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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1393891
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-05-18 
確定日 2023-02-09 
事件の表示 特願2020−100849「粘着剤層付片保護偏光フィルム、画像表示装置およびその連続製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月15日出願公開、特開2020−170176、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2020−100849号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)1月12日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年1月15日)を国際出願日とする特願2017−561162号の一部を令和2年6月10日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 3年 7月26日付け:拒絶理由通知書
同年12月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 2月17日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 5月18日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、
1 本件出願の請求項1〜7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
2 本件出願の請求項1〜7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献2に記載された発明、引用文献6及び7に記載された発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

1.特開2015−111236号公報
2.特開2013−72951号公報
6.特開2014−142392号公報
7.特開2012−73570号公報


第3 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項6に係る発明は、令和4年5月18日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項6に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。なお、請求項1〜請求項6に係る発明を、それそれ、以下、「本願発明1」〜「本願発明6」という。

「【請求項1】
偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する片保護偏光フィルムおよび前記片保護偏光フィルムの偏光子側に粘着剤層を有する粘着剤層付片保護偏光フィルムであって、
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、偏光子全量に対してホウ酸を20重量%以下で含有し、厚みが10μm以下であり、かつ、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、下記式
P>−(100.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)、又は、
P≧99.9(ただし、T≧42.3)の条件を満足するように構成されたものであり、
前記粘着剤層の膜厚は40μm未満であり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率をG(Pa)、膜厚をH(μm)としたとき、
40>H≧19の場合は、
G>2975.6e0.2035H、を満足し、
19>H>0の場合は、
G>61469e0.0433H、を満足することを特徴とする粘着剤層付片保護偏光フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層は、貯蔵弾性率が3.5×104Pa以上であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤層付片保護偏光フィルム。
【請求項3】
前記粘着剤層にセパレータが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着剤層付片保護偏光フィルム。
【請求項4】
巻回体であることを特徴とする請求項3記載の粘着剤層付片保護偏光フィルム。
【請求項5】
請求項1又は2記載の粘着剤層付片保護偏光フィルムを有する画像表示装置。
【請求項6】
請求項4記載の前記粘着剤層付片保護偏光フィルムの巻回体から繰り出され、前記セパレータにより搬送された前記粘着剤層付片保護偏光フィルムを、前記粘着剤層を介して画像表示パネルの表面に連続的に貼り合せる工程を含む画像表示装置の連続製造方法。」


第4 当合議体の判断
1 引用文献2を主引用例とする場合
(1)引用文献の記載及び引用発明等
ア 引用文献2について
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用され、先の出願前に頒布された刊行物である、特開2013−72951号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定及び判断等に用いた箇所に下線を付した。その他の文献についても同様である。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも偏光フィルムと保護フィルムを備える偏光板であって、
前記偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層されており、
前記保護フィルムとは反対側の最表面に粘着剤層が設けられており、
前記偏光フィルムの吸収軸と直交する方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに1.0N以下であり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.20MPa以上であることを特徴とする、偏光板。
【請求項2】
前記偏光フィルムの前記保護フィルムとは反対側に少なくとも1枚の光学フィルムを備え、最も前記偏光フィルムから遠い前記光学フィルムの前記偏光フィルムとは反対側の面に前記粘着剤層が設けられている、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記偏光フィルムの吸収軸方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに2.5N以下である、請求項1または2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記偏光フィルムの厚みが10μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の偏光板。
【請求項5】
前記粘着剤層の80℃における貯蔵弾性率が0.15MPa以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の偏光板。
【請求項6】
前記光学フィルムが保護フィルムまたは位相差フィルムである、請求項1〜5のいずれかに記載の偏光板。
【請求項7】
液晶セルの少なくとも片側に、前記粘着剤層を介して請求項1〜6のいずれかに記載の偏光板が貼合された液晶表示装置。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置における偏光の供給素子として、また偏光の検出素子として、広く用いられている。かかる偏光板として、従来より、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを接着したものが使用されているが、近年、液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開、さらには大型テレビへの展開などに伴い、薄肉軽量化が求められている。
【0003】
特許文献1(特開2008−165199号公報)には、従来の偏光フィルム(直線偏光板)に位相差フィルムを積層させてなる楕円偏光板を、貯蔵弾性率の低い軟らかい粘着剤を用いて液晶セルに貼合することにより、偏光フィルムの熱収縮等に起因する位相差フィルムのクラックを防止する方法が開示されている。しかし、弾性率の低い粘着剤を使用しているため、偏光板の寸法変化が大きいという問題があった。
【0004】
また、特許文献2(特開2002−122739号公報)には、偏光フィルムの保護層のMD方向の線膨張係数と偏光板を構成する粘着剤の弾性率の積を特定の範囲にすることで、光抜けの現象を緩和させる方法が開示されている。しかし、この方法も偏光フィルムの膨張・収縮を、線膨張率の低い保護フィルムと弾性率の低い粘着剤を用いて緩和しているため、偏光板の寸法変化が大きいという問題があった。
【0005】
また、特許文献3(国際公開第2009/069799号)には、偏光フィルムの片面に透明保護層(トリアセチルセルロースフィルム)を積層てなる偏光板に、さらに位相差板を積層してなる円偏光板を、貯蔵弾性率の高い粘着剤を使用して液晶セルに貼合することにより、液晶セルに貼り合わせて高温環境下に晒されたときに、偏光フィルムの端部に発生しやすい盛り上がりや光漏れを抑制する方法が開示されている。しかし、この方法で偏光板の寸法は抑制できたとしても、偏光フィルムの収縮により、位相差フィルム等の光化学フィルムにクラックが生じる懸念は残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−165199号公報
【特許文献2】特開2002−122739号公報
【特許文献3】国際公開第2009/069799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、偏光フィルムや位相差フィルム等の他の光学フィルムのクラックや剥がれ、光抜けが抑制され、寸法変化の小さい偏光板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも偏光フィルムと保護フィルムを備える偏光板であって、
前記偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層されており、
前記保護フィルムとは反対側の最表面に粘着剤層が設けられており、
前記偏光フィルムの吸収軸と直交する方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに1.0N以下であり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.20MPa以上であることを特徴とする、偏光板である。
【0009】
前記偏光フィルムの前記保護フィルムとは反対側に少なくとも1枚の光学フィルムを備え、最も前記偏光フィルムから遠い前記光学フィルムの前記偏光フィルムとは反対側の面に前記粘着剤層が設けられていることが好ましい。
【0010】
前記偏光フィルムを、前記偏光フィルムの吸収軸方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに2.5N以下であることが好ましい。また、前記偏光フィルムの厚みが10μm以下であることが好ましい。
【0011】
前記粘着剤層の80℃における貯蔵弾性率が0.15MPa以上であることが好ましい。また、前記光学フィルムが保護フィルムまたは位相差フィルムであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、液晶セルの少なくとも片側に、前記粘着剤層を介して上記の偏光板が貼合された液晶表示装置にも関する。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、収縮力が小さい偏光フィルムと弾性率の高い粘着剤を組み合わせることにより、偏光フィルムや位相差フィルム等の他の光学フィルムのクラックや剥がれ、光抜けが抑制され、寸法変化の小さい偏光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の偏光板の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明の偏光板の製造方法の別の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る偏光板における各構成要素の配置関係を説明するための概略図である。」

(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の偏光板の製造方法の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の偏光板の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。図1に示す本発明の偏光板の製造方法は、基材フィルムの一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムとするポリビニルアルコール系樹脂層形成工程(S10)と、上記ポリビニルアルコール系樹脂層に偏光フィルム化処理を施し偏光フィルムとする偏光フィルム化処理工程(S20)と、上記偏光フィルムの基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合する保護フィルム貼合工程(S30)と、基材フィルムを積層フィルムから剥離する基材フィルム剥離工程(S40)と、保護フィルムとは反対側の最表面に粘着剤層を積層する粘着剤層積層工程(S60)とをこの順に備える。なお、基材フィルム剥離工程(S40)と粘着剤層積層工程(S60)との間に、基材フィルムが剥離された面側に少なくとも一枚の光学フィルムを積層する光学フィルム積層工程(S50)を含んでいてもよい。
・・・省略・・・
【0026】
偏光フィルム化処理工程(S20)は、積層フィルムを延伸する延伸工程(S21)、および、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質で染色する染色工程(S22)を含む。偏光フィルム化処理工程(S20) において、延伸工程(S21)および染色工程(S22)は、この順に限定されることはなく、染色工程(S22)の後に延伸工程(S21)を行っても、延伸工程(S21)と染色工程(S22)とを同時に行ってもよい。
【0027】
[基材フィルム]
本発明で用いられる基材フィルムの材料としては、たとえば、透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート等のセルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物、共重合物などが挙げられる。基材フィルムは、上述の樹脂1種類のみを用いた単層であっても構わないし、樹脂を2種類以上をブレンドしたものであっても構わない。もちろん、単層でなく多層膜を形成していても構わない。
・・・省略・・・
【0059】
[ポリビニルアルコール系樹脂層形成工程]
ポリビニルアルコール系樹脂層形成工程(S10)においては、基材フィルムの一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層( ポリビニルアルコール系樹脂層)を形成する。ポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール樹脂およびその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものが挙げられる。上述のポリビニルアルコール系樹脂材料の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるのが好ましい。
・・・省略・・・
【0067】
ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは、好ましくは3μm超かつ20μm以下であり、より好ましくは5〜20μmである。3μm以下であると延伸後に薄くなりすぎて染色性が著しく悪化してしまい、20μmを超えると、偏光板の厚みが厚くなるので好ましくない。
・・・省略・・・
【0071】
[偏光フィルム化処理工程(S20)]
(延伸工程)
延伸工程(S21)では、基材フィルムおよびポリビニルアルコール系樹脂層からなる積層フィルムを延伸する。その際、一軸延伸することが好ましい。また、積層フィルムの元長に対して、5倍超の延伸倍率となるように一軸延伸することが好ましい。より好ましくは、5倍超かつ17倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。さらに好ましくは5倍超かつ8倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。延伸倍率が5倍以下だと、ポリビニルアルコール系樹脂層が十分に配向しないため、結果として、偏光フィルムの偏光度が十分に高くならない。一方、延伸倍率が17倍を超えると延伸時の積層フィルムの破断が生じ易くなると同時に、積層フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性・ハンドリング性が低下するおそれがある。
【0072】
延伸工程(S21)における延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。多段で行う場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超えの延伸倍率となるように延伸処理を行うことが好ましい。
【0073】
延伸工程(S21)において一軸延伸を行う場合は、積層フィルムの長手方向に対して行う縦延伸処理や、幅方向に対して延伸する横延伸処理、斜め延伸処理などを実施することができる。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法などが挙げられ、横延伸方式としてはテンター法などが挙げられる。
【0074】
また、延伸処理は、湿潤式延伸方法と乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、積層フィルムを延伸する際の温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
【0075】
(染色工程)
染色工程(S22)では、積層フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を、二色性物質で染色する。二色性物質としては、たとえば、ヨウ素や有機染料などが挙げられる。有機染料としては、たとえば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックなどが使用できる。これらの二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
・・・省略・・・
【0080】
(その他の工程)
偏光フィルム化処理工程(S20)において、延伸工程(S21)および染色工程(S22)に加えて、架橋工程を行うことができる。架橋工程は、たとえば、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に積層フィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができる。たとえば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でも良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0081】
架橋溶液として、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、たとえば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでも良い。架橋溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1〜20重量%の範囲にあることが好ましく、6〜15重量%であることがより好ましい。
【0082】
架橋溶液中には、ヨウ化物を添加してもよい。ヨウ化物の添加により、ポリビニルアルコール系樹脂層の面内における偏光特性をより均一化させることができる。ヨウ化物としては、たとえば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。ヨウ化物の含有量は、0.05〜15重量%、より好ましくは0.5〜8重量%である。
【0083】
架橋溶液への積層フィルムの浸漬時間は、通常、15秒〜20分間であることが好ましく、30秒〜15分間であることがより好ましい。また、架橋溶液の温度は、10〜80℃の範囲にあることが好ましい。
【0084】
架橋工程は、架橋剤を染色溶液中に配合することにより、架橋工程と染色工程(S22)とを同時に行うこともできる。また、架橋工程と延伸工程(S21)とを同時に行ってもよい。
・・・省略・・・
【0090】
以上の偏光フィルム化処理工程(S20)により、ポリビニルアルコール系樹脂層が偏光フィルムとしての機能を有することになる。本明細書においては、偏光フィルム化処理工程(S20)を経たポリビニルアルコール系樹脂層を偏光フィルムと言う。
【0091】
得られた偏光フィルムは、偏光フィルムの吸収軸と直交する方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに1.0N以下である。また、偏光フィルムの吸収軸方向の幅2mmあたりの収縮力が、80℃の温度で240分間保持したときに2.5N以下であることが好ましい。また、得られた偏光フィルムの厚みは10μm以下であることが好ましい。
【0092】
[保護フィルム貼合工程]
保護フィルム貼合工程(S30)では、偏光フィルムの基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合する。保護フィルムを貼合する方法としては、粘着剤で偏光フィルムと保護フィルムを貼合する方法、接着剤で偏光フィルム面と保護フィルムを貼合する方法が挙げられる。
【0093】
(保護フィルム)
本発明に用いられる保護フィルムとしては、光学機能を有さない単なる保護フィルムであってもかまわないし、位相差フィルムや輝度向上フィルムといった光学機能を併せ持つ保護フィルムであってもかまわない。保護フィルムの材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂フィルム、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースのような樹脂からなる酢酸セルロース系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのような樹脂からなるポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
・・・省略・・・
【0117】
[基材フィルム剥離工程]
本発明の偏光板の製造方法では、保護フィルムを偏光フィルムに貼合する保護フィルム貼合工程(S30)の後、基材フィルム剥離工程(S40)を行う。基材フィルム剥離工程(S40)では、基材フィルムを積層フィルムから剥離する。基材フィルムの剥離方法は特に限定されるものでなく、通常の粘着剤付偏光板で行われる剥離フィルム(セパレートフィルム)の剥離工程と同様の方法で剥離できる。保護フィルム貼合工程(S30)の後、そのまますぐ剥離してもよいし、保護フィルムを貼合工程(S30)の後、一度ロール状に巻き取った後、後工程で巻き出しながら剥離してもよい。
・・・省略・・・
【0121】
[粘着剤層積層工程]
図1に示される粘着剤層積層工程(S60)では、上記保護フィルムとは反対側(基材フィルムが剥離された面側)の最表面に粘着剤が積層される。前記基材フィルムが剥離された面側に少なくとも一枚の光学フィルムを積層する場合、本工程において、偏光フィルムから最も遠い光学フィルムの偏光フィルムとは反対側の面に粘着剤層を積層することが好ましい。
【0122】
本発明の偏光板は、所定の収縮力を低く抑えた偏光フィルムと、保護フィルムとを備える偏光板であって、その最も外側に23℃での貯蔵弾性率が0.20MPa以上の粘着剤層を形成したものであり、この偏光板は前記粘着剤層を介して液晶セルに貼り付けられる。
【0123】
従来の偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂層の単独膜を延伸、染色して作成されていたため、薄型化するには単独膜をそのまま薄くする必要があった。しかしながら、かかる薄型化は後工程での操作性が悪化するため非常に困難であり、また、このようにして得られる偏光フィルムは、収縮力の大きいものであった。従って、かかる偏光フィルムの収縮力を緩和するため、偏光板全体の寸法変化の悪化を認めつつも偏光板最外層に23℃での貯蔵弾性率が小さい粘着剤層を設けざるを得ない状況であった。
【0124】
これに対し、本発明では、基材フィルムを利用することにより作製される薄型で収縮力の低い所定の偏光フィルムを備え、さらに、偏光板最外層として23℃の貯蔵弾性率が0.20MPa以上の粘着剤層を設けることにより、偏光フィルムなどのクラックや剥れ、光抜けが抑制でき、加えて、偏光板を高温環境下から室温環境下に移した際の寸法挙動の変化をより有効に抑制することが可能となる。
【0125】
また、偏光板最外層に設ける粘着剤層において、23℃での貯蔵弾性率を0.20MPa以上とするだけでなく、80℃での貯蔵弾性率を0.15MPa以上とすることにより、特に高温環境下での寸法挙動の変化をより有効に抑制することが可能となる。
【0126】
23℃における貯蔵弾性率が0.2MPaより小さいと、例えば、高温環境下から室温環境下に移した際の寸法挙動が大きくなる虞がある。また、80℃における貯蔵弾性率が0.15MPaより小さいと高温環境下での寸法変化が大きくなる虞がある。
【0127】
粘着剤から形成される粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率は0.20MPa以上である。好ましくは、粘着剤層の80℃における貯蔵弾性率が0.15MPa以上である。
・・・省略・・・
【0133】
本発明規定される粘着剤層は、23℃において0.20MPa以上の貯蔵弾性率を示す感圧粘着剤で構成される。貯蔵弾性率は、市販の粘弾性測定装置、例えば後述する実施例に示すように、REOMETRIC社製の粘弾性測定装置”DYNAMIC ANALYZER RDA II”を用いて測定することができる。通常の画像表示装置またはそれ用の光学フィルムに用いられている感圧接着剤の貯蔵弾性率は、高々0.10MPa程度であり、それに比べて、本発明で規定する粘着剤層の貯蔵弾性率(0.20MPa以上)は相対的に高い値である。
【0134】
貯蔵弾性率をこのような高い値とする手段は特に限定されないが、例えば、上記したような通常の感圧接着剤に、オリゴマー、具体的にはウレタンアクリレート系のオリゴマーを配合することが有効である。好ましくは、このようなウレタンアクリレート系オリゴマーを配合した上で、イソシアネート系架橋剤を添加したものが低温領域から高温領域まで高い貯蔵弾性率を示すようになる。ウレタンアクリレート系オリゴマーが配合された感圧粘着剤、あるいはそれを支持フィルム上に塗工し、紫外線硬化させたフィルム状感圧接着剤は、公知である。
【0135】
感圧粘着剤層の厚みは、1〜40μmであることが好ましい。薄型の複合偏光板を得るためには、加工性や耐久性などの特性を損なわない範囲で、感圧粘着剤層を薄く形成するのが望ましく、例えば、3〜25μmとすることが、良好な加工性を保ちつつ、偏光フィルムの寸法変化を抑えるうえで好適である。
・・・省略・・・
【実施例】
【0140】
以下に、実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0141】
[貯蔵弾性率の測定法]
以下の例において、粘着剤(感圧接着剤)の貯蔵弾性率は、直径8mm、厚さ1mmの円柱を試験片とし、REOMETRIC社製の測定器”DYNAMIC ANARYZER RDA II”を用いて、周波数1Hzの捻り剪断法で23℃および80℃における貯蔵弾性率(G’)を測定した。
【0142】
[粘着剤]
以下の例においては、粘着剤として次のものを用いた。
【0143】
(粘着剤A)
アクリル酸ブチルとアクリル酸の共重合体にウレタンアクリレートオリゴマーを配合し、さらにイソシアネート系架橋剤を添加した有機溶剤溶液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレートフィルム)の離型処理面に、ダイコーターにて乾燥後の厚みが25μmとなるように塗工したシート状粘着剤。なお、この粘着剤Aの貯蔵弾性率を前述の方法により測定したところ、粘着剤Aの貯蔵弾性率は、23℃において0.41MPa、80℃において0.19MPaであった。
・・・省略・・・
【0150】
<実施例1>
(1)基材フィルムの作製
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」、融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」、融点Tm=163℃)からなる樹脂層を配置した3層構造の基材フィルムを、多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。得られた基材フィルムの合計厚みは90μmであり、各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
【0151】
(2)プライマー層の形成
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製「Z−200」、平均重合度1100、平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液を、25cm×35cmにカットした上記基材フィルムの片側にコロナ処理を施し、その処理面上に、卓上バーコーターを用いて塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
【0152】
(3)ポリビニルアルコール系樹脂層形成工程
ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を、上記プライマー層上に卓上バーコーターを用いて塗工し、80℃で5分間乾燥させることにより、「基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」からなる3層構造の積層フィルムを作製した。このときのポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは11μmであった。
【0153】
(4)偏光フィルム化処理工程
(延伸工程)
上記の積層フィルムから、端部を切り落とし、幅18cm×長さ30cmの積層フィルムを得た。この積層フィルムをテンター延伸装置にて160℃の延伸温度で、幅方向に5.8倍に自由端一軸延伸した。このときのポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.1μmであった。
【0154】
(染色工程・架橋工程)
次に、延伸された上記積層フィルムの中央部から、10cm×15cmのフィルムを切り出して、次の手順でポリビニルアルコール系樹脂層の染色および架橋を行った。まず、切り出された積層フィルムを、30℃のヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液である30℃の染色溶液に150秒間程度浸漬して、ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行ない、ついで10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流した。次に、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む水溶液である76℃の架橋溶液に600秒間浸漬させた。その後、10℃の純水で4秒間洗浄し、最後に80℃で300秒間乾燥させることにより、ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光フィルム化し、10cm×15cmの「基材フィルム/プライマー層/偏光フィルム」からなる3層構造の偏光性積層フィルムを得た。このときの偏光フィルム(ポリビニルアルコール系樹脂層)の厚みは5.1μmであった。
【0155】
得られた偏光性積層フィルムの偏光フィルムのみについて、下記の測定方法により吸収軸と直交する方向の収縮力と、吸収軸方向の収縮力とを測定した。その結果、偏光フィルムの吸収軸と直交する方向の収縮力は0.28Nであり、吸収軸方向の収縮力は1.2Nであった。
【0156】
(収縮力の測定方法)
偏光性積層フィルムの、収縮力を測定したい方向が長軸となるように幅2mm、長さ50mmにスーパーカッター(株式会社荻野精機製作所製)でカットした。得られた短冊状のチップ(偏光性積層フィルム)から基材フィルムを剥離して偏光フィルムのみとし、試験片とした。
【0157】
試験片の収縮力を熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型式TMA/6100)を用いて測定した。この測定は、寸法一定モードにおいて実施し(チャック間距離を10mmとした)、試験片を20℃の室内に十分な時間放置した後サンプルの室内の温度設定を20℃から80℃まで1分間で昇温させ、昇温後はサンプルの室内の温度を80℃で維持するように設定した。昇温後さらに4時間放置した後、80℃の環境下で試験片の長辺方向の収縮力を測定した。この測定において静荷重は0mNとし、治具にはSUS製のプローブを使用した。
【0158】
(5)保護フィルム貼合工程
まず、ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製「KL−318」、平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液に、ポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部の架橋剤(住化ケムテックス(株)製「スミレーズレジン650」)を混合し、接着剤溶液を調製した。
【0159】
次に、得られた偏光性積層フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層上に、上記接着剤溶液を塗布した後、トリアセチルセルロース(TAC)からなる保護フィルム(コニカミノルタオプト(株) 製「KC4UY」)を貼合し、「基材フィルム/プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルム」の5層からなる基材フィルム付偏光板を得た。
【0160】
(6)基材フィルム剥離工程
得られた10cm×15cmの基材フィルム付偏光板から基材フィルムを剥離し、「プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルム」の4層からなる偏光板αを作製した。
【0161】
(7)粘着剤層積層工程
得られた偏光板αのプライマー層側の表面にコロナ処理を施し、その表面に粘着剤Aを貼着して、「セパレートフィルム/粘着剤A/プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルム」からなる粘着剤付偏光板を作成した。
【0162】
(8) 評価用サンプルの作製
得られた粘着剤付偏光板を表1に示すとおりの寸法、軸角度でカットし評価用サンプルを作製した。なお、表1中の「偏光フィルムの軸角度」とは、保護フィルム10側からみたときの、偏光板1の長辺方向Cに対する偏光フィルム11の吸収軸11Aの反時計回りの角度αである(図3参照)。また、「位相差フィルムの軸角度」とは、保護フィルム10側からみたときの、偏光板1の長辺方向Cに対する位相差フィルム12の遅相軸12Bの反時計回りの角度βである(図3参照)。
・・・省略・・・
【0172】
[偏光板の耐久性評価]
実施例1、2および比較例1〜4で作製した評価用サンプルのセパレートフィルムを剥離し、各評価用サンプルの粘着剤層を厚さ0.7mmのガラス板に貼り付け、温度50℃、圧力0.5MPaの条件で20分間オートクレーブ処理を行った。自然冷却後、それぞれのサンプルを、温度が85℃に保たれたオーブンに投入し、500時間保持する加熱試験を行った。この加熱試験後のサンプルについて、初期の寸法からの寸法変化量([試験後の値]−[初期値])をNEXIV VMR−12072(ニコン(株)製)にて測定した。結果を表2に示す。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】



(エ)「【図1】



イ 引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載事項(ウ)に基づけば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる3層構造の積層フィルムを作製し、
積層フィルムを幅方向に5.8倍に自由端一軸延伸し、
次に、積層フィルムを、染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行ない、架橋溶液に浸漬させて、ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光フィルム化し、基材フィルム/プライマー層/偏光フィルムからなる3層構造の偏光性積層フィルムを得、このときの偏光フィルムの厚みは5.1μmであり、
得られた偏光性積層フィルムの偏光フィルム上に、接着剤溶液を塗布した後、トリアセチルセルロースからなる保護フィルムを貼合し、基材フィルム/プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルムの5層からなる基材フィルム付偏光板を得、
得られた基材フィルム付偏光板から基材フィルムを剥離し、プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルムの4層からなる偏光板αを作製し、
得られた偏光板αのプライマー層側の表面にコロナ処理を施し、その表面に粘着剤Aを貼着して作成した、セパレートフィルム/粘着剤A/プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルムからなる粘着剤付偏光板であって、
粘着剤Aは、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗工したシート状粘着剤であって、粘着剤Aの貯蔵弾性率は、23℃において0.41MPa、80℃において0.19MPaである、
粘着剤付偏光板。」

ウ 引用文献6について
原査定の拒絶の理由において引用文献6として引用され、先の出願前に頒布された刊行物である、特開2014−142392号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載事項がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板に使用される偏光フィルムの製造方法に関するものである。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、56℃以上と高温のホウ酸処理浴を用いても、作業性及び生産効率が良好である偏光フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する方法において、ホウ酸処理に56℃以上と高温の処理浴を用いる場合、所定の方法により製造装置にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを通してからフィルムを処理浴に浸漬させることで、フィルムの過度な膨潤や軟化を防ぐことができ、またこれに起因するフィルムの破断も抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、染色処理、ホウ酸処理及び乾燥処理をこの順に施して偏光フィルムを製造する方法であって、このホウ酸処理は、染色処理が施されたフィルムを、ホウ酸を含有する56℃以上の水溶液からなるホウ酸処理浴中に通過させることによって行われ、このとき染色処理が施されたフィルムは、ホウ酸処理浴中に設置された入口側ニップロールを通ってホウ酸処理浴中に導入され、ホウ酸処理浴中で少なくとも1本のガイドロールと接触し、同じくホウ酸処理浴中に設置された出口側ニップロールを通ってホウ酸処理浴から導出される偏光フィルムの製造方法が提供される。
・・・省略・・・
【0014】
このホウ酸処理浴は、水100重量部に対してホウ酸を2〜4.5重量部含有する水溶液であることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ホウ酸処理に、従来のように高温、かつホウ酸の濃度が低い処理浴を用いる場合において、フィルムの破断を抑制できるため、生産性が向上する。特に、原反フィルムとして薄いポリビニルアルコール系樹脂フィルムを採用する場合においても、フィルムの破断を生じることなく偏光フィルムを製造することができる。また、高温の処理浴中において、フィルムをガイドロールに通すなど従来行っていた手作業を最小にできるため、作業性及び生産効率が向上する。」

(ウ)「【0059】
乾燥処理を経た後における偏光フィルムのホウ酸含有量は、2 〜4.5重量%であり、好ましくは 2.5〜4重量%である。このホウ酸含有量が2重量%未満の場合は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにおける架橋が充分でなくなるため、フィルム強度の低下する傾向にある。また、ホウ酸含有量が 4.5%を超過した場合は、フィルムのポリマー架橋に寄与していないホウ酸を、フィルム中に高い濃度で含むことにより、経時によってポリマーの架橋反応が進行し、これに伴いポリビニルアルコール系樹脂フィルムが収縮しやすくなる傾向がある。」

エ 引用文献7について
原査定の拒絶の理由において引用文献7として引用され、先の出願前に頒布された刊行物である、特開2012−73570号公報(以下「引用文献7」という。)には、以下の記載事項がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの偏光膜であって、
結晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
P>−(100.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)、および
P≧99.9(ただし、T≧42.3)
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものであることを特徴とする偏光膜。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜および偏光膜を含む光学フィルム積層体並びにその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、結晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる、厚みが10μm以下の偏光膜を含む光学フィルム積層体、および、該光学フィルム積層体を製造する方法に関する。」

(ウ)「【0047】
本発明の実施態様は、以下のとおりである。
本発明の第1の態様は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの偏光膜であって、結晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
P>−(100.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)、および
P≧99.9(ただし、T≧42.3)
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものに関する。二色性物質は、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物のいずれでもよい。
【0048】
単体透過率をT、偏光度をPとしたときの光学特性値がこの不等式によって表される範囲にある偏光膜は、一義的には、大型表示素子を用いた液晶テレビ用のディスプレイとして求められる性能を有する。具体的にはコントラスト比1000:1以上かつ最大輝度500cd/m2以上である。以下、これを「要求性能」という。他の用途としては、後述されるように、有機ELディスプレイパネルの視認側に貼り合される光学機能フィルム積層体に用いられる。」

(2)本願発明1についての対比及び判断
ア 対比
本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)偏光子
引用発明の「偏光フィルム」は、「基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる3層構造の積層フィルム」を「自由端一軸延伸し」、「ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行い」、「ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光フィルム化し」たものである。
その材料及び製法からみて、引用発明の「偏光フィルム」は、本願発明1の「偏光子」に相当する。
また、引用発明の「偏光フィルム」は、「ポリビニルアルコール系樹脂」を含有するものであり、「厚み」は、「5.1μm」であるから、その厚みは10μm以下である。
そうすると、引用発明の「偏光フィルム」は、本願発明1の「偏光子」における、「ポリビニルアルコール系樹脂を含有し」、「厚みが10μm以下であり」、という要件を満たす。

(イ)保護フィルム、片保護偏光フィルム
引用発明の「保護フィルム」は、その文言どおり、本願発明の「保護フィルム」に相当する。
また、引用発明の「偏光板α」は、「プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルムの4層からなる偏光板」からなるところ、その構成からみて、引用発明の「偏光板α」のうちの「保護フィルム」は、「偏光フィルム」の片面にのみ有するものであり、引用発明の「偏光板α」は、フィルム状のものといえる。
そうすると、上記(ア)の対比と併せると、引用発明の「偏光板α」は、本願発明の「片保護偏光フィルム」に相当し、本願発明1の「片保護偏光フィルム」における、「偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する」という要件を満たす。

(ウ)粘着剤層、粘着剤層の膜厚、粘着剤層の貯蔵弾性率
引用発明1の「粘着剤A」は、「シート状粘着剤」であり、層状であることは明らかである。
そうすると、引用発明1の「粘着剤A」は、本願発明の「粘着剤層」に相当する。
また、引用発明1の「粘着剤A」は、「乾燥後の厚みが25μmとなるように塗工したシート状粘着剤」であるから、本願発明の「粘着剤層」における、本願発明1の「粘着剤層の膜厚は40μm未満であり」という要件を満たす。

(エ)粘着剤層付片保護偏光フィルム
引用発明の「粘着剤付偏光板」は、「セパレートフィルム/粘着剤A/プライマー層/偏光フィルム/接着剤層/保護フィルム」からなるところ、その構成からみて、引用発明の「粘着剤付偏光板」は、「偏光フィルム」の「保護フィルム」を有しない面側に「粘着剤A」を有するものである。
以上の点及び上記(ア)〜(ウ)の対比と併せると、引用発明の「粘着剤付偏光板」は、本願発明1において、「偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する片保護偏光フィルムおよび前記片保護偏光フィルムの偏光子側に粘着剤層を有する」とされる、「粘着剤層付片保護偏光フィルム」に相当する。

イ 一致点及び相違点
以上より、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。
(ア)一致点
「偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する片保護偏光フィルムおよび前記片保護偏光フィルムの偏光子側に粘着剤層を有する粘着剤層付片保護偏光フィルムであって、
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、厚みが10μm以下であり、
前記粘着剤層の膜厚は40μm未満である、粘着剤層付片保護偏光フィルム。」

(イ)相違点
(相違点1)
本願発明1では、「偏光子」が「偏光子全量に対してホウ酸を20重量%以下で含有」し、また、「前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率をG(Pa)、膜厚をH(μm)としたとき、40>H≧19の場合は、G>2975.6e0.2035H、を満足し、19>H>0の場合は、G>61469e0.0433H、を満足する」(以下「条件(1)」という。)のに対して、引用発明では、偏光子全量に対するホウ酸の含有量が明らかでなく、また、条件(1)を満足しない点。

(相違点2)
本願発明1では、「偏光子」の「単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性」が「下記式P>−(100.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)、又は、P≧99.9(ただし、T≧42.3)の条件を満足するように構成されたもの」であるのに対して、引用発明では、そのような条件を満足するように構成されているのかが明らかでない点。

ウ 判断
相違点1について検討する。
本願発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に示されるように、貫通クラックの発生が抑制された片保護偏光フィルムにおいて、偏向子を薄く、かつ光学特性を所定の範囲に制御した場合に、従来知られていた貫通クラックとは異なる現象により、ナノスリットが生じることを見出しなされた発明であって、かかる課題を解決すべく、【0035】に、「偏光子は延伸安定性や光学耐久性の点からホウ酸を含有させることができるが、本発明では、偏光子に含まれるホウ酸含有量を、貫通クラックおよびナノスリットの発生抑制、拡張抑制の観点から、偏光子全量に対して20重量%以下に調整したものを用いる」、【0030】に、「また、前記粘着剤層の膜厚が40μm未満の範囲においては、40>H≧26の場合は、G>2975.6e0.2035H、を満足し、19>H>0の場合は、G>61469e0.0433H、を満足するように設計されていることがナノスリットの発生抑制の観点からより好ましい」と記載されるとおり、偏光子に含まれるホウ酸の含有量を偏光子全量に対して20重量%以下に調整し、また、膜厚と貯蔵弾性率が条件(1)の関係式を満足するように制御した粘着剤層を用いることにより、ナノスリットの発生を抑制することに技術的意義を有するものであると認められる。
これに対して、引用文献2には、「偏光フィルムや位相差フィルム等の他の光学フィルムのクラックや剥がれ、光抜けが抑制され、寸法変化の小さい偏光板およびその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】、【0021】)ものであって、寸法変化に起因する、従来の貫通クラックの発生を防止することが記載されるにとどまり、ナノスリットの発生を防止するという課題など認識されていない。そして、貫通クラックの発生防止手段についても、「所定の収縮力を低く抑えた偏光フィルムと、保護フィルムとを備える偏光板」において、その最も外側に23℃での貯蔵弾性率が0.20MPa以上の粘着剤層を形成したものであって、最適化した実施例においてすら、貯蔵弾性率が23℃において0.41MPaの貯蔵弾性率とした態様が示されるにとどまるものである。
ここで、本願において特定される膜厚と貯蔵弾性率が条件(1)の関係式を満足するためには、引用発明において、粘着剤層の貯蔵弾性率を、実施例に示された0.41MPaの値よりも大きい値に増加させる必要があることは数式上明らかであるが、引用文献2には、上述のとおり、ナノスリットの発生を抑制するという課題が認識されておらず、当該課題の解決手段も当然に記載されていないのであるから、偏光子に含まれるホウ酸含有量を、偏光子全量に対して20重量%以下に調整し、かつ、粘着剤層の貯蔵弾性率の値について、実施例に開示された最適値たる0.41MPaの値から、さらに大きくする動機付けはないといわざるを得ない。
加えて、引用文献6及び7をみても、ナノスリット発生を抑制するために、粘着剤層付片保護偏光フィルムにおいて、偏光子に含まれるホウ酸の含有量を偏光子全量に対して20重量%以下に調整し、また、膜厚と貯蔵弾性率が条件(1)の関係式を満足するように制御した粘着剤層を用いることなど記載されていないし、また、これらの点が公知技術又は周知技術であることを示す他の証拠もない。
そして、本願発明1は、かかる構成により「粘着剤層の膜厚と貯蔵弾性率を制御することで、薄型化を満足しながら、かつ、偏光子に生じる貫通クラックおよびナノスリットによる欠陥を抑制することができる」(本件出願明細書の【0024】)という、当業者が予測しがたい格別な効果を奏するものである。
そうすると、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

エ 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献2に記載された発明、引用文献6及び7に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本願発明2〜6について
請求項2〜6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本願発明2〜6は、本願発明1の構成を全て具備するものである。そうすると、前記(2)ウで述べたのと同様の理由により、本願発明2〜6も、引用文献2に記載された発明、引用文献6及び7に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 引用文献1を主引用例とする場合
(1)本願発明1について
本願発明1と、原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された特開2015−111236号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された粘着剤層付偏光板(【0077】参照)とを対比すると、両者は、少なくとも前記相違点1と同様の相違点において相違する。
そして、相違点1についての判断は、前記1(2)ウで述べたとおりである。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本願発明2〜6について
前記1(3)で述べたのと同様に、であって、本願発明2〜6は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 原査定について
前記第4で述べたとおりであって、原査定を維持することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-01-30 
出願番号 P2020-100849
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 粘着剤層付片保護偏光フィルム、画像表示装置およびその連続製造方法  
代理人 弁理士法人ユニアス国際特許事務所  

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