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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1013987
審判番号 審判1995-14699  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1995-07-14 
確定日 2000-05-11 
事件の表示 平成2年特許願第500324号「新生表現型の抑制を制御する産生体及び方法」拒絶査定に対する審判事件〔(平成2年5月17日国際公開 WO90/05180、平成3年12月12日国内公表 特許出願公表平3-505675号)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯、本願発明の要旨
本願は、平成1年10月30日(優先権主張1988年10月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、その特許を受けようとする発明は、平成9年3月17日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項乃至第9項に記載された「薬剤組成物」及び「薬剤組成物の製造方法」にあると認められるところ、その第1請求項の記載は、次のとおりである。
「内因性の野生型RB蛋白を有しない癌細胞の腫瘍表現型を抑制するための活性成分として哺乳動物の網膜芽腫遺伝子を含む薬剤組成物。」
2、引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の目前に米国において頒布された刊行物であるNature、vol,329、p,642-645(1987)(以下、「引用例」という。)には、第643頁にヒトRB遺伝子全DNA配列が記載され、第642頁左欄下から22行~下から1行には「遺伝病である網膜芽腫に対する感受性を決定するヒトRB遺伝子は、最近分子遺伝子技術により特定された。前回の結果は、このRB遺伝子の完全不活性化が腫瘍発生に必要とされることを示した。腫瘍抑制遺伝子として、RB遺伝子は、他の腫瘍遺伝子と反対のやり方で機能する。RBcDNAクローンの配列解析によれば、長いORFを有し、これによりコードされる推定蛋白質は、DNA結合機能を有する特徴を有することが示唆された。‥‥‥‥‥‥今回、このRB蛋白質は、分子量約110,000~114,000のリン蛋白質であり、そのほとんどは核内に存在することがわかった。‥‥‥これらの結果を総合すると、RB遺伝子産物は、細胞内で他の遺伝子を調節する機能を果たすことが示唆される。」という旨が記載されており、更に、第645頁左欄第12行~同頁右欄3行には、「以前のデータ及び核に局在化しているという今回の結果は、RB蛋白質の遺伝子調節機能を支持するものである。DNA結合活性が、このRB蛋白質を簡単に検出する活性であり、その機能の最も重要な指標に成り得る可能性がある。‥‥‥‥‥‥他の腫瘍遺伝子とは対照的に、RBリン蛋白質(分子量110KD)の不存在が、腫瘍発生をもたらすようである。RBリン蛋白質が他の遺伝子の調節に重要であれば、RBリン蛋白質の欠失によるこれら他の遺伝子の脱調整が、腫瘍発生を媒介するのかもしれない。このRBリン蛋白質の活性を調節する他のファクターと、このRB蛋白質により調節されるターゲット遺伝子を特定することが重要になるであろう。」と記載されている。
結局、引用例には、網膜芽腫に対する感受性を決定する、即ち、その遺伝子座の欠損により網膜芽腫が発症することがある、ヒトRB遺伝子の、その全塩基配列が記載されていると認められる。また、その遺伝子産物であるヒトRB蛋白質は細胞内で他の遺伝子(ターゲット遺伝子)に結合することで該ターゲット遺伝子を調節する機能を有すること、及び細胞がRB蛋白質を有しないことでターゲット遺伝子の脱調整を引き起こし腫瘍発生をもたらすこと、即ち、癌細胞の腫瘍表現型として、内因性野生型RB蛋白を有しないこと、及びRB遺伝子の完全不活性化等、RB遺伝子の欠損がその原因となることが示唆されていると認められる。。
3、対比
そこで、本願発明と引用例の記載とを対比すると、引用例に記載のヒトRB遺伝子の全塩基配列は、本願発明における哺乳動物の網膜芽腫遺伝子の全塩基配列と一致し、両遺伝子は実質的に同じものであると認められるので、両者は、哺乳動物の網膜芽腫遺伝子が記載されている点、及び内因性の野生型RB蛋白が有しないことが癌細胞の腫瘍表現型であることが記載されている点で共通するが、前者では、この哺乳動物の網膜芽腫遺伝子を、内因性の野生型RB蛋白を有しない癌細胞の腫瘍表現型を抑制するための薬剤組成物の活性成分として用いるのに対して、後者ではそのような用途の記載がない点で、両者は相違している。
4、当審の判断
上記相違点について検討する。本願の前記優先日当時、「遺伝子治療」という概念は周知であり、単一遺伝子異常疾患に対して、担体が何であれ、その欠陥遺伝子を補充すれば、疾患を治療できることが広く期待されていたことである。そして、ヒトに対する臨床試験の前段階として、動物実験での遺伝子治療としての遺伝子導入については、例えば、本願発明においても使用されている担体であるレトロウイルスベクターを使用することが、マウスにおける欠陥遺伝子の補充に効果があることが既に周知であった。(必要があれば、Molecular and Cellular Biology、vol,7(1987)p,3459-3465、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、vol,83(1986)P,2566-2570参照)また、RB蛋白をコードする遺伝子を、上記担体であるレトロウイルスベクターに組み込むことに格別の困難性は認められない。
してみると、RB遺伝子に欠損を有するために網膜芽腫細胞となった細胞に対してその欠陥遺伝子を補充する目的で、あるいは、内因性の野生型RB蛋白を有せずその癌細胞となった細胞に対してRB蛋白をコードする遺伝子を補充する目的で、引用例に記載のヒトRB遺伝子を担体としてのレトロウィススベクターを使用して、遺伝子治療のための薬剤組成物として用いること、即ち、本願発明の前記相違点のごとくすることは、上記周知の遺伝子治療技術を適用することにより、当業者であれば容易に成し得たことである。
そして、本願発明において効果が確認されているのは、網膜芽腫遺伝子欠損の感染網膜芽腫細胞系を感染させたマウスの両側腹部に、その一方に網膜芽腫遺伝子を導入し、片方に導入しなかった場合、導入した側の腫瘍形成が阻止できたという、マウスにおける網膜芽腫の発生の阻止効果だけであって、この効果は、引用例の記載及び上記周知の遺伝子導入法から予測できないほどの格別のものとは認められない。
5、むすび
したがって、本願発明は上記引用例に記載された発明及び前記周知の遺伝子治療技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-04-23 
結審通知日 1997-05-09 
審決日 1997-05-12 
出願番号 特願平2-500324
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩斎藤 真由美  
特許庁審判長 酒井 雅英
特許庁審判官 佐伯 裕子
鈴木 恵理子
発明の名称 新生表現型の抑制を制御する産生体及び方法  
代理人 飯田 伸行  

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