ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H |
---|---|
管理番号 | 1052539 |
審判番号 | 審判1997-9183 |
総通号数 | 27 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1989-09-14 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1997-06-12 |
確定日 | 2002-02-04 |
事件の表示 | 昭和63年特許願第 56245号「弾性表面波フィルタ」拒絶査定に対する審判事件〔平成 1年 9月14日出願公開、特開平 1-231417、平成 7年 1月11日出願公告、特公平 7- 1859、請求項の数(2)〕について、平成11年7月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決があり、それが確定したので、さらに審理の結果、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願の手続の経緯は以下の通りである。 (1)昭和63年3月11日 出願。 (2)平成7年1月11日 原審は、特公平7-1859号として出願公告。 (3)平成7年4月6日 黒岩景から、特許異議の申立て。 平成7年4月7日 株式会社村田製作所から、特許異議の申立て。 平成7年4月11日 豊泉久子から、特許異議の申立て。 (4)平成9年3月7日 原審は、特許異議申立人黒岩景からの特許異議申立に対して理由があるものとの決定、及び、その決定と同じ理由によって拒絶査定。 (5)平成9年6月12日 審判請求人は、拒絶査定不服の審判を請求。 (6)平成11年7月22日 当審にて、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決。 (7)平成11年9月2日 審判請求人は、東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起(平成11年(行ケ)第277号)。 (8)平成13年10月25日 東京高等裁判所は、「特許庁が平成9年審判第9183号について平成11年7月22日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をし、それが確定したので、上記審決が取消された。 2.本願発明の要旨 本願発明の要旨は、手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりの、 「(1)圧電基板と、該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと、該入力側IDTの両側に配置され並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTと、該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えて、弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタにおいて、 前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され、かつ、前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定されていることを特徴とする2重モード2端子対弾性表面波フィルタ。 (2)請求項1記載の2重モード2端子対弾性表面波フィルタの電極構成を有する第1の電極構造列と、該第1の電極構造列と線対称の電極構造を有し弾性表面波の伝搬方向が平行でかつ互いに音響結合しないように弾性表面波の波長の3倍以上の間隔で同一圧電基板上に並設された第2の電極構造列とから構成され、 前記第1の電極構造列の並列接続された両側の出力側IDTと前記第2の電極構造列の並列接続された両側の出力側IDTの電極が共通接続され、前記第1の電極構造列の中央のIDTが入力変換器となり、前記第2の電極構造列の中央のIDTが出力変換器となり、 弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる縦2次共振モード、縦0次共振モードと、弾性表面波の伝搬方向と直角方向に生ずる反対称モード、対称モードとが組み合わされ、 前記第1および第2の電極構造列のそれぞれについて、全体のIDT対数,正規化膜厚,全体のIDT対数に対する中央のIDT対数の割合,IDTの相互間隔は、前記モードの組み合わせによって周波数の低い方から順次配列される反対称縦2次モード,対称縦2次モード,反対称縦0次モード,対称縦0次モードの4つのモードの隣り合う3箇所のそれぞれ反共振周波数と共振周波数との正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定されていることを特徴とする4重モード2端子対弾性表面波フィルタ。」 にあるものと認められる。 3.原査定の理由 これに対して、原査定の拒絶の理由となった特許異議の決定に記載した理由は、 「この出願の発明は、下記の理由でこの出願前国内において頒布された甲第2-4号証刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認める。したがって、この出願の発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。 記 特許異議申立人の提出した甲第4号証刊行物である特開昭58-3307号公報には、弾性表面波多重モードフィルタの形態として複数個の振動モードを利用するものとして第13図に示される様にIDTを分割し、縦4次(本願発明にいう縦3次)までの高次モードを励振し、多重モードフィルタを構成する点が第6ページ右上欄第13行から第18行「又、高次の減衰・・・・・・・これを利用してもよい。」に記載されているので、多重モードフィルタにおいて、本願でいう縦1次以上のn次の高次モードを用いる点という技術思想は新規ではなく、また、より高次モードを用いると、より広帯域にし得ることは当業者にとって自明であるから、多重モードフィルタにおいて、縦1次の代わりに縦2次モードを用いるとより広帯域特性が得られるということは当業者が期待し得る程度のものにすぎないものと認められる。 そして、中央に配置された入力側IDTの両側に並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTを配置し、その該出力側IDTの両側に格子状反射器を備えた構造(以下、単に本願構造という)により、本願発明でいうところの偶数モード(0、2)を励振し、奇数モード(1)を抑圧する技術は周知である。 (例えば、特開昭54-60842号公報(以下、周知刊行物という)には複数のモードが励振する共振器装置において偶数モード又は奇数モードのいずれか一方を抑圧し、少なくとも一つの奇数モード又は少なくとも一つの偶数モードを励振する構造が示されており、その第3図には、上記本願構造によって偶数モードは抑圧され、奇数モードが出力することが記載されている。また、第4図は上記本願構造で奇数モードを抑圧し、偶数モードを出力する例が記載されている。 上記周知刊行物における奇数モードは本願発明における偶数(0、2)モードに、その動作から、対応するものである。また、これらのモードは縦モードである。) また、二重モードフィルタを構成するための共振周波数の設定条件が両モードの(反)共振周波数を一致させることであることは異議申立人の提出した甲第2号証刊行物の「二重モードフィルタの設計法に関する考察」にも記載されているように周知である。 そして、多重モードフィルタの共振周波数合わせのために膜厚を調整すること、また電極間隔を変えても変わることも上記甲第4号証刊行物に記載されている。また、間隔/膜厚の比で変化することも異議申立人の提出した甲第3号証刊行物の「縦結合2重モードSAW共振器による高周波低損失フィルタ」に記載されている。 そして、これらの構成要件を本願請求項1のように寄せ集めても格別の作用効果を生じないので、上記甲第4号証刊行物に記載のものにおいて、上記本願構造を採用し、間隔/膜厚を調整し、二つの共振周波数を一致させ(したがって、本願請求項の数値範囲を満足する)、本願請求項1の記載の構成に係る発明をなすことは上記甲第2、3、4号証刊行物に記載のものから当業者が容易になし得ることができたものと認められ、この出願の発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。 4.引用刊行物 (1)特許異議申立人黒岩景の提出した甲第4号証刊行物である特開昭58-3307号公報の第3頁左上欄第7~14行目には、「多対のインタディジタル・トランスジューサ電極を有する弾性表面波共振器は・・・表面波が前記電極2,2,……及び2′,2′,……の間で周期的振動による反射を生起し、この為表面波の振動エネルギが前記電極2,2,……2′,2′,……の間に閉じ込められることによって高いQを有する共振器を形成するからである。」と記載され、又、同頁右下欄第8~12行目には、「共振周波数frは・・・インタディジタル・トランスジューサ電極間隔2dによって決るが、電極膜厚Hを大きくするとその質量効果によって低下する。又、対数Nを減少しても若干低下する。」と記載されており、更に、その第4ページ左上欄第4行~同頁左下欄第1行目には、「第3図は実験に使用したフィルタの構造を示す図であって圧電基板11には・・・表面上のX軸方向(表面波の伝播方向)に沿って2個の多対インタディジタル・トランスジューサ電極12及び13を直列に隣接配置し2個の共振器とする。 前記両電極12及び13の電極対数N12及びN13は必ずしも同数である必要はないが実験の単純化の為同数とし、・・・ 第3図の如く構成する共振器を共振させた場合二つの振動モードが発生するがその一つは第4図(a)の如く前記両電極12及び13が1個の共振器として励振され、X軸上で前記両電極12及び13の間隔に関して対称となる振動モードである。これを対称モード或はS-モードと名付け、該振動モードの共振周波数をf0とする。 他の振動モードは第4図(b)に示す如く前記両電極12及び13の間隔に関して反対称となる振動モードであって、これを反対称モード或はa-モードと名付け、該振動モードの共振周波数faとする。 この反対称モードの振動はあたかも2つの共振器が各々独立に存在し、かつ両者が逆位相の関係でX軸方向に2つの波が乗っている如き状態となる。 上記2つの振動モードを考慮して前記電極12を入力側、同じく13を出力側の共振器として前記両電極12及び13に夫々入力端子14,出力端子15を設けて四端子構造とすればその等価回路は第5図の如く書くことができる。」と記載され、更に又、第6頁右上欄第13~18行目及び第13図(a),(b)には、「高次の減衰階級を有するフィルタの他の構成法として第13図(a)の如く圧電基板41の表面波伝搬方向に直列に多数の共振器電極42,43,……を各々の間で音響的結合を生ぜしめ複数の振動モード(本図の場合は4モード)の共振を作りこれを利用してもよい。」と記載されている。 すなわち、甲第4号証刊行物には、圧電基板上にほぼ同数の電極対数を有する2つのインタディジタル・トランスジューサを配置し、その一方を入力側インタディジタル・トランスジューサ、他方を出力側インタディジタル・トランスジューサとしたエネルギー閉じ込め形弾性表面波フィルタにおいて、複数の振動モードを用いて多重モードフィルタとすること、及び、その共振周波数は、インタディジタル・トランスジューサの電極間隔によって決るが、電極膜厚Hを大きくすると低下し、又、対数Nを減少しても若干低下することが記載されている。 (2)原審において周知刊行物として引用した特開昭54-60842号公報の第10頁右上欄第14行~第12頁左上欄第1行目及び第3図及び第4図には、反射器R1及びR2によって形成される共振空洞の中央にトランスジューサを設け、その両側に並列に接続された2個のトランスジューサを配置し、それら相互の間隔を第3図のように設定することによって、両反射器間に形成される共振空洞内に励起される定在波のうち偶数モードと零結合し、少なくとも1つの奇数モードと結合して出力として取り出すこと、及び、それら相互の間隔を第4図のように設定することによって、両反射器間に形成される共振空洞内に励起される定在波のうち奇数モードと零結合し、少なくとも1つの偶数モードと結合して出力として取り出すことが記載されている。 すなわち、周知刊行物には、圧電基板上に、該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと、該入力側IDTの両側に配置され並列接続された出力側IDTと、該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを有し、複数の異なる共振モード周波数で動作する弾性表面波共振器を具えた弾性表面波フィルタが記載されている。 (3)特許異議申立人黒岩景の提出した甲第2号証刊行物である「二重モード圧電フィルタの設計法に関する考察」(渡辺博,清水洋著、社団法人 電子通信学会 超音波研究会資料 US73-34~40(1974-01)第37~48頁)には、二重モード・フィルタを構成するには、対称モードと斜対称モードの周波数関係を適当に調節することが必要で、ふつう対称モードの反共振周波数と斜対称モードの共振周波数を一致させる構成方法がとられることが記載されている。 (4)特許異議申立人黒岩景の提出した甲第3号証刊行物である「縦結合2重モードSWA共振器による高周波低損失フィルタ」(田中昌喜,森田孝夫,小野和男,中沢祐三著、東洋通信機株式会社発行 東洋通信機技報第39号(1986)第9~16頁)の「2.縦結合DMS共振器」には、図1に示すようなSAW共振器においては、IDTにより励振されたSAWは両側の反射器により反射されて定在波となり、そのエネルギーは反射器間に閉込められ、伝搬方向(縦方向)にはキャビティが構成され、図中(i),(ii),(iii)に示す1次、2次、3次および、図示していない更に高次の変位分布をもつ共振モードが励起されること、及び、SAWの伝搬方向について考える場合、SAW共振器の共振周波数fr(1次共振モード)はIDT周期をL、IDT対数をN、自由表面におけるSAWの伝搬速度をVfとして(1),(2)式(式省略)で与えられることが記載されている。 5.対比 (1)そこで、上記甲第4号証刊行物に記載の発明と本願請求項1に記載の発明とを対比すると、甲第4号証刊行物記載の発明における「インタディジタル・トランスジューサ」,「対称モード(S-モード)」は、それぞれ本願請求項1に係る発明の「IDT」,「縦0次共振モード」に相当するので、両者は共に、圧電基板と、該圧電基板に配置された入力側IDTと、出力側IDTとを備えて、弾性表面波の伝搬方向に励起される縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2重モード2端子対弾性表面波フィルタである点で同じであり、その余の点、すなわち、(a)本願請求項1に係る発明の弾性表面波フィルタの電極構成は、圧電基板の中央に配置された入力側IDTと、該入力側IDTの両側に配置され並列接損されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTと、該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えているのに対して、甲第4号証刊行物に記載の発明においては、そのような電極配列とはされておらず、又、反射器を備えることも記載されていない点、及び、(b)本願請求項1に係る発明においては、入力側IDT及び2つの出力側IDT全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され、かつ、前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定されているのに対して、上記甲第4号証刊行物に記載の発明においては、2重モード端子対弾性表面波フィルタとするために、縦0次共振モードと縦1次共振モードを利用することが記載されているのみである点で、両者は相違している。 6.当審の判断 (1)よって、上記相違点(a),(b)について判断すると、(a)については、上記周知刊行物の記載から明らかなように、本願請求項1に係る発明のような電極構成を採用することは、当業者に周知の事項であるものと認められるが、(b)については、上記甲第2号証刊行物に、二重モード・フィルタを構成する場合には、対称モードの反共振周波数と斜対称モードの共振周波数を一致させることが記載されているのみであって、その余のことは、上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物のいずれにも記載されておらず、又、そのことを示唆する記載も存在しない。 (2)そして、本願請求項1に係る発明は、上記相違点(b)に記載の構成を採用することによって、通過帯域幅が広く、小形の弾性表面波フィルタを得ることができるという、上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明にはない、明細書記載の格別の効果を有するものと認められる。 したがって、本願請求項1に係る発明は、上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明と同一であるとも、又は上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認めることができない。 (3)又、本願請求項2に係る発明は、本願請求項1に係る発明を前提としているので、本願請求項1に係る発明が上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明と同一であるとも、又は上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることができない以上、本願請求項2に係る発明も、上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明と同一であるとも、又は上記甲第2~4号証刊行物及び周知刊行物に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 7.むすび 以上のとおりであるので、 本願請求項1,2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができないとした原審の判断は妥当でない。 又、ほかに本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-06-23 |
結審通知日 | 1999-07-09 |
審決日 | 1999-07-22 |
出願番号 | 特願昭63-56245 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H03H)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 村上 友幸 |
特許庁審判長 |
馬場 清 |
特許庁審判官 |
大橋 隆夫 川名 幹夫 吉見 信明 橋本 正弘 |
発明の名称 | 弾性表面波フィルタ |
代理人 | 大塚 学 |
代理人 | 大塚 学 |