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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1385557
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-20 
確定日 2022-01-20 
事件の表示 特願2018−509476「光照射装置および印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日国際公開、WO2017/170949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年(2017年)3月30日(優先権主張 平成28年3月30日、日本国、平成28年7月27日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和元年5月31日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月9日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年1月28日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年3月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月27日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同年6月9日)、これに対して、同年8月20日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和3年6月2日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1〜15に係る発明は、令和3年8月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1には、次のように記載されている(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「多孔質部と前記多孔質部に連続している、上面視で前記多孔質部と同等の大きさを有する空間部と前記空間部の上面または側面に接続されている、流路の流れ方向に垂直な断面の面積が前記多孔質部の流路の流れ方向に垂直な断面の面積よりも小さい第1導入部とを有し、前記空間部および前記多孔質部は上方から下方に向かって並んでおり、前記第1導入部、前記空間部および前記多孔質部を通して光硬化型材料に不活性ガスである気体を供給可能な第1供給部と、
前記多孔質部と同一または前記多孔質部よりも前記光硬化型材料が搬送される搬送方向における下流に位置するとともに前記空間部に接しており、前記光硬化型材料に光を照射可能な照射部と、を備える光照射装置。」

第3 令和3年6月2日付けの当審拒絶理由の内容
令和3年6月2日付けの当審拒絶理由の内容は、次のとおりである。
「この出願の請求項1〜15に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物(特開2012−217873号公報。以下、「引用例」という。)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

第4 当審の判断
1 引用例の記載
引用例には、「紫外線照射装置」(発明の名称)について次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関するものである。」
(2)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような印刷用乾燥装置では、印刷インクに混ぜられた紫外線硬化樹脂が紫外線の照射を受けて硬化する際に、紫外線硬化樹脂が酸素と接触すると反応阻害が起こることが知られている。このような反応阻害を低減するために、窒素雰囲気中で紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することが検討され、紫外線の照射部位に対して窒素を噴き出すための装置を備えることが検討されている。紫外線の照射部位に十分な量の窒素を送り込むためには、紫外線を照射する紫外線照射装置の近傍に、窒素を噴き出すための装置を設ける必要があるが、この装置を支持するための機構も別途必要になるため、全体として装置が大型化するという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、小型化を図った紫外線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願の紫外線照射装置は、被照射物に対して紫外光を照射する紫外光照射部と、紫外光照射部と一体に設けられ、紫外光照射部からの紫外光の照射領域に窒素ガスを噴き出すガス噴出部とを備えることを特徴とする。」
(3)「【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の紫外線照射装置を図1〜図5に基づいて説明する。尚、以下の説明では特に断りがないかぎり、図3(a)に示す向きにおいて上下左右の方向を規定し、図3(b)における上側を前側、下側を後側として説明を行うこととする。但し、ここで定義した方向は説明のための便宜上のものであり、実際の使用形態における取付方向を限定する趣旨のものではない。
【0017】
この紫外線照射装置1は例えば印刷用途に使用され、印刷インク(紫外線硬化樹脂を混ぜたインク)が塗布された印刷媒体(例えば紙やフィルムなど)に紫外線を照射することで、印刷インクを印刷用紙に定着させるために用いられる。尚、紫外線照射装置1の用途は印刷用途に限定される趣旨のものではなく、対象物に塗布した紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し、硬化させることで対象物を接着する用途にも使用可能である。
【0018】
図2は紫外線照射装置1を用いた印刷機30の要部を示し、・・・ロール状の紙やフィルムからなる印刷媒体40を搬送するためのローラ31,32を備え、後段のローラ32には、その周面に対向させて紫外線照射装置1が配置されている。ローラ31,32が、図中に示す矢印の方向に回転すると、印刷媒体40がローラ31,32の回転に応じて搬送される。印刷媒体40には、紫外線照射装置1のところへ搬送されるまでの間に、インク着ローラ(図示せず)によって印刷インクが塗布される。そして、紫外線照射装置1から印刷媒体40の表面に紫外線が照射されると、光重合反応により印刷インクに混ぜられた紫外線硬化樹脂が硬化して、印刷インクが印刷媒体40に定着する。
【0019】
この紫外線照射装置1は、図3〜図5に示すように、被照射物に対して紫外光を照射する紫外光照射部2と、この紫外光照射部2と一体に設けられ、紫外光照射部2からの紫外光の照射領域(図1の斜線部A1)に窒素ガスを噴き出すガス噴出部3を備えている。
【0020】
紫外線照射装置1の装置本体10は、細長い直方体状の光源部本体11と、光源部本体11の前側部に光源部本体11と一体に設けられた略直方体状のフード12とで構成される。
【0021】
光源部本体11の下面には、紫外光を発光する複数個の発光ダイオード20が長手方向(左右方向に)に沿って配列されている。光源部本体10の内部には、複数個の発光ダイオード20を点灯させる点灯回路や、複数個の発光ダイオード20を冷却する水冷式の冷却機構が収納されている。ここで、発光ダイオード20や、発光ダイオード20が取り付けられた光源部本体11などから、紫外光照射部2が構成される。尚、本実施形態では光源として紫外光を発光する発光ダイオード20を用いているが、紫外線を発光する蛍光ランプでもよく、紫外光を発光するものであればよい。
【0022】
フード12は、光源部本体11の前側部から、光源部本体11の下面に対してやや斜め下向きに張り出す形で設けられており、フード12下面の略全体には、窒素ガスを噴き出すための噴出口12aが開口している。光源部本体11には、窒素ガスが充填されたタンク及び送風ファンよりなる送風装置(図示せず)からのゴムホースが接続されており、ゴムホースを通して送られてきた窒素ガスはフード12に送られ、フード12下面の噴出口12aから外部に噴出される。ここで、窒素ガスを噴出する噴出口12aが設けられたフード12によりガス噴出部3が構成されている。
【0023】
本実施形態の紫外線照射装置1は紫外光照射部2とガス噴出部3とを備え、ガス噴出部3は紫外光照射部2に対して前側に配置されている。この紫外線照射装置1は印刷機30に取り付けられて使用され、印刷媒体40は装置本体10の下側を前方から後方へと搬送されていく。すなわち印刷媒体40はガス噴出部3の下方を通過した後、紫外光照射部2の下方を通過することになり、紫外光照射部2からの紫外線が照射される照射領域A1はガス噴出部3の後方に位置することになる。そのため、ガス噴出部3は、被照射物である印刷媒体40がガス噴出部3に対して相対的に移動する方向(本実施形態では後側)に向かって窒素ガスを噴き出す向きで、紫外光照射部2に取り付けられている。」 (4)「【0031】
以上説明したように本実施形態の紫外線照射装置1では、被照射物(印刷媒体40)に対して紫外光を照射する紫外光照射部2と、紫外光照射部2からの紫外光の照射領域A1に窒素ガスを噴き出すガス噴出部3とが一体に設けられている。
【0032】
これにより、窒素ガスの雰囲気中で印刷インクに紫外光を照射して、紫外線硬化樹脂を硬化させることができる。したがって、紫外線硬化樹脂に紫外光が照射される際に、雰囲気中の酸素濃度が低減されるから、酸素による反応阻害が低減され、紫外線硬化樹脂の硬化性を向上させることができる。しかも、ガス噴出部3が紫外光照射部2と一体に設けられているので、ガス噴出部3を支持するための機構を別途設ける必要が無く、全体として装置の小型化を図ることができる。また、紫外光照射部2への電気配線やガス噴出部3へのガス配管などを纏めて配設できるから、これらの電気配線やガス配管の取り回しが良好になり、配線や配管のためのスペースをコンパクトに纏めることで、装置全体の小型化が図られる。」
(5)「【図1】


(6)「【図4】



2 引用例に記載された発明(引用発明)
(1)【0007】(上記1(2))から、引用例に記載された紫外線照射装置は、被照射物に対して紫外光を照射する紫外光照射部と、紫外光照射部と一体に設けられ、紫外光照射部からの紫外光の照射領域に窒素ガスを噴き出すガス噴出部とを備えていることが理解される。
(2)【0017】(同(3))から、紫外線照射装置は、印刷インクを印刷用紙に定着させるために用いられるものであることが理解され、【0018】(同(3))から、定着は、印刷インクに混ぜられた紫外線硬化樹脂が硬化するものであることが理解される。
(3)【0019】(同(3))から、図1〜4に示された紫外線照射装置1では、紫外光照射部2からの紫外光の照射領域に窒素ガスを噴き出すガス噴出部3を備えていることが理解される。
(4)【0020】及び【0022】(同(3))から、紫外線照射装置1の装置本体10は、細長い直方体状の光源部本体11と、光源部本体11の前側部に光源部本体11と一体に設けられた略直方体状のフード12とで構成され、フード12下面の略全体には、窒素ガスを噴き出すための噴出口12aが開口し、光源部本体11には、窒素ガスが充填されたタンク及び送風ファンよりなる送風装置からのゴムホースが接続されており、ゴムホースを通して送られてきた窒素ガスはフード12に送られ、フード12下面の噴出口12aから外部に噴出されることが理解される。
(5)【0023】(同(3))から、印刷媒体40はガス噴出部3の下方を通過した後、紫外光照射部2の下方を通過することが理解される。
(6)以上のことから、引用例の図1〜4に示された紫外線照射装置について、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「紫外光照射部2と、
紫外光照射部2からの紫外光の照射領域に窒素ガスを噴き出すガス噴出部3とを備えた紫外線照射装置1において、
紫外線照射装置1の装置本体10は、
細長い直方体状の光源部本体11と、光源部本体11の前側部に光源部本体11と一体に設けられた略直方体状のフード12とで構成され、
フード12下面の略全体には、窒素ガスを噴き出すための噴出口12aが開口し、光源部本体11には、窒素ガスが充填されたタンク及び送風ファンよりなる送風装置からのゴムホースが接続されており、ゴムホースを通して送られてきた窒素ガスはフード12に送られ、フード12下面の噴出口12aから外部に噴出され、印刷媒体40はガス噴出部3の下方を通過した後、紫外光照射部2の下方を通過して、
印刷媒体40上の印刷インクに混ぜられた紫外線硬化樹脂を硬化させるものである紫外線照射装置1」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ゴムホース」、「フード12」、「窒素ガス」及び「紫外線硬化樹脂」は、本願発明1の「第1導入部」、「空間部」、「不活性ガスである気体」及び「光硬化型材料」にそれぞれ相当する。
イ 本願発明1の「多孔質部」は、それを介して不活性ガスである気体を光硬化性材料に供給するものであり、引用発明の「噴出口12a」と、「不活性ガスである気体の供給手段」である点で共通する。
ウ 引用発明の「装置本体10」は、「細長い直方体状の光源部本体11」と、「光源部本体11の前側部に光源部本体11と一体に設けられた略直方体状のフード12」とで構成されており、「光源部本体11」と「フード12」とは図1からも明らかなように、接していることは明らかである。そして、「光源部本体11」は、紫外線を照射し、印刷媒体40上の印刷インクに混ぜられた紫外線硬化樹脂を硬化させるためのものであるから、引用発明の「光源部本体11」は、本願発明1の「空間部に接しており、前記光硬化型材料に光を照射可能な照射部」に相当する。
エ 引用発明の「ゴムホース」は、その流路の流れ方向に垂直な断面の面積がフード12の流路の流れ方向に垂直な断面の面積よりも小さいことは明らかであるから、本願発明1の「第1導入部」とは、「流路の流れ方向に垂直な断面の面積が『不活性ガスである気体の供給手段』の流路の流れ方向に垂直な断面の面積よりも小さい第1導入部」である点で共通する。
さらに、引用例の【0032】(上記1(4))には、「ガス噴出部3が紫外光照射部2と一体に設けられているので、ガス噴出部3を支持するための機構を別途設ける必要が無く、全体として装置の小型化を図ることができる。また、紫外光照射部2への電気配線やガス噴出部3へのガス配管などを纏めて配設できるから、これらの電気配線やガス配管の取り回しが良好になり、配線や配管のためのスペースをコンパクトに纏めることで、装置全体の小型化が図られる。」と記載されており、この記載から、引用発明の実施態様においては、光源部本体11には、紫外線照射部2の電気配線とともに、ガス配管が設けられており、そのガス配管を介してガス噴出部3に窒素ガスが送られることが理解できる。
そうすると、引用発明において、「ゴムホース」の接続箇所である「光源部本体11」は、紫外線照射装置に対する取り付け箇所として用いられているにすぎず、「ゴムホース」は、さらに、図示されない「光源部本体11」の中に設けられた配管を介することで、実質的にその流路が延長されて「フード12」に接続されていると解される。
そして、引用発明においては、図3(b)の上側を上、下側を下としているところ、「光源部本体11」と「フード12」とは一体なのであるから、「光源部本体11」と「フード12」とを一体と捉えれば、引用発明の「ゴムホース」は、「フード12の上面(または側面)に接続されている」ということができるし、仮に、「光源部本体11」と「フード12」とが別体であるとしても、「光源部本体11」からの配管が「フード12」に接続されていて、「光源部本体11」と「フード12」とは、隣接して設けられているのであるから、引用発明の「ゴムホース」は、「フード12の(上面または)側面に接続されている」ということができる。
オ 引用発明では、「印刷媒体40はガス噴出部3の下方を通過した後、紫外光照射部2の下方を通過」するから、本願発明1の「照射部」と引用発明の「紫外光照射部2」とは「『不活性ガスである気体の供給手段』と同一または前記『不活性ガスである気体の供給手段』よりも前記光硬化型材料が搬送される搬送方向における下流に位置するとともに前記空間部に接しており、前記光硬化型材料に光を照射可能な照射部」である点で共通する。
カ 引用発明の「噴出口12a」は、「フード12」と連続していて、「フード12」の上面視の大きさと同等であることは明らかであるから、本願発明1の「空間部」と「フード12」とは、「『不活性ガスである気体の供給手段』に連続している」「空間部」である点で共通する。
また、引用発明では「フード12下面の略全体には、窒素ガスを噴き出すための噴出口12aが開口し」ているから、「フード12」と「噴出口12a」の位置関係は、「フード12a」の下に「噴出口12a」が並んでいるといえる。
キ 本願発明の「多孔質部」は、「不活性ガスである気体の供給手段」であるから(上記イ)、本願発明の「空間部および多孔質部は上方から下方に向かって並んでおり」という構成と、引用発明の「フード12下面の略全体には、窒素ガスを噴き出すための噴出口12aが開口し」という構成とは、「空間部および不活性ガスである気体の供給手段は上方から下方に向かって並んでおり」という点で共通する。

(2)一致点・相違点
上記(1)から、本願発明と引用発明とは、上記「不活性ガスである気体の供給手段」を、単に「気体供給手段」と記載すると、
「気体供給手段と前記気体供給手段に連続している、上面視で前記気体供給手段と同等の大きさを有する空間部と前記空間部の上面または側面に接続されている、流路の流れ方向に垂直な断面の面積が気体供給手段の流路の流れ方向に垂直な断面の面積よりも小さい第1導入部とを有し、空間部および不活性ガスである気体の供給手段は上方から下方に向かって並んでおり、前記第1導入部、前記空間部および前記気体供給手段を通して光硬化型材料に不活性ガスである気体を供給可能な第1供給部と、
前記気体供給手段と同一または前記気体供給手段よりも前記光硬化型材料が搬送される搬送方向における下流に位置するとともに前記空間部に接しており、前記光硬化型材料に光を照射可能な照射部と、を備える光照射装置。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点)
不活性ガスである気体の供給手段(気体供給手段)について、本願発明では「多孔質部」であるのに対し、引用発明では「噴出口12a」である点。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
不活性ガスである気体の供給手段として、不活性ガスといった気体が均一に供給されることが望ましいことは明らかであり(そうでなければ、不活性ガスが供給されない箇所が生じる。)、そのために噴出口を多孔質部とすることは周知である(必要であれば、原査定の引用文献8(実願昭61−185503号(実開昭63−92194号)のマイクロフィルムを参照されたい(たとえば、実用新案登録請求の範囲の「平板状の多孔質材を熱風吹出口とする薄平板形熱風ノズル。」という記載及び明細書2頁末行〜3頁2行の「多孔質材10から非乾燥物体へ吹き付けられる熱風は極めて均一且つ効率がよく」という記載を参照されたい。))。また、特開2010−144093号公報の【0016】にも、「ランプハウス10に隣接して、搬送方向の上流側には前室20が設けられる。・・・前室20の上部には前室20内へ不活性ガスを導入するためのガス導入口22が設けられる。ガス導入口22の下方には、前室20の内部雰囲気を不活性ガスで均一に置換するための拡散板21が設けられる。この拡散版21(当審注:拡散板21の誤記と認める。)は、例えば厚さ1mmのステンレス製の板に、板を貫通するφ2mmの孔が、孔の中心同士が10mmピッチとなるよう、縦横2方向に形成されたものである。」と記載され、多孔質板(拡散板)を設けることが記載されている。)。
そうすると、引用発明において、気体(窒素ガス)が均一に供給されることが望ましいという自明の課題に基づいて、「噴出口12a」を多孔質部とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の「硬化型材料に気体を供給する多孔質部を、光硬化型材料に光を照射可能な照射部と同一または上流に備えることから、雰囲気中の酸素(濃度)を効果的に低減することができるため、光硬化型材料が光照射されることによって生じるラジカルが、雰囲気中の酸素と反応することを抑制できる。その結果、光硬化型材料の硬化性を向上させることが可能となる。」(【0010】)という作用効果は、引用発明においても、ガス噴出が紫外光照射部の上流で行われていることから、格別顕著なものとは認められない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は意見書において、次のように主張している。
ア 「本願発明1の『第1導入部』は、『前記空間部の上面または側面に接続されて』います。すなわち、第1導入部は空間部に直接接続されています。
引用例1の段落[0021]には、『発光ダイオード20や、発光ダイオード20が取り付けられた光源部本体11などから、紫外光照射部2が構成されている。』と記載されており、段落[0022]には、『光源部本体11には、…ゴムホースが接続されており、ゴムホースを通して送られてきた窒素ガスはフード12に送られ』ることが記載されています。すなわち、ゴムホース(第1導入部)は、光源部本体11に接続されており、フード12(空間部)には直接接続されていません。
引用発明のゴムホースは、フード12の上面にも側面にも接続されていないので、ゴムホースが本願発明1の第1導入部に相当するという一致点の認定には誤りがあります。言い換えれば、ゴムホースがフード12の上面または側面に接続されていない点は相違点として認定されるべきものです。
このような認定の誤りに基づいて成された進歩性の判断は、誤りであると言わざるを得ません。」
イ 「新請求項1に係る発明は、酸素による光硬化型樹脂の硬化阻害を低減するために、第1供給部から不活性ガスを供給しており、多孔質部によって均一な供給を実現しています(段落[0042])。さらに均一な供給のために、多孔質部を用いることに加えて、第1導入部から空間部にガスを導入し、空間部を一旦ガスで充満させて多孔質部から供給します(段落[0047])。第1供給部全体の構造は、第1導入部、空間部および多孔質部が上方から下方に向かって並んでおり、その内部を不活性ガスが流れ、多孔質部の下方から光硬化型材料に向けて不活性ガスが供給されます(段落[0049])。
これらの記載は、不活性ガスの均一な供給には、第1供給部から多孔質部までのガスの流れが重要であることを示しています。
一方、引用発明では、ゴムホースを通して送られてきた窒素ガスは、光源部本体11を通ってからフード12に送られ、窒素ガス噴出口12aから噴出されます。具体的に窒素ガスがどのような経路を流れて噴出されるかは記載されていないものの、光源部本体11の内部には、点灯回路や冷却機構が収納されており(段落[0021])、そのような光源部本体11を通ってからフードに送られた窒素ガスが、新請求項1に係る発明と同程度の均一さで供給されることはあり得ません。このことは、引用発明が、装置の小型化を目的としており、均一な窒素ガスの供給を想定していないことから明らかです。
以上より、新請求項1に係る発明と引用発明とでは、第1導入部が相違し、引用発明に多孔質部材を適用したとしても、新請求項1に係る発明に想到し得ないことは明らかです。
なお、第1導入部の接続位置は、供給すべき不活性ガスの流れに影響を与え、均一な供給のために必要な構成ですので、引用発明において、光源部本体11に接続するか、フード13に接続するかは、当業者が適宜決定するような事項ではなく、設計的事項ではありません。」

(2)当審の判断
ア 上記(1)アについて
上記3(1)エで述べたように、ゴムホース(第1導入部)は、フード12には直接接続されていないとしても、ゴムホース(第1導入部)が接続される「光源部本体11」と「フード12」とは一体のものであるから、「ゴムホース」は「フード12」に「上面」で接続されているといえる。また、そうでないとしても、配管によって延長され、実質的に隣接する「フード12」に「側面」で接続されているといえる。
イ 上記(1)イについて
多孔質部を用いることによって不活性ガスが均一に供給されることは、当業者にとって明らかな作用効果である。また、本願発明が規定する「第1導入部」及び「空間部」を有することで、不活性ガスの流れが均一になることついて、当業者が予測し得ないような格別顕著なものとなるという根拠は明細書の記載からは見いだせないし、そのようなことは当業者にとって明らかであるともいえない。
ウ 小括
以上のことから、請求人の主張は採用できない

5 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願請求項2〜15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-11-11 
結審通知日 2021-11-16 
審決日 2021-11-30 
出願番号 P2018-509476
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 川端 修
木村 敏康
発明の名称 光照射装置および印刷装置  
代理人 西教 圭一郎  

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