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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1386680
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-28 
確定日 2021-12-21 
事件の表示 特願2017−521799「光電変換素子および固体撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 8日国際公開、WO2016/194630、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)5月19日(優先権主張 平成27年5月29日、平成28年3月31日)を国際出願日とする出願であって、令和2年9月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和2年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月23日付け)の概要は以下のとおりである。

本願の請求項1−5、14、16に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1−8、14−20に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010−67642号公報

第3 本願発明
本願請求項1−17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明17」という。)は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1−17に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、本願発明1及び本願発明17はそれぞれ以下のとおりの発明である。

[本願発明1]
「対向配置された第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する光電変換素子。」

[本願発明17]
「各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、前記有機光電変換部は、対向配置された第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する固体撮像装置。」

本願発明2−16、本願発明18−20は、それぞれ本願発明1、本願発明17を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明
1.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審が付した。)。

(1)「【0028】
また有機色素23は、ドナードメイン21及びアクセプタドメイン22に対し非相溶でかつこれらを構成する分子よりも自己凝集性が小さいことが望ましい。これにより、有機色素23は、ドメイン界面に広範かつ安定的に定着することができる。さらに、後記するようにドナードメイン21及びアクセプタドメイン22の二相分離構造を発現させる過程において、ドメイン界面に有機色素23を析出させることができる。
【0029】
しかし、前記したπ 共役系化合物は、一般的性質として、π 電子の分子軌道の重なり合いが原因である分子間の相互作用により凝集しやすい性質を有している。そこで、有機色素23は、嵩高い置換基により分子間の凝集が阻害され、強く自己凝集することのないものが好ましい。これにより、有機色素23はドメイン界面に広範かつ安定的に定着することができる。
さらに有機色素23は、ドメイン界面において接するドナードメイン21の最も長波長側の吸収ピークよりも長波長側に溶液状態に類似した強い吸収ピークを示すものであることが好ましい。これにより、有機色素23は、ドナードメイン21で発生した励起子のエネルギーを効率よく受け取ることができる。」

(2)「【実施例】
【0059】
以下、図6から図17を参照して、本発明の効果を確認した実施例について説明する。<正孔輸送層30の作製>正孔輸送層30はポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の錯体であるPEDOT−PSSを主成分として構成した。 【0060】 トルエン、アセトン、エタノール溶液により超音波処理を各15分間行って洗浄したITO透明電極の表面に1.0−1.4wt%のPEDOT−PSS水溶液をキャストし、スピンコートを施した。回転速度は、最初の10秒間が400rpm、その後99秒間は3000rpmにて行った。このスピンコートにより得た高分子膜を140℃にて10分間の乾燥により溶媒を除去し、膜厚40nmの正孔輸送層30を得た(図6(a)参照)。 【0061】 <活性層20の作製>次に、1mLのクロロベンゼンに、ドナードメイン21の主成分であるドナー分子Dとしてポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT))を10mg、アクセプタドメイン22の主成分であるアクセプタ分子Aとしてフラーレン誘導体(C61−PCBM)を10mg、有機色素23としてシリコンフタロシアニン誘導体を0.7mg加えて、均一溶液を得た。【0062】 この溶液を正孔輸送層30の表面にキャストし、スピンコートを施した。回転速度は1200rpmにて、60秒間行った。このスピンコートにより有機薄膜を得る(図6(b))。得た有機薄膜を真空乾燥して溶媒を除去するとP3HTの微結晶体とC61−PCBMの微結晶体との集合体にSiPcが分散している有機薄膜(図7(c))が得られる。次に、窒素雰囲気下150℃で30分間アニール(熱処理)すると、これら微結晶体が連結し合って成長しドメイン21,22が形成するとともに、その界面にSiPcが析出する(図7(d))。 【0063】 <電子輸送層40の作製>次に、チタニウムイソプロポキシドを脱水エタノールにより100倍に希釈したものを、4000rpm、60秒間の条件で活性層20の表面にスピンコートし、大気中、冷暗所にて一晩保存することで、ゾル・ゲル法により電子輸送層40としてTiOx層を得る(図7(e))。 【0064】 <対向電極12の作製>真空蒸着装置を用いて、電子輸送層40の上にアルミニウムを蒸着して対向電極とした。なお条件は、<1nm・s−1の蒸着速度にて400秒間蒸着を行い、厚さ70nmのアルミニウム電極層12を得た(図7(e))。以上のようにして、実施例に係る光電変換素子を作製した(図3参照)。

図3(a)


(3)「【0065】
<比較例1>次に、比較例1として、実施例と比較してアニール処理を行わない場合の光電変換素子を作製した。実施例と同じ方法で作製された有機薄膜(図7(c))を比較例1に係る活性層とする。これにアニール処理を行わずに電子輸送層40と対向電極12を作製して比較例1に係る光電変換素子を得る(図7(f))。 【0066】 <比較例2>次に、比較例2として、実施例と比較して有機色素23を含まずアニール処理も行わない場合の光電変換素子を作製した。実施例と同じ方法で作製された電極基板の正孔輸送層30の上に、SiPcを配合しないことを除き同じ方法で溶液を塗布し(図6(b´))、さらに溶媒を揮発させて比較例2に係る活性層を得る(図8(c´))。これにアニール処理を行わずに電子輸送層40と対向電極12を作製して比較例2に係る光電変換素子を得る(図8(f´))。

【0067】 <比較例3>次に、比較例3として、実施例と比較して有機色素23を含まないが、アニール処理は行っている場合の光電変換素子を作製した。前記した比較例2に係る活性層(図8(c´))にアニール処理を行なって比較例3に係る活性層を得(図8(d´))、さらに電子輸送層40と対向電極12を作製して比較例3に係る光電変換素子を得る(図8(e´))。 【0070】 <比較検討結果>図9は、実施例及び比較例1,2,3に係る活性層における、照射光の各波長に対する吸光度の測定グラフである。この吸光度の測定結果は、透明基板11に設けられた状態の活性層に、紫外−可視光を透過させて紫外可視吸収スペクトルを得、後で透明基板11のみのスペクトルを差し引いた結果である。 【0071】 吸光度の測定グラフ(図9)における400−650nmの吸収帯はP3HTに由来し、670nmの鋭いピーク状の吸収帯はSiPcに由来するものである。なお、スケールアウトしているが、C61−PCBMに由来する吸収帯が340nm近傍に観測されている。これより、アニール処理を実施することにより、SiPcに由来する吸光度は変化しないが、P3HTに由来する吸光度は向上することが観測される。これは、アニール処理により、SiPcの結晶構造は変化しないが、P3HTでは非晶(アモルファス)が結晶化したことによる。

図9




(4)図9は、実施例に係る活性層における、照射光の各波長に対する吸光度の測定グラフを含むものであり、この吸光度の測定結果は、透明基板11に設けられた状態の活性層に、紫外−可視光を透過させて紫外可視吸収スペクトルを得、後で透明基板11のみのスペクトルを差し引いた結果である(【0070】)ところ、【0071】の記載を併せみれば、SiPcの吸収帯は670nm付近であって、その吸収帯における極大光吸収波長の吸光度は、P3HTに由来する400−650nmの吸収帯における極大光吸収波長の吸光度の約1/5倍の大きさであることが見て取れる。

2.したがって、引用文献1には、【0059】〜【0064】に記載された実施例に係る光電変換素子について、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付してある。
「ITO透明電極の表面に正孔輸送層30を得て、(【0060】)
活性層20の作製のために、次に、クロロベンゼンに、ドナードメイン21の主成分であるドナー分子Dとしてポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)を10mg、アクセプタドメイン22の主成分であるアクセプタ分子Aとしてフラーレン誘導体(C61−PCBM)を10mg、有機色素23としてシリコンフタロシアニン誘導体(SiPc)を0.7mg加えて、均一溶液を得て、この溶液を正孔輸送層30の表面にキャストし、スピンコートにより有機薄膜を得て、得た有機薄膜を真空乾燥して溶媒を除去するとP3HTの微結晶体とC61−PCBMの微結晶体との集合体にSiPcが分散している有機薄膜が得られ、次に、窒素雰囲気下150℃で30分間アニール(熱処理)すると、これら微結晶体が連結し合って成長しドメイン21,ドメイン22が形成するとともに、その界面にSiPcが析出し、(【0061】・【0062】)
次に、チタニウムイソプロポキシドを脱水エタノールにより希釈したものを、活性層20の表面にスピンコートし、ゾル・ゲル法により電子輸送層40としてTiOx層を得て、(【0063】)
電子輸送層40の上にアルミニウムを蒸着して対向電極として、作製された光電変換素子であって、(【0064】)
活性層における、照射光の各波長に対する吸光度であって、この吸光度の測定結果は、透明基板11に設けられた状態の活性層に、紫外−可視光を透過させて紫外可視吸収スペクトルを得、後で透明基板11のみのスペクトルを差し引いた結果であるものについて、SiPcの吸収帯は670nm付近であって、その吸収帯における極大光吸収波長の吸光度は、P3HTに由来する400−650nmの吸収帯における極大光吸収波長の吸光度の約1/5倍の大きさである、(上記1.(4))、
光電変換素子」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1の特定事項毎に、本願発明1と引用発明を対比する。

ア.本願発明1の「対向配置された第1電極および第2電極と、」について
引用発明の「ITO透明電極」及び「対向電極」は、それぞれ、本願発明1の「第1電極」及び「第2電極」に相当する。
引用発明の「対向電極」が、「ITO透明電極」に本願発明1でいう「対向配置され」ていることは、明らかである。
したがって、両者に相違点はない。

イ.本願発明1の「前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、」について
引用発明は、「活性層20」が、「ITO透明電極の表面」に「得」られた「正孔輸送層30」の「表面」に形成されているとともに、「活性層20」の上に、「電子輸送層40」及び「対向電極」がこの順に形成されているといえるから、当該「活性層20」は、「ITO透明電極」(本願発明1の「第1電極」に相当。)と「対向電極」(本願発明1の「第2電極」に相当。)との間に設けられているといえる。
また、引用発明の「活性層20」は本願発明1の「光電変換層」に、以下、同様に、「フラーレン誘導体(C61−PCBM)」は「第1有機半導体材料」に、有機色素23としての「シリコンフタロシアニン誘導体(SiPc)」は「第2有機半導体材料」に、「ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)」は「第3有機半導体材料」に、それぞれ相当する。また、引用発明において三者の母骨格が相違していることは明らかである。
したがって、両者に相違点はない。

ウ.本願発明1の「前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、」について
引用発明の「活性層20」に含まれる「アクセプタドメイン22の主成分であるアクセプタ分子Aとして」の「フラーレン誘導体(C61−PCBM)」(本願発明1の「第1有機半導体材料」に相当。)は、本願発明1の「フラーレン誘導体」に相当する。
したがって、両者に相違点はない。

エ.本願発明1の「前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、」について
引用発明は、本願発明1の上記特定事項を備えているか不明である。

オ.本願発明1の「前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する」について
引用発明にはポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)や有機色素であるシリコンフタロシアニン誘導体(SiPc)のHOMO準位についての記載はなく、「前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する」かどうかは不明である。
このため、この点で両者は相違している。

カ.本願発明1の「光電変換素子」について
引用発明の「光電変換素子」は、本願発明1の「光電変換素子」に相当する。
したがって、両者に相違点はない。

(2)一致点及び相違点の認定
以上(1)の対比によれば、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。

(一致点)
「対向配置された第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体である、光電変換素子。」

(相違点1)
本願発明1では、「第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高い」のに対し、引用発明では、「活性層における、照射光の各波長に対する吸光度であって、この吸光度の測定結果は、透明基板11に設けられた状態の活性層に、紫外−可視光を透過させて紫外可視吸収スペクトルを得、後で透明基板11のみのスペクトルを差し引いた結果であるものについて、SiPcの吸収帯は670nm付近であって、その吸収帯における極大光吸収波長の吸光度は、P3HTに由来する400−650nmの吸収帯における極大光吸収波長の吸光度の約1/5倍の大きさである」点。

(相違点2)
本願発明1では、「前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する」のに対し、引用発明では、第2有機半導体材料及び第3有機半導体材料のHOMO準位についてはいずれも不明であって、両者の相対関係も不明である点。

(3)判断
相違点1について検討する。
ア 引用発明は、活性層における吸光度について、SiPc(本願発明1の「第2有機半導体材料」に相当。)の可視光領域における極大光吸収波長(以下「可視光領域における極大光吸収波長」を「特定波長」という。)の吸光度が、P3HT(本願発明1の「第3有機半導体材料」に相当。)の特定波長の吸光度の約1/5倍であるといえる。他方、相違点1に係る本願発明1の構成では、「単層膜の状態における」特定波長の「線吸収係数」について、第2有機半導体材料が第1有機半導体材料及び第3有機半導体材料よりも高いことが特定されている。ここで、線吸収係数は、吸光度を媒質の長さで除した値に比例すると解される。
そうすると、引用発明が、相違点1に係る構成を満たすためには、「単層膜の状態における」同一厚さの媒質の特定波長の吸光度について、第2有機半導体材料(SiPc)が、少なくとも、第3有機半導体材料(P3HT)よりも高いことが必要である。

イ しかしながら、引用発明がそのようにいえるかは不明である。
すなわち、引用発明では、特定波長の吸光度が、上記のとおり、活性層の状態において得られているから、これを相違点1に係る構成と対比するためには、同一厚さの単層膜の状態における吸光度を推測する必要がある。この点、引用発明は、活性層の状態における特定波長の吸光度でみると、SiPcは、P3HTの約1/5倍(20%程度)という低さになっている一方で、質量でみると、SiPc(0.7mg)は、P3HT(10mg)の7%しか存在しないことから、同一厚さの単層膜の状態における特定波長の吸光度でみれば、SiPcは、P3HTの約1/5倍よりは、相当程度大きくなるとは予想される。しかしながら、SiPcとP3HTについて同一厚さの単層膜を作製したときに、それらがどの程度の質量比となるのか、また、それらがどのような構造となっているのかは、材料の分子構造や大きさ、相互作用にもよるところであって、引用発明における両者の質量比に基づいて、同一厚さの単層膜の状態における特定波長の吸光度が具体的にどのような関係になるのかを推測できるとする根拠を見いだせない。
したがって、引用発明が相違点1を満たしているのかは不明であり、よって、相違点1は実質的であるというべきである。

ウ そして、相違点1は、当業者が容易に至るものともいえない。
すなわち、引用発明は、上記第4の2.のとおり、引用文献1に記載された実施例に基づいて認定されているところ、引用発明において相違点1の構成に至るためには、SiPc又はP3HTの少なくともいずれか一方を別の材料に置換する必要がある。しかしながら、このようにするための具体的な動機があるとはいえない。この点、引用文献1には、【0029】に「有機色素23は、ドメイン界面において接するドナードメイン21の最も長波長側の吸収ピークよりも長波長側に溶液状態に類似した強い吸収ピークを示すものであることが好ましい。これにより、有機色素23は、ドナードメイン21で発生した励起子のエネルギーを効率よく受け取ることができる。」と記載されており、一見、有機色素であるSiPcをより極大光吸収波長の線吸収係数が高い材料に変更することが示唆されているようにも見受けられる。しかしながら、引用文献1の【0028】【0029】には「また有機色素23は、ドナードメイン21及びアクセプタドメイン22に対し非相溶でかつこれらを構成する分子よりも自己凝集性が小さいことが望ましい。これにより、有機色素23は、ドメイン界面に広範かつ安定的に定着することができる。さらに、後記するようにドナードメイン21及びアクセプタドメイン22の二相分離構造を発現させる過程において、ドメイン界面に有機色素23を析出させることができる。しかし、前記したπ 共役系化合物は、一般的性質として、π 電子の分子軌道の重なり合いが原因である分子間の相互作用により凝集しやすい性質を有している。そこで、有機色素23は、嵩高い置換基により分子間の凝集が阻害され、強く自己凝集することのないものが好ましい。これにより、有機色素23はドメイン界面に広範かつ安定的に定着することができる。」とあるように、引用発明においては、有機色素の選択は、非凝集性といった特定波長の線吸収係数以外の性質をも考慮した上で決定される事項であって、一概にSiPcを相違点1に該当する本願発明1の構成を充足するような材料に変更することが当業者に容易であったとはいうことはできない。また、P3HTを相違点1に該当する本願発明1の構成を充足するような他の材料に置換することについても、当業者に容易であったというような事情は見当たらない。

エ なお、原査定は、単層膜の状態におけるSiPcの特定波長の線吸収係数が、単層膜の状態におけるP3HTの特定波長の線吸収係数よりも高い旨認定しているが、上記イで説示したとおりである。

オ よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明ではなく、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2−20について
本願発明2−20も、相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2−20は、引用発明ではなく、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1―20は、引用発明ではなく、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-12-02 
出願番号 P2017-521799
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 加々美 一恵
吉野 三寛
発明の名称 光電変換素子および固体撮像装置  
代理人 特許業務法人つばさ国際特許事務所  

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