを踏まえて、積層体の外周面を溶接する甲6記載技術を参照すれば、積層体20の外周面に溶接ビードを形成することは当業者が容易に想到し得たものである。その際、磁石挿入孔である樹脂注入部の形状や性質に影響が及ばないように溶接をすることは当業者が当然に考慮できたことにすぎず、例えば、甲2記載技術のように1mm程度の僅かな深さを溶かして溶接するよう構成することに格別の困難性は認められない。
そうすると、甲6発明2において溶接を行う際、甲2記載技術のように溶接し、溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が周囲に拡がった領域、すなわちバッファ領域と、溶接ビードとが接していないとすること、つまり、「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

特許権者は、令和2年11月5日付けの意見書において、「訂正後の請求項3に係る発明の技術的思想は、溶融樹脂の注入に際して樹脂注入部の周囲に拡がる有機成分に溶接ビードが接することで、溶接ビードに空孔が生じてしまうことから、溶接ビードを樹脂注入部から離して空孔の発生を避けることにある(段落0061を参照)。しかしながら、甲第6号証は、磁石挿入孔21に溶融樹脂を注入することは開示しているものの、溶融樹脂の有機成分の拡がりについて何ら記載も示唆もしていない。そのため、甲第6号証は、溶融樹脂の有機成分の拡がりを前提とするバッファ領域についても何ら記載も示唆もしていない。
また、甲第2号証はそもそも、溶融樹脂の注入に関して何ら記載も示唆もしていない。
そのため、甲6発明に、甲6記載技術又は甲2記載技術を適用したとしても、本願発明の技術的思想(前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない)に到達したはずであるとはいえない。」と主張する。
この点に関しては、前記(1)のとおり、請求項3の「前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない」の記載は、物の発明である鉄心製品のどのような構造や性質等を特定しようとしているのかが不明な記載であり、請求人の主張する本願発明の技術的思想が反映された構成であるとはいえず、前記のとおり、甲6発明2において、甲6記載技術及び甲2記載技術に鑑み、本件特許発明3の前記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、甲6発明2において、甲6記載技術及び甲2記載技術に鑑み、本件特許発明3の前記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許発明3は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであり、また、本件特許発明3は、甲6発明2、甲6記載技術、及び甲2記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項1〜2に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲 【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】(削除)
 
発明の名称 (54)【発明の名称】鉄心製品の製造方法及び鉄心製品
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄心製品の製造方法及び鉄心製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、埋込磁石型(IPM:Interior Permanent Magnet)モータに用いられる回転子鉄心を開示している。当該回転子鉄心は、回転軸の延在方向に貫通して延びる複数の磁石挿入孔が回転軸周りに所定間隔をもって設けられた鉄心本体と、各磁石挿入孔にそれぞれ配置された永久磁石と、各磁石挿入孔に充填及び固化された固化樹脂とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−067094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、鉄心本体における溶接ビードの状態を良好に維持することが可能な鉄心製品の製造方法及び鉄心製品を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一つの観点に係る鉄心製品の製造方法は、高さ方向に延びるように鉄心本体に設けられた樹脂注入部に溶融樹脂を注入することと、鉄心本体を溶接して鉄心製品を構成することとを含む。鉄心製品を構成することは、溶接によって形成される溶接ビードが、溶接ビードと樹脂注入部との間に設定されるバッファ領域に到達しないように、鉄心本体を溶接することを含む。
【0006】
本開示の他の観点に係る鉄心製品は、高さ方向に延びる樹脂注入部が設けられた鉄心本体と、樹脂注入部に形成された樹脂部と、鉄心本体の周面に形成された溶接ビードとを備える。溶接ビードは、溶接ビードと樹脂注入部との間に設定されるバッファ領域に到達していない。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る鉄心製品の製造方法及び鉄心製品によれば、鉄心本体における溶接ビードの状態を良好に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、回転子の一例を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II線断面図である。
【図3】図3は、回転子の製造装置の一例を示す概略図である。
【図4】図4は、樹脂注入装置により回転子積層鉄心の磁石挿入孔に溶融樹脂を注入する様子を説明するための断面図である。
【図5】図5は、溶接装置により各端面板を積層体に溶接する様子を説明するための断面図である。
【図6】図6は、位置決め部材により各端面板と積層体とを位置決めする様子を説明するための上面図である。
【図7】図7は、回転子の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、溶接ビードと磁石挿入孔のバッファ領域との関係の一例を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0010】
[回転子の構成]
まず、図1及び図2を参照して、回転子1(ロータ)の構成について説明する。回転子1は、固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)を構成する。本実施形態において、回転子1は埋込磁石型(IPM)モータを構成する。
【0011】
回転子1は、回転子積層鉄心2(回転子鉄心)と、一対の端面板3,4と、シャフト5とを含む。
【0012】
回転子積層鉄心2は、積層体10(鉄心本体)と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14(樹脂部)とを備える。
【0013】
積層体10は、図1に示されるように、円筒状を呈している。すなわち、積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10a(第2の軸孔)が設けられている。すなわち、軸孔10aは、積層体10の積層方向(以下、単に「積層方向」という。)に延びている。積層方向は、積層体10の高さ方向でもあり、中心軸Axの延在方向でもある。本実施形態において積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。
【0014】
軸孔10aの内周面には、一対の突条10bと、複数の凹溝10cとが形成されている。突条10b及び凹溝10cは共に、積層体10の上端面S1(第1の端面)から下端面S2(第2の端面)に至るまで積層方向に延びている。一対の突条10bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔10aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。一つの突条10bの両側には、凹溝10cが一つずつ位置している。凹溝10cの一つの側面(突条10bから離れて位置する側面)は、積層体10の径方向に対して斜めに交差する傾斜面S3(第2の傾斜面)となっている。すなわち、軸孔10aの内周面は傾斜面S3を含んでいる。
【0015】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16(樹脂注入部)が形成されている。磁石挿入孔16は、図1に示されるように、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。すなわち、磁石挿入孔16は積層方向に延びている。
【0016】
磁石挿入孔16の形状は、本実施形態では、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔である。磁石挿入孔16の数は、本実施形態では6個である。磁石挿入孔16は、上方から見て、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0017】
積層体10の外周面には、複数の凹溝18が形成されている。凹溝18は、積層体10の上端面S1から下端面S2にかけて積層方向に延びている。本実施形態では、8つの凹溝18が、中心軸Ax周りに略45°間隔で積層体10の外周面に形成されている。
【0018】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ESが所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0019】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、図1及び図2に示されるように、カシメ部20によって締結されていてもよい。これらの打抜部材W同士は、カシメ部20に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体10を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ回転子積層鉄心2を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0020】
永久磁石12は、図1及び図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体形状を呈している。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0021】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入された後の磁石挿入孔16内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0022】
端面板3,4は、図1に示されるように、円環状を呈している。すなわち、端面板3,4の中央部にはそれぞれ、端面板3,4を貫通する軸孔3a,4a(第1の軸孔)が設けられている。
【0023】
軸孔3aの内周面には、一対の突起3bと、複数の切欠3cとが形成されている。一対の突起3bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔3aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。一つの突起3bの両側には、切欠3cが一つずつ位置している。切欠3cの一つの側面(突起3bから離れて位置する側面)は、端面板3の径方向に対して斜めに交差する傾斜面S4(第2の傾斜面)となっている。すなわち、軸孔3aの内周面は傾斜面S4を含んでいる。
【0024】
軸孔4aの内周面にも、軸孔3aと同様に、一対の突起4bと、複数の切欠4cとが形成されている。突起4b及び切欠4cの構成は突起3b及び切欠3cと同様であるので、説明を省略する。すなわち、軸孔4aの内周面も、端面板4の径方向に対して斜めに交差する傾斜面S5(第2の傾斜面)を含んでいる。
【0025】
端面板3の外周面には、複数の切欠22が形成されている。本実施形態では、8つの切欠22が、中心軸Ax周りに略45°間隔で端面板3の外周面に形成されている。端面板4の外周面にも、端面板3と同様に、複数の切欠24が形成されている。本実施形態では、8つの切欠24が、中心軸Ax周りに略45°間隔で端面板4の外周面に形成されている。
【0026】
端面板3,4はそれぞれ、積層体10の上端面S1及び下端面S2に配置されており、積層体10と溶接により接合されている。具体的には、端面板3は、図2に示されるように、凹溝18及び切欠22を跨がるように設けられた溶接ビードB1を介して、積層体10の上端近傍に位置する打抜部材Wと接合されている。同様に、端面板4は、凹溝18及び切欠24を跨がるように設けられた溶接ビードB2によって、積層体10の下端近傍に位置する打抜部材Wと接合されている。このように、回転子積層鉄心2と端面板3,4とは、溶接によって一体化されているので、一つの回転体6(鉄心製品)として機能する。
【0027】
端面板3,4は、ステンレス鋼によって構成されていてもよい。当該ステンレス鋼としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304等)が挙げられる。端面板3,4は、非磁性材料によって構成されていてもよい。端面板3,4の熱膨張係数は、通常、電磁鋼板の熱膨張係数よりも高いが、電磁鋼板の熱膨張係数と同程度であってもよいし、電磁鋼板の熱膨張係数よりも小さくてもよい。
【0028】
シャフト5は、全体として円柱状を呈している。シャフト5には、一対の凹溝5aが形成されている。凹溝5aは、シャフト5の一端から他端にかけてシャフト5の延在方向に延びている。シャフト5は、軸孔3a,4a,10a内に挿通されている。このとき、凹溝5aには、突起3b,4b及び突条10bが係合する。これにより、シャフト5と回転子積層鉄心2との間で回転力が伝達する。
【0029】
[回転子の製造装置]
続いて、図3〜図6を参照して、回転子1の製造装置100について説明する。
【0030】
製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ES(被加工板)から回転子1を製造するための装置である。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、樹脂注入装置140と、溶接装置150と、シャフト取付装置160と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0031】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて間欠的に順次送り出す。
【0032】
打抜装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0033】
積層体10は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130と樹脂注入装置140との間を延びるように設けられたコンベアCv1に載置される。コンベアCv1は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を樹脂注入装置140に送り出す。
【0034】
樹脂注入装置140は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。樹脂注入装置140は、各磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能と、永久磁石12が挿通された磁石挿入孔16内に溶融樹脂を充填する機能とを有する。樹脂注入装置140は、図4に詳しく示されるように、下型141と、上型142と、複数のプランジャ143とを含む。
【0035】
下型141は、ベース部材141aと、ベース部材141aに設けられた挿通ポスト141bとを含む。ベース部材141aは、矩形状を呈する板状部材である。ベース部材141aは、積層体10を載置可能に構成されている。挿通ポスト141bは、ベース部材141aの略中央部に位置しており、ベース部材141aの上面から上方に向けて突出している。挿通ポスト141bは、円柱形状を呈しており、積層体10の軸孔10aに対応する外形を有する。
【0036】
上型142は、下型141と共に積層体10を積層方向(積層体10の高さ方向)において挟持可能に構成されている。上型142は、ベース部材142aと、内蔵熱源142bとを含む。
【0037】
ベース部材142aは、矩形状を呈する板状部材である。ベース部材142aには、一つの貫通孔142cと、複数の収容孔142dとが設けられている。貫通孔142cは、ベース部材142aの略中央部に位置している。貫通孔142cは、挿通ポスト141bに対応する形状(略円形状)を呈しており、挿通ポスト141bが挿通可能である。
【0038】
複数の収容孔142dは、ベース部材142aを貫通しており、貫通孔142cの周囲に沿って所定間隔で並んでいる。各収容孔142dは、下型141及び上型142が積層体10を挟持した際に、積層体10の磁石挿入孔16にそれぞれ対応する箇所に位置している。各収容孔142dは、円柱形状を呈しており、少なくとも一つの樹脂ペレットPを収容する機能を有する。
【0039】
内蔵熱源142bは、例えば、ベース部材142aに内蔵されたピークである。内蔵熱源142bが動作すると、ベース部材142aが加熱され、ベース部材142aに接触している積層体10が加熱されると共に、各収容孔142dに収容された樹脂ペレットPが加熱される。これにより、樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0040】
複数のプランジヤ143は、上型142の上方に位置している。各プランジャ143は、図示しない駆動源によって、対応する収容孔142dに対して挿抜可能となるように構成されている。
【0041】
積層体10は、樹脂注入装置140から排出されると、樹脂注入装置140と溶接装置150との間を延びるように設けられたコンベアCv2に載置される。コンベアCv2は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を溶接装置150に送り出す。
【0042】
溶接装置150は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。溶接装置150は、回転子積層鉄心2と端面板3,4とを溶接する機能を有する。溶接装置150は、図5に詳しく示されるように、一対の溶接機M10,M20を含む。溶接機M10は回転子積層鉄心2及び端面板3,4の下方に位置しており、溶接機M20は、回転子積層鉄心2及び端面板3,4の上方に位置している。
【0043】
溶接機M10は、フレームM11(第2の挟持部材)と、回転台M12と、一対の位置決め部材M13と、押子部材M14と、複数の溶接トーチM15(第2の溶接トーチ)とを含む。フレームM11は、回転台M12、位置決め部材M13及び押子部材M14を支持する。回転台M12は、フレームM11に対して回転可能に取り付けられている。回転台M12の内部には、内蔵熱源M16(加熱源)が設けられている。内蔵熱源M16は、例えばヒータであってもよい。
【0044】
位置決め部材M13は、回転子積層鉄心2の中心軸Axの径方向(図5の左右方向)に移動可能となるように回転台M12に取り付けられている。位置決め部材M13は、載置された回転子積層鉄心2及び端面板3,4を支持可能である。
【0045】
位置決め部材M13の内側面は、下方に向かうにつれて外側に拡がる傾斜面を呈している。図6に示されるように、位置決め部材M13の先端は二叉に分岐しており、各先端が切欠3c,4c及び凹溝10cの内周面に対応する形状を呈している。すなわち、位置決め部材M13の各先端は、位置決め部材M13の移動方向に対して斜めに交差すると共に傾斜面S3〜S5に対応する形状の傾斜面S6(第1の傾斜面)を含んでいる。
【0046】
押子部材M14は、一対の位置決め部材M13の間に位置している。押子部材M14は先端(上端)に向かうにつれて縮径する断面台形状を呈している。押子部材M14の側面は、位置決め部材M13の内側面と対応する傾斜面を呈している。そのため、押子部材M14が上方に押されると(図5の矢印Ar1参照)、一対の位置決め部材M13は互いに離れるように外方(図5の左右方向;図6の矢印Ar2参照)に押し出される。一方、押子部材M14が下方に引かれると、一対の位置決め部材M13は互いに近づくように内方(図5の左右方向)に移動する。
【0047】
溶接トーチM15は、端面板4と積層体10とを溶接するように構成されている。溶接トーチM15は、例えばレーザ溶接用のトーチである。複数の溶接トーチM15は、回転台M12の周囲に沿って並んでいる。
【0048】
溶接機M20も、溶接機M10と同様に、フレームM21(第1の挟持部材)と、内蔵熱源M26(加熱源)を含む回転台M22と、一対の位置決め部材M23と、押子部材M24と、端面板3と積層体10とを溶接するように構成された複数の溶接トーチM25(第1の溶接トーチ)とを含む。溶接機M20の構成は溶接機M10と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
積層体10は、溶接装置150から排出されると、溶接装置150とシャフト取付装置160との間を延びるように設けられたコンベアCv3に載置される。コンベアCv3は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10をシャフト取付装置160に送り出す。
【0050】
シャフト取付装置160は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。シャフト取付装置160は、回転子積層鉄心2と端面板3,4とが溶接により一体化された回転体6に対してシャフト5を取り付ける機能を有する。具体的には、シャフト耿付装置160は、回転子積層鉄心2、端面板3,4及びシャフト5を加熱しながら、軸孔3a,4a,10aに対してシャフト5を焼き嵌めする。このときの加熱温度は、例えば、150℃〜300℃程度であってもよい。
【0051】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130、樹脂注入装置140、溶接装置150及びシャフト取付装置160をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、これらに当該指示信号をそれぞれ送信する。
【0052】
[回転子の製造方法]
続いて、図3〜図8を参照して、回転子1の製造方法について説明する。まず、図3に示されるように、打抜装置130により電磁鋼板ESを順次打ち抜きつつ打抜部材Wを積層して、積層体10を形成する(図7のステップS11参照)。
【0053】
次に、積層体10を樹脂注入装置140に搬送して、図4に示されるように、樹脂注入装置140の下型141に積層体10を載置する。次に、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入する(図7のステップS12を参照)。各磁石挿入孔16内への永久磁石12の挿入は、人手で行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて、樹脂注入装置140が備えるロボットハンド(図示せず)等により行われてもよい。
【0054】
次に、上型142を積層体10上に載置する。そのため、積層体10は、下型141及び上型142で積層方向から挟持された状態となる。次に、各収容孔142dに樹脂ペレットPを投入する。上型142の内蔵熱源142bにより樹脂ペレットPが溶融状態となると、溶融樹脂をプランジャ143によって各磁石挿入孔16内に注入する(図7のステップS13を参照)。このとき、積層体10は、内蔵熱源142bにより、例えば150℃〜180℃程度に加熱される。その後、溶融樹脂が固化すると、磁石挿入孔16内に固化樹脂14が形成される。下型141及び上型142が積層体10から取り外されると、回転子積層鉄心2が完成する。
【0055】
次に、回転子積層鉄心2を溶接装置150に搬送して、図5に示されるように、積層体10の上端面S1に端面板3を配置すると共に、積層体10の下端面S2に端面板4を配置する。具体的には、溶接機M10の位置決め部材M13上に端面板4を載置し、端面板4上に回転子積層鉄心2を載置し、回転子積層鉄心2上に端面板3を載置し、位置決め部材M23が端面板3に対面するように端面板3上に溶接機M20を載置する。これにより、回転子積層鉄心2及び端面板3,4は、一対の溶接機M10,M20によって挟持され、所定の圧力で加圧される。このとき、コントローラCtrが内蔵熱源M16,M26に指示して、回転子積層鉄心2及び端面板3,4を加熱する。
【0056】
次に、押子部材M14を上方に移動させて一対の位置決め部材M13を左右に拡げると共に、押子部材M24を下方に移動させて一対の位置決め部材M23を左右に拡げる(図6の矢印Ar2参照)。これにより、位置決め部材M13の傾斜面S6が端面板4の傾斜面S5及び積層体10の傾斜面S3と当接してこれらを径方向外方に押圧し、端面板4が積層体10に位置決めされる。同様に、位置決め部材M23の傾斜面S6が端面板3の傾斜面S4及び積層体10の傾斜面S3と当接してこれらを径方向外方に押圧し、端面板3が積層体10に位置決めされる。
【0057】
次に、コントローラCtrが溶接トーチM15に指示して、端面板4及び積層体10に跨がるように切欠24及び凹溝18内に向けて溶接トーチM15がレーザを照射する。同様に、コントローラCtrが溶接トーチM25に指示して、端面板3及び積層体10に跨がるように切欠22及び凹溝18内に向けて溶接トーチM25がレーザを照射する。これにより、溶接ビードB1を介して端面板3と積層体10とが溶接されると共に、溶接ビードB2を介して端面板4と積層体10とが溶接される(図7のステップS14参照)。その結果、端面板3,4が回転子積層鉄心2に接合された回転体6が構成される。
【0058】
ここで、図8に示されるように、溶接ビードB1,B2が、磁石挿入孔16を囲むように設定されるバッファ領域R1と重ならないように、溶接トーチM15,M25から照射されるレーザの方向、当該レーザが照射される位置、当該レーザの強度等が設定されてもよい。バッファ領域R1は、少なくとも0.5mm以上、磁石挿入孔16から離間していてもよい。
【0059】
次に、コントローラCtrが回転台M22に指示して、回転台M22を駆動する。上記のとおり、回転子積層鉄心2及び端面板3,4は一対の溶接機Ml0,M20によって挟持されているので、回転台M22の回転力が回転子積層鉄心2、端面板3,4及び回転台M12に伝達され、これらも回転する。このように、回転台M22により回転子積層鉄心2及び端面板3,4を間欠的に回転させつつ、各切欠3c,4c及び凹溝10c内に対して順次溶接トーチM15,M25からレーザを照射する。各切欠3c,4c及び凹溝10c内に対するレーザの照射順は、特に限定されないが、中心軸Axの周方向において隣り合わない切欠3c,4c及び凹溝10c内に順次レーザを照射してもよく、中心軸Axに関して向かい合う切欠3c,4c及び凹溝10c内に順次レーザを照射してもよい。この場合、溶接部位同士の間での熱の影響が低減されるので、回転子積層鉄心2及び端面板3,4の熱による変形を抑制することが可能となる。
【0060】
次に、回転体6をシャフト取付装置160に搬送して、シャフト5を回転体6に対して焼き嵌めする(図7のステップS15参照)。こうして、回転子1が完成する。
【0061】
[作用]
ところで、磁石挿入孔16に永久磁石12を樹脂封止する際、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔16の周囲に拡がることがある。この有機成分が拡がる領域に溶接ビードB1,B2が重なると、有機成分が発泡して溶接ビードB1,B2内に空孔が生じてしまう懸念がある。各切欠22,24及び凹溝18を磁石挿入孔16から離れた箇所に設けることで、溶接ビードB1,B2と有機成分との接触を抑制することも考えられる。しかしながら、各切欠22,24及び凹溝18は磁石挿入孔16の近傍に設けられることが多い。なぜならば、磁石挿入孔16は端面板3,4及び積層体10の外周面近傍に位置しており、磁石挿入孔16の近傍の強度が小さくなる傾向にあるので、磁石挿入孔16の近傍を溶接して端面板3,4及び積層体10の接合強度を高める場合があるためである。
【0062】
そこで、以上の実施形態では、溶接ビードB1,B2がバッファ領域R1に到達しないように、端面板3,4と積層体10とが溶接される(図8参照)。そのため、磁石挿入孔16の周囲に拡がった有機成分が溶接ビードB1,B2によって加熱され難くなるので、溶接ビードB1,B2内に空孔が生じ難い。従って、端面板3,4の積層体10に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0063】
以上の実施形態では、位置決め部材Ml3,M23によって各端面板3,4が積層体10に対して位置決めされた状態で、各端面板3,4と積層体10とが溶接される。そのため、溶接時の熱による各端面板3,4の積層体10に対する位置ずれを抑制することが可能となる。
【0064】
以上の実施形態では、位置決め部材M13,M23の傾斜面S6が軸孔3a,4a,10aの傾斜面S3〜S5に当接することにより、各端面板3,4が、積層体10に対して、位置決め部材Ml3,M23の移動方向(図6の矢印Ar2参照)のみならず当該移動方向に交差する方向においても位置決めされる。そのため、位置決め部材Ml3,M23を一方向(図6の矢印Ar2参照)に移動させるだけで、各端面板3,4を積層体10に対してより正確に位置決めすることが可能となる。
【0065】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0066】(削除)
【0067】
(1)シャフト5を回転体6に取り付けることができれば、端面板3,4の軸孔3a,4aの内周縁全体が、積層体10の軸孔10aの内周縁と一致していなくてもよい。例えば、端面板3,4の軸孔3a,4aの内周縁全体が積層体10の軸孔10aの内周縁よりも径方向外方に位置していてもよい。
【0068】
(2)シャフト5を積層体10に取り付けた後に、磁石挿入孔16内に永久磁石12を樹脂封止してもよい。あるいは、シャフト5を回転子積層鉄心2に取り付けた後に、回転子積層鉄心2に端面板3,4を溶接してもよい。これらの場合、シャフト5の焼き嵌めの際の熱を、樹脂封止処理又は溶接処理に利用できる。
【0069】
(3)上記の実施形態では、位置決め部材Ml3,M23の傾斜面S6を端面板3,4及び積層体10の傾斜面S3〜S5に当接させることにより、端面板3,4を積層体10に対して位置決めしていたが、これらの位置決めのために傾斜面S3〜S6を利用しなくてもよい。例えば、交差する方向に移動する二対の位置決め部材を用いてもよい。
【0070】
(4)溶接処理の際に、溶接トーチM15,M25を上下方向に移動させながら、積層体10の外周面を積層方向に複数箇所溶接してもよい。
【0071】
(5)上記の実施形態では、溶接装置150が二つの溶接機Ml0,M20を含んでいたが、溶接装置150が一つの溶接機を含んでいてもよい。この場合、例えば、当該溶接機の溶接トーチは、端面板3と積層体10とをまず溶接した後、高さ方向に移動して(降下して)、端面板4と積層体10とを溶接してもよい。あるいはこの場合、例えば、端面板3と積層体10とをまず溶接した後、接合された端面板3と共に回転子積層鉄心2を反転させて溶接装置150にセットし、端面板4と積層体10とを溶接してもよい。
【0072】
(6)上記の実施形態では、凹溝18及び切欠22,24内に向けて溶接トーチからレーザを照射することで端面板4及び積層体10を接合していたが、凹溝18及び切欠22,24以外の箇所に向けて溶接トーチからレーザを照射することで端面板4及び積層体10を接合してもよい。
【0073】
(7)積層体10、回転子積層鉄心2又は回転体6の搬送に際して、コンベアCv1〜Cv3を用いなくてもよい。例えば、これらがコンテナに載置された状態で、人手によって搬送されてもよい。
【0074】
(8)積層体10の少なくとも一方の端面に端面板が配置されていてもよい。あるいは、回転子1は、端面板を含んでいなくてもよい。この場合、例えば、複数の打抜部材Wを接合するように、積層体10に対して溶接が行われる。具体的には、全ての打抜部材Wを接合するように、積層体10の上端から下端にわたって高さ方向に延びる溶接ビードが積層体10の周面に形成されてもよい。あるいは、積層体10の上端部及び/又は下端部における数枚の打抜部材Wを接合するように、溶接ビードが積層体10の周面に形成されていてもよい。これらの場合、上端部及び/又は下端部における打抜部材Wがめくれてしまうことが抑制できる。後者の場合には特に、上端部及び/又は下端部の一部に溶接ビードが形成されるので、溶接による回転子1の磁気特性の低下を抑制できる。
【0075】
(9)複数の永久磁石12が一つの磁石挿入孔16内に挿入されていてもよい。この場合、複数の永久磁石12は、一つの磁石挿入孔16内において積層方向に沿って隣り合うように並んでいてもよいし、磁石挿入孔16の長手方向に並んでいてもよい。
【0076】
(10)上記の実施形態では、複数の打抜部材Wが積層されてなる積層体10が、永久磁石12が取り付けられる鉄心本体として機能していたが、鉄心本体が積層体10以外で構成されていてもよい。具体的には、鉄心本体は、例えば、強磁性体粉末が圧縮成形されたものであってもよいし、強磁性体粉末を含有する樹脂材料が射出成形されたものであってもよい。
【0077】
(11)回転子1以外の鉄心製品(例えば、固定子積層鉄心)に本技術を適用してもよい。具体的には、固定子積層鉄心と巻線との間を絶縁するための樹脂膜を固定子積層鉄心のスロットの内周面(樹脂柱入部)に設ける際に、本技術を適用してもよい。固定子積層鉄心としては、複数の鉄心片が組み合わされてなる分割型の固定子積層鉄心であってもよいし、非分割型の固定子積層鉄心であってもよい。これらの積層鉄心において、高さ方向に貫通する貫通孔(樹脂柱入部)内に溶融樹脂を充填することで複数の打抜部材を接合する際に、本技術を適用してもよい。
【0078】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る鉄心製品(6)の製造方法は、高さ方向に延びるように鉄心本体(10)に設けられた樹脂注入部(16)に溶融樹脂を注入することと、鉄心本体(10)を溶接して鉄心製品(6)を構成することとを含む。鉄心製品(6)を構成することは、溶接によって形成される溶接ビード(B1、B2)が、溶接ビード(B1,B2)と樹脂注入部(16)との間に設定されるバッファ領域(R1)に到達しないように、鉄心本体(10)を溶接することを含む。ところで、樹脂注入部に溶融樹脂を注入する際、溶融樹脂の有機成分が磁石挿入孔の周囲に拡がることがある。この有機成分が拡がる領域に溶接ビードが重なると、有機成分が発泡して溶接ビード内に空孔が生じてしまう懸念がある。しかしながら、例1によれば、溶接ビードが所定のバッファ領域に到達しないので、溶接ビード内に空孔が生じ難い。そのため、鉄心本体における溶接ビードの状態を良好に維持することが可能となる。
【0079】
例2.例1の方法において、溶接ビード(B1,B2)と樹脂注入部(16)との間は0.5mm以上離間していてもよい。この場合、溶接ビード内に空孔がより生じ難くなる。
【0080】
例3.本開示の他の例に係る鉄心製品(6)は、高さ方向に延びる樹脂注入部(16)が設けられた鉄心本体(10)と、樹脂注入部(16)に形成された樹脂部(14)と、鉄心本体(10)の周面に形成された溶接ビード(B1,B2)とを備える。溶接ビード(B1,B2)は、溶接ビード(B1,B2)と樹脂注入部(16)との間に設定されるバッファ領域(R1)に到達していない。
【符号の説明】
【0081】
1…回転子、2…回転子積層鉄心、3,4…端面板、3a,4a…軸孔(第1の軸孔)、5…シャフト、6…回転体(鉄心製品)、10…積層体(鉄心本体)、10a…軸孔(第2の軸孔)、12…永久磁石、14…固化樹脂(樹脂部)、16…磁石挿入孔(樹脂注入部)、100…製造装置、140…樹脂注入装置、150…溶接装置、B1,B2…溶接ビード、M10,M20…溶接機、M11…フレーム(第2の挟持部材)、M21‥フレーム(第1の挟持部材)、M13…位置決め部材、M23…位置決め部材、M15…溶接トーチ(第2の溶接トーチ)、M25…溶接トーチ(第1の溶接トーチ)、M16,M26…内蔵熱源(加熱源)、R1…バッファ領域、S1…上端面(第1の端面)、S2…下端面(第2の端面)、S3…傾斜面(第2の傾斜面)、S4…傾斜面(第2の傾斜面)、S5…傾斜面(第2の傾斜面)、S6…傾斜面(第1の傾斜面)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の延在方向に延びるように、複数の打抜部材が積層された積層体に設けられた樹脂注入部に溶融樹脂を注入することと、
前記樹脂注入部に溶融樹脂を注入することの後に、前記積層体の周面をレーザ溶接して鉄心製品を構成することとを含み、
前記鉄心製品を構成することは、レーザ溶接によって形成される溶接ビードが、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達しないように、前記積層体の周面をレーザ溶接することを含む、鉄心製品の製造方法。
【請求項2】
前記溶接ビードと前記樹脂注入部との間は0.5mm以上離間している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中心軸の延在方向に延びる樹脂注入部が設けられ、複数の打抜部材が積層されて構成された積層体と、
前記樹脂注入部に形成された樹脂部と、
前記積層体の周面に形成された溶接ビードとを備え、
前記溶接ビードは、前記樹脂注入部を囲むように設定され且つ前記樹脂注入部への溶融樹脂の注入に際して溶融樹脂の有機成分が前記樹脂注入部の周囲に拡がった領域を囲むように設定されたバッファ領域に到達していない、鉄心製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-25 
出願番号 P2018-144338
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (H02K)
P 1 651・ 113- ZDA (H02K)
P 1 651・ 537- ZDA (H02K)
P 1 651・ 536- ZDA (H02K)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 田合 弘幸
柿崎 拓
登録日 2019-12-06 
登録番号 6626934
権利者 株式会社三井ハイテック
発明の名称 鉄心製品の製造方法及び鉄心製品  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 松澤 寿昭  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 松澤 寿昭  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 石坂 泰紀  

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