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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
管理番号 1385128
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-22 
確定日 2022-03-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6688021号発明「レーザ溶接監視装置とレーザ溶接監視方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6688021号の明細書、及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6,13〕、〔7−12,14〕について訂正することを認める。 特許第6688021号の請求項1−2、6−8、12−14に係る特許を維持する。 特許第6688021号の請求項3−5、9−11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6688021号の請求項1−14に係る特許についての出願は、平成27年7月23日に出願され、令和2年4月7日にその特許権の設定登録がされ、同年4月28日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1−14に係る特許に対して、特許異議の申立て(以下、「本件特許異議申立て」という。)があり、次のとおりに手続が行われた。
令和2年10月22日 :特許異議申立人黒崎惇子(以下、「申立人」という。)による請求項1−14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 4月 1日付け:取消理由通知
令和3年 5月13日 :特許権者株式会社NISHIHARA(以下、「特許権者」という。)による訂正請求(以下、「初回訂正請求」という。)
令和3年 6月 7日 :特許権者による初回訂正請求の補正をする手続補正書の提出
令和3年 8月11日 :申立人による意見書の提出
令和3年10月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和3年12月 3日 :特許権者による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という」。)
なお、本件訂正請求により、令和3年6月7日に補正された初回訂正請求は、取り下げられたものとみなされる。
また、当審は、申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は応答しなかった。

第2 訂正の適否
本件訂正請求における特許請求の範囲及び明細書の訂正事項は、以下のとおりである。
1 一群の請求項1−6、13に係る訂正
<訂正事項と、請求項数の増減に伴う訂正前後の請求項の対応表>
訂正事項 訂正後請求項 訂正前請求項との対応関係
1 1 請求項1(請求項3−5を組み入れ)
2 3 削除
3 4 削除
4 5 削除
5 6 請求項6(引用関係の訂正)
6 13 請求項13(引用関係の訂正)

(1)訂正内容
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1の「溶接状態を判定する」を訂正後の請求項1の
「溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である」
に訂正する。(訂正後の請求項1を引用する請求項2、6、13も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2
請求項3を削除する。

ウ 訂正事項3
請求項4を削除する。

エ 訂正事項4
請求項5を削除する。

オ 訂正事項5
訂正前の請求項1−5のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項6を、請求項1または請求項2を引用する訂正後の請求項6に訂正する。

カ 訂正事項6
訂正前の請求項1−6のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項13を、請求項1、請求項2、または請求項6を引用する訂正後の請求項13に訂正する。

なお、訂正前の請求項1−6、13について、訂正前の請求項2−6、13は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1−6、13に対応する訂正後の請求項1−6、13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求の訂正事項1−6は、この一群の請求項について請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、溶接状態を判定するにあたり、具体的な溶接材料とそれに対応する波長を限定するもの、すなわち、アルミニウムの場合には375nm〜425nm範囲、鉄の場合には565nm〜615nm範囲、チタン及びSUS304の場合には745nm〜795nm範囲であることを限定するものである。
また、「特定の一波長」について、記載されたそれぞれの範囲の「範囲全体」であること、すなわち、波長の範囲全体をモニターすることを限定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、具体的な溶接材料とそれに対応する波長は、訂正前の請求項3−5及び本件特許明細書の段落【0043】に記載され、波長の範囲全体をモニターすることは、本件特許明細書の段落【0052】に「波長領域全体を特定の一波長としてモニターしてもよい」と記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2
訂正事項2に係る請求項3についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3
訂正事項3に係る請求項4についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項4
訂正事項4に係る請求項5についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項5
訂正事項5に係る請求項6についての訂正は、訂正前に引用していた請求項1−5のうち、削除された請求項3−5との引用関係を解消して、請求項1または請求項2を引用する訂正後の請求項6とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項6
訂正事項6に係る請求項13についての訂正は、訂正前に引用していた請求項1−6のうち、削除された請求項3−5との引用関係を解消して、請求項1、請求項2、または請求項6を引用する訂正後の請求項13とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2 一群の請求項7−12、14に係る訂正
<訂正事項と、請求項数の増減に伴う訂正前後の請求項の対応表>
訂正事項 訂正後請求項 訂正前請求項との対応関係
7 7 請求項7(請求項9−11を組み入れ)
8 9 削除
9 10 削除
10 11 削除
11 12 請求項12(引用関係の訂正)
12 14 請求項14(引用関係の訂正)

(1)訂正内容
ア 訂正事項7
訂正前の請求項7の「溶接状態を判定する」を訂正後の請求項7の
「溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である」
に訂正する。(訂正後の請求項7を引用する請求項8、12、14も同様に訂正する。)

イ 訂正事項8
請求項9を削除する。

ウ 訂正事項9
請求項10を削除する。

エ 訂正事項10
請求項11を削除する。

オ 訂正事項11
訂正前の請求項7−11のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項12を、請求項7または請求項8を引用する訂正後の請求項12に訂正する。

カ 訂正事項12
訂正前の請求項7−12のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項14を、請求項7、請求項8、または請求項12を引用する訂正後の請求項14に訂正する。

なお、訂正前の請求項7−12、14について、訂正前の請求項8−12、14は、訂正前の請求項7を直接的または間接的に引用しているものであって、訂正事項7によって訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項7−12、14に対応する訂正後の請求項7−12、14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求の訂正事項7−12は、この一群の請求項について請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項7
訂正事項7は、訂正事項1と同様に、溶接状態を判定するにあたり、具体的な溶接材料とそれに対応する波長を限定し、また、波長の範囲全体をモニターすることを限定するものであるから、訂正事項7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、訂正事項1と同様に、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項8
訂正事項8に係る請求項9についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項9
訂正事項9に係る請求項10についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項10
訂正事項10に係る請求項11についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項11
訂正事項11に係る請求項12についての訂正は、訂正前に引用していた請求項7−11のうち、削除された請求項9−11との引用関係を解消して、請求項7または請求項8を引用する訂正後の請求項12とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項12
訂正事項12に係る請求項14についての訂正は、訂正前に引用していた請求項7−12のうち、削除された請求項9−11との引用関係を解消して、請求項7、請求項8または請求項12を引用する訂正後の請求項14とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 明細書に係る訂正の内容
(1)訂正内容
訂正事項13
明細書段落【0022】の記載について、「図2(a)から理解できるように、可視光全体(400nm〜700nm)の発光強度を検出した場合には、・・」との記載を「図2(a)から理解できるように、可視光(400nm〜700nmの全体)の発光強度を検出した場合には、・・」と訂正する。
なお、訂正事項13は、訂正後の請求項1−2、6、13の一群の請求項、及び請求項7−8、12、14の一群の請求項に記載された「可視光」に関連し、訂正事項13を含む本件訂正請求は、全ての請求項に対して訂正が請求されているため、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第4項に規定する明細書に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われているものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項13について、一般に、可視光の波長が360〜830nm程度であることは技術常識である(例えば、JIS Z 8120:2001「光学用語」の「4.用語及び定義用語及び定義は,次による」のa)基礎関係、1)一般、番号01.01.04には、「可視放射,可視光,可視光線」の定義として、「目に入って,視感覚を起こすことができる放射。光線という概念で用いる場合は可視光線という。一般に可視放射の波長範囲の短波長限界は360〜400nm,長波長限界は760〜830nmにあると考えてよい。」と記載されている。)。
したがって、訂正事項13で訂正しようとする「可視光全体(400nm〜700nm)」との記載は誤りであることが明らかであり、また、段落【0022】の記載は、可視光の範囲の一部分である当該範囲の発光強度を検出した場合の不都合に関する内容を説明しようとするもので、「(400nm〜700nm)」は可視光全体ではなく、図2(a)のグラフを示すために使用した可視光の範囲であることも理解できる。
そうすると、訂正事項13により、「可視光(400nm〜700nmの全体)」と訂正することは、特許法第120条5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とすると認められる。
そして、図2(a)には、可視光の範囲が400nm〜700nmであるグラフが図示されているから、訂正事項13は、段落【0022】及び図2(a)から導き出されるものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項13は、訂正後の請求項1−2、6、13、及び請求項7−8、12、14に記載された「可視光」に関し、その解釈に影響を与え得る訂正であるが、可視光の波長が360〜830nm程度であるとの技術常識が存在し、当該訂正事項13については、上記のとおり誤記を訂正するもので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

4 小括
したがって、上記の訂正事項1−13は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6、13〕、〔7−12、14〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
【請求項1】
レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視装置において、
前記溶接材料に前記レーザ光が照射されて表側に形成された溶融池からの、前記溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記特定の一波長は、前記溶接材料の前記溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つである
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項3】削除
【請求項4】削除
【請求項5】削除
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記レーザ光は1070nm〜1100nmのファイバレーザである
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項7】
レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視方法において、
前記溶接材料に前記レーザ光が照射されて表側に形成された溶融池からの、前記溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記特定の一波長は、前記溶接材料の前記溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つである
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項9】削除
【請求項10】削除
【請求項11】削除
【請求項12】
請求項7または請求項8に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記レーザ光は1070nm〜1100nmのファイバレーザである
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2または請求項6に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記特定の一波長の発光強度の検出は、半値幅25nmの透過干渉フィルターを介して遂行される
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項14】
請求項7または請求項8または請求項12に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記特定の一波長の発光強度の検出は、半値幅25nmの透過干渉フィルターを介して遂行される
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、各請求項に係る発明をまとめて「本件発明」という。)

第4 当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由、及び当該取消理由に対する当審の判断
1 令和3年10月6日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項4、15、17、19、21、23、25、27及び請求項10、29、31、33、35、37、39、41
請求項4の「前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたは銅または鋼材であり、前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nmである」の発明特定事項について、溶接材料が「アルミニウム」の場合の特定の一波長の値しか記載されておらず、他の溶接材料の場合の特定の一波長の値が不明であることから、上記他の溶接材料の場合について溶接状態を判定することができないものである。
また、請求項4と同様の発明特定事項を含む請求項15、17、19、21、23、25、27についても同様である。
さらに、請求項4と同様の発明特定事項を含む方法の発明である請求項10、29、31、33、35、37、39、41についても同様である。

(2)請求項5、16、18、20、22、24、26、28及び請求項11、30、32、34、36、38、40、42
請求項5の「前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたは銅または鋼材であり、前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nmであり、前記溶接材料がSUSの場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nmであり、前記溶接材料がチタンの場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nmである」の発明特定事項について、溶接材料が「鉄」、「SUS(鋼材)」、「チタン」の場合の特定の一波長の値しか記載されておらず、他の溶接材料(アルミニウム、銅)の場合の特定の一波長の値が不明であることから、上記他の溶接材料の場合について溶接状態を判定することができないものである。
また、請求項5と同様の発明特定事項を含む請求項16、18、20、22、24、26、28についても同様である。
さらに、請求項5と同様の発明特定事項を含む方法の発明である請求項11、30、32、34、36、38、40、42についても同様である。

2 当審の判断
本件発明1及び7には、「前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である」
と記載され、それぞれの溶接材料と「特定の一波長」との対応が過不足なく特定されたから、上記取消理由は解消した。
よって、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由によっては、本件発明の特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものとは認められない。

第5 当審が取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 特許法第29条第1項、及び第2項に係る理由について(特許異議申立書第9−66ページ)
(1)引用文献
甲第1号証:米国特許第5155329号明細書(日本語の翻訳は、異議申立人提出の添付書類10を用いる。)
甲第2号証:特開平11−218489号公報
甲第3号証:特表平7−509184号公報
甲第4号証:米国特許出願公開第2010/0133247号明細書(日本語の翻訳は、異議申立人提出の添付書類11を用いる。)
甲第5号証:特開平10−202378号公報
甲第6号証:特開2011−31275号公報
甲第7号証:欧州特許出願公開第1987910号明細書(日本語の翻訳は、異議申立人提出の添付書類12を用いる。)
甲第8号証:特開2014−164919号公報
甲第9号証:特開2015−72955号公報
(以下、甲第○号証を、「甲○」という。)

(2)甲1の記載事項(記載事項A―Vまで、原文の後に日本語の翻訳文を併記する。)
ア 甲1には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A 「1. Field of the Invention
This invention relates to ・・・during welding.(第1欄第6−10行)
1.技術分野
本発明は、レーザ光溶接をモニタリングするための方法およびシステムに関し、より具体的には、溶接中のレーザ光の挙動をモニタリングするための方法および装置に関する。」

B 「2. Description of the Prior Art
Laser beam welding is ・・・ the detected value of temperature. (第1欄第11行−最終行)
2.従来技術の説明
レーザ光溶接は、溶接光入力(エネルギー)を所望の溶接部にのみ照射することができ、溶接部の付近には熱の影響がほとんどないため、今日広く行われている。これに関して、溶接を高精度に完了するためには、溶接光入力とその結果として生じる溶込み深さを適切に制御する必要がある。
レーザ光溶接において、工作物に実際に照射される溶接光入力を直接検出するのは通常困難である。・・・従来、溶接の挙動は、発振器のレーザ光出力をモニタリングすることで推定される。
しかしながら、レーザ発振器の出力のみが検出される前述の従来のシステムでは、レーザ発振器から溶接部にレーザ光を伝送するための光学システムの透過損失が、光学部品の劣化のために溶接中に突然増加した場合には、・・・正確なモニタリングを達成することはできない。また、溶接条件の変化により溶接が不安定になり、溶込み深さが減少しても、これはレーザ発振器の出力に変化を引き起こさず、したがって、操作者が溶接光の挙動を適切に判断することはできない。
レーザ光溶接の挙動が、溶接部での赤外線放射のモニタリングから推定される別のシステムが知られている。・・・
・・・しかし、検出器に到達する赤外線にはレーザ光の反射された部分が含まれており、溶融池の付近にレーザプルームが現れてより多くの赤外線放射を発生させるため、溶接部の温度を正確に検出することは困難である。さらに、溶接部の温度は一般に溶接光入力および溶込み深さを示さないため、レーザ光溶接において、温度の検出値に基づいて溶接光入力および溶込み深さをモニタリングすることは困難である。」

C 「SUMMARY OF THE INVENTION
It is an object of ・・・a molten pool exists. (第2欄第1−8行)
[発明の概要]
本発明の目的は、溶融池が存在する溶接部での発光強度をモニタリングすることにより溶接光入力および溶込み深さを高精度で推定することができるレーザ光溶接のモニタリング方法を提供することである。」

D 「It is another object of ・・・light emission at a weld zone. (第2欄第9−13行)
本発明の別の目的は、溶接部での発光強度をモニタリングすることにより溶接光入力および溶込み深さを高精度で推定することができるレーザ光溶接のモニタリング装置を提供することである。」

E 「In a laser beam welding machine ・・・and the depth of penetration can be deduced. (第2欄第14−31行)
レーザ光がレーザ発振器から光ファイバとレンズとを含む光学系を介して溶接部に伝送されるレーザ光溶接機において、本発明は、溶接部から放射された光およびレーザ発振器のレーザ光出力を連続的に検出する。当技術分野でよく知られているように、溶接部に照射されたパルス状レーザ光は光の放射を引き起こし、溶接部での放射は照射されたパルス状レーザ光に応じて変化し、溶接部に存在するレーザプルームはレーザ光がベースレベル以下に減少すると消える。つまり、溶接部へのレーザ光の照射が中断されると、結果的に、溶融池からの発光のみが残る。本発明は、その発光から所定の波長の光の強度を検出するものであり、そこから溶接光入力および溶込みの深さを推定することができる。」

F 「The present inventions have ・・・and the depth of penetration. (第2欄第32−35行)
本発明は、所定の波長の光の強度と、溶接光入力および溶込み深さの両者との間に一定の相関があることを見出した。」

G 「In this invention, the behavior of ・・・the minimum emission intensity. (第2欄第36−40行)
本発明において、レーザ光溶接の挙動は、パルス状レーザ光の強度の上昇の直前に所定の波長の光の強度をモニタリングすることにより、すなわち、最小発光強度を決定することにより推定することができる。」

H 「The present invention is embodied in・・・a laser oscillator is also connected to the detecting means. (第2欄第41−51行)
本発明は、溶融池からの光を収束する集光レンズと、収束光を透過するモニタリング光学系と、光学系から発せられる光から所定の波長の光を選択的に通過させる干渉フィルタと、干渉フィルタを通過した所定の波長の光の強度を検出する検出手段と、を備える装置の形態で具現化される。レーザ発振器のパルス状出力を伝送するための光回線がまた検出手段に接続されている。」

I 「In FIG. 1, a laser beam generated by ・・・the weld zone 13 as designated by reference numeral 12. (第3欄第22−37行)
図1において、レーザ発振器1によって生成されたレーザ光は、入射光学系2を介してレーザ光伝送用光ファイバ3に伝送される。レーザ発振器1がYAGレーザを含む場合、レーザ発振器1は、波長1.06μmのレーザ光を生成する。レーザ光伝送用光ファイバ3を通過したレーザ光は、溶接/集光光学系11に伝送され、工作物14の溶接部13に集光される。溶接部13は、レーザ光を吸収して溶融し、溶融池を形成する。レーザ光が走査されると、溶融池が再凝固し、溶接が達成される。図示しないが、通常の溶接と同様に、溶接部13の周囲には不活性ガスなどのアシストガスが供給される。溶接中、参照番号12で示されるように、溶接部13で発光が生じる。」

J 「The light from the emission 12 ・・・the optical fibers 4 as long as the emission 12 exists. (第3欄第53行−最終行)
溶接部における発光12からの光は、図3に示されるように、溶接/集光光学系11のレンズを通ってモニタ用光ファイバ4に伝送される。図3において、中心の光ファイバ3の端部から出た溶接用レーザ光15は、わずかに発散し、集光光学系11に入射し、その集光レンズによって工作物14の表面に収束する。溶接部13での発光12からの光、すなわち発光光19は、集光レンズによって光ファイバ4の端部に収束される。光ファイバ4は円形に配置されているので、溶接部13の周囲の状況に関わらず、発光光19を効果的に受光することができる。レーザ光15が消えた後でも、発光12が存在する限り、発光光19が光ファイバ4に入射することに留意されたい。」

K 「The interference filter 5 selects ・・・ the laser oscillator 1 is also sent to the computer 9.(第4欄第1−12行)
干渉フィルタ5は、「インコネル」溶接の場合、所定の波長、例えば、0.8μmまたは0.94μmの波長の光を選択し、このようにして選択された光をフォトダイオード6に通過させ、フォトダイオード6において光電変換が行われる。光電変換によって得られた光を表わす信号は、アンプ7によって増幅され、AD変換ボード8によってデジタル形式に変換され、信号処理のためにコンピュータ9に送信される。図1には示されていないが、レーザ発振器1のパルス状出力波信号もまたコンピュータ9に送信される。」

L 「FIG. 6 shows the waveform 18 ・・・a the light of predetermined wavelength. (第4欄第26−31行)
図6は、パルス状レーザ光の波形18および溶接部での発光強度の波形20を示し、両方ともにモニタリング部に記録される。これから分かるように、溶接部における発光強度の波形20は、所定の波長の光の強度に対応している。」

M 「FIG. 4 shows the two waveforms of FIG. 6 ・・・the next pulse of the laser beam. (第4欄第32−42行)
図4は、図6の2つの波形を拡大目盛で示す。これらの波形は一緒に脈動しており、時間軸(横軸)に沿った時間AとBの2つの間隔は、それぞれ約9ミリ秒と約13ミリ秒である。図4から分かるように、発光強度の波形は、溶接光入力が存在する間(つまり、レーザ光が工作物を照射している間)一定の高レベルを維持し、溶接光入力が低下した後、短時間で急激に減少し、次いで、レーザ光の次のパルスと一緒に上昇する。」

N 「FIGS. 8 and 9 show the correlation between ・・・as well as the depth of penetration. (第4欄第48−56行)
図8および図9は、所定の波長の光の最小発光強度と溶接光入力との相関関係、および最小発光強度と溶込み深さとの相関関係をそれぞれ示している。これらの図面から理解されるように、各相関は線形であり、したがって、最小発光強度をモニタリングすることは、溶接光入力と溶込み深さをモニタリングすることと同じである。」

O 「For reference, in FIG. 10, the emission intensity ・・・when the interference filter is not employed. (第4欄第57−61行)
参考までに、図10において、図5の干渉フィルタ5なしで測定された発光強度が、溶接光入力に関してプロットされている。これから分かるように、干渉フィルタを使用しない場合、これらのパラメータ間には相関が認められない。」

P 「The foregoing predetermined wavelength used ・・・ welding testing, spectrum analysis, data processing, etc. (第4欄第62−65行)
溶融池における発光をフィルタリングする際に使用される前述の所定の波長は、溶接試験、スペクトル分析、データ処理などを実行することによって決定することができる。」

Q 「As described above, the present invention ・・・the depth of penetration can be precisely deduced. (第4欄第66行−第5欄第2行)
上述のように、本発明は、溶接光入力および溶込みの深さを正確に推定することができるレーザ光溶接の挙動をモニタリングすることができる。」

R 「1. A method of monitoring laser beam welding, ・・・the weld zone during said welding. (第5欄第4−21行)
[請求項1]
レーザ光溶接をモニタリングする方法であって、前記方法は、
パルス状レーザ光を工作物に照射して溶接を行うステップと、
前記レーザ光のパルス状波形を表す信号を生成するステップと、
前記溶接ステップ中、溶接が行われている前記工作物の溶接部から放射される所定の波長の光の強度を連続的にモニタリングするステップと、
前記所定の波長の光の強度を表す信号を生成するステップと、
前記レーザ光線の前記パルス状波形と前記所定の波長の光の強度との両方を表す前記信号を処理して、前記溶接ステップ中に前記溶接部から放射されている前記所定の波長の光の最小強度を決定するステップと、
を含む方法。」

S 「2. A method of monitoring laser beam welding as claimed in claim 1, ・・・a predetermined wavelength. (第5欄第22−25行)
[請求項2]
前記モニタリングするステップが、前記所定の波長の光を除いて、前記溶接部から放射された光をフィルタリングするステップを含む、請求項1に記載の方法。」

T 「3. A method of monitoring laser beam welding as claimed in claim 1, ・・・the workpiece at the weld zone. (第5欄第26−32行)
[請求項3]
決定された前記所定の波長の光の最小強度を、前記溶接部におけるレーザ光のエネルギーおよび前記溶接部において前記工作物に溶け込むレーザ光の深さのうちの少なくとも1つを含む前記溶接部における条件と相関させるステップを更に含む、請求項1に記載の方法。」

U 「4. Apparatus for monitoring laser beam welding, ・・・ a given time period. (第5欄第33行−第6欄第14行)
[請求項4]
レーザ光溶接をモニタリングするための装置であって、前記装置は、
それに沿って光を送受信することができるモニタ用光ファイバと、
前記ファイバに光学的に結合された干渉フィルタであって、所定の波長の光を除いて、前記ファイバによって伝送された光をフィルタリングする干渉フィルタと、
前記干渉フィルタを通過する前記所定の波長の光をその強度を表す信号に変換するために、前記干渉フィルタと作動的に関連付けられたフォトダイオード手段と、
生成された前記信号を受信するように前記フォトダイオード手段に作動的に接続されたプロセッサであって、前記信号を処理して所与の期間中に前記フィルタを通過する光の最小強度を識別するプロセッサと、を備える、装置。」

V 「6. An apparatus for monitoring laser beam welding as claimed in claim 4, ・・・a given period of time. (第6欄第23−36行)
[請求項6]
パルス状レーザ光を放射し、それによって放射されたレーザ光の波形を表す信号を生成するためのレーザ発振器手段を更に備え、前記プロセッサが、レーザ発振器手段によって放射された前記レーザ光の波形を表す前記信号を受信するように、前記レーザ発振器手段に作動的に接続されており、前記処理手段が、前記レーザ発振器手段によって放射されたレーザ光の波形を表す前記信号を、前記フォトダイオード手段によって生成された前記信号と共に処理して、所与の期間中に前記フィルタを通過する光の最小強度を決定する、請求項4に記載の装置。」

イ 上記記載から、甲1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 甲1に記載された技術は、レーザ光溶接をモニタリングするための方法およびシステムに関し、より具体的には、溶接中のレーザ光の挙動をモニタリングするための方法および装置に関する。(記載事項A)
b 甲1において、レーザ発振器1によって生成されたレーザ光は、入射光学系2を介してレーザ光伝送用光ファイバ3を通過し、溶接/集光光学系11に伝送され、工作物14の溶接部13に集光される。溶接部13は、レーザ光を吸収して溶融し、溶融池を形成し、レーザ光が走査されると、溶融池が再凝固し、溶接が達成されるが、溶接中、溶接部13で生じた発光12は、溶接/集光光学系11を通ってモニタ用光ファイバ4に伝送される。光ファイバ4は円形に配置されているので、溶接部13の周囲の状況に関わらず、発光光19を効果的に受光することができ、レーザ光15が消えた後でも、発光12が存在する限り、発光光19が入射する。
したがって、甲1のレーザ溶接監視装置(レーザ光溶接のモニタリング装置)は、レーザ光にて溶接される工作物14の溶接部13について、その溶接状態を監視するものであって、工作物14に前記レーザ光が照射されて形成された溶融池からの可視光を検出するものであり、溶融池は、工作物14のレーザ光が照射される側に形成されることが明らかである。(記載事項I,J、図1,3)
c 甲1のレーザ溶接監視装置は、図8から見出される溶接部から放射される所定の波長の光の最小発光強度と溶接光入力との線形的な相関関係、図9から見出される溶接部から放射される所定の波長の光の最小発光強度と溶込み深さの線形的な相関関係を用いて、溶融池が存在する溶接部での最小発光強度をモニタリングすることにより溶接光入力および溶込み深さを高精度で推定するものであり、よって、上記bにおいて検出する溶融池からの可視光について、所定の波長の光の最小発光強度をモニタリングすることにより、溶接光入力および溶込み深さを高精度で推定するものであることが認められる。(記載事項C−F,N,Q,R,T、図8−9)
d 甲1において、「インコネル」溶接の場合、所定の波長、例えば、0.8μmまたは0.94μmの波長の光を、干渉フィルタ5により選択し、選択された光をフォトダイオード6において光電変換して得られた光を表わす信号は、増幅され、デジタル形式に変換され、信号処理のためにコンピュータ9に送信され、やはりコンピュータ9に送信されるレーザ発振器1のパルス状出力波信号と共に処理して、所与の期間中に干渉フィルタ5を通過する最小発光強度を決定する。(記載事項K−N)
e そして、一般に、可視光の波長が360〜830nm程度であることは技術常識である(上記第2の3(2))ことからみて、上記「インコネル溶接」の場合の所定の波長のうち、0.8μm(800nm)については、長波長限界にあるから可視光といえる。
したがって、上記dにおける所定の波長は、工作物14に対応して選択されたものであり、工作物14の材質がインコネルである「インコネル溶接」の場合は、所定の波長として、可視光に該当する0.8μmを選択して干渉フィルタ5を通過させ、フォトダイオード6により光電変換されて得られた信号を処理して、最小発光強度を決定するといえる。(記載事項K,R,S,U,V、図1,3,5)

ウ 上記ア、イから、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「レーザ光にて溶接される材質がインコネルである工作物14の溶接部13について、その溶接光入力と溶込み深さを監視するレーザ溶接監視装置において、
前記工作物14に前記レーザ光が照射されて、照射された側に形成された溶融池からの、前記工作物14に対応して選択された、可視光である0.8μmの波長の最小発光強度を決定し、決定した前記最小発光強度に基づいて溶接光入力と溶込み深さを推定する
レーザ溶接監視装置。」

(3)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザを用いる材料加工の分野に関し、特に、プラズマからの光の強度を測定することによる工程内レーザ溶接部品質の監視方法及び装置に関する。
・・・・・
【0020】光学的多チャンネルスペクトルアナライザ図4を参照すると、プラズマからの発光スペクトル中の最も顕著なピークはすべて、約340nm〜約450nmの範囲内にあった。この範囲内の主要なピークは、301ステンレス鋼加工物を構成するFe(373.4nm及び382.4nm)、Cr(357.9nm及び425.4nm/427.5nm)及びMn(403.1nm)の原子遷移と相関関係がある。
【0021】
・・・・・OMA結果に基づいて、約340nm〜約450nmの波長範囲が、最も顕著なピーク及び最も高いSN比に基づいて放射計測定値について選択された。溶接加工を監視するための最も適当な波長範囲は、溶接される材料の組成で決まる。種々の波長範囲は、他の金属、例えば他の鉄系材料及び非鉄材料、例えば銅、アルミニウム及びチタン材料のレーザ溶接中、最も顕著なピークを有する場合がある。OMAを用いると、かかる他の材料の最も適当な波長範囲を決定することができる。」

(4)甲6の記載事項
「【0048】
レーザ加工中、パルスレーザの照射により、母材BMとなる金属材料を構成する特徴的な元素がプラズマ化して発光LUが観察される。フォトダイオード46と特定の波長域を透過するバンドパスフィルタ44を組み合わせた受光部42を設けることで、レーザ加工中に特定波長の発光LUのみを検知することができる。
【0049】
図11を参照すると、通常加工モードでは、通常の条件でレーザ光LB1を照射し、表面硬化層SSを貫通しないような条件で窪み30を形成している。この条件は、例えば、表面硬化層の膜厚MBであるメッキ厚み60[μm]に対して、ディンプル加工深さ(窪み深さDz)=30[μm]である。この通常の条件でのレーザ光LB1の照射では、表面硬化層SSの溶融により発光LU1が観測される。
一方、検査モードでは、一定間隔でより深く加工する条件でレーザ光LB2を照射し、母材BMまで到達させることで、膜厚MBを検査する。この条件でのレーザ光LB2の照射により、窪み30aの窪み深さDzは膜厚MBを超える。すると、母材MBが溶融し、母材の特性に応じた発光LU2が観測される。
母材BMの種類に応じて、バンドパスフィルタ44で通過させる波長域は、次の通りとする。
【0050】
アルミニウム系の母材BM: 420[nm]の発光LU
鉄系の母材BM: 520[nm]の発光LU」

(5) 甲7の記載事項(記載事項A―Dまで、A,Bは添付書類12の日本語の翻訳文を表示。)
A 「(54) A method for instantly evaluating the quality of ・・・the two or more spectral lines selected, within said time interval ΔT.
(54)溶接部の品質を即時評価する方法
(57)プラズマ生成を用いる溶接工程中に金属材料における溶接品質を即時に評価する方法は、
a)溶接動作中にプラズマによって放出された放射線を、所定の周期φにおいて、即時に取得するステップと、
b)プラズマによって放出された前記放射線を取得した各時点tにおいて、各放射スペクトルをb)生成/取得するステップと、を含む。
有利な構成として、本方法は、溶接の各検討時点t0において、
c)前記時点t0に先行する時間間隔△Tを定義するステップと、
d)2つ以上の波長λi,λjに対応する2つ以上のスペクトル線i,jを選択するステップと、
e)前記時間間隔△Tに含まれる、放射線取得の各時点tのスペクトル強度Xi(t)を測定するステップと、
f)前記2つ以上のスペクトル線の強度の時間に対する関数Ci,j…(t0)=f(xi(t),Xj(t),…)である、少なくとも1つの合成係数Ci,j…(t0)を計算するステップと、
g)前記少なくとも1つの合成係数Ci,jを分析して、溶接品質を評価するステップと、を含み、本方法において、前記合成係数Ci,jは、前記時間間隔ΔT内で選択された2つ以上のスペクトル線の強度の統計相関パラメータである。」(1ページ「要約」等)

B 「【0028】・・・
d) selection of at least two spectral lines i, j corresponding to ・・・the desired type of welding quality evaluation to be carried out;
[0028]
・・・
d)サンプリングされたスペクトログラム(例えば、図4及び図5を参照)内に存在する波長λi,λjに対応し、プラズマ6内に存在する化学元素の種に関連する少なくとも2つのスペクトル線i,jを選択するステップ。これらのスペクトル線は、例えば、同一化学(例えば、金属)種の少なくとも2つの異なる電離状態、2つの異なる金属元素の種、同一合金の異なる化学種、又は金属元素と酸素の種等に関するものであり、各検討時点t0において、実行される溶接品質評価の所望のタイプの関数として選択することができる。」

C 「図4



D 「図5


(6)本件発明1の新規性及び進歩性について
本件発明1は、上記第3の「訂正後の本件発明」の【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものである。

ア 本件発明1と引用発明との対比
引用発明の「材質がインコネルである工作物14」、「溶接部13」、「溶接光入力と溶込み深さ」、「レーザ溶接監視装置」、「(レーザ光が)照射された側」、「最小発光強度」、「決定」及び「溶接光入力と溶込み深さを推定」するという事項は、それぞれ、本件発明1の「溶接材料」、「溶接部位」、「溶接状態」、「レーザ溶接監視装置」、「表側」、「発光強度」、「検出」及び「溶接状態を判定」するという事項に相当する。
また、引用発明の「工作物14に対応して選択された、可視光である0.8μmの波長」は、本件発明1の「溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明は、以下の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視装置において、
前記溶接材料に前記レーザ光が照射されて表側に形成された溶融池からの、前記溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定する
レーザ溶接監視装置。」

(イ)相違点
本件発明1が、「前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である」
のに対して、引用発明は、溶接材料がインコネルであり、特定の一波長が0.8μmである点。

イ 当審の判断
(ア)甲1には、レーザ光にて溶接される溶接材料がインコネルである場合に、溶融池からの光の発光スペクトルの特定の一波長として、0.8μmまたは0.94μmの波長を選択して、発光強度に基づいて溶接状態を判定することについては記載されているものの、溶接材料が、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、溶接材料がアルミニウムの場合には、特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、溶接材料が鉄の場合には、特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、各々の特定の一波長は、その範囲の全体であることは、記載されていない。
また、引用発明における0.8μmの波長も、本件発明1のように、発光ピーク強度のばらつきや不良発生時の増大率などモニタリングの信頼性の観点から、波長の範囲全体を特定の一波長としているものではない。
(イ)甲2には、プラズマからの光の強度を測定することによるレーザ溶接部品質の監視方法及び装置について、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはステンレス鋼材の溶接材料に適用すること(段落【0020】−【0021】)が記載され、また、波長の選択に関し、「OMA結果に基づいて、約340nm〜約450nmの波長範囲が、最も顕著なピーク及び最も高いSN比に基づいて放射計測定値について選択された。溶接加工を監視するための最も適当な波長範囲は、溶接される材料の組成で決まる」(段落【0021】)との記載はあるものの、本件発明1のように、発光ピーク強度のばらつきや不良発生時の増大率などモニタリングの信頼性の観点から、溶接材料ごとに複数存在する波長のうち、最適であることが具体的に評価された特定の一波長を選択しているものではない。
(ウ)甲6には、段落【0049】−【0050】に、溶融したアルミニウムの母材からの420nm波長の発光を観察すること、及び溶融した鉄系の母材からの520nm波長の発光を観察することが記載されているが、発光の観察はアルミニウム又は鉄系の母材に表面処理で形成した被膜の厚さを測定するものであるから、レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位の溶接状態を監視する際のモニタリングの信頼性の観点から、選択されたものではなく、引用発明に適用して本件発明1に至る動機も見出すことができない。
(エ)甲7には、要約、段落[0028]、図4−5に、プラズマ生成を用いる溶接工程中に金属材料における溶接品質を、図4−5に図示されたスペクトログラムに存在する2つ以上の波長のスペクトル線を選択して、評価することが記載されており、図5には、溶接金属が鉄である場合に、602.4nmの波長のものが選択されることが記載されているが、甲7記載のものは、選択された2つ以上の波長のスペクトル線の強度に対する関数の合成係数を計算して分析するものであり、スペクトル線の特定の一波長の発光強度を、直接溶接品質の評価に用いるものではなく、評価する技術的手段自体が異なるものであるから、引用発明に適用して本件発明1に至る動機を見出すことができない。
(オ)また、他の甲号証についてみても、甲3−5、8−9には、溶接材料がアルミニウムの場合に、特定の一波長を375nm〜425nm範囲とし、溶接材料が鉄の場合に、特定の一波長を565nm〜615nm範囲とし、溶接材料がチタン及びSUS304の場合に、特定の一波長を745nm〜795nm範囲とし、各々の特定の一波長を、その範囲の全体とすることは記載されていない。
(カ)したがって、本件発明1は引用発明ではなく、また本件発明1は、引用発明に基いて、あるいは引用発明、及び甲2−9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(7)本件発明2、6、13について
本件発明2、6、13は、本件発明1を引用するから、上記(6)と同様の理由により、引用発明であるとはいえず、引用発明に基いて、あるいは引用発明、及び甲2−9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(8)本件発明7−8、12、14について
方法の発明である本件発明7は、物の発明である本件発明1と同様に、「前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、・・・前記特定の一波長は、前記範囲の全体である」との発明特定事項を備え、本件発明8、12、14は、本件発明7を引用する発明であるから、上記(6)、(7)の本件発明1−2、6、13と同様の理由により、引用発明ではなく、また引用発明に基いて、あるいは引用発明、及び甲2−9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(9) 小括
したがって、特許異議申立書に記載した特許法第29条第1項、及び第2項に係る特許異議申立理由によっては、本件発明1−2、6−8、12−14に係る特許を取り消すことはできない。

2 特許法第36条第4項第1号に係る理由について(特許異議申立書第66−67ページ)
(1)訂正前の段落【0022】の「可視光全体(400nm〜700nm)」の記載は、上記第2で検討したとおり、本件訂正請求の訂正事項13によって、「可視光(400nm〜700nmの全体)」と訂正された。
したがって、段落【0022】の「可視光(400nm〜700nmの全体)」という記載と、本件発明1、7等において、可視光内の特定の一波長が745nm〜795nmである旨の記載との間に齟齬はなく、本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものとは認められない。

(2)小括
したがって、特許異議申立書に記載した特許法第36条第4項第1号に係る特許異議申立理由によっては、本件発明1−2、6−8、12−14に係る特許を取り消すことはできない。

第6 申立人の主張
1 申立人の意見の概要
申立人は、本件訂正請求の後には意見書を提出していないが、本件訂正請求前の令和3年8月11日提出の意見書において、概略以下の主張をする。
(1)段落【0022】の訂正(当審注:初回訂正請求の訂正事項43)は、「可視光内」に「745nm〜795nm」を含めるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張することに該当するから、特許法第120条の5第9項で引用する特許法第126条第6項の規定に違反し認められない。(第19−20ページの3ア)
(2)本件発明は、特許第29条第2項の規定に違反しており、取消理由B(特許法第29条第2項違反)は解消されていない。(第20−26ページの3イ)
(3)訂正後の段落【0021】には「図2(a)は、・・・可視光全体に亘って・・・を説明する図であり」と記載され、図2(a)には「400nm〜700nm」と記載されているから、訂正後の明細書には可視光の範囲が400nm〜700nmと定義されているといえ、取消理由C(特許法第36条第4項第1号違反)は解消されていない。(第26−27ページの3ウ)

2 申立人の意見の検討
(1)上記1(1)の主張を検討すると、訂正前の請求項5、11の「前記特定の一波長は745nm〜795nm」という記載の「前記特定の一波長」とは、訂正前の請求項5、11が引用する訂正前の請求項1、7の「可視光内の特定の一波長」を意味することが明らかである。そうすると、745nm〜795nmの波長が可視光内のものであることは、訂正前においても特定されており、本件訂正請求の訂正事項13によって「可視光内」に「745nm〜795nm」が含まれることになったとはいえない。
したがって、申立人の上記1(1)の主張は採用できない。
(2)上記1(2)の主張を検討すると、申立人は、溶接材料とそれに対応する波長の関係が、甲6及び甲7に示されている旨を主張しているが、本件発明1の進歩性の判断において説示(上記第5の1(6)イ(ウ)、(エ))したとおり、甲6及び甲7記載の技術的事項を引用発明に適用して本件発明1に至る動機を見いだすことができないから、申立人の当該主張は採用できない。
(3)上記1(3)の主張を検討すると、段落【0021】の記載だけでなく、段落【0022】の記載、特許請求の範囲の記載及び技術常識をふまえれば、当業者は、本件明細書において可視光の範囲が400nm〜700nmと定義されているわけではないことを理解するから、上記1(3)の主張は採用できない。

3 小括
したがって、申立人の主張はいずれも採用することができない。

第7 むすび
以上から、請求項1−2、6−8、12−14に係る特許は、取消し理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。さらに、他に請求項1−2、6−8、12−14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3−5、9−11に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3−5、9−11に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】レーザ溶接監視装置とレーザ溶接監視方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥検出精度が高い溶接モニタリングが可能なレーザ溶接監視装置とレーザ溶接監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用バッテリ等として用いられる電極の製造プロセスにおいて、溶接されるワークの溶融状態をリアルタイムでモニタリングし、すべての製品についての溶接欠陥を早期に検出することを目的とする発明が下記特許文献1に記載されている。
【0003】
この文献の検出装置は、ワークが箔状のアルミニウム合金からなり、溶接部位から散乱される光波のうち反射光を集光する反射光集光部と、赤外光を集光する赤外光集光部と、各集光部で集光された光波から所定波長の反射光と赤外光とを抽出し電気信号に変換して溶接状態判別処理部に送る各センサ部と、上記各信号を溶接部位が固化されるまでの時間監視する溶接状態判別処理部11とからなる。
【0004】
該溶接状態判別処理部は反射光と赤外光について時間ごとの検出強度を監視する制御・演算手段と、出力手段と、記憶手段とを備え、先ず反射光につき所定の時間2ms経過後の検出強度のピーク値が予め定められた閾値20以上である場合において、赤外光の検出強度のピーク値が予め定められた閾値0.6以上であるときは「顕らかな欠陥」と判別し、上記閾値B未満であるときは「隠れた欠陥」と判別することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−006036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ光を用いた金属材料の溶接のその場観察やその場監視において、溶融池からの可視光全体の発光強度をモニタリングする方法では、ノイズが多く含まれてしまい、欠陥発生の有無を正確に把握することは従来困難であった。
【0007】
すなわち、可視光のいずれかの波長においてノイズが生じた場合に、従来のように可視光全体の発光強度を検出している場合には、当該ノイズが検出値内に取り込まれ、欠陥発生を示す信号成分が当該ノイズに埋没して、その抽出を困難にしていた。
【0008】
また、仮に、赤外領域の波長、例えば1300nm付近の波長の溶融池からの発光のみを検出する場合には溶融池の状態を直接観察できるものの、赤外光検出の検出素子は、可視光の検出素子よりもかなり高額なものとなってしまう。一方、可視光を検出する場合には、溶融池から発生したプルーム(金属蒸気等の噴出物)の発光を検出でき、かつ可視光検出素子も比較的安価である。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑み為されたものであり、より低コストで、レーザ溶接時の欠陥検出精度を高めたより確からしい溶接モニタリングが可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のレーザ溶接監視装置は、レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視装置において、溶接材料にレーザ光が照射されて形成された溶融池からの、溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定することを特徴とする。
【0011】
本発明のレーザ溶接監視方法は、レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視方法において、溶接材料にレーザ光が照射されて形成された溶融池からの、溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定するレーザ溶接監視方法とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、より低コストで、レーザ溶接時の欠陥検出精度を高めたより確からしい溶接モニタリングが可能となる。特定波長のみについて、レーザ溶接時の溶融池からの発光強度の経時変化を監視することにより、ノイズが少ない発光強度を検出して、スパッタの飛散や穴あき等の欠陥発生による発光強度変化を高い精度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のレーザ溶接システムの構成概要を説明する図である。
【図2】(a)はアルミニウムを溶接材として用いた揚合に、可視光全体に亘って溶融池からの発光強度を検出した検出強度の時間変化を説明する図であり、(b)はアルミニウムを溶接材として用いた場合に、可視光の特定の一波長(400nm、但し半値幅25nm)のみについて溶融池からの発光強度を検出した検出強度の時間変化を説明する図である。
【図3】図4〜図6に示す溶融池からの発光スペクトルを計測するために用いた実験装置の概要を説明する図である。
【図4】アルミニウムを溶接材として用いて図3の構成で模擬レーザ溶接を遂行し、溶接材を約1秒間走査した場合の、正常な溶接箇所と異常な溶接箇所とを説明する図であり、(a)が溶接材の走査箇所(紙面左から右方向に走査)の全体写真を示し、(b)が溶接開始箇所の正常溶接状態のスペクトルを示し、(c)が溶接の走査中程の正常溶接状態のスペクトルを示し、(d)が溶接終了箇所付近の異常溶接状態のスペクトルを示す図である。
【図5】アルミニウム溶接材料(A1050)を用いた正常な溶接が遂行されている状態の溶融池からの可視光の発光スペクトルを示す図である。
【図6】図3の実験装置を用いて、分光器で取得するスペクトル波長を変えて約1秒間アルミニウム溶接材を走査した場合のスペクトル強度を示す図であり、(a)が395nmのスペクトル強度の経時変化を示し、(b)が454nmのスペクトル強度の経時変化を示し、(c)が470nmのスペクトル強度の経時変化を示し、(d)が487nmのスペクトル強度の経時変化を示し、(e)が513nmのスペクトル強度の経時変化を示し、(f)が542nmのスペクトル強度の経時変化を示す。
【図7】(a)は、アルミニウムを溶接材として用いた場合の六つの波長域それぞれについて溶接正常時のピーク強度の平均値に対して穴あき欠陥発生時のピーク強度がどの程度上昇したかを比較して示すグラフであり、(b)は、六つの波長域それぞれについて標準誤差率を比較して示すグラフである。
【図8】Fe(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として約1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。
【図9】Ti(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として約1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。
【図10】SUS304(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として約1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、レーザ溶接時の可視光モニタリングでは、可視光波長のほぼ全域をモニターして測定している。可視光は主にレーザ溶接中に発生するプルーム(プラズマや金属蒸気等)を捉え、溶接材料の孔空きなどの溶接不具合の検知に有効である。しかし、可視光は測定波形の振幅の変動が極めて大きいことから、可視光に基づく、正常な溶接時と異常な溶接時との峻別は、従来困難であった。
【0015】
可視光の測定波形の振幅変動の発生要因としては、照明などの外乱光の影響や、取得してモニターする波長帯が広すぎて様々なスペクトルの波形が入り乱れて相殺、相乗等することにより、モニターしている可視光全体の強度として振幅が時間変動していることが考えられる。
【0016】
レーザ溶接時に保護メガネを介して目視観察すれば理解できるが、レーザ溶接時のプルームは材料特有の発光色を示すため、プルームの測定波長は、溶接材料ごとに特定の波長に限定されることが好ましいと思われる。
【0017】
図1は、本実施形態のレーザ溶接システム1000の構成概要を説明する図である。レーザ溶接システム1000は、溶接するためのレーザ光を発生させるレーザ装置1100と、レーザ装置1100で発生させたレーザ光を光ファイバを介して溶接材1400に集光する加工ヘッド1300を備える。
【0018】
溶接材1400にレーザ光のエネルギーが集約されることにより生成された溶融池から生じる可視光は、可視光集光センサユニット1500で集光されて、光電変換される。可視光集光センサユニット1500の下端(可視光入射側)には、不図示の干渉フィルターが備えられている。干渉フィルターは、溶接材1400に対応した特定の一波長(実質的にはある程度の波長幅を有する)のみを通過させる。
【0019】
可視光集光センサユニット1500から出力された電気信号は、良否判定装置1200に入力されて、溶接の良否が判定される。レーザ溶接時において、仮に溶接不良(典型的には溶接材1400の穴あき)が生じた場合に、溶接材1400の材料に対応した特定の可視光の波長の、溶融池からの、発光が強くなることが見いだされた。
【0020】
これを利用して、レーザ溶接システム1000は、溶接材1400の材料に対応した特定の波長の可視光の強度のみを常時監視し、その光強度が所定の閾値以上となった場合には溶接不良と判断する。すなわち、良否判定装置1200は、可視光集光センサユニット1500で光電変換された電気信号の値が所定の閾値以上となったことを検出した場合に、溶接不良と判定する。
【0021】
図2(a)はアルミニウムを溶接材1400として用いた場合に、可視光全体に亘って溶融池からの発光強度を検出した検出強度の時間変化を説明する図であり、図2(b)はアルミニウムを溶接材1400として用いた場合に、可視光の特定の一波長(400nm、但し半値幅25nm)のみについて溶融池からの発光強度を検出した検出強度の時間変化を説明する図である。
【0022】
図2(a)から理解できるように、可視光(400nm〜700nmの全体)の発光強度を検出した場合には、レーザ溶接の進捗の時間経過に対する検出値の振幅が大きくなる。従って、この場合には、溶接不良を示す溶融池からの特定波長の発光が、雑音に埋没してしまい、不良を検知できないものとなる。
【0023】
一方、図2(b)から理解できるように、半値幅25nmの400nm透過干渉フィルターを用いて特定の波長のみを検出した場合には、レーザ溶接の進捗の時間経過に対する検出値の振幅があまり大きくない。このため、時間0.03(s)付近のひときわ大きな検出値を明確に峻別可能となる。図2(a)と図2(b)共に、横軸の時間約0.03(s)において、溶接の不良が発生しているのであるが、図2(b)においては溶接不良に起因する検出値の上下振れを検知可能である。
【0024】
特定波長において溶接不良発生時に、発光強度の上下振れが検出される原因は定かではないが、溶接不良時には、溶融池の煮沸や飛散等が生じており、これに伴う溶融池表面の変動等が関係していると推測される。
【0025】
図3は、図4〜図6に示す溶融池からの発光スペクトルを計測するために用いた実験装置の概要を説明する図である。図3において、照射レーザの出力は800Wとし、走査速度は20mm/秒として、2枚のアルミニウム板(t=0.5mm)を重ねた溶接材料をレーザ照射の下で約1秒間走査した。
【0026】
そして、溶接材料に形成された溶融池からの発光スペクトルを45°の角度から分光器ヘッド及び分光器を介して計測した。図3に示す計測系によるスペクトル計測結果を図4〜図6を用いて下記に説明する。
【0027】
図4は、アルミニウムを溶接材として用いて図3の構成で模擬レーザ溶接を遂行し、溶接材を約1秒間走査した場合の、正常な溶接箇所と異常な溶接箇所とを説明する図である。図4(a)が溶接材の走査箇所(紙面左から右方向に走査)の全体写真を示し、図4(b)が溶接開始箇所の正常溶接状態のスペクトルを示し、図4(c)が溶接の走査中程の正常溶接状態のスペクトルを示し、図4(d)が溶接終了箇所付近の異常溶接状態のスペクトルを示す図である。
【0028】
図4から理解できるように、図4(d)において穴あきの溶接異常が発生しているが、図4(b)、図4(c)の正常時と比較して、穴あきの溶接異常時には、特に350nm〜500nmにかけて顕著なスペクトル強度の増大が検出されている。このため、この現象を利用して、レーザ溶接システム1000は、アルミニウムを溶接材1400として用いる場合に、例えば400nmの特定波長で溶融池をモニターし、検出強度が閾値以上に増大した場合に、溶接不良と判定する。
【0029】
また、図5は、アルミニウム溶接材料(A1050)を用いた正常な溶接が遂行されている状態の溶融池からの可視光の発光スペクトルを示す図である。図5に示すように、395nmと454nmと470nmと487nmと513nmと542nmとの六つの波長それぞれに、スペクトル強度が増大するピークが見受。けられる
【0030】
そして、アルミニウムを溶接材料とした場合の、六つのピークの中でどのピーク波長を用いると、穴あき等の溶接不良発生の検知が最も確実かつ安定的に行えるかを調べた結果を説明しているのが図6である。
【0031】
図6は、図3の実験装置を用いて、分光器で取得するスペクトル波長を変えて約1秒間アルミニウム溶接材を走査した場合のスペクトル強度を示す図である。図6(a)が395nmのスペクトル強度の経時変化を示し、図6(b)が454nmのスペクトル強度の経時変化を示し、図6(c)が470nmのスペクトル強度の経時変化を示す。また、図6(d)が487nmのスペクトル強度の経時変化を示し、図6(e)が513nmのスペクトル強度の経時変化を示し、図6(f)が542nmのスペクトル強度の経時変化を示す。
【0032】
図6に説明するように、六つの波長域いずれにおいても穴あきの溶接不良発生時(約0.7秒付近)にはスペクトル強度が増大するが、増大率には波長によって有意な差異が見出される。上述の観点から、より明確に穴あき等溶接不良を峻別するための最適波長としては、アルミニウム溶接材の場合、スペクトル増大が最も顕著に表れた395nm付近を用いることが好ましい。
【0033】
図7(a)は、アルミニウムを溶接材として用いた場合の六つの波長域それぞれについて溶接正常時のピーク強度の平均値に対して穴あき欠陥発生時のピーク強度がどの程度上昇したかを比較して示すグラフである。また、図7(b)は、六つの波長域それぞれについて標準誤差率を比較して示すグラフである。図7(a)及び図7(b)に示す結果からも、アルミニウムを溶接材として用いた場合は、395nm付近の波長域を用いた発光強度を検出することにより、最も適切に溶接不良を検知できることが理解できる。
【0034】
なお、図7(b)は、正常溶接時のスペクトル強度のみを抽出して標準誤差率を算出した結果を示すものであって、算出した六つの波長域の中では、395nm域が最も安定したスペクトル強度が得られていることが理解できる。このため、当該波長域においては、正常溶接時における発光ピーク強度のばらつきが比較的小さい一方で、不良発生時には約110倍程度までピーク強度が比較的顕著に増大することから、信頼性の高いモニタリングが可能となる。
【0035】
図8は、Fe(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。図8においては、走査開始後0.11秒と0.77秒とは正常なレーザ溶接が遂行されているが、走査開始後0.605秒において溶接異常(穴あき)が生じている。
【0036】
この3箇所(3時点)の溶融池からの発光スペクトル強度を比較すると、穴あき発生時には大凡全波長域に亘ってスペクトル発光強度が増大している。その中でも特に、590nm付近(図8では典型例として589.92nmを示している)において、正常時の発光スペクトル強度と異常時の発光スペクトル強度との比率(S/N比)が4.12と他の波長のS/N比に比べて顕著に大きい。
【0037】
従って、Fe(鉄)を溶接材料とする場合には、590nm付近(565nmから615nmの間)の波長をモニター波長として監視し、レーザ溶接中に、当該波長の溶融池からの発光強度が3.5倍以上に増大した時に、異常発生と判定することが好ましい。これにより、レーザ溶接材料としてFeを用いた場合に、より安定してより確実なレーザ溶接良否判定(すなわち、溶接不良の検知)が遂行可能となる。
【0038】
また、図9は、Ti(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。図9においては、走査開始後0.11秒と0.935秒とは正常なレーザ溶接が遂行されているが、走査開始後0.66秒において溶接異常(穴あき)が生じている。
【0039】
この3箇所(3時点)の溶融池からの発光スペクトル強度を比較すると、穴あき発生時には大凡全波長域に亘ってスペクトル発光強度が増大している。その中でも特に、770nm付近(図9では典型例として771.19nmを示している)において、正常時の発光スペクトル強度と異常時の発光スペクトル強度との比率(S/N比)が3.5と他の波長のS/N比に比べて顕著に大きい。
【0040】
従って、Tiを溶接材料とする場合には、770nm付近(745nmから795nmの間)の波長をモニター波長として監視し、レーザ溶接中に、当該波長の溶融池からの発光強度が2.5倍以上に増大した時に、異常発生と判定することが好ましい。これにより、レーザ溶接材料としてTiを用いた場合に、より安定してより確実なレーザ溶接良否判定(すなわち、溶接不良の検知)が遂行可能となる。
【0041】
また、図10は、SUS304(厚さt=0.5mmの2枚重ね)を溶接材料として1秒間レーザ溶接走査を遂行中に生じた異常に関する溶融池からのスペクトル特性について説明する図である。図10においては、走査開始後0.11秒と0.99秒とは正常なレーザ溶接が遂行されているが、走査開始後0.55秒において溶接異常(穴あき)が生じている。
【0042】
この3箇所(3時点)の溶融池からの発光スペクトル強度を比較すると、穴あき発生時には大凡全波長域に亘ってスペクトル発光強度が増大している。その中でも特に、770nm付近(図10では典型例として769.94nmを示している)において、正常時の発光スペクトル強度と異常時の発光スペクトル強度との比率(S/N比)が2.09と他の波長のS/N比に比べて顕著に大きい。
【0043】
従って、SUS304を溶接材料とする場合には、770nm付近(745nmから795nmの間)の波長をモニター波長として監視し、レーザ溶接中に、当該波長の溶融池からの発光強度が2倍以上に増大した時に、異常発生と判定することが好ましい。これにより、レーザ溶接材料としてSUS304用いた場合に、より安定してより確実なレーザ溶接良否判定(すなわち、溶接不良の検知)が遂行可能となる。
【0044】
本発明のレーザ溶接監視装置は、レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視装置であって、溶接材料にレーザ光が照射されて形成された溶融池からの、溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した発光強度に基づいて溶接状態を判定することを特徴とする。
【0045】
従って、溶接材料の特性に応じた可視光領域の特定の波長をモニターすることで、より安定して確実かつ容易な溶接不良のその場検知が可能となる。また、レーザ溶接進行中に迅速な溶接不良の検知が可能となるので、レーザ溶接の一時停止やレーザ出力のフィードバック制御等の検知後の処理が迅速かつより適切に遂行可能な、レーザ溶接監視装置を実現できる。
【0046】
また、本発明のレーザ溶接監視装置は、好ましくは特定の一波長が、溶接材料の溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つであることを特徴とする。
【0047】
レーザ溶接に用いる溶接材料に対応して、当該溶接材料により形成された溶融池からの発光スペクトルのピーク波長は、当該溶接材料に固有の特徴を反映する波長である。そして、当該ピーク波長は、溶接材の穴あき等の溶接不良発生時における溶接不良に関する情報をも含む波長であると考えられる。この波長をモニター波長として用いることにより、より正確な溶接進行のその場監視が遂行できるレーザ溶接監視装置を実現できる。
【0048】
また、本発明のレーザ溶接監視装置はさらに好ましくは、溶接材料が、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたは銅または鋼材であることを特徴とする。
【0049】
上述の実施形態では、レーザ溶接材料としてアルミニウム、Ti、Fe、SUS304の場合(各t=0.5mmの二枚重ね)を典型例として説明しているが、これに限定されるものではないことは当業者に明らかである。
【0050】
レーザ溶接材料として用いられる可能性がある銅や各種鋼材等に本発明の技術思想を適用可能であることは当業者に容易に理解される。銅や各種鋼材等においても、レーザ溶接時に生じる溶融池からは、当該材料に対応した材料特有の発光スペクトルが観察される。従って、その発光スペクトルのピーク波長のいずれかの波長領域を用いることにより、安定して確実な溶接良否判定ができるレーザ溶接監視装置となる。
【0051】
本発明のレーザ溶接監視装置は、溶接材料がアルミニウムの場合には、特定の一波長は375nm〜425nmであることを特徴とする。
【0052】
アルミニウムを溶接材料とする場合には、390nmを典型例とするピーク波長において、正常溶接時と異常溶接時との発光強度の比が最も大きくなる。このため、当該波長領域を用いて、レーザ溶接進行時にその場監視することにより、レーザ溶接の良否判定が安定して行えるレーザ溶接監視装置とできる。390nmのピーク波長については、半値幅等も考慮すれば、実質的には365nm乃至415nm程度の波長領域の発光強度を検出すればよいと思われる。この場合に、レーザ溶接監視装置は、365nm乃至415nmの波長領域全体を特定の一波長としてモニターしてもよいし、365nm乃至415nmの範囲のいずれか単波長を特定の一波長としてモニターしてもよい。
【0053】
また、本発明のレーザ溶接監視装置は、さらに好ましくは溶接材料が鉄の場合には、特定の一波長は565nm乃至615nmであり、溶接材料がSUSの場合には、特定の一波長は745nm乃至795nmであり、溶接材料がチタンの場合には、特定の一波長は745nm乃至795nmであることを特徴とする。
【0054】
鉄、SUS304、チタンをそれぞれ溶接材料とする場合には、それぞれ590nm、770nm、770nmを典型例とするピーク波長において、正常溶接時と異常溶接時との発光強度の比が最も大きくなる。
【0055】
このため、当該波長領域を用いて、レーザ溶接進行時にその場監視することにより、レーザ溶接の良否判定が安定して行えるレーザ溶接監視装置とできる。それぞれ590nm、770nm、770nmのピーク波長については、半値幅等も考慮すれば、実質的にはそれぞれ565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nm程度の波長領域の発光強度を検出すればよいと思われる。
【0056】
この場合に、レーザ溶接監視装置は、それぞれ565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nmの波長領域全体をそれぞれ特定の一波長としてモニターしてもよいし、565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nmの範囲のいずれか単波長をそれぞれ特定の一波長としてモニターしてもよい。
【0057】
また、本発明のレーザ溶接監視装置は、レーザ光が1070nm〜1100nmのファイバレーザであることを特徴とする。
【0058】
これにより、レーザ溶接装置として汎用されているレーザ光波長である1070nm〜1100nmのファイバレーザを用いたレーザ溶接を監視し、溶接不良を適切に検知できるものとなる。
【0059】
また、レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視する本発明のレーザ溶接監視方法は、溶接材料にレーザ光が照射されて形成された溶融池からの、溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した発光強度に基づいて溶接状態を判定することを特徴とする。
【0060】
従って、溶接材料の特性に応じた可視光領域の特定の波長をモニターすることで、より安定して確実かつ容易な溶接不良のその場検知が可能となる。また、レーザ溶接進行中に迅速な溶接不良の検知が可能となるので、レーザ溶接の一時停止やレーザ出力のフィードバック制御等の検知後の処理が迅速かつより適切に遂行可能な、レーザ溶接監視方法を実現できる。
【0061】
また、本発明のレーザ溶接監視方法は、好ましくは特定の一波長が、溶接材料の溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つであることを特徴とする。
【0062】
レーザ溶接に用いる溶接材料に対応して、当該溶接材料により形成された溶融池からの発光スペクトルのピーク波長は、当該溶接材料に固有の特徴を反映する波長である。そして、当該ピーク波長は、溶接材の穴あき等の溶接不良発生時における溶接不良に関する情報をも含む波長であると考えられる。この波長をモニター波長として用いることにより、より正確な溶接進行のその場監視が遂行できるレーザ溶接監視方法を実現できる。
【0063】
また、本発明のレーザ溶接監視方法は、溶接材料が、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたは銅または鋼材であることを特徴とする。
【0064】
上述の実施形態では、レーザ溶接材料としてアルミニウム、Ti、Fe、SUS304の場合(各t=0.5mmの二枚重ね)を典型例として説明しているが、これに限定されるものではないことは当業者に明らかである。
【0065】
レーザ溶接材料として用いられる可能性がある銅や各種鋼材等に本発明の技術思想を適用可能であることは当業者に容易に理解される。銅や各種鋼材等においても、レーザ溶接時に生じる溶融池からは、当該材料に対応した材料特有の発光スペクトルが観察される。従って、その発光スペクトルのピーク波長のいずれかの波長領域を用いることにより、安定して確実な溶接良否判定ができるレーザ溶接監視方法となる。
【0066】
また、本発明のレーザ溶接監視方法は、溶接材料がアルミニウムの場合には、特定の一波長は375nm〜425nmであることを特徴とする。
【0067】
アルミニウムを溶接材料とする場合には、390nmを典型例とするピーク波長において、正常溶接時と異常溶接時との発光強度の比が最も大きくなる。このため、当該波長領域を用いて、レーザ溶接進行時にその場監視することにより、レーザ溶接の良否判定が安定して行えるレーザ溶接監視方法とできる。390nmのピーク波長については、半値幅等も考慮すれば、実質的には365nm乃至415nm程度の波長領域の発光強度を検出すればよいと思われる。この場合に、本レーザ溶接監視方法は、365nm乃至415nmの波長領域全体を特定の一波長としてモニターしてもよいし、365nm乃至415nmの範囲のいずれか単波長を特定の一波長としてモニターしてもよい。
【0068】
また、本発明のレーザ溶接監視方法は、 溶接材料が鉄の場合には、特定の一波長は565nm〜615nmであり、溶接材料がSUSの場合には、特定の一波長は745nm〜795nmであり、溶接材料がチタンの場合には、特定の一波長は745nm〜795nmであることを特徴とする。
【0069】
鉄、SUS304、チタンをそれぞれ溶接材料とする場合には、それぞれ590nm、770nm、770nmを典型例とするピーク波長において、正常溶接時と異常溶接時との発光強度の比が最も大きくなる。このため、当該波長領域を用いて、レーザ溶接進行時にその場監視することにより、レーザ溶接の良否判定が安定して行えるレーザ溶接監視方法とできる。
【0070】
それぞれ590nm、770nm、770nmのピーク波長については、半値幅等も考慮すれば、実質的にはそれぞれ565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nm程度の波長領域の発光強度を検出すればよいと思われる。
【0071】
この場合に、レーザ溶接監視装置は、それぞれ565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nmの波長領域全体をそれぞれ特定の一波長としてモニターしてもよいし、565nm乃至615nm、745nm乃至795nm、745nm乃至795nmの範囲のいずれか単波長をそれぞれ特定の一波長としてモニターしてもよい。
【0072】
また、本発明のレーザ溶接監視方法は、さらに好ましくはレーザ光が1070nm〜1100nmのファイバレーザであることを特徴とする。
【0073】
これにより、レーザ溶接装置として汎用されているレーザ光波長である1070nm〜1100nmのファイバレーザを用いたレーザ溶接を監視し、溶接不良を適切に検知できるものとなる。
【0074】
本発明のレーザ溶接装置及びレーザ溶接監視方法は、上述した本実施形態の説明における構成や方法に限定されるものではなく、本発明の範囲内かつ当業者に自明な範囲で適宜自由に変更し、修正し、アレンジすることが可能である。また、従来公知の装置構成や方法と適宜組み合わせて、また適宜順序を入れ替えて使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、コンデンサ等の各種電子部品のレーザ光溶接モニタリングシステム等に幅広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1000・・レーザ溶接システム、1100・・レーザ装置、1200・・良否判定装置、1300・・加工ヘッド、1400・・溶接材、1500・・可視光集光センサユニット。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視装置において、
前記溶接材料に前記レーザ光が照射されて表側に形成された溶融池からの、前記溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記特定の一波長は、前記溶接材料の前記溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つである
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項3】削除
【請求項4】削除
【請求項5】削除
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記レーザ光は1070nm〜1100nmのファイバレーザである
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項7】
レーザ光にて溶接される溶接材料の溶接部位について、その溶接状態を監視するレーザ溶接監視方法において、
前記溶接材料に前記レーザ光が照射されて表側に形成された溶融池からの、前記溶接材料に対応して予め決定された、可視光内の特定の一波長の発光強度を検出し、検出した前記発光強度に基づいて溶接状態を判定し、
前記溶接材料は、アルミニウムまたは鉄またはチタンまたはSUS304であり、
前記溶接材料がアルミニウムの場合には、前記特定の一波長は375nm〜425nm範囲であり、
前記溶接材料が鉄の場合には、前記特定の一波長は565nm〜615nm範囲であり、
前記溶接材料がチタン及びSUS304の場合には、前記特定の一波長は745nm〜795nm範囲であり、
前記特定の一波長は、前記範囲の全体である
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記特定の一波長は、前記溶接材料の前記溶融池からの複数の発光スペクトルのピーク波長の中の一つである
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項9】削除
【請求項10】削除
【請求項11】削除
【請求項12】
請求項7または請求項8に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記レーザ光は1070nm〜1100nmのファイバレーザである
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2または請求項6に記載のレーザ溶接監視装置において、
前記特定の一波長の発光強度の検出は、半値幅25nmの透過干渉フィルターを介して遂行される
ことを特徴とするレーザ溶接監視装置。
【請求項14】
請求項7または請求項8または請求項12に記載のレーザ溶接監視方法において、
前記特定の一波長の発光強度の検出は、半値幅25nmの透過干渉フィルターを介して遂行される
ことを特徴とするレーザ溶接監視方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-16 
出願番号 P2015-145477
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23K)
P 1 651・ 536- YAA (B23K)
P 1 651・ 537- YAA (B23K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
大山 健
登録日 2020-04-07 
登録番号 6688021
権利者 株式会社NISHIHARA
発明の名称 レーザ溶接監視装置とレーザ溶接監視方法  
代理人 鎌田 和弘  
代理人 鎌田 和弘  

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