• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1385174
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-28 
確定日 2022-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6799565号発明「繊維状セルロース及びその製造方法、並びに繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799565号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、〔6−10〕について訂正することを認める。 特許第6799565号の請求項1〜2、6、8〜10に係る特許を維持する。 特許第6799565号の請求項3〜5、7に係る特許に対する本件の各異議申立てをいずれも却下する。  
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6799565号(請求項の数10。以下、「本件特許」という。)は、平成30年5月31日を出願日とする特許出願(特願2018−105605号)であって、令和2年11月25日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年12月16日である。)。
その後、令和3年5月28日に、本件特許の請求項1〜10に係る特許に対して、特許異議申立人である枝木幸二(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。
手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 5月28日提出 特許異議申立書
同年 8月26日付け 取消理由通知書
同年11月 1日提出 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年11月 9日提出 手続補正書(特許権者)
(訂正請求書の補正)
同年11月17日付け 通知書(申立人宛て)
同年12月20日提出 意見書(申立人)

2.証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:新版高分子辞典、(株)朝倉書店、1988年11月25
日、p.468
甲第2号証:改訂3版化学便覧応用編、丸善(株)、昭和55年3月
15日、p.764〜765
甲第3号証:プラスチック・データブック、(株)工業調査会、1999
年12月1日、p.761〜763
甲第4号証:榊原圭太ら「高分子分散剤による木材由来ナノセルロース
の界面機能制御と樹脂複合材料への応用」、日本ゴム協
会誌、2015年、第88巻、第11号、p.443−446
甲第5号証:黒木大輔「変性セルロースナノファイバーの開発状況」、
日本画像学会誌、2016、第55巻第3号、p.369
−374
甲第6号証:特開2014−193959号公報
甲第7号証:井出文雄「実用ポリマーアロイ設計」、(株)工業調査会、
1996年9月1日、 p.16−20
甲第8号証:上田伸一ら「添加剤の溶解性パラメータに関する考察」、
塗料の研究、2010年10月、No.152、p.41
−46
甲第9号証:J.BRAIDRUP et al「POLYMER
HANDBOOK FOURTH EDITION」、
A WILEY−INTERSCIENCE PUBLI
CATION、1999年、p.VII/704,709
甲第10号証:小川俊夫「モル引力定数を用いた溶解パラメーターの
数値予測」、日本接着学会誌、2017年、第53巻
第4号、p.129−136
甲第11号証:田中千晶ら「摩砕した竹繊維のフィブリル化度の最適化
によるPLA複合材料の機械的特性の改善」、材料
(Journal of the Society of
Materials Science,Japan)、
2009年5月、Vol.58、No.5、p.
368−373
甲第12号証:特開2016−176052号公報
(以下、上記甲第1号証〜甲第12号証を、「甲1」〜「甲12」という。)

(2)特許権者が提出した証拠方法
資料1:フィブリル化率を説明する資料
報告書:2021年11月1日付けの松末一紘(本件特許に係る発明の
発明者)作成の報告書

第2 訂正の適否
1.訂正事項
令和3年11月1日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、明細書、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
なお、令和3年11月9日に提出された訂正請求書の手続補正書は、「3 訂正の請求項に係る数」を「8」から「10」とし、「6 請求の趣旨」に「、訂正後の請求項1〜5、請求項6〜10について」という文言を加えるものであるから、これを認める。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「平均繊維幅0.1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、
繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。」を
「平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、フタル酸を含有し、
前記繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6において、
「原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅0.1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を
「原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂、及びフタル酸と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項8、9及び請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8において、
「前記繊維状セルロース及び樹脂、並びに多塩基酸を混練して、当該多塩基酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を、
「前記繊維状セルロース及び樹脂、並びにフタル酸を混練して、当該フタル酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9において、
「前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6〜8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を
「前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6または8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
本件訂正前の本件明細書の【0012】段落において、
「(請求項1に記載の手段) 平均繊維幅0.1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、
繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
(請求項2に記載の手段)
前記繊維状セルロースは、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上である、
請求項1に記載の繊維状セルロース複合樹脂。
(請求項3に記載の手段)
前記繊維状セルロースは、ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている、
請求項1又は請求項2に記載の繊維状セルロース複合樹脂。
【化1】

構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。」を、
「(請求項1に記載の手段)
平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、フタル酸を含有し、
前記繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
(請求項2に記載の手段)
前記繊維状セルロースは、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上である、
請求項1に記載の繊維状セルロース複合樹脂。」に訂正する。

(10)訂正事項10
本件訂正前の本願明細書の【0013】段落を削除する。

(11)訂正事項11
本件訂正前の本件明細書の【0017】段落において、
「(請求項6に記載の手段)
原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅0.1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を、
「(請求項6に記載の手段)
原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂、及びフタル酸と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。

(12)訂正事項12
本件訂正前の本願明細書の【0018】段落を削除する。

(13)訂正事項13
本件訂正前の本件明細書の【0019】段落において、
「(請求項8に記載の手段)
前記繊維状セルロース及び樹脂、並びに多塩基酸を混練して、当該多塩基酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を
「(請求項8に記載の手段)
前記繊維状セルロース及び樹脂、並びにフタル酸を混練して、当該フタル酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。

(14)訂正事項14
本件訂正前の本件明細書の【0020】段落において、
「(請求項9に記載の手段)
前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6〜8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」を
「(請求項9に記載の手段)
前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6または8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。

(15)訂正事項15
本件訂正前の本願明細書の【0054】段落を削除する。

(16)訂正事項16
本件訂正前の本願明細書の【0139】段落の【表1】に「実施例9」、「実施例10」と記載されているのを、「参考例1」、「参考例2」に訂正する。

2.一群の請求項について
本件訂正前の請求項2〜5は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用し、本件訂正前の請求項7〜10は、本件訂正前の請求項6を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1〜5、6〜10は、それぞれ一群の請求項に該当するものである。
よって、本件訂正請求の訂正事項1〜4、5〜8は、それぞれ一群の請求項〔1〜5〕、〔6〜10〕に対して請求されたものである。
なお、本件特許の明細書を訂正の対象とする訂正事項9〜16は、本件訂正前の請求項1〜10の全てと関係するものとして請求されたものであると認められる。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更
の存否
(1)訂正事項1、5
訂正事項1は、本件訂正前の請求項4に記載されていた「多塩基酸を含有する」との記載、及び、本件訂正前の本件明細書の【0092】に記載されていた「多塩基酸としては、シュウ酸類、フタル酸類…クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。だだし、フタル酸、フタル酸塩類及びこれら(フタル酸類)の誘導体の少なくともいずれか1種以上であるのが好ましい。」との記載に基づき、本件訂正前の請求項1の「繊維状セルロース複合樹脂」について「フタル酸を含有」することに限定するとともに、本件訂正前の本件明細書の【0139】【表1】における「1μm以上」の記載に基づき、本件訂正前の請求項1の「繊維状セルロース」の「平均繊維幅」を「0.1〜15μm」の範囲からより狭い範囲である「1〜15μm」に限定するものである。
同じく、訂正事項5は、本件訂正前の請求項8の「多塩基酸を混練して、当該多塩基酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る」との記載、及び、本件訂正前の明細書における上記【0092】の記載に基づき、本件訂正前の請求項6の「繊維状セルロース複合樹脂」について「フタル酸と混練」することに限定するとともに、本件訂正前の明細書の上記【0139】【表1】の記載に基づき、本件訂正前の請求項6の「繊維状セルロース」の「平均繊維幅」を「0.1〜15μm」の範囲からより狭い範囲である「1〜15μm」に限定するものである。
したがって、訂正事項1、5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(2)訂正事項2〜4、6
訂正事項2〜4、6は、本件訂正前の請求項3〜5、7を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(3)訂正事項7
訂正事項7は、本件訂正前の請求項8に記載された「多塩基酸」を、本件訂正前の明細書における上記【0092】の記載に基づき「フタル酸」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(4)訂正事項8
訂正事項8は、訂正事項6より、本件訂正前の請求項7が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項8が引用している請求項7を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(5)訂正事項9〜14
訂正事項9は、訂正事項1、2より本件訂正前の請求項1〜3が訂正されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0012】の記載を、訂正事項1、2の内容に沿ったものに訂正するものである。
訂正事項10は、訂正事項3〜4により本件訂正前の請求項4〜5が削除されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0013】の記載を削除するものである。
訂正事項11は、訂正事項5より本件訂正前の請求項6が訂正されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0017】の記載を、訂正事項5の内容に沿ったものに訂正するものである。
訂正事項12は、訂正事項6により本件訂正前の請求項7が削除されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0018】の記載を削除するものである。
訂正事項13は、訂正事項7より本件訂正前の請求項8が訂正されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0019】の記載を、訂正事項7の内容に沿ったものに訂正するものである。
訂正事項14は、訂正事項8により本件訂正前の請求項9が訂正されたことに伴い、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0020】の記載を、訂正事項8の内容に沿ったものに訂正するものである。
したがって、訂正事項9〜14は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(6)訂正事項15
訂正事項15は、フィブリル化率の測定方法について、本件訂正前の明細書の【0054】に「フィブリル化率とは、セルロース繊維をJIS−P−8220:2012「パルプ−離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをFiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。」、同【0130】に「(繊維分析)平均繊維長とフィブリル化率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。」との異なる記載があり、本件訂正前の本件発明1〜10のフィブリル化率の測定方法がどちらによるものか不明確であったところ、当該測定方法が実施例で採用されている後者であることを明確にするために、後者の記載と整合しない前者の【0054】の記載を削除するものであるから、訂正事項15は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるといえる。
したがって、訂正事項15は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(7)訂正事項16
訂正事項16は、訂正事項1〜8に伴い、訂正後の請求項1〜2、6、8〜10に係る発明の範囲外となった実施例9、10を参考例1、2と訂正するものであるから、訂正事項16は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。


4.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件の判断の対象となる請求項はない。

5.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1〜8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とし、同訂正事項9〜16は、同法同条同項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、かつ、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合しているものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記のとおり本件訂正は適法なので、訂正後の本件の請求項1〜10に係る発明(以下、項番に従い「本件発明1」〜「本件発明10」などといい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。また、本件訂正後の本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所である。)。

「【請求項1】
平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、フタル酸を含有し、
前記繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
【請求項2】
前記繊維状セルロースは、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上である、
請求項1に記載の繊維状セルロース複合樹脂。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】
原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂、及びフタル酸と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項7】 (削除)
【請求項8】
前記繊維状セルロース及び樹脂、並びにフタル酸を混練して、当該フタル酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6または8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記濃縮に先立って又は前記濃縮に際して、前記繊維状セルロースに樹脂粉末を添加する、
請求項9に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」

第4 取消理由通知で示した取消理由及び特許異議申立理由の概要
1.令和3年8月26日付け取消理由通知書で示した取消理由の概要
(1)取消理由1(明確性要件)
令和3年8月26日付け取消理由通知書で示した取消理由1(明確性要件)の概要は以下のとおりである。

ア.
甲2、甲8、甲10の記載からみて、一般に「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」の算出方法は複数存在するといえるところ、本件訂正前の本件発明1〜10の発明特定事項である「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」が、いずれの方法により算出された数値であるのか、また、その溶解パラメータが客観的に特定できる一定値になり得るのか、不明である。

イ.
本件訂正前の明細書には、SP値の算出方法について全く説明がなく、フタル酸、さらには、フタル酸以外の変性剤により変性させたセルロースのSP値を明確に把握できないうえ、フタル酸により変性されたセルロースの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)は、文献等で当業者に知られたものではないため、具体的に如何なる方法により算出できるのか不明である。

ウ.
本件訂正前の明細書には、「フィブリル化率」について、「…FibrLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。」(【0054】)、「…バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。」(【0130】)との異なる測定機器を用いて測定する旨の説明があり、本件訂正前の本件発明1〜10が対象とする「フィブリル化率」が、いずれの測定機器によるものか、明らかでない。

したがって、本件訂正前の本件発明1〜10は明確であるとはいえないから、本件訂正前の本件発明1〜10に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(実施可能要件
令和3年8月26日付け取消理由通知書で示した取消理由2(実施可能要件)の概要は以下のとおりである。

本件訂正前の明細書の実施例1〜10に記載された「繊維状セルロース複合樹脂」の「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」、及び、その測定方法が明らかでないため、本件訂正前の明細書の実施例1〜10が、本件訂正前の本件発明1〜10の「繊維状セルロース複合樹脂」を技術的に具体化したものであると確認することはできない。また、実施例1〜10に記載された「繊維状セルロース複合樹脂」以外の「繊維状セルロース複合樹脂」を製造する場合でも、本件発明1〜10が発明特定事項としている「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」、「フィブリル化率」の双方を満たしていることを確認するためには、当業者に過度の試行錯誤、実験を要するものと認められる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の本件発明1〜10について実施可能要件に適合しているとはいえないから、本件訂正前の本件発明1〜10に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3(サポート要件)
令和3年8月26日付け取消理由通知書で示した取消理由3(サポート要件)の概要は以下のとおりである。

ア.
本件訂正前の明細書の実施例で使用されている「マイクロ繊維セルロース」、「ポリプロピレン粉末」のSP値(溶解パラメータ)が明らかでないことに加え、本件訂正前の明細書の【0116】の記載は、甲2,甲3、甲7の記載に鑑みると、技術的根拠、技術的妥当性を欠くことから、本件訂正前の本件発明1〜10は、本件訂正前の本件発明の課題を解決できると、当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。

イ.
甲4、甲5の記載に照らすと、疎水化しないマイクロ繊維セルロースと、PEやPPなどの疎水性の高いオレフィン樹脂との組合せでは、溶融状態の樹脂の中では自然と凝集してしまうものと解されるから、多塩基酸を発明特定事項に含まない、本件訂正前の本件発明1〜3、6、9〜10は、本件訂正前の本件発明の課題を解決できると、当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。

ウ.
本件訂正前の本件発明1、6に記載された平均繊維幅は、「1μm」を閾値とするものではなく、1μmを範囲内に含む「0.1〜15μm」を発明特定事項とするものである。そして、本件訂正前の本件明細書の表1の記載からは、実施例1〜10、比較例1の繊維状セルロースが、「15μm」以下であるのか、比較例2の繊維状セルロースが、「0.1μm」未満であるのかも説明されていない。
そうすると、本件訂正前の明細書の実施例の表1の実験結果から、本件訂正前の本件発明1,6の「繊維状セルロース」の「繊維幅」が「0.1〜15μm」であることにより、本件訂正前の本件発明の課題が解決できることを、当業者は理解できない。

したがって、本件訂正前の本件発明1〜10は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に鑑みても、本件訂正前の本件発明の課題を解決できると、当業者が認識できる範囲のものであるとは認められないから、本件訂正前の本件発明1〜10に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由4(新規性
本件訂正前の本件発明1〜2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲5又は甲6に記載された発明であり、本件訂正前の本件発明3〜10は、甲6に記載された発明であるから、本件訂正前の本件発明1〜10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の本件発明1〜10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)取消理由5(進歩性
本件訂正前の本件発明1〜5は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲5又は甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の本件発明6〜10は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の本件発明1〜10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の本件発明1〜10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.特許異議申立理由の概要
申立人が、申立書で主張する特許を取り消すべき理由(以下、「申立理由」という。)は、それぞれ以下のとおりである。

(1)申立理由1(サポート要件)
申立理由1(サポート要件)の概要は以下のとおりである。

ア.
SP値の差が10〜0.1の数値範囲内であることから、直ちに極性の強い繊維状セルロースが樹脂中に分散するとはいえず、SP値の差に関する発明特定事項は、繊維状セルロースの分散性が向上する範囲と一致しないことは明らかである。また、本件訂正前の本件発明の樹脂、繊維状セルロースは、それぞれ熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂、セルロース及びセルロース誘導体を含む広い概念であり、極性の強い系を含むのは明らかであるから、SP値を適用できない範囲を含んでおり、原料の材質の範囲として広過ぎる。

イ.
本件訂正前の本件明細書の実施例の結果からみて、(無水)フタル酸が分散性の向上に寄与しているのは明らかであるところ、相溶化剤あるいは変性剤を含まない本件訂正前の本件発明1、又は、変性されていないセルロースも含む概念である本件訂正前の本発件明1の「繊維状セルロース」は広過ぎる。

ウ.
本件訂正前の本件発明1の発明特定事項として繊維状セルロースの平均繊維幅、平均繊維長及びフィブリル化率の数値範囲が規定されているが、これらの数値を特定するだけで樹脂の強度が高まることはなく、また樹脂との相溶性が高まるとの技術常識もないし、フィブリル化率を所定の数値範囲に調製することによって、樹脂中にセルロースが凝集することなく分散するという技術常識も存在しない。

したがって、本件訂正前の本件発明1〜10は、本件訂正前の本件発明の課題を解決できない範囲を含んでおり、広範に過ぎるため、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件訂正前の本件発明の課題が解決できると認識できる範囲のものではなく、サポート要件に違反している。

(2)申立理由2(明確性要件)
申立理由2(明確性要件)の概要は以下のとおりである。
ア.
ポリマーのSP値は、甲1〜2,7〜10の記載をみると、ポリマーを評価するための特性としては不明確であるため、測定方法を選択し、かつ測定対象の選択も含めて厳密に条件を設定する必要があるパラメータであるが、本件訂正前の明細書には、その測定方法の記載がないし、当業者が共通で用いる測定方法も存在しないため本件訂正前の本件発明1のSP値に関する発明特定事項は不明確である。

イ.
フィブリル化率について、本件明細書の【0054】と【0130】とでは、測定方法が異なり、測定方法及び測定機械が異なれば、求められるフィブリル化率が異なることは自明であるから、フィブリル化率に関する発明特定事項は明確ではない。

したがって、本件訂正前の本件発明1〜10は、明確性要件を充足していない。

(3)申立理由3(実施可能要件
申立理由3(実施可能要件)の概要は以下のとおりである。
ア.
SP値が不明確であることに加え、本件明細書の実施例では、使用したセルロースについて商品名や由来となる原料の種類などについて記載も示唆もされてないため、複数あるSP値の基準を選択することすらできず、当業者であっても、本件実施例の効果を確認することができない。

イ.
フィブリル化率についても、測定方法が異なるため、フィブリル化率を特定できない。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の本件発明1〜10を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、実施可能要件に違反している。

(4)申立理由4(新規性及び進歩性
甲6には、平均繊維幅0.1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmの繊維状セルロース及び樹脂の混練物が開示されており、フィブリル化率及びSP値の差も実質的な差異はないため、本件訂正前の本件発明1〜10は新規性及び進歩性を欠如している。
したがって、本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲6に記載された発明であり、または、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 当審の判断
本件訂正後の請求項3〜5、7は、本件訂正により、その内容が削除され、本件特許異議の申立ての対象を欠くものとなっており、本件訂正前の請求項3〜5、7に対する本件特許異議の申立ては不適法なものであり、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項3〜5、7に係る特許に対する各特許異議の申立ては却下すべきものである。
また、以下で述べるように、当審は、請求項1、2、6及び8ないし10に係る特許は、令和3年8月26日付け取消理由通知書に記載した取消理由1〜5、及び、申立人による申立理由1〜4によっては取り消すことができないと判断する。

1.本件明細書に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

本a.
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、樹脂の補強効果が大きい繊維状セルロース及びその製造方法、並びに強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するためにセルロースナノファイバー(セルロース微細繊維)に様々な処理を施し、またセルロースナノファイバーと樹脂との混練方法を模索した。つまり、セルロースナノファイバーの使用を前提として様々な研究を行った。しかしながら、セルロースナノファイバーを樹脂に複合する際、疎水変性を施し、あるいは相溶化剤を使用しても樹脂中での分散性が十分でなく、樹脂中で十分な三次元ネットワークを形成することが困難で、十分な補強効果が得られなかった。しかるに、その研究の過程において、原料繊維がセルロースナノファイバーであるよりもマイクロ繊維セルロースである方が、樹脂中での分散性が良好であり、樹脂中において十分な三次元ネットワークを形成させることが可能であり、良好な補強効果が得られることを見出し、上記課題を解決するうえで好ましいことを知見し、本発明を想到するに至った。」

「【発明の効果】
【0022】
本発明によると、樹脂の補強効果が大きい繊維状セルロース及びその製造方法、並びに強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法となる。」

本b.
「【0027】
(原料繊維)
平均繊維幅0.1μm以上の繊維状セルロースはマイクロ繊維セルロースであり、原料繊維(パルプ繊維)を微細化(解繊)処理して得ることができる。原料となる繊維としては、植物由来の繊維、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、植物繊維であるパルプ繊維を使用するのが好ましい。原料繊維がパルプ繊維であると、安価であり、また、サーマルリサイクルの問題を避けることができる。

【0044】
(微細化(解繊)工程)
微細化処理は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー等を使用して原料繊維を叩解することによって行うことができ、リファイナーを使用して行うことが好ましい。
【0045】
リファイナーとは、パルプ繊維を叩解する装置であり、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)及びシングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。解繊処理工程において、リファイナーを用いると、処理後の分離や洗浄が不要となる点からも好ましい。
【0046】
なお、マイクロ繊維セルロースは、セルロースやセルロースの誘導体からなる繊維である。通常のマイクロ繊維セルロースは、強い水和性を有し、水系媒体中において水和することで安定的に分散状態(分散液の状態)を維持する。マイクロ繊維セルロースを構成する単繊維は、水系媒体中において複数条が集合して繊維状をなす場合もある。
【0047】
微細化(解繊)処理は、マイクロ繊維セルロースの数平均繊維径(繊維幅。単繊維の直径平均。)が0.1μm以上となる範囲で行うのが好ましく、0.1〜15μmとなる範囲で行うのがより好ましく、0.2〜10μmとなる範囲で行うのが特に好ましい。数平均繊維径(幅)が0.1μm以上となる範囲で行うことで、繊維状セルロース複合樹脂の強度が向上する。
【0048】
具体的には、平均繊維径を0.1μm未満にすると、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、補強効果(特に曲げ弾性率)が十分に得られなくなる。また、微細化処理の時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になり、製造コストの増加につながる。他方、平均繊維径が15μmを超えると、繊維の分散性に劣る傾向がある。繊維の分散性が不十分であると、補強効果に劣る傾向がある。
【0049】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さ)は、0.02〜3mmとするのが好ましく、0.05〜2mmとするのがより好ましく、0.1〜1.5mmとするのが特に好ましい。平均繊維長が0.02mm未満であると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、補強効果が著しく低下する恐れがある。なお、平均繊維長は、例えば、原料繊維の選定、前処理、解繊処理で任意に調整可能である。

【0053】
本形態において、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、1.0%以上であるのが好ましく、1.5%以上であるのがより好ましく、2.0%以上であるのが特に好ましい。また、フィブリル化率は、30.0%以下であるのが好ましく、20.0%以下であるのがより好ましく、15.0%以下であるのが特に好ましい。フィブリル化率が30.0%以上であると、微細化が進み過ぎてナノファイバーとなってしまうため、意図する効果が得られないおそれがある。他方、フィブリル化率が1.0%未満では、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークが不足となる。この点、本発明者等は、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率を1.0%以上にすると、マイクロ繊維セルロースのフィブリル同士が水素結合し、より強硬な三次元ネットワークを構築することを各種試験の過程で見出した。また、フィブリル化率を高くすると樹脂と接する界面が増加するが、多塩基酸を相溶化剤として又は疎水変性に利用すると、更に補強効果が向上することも見出した。

【0059】
(混練等)
微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロースは、必要により水系媒体中に分散して分散液とすることができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も好ましく使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0060】
分散液は濃縮を行って固形分濃度を調節するのが好ましい。この分散液の固形分濃度は、1.0質量%以上であるのが好ましく、1.5質量%以上であるのがより好ましく、2.0質量%以上であるのが特に好ましい。また、分散液の固形分濃度は、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。固形分濃度が1.0質量%を下回ると、微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロース水分散液の濃度より薄くなるおそれがある。他方、固形分濃度が70質量%を上回ると、その後希釈して分散することが困難となり、多塩基酸や樹脂粉末、その他の組成物との混合も困難となるおそれがある。

【0062】
本形態の繊維状セルロースは、多塩基酸等によって変性される場合と、変性されない場合とがある。多塩基酸によって変性する場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースの水分率(含水率)は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0%が特に好ましい。水分率が5%を超えると、多塩基酸によってマイクロ繊維セルロースが変性しない可能性がある。また、水分率が高いと混練する際のエネルギーが膨大になり、経済的でない。
【0063】
他方、多塩基酸によって変性しない場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースの水分率は、5%超が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。含水率が5%超であると、多塩基酸によるセルロース繊維の変性が進まなくなり、得られる複合樹脂は多塩基酸を含有するようになる。

【0074】
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれをも使用することができる。

【0090】
マイクロ繊維セルロースを変性する場合、その方法としては、例えば、エステル化、エーテル化、アミド化、スルフィド化等の疎水変性を挙げることができる。ただし、マイクロ繊維セルロースを疎水変性する方法としては、エステル化を採用するのが好ましい。
【0091】
エステル化の方法としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、リン酸、スルホン酸、無水多塩基酸及びこれらの誘導体等の疎水化剤によるエステル化を挙げることができる。ただし、疎水化剤としては、無水多塩基酸やその誘導体を使用するのが好ましい。
【0092】
(多塩基酸)
マイクロ繊維セルロース及び樹脂と混練する多塩基酸としては、シュウ酸類、フタル酸類、マロン酸類、コハク酸類、グルタル酸類、アジピン酸類、酒石酸類、グルタミン酸類、セバシン酸類、ヘキサフルオロケイ酸類、マレイン酸類、イタコン酸類、シトラコン酸類、クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。だだし、フタル酸、フタル酸塩類及びこれら(フタル酸類)の誘導体の少なくともいずれか1種以上であるのが好ましい。

【0096】
無水多塩基酸を使用すると、セルロース繊維を変性する場合においてはヒドロキシル基の一部が所定の官能基によって置換され、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性が向上する。また、多塩基酸を単に含有させる場合においては、当該多塩基酸が相溶化剤として機能し、相溶性が向上する。結果、得られる繊維状セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ強度が向上する。
【0097】
なお、多塩基酸を相溶化剤として機能させる場合は、セルロース繊維の変性の進み具合が問題にならないため、得られる複合樹脂の品質が安定化する。ただし、混練する際のマイクロ繊維セルロースの含水率に留意する等して(この点については、前述したとおりである。)、セルロース繊維が変性してしまはないよう注意する必要がある。
【0098】
マイクロ繊維セルロースの変性は、繊維を構成するセルロースのヒドロキシル基の一部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されるように行うのが好ましい。

【0100】
無水多塩基酸としては、下記の構造式(3)又は構造式(4)を示すものを使用するのが好ましい。

【0102】
上記構造式(3)又は構造式(4)を示す無水多塩基酸を使用することによってマイクロ繊維セルロース及び熱可塑性樹脂の相溶性が向上する。

【0116】
マイクロ繊維セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差、つまり、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値−SPPOL値とすることができる。SP値の差は10〜0.1が好ましく、8〜0.5がより好ましく、5〜1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。なお、溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒−溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。

【0130】
(繊維分析)
平均繊維長とフィブリル化率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。」

本c.
「【実施例】
【0136】
次に、本発明の実施例を示し、本発明の作用効果、すなわち、多塩基酸を使用する場合において、マイクロ繊維セルロース(MFC)を使用し、特に所定のフィブリル化率を有するMFCを使用すると、セルロースナノファイバー(CNF)を使用するよりも樹脂の補強効果に優れることなどを明らかにする。
【0137】
(実施例1)
固形分濃度2.75重量%のマイクロ繊維セルロース(解繊にリファイナーを使用)水分散液365gに、フタル酸7g及びポリプロピレン粉末83gを添加し、105℃で加熱乾燥し混合物を得た。当該混合物の含水率は、10%未満であった。当該混合物を180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、繊維状セルロース複合樹脂を得た。この複合樹脂をペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。得られた成形物について、表1に、曲げ試験の試験結果を示した。なお、曲げ試験の評価方法は、次のとおりである。
【0138】
(曲げ試験)
曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に準拠して測定した。表中には、評価結果を以下の基準で示した。
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍以上の場合:○
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍未満の場合:×
【0139】
【表1】

【0140】
(その他の実施例及び比較例)
リファイナー処理回数、繊維状セルロースの繊維幅、繊維長、フィブリル化率、及び繊維水分率、並びに繊維(セルロース)、フタル酸、及び樹脂の混練時における配合割合、添加した多塩基酸(薬品)の種類・有無等を、表1に示すように変化させて試験を行った。結果は、表1に示した。なお、多塩基酸は基本的に混練直前に添加することとし、ただし、実施例9においては繊維状セルロースの分散液に添加することとした。
【0141】
(考察)
表1から、多塩基酸を使用する場合においては、CNFを使用するよりもMFCを使用する方が好ましいこと、フィブリル化率が重要なファクターになることが分かる。」

2.甲各号証に記載された事項
(1)甲5に記載された事項及び甲5に記載された発明
ア.甲5に記載された事項
甲5a
「CFNは親水性に寄与する多数の水酸基を持つため、疎水性の高い樹脂中でCNFを均一に分散させるためにはこの水酸基を疎水基に変換することが有効である。Fig.2に「変性パルプ」の模式図を示す。セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤をパルプ表面に作用させることで、表面が疎水化された変性パルプを得ることができる。」(98頁右欄3行〜9頁)

甲5b


」(98頁)

甲5c
「3.変性CNF強化熱可塑性樹脂
前述のGSCプロジェクトの成果として、「変性パルプ」と熱可塑性樹脂とを2軸混練機で溶融混練することで、変性パルプが樹脂中でナノ解織すると共にナノ分散する事が見いだされた。…
一例としてFig.4に未変性CNF強化PEと、変性CNF強化PEのX線CT画像を示す。用いたX線CTスキャナの分解能は700nm程度であり、これ以上の太さの繊維は白く映る。未変性のパルプは白い部分が多いのに対し、変性パルプを配合した場合、白い部分が大幅に減少していることが分かる。この結果より20−30μmの繊維幅であったパルプが混練工程を経て 700nm以下に解繊されナノ分散していることが示唆される。得られた変性CNF強化PE は強度が大幅に向上すると共に成形体の寸法安定性を大幅に向上させることができた。
一方で、GSCプロジェクトの検討において、CNFを複合材料中で解繊するために種々の検討を行った中で、複合材料中におけるCNFのナノ解繊/ナノ分散状態は、2軸混練機における操業条件に大きく依存することが分かった。Fig.5に弱混練条件と強混練条件にて製造したCNF複合材料の繊維分散状態を示す。写真から観察される機維は幅10μm前後であり、ナノ解繊されなかった繊維(未解繊物)である。強混練条件では未解繊物はわずかに確認される程度だが、弱混練条件では非常に多くの未解繊物が観察されており、CNFに解繊するための混練条件設定が重要であることが理解できる。」(98頁右欄14行〜99頁左欄)

甲5d



」(99頁)

イ.甲5に記載された発明
甲5には、「セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤をパルプ表面に作用させることで、表面が疎水化された変性パルプ」が得られること(摘記5a)、「20−30μmの繊維幅であったパルプ」が混練工程の原料であること(摘記5c)、「「変性パルプ」と熱可塑性樹脂とを2軸混練機で溶融混練することで、変性パルプが樹脂中でナノ解織すると共にナノ分散する事」(摘記5c)、「混練工程」を経ると「700nm以下に解繊されナノ分散していること」(摘記5c)、「弱混練条件」では「機維は幅10μm前後」となり、「ナノ解繊されなかった繊維(未解繊物)」が「非常に多く」「観察」されること(摘記5c)、熱可塑性樹脂として「PE」(ポリエチレン)を用いること(摘記5c)が記載されている。

以上からすると、甲5には、
「セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤により表面が疎水化された20−30μmの繊維幅の変性パルプとPEとの混合物を、強混練することで得られる、700nm以下の繊維幅のものを含む変性パルプとPEの混練物。」(甲5発明1)、及び、
「セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤により表面が疎水化された20−30μmの繊維幅の変性パルプとPEとの混合物を、弱混練することで得られる、10μm前後の繊維幅のものを含む変性パルプとPEの混練物。」(甲5発明2)
が記載されていると認められる。

(2)甲6に記載された事項及び甲6に記載された発明
ア.甲6に記載された事項
甲6a
「【請求項1】
A)熱可塑性樹脂と、B)植物繊維組成物と、C)植物繊維修飾剤とを、溶融混練しながら複合化する事を特徴とする樹脂組成物の製造方法であって、B)植物繊維組成物中の植物繊維が以下の条件を満たすことを特徴とする植物繊維含有樹脂組成物の製造方法。
1.平均繊維長が、0.1〜0.7mm
2.平均繊維幅が、2〜15000nm

【請求項11】
A)熱可塑性樹脂と、B)植物繊維組成物と、C)植物繊維修飾剤とを含む植物繊維含有樹脂組成物であって、B)植物繊維組成物の水酸基の一部または全部がC)植物繊維修飾剤によって化学修飾されており、さらにB)植物繊維組成物に含まれる植物繊維が以下の条件を満たすことを特徴とする植物繊維含有樹脂組成物であって、植物繊維含有樹脂組成物中にセルロースナノファイバーが分散されており、粗大凝集物が実質的に見つからない植物繊維含有樹脂組成物。
1.平均繊維長が、0.0001〜0.7mm
2.平均繊維幅が、2〜15000nm
【請求項12】
C)植物繊維修飾剤が、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、シラン化合物、イソシアネート基含有化合物、アミノ基含有化合物、環状アミド化合物、環状エステル化合物から選択される官能基を含んだ化合物であることを特徴とする、請求項11に記載の植物繊維含有樹脂組成物。…」

甲6b
「【0011】
…本発明は、予め植物繊維修飾剤で表面処理を行なったセルロースナノファイバーを用いなくても、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーを含む植物繊維組成物、および植物繊維修飾剤を溶融混練することにより、植物繊維組成物中の植物繊維を植物繊維修飾剤が化学修飾し繊維の分散性を高める工程と、修飾された植物繊維を熱可塑性樹脂中に分散せしめる工程とを同一の溶融混練工程内で実施する事を可能とし、これまでの技術と比較し簡便かつ環境負荷の小さい方法で、高い繊維分散性を持った植物繊維含有樹脂組成物を提供できる事を特徴としている。」

「【0032】
また、微細繊維は、後述の方法により測定される平均繊維長が0.01〜3.0mmであることが好ましく、0.05〜1.5mmであることがより好ましく、0.1〜0.7mmがさらに好ましい。微細繊維の平均繊維長が前記下限値以上であれば、繊維による補強効果により植物繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させやすくなり、前記上限値以下であれば、植物繊維および繊維分散用樹脂を含有するコンポジットシートと熱可塑性樹脂とを混合し溶融混練する溶融混練工程において、微細繊維の分散性が良好となり、植物繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させやすくなる。…
【0033】
本発明における微細繊維の軸比(長軸/短軸)は20〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が20未満であると、コンポジットシートを形成しにくくなるおそれがあり、軸比が10000を超えると、繊維スラリーの粘度が高くなりすぎることがある。

【0035】
(繊維分散用樹脂)
繊維分散用樹脂は、該植物繊維含有樹脂組成物を製造する際に、熱可塑性樹脂中の植物繊維の分散性を高める役割を果たすものである。
繊維分散用樹脂としては特に限定されず、例えば、オレフィン系樹脂…等が挙げられる。これら繊維分散用樹脂は1種単独でもよいし、2種併用でもよい。

【0037】
(含有割合)
植物繊維含有樹脂組成物における植物繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、5〜70質量部であることがより好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。植物繊維の含有量が前記下限値以上であれば、強度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、該植物含有樹脂組成物を容易に製造でき、また、靭性低下を抑制できる。

【0041】
微細繊維を得る際の微細繊維化処理方法としては、公知の粉砕機や製紙用叩解機、例えば、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ジャットミル、ターボミル、アトマイザー、カッターミルなどの機械的作用を利用する湿式粉砕または乾式粉砕でセルロース系繊維を微細化する方法が挙げられる。

【0070】
<植物繊維修飾剤>
本発明におけるC)植物繊維修飾剤とは、セルロース繊維の表面に存在する水酸基と反応可能な官能基を少なくとも一つ有する化合物であって、熱可塑性樹脂と複合化する際にセルロース繊維の再凝集性を低下させる化合物であり、たとえば、イソシアナート基を含む化合物、エポキシ基を含む化合物、アミノ基を含む化合物、酸、酸無水物、アルコール、シラン化合物、ハロゲン化試薬、環状エステル化合物、環状アミド化合物等よりなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。2種以上を組み合わせる場合は、異なる2種以上の官能基をセルロース繊維に導入することができる。これら植物繊維修飾剤の中では、ハロゲン化試薬、酸無水物基を含む化合物、エポキシ基を含む化合物、シラン化合物、環状アミド化合物、環状エステル化合物が好ましい。その中でも、溶融混練工程で選択される混練温度において気体状、もしくは液体状の形態を示すC)植物繊維修飾剤の方が、植物繊維のヒドロキシル基との接触しやすさの観点から、より好ましい。
【0071】
酸としては、例えばヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、等の飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、等の不飽和脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などのカルボン酸、ω−アミノカルボキシル酸の様なカルボン酸基の他に別種の官能基を持ったカルボン酸等が挙げられる。
【0072】
酸無水物とは、2個のオキソ酸、より好ましくは2個のカルボキシル基から脱水縮合することにより生成する酸無水物を有する化合物を示す。例えば、分子中に2個以上のカルボン酸を有する化合物が脱水縮合することで生成される環状構造を有する酸無水物、オキソ酸、より好ましくはカルボキシル基を有する複数の分子が脱水縮合することで生成する酸無水物等が例示される。環状構造を有する酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、テトラシクロ[ 6 .2 .1 .13.6.02.7] ドデカ−9−エン−4 ,5−ジカルボン酸無水物、2,7−オクタジエン−1−イルコハク酸無水物、アルキルあるいはアルケニル無水コハク酸等が例示される。…
【0081】
植物繊維含有樹脂組成物におけるC)植物繊維修飾剤の含有量は、B)植物繊維組成物中の植物繊維100質量部に対し、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜150質量部であることがより好ましく、2〜100質量部であることがさらに好ましい。この範囲より低ければ、植物繊維の修飾量が少なすぎ、植物繊維の熱可塑性樹脂への分散性が悪いばかりでなく、機械物性の低下にもつながる。この範囲より高ければ、樹脂組成物中の植物繊維修飾剤の残渣が多くなり、機械物性が低下するばかりでなく、臭気や樹脂の変色等の原因となる。」

甲6c
「【実施例】…
【0090】
(植物繊維組成物繊維の製造)
[繊維スラリー]
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、JIS P8121に従って測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)を、熊谷理化工業製ダブルディスクリファイナーを用い叩解した。繊維水スラリーに含まれる繊維の平均繊維長は0.66mm、平均繊維幅は300nmであった。
【0091】
[樹脂エマルジョン]
樹脂エマルジョンの製造は特開2007−326913号公報に記載された方法に準拠して実施した。原料は日本ポリエチレン株式会社製エチレン−メチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(商品名:レクスパールET、グレード:ET330H)、カチオン性高分子界面活性剤、および水である。…
【0092】
[植物繊維組成物(B−1)の製造]
上記、繊維スラリー70部(固形分換算)と、上記、樹脂エマルション30部(固形分換算)と混合した。
この混合スラリーを攪拌しながらカチオン性高分子歩留剤ND−200C(ハイモ社製)46ppmを添加し、更にアニオン性高分子歩留剤FA−230(ハイモ社製)46ppmを添加した。
次いで、その混合分散液を、日本フィルコン社製の二重織りのプラスチックワイヤー上で吸引脱水することにより抄紙して、微細繊維状セルロースと樹脂エマルションとで構成された含水ウェブを得た。その含水ウェブを、シリンダーロールを用いて乾燥して、坪量30.8g/m2のシート状の植物繊維含有組成物(B−1)を得た。
【0093】
(実施例1)植物繊維含有樹脂組成物(D−1)の製造
線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:F30HG、表中では「LLDPE」と表記する。)5.0kg、植物繊維組成物(B−1)365g、無水マレイン酸(日油株式会社製、商品名:SY−A)12.5gをヘンシェルミキサーで十分混合後、50mm単軸押出機を用い、設定温度160℃、回転速度80回/分で混練し、ダイスから吐出されたストランドをペレット形状に加工した。得られたペレットを、ラボプラストミルのミキサー(株式会社東洋精機製作所製、ローラミキサR60)を用い、設定温度160℃、回転速度75回転/分、で10分間混練した。混練後、ミキサーから混練物を回収し、植物繊維含有樹脂組成物(D−1)を得た。

【0101】
【表1】

【0102】
〔実施例と比較例の結果の考察〕
実施例1〜3は、LLDPEが100質量部に対しセルロース繊維が5質量部、無水マレイン酸がセルロース繊維100質量部に対し、5質量部〜50質量部の範囲で複合化された植物繊維含有樹脂組成物である。これら実施例と、無水マレイン酸を添加しない比較例1と比較すると、引張降伏強度こそ同程度であるものの、引張破壊伸び、および引張衝撃強度が優れている。すなわち、植物繊維修飾剤として無水マレイン酸を用い、本発明による方法によって製造された植物繊維含有樹脂組成物であれば、強度と引張破壊伸び、および耐衝撃性をバランス良く維持した植物繊維含有樹脂組成物を製造できる事を示した。また、植物繊維の分散性が本発明の範囲内である植物繊維含有樹脂組成であれば、強度と引張破壊伸び、および耐衝撃性をバランス良く維持することが可能である事を示した。」

イ.甲6に記載された発明
甲6には、「針葉樹晒クラフトパルプ…を…ダブルディスクリファイナーを用い叩解した。繊維水スラリーに含まれる繊維の平均繊維長は0.66mm、平均繊維幅は300nmであった。」(【0090】)、「微細繊維状セルロースと樹脂エマルションとで構成された含水ウェブを得た。その含水ウェブを、シリンダーロールを用いて乾燥して、坪量30.8g/m2のシート状の植物繊維含有組成物(B−1)を得た。」(【0092】)、「線状低密度ポリエチレン…5.0kg、植物繊維組成物(B−1)365g、無水マレイン酸…12.5gをヘンシェルミキサーで十分混合後…混練し…ペレット形状に加工した。得られたペレットを…混練後…植物繊維含有樹脂組成物(D−1)を得た。」(【0093】)ことが記載されており、これらの記載事項からすると、甲6には、
「針葉樹晒クラフトパルプをダブルディスクリファイナーにより叩解して得られた平均繊維長が0.66mm、平均繊維幅が300nmの微細繊維状セルロースと樹脂エマルションより構成される植物繊維組成物の365gと線状低密度ポリエチレンの5.0kgと無水マレイン酸の12.5gとを混練して得られる植物繊維含有樹脂組成物。」(甲6物発明)
が記載されているものと認められる。

また、甲6には、
「針葉樹晒クラフトパルプをブルディスクリファイナーにより叩解して平均繊維長が0.66mm、平均繊維幅が300nmの微細繊維状セルロースを得て、これを樹脂エマルションより構成される植物繊維組成物の365gに対して、線状低密度ポリエチレンの5.0kgと無水マレイン酸の12.5gとを混練する、植物繊維含有樹脂組成物の製造方法。」(甲6方法発明)
が記載されているものと認められる。

(3)甲1〜4,7〜10に記載された事項
ア.甲1
甲1a
「溶解性パラメーター…
略称としてSP値、記号としてδが用いられる。…液体どうしの溶解性を大まかに見積るための指標である。」(468頁左欄下から10行〜下から5行)

甲1b
「溶媒および高分子のδ値はハンドブックに集録されている。異分子間に水素結合的な相互作用が働く場合には、式(2)、(3)が成り立たず、δによる溶解性の推定に無理がある。δを用いた溶解性の議論は無極性液体どうしの組合せに限定されるべきものである。」(468頁右欄20行〜25行)

イ.甲2
「高分子のδの測定方法としては、(1)最も溶解性のよい溶媒のδを高分子のδとする方法、(2)最も膨潤させる溶媒のδを高分子のδとする方法、(3)[η]が最大になる溶媒のδをとる方法、(4)Smallの計算による方法、(5)Flory−Hugginsのパラメータκpより求める方法、などがある。…表10.11に各種高分子物質のδを示す。δは高分子どうしの混合のさいの相溶性の目安にもなる。ただ、2種の高分子のδの差が非常に小さいが、異種高分子間に特別な親和力が働かない限り、異種高分子は相溶しないことに留意すべきである。表10.12に各種高分子の相溶性を示す。」(764頁右欄1行〜765頁左欄12行)





」(764頁〜765頁)

ウ.甲3
「混和性(相溶性)を規定する構造因子は、…化学構造、…分子量及びその分布、…結晶性、…剪断力、…溶融粘度、などがあるが、混和性の基本は、セグメント的構造の同一性、化学構造の類似性であると考えられている。さらに立体規則性の影響も大きい(例:PMMA)。
SP値から各種ポリマー間の親和性が推測できるものの、影響する因子が多く、この値が適用されるのは基本的には無極性の場合であり、極性の強い系では妥当性を欠く。…
(2)溶解度パラメーター

」(761頁下から3行〜762頁)

エ.甲4
「CNF表面は非常に親水的なため、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシドなどの親水性樹脂とは比較的容易に複合材料が作製できる。一方、PEやPPなどのオレフィン樹脂は非常に疎水的なため、工夫をしなければ溶融状態の樹脂の中でCNFは自然と凝集してしまう。たとえその凝集物が十分強くとも応力集中体となるため,複合材料の強度は大幅に低下する。ゆえに、CNF表面を疎水化する必要があり、共有結合を利用した化学修飾やポリマーグラフト化、あるいは界面活性剤や相溶化剤の物理吸着を利用した手法が知られている。」(444頁左欄2行〜11行)

オ.甲7
「ポリマーの混和性を規定する基本的な条件は、式(1)で示される混合の自由エネルギーである。しかしそれをより具象化するために、構造的因子を中心に混和性との関係を述べる。
混和性を規定する構造的要因には、固有なものとして化学構造、分子量ならびにその分布、物理的な因子である結晶性、溶融粘度、そして外的なものとして機械的な因子であるせん断力などが挙げられる。それらの因子が複雑にからみあって、ポリマーの混和性が規定される。」(16頁11行〜17行)

「表2.4に各種ポリマーのSP値を示したが、これらの値を利用すると混和性が推測できるので、実用的に使用される頻度が大きい。しかしこの値が適用されるのは基本的には無極性の場合であり、極性の強い系では妥当性を欠く。


」(18頁下から3行〜19頁)

カ.甲8
「3.SP値の求め方
定義からSP値は沸点が測定できる既知の液体に限定されるが、ポリマーや種々の化合物などに適用する目的で、SP値が既知の溶媒へのポリマーの溶解度などを測定する方法から、矛盾がないように導き出された。表1に現在知られているSP値の推算方法を記載した。物性値から推算する方法と分子構造から求める方法に大別できる。」(42頁左欄4行〜10行)




」(42頁)

キ.甲9




」(VII/704頁)


」(VII/709頁)

ク.甲10
「現状では溶解パラメーターの値はポリマーの場合を含めてそれほど正確な値ではないことを認識しておくことが必要である。なお、ポリマーの立体規則性や共重合体の構造などは現在の所溶解パラメーターの中に全く配慮されていないので、もし必要ならば利用者自身が新たな仮定なり提案をしなければならない。」(135頁右欄19行〜24行)


3.取消理由1(明確性要件)について
取消理由通知書で採用した取消理由1(明確性要件)のア、ウは、申立人による申立理由2(明確性要件)のア、イと同じであるから、ここでは、申立理由2についても併せて検討する。

(1)明確性要件の考え方
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、これを本件発明1〜2、6、8〜10について、検討する。

(2)明確性要件の判断
ア.
本件明細書の【0116】(本b)には、「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒−溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。」と説明されているが、本件明細書には、実施例を含めて、「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」の測定方法、算出方法に関する記載はない。
ここで、「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)」の測定方法、算出方法、その結果について記載されている甲7、甲2、甲3、甲9について検討する。
特許権者が、令和3年11月1日提出の意見書で引用している甲7には、「SP値…を利用すると混和性が推測できるので、実用的に使用される頻度が大きい。」との記載があり、表2.4に挙げられた各種ポリマーには、本件明細書の実施例1〜8で採用されているポリプロピレン(SP値:8.1)、セルロース(SP値:15.65)の他に、ポリエチレン(SP値:7.9〜8.1)、ポリブタジエン(SP値:8.1〜8.6)、ポリメタクリル酸メチル(SP値:9.1〜9.5)、ポリ塩化ビニル(SP値:9.5〜9.7)、ポリウレタン(SP値:10.0)が含まれている。
一方、甲2の表10.11には、ポリエチレン(δ:8.0)、ポリブタジエン(SP値:8.40)、ポリメタクリル酸メチル(δ:9.3)、ポリ塩化ビニル(δ:9.6)、ポリウレタン(δ:10.0)の溶解性パラメーターδ(甲1によるとSP値と同義である。)が記載され、これらの数値は甲7に記載された上記数値と概ね一致している。
また、甲3の表の「各種ポリマーの溶解度パラメーターδ」に記載された数値「(J/cm3)1/2」を、4.2Jが1calであるとして、数値「(cal/cm3)1/2」に換算すると、それぞれ、ポリブタジエン(δ:8.05〜8.59)、ポリエチレン(δ:7.86〜8.05)、ポリプロピレン(δ:9.18〜9.37)、ポリメタクリル酸メチル(δ:9.08〜9.47)、ポリ塩化ビニル(δ:9.47〜9.66)、セルロース(δ:15.56)、ポリウレタン(δ:9.96)となり、これらの数値は甲7に記載された上記数値と概ね一致している。
更に、甲9の表に記載された溶解度パラメーターδについてみても、ポリプロピレンとセルロースは、甲3に記載された「(J/cm3)1/2」単位の数値とほぼ同じ数値が記載されている。
なお、申立人は、令和3年12月20日付け意見書の3頁で「甲9には甲7とは大きく異なる複数のSP値が記載されている」と主張するが、甲9と甲7のSP値の単位が異なっているため、甲9と甲7で数値が大きく異なっているものといえる。
以上の甲7、2、3、9の記載からすると、繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータは、概ね、客観的に特定できる一定値になり得るものと解することができる。
そして、本件発明1、6は、繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差として「10〜0.1」の数値範囲を規定するものであるところ、甲7の表2.4に掲載されているポリマーのうち2つを選んでSP値の差を算出すると、全ての2つのポリマーの組み合わせが、「10〜0.1」の数値範囲を満たすものになるから、SP値が文献に応じて多少異なるものであったとしても、本件発明1、6が規定する繊維状セルロースと樹脂の組み合わせがSP値の測定方法や算出方法により異なるものになるとは認められない。
そうすると、本件発明1、6の「繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である」ことが、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められないので、本件発明1、6は、明確性要件を満たすものである。

イ.
本件訂正により、本件発明1、6は、「繊維状セルロース」と「樹脂」と「フタル酸」を含有するものに限定され、令和3年11月1日付け意見書で特許権者が認めるように、本件発明1、6の「繊維状セルロース」には、変性された繊維状セルロースを使用する態様が含まれないものになった。
よって、本件発明1、6において、変性剤により変性させたセルロースのSP値が明確に把握できないことを旨とする明確性要件違反の取消理由は解消された。

ウ.
本件訂正により、【0054】に記載されていた「…FibrLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。」が削除されたため、本件発明1、6の「フィブリル化率」は、【0130】に記載され、実施例でも採用されている「…バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。」ものであることに特定された。
よって、本件発明1、6において、「フィブリル化率」が、【0054】又は【0130】のいずれの測定機器によるものか明らかでないことを旨とする明確性要件違反の取消理由は解消された。

エ.
以上のとおりであるから、本件発明1、6は明確性要件を満たすものである。
また、本件発明1、6を直接又は間接的に引用する本件発明2、8〜10についても、本件発明1、6と同様の理由により明確性要件を満たすものである。

(3)取消理由1(明確性要件)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1(明確性要件)及び申立理由2(明確性要件)により取り消すことはできない。

4.取消理由2(実施可能要件
取消理由通知書で採用した取消理由2(実施可能要件)は、申立人による申立理由3(実施可能要件)のア、イと、概ね同じ内容を含むものといえるから、ここでは、申立理由3(実施可能要件)についても併せて検討する。

(1)実施可能要件の考え方
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。
以下、これを本件発明1〜2、6、8〜10について、検討する。

(2)実施可能要件の判断
ア.
甲7の表2.4によると、ポリプロピレン(SP値:8.1)とセルロース(SP値:15.65)のSP値の差は10以内であるから、本件明細書の実施例1〜8に記載された、マイクロ繊維セルロース(解繊にリファイナーを使用)、フタル酸、ポリプロピレン粉末の混合物を二軸混練機にて混練して得られる繊維状セルロース複合樹脂は、本件発明1、6で規定する溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差を満たすものと認められる。
また、実施例1〜8のマイクロ繊維セルロースは、【0130】及び【0139】【表1】によると、平均繊維幅が1μm以上、平均繊維長0,16mm〜1.60mm、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定されたフィブリル化率2.49〜10.17%であるものである。
そうすると、本件明細書の実施例1〜8に記載された繊維状セルロース複合樹脂は、本件発明1、6を、技術的に具体化したものといえる。
なお、申立人が主張するとおり、本件明細書には、実施例で使用したセルロースの商品名や由来となる原料の種類などについて記載がなく、セルロースやポリプロピレンの溶解パラメータの値、及び、その測定方法の記載がない。
しかし、本件明細書の実施例に記載されたセルロースが、セルロース誘導体である旨やセルロースの変性体である旨の説明はないから、実施例1〜8で使用されているセルロースは、誘導体化や変性を受けていない一般的なセルロースであると認められる。これは、令和3年11月1日付け意見書に添付された本件発明の発明者による報告書において、実施例1〜8で使用されているセルロースは甲7に記載されたSP値:15.65を示すセルロースであると説明されていることとも符合する。
また、上記の3(2)アで述べたように、繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータは、概ね、客観的に特定できる一定値になり得るものであるから、本件明細書に測定方法の記載がなくても、当業者による本件発明1、6の実施が妨げられるとはいえない。
そうすると、本件明細書に、セルロースの商品名等の情報や溶解パラメータの値、及び、その測定方法の記載がなくても、本件発明1、6の実施可能要件の判断は左右されない。

イ.
本件明細書の【0047】には、「微細化(解繊)処理は、マイクロ繊維セルロースの数平均繊維径(繊維幅。単繊維の直径平均。)が0.1μm以上となる範囲で行うのが好ましく、0.1〜15μmとなる範囲で行うの、がより好ましく、0.2〜10μmとなる範囲で行うのが特に好ましい。」、【0049】には、「平均繊維長は、例えば、原料繊維の選定、前処理、解繊処理で任意に調整可能である。」、【0053】には、「フィブリル化率が30.0%以上であると、微細化が進み過ぎてナノファイバーとなってしまうため、意図する効果が得られないおそれがある。」と記載されており、本件発明1、6で規定される、「平均繊維幅」、「フィブリル化率」が、「微細化(解繊)処理」により調整でき、「平均繊維長」が「原料繊維の選定、前処理、解繊処理」により調整できることが記載されている。
そして、繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である」組み合わせは、実施例1〜8に記載された「ポリプロピレン」と「セルロース」の組み合わせ以外に、甲7の表2.4に掲載されるポリマーの全ての組み合わせを包含するものであることが理解できる。
そうすると、本件明細書の実施例1〜8以外であっても、本件発明1、6を実施する場合に、当業者に過度の試行錯誤、実験を要するものとは認められない。

ウ.
以上のとおりであるから、本件発明1、6は実施可能要件を満たすものである。
また、本件発明1、6を直接又は間接的に引用する本件発明2、8〜10についても、本件発明1、6と同様の理由により実施可能要件を満たすものである。

(3)取消理由2(実施可能要件)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由2(実施可能要件)及び申立理由3(実施可能要件)により取り消すことはできない。

5.取消理由3(サポート要件)
取消理由通知書で採用した取消理由3(サポート要件)のイは、申立人による申立理由1(サポート要件)のイと同じであるから、ここでは、申立理由1(サポート要件)のイについても併せて検討する。

(1)サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明1、6が解決しようとする課題は、本件明細書の【0007】の記載によると、「樹脂の補強効果が大きい繊維状セルロース及びその製造方法、並びに強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法を提供することにある。」と認められる。

(3)サポート要件の判断
ア.
本件明細書の実施例1〜8に記載された、マイクロ繊維セルロース(解繊にリファイナーを使用)、フタル酸、ポリプロピレン粉末の混合物を二軸混練機にて混練して得られる繊維状セルロース複合樹脂は、本件発明1、6で規定する溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差を満たすものであり、【0139】【表1】によると、原料となるマイクロ繊維セルロースは、平均繊維幅1μm以上、平均繊維長0,16mm〜1.60mm、フィブリル化率2.49〜10.17%を有するものである。
そして、実施例1〜8の複合樹脂の曲げ試験結果が良好であるのに対し、フィブリル化率が0.50%である比較例1の複合樹脂、平均繊維幅が1μm未満である比較例2の複合樹脂の曲げ試験結果が、共に不良であることからすると、本件発明1、6の発明特定事項を満たす繊維状セルロース複合樹脂は、上記(2)の課題を解決できることを当業者は理解できる。
ここで、甲2の表10.11によると、δ値の差が10以内のポリマーの組み合わせであっても非相溶となることが示され、甲4、甲5を参照すると、マイクロ繊維セルロースをPEやPPなどの疎水性の高いオレフィン樹脂に混合すれば自然と凝集することが推察される。
しかし、本件発明1、6は、繊維状セルロース及び樹脂に加え、相溶化剤としてのフタル酸を含有するものであるから、甲2、4、5に照らしてみても、複合樹脂中の繊維状セルロースが凝集し、分散性が不十分になるとは限られない。
また、本件明細書の【0047】〜【0049】、【0053】を参照すると、実施例1〜8とは平均繊維幅、平均繊維長、フィブリル化率で異なる繊維状セルロース複合樹脂であっても、上記(2)の課題を解決できることを当業者は推認できる。
そうすると、本件発明1、6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。

イ.
本件訂正により、本件発明1、6は、多塩基酸であるフタル酸を含有するものに限定されたから、本件発明1、6において、多塩基酸を必要としない態様を含んでいることを旨とするサポート要件違反の取消理由は解消された。

ウ.
本件訂正により、本件発明1、6は、平均繊維幅1〜15μmである繊維状セルロースを使用するものに限定され、比較例2で使用されている「1μm未満の平均繊維幅」の繊維状セルロースを使用する態様が、本件発明1、6より除かれることになったので、本件発明1、6が、「1μm」を閾値とするものではないことを旨とするサポート要件違反の取消理由は解消された。

エ.
以上のとおりであるから、本件発明1、6はサポート要件を満たすものである。
また、本件発明1、6を直接又は間接的に引用する本件発明2、8〜10についても、本件発明1、6と同様の理由によりサポート要件を満たすものである。

(4)取消理由3(サポート要件)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由3(サポート要件)及び申立理由1(サポート要件)のイにより取り消すことはできない。

6.取消理由4(新規性)、5(進歩性
取消理由通知書で採用した取消理由4(新規性)、5(進歩性)のうち甲6を主引例としたものは、申立人による申立理由4(新規性及び進歩性)と同じである。

(1)甲5を主引例とした新規性進歩性の検討
ア.本件発明1と甲5発明1、2の対比
まず、本件発明1と、甲5発明2(第5の2(1)イ)を対比する。
甲5発明2の「セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤により表面が疎水化された20−30μmの繊維幅の変性パルプ」は、セルロースを素材とした植物繊維の一つであるから、本件発明1の「繊維状セルロース」に相当し、甲5発明2の、「弱混練」した後の繊維幅である「10μm前後」は、本件発明1の「平均繊維幅1〜15μm」と一致する。
甲5発明2の「PE」は、熱可塑性樹脂であるポリエチレンの略称であるから、本件発明1の「樹脂」に相当し、甲5発明2の「パルプとPEの混練物」は、本件発明1の「繊維状セルロース複合樹脂」に相当する。
甲5には、「強混練又は弱混練」の工程で、パルプの「繊維幅」が短くなり、「解織」することが記載されるところ、本件発明1の「フィブリル化率」は「微細化(解繊)処理」により調整されるものであるから(第5の4(2)イ)、甲5発明2の「弱混練」を経た「パルプ」は、「解織」によりフィブリル化しているものと認められる。

そうすると、本件発明1と甲5発明2は、
「平均繊維幅1〜15μmで、かつフィブリル化した繊維状セルロース及び樹脂の混練物である、繊維状セルロース複合樹脂。」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1では、繊維状セルロース複合樹脂がフタル酸を含有しているのに対して
甲5発明2では、変性パルプとPEの混練物がフタル酸を含有していない点

<相違点2>
本件発明1では、「繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差」を「10〜0.1」と規定しているのに対して、
甲5発明2では、パルプ、樹脂のSP値が特定されていない点

<相違点3>
本件発明1では、繊維状セルロースの平均繊維長を「0.02〜3.0mm」に規定しているのに対して、
甲5発明2では、パルプの平均繊維長が特定されていない点

<相違点4>
本件発明1では、繊維状セルロースのフィブリル化率を「1.0〜30.0%」に規定しているのに対して、
甲5発明2では、パルプのフィブリル化率が特定されていない点

なお、本件発明1と甲5発明1との対比では、上記の相違点1〜4に加え、以下の相違点5を有している。

<相違点5>
本件発明1では、繊維状セルロースの平均繊維幅を「1〜15μm」に規定しているのに対して、
甲5発明1では、パルプを「強混練」した後の繊維幅が「700nm以下」(0.7μm以下)である点

イ.相違点1の検討
相違点1について検討する。
本件明細書の【0096】には、「多塩基酸を単に含有させる場合」、「多塩基酸が相溶化剤として機能し、相溶性が向上する」こと、「得られる繊維状セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ強度が向上する」ことが記載され、【0097】には、「多塩基酸を相溶化剤として機能させる場合は、セルロース繊維の変性の進み具合が問題にならないため、得られる複合樹脂の品質が安定化する」ことが記載されており(いずれも本b)、令和3年11月1日提出の意見書で特許権者が述べているように、本件発明1の「フタル酸」は、変性剤ではなく、相溶化剤として機能するものといえる。
これに対し、甲5には、疎水性の高い樹脂中でCNF(セルロースナノファイバー)を均一に分散させるために、セルロースヘの反応性と疎水性部位の両方を有する変性剤をパルプ表面に作用させ、表面を疎水化した変性パルプとすることが記載されるところ(甲5a、甲5b)、この変性剤に置き換わるものとしてフタル酸をパルプとPEの混練物に含有させることについては甲5に記載も示唆もされていない。
また、甲1〜4、甲6〜12を参照しても、甲5発明1、2におけるパルプとPEの混練物に相溶化剤として機能するフタル酸を含有することを当業者に動機づける記載や示唆は何ら見当たらない。
そうすると、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点2〜5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明1、2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.小括
本件発明1は、甲5発明1、2、すなわち甲5に記載された発明ではなく、また、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1を直接的に引用する本件発明2についても、本件発明1と同様の理由により、甲5に記載された発明ではなく、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲6を主引例とした新規性進歩性の検討
ア.本件発明1と甲6物発明の対比
本件発明1と、甲6物発明(第5の2(2)イ)を対比する。

甲6物発明の「微細繊維状セルロース」、「線状低密度ポリエチレン」、「植物繊維含有樹脂組成物」は、本件発明1の「繊維状セルロース」、「樹脂」、「繊維状セルロース複合樹脂」にそれぞれ相当し、甲6物発明の「微細繊維状セルロース」の「平均繊維長が0.66mm」は、本件発明1の「平均繊維長0.02〜3.0mm」と一致する。
甲6物発明の「微細繊維状セルロース」は「針葉樹晒クラフトパルプをブルディスクリファイナーにより叩解して得られた」ものであるところ、本件発明1の「フィブリル化率」は「微細化(解繊)処理」により調整されるものであるから(第5の4(2)イ)、甲6物発明の「微細繊維状セルロース」は「解織」によりフィブリル化しているものと認められる。
甲6物発明は、微細繊維状セルロースを、樹脂エマルションより構成される植物繊維組成物にして線状低密度ポリエチレンと混合しているが、本件明細書によると、微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロースは、それ自体を用いる場合の他、必要により水系媒体中に分散して分散液として用いることが可能であるから(本bの【0059】)、この点は、本件発明1と甲6物発明を、実質的に区別する相違点に当たらない。

以上からすると、本件発明1と甲6物発明は、
「平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化した繊維状セルロース及び樹脂の混練物である、繊維状セルロース複合樹脂。」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点6>
本件発明1では、繊維状セルロース複合樹脂がフタル酸を含有しているのに対して
甲6物発明では、植物繊維含有樹脂組成物が無水マレイン酸を含有している点

<相違点7>
本件発明1では、繊維状セルロースの平均繊維幅を「1〜15μm」に規定しているのに対して、
甲6物発明では、微細繊維状セルロースの平均繊維幅が300nm(0.3μm)である点

<相違点8>
本件発明1では、「繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差」を「10〜0.1」と規定しているのに対して、
甲6物発明では、微細繊維状セルロース、線状低密度ポリエチレンのSP値が特定されていない点

<相違点9>
本件発明1では、繊維状セルロースのフィブリル化率を「1.0〜30.0%」に規定しているのに対して、
甲6物発明では、微細繊維状セルロースのフィブリル化率が特定されていない点

イ.相違点6の検討
本件明細書の【0096】、【0097】には、上記(1)イで示したように、本件発明1の「フタル酸」が、変性剤ではなく、相溶化剤として機能することが記載されている。
一方、甲6の【0070】には、「植物繊維修飾剤とは、セルロース繊維の表面に存在する水酸基と反応可能な官能基を少なくとも一つ有する化合物であって、熱可塑性樹脂と複合化する際にセルロース繊維の再凝集性を低下させる化合物であり、たとえば、イソシアナート基を含む化合物、エポキシ基を含む化合物、アミノ基を含む化合物、酸、酸無水物、アルコール、シラン化合物、ハロゲン化試薬、環状エステル化合物、環状アミド化合物等よりなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。」との記載があり、【0072】に、「より好ましくはカルボキシル基を有する複数の分子が脱水縮合することで生成する酸無水物等が例示される。環状構造を有する酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸…等が例示される。」と記載されることから(いずれも甲6b)、甲6物発明の「無水マレイン酸」は、「植物繊維修飾剤」として機能するものである。
しかし、甲6の【0071】には、「植物繊維修飾剤」で使用される「酸としては、例えばヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、等の飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、等の不飽和脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などのカルボン酸、ω−アミノカルボキシル酸の様なカルボン酸基の他に別種の官能基を持ったカルボン酸等が挙げられる。」と記載されるものの(甲6b)、フタル酸を用いることの記載や示唆は全く記載されていない。
また、甲1〜5、甲7〜12を参照しても、甲6物発明の「無水マレイン酸」を「フタル酸」に置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は見当たらない。
そうすると、相違点6として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点7〜9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明6と甲6方法発明の対比・検討
本件発明6と甲6方法発明(第5の2(2)イ)を対比する。
本件発明6と甲6方法発明は、
「原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維長0.02〜3.0mmの繊維状セルロースを得、前記繊維状セルロースと樹脂とを混練する、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点10>
本件発明6では、フタル酸を加えて混練しているのに対して
甲6方法発明では、無水マレイン酸を加えて混練している点

<相違点11>
本件発明1では、平均繊維幅「1〜15μm」の維状セルロースを得ているのに対して、
甲6方法発明では、平均繊維幅「300nm」(0.3μm)の微細繊維状セルロースを得ている点

<相違点12>
本件発明1では、「繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1」と規定しているのに対して、
甲6方法発明では、微細繊維状セルロース、線状低密度ポリエチレンのSP値が特定されていない点

<相違点13>
本件発明1では、フィブリル化率「1.0〜30.0%」の繊維状セルロースを得ているのに対して、
甲6方法発明では、微細繊維状セルロースのフィブリル化率が特定されていない点

上記相違点10について検討すると、上記イでも示したように、甲6には、甲6方法発明で「無水マレイン酸」を「フタル酸」に置き換えることの記載や示唆は全く記載されていないし、甲1〜5、甲7〜12を参照しても、甲6方法発明の「無水マレイン酸」を「フタル酸」に置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は見当たらない。
そうすると、相違点10として挙げた本件発明6の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点11〜13について検討するまでもなく、本件発明6は、甲6方法発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ.小括
本件発明1は、甲6物発明、すなわち甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明6は、甲6方法発明、すなわち甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1を直接的に引用する本件発明2、本件発明6を直接又は間接的に引用する本件発明8〜10についても、本件発明1又は6と同様の理由により、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)取消理由4(新規性)、5(進歩性)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由4(新規性)、5(進歩性)により取り消すことはできない。

7.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
(1)取消理由通知書で採用しなかった申立理由
申立人による申立理由のうち申立理由2(明確性要件)、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(新規性及び進歩性)(いずれも第4の2)は、当審が取消理由通知書で通知した取消理由1(明確性要件)、取消理由2(実施可能要件)、取消理由4(新規性)及び取消理由5(進歩性)(いずれも第4の1)に対応するものである。
申立人の申立理由のうち申立理由1(サポート要件)のイ(第4の2(1))は、取消理由3(サポート要件)のイ(第4の1(3))に対応するものである。
そうすると、取消理由通知で採用しなかった申立理由1(サポート要件)は、申立理由1(サポート要件)のア、ウ(第4の2(1))で示される、以下のとおりのものと認められる。

ア.
訂正前の本件発明の樹脂、繊維状セルロースは、それぞれ熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂、セルロース及びセルロース誘導体を含む広い概念であり、極性の強い系を含むのは明らかであるから、SP値を適用できない範囲を含んでおり、原料の材質の範囲として広過ぎる。

ウ.
訂正前の本件発明1の発明特定事項として繊維状セルロースの平均繊維幅、平均繊維長及びフィブリル化率の数値範囲が規定されているが、これらの数値を特定するだけで樹脂の強度が高まることはなく、また樹脂との相溶性が高まるとの技術常識もないし、フィブリル化率を所定の数値範囲に調製することによって、樹脂中にセルロースが凝集することなく分散するという技術常識も存在しない。

(2)申立理由1(サポート要件)のア、ウの検討
5.(3)でも示したように、本件明細書の実施例1〜8に記載された繊維状セルロース複合樹脂は、本件発明1、6の発明特定事項を満たす繊維状セルロース複合樹脂であるところ、【0139】【表1】によると、実施例1〜8に記載された繊維状セルロース複合樹脂は、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者は理解できるし、本件明細書の【0047】〜【0049】、【0053】を参照すると、実施例1〜8とは平均繊維幅、平均繊維長、フィブリル化率で異なる繊維状セルロース複合樹脂であっても、上記の課題を解決できることを当業者は推認できる。
また、本件発明1、6が、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂、セルロース及び極性の強いセルロース誘導体を含むものであったとしても、その組み合わせは「溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差」が「10〜0.1」であるものに限られるし、相溶性が不十分の組み合わせであっても、フタル酸の配合により相溶性が向上し、樹脂中の繊維状セルロースの分散性は良好となるから、実施例1〜8に記載された「ポリプロピレン」と「セルロース」の組み合わせ以外であっても、上記の課題を解決できることは当業者が推認し得たといえる。
更に、本件発明1、6で規定する平均繊維幅、平均繊維長及びフィブリル化率を採用した場合に、上記の課題が解決できることは実施例1〜8、【0047】〜【0049】、及び【0053】の記載からも明らかであるし、そもそも、平均繊維幅が1〜15μm、平均繊維長が0.02〜3.0mm、フィブリル化率が1.0〜30.0%であっても、上記の課題を解決できないことを窺わせる本件特許の出願時の技術常識や客観的資料は、申立人により何ら提出されていない。
そうすると、上記ア、ウの主張のみから、本件発明1、6や本件発明1、6を直接又は間接的に引用する本件発明2、8〜10が、サポート要件に違反しているとは認められない。

(3)取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書で採用しなかった申立理由によっても取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。
本件の請求項3〜5及び7に係る各特許に対する特許異議の申立ては、不適法なものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
本件の請求項1〜2、6、8〜10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1〜2、6、8〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】繊維状セルロース及びその製造方法、並びに繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース及びその製造方法、並びに繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。化学処理、粉砕処理等によりセルロース系原料であるパルプから製造されるセルロース微細繊維(セルロースナノファイバー)は、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途に用いられることが期待されている。また、セルロースナノファイバーは、水系分散性に優れているため、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤等の多くの用途における利用が期待されている。そして、現在では、セルロースナノファイバーを樹脂の補強材として使用する提案がされている。
【0003】
しかしながら、樹脂の補強材としてセルロースナノファイバーを使用する場合、当該セルロースナノファイバーが多糖類の水酸基に由来する分子間水素結合により不可逆的に凝集する。したがって、セルロースナノファイバーを補強材として使用しても、樹脂中におけるセルロースナノファイバーの分散性が悪いことを原因として樹脂の補強効果が十分に発揮されないとの問題がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1は、熱可塑性樹脂と、植物繊維組成物と、植物繊維修飾剤とを、溶融混練しながら複合化する事を特徴とする樹脂組成物の製造方法であって、植物繊維組成物中の植物繊維が平均繊維長0.1〜0.7mm、平均繊維幅2〜15000nmとの条件を満たすことを特徴とする植物繊維含有樹脂組成物の製造方法を提案する。
【0005】
しかしながら、本発明者等が知見するところによると、単に平均繊維長と平均繊維幅とを特定するのみでは、樹脂の強度が十分なものにはならない。また、平均繊維幅が2〜15000nmとするのは、あまりにも範囲が広すぎ、解繊した繊維としているのと実質的に同義で、この提案を前提に開発を進めることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−193959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、樹脂の補強効果が大きい繊維状セルロース及びその製造方法、並びに強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するためにセルロースナノファイバー(セルロース微細繊維)に様々な処理を施し、またセルロースナノファイバーと樹脂との混練方法を模索した。つまり、セルロースナノファイバーの使用を前提として様々な研究を行った。しかしながら、セルロースナノファイバーを樹脂に複合する際、疎水変性を施し、あるいは相溶化剤を使用しても樹脂中での分散性が十分でなく、樹脂中で十分な三次元ネットワークを形成することが困難で、十分な補強効果が得られなかった。しかるに、その研究の過程において、原料繊維がセルロースナノファイバーであるよりもマイクロ繊維セルロースである方が、樹脂中での分散性が良好であり、樹脂中において十分な三次元ネットワークを形成させることが可能であり、良好な補強効果が得られることを見出し、上記課題を解決するうえで好ましいことを知見し、本発明を想到するに至った。
【0009】
この点、上記特許文献1は、植物繊維の平均繊維幅が2〜15000nmであることを提案しているが、この提案はその範囲が極めて広く、セルロースナノファイバーを含んでいる。したがって、解繊する、すなわち、繊維を細くするという従来の技術の流れのもと、原料繊維としてマイクロ繊維セルロースを選択するのは容易に想到することができたものではない。にもかかわらず本発明者等はこれを想到するに至り、最終的に発明とするに至った。以下に示すのが、上記課題を解決するための手段である。
【0010】
【0011】
【0012】
(請求項1に記載の手段)
平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、フタル酸を含有し、
前記繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
(請求項2に記載の手段)
前記繊維状セルロースは、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上である、
請求項1に記載の繊維状セルロース複合樹脂。
【0013】(削除)
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
(請求項6に記載の手段)
原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂、及びフタル酸と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【0018】(削除)
【0019】
(請求項8に記載の手段)
前記繊維状セルロース及び樹脂、並びにフタル酸を混練して、当該フタル酸を含有する繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【0020】
(請求項9に記載の手段)
前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6または8の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【0021】
(請求項10に記載の手段)
前記濃縮に先立って又は前記濃縮に際して、前記繊維状セルロースに樹脂粉末を添加する、
請求項9に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、樹脂の補強効果が大きい繊維状セルロース及びその製造方法、並びに強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例であり、本発明の範囲は本実施の形態の範囲に限定されない。
【0024】
本形態の繊維状セルロースは、平均繊維幅0.1μm以上、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0%以上である。1つの好ましい形態は、セルロース繊維のヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている。
【0025】
【化1】

構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
【0026】
また、本形態の繊維状セルロース複合樹脂は、上記の平均繊維幅、平均繊維長、及びフィブリル化率を特定した繊維状セルロース、又は加えてヒドロキシル基を置換した繊維状セルロースと樹脂との混練物である。また、別の形態の繊維状セルロース複合樹脂は、上記の平均繊維幅、平均繊維長、及びフィブリル化率を特定した繊維状セルロース及び樹脂、並びに多塩基酸を含有するものである。以下、順に説明する。
【0027】
(原料繊維)
平均繊維幅0.1μm以上の繊維状セルロースはマイクロ繊維セルロースであり、原料繊維(パルプ繊維)を微細化(解繊)処理して得ることができる。原料となる繊維としては、植物由来の繊維、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、植物繊維であるパルプ繊維を使用するのが好ましい。原料繊維がパルプ繊維であると、安価であり、また、サーマルリサイクルの問題を避けることができる。
【0028】
植物由来の繊維としては、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0029】
木材パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)、古紙パルプ(DIP)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらのパルプは、製紙用途で使用されているパルプであり、これらのパルプを使用することで、既存設備を有効に活用することができる。
【0030】
なお、広葉樹クラフトパルプ(LKP)は、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプ(NKP)は、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0031】
また、古紙パルプ(DIP)は、雑誌古紙パルプ(MDIP)であっても、新聞古紙パルプ(NDIP)であっても、段古紙パルプ(WP)であっても、その他の古紙パルプであってもよい。
【0032】
さらに、機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0033】
(前処理工程)
原料繊維は化学的手法によって、前処理するのが好ましい。微細化(解繊)処理に先立って化学的手法によって前処理することで、微細化処理の回数を大幅に減らすことができ、微細化処理のエネルギーを大幅に削減することができる。
【0034】
化学的手法による前処理としては、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。
【0035】
微細化処理に先立ってアルカリ処理を施すことで、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、微細化処理におけるパルプ繊維の分散を促進する効果がある。
【0036】
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができるが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0037】
微細化処理に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、マイクロ繊維セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、マイクロ繊維セルロースの保水度が低いほど樹脂への分散性が向上し、マイクロ繊維セルロースの均質性が高いほど樹脂組成物の破壊要因となる欠点が減少すると考えられ、結果として樹脂の延性を保持することができる強度の大きい樹脂組成物が得られると考えられる。また、酵素処理や酸処理、酸化処理により、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均質性や分散性を向上することができる。しかも、分子鎖が整列していて剛直かつ保水度の低いと考えられるセルロース結晶領域の繊維全体に占める割合が上がると、分散性が向上し、アスペクト比は減少すると見られるものの、延性を保持しつつ機械的強度の大きい樹脂組成物が得られる。
【0038】
以上の各種処理の中では、酵素処理を行うのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を行うのがより好ましい。以下、アルカリ処理について、詳しく説明する。
【0039】
アルカリ処理の方法としては、例えば、アルカリ溶液中に、原料繊維を浸漬する方法が存在する。
【0040】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であっても、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリンオキソ酸塩等を例示することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属のリンオキソ酸塩としては、例えば、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属のリン酸塩としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等を例示することができる。
【0041】
有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を例示することができる。具体的には、例えば、例えば、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等を例示することができる。
【0042】
アルカリ溶液の溶媒は、水及び有機溶媒のいずれであってもよいが、極性溶媒(水、アルコール等の極性有機溶媒)であるのが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であるのがより好ましい。
【0043】
アルカリ溶液の25℃におけるpHは、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは11〜14である。pHが9以上であると、MFCの収率が高くなる。ただし、pHが14を超えると、アルカリ溶液の取り扱い性が低下する。
【0044】
(微細化(解繊)工程)
微細化処理は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー等を使用して原料繊維を叩解することによって行うことができ、リファイナーを使用して行うことが好ましい。
【0045】
リファイナーとは、パルプ繊維を叩解する装置であり、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)及びシングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。解繊処理工程において、リファイナーを用いると、処理後の分離や洗浄が不要となる点からも好ましい。
【0046】
なお、マイクロ繊維セルロースは、セルロースやセルロースの誘導体からなる繊維である。通常のマイクロ繊維セルロースは、強い水和性を有し、水系媒体中において水和することで安定的に分散状態(分散液の状態)を維持する。マイクロ繊維セルロースを構成する単繊維は、水系媒体中において複数条が集合して繊維状をなす場合もある。
【0047】
微細化(解繊)処理は、マイクロ繊維セルロースの数平均繊維径(繊維幅。単繊維の直径平均。)が0.1μm以上となる範囲で行うのが好ましく、0.1〜15μmとなる範囲で行うのがより好ましく、0.2〜10μmとなる範囲で行うのが特に好ましい。数平均繊維径(幅)が0.1μm以上となる範囲で行うことで、繊維状セルロース複合樹脂の強度が向上する。
【0048】
具体的には、平均繊維径を0.1μm未満にすると、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、補強効果(特に曲げ弾性率)が十分に得られなくなる。また、微細化処理の時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になり、製造コストの増加につながる。他方、平均繊維径が15μmを超えると、繊維の分散性に劣る傾向がある。繊維の分散性が不十分であると、補強効果に劣る傾向がある。
【0049】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さ)は、0.02〜3mmとするのが好ましく、0.05〜2mmとするのがより好ましく、0.1〜1.5mmとするのが特に好ましい。平均繊維長が0.02mm未満であると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、補強効果が著しく低下する恐れがある。なお、平均繊維長は、例えば、原料繊維の選定、前処理、解繊処理で任意に調整可能である。
【0050】
本形態において、マイクロ繊維セルロースの繊維長は、0.2mm以下の割合が12%以上であるのが好ましく、16%以上であるのがより好ましく、26%以上であるのが特に好ましい。当該割合が12%未満の場合、十分な補強効果を得られない。マイクロ繊維セルロースの繊維長は、0.2mm以下の割合の上限はなく、全て0.2mm以下であっても良い。
【0051】
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、樹脂の延性をある程度保持しつつ機械的強度を向上させるために、2〜30,000であるのが好ましく、10〜10,000であるのがより好ましい。
【0052】
なお、アスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど樹脂中において引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多い分樹脂の延性が低下するものと考えられる。なお、無機フィラーを樹脂に混練した場合、フィラーのアスペクト比が大きいほど引張強度が向上するが、引張破断伸びは著しく低下するとの知見が存在する。
【0053】
本形態において、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、1.0%以上であるのが好ましく、1.5%以上であるのがより好ましく、2.0%以上であるのが特に好ましい。また、フィブリル化率は、30.0%以下であるのが好ましく、20.0%以下であるのがより好ましく、15.0%以下であるのが特に好ましい。フィブリル化率が30.0%以上であると、微細化が進み過ぎてナノファイバーとなってしまうため、意図する効果が得られないおそれがある。他方、フィブリル化率が1.0%未満では、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークが不足となる。この点、本発明者等は、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率を1.0%以上にすると、マイクロ繊維セルロースのフィブリル同士が水素結合し、より強硬な三次元ネットワークを構築することを各種試験の過程で見出した。また、フィブリル化率を高くすると樹脂と接する界面が増加するが、多塩基酸を相溶化剤として又は疎水変性に利用すると、更に補強効果が向上することも見出した。
【0054】(削除)
【0055】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが特に好ましい。結晶化度が50%未満であると、樹脂との相溶性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。
【0056】
他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、90%以下であるのが好ましく、88%以下であるのがより好ましく、86%以下であるのが特に好ましい。結晶化度が90%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、樹脂との相溶性が低下し、樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。また、マイクロ繊維セルロースの化学修飾がし難くなる傾向もある。なお、結晶化度は、例えば、原料繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0057】
また、マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、2cps以上であるのが好ましく、4cps以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が2cps未満であると、マイクロ繊維セルロースを樹脂と混練した際に、マイクロ繊維セルロースの凝集を十分に抑制できず、樹脂組成物の補強効果が劣る傾向にある。
【0058】
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、500cc以下が好ましく、300cc以下がより好ましく、100cc以下が特に好ましい。500ccを超えるとマイクロ繊維セルロースの繊維幅が15μmを超え、補強効果が十分でない。
【0059】
(混練等)
微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロースは、必要により水系媒体中に分散して分散液とすることができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も好ましく使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0060】
分散液は濃縮を行って固形分濃度を調節するのが好ましい。この分散液の固形分濃度は、1.0質量%以上であるのが好ましく、1.5質量%以上であるのがより好ましく、2.0質量%以上であるのが特に好ましい。また、分散液の固形分濃度は、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。固形分濃度が1.0質量%を下回ると、微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロース水分散液の濃度より薄くなるおそれがある。他方、固形分濃度が70質量%を上回ると、その後希釈して分散することが困難となり、多塩基酸や樹脂粉末、その他の組成物との混合も困難となるおそれがある。
【0061】
マイクロ繊維セルロースは、混練に先立って脱水処理及び乾燥処理しても良い。マイクロ繊維セルロースの脱水・乾燥処理は、混練処理等と一緒に行っても、一緒に行わなくてもよい。また、脱水処理及び乾燥処理は、一緒に行っても良いし、別々で行っても良い。
【0062】
本形態の繊維状セルロースは、多塩基酸等によって変性される場合と、変性されない場合とがある。多塩基酸によって変性する場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースの水分率(含水率)は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0%が特に好ましい。水分率が5%を超えると、多塩基酸によってマイクロ繊維セルロースが変性しない可能性がある。また、水分率が高いと混練する際のエネルギーが膨大になり、経済的でない。
【0063】
他方、多塩基酸によって変性しない場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースの水分率は、5%超が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。含水率が5%超であると、多塩基酸によるセルロース繊維の変性が進まなくなり、得られる複合樹脂は多塩基酸を含有するようになる。
【0064】
脱水処理には、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0065】
乾燥処理には、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0066】
脱水・乾燥処理工程の後に粉砕処理工程を加えても良い。粉砕処理には、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0067】
脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースの形状は、粉末状、ペレット状、シート状等とすることができる。ただし、粉末状が好ましい。
【0068】
粉末状とする場合、マイクロ繊維セルロースの平均粒子径は、10,000〜1μmが好ましく、5,000〜10μmがより好ましく、1,000〜100μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、粒子径が大きいため混練装置内に入らないおそれがある。他方、平均粒子径を1μm未満とするには粉砕処理にエネルギーを要するため、経済的でない。
【0069】
粉末状とする場合、マイクロ繊維セルロースの嵩比重は、1.5〜0.01が好ましく、1〜0.04がより好ましく、0.5〜0.1が特に好ましい。嵩比重が1.5を超えるということはセルロースの比重が1.5を超えるということであるため、物理的に実現困難である。他方、嵩比重を0.01未満とするのは、移送コストの面から不利である。
【0070】
脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースには、樹脂が含まれていても良い。樹脂が含まれていると、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロース同士の水素結合が阻害され、混練の際の樹脂中での分散性を向上することができる。したがって、この樹脂は、前述した分散液の濃縮やマイクロ繊維セルロースの脱水・乾燥に前後して、あるいは混練に際して添加することもできる。
【0071】
脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースに含まれる樹脂の形態としては、例えば、粉末状、ペレット状、シート状等が挙げられる。ただし、粉末状(粉末樹脂)が好ましい。
【0072】
粉末状とする場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロースに含まれる樹脂粉末の平均粒子径は、10,000〜1μmが好ましく、5,000〜10μmがより好ましく、1,000〜100μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、粒子径が大きいために混練装置内に入らないおそれがある。他方、平均粒子径が1μm未満であると、微細なためにマイクロ繊維セルロース同士の水素結合を阻害することができないおそれがある。
【0073】
以上のようにして得たマイクロ繊維セルロースは、樹脂と混練し、混練物とする。この混練に際しては、更に多塩基酸を添加し、セルロース繊維を多塩基酸によって変性し、又は混練物が多塩基酸を含有するようにする。なお、混練する際におけるマイクロ繊維セルロースの水分率(含水率)が重要なのは、前述したとおりである。
【0074】
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれをも使用することができる。
【0075】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0076】
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。ポリプロピレンとしては、ホモポリマー、ランダムポリマー、ブロックポリマーの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
【0077】
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0078】
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。
【0079】
この乳酸としては、例えば、L−乳酸やD−乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
【0080】
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0081】
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0082】
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0083】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0084】
樹脂には、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。
【0085】
無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族〜第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
【0086】
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
【0087】
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の配合割合は、マイクロ繊維セルロースが1質量部以上、樹脂が99質量部以下であるのが好ましく、マイクロ繊維セルロースが2質量部以上、樹脂が98質量部以下であるのがより好ましく、マイクロ繊維セルロースが3質量部以上、樹脂が97質量部以下であるのが特に好ましい。
【0088】
また、マイクロ繊維セルロースが50質量部以下、樹脂が50質量部以上であるのが好ましく、マイクロ繊維セルロースが40質量部以下、樹脂が60質量部以上であるのがより好ましく、マイクロ繊維セルロースが30質量部以下、樹脂が70質量部以上であるのが特に好ましい。ただし、マイクロ繊維セルロースの配合割合が10〜50質量部であると、樹脂組成物の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率の強度を著しく向上させることができる。
【0089】
なお、最終的に得られ樹脂組成物に含まれるマイクロ繊維セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の上記配合割合と同じとなる。
【0090】
マイクロ繊維セルロースを変性する場合、その方法としては、例えば、エステル化、エーテル化、アミド化、スルフィド化等の疎水変性を挙げることができる。ただし、マイクロ繊維セルロースを疎水変性する方法としては、エステル化を採用するのが好ましい。
【0091】
エステル化の方法としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、リン酸、スルホン酸、無水多塩基酸及びこれらの誘導体等の疎水化剤によるエステル化を挙げることができる。ただし、疎水化剤としては、無水多塩基酸やその誘導体を使用するのが好ましい。
【0092】
(多塩基酸)
マイクロ繊維セルロース及び樹脂と混練する多塩基酸としては、シュウ酸類、フタル酸類、マロン酸類、コハク酸類、グルタル酸類、アジピン酸類、酒石酸類、グルタミン酸類、セバシン酸類、ヘキサフルオロケイ酸類、マレイン酸類、イタコン酸類、シトラコン酸類、クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。だだし、フタル酸、フタル酸塩類及びこれら(フタル酸類)の誘導体の少なくともいずれか1種以上であるのが好ましい。
【0093】
フタル酸類(誘導体)としては、フタル酸、フタル酸水素カリウム、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸アンモニウム、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリイソデシル等が挙げられる。好適には、フタル酸を使用するのが好ましい。
【0094】
無水多塩基酸類としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には無水マレイン酸類、より好適には無水フタル酸類を使用するのが好ましい。
【0095】
無水フタル酸類としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヒドロキシ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物が挙げられる。ただし、好適には無水フタル酸を使用するのが好ましい。
【0096】
無水多塩基酸を使用すると、セルロース繊維を変性する場合においてはヒドロキシル基の一部が所定の官能基によって置換され、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性が向上する。また、多塩基酸を単に含有させる場合においては、当該多塩基酸が相溶化剤として機能し、相溶性が向上する。結果、得られる繊維状セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ強度が向上する。
【0097】
なお、多塩基酸を相溶化剤として機能させる場合は、セルロース繊維の変性の進み具合が問題にならないため、得られる複合樹脂の品質が安定化する。ただし、混練する際のマイクロ繊維セルロースの含水率に留意する等して(この点については、前述したとおりである。)、セルロース繊維が変性してしまはないよう注意する必要がある。
【0098】
マイクロ繊維セルロースの変性は、繊維を構成するセルロースのヒドロキシル基の一部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されるように行うのが好ましい。
【0099】
【化1】

構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
【0100】
無水多塩基酸としては、下記の構造式(3)又は構造式(4)を示すものを使用するのが好ましい。
【0101】
【化2】

構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
【0102】
上記構造式(3)又は構造式(4)を示す無水多塩基酸を使用することによってマイクロ繊維セルロース及び熱可塑性樹脂の相溶性が向上する。
【0103】
混練処理には、例えば、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。それらのなかで、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を1機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
【0104】
また、二軸以上の多軸混練機のスクリューの周速は、0.2〜200m/分が好ましく、0.5〜150m/分がさらに好ましく、1〜100m/分が特に好ましい。周速が0.2m/分未満の場合は、うまく樹脂中にマイクロ繊維セルロースを分散させることができない。他方、周速が200m/分を超える場合、マイクロ繊維セルロースへのせん断力が過多となり、補強効果が得られない。
【0105】
本形態において使用される混練機のスクリュー径と混練部の長さの比は、15〜60が好ましい。比が15未満の場合は、混練部が短く、マイクロ繊維セルロースと樹脂を混ぜることができない恐れがある。比が60を超える場合は、混練部が長すぎるため、マイクロ繊維セルロースへのせん断的負荷が高くなり、補強効果が得られない恐れがある。
【0106】
混練処理の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80〜280℃とするのが好ましく、90〜260℃とするのがより好ましく、100〜240℃とするのが特に好ましい。
【0107】
複合樹脂中のマイクロ繊維セルロースの固形分での配合質量割合は、70%〜1%あるのが好ましく、50%〜5%であるのがより好ましく、40%〜10%であるのが特に好ましい。
【0108】
多塩基酸の固形分での配合質量割合は、変性に利用する場合、0.1〜50%であるのが好ましく、1〜30%であるのがより好ましく、2〜20%であるのが特に好ましい。また、相溶化剤として機能させる場合も同様である。
【0109】
混練に際しては、無水マレイン酸ポリプロピレンを添加しても良い。無水マレイン酸ポリプロピレンの添加量は、マイクロ繊維セルロースの配合量を100として、好ましくは1〜1000質量%、より好ましくは5〜500質量%、特に好ましくは10〜200質量%である。添加量が1質量%を下回ると効果が不十分である。他方、添加量が1000質量%を上回ると過剰添加となり、逆に樹脂マトリックスの強度を低下させる恐れがある。
【0110】
混練に際しては、マイクロ繊維セルローススラリーのpHを調整する方法として、アミン類を添加しても良い。アミン類としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパン−2−アミン、テトラメチルエチレンアミン、ヘキサメチルアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4−ジメチルアミノピリジン等を例示することができる。
【0111】
アミン類の添加量は、マイクロ繊維セルロースの配合量を100として、好ましくは1〜1,000質量%、より好ましくは5〜500質量%、特に好ましくは10〜200質量%である。添加量が1質量%を下回るとpH調整が不十分である。他方、添加量が200質量%を上回ると過剰添加となり、逆に樹脂マトリックスの強度を低下する恐れがある 。
【0112】
マイクロ繊維セルロースを疎水変性する場合の溶媒としては、溶媒なし、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、非極性溶媒、樹脂等を挙げることができる。ただし、溶媒としては、樹脂を使用するのが好ましく、本形態においては樹脂と混練する際に変性するので、溶媒を実質不要とすることができる。
【0113】
プロトン性極性溶媒としては、例えば、ギ酸、ブタノール、イソブタノール、ニトロメタン、エタノール、メタノール、酢酸、水等を使用することができる。
【0114】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等を使用することができる。
【0115】
非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、等を使用することができる。
【0116】
マイクロ繊維セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差、つまり、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値−SPPOL値とすることができる。SP値の差は10〜0.1が好ましく、8〜0.5がより好ましく、5〜1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。なお、溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒−溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
【0117】
(その他の組成物)
マイクロ繊維セルロースには、セルロースナノファイバー、ミクロフィブリルセルロース、ミクロフィブリル状微細繊維、微少繊維セルロース、ミクロフィブリル化セルロース、スーパーミクロフィブリルセルロース等と称される各種微細繊維の中から1種又は2種以上を含ませることができ、また、これらの微細繊維が含まれていてもよい。また、これらの微細繊維を更に微細化した繊維をも含ませることもでき、また、含まれていてもよい。ただし、全原料繊維中におけるマイクロ繊維セルロースの割合が10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上となるようにする必要がある。
【0118】
また、以上のほか、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を含ませることもでき、含まれていてもよい。
【0119】
マイクロ繊維セルロース複合樹脂の原料としては、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の他、例えば、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤等の中から1種又は2種以上を選択して、本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる。
【0120】
これらの原料は、マイクロ繊維セルロースの分散液、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練の際に併せて混練しても、これらの混練物に混練しても、その他の方法で混練してもよい。ただし、製造効率の面からは、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練の際に併せて混練するのが好ましい。
【0121】
樹脂には、エチレン−αオレフィン共重合エラストマー又はスチレン−ブタジエンブロック共重合体が含有されていてもよい。α−オレフィンの例としては、ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、メチル−ペンテン、オクテン、デセン、ドデセン等が挙げられる。
【0122】
(成形処理)
マイクロ繊維セルロース及び樹脂(混練物)は、必要により再度混練処理を行った後、所望の形状に成形する。なお、混練物に変性マイクロ繊維セルロースが分散していても、成形加工性に優れている。
【0123】
成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
【0124】
成形処理の際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80〜280℃とするのが好ましく、90〜260℃とするのがより好ましく、100〜240℃とするのが特に好ましい。
【0125】
成形処理の装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0126】
成形処理は、公知の成形方法によることができ、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
【0127】
なお、この成形処理は、混練処理に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。
【0128】
(用語の定義、測定方法等)
明細書中の用語は、特に断りのない限り、以下のとおりである。
【0129】
(平均繊維径)
固形分濃度0.01〜0.1質量%のマイクロ繊維セルロースの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t−ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍又は30000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0130】
(繊維分析)
平均繊維長とフィブリル化率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。
【0131】
(アスペクト比)
上記平均繊維長を平均繊維幅(径)で除した値である。
【0132】
(結晶化度)
JIS−K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、マイクロ繊維セルロースは、非晶質部分と結晶質部分とを有し、結晶化度は、マイクロ繊維セルロース全体における結晶質部分の割合を意味すること になる。
【0133】
(パルプ粘度)
JIS−P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどマイクロ繊維セルロースの重合度が高いことを意味する。
【0134】
(フリーネス)
JIS P8121−2:2012に準拠して測定した値である。
【0135】
(含水率(水分率))
繊維の水分率は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
繊維水分率(%)=[(乾燥前質量−乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
【実施例】
【0136】
次に、本発明の実施例を示し、本発明の作用効果、すなわち、多塩基酸を使用する場合において、マイクロ繊維セルロース(MFC)を使用し、特に所定のフィブリル化率を有するMFCを使用すると、セルロースナノファイバー(CNF)を使用するよりも樹脂の補強効果に優れることなどを明らかにする。
【0137】
(実施例1)
固形分濃度2.75重量%のマイクロ繊維セルロース(解繊にリファイナーを使用)水分散液365gに、フタル酸7g及びポリプロピレン粉末83gを添加し、105℃で加熱乾燥し混合物を得た。当該混合物の含水率は、10%未満であった。当該混合物を180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、繊維状セルロース複合樹脂を得た。この複合樹脂をペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。得られた成形物について、表1に、曲げ試験の試験結果を示した。なお、曲げ試験の評価方法は、次のとおりである。
【0138】
(曲げ試験)
曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に準拠して測定した。表中には、評価結果を以下の基準で示した。
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍以上の場合:○
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍未満の場合:×
【0139】
【表1】

【0140】
(その他の実施例及び比較例)
リファイナー処理回数、繊維状セルロースの繊維幅、繊維長、フィブリル化率、及び繊維水分率、並びに繊維(セルロース)、フタル酸、及び樹脂の混練時における配合割合、添加した多塩基酸(薬品)の種類・有無等を、表1に示すように変化させて試験を行った。結果は、表1に示した。なお、多塩基酸は基本的に混練直前に添加することとし、ただし、実施例9においては繊維状セルロースの分散液に添加することとした。
【0141】
(考察)
表1から、多塩基酸を使用する場合においては、CNFを使用するよりもMFCを使用する方が好ましいこと、フィブリル化率が重要なファクターになることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、繊維状セルロース及びその製造方法、並びに繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法として利用可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%である繊維状セルロース及び樹脂の混練物であり、フタル酸を含有し、
前記繊維状セルロースと樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
【請求項2】
前記繊維状セルロースは、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上である、
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
原料繊維をリファイナーで解繊して平均繊維幅1〜15μm、平均繊維長0.02〜3.0mmで、かつフィブリル化率1.0〜30.0%の繊維状セルロースを得、
前記繊維状セルロースとの溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差が10〜0.1である樹脂、及びフタル酸と混練する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記繊維状セルロース及び樹脂、並びにフタル酸を混練して、当該フタル酸を含有する 繊維状セルロース複合樹脂を得る、
請求項6に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記混練に先立って、前記繊維状セルロースを濃縮する、
請求項6または8の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記濃縮に先立って又は前記濃縮に際して、前記繊維状セルロースに樹脂粉末を添加する、
請求項9に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-03 
出願番号 P2018-105605
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 福井 悟
橋本 栄和
登録日 2020-11-25 
登録番号 6799565
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 繊維状セルロース及びその製造方法、並びに繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法  
代理人 特許業務法人永井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人永井国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ