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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C09C
管理番号 1386194
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-14 
確定日 2022-07-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6935505号発明「Alを含有する酸化鉄顔料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6935505号の請求項1ないし10、12に係る特許を維持する。 
理由 理由
第1 手続の経緯
特許第6935505号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年3月31日 (EP)欧州特許庁 2017年7月4日 (EP)欧州特許庁 2018年2月5日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和3年8月27日にその特許権の設定登録がされ、同年9月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1〜10、12に対し、令和4年3月14日に特許異議申立人 金田綾香(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6935505号の請求項1〜10、12に係る発明(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜10、12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
式:Fe2−xAlxO3
(式中、x値は、0.01〜0.25である)
のアルミニウム含有酸化鉄顔料であって、
DIN EN ISO 787−25:2007に準拠して、それぞれの場合において、アルキド樹脂中で原色として測定して、a*値が30.5〜32.5CIELAB単位であり、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり、かつ彩度Cab*が39.8〜44.6CIELAB単位であることを特徴とする、アルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項2】
6.5〜12.5m2/gの、BET法による比表面積を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項3】
ヘマタイト構造で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項4】
マンガンとクロムとの合計含量が、前記アルミニウム含有酸化鉄顔料を基準にして500ppm未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項5】
マグネシウムの量が、前記アルミニウム含有酸化鉄顔料を基準にして500ppm未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項6】
0.8重量%未満の水分含量を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項7】
有機及び/又は無機コーティングを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項8】
DIN EN 12877−2に準拠して、200℃から320℃への温度上昇時の彩度(Cab*)の変化(ΔCab*)によって決定して、HDPEポリエチレン中において1%の顔料添加量で測定される熱安定性が、3CIELAB単位未満であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項9】
前記式において、前記Alの指数xは、0.01〜0.10であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。
【請求項10】
前記式において、前記Alの指数xは、0.11〜0.25であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料。

【請求項12】
ペースト、ペイント、プラスチック、紙及び建築材料の着色のための、請求項1〜10のいずれか一項に記載のアルミニウム含有酸化鉄顔料の使用。」

第3 申立理由の概要
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜10、12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2011−102238号公報
甲第2号証:特開平11−228144号公報
甲第3号証:HASHIMOTO, H, et al., Preparation of Yellowish-Red Al-Substituted α-Fe2O3 Powders and Their Thermostability in Color., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2014, pp. 20282-20289

理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜10、12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(1)本件特許発明1について
先ず、本件特許発明1の構成要件B及び本件特許明細書の段落0021には、a*値が「30.5〜32.5CIELAB単位」であることが記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、a*値が32.1CIELAB単位以下の例しか開示されていない(本件特許明細書の表3及び表5参照)。従って、本件特許明細書からは、a*値が32.1CIELAB単位以下の場合しか本件特許発明1の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Bに関し、a*値が32.1CIELAB単位より大きく且つ32.5CIELAB単位以下の場合でも本件特許発明1の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
次に、本件特許発明1の構成要件C及び本件特許明細書の段落0021には、b*値が「25.5〜30.5CIELAB単位」であることが記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、b*値が29.9CIELAB単位以下の例しか開示されていない(本件特許明細書の表3及び表5参照)。従って、本件特許明細書からは、b*値が29.9CIELAB単位以下の場合しか本件特許発明1の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Cに関し、b*値が29.9CIELAB単位より大きく且つ30.5CIELAB単位以下の場合でも本件特許発明1の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
次に、本件特許発明1の構成要件D及び本件特許明細書の段落0025には、彩度Cab*が「39.8〜44.6CIELAB単位」であることが記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、彩度Cab*が43.9CIELAB単位以下の例しか開示されていない(本件特許明細書の表5及び表6参照)。従って、本件特許明細書からは、彩度Cab*が43.9CIELAB単位以下の場合しか本件特許発明1の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Dに関し、彩度Cab*が43.9CIELAB単位より大きく且つ44.6CIELAB単位以下の場合でも本件特許発明1の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明1の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
以上の通りであるから、本件特許発明1はサポート要件を充足しておらず、特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
(2)本件特許発明2、本件特許発明3、本件特許発明7及び本件特許発明12について
本件特許発明2、本件特許発明3、本件特許発明7及び本件特許発明12は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
(3)本件特許発明4について
先ず、本件特許発明4は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明4は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明4の構成要件Hには、マンガンとクロムとの合計含量が「アルミニウム含有酸化鉄顔料を基準にして500ppm未満」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0031には、マンガンとクロムとの合計含量の好適値として「500ppm未満」が記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、マンガンとクロムとの合計含量が23未満ppmの例しか開示されていない(本件特許明細書の表4参照)。
従って、本件特許明細書からは、マンガンとクロムとの合計含量が23未満ppmの場合しか本件特許発明4の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Hに関し、マンガンとクロムとの合計含量が23ppm以上且つ500ppm未満の場合でも本件特許発明4の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明4の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(4)本件特許発明5について
先ず、本件特許発明5は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明5は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明5の構成要件Iには、マグネシウムの量が「アルミニウム含有酸化鉄顔料を基準にして500ppm未満」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0032には、マグネシウムの量の好適値として「500ppm未満」が記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、マグネシウムの量が一切開示されていない。
従って、当業者は、構成要件Iに関し、マグネシウムの量が500ppm未満の場合に本件特許発明5の効果が奏されるのかを本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明5の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(5)本件特許発明6について
先ず、本件特許発明6は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明6は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明6の構成要件Jには、アルミニウム含有酸化鉄顔料の水分含量」が「0.8重量%未満」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0029には、水分含量の好適値として「0.8重量%未満」が記載されている。
しかしながら、本件特許明細書の実施例には、水分含量が一切開示されていない。従って、当業者は、構成要件Jに関し、水分含量が0.8重量%未満の場合に本件特許発明6の効果が奏されるのかを本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明6の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(6)本件特許発明8について
先ず、本件特許発明8は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明8は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明8の構成要件Lには、DIN EN 12877−2に準拠して決定されるアルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性が「3CIELAB単位未満」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0026には、アルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性の好適値として「3CIELAB単位未満」が、記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、アルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性が1.3CIELAB単位以下の例しか開示されていない(本件特許明細書の表6参照)。
従って、本件特許明細書からは、アルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性が1.3CIELAB単位以下の場合しか本件特許発明8の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Lに関し、アルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性が1.3CIELAB単位以上且つ3CIELAB単位未満の場合でも本件特許発明8の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明8の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(7)本件特許発明9について
先ず、本件特許発明9は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明9は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明9の構成要件Mには、構成要件Aで規定された式中のx値(Alの指数)が「0.01〜0.10」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0027には、x値の好適値として「0.01〜0.10」が記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、x値が0.047及び0.129の例しか開示されていない(本件特許明細書の表4及び表5参照)。
従って、本件特許明細書からは、x値が0.047の場合しか本件特許発明9の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Mに関し、x値が0.01以上且つ0.047未満の場合、及び0.047より大きく且つ0.10以下の場合でも本件特許発明9の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明9の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(8)本件特許発明10について
先ず、本件特許発明10は、本件特許発明1の構成をすべて包含することから、本件特許発明1と同様に特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
次に、本件特許発明10は、以下の点においても特許法第113条第4号に該当し、取消されるべきものである。
即ち、本件特許発明10の構成要件Nには、構成要件Aで規定された式中のx値(Alの指数)が「0.11〜0.25」であることが記載されている。又、本件特許明細書の段落0028には、x値の好適値として「0.11〜0.25」が記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例には、x値が0.047及び0.129の例しか開示されていない(本件特許明細書の表4及び表5参照)。
従って、本件特許明細書からは、x値が0.129の場合しか本件特許発明10の効果を奏することが確認できない。言い換えれば、構成要件Nに関し、x値が0.11以上且つ0.129未満の場合、及び0.129より大きく且つ0.25以下の場合でも本件特許発明10の効果が奏されるのかを、当業者は本件特許明細書の記載から理解することができない。
これらのことから、本件特許発明10の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、本件特許発明10は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。

第4 理由1(進歩性)について
1 甲号証について
甲第1号証:特開2011−102238号公報
甲第2号証:特開平11−228144号公報
甲第3号証:HASHIMOTO, H, et al., Preparation of Yellowish-Red Al-Substituted α-Fe2O3 Powders and Their Thermostability in Color., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2014, pp. 20282-20289

2 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【請求項1】
塩化鉄溶液を噴霧焙焼して得られた酸化鉄粉であって、Mnを0.1〜0.31mass%、Alを0.03〜3mass%含有し、比表面積が6〜14m2/gであることを特徴とする赤色顔料用酸化鉄粉。」
1b「【0002】
酸化鉄(ヘマタイト)は、人体に対する安全性が高く、耐候性や耐薬品性にも優れていることから、赤色の無機顔料として古くから用いられており、現在でも、コンクリートやアスファルト、ゴム、プラスチック、陶磁器などの様々な分野で着色剤として用いられている。
・・・
【0009】
また、特許文献2には、不純物としてMnを含む硫酸第一鉄溶液にアルカリを加えつつ酸化性ガスを吹き込んで鉄酸化物の沈殿を生成させる際に、溶液中の鉄イオン濃度がマンガンイオン濃度より低くならない状態で反応を停止する方法が提案されている。さらに、特許文献3には、塩化第一鉄溶液を用いる湿式合成法おいて、低Mnの黄色酸化鉄や黒色酸化鉄を生成させ、これを熱処理することにより赤色酸化鉄を得る方法が提案されている。しかし、これらの技術は、いずれも湿式法を用いているため、噴霧焙焼法を用いる場合よりもコストが高いという問題がある。
・・・
【0011】
【特許文献1】 特開昭54−064099号公報
【特許文献2】 特開昭63−117915号公報
【特許文献3】 特開平11−228144号公報
【特許文献4】 特開2004−175596号公報
【特許文献5】 特開昭60−215530号公報
・・・」
1c「【0022】
Al:0.03〜3mass%
Alは、上述したように、Mnによる色調が黒ずむ影響を抑制し、鮮やかな赤色を得るのに有効な成分である。Alの含有量が0.03mass%未満では、Mnの悪影響を抑制する効果が充分ではなく、鮮やかな赤色は得られない。逆に、Alが3mass%を超えると、Alの固溶限を超えるため、AlFeO3やα−Al2O3等の酸化鉄(ヘマタイト)以外の相が生成するなどの問題が生じる。よって、Alの含有量は0.03〜3mass%の範囲とする。好ましいAl含有量は0.1〜2.5mass%であり、より好ましくは0.15〜2mass%である。
・・・
【0025】
比表面積:6〜14m2/g
本発明の赤色顔料用酸化鉄粉は、比表面積が6〜14m2/gのものであることが好ましい。赤色酸化鉄の色調は、粒子径に依存することが知られており、粒子径が大きい場合には、紫色や茶色掛かった色となるが、粒子径が小さくなるにつれ、暗赤→赤→黄赤の順に変化する。噴霧焙焼により製造される酸化鉄の比表面積は、一般には3〜4m2/g程度で、粒径が小さい酸化鉄であっても5m2/g程度である。つまり、顔料用の鮮やかな赤色の酸化鉄と比べると粒径が大きいため、茶色や紫色掛かった色をしていて、鮮やかな赤色顔料には程遠いものである。」
1d「【0035】
表1に(発明例1〜11)、(参考例1〜8)および(比較例1〜7)として示した、酸化鉄に換算したMn,Alの含有量がそれぞれ異なるFe濃度が120g/lの塩化第一鉄溶液を噴霧焙焼して塩化鉄系酸化鉄とし、これをアトマイザー、振動ミル、ジェットミルを用いて粉砕し、以下の評価に供した。また、従来例として、市販の塩化鉄系一般酸化鉄(従来例1)、市販の塩化鉄系高純度酸化鉄(従来例2)および市販の赤色顔料用の硫酸鉄系酸化鉄(従来例3)についても同様の評価を行った。
(a)酸化鉄中のMn、Al含有量:ICPで分析
(b)比表面積:BET法にて測定
(c)D50および2μm以上の粗粒量:レーザー回折式粒度分布測定装置(HRA、Microtrac社製)を使用
(d)色調:酸化鉄1gにあまに油0.6gを加えてフーバーマーラーでペースト化し、得られたペーストに透明ラッカー12gを加えて、アプリケーターにて厚み0.2mmの塗膜試料を作製し、得られた試料について、日本電色製の色差計を用いて、L値、a値およびb値を測定し、従来の塩化鉄系一般酸化鉄(従来例1)のL値、a値、b値を基準(0)とし、これからのずれ値(ΔL、Δa、Δb)を求めた。
【0037】
【表1】



(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】 赤色酸化鉄顔料であって、
a) フルシェードで36.0から44.0 CIELAB単位の明度L*、24から30 CIELAB単位のa*値および14から26 CIELAB単位のb*値を示し、
b) ブライトニングを用いた時に59から66 CIELAB単位の明度L*、18から30 CIELAB単位のa*値および4から26 CIELAB単位のb*値を示し、そして
c) 顔料を基準にしてMnを0.012から0.12重量%、Clを0.05から0.59重量%およびCrを40mg/kg未満の量で有する、
赤色酸化鉄顔料。」
2b「【0012】本発明に従う方法で中間体として得る黄色酸化鉄顔料または黒色酸化鉄顔料のマグネシウム含有量は顔料を基準にして0.011から0.11重量%、塩化物含有量は顔料を基準にして0.07から0.7重量%、およびクロム含有量は顔料を基準にして5から40mg/kgである。
・・・
【0020】また、好適には、粒子形状および粒子サイズ分布を調節する調節剤を顔料製造中に添加することも可能である。特にアルミニウム、亜鉛および燐酸塩を挙げるべきである。しかしながら、また、有機調節剤、例えば脂肪族アミン類、ヒドロキシカルボン酸、脂肪アルコール類またはカルボン酸、或はそれらの誘導体を使用することも可能である。」
2c「【0063】
【実施例】実施例1
塩化鉄(II)を用いた黄色酸化鉄製造
撹拌機と気体分散用器具と液体計量用器具を取り付けた撹拌容器に、FeCl2含有量が213.4g/lでHCl含有量が10.3g/lの使用済み酸(鋼板の酸洗い中に生じる如き水とFeCl2とHClの混合物)を用いた沈澱方法によって34℃で生じさせたβ−FeOOH種晶(FeOOH含有量:39.78g/l;FeCl2含有量:65.94g/l)を54.72リットルおよび同じ使用済み酸を113.61 l入れる。この溶液を65℃に加熱する。65℃に到達した時点で、水酸化ナトリウム含有量が300g/lの溶液をpHが2.0に到達するまでpHが1時間当たり4pH単位で上昇する速度でポンプ輸送する。次に、水酸化ナトリウム濃度が300g/lの溶液をpHが3.8に到達するまでpHが1時間当たり0.05pH単位で上昇する速度でポンプ輸送する。同時に、空気を反応が終了するまで1時間当たり100リットルの量で反応混合物の中に通す。次に、水酸化ナトリウム含有量が300g/lの溶液を反応が終了(全FeCl2の沈澱および全HClの中和で決定)するまでpHが一定に保持される量で更に加える。
【0064】得た最終生成物の濾過、洗浄、乾燥および脱凝集を行う。脱凝集後、焼成による赤色顔料の製造で直接使用可能である。
【0065】この生成物は下記の特性を示す:
Mn含有量:顔料を基準にして0.054%
Cl含有量:顔料を基準にして0.45%
Cr含有量:顔料を基準にして20mg/kg。
・・・
【0068】実施例3
FeCl2を用いて製造した黄色酸化鉄の600℃焼成および粉砕
石英ガラス皿に実施例1に従って製造した黄色酸化鉄を100g入れてチャンバ炉内で空気を600 l/時で通しながら141分かけて600℃に加熱した後、炉から取り出して周囲温度に冷却する。
【0069】得た生成物は下記の特性を示す:
色強度の測定(Bayertitan R−KB2でブライトニング)絶対値:
L*:60.1 CIELAB単位
a*:27.6 CIELAB単位
b*:24.0 CIELAB単位
フルシェードの測定
絶対値:
L*:41.4 CIELAB単位
a*:26.5 CIELAB単位
b*:22.4 CIELAB単位
Mn含有量:顔料を基準にして0.037%
Cl含有量:顔料を基準にして0.20%
Cr含有量:顔料を基準にして18mg/kg。」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
3a


」(第20286ページ左欄第36〜60行)

色とAl含有量の関係。次に、ヘマタイト構造のA1置換がヘマタイトの色に及ぼす影響を評価した。A1モル比の異なるサンプルを同じ温度処理で比較したところ、すべての温度において、A1モル比の増加に伴いL*値、a*値及びb*値が大きくなった。この傾向は、おそらく粒子サイズの違いに由来する部分もある。従って、同じ粒子サイズで異なるA1モル比(A1置換量と格子定数)のサンプルの色の構成要素を比較した。サンプル500−0、700−5及び900−10は直径90nmの粒子から成り、サンプル700−0、850−5及び950−10は直径160nmの粒子から成り、サンプル750−0、900−5及び1000−10は直径220nmの粒子から成る。同じ粒子サイズのサンプル格子定数が計算され、それらのA1置換量が異なることが確認された。Figure 6aにサンプルのL*値、a*値及びb*値を示す。3組のサンプルには同様の傾向がみられた。L*値、a*値及びb*値は、A1モル比増加に伴い大きくなった。直径160nmの粒子から成るサンプルの反射率曲線をFigure 6bに示す。550nmを超える波長における反射率は、A1モル比増加に伴い大きくなる。反射率のエッジは、A1モル比の増加に伴い低波長側にシフトする。これらの結果は、ヘマタイト構造のA1置換が明度と彩度を本質的に増加させることを明確に示す。
3b「

」(第20286ページ右欄図6)

図6.異なるA1モル比で同じ粒子サイズのサンプルの色を比較したもの。(a)熱処理したサンプルのa*値及びb*値をプロットしたもの。黒、赤、青のマーカーはそれぞれ直径90、160、220nmの粒子に該当する。挿入図では、熱処理サンプルのL*値とA1モル比の相関を示す。(b)直径160nmの粒子の反射率曲線。L*値、a*値及びb*値は補足情報のTable S5に摘要されている。

3 甲号証に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び発明例6からみて、「塩化鉄溶液を噴霧焙焼して得られた酸化鉄粉からなる赤色顔料であって、Mnを0.16mass%、Alを1.80mass%含有し、日本電色製の色差計を用いて、L値、a値およびb値を測定し、従来の塩化鉄系一般酸化鉄(従来例1)のL値、a値、b値を基準(0)とし、これからのずれ値ΔLが2.95、Δaが8.04、Δbが4.56であり、比表面積が7.2m2/gである赤色顔料。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a、1d参照)。

(2)甲2に記載された発明
甲2には、実施例3の記載からみて、「ブライトニングを用いた時に60.1 CIELAB単位の明度L*、27.6 CIELAB単位のa*値および24.0 CIELAB単位のb*値を示し、フルシェードで41.4 CIELAB単位の明度L*、26.5 CIELAB単位のa*値および22.4 CIELAB単位のb*値を示し、顔料を基準にしてMnを0.037重量%、Clを0.20重量%およびCrを18mg/kg未満の量で有する、黄色酸化鉄顔料。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2c参照)。

4 対比・判断
(1)甲1発明を主引用発明とする場合
ア 本件特許発明1
(ア)甲1発明との対比
甲1発明の「酸化鉄粉からなる赤色顔料」は、アルミニウムを含んでいるから、本件特許発明1の「アルミニウム含有酸化鉄顔料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明1〜6は、「アルミニウム含有酸化鉄顔料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1>
アルミニウム含有酸化鉄顔料が、本件特許発明1では、式:Fe2−xAlxO3
(式中、x値は、0.01〜0.25である)
のものであるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1−2>
アルミニウム含有酸化鉄顔料が、本件特許発明1では、DIN EN ISO 787−25:2007に準拠して、それぞれの場合において、アルキド樹脂中で原色として測定して、a*値が30.5〜32.5CIELAB単位であり、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり、かつ彩度Cab*が39.8〜44.6CIELAB単位であるのに対し、甲1発明は、日本電色製の色差計を用いて、L値、a値およびb値を測定し、従来の塩化鉄系一般酸化鉄(従来例1)のL値、a値、b値を基準(0)とし、それぞれの、これからのずれ値ΔLが2.95、Δaが8.04、Δbが4.56である点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点1−2>について検討する。
<相違点1−2>
甲1には従来の赤色酸化鉄顔料として特許文献3のものが例示されており(摘記1b参照)、この特許文献3は甲2である。
しかし、甲1発明のΔL、Δa、Δbの基準となる甲1における従来例1が甲2であるとまではいえないので、甲2は甲1発明のa*値、b*値、彩度Cab*を求める手がかりとはならないから、甲1発明のa*値、b*値、彩度Cab*は不明である。
仮に、甲1発明のΔL、Δa、Δbの基準となる甲1における従来例1が甲2であるとしても、甲1発明のΔL、Δa、ΔbはCIELAB単位であることは不明(甲1には、L*a*b*との表記がない)であるから、甲2を甲1発明のa*値、b*値、彩度Cab*を求める手がかりとしても、甲1発明のCIELAB単位のa*値、b*値、彩度Cab*は不明である。
そうすると、甲1発明において、DIN EN ISO 787−25:2007に準拠して、それぞれの場合において、アルキド樹脂中で原色として測定して、a*値が30.5〜32.5CIELAB単位であり、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり、かつ彩度Cab*が39.8〜44.6CIELAB単位とする動機付けがあるとはいえない。
仮に、甲1発明のΔL、Δa、ΔbがCIELAB単位であるとしても、甲2には、フルシェードで36.0から44.0 CIELAB単位の明度L*、24から30 CIELAB単位のa*値および14から26 CIELAB単位のb*値を示す、赤色酸化鉄顔料が、記載されているものの(摘記2a参照)、甲2に記載された、従来の塩化鉄系一般酸化鉄のa*値及びb*値から、甲1発明のa*値、b*値、Cab*値を算出すると、a*値は26.04(8.04+18)〜38.04(8.04+30)、b*値は、8.56(4.56+4)〜30.56(4.56+26)、Cab*値、27.4((26.042+10.712)1/2)〜48.8((38.042+30.562)1/2)となり、本件特許発明1の「b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり」を充足せず、甲3にヘマタイト(酸化鉄)においてAlモル比でa*値、b*値を調整できることが記載されているとしても(摘記3a、3b参照)、甲1発明においてb*値を25.5〜30.5CIELAB単位に調整する動機付けはない。
なお、甲1に記載の他の発明例も甲1発明よりΔbが大きいので、本件特許発明1の「b*値が25.5〜30.5CIELAB単位」より遙かに大きいものとなる。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許明細書の【表5】及び【表6】からみて、本件特許発明1は、従来技術における赤色酸化鉄顔料に対して色空間を拡張し、高い彩度Cab*及び熱安定性を有するものであり、そのような効果は、甲1発明、並びに、甲2及び甲3の記載から予測できない顕著なものであるといえる。

(エ)小括
以上のとおり、<相違点1−1>について検討するまでもなく、甲1発明、並びに、甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2〜10、12について
本件特許発明2〜10.12は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲1発明との<相違点1−2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1−2>については上記ア(イ)及び(ウ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2〜10、12は、甲1発明、並びに、甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)甲2発明を主引用発明とする場合。
ア 本件特許発明1
(ア)甲2発明との対比
甲2発明の「黄色酸化鉄顔料」は本件特許発明1の「酸化鉄顔料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は「酸化鉄顔料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
酸化鉄顔料が、本件特許発明1では、式:Fe2−xAlxO3
(式中、x値は、0.01〜0.25である)
のアルミニウム含有酸化鉄顔料であるのに対し、甲2発明はアルミニウム含有酸化鉄顔料でない点。

<相違点2−2>
本件特許発明1では、アルミニウム含有酸化鉄顔料が、DIN EN ISO 787−25:2007に準拠して、それぞれの場合において、アルキド樹脂中で原色として測定して、a*値が30.5〜32.5CIELAB単位であり、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり、かつ彩度Cab*が39.8〜44.6CIELAB単位であるのに対し、甲2発明は、酸化鉄顔料が、フルシェード41.4 CIELAB単位の明度L*、26.5 CIELAB単位のa*値および22.4 CIELAB単位のb*値を示すものである点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点2−2>について検討する。
甲1には、日本電色製の色差計を用いて、L値、a値およびb値を測定し、従来の塩化鉄系一般酸化鉄(従来例1)のL値、a値、b値を基準(0)とし、これからのずれ値ΔLが2.95〜4.36、Δaが8.04〜11.89、Δbが4.56〜4.76である発明例の赤色顔料が、記載されているものの(摘記1d参照)、甲2発明において、顔料として甲1に記載の発明例のものを採用する動機付けがあるとはいえない。
仮に、そのような動機付けがあるとしても、上記(1)ア(イ)のとおり、甲1の発明例のものの甲1発明のCIELAB単位のa*値、b*値、彩度Cab*は不明であるし、CIELAB単位であっても、本件特許発明1の「b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり」を充足しないものであるから、甲2発明において、顔料として甲1に記載の発明例のものを採用しても、本件特許発明1の「b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であり」を充足するものとはならない。
さらに、甲3にはヘマタイト(酸化鉄)においてAlモル比でa*値、b*値を調整できることが記載されているとしても(摘記3a、3b参照)、甲2発明において、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位であるものとする動機付けはない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
上記(1)ア(ウ)と同様の理由により、本件特許発明1により奏される効果は、甲2発明、並びに、甲1及び甲3の記載から予測できない顕著なものであるといえる。

(エ)小括
以上のとおり、<相違点2−1>について検討するまでもなく、甲2発明、並びに、甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2〜10、12について
本件特許発明2〜10.12は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲2発明との<相違点2−2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2−2>については上記ア(イ)及び(ウ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2〜10、12は、甲2発明、並びに、甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第4 理由2(サポート要件)について
1 本件特許発明の課題について
本件特許発明の課題は、【0020】の記載からみて、従来技術における赤色酸化鉄顔料に対して色空間を拡張し、高い彩度Cab*及び特に改良された熱安定性を有するような顔料赤色顔料を提供することにあると認める。

2 判断
(1)本件特許発明1について
本件特許明細書の実施例には、a*値が32.1CIELAB単位までの例、b*値が29.9CIELAB単位までの例、彩度Cab*が43.9CIELAB単位までの例が、上記課題を解決できることが、記載されており、その値を少し超える、a*値が32.1CIELAB単位より大きく且つ32.5CIELAB単位以下の場合、b*値が29.9CIELAB単位より大きく且つ30.5CIELAB単位以下の場合、彩度Cab*が43.9CIELAB単位より大きく且つ44.6CIELAB単位以下の場合に、従来技術における赤色酸化鉄顔料に対して、色空間を拡張し、高い彩度となっているから、上記課題を解決できているのは明らかであるから、a*値が30.5〜32.5CIELAB単位の範囲、b*値が25.5〜30.5CIELAB単位の範囲、彩度Cab*が39.8〜44.6CIELAB単位の範囲においても、上記課題を解決できるといえるし、特許異議申立の理由は、上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、本件特許発明1の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(2)本件特許発明2、本件特許発明3、本件特許発明7及び本件特許発明12について
本件特許発明2、本件特許発明3、本件特許発明7及び本件特許発明12は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(3)本件特許発明4について
先ず、本件特許発明4は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
本件特許明細書の実施例には、マンガンとクロムとの合計含量が23ppm未満の例が開示され、本件特許明細書からは、マンガンとクロムとの合計含量が23ppm未満の場合に上記課題を解決できることが確認でき、マンガンとクロムとの合計含量が23ppm以上且つ500ppm未満の場合でも、マンガンとクロムとの合計含量は十分に低く、上記課題を解決できないとまではいえないし、特許異議申立の理由は、上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、本件特許発明4の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(4)本件特許発明5について
先ず、本件特許発明5は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
確かに、本件特許明細書の実施例には、マグネシウムの量が一切開示されていない。
しかし、マグネシウムの量が500ppm未満であれば、マグネシウムの量は十分に低く、上記課題を解決できないとまではいえないし、特許異議申立の理由は、上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、本件特許発明5の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(5)本件特許発明6について
先ず、本件特許発明6は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
確かに、本件特許明細書の実施例には、水分含量が一切開示されていないが、実施例のものは700℃以上で30分焼成されたものであるから、水分含量は限りなく0に近く、0.8重量%未満であるといえる。
従って、当業者は、水分含量が0.8重量%未満の場合に、上記課題を解決できると理解できる。
そうすると、本件特許発明6の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(6)本件特許発明8について
先ず、本件特許発明8は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
本件特許明細書の実施例には、アルミニウム含有酸化鉄顔料の熱安定性が1.3CIELAB単位以下の例が、上記課題を解決できることが、記載されており、熱安定性が1.3CIELAB単位以上且つ3CIELAB単位未満の場合でも、十分熱安定性を有するといえ、上記課題を解決できると理解できる。
そうすると、本件特許発明8の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(7)本件特許発明9について
先ず、本件特許発明9は、本件特許発明1の構成をすべて包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
本件特許明細書の実施例には、x値が0.047及び0.129の例が、上記課題を解決できることが、記載されており、x値が0.01以上且つ0.047未満の場合、及び0.047より大きく且つ0.10以下の場合に、上記課題を解決できないとまではいえないから、x値が0.01〜0.10の範囲において、上記課題を解決できるといえるし、特許異議申立の理由は、上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、本件特許発明9の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
(8)本件特許発明10について
先ず、本件特許発明10は、包含するものであるが、本件特許発明1と同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。
本件特許明細書の実施例には、x値が0.047及び0.129の例が、上記課題を解決できることが、記載されており、x値が0.11以上且つ0.129未満の場合、及び0.129より大きく且つ0.25以下の場合に、上記課題を解決できないとまではいえないから、x値が0.11〜0.25の範囲において、上記課題を解決できるといえるし、特許異議申立の理由は、上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、本件特許発明10の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとは言えない。
よって、本件特許発明10は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜10、12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜10、12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-05 
出願番号 P2019-553343
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C09C)
P 1 652・ 537- Y (C09C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
登録日 2021-08-27 
登録番号 6935505
権利者 ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
発明の名称 Alを含有する酸化鉄顔料  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

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