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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
管理番号 1385140
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-03 
確定日 2022-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6733840号発明「重合性組成物、その硬化物、フォトスペーサー、表示素子用オーバーコート、表示素子用層間絶縁材料、及び液晶表示素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6733840号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5、7〜8〕〔6、10〕〔9、11〕〔12〕について訂正することを認める。 特許第6733840号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6733840号の請求項1〜請求項12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019−568800号)は、2019年(令和元年)5月16日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年5月24日)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年7月13日に特許権の設定の登録がされたものである。
その後、本件特許について、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年2月3日に、本件特許のうち全請求項に係る特許に対して、特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の概要は、以下のとおりである。
令和3年5月27日付け:取消理由通知書
令和3年7月29日付け:訂正請求書
令和3年7月29日付け:意見書(特許権者)
令和3年9月24日付け:意見書(特許異議申立人)


第2 本件訂正請求について
令和3年7月29日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6733840号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜12について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、ここで前記化合物(B)のうち少なくとも1つは下記一般式(I−1−2)
【化3】

(式中、P12〜P13はそれぞれ独立して、重合性官能基を表し、
Sp11〜Sp13はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜18のアルキレン基又は単結合を表し、該アルキレン基中の1個の−CH2−又は隣接していない2個以上の−CH2−が各々独立して−O−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−によって置換されても良く、該アルキレン基の有する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はCN基によって置換されても良く、X11〜X13はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−OCH2−、−CH2O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CO−NH−、−NH−CO−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−OCO−、−COO−CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−COO−CH2CH2−、−OCO−CH2CH2−、−CH2CH2−COO−、−CH2CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCO−CH2−、−CH2−COO−、−CH2−OCO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−N=CH−、−CF=CF−、−C≡C−又は単結合を表し(ただし、P11−Sp11、P12−Sp12、Sp11−X11、Sp12−X12、Sp13−X13、及びSp13−X13において、ヘテロ原子同士の直接結合を含まない。)、
q1、q2、q4、及びq5はそれぞれ独立して、0又は1を表し、
MG12はメソゲン基を表す。)
で表される化合物であり、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物。」に訂正する。
また、本件訂正請求による訂正後の請求項2〜請求項5についても、同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を、
「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化6】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化7】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物
の硬化物から構成されるフォトスペーサー。」と訂正する。
また、本件訂正請求による訂正後の請求項10についても、同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9を、
「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化8】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化9】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、電圧駆動用液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物。」と訂正する。
また、本件訂正請求による訂正後の請求項11についても、同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12を、
「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化10】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化11】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物
を用いた液晶−高分子複合体を含む調光素子。」と訂正する。

(5)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについて
本件訂正前の請求項1〜12は、請求項2〜12が、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法120条の5第4項の規定に適合する。 また、本件訂正は、
ア 訂正後の請求項1〜5及び7〜8
イ 請求項6(訂正後の請求項6を引用する訂正後の請求項10を含む。)
ウ 請求項9(訂正後の請求項9を引用する請求項11を含む。)
エ 請求項12の各請求項の群についての訂正が認められる場合には、上記一群の請求項(請求項1〜12)の他の請求項の群とは別の訂正単位として扱うことを求めている。

3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「化合物(B)」について、「少なくとも1つが」、上記「【化3】」「で表される化合物であ」るとの限定を付加するものである。また、請求項1を引用する請求項2〜請求項5及び請求項7〜8についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。

イ 新規事項
訂正事項1による訂正は、本件特許明細書の【0122】〜【0123】及び【0149】〜【0151】等の記載に基づくものである。
以上勘案すると、訂正事項1による訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 拡張又は変更
前記アで述べた訂正の内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項6の記載を、請求項1の記載を引用しないものとする訂正である。また、請求項6を引用する請求項10についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、[A]訂正前の請求項1〜4の記載を引用する訂正前の請求項9の記載を、請求項1〜4の記載を引用しないものとする及び[B]訂正前の請求項9の「液晶−高分子複合体用組成物」が、「電圧駆動用」のものであるとする訂正である。また、請求項9を引用する請求項11についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項11の記載を引用する訂正前の請求項12の記載を、請求項11の記載を引用しないものとする訂正である。
そうしてみると、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項4による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。

4 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。また、上記「2(5)」に示したとおり、本件訂正請求について、特許権者から別の訂正単位とする求めがあったところ、訂正後の一群の請求項は、〔1〜5、7〜8〕、〔6、10〕、〔9、11〕及び〔12〕である。
したがって、結論に記載のとおり、特許第6733840号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5、7〜8〕、〔6、10〕、〔9、11〕及び〔12〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1〜請求項12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」などという。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項12に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、ここで前記化合物(B)のうち少なくとも1つは下記一般式(I−1−2)
【化3】

(式中、P12〜P13はそれぞれ独立して、重合性官能基を表し、
Sp11〜Sp13はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜18のアルキレン基又は単結合を表し、該アルキレン基中の1個の−CH2−又は隣接していない2個以上の−CH2−が各々独立して−O−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−によって置換されても良く、該アルキレン基の有する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はCN基によって置換されても良く、X11〜X13はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−OCH2−、−CH2O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CO−NH−、−NH−CO−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−OCO−、−COO−CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−COO−CH2CH2−、−OCO−CH2CH2−、−CH2CH2−COO−、−CH2CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCO−CH2−、−CH2−COO−、−CH2−OCO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−N=CH−、−CF=CF−、−C≡C−又は単結合を表し(ただし、P11−Sp11、P12−Sp12、Sp11−X11、Sp12−X12、Sp13−X13、及びSp13−X13において、ヘテロ原子同士の直接結合を含まない。)、
q1、q2、q4、及びq5はそれぞれ独立して、0又は1を表し、
MG12はメソゲン基を表す。)
で表される化合物であり、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物。
【請求項2】
前記(A)〜(C)成分に加え、更に、(D)有機溶剤を含有する請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)が、その樹脂構造内にメソゲン骨格を有するものである請求項1〜2の何れか一つに記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)が、その樹脂構造内にメソゲン骨格を有し、下記構造式(1)
【化4】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に
独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化5】

(式中、
Pは反応性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)
で表される構造を表す。)
で表される重合性液晶化合物と、酸基含有重合性単量体とを共重合させたものである請求項3に記載の重合性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物を用いた硬化物。
【請求項6】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化6】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化7】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物の硬化物から構成されるフォトスペーサー。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物を用いた表示素子用オーバーコート。
【請求項8】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物からなる表示素子用層間絶縁材料。
【請求項9】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化8】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化9】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、電圧駆動用液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物。
【請求項10】
請求項6に記載のフォトスペーサーを配設してなる液晶表示素子。
【請求項11】
請求項9に記載の液晶−高分子複合体用組成物を用いた液晶−高分子複合体。
【請求項12】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化10】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化11】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物
を用いた液晶−高分子複合体を含む調光素子。」


第4 取消しの理由及び証拠
1 取消しの理由
理由1:(新規性)本件特許の請求項1、2、5、7〜9及び11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本件特許の請求項1〜5、7〜9及び11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
理由3:(拡大先願)本件特許の請求項1〜5、7〜9及び11に係る発明は、先の出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(特許法第184条の13参照)。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。



2 証拠について
特許異議申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲1:特開2012−141576号公報
甲2:韓国公開特許公報10−2015−0018120号公報
甲3:特開2013−147607号公報
甲4:特開2016−126320号公報
甲5:特願2018−005723号(PCT2019/001242号、国際公開第2019/142856号)
甲6:国際公開第2017/038506号
(当合議体注:
(1)甲1、甲2及び甲5は主引用例であり、甲3は、「パリオカラーLC242(BASF社)」の構造を立証するための文献である。また、甲5を、以下「先願5」といい、先願5の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を、以下、単に「先願5明細書」という。
(2)特許異議申立人は、上記に加えて甲2の抄訳文も提出している。)


第5 当合議体の判断(新規性進歩性
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子の製造方法に関する。さらに詳しくは、視野角が広く、応答速度の速い液晶表示素子を製造するための新規な方法に関する。
【背景技術】
・・・中略・・・
【0003】
これらに対し非特許文献1は、反応性メソゲンを含有するポリイミド系液晶配向剤から形成された液晶配向膜を用いる方法を提案している。非特許文献1によると、かかる方法により形成された液晶配向膜を具備する液晶表示素子は、液晶分子の応答が高速であるという。しかしながら非特許文献1には、いかなる反応性メソゲンをいかなる量で使用すべきかについての指針は全く記載されておらず、また必要な紫外線照射量も依然として多く、表示特性、特に電圧保持特性に関する懸念は払拭されていない。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、視野角が広く、液晶分子の応答速度が速く、表示特性および長期信頼性に優れる液晶表示素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記課題は、
導電膜を有する一対の基板の該導電膜上に、それぞれ、
(A)ポリオルガノシロキサンおよび
(B)重合性不飽和化合物
を含有する重合体組成物を塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜を形成した一対の基板を、液晶分子の層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを形成し、
前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程を経ることを特徴とする、液晶表示素子の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって製造された液晶表示素子は、視野角が広く、液晶分子の応答速度が速く、十分な透過率およびコントラストを示し、表示特定に優れるうえ、長時間連続駆動しても表示特性が損なわれることがない。
また、本発明の方法によると、照射に必要な光の量が少なくてすむため、液晶表示素子の製造コストの削減に資する。
従って、本発明の方法により製造された液晶表示素子は、性能面およびコスト面の双方において従来知られている液晶表示素子に勝り、種々の用途に好適に適用することができる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
<重合体組成物>
本発明の方法において用いられる重合体組成物は、
(A)ポリオルガノシロキサンおよび
(B)重合性不飽和化合物
を含有する。
【0011】
[(A)ポリオルガノシロキサン]
本発明で使用される重合体組成物に含有される(A)ポリオルガノシロキサンにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、500〜1,000,000であることが好ましく、1,000〜100,000であることがより好ましく、さらに1,000〜50,000であることが好ましい。
(A)ポリオルガノシロキサンは、下記式(A−1)
【0012】
【化2】

【0013】
(式(A−1)中、n1は0〜2の整数であり、
n2は0または1であり、
n1+n2が2以上のときRは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のフルオロアルキル基であり、
n1+n2が0または1のときRはステロイド構造を有する基、炭素数4〜20のアルキル基または炭素数2〜20のフルオロアルキル基である。)
で表される基を有するものであることが好ましい。
・・・中略・・・
【0036】
[(B)重合性不飽和化合物]
本発明において用いられる(B)重合性不飽和化合物は、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基であり、好ましくは分子中に、下記式(B−II)
【0037】
【化1】

【0038】
(式(B−II)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Y2およびY3は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子である。)
で表される1価の基の少なくとも2個を有する化合物(B−1)を含む。
化合物(B−1)における上記式(B−II)で表される1価の基の数は、2個であることが好ましい。上記式(B−II)におけるY2としては、酸素原子であることが好ましい。
化合物(B−1)は、分子中に下記式(B−I)
−X1−Y1−X2− (B−I)
(式(B−I)中、X1およびX2は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基または1,4−シクロへキシレン基であり、Y1は単結合、炭素数1〜4の2価の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子または−COO−であり、ただし上記X1およびX2は1個または複数個の炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フッ素原子またはシアノ基で置換されていてもよい。)
で表される2価の基で表される2価の基の少なくとも1個をさらに含むものであることが好ましい。」

ウ 「【実施例】
【0068】
<(A)ポリオルガノシロキサンの合成例>
以下の合成例における重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。
合成例A−1(製造法1による合成例)
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、シュウ酸11.3gおよびエタノール24.2gを仕込み、これを攪拌してシュウ酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液を窒素雰囲気下、70℃まで加熱した後、ここにシラン化合物として、テトラエトキシシラン12.3gおよびドデシルトリエトキシシラン2.2gからなる混合物を滴下した。滴下終了後、70℃の温度を6時間維持し、その後25℃まで冷却し、次いでブチルセロソルブ40.0gを加えることにより、ポリオルガノシロキサン(A−1)を含有する溶液を調製した。
この溶液に含有されるポリオルガノシロキサン(A−1)の重量平均分子量Mwは12,000であった。
・・・中略・・・
【0072】
実施例1
<重合体組成物の調製>
(A)ポリオルガノシロキサンとして上記合成例A−1で得たポリオルガノシロキサン(A−1)を含有する溶液に、溶媒としてブチルセロソルブを加え、さらに(B)重合性不飽和化合物として、後述の式(B−1−1)で表される化合物を、上記(A)ポリオルガノシロキサン100重量部に対して15重量部加え、固形分濃度5.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより、重合体組成物を調製した。
<液晶セルの製造>
上記で調製した重合体組成物を用いて、透明電極のパターン(3種類)および紫外線照射量(3水準)を変更して、計9個の液晶セルを製造し、下記のように評価した。
【0073】
[パターンなし透明電極を有する液晶セルの製造]
上記で調製した重合体組成物を、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いてITO膜からなる透明電極を有するガラス基板の透明電極面上に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。
この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押しこみ長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行ない、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
次に、上記一対の基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、一対の基板を液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。
上記の操作を繰り返し行い、パターンなし透明電極を有する液晶セルを3個製造した。そのうちの1個はそのまま後述のプレチルト角の評価に供した。残りの2個の液晶セルについては、それぞれ下記の方法により導電膜間に電圧を印加した状態で光照射した後にプレチルト角および電圧保持率の評価に供した。
上記で得た液晶セルのうちの2個について、それぞれ電極間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外腺照射装置を用いて、紫外線を10,000J/m2または100,000J/m2の照射量にて照射した。なおこの照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。
【0074】
[プレチルト角の評価]
上記で製造した各液晶セルについて、それぞれ非特許文献2(T.J.Scheffer et.al.,J.Appl.Phys.vol.48,p.1783(1977))および非特許文献3(F.Nakano, et.al.,JPN.J.Appl.Phys.vol.19,p.2013(1980))に記載の方法に準拠してHe−Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角とした。
光未照射の液晶セル、照射量10,000J/m2の液晶セルおよび照射量100,000J/m2の液晶セルのそれぞれのプレチルト角を第1表に示した。
[電圧保持率の評価]
上記で製造した各液晶セルに対し、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置としては(株)東陽テクニカ製、VHR−1を使用した。
照射量10,000J/m2の液晶セルおよび照射量10,000J/m2の液晶セルのそれぞれの電圧保持率を第1表に示した。
【0075】
[パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(1)]
上記で調製した重合体組成物を、図1に示したようなスリット状にパターニングされ、複数の領域に区画されたITO電極をそれぞれ有するガラス基板AおよびBの各電極面上に液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行なった後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
次いで、上記一対の基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、一対の基板を液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。
上記の操作を繰り返し行い、パターニングされた透明電極を有する液晶セルを3個製造した。そのうちの1個はそのまま後述の応答速度の評価に供した。残りの2個の液晶セルについては、上記パターンなし透明電極を有する液晶セルの製造におけるのと同様の方法により、導電膜間に電圧を印加した状態で10,000J/m2または100,000J/m2の照射量にて光照射した後に応答速度の評価に供した。
なお、ここで用いた電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
【0076】
[応答速度の評価]
上記で製造した各液晶セルにつき、先ず電圧を印加せずに可視光ランプを照射して液晶セルを透過した光の輝度をフォトマルチメーターにて測定し、この値を相対透過率0%とした。次に液晶セルの電極間に交流60Vを5秒間印加したときの透過率を上記と同様にして測定し、この値を相対透過率100%とした。
このとき各液晶セルに対して交流60Vを印加したときに、相対透過率が10%から90%に移行するまでの時間を測定し、この時間を応答速度と定義して評価した。
光未照射の液晶セル、照射量10,000J/m2の液晶セルおよび照射量100,000J/m2の液晶セルのそれぞれの応答速度を第1表に示した。
【0077】
[パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(2)]
上記で調製した重合体組成物を用い、図2に示したようなフィッシュボーン状にパターニングされたITO電極をそれぞれ有するガラス基板AおよびBを使用したほかは、上記パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(1)と同様にして、光未照射の液晶セル、照射量10,000J/m2の液晶セルおよび照射量100,000J/m2の
液晶セルを製造し、それぞれ上記と同様にして応答速度の評価に供した。評価結果は第1表に示した。
【0078】
実施例2〜7および9ならびに比較例1および2
上記実施例1において、(A)ポリオルガノシロキサンおよび(B)重合性不飽和化合物の種類および使用量をそれぞれ第1表に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にして重合体組成物を調製し、これを用いて各種液晶セルを製造して評価した。
なお重合体組成物の調製において、実施例5および6おいては(B)重合性不飽和化合物をそれぞれ2種類ずつ使用し、
実施例7においては、(A)ポリオルガノシロキサンおよび(B)重合性不飽和化合物のほかに、第1表に示した種類および量の光重合開始剤を使用した。
比較例2は、重合体組成物を塗布する際に塗布ハジキが多く発生し、評価可能な液晶セルを製造することができなかった。
評価結果は第1表に示した。
・・・中略・・・
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
上記の第1表において、重合体組成物中の各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
[(B)重合性不飽和化合物]
化合物(B−1)
B−1−1:下記式(B−1−1)で表される化合物
B−1−2−1:下記式(B−1−2)において、nが2〜4である化合物の混合物
B−1−2−2:下記式(B−1−2)において、2つのnの合計値の平均が2.6である混合物
B−1−3:下記式(B−1−3)で表される化合物
B−1−4−1:下記式(B−1−4)において、n=3である化合物
B−1−4−2:下記式(B−1−4)において、n=5である化合物
【0085】
【化7】

【0086】
その他の不飽和化合物
B−2−1:メタクリル酸 4−(4’−フェニル−ビシクロヘキシル−4−イル)フェニルエステル
B−2−2:メタクリル酸−5ξ−コレスタン−3−イル
[光重合開始剤]
C−1:フェニル−(4−p−トリルスルファニル−フェニル)−メタノン
〔エポキシ化合物〕
E−1:N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン」

(2)甲1に記載された発明
ア 甲1組成物発明
甲1の【0078】によれば、甲1には、実施例7に係る「重合体組成物」が開示されているところ、上記「重合体組成物」は、甲1の【0068】及び【0072】の記載にされたように調整した実施例1に係る重合体組成物において、「(A)ポリオルガノシロキサンおよび(B)重合性不飽和化合物の種類および使用量をそれぞれ第1表に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にして」「調製し」たものである。
そうしてみると、甲1には、次の重合性組成物の発明(以下「甲1組成物発明」という。)が記載されている。
「シュウ酸11.3gおよびエタノール24.2gを仕込み、これを攪拌してシュウ酸のエタノール溶液を調製し、次いでこの溶液を窒素雰囲気下、70℃まで加熱した後、ここにシラン化合物として、テトラエトキシシラン12.3gおよびドデシルトリエトキシシラン2.2gからなる混合物を滴下し、70℃の温度を6時間維持し、その後25℃まで冷却し、次いでブチルセロソルブ40.0gを加えることにより、ポリオルガノシロキサン(A−1)を含有する溶液を調製し、このポリオルガノシロキサン(A−1)を含有する溶液に、溶媒としてブチルセロソルブを加え、さらに(B)重合性不飽和化合物として、後述の式(B−1−1)で表される化合物を、上記(A)ポリオルガノシロキサン100重量部に対して15重量部加え、固形分濃度5.0重量%の溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより、調製した、
さらに、(A)ポリオルガノシロキサンおよび(B)重合性不飽和化合物のほかに、光重合開始剤C−1:フェニル−(4−p−トリルスルファニル−フェニル)−メタノン0.1重量部を使用した、
重合性組成物。
ここで、式(B−1−1)は以下のものである。



イ 甲1塗膜発明
甲1の【0073】及び【0078】によれば、甲1には、甲1組成物発明の「重合体組成物」から形成された、次の塗膜の発明(以下「甲1塗膜発明」という。)が記載されている。
「甲1組成物発明の重合体組成物を、ITO膜からなる透明電極を有するガラス基板の透明電極面上に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、形成した、平均膜厚600Åの塗膜。」

(3)甲2の記載
甲2は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示し、仮訳は、甲2の抄訳文を参考にして当合議体が作成したものである。


ア 「

・・・


(仮訳:
【請求項1】
反応性液晶化合物、光重合性線形高分子配向体、バインダー樹脂及び光重合開始剤を含む、粘着剤組成物。
・・・中略・・・
【請求項6】
請求項1ないし5中どれか一項の粘着剤組成物を含む粘着層が形成された粘着シート。)

イ 「

・・・中略・・・
[0035]

[0036]

[0037]

・・・中略・・・


(仮訳:[0033] 本発明に係る反応性液晶化合物は配向して位相差を有するようにできるものであれば特に限定されず、例えば棒状反応性液晶化合物、平板状反応性液晶化合物、これらのポリマー等を用いることができる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
・・・中略・・・
[0035]反応性液晶化合物は架橋構造を有するものが、配向状態が上記架橋構造により固定化されて熱に対して安定であるため好ましい。また、配向性が良好で配向欠陥が少ないという理由からネマチック反応性液晶化合物を含むことが好ましいが、これに限定されず、ディスコティック、コレステリックなどの反応性液晶化合物も使用可能である。
[0036]反応性液晶化合物は、反応性官能基で置換された液晶化合物であれば特に限定されず、例えばアゾメチン類、アゾキシチン類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類、これらのポリマー等が挙げられる。上記アルコキシ置換フェニルピリミジン類のアルコキシ基とアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類のアルケニル基は炭素数1〜20であることができる。
[0037]上記反応性官能基は、アクリロイル基、メタクリロイル基やビニルエーテルなどのビニル基であることができるが、これに制限されるものではない。
・・・中略・・・
[0061]
本発明の粘着剤組成物は、多官能性モノマーをさらに含むことができる。
[0062]
多官能性モノマーは、放射線照射による硬化を通じて第2の架橋構造を形成し、養生を経ながら粘着剤をより硬い状態にすることで耐久性を向上させるとともに所望の貯蔵弾性率(G’)を確保するようにできる。また、無溶媒型の粘着剤組成物を希釈して粘度を調整することにより塗工が容易になる成分である。多官能性単量体の種類は特に限定されず、三官能性以上の単量体が好ましい。)

ウ 「

[0094]

[0095]


(仮訳:[0092]また、本発明は、少なくとも一面に、上記粘着剤組成物を含む粘着層が形成された偏光板を提供する。
[0093]偏光板はディスプレイパネル部との接合のために、接合される面に粘着層を形成するようになるが、本発明の偏光板は、上記粘着剤組成物を含む粘着層を含むことにより、位相差の機能も兼ねるので別途の位相差層を要せずに、より薄膜軽量化されたディスプレイを具現できるようにする。
[0094]粘着層は、偏光板に直接塗工されたものであるか、あるいは偏光板の一面に粘着シートを付着して形成されたものであり得る。
[0095]本発明の偏光板の構成は、特に限定されず、当分野にて公知となった構成を有するものであり得、例えば、偏光子、上記偏光子の少なくとも一面に形成された保護フィルムを含むことであり得る。)

エ 「[0100]

[0101]


[0104]






(仮訳:[0100]製造例 アクリルバインダー樹脂の製造
[0101]4−ネックジャケット(neck jacket)の1L反応基に撹拌機、温度計、還流冷却管、積荷ロット及び窒素ガス導入管を装置して、反応基にn−ブチルアクリレート40重量部、2−エチルヘキシルアクリレート59重量部、アクリル酸1重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル(azobisisobutyronitrile、AIBN)0.1重量部を入れた後反応基内の空気を窒素ガスを投入して置換させた。窒素ガス雰囲気内で撹拌の下に反応溶液の温度を65℃で昇温させて2時間の間、反応させた。反応が終わった後、粘度3000cPsのアクリル系バインダー樹脂を得た。製造されたアクリル系バインダー樹脂のGPCで評価した重量平均分子量(Mw)は150,000だった。
[0102]実施例及び比較例
[0103]下記表1に記載した組成及び含有量を有する粘着剤組成物を製造した。


(4)甲2に記載された発明
ア 甲2組成物発明
上記(3)によれば、甲2の[0100]〜[0104](特に、表1)には、実施例1として、反応性液晶化合物(A):30重量部、光重合性線形高分子配向体(B):30重量部、バインダー樹脂(C):100重量部、ラジカル光開始剤(D):1重量部、シランカップリング剤(G):1重量部の組成及び含有量を有する粘着剤組成物が記載されている。そして、上記(A)〜(D)及び(G)の各成分は、甲2の[0100]及び[0104]の表1に記載されたものであって、上記「反応性液晶化合物(A)」である、「パリオカラーLC242(BASF社)」は、甲3の【0295】に記載された構造式で表される化合物である。
以上によれば、甲2には、次の粘着剤組成物の発明(以下「甲2組成物発明」という。)が記載されている。
「反応性液晶化合物(A):30重量部、光重合性線形高分子配向体(B):30重量部、バインダー樹脂(C):100重量部、ラジカル光開始剤(D):1重量部、シランカップリング剤(G):1重量部からなる組成及び含有量を有する粘着剤組成物。
ここで、上記反応性液晶化合物(A)は、パリオカラーLC242(BASF社)であり、その構造式は、以下のとおりである。

また、上記光重合性線形高分子配向体(B)はSTARALIGN2100(HUNTSMAN社)、上記ラジカル光開始剤(D)はDarocur-1173(BASF社)、上記バインダー樹脂(C)は、以下のように製造された、アクリル系バインダー樹脂(重量平均分子量(Mw)は150,000)である。
n−ブチルアクリレート40重量部、2−エチルヘキシルアクリレート59重量部、アクリル酸1重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を入れた後反応基内の空気を窒素ガスを投入して置換させ、窒素ガス雰囲気内で撹拌の下に反応溶液の温度を65℃で昇温させて2時間の間反応させた。」

2 甲1を主引用例とした場合
(1)対比
ア アルカリ可溶性樹脂(A)
甲1組成物発明の「ポリオルガノシロキサン(A−1)」は、「シュウ酸11.3gおよびエタノール24.2gを仕込み、これを攪拌してシュウ酸のエタノール溶液を調製し、次いでこの溶液を窒素雰囲気下、70℃まで加熱した後、ここにシラン化合物として、テトラエトキシシラン12.3gおよびドデシルトリエトキシシラン2.2gからなる混合物を滴下し、70℃の温度を6時間維持し、その後25℃まで冷却し、次いでブチルセロソルブ40.0gを加えることにより」「調整し」たものである。
上記工程で調整された、上記「ポリオルガノシロキサン(A−1)」には、その縮合物中に、エトキシ基の加水分解によって生じたシラノール基等のアルカリ可溶性成分が若干残留していると解されるところ、本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の【0016】に記載された、「アルカリ可溶性」の定義に照らせば、甲1組成物発明の「ポリオルガノシロキサン(A−1)」は、本件特許発明1において、「アルカリ可溶性樹脂」(A)に相当するといえる。

イ 重合性化合物(B)
甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」は、「式(B−1−1)で表される化合物」である。ここで、式(B−1−1)は、上記「1(2)ア」に示すとおりである。
当該構造式からみて、甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」は、本件特許発明1の「重合性化合物(B)」の「一般式(1)」において、
「P」が、アクリロイルオキシ基(重合性官能基)であり、
「(Sp)m」の「m」が1であって、「Sp」が、炭素原子数3のプロピレン鎖の末端のエチレン基1つが「−O−」により置き換えられた、炭素原子数2のエチレン基であり、
「R1」の「一般式(1−a)」において、「(Sp)m」の「m」が1であって、「Sp」が炭素原子数2のスペーサー基及び「P」がアクリロイルオキシ基(重合性官能基)である化合物に該当する。
さらに、本件特許発明1の一般式(1)における「MG」(メソゲン基)は、請求項1にその定義が明記されていないが、本件明細書の【0039】の「一般式(1−b)」で表されるものと理解されるところ、甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」は、前記「一般式(1−b)」において、「Z0」、「Z2」及び「Z3」が単結合、「n」が0、「A2」及び「A3」が「1,4−フェニレン基」である、メソゲン基が上記「一般式(1)」の上記「(Sp)m」に連結された構造を具備する。
以上によれば、甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」と、本件特許発明1の「重合性化合物(B)」とは、
[A]「分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物」である点及び
[B]「その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物」である点で共通する。

ウ 光重合開始剤(C)
甲1組成物発明の「重合体組成物」における役割からみて、甲1組成物発明の「光重合開始剤C−1:フェニル−(4−p−トリルスルファニル−フェニル)−メタノン」は、本件特許発明1の「(C)光重合開始剤」に相当する。

エ 重合性組成物
甲1組成物発明の「重合体組成物」は、「ポリオルガノシロキサン(A−1)を含有する溶液に、溶媒としてブチルセロソルブを加え、さらに(B)重合性不飽和化合物として、」「(B−1−1)で表される化合物を、上記(A)ポリオルガノシロキサン100重量部に対して15重量部加え、固形分濃度5.0重量%の溶液とし、」「調製し、さらに、(A)ポリオルガノシロキサンおよび(B)重合性不飽和化合物のほかに、光重合開始剤C−1:フェニル−(4−p−トリルスルファニル−フェニル)−メタノン0.1重量部を使用した、重合体組成物」である。
上記組成からみて、甲1組成物発明の「重合体組成物」は、本件特許発明1の「重合性組成物」に相当し、本件特許発明1の「前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%である」及び「前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する」という要件を満たす。
また、甲1の【0006】〜【0007】の記載から、当業者は、甲1組成物発明における「(A)ポリオルガノシロキサン」及び「(B)重合性不飽和化合物」(本件特許発明1の「分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物」に該当する。)は、甲1組成物発明の課題(視野角が広く、液晶分子の応答速度が速く、表示特性および長期信頼性に優れる液晶表示素子の製造方法を提供すること)を達成するための必須成分であることを直ちに理解する。
そうしてみると、甲1組成物発明の「重合体組成物」は、本件特許発明1の「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物を必須成分とする」との要件も満たす。

(2)一致点及び相違点
上記(1)によれば、本件特許発明1と甲1組成物発明とは、以下の点で、一致ないし相違する。
ア 一致点
「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物。」

イ 相違点
「重合性化合物(B)」について、本件特許発明1では、「化合物(B)のうち少なくとも1つは下記一般式(I−1−2)
【化3】

(式中、P12〜P13はそれぞれ独立して、重合性官能基を表し、
Sp11〜Sp13はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜18のアルキレン基又は単結合を表し、該アルキレン基中の1個の−CH2−又は隣接していない2個以上の−CH2−が各々独立して−O−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−によって置換されても良く、該アルキレン基の有する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はCN基によって置換されても良く、X11〜X13はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−OCH2−、−CH2O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CO−NH−、−NH−CO−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−OCO−、−COO−CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−COO−CH2CH2−、−OCO−CH2CH2−、−CH2CH2−COO−、−CH2CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCO−CH2−、−CH2−COO−、−CH2−OCO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−N=CH−、−CF=CF−、−C≡C−又は単結合を表し(ただし、P11−Sp11、P12−Sp12、Sp11−X11、Sp12−X12、Sp13−X13、及びSp13−X13において、ヘテロ原子同士の直接結合を含まない。)、
q1、q2、q4、及びq5はそれぞれ独立して、0又は1を表し、
MG12はメソゲン基を表す。)
で表される化合物であ」るのに対して、
甲1組成物発明は、上記「一般式(I−1−2)」で表される化合物を含まない点。
(以下「相違点1」という。)

(3)判断
上記相違点1について検討する。
甲1の【0036】〜【0038】には、「(B)重合性不飽和化合物」について、以下のとおり記載されている。
「本発明において用いられる(B)重合性不飽和化合物は、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基であり、好ましくは分子中に、下記式(B−II)
【0037】
【化1】

【0038】
(式(B−II)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Y2およびY3は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子である。)
で表される1価の基の少なくとも2個を有する化合物(B−1)を含む。」
しかしながら、上記記載に続けて、甲1の【0038】には、「化合物(B−1)における上記式(B−II)で表される1価の基の数は、2個であることが好ましい。上記式(B−II)におけるY2としては、酸素原子であることが好ましい。」と記載されている。すなわち、甲1に記載された重合体組成物の発明における、「(B)重合性不飽和化合物」の重合性官能基は少なくとも2個有するとされるものの、その個数は「2個であることが好ましい」ことから、既に「(B)重合性不飽和化合物」の重合性官能基の個数が2個である甲1組成物発明において、好ましいとされる2個を超えて、相違点1に係る一般式(I−1−2)で表される重合性不飽和化合物(重合性官能基の個数が3個)を採用することは、何らかの積極的な動機が見出せない限り、当業者が自然に試みる選択肢とはいえない。そして、そのような積極的な動機づけとなり得る記載は甲1の他の箇所にも、特許異議申立人が提出した他の証拠にもない。
したがって、本件特許発明1は、甲1組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和3年9月24日付け意見書の「(ウ)本件訂正発明1と甲第1、第2及び第6号証との対比」において、本件特許発明1の「一般式(I−1−2)で表される化合物」に相当する化合物を開示する、甲6(特に、[0038]〜[0039]の一般式(I−1−2)参照。)を新たに提出し、「甲第1号証、甲第2号証、及び甲第6号証に記載の発明は、いずれも「ネガ型の感光性組成物」に関するものである。そして、甲第1号証に記載の発明及び甲第6号証に記載の発明は、「液晶表示素子の表示特性を高める点」を課題とする点で共通している。・・・中略・・・課題を解決するため、甲第6号証に記載されている本件訂正発明1の「一般式(I−1−2)で表される化合物」に相当する化合物を用いることは、当業者にとって特段の困難性は無い。」と主張する。
しかしながら、甲6の「分子内に3個の重合性官能基を有する」「一般式(I−1−2)で表される3官能重合性液晶化合物」([0039])は、光学異方体、位相差膜、位相差パターニング膜、輝度向上膜等の薄膜の光学材料として開示されているにとどまり(例えば、甲6の[0005]及び[0008]等参照。)、配向膜の光学材料として開示されたものではないことは、甲6の「(配向処理)」([0155])に関する記載から明らかである。
他方、甲1組成物発明の「重合体組成物」は、その硬化膜(甲1塗膜発明の「塗膜」でもある。)が、実施例7に係る「液晶セル」(甲1の【0073】)における「液晶配向膜」に相当することから、「液晶配向膜」の光学材料に相当することが理解される。
以上のとおり、甲6の上記「一般式(I−1−2)で表される化合物」と、甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」とは、想定された使途(光学部材)が互いに異なるから、甲6に接した当業者が、甲1組成物発明の「(B)重合性不飽和化合物」として、甲6に記載された、上記「一般式(I−1−2)で表される化合物」を採用しようと積極的に動機づけられるとまでは必ずしもいい難い。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(5)本件特許発明2〜5、7及び8について
本件訂正後の請求項2〜5、7及び8は、本件訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2〜5、7及び8は、少なくとも上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を包含する。
そして、本件特許発明1は、上記「(3)」で示したとおり、甲1組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないことから、本件特許発明2〜5、7及び8も、同様の理由により、甲1組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)本件特許発明9及び11について
ア 対比
本件特許発明9は、本件特許発明1の「(B)成分」の限定事項である上記相違点1に係る構成を省いた「重合性組成物」に加えて、「電圧駆動用液晶組成物を含む」ことが特定された、「液晶−高分子複合体用組成物」の発明である。
本件特許発明9と本件特許発明1との上記関係からみて、本件特許発明9と甲1組成物発明とを対比すると、本件特許発明9の「アルカリ可溶性樹脂(A)」、「重合性化合物(B)」及び「光重合性化合物(C)」についての対比結果は、本件特許発明1と甲1組成物発明との対比結果(上記「(1)ア〜エ」)と同様である。

イ 一致点及び相違点
上記アによれば、本件特許発明9と甲1組成物発明とは、次の点(以下「相違点2」という。)で相違し、その余の点で一致する。
本件特許発明9が、「重合性組成物、及び、電圧駆動用液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物」の発明であるのに対して、甲1組成物発明は、「重合体組成物」に加えて、「電圧駆動用液晶組成物を含む」点は特定されておらず、「液晶−高分子複合体用組成物」の発明であるとは特定されていない点。

ウ 判断
本件訂正請求によって、本件特許発明9の「液晶組成物」は、「電圧駆動用」の「液晶組成物」であることが特定されたところ、液晶表示装置(素子)の技術分野において、「電圧駆動」という用語が、画像等の表示に際して、液晶パネル(セル)の液晶組成物に電圧を印加することを通常意味することは当業者の技術常識である。
そうしてみると、「電圧駆動」という用語の上記通常の意味に照らせば、甲1組成物発明の「重合体組成物」を使用した、液晶セル(甲1の【0073】及び【0075】等参照。)における、「ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)」が、本件特許発明9の「電圧駆動用液晶組成物」に相当するのであって、甲1組成物発明の「式(B−1−1)で表される化合物」が、相違点2に係る本件特許発明9の「電圧駆動用液晶組成物」に相当するとはいえない。すなわち、令和3年5月27日付けの取消理由通知の「第1 2(3)オ」で示した相当関係はもはや成立しない。
そして、甲1組成物発明において、相違点2に係る「電圧駆動用液晶組成物」をさらに採用することの動機づけたり得る記載ないし示唆は、甲1を含めたいずれの文献にもない。
したがって、本件特許発明9は、甲1組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ところで、甲1組成物発明の「重合体組成物」に加えて、上記「ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)」を含む組成物に着目して、新たな甲1組成物発明と認定した場合、相違点2も具備する組成物発明、すなわち、本件特許発明9が、甲1に実質的に記載されているといえるかについても、念のため検討する。
甲1の【0075】に記載されているように、甲1組成物発明の「重合体組成物」を用いた「液晶セル」は、上記「式(B−1−1)で表される化合物」を含む「重合体組成物」を、ITO電極を有する一対のガラス基板に塗布、加熱して液晶配向膜を形成し、その後、得られた一対の基板を液晶配向膜面が相対するように重ね合わせ、当該一対の基板の間に、上記「ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)」を充填して製造されたものである。そうしてみると、上記製造工程からみて、上記「式(B−1−1)で表される化合物」及び上記「ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6608)」をともに含む重合性組成物が、甲1に記載されていると認めることはできない。
したがって、甲1組成物発明のほか、甲1の「液晶セル」に関する記載も含めて検討しても、本件特許発明9が、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、請求項9を引用する本件特許発明11についても判断は同様である。

(7)小括
本件特許発明1〜5、7〜9、11は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。

3 甲2を主引用例とした場合
(1)対比
ア アルカリ可溶性樹脂(A)
甲2組成物発明の「バインダー樹脂(C)」は、「n−ブチルアクリレート40重量部、2−エチルヘキシルアクリレート59重量部、アクリル酸1重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を入れた後反応基内の空気を窒素ガスを投入して置換させ、窒素ガス雰囲気内で撹拌の下に反応溶液の温度を65℃で昇温させて2時間の間反応させ」て、「製造された、アクリル系バインダー樹脂(重量平均分子量(Mw)は150,000)である。」ここで、甲2組成物発明の「バインダー樹脂(C)」は「アクリル酸」を「1重量部」しか含まないが、本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の【0016】に記載された、「アルカリ可溶性」の定義に照らせば、甲2組成物発明の「バインダー樹脂(C)」は、本件特許発明1の「アルカリ可溶性樹脂(A)」に相当するといえる。

イ 重合性化合物(B)
甲2組成物発明の「反応性液晶化合物(A)は、パリオカラーLC242(BASF社)であり、その構造式は、以下のとおりである。」

上記構造式からみて、甲2組成物発明の「反応性液晶化合物(A)」は、重合性の化合物であって、 本件特許発明1の「重合性化合物(B)」の「一般式(1)」において、
「P」が、アクリロイルオキシ基(重合性官能基)であり、
「(Sp)m」の「m」が1であって、「Sp」が、炭素原子数4のブチレン基であり、
「R1」の「一般式(1−a)」において、「(Sp)m」の「m」が1であって、「Sp」が炭素原子数4のスペーサー基及び「P」がアクリロイルオキシ基(重合性官能基)である化合物に該当する。
さらに、本件特許発明1の「一般式(1)」における「MG」(メソゲン基)は、請求項1にその定義が明記されていないが、本件明細書の【0039】の「一般式(1−b)」で表されるものと理解されるところ、甲2組成物発明の「反応性液晶化合物(A)」は、前記「一般式(1−b)」において、「Z0」及び「Z3」が単結合、「Z1」及び「Z2」が「−COO−」又は「−OCO−」、「n」が1、「A1」及び「A3」が無置換の「1,4−フェニレン基」であり、「A2」が2位の水素原子1個が炭素原子数1のアルキル基(メチル基)に置換された「1,4−フェニレン基」である、本件特許発明1の「メソゲン基」に相当し、当該メソゲン基が上記「一般式(1)」の「(Sp)m」に連結された構造を具備する。
以上によれば、甲2組成物発明の「反応性液晶化合物(A)」と、本件特許発明1の「重合性化合物(B)」とは、
[A]「分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物」である点及び
[B]「その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物」である点で共通する。

ウ 光重合開始剤(C)
甲2組成物発明の「粘着剤組成物」における役割からみて、甲2組成物発明の「ラジカル光開始剤(D)」である「Darocur-1173(BASF社)」は、本件特許発明1の「(C)光重合開始剤」に相当する。

エ 重合性組成物
甲2組成物発明の「粘着剤組成物」は、「反応性液晶化合物(A):30重量部、光重合性線形高分子配向体(B):30重量部、バインダー樹脂(C):100重量部、ラジカル光開始剤(D):1重量部、シランカップリング剤(G):1重量部からなる組成及び含有量を有する」。
上記組成及び(各成分の)含有量から、甲2組成物発明の「粘着剤組成物」が、本件特許発明1の「重合性組成物」に相当し、本件特許発明1の「前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%である」及び「前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する」という要件を満たすことは明らかである。
また、甲2の請求項1及び[0093]の記載から、当業者は、甲2組成物発明における「バインダー樹脂(C)」及び「反応性液晶化合物(A)」(本件特許発明1の「分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物」に該当する。)は、甲2組成物発明の「粘着剤組成物」の必須成分であることを直ちに理解する。
そうしてみると、甲2組成物発明の「粘着剤組成物」は、本件特許発明1の「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物を必須成分とする」との要件も満たす。

(2)一致点及び相違点
上記(1)によれば、本件特許発明1と甲2組成物発明とは、以下の点で、一致ないし相違する。
ア 一致点
「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物。」

イ 相違点
「重合性化合物(B)」について、本件特許発明1では、「化合物(B)のうち少なくとも1つは下記一般式(I−1−2)
【化3】

(式中、P12〜P13はそれぞれ独立して、重合性官能基を表し、
Sp11〜Sp13はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜18のアルキレン基又は単結合を表し、該アルキレン基中の1個の−CH2−又は隣接していない2個以上の−CH2−が各々独立して−O−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−によって置換されても良く、該アルキレン基の有する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はCN基によって置換されても良く、X11〜X13はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−OCH2−、−CH2O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CO−NH−、−NH−CO−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−OCO−、−COO−CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−COO−CH2CH2−、−OCO−CH2CH2−、−CH2CH2−COO−、−CH2CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCO−CH2−、−CH2−COO−、−CH2−OCO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−N=CH−、−CF=CF−、−C≡C−又は単結合を表し(ただし、P11−Sp11、P12−Sp12、Sp11−X11、Sp12−X12、Sp13−X13、及びSp13−X13において、ヘテロ原子同士の直接結合を含まない。)、
q1、q2、q4、及びq5はそれぞれ独立して、0又は1を表し、
MG12はメソゲン基を表す。)
で表される化合物であ」るのに対して、
甲2組成物発明は、上記「一般式(I−1−2)」で表される化合物を含まない点。
(以下「相違点3」という。)

(3)判断
上記相違点3について検討する。
甲2には、「反応性液晶化合物(A)」について、以下の記載がある。
「反応性液晶化合物は配向して位相差を有するようにできるものであれば特に限定されず、例えば棒状反応性液晶化合物、平板状反応性液晶化合物、これらのポリマー等を用いることができる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。」([0033])
「反応性液晶化合物は架橋構造を有するものが、配向状態が上記架橋構造により固定化されて熱に対して安定であるため好ましい。また、配向性が良好で配向欠陥が少ないという理由からネマチック反応性液晶化合物を含むことが好ましいが、これに限定されず、ディスコティック、コレステリックなどの反応性液晶化合物も使用可能である。・・・中略・・・上記反応性官能基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエーテルなどのビニル基であってもよいが、これらに限定されるものではない。」([0035]〜[0037])
また、甲2には、耐久性の観点から、甲2組成物発明の「粘着剤組成物」に含まれる他の成分について、以下の記載がある。
「本発明の粘着剤組成物は、多官能性モノマーをさらに含むことができる。」([0061])「多官能性モノマーは、放射線照射による硬化を通じて第2の架橋構造を形成し、養生を経ながら粘着剤をより硬い状態にすることで耐久性を向上させるとともに所望の貯蔵弾性率(G’)を確保するようにできる。・・・中略・・・多官能性単量体の種類は特に限定されず、三官能性以上の単量体が好ましい。」([0062])
しかしながら、甲2の上記記載からは、反応性液晶化合物の配向状態が熱に対して安定であることが好ましく、良好な配向状態及び熱に対する安定性とを両立するために、上記反応性液晶化合物がネマチック反応性液晶化合物を含むことが好ましいことが理解できるにとどまり、当該ネマチック反応性液晶化合物が有する重合性基の個数と、両立すべき上記2つの特性との関係についての具体的な知見を得ることは当業者といえども困難である。したがって、甲2の上記いずれの記載も、甲2組成物発明の「反応性液晶化合物(A)」として、「パリオカラーLC242(BASF社)」に換えて、あるいは、加えて、相違点3に係る本件特許発明1の「一般式(I−1−2)」で表される化合物を採用することの積極的な動機づけとはなり得ない。
そして、そのような動機づけとなり得るような記載は、甲2の他の箇所にも、特許異議申立人が提出した他の証拠にもない。
したがって、本件特許発明1は、甲2組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和3年9月24日付け意見書の「(ウ)本件訂正発明1と甲第1、第2及び第6号証との対比」において、上記「2(4)」の主張に加えて、甲2に記載の発明は、甲2の[0035]の記載によれば、反応性液晶化合物としては、配向状態や配向性を課題として着目しているといえるとも主張する。
しかしながら、甲6に記載された「重合性コレステリック液晶組成物」と、甲2組成物発明の「粘着剤組成物」は、ともに液晶化合物を有する位相差を有する層の材料である点で共通するものの、そもそも後者の組成物に求められる主たる機能は、粘着性を発現することであるから、両組成物に求められる機能ないし特性は異なるものと理解するのが自然である。
そうしてみると、甲6の上記「重合性コレステリック液晶組成物」に関する知見が、甲2組成物発明において、「反応性液晶化合物(A)」を具体的に選択する際の指針たり得るのかは必ずしも明らかではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(5)本件特許発明2、5、7及び8について
本件訂正後の請求項2、5、7及び8は、本件訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2〜5、7及び8は、少なくとも上記相違点3に係る本件特許発明1の構成を包含する。
そして、本件特許発明1は、上記「(3)」で示したとおり、甲2組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないことから、本件特許発明2、5、7及び8も、同様の理由により、甲2組成物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)小括
本件特許発明1〜2、5、7及び8は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。


第6 当合議体の判断(拡大先願)
1 先願5明細書の記載及び先願5明細書に記載された発明
(1)先願5明細書の記載
先願5は、先の出願前の特許出願であって、その出願後に当該出願に係る発明に基づく優先権の主張を伴う日本語特許出願についての国際公開がされた時に当該出願について出願公開がされたものとみなされる特許出願であるところ、先願5の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願5明細書」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「[0001] 本発明は、組成物、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用位相差膜、および、有機エレクトルルミンネッセンス表示素子用位相差膜の製造方法に関する。」

イ 「[0003]
・・・中略・・・
発明が解決しようとする課題
・・・中略・・・
[0006] 本発明は、上記実情に鑑みて、有機EL表示素子上の所定の位置に位相差膜を形成可能で、かつ、位相差膜が適用された有機EL表示装置の表示性能に優れる、組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、有機EL表示素子用位相差膜、および、有機EL表示素子用位相差膜の製造方法を提供することも課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者は、従来技術の問題点について鋭意検討した結果、所定の組成の組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
(1) 親水性基、架橋性基、および、メソゲン基を有するポリマーと、
重合性化合物と、を含む、
有機エレクトロルミネッセンス表示素子上に配置される位相差膜を形成するための組成物。
(2) ポリマーが、架橋性基およびメソゲン基を有する繰り返し単位を含む、(1)に記載の組成物。
[0010]
・・・中略・・・
発明を実施するための形態
・・・中略・・・
[0017] 本発明の組成物は、親水性基、架橋性基、および、メソゲン基を有するポリマーと、重合性化合物とを含む。
以下、本発明の組成物に含まれる各成分について詳述する。
<親水性基、架橋性基、および、メソゲン基を有するポリマー>
ポリマーは、親水性基を有する。
・・・中略・・・
[0049]<重合性化合物>
重合性化合物は、重合性基を有する化合物である。
重合性基の種類は特に制限されないが、ラジカル重合またはカチオン重合が可能な重合性基が好ましい。
ラジカル重合性基としては、公知のラジカル重合性基を用いることができ、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。
・・・中略・・・
[0050] 重合性化合物中における重合性基の数は特に制限されないが、6つ以下が好ましい。
・・・中略・・・
[0052] 重合性化合物としては、重合性液晶化合物が好ましい。重合性液晶化合物とは、重合性基を有し、液晶性を示す化合物である。
重合性液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶化合物。ディスコティック液晶化合物)とに分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。なお、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。
[0053] 本発明の組成物中における重合性化合物の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、組成物中の全固形分に対して、5〜85質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。」

ウ 「[0081]
・・・中略・・・
実施例
[0082] 以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
・・・中略・・・
[0083]<合成例1:ポリマー1>
フラスコにメチルエチルケトンを入れて、窒素雰囲気下において70℃に昇温した。フラスコ内に、液晶モノマー1、アクリル酸、アクリル酸エチルエステル、および、V−65(和光純薬工業(株)製)を所定量混合した溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間撹拌した。それにより、ポリマー1を得た。
ポリマー1中の各繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有量に関しては、液晶モノマー1由来の繰り返し単位が70質量%、アクリル酸由来の繰り返し単位が13質量%、および、アクリル酸エチルエステル由来の繰り返し単位が17質量%であった。また、ポリマー1の重量平均分子量は15000であった。また、ポリマー1の酸価は、101mgKOH/mgであった。
・・・中略・・・
[0084][化7]

・・・中略・・・
[0093]<実施例1>
下記の成分を、メチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が25質量%となるよう調整し、組成物を得た。
なお、液晶モノマーの構造式中の数値「83%」、「15%」および「2%」は、液晶モノマー全質量に対する各モノマーの含有量(質量%)を表す。
[0094]
ポリマー1 50質量部
液晶モノマー 100質量部
多官能性モノマー 8質量部
IRG907(IRGACURE 907(BASF製)) 6質量部
Fポリマー1 0.25質量部
Fポリマー2 0.1質量部
[0095]


・・・中略・・・
[0097]<評価>
(表示性能評価)
有機EL表示素子(有機EL表示パネル)搭載のSAMSUNG社製GALAXY S4を分解し、円偏光板を剥離した。
次に、有機EL表示素子上に、PVA203((株)クラレ製)の3質量%溶液(溶媒比率:水/メタノール=75/25)をスピンコート塗布した後、得られた塗膜を有する有機EL表示素子をホットプレート上にて100℃で2分間プリベークして、塗膜中の溶媒を揮発させ、膜厚0.5μmのPVA層を形成した。
尚、上記PVA層を形成する際、有機EL表示素子の駆動素子と接続する金属電極を覆うようにテープを貼り付けて、上記処理を行い、プリベーク後にテープを剥離した。この処理により、PVA層は、金属電極上には形成されなかった。
PVA層の長手方向にラビング処理を施した。
次に、ラビングを施したPVA層に対して、実施例および比較例の各組成物を厚みが1.0μmとなるようにスピンコート塗布し、ホットプレートを用いて90℃で120秒間加熱処理した。続いて、90℃にて100mJ/cm2(照度:20mW/cm2、i線)にて塗膜の一部を露光した。その際、駆動素子と接続する金属電極(接続端子)の部分については、フォトマスクを用いて光が照射されないようにした。
続いて、アルカリ現像液(2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液)を用いて、23℃にて60秒間現像処理を塗膜に施した後、超純水で1分間リンスすることで、光が照射されなかった金属電極の上部に位置する塗膜を除去し、リンス後に、ポストベーク処理として、オーブンにて150℃で30分加熱処理を行い、有機EL表示素子の有機発光層の上部に位相差膜を形成した。なお、各実施例で形成された位相差膜の波長550nmにおける面内レタデーションは、125nmであった。
得られた位相差膜上に、上記位相差膜の面内遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角が45°となるように偏光子を張り合わせて、有機EL表示装置を作製した。」

(2)先願5明細書に記載された発明
上記(1)によれば、先願5明細書の[0083]〜[0084]及び[0093]〜[0095]等には、実施例1として、次の組成物の発明(以下「先願組成物発明」という。)が記載されている。
「下記の成分を、メチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が25質量%となるよう調整し、得た、組成物。
なお、液晶モノマーの構造式中の数値「83%」、「15%」および「2%」は、液晶モノマー全質量に対する各モノマーの含有量(質量%)を表す。

ポリマー1 50質量部
液晶モノマー 100質量部
多官能性モノマー 8質量部
IRG907(IRGACURE 907(BASF製)) 6質量部
Fポリマー1 0.25質量部
Fポリマー2 0.1質量部

ここで、[A]上記ポリマー1は、
液晶モノマー1、アクリル酸、アクリル酸エチルエステル、および、V−65(和光純薬工業(株)製)を所定量混合した溶液を2時間かけて滴下し、滴下終了後、2時間撹拌し、得たポリマー1であって、ポリマー1中の各繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有量に関しては、以下の構造式で表される、液晶モノマー1由来の繰り返し単位が70質量%、アクリル酸由来の繰り返し単位が13質量%、および、アクリル酸エチルエステル由来の繰り返し単位が17質量%であり、また、重量平均分子量及び酸価は、それぞれ15000及び101mgKOH/mgであり、

また、[B]上記液晶モノマー、上記多官能性モノマー及び上記IRG907は、次の構造式で表されるものである。



(3)対比
ア アルカリ可溶性樹脂(A)
先願組成物発明の「ポリマー1」は、「液晶モノマー1、アクリル酸、アクリル酸エチルエステル、および、V−65(和光純薬工業(株)製)を所定量混合した溶液を2時間かけて滴下し、滴下終了後、2時間撹拌し、得た」ものであり、「各繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有量に関しては、以下の構造式で表される、液晶モノマー1由来の繰り返し単位が70質量%、アクリル酸由来の繰り返し単位が13質量%、および、アクリル酸エチルエステル由来の繰り返し単位が17質量%であ」る。
上記組成及び合成法から、先願組成物発明の「ポリマー1」は、少なくとも「アクリル酸由来の繰り返し単位」を「13質量%」含むから、本件出願の明細書の【0016】に記載された、「アルカリ可溶性」の定義に照らせば、先願組成物発明の「ポリマー1」は、本件特許発明1の「アルカリ可溶性樹脂」(A)に相当するといえる。


イ 重合性化合物
先願組成物発明の「液晶モノマー」は、下記[化11]の構造式で表されるモノマーを含む。
[化11]

上記構造式から、上記モノマーは、甲2組成物発明の「パリオカラーLC242」において、両末端のアクリロイルオキシ基及びブチレンオキシ基と、芳香環を3個からなるメソゲン骨格(1,4−フェニル基、−COO−、(2−メチル)ベンゼン−1,4−ジイル基、−OCO−、1,4−フェニル基)との結合部位の「−OCO−」を単結合に置換した化合物であることが理解される。
そうしてみると、上記モノマーを含む、先願組成物発明の「液晶モノマー」と、本件特許発明1の「重合性化合物(B)」とは、
[A]「分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物」である点及び
[B]「その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物」である点で共通する。

ウ 光重合開始剤(C)
先願組成物発明の「IRG907(IRGACURE 907(BASF製))」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(C)光重合開始剤」に相当する。

エ 重合性組成物
先願組成物発明の「組成物」は、固形分成分として、「ポリマー1 50質量部、液晶モノマー 100質量部、多官能性モノマー 8質量部、IRG907(IRGACURE 907(BASF製)) 6質量部、Fポリマー1 0.25質量部、Fポリマー2 0.1質量部」を含む。上記固形分成分のうち、重合性化合物に該当するものは、上記イで述べたとおり、「液晶モノマー」である。
上記組成及び含有量並びに上記ア〜ウの対比結果から、先願組成物発明の「組成物」は、本件特許発明1の「重合性組成物」に相当し、かつ、本件特許発明1の「前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%である」及び「前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する」という要件を満たす。
また、先願5明細書の[0008]及び[0049]〜[0052]等の記載から、先願組成物発明における「ポリマー1」及び「液晶モノマー」(重合性化合物としての重合性液晶化合物)は、先願組成物発明の「組成物」における必須成分といえる。
そうしてみると、先願組成物発明の「組成物」は、本件特許発明1の「(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物を必須成分とする」との要件も満たす。

(4)一致点及び相違点
上記(3)によれば、本件特許発明1と先願組成物発明との一致点及び相違点は、本件特許発明1と甲1組成物発明の一致点及び相違点、又は、本件特許発明1と甲2組成物発明の一致点及び相違点と同一である。以下、便宜上、本件特許発明1と先願組成物発明との相違点を「相違点4」といい、相違点4の摘記は省略する。

(5)判断
先願組成物発明の「液晶モノマー」(重合性化合物)について、先願5明細書には、「重合性化合物は、重合性基を有する化合物である。・・・中略・・・重合性化合物中における重合性基の数は特に制限されないが、6つ以下が好ましい。」([0049]〜[0050])及び「重合性化合物としては、重合性液晶化合物が好ましい。重合性液晶化合物とは、重合性基を有し、液晶性を示す化合物である。重合性液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶化合物。ディスコティック液晶化合物)とに分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。・・・中略・・・なお、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。」([0052])と記載されている。
しかしながら、上記記載は、先願5に記載された「重合性化合物」の重合性基の数についてある程度の示唆を与えるものの、相違点4が、先願組成物発明の課題(有機EL表示素子上の所定の位置に位相差膜を形成可能で、かつ、位相差膜が適用された有機EL表示装置の表示性能に優れる、組成物を提供すること)を解決するための具体的な手段における微差(周知慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であることを意味するものとは解されない。また、微差であることを示す他の証拠もない。
したがって、本件特許発明1は、先願組成物発明と同一であるということはできない。

(6)本件特許発明2〜5、7及び8について
本件訂正後の請求項2〜5、7及び8は、本件訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するものである。
したがって、本件特許発明2〜5、7及び8も、本件特許発明1と同様の理由により、先願組成物発明と同一であるということはできない。

(7)本件特許発明9及び11について
本件特許発明9と先願組成物発明とは、少なくとも、上記「2(6)イ」の相違点2において相違するところ、相違点2が、先願組成物発明において、その課題を解決するための具体的な手段における微差といえないことは明らかである。
したがって、本件特許発明9は、先願組成物発明と同一であるということはできない。
また、請求項9を引用する本件特許発明11についても判断は同様である。

(8)他の実施例に係る「組成物」の発明を主引用発明とした場合
この場合も、上記(5)〜(7)の判断と同様である。

(9)小括
本件特許発明1〜5、7〜9及び11は、先願5明細書に記載された発明と同一であるということはできない。


第7 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立理由(進歩性)について
1 特許異議申立理由
特許異議申立人は、次の理由を申し立てた。
(1)本件特許発明6及び10について
本件特許発明6及び10は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明と、甲4に記載された発明との組み合わせに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明12について
本件特許発明12は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 当合議体の判断
(1)本件特許発明6及び10について
甲4の【0157】〜【0158】には、合成例1及び2として、それぞれ「樹脂a−1−1」及び「樹脂a−1−2」が記載されているところ、これらの樹脂は、アクリル酸を共重合させて得た不飽和基含有樹脂であって、アルカリ可能性樹脂に該当する。また、甲4の【0027】の記載から、上記不飽和基含有樹脂は、スペーサ形成用の感光性組成物の一成分として利用可能であることを当業者は理解する。
しかしながら、甲1組成物発明及び甲2組成物発明の各組成物の用途として、スペーサー形成用という選択枝は何ら想定されていないから、当業者が、甲1組成物発明又は甲2組成物発明に、甲4に記載された上記不飽和基含有樹脂を採用する動機を見出すことができない。
したがって、本件特許発明6及び10は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明と、甲4に記載された発明(技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件特許発明12について
甲1及び甲2には、甲1組成物発明ないし甲2組成物発明の組成物を、調光素子の製造に用いることについての記載ないし示唆はない。


第8 まとめ
以上のとおりであるから、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化1】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化2】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、ここで前記化合物(B)のうち少なくとも1つは下記一般式(I−1−2)
【化3】

(式中、P12〜P13はそれぞれ独立して、重合性官能基を表し、
Sp11〜Sp13はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜18のアルキレン基又は単結合を表し、該アルキレン基中の1個の−CH2−又は隣接していない2個以上の−CH2−が各々独立して−O−、−COO−、−OCO−又は−OCO−O−によって置換されても良く、該アルキレン基の有する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)又はCN基によって置換されても良く、
X11〜X13はそれぞれ独立して、−O−、−S−、−OCH2−、−CH2O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CO−NH−、−NH−CO−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−OCO−、−COO−CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−COO−CH2CH2−、−OCO−CH2CH2−、−CH2CH2−COO−、−CH2CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCO−CH2−、−CH2−COO−、−CH2−OCO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−N=CH−、−CF=CF−、−C≡C−又は単結合を表し(ただし、P11−Sp11、P12−Sp12、Sp11−X11、Sp12−X12、Sp13−X13、及びSp13−X13において、ヘテロ原子同士の直接結合を含まない。)、
q1、q2、q4、及びq5はそれぞれ独立して、0又は1を表し、
MG12はメソゲン基を表す。)
で表される化合物であり、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物。
【請求項2】
前記(A)〜(C)成分に加え、更に、(D)有機溶剤を含有する請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)が、その樹脂構造内にメソゲン骨格を有するものである請求項1〜2の何れか一つに記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)が、その樹脂構造内にメソゲン骨格を有し、下記構造式(1)
【化4】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化5】

(式中、
Pは反応性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)
で表される構造を表す。)
で表される重合性液晶化合物と、酸基含有重合性単量体とを共重合させたものである請求項3に記載の重合性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物を用いた硬化物。
【請求項6】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化6】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化7】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物
の硬化物から構成されるフォトスペーサー。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物を用いた表示素子用オーバーコート。
【請求項8】
請求項1〜4の何れか一つに記載の重合性組成物からなる表示素子用層間絶縁材料。
【請求項9】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化8】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化9】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、電圧駆動用液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物。
【請求項10】
請求項6に記載のフォトスペーサーを配設してなる液晶表示素子。
【請求項11】
請求項9に記載の液晶−高分子複合体用組成物を用いた液晶−高分子複合体。
【請求項12】
(A)アルカリ可溶性樹脂、及び、
(B)分子構造内に少なくとも1つの重合性官能基を有する重合性化合物
を必須成分とすることを特徴とする重合性組成物であって、
前記化合物(B)として、その分子構造内にメソゲン構造を有し、下記一般式(1)
【化10】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のアルキレン基を表し(該アルキレン基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良い。)、
mは0又は1を表し、
MGはメソゲン基を表し、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、イソシアノ基、チオイソシアノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基を表すが、該アルキル基は1つ以上のハロゲン原子又はCNにより置換されていても良く、この基中に存在する1つのCH2基又は隣接していない2つ以上のCH2基はそれぞれ相互に独立して、酸素原子が相互に直接結合しない形で、−O−、−S−、−NH−、−N(CH3)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−SCO−、−COS−又は−C≡C−により置き換えられていても良く、あるいは
R1は一般式(1−a)
【化11】

(式中、
Pは重合性官能基を表し、
Spは炭素原子数0〜18のスペーサー基を表し、
mは0又は1を表す。)で表される構造を表す。)
で表される化合物を用い、
前記重合性化合物(B)の合計含有量がアルカリ可溶性樹脂(A)、及び重合性化合物(B)の合計量に対して、10〜80質量%であることを特徴とする重合性組成物であって、
前記(A)及び(B)成分に加え、更に、(C)光重合開始剤を含有する重合性組成物、
及び、液晶組成物を含む液晶−高分子複合体用組成物
を用いた液晶−高分子複合体
を含む調光素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-07 
出願番号 P2019-568800
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (G03F)
P 1 651・ 121- YAA (G03F)
P 1 651・ 113- YAA (G03F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 里村 利光
井口 猶二
登録日 2020-07-13 
登録番号 6733840
権利者 DIC株式会社
発明の名称 重合性組成物、その硬化物、フォトスペーサー、表示素子用オーバーコート、表示素子用層間絶縁材料、及び液晶表示素子  
代理人 齋藤 嘉久  
代理人 大野 孝幸  
代理人 大野 孝幸  
代理人 岩本 明洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 岩本 明洋  
代理人 齋藤 嘉久  
代理人 小川 眞治  

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