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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G10F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G10F
管理番号 1053271
異議申立番号 異議2000-72477  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-05-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-20 
確定日 2002-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第2991124号「自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成12年12月1日付け取消決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消の判決(平成13年(行ケ)22号、平成13年10月30日判決言渡)があったので、さらに審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第2991124号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第2991124号の請求項1に係る発明についての出願は、平成1年1月19日に出願された実願平1-4584号を特許法第46条第1項の規定により、平成8年8月29日に特願平8-229070号として特許出願に変更したものであって、平成11年10月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人丹羽美喜子より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年10月27日に訂正請求(後日取下げ)がなされ、平成12年12月1日付けでその決定がなされ、その後、東京高等裁判所に特許取消決定取消請求(平成13年(行ケ)第22号)がなされ、更に訂正審判請求(訂正2001-39047号)がなされ、平成13年6月21日付けで、上記訂正を認める旨の審決がなされ、平成13年10月30日に、上記決定を取り消す旨の判決の言渡があったものである。

第2 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記訂正審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ背面側にペダル突上棒が連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、該ペダル突上棒に接続され、演奏データに応じた電力の供給を受けて上記ペダル突上棒を上下動させるペダル駆動ソレノイドとを具備した自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構において、前記ペダル駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、該ペダル駆動ソレノイドのプランジャと前記ペダル突上棒とを同軸上に連設して、該プランジャの摺動方向端部と、前記ペダル突上棒接続端部とを回動自在に連結し、自動演奏時のペダル操作のために、演奏データに対応する駆動電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構。」

2 申立ての理由の概要
申立人丹羽美喜子は、証拠として甲第1号証(実願昭54-67404号(実開昭55-167287号)のマイクロフィルム),甲第2号証(実願昭57-123071号(実開昭59-27597号)のマイクロフィルム)を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1,2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、また、本件発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであって、本件特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

3 刊行物記載の発明
刊行物1:実願昭54-67404号(実開昭55-167287号)のマイクロフィルム(甲第1号証)
刊行物2:実願昭57-123071号(実開昭59-27597号)のマイクロフィルム(甲第2号証)
刊行物3:実願昭59-23858号(実開昭60-140096号)のマイクロフィルム

(1)刊行物1には、「ピアノの自動演奏装置に関する」(第1頁12行ないし第13行)、「従来このダンパー、ソフトペダルのプランジャ部の構成は、筒状のソレノイドとこのソレノイドコイル内に挿通された可動コアとを有し、これを突き上げ棒の中間に入れさらに可動コアの上端にダンパー、ソフトペダル動作用の突き上げ棒を固定することが必要であった。この考案は、一本の突き上げ棒の一部に磁性体部を形成することによって、上記ダンパー、ソフトペダルの突き上げ棒を切る事とおよび可動コアと突き上げ棒との 固定作業を不要にした」(第1頁18行ないし第2頁第8行)、「1は、ペダルレバーで、その一端は例えば釣合を介してぺダルに連結されている。このペダルレバー1の作動端上には、突き上げ棒2が設けられ、ペダルレバー1の作動によって上下動するようになっている。突き上げ棒2の一部には、磁性体部3が形成されている。そして、この磁性体部3を挿通した状態でソレノイドコイル4が巻装されている。5は、その取付フレームである。したがって、突き上げ棒2は、上記ソレノイドコイル4によっても上下に作動され、ソレノイドコイル4に供給されるテープ再生信号に応じてダンパー、ソフトペダルを動かしてペダルそうさを再現する。」(第2頁12行ないし第3頁第4行)と記載されている。
そして、刊行物1に記載された発明は、自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構であり、また、ダンパー、ソフトペダルのプランジャー部の構成は、筒状のソレノイドとこのソレノイドコイル内に挿通された可動コアを有し、これを突き上げ棒の中間に入れさらに可動コアの上端にダンパー、ソフトペダル動作用の突き上げ棒を固定することが必要であったなる従来例の構成は、筒状のソレノイドとこのソレノイドコイル内に挿通された可動コアを有するものが、駆動ソレノイドであるから、図1を参考にすると、そこには、突き上げ棒を上下に分割して、その間に可動コアをペダル突き上げ棒と連結している構成があるものと理解することができ、ソレノイドコイルは取付フレーム5を介してピアノ本体に固定される記載は、ソレノイドの本体がピアノ本体に固定されているものであることを示唆しており、結局そこには、突上棒に接続され、演奏データに応じた電力の供給を受けて上記突上棒を上下させる駆動ソレノイドと前記駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、該駆動ソレノイドのプランジャと前記突上棒とを該プランジャの摺動方向端部と、前記突上棒接続端部とを連結した連結駆動機構に相当する構成の記載があると認められる。
よって、刊行物1には、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルレバーに連結され、該ペダルレバーの回動に連動して上下動する突上棒と、該突上棒に接続され、演奏を電気信号として再生し、この電気信号の供給を受けて上記突上棒を上下動させるペダル駆動ソレノイドとを具備した自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構において、前記駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、該駆動ソレノイドのプランジャと前記突上棒とを該プランジャの摺動方向端部と、前記突上棒接続端部と連結したことを特徴とする自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構の発明が記載されている。

(2)刊行物2には、「自動演奏ピアノのペダル駆動装置に関する」(第1頁第17行ないし第18行)、「前記マフラーペダル18は楽器筺体5の底面を構成する底板25の前端部上面に配設され、」(第5頁第1行ないし第3行)、「前記電磁プランジャ50は自動演奏時に前記ペダル機構7を選択的に駆動して弱音機構4を作動させるためのもので、ソレノイドコイル54、可動鉄心55等を有して前記ブラケット52の上面に配設されている。前記プラケット52は・・・(中略)・・・取付部52d,52eが前記底板25に複数個の木ねじ56によって固定されている。」(第8頁第7行ないし第18行)、「この長孔60に前記ソフトペダル天秤29の一端が挿入されてソフトペダル27の中間部上方に延在し、かつ前記吊金ボルト28によって該ペダル27に連接される」(第9頁第1行ないし第4行)、「前記ソレノイドコイル54はボビン64内に配設され、このボビン64は前記ブラケット52の上面板52c上に載置固定された固定ヨーク65のフランジ部65a上に配設されている。」(第9頁第8行ないし第11行)、「そして、可動鉄心55の上端部外周面には可動チョーク68が嵌合固定され、」(第9頁第18行ないし第20行)、「可動鉄心55の下端部には略路L字形に形成された左右一対の金属板からなるばね受け兼連結金具71がピン72を介して取付けられており」(10頁第4行ないし第7行)、「連結金具71は前記吊金ボルト28の上端部をゴム等の緩衝部材77を介して挟持保持することにより該ボルト28と前記可動鉄心55を作動連結している。」(第10頁第13行ないし第16行)、「このような構成からなる電磁プランジャ50においてソレノイドコイル54に信号電流を供給して該コイル54を励磁すると、磁気ギャップ70に生じる磁束の作用により可動ヨーク68が吸引下降されるため、これと一体に可動鉄心55も下降する。したがって、連結金具71が緩衝部材77を介して吊金ボルト28を押し下げる。この吊金ボルト28はばね62の作用によりソフトペダル27に対して固定状態を保持しているため、該ボルト28が下降すると、前記ソフトペダル27も回動軸79を中心として第2図反時計方向に回動する。この結果、ソフトペダル27はあたかも足によって踏込操作されたかの如く作動し、ソフトペダル天秤29をペダル天秤軸40を中心として第1図時計方向に回動させる。このソフトペダル天秤29が回動すると、ソフトペダル突上棒30を突き上げるため、弱音機構4は足によるソフトペダル27の踏込操作と同様に作動し、弱音演奏を可能にする。」(第10頁第20行ないし第11頁第18行)、「自動演奏時以外の通常演奏時においてソフトペダル27を踏込操作すると、吊金ボルト28の下降に伴い可動鉄心55がそれ自体の重量およびバックアップスプリング73の力により下降するため、電磁プランジャ50は何ら負荷として作用することがなく、したがって一般のピアノと同様、円滑かつ確実なべダル機構7の作動を可能にする」(第11頁第19行ないし第12頁第6行)と記載されている。
刊行物2には、ソレノイド50の駆動動作の伝達手段として、可動鉄心55の下端部には略L字形に形成された左右一対の金属板からなるばね受け兼連結金具71がピン72を介して取付けられており、また、可動鉄心に関し可動鉄心55の上端部外周面には可動ヨーク68が嵌合固定され、連結金具71は前記吊金ボルト28の上端部をゴム等の緩衝部材77を介して挟持保持することにより該ボルト28と前記可動鉄心55を作動連結していて、さらに、電磁プランジャ50においてソレノイドコイル54に信号電流を供給して該コイル54を励磁すると、磁気ギャップ70に生じる磁束の作用により可動ヨーク68が吸引下降されるため、これと一体に可動鉄心55も下降し、連結金具71が緩衝部材77を介して吊金ボルト28を押し下げるという各記載があって、ここで、電磁プランジャは、楽器筺体5の底面部を構成する底板25に固定され、可動鉄心はこれに対して垂直方向に駆動するから、所定角度で駆動されるペダルに結合された吊り下げボルト28との接触部分との間で、横方向のモーメントが作用するようになり、そして、連結金具71はゴム等の緩衝部材77をもって、吊金ボルト28の上端部を挟持保持する形態で連結することで、即ち、軸方向に所定の角度の動きを伴って対向する接触部において、両者の間を実質的に回動自在な状態で連結することで、動作角度の違いによる横方向のモーメントを吸収していくという技術的思想が開示されている。
よって、刊行物2には、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ前面側に吊金ボルトが連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに吊金ボルト及びソフトペダル天秤を介して連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、該吊金ボルトに接続され、あらかじめ記録されている電気信号を再生し、その電気信号の供給を受けて上記吊金ボルトを上下動させるペダル駆動ソレノイドとを具備した自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構において、前記ペダル駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、該ペダル駆動ソレノイドの可動鉄心と前記吊金ボルトとを同軸上に連設して、該可動鉄心の摺動方向端部と、前記吊金ボルト接続端部とを回動自在に連結し、自動演奏時のペダル操作のために、信号電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構の発明が記載されている。

(3)刊行物3には、「自動演奏用ピアノのペダル駆動装置に関する」(第1頁第13行ないし第14行)、「ペダル駆動装置は第1図(a)、(b)、(c)に示すように通常ペダル機構を構成するペダル突上棒1、ペダル天秤2、ペダル3等に配設され、これらをその可動鉄心4により駆動するようにしている。なお、Aはペダル駆動装置を示す。・・・・・ペダル突上棒にこれと同軸的に配設する場合(第1図(a))には、該突上棒を特殊な突上棒と交換したりあるいはペダル突上棒を切断して短くしたりする必要があるため、その取付け、調整作業が面倒であった。」(第2頁6行ないし19行)と記載されている。

4 判断
(1)特許法第29条第2項違反について
ア.本件発明は、上記刊行物1に記載の発明とを比較すると、両者は「ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、該ペダル突上棒に接続され、演奏データに応じた電力の供給を受けて上記ペダル突上棒を上下動させるペダル駆動ソレノイドとを具備した自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構において、前記ペダル駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、該ペダル駆動ソレノイドのプランジャと前記ペダル突上棒とを該プランジャの摺動方向端部と、前記ペダル突上棒接続端部と連結したことを特徴とする自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A
本件発明は、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ背面側にペダル突上棒が連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、ペダル駆動ソレノイドのプランジャと前記ペダル突上棒とを同軸上に連設して、該プランジャの摺動方向端部と、前記ペダル突上棒接続端部とを回動自在に連結しているのに対し、刊行物1に記載された発明には、その様な構成が記載されていない点
相違点B
本件発明は、自動演奏時のペダル操作のために、演奏データに対応する駆動電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構を備えているのに対し、刊行物1に記載された発明には、その様な構成の記載がされていない点

イ.そこで、上記相違点Aについて検討すると、機械分野で、角度回動の吸収を機械的構成をもって対処する連結構成として、ユニバーサルジョイント手段が周知慣用手段であるが、このことから、直ちに、ダンパペダルと連結した突上棒と、プランジャの連結構造に該ユニバーサルジョイント手段を採用することまで容易に推考できたといえない。
また、刊行物2に、電磁プランジャは、楽器筺体5の底面部を構成する底板25に固定され、可動鉄心はこれに対して垂直方向に駆動するから、所定角度で駆動されるペダルに結合された吊り下げボルト28との接触部分との間で、横方向のモーメントが作用するようになり、そして、連結金具71はゴム等の緩衝部材77をもって、吊金ボルト28の上端部を挟持保持する形態で連結することで、即ち、軸方向に所定の角度の動きを伴って対向する接触部において、両者の間を実質的に回動自在な状態で連結することで、動作角度の違いによる横方向のモーメントを吸収していくという技術的思想が開示されているが、相違点Aであるペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ背面側にペダル突上棒が連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、ペダル駆動ソレノイドのプランジャと前記ペダル突上棒とを同軸上に連設して、該プランジャの摺動方向端部と、前記ペダル突上棒接続端部とを回動自在に連結しているというダンパペダル、突上棒、プランジャの各各の連結構造を開示するものではなく、示唆するものでない。
刊行物3にも、上記相違点Aの構成について、開示も示唆もない。
上記相違点Aの構成は、刊行物1,2,3に記載された発明を組み合わせても、当業者が容易に推考することはできたといえない。
次に、上記相違点Bについて、検討すると、刊行物2,3には電気信号を用いることまでは記載されているが、高度なペタル操作を可能とする演奏データに対応する駆動電流を用いることに関しての記載がなく、示唆もされていない。
そして、本件発明は、上記相違点A,Bの構成により、訂正明細書記載の「この発明によれば、プランジャとペダル突上棒とが同軸上に連設され、かつ、プランジャの摺動方向端部と、ペダル突上棒接続端部とが回動自在に連結されているため、ペダル駆動時の機械的騒音が防止されるという効果が得られる。また、本発明によれば、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされたペダルの背面側に連結されたペダル突上棒が、ペダル駆動ソレノイドのプランジャと同軸上に連設されプランジャの摺動方向端部と回動自在に連結されている。自動演奏時のペダル操作においては、演奏データに対応する駆動電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動される。ダンパペダル駆動機構におけるこのペダル突上棒とプランジャとの直結構造は、ペダル駆動の制御性を改善し、したがって高度なダンパペダル操作を自動で行うことが可能になるという効果が得られる。そして、演奏データとしてペダル踏み込み量に対応するデ一タを供給するようにしておき、このデータに従ってプランジャの位置決めを行なうようにすれば、演奏データに対応する駆動電流に応じてハーフペダルその他のペダル踏み込み量の調整が可能となる。さらに、ペダル駆動ソレノイドがピアノ本体に固定され、ペダル駆動ソレノイドのプランジャのみがペダル操作に応じて摺動するので、通常演奏時においては、フットペダルの踏み込み負荷が従来の一般的なピアノと何等変わらず、よって演奏感覚が従来と大きく変わってしまうことがないという効果を奏する。また、自動演奏時においては、プランジャの上下動がフットペダルに伝達され、フットペダルの動作が演奏データに従って再現されるため、自動演奏を見ている者に違和感を与えない」という効果を奏するものである。

ウ.したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとも、刊行物1,2,3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許法第29条第1項第3号違反について
ア.本件発明と、刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者は、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、ペダル駆動ソレノイドとを具備した自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構において、前記ペダル駆動ソレノイドの本体を前記ピアノ本体に固定し、自動演奏時のペダル操作のために、信号電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A
本件発明は、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ背面側にペダル突上棒が連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、ペダル駆動ソレノイドのプランジャと前記ペダル突上棒とを同軸上に連設して、該プランジャの摺動方向端部と、前記ペダル突上棒接続端部とを回動自在に連結しているのに対し、刊行物2に記載された発明は、ペダル軸を境に前面側が踏み込み部とされ前面側に吊金ボルトが連結されたペダルと、ピアノ本体に回動自在に配設されたペダルに吊金ボルト及びソフトペダル天秤を介して連結され、該ペダルの回動に連動して上下動するペダル突上棒と、該ペダル駆動ソレノイドの可動鉄心と前記吊金ボルトとを同軸上に連設して、該可動鉄心の摺動方向端部と、前記吊金ボルト接続端部とを回動自在に連結している点
相違点B
本件発明は、自動演奏時のペダル操作のために、演奏データに対応する駆動電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構を備えているのに対し、刊行物2に記載された発明には、自動演奏時のペダル操作のために、信号電流がペダルソレノイドに供給され、該駆動電流に応じてプランジャが駆動されることを特徴とする自動演奏ピアノ用ダンパペダル駆動機構を備えている点

イ.そこで、相違点Aについて検討すると、本件発明は、吊金ボルトを用いることなく、ペダル突上棒を用いたことを特徴としたものであるから、刊行物2記載の発明の吊金ボルトとペダル突上棒とを役割を異ならせて用いたものと明らかに相違し、相違点Aは、当業者がその必要に応じて適宜なし得る単なる設計変更に過ぎないとはいえない。
また、相違点Bについては、刊行物2記載の発明は、単に信号電流を用いるものであり、これに代え、本件発明の様に高度な演奏操作を可能とするための演奏データに対応する駆動電流を用いることとすることが、当業者にとって単なる設計事項であるとはいえない。

ウ.したがって、本件発明は、刊行物2に記載された発明と同一の発明とはいえない。

5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正明細書の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-01 
出願番号 特願平8-229070
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G10F)
P 1 651・ 113- Y (G10F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 秀夫板橋 通孝益戸 宏  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 橋本 恵一
山本 章裕
登録日 1999-10-15 
登録番号 特許第2991124号(P2991124)
権利者 ヤマハ株式会社
発明の名称 自動演奏ピアノ用ペダル駆動機構  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  

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