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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1385169
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-24 
確定日 2022-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6791310号発明「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6791310号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−3]について訂正することを認める。 特許第6791310号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第6791310号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)8月4日(優先権主張 平成27年8月19日)を国際出願日として出願した特願2016−559660号の一部を、令和1年7月2日に新たな特許出願としたものであって、令和2年11月9日にその特許権の設定登録(請求項数3)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後その特許に対し、令和3年5月24日に特許異議申立人 古郡 裕介(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。

本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和 3年 9月 3日付け:取消理由通知
令和 3年11月 8日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 3年11月12日付け:訂正請求があった旨の通知
令和 3年12月 8日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

<訂正事項1>
特許請求の範囲の請求項1の「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」とあるのを、「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール(但し、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く)。」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1の請求項1に係る訂正における「(但し、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く)」との記載を加える訂正は、甲第2号証の請求項1で特定する「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル」を除くもの、つまり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書および特許請求の範囲等に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び請求項3も同様である。

3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和 3年12月 8日に提出した意見書において、本件訂正の適否について、おおむね、次の主張をする。

主張1:本件訂正により、本件特許発明1に「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く」を特定することは、その反対解釈として8モル%未満の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールや、15モル%を超えた1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールが、本件特許発明1に常に含まれることになって、新たな技術的事項が導入されたに等しいから、本件訂正は認められるべきではない。
主張2:本件特許発明の明細書に記載された実施例1〜9、及び比較例1〜4において、訂正事項1に合致する様なポリエステル系フィルムロールは一切記載されていないため、本件訂正により、実施例1〜9はそれぞれ新たな比較例となり、本件特許発明1の効果を主張することはできないから、係る訂正は認められるべきではない。
主張3:甲第2号証を見れば、1,4−シクロヘキサンジメタノールの残基の量が、ポリエステル系熱収縮フィルムの機械的方向収縮率等に大きく影響するものであり、甲第2号証から除くことができないというのであれば、本件特許発明においても、必須構成要件であって、それを除けないことを自白されているに等しいから、訂正事項1によって、本件特許発明の所定の発明効果を発揮できるか否かについて疑義があり、本件訂正は認められるべきではない。

まず、本件訂正事項1は、上記2で検討したとおり、あらゆるポリエステル系フィルムロールを包含する本件特許発明1から、単に「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く」ものであり、新たな技術思想を追加するものではない。
この点をふまえて、主張1を検討すると、本件訂正により、その反対解釈として8モル%未満の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールや、15モル%を超えた1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールが、本件特許発明1に常に含まれることになって、新たな技術的事項が導入されたに等しいとする主張1はそもそもが失当であり、採用できない。
次に主張2について検討すると、本件特許発明の効果を主張できるか否かは、訂正の適否の判断を左右するものではないから、主張2は失当であり、採用できない。(そもそも、本件特許発明の明細書に記載された実施例1〜9は依然として本件特許発明の実施例である。)
そして、主張3について検討すると、甲第2号証に記載された発明の必須構成要件を本件特許発明に当てはめるべき特段の事情も認められない。そもそも、本件特許発明の所定の発明効果を発揮できるか否かは、訂正の適否の判断を左右するものではないから、主張3は失当であり、採用できない。

したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし3]について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項[1ないし3]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、令和 3年11月 8日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロールであって、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール(但し、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く)。
(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下
(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下
(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)−(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)
【請求項2】
ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸のうち少なくとも一種をポリエステル原料樹脂に使用していることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項3】
主収縮方向がフィルム長手方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」

第4 特許異議申立人が特許異議申立書に記載した申立ての理由について
令和 3年 5月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらについての特許は、同法113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらについての特許は、同法113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらについての本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

なお、申立理由3の概略は以下のとおりである。
特に延伸距離との関係を含め、実施例1等で使用した熱収縮性フィルムの製法と、比較例1等における製法の違いが不明であり、よって、当業者が、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、そのものを製造等することはできない。

4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらについての特許は同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

なお、申立理由4の概略は以下のとおりである。
本件特許発明の明細書、特に、実施例1等の記載から判断して、それぞれの特許請求の範囲の記載まで、一般化及び拡張することができない。
実施例、比較例はいずれにおいても要件(1)及び(4)を満足しており、甲第4号証に示されるように要件(2)で規定する横方向の98℃温湯収縮率と、要件(3)で規定する分子配向角の幅方向の最大値はそれぞれ極めて高い相関性を有する線形関係にあることが明白だから、本件特許発明において、所定効果を得る上で、要件(2)及び要件(3)をそれぞれ満足すべき旨の特許請求の範囲の記載は、明らかに齟齬があり、課題を解決し、所定効果が得られると認識する上で、要件(2)及び要件(3)を満足するだけでは不十分であることに疑義はなく、少なくとも延伸距離を制限する要件が必要である。
よって、本件特許発明1ないし3はサポート要件を充足しない。

5 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらについての特許は同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

なお、申立理由5の概略は以下のとおりである。
本件特許発明1ないし3で特定する要件(1)および要件(4)の技術的意義が不明確であるから、技術的範囲に入るか否かを当業者が判断できないから、本件特許発明1ないし3は明確性要件を充足しない。

6 証拠方法
特許異議申立人は、証拠方法として書証を申出、以下の文書を提出する。
甲第1号証:特開2009−161625号公報
甲第2号証:特表2011−513550号公報
甲第3号証:参考図1(特開2011−184690号に記載された図1相当の熱収縮率 VS 温度を示す図)
甲第4号証:参考図2(幅方向の収縮率のバラツキ VS 分子配向角の幅方向の最大値を示す図)
甲第5号証:参考図3(98℃温湯収縮率を示す図)
甲第6号証:参考図4(屈折率の差を示す図)
甲第7号証:参考図5(仕上がり性のシワ VS 幅方向収縮率のバラツキを示す図)
甲第8号証:参考図6(仕上がり性のシワ VS 分子配向角の幅方向の最大値を示す図)
甲第9号証:参考図7(仕上がり性のゆがみ VS 幅方向収縮率のバラツキを示す図)
甲第10号証:参考図8(仕上がり性のゆがみ VS 分子配向角の幅方向の最大値を示す図)
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 令和 3年 9月 3日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、令和 3年11月 8日にされた訂正請求によって訂正された請求項1ないし3に係る特許は、取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。

1 主な証拠の記載事項等
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」に関して、おおむね次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

「【請求項1】
A.i.第一のポリエステルの総二酸残基に基づき、90〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基;及び
ii.第一のポリエステルの総ジオール残基に基づき、90〜100モル%のエチレングリコール残基を含むジオール残基
を含む第一のポリエステルと
B.i.第二のポリエステルの総二酸残基に基づき、90〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基;並びに
ii.第二のポリエステルの総ジオール残基に基づき、5〜89モル%のエチレングリコール残基、10〜70モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基及び1〜25モル%のジエチレングリコール残基を含むジオール残基
を含む第二のポリエステル
を含んでなるポリエステルブレンドであって、前記ポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステルブレンド。
【請求項2】
前記第一のポリエステル(A)がテレフタル酸残基95〜100モル%を含む請求項1に記載のポリエステルブレンド。
【請求項3】
前記第一のポリエステル(A)が1,4−シクロヘキサンジメタノール残基2〜5モル%及びジエチレングリコール残基2〜5モル%を含む請求項2に記載のポリエステルブレンド。
・・・
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルブレンドを含んでなり、95℃の水中に10秒間浸漬した場合の機械方向収縮率が25〜85%及び横断方向収縮率又は伸張率が0〜10%である熱収縮性ポリエステルフィルム。
・・・
【請求項11】
機械方向収縮率が35〜60%で且つ横断方向収縮率又は伸長率が0〜7%である請求項9に記載の熱収縮性フィルム。
・・・
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載の前記熱収縮性フィルムを含むスリーブ又はロール供給ラベル。」

「【0001】
背景技術
熱収縮性フィルム(heat-shrinkable film又はthermo-shrinkable film)はよく知られており、例えば複数の物体を1つにまとめるための収縮包装(シュリンクラップ)、被覆材のような種々の用途において、また、ボトル、缶及びその他の容器のための外装及びラベルとして、商業的に受け入れられている。熱収縮性プラスチックフィルムは、バッテリーの外装及びラベルとしても使用され、ボトルのキャップ部分、ネック部分、肩部分若しくは隆起(bulge)部分の被覆又はボトル全体にも使用される。更に、収縮フィルムは、箱、ボトル、板材、棒材又はノートのような複数の物体を一組に束ねるための包装材料又は被覆材として使用できる。これらの用途は、フィルムの収縮性と内部収縮応力(internal shrink stress)を利用するものである。」

「【0006】
従って、MD収縮率が高く、総横断方向伸長率又は収縮率が低く且つウェブの幅方向の横断方向伸長又は収縮量(growth or shrinkage)の変動が小さいポリエステル収縮フィルムが必要とされている。このようなポリエステル収縮フィルムは、ROSO用途に使用して、容器への適用後に均一なラベル高さ及び仕上げを有するラベルを生じることができる。」

「【0008】
本発明の別の態様は、前記ポリエステルブレンドから製造される熱収縮性フィルムである。従って、本発明は、
A.i.第一のポリエステルの総二酸残基に基づき、90〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基;及び
ii.第一のポリエステルの総ジオール残基に基づき、90〜100モル%のエチレングリコール残基を含むジオール残基
を含む第一のポリエステルと
B.i.第二のポリエステルの総二酸残基に基づき、90〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基;並びに
ii.第二のポリエステルの総ジオール残基に基づき、5〜89モル%のエチレングリコール残基、10〜70モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基及び1〜25モル%のジエチレングリコール残基を含むジオール残基
を含む第二のポリエステル
を含み且つポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステルブレンドを含んでなる熱収縮性ポリエステルフィルムであって、95℃の水に10秒間浸漬された場合の機械方向の収縮率が25〜85%及び横断方向の収縮率又は伸長率が0〜10%であるフィルムも提供する。」

「【0011】
本明細書に開示した熱収縮性フィルムは反応器グレード(reaction-grade)のポリエステルからも製造でき、ロール供給(roll-fed)又はロール適用(roll-applied)熱収縮性ラベルに特に有用である。従って、本発明の別の態様は、
i.総二酸残基に基づき、90〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基;及び
ii.75〜87モル%のエチレングリコール残基、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基及び5〜10モル%のジエチレングリコール残基を含むジオール残基
を含む反応グレード(reaction-grade)のポリエステルを、ラベルの総重量に基づき、60〜100重量%含んでなる熱収縮性ロール供給ラベルであって、機械方向に延伸比2〜6で延伸され且つ95℃の水に10秒間浸漬された場合に25〜85%の機械方向収縮率及び0〜10%の横断方向収縮率又は伸長率を有するロール供給ラベルである。このロール供給ラベルは、ボイド化剤を含むことによって、ボイド含有ロール供給ラベルを生成することもできる。」

「【0021】
第一のポリエステルは第一のポリエステルの総ジオール残基に基づき、90〜100モル%のエチレングリコール残基を含むジオール残基も含む。エチレングリコールの他に、ジオール残基は0〜10モル%の少なくとも1種の改質用グリコールの残基を含むことができる。改質用グリコールの例としては、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、チオジエタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。例えば第一のポリエステルは、95〜100モル%のテレフタル酸残基を含む二酸残基と、90〜96モル%のエチレングリコール残基、2〜5モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基及び2〜5モル%のジエチレングリコール残基を含むジオール残基を含むことができる。」

「【0024】
第二のポリエステル(B)の二酸残基は所望ならば更に、10モル%以下の炭素数4〜40の改質用カルボン酸の残基を含むことができる。例えば0〜10モル%の、炭素数8〜16の他の芳香族ジカルボン酸、炭素数8〜16の脂環式ジカルボン酸、炭素数2〜16の非環式ジカルボン酸又はそれらの混合物を使用できる。改質用カルボン酸の例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アセライン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸、スルホイソフタル酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−及び4,4’−スチルベンジカルボン酸、4,4’−ジベンジルジカルボン酸、並びに1,4−、1,5−、2,3−、2,6−及び2,7−ナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも1種が挙げられるが、これらに限定するものではない。シス異性体及びトランス異性体が存在し得る場合には、純粋なシス異性体若しくはトランス異性体又はシス異性体とトランス異性体の混合物を使用できる。」

「【0028】
本発明のポリエステルブレンドは、ポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含む。ポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づく、ポリエステルブレンド中1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)含量のいくつかの追加例を挙げると、8〜14モル%;8〜13モル%;8〜12モル%;10〜15モル%;10〜14モル%;及び10〜12モル%である。」

「【実施例】
【0098】
本発明を更に、以下の実施例によって説明する。
【0099】
フィルム収縮率は、既知の初期長のサンプルを65〜95℃の水浴中に10〜30秒間浸漬し、次いで各方向の長さの変化を測定することによって、測定した。収縮率は、(長さの変化)÷(原長)×100%として報告する。サンプルの公称寸法は100mm×100mmであった。ウェブの作業者側、中央及び駆動側の3箇所からサンプルを切り取った。」

「【0104】
比較例C1、C2、C3及びC4及び実施例1〜2
比較例フィルムC1、C2、C3及びC4は、約100モル%のテレフタル酸と表Iに示したジオールモル百分率を有する反応グレードのコポリエステルから製造した。比較例C1は、キャップ/コア/キャップ多層構造を有していた。コア層とキャップ層は、コア層がEastman Chemical Company(Kingsport Tennessee)から入手可能なボイド化剤、EMBRACE(登録商標)HIGH YIELD 1000化合物を30重量%含む以外は、ポリマーブレンド組成が同一であった。完成構造中のキャップ/コア/キャップの相対厚さは10/80/10であった。比較例C2は、ボイド化剤を含まない単層フィルムであった。実施例フィルム1及び2は、本明細書中では明確にするためにポリエステル(A)及びポリエステル(B)と称する2種のポリエステルの50/50ブレンドから製造した。それらの組成も表Iに示す。ポリエステル(A)は、100モル%のテレフタル酸、3.6モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール、2.6モル%のジエチレングリコール及び93.8%のエチレングリコールを含むコポリエステルであった。ポリエステル(B)は比較例C2に用いたのと同一のコポリエステルであった。
【0105】
全てのサンプルを乾燥させてから、押出機に供給し、フィルムの形態にした。実施例1及び2の場合は、ポリエステル(A)及びポリエステル(B)を別々に乾燥させ、ブレンダーを用いて50重量%/50重量%の比で混ぜ合わせた後、押出機のホッパーに供給した。フィルムの粘着を防止するために、Eastman Chemical Companyから入手可能なPETG C00235粘着防止剤コンセントレート1重量%を各例に加工助剤として添加した。次いで、コポリエステル又はブレンドを、バレル加熱及びスクリュー剪断によって溶融させ、メルトを、ダイを通してポンプ輸送し、押出物を冷却ロール上に種々の厚さのウェブに流延した。ウェブを巻いて巻取とし、必要ならば種々の幅にスリットを入れた。フィルムの巻取は、伸張直前まで貯蔵した。実施例1及び2は、フィルムの単一巻取について行った試験であることに留意されたい。公称フィルム組成、厚さ及び幅を表Iに示す。
【0106】
【表1】

【0107】
全てのフィルムを、6個の予熱ロール、4対の伸張ロール及び2個のアニールロールからなるパイロットライン上で機械方向(MD)に伸張した。予熱ロール及びアニールロールは直径350mm。伸張ロールは直径100mmであった。ロールは全て幅670mmであった。ロール速度及び温度は、個々のロールで変えることができた。6個の予熱ロールは、特に断らない限り、それぞれ65℃、70℃、75℃、80℃、75℃及び75℃に設定した。アニールロール温度は、特に断らない限り、30℃に設定した。
【0108】
各フィルムをMDにおいて異なる延伸比で伸張させた。4対の延伸ロールは、各延伸ロール対間(3つの伸張ステーション)において等しいフリクション比が保持されるように、増加する速度を有していた。例えば総延伸比が5.5の場合は、フィルムは、第一の延伸ロール対と第二の延伸ロール対の間で1.77倍、第二の延伸ロール対と第三の延伸ロール対の間でも1.77倍、第三の延伸ロール対と第四の延伸ロール対の間でも1.77倍伸張される(総延伸比は1.77×1.77×1.77=5.5)。総延伸比は、伸張フィルムが所望の厚さ及び収縮率を有するように決定した。各フィルムの3つの100mm×100mmサンプルをそれぞれ、作業者側、中央及び駆動側から取り、85℃に30秒間及び95℃に30秒間浸漬した。これらの試験を迅速に行って、フィルムの種々の巻取を伸張させながら一部の即時フィードバックを行い、種々の加工条件の影響を測定した。これらの測定の結果を表IIに示す。しかし、表II中のデータは、変動可能な非定常状態加工条件下で製造したフィルムの収縮特性を表すので、典型的な定常状態加工条件下で製造されるフィルムの真の性能を反映するとは考えられない。それでも、表IIのデータは完全性を目的として示す。収縮率%の負の数はフィルム伸長率を示し、正の数はフィルム収縮率を示す。」

「【0110】
サンプルを定常状態加工条件中にも取り、それらの10秒間収縮率データを表IIIに示す。これらの収縮率データは、100mm×100mmフィルムサンプルを水に65〜95℃の温度において10秒間浸すことによって測定した。温度は5℃刻みで変化させた。ウェブの作業者側、中央及び駆動側からサンプルを取った。収縮率データを表IIIに示す。これは、フィルムサンプルの真の性能をより詳しく示すと考えられる。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
比較例C2のMD収縮率は80℃において80%に達する。3つの位置におけるMD収縮率データセットは、測定した全ての温度においてかなりオーバーラップする。MD収縮率に関しては、有意な位置依存関係はみられない。しかし、3つのTD収縮率データセットはそれほどオーバーラップしない。2つの外縁部(作業者側及び駆動側)は中央サンプルよりも大きいTD伸び率を示す。比較例C2は、高いTD伸び率(5%超)及びウェブの幅の方向の変動を示す。
【0114】
比較例C3のMD収縮率は85℃において64%であった。3つの位置におけるMD収縮率データは、測定した全ての温度においてかなりオーバーラップする。MD収縮率に関しては、有意な位置依存関係はみられない。しかし、3つのTD収縮曲線は75℃より高い温度ではそれほどオーバーラップしない。2つの外縁部(作業者側及び駆動側)は中央サンプルよりも大きいTD伸び率を示す。比較例C3は、高いTD伸び率(5%超)及びウェブ幅の方向での変動(variation across the width of the web)を示す。
【0115】
比較例C4のMD収縮率は85℃において48%であった。3つの位置におけるMD収縮率データセットはかなりオーバーラップする。MD収縮率に関しては、フィルムの幅方向の有意な位置依存関係はみられない。しかし、3つのTD収縮曲線は80℃より高い温度ではそれほどオーバーラップしない。2つの外縁部サンプル(作業者側及び駆動側)は中央サンプルよりも大きいTD伸び率を示す。比較例C4は、高いTD伸び率(5%超)及びウェブの幅の方向での変動を示す。
【0116】
実施例1及び2のMD収縮率は90℃において41%及び49%であった。実施例1及び2の場合は、3つの位置におけるMD収縮率データセットがそれぞれかなりオーバーラップする。MD収縮率に関しては、有意な位置依存関係はみられない。更に、TD収縮率は90℃において6%未満に留まり、比較例C1〜C4の場合よりフィルムの幅の方向での変動が少ない。
【0117】
比較例C1〜C4及び実施例2に関する各伸張フィルムの厚さを、ウェブの幅の方向に1/2インチ刻みで測定した。実施例1に関しては、フィルム厚さの測定は行わなかった。ウェブは物理的に切り取らなかったので、各ウェブ外縁部の最初の1インチは無視した。平均厚さ及び厚さの標準偏差を表IVに示し、詳細なデータ測定値を表Vに示す。実施例2は、最も均一な厚さを示した。平均厚さの標準偏差が小さいほど、フィルム巻取の幅方向の材料分布が良好であることが示される。ウェブの中央よりも各縁端部近くでより大きい厚さ測定値を有していた比較例C3及びC4で見られるようなU字形分布は、フィルム縁端部では中央よりも、ネックインが大きいために材料がかなり多いことを示している。
【0118】
比較例C1〜C4並びに実施例1及び2の全ウェブロール幅を、伸張前後で測定した。総ネックイン%は、伸張によって引き起こされる幅の減少百分率である。ネックインの量は典型的には、伸張の増加につれて増加するので、有用な尺度は、(総ネックイン)÷(延伸比)である標準化ネックインである。総ネックイン及び標準化ネックインを表IVに示す。実施例1及び2は、比較例C1〜C4よりも低い標準化ネックインを有し、比較例C1〜C3よりも低い総ネックインを有していた。
【0119】
【表5】



イ 甲2発明
甲2の表1のフィルム幅の記載に関し、表1には「フィルム幅(ミクロン)」と記載されるが、甲2の段落【0110】に記載されるようにフィルムから「100mm×100mmフィルムサンプル」を切り出すものであることからみて、当然、フィルムの幅は100mm以上であることも明らかであり、また、職権で調査したところによれば、甲2に係る国際特許出願の国際公開である国際公開第2009/111058号には、対応するTable1において「Film width(in)」と記載されている。
してみれば、甲2の上記(ミクロン)の単位表記は、(インチ)の明らかな誤記と認められる。



」(国際公開第2009/111058号のTable 1)

以上の点をふまえ、上記アの記載事項、特に請求項16及び実施例2の記載を整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「ポリエステル(A)は、100モル%のテレフタル酸、3.6モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール、2.6モル%のジエチレングリコール及び93.8%のエチレングリコールを含むコポリエステルであり、ポリエステル(B)は、22.8モル%のCHDM、64.7モル%のEG、12.5モル%のDEGを含むコポリエステルであり、ポリエステル(A)及びポリエステル(B)を別々に乾燥させ、ブレンダーを用いて50重量%/50重量%の比で混ぜ合わせた後、押出機のホッパーに供給し、フィルムの粘着を防止するために、Eastman Chemical Companyから入手可能なPETG C00235粘着防止剤コンセントレート1重量%を加工助剤として添加し、次いで、ブレンドを、バレル加熱及びスクリュー剪断によって溶融させ、メルトを、ダイを通してポンプ輸送し、押出物を冷却ロール上に種々の厚さのウェブに流延し、ウェブを巻いて巻取った非延伸フィルムを、6個の予熱ロール、4対の伸長ロール及び2個のアニールロールからなるパイロットライン上で機械方向(MD)に、延伸比5.5×1の一軸延伸処理で伸長して得られたポリエステルフィルムを含むロール供給ラベルにおいて、そのフィルム収縮率は、既知の初期長のサンプルを65〜95℃の水浴中に10〜30秒間浸漬し、次いで各方向の長さの変化を測定することによって、測定され、収縮率は、(長さの変化)÷(原長)×100%として報告され、サンプルの公称寸法は100mm×100mmであり、フィルムサンプルを水に95℃の温度において10秒間浸すことによって測定されたフィルム収縮率が、作業者側収縮率でMD収縮率51%、TD収縮率3%、中央収縮率でMD収縮率で52%、TD収縮率で4%、そして駆動側収縮率でMD収縮率50%、TD収縮率で2%であり、フィルムのポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づく、ポリエステルブレンド中1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)含量は13.0モル%である、ロール供給ラベル。」

(2)甲3に記載された事項
甲3には以下の事項が記載されている。




(3)甲4に記載された事項
甲4には以下の事項が記載されている。




2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明の対比
甲2発明のロール供給ラベルに用いられる一軸延伸処理で伸長して得られたポリエステルフィルムは、フィルムサンプルを水に95℃の温度において10秒間浸すことによって測定されたフィルム収縮率が、作業者側収縮率でMD収縮率51%、TD収縮率3%、中央収縮率でMD収縮率で52%、TD収縮率で4%、そして駆動側収縮率でMD収縮率50%、TD収縮率で2%であり熱収縮性を有することが明らかであるから、本件特許発明1の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」に相当し、甲2発明における「ポリエステルフィルムを含むロール供給ラベル」は、本件特許発明1の「熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」に相当する。

よって、本件特許発明1と甲2発明は以下の点で一致する。
「熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」

そして、以下の点で一応相違する。
相違点2−1:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)」を満たすものである旨特定するのに対し、甲2発明にはそのように特定されない点。

相違点2−2:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下」を満たすものである旨特定するのに対し、甲2発明にはそのように特定されない点。

相違点2−3:本熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下」を満たすものである旨特定するのに対し、甲2発明にはそのように特定されない点。

相違点2−4:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)−(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)」を満たすものである旨特定するのに対し、甲2発明にはそのように特定されない点。

相違点2−5:本件特許発明1が「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール(但し、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く。)」と特定するのに対し、甲2発明にはそのように特定されない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2−5から検討する。
本件特許発明1は、「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く。」ことが特定されており、甲2発明は「フィルムのポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づく、ポリエステルブレンド中1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)含量は13.0モル%」を含むものであるから、相違点5は実質的な相違点である。
また、甲2発明において、「フィルムのポリエステルブレンド中の総ジオール残基に基づく、ポリエステルブレンド中1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)含量は13.0モル%」であることは、当該甲2に記載された発明等の解決すべき課題を達成するための必須の発明特定事項であって、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含有しないようにすることには阻害要因があるといえるから、甲2に記載された発明において、相違点2−5に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

特許異議申立人は、令和 3年12月 8日に提出した意見書において、
本件特許発明1から所定量の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く旨の訂正事項1が容認されたとしても、本件特許発明1と甲2との対比において、本件特許発明1の進歩性を示す根拠は示唆が全く示されておらず、本件発明の明細書に記載された事項を精査しても、所定量の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除くことによって得られる効果や、示唆する根拠は何ら見いだせないから、本件特許発明1は進歩性を有さない旨主張する。
しかしながら、上記イで述べたように、甲2に記載された発明において、相違点2−5に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないのであるから、所定量の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除くことによって得られる効果や、示唆する根拠の有無にかかわらず本件特許発明1は進歩性を有する。
よって、特許異議申立人の主張に理由はない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件特許発明1と同様に、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえないし、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、上記取消理由によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由で採用しなかった申立ての理由についての判断

1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠の記載事項等
ア 甲1の記載事項等
(ア)甲1の記載事項
甲1には、「熱収縮性ポリエステル系フィルムおよび熱収縮性ラベル」に関し、おおむね次の事項が記載されている。

「【請求項1】
ペットボトル再生原料を40質量%以上含有する単層構成の熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
このフィルムから10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を98℃の温水中に10秒間浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒間浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が50%以上75%以下、面配向度AOが0.055以上であって、前記フィルムを構成するポリエステルは、全てのユニット中、エチレンテレフタレートユニットを最も多く含み、フィルムの極限粘度[η]が0.55dl/g以上0.63dl/g以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
フィルムから10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を98℃の温水中に10秒間浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒間浸漬して引き上げたときの主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が0〜8%、試料を70℃の温水中に10秒間浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒間浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が5〜30%、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が−5〜5%である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
フィルムを、30℃、相対湿度85%の雰囲気下で2週間保管した後の主収縮方向と直交する方向における引張り試験で、全試験片数に対する破断伸度5%未満の試料片の発生率(破断率P)が10%以下である請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムを構成するポリエステルが、多価アルコール成分100モル%中、ネオペンチルグリコールを40〜60モル%共重合した共重合ポリエステルを30質量%以上60質量%以下含有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。」

「【0001】
本発明は、ペットボトルのリサイクルに役立つポリエステル系樹脂を主成分とした収縮性フィルムに関するものであり、具体的には輸送包装、集合包装などや、特に、製品包装などの修飾ラベル(以後、ラベルとも記載する)に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。」

「【0009】
本発明においては、PETボトルリサイクル原料を40質量%以上用いても、優れた機械的強度と溶剤接着性を有する単層の熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題とするものである。」

「【0021】
エステルユニットにおいて多価アルコール成分を形成するための多価アルコール類としては、上記エチレングリコールの他に、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、等も併用可能である。
【0022】
また、多価カルボン酸成分を形成するための多価カルボン酸類としては、上述のテレフタル酸およびそのエステルの他に、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸等が利用可能である。芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。またこれらの芳香族ジカルボン酸やテレフタル酸のエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステル等の誘導体が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。さらに、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価カルボン酸を、必要に応じて併用してもよい。」

「【0024】
エチレンテレフタレートユニット以外のユニットを構成する好ましい成分としては、エチレンテレフタレートユニットによる高結晶性を低下させて、低温熱収縮性や溶剤接着性を確保することのできるものが好ましい。このような結晶性低下成分としては、多価カルボン酸成分では、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸が、多価アルコール成分では、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオールが好ましいものとして挙げられる。」

「【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、面配向度AOが0.055以上であることが必要である。面配向度AOを0.055以上とすることで、PETボトル再生原料を多量に添加し、かつ極限粘度が低い本願発明のフィルムに必要な機械的強度を確保できる。面配向度AOは0.056以上が好ましく、0.057以上がより好ましい。また、面配向度が高くなりすぎると、収縮仕上がり性が悪化傾向となるのであまり好ましくない。面配向度AOは0.062以下であることが好ましく、0.061以下がより好ましい。さらに好ましくは0.060以下である。面配向度は、JIS K7142「プラスチックの屈折率測定方法」(A法)に準拠して、フィルムから得られる厚さ方向の屈折率Nz、主収縮方向の屈折率Nx、それと直交する方向の屈折率Nyより、次式から得られる値を採用した。
AO=(Nx+Ny)/2−Nz」

「【0030】
98℃における直交方向の温湯熱収縮率が0%未満であると(すなわち、収縮率が負の値であると)、ボトルのラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができないので好ましくなく、反対に、98℃における直交方向の温湯熱収縮率が8%を上回ると、ラベルとして用いる場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、98℃における直交方向の温湯熱収縮率は、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。また、98℃における直交方向の温湯熱収縮率は、7%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。」

「【0039】
未延伸フィルムを形成した後は、延伸処理を行う。延伸処理は、上記回転ドラム等による冷却後、連続して行っても良いし、冷却後、一旦ロール状に巻き取り、その後に行うことも可能である。なお、未延伸フィルムをフィルムの横(幅)方向に延伸し、主収縮方向をフィルムの横(幅)方向とすることが、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの生産効率面から最も実用的であるので、以下においては、主として、主収縮方向を横方向とする場合の延伸方法について説明する。なお、主収縮方向をフィルムの縦(長手)方向とする場合も、下記方法における延伸方向を90゜変更すること等により、主収縮方向をフィルム横方向とする場合の延伸操作に準じて延伸することができる。」

「【0053】
(2)面配向度AO
面配向度は、JIS K7142「プラスチックの屈折率測定方法」(A法)に準拠して、フィルムから得られる厚さ方向の屈折率Nz、主収縮方向の屈折率Nx、それと直交
する方向の屈折率Nyより、次式から得られる値を採用した。
AO=(Nx+Ny)/2−Nz」

「【0055】
(3)熱収縮率
フイルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃、または70±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた値である。最も収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)」

「【0058】
(6)収縮仕上がり性
10mm間隔の格子をマジックインキで書き込んだ熱収縮性フィルム(縦118mm×横250mm)をヒートシール接着で筒状にし、これを容量350mlのPETボトル(全高160mm、首廻りφ25mm、胴周囲長58mm)に装着した後、スチームによる加熱機構を有した収縮トンネル(90℃〜95℃)を15〜20秒で通過させて、フィルムを密着させる。上記の工程で得られた30枚のフィルムに対して、シワやずれ、格子のひずみなどの異常を目視で判断し、仕上がり性に関する下記の評価を行った。
◎:異常なし
○:異常が1〜2ヶ所認められるが、1枚のみ
△:異常が1〜2ヶ所認められ、2枚以上
×:異常が3ヶ所以上認められる。」

「【0060】
調製例1
<ポリエステル系樹脂A(PET:ポリエチレンテレフタレート)>
テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)をエステル化反応釜に仕込み、圧力0.25MPa、温度220〜240℃の条件下で120分間エステル化反応を行った後、反応釜内を常圧にして、重合触媒であるチタニウムテトラブトキシドを加えて、撹拌しながら反応系内を徐々に減圧し、75分間で0.5hPaとすると共に、温度を280℃に昇温して、280℃で溶融粘度が所定の値となるまで撹拌を続けて重合反応を行い、その後、水中に吐出して冷却し、ポリエステル系樹脂Aを得た。
【0061】
調製例2
<ポリエステル系樹脂B・C(PET:ポリエチレンテレフタレート)>
使用済みPETボトルを洗浄後に粉砕し、275〜280℃に設定した押出し機から水中に吐出して冷却し、ポリエステル系樹脂を得た。このポリエステル系樹脂で極限粘度[η]の高い部分のものを樹脂B、極限粘度[η]の低い部分のものを樹脂Cとした。
【0062】
調製例3
<ポリエステル系樹脂D(PBT:ポリブチレンテレフタレート)>
テレフタル酸ジメチル(DMT)と、1,4−ブタンジオール(BD)をエステル化反応釜に仕込み、常圧、170〜210℃で180分間、エステル交換反応を行った以外は、調製例1と同様にして、ポリエステル系樹脂Dを得た。
【0063】
調製例4
<ポリエステル系樹脂E1〜E4>
テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)、ネオペンチルグリコール(NPG)をそれぞれ表1に記載の所定のmol比になるようにエステル化反応釜に仕込み、調製例1と同様にして、ポリエステル系樹脂E1〜E4を得た。なお、上記の各樹脂を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1〜9、比較例1〜4
充分に乾燥(水分率50ppm以下)したポリエステル系樹脂A、B、C、D、E1〜E4を表2に示した配合で均一に混合した。これを二軸押出し機(池貝製PCM45)を用いて、表2のように押出温度と滞留時間を変更して混練押出し、極限粘度の異なる厚さ180μmの未延伸フィルムを成形し、この未延伸フィルムを一軸延伸装置内で約10秒間の予熱ゾーン(約90℃)で予熱し、延伸ゾーン(約70℃)で延伸速度1,500%/分で実倍率約4.0倍に延伸した後、約10秒間の固定ゾーン(約80℃)で熱処理を施すことで、所定の極限粘度[η]および面配向度AOの厚さ40μmの熱収縮性フィルムを得た。なお、得られた試料に関する物性などを表2、表3に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】



「【0070】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびラベルは、PETボトル再生原料を40質量%以上含むにもかかわらず、優れた耐破れ性を有し、透明性、収縮仕上がり性、溶剤接着性に対して均衡のとれたものである。従って、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムおよび熱収縮性ラベルは、PETボトル等のラベルを始めとする各種被覆ラベル等に好適である。」

(イ)甲1発明
上記(ア)の記載事項、特に実施例1についてまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
フイルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後、試料の縦および横方向の長さを測定し、最も収縮率の大きい方向を主収縮方向としたときの主収縮方向の熱収縮率が66%であり、
該主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が7%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」(甲1発明)

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「熱収縮性ポリエステルフィルム」を特定する点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1:本件特許発明1は「熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」を特定するのに対し、甲1発明にはそのように特定されない点。

相違点1−2:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)」を満たすものである旨特定するのに対し、甲1発明にはそのように特定されない点。

相違点1−3:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下」を満たすものである旨特定するのに対し、甲1発明にはそのように特定されない点。

相違点1−4:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下」を満たすものである旨特定するのに対し、甲1発明にはそのように特定されない点。

相違点1−5:熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、本件特許発明1が「(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)−(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)」を満たすものである旨特定するのに対し、甲1発明にはそのように特定されない点

事案に鑑み、相違点1−3について検討する。
甲1発明は、「フィルムから10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を98℃の温水中に10秒間浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒間浸漬して引き上げたときの主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が7%」であるがフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率のバラツキを特定条件下にすることについては何ら記載も示唆もされていない。
そして他の証拠を見ても、本件特許発明1の相違点1−3に係る温湯収縮率のバラツキを制御する旨の記載はない。
そうすると、甲1及び他の証拠の記載事項をみても、甲1発明において、熱収縮性ポリエステル系フィルムの温湯収縮率のバラツキに着目し、その値を最適化する動機付けはないから、甲1発明において、相違点1−3に係る事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許発明1の要件(2)(相違点1−3と同じ。)について、甲1の実施例1〜9においては、「直交の熱収縮率(%)として6〜8%の値が記載されており、平均値であって、かなり数値のバラツキが小さいと思料する。・・・すなわち、甲1の実施例1等には、本件特許発明の、直交方向の熱収縮率のバラツキが5%以下という要件(2)が、事実上、記載されていると言える」旨主張している。
ここで、本件特許発明1の要件(2)で特定するバラツキは、フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料についてフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を求めて得られるものである。
一方、上記主張における「バラツキ」は実施例1〜9それぞれの直交の熱収縮率の比較に基いて推定されたものであり、各実施例のフィルムにおいて複数の試料を採取・測定したものではない。
そうすると、測定方法が異なる甲1の実施例1〜9において直交の熱収縮率(%)として6〜8%の値が記載されていることをもって、直ちに本件特許発明1の要件(2)を満たすとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

2 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件発明の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルム、及び包装体に関するものであり、詳しくは、ラベル用途や弁当容器等を結束するバンディング用途に好適で、ロール幅方向での物性差が小さく加熱収縮時にシワやゆがみ等が少ない熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶やPETボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる延伸フィルム(所謂、熱収縮性フィルム)が広範に使用されるようになってきている。そのような熱収縮性フィルムの内、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0003】
また、通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、幅方向に大きく収縮させるものが広く利用されている。ボトルのラベルフィルムや、弁当容器等を結束するバンディングフィルムとして用いる場合、フィルムを環状にしてボトルや弁当容器に装着した後に周方向に熱収縮させなければならないため、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムをバンディングフィルムとして装着する際には、フィルムの幅方向が周方向となるように環状体を形成した上で、その環状体を所定の長さ毎に切断してボトルや弁当容器に手かぶせ等で装着しなければならない。したがって、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムからなるラベルフィルムやバンディングフィルムを高速でボトルや弁当容器に装着するのは困難である。それゆえ、最近では、フィルムロールから直接、ボトルや弁当容器の周囲に巻き付けて装着することが可能な長手方向に熱収縮するフィルムが求められている。フィルム環状体を形成してシールするセンターシール工程や、裁断、手かぶせ等の加工が不要になり、高速で装着することも可能である。
【0004】
収縮フィルムの要望のひとつとして、フィルムの幅方向で収縮物性に差がないことが求められる。一般に、ラベル用途や弁当のバンディング用途に使用する時、製膜して巻き上げたフィルムロールを巻き出して所定の幅にスリットして再度スリットロールとして巻き上げる。つまりフィルム幅方向で収縮物性に差があると、スリットした位置によって収縮率が異なるスリットロールが得られることとなる。主収縮方向に対して直交する方向、つまり幅方向の収縮率がスリットロールごとで異なる場合、幅方向の収縮率はラベルやバンディングフィルム用途で使用する際のラベルやバンディングフィルムの高さと密接に関係しているため、使用するロールによってばらばらの高さのラベルやバンディングフィルムが得られることとなり問題である。幅方向の収縮率のバラつきが小さいことが、スリットロールごとでのラベルやバンディングフィルムの高さを均一にする上で理想的である。
【0005】
幅方向の収縮率のバラつきは縦延伸時のネックインが原因と考えられる。縦延伸時には、縦方向に延伸応力がかかることに伴い、幅方向にもフィルム中央に向かう応力が働く。この幅方向にかかる力は特にフィルム端部付近で大きく、延伸時フィルムの幅が減少する。この幅の減少つまり収縮をネックインと呼んでおり、フィルムの端部付近では中央付近に比べて幅方向の収縮率が小さくなり、フィルム幅方向でのバラつきが生じると考えられる。
【0006】
また、収縮フィルムの要望として、収縮後のゆがみが少ないことも求められる。収縮後のゆがみは、分子の主配向方向がフィルムの長手方向もしくは幅方向から傾いていることが原因で生じることが知られている。この傾きのことを分子配向角と呼ぶが、通常の縦一軸延伸を行った場合、フィルム中央部分では機械流れ方向を時計12時方向とした場合、12時方向とフィルム中の分子鎖のなす角度(以下、単に分子配向角と表記)が0°に近く分子配向角が小さくなるものの、フィルム端部付近では分子配向角が大きい。このフィルム端部付近で分子配向角が大きくなる原因に関しても縦延伸時にネックインが起こるためであると考えられ、フィルム中央付近ではネックインの影響が小さいため分子配向角が小さく、フィルム端部付近で幅方向にかかる力の影響が大きく、縦延伸による縦方向の力に加えて幅方向への力が働くため分子鎖が傾き分子配向角が大きくなる。フィルムの中央部分から端部にわたって、分子配向角が小さいことが収縮後のゆがみに関しては理想的である。
【0007】
フィルム幅方向の収縮率のバラつきが小さく、分子配向角が小さいフィルムを得る方法として、縦延伸後の工程として、ネックイン時の幅方向の力の影響のある部分をトリミングする方法が考えられるが、製品として取り幅が減少し、コストの増加につながる問題がある。
【0008】
他のフィルム幅方向の収縮率のバラつきが小さく、分子配向角が小さいフィルムを得る方法として、二軸延伸する方法がある。
【0009】
例えば、特許文献1では、未延伸フィルムをはじめに幅方向に2倍以上に延伸し、ついで長手方向に延伸することで、長手方向に高い収縮性を有し製品の取り幅の広いフィルムが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、二軸に延伸するための大規模な設備が必要であり、コストがかさむ問題がある。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、長手方向である主収縮方向に十分な熱収縮特性を有し、幅方向の収縮
率のフィルム幅方向でのバラつきが小さく、かつ、分子配向角が小さいことにより、収縮仕上げ時にシワやゆがみが生じにくい熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
1.熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロールであって、該ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下
(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下
(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)―(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)
【0013】
2.ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸のうち少なくとも一種をポリエステル原料樹脂に使用していることを特徴とする上記第1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
3.主収縮方向がフィルム長手方向であることを特徴とする上記1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、長手方向に高い収縮率を要するだけで無く、主収縮方向に対して直交する方向、つまり幅方向の収縮率の幅方向のバラつき小さく、分子配向角がフィルム幅方向のどの地点で測定しても小さいフィルムである。主収縮方向と直交する方向の収縮率の幅方向のばらつきが小さいために、どの位置のスリットフィルムを使用してもラベルやバンディングフィルムの高さのばらつきがきわめて小さくなる。また、分子配向角が小さいために収縮後のシワやゆがみが生じにくく、良好な仕上りを得ることを可能とした。」

「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムの構成について詳しく説明する。尚、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法は、後に詳述するが、フィルムは通常、ロール等を用いて搬送し、延伸することにより得られる。このとき、フィルムの搬送方向を長手方向と称し、前記長手方向に対して直交する方向をフィルム幅方向と称する。従って、以下で示す熱収縮性ポリエステル系フィルムの幅方向とは、ロール巻き出し方向に対して直交する方向であり、フィルム長手方向とは、ロールの巻き出し方向に平行な方向をいう。実施例および比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向は長手方向である。
【0017】
主収縮方向である長手方向に高い収縮率を有し、主収縮方向に対して直交する方向の収縮率のばらつきが小さく、かつ分子配向角が小さいフィルムを得るために、設備コストを鑑みて長手方向への一軸延伸を採用した。但し上述の通り、通常の長手方向の一軸延伸であると、ネックインの影響のある部分を延伸後のトリミング工程において切り落とすこととなり製品幅が狭くなりコストが上がる。そこで本発明者は、鋭意研究の結果、一軸延伸の際の延伸距離を狭くすることによりネックイン時にかかる幅方向の力が影響する範囲を小さくできることを見出した。ネックイン時にかかる幅方向の力の影響する範囲が小さいというのは、縦延伸時に働く幅方向の力の影響がフィルム端部付近にとどまり、中央付近にまで力が及びにくくなるということである。幅方向の力が影響する範囲を小さくすることで、主収縮方向と直交方向の収縮率のばらつきが小さく、配向角が小さいフィルムを広幅で得ることが可能となった。
【0018】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものであり、エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上であることが好ましい。フィルムに剛性(腰)を持たせるために、エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、65モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましい。ただし、エチレンテレフタレートユニットの比率が高過ぎると、必要な収縮率を得ることが難しくなるため、エチレンテレフタレートユニットの上限は90%以下が好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0020】
脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)をポリエステルに含有させる場合、含有率は3モル%未満(ジカルボン酸成分100モル%中)であることが好ましい。
【0021】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)をポリエステルに含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0022】
ポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0023】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が2%未満であると必要な収縮率が得られず、収縮仕上げ時に収縮不足となる。非晶モノマー成分は2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上である。
【0024】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。また、ε−カプロラクトンを用いることも好ましい。
【0025】
ここで、上記の「非晶質成分となり得る」の用語の解釈について詳細に説明する。
【0026】
本発明において、「非晶性ポリマー」とは、具体的にはDSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有さない場合を指す。非晶性ポリマーは実質的に結晶化が進行しておらず、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低いものである。
【0027】
また、本発明において「結晶性ポリマー」とは上記の「非晶性ポリマー」ではないもの、即ち、DSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有する場合を指す。結晶性ポリマーは、ポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化しているものである。
【0028】
一般的には、モノマーユニットが多数結合した状態であるポリマーについて、ポリマーの立体規則性が低い、ポリマーの対象性が悪い、ポリマーの側鎖が大きい、ポリマーの枝分かれが多い、ポリマー同士の分子間凝集力が小さい、などの諸条件を有する場合、非晶性ポリマーとなる。しかし存在状態によっては、結晶化が十分に進行し、結晶性ポリマーとなる場合がある。例えば、側鎖が大きいポリマーであっても、ポリマーが単一のモノマーユニットから構成される場合、結晶化が十分に進行し、結晶性となり得る。そのため、同一のモノマーユニットであっても、ポリマーが結晶性になる場合もあれば、非晶性になる場合もあるため、本発明では「非晶質成分となり得るモノマー由来のユニット」という表現を用いた。
【0029】
ここで、本発明においてモノマーユニットとは、1つの多価アルコール分子および1つの多価カルボン酸分子から誘導されるポリマーを構成する繰り返し単位のことであり、また、ε−カプロラクトンの場合は、ラクトン環の開環で得られる構成単位を示す。
【0030】
テレフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニットがポリマーを構成する主たるモノマーユニットである場合、イソフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸と1.4−シクロヘキサンジメタノールからなるモノマーユニット、イソフタル酸とブタンジオールからなるモノマーユニット等が、上記の非晶質成分となり得るモノマー由来のユニットとして挙げられる。
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0032】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜3.0μmの範囲内(コールターカウンタで測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0033】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0034】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0035】
本発明の熱収縮フィルムは単層でも異なる樹脂組成からなる樹脂層を積層させた積層フィルムでもよい。
【0036】
積層フィルムとする際は、積層フィルムを製造する際に用いられる公知の方法によって製造することができ、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの方法が挙げられる。例えば、共押出法であれば層を形成する各種樹脂混合物について、押出機で個別に溶融を行い、マルチマニホールド方式を備えたTダイ金型内で合流させて押出し、延伸装置で延伸することによって積層フィルムを得る事ができる。
【0037】
積層フィルムの形態は、特に限定されないが、例えば、A/Bの2種2層構成、B/A/B構成の2種3層構成、C/A/Bの3種3層構成の積層形態が挙げられる。
【0038】
〔本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性〕
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、98℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの主収縮方向である長手方向の熱収縮率(すなわち、98℃の温湯熱収縮率)が、50%以上である。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)・・・式(1)
【0039】
98℃における、長手方向の温湯熱収縮率が50%未満であると、ラベルやバンディングフィルムとして使用する場合に、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。98℃における長手方向の温湯熱収縮率の下限値は55%以上であるとより好ましく、60%以上であるとさらに好ましい。
【0040】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合にお
けるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を求めたときのバラツキが5%以下である。尚、主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率のバラツキの測定方法については、実施例において詳述する。
【0041】
主収縮方向に対して直交する方向の収縮率のばらつきが5%以上であった場合、ラベルやバンディングフィルムとして用いる場合に、使用したフィルムの幅方向の位置によって異なる高さのラベルやバンディングフィルムが得られることになり好ましくない。主収縮方向に対して直交する方向の収縮率のばらつきの上限値は4.5%以下であるとより好ましく、4%以下であるとさらに好ましい。尚、主収縮方向に対して直交する方向の収縮率のばらつきの下限については小さい程好ましいが、縦延伸時のネックインによる影響により0%とすることは難しく、現在の技術水準では2%程度が限界である。主収縮方向に対して直交する方向の収縮率のばらつきは3%であっても実質的に問題はない。
【0042】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、下式(2)で示される主収縮方向である長手方向の屈折率と、主収縮方向に対して直交する方向である幅方向の屈折率の差が0.06以上であることが好ましい。
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)―(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)・・・式(2)
【0043】
屈折率の差が0.06より少ない場合、長手方向および長手方向に対して直交する方向に分子が配向していないか、もしくは、長手方向および長手方向に対して直交する方向のいずれにも分子が配向していることを意味し、前者の場合、主収縮方向の長手方向に分子が配向していないため必要な収縮率が得られず、後者の場合は、主収縮方向と直交する方向にも分子が配向しており、不必要な幅方向の収縮率が生じるため好ましくない。屈折率の差の下限値は0.065以上であるとより好ましく、0.070以上であるとさらに好ましい。
【0044】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、分子配向角の絶対値が15度以下である必要がある。分子配向角の絶対値が15度より大きい場合、弁当等の容器に巻いて収縮させた時に、ゆがみが生じるために好ましくない。なお分子配向角の絶対値の上限値は13度以下であるとより好ましく、12度以下であるとさらに好ましい。分子配向角の絶対値は0度に近づくほどよいが、1度であっても特に問題ない。尚、分子配向角の詳細な測定法については後述する。
【0045】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、ラベル用途やバンディング用途の熱収縮性フィルムとして5〜100μmが好ましく、10〜95μmがより好ましい。
【0046】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その製造方法について何ら制限される物ではないが、例えば、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により、延伸することによって得ることができる。
【0047】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0048】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0049】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で長手方向に延伸し、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい延伸について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの延伸方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0050】
[熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい延伸方法]
通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、収縮させたい方向に未延伸フィルムを延伸することによって製造される。本発明では主収縮方向である長手方向に一軸延伸する。通常の長手方向に一軸延伸する場合、未延伸フィルムを複数のロール群が連続的に配置した縦延伸機に導き、予熱ロール上(低速ロール)でフィルムを所定の温度まで加熱した後、予熱ロールの下流に予熱ロールよりも速度の速い低温ロール(高速ロール)を設けて、低速ロールと高速ロールの速度差によってフィルムを長手方向に延伸する。この時、低速ロールからフィルムが離れる地点から、高速ロールにフィルムが接する地点までの距離を延伸距離と呼ぶが、延伸距離と縦延伸時のネックインには密接な関係があり、延伸距離が長いほどネックインによる幅方向の力が影響する範囲が大きくなる。本発明ではこの延伸距離を小さくすることでネックインによる幅方向の力が影響する範囲を小さくした。
【0051】
延伸前または延伸中のフィルムの加熱方法には種々あり、低速ロールと高速ロールの間を通るフィルムをIRヒーターや集光IRヒーターで加熱する方法があるが、ヒーター設備のために低速ロールと高速ロールの位置が遠くなり、延伸距離が広がるため好ましくない。また、予熱ロール上のみでの加熱する延伸方法においても、低速ロールと高速ロールが水平方向に配置され、フィルムは低速ロール、高速ロールの上部に通紙し、フィルムをニップロールなどで抑えながら延伸する方法も考えられるが、フィルムが低速ロールから離れる点と、高速ロールに接する点が広いためネックインによる幅方向の力が影響する範囲が広がる。好ましくは、予熱ロール上のみの加熱にし、フィルムをたすき掛けで低速ロールと高速ロールに通す方法(たとえば、低速ロールではフィルム上部を通り、高速ロールではフィルムがロール下部を通す方法)を採用することで、延伸距離はきわめて短くなる。このとき延伸距離は、100mm以下であることが好ましい。より好ましくは80mm以下であり、更に好ましくは60mm以下である。
【0052】
上記の研究結果より、長手方向への延伸倍率は2.5倍以上7倍以下であることが好ましい。長手方向への延伸倍率が2.5倍未満であると、必要な収縮率を得ることが困難となり、また、フィルム縦方向の厚み斑が大きくなり好ましくない。縦延伸倍率の上限が7倍より高いと、ネックインが大きくなり、幅方向の収縮率のばらつきが大きくなり、配向角が大きくなる上に、長手方向に延伸し難くなる(所謂、破断が生じやすくなる)ので好ましくない。より好ましくは2.7倍以上6.5倍以下であり、更に好ましくは3倍以上6倍以下である。
【0053】
長手方向の延伸は多段延伸を採用してもよい。つまり例えば二段延伸の場合、上記低速ロールと高速ロールの間に、低速ロールより速度が速く、高速ロールよりも遅いロール(中速ロール)を配置し、低速ロールと中速ロールの間で一段目の延伸を行い、中速ロールと高速ロールの間で二段目の延伸を行う。低速ロールと高速ロールの間のみの一段延伸と比較して、多段延伸の場合は必然的に延伸距離が長くなるため、一段目の延伸と二段目の延伸を合わせた総延伸倍率の上限値は6倍以下が好ましい。より好ましくは5.5倍以下であり、更に好ましくは5.0倍以下である。また、一段目の延伸距離と二段目の延伸距離を合わせた累計の延伸距離は200mm以下が好ましい。より好ましくは180mm以下であり、さらに好ましくは160mm以下である。
【0054】
本発明の包装体は、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたバンディングフィルム(及びラベル)が、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させて形成されるものである。包装対象物としては、(飲料用のPETボトルを始め、各種の瓶、缶、菓子や)弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該バンディングフィルム(及びラベル)を約5〜70%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるバンディングフィルム(及びラベル)には、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。
【0055】
バンディングフィルム(及びラベル)を作製する方法としては、長方形状のフィルムを長手方向に丸めて端部を重ね合わせて接着してラベル状にするか、あるいは、ロール状に巻き取ったフィルムをロール長手方向に丸めて端部をフィルムに重ね合わせて接着して、チューブ状体としたものをカットしてラベル状とする。フィルム同士を接着する方法は、溶断シール、溶剤接着、ホットメルト接着剤による接着、エネルギー線硬化型接着剤による接着など、既知の方法を用いて行うことができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の組成を表1に、各層に用いた混合原料の比率を表2に、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件および評価結果を、表3に示す。
【0057】
フィルムの評価方法は下記の通りである。尚、以下の実施例において、特に断りが無い限り、「フィルム」とは熱収縮させる前のフィルムサンプルを意味する。
[Tg(ガラス転移点)]
示差走査熱量分析装置(セイコー電子工業株式会社製、DSC220)を用いて、JIS−K7121−1987に基づいて求めた。未延伸フィルム5mgをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で−40℃から120℃に10℃/分の昇温速度で昇温して測定し、昇温プロファイルを得た。ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0058】
[固有粘度 (IV)]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した(単位:dl/g)。
【0059】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式(1)にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
【0060】
[収縮率のばらつき(温湯熱収縮率)]
フィルム幅方向(主収縮方向に対して直交する方向)で一方の端縁からもう一方の端縁まで10cm×10cmの正方形のサンプルを10cmピッチで採取し、上記式(1)に従い、各サンプルの幅方向の収縮率を測定した。前記方法により測定した各サンプルの幅方向の収縮率につき、その最大値と最小値の差を収縮率のバラツキとした。
【0061】
[分子配向角]
本発明における分子配向軸とは、フィルムの長手方向をX軸、フィルムの幅方向をY軸、フィルムの厚み方向をZ軸方向とした場合に、フィルムのXY平面上で見た場合に、最も分子配向度が大きい方向を分子配向軸と称する。そして、分子配向角とは上記分子配向軸を測定した場合の分子配向軸が、フィルム長手方向又はフィルム幅方向からずれてくる角度を意味する。分子配向角の測定方法としては、まずフィルムから長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のサンプルを採取する。切り出したフィルムサンプルについて分子配向角(分子配向軸方向の角度)を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置(MOA-6004)で測定する。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求める。前記方法による分子配向角測定を、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて行い、その絶対値が最大となるものを本発明における「分子配向角の絶対値」とした。
【0062】
[屈折率]
各試料フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後、アタゴ社製の「アッベ屈折計4T型」を用いて、ナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求めた。そして下式(3)の通り、主収縮方向(フィルム長手方向)の屈折率から、主収縮方向に対して直交する方向(フィルム幅方向)の屈折率を引いた値を「屈折率の差」とした。
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)―(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)・・・式(3)
【0063】
[収縮仕上り性(ラップ・ラウンド)]
弁当のプラスチック容器(辺 150×150mm、高さ100mm)に対して、容器の胴部と蓋部をフィルムが結束するように、幅50mmのフィルムを容器の周方向をフィルムの収縮方向にして巻き付け、220℃で溶断シール後、設定温度90℃のシュリンクトンネルにて加熱収縮させた。収縮仕上り性の評価においては、シワとゆがみの2点において評価した。シワに関しては、図2において、弁当容器の辺方向に入る長さ5cm以上のシワの個数で判断し、基準は下記のようにした
○:0〜4個
△ : 5〜14個
× : 15個以上
【0064】
収縮後の弁当容器のゆがみについては、図3は収縮後のバンディングフィルムと弁当容器を横から見た図であるが、弁当容器を置いた床からバンディングフィルムの端までの距離を高さHとし、Hを弁当容器の周方向に5mmピッチで測定したときの最大値Hmaxと最小値Hminの差をRとした。Rが大きいものをゆがみが大きいと判断し、基準は以下のようにした
○:0mm ≦ R < 5mm
△ : 5mm ≦ R < 10mm
× : 10mm ≦ R
<ポリエステル原料の調製>
【0065】
合成例1
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件のもとで重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル1を得た。組成を表1に示す。
【0066】
合成例2〜4
合成例1と同様の方法により、表1に示すポリエステル2〜4を得た。ポリエステル2の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266;平均粒径1.5μm)をポリエステルに対して7200ppmの割合で添加した。なお、表中、NPGはネオペンチルグリコール、BDは1,4−ブタンジオール、DEGは副生成物のジエチレングリコールである。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、2:0.75dl/g,3:1.20dl/g,4:1.20dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0067】
〔実施例1〕
上記したポリエステル1、ポリエステル2、ポリエステル3およびポリエステル4を質量比25:5:60:10で混合して(混合原料A)押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが42μmの未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムのTgは75℃であった。当該未延伸フィルムを複数のロール群が連続的に配置した縦延伸機に導き、予熱ロール状でフィルム温度80℃になるまで加熱した後に、ロール延伸法の1段延伸によって長手方向の延伸倍率を3.5倍、延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように縦延伸した。この時延伸距離は31mmであった。縦延伸後は表面温度25℃に設定された冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。評価結果を表3に示す。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0068】

【0069】

【0070】

【0071】
〔実施例2〕
長手方向の延伸倍率を4.5倍とし、長手方向への延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように溶融させた混合樹脂のTダイから押出し量を調整した以外は実施例1と同様とした。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0072】
〔実施例3〕
長手方向の延伸倍率を5.5倍とし、長手方向への延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように溶融させた混合樹脂のTダイから押出し量を調整した以外は実施例1と同様とした。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0073】
〔実施例4〕
長手方向の延伸倍率を6倍とし、長手方向への延伸後のフィルムの厚さが12μmになるように溶融させた混合樹脂のTダイから押出し量を調整した以外は実施例1と同様とした。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0074】
〔実施例5〕
ロール延伸方式の二段延伸によって一段目の延伸を1.3倍、2段目の延伸を2.7倍にした以外は実施例1と同様とした。この時の一段目の延伸距離を160mm、二段目の延伸距離を31mmであった。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0075】
〔実施例6〕
ロール延伸方式の二段延伸によって一段目の延伸を1.5倍、2段目の延伸を3.0倍にした以外は実施例2と同様とした。この時の一段目の延伸距離を160mm、二段目の延伸距離を31mmであった。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0076】
〔実施例7〕
ロール延伸方式の二段延伸によって一段目の延伸を1.9倍、2段目の延伸を2.9倍にした以外は実施例3と同様とした。この時の一段目の延伸距離を160mm、二段目の延伸距離を31mmであった。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0077】
〔実施例8〕
上記したポリエステル1、ポリエステル2およびポリエステル3を質量比70:5:25で混合して(混合原料B)、スキン層用の樹脂混合物とした。上記したポリエステル1、ポリエステル2、ポリエステル3およびポリエステル4を質量比5:5:66:24で混合して(混合原料C)、コア層用の樹脂混合物とした。上記、スキン層およびコア層の各層用の樹脂混合物を、2台の2軸押出機を使用して2層マルチマニホールドを備えたTダイ金型を用いて280℃の温度で共押出し、速やかに冷却ロールで冷却し、スキン層/コア層の2層のシートを作製した。この時、スキン層とコア層の厚み比がスキン層:コア層=2:8となるように共押出しした。次いで、当該シートを80℃に加熱し、ロール延伸法の一段延伸によって長手方向の延伸倍率を4.5倍、延伸後のフィルムの総厚さが12μmとなるように縦延伸した。この時延伸距離は31mmであった。縦延伸後は冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。評価結果を表2に示す。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0078】
〔実施例9〕
上記したポリエステル1、ポリエステル2およびポリエステル3を質量比70:5:25で混合して(混合原料B)、スキン層用の樹脂混合物とした。上記したポリエステル1、ポリエステル2、ポリエステル3およびポリエステル4を質量比5:5:66:24で混合して(混合原料C)、コア層用の樹脂混合物とした。上記、スキン層およびコア層の各層用の樹脂混合物を、2台の2軸押出機を使用して3層マルチマニホールドを備えたTダイ金型を用いて280℃の温度で共押出し、速やかに冷却ロールで冷却しスキン層/コア層/スキン層の3層のシートを作製した。この時、スキン層とコア層の厚み比がスキン層:コア層:スキン層=1:8:1となるように共押出しした。次いで、当該シートを80℃に加熱し、ロール延伸法の一段延伸によって長手方向の延伸倍率を4.5倍、延伸後のフィルムの総厚さが12μmとなるように縦延伸した。この時延伸距離は31mmであった。縦延伸後は冷却ロールで冷却し、次いでロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。評価結果を表2に示す。評価の結果、十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いフィルムであった。
【0079】
〔比較例1〕
予熱ロール状でフィルム温度75℃になるまで加熱した後に、赤外線ヒーターで低速ロールと高速ロールの間のフィルムを加熱しながら、ロールの速度差を利用して長手方向に4.5倍、延伸後のフィルムが12μmとなるように縦延伸した以外は実施例1と同様とした。この時、延伸距離は300mmであった。評価の結果、幅方向の収縮率のばらつきが大きく、収縮後のバンディングフィルムにシワが生じ、ゆがみが発生して仕上り性に劣るフィルムであった。
【0080】
[比較例2]
予熱ロール状でフィルム温度75℃になるまで加熱した後に、赤外線ヒーターで低速ロールと高速ロールの間のフィルムを加熱しながら、ロールの速度差を利用して長手方向に4.5倍、延伸後のフィルムが12μmとなるように縦延伸した以外は実施例8と同様とした。この時、延伸距離は300mmであった。評価の結果、幅方向の収縮率のばらつきが大きく、収縮後のバンディングフィルムにシワが生じ、ゆがみが発生して仕上り性に劣るフィルムであった。
【0081】
[比較例3]
予熱ロール状でフィルム温度75℃になるまで加熱した後に、赤外線ヒーターで低速ロールと高速ロールの間のフィルムを加熱しながら、ロールの速度差を利用して長手方向に4.5倍、延伸後のフィルムが12μmとなるように縦延伸した以外は実施例9と同様とした。この時、延伸距離は300mmであった。評価の結果、幅方向の収縮率のばらつきが大きく、収縮後のバンディングフィルムにシワが生じ、ゆがみが発生して仕上り性に劣るフィルムであった。
【0082】
[比較例4]
延伸距離を250mmにした以外は実施例2と同様とした。評価の結果、幅方向の収縮率のばらつきが大きく、収縮後のバンディングフィルムにシワが生じ、ゆがみが発生して仕上り性に劣るフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記の如く優れた特性を有しているので、ラベル用途や弁当容器等を結束するバンディング用途に好適に用いることができる。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムがラベルとして用いられて得られたボトルやバンディングフィルムとして用いられた弁当容器等の包装体は美麗な外観を有するものである。」

(3)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】には「そこで本発明者は、鋭意研究の結果、一軸延伸の際の延伸距離を狭くすることによりネックイン時にかかる幅方向の力が影響する範囲を小さくできることを見出した。」と記載されており、本件特許発明1で特定する要件(1)〜(4)を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを得るための熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい延伸条件について段落【0050】、【0051】には加熱方式及び延伸距離について、段落【0052】、【0053】には延伸倍率について具体的に記載されており、実施例に具体的な実例が示されている。
そうすると、これらの記載を参酌すれば、当業者は、「ポリエステル樹脂の種類」、「加熱方式」、「延伸距離」、「延伸倍率」を調整することで上記熱収縮性ポリエステル系フィルムロールが生産でき、使用できると理解する。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 3のように主張している。
しかし、本件特許発明は物の発明であるところ、「要件(1)〜(4)」を満足する「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」を生産できるように発明の詳細な説明の記載があれば足り、上記のとおり発明の詳細な説明は、本件特許発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを生産し、かつ、使用できるように記載されているから、前記主張は失当であり、採用できない。

3 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記2(2)に記載のとおりの記載がある。

(3)発明の課題
発明の詳細な説明の段落【0011】によると、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、長手方向である主収縮方向に十分な熱収縮特性を有し、幅方向の収縮率のフィルム幅方向でのバラつきが小さく、かつ、分子配向角が小さいことにより、収縮仕上げ時にシワやゆがみが生じにくい熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することである。

(4)サポート要件についての判断
発明の詳細な説明の段落【0041】には本件特許発明1で特定する「要件(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下」を満たさない場合、「ラベルやバンディングフィルムとして用いる場合に、使用したフィルムが得られることになり好ましくない」ことが記載されており、段落【0044】には、熱収縮性ポリエステル系フィルムの分子配向角の絶対値が15度より大きい場合、すなわち、「要件(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下」を満たさない場合、弁当等の容器に巻いて収縮させたときにゆがみが生じるため好ましくない」ことが記載されている。
また、本件特許発明1で特定する「要件(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)」を満たさない場合については、段落【0038】、【0039】に「ラベルやバンディングフィルムとして使用する場合に、収縮量が小さいために、熱収縮したラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない」こと、「(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)−(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)」を満たさない場合については、段落【0042】に「屈折率の差が0.06より少ない場合、長手方向および長手方向に対して直交する方向に分子が配向していないか、もしくは、長手方向および長手方向に対して直交する方向のいずれにも分子が配向していることを意味し、前者の場合、主収縮方向の長手方向に分子が配向していないため必要な収縮率が得られず、後者の場合は、主収縮方向と直交する方向にも分子が配向しており、不必要な幅方向の収縮率が生じるため好ましくない」ことがそれぞれ記載されている。
そして、実施例1ないし9、及び、比較例1ないし4をみれば、上記要件(1)ないし(4)を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムは十分な収縮性を有し、収縮仕上がり性が良いことが具体的に示されている。
そうすると、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールにおいて上記要件(1)ないし(4)を満たすことにより、上記発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件特許発明1は、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールであって、上記要件(1)ないし(4)を特定するものであるから、上記課題を解決する手段を含むといえる。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件を充足する。

特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 4のように主張している。
しかし、上記で示したように、本件発明に関して、本件特許発明1ないし3はサポート要件を充足するものであって、前記主張は失当であり、採用できない。

4 申立理由5(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)明確性要件についての判断
本件特許発明の記載、特に本件特許発明1で特定する要件(1)ないし(4)は、その記載のとおり、当業者が明確に理解できるものであり、上記要件(1)ないし(4)の測定方法についても、本件の発明の詳細な説明の段落【0059】ないし【0061】にそれぞれ記載されるように明確である。
よって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件を充足する。

特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 5のように主張している。
しかし、上記で示したように、本件特許発明の発明は明確であるし、そもそも、明確性を判断する上で発明特定事項の技術的意義は関係がないので、この点の主張は失当であり、採用できない。
さらに、特許異議申立人は、令和 3年12月 8日に提出した意見書において、本件特許発明1の「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く」旨の特定は、甲2の請求項1に記載されるように所定のポリエステルA及びBの特定が必要であり、前記特定がない本件訂正は本件特許発明を不明瞭なものとしていると主張する。
しかし、本件特許発明1の「ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く」特定によって除かれる事項自体は明確である。また、特許異議申立人が主張するように特定のポリエステルA及びBを特定しなければ1,4−シクロヘキサンジメタノール残基のモル%が求められないという特段の事情を認めることもできない。
よって、特許異議申立人のこの点の主張も失当であり、採用できない。

第8 むすび
上記第6、7のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性ポリエステル系フィルムが、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムロールであって、ロール状に巻取られてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール(但し、ポリエステル中の総ジオール残基に基づき、8〜15モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むポリエステル系フィルムロールを除く)。
(1)フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式にしたがって、それぞれ熱収縮率を求め、熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした場合におけるフィルム主収縮方向の温湯収縮率が50%以上
熱収縮率={(収縮前の長さ−腐縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
(2)フィルム幅方向100mmごとに試料を採取し、全ての試料について98℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム主収縮方向に対して直交する方向の温湯収縮率を上記(1)の方法に従って求めたときの最大値と最小値の差を温湯収縮率のバラツキとしたときに、該バラツキが5%以下
(3)長手方向×幅方向=140mm×100mmの矩形のフィルムサンプルを分子配向角測定装置で測定し、フィルムの長手方向の角度を0度とし、分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を分子配向角とし、フィルム幅方向において一方の端縁からもう一方の端縁まで10cmピッチで採取した矩形サンプルの全てについて前記測定を行い、その絶対値が最大となるものを分子配向角の絶対値としたときに、該分子配向角の絶対値が15度以下
(4)アッベ屈折計を用いて、フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後のナトリウムD線(波長:589.3nm)における屈折率を、フィルムの主収縮方向および主収縮方向に対して直交する方向のそれぞれについて求め、下式で示される屈折率差が0.06以上
屈折率差=(主収縮方向の屈折率)−(主収縮方向に対して直交する方向の屈折率)
【請求項2】
ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸のうち少なくとも一種をポリエステル原料樹脂に使用していることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項3】
主収縮方向がフィルム長手方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-10 
出願番号 P2019-123337
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 536- YAA (B29C)
P 1 651・ 113- YAA (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 相田 元
植前 充司
登録日 2020-11-09 
登録番号 6791310
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 熱収縮性ポリエステル系フィルムロール  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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