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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1014692
異議申立番号 異議1998-72395  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-14 
確定日 2000-03-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第2683170号「冷凍機油」の請求項1ないし4に係る特許について、次のとおり決定する。 
結論 特許第2683170号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2683170号発明は、平成3年7月9日に特許出願され、平成9年8月8日にその特許権の設定登録がなされ、その後、三浦慶郎、東燃株式会社、須子豊及び渡辺等より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、特許異議意見書が提出されたものである。
2.本件発明
本件の請求項1乃至請求項4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された次の事項によって特定されるものである。
「【請求項1】 ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種類の多価アルコールと炭素数3~12の1価脂肪酸より合成され、25℃での体積抵抗率が1013ないし1014Ω・cmオーダーであるエステル油を主成分とするジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合物を含有する冷媒用の冷凍機油。
【請求項2】 ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合冷媒が更に、1,1ージフルオロエタン及び/又は1,1,1,2ーテトラフルオロエタンを含有する冷媒である請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】 ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種類の多価アルコールと、炭素数3~12の1価脂肪酸と炭素数4~14の多塩基酸との混合カルボン酸とより合成され、25℃での体積抵抗率が1013ないし1014Ω・cmオーダーであるコンプレックスエステル油を主成分とするジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合物を含有する冷媒用の冷凍機油。
【請求項4】 ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合冷媒が更に、1,1ージフルオロエタン及び/又は1,1,1,2ーテトラフルオロエタンを含有する冷媒である請求項3に記載の冷凍機油。
3.取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は、請求項1乃至請求項4に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物1乃至刊行物6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであるというものである。
4.証拠の記載事項
刊行物1(特開平3-128992号公報、東燃株式会社の甲第1号証)には、
「炭素数15以下、3価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数2~18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、あるいは炭素数2~18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上と炭素数4~14の多塩基酸1種類以上とを原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油」(特許請求の範囲)が記載され、「特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する」(第2頁左下欄)と記載され、3価アルコールとしてトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられている。
さらに、実施例のA-7にトリメチロールプロパンと2-エチルヘキサン酸から合成され、80℃での体積抵抗率が8.6×1012Ω・cmであるエステル油、A-8にトリメチロールプロパンとヘプタン酸及び2-エチルヘキサン酸から合成され、80℃での体積抵抗率が4.3×1012Ω・cmであるエステル油が記載され、A-9にペンタエリスリトールとイソノナン酸とのエステル油、A-10にペンタエリスリトールとヘプタン酸とのエステル油、A-12にペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油、A-13にペンタエリスリトールとヘプタン酸、イソブタン酸及びアジピン酸とのエステル油が記載され、これらペンタエリスリトールエステル油は、80℃での体積抵抗率が1013Ω・cmのオーダーであることが示されている(第1、3、4、6表)。
刊行物2(特開平3-128991号、同甲第2号証)には、
「エーテル結合を持たない炭素数5~12の2価アルコール1種類以上と、炭素数3~18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、あるいは炭素数3~18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上と炭素数4~14の多塩基酸1種類以上とを原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油」(特許請求の範囲)が記載され、「特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する」(第2頁右下欄)と記載され、2価アルコールの例としてネオペンチルグリコールが挙げられ、実施例1~8(A-1~8)にはネオペンチルグリコールのエステル油が記載されている。
具体的には、A-7に2-エチルヘキサン酸とから合成され、80℃での体積抵抗率が2.6×1013Ω・cmであるエステル油が記載され、A-1にペンタン酸、オクタン酸及び2-エチルヘキサン酸とのエステル油、A-8にオクタン酸、炭素数7及び9の分枝脂肪酸とのエステル油、A-5にオクタン酸、炭素数12の直鎖脂肪酸、2-エチルヘキサン酸及びアジピン酸とのエステル油、A-6にオクタン酸、炭素数7の分枝脂肪酸及びセバシン酸とのエステル油が記載され、A-1、A-5、A-6、A-8に記載のエステル油は、80℃での体積抵抗率が1012Ω・cmのオーダーであることが示されている(第1、3表)。
刊行物3(特開平3-88892号公報、三浦慶郎の甲第3号証)には、「第1ヒドロキシ基1~6個を有する脂肪族多価アルコールと炭素数2~9の直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸又はその誘導体とから得られる反応物であるエステルを基油とする水素含有フルオロエタン系冷媒雰囲気下で用いる冷凍機油」(特許請求の範囲)が記載されており、脂肪族多価アルコールとして、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、「水素含有フルオロエタン系冷媒とは、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、・・ペンタフルオロエタン・・1,1-ジフルオロエタン等のことである」(第4頁左上欄から右上欄)と記載され、表-1の本発明品2に、ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸のエステル油等が記載されている。
刊行物4(米国特許第4,978,467号明細書、1990年、東燃株式会社の甲第4号証)には、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの共沸状混合物を加熱、冷却装置に用いる冷媒とすることが記載されている。
刊行物5(欧州公開第430,169号公報、1991年6月5日発行、須子豊の甲第4号証)には、クロロジフルオロメタンに変えて用いる冷媒として、テトラフルオロエタンに少なくとも2種のフッ素化炭化水素を混合した冷媒が記載されており、実施例7(Fig.7)には、R32(1,1-ジフルオロメタン)、R125(ペンタフルオロエタン)及びR134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)を比率を変えて混合した冷媒が記載されている。
刊行物6(欧州公開第435,253号公報、1991年6月5日発行、同甲第2号証)には、ペンタエリスルトールエステル、トリメチロールプロパンエステル等からなる、水素含有フロン冷媒用の冷凍機油が記載され(Claims)、水素含有フロン冷媒としてペンタフルオロエタン,1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン等が挙げられ(第8頁第28~33行)、Exsample1にペンタエリスルトールと2-エチルヘキサン酸とから合成され、25℃における体積抵抗率が4.1×1014Ω・cmであるエステル油、Exsample8にトリメチロールプロパンと2-エチルヘキサン酸とから合成され、25℃における体積抵抗率が4.5×1014Ω・cmであるエステル油が記載されている。
また、取消理由において、参考として示した、異議申立人東燃株式会社の提出した甲第3号証(「改訂版潤滑ハンドブック」養賢堂昭和62年9月10日発行、第225~226頁、以下「参考資料」という)には、潤滑油の電気特性の温度による影響について記載され、体積抵抗率は温度の上昇に伴って低下し、25℃における体積抵抗率は、80℃における体積抵抗率の約10倍であることが示されている。
5.対比、判断
I.請求項1に係る発明について
刊行物1の実施例A-12のペンタエリスリトールと2ーエチルヘキサン酸のエステル油及びA-7のトリメチロールプロパンと2-エチルヘキサン酸とのエステル油は、80℃での体積抵抗率が1012ないし1013Ω・cmのオーダーであることが示されているものの、25℃での体積抵抗率について記載されていないが、本件明細書のペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油である冷凍機油bの25℃における体積抵抗率は、7×1013Ω・cmであるとの記載、刊行物6のExsample1、8の記載及び参考資料の記載を参酌すると、これらのエステル油の25℃での体積抵抗率は1013ないし1014Ω・cmのオーダーであると認められるから、刊行物1には「トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールから選ばれる1種類の多価アルコールと炭素数3~12の1価脂肪酸より合成され、25℃での体積抵抗率が1013ないし1014Ω・cmオーダーであるエステル油を主成分とする水素含有フロン冷媒用の冷凍機油」が開示されている。
刊行物2の実施例A-7のネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油は80℃における体積抵抗率が2.6×1013Ω・cmであることが示されているものの、25℃における体積抵抗率については記載されていないが、本件明細書のネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油である冷凍機油aの25℃における体積抵抗率は、1×1014Ω・cmであるとの記載、及び参考資料の記載から、刊行物2に記載の、ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油の25℃での体積抵抗率は1013ないし1014Ω・cmオーダーであると認められる。
刊行物3には、ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とのエステル油の25℃での体積抵抗率については記載されていないが、本件明細書の冷凍機油a、刊行物2及び参考資料の記載からみて、1013ないし1014Ω・cmのオーダーであると認められる。
請求項1に係る発明と刊行物1乃至刊行物3に記載の発明を比較すると、両者は、「ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールから選ばれる1種類の多価アルコールと炭素数3~12の1価脂肪酸より合成され、25℃での体積抵抗率が1013ないし1014Ω・cmオーダーであるエステル油を主成分とする水素含有フロン冷媒用の冷凍機油」である点で一致し、冷媒が、請求項1に係る発明は「ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの混合物を含む」ものであるのに対し、刊行物1乃至刊行物3には、この特定のフロンについては記載されていない点で相違する。
この点について以下に検討する。
刊行物1乃至刊行物3に記載のエステル油はペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン等の水素含有フロン系の冷媒との相溶性に優れることが記載されている。
一方、刊行物4には、水素含有フロン系の冷媒としてジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの混合冷媒が記載されており、刊行物4に記載の水素含有フロン系混合冷媒を用いる際の冷凍機油として、刊行物1乃至刊行物3に記載の水素含有フロン系の冷媒との相溶性に優れた冷凍機油を用いることは当業者が容易になしうることである。
そして、本件発明の有する、冷媒との相溶性に優れ、高い電気絶縁性を有し、吸湿性が低く加水分解安定性が高い等の作用効果も、刊行物1乃至刊行物4の記載から当業者が予測しうる程度のものである。
したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1乃至刊行物4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものと認められる。
II.請求項2に係る発明に対して
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の冷凍機油において、混合冷媒が、更に1,1-ジフルオロエタン及び/又は1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含有するものであるが、刊行物5には、水素含有フロン系冷媒であるジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の混合冷媒が記載されており、水素含有フロン系冷媒との相溶性に優れた刊行物1乃至刊行物3に記載のエステル油を刊行物5に記載の水素含有フロン系混合冷媒を用いる冷凍機の基油として用いることは当業者が容易になしうることであり、その効果も予測しうる程度のものである。
したがって、請求項2に係る発明は、刊行物1乃至刊行物3及び刊行物5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
III.請求項3に係る発明に対して
刊行物1には、A-13にペンタエリスリトールと炭素数4及び7の1価脂肪酸及びアジピン酸より合成され80℃における体積抵抗率が4.1×1012Ω・cmであるとのコンプレックスエステル油を水素含有フルオロエタン系冷媒の冷凍機油として用いることが示されている。
刊行物2にはA-5、A-6にネオペンチルグリコールと炭素数8から12の一価脂肪酸及び多塩基酸であるアジピン酸又はセバシン酸とより合成され80℃における体積抵抗率が1012Ω・cmオーダーであるコンプレックスエステル油を、水素含有フルオロエタン系冷媒の冷凍機油として用いることが示されている。
刊行物1、2には、これらのコンプレックスエステル油の25℃における体積抵抗率については記載されていないが、参考資料の記載、及び刊行物1乃至刊行物3において80℃における体積抵抗率が1012ないし1013Ω・cmオーダーであるエステル油の、25℃における体積抵抗率が1014Ω・cmオーダーであることが刊行物6に示されていることからも、刊行物1、2に記載の80℃における体積抵抗率が1012Ω・cmオーダーの前記コンプレックスエステル油の25℃における体積抵抗率は、1013ないし1014Ω・cmオーダーであると認められる。
したがって、刊行物1、2には、
「ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールから選ばれる1種類の多価アルコールと、炭素数3~12の1価脂肪酸と炭素数4~14の多塩基酸との混合カルボン酸とより合成され、25℃での体積抵抗率が1013ないし1014Ω・cmオーダーであるコンプレックスエステル油を主成分とする水素含有フロン冷媒用の冷凍機油」が開示されている。
そして、前記5.Iで述べたと同様の理由により、これらのコンプレックスエステル油を刊行物4に記載のジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの混合冷媒用の冷凍機油として用いることは、当業者が容易になしうることであり、その効果も予測しうる程度のものである。
したがって、請求項3に係る発明は刊行物1、2、4、6に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
IV.請求項4に係る発明に対して
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の冷凍機油において、「混合冷媒が更に、1,1-ジフルオロエタン及び/又は1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含有する」ものであるが、刊行物5には、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の混合冷媒が記載されており、前記5.IIで述べたのと同様の理由により、刊行物5に記載の混合冷媒用の冷凍機油として、刊行物1乃至刊行物2に記載のエステル油を用いることは当業者が容易になしうることであり、その効果も予測しうる程度のものである。
したがって、請求項4に係る発明は、刊行物1、2、5、6に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
6.むすび
以上のとおり、本件請求項1乃至請求項4に係る発明は、上記刊行物1乃至6に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1乃至請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-01-06 
出願番号 特願平3-194849
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C10M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平山 美千恵  
特許庁審判長 吉見 京子
特許庁審判官 山口 由木
谷口 操
登録日 1997-08-08 
登録番号 特許第2683170号(P2683170)
権利者 株式会社ジャパンエナジー
発明の名称 冷凍機油  
代理人 中嶋 重光  
代理人 山口 和  
代理人 河備 健二  

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